STORY of HDG(第1話.01)
第1話・天野 茜(アマノ アカネ)
**** 1-01 ****
『兵器開発部』
そう書かれた看板の前に、彼女は立っている。そこは、校舎と校庭の南側に在る滑走路脇に三棟並んだ格納庫の内、東側に位置する『第三格納庫』の外階段を上がった二階に有るドアの前。
スゥっと一息、吸い込んでドア・ノブに手を掛け、ドアを開きつつ室内に声を掛けた。
「失礼します…。」
室内、中央に置かれた長机に資料書類を広げ、向かい合って座っていた女子生徒二人が、揃って入り口の方へ顔を向けた。
制服のクロス・タイは青色、二人とも三年生だ。その内の一人が、入り口に立っている赤いクロス・タイの彼女に声を掛けた。
「いらっしゃい。入部希望の一年生?」
声を掛けた三年生を、彼女は知っている。二時間ほど前に、部活動の説明会で五分の持ち時間を、三十秒で切り上げた『兵器開発部』の鬼塚部長だ。
「我が部は、二年前からパワード・スーツの開発研究をやっています。興味の有る人は、部室まで来てください。以上。」
鬼塚部長は、それだけ言うと質疑応答もせず、壇上から降りて行ってしまったのだ。会場にいた一年生一同は一瞬ざわめいたが、その少々物騒な名称の部活動に興味を持つ者は居なかった。ここに来た彼女を除いては。
「えぇ~入部希望と言うか、もう少し詳しく伺(うかが)いたいかなって、思いまして。あの、『パワード・スーツ』って聞こえたんですけど…説明会で。」
彼女は少し、遠慮勝ちに返答する。
「そう、言ったのよ。」
鬼塚部長は微笑んで、そう言った。
「ほら、だからアレじゃ伝わらないって…。」
もう一人の眼鏡を掛けた三年生が、笑い乍(なが)ら鬼塚部長に声を掛ける。
「取り敢えず、こっちへいらっしゃい。」
鬼塚部長が彼女を手招きして、空いている席に着くように促(うなが)した。
「『特別課程』の一年生ね。お名前は?」
鬼塚部長は、彼女の制服右上腕部に『天野重工』のワッペンが有るのを確認して、名前を尋ねた。
「はい、機械工学科の天野 茜(アカネ)です。」
茜は卓上の書類に、ちらと目をやる。その中には、数枚の機械図面が混じっているのに気が付いた。
「あ、わたしは…知ってるかもだけど、部長の鬼塚よ。こっちは会計担当の森村ちゃんね。」
「森村 恵(メグミ)、わたしも部長も機械工学科よ。よろしくね、天野さん。」
「取り敢えず『パワード・スーツ』ってワードに引っ掛かる子が居たんだから、正解だったんじゃない?森村ちゃん。」
「結果論でしょ、それ。」
そう言って、二人はクスクスと笑ったのだった。
「あの…わたしは、引っ掛かっちゃったんでしょうか…。」
あの時、語られた『パワード・スーツ』との言葉に疑念を感じて、茜は力(ちから)無くそう言った。
茜の不安感を察知した鬼塚部長は、慌てて言葉を繋いだ。
「あぁ、ごめんなさい。『引っ掛かった』って言うのは語弊(ごへい)が有ったわね。『反応』って言った方が適当だったかしら。兎に角、『パワード・スーツ』って言葉にピンと来る様な人材が欲しかったのよ、わたし達は。」
鬼塚部長は卓上の書類の中から、一枚の図面を選び出し茜の前へ押し出した。
「これを見て。こんな感じでね、開発を進めているのよ。」
図面には、人型をした機械の概略図が描かれていた。
鬼塚部長は話を続ける。
「説明会で詳しい話をしなかったのは、この開発には『本社』の特許技術や企業秘密が多分に含まれているから。だから、この部活には『特課』の生徒しか参加出来ない決まりなの。まぁ、『普通』の生徒は、こんなのには興味は持たないだろうけど…それに、興味だけで参加されるのも困るのよね。」
「この『パワード・スーツ』って軍事用なんですか?」
図面を眺(なが)めていた茜が、問い掛けた。
- to be continued …-
※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。