STORY of HDG(第1話.13)
第1話・天野 茜(アマノ アカネ)
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部室を出た後、茜が外階段を降りる足音が聞こえなくなった頃、立花先生が口を開く。
「しかし、凄い人材が居たものねぇ…あ、これで、各学年の成績トップが揃っちゃったわ。三年生の緒美ちゃんに、二年生の樹里ちゃんに、一年生の茜ちゃん…と。まぁ、学期が始まったばかりの、この時期に成績トップって言うのも、何だか変だけど。」
「あはは、時期は兎も角、揃っちゃった事に関しては、正(まさ)に『類とも』ですかね。」
新島副部長は笑って、そう言った。
「まさか、あんな『パワード・スーツ』オタクが居るなんて、思いもしなかったわ。ホントに、希有(けう)な人材よ。」
鬼塚部長も、そう言って笑っている。
「一年生が、あと二人位(くらい)は欲しい所よね、緒美ちゃん。」
恵は下級生の居ない所では、鬼塚部長を名前で呼ぶ。
「そうね、まぁ、慌てずに、いい人材が見つかるのを待ちましょう。案外、天野さんが、引っ張って来てくれるかも、だし。」
「去年も、そんな感じだったしね。」
立花先生も含めて、一同は穏(おだ)やかに笑うのだった。
一方、教室に戻って来た茜は、自席で文庫本を読み乍(なが)ら待っていたブリジットを見つけ、声を掛けた。
「ごめんなさい。待った?」
「ちょっと、ね。随分と遅かったけど、ずっと居たの?あの物騒な名前の部活。」
「あははは、そうね。でも、先輩達は面白い人ばっかりだったよ。ブリジットは、バスケ部、どうだった?」
「うん、取り敢えず仮入部。じゃ、帰ろっか。」
ブリジットは読み掛けの文庫本に枝折(しおり)を挟んで閉じると、制服のポケットに押し込み、鞄を手に立ち上がる。
「うん。」
茜も自席から鞄を取って、ブリジットと共に教室を後にした。
中学時代から茜の友人であるブリジットは、幸いにも女子寮で同室となっていた。二人は寮への帰路や食事時間、自由時間に、その日に有った出来事を互いに話し合っていたのだが、流石に今日の茜の話は、ブリジットには信じられる様な内容ではなかった。就寝前、最終的なブリジットの感想は…。
「あなた、担(かつ)がれてるんじゃない?先輩達に。」
「う~ん、そうかなぁ。」
「その試作機とかも、『張りぼて』かも知れないじゃない。徒(ただ)の SF オタク集団よ、きっと。」
そう言って、ブリジットは笑うのだったが、茜は「そう言われれば、そうかも知れない」とも思ったので、強く否定はしなかった。
「それなら、それでも構わないわ。楽しそうだから、しばらく付き合ってみようと思うの。」
「茜が良いなら、それでも良いけど。変な事に巻き込まれない様に、それだけは気を付けてね。」
ブリジットはそう言って、大きな欠伸(あくび)を一回。その後、口元に当てていた右手で、目元を押さえている。
「うん、そろそろ寝ましょうか。」
「そうね。」
二人は、部屋の中央を挟んで両側の壁際に有る、それぞれのベッドへと潜り込む。部屋の灯りは入り口の壁と、双方のベッドのヘッドボード部に取り付けられているスイッチで操作出来る仕掛けである。ヘッドボードには、個人用のスタンド・ライトや、目覚ましアラーム等(など)の機能も装備されていた。
二人は目覚ましアラームの時間を確認してセットし、今日は茜が部屋の灯りを消した。
「お休みなさい。」
茜の声に、ブリジットが応える。
「お休み~。」
ベッドに入って早々に、二人は眠りに落ちたのだった。
こうして、茜の『兵器開発部』での一日目が終わったのである。
因みに、2072年4月14日木曜日、茜たちが天神ヶ崎高校に入学して二週目の出来事である。
- 第1話・了 -
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