STORY of HDG(第7話.04)
第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)
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「実際にその様子を見てないと、なかなか理解はして貰えないと思うけど。兎に角、佳奈ちゃんが考えている内に、何でも先回りしてやっちゃうのよ、お母さんが。わたしが見たのは一日の内の、何分の一かは分からないけど、それだけでも、そう言う印象を持つ位(ぐらい)なんだから、後は推して知るべし、って事でしょ。」
樹里の証言を聞いて、瑠菜は先程の佳奈の行動に合点がいったのだった。そして、それを確認するべく、瑠菜は佳奈に問い掛ける。
「佳奈さん、あなた実家で、部屋の片付けとか、洗濯物の整理とか、やった事有るの?」
「ううん、みんなお母さんがやってくれてたの、ずっと。」
無邪気な佳奈の返事に、頭を抱える思いの瑠菜だった。その一方で、維月が所感を述べる。
「何となく分かった。要するに、古寺さんは自主的な行動力を、ほぼ封印された環境で育って来たのね。」
「そうそう、その『自主的な行動力を封印』って表現は、なかなか素敵ね、井上さん。それで、学校でも『お世話係』何てのが、小学生時代からくっ付いていた訳(わけ)よ。まぁ、周りは親切の積もりだったのでしょうけど、でもそのお陰で、佳奈ちゃんには、その『自主的な行動力』を発揮する経験が決定的に不足してた訳(わけ)。」
「それで、あなたはどうしたの?城ノ内さん。」
瑠菜は、樹里の瞳を覗き込む様に見詰めて聞いていた。
「当然、余計なお世話は止めたの。徒(ただ)、間違った判断や行動から危険な状況になるといけないから、注意したり、ヒントを出したり。成(な)る可(べ)く自分から行動する様に、促(うなが)してね。ほぼ二年間、そうやって漸(ようや)く今のレベルになったの。以前はもっと、何も出来なかったんだから。」
「ごめんね~樹里リン。迷惑ばかり掛けて。」
佳奈は申し訳(わけ)無さそうに、樹里に向かって頭を下げるのだった。
「と、言う事は。わたしにも、余計な手出しはせずに、見守れって言いたいのね。」
「そう言う事、瑠菜さんが頭のいい人で良かった。」
瑠菜の言葉を聞いて、樹里は安堵の笑みを浮かべるのだが、そこで維月が一つの疑問を提示するのだった。
「しかし、まぁ、そんな具合で、良くこの学校に受かったものね。って言うか、ここに受かった位(くらい)なんだから、それなりの成績取ってただろうに、学校でそんな扱いを受けていたって言うのも何だか不思議だけど。」
「いいえ、わたしの中学時代の成績は良くなかったですよ~井上さん。」
維月の疑問には、佳奈が自ら答えたのだが、それには樹里の補足が必要であった。
「佳奈ちゃんは成績が良くなかったんじゃなくて、良くない振りをしてただけでしょ。 この子、試験でわざと低い点数を取る様に解答を操作してたのよ。」
「何でそんな事を?」
「ええ~だって、わたしがいい点取ると嫌われちゃうじゃないですか、みんなに。」
瑠菜の問い掛けに、佳奈が返した答えは、瑠菜と維月を困惑させた。維月が、樹里に問い掛ける。
「どういう事?」
「さっきの佳奈ちゃんの説明だと、物凄く語弊が有るから、わたしが補足するけど。先(ま)ず、佳奈ちゃんが小学生の頃、これは佳奈ちゃんから聞いた話だけど、テストで佳奈ちゃんが満点を取った事が有ったんだって。で、その時、仲が良かった子が、悔し紛れに佳奈ちゃんに悪態を吐(つ)いたらしいの。」
「あぁ~言い方は悪いけど、普段から見下してる子が自分よりいい点を取ったのが悔しかった、って感じかな。有りそうな話ね、そう言う所、子供は残酷って言うか極端になり勝ちだから。」
「そう。でも、それが佳奈ちゃんには酷(ひど)くショックだったのよ。その次のテストでは、解答が書けなかった位(ぐらい)に。要するに、白紙で出した訳(わけ)だけど、そうすると当然、先生やお母さんから叱られるわよね。」
「まぁ、そうなるよね。」
樹里と維月の遣り取りをここ迄(まで)聞いていて、瑠菜は佳奈の取った行動の理由に思い当たり、声を上げた。
「あ、そうか。真面目に解答すると友達に嫌われる、解答しないと先生や親から叱られる。だから、友達に嫌われない程度に解答しよう、って事ね。」
「察しがいいわね、瑠菜さん。そう言う事。それを小学生の頃からずっと続けてたのよ。だから公式な成績は中の下くらいで、学校側も佳奈ちゃんをその位(くらい)の生徒だとしか思ってなかったの。」
「城ノ内さんは、良くその事に気が付いたわね。」
維月の指摘を受け、樹里は一つ溜息を吐(つ)き、椅子の背凭(せもた)れに身体を預けて答える。
「そりゃ、分かるよ。授業中は真面目にノート取ってるし、授業中に先生に指されても、即答じゃ無いけど、それでもそつなく答えるし、出された宿題や課題もちゃんとやって来るのよ。それなのに、試験の結果だけが中の下なの、おかしいでしょ?」
「それが、おかしいって思ったのは、わたしの身の回りで樹里リンだけだったんだけどね~。」
佳奈は無邪気にそう言って、笑った。その言葉に対して、所感を述べたのは維月である。
「結局、古寺さんの事に、誰も本気で注意を払ってはいなかったって事ね。城ノ内さん以外は。」
「まぁ、わたしがおかしいと思ったのが半年くらい経った頃だったけど、問い詰めて、その事を佳奈ちゃんが白状する迄(まで)、更に半年掛かったの。」
「と、言う事は、中三からはテストの解答を操作するのは止めたのね。」
そう問い掛けた瑠菜だったが、返ってきた樹里の返事は、又しても意外な内容だった。
- to be continued …-
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