STORY of HDG(第8話.02)
第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)
**** 8-02 ****
「みんな、久し振りね~。あ、一年生の三人とは初めまして、だね。本社開発部設計三課、Ruby 開発チームの安藤です。」
「今日、井上主任はいらっしゃらないんですか?」
安藤とは一番の顔馴染みである樹里が、先(ま)ず、話し掛ける。
「うん。主任も直前まで来る積もりだったんだけどね~ほら、今日は維月ちゃんのお誕生日だし。でも、急に外せない会議が入っちゃって。 あれ?今日は維月ちゃんは来てないんだ。」
「会議って、今日、土曜日ですよ。普通、会社は休みの日じゃ…。」
瑠菜がそこ迄(まで)言ったのを、遮(さえぎ)る様に苦笑いし乍(なが)ら安藤が答える。
「平日忙しい人が複数集まろうとするとね、休日潰すしかスケジュールの取りようが無い事って、良く有るのよ。 あ、主任から維月ちゃんへの誕生日プレゼント預かってるから、あとで渡しといて貰えるかな、樹里ちゃん。」
「いいですよ。今日、運用試験の打ち上げと称して、維月ちゃんと部長の誕生日パーティーを、密かに画策してますから。」
「え、緒美ちゃんも今日、誕生日なの?」
「いいえ。半月遅れなんですけどね。部長の誕生日って中間試験期間の真っ只中なので。」
「あぁ、そうなんだ。でも、いいな~楽しそう~。」
「安藤さんも参加されます?兵器開発部(うち)的には大歓迎ですけど。」
「あはは、生憎(あいにく)、ここの撤収作業をやったら、その儘(まま)会社へ蜻蛉(とんぼ)返りのスケジュールなのよ。残念。 さて、じゃぁ、そろそろ準備に掛かりましょうか。現場の方(ほう)、ターゲットとかの設置確認にあと三十分ぐらい掛かるから、その間にみんなには HDG と LMF のセットアップをお願いしたいの。トランスポーターから機材を降ろす作業は危ないから、社の人間に任せて、あなた達は手を出さないようにね。樹里ちゃんには計測機材のセットアップを手伝って貰いたいのと、あと誰か二人、新しい観測機材の取り扱いを聞いておいて欲しいのよ。そうね、ソフト担当一人とメカ担当一人ずつがいいかな。」
「と言う事は、一人はカルテッリエリさんで決まりだけど、メカの方は誰にします?新島先輩。」
樹里は、人選について直美に意見を求める。
「そうだね~瑠菜か古寺か、クラウディアと組ませるとしたら、どっちが良いと思う?城ノ内は。」
「だったら、佳奈ちゃん。」
微笑んで、樹里は即答した。
「よし。じゃぁ、古寺とクラウディアは新装備のレクチャーを受けて来て。天野とブリジットはインナー・スーツに着替えて、森村と瑠菜は、わたしと LMF の起動準備に掛かりましょう。」
直美の指示を受け、茜が安藤に尋ねる。
「あの、すいません。インナー・スーツに着替える前に、お手洗いに行っておきたいんですけど。」
「あぁ、それなら彼処(あそこ)の管理棟のを、借りられるから。正面の入り口から入って右側の突き当たり、行けば分かると思うわ。」
「はい、分かりました。ちょっと、行ってきます。」
「あ、わたしも。」
管理棟の方へ早足で歩き出した茜を追って、ブリジットも駆け出す。その一方で、直美達は LMF を載せたトランスポーターへと向かって歩き出し、丁度(ちょうど)、運転席からブリーフケースを手に降りて来た畑中に向かって、直美が声を掛けるのだった。
「畑中先輩、LMF 起動掛けますので、電源お願いします。」
「おう、電源車、これから起動するから、ちょっと待ってて。」
畑中が、天幕の前に駐めてある電源車の方へ向かうと、直美は振り向いて樹里に言った。
「Ruby 起こすの、確認して貰えるかな、城ノ内~。」
「あ、はいはい、やりま~す。 あ、先に Ruby、スリープ・モードから復帰掛けて来ますから。佳奈ちゃんとカルテッリエリさんの方、お願いしますね、安藤さん。」
「了解。」
「あ、城ノ内先輩。」
直美に呼ばれてその場を離れる樹里だったが、その後を追いかけて来たクラウディアが、樹里を呼び止める。振り向いた樹里に、クラウディアは背伸びをする様な姿勢で、小声で語り掛けるのだった。
「わたし、古寺先輩、苦手です。」
珍しく不安気(げ)な表情をするクラウディアに、樹里は微笑んで言った。
「大丈夫よ、佳奈ちゃんは、ちょっとずれた所は有るけど、少し、無邪気(イノセント)が過ぎるだけだから、慣れてちょうだい。」
その時、安藤と共に新型観測機の置いてある、隣の天幕の方へと歩き出した佳奈が、クラウディアに呼び掛ける声が聞こえた。
「クラリ~ン、おいで~。レクチャー受けに行くよ~。」
げんなりとした表情で、クラウディアが言う。
「ほら、あの調子には付いて行けそうにありません。」
「あはは、まぁ、頑張って、クラリン。」
「城ノ内先輩まで、クラリンって呼ばないでください!」
樹里に背を向けて、安藤と佳奈の方向へ歩き出したクラウディアの背中を、樹里は軽く叩いて送り出す。その時、再び、佳奈がクラウディアを呼ぶ。
「早くおいで~、ク~ラリン。」
「クラリン、呼ばないでください!」
語気を強めてクラウディアが抗議するのだが、佳奈は意に介さない。
「えぇ~いいじゃない~。」
「良くありません。」
「あははは、流石の危険人物も、佳奈ちゃんには敵(かな)わない様子ね~。」
二人の遣り取りを聞いていた安藤は、笑ってそう言うのだった。
「何ですか?危険人物って。」
「維月ちゃんから、聞いてるわよ。色々と武勇伝が有るって話。」
「武勇伝って、日本(こっち)に来てからは、まだ、大した事はしてませんよ。」
「そりゃ、大した事されちゃったら、会社が困るから~。」
安藤はそう言って明るく笑うと、クラウディアの肩を軽く叩くのだった。
- to be continued …-
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