WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第8話.15)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-15 ****


「樹里ちゃ~ん。ちょっと、来て貰えるかな~。」

 声の方に目をやると、安藤が手を振っているのが見える。

「あ、ちょっと行ってきます。みんなは先にバスに乗ってて。」

 そう一同に声を掛けて、樹里は安藤の方へと向かった。安藤の周囲では、幾人かのスタッフが計測機材の取り外しや、ケーブル類の梱包などで忙しそうに動き回っている。
 樹里が近くまで来ると、安藤は天野重工の大きな書類入れ封筒を差し出した。

「悪いわね。これ、主任から維月ちゃん宛。預かってちょうだいね。」

「一応、中を確認させてもらいますね。」

 樹里は封筒を受け取ると、留め具の紐をほどき、中を覗いてみる。封筒の中には綺麗にラッピングされた小さな包みが入っていた。
 封筒の留め具に、元のように紐を巻き付け、樹里は再び封筒を閉じた。

「では、お預かりします。」

「この書類入れなら、緒美ちゃんにも気づかれないでしょう?」

 安藤が樹里だけを呼んだのは、井上主任から預かった維月への誕生日のプレゼントを、樹里に預けるためだった。この後、予定されている『運用試験の打ち上げと称する誕生日パーティー』は、緒美もサプライズの対象だったので、緒美の前でプレゼントを樹里に預けるのが躊躇(ためら)われたのだ。樹里の役割上、試験中は常に緒美が傍(そば)に居たため、安藤はプレゼントを託す機会を、なかなか掴めずにいたのである。

「でも、本当なら、主任さんが来て、直接、維月ちゃんに渡してくれたら良かったのに。それに、わたしも、主任さんとはお会いしてみたかったな。」

 樹里は封筒を眺めながら、そう所感を漏らす。

「あはは、主任もみんなに、特に樹里ちゃんには会ってみたいって言ってたわ。維月ちゃんと仲良くしてくれて、いつも感謝してるって、樹里ちゃんにはそう伝えてって言われてたのよ。」

「そうですか…あ。 ひょっとして、主任さんは維月ちゃんと会うのを避けてません?」

 樹里は視線を安藤へと戻し、瞳を覗き込むように見つめて、そう聞いてみた。

「そんな風に見える?」

「だって、主任さんの立場なら合おうと思えば、そんなチャンスは幾らでもあったと思うんですよね、今まで。今日は、無理だったのかも知れないですけど。まぁ、維月ちゃんは維月ちゃんで、お姉さんの仕事の迷惑にならないようにって、いつも、変に気を遣ってるのが、少し気にはなるんですけど。」

 安藤は小さく息を吐くと、力なく笑って、言った。

「主任がお忙しいのは、本当よ。でも、去年、年末の、維月ちゃんの手術の時とか、その前後とかに御見舞に行けなかった事とか、割と気にはしてるのみたいなのよね。歳が一回りも違うせいか、妹と言うよりは娘みたいだって言ってたけど、維月ちゃんの病気と仕事が忙しいのが重なったせいで距離感が解らなくなった…みたいな事をね、まぁ、言ってたりもして。Ruby の案件に目処がつけば、少しは暇になるだろうから、そうしたら、主任の気分も変わるんじゃないかなって、部外者なりに、わたしはそう思ってるんだけど。」

「その目処(めど)は、いつごろ、つきそうですか?」

「それは残念ながら、わたしには見当もつかないわ。ともあれ、それまでは、見守ってあげてね、維月ちゃんの事。」

「そうですね。他人に出来るのは、それくらいですよね。」

 樹里の返事を聞いて、安藤は「あははは」と笑い、スッと右手を樹里の顔の方へ伸ばし、そっと頬に触れて言うのだった。

「他人、じゃなくて、友達、でしょ。」

 樹里は一度視線を下げ、一呼吸置いて視線を戻すと微笑(ほほえ)んで答える。

「そう、ですね。 では、失礼します。」

 樹里は一歩下がって、安藤に会釈をすると踵(きびす)を返し、マイクロバスへと向かった。
 マイクロバスの入り口、ステップを上がり車内にはいると、運転席の直ぐ後側の席に座っていた立花先生が樹里に声を掛ける。

「何ですって?安藤さん。」

 樹里は受け取った書類入れ封筒を掲げて見せ、答える。

「以前、お願いしていた資料のコピーだそうです。」

「今時、データじゃなくて、紙で?」

 先生の細かい突っ込みに、一瞬ドキリとした樹里だったが、咄嗟(とっさ)に出任(でまか)せを言うのだった。

「元の資料が書籍だったので、データ化する方が手間だったらしいですよ。」

「そう。あ、早く席に着きなさい。」

「はーい。」

 樹里は内心で胸を撫で下ろしながら、バスの後方へと進む。
 バスの座席配置はバス後方へ向かって、左手側が二席、中央の通路を挟んで右側に一席となっており、運転席の後ろ二列目に左から緒美と恵、通路を挟んで直美が座っていた。

「ねぇ、森村ちゃん。ホントにこの後、打ち上げとかやるの?」

「あはは、緒美ちゃんは騒がしいの苦手だもんね。まぁ、段取りはわたしと副部長とでやってあるから、付き合ってよ。」

「そうそう、HDG と LMF に関しては、今日の試験で一区切りなんだから。ちょっとぐらい、お祝いしても良いですよね、先生。」

 直美に話を振られて、立花先生は振り向き、座席のヘッド・レストから顔を覗かせて言った。

「そうね、あなた達は普段が真面目過ぎる位だから、偶(たま)には高校生らしく、年相応にはしゃぐと良いわ。」

 三列目には左窓際に瑠菜が、四列目には左窓際にクラウディアが座り、その隣には佳奈が座っていた。

「あら、佳奈ちゃんとカルテッリエリさん、すっかり仲良しになったみたいね。」

 樹里は三列目の通路側シートに置いてあった愛用のモバイル・パソコンを取り上げながら、後席の二人に声を掛ける。

「そう言うのじゃありません。古寺先輩が離れてくれないだけです。」

「えぇ~良いじゃない~クラリ~ン。」

「クラリン、言わないで下さい!」

 樹里は瑠菜と顔を見合わせて、くすりと笑うと、瑠菜の隣の席に腰を下ろし、膝の上にモバイル・パソコンと安藤から預かった書類入れ封筒を乗せた。
 因みに、茜とブリジットの二人は最後尾の四列シートに、インナー・スーツを納めた箱を両脇に置き、その間に座っていた。
 そして間もなく、畑中が乗り込んでくる。

「お待たせ~。キーは誰が持ってるのかな?」

「はい、畑中先輩。」

 恵が席を立ち、キーを手渡す。
 キーを受け取った畑中は、直ぐに運転席へと着き、シート・ベルトを装着してから、水素燃料の内燃機関(エンジン)を始動する。

「運転手役ばっかりで、何だか申し訳ないわね、畑中君。」

 後席から、そう立花先生に声を掛けられ、畑中は笑って言った。

「あはは、大丈夫ですよ。HDG や LMF にトラブルが起きなきゃ、試作部から参加してる面子(メンツ)は基本、用無しですから。それに、天神ヶ﨑の卒業生だから、ここら辺の地理には明るいし、運転手役が回ってくるのは、寧(むし)ろ当然。」

 中畑はシートから身を乗り出して振り向き、車内を確認して言う。

「人数は揃ってるね。忘れ物とか無ければ、出発するけど。あ、みんなもシート・ベルトは締めてね。」

「そう言えば、畑中先輩。わたし達を送った後、どうするんです?このバスは学校のだし。」

 そう問い掛けたのは、直美である。

「あぁ、昼に運転して来たの、大塚さんだったろ?大塚さんが学校まで乗って行った会社のクルマが学校に停めてあるから、それでこっちまで戻るんだ。」

「そのクルマのキー、忘れてませんよね?」

 と、今度は恵が問い掛ける。

「そんなに間抜けじゃありませ~ん。ちゃんと預かってます。」

「そう言えば、畑中先輩はどうして、大型車の運転免許とか持ってるんですか? 一度聞いてみたかったんですけど。」

 そう問い掛けたのは、緒美だった。

「あぁ~試作部に配属されるとね、若い内に色々と資格を取らされるのさ~。輸送を委託した業者から試作品の情報が漏れるといけないから、試作部が自力で輸送も出来るようにって事でね。今回も秘密保持って事で、学校の職員さんじゃなくて、俺たちがこのバスを運転してる訳だ。まぁ、キミらも将来、もしも試作部の配属になったら、その時は覚悟しなよ。 じゃぁ出発するよ~。」

 バスはゆっくりと動き出し、回頭して演習場のゲートへと向かう。
 時刻は午後四時を少し回っていた。

 

- 第8話・了 -

 


※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。