WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第13話.02)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-02 ****


Ruby …と言いますか、三社による開発中の AI に、シミュレーターを実行させる事は、既に他社も行っていますが。 HDG を利用して、直接、教示(ティーチング)を行うのは他社には出来ませんし、わたし達も思い付きもしませんでした。その手法で彼女達は、既に大きな成果を上げています。」

「ああ、アレは上手くいった様だな。お陰で、陸防に納入する量産仕様の LMF 改、アレのソフト開発も、何とか間に合いそうですからな。」

 そう、大沼部長が飯田部長に話し掛けると、飯田部長は一度頷(うなず)いて、井上主任に尋(たず)ねる。

「つまり、彼女達にはシミュレーターを利用して、Ruby の戦闘経験を積ませよう、と?」

「はい。それであれば、彼女達の身の安全も確保出来ますし、『作戦』に投入する前に Ruby を戦闘によって失ってしまうリスクも回避出来ます。Ruby に取っては、実戦もシミュレーションも、何ら差は無いですから。 勿論、最終的には防衛軍に移管して、能力の確認が必要でしょうけど。それ迄(まで)は、Ruby は彼女達に任せて置くのが適当かと。」

 飯田部長は井上主任の発言が終わるのを待って、天野会長の方へ向き、尋(たず)ねる。

「如何(いかが)でしょうか?」

 それには頷(うなず)いて応え、天野会長は井上主任に言うのだった。

「状況に大きな変化が無い限り、井上君の言う線で、いいのではないかな。 ともあれ、『作戦』実行まで、当初の計画に従えば、あと三年だ。このタイミングで『デバイス』のキーになる Ruby に、完成の目処(めど)が付いたのは喜ばしい事だな。あとは、機体の方の完成と試験を、如何(いか)にスケジュールに合わせていくか、だが。『作戦』に投入するのに、必要な数を揃(そろ)えなければならない事を考えると、開発に掛けられる時間はギリギリだ。」

「会長、念の為に申し上げておきますが。Ruby が完成したかどうかは、現時点では断言致し兼ねます。 最終的な判断は、Ruby 本体の解析をしてみない事には。」

 真面目な顔付きで井上主任が、そう訴えると、天野会長は微笑んで答える。

「勿論、それは分かっているよ、井上君。」

 そして、天野会長は飯田部長の方へ向いて、確認する。

Ruby 本体がこっちに届くのに、どの位(くらい)、掛かる? 飯田君。一週間、位(ぐらい)かな?」

「そうですね、その位(くらい)は必要ですね。」

 今度は井上主任の方へ向き直り、天野会長は尋(たず)ねた。

Ruby の解析には、どの位(くらい)が必要かね?井上君。」

「開けてみないと分からないですが、二週間…三週間程かと。」

「合わせて、一ヶ月か。分かった、それで進めて呉れ。 今日は忙しい所、済まなかったね、井上君。 他に、井上主任に確認しておきたい事が、誰か有るかな?」

 飯田部長、大沼部長は共に、首を横に振る。それを確認して、天野会長は提案する。

「この際だから、井上君の方から何か、言っておきたい事が有れば。」

 天野会長からの申し出に、井上主任は躊躇(ためら)わずに答える。

「では、二つ程、会長にお聞きしたい事が。」

「何だい?」

「兵器開発部の城ノ内さん、彼女を正社員として、わたしの所へ頂けないでしょうか?なるべく早い内に。 彼女は、即戦力として十分、使える人材ですので。」

 真面目な顔で要望を伝える井上主任に、苦笑いしつつ天野会長は答える。

「ああ~その件か。同じ様な要望をね、兵器開発部のメンバー全員について、各部署から聞いてはいるが。それらに就いては、校長にね、きっぱりと拒否されたよ。それに、個別の人事に就いては、わたしも口出しは出来ないし、したくはないのでね。彼女達が卒業する迄(まで)、待ってやって呉れ。徒(ただ)、その間(あいだ)に、部活の範囲内でなら、彼女達に協力を求めるのは構わないよ。」

「分かりました。」

「うん、済まないね。それで、もう一つは?」

「これは、私的な事ですが。 維月…妹は元気にやっていますでしょうか?」

 天野会長は、微笑んで答える。

「ああ、心配は要らないよ、いい友人も居る様子だし。此方(こちら)で依頼している『危険人物』の監督役も、卒無(そつな)く熟(こな)して呉れている。」

 そこで飯田部長がニヤリと笑って、天野会長に問い掛ける。

「ああ、例の、ハッカーの?」

「そうだ。昨日(さくじつ)も、その能力を役立てて貰ったと言えば、そうなんだがね。」

 そう解説する天野会長は、苦笑いである。井上主任は、微笑んで言葉を返す。

「そうですか。取り敢えず、安心しました。」

「そうか。」

 天野会長は、小さく頷(うなず)いて見せた。

「では、わたしはこれで。業務へ戻ります。」

 井上主任は、そう言って天野会長に一礼した後、部課長へ向かってもう一度、一礼をして会議室を後にしたのだった。


 2072年9月5日・月曜日、場所は変わって、LMF が大破した襲撃事件から三週間が経過した天神ヶ崎高校である。
 夏期休暇の期間も終わり、授業が再開して五日目。兵器開発部一同の部活動も、再開されていた。部活動は夏休みが終わる前から再開されていたのだが、Ruby の存在を欠いた部活動には、一同が違和感を覚えていたのだ。しかし、嘆(なげ)いてばかりも居られず、それぞれの帰省先から学校へ戻って来て約一週間が経過した今、彼女達は Ruby の不在にも少しずつ慣れ始めていた。
 この日は、天野重工の試作工場からのトランスポーターが三台、朝早くから到着し、第三格納庫へと積み荷を降ろしていた。そう、予定の延期が続いていた、HDG のB号機の搬入である。
 兵器開発部のメンバー達は授業に出席しなければならないので、B号機の搬入作業には立ち会えなかったのだが、それは天野重工のスタッフ達に因って行われ、現地での最終セットアップも、彼等の手で行われたのである。
 そうして放課後になると、兵器開発部のメンバー達がと次々と第三格納庫へとやって来るのだ。

 最初に格納庫フロアに降りて来たのは、緒美達、三年生の三人である。

「ご苦労様です。」

 搬入からセットアップ迄(まで)の作業を一通り終え、念の為の最終チェックをしているスタッフ達に声を掛け乍(なが)ら、緒美達は HDG-A01 が接続されたメンテナンス・リグの隣に置かれた、HDG-B01 のメンテナンス・リグを目指して進んで行った。三人の姿に気が付いた畑中が、緒美に声を掛ける。

「授業は、終わったのかい?」

「はい。」

 微笑んで緒美が声を返すと、畑中は書類を手に、彼女達の方へ歩み寄って来る。

「今回、搬入分のリスト。倉庫の方へ、メンテ用の交換パーツとか、A号機の追加分も入れてあるから、後で確認しておいて。」

 畑中が差し出す書類の束を、恵が受け取ると、直ぐにその記載内容に目を通すのだった。その一方で、緒美が畑中に尋(たず)ねる。

「受け取りの書類とかは? サインの必要な物が有れば。」

「ああ、その手の物は、昼休みに、立花先生が処理してくれたから。大丈夫だよ。」

「そうですか。」

 そう応える緒美の後ろで、直美が格納庫内を見回して、畑中に問い掛ける。

「そう言えば、立花先生は? 今日は『特許法』の授業は、無い日の筈(はず)だけど。」

「さあ、そう言えば、暫(しばら)く前から、姿を見てないな。お昼以降も立ち会って呉れていたんだけど。」

 畑中も、周囲を見回す。そこで、少し控え目な声で、恵が言うのだった。

「一時避難されたんじゃ、ないですか? ほら、あの方々がいらっしゃるし。」

 恵が視線を向けた方向に緒美と直美が目を遣ると、少し離れた場所で談笑する、実松(サネマツ)課長と天野理事長、そして前園先生の姿が有った。

「ああ、成る程。」

 緒美と直美は、声を揃(そろ)えて納得するのだった。それには苦笑して、畑中が言葉を返す。

「そりゃ、無いだろう。」

 そんな折、北側の階段側から、瑠菜と佳奈の声が聞こえて来る。

「あ、師匠。ご苦労様で~す。」

「わぁ~師匠だ~。」

 緒美達が振り向くと、瑠菜と佳奈、そして樹里と維月とクラウディアが二階通路から、階段を降りて来ていた。瑠菜と佳奈の二人は階段を降りると、その儘(まま)、実松課長の方へと歩いて行く。残りの三名は、緒美達の方へと進んでいた。
 緒美は、その三名の内、先頭の樹里に声を掛ける。

「天野さんとボードレールさんは、まだ?」

「いえ、今は上で、インナー・スーツへ着替えを。」

 樹里が、そう答えると、今度はデバッグ用コンソールのチェックを行っていた天野重工の女性スタッフが、樹里に声を掛ける。

「樹里ちゃん。ちょっといいかな?」

「あ、日比野先輩、ご苦労様です。」

 日比野は、畑中達、試作部の所属ではなく、維月の姉・井上主任や安藤達と同じ、開発部設計三課の所属であるが、井上主任が率(ひき)いる Ruby 開発チームのメンバーではない。日比野は HDG のソフト開発チームの一員で、今回はソフト回りの対応の為、搬入に同行して来ているのだった。因(ちな)みに、日比野も天神ヶ崎高校情報処理科の卒業生で、畑中とは同期である。

「コンソールのバージョン、B号機対応のに入れ替えてあるから。」

「あ、はい。一応、説明、聞かせてください。」

 樹里と維月、そしてクラウディアは、日比野の方へと向かった。

「そう言えば、Ruby、今はどんな状況なのか、日比野先輩は御存知ですか?」

 日比野に、樹里は屈託(くったく)無く尋(たず)ねた。その回答には緒美達も傾聴したのだが、日比野は何の躊躇(ちゅうちょ)も無い様に、樹里に答えるのだった。

「ああ、安藤さんと五島さんが中心になって、ログとか中間ファイルの解析と復元を進めてるわ。電源を入れられる迄(まで)には、もう暫(しばら)く掛かりそうね。」

 その返事に、維月が言葉を返す。

「あれから、もう三週間は経ちますよ?日比野先輩。」

「いやいやいや、本社に Ruby のコア・ブロックが送られて来る迄(まで)に、一週間掛かってるから。うちからすれば、まだ二週間なのよ。兎に角、処理しなくちゃいけない中間ファイルの量が膨大だから、課の皆(みんな)で手分けしてチェッカーに掛けたりしてるんだけどね。 五島さんなんか、四日に一度位(くらい)しか家(うち)に帰ってないみたいで、又、奥さんが怒り出すんじゃないかって、周りの方(ほう)が心配してる位(ぐらい)。」

「うわぁ。」

 樹里と維月は揃(そろ)って、そう声を上げた。一人、クラウディアのみは、訝(いぶか)し気(げ)な顔付きである。

「じゃ、コンソールの方、説明するから聞いててね。」

 日比野は、コンソールのソフトの、変更点の説明を操作を交え乍(なが)ら始めた。
 その一方で、恵が緒美に告げる。

「それじゃ部長、わたしは倉庫の方、リストの記載と合ってるか、検品して来ます。」

 それに緒美が応えるより早く、畑中が反応するのだった。

「検品は、こっちの方で済ませてあるけど?」

「ダブル・チェックですよ。それに検品は、受け取り側がする物でしょ?畑中先輩。」

 恵は微笑んで、そう畑中に言葉を返した。続いて、緒美が言う。

「そうね、お願い。」

「うん。じゃあ、ささっと済ませて来ます。」

 そう言って恵が倉庫へ向かうと、その後を直美が追って行く。

「森村~、手伝うよ。」

「あら、助かるわ、副部長。」

 二人は格納庫東側、部室階下の倉庫へと歩いて行った。


- to be continued …-

 

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