STORY of HDG(第1話.04)
第1話・天野 茜(アマノ アカネ)
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「手前のメンテナンス・リグに乗ってるのが HDG なんだけど…ここからじゃ、良く見えないわね。
茜は窓越しに試作機を見ようとしていたが、二階に有る部室から見下ろした HDG は小さく、細部や具体的な形状は良く解らなかった。
「『HDG』って、何の略なんですか?」
「『Hyper Dominative Gear』…意訳すると『超制圧装具』って感じだけど、防衛軍が対『エイリアン・ドローン』用の装備として、防衛装備の開発企業各社に研究要望を出した時の呼称らしいわ。本社の企画部ではその儘(まま)、HDG って名前で計画を練っていたそうよ。」
「ちょっと、物騒な名前ですね。まぁ、無理も無いですか…相手が相手だし。」
「そうね。」
「あ、AI が Ruby だから、あの機体も赤なんですか?」
茜の問い掛けに、逸早(いちはや)く反応したのは Ruby だった。
「何故、搭載 AI の名称が Ruby だと、機体が赤くなるんですか?茜。」
「だって、『ルビー』って赤い宝石でしょ。」
「成る程、駄洒落の一類型ですね。勉強になりました。」
「あはは、そんな引っ掛けをした積もりは無かったけど。言われて見れば、それも有りだったわね。」
鬼塚部長が笑い乍(なが)ら、席に戻って行く。
「今からでも、そう謂う由来にしない?」
そう言って、恵も笑い乍(なが)ら、言葉を続けた。
「本当は、試作機だから目立つ色にしてって、防衛軍の方(ほう)から指定されたそうなのよ。」
「そうですか。何だか、詰まらない理由ですね。ねぇ、Rudy。」
「ハイ。詰まりませんね。」
茜に対する Ruby の返事を聞いて、一同、笑い出した。
「あ、そう言えば。さっき言われていた『交換条件』ってのは、どう言う事ですか?」
「あぁ、そうそう。この Ruby の教育を依頼されているのよ。教育って言うと大袈裟(おおげさ)だけど、要(よう)は、こうやって、普通におしゃべりしていたらいいの。今みたいに、何でも無い会話の中から、人とのコミュニケーションに就いて Ruby 自身が学習していくから、って。」
「一昨年の夏、初めて、ここに来た時は、堅苦しい感じだったけど。今では、さっきみたいに、ユーモアも解る様になって来たものね、Ruby。」
「ハイ、恵。でも、ユーモアや冗談は、まだ、わたしには難しいですよ。」
「いいんですか?そんな事、教えちゃっても…。」
「大丈夫よ。本社の開発部へ、定期的にログが送られてるけど、『この儘(まま)でいい』って言われてるから。 それに、冗談やユーモアの件は兎も角、情報の検索や分析に関しては Ruby の計算能力には助けられてるのよ。今では、うちの大切なスタッフの一人だわ。 徒(ただ)、ね、知らない人の前だと、急におしゃべりすると驚かせちゃうから、そう言う時は許可を出す迄(まで)、黙っていて貰ってるの。」
「あ、成る程。」
茜は鬼塚部長の言葉に頷いたのち、Ruby の端末カメラの方へ向いた。
「でも、わたし達の会話は、聞いていた訳(わけ)ね。」
「ハイ、茜。」
「もう名前を覚えてくれて、嬉しいわ。」
「ハイ、記憶するのは得意ですから。」
「それじゃ、Ruby、あなたの名前の由来は、矢っ張り、宝石のルビーから、かしら? プログラム言語にも Ruby って言うのが、昔、有った様な…。」
「ハイ、わたしが起動したのが七月だったので、七月の誕生石に因(ちな)んで、開発スタッフの方(かた)が Ruby と名付けてくれました。プログラム言語の方(ほう)は関係有りません。」
「そう、いい名前ね。」
「ありがとう、茜。」
茜は自然と AI の Ruby との会話が進んだ事に、少し驚きつつ、ここ迄(まで)のコミュニケーション能力が必要なのだろうか?と、そんな疑念も抱いていた。
- to be continued …-
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