WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第9話.16)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-16 ****


 一方、理事長室を出た後の兵器開発部一同は、取り敢えず部室へと向かって歩いていた。既に校舎から出ていた彼女達は、陸上部やサッカー部が練習中のグラウンドを横目に、青々と葉の茂った桜並木の歩道を進んでいる。先頭は緒美達三年生、その後ろに維月とクラウディア、樹里と佳奈、そして瑠菜、最後尾が茜とブリジットと言う順番が、何と無く出来上がっていた。
 そんな中、暫(しばら)く黙って歩いていた維月が、唐突にクラウディアに声を掛ける。

「クラウディア、ちょっと聞いておきたい事が有るんだけど?」

「何?」

 クラウディアの返事は、極めてフラットだった。

「以前(まえ)の事件の時は、ハッキングとか、してなかったのかなぁ、と。」

「あぁ、今のイツキと同じで、アンナにも『そう言う事は止めて』って、何時(いつ)も言われてたから。彼女の前では、やらない様にしてたの。あの時も、モバイルは持ってたし、通信環境も有ったから、やろうと思えば出来たんだけど。」

「あぁ、矢っ張り。そうだったんだ…」

「でも、今はやらなかった事を後悔してる。あの時、正しい情報を知ってたら、アンナが死ぬ事は無かったかも知れない。」

 そんな二人の会話が聞こえた緒美が、振り向いてクラウディアに言うのだった。

「その気持ちは解らないではないけど、あなたのお友達の事は、あなたの所為(せい)ではないでしょう? あなたが責任を感じる事ではないわ、カルテッリエリさん。」

「それは、同じ事をカウンセラーにも言われましたけど…」

 そう、クラウディアが言葉を返すと、恵が緒美に言う。

「まぁ、そんな簡単に気持ちが変えられるなら、誰も苦労しないよね。ねぇ、部長。」

「そうれもそうね。」

 緒美は左隣の恵へは視線を向けず、前へ向き直った。その直後、緒美は急に何かを思い出した風(ふう)に「あぁ」と声を上げると、もう一度振り向いて、最後列の茜に向かって声を掛ける。

「そう言えば、天野さん。」

「あ、はい。何でしょう?」

 急に呼び掛けられ、慌てて茜は返事をした。茜とは少し距離が有ったので緒美が立ち止まると、それに釣られて全員が立ち止まったので、茜も又、立ち止まるのだった。結果、茜と緒美の距離は殆(ほとん)ど変わらなかったが、緒美はその儘(まま)の距離で、言葉を続ける。

「昨日、あの後(あと)、副部長達三人と話していたんだけど。天野さん、あなた、本当は、剣道部に入りたかったのかしら?」

 唐突に、思いもしない事を問い掛けられ、茜は困惑し、聞き返す。

「え~っと、どう言う流れで、そんなお話になったのでしょうか?」

 その、茜の問い掛けに答えたのは、直美である。

「いや、昨日のあなたの動作を見ててさ、剣道の方、相当の実力者だったのかなって思ってね。それで。」

 直美の答えを聞いて、茜は目を丸くする一方で、隣に立つブリジットが声を上げて笑い出す。そのリアクションに、今度は、三年生一同が困惑するのだった。

「もう、笑わないでよ。ブリジット。」

 茜は、左手でブリジットの腰の辺りを、後ろから軽く叩く。ブリジットは「ゴメン、ゴメン」と茜に謝ると、笑いを堪(こら)え乍(なが)ら、緒美達に向かって言う。

「茜は、剣道で勝った事は、一度も無いですよ。ねぇ。」

 ブリジットが最後に、茜に向かって同意を求めて来るので、茜もブリジットの発言を補足する。

「練習試合も含めて、一勝もしてませんから、実力者だなんて、とんでもないですよ。」

「どう言う事?」

 それが、困惑した緒美が、漸(ようや)く絞り出した言葉だった。

「どう、と言われましても…。」

 茜は苦笑いして、答えた。その一方で、ブリジットが真面目な顔で言う。

「茜が優しいからですよ。」

「いや、優しいとか、そう言う事じゃなくって。そりゃ、勝てる物なら、勝ちたかったですよ?わたしだって。努力や工夫はしましたけど、結果は、全敗って言う事でして。」

 茜の補足を聞いて、直美が問い掛ける。

「それじゃ、真面目にはやってたんだよね?」

「勿論。徒(ただ)、小学生の時に通ってた道場の師範から、『向いてない』とは言われてまして。まぁ、その通りだったのかな、と。」

 今度は、恵が問い掛ける。

「向いてない?」

「あの~アレです。剣道って、打ち込む時に『メ~ン』とか声を出して打ち込むんですけど…」

 茜は、発声のレベルは普通に押さえて、打ち込む動作を再現して見せつつ語った。

「…あの声、『気合い』って言うか、『気迫』とか『殺気』みたいなのが、どうにも苦手で。」

 その続きを、ブリジットが説明するのだった。

「中学の時、剣道部の顧問の先生から聞いたんですけど。茜は相手の『気合い』を受けると、どうしても踏み込みが甘くなって、一本取られちゃうって、優し過ぎるんだろうなって。」

「優しいってのは違う様な…単に、ビビリなだけよ。」

「ビビリって。もしそうなら、昨日みたいに、咄嗟(とっさ)に反撃は出来てないでしょう?」

 自虐的な茜の自己分析に対して、恵は客観的な見解を示す。それに次いで、直美が問い掛ける。

「天野は、結局、何年やってたの?剣道。」

「小学生の頃からですから~八年位(くらい)ですね。」

「向いてないって言われたのは、何年目の時?」

「いえ、三ヶ月目…位(くらい)でした。」

 茜は照れ臭そうに、笑って言った。その答えを聞いた直美の方が唖然としていたので、今度は緒美が尋ねる。

「天野さんは、その時、止めようとは思わなかったの?剣道。」

「あぁ~その時、師範から言われたんです。『この儘(まま)続けても剣道は強くはならないだろうけど、それでも腐らずに練習を続けられたら、心は強くなる筈(はず)だから、三年は続けなさい』って。」

「尤(もっと)もらしく聞こえるけど、それ、絶対、月謝目当てだよね。」

 呆(あき)れた様に直美は、恵に、そう語り掛けた。恵は、困り顔で愛想笑いを返すが、茜は笑って言うのだった。

「今考えると、そうかも知れないですけど。不思議と、その時は剣道の練習が特に嫌でもなかったし、道具一式をおじい…祖父に揃(そろ)えて貰ってたりしてたので。結局、中学に上がるまでは、その道場に通ったんです。それで、まぁ、続けていればそれなりに、欲も出て来るじゃないですか。一度位(くらい)、一本取ってみたくて、それで中学では剣道部に入ったんですが…まぁ、結果は、前に師範に言われた通りでした。」

「成る程。それでも、得る物は有ったのよね?」

 緒美が微笑んで、茜に尋ねると、茜も笑顔で答える。

「勿論です。結局一度も勝てなかったですけど、人や自分との向き合い方は学べたと思いますし、部活で先輩や友人も出来ましたから。頑張っても、出来ない事は有るって知れたのは、大事な事だと思ってます。それに、そもそも、剣道家になろうと思っていた訳(わけ)じゃありませんし。」

 そこ迄(まで)、黙って聞いた瑠菜が、突然、茜に問い掛ける。

「そう言えば、あの時。トライアングルが突っ込んで来たのは、恐くは無かったの?天野。」

「そうですね。『気迫』とか『殺気』みたいなのを感じなかったので、それで、多分。ビックリはしましたけど。」

「ずっと真面目にやっていたから、身には付いていたのよね、剣道が。」

 瑠菜への答えを聞いて、ブリジットがそう、茜に言うのだが、それに対して、茜は反論する。

「だから~BES(ベス)の扱いは、剣道の動作とは違うからね、何度も言うけど。アレは、居合いとかの動作を参考して、事前に HDG に動きを学習させて有ったから、咄嗟(とっさ)にあのスピードで再現出来たんだし。それに、左手にランチャーを持ち替えたから、右手一本で振り下ろしたけど、あんな事が出来たのも HDG だったからこそよ。」

「解った、解った。」

 ブリジットは笑って、そう言葉を返すのだった。
 そんな折、南の空から一機の大型ヘリが、爆音を響かせて学校の上空を通過し、山頂方向へと飛行して行く。その様子を、一同が何と無く見上げていると、直美が言うのだった。

「今日は昼過ぎから、矢鱈(やたら)と防衛軍のヘリが飛んで来るよね。」

 その疑問に、緒美が答える。

「あぁ、山頂の、レーダー・サイトの点検とか、あと、エイリアン・ドローンの残骸を回収しているんじゃない?多分。」

「そう言えば、三時頃だったかな。シートに包まれてたけど、何かの塊みたいなのを、大型のヘリが吊り下げて飛んでるのを見ましたよ。」

 樹里が目撃情報を語ると、佳奈と瑠菜がそれに反応する。

「あぁ、それ、わたしも見た~。」

「アレは、シートの形状からして、中身は飛行形態のトライアングルだったよね、多分。」

「さて、それじゃ。ここで立ち話してても何だし、部室へ行きましょうか。昨日のデータ整理、今日中に終わらせたいし。」

 緒美がそう言って歩き出すと、他のメンバーも再び、歩き出すのだった。


 兵器開発部の面々は、この時、全く意識してはいなかったのだが、この日、天神ヶ﨑高校の周辺で回収されたエイリアン・ドローンの残骸は、回収に当たった防衛軍の担当者が、その目を疑う程の綺麗な残骸だったのである。
 エイリアン・ドローンを数多く迎撃して来た防衛軍ではあったが、その撃破は殆(ほとん)どが誘導弾に因る成果であり、結果として、その残骸は主要部が爆散していた。20mm機銃や30mm機関砲に因って撃破した残骸も、主要部は大きく破損していたり、内部が粉々に粉砕されている物が殆(ほとん)どで、その後に出火した場合は熱効果で変形していたり、組成が変質していたりするので、回収出来た残骸から何かしらの、有意な技術情報が引き出せた事は皆無だった。
 唯一判明していたのは、『エイリアン・ドローンに使われている素材は、地球上に有る物質と大差が無い』と、その程度である。
 しかし、今回、回収された残骸は、荷電粒子砲やプラズマ砲で主要部が吹き飛ばされている以外は大きな破損が無く、何よりも、茜が切り倒した最後の一機は、胴体が分断されている以外は何の欠損も無い、完璧なサンプルであった。
 防衛軍の回収担当者が「これほど綺麗な残骸は、米軍だって持ってない」と発言したとかしないとか、それは定かではないのだが、この時、重要な資料の入手が為されたのは、間違いの無い事実だったのである。

 

- 第9話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。