STORY of HDG(第10話.05)
第10話・森村 恵(モリムラ メグミ)
**** 10-05 ****
立花先生の問い掛けに、恵は困った様な表情を返す。
「今の所は、何とも。瑠菜さん達にも考えて貰ってますけど、参考になりそうな物も特に無いので。いいアイデアが出る迄(まで)、もう暫(しばら)く掛かりそうですよね。今は、緒美ちゃんも不在だし。」
「そうよね~、まぁ、ここ迄(まで)が順調過ぎた感も有るし。ここは我慢の為所(しどころ)って事かもね。」
そう言って、微笑んでいる立花先生に対し、身を乗り出す様にして、恵が話し掛ける。
「所で、立花先生。わたしの方だけ、恥ずかしい話も含めて、色々と一方的に話してるのって不公平じゃありません?」
「何よ、急に。」
立花先生はコーヒーカップを持ち上げようとするが、それが既に空だったのに気が付く。恵は、構わずに声を掛ける。
「先生のお話も、聞かせてくださいよ。ギブ・アンド・テイクって事で~。」
「何が聞きたいの?恵ちゃん。」
「先生は付き合ってる人とか、いないんですか?」
恵は興味津々と言った表情で、目を輝かせている。一方で、立花先生は鼻から息を吐(は)いて、少し険(けわ)しい表情で言う。
「そう言う話…。」
「そう言う話です。で、どうなんですか?」
立花先生は一度、視線を天井に向け小首を傾(かし)げる。その後、恵の方へ向き直って、言った。
「あなたと同じで、毎日殆(ほとん)ど、この学校に居るのに、誰かと付き合ってる様に見える?」
「見えません。」
「でしょ。そう言う事よ。」
「本社に居た時は、どうだったんですか?」
「忙しかったからね~仕事。そんな暇、全く無かったわね。」
「入社してから、ずっと?」
「そう、ずっと。」
恵は少し落胆した様に、身体を引き、息を吐(つ)いた。
「そうなんですか。」
「悪いわね、面白そうな話題を提供出来なくて。」
「本社の方(かた)って、皆さんそんな感じなんですか?」
恵が、何か心配そうに聞いて来るので、立花先生は一寸(ちょっと)吹き出す様に、少し笑って、答える。
「そんな訳(わけ)、無いでしょう。大半が既婚の人だし、若い人で、社内で付き合ってる人達だって居るわよ。わたしの場合、その辺り、淡泊って言うか、そっち方面の感覚が薄いのよねぇ。」
「そう言う物ですか…。」
「そうよ。恋愛事(ごと)には縁遠いって言うか、そう言う感性が希薄な人って、割と居るのよ、実際。」
「それじゃ、先生は誰かとお付き合いした事は、無いんですか?」
「学生時代は、人並みに居たわよ、彼氏位(ぐらい)。そんな、取っ替え引っ替え何人も、とかって訳(わけ)じゃなかったけどね。」
「へぇ~その方(かた)とは、卒業したら結婚、とか、考えなかったんですか?」
「考えなかったわね~どう言う訳(わけ)か、二人共。」
「その方(かた)、今はどうされているんでしょうか?」
「さぁ、卒業後の進路が違っちゃったから。向こうは、法務省に入ってお役人やってる筈(はず)だけど、今はどうしているのかしらね。」
「連絡とかは、取ってないんですか?」
「卒業して間も無い頃はね~時々、メッセージ交換したりして、それぞれ近況報告とか、してたんだけど。お互い、研修やら仕事やらで忙しくなって、自然消滅したって感じよね。」
一連の質疑応答が終わり、恵は深い溜息のあと、言うのだった。
「何だか、先生のお話を聞いてると、大人になるのが恐くなって来ます。」
「大人って、詰まらなそう?」
「少なくとも、わたしが想像してたのとは、違いますね。」
「あははは、それは申し訳(わけ)無かったわね~。まぁ、こんな風(ふう)でも、本人は結構楽しく大人をやってるし、こんな大人ばっかりじゃないから。わたしの事は、反面教師にして、あなたは、あなたの思い描く大人になればいいわ。」
恵は観念した様に、身体を引き、目を閉じて言う。
「先生から、恋愛関係のお話を聞こうと思ったのが、間違いでした。」
「そうね。解れば宜しい。」
再び、立花先生は「あははは」と笑った。
「それじゃ、立花先生。別のお話を伺(うかが)いたいんですけど。」
「今度は何かしら?」
真面目な表情の恵に釣られ、立花先生も表情を引き締める。
「これは二年生組で、時々、話題になるんですけど。エイリアンの目的って、何だと思われます?」
「あら、方向性が一気に変わったわね。」
「はい。緒美ちゃんなんかは、『エイリアンの考える事なんか解らない』って切り捨てちゃうから、直ちゃんと二人では、話が先に進まないんですけどね。先生はどう考えてらっしゃるのか、一度、聞いてみたかったんです。」
「そうねぇ…。」
立花先生は、再び視線を天井に向け、暫(しばら)く考えてから、話し出すのだった。
「一般的には、エイリアンの目的は地球侵略、って事になってるけど。そうじゃない、って恵ちゃんには思えるのかな?」
「いえ、気になるのは、その進め方って言うか。余りにも、効率が悪すぎません?やり方が。」
「と、言うと?」
「科学技術のレベルは、間違いなく、彼方(あちら)の方が上、ですよね?」
「そうね。」
「投入出来る物量も、今迄(まで)の経緯からすると、底無しみたいですし。」
そこで立花先生は、恵の言わんとする所が、推測出来た。
「あぁ、何故、小出しにせずに、一気に攻めて来ないのか、って事?」
「はい。丸で、此方(こちら)に反撃の余地を、わざと残しているかの様にも、見えませんか?」
「そう言う論調は、確かに有るわね。エイリアンの侵攻の進め方は、戦術的にも、戦略的にも素人同然だって評論する、軍事評論家も居るし。 例えば、恵ちゃんだったら、どんな風(ふう)に地球を攻めるかしら?」
「そうですね…先(ま)ずは、発電所とか、エネルギー関連施設や、あとは軍の基地とか工場、でしょうか?攻撃目標は。 人類側の抵抗力を削(そ)いでしまえば、地球征服はもっと捗(はかど)るんじゃないですか?」
「まぁ、普通なら、そう考えるでしょうけれど。でも、それって、エイリアンが征服しようとしている対象が、人類になっていないかしら?」
「違うんですか?」
「うん、エイリアン達は地球人類の事は、余り意識してない、って言う分析も有ってね、わたしにも、その様に思えるのよ。」
「でも、現に、人類の市街地が襲撃されて、防衛軍と交戦してますよね?」
「そうね。そこで、恵ちゃんが言っていた、エイリアンの目的が問題になるのよ。」
「何の為に、侵略するのか?ですか。」
「そう。エイリアン達が欲しいのは、地球の何なのか?とも、言えるかしら。」
「エイリアン達が欲しがりそうな物…。」
「例えば、人類同士の戦争で考えてみましょう。人間が有史以来、戦争して来た原因は何だと思う?」
立花先生の問いに、恵は思い浮かぶ幾つかの事柄を挙げる。
「金(きん)とか財宝とか、資産?あと、領土とか、そこに埋蔵された鉱物資源や、石油とか石炭とかのエネルギー、奴隷とか労働力、それから食料…あとは宗教?でしょうか。」
「そんな所ね。例えば、そう言った理由が、あのエイリアン達の事情に当て嵌(は)まるかしら?」
「そうですね、先(ま)ず、宗教は違いますよね。」
「そうね。資産とか資源も違うでしょうね。何せ、彼方(あちら)の物量は底無しの様子だから。」
「それじゃ、エネルギーって事ですか?」
「どうかなぁ?エイリアン達の母星がどこかは知らないけど、何光年か、ひょっとしたら何万光年か、もっと遠い恒星系から、地球まで飛んで来てるのよ。それって膨大なエネルギーが有ってこそじゃない? 多分あっちには、人類から見れば、それこそ、無限に近いエネルギー源が有る筈(はず)よ。」
「そうすると、あと残ってるのは、労働力って事になりますけど…。」
「それも無いでしょうね。無限に近いエネルギーと資源が有って、戦闘用ドローンを量産出来る技術も有る。だったら、こんな遠く迄(まで)、人間狩りになんて来なくても、労働用のドローンを作れば、その方が手っ取り早いし、合理的でしょう。」
「そうですよね。そう言えば、人間が、あのエイリアン達に誘拐されたって話は、聞いた事が無いですものね。あ、そうすると、食料って線も無いですよね。農作物に限らず、エイリアン・ドローンが地球上から、何かしらの物資を大量に持ち去った、なんて報告、聞いた事がありません。」
「そうね。」
「そうすると、先生。エイリアンが地球を侵略する目的自体が、無い事になっちゃいますけど?」
「そんな事は無いわ。恵ちゃん、あなたが挙げた項目が、もう一つ、残ってる。」
「え?」
恵は指折り数え乍(なが)ら、頭の中で先程挙げた項目を反芻(はんすう)してみる。しかし、もう一つの項目には、思い当たらないのだった。
- to be continued …-
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