WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第14話.03)

第14話・天野 茜(アマノ アカネ)とクラウディア・カルテッリエリ

**** 14-03 ****


「飯田さん、そもそも学校側からの出席者が、何故、其方(そちら)のお嬢さんなのでしょうか?」

 飯田部長は眉間に皺(しわ)を寄せ、聞き返す。

「と、言われますと?」

「学校側からは、その開発を主導している鬼塚と言う生徒か、戦闘に介入したパイロットの生徒を出席させるのが道理でしょう? 女子生徒を連れて来れば、我々の追及が甘くなるとでも思われましたか?」

「おかしな事を仰(おっしゃ)いますね。ここに同席している森村君は天神ヶ﨑高校の兵器開発部で、HDG の開発を始めた初期からのメンバーですし、しかも発案者である鬼塚君が中学生の頃から、その研究に協力していた人物です。HDG の開発に関して、最も客観的に推移を見て来た人物として、今回の聞き取りには最適だと判断して参加して貰っている。 それとも、女子が参加している事が、お気に召しませんでしたか?」

 少し挑発気味に話す飯田部長に、藤牧一尉が噛み付く。

「何ですか貴方(あなた)、その言い様(よう)は。防衛軍を愚弄(ぐろう)する気ですか!」

「一尉、少し落ち着きなさい。」

 眉を顰(しか)めて桜井一佐が藤牧一尉を諫(いさ)めると、一息吐(つ)いてから桜井一佐は口を開く。

「何か誤解が有る様子ですが、天神ヶ﨑高校の兵器開発部、メンバーは全員、女子生徒ですよ。」

「はあ?」

 伊沢三佐と藤牧一尉が、揃(そろ)って声を上げたのだった。苦笑いしつつ、桜井一佐が言葉を続ける。

「嘘ではありません、わたしは七月下旬の模擬戦の際、現地視察をしてますから。その時に兵器開発部のメンバー全員と会いましたし、その活躍振りも、しかと見て来ました。 それとも、開発作業や戦闘は、女子には出来ないと、そう、お思いでしたか?」

「あ、いや…けして、そうではありませんが。 しかし、報告書には、その様な記載は、何も有りませんでしたので。」

 藤牧一尉が、あたふたと弁明をすると、それに対して飯田部長が補足するのだ。

「状況の報告に性別とかは無関係な事項ですし、しかも個人情報ですから、報告書に一々記載なぞしませんよ。」

「まあまあ、皆さん。ここは一度、頭を冷やしましょう…。」

 そう言って割り込んで来たのは、和多田補佐官である。彼は場を和(なご)まそうと思ったのか、ニヤニヤと笑みを浮かべつつ、言葉を続ける。

「…冷静に考えれば、ですよ、矢張り、未成年者に過度なリスクを負わせると言うのは、如何(いかが)なものか、と思う訳(わけ)ですよ。どうでしょう?飯田さん、ここは一つ、運用試験だけでも、防衛軍の方へ移管されては。」

 この発言を聞いて、飯田部長と桜井一佐は、今回の会合に和多田補佐官が参加して来た理由に見当が付いたのだ。飯田部長は、敢えて微笑んで聞き返す。

「和多田さん、そのご提案は大臣から、でしょうか?」

 飯田部長の知る限り、以前の和多田補佐官と同様に、現防衛大臣も HDG その物には、興味は無かった筈(はず)である。HDG の所謂(いわゆる)『戦果』を見て大臣が考えを変えた、とは飯田部長にも、桜井一佐にも思えなかった。何故なら、HDG が得意とする市街戦でのエイリアン・ドローンの個別撃破と言う特性は、政府防衛政策の大方針とは相容(あいい)れないからだ。防衛政策の基本は、飽くまで『洋上での迎撃』であり、『市街地には侵入させない』である。
 そして和多田補佐官が、飯田部長の問い掛けに答える。

「今の所、そう言う訳(わけ)ではありませんが。然(しか)し乍(なが)ら、今の状況が続いて、今後、もし、人的被害が発生した場合ですよ、それは、天野重工さんもお困りになるでしょう? そうならない為に、ご提案申し上げている訳(わけ)ですよ。」

 要するに、民間の、しかも未成年者が政府が絡む開発計画で犠牲にでもなれば、それこそマスコミには格好の餌食(えじき)である。犠牲にならなくても、その様な事実が発覚するだけでアウトかもしれない。そんな火種は、今の内に消しておこう、と言うのが和多田補佐官の考えである、そう飯田部長は判断したのだ。更に、あわよくば HDG 開発の主導権を、防衛省側が握る事まで考えているのかも知れない。
 正直な事を言えば飯田部長の考えには、その和多田補佐官の意見には賛同出来る側面も有ったのだ。だが、現時点で会社としての方針は、HDG は防衛軍には『売り込まない』、『引き渡さない』である。それは、防衛軍や政府が HDG を、どの様に運用するのかに就いて、天野会長が非常に懐疑的な見方をしていたからであり、その考えも又、飯田部長には理解出来るのだった。
 現状で HDG の開発は、そこから派生し確認された技術を、『R作戦』に投入するデバイス開発に活かす為に行われているのだ。その事は、『R作戦』の存在を知る防衛大臣を初めとする政府の極一部や、桜井一佐、和多田補佐官もが了解している事である。

「そのお気遣いには感謝致しますが、現状で開発スケジュールがギリギリですので。少なくとも、年内一杯は、開発の体制を弄(いじ)る訳(わけ)にはいきませんな。」

 その飯田部長の返答に、鼻で笑う様に和多田補佐官が言うのだった。

「そうですか? 高校生の女の子でも扱える様な物でしたら、防衛軍に移管するのに、大した時間は要しないと思いますが。」

 和多田補佐官の、その発言に真っ先に切れたのは、それ迄(まで)、議事の推移を黙って見守っていた立花先生である。

「どう言った意味でしょうか?それは。」

 そう、語気を強めて言うと、立花先生は和多田補佐官を睨(にら)み付けている。その気迫に押され、和多田補佐官は少し上擦(うわず)った声で、言葉を返したのだ。

「どう?と云われましても、言った儘(まま)の意味ですが…。」

「貴方(あなた)が、どの様な高校生を基準に、お話になっているのかは存じませんけど。HDG のテスト・ドライバーを担当している生徒は、一年生であり乍(なが)ら、複雑で膨大な HDG の仕様を発案者の鬼塚さんと同等に理解し、その上で運用試験を熟(こな)して改善の提案の行い、更に、HDG を運用するビジョンを発案者とほぼ完璧に共有出来ていると言う、奇跡の様な存在なんです。 四度の戦闘で、襲撃して来るエイリアン・ドローンを全て撃破して、無事に生還出来たのも彼女だからこそ、ですよ。停滞気味だった HDG の開発スケジュールが進展する様になったのも、彼女の能力に負う所が多いのです。」

 立花先生に続いて、桜井一佐も和多田補佐官に苦言を呈するのだ。

「和多田さんはご存じないのかも知れませんが、天野重工さんが運営する天神ヶ﨑高校と云うのは、国内の高校の中でも超難関校で有名ですよ。そこの生徒さんであるだけでも、その能力や素養は、一般的に考えられるのとはレベルが違いますからね。 それから、『女の子でも』って仰(おっしゃ)り方、女性差別的に聞こえますので、次の選挙に出馬されるお積もりでしたら、お気を付けになった方が宜しいかと思いますよ。」

「何ですか選挙って、藪(やぶ)から棒に。桜井一佐、そんな根も葉も無い噂が、出回ってるんですか?」

 苦笑いしつつ、そう言葉を返した和多田補佐官に、桜井一佐は微笑んで応じる。

「さあ。わたしの所にまで聞こえて来る様な噂に、どの様な根や葉が有るのか、或いは無いのかは存じませんけど。まぁ、関係の無いお話は、この位にしておきましょう、和多田さん。」

「そう願います。」

 和多田補佐官は身体を少し引いて、一つ、咳払(せきばら)いをした。それに続いて、飯田部長が発言する。

「では、話を戻しますが。先程、ウチの立花が申し上げた通り、現状で HDG が発揮している性能は、テスト・ドライバー個人の能力に負う部分が非常に大きい。そう言った意味で、装備としての完成度は、防衛軍に引き渡せるレベルには達しておりませんので、その点はご了解、願いたい。」

「解りました。わたしの方からは、これ以上は申し上げません。」

 割とあっさり、和多田補佐官が引き下がると、今度は伊沢三佐が割って入って来るのだ。

「いやいやいや、ちょっと待ってください、和多田さん。そんな、簡単に引いてしまって良いのですか?」

 そうは言われても、HDG の開発に遅延が出て、その結果として、肝心の『R計画』用のデバイス開発に遅れが出ては困るのは、和多田補佐官も同様なのだ。だから彼は、ここで天野重工側の意向に逆らうのは、得策ではないと判断したのである。勿論、そんな都合は、防衛軍の統合作戦司令部側が知る所では無い。
 そんな和多田補佐官の内心の葛藤を余所(よそ)に、引き続いて藤牧一尉が発言する。

「民間が、その様なの武力を装備、行使すると言うのは、流石に、法的に問題が有るのではないですか?」

 その問い掛けに、飯田部長が答える。

「エイリアン・ドローンには人が乗っている訳でも、アレがどこかの国家の財産でもない。言ってみれば、庭先に迷い込んで来た蠅を叩き落としている、その程度の事です。どこが違法になりますか?」

 その詭弁(きべん)の様な理屈に、伊沢三佐が声を上げる。

「だから、装備している事自体が問題なのでは?」

「装備、と言われると語弊(ごへい)が有りますな。所有しているのです。政府や防衛省の許可を得て、研究、開発をする過程で所有してしまうのは仕方が無い事ですし、今回の事案にしても緊急回避的、自己防衛の為の止むを得ない使用ですので、その点はご理解を頂きたい。」

 飯田部長に釈明に、藤牧一尉が食い下がる。

「そうは言われるが、少なくとも今回の件では、該当空域へ我々の迎撃機が向かっていました。民間の方(かた)が、戦闘に参加される必要は無かった筈(はず)だ。」

 その藤牧一尉の追求には、立花先生が説明を試みる。

「報告書にも記載が有りますが、迎撃機が戦闘空域へ到達する迄(まで)に、五分の時間差が有ると、当方で指揮を執っていた鬼塚は判断したのです。当時、わたしは随伴機に搭乗しておりましたので、鬼塚からの通信は全て聞いていましたから、間違いはありません。」

「その判断が、妥当かどうか、なのだがね。」

 立花先生の説明に対して、伊沢三佐が嫌味たっぷりの言い方をするので、今度は飯田部長が言葉を返す。

「それは、事後の分析でどうなのかは、私共(わたくしども)は軍事の専門家ではありませんので何とも言えませんが。唯(ただ)、あの時点で取得出来る情報からは、鬼塚君の判断は仕方が無かったものと、我々は考えております。」

 伊沢三佐が苦笑いして視線を上に向ける一方で、今度は藤牧一尉が詰め寄る様に問い掛ける。

「その、五分が待てなかった、と?」

 立花先生は微笑み、余裕の表情で答えた。

「はい。五分有れば、低速の随伴機はエイリアン・ドローンに捕捉されていた可能性が高いですし、戦闘空域も山岳部上空から市街地上空へと接近し、防衛軍の迎撃による周辺被害が、より発生し易くなるのは明らかでしたから。」

「貴方(あなた)方は、統合作戦司令部の作戦指揮を批判されるお積もりか?」

 そう、悔し気(げ)に藤牧一尉が言うと、飯田部長が眉間に皺(しわ)を寄せ、睨(にら)む様な視線を向けて言葉を返す。

「その様な積もりは御座いませんが、本州上空に侵入された時点で、作戦の、少なくとも一部が失敗していた事は明白じゃありませんか。好(い)い加減、お認めになっては如何(いかが)ですか?」

「何ですと!?」

 声を荒(あら)らげて立ち上がる藤牧一尉を、伊沢三佐が一声で制止し、藤牧一尉は椅子に座り直した。
 そして、伊沢三佐が口を開く。

「御社は、防衛軍が信頼出来ないと仰(おっしゃ)る?飯田さん。」

「その様な事は申し上げていないでしょう? 人のやる事ですから、不手際や失敗は有るでしょう。それを前向きに認めて、一つずつ改善していく他、無いじゃないですか。」

 飯田部長の言葉を聞いて、一度、溜息を吐(つ)き、伊沢三佐は言うのだ。

「民間の方(かた)は、そう言う考えで宜しいのでしょうが。我々は国民の生命と財産を守る、そう言った職責を担っておりますので、間違いや失敗など許されないのですよ。」

「その心構えはご立派だと存じますが、だからと言って、現実に有る失敗を無かった事にしていいと言う話じゃないでしょう。」

 すると、伊沢三佐は薄ら笑いを浮かべて、言った。

「どうやら御社は、防衛軍の立場という物を、ご理解頂けていない様子だ。そう言った企業さんとは、今後お付き合いを続けるのは難しいですなぁ。」

「ほう。と、仰(おっしゃ)いますと?」

「装備品の取得先は、御社だけではありません、と、そう言う事ですよ。」

 何時(いつ)の時代になっても、この様に『客の方が偉い』と勘違いする人間は後を絶たないのである。しかし流石に、この伊沢三佐の発言には、防衛省の二人が透(す)かさず苦言を呈するのだ。

「三佐、装備品の選定は貴方(あなた)の権限の範疇(はんちゅう)ではないでしょう?」

「勢いで、不穏な発言をしないで頂きたい。」

 一方で飯田部長は、あからさまに大きな溜息を吐(つ)き、言葉を返すのだ。

「そうですか?でしたら、弊社からの供給を明日からでも、全てストップしても構いませんよ。」

 陸上防衛軍の主力戦車や、航空防衛軍の装備する主力戦闘機は、天野重工が主契約の企業である。それらの生産のみに留まらず、機体の定期点検整備や改良開発、定期交換に必要な消耗部品の供給から、果ては、この時代の主燃料である水素の供給すら、その五割から六割を天野重工が担っているである。だから防衛省のお役人は、例え冗談でも飯田部長の発言に青ざめるのだったが、防衛軍の二人は、それはハッタリに過ぎないと高を括(くく)っていた。

「そんな事、出来る物なら…」

 伊沢三佐の言葉に被せる様に、飯田部長は発言する。

「出来ないとお思いで? 誤解されている方(かた)が多い様ですが、防衛装備事業による利益なぞ、弊社の全利益の、ほんの一部です。弊社の活動が国防に資する物でないと仰(おっしゃ)るなら、我々は何時(いつ)でも手を引きますよ。」

 続いて藤牧一尉が虚勢を張って飯田部長の言を否定するが、それを最後まで言わせない様に飯田部長は応えるのだ。

「そんな事、貴方(あなた)の一存で…。」

「出来ますよ。わたしは防衛装備事業に関する、最終決定権を持つ役員の一人ですので。」

 それは勿論、半分はハッタリなのである。しかし、それをそうとは思わせない迫力が、飯田部長の表情には有った。
 実際、飯田部長の意見なら、社長を始め他の重役達も、天野会長でさえも聞く耳を持つのだから、彼がその気になれば、それが実行される可能性はゼロではなかったのである。
 そんな天野重工社内での、飯田部長の影響力を理解などしていない伊沢三佐は、負けじと対抗する。

「飯田さん、貴方(あなた)、防衛軍の足元を見るお積もりですか?」

「先に足元を見たのは、其方(そちら)じゃないですか。」

 流石に、ここで防衛省のお役人が仲裁に入るのである。

「まあまあ、飯田さん、もう、その辺りで。三佐も、言葉が過ぎましたな。」

 その言葉を聞いて、伊沢三佐は勢い良く鼻から息を吐(は)き、乗り出す様に身構えていた上体を後ろへと引いた。
 一方で飯田部長は、座り直す様にして姿勢を正し、そして言ったのである。

「天野重工は、防衛軍とはイコールパートナーとして、国防のお役に立ちたいと、御協力させて頂いているのです。その辺り、お忘れなきよう、お願い致します。」

 矛(ほこ)を収める意向での飯田部長の発言だったが、それには防衛軍の二人は応えず、未(いま)だ、何かを言いた気(げ)な表情である。それを察して飯田部長は、更に言葉を続けたのだ。

 

- to be continued …-

 

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