STORY of HDG(第11話.10)
第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール
**** 11-10 ****
そして飯田部長が、畑中と倉森の二人に問い掛ける。
「時間は、どの位(くらい)掛かる?」
「作業自体は、十分…十五分も有れば?」
畑中は倉森に尋(たず)ねる様に、そう答えると、倉森が応じた。
「そうですね、先(ま)ずは回路の確認をしないと。それと…」
倉森は視線を樹里の方へ向け、言う。
「…イレギュラーな作業をする事になるから、エラーとか強制解除する必要だとか、有るかも知れないけど。」
「そう言う事なら、デバッグ用のコンソールで、ダミーのフラグ送ったり、モニターは出来ますので。」
微笑んで、樹里は即答した。
「その時は、お願いね。城ノ内さん。」
倉森も微笑んで、そう言葉を返す。そこへ、大判のタブレット端末を持って、新田が戻って来るのだった。
「回路図、持って来ました。」
パネルを倉森に見せ乍(なが)ら、新田は画面を操作していく。
「プラズマ砲の電源回路は、このフォルダだったかな…。」
新田は見当を付けたフォルダのアイコンを人差し指でタップすると、何回か図面を捲(めく)る様に画面を切り替えた。
「あ、ストップ。この図面…。」
横から声を出して図面の切り替えを止めた倉森は、覗(のぞ)き込んだパネルを指でなぞり、回路を確認するのだった。
「ここと、ここのブレーカーを切れば…ここのコネクターがテスト回路側に繋ぎ換えてある筈(はず)だから、こっちの電源回路に戻して…。」
「それだと、トリガー側のリレー回路の方が…あぁ、大丈夫か…。」
倉森と新田は、回路を順に追って、作業の安全性を確認していった。
「うん、大丈夫ね。」
「ですね。」
二人が納得した様子なのを見て、畑中が確認をする。
「行けそうかい?倉森君。」
「はい。出来ます。」
倉森の返事を聞いて、今度は飯田部長が改めて指示を出すのだった。
「よし、それじゃ早速、取り掛かって呉れ。」
「分かりました。」
と、畑中が返事をするので、倉森が笑って言うのだった。
「これ、エレキの方の作業ですよ、先輩。」
「カバーの付け外しとか、メカでも出来る作業が有るだろ?手伝うよ。」
そこに倉森の隣に立つ新田が、会話に割り込んで来て、言う。
「いえ、ブレーカー切る迄(まで)は、メカの人は触らないでください。危ないんで。」
「それは分かってるって、新田さん。出番が来たら、指示して。」
苦笑いで、そう返す畑中を横目に、倉森は緒美に声を掛ける。
「鬼塚さん、Ruby とお話をしたいの。ちょっと、ヘッド・セットを借りられる?」
「あ、はい。どうぞ。」
緒美は躊躇(ちゅうちょ)無く、ヘッド・セットを外すと、腰に着けていた携帯型無線機と一緒に、倉森に手渡した。倉森は右手でヘッド・セットを耳に当て、左手には携帯型無線機を持った儘(まま)、Ruby に話し掛ける。
「Ruby、エレキ担当の倉森です。あなたの事だから、大体の話は聞いてて理解していると思うけど。」
「ハイ、みなみ。プラズマ砲の再装備作業ですね。」
打てば響く様な Ruby の返事が、ヘッド・セットへと返ってきた。Ruby は外部スピーカーに合成音声を出力していないだけで、周囲で交わされる会話の殆(ほとん)どを聞き取って理解しているのである。倉森はくすりと笑って、言葉を続けた。
「なら、話が早いわ。作業を始めたいから、メンテナンス・モードへ移行してちょうだい。」
「メイン・エンジンが起動した状態でメンテナンス・モードへ移行する事は、一般運用規則には禁止事項として記載されています。例外的運用を行う場合は、システム管理責任者、二名以上の許可が必要となります。」
Ruby の返事を聞いた倉森は目を閉じて、一度、息を吐(は)き、目を開いて言った。
「緊急事態なのよ。協力して。」
「申し訳無いですが、システム上の禁則事項として規定されているので、わたしにはどうする事も出来ません。システム管理責任者の許可が必要です。」
「ちょっと待ってて。」
「ハイ、待機します。」
Ruby の返事は聞こえていなかったものの、倉森の様子から不穏な空気を感じ取った緒美が、声を掛ける。
「倉森先輩?」
「あぁ、ゴメン。システム管理責任者、二人の許可が要るって Ruby が。メイン・エンジンが起動状態でのメンテ・モードは禁則事項だって。」
緒美は、樹里に向かって問い掛ける。
「あぁ~そうだっけ?」
「多分。」
樹里は、静かに頷(うなず)いて答えた。続けて、倉森が樹里に問い掛ける。
「システム管理責任者って、城ノ内さん?」
その質問に、樹里が答える前に、緒美が声を上げた。
「ヘッド・セット、貸してください。」
「あ、あぁ、うん。どうぞ。」
緒美はヘッド・セットを受け取ると自らに装着し、マイクを口元へと合わせ、言った。
「Ruby、鬼塚です。システム管理責任者として、音声認証を要求します。」
緒美の要求に対する Ruby の返事は、直ぐに返って来た。
「音声の照合を完了。緒美をシステム管理責任者として認証しました。」
「オーケー、じゃ、メンテナンス・モードへの移行を許可します。」
「先程、みなみには説明しましたが、システム管理責任者、二名の許可が必要です。」
「分かってる。ちょっと待ってね。」
「ハイ、待機します。」
緒美はヘッド・セットを外すと、それを立花先生の方へと差し出した。
「先生、お願いします。」
だが、立花先生は無言で、固まってしまったかの様に動かない。意に反して進んでいく状況を、何か止める手立てが有りはしないか、考えを巡らせていたのだ。しかし、間を置かず、飯田部長も声を掛けるのだった。
「立花君。」
立花先生は、一息吸うと、飯田部長に答えた。
「今、わたしは学校を代表する立場です。学校側としては、生徒達を戦闘に巻き込む為の準備には、賛同出来ません。」
「キミの心情も立場も、理解はするが。今は緊急時だ、冷静に判断して呉れ。」
「ダメです、部長。冷静に考えれば尚更、生徒達を戦闘に参加させる判断なんて、有り得ません。何か、他の方法を考えるべきです、大人として。」
「当然だ、わたしだって彼女達にリスクを押し付ける事はしたくない。しかし、わたしもキミも、幾ら大人だって言っても、出来ない事は出来ない。現状で、取れる選択肢は限られている。それはキミも、分かってるだろう?」
「………」
立花先生は黙って、俯(うつむ)く他は無かった。
「部長、ヘッド・セットを。」
そう言って、緒美の手からヘッド・セットを奪って行ったのは樹里である。樹里はヘッド・セットを装着し、Ruby に話し掛ける。
「Ruby、城ノ内です。システム管理責任者、音声認証要求。」
Ruby は、樹里の要請に直ぐに応えた。
「音声の照合を完了。樹里をシステム管理責任者として認証しました。」
元元、Ruby や LMF のシステム管理責任者としては、立花先生と緒美、そして樹里の三名が登録されていたのだった。緒美は立花先生の意向を確認する為、敢えて立花先生に許可を求めていたのである。
そして樹里は、Ruby に指示する。
「システム管理責任者として、例外運用を許可します。メンテナンス・モードへ移行して、Ruby。」
Ruby は、直ぐに応えた。
「システム管理責任者、二名の許可を確認しました。LMF のシステム管理モードを、例外運用としてメンテナンス・モードへ移行します。」
樹里は Ruby の返事を聞き届けると、ヘッド・セットを外して携帯型無線機と共に、倉森へと渡した。
「では、後をお願いします、倉森先輩。わたしは向こうのコンソールで、エラーとか、LMF の状態をモニターしてます。」
「ありがとう、城ノ内さん。モニターの方、お願いね。」
「わたしも、コンソールの方で無線が使える様にしておきますから。」
そう言い残すと樹里は、天神ヶ﨑高校側の指揮所の方へ向かって歩き出す。その後ろを、今まで黙って状況を見ていたクラウディアが、慌てて追い掛けて行くのだった。
「あぁ、先輩。わたしも手伝います。」
- to be continued …-
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