STORY of HDG(第12話.12)
第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)
**** 12-12 ****
「♪ハッピーバースデー、ディア、茜~♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」
二巡目のバースデーソングは、茜に向けての物だったのだ。瑠菜は、茜の耳元で尋(たず)ねる。
「あなたも、今日だったの?誕生日。」
茜は、瑠菜の耳元へ顔を寄せて答えた。
「いいえ、17日ですけど。十日後ですね。」
そんな茜と瑠菜の遣り取りを余所(よそ)に、間を置かず三巡目のバースデーソングが始まっていた。流石に、それが誰に向けてなのか、茜には直ぐに見当が付いたので、茜はブリジットに向けて、皆と声を揃(そろ)える。
「♪ハッピーバースデー、ディア、ブリジット~♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」
皆が歌い終わると、一同が拍手をする中、恵が三本の蝋燭(ろうそく)が立てられたケーキを、三人の前へと差し出す。
「三人兼用なんだけど、一緒に吹き消して~。」
瑠菜を挟(はさ)んで、茜とブリジットの三人が、ケーキに顔を近付けると、維月と直美がカウントダウンを始めるので、それに合わせて三人は蝋燭(ろうそく)に息を吹きかける。
「3、2、1!」
蝋燭(ろうそく)の火が消えると、再び一同が拍手をし、口口(くちぐち)に「お誕生日、おめでとう」と声を掛けるのだった。
瑠菜はブリジットにも、尋(たず)ねる。
「ボードレールも、八月生まれだったの?」
「はい、24日、茜の一週間あとです。」
すると、維月が瑠菜に声を掛けて来る。
「どう?驚いた?」
「どっちかって言うと、天野とボードレールが八月生まれだったのに、ビックリした。」
続けて、恵が言うのである。
「流石に、三人にバレない様に準備を進めるのは、大変だったわ~。」
「わたし達のは、まだ先なのに。一緒にして貰えて、ありがとうございます。」
茜が、そう言葉を返すので、直美が声を上げた。
「いいのよ~、あなた達のは、部活のお休み期間に重なっちゃってるしね。因(ちな)みに、今回の企画は、井上だよ~。」
「あははは、まあ、先月はわたしのお祝い、して貰ったし。それに、瑠菜ちゃん、前に言ってたじゃない?」
咄嗟(とっさ)に、それが何の事かが分からず、瑠菜は聞き返す。
「え?…わたし、何か言ったっけ?」
「ほら、八月生まれだと、誕生日が夏休み中だから、学校の友達には忘れられ勝ちだってさ。」
「え~っと、ごめん、覚えてない。そんな話してた?」
すると、樹里が声を上げる。
「言ってたよ~、わたしも覚えてるもの。」
「ああ、そうなんだ。」
瑠菜は苦笑いで、樹里に答えるのだった。一方で、恵が茜に問い掛ける。
「天野さんも、矢っ張り、そう言う経験があるの?」
「あはは、まぁ、無くは無いですね。ねぇ、ブリジット。」
「まぁ、そうね。でも、家(うち)のは両親が張り切っちゃうので、誕生日の事で友達関係が気になった事は無いですけど。」
「そう言えば、去年は、家(うち)の母と妹まで御招待頂いて、何だか申し訳無かったわね。」
「いいのよ~家(うち)のママとパパが、茜のお母さんとのお喋(しゃべ)りが大好きなんだから。茜のお母さんとは、母国語で普通に話せるから。」
「ああ~、でも、最後の方は英語とフランス語が、日本語とゴッチャになってて。端(はた)で聞いてると、可成りのカオスっぷりだったよね、アレ。」
茜は当時の様子を思い出して、苦笑いするのだった。
「あははは、何だかんだで、日本語が大好きだからね、家(うち)の両親。」
その発言を聞いて、恵がブリジットに尋(たず)ねる。
「ボードレールさんの、御両親って…。」
「はい、パパはフランスで、ママがアメリカの出身ですよ。」
「それじゃ、天野さんのお母様は、フランス語と英語が?」
「ええ、って言うか、ヨーロッパの言語は大体、網羅(もうら)してるみたいですよ。イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語…あと、何(なん)だっけ?」
茜の返答に、複雑な表情を浮かべつつ恵は訊(き)いた。
「何(なん)だって、そんなに?」
「祖母から聞いた話ですと、母は学生時代からヨーロッパ方面への旅行が好きだったらしくて、それが高じて言語マニアみたいになった、らしいです。そんな人なので、父が仕事でヨーロッパ方面へ海外出張に行く時には、通訳として母を連れて行く程でして。」
そこで、立花先生が会話に参加して来る。
「良く、お父様の勤(つと)める会社が認めたわね、それ。」
「ああ、最初は父が自腹で母の交通費や宿泊費を出してたみたいなんですけど、それで商談が纏(まと)まるならって。その内、母の交通費と宿泊代が経費で認められる様になって。専門の通訳の業者と契約して人件費払う事を考えたら、交通費と宿代だけで済めば、その方が割安だって。」
「成る程。」
「そんなだから、一時期、ヨーロッパ方面の商談が殆(ほとん)ど父に回される様になって、まぁ、父は大変だったらしいです。母の方は、会社のお金で好きな海外旅行を夫婦で出来て、随分と楽しかったみたいですけど。」
「あはは、なかなかに凄い話ね…。」
立花先生と恵は、苦笑いしつつ、お互いの顔を見合わせるのだった。続いて、直美がブリジットに話し掛ける。
「そう言えばさ、ブリジットの家では、普段、何語で話してるの?」
「家(うち)で、ですか? 一応、公用語は日本語です。特に、ママはフランス語がほぼ、分からないので。わたしも、聞く方は兎も角、話すのが苦手で。」
「へぇ。」
「でも、両親は感情的になると、お互いが母国語になるので。だから、両親が喧嘩(けんか)になると、ママは英語で捲(まく)し立てるし、パパはフランス語で嘆(なげ)き始めるし。で、お互いが何を言ってるのか分からなくなって、冷静になる、って言う。」
そこで、瑠菜が参加して来るのだった。
「へぇ~、ボードレールの家(うち)はそんな感じなんだ。家(うち)のは父親がアメリカの出身なんだけど、家(うち)でお父さんが英語で喋(しゃべ)ってるのを、見た事が無かったよな~。わたしが学校で、英語の授業が始まってからは、両親相手に英語の練習とかはやったけど。」
「ああ、瑠菜さんのお母さんは、英語、話せる人なんですか?」
「そうよ~。元元、日本語が話せない家(うち)のお父さんの、仕事や生活のサポート業務をしてたのが、家(うち)のお母さんだったそうだからね。」
「それは又、興味深そうなお話ね。」
恵が瑠菜に、そう話し掛けた時、突然、「あっ」と、茜が声を上げた。その声に少し驚いて、緒美が尋(たず)ねる。
「どうかした?天野さん。」
茜は右の掌(てのひら)を緒美に向けて、その問い掛けには答えず、振り向いて部室奥の窓枠に取り付けられている、Ruby の複合センサーに向かって呼び掛けるのだった。
「Ruby、前にあなたの名前は、誕生石が由来だって言ってたわよね? あ、シミュレーターを実行中か。」
茜の懸念を余所(よそ)に、Ruby は直ぐに返事をする。
「大丈夫です、茜。 此方(こちら)と会話する程度の、リソースの余裕は有ります。」
「そう、良かった。」
「お問い合わせの件ですが、茜の記憶している通りです。わたしの呼び名の由来は、天野重工のラボで、わたしが最初に起動したのが七月だったので、七月の誕生石に因(ちな)んで、Ruby と言う名前を頂きました。正確には、2069年の7月12日の事で、それがわたしのログに残っている、最も古いタイムスタンプの日付です。」
その Ruby の返事を聞き、今度は樹里が声を上げる。
「ああ、それじゃ、Ruby は七月生まれだったんだ。先月、維月ちゃんと一緒に、お祝いしてあげれば良かったね~ごめんね、Ruby。」
「イイエ、樹里。そもそも、わたしに誕生日の概念が、皆さんと同じ様に当て嵌(は)められる物でしょうか?」
その、Ruby の問い掛けには、維月が答えた。
「いいんじゃない? 麻里姉(ねえ)達、開発の人も、その日が Ruby の誕生日だと思ったから、誕生石に因(ちな)んで呼び名を付けた訳(わけ)でしょ? でも、Ruby の誕生日なんて発想自体、わたしには無かったなぁ。 グッ・ジョブ、天野さん。」
維月は茜に向けて、勢い良く右腕を突き出し、サムズアップのサインを送る。茜はそれに、照れ笑いを返すのだった。
「それじゃ…。」
樹里は維月に視線で合図を送ると、二人で声を合わせて歌い始める。
「♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」
そして、その場に居た一同が声を合わせて、バースデーソングを歌うのだった。
「♪ハッピーバースデー、ディア、Ruby~♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」
歌い終えると、樹里が Ruby に声を掛ける。
「一ヶ月遅れだけど、Ruby も、お誕生日、おめでと~。」
続いて、維月が言った。
「あなたにあげられるプレゼントが、これ位(くらい)しか無くって、ごめんね、Ruby。」
「イイエ、皆さんからは沢山の経験を頂いていますので、それが、何よりのプレゼントです。」
Ruby の返事を聞いて、恵は笑って言った。
「あはは、Ruby は相変わらず、いい子だね~。」
続いて、ジュースの入ったコップを持って立ち上がった緒美が、声を上げるのだった。
「それじゃ、瑠菜さんと天野さん、ボードレールさん、そして Ruby の健康と成長を祝して、乾杯。」
一同が、それぞれにコップを掲げて「乾杯」を唱和し、飲み物に口を付ける。
そして、それからは暫(しばら)く、Ruby も交えての談笑が続いたのである。
- to be continued …-
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