WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第6話.02)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-02 ****


「あなたこそ、何やってんのっ!」

 背の高いその女子生徒は、金髪少女の頭頂部に拳骨(げんこつ)を押し付け、ゴリゴリと捻(ねじ)っている。

Au! Au! 痛い!痛いって。」

 少女はその場に蹲(うずくま)り、先程、拳骨(げんこつ)を押し付けられた頭頂部を両手で押さえていた。
 その傍(かたわ)らに立つ、背の高い女子生徒は言った。

「同室の子が迷惑掛けたみたいで、ごめんね。あ、わたし、情報処理科の井上 維月。」

「あ、いえ、迷惑とか無いです。少々、困惑はしましたけど。機械工学科一年の天野 茜、です。え~と、先輩…ですか?」

 維月の、余裕の有る態度が、茜には上級生の様に思えたのだった。

「いいえ、一応、あなた達と同じ学年なのよ。」

 そう言って、維月は一年生用の赤いクロス・タイを抓(つま)んで見せる。

「実は昨年後半、病気で休学してた所為(せい)で、二回目の一年生なんだけどね。」

 維月は男子の様なベリー・ショートの後頭部を、左手で掻く様にして、笑ってそう言った。

「あぁ、それで、さっきの入学式で、新入生の中に見掛けなかったんですね。あ、わたしは機械工学科のボードレール ブリジットです。」

 維月の、ブリジットに負けない位(くらい)の身長と、男子の様なショートカットの髪、それは一度見たら印象に残るだろうと、ブリジットは思ったのだ。それは、茜も同感だった。

「あら、あなたも日本語お上手ね。ご出身はどちら?」

「いえ、両親共に帰化してるので。わたしは、生まれも育ちも日本ですから。」

「あぁ、それは失礼したわ。ごめんなさいね。」

「大丈夫です、良く聞かれるので、慣れてますから。気にしないで下さい。」

 その時、維月は蹲(うずくま)った儘(まま)の金髪少女が、『ジト目』で見上げているのに気が付いたのだった。

「あぁ、この子は、クラウディア。クラウディア・カル…カルテ……何だっけ?」

「カルテッリエリ!」

 クラウディアは、少し大きな声で自分のファミリー・ネームを言い、立ち上がった。

「クラウディアは、ドイツから来たの。これで中々のマンガ、アニメ・オタクなのよ。」

「ちょっ、イツキ!」

「あぁ、ソレで日本語を覚えたの?」

「ハハハ、うちの両親と同じじゃない。」

 ブリジットを、顔を赤らめて睨(にら)み付けているクラウディアに、茜は先程から気になっていた事を聞いてみる。

「カル…クラウディアさん?は、飛び級か何か、なのかな?」

 その言葉を聞いたクラウディアは、視線を茜の方へ切り替え、更に顔を赤くして声を荒らげる。

「失礼ね!あなた達と同じ年の生まれよ! ヨーロッパ系がみんな、そこの赤髪ノッポみたいに、無駄に大きいって、思わないでちょうだい。」

「あぁ、そう。ごめんなさいね。」

 茜は「それは確かに、その通りだ」と思った一方、「それにしても、あなたは小さ過ぎでしょう」と思ったのだが、流石にそれは言わないでおいた。

「それにしても、あなたは小さ過ぎでしょ。」

 茜が敢えて言わなかった台詞(せりふ)を、事も無(な)げに維月は言い放ち、笑い乍(なが)らクラウディアの頭をポンポンと、軽く叩くのだった。クラウディアは無言で、頭上の維月の手を、右手で払い除ける。

「もう一つ聞かせて。さっきの宣戦布告だとか、試験がどうのって言うのは、どう言う事?」

「どうもこうも、言葉の通りの意味よ。次の試験では負けないから、覚えておきなさい、って事。」

「次の試験?って…。」

 茜は何気(なにげ)に、隣に立つブリジットへ視線を向けた。その視線に、ブリジットが答える。

「中間試験の事じゃない?」

「じゃ、その前の試験は?」

「入試…って事になるから、この子が入試で茜に勝てなかった、って事でしょ?」

 クラウディアの方へ向き直って、茜は主張する。

「ちょっと待って、入試の結果は公表されてないでしょう? 勝ち負けなんて、分からないじゃない。」

「そんなの、わたしには…。」

 クラウディアが途中まで言い掛けた所で、維月がクラウディアの腕を掴み、引っ張った。

「ちょっと、イツキ。まだ話の…。」

「そろそろ、教室へ行かないとね。呼び止めて悪かったわね~あなた達も、教室へ急いだ方がいいよ~。」

 維月はクラウディアを引っ張って、歩道をズンズンと進んで行く。その様子を呆気に取られて、茜とブリジットは、唯(ただ)、見送るのみだった。四人の様子を遠巻きに見ていた生徒達も、三三五五と言った感じで、その場を離れて行く。

「何だったのかしら?」

 茜がポツリと、呟(つぶや)く。ブリジットは茜の手を取り、言った。

「さぁ、わたし達も行きましょう。」

「そうね。」

 二人は他の生徒達の後を追って、自分達の教室へと、歩道を早足で歩いて行った。


 こんな風に、意味不明の出会いをした茜とブリジット、そしてクラウディアと維月の二組だったのだが、その後は『機械工学科』と『情報処理科』と言う学科の違いも手伝って、同学年であっても校内で接触する機会が殆(ほとん)ど無い儘(まま)、時間が過ぎていった。女子寮でも顔を合わす機会は希(まれ)で、時折、女子寮の食堂で遠目に見掛ける事は有っても、クラウディアの方が茜を無視する為、この二組が会話をする機会は、それから暫(しばら)くの間、皆無だったのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第6話.01)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-01 ****


 物語は二ヶ月程、時間軸を遡(さかのぼ)る。その日は天神ヶ崎高校にて、茜達、第二十三期生の入学式が行われた、2072年4月4日月曜日である。
 朝から天気も良く、学校の敷地の内外に植えられた桜の木々も咲き揃(そろ)い、入学式には相応(ふさわ)しい様相だった。
 式自体は滞りなく終了し、茜とブリジットは式に参列していた、それぞれの親達と分かれて、教室へと向かっていた。因(ちな)みに、新入生の保護者一行は、入学式の後は学校職員の案内で、校内の施設や寮等(など)を見学する事になっている。特に、『特別課程』の生徒は全員が、親元を離れての寮生活となるので、学校側も保護者への説明には気を遣っているのである。
 天神ヶ崎高校を受験したのは、茜の通っていた中学からではブリジットの他にも数人がいたのだが、合格したのは茜とブリジットの二人だけだった。特にブリジットに就いては「奇跡だ」と、からかいとも賞賛ともとつかない声が聞かれていたのだが、ブリジットの努力を知っている茜に取って、それは驚く様な結果ではなかった。ブリジットと一緒の学校へ進学出来る事を、茜は、徒(ただ)、単純に喜んでいたし、それは、ブリジットも同じだった。そんな訳(わけ)で、天神ヶ崎高校には、茜とブリジットの知り合いは一人もいない、そんなスタートの筈(はず)だったのである。

「アマノ アカネ!」

 入学式が行われた体育館から、校舎へと向かう歩道の途中で、突然、背後から名前を呼ばれて、茜とブリジットは立ち止まり、振り向いた。「自分達を知っている人等(など)いない筈(はず)なのに」と、不審に思っていた二人は、茜を呼び止めたらしい、その少女の姿を見て少し戸惑った。
 それは、ブリジットの様な欧米系の少女だったのだが、小学生位(くらい)に幼く見えるその容姿は、ブリジットとは逆の方向で目立っていた。身長は120センチメートル位(くらい)だろうか、エメラルド・グリーンの瞳に、綺麗な金髪を左右に結んでおり、所謂(いわゆる)「金髪ツインテの外国人幼女」という風貌(ふうぼう)である。

<イラスト>

 茜達は三日前には入寮して寮生活を始めていたので、その少女の姿は、昨日の内に女子寮で見見掛けており、その時はブリジットと「わぁ、ちっちゃい子がいる!飛び級とか、かなぁ」とか話していたのだが、直接、話し掛ける事はしなかったのだった。
 そして今、その少女が腕組みをして、睨(にら)む様な目付きで、茜の顔を見詰めていた。

「わたしに、何か、ご用かしら?」

 茜は両手を膝に当て、少し腰を屈(かが)める様にして、言葉を句切る様に話し掛けた。茜は、相手に日本語が通じないかも知れない、と思ったのだ。

「バカにしないで!日本語位(ぐらい)、話せるわよ。」

 それは流暢(りゅうちょう)だったが、明らかにイライラしているのが茜にも伝わって来る、そんな言い方だった。

「ちょっと、何よ、その言い方。失礼じゃない!」

 その少女に、ブリジットが意見すると、少女は英語で言い返して来る。

「Please don't butt in, beanpole!(口出しするな、ノッポ!)」

「何で、わたしには英語なのよ!」

「親切心で、あなたの母国語にしてあげた迄(まで)よ。それとも、あなたの母国語はイタリー?スパニッシュ?」

「パパはフランス人で、ママはアメリカ人だけど、今は帰化して日本国籍だから、わたしの母国語は日本語なの!」

「じゃぁ、今度はフレンチで、言ってあげましょうか?」

「結構よ、さっきので何言われたかは、分かってるから。この、チビ!」

「ちょっと、ブリジット…。」

 その少女とブリジットが睨み合っているのを、ブリジットの腕を引っ張って茜は仲裁に入る。

「わたしに用が有るんでしょ? で、あなたは誰かしら。どうして、わたしの事を知ってるの?」

「どうしてって、さっきのセレモニーに居たら、あなたの事はみんな知ってる筈(はず)でしょ。あなたが新入生代表で、スピーチしてたんだから。」

 ほぼ定型の『新入生代表挨拶』の事を『スピーチ』だと言われると、何かニュアンスが違う気がするのだが、「取り敢えず、ここではそんな細かい事を議論するのは止めておこう」と、そう思った茜だった。
 そして、その少女は、ビシッとアカネを指差して、言い放つ。

「これは、宣戦布告よ!アマノ アカネ。次の試験では絶対にあなたに勝ってみせるからっ!」

 それを聞いた茜は、只、呆気(あっけ)に取られている。

「…何?言ってるのか、解らないわ…。」

 言葉は理解出来るのに、その意味する所が解らない、と言う事が、時として有る物である。茜は困惑した表情を、ブリジットの方へと向けるが、ブリジットは肩を竦(すく)めて見せるのみだった。
 そんな、向かい合う三人の様子に気付いた他の生徒達は、歩道を教室へと向かっていた足を止め、遠巻きに眺めている。その少女は、そんな雰囲気等(など)には構わず、続ける。

「分からない女ね!あんたなんか…」

 その時、遠巻きに眺めていた生徒達を掻き分ける様に飛び出して来た、一人の背の高い女子生徒が、啖呵(たんか)を切っているその少女の後頭部を、平手で勢い良く張った。

「Autsch!(痛(いった)い!) 何するのよ、イツキ!」

 その少女は振り向いて、その背の高い女子生徒に向かって声を上げた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG (第5話) Pixiv投稿しました。

「STORY of HDG」の第5話まとめ版、Pixiv へ投稿しました。
第6話は、現在、第7回掲載分を打ち込み中。第6話の掲載開始まで、もうしばらくお待ちください~。

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「第5話・ブリジット・ボードレール」/「motokami_C」の小説 [pixiv] http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6951180

STORY of HDG(第5話.14)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-14 ****


 そんな折、実松課長と畑中の二人が、進み出て来て緒美に声を掛ける。

「部長さん、取り込み中の所を悪いんだが…。」

「そろそろ、日も暮れるし、わたし達はこの辺りで引き上げます。」

「HDG 本体と、スラスター・ユニットが稼働する所にも立ち会えたし、B号機のテスト・ドライバーも決まりそうな雰囲気だし。本社の方へは良い報告が出来そうだ。」

「新しいヘッド・ギアは持ち帰って、修正が出来次第、又、送る事になるから。」

「はい、宜しくお願いします。」

 実松課長と畑中に、緒美が会釈して答えた。

「立花先生の方は、小峰君か影山部長に、何か伝言とか有るかい?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」

「そうか、じゃぁ、お先に上がらせて貰うよ。出ようか、畑中君。」

「はい。 では、お先に。」

 二人は第三格納庫の大扉、西側の前に駐めてある大型トランスポーターへと向かって歩き出す。

「師匠~、帰り道、気をつけて~。」

「畑中先輩、安全運転で宜しくお願いしますよ~。」

 佳奈と瑠菜が、トランスポーターへと向かう二人に声を掛けると、二人共が一度振り向き、笑顔で手を振って見せた。
 そして、トランスポーターへと乗り込むと、エンジンを始動しヘッドライトを点灯させ、畑中の運転でゆっくりと前へと進み出す。トランスポーターは駐機場を東へと進み、見送る一同の前を通過して、学校の裏口に当たる貨物搬入門へと向かった。

「そう言えば、あのおじさん達は?」

 一人、事情を知らないブリジットが、茜に尋ねる。

「本社、開発部設計課の課長さんと、若い方の人が試作部の人よ。HDG の設計も試作も、本社に協力をして貰ってるの。」

 茜がブリジットに解説をしていると、緒美が言った。

「取り敢えず、天野さん。今日のテストはこれで切り上げましょう。メンテナンス・リグに HDG を戻して来て。その後、明日からのテスト・プランを練り直しましょう。」

「そうね、A型であれだけ飛行出来るとなると、テスト項目を考え直さなくっちゃ、だわ。燃料の消費量とか、どうなってるのかしらね?」

 と、立花先生も、腕組みをして考えている。

「取り敢えず、装備を降ろしてきます。」

 茜が格納庫内部へと歩き出すと、佳奈が準備の為にメンテナンス・リグへと先回りするべく、走り出すのだった。

「あなたも、打ち合わせに参加していきなさい。」

 緒美も茜の後に付いて、格納庫の奥へと進んで行きつつ、ブリジットに声を掛けた。

「えっ、わたしまだ、部外者ですよ。」

 その返事を聞いた緒美は、くすりと笑い、言った。

「天野さんがこの部活を辞める気が無くて、あなたが天野さんを心配してるなら、選択肢は無いと思うけど。」

「違いない。」

 直美も笑って、緒美の意見に同意するのだった。

「あぁ、そうだ。Ruby、もう、おしゃべりしても、いいわよ。」

 と、突然、緒美が Ruby に発言の許可を出すのだった。部外者が居る際に、Ruby が発言を控えているのは恒例なのだが、勿論、そんな事情をブリジットは知らない。

「宜しいですか?緒美。」

 突然、どこからか聞こえて来た女性の合成音に、ブリジットは戸惑うのだった。

「誰ですか?今の声。」

「こんにちは、ブリジット。わたしは Ruby です。」

 Ruby に話し掛けられて、更にブリジットは困惑する。そこで、Ruby に就いて、恵がブリジットに解説をする。

Ruby は LMF…あの中に搭載されている AI なんだけど、この格納庫の中で起きてる事は、ほぼ把握してるわよ。」

「ハイ、ご説明ありがとうございます、恵。先程は茜に就いて、興味深いお話を聞かせて頂ました。ありがとう、ブリジット。」

 この Ruby の発言に、直美が笑い乍(なが)ら突っ込みを入れる。

「盗み聞きとは、感心しないよ~Ruby。」

「あら、どんなお話かしら?わたしも興味が有るわね。」

 と、今度は緒美が軽口を挟む。

「幾ら緒美が相手でも、他人のプライバシーに関する情報は、軽々に口外はしないよう、プログラムされています。それに、直美。セキュリティの為に高感度なセンサーが取り付けられている都合上、聞こえてしまう物は仕方がありません。」

「そうね、確かに。」

 笑って、恵が Ruby に同意するのだった。

「あ、所で、Ruby の事も、本社の重要な秘密事項だから。気を付けてね。」

 緒美は、そうブリジットに告げて、ニヤリと笑う。皆と一緒に、格納庫奥の階段へと向かって歩いていたブリジットは、一人、歩みを止めて、少し大きな声で抗議した。

「そんなの、卑怯です!」

 ハッと気が付いた様にブリジットは、HDG から抜け出し、ステップラダーから降りて来た茜の方に振り向き、言った。

「分かったわ、茜、あなたも、こんな風に騙されて、秘密保持って言われて、無理矢理、抜けられない様にされたのね!」

「違う、違う。」

 茜は両手を胸の前で大きく振って、慌てて否定した。
 そして、最後に茜から一言。

「もう、皆さん、ブリジットをからかうのは、いい加減、止めてくださいっ!」


 結局、本人としては、少々不本意な形ではあるが、この様な経緯で、ブリジットの兵器開発部への入部が決まったのだった。
 女子バスケ部との掛け持ちの件に就いては、後日、約束通りに直美の働き掛けに因って、話は纏(まと)まったのだが、「週三日の朝練には、必ず参加する事」、「放課後の部活に就いても、週に一回以上は参加する事」と言う条件で、合意に至った様子である。
 ブリジットの兵器開発部に対する諸々(もろもろ)の誤解は、立花先生に因る懇切丁寧な事情の説明にて、後日、漸(ようや)く氷解する事となるのだった。その後、HDG に関するレクチャーが緒美や茜に因って行われ、ブリジットが実施するべく、B型のテスト・ドライブの準備が進められていく事になる。一方で、B型実機の完成迄(まで)の間、今迄(まで)、直美が担当していた LMF のテスト・ドライブは、ブリジットが担当する事になったのだった。
 入部に就いての経緯(いきさつ)や、部活での役割はともあれ、茜と共に同じ活動に参加出来る事に就いて言えば、それは満更でもないブリジットなのであった。

 

- 第5話・了 -

 

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STORY of HDG(第5話.13)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-13 ****


「天野さん、お友達が青い顔してるから、減速して一旦着地、こっちに戻ってちょうだい。」

 緒美がヘッド・セットを通して茜に伝えると、第三格納庫の手前で身体を起こして減速し、高度を下げつつ北向きに進路を変えて、格納庫前の駐機場へと降り立った。それは昨日の「事故」など感じさせない、極めてスムーズな動作だった。
 着地した茜が、格納庫の方へと歩いて来る。茜はブリジットの姿を見付け、手を振った。

「天野さん、反応はどんな感じだった?」

 格納庫内から大扉の方へ歩き乍(なが)ら、樹里がヘッド・セットを通じて茜に話し掛けて来た。

「はい、バッチリでしたよ樹里さん。わたしには、これ位(くらい)で良いと思います。」

「オーケー、じゃぁ、この辺りを軸に、今後の調整をしていきましょう。」

 茜とは、まだ少し距離が有るので、大扉付近に居た一同には、樹里の話し声しか聞こえない。立花先生は緒美に、その内容に就いて尋ねる。

「何の話?緒美ちゃん。」

「あぁ、スラスター・ユニットの思考制御、イメージ検知のパラメータを、気持ち甘めに微調整しておいたんですよ。」

「あ、昨日の事故対策?」

「はい。初期設定だと厳し過ぎて、ノイズを拾ってたらしいので。天野さんも、ちょうどいいっ感触だって言ってました。」

 そこに、畑中が参加して来る。

「そう言うのは、やってみないと分からないんだよなぁ。」

「まぁ、個人差も有りますからね。」

 緒美が畑中に、そう声を返した時、ブリジットは一同の輪から離れ、一人、茜の元へと駆け寄って行った。

「どう?すごいでしょ、これ。」

 傍(そば)に来たブリジットに、微笑んで茜は、そう声を掛けた。

「あんな事をして、怖くないの?」

「これだけの装備だもの。それに、この装備の仕様も把握してるし。」

 もとより白い肌のブリジットの顔から、一層、血の気が引いた様に見えて、茜は慰める様に答えた。しかし、ブリジットの気持ちは収まらない。

「でも、あの高さから落ちたら、怪我じゃ済まないわ。」

「そりゃ、頭から落ちたらね。でも、四、五メートル位の高さからなら、脚から降りればこの装備が衝撃を吸収してくれるのよ。だから、安全な高度迄(まで)に充分減速して、脚から降りる様に姿勢を制御すれば、充分安全なの。」

 ブリジットは唇を軽く噛んで、茜を見詰め、黙り込んでいる。茜は掛ける言葉が見つからず、立ち尽くすのみだった。
 その様子を見兼ねて声を掛けたのは、直美である。

「ブリジット、そんなに天野が心配なら、うちに入部すれば?」

 その言葉を聞いた緒美と恵は、互いの顔を見合わせ、くすりと笑ったのだが、そのアイデアを否定はしなかった。声を返したのは、茜の方である。

「駄目ですよ、副部長。ブリジットはバスケ部が…。」

「別に、掛け持ちしたって良いんじゃない? 何だったら、女子バスケ部の部長には、わたしが話を付けてあげる。」

 直美は茜の発言を制するように、言った。因(ちな)みに、女子バスケ部の部長は、直美と同じクラスである。
 次いで、言葉を発したのは緒美である。

「正式に入部すれば、もっと詳しく HDG の仕様について教えてあげられるし、そうすれば、少しは心配も和(やわ)らぐかもね。」

「でも、わたし、この部活に貢献できる様な、特技は無いですよ。」

 ブリジットの意見に、恵が微笑み乍(なが)ら声を返す。

「あら、だったら、身体(からだ)で貢献して貰えれば大丈夫よ~。」

「え?」

「森村、その言い方は怪しいって…。」

 目を丸くするブリジットを見て、笑い乍(なが)ら直美が「突っ込み」を入れる。

「HDG のB型とC型をね、今、製作中なの。出来上がるのは、もう暫(しばら)く先になる予定なんだけど、それぞれ、テスト・ドライバーが必要なのよね。特にB型は、高機動仕様のモデルだから、運動神経のいい人が欲しいの。あなたなら、いいデータが取れそうだし、是非、協力して貰いたい所ね。どうかしら?」

 と、恵の意見に就いて、緒美が解説をする。
 唐突な勧誘にブリジットは驚いて、意見を求める様に茜の方を向くのだが、茜は微笑んで、ブリジットに言う。

「わたしはノーコメントよ。ブリジットが良いと思う様に決めたらいいわ。」

「茜~…。」

「まぁ、今ここで決める必要は無いから。考えて置いてくれたら嬉しいわ。」

 直美は後ろからブリジットの肩を抱く様にして、そう言った。
 その様子を見ていた恵が、緒美に耳打ちをする様に話し掛ける。

「直ちゃん、随分とあの子の事が気に入ったみたいね。」

「体育会系同士で、気が合うんじゃない?」

 緒美も小声で恵に声を返したのだが、その遣り取りは緒美のヘッド・セットのマイクに乗っていて、樹里と茜にだけは聞こえていた。そして、それを聞いた茜が、思わず吹き出してしまうと、直美とブリジットが怪訝(けげん)な表情をするのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.12)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-12 ****


「どうして止めちゃったんですか?」

「アキレス腱をやっちゃってね。治ったけど、それ以来、全力で走るのが怖くなっちゃって。」

「あぁ…。それで、技術系に転向、ですか?」

 くすりと笑って、直美はブリジットの方へ向いた。

「元元、アスリートを目指してた訳(わけ)じゃないわ。徒(ただ)、他の面倒な事を忘れて、部活に逃げ込んでいただけだって、走れなくなった時に気が付いたのよ。」

 ブリジットの表情が曇ったのを見て、直美は言葉を続けた。

「うちは…父が小さいけど、製作所を経営してるんだけどね、陸上を休んでいる間、暇潰しに家(うち)の仕事を見学したりしてね、少しは自分の将来を考えた訳(わけ)。それで、中学を卒業したら、お父さんに弟子入りして、出来たら跡を継ぎたい、って言ってみたのよね。 そしたら『最低でも高校は出て、他の会社で十年は経験を積んでこい、そうしたら考えてやる。それ迄(まで)は、会社を潰さない様に頑張っといてやる』ってね、そう言われたの。 それから、勉強の方も頑張って、この学校に入れる位(ぐらい)にはなったのよ。そのお陰で、今は、中々に得難い経験が出来ていると思うわ。 あなたは?ブリジット。どうして、この学校に?」

「わたしは…勿論、技術系に興味が無い訳(わけ)じゃなかったんですけど。それよりも何より、茜と同じ学校に行きたかったんです。徒(ただ)…わたしの場合は、成績が全然届いていなかったので、夏休みと冬休み、茜の家に泊まり込みで補習をして貰いました。」

「あの子も、面倒見がいいわねぇ…。」

「はい。自分も試験を受ける迄(まで)の復習になるからって、言ってましたけど。」

 その時、直美は、ある事に気が付いた。

「あれ?ちょっと待って。天野って成績、良かったのよね?中学時代から。」

「はい、そうですよ。多分、学年でトップだったと思います。」

「うちの学校、推薦枠だったら筆記試験免除で、面接だけの筈だけど。受験勉強、あなたと一緒に?」

「そうですよ。茜は、推薦枠は辞退したんです。お祖父さんが理事の学校だから、コネで入学するみたいなのは、嫌だって。それで、わたしと一緒に、一般枠で受験したんですよ。」

 その話を聞いて、直美は苦笑いをし乍(なが)ら言ったのだった。

「そこ迄(まで)来ると、バカ正直も嫌味だわね。」

「中一の時の事が有ったから、あとで付け込まれる様な隙を作りたくない、みたいな事を言ってましたけど、茜は。」

「あぁ、あと…ひょっとしたら、あなたと一緒に受験したかったのかもね。」

「え?…それは…考えてませんでした…。」

「天野なら、そう言う事も考えそうじゃない? あなたが独りで受験するより、自分と一緒の方があなたがリラックスできるだろう、とか。」

「…そうですね、確かに。わたしは、自分の事で手一杯だったので…そこ迄(まで)、考えが回りませんでした、けど…。」

「まぁ、その事は本当かどうか、本人に聞いたりしない事ね。そう言う事は、聞いてみても、どうせ本当の事は言わないだろうから。」

「はい…。」

 直美に返事をして、前を向いたブリジットは、その時、茜の装着した HDG が、宙に舞い上がる姿を目撃して声を上げる。

「ちょっと、先輩!あれ、飛んじゃってますけど!」

「あぁ、背中の翼みたいなの、あの中に小型のジェット・エンジンが入ってるの。昨日から、ホバー能力の検証をやってるのよ。昨日は高度を一メートルに制限してたけど、今日は最大十メートル位(ぐらい)まで確認する予定。」

「…大丈夫なんですか?」

「大丈夫かどうか、をテストしてるんだけど。まぁ、大丈夫な様に、安全を確認し乍(なが)らやってるわ。昨日は、ちょっと事故ったけどねぇ~。」

「大丈夫、なん、です、か?」

 ブリジットは、直美に顔を近づけ、語気を強めて繰り返し問い質(ただ)した。直美はブリジットの方へ顔を向けず、前を見た儘(まま)はぐらかす様に答えるのだった。

「まぁ、天野を信じて、見守ってやりなさい。」

 茜の赤い HDG は、五メートル程の高度で、最初は直立した姿勢の儘(まま)で、ゆらゆらと左右に移動していたが、段々と姿勢を前傾させていき、最終的には地面に対して、身体をほぼ平行にして滑走路上を西から東へ、そして東から西へと、水平飛行を始めたのだった。
 それを見た直美は、慌てた様に緒美の元へと駆け出した。ブリジットも、直美に続いて格納庫の大扉の方へと走った。

「ちょっと、鬼塚。 あんな飛び方、予定に有ったの?」

 背後からの直美の声に、ちょっと驚いた様に振り向いた緒美は、静かに微笑み乍(なが)ら答える。

「予定…と言うより、想定外ね。スラスター・ユニットは地表面でのホバー走行か、ジャンプを補助する位(ぐらい)の能力しか考えてなかったんだけど。ちょっと、オーバー・スペックだったみたい。」

「よね。飛行能力はB型に付与する計画だったでしょ。」

「この調子だと、B型の飛行能力は、とんでもない事になってるかもなぁ。」

 そう言って、傍(かたわ)らに居た実松課長が笑った。
 そして、その遣り取りを聞いていたブリジットは、改めて「この人達は、一体、何だろう…」と思っていたのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.11)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-11 ****


 搭乗用ステップラダーを登り、茜は HDG へと身体を潜り込ませる。両手脚を、それぞれのブロックへ接続し、展開されていた各部フレームをロックする。そして、スラスター・ユニットを起動して、メンテナンス・リグから解放される迄(まで)の、一連の流れをブリジットは少し離れた場所から見ていた。

「あ、動いた。」

 HDG を装着した茜が、メンテナンス・リグから離れて歩き出すのを見て、ブリジットは思わず、そう声を漏らしたのだった。

「そりゃ、動くわよ。」

 何時(いつ)の間にか、ブリジット傍(かたわ)らには直美が立っていた。
 格納庫の南側大扉が佳奈の手に因って開けられ、茜が庫外へと歩いて行くのを、ブリジットは何となく見送っていた。

「あれが、パワード・スーツ、なんですね。」

「う~ん、形状的に一般的な意味でのスーツではないから、うちでは HDG って呼んでるのよね。」

「HDG? 何の略ですか?」

「ハイパー…何とかギア、元々は防衛軍が発案した、結構、物騒な名前だったんだけど。天野重工では、意味無しで、単純に HDG って事になってたみたいね。 それで昨日は、あの形状だから『ヘビィ・ドレス・ガール』だ、とか言い出したのよね。」

「成る程。まぁ、女子が着てるなら、それも有りかも。そう言えば、この部活って、女子限定なんですか?」

「あぁ~別に、そう言うわけじゃないんだけど。結果的に、今、参加してるのは女子だけになっちゃってるわね。 まぁ、防衛軍関係に興味の有る人は、普通、自警部の方へ行っちゃうじゃない? それに、二年生以降は、特技か、やる気のある子しか採ってないから。」

 聊(いささ)か唐突だが、ここで『自警部』について説明しておこう。
 『自警部』とは、その名前の通り、自警を目的とした部活である。それは、学校の所有地内に、防衛軍の防空監視レーダー施設が建設された事に端を発する。既に十年以上も前の事になるが、この地域の防空監視レーダーを設置する計画が持ち上がった際に、防衛軍へ装備を納入している関係もあって、天野重工が用地として学校が所有する土地を、格安で防衛軍へ貸与したのだ。その後、レーダー設備の一部に就いてメンテナンス作業を天野重工が請け負った際、『特課』の生徒を実習生として作業に参加させた事で、防衛軍と天神ヶ﨑高校との交流も始まったのである。
 その一方で、レーダー施設はテロ等の攻撃標的とされる事もあり得るので、当然、それなりの警備がされる訳(わけ)だが、極近傍の天神ヶ﨑高校が付帯的に攻撃の対象となる事も考えられ、日常的な警備の必要性が検討された。とは言え、学校の内外を防衛軍の兵士が巡回する様な状況もどうか、との懸念から「校内の警備は生徒が自ら行おう」と言う事になって出来たのが『自警部』である。
 勿論、警備事案が発生した際の実力行使を生徒にやらせる訳(わけ)にもいかないので、不審な状況が有れば防衛軍に連絡するのが『自警部』の役割とされ、飽くまでも実力行使を伴う対処行動(平たく言えば、戦闘行為)は防衛軍が行う事になっているのである。その際に、在校生の避難誘導など防衛軍と連携して事態に当たれる様に、と言うのが『自警部』の活動趣旨となったのだ。
 だが、近年のエイリアン・ドローンに因る都市襲撃事件の頻発と言う事態を受け、その際の緊急避難的な措置として、避難する際の、ある程度の防御的反撃が出来る様にと、行動の基礎トレーニングや、小火器を用いた射撃訓練、エイリアン・ドローンへの対処方法の座学等(など)を防衛軍が行う様になり、それらを目当てにした血の気が余り気味の男子生徒には、ここ数年、『自警部』は人気の部活となっていた。
 これは、防衛軍に取っては、天神ヶ崎高校の優秀な若者に対するリクルートのチャンスでもあり、実際、『普通課』の生徒の中には、この『自警部』活動を機会に、卒業後に防衛軍へ入隊する者もいるのだった。
 因みに、エイリアン・ドローンによる襲撃事件が起きる様になって以降、二ヶ月に一度行われている避難訓練は、その実務は生徒会と自警部が主体となって実施されているのである。

「二年生以降って、三年生の先輩達には特技とかやる気とかは、特に無いんですか?」

「あはは、今の言い方じゃ、そう言う事になるわね。元々、この開発、研究を独りで始めたのが、あの部長、鬼塚なのよ。」

 直美は HDG のテスト状況を見ている、緒美の背中を指差して言った。

「その友人だった会計の森村は、鬼塚の行動を心配して、この活動に参加したの。」

 今度は、HDG のテスト状況をビデオ・カメラで記録している、恵の背中を指差す。

「で、一年生の時、寮で同室だった森村が、変な活動に参加してるんじゃないかって心配して、ミイラ取りがミイラになったのが、わたし。」

 最後に、直美は自分を指差して、微笑んだ。

「だから、天野を心配して、ここに様子を見に来たあなたの気持ちは、わたしは分かってあげられる積もりな訳(わけ)。」

「そうだったんですか…ちょっと、先輩の事、聞いてもいいですか?」

「何?」

「先輩も、何かスポーツ、やってましたよね?」

「体育会系に見える、って奴?」

「はい。」

「よく言われるわ、ソレ…。」

「違うんですか?」

 ブリジットが覗き込む様に、直美の瞳を見詰めるが、直美は視線を逸(そ)らして暫(しばら)く沈黙した。そして、前を向いた儘(まま)、静かに話し始める。

「…確かに、中二の時迄(まで)は、陸上やってたのよ。短距離。」

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第5話.10)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-10 ****


「中学に上がる時に、父の仕事の都合で引っ越したんです。それで、四月から通う事になった中学には、知り合いが一人もいなかったんですよね。わたし、見た目がこんな風じゃないですか…それで、誤解されたり、からかわれたりする事は昔から割と有ったので、中学に上がって、人間関係がリセットされて面倒臭いなぁと、思っていたんですけど。 そう言う態度が、女子の一部から反感を買ってたみたいで、結局、クラス全体から無視される様になったんですよね。」

 直美は眉を顰(ひそ)めて聞いていたが、声は発しなかった。ブリジットは、話を続ける。

「徒(ただ)、その時、同じクラスだった茜だけは、わたしに普通に接してくれてて。でも、その所為(せい)で今度は、茜もクラス中から無視される様になったんです。」

「…成る程ね、そう言うお話。それで、どの位(くらい)続いたの?そのイジメみたいなの。」

「無視と陰口が一学期の中頃に始まって…夏休みが終わった頃に、わたしがバスケ部で、一年生でレギュラーに選ばれたので、それを境に無視とか、わたしには無くなっていったんですけど、でも、特別親しい友人が出来た訳ではなくて。 茜の方は、結局、無視と陰口が一年間続きました。勿論、わたしだけは茜と普通に付き合ってましたけど、学期が進んで行く内に、茜の成績がいい事とか、茜のお祖父さんが大きな会社…天野重工の事ですけど、その社長だか会長だかって言うのがクラスで知られて、それから、特に女子達の茜に対する風当たりが、余計に酷(ひど)くなった様でした。」

 直美は不快そうに、溜息を吐(つ)く。ブリジットの独白は、更に続く。

「中二になってクラスが変わって、漸(ようや)く、そんな状況は自然消滅したと言うか。茜には成績上位グループの子達が、話し掛ける様になったので、二年目以降は、理不尽な無視や、陰口は無くなりましたけど。それでも、茜の成績を妬(ねた)んでいる様な子達は、結構、最後まで根も葉も無い噂話を言って回っていたみたいですけどね。まぁ、茜はそんな人達の事は、気にしてなかった様でしたけど。」

「あの子も、案外、苦労してるのね…うん、分かったわ。嫌な事を思い出させて、悪かったわね。」

「いえ…確かに中一の時のクラスは、最悪でした。もしも、茜が居なかったら、わたしはあのクラスでずっと孤立してたと思うし、わたしが居なければ茜があんな目に遭う事も無かったと思うんです。後になって分かったのは、あれは一部の女子が煽っていただけだったらしい、って言う事なんですが。まぁ、それでも他のクラスの子や、部活の先輩とかは普通でしたから。わたしも茜も、クラスの外では、割と普通に過ごせたんですよ。それは幸いでした。」

「あぁ、天野は剣道部だったのよね?」

「はい。」

 その時、インナー・スーツに着替え終わった茜と、それを手伝っていた佳奈が、部室に戻って来た。部室に残っていた二人を見付け、佳奈が声を掛ける。

「あれ、新島先輩に見学ちゃん。お二人で何してるんですかぁ?」

 その声の方向に顔を向けたブリジットは、茜の姿を見て声を上げた。

「何?その格好。」

「これが HDG 用のインナー・スーツ。HDG の接続インターフェースなのよ。」

 茜は、ドレスでも披露するかの様に、クルリと一回りして見せるのだった。しかし、その一方でブリジットは、今一つ、ピンと来ていなかったのである。そんな様子は気にも留めず、直美は席を立った。

「じゃぁ、わたし達も下へ降りましょうか。ブリジット、なたもいらっしゃい。」

「いいんですか?」

「天野の様子を見に来たんでしょ?気の済む迄(まで)、見ていくといいわ。」

 そう言い残すと直美は、つかつかと茜の傍(そば)へと歩み寄って行く。茜の隣に立つと、左手で後ろから茜の左肩を掴んで身体を引き寄せ、直美が言う。

「天野、あなたの事、見直したわぁ。」

 茜は突然掛けられた言葉の、その意味が解らず、徒(ただ)、困惑するのみである。

「はい?何ですか、急に。」

「何でもいいの。さぁ、今日のテスト・スケジュール、熟(こな)しに行くよ。」

 直美は茜の背中を、部室から二階通路への出口へ向かって、ぐいっと押した。そして、振り向いて、ブリジットに呼び掛ける。

「何してるの~ブリジット、こっちへいらっしゃい。」

「あ、はい。」

 ブリジットは慌てて席を立ち、茜達の元へと駆け寄る。茜は二階通路への出口の外で立ち止まり、直美と佳奈を先に行かせてブリジットを待っている。そして二人が合流し、二階通路を階下へ降りる階段へと歩き乍(なが)ら、茜はブリジットに尋ねるのだった。

「ねえ、副部長と何を話してたの?」

「あぁ…寮に帰ったら、話すわ。」

 ブリジットが眼下に駐機されている、LMF の巨体に目を奪われている事に、茜は直ぐに気が付いた。

「凄いでしょう。あれ、HDG の拡張装備なのよ。」

「何?あれは…戦車?」

「LMF って言ってね、あの状態、コックピット・ブロックを接続して有ると、単体でも浮上戦車(ホバー・タンク)として行動出来るの。コックピット・ブロックを切り離して、HDG とドッキングするのが、本来の使い方なんだけどね。」

 そんな茜の説明を聞いても、これも又、今一つ理解出来ていないブリジットである。
 四人は階段を降りると、先に格納庫フロアで準備を進めていた、緒美達の元へと向かう。

「準備は出来てるわよ。早速、初めてちょうだい、天野さん。」

 茜の姿を認め、緒美が声を掛けて来る。

「はい。」

 茜は、HDG のメンテナンス・リグへと駆けて行った。ブリジットは茜の、その声や、表情や、仕草を眼前にして、「確かに、楽しそうだ」と、そう思うのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.09)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-09 ****


「さっき、鬼塚…うちの部長が、秘密とか守秘義務とか言ってたでしょう?」

「あ、はい。」

「多分、天野はあなたに説明するのに、秘密事項に関する内容を省いて話したんじゃない? でも、それだと、どう言葉を選んでも説明不足になるだろうから、だから、あなたには伝わらなかったんでしょ、多分。」

「そうまでして、隠さないといけない事なんですか?」

「そうじゃなくて。 あなたを、守秘義務とかに巻き込みたくなかったんでしょ。知りさえしなければ、秘密も守秘義務も関係無い話だから。」

 直美にそう言われて初めて、茜の今迄(まで)の説明が、どこか要領を得ない物だった事に、ブリジットは気が付いたのだった。考えてみれば、あの利発な茜にしては、それは酷(ひど)く不自然な事だったのだ。

パワード・スーツを開発している事自体は、秘密事項じゃないんですよね?」

「そうね。でも、それが対エイリアン・ドローン用の兵器だ、とかは、わざわざ言って回る事でもないでしょう? そんなの高校生に出来る訳(わけ)無いって、鼻で笑われるのが落ちだし。」

「そうですね。わたしだって、そう思います。」

「よね。でも、大人の知恵を借りれば、高校生にだって出来る事は有るのよ。わたし達…主に部長の鬼塚が、だけど、彼女がアイデアを本社に提供して、本社は技術と資金を提供して、それで対エイリアン・ドローン用のパワード・スーツの試作機が出来上がってる。そこに、本社のどんな特許技術とかが使われているかってのは秘密だし、そのパワード・スーツの仕様や性能とかも秘密事項なのよ。 この話をこれ以上続けると、あなたの守秘義務がどんどん増えるけど、覚悟はいい?ブリジット。」

 再び、真っ直ぐと瞳を見詰めて、直美はニヤリと笑うのだった。思わず、ブリジットは息を呑んだ。

「毒食らわば皿まで、って言うでしょう? あぁ、乗り掛かった船、の方が合ってますか。」

 そう言い返して、ブリジットはクスリと笑った。

「いい度胸ね。わたし、そういうの、嫌いじゃないわ。」

「それは、どうも。…それで、先輩達は茜をどうする積もりなんですか?」

 朗らかな表情の直美に対して、厳しい顔付きでブリジットが問い掛けた。それは、彼女の一番聞きたかった事だった。

「どうって…取り敢えず、今は HDG …あ、パワード・スーツの事ね。その HDG のテスト・ドライバーをやって貰ってるけど。それは、別に先輩風吹かして押しつけた訳(わけ)じゃないの。」

「そうだとしても、何も知らない一年生にやらせる事じゃないのでは?」

「それは誤解よ。天野はこの活動に参加してまだ一ヶ月位(くらい)だけど、今じゃ、発案者の鬼塚の次に、HDG の仕様に就いて理解しているのが、彼女よ。勿論、専門的な内容になると、城ノ内や瑠菜には敵わないけど、それは、まぁ、役割分担ってものだから。 今迄(まで)の様子を見る限り、天野は HDG のテスト・ドライバーとして最適の人材だし、彼女はやるべき事をちゃんと理解した上でやっているわ。」

 ブリジットは直美に返す言葉が、咄嗟に見付からなかった。それは、確かに思い当たる節が、幾つか有ったからだ。そして押し黙るブリジットに、その思い当たる事柄に就いて直美が尋ねて来たので、ブリジットは聊(いささ)か狼狽した。

「天野は可成りのパワード・スーツ・オタクの様だけど、その事をあなたは知ってた?」

 ブリジットは、少し間を置いて、答える。

「…はい。確かに、そう言った SF 物に興味を持っていたのは、知ってました。徒(ただ)、その手の話を聞いても、わたしの方が理解出来ないので、余り突っ込んだ話はした事は有りませんけど…あぁ、茜の家に泊まりに行った時なんかに、その手の映画とかアニメとか、見せて貰った事が有る、その位(くらい)です。」

「そう。因(ちな)みに、あなたと天野、付き合いは長いの?」

「中一の時からです。」

「あぁ…もっと、長いのかと思った。ふぅん…あなた、天野が心配で様子を見に来たのよね? どうして、そんなに心配してるのか、理由を聞いてもいい?」

「…それは…。」

 再び、口籠(くちご)もるブリジット。視線を逸らし、両手を合わせて指先を唇に当てる仕草で、暫(しばら)く考えている様子だったので、直美は声を掛けるのだった。

「言いたくない事なら、無理に答えなくてもいいわ。ごめんなさい。」

「いえ…そうですね。中一の時、わたしが茜に迷惑を掛けたので…今度は茜が変な事に巻き込まれないように、わたしが何とかしてあげたいなって、思っていたから…ですね。」

「変な事って?」

「…あまり面白い話じゃ、ないですよ?」

「構わないわ、聞かせて。」

 もう一度、直美と視線を合わせたブリジットは、一呼吸置いてから話し始めたのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.08)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-08 ****


 そして、放課後。茜とブリジットは滑走路の在る学校の敷地の南側、第三格納庫へと向かう歩道を進んでいた。

「そう言えば、こっちの方へ来たのは初めてだわ。」

「飛行機部と兵器開発部以外の人は、グラウンドより南へは用が無いもんね、普通。」

 そんな会話をしつつ、第三格納庫の北側を東へと進み、格納庫の角を南へと曲がると、二階の部室へと上がる外階段が見えて来る。
 ブリジットは茜に続いて、階段を登って行く。茜が部室のドアを開けると、先輩達と顧問の立花先生、そして、本社から出張して来ている実松課長と畑中が既に来ていた。

「すいません、遅くなりました?」

 茜が入り口に付近に立った儘(まま)、声を掛ける。

「大丈夫よ…あら?」

 茜の声に応えたのは立花先生だったが、早速、茜に背後に立っているブリジットに気が付いた。ブリジットは背が高く、赤毛のポニーテールも、欧米人らしい顔立ちも、兎に角目立つ容姿だったのだから無理も無かった。
 茜はブリジットの右腕を両腕で抱える様にして、彼女を室内に引き込み、横に並んで言う。

「今日、どうしても友達が見学したいって言ってるんですけど、駄目でしょうか?」

 ブリジットは何となく雰囲気に押されて、軽く会釈をする。

「この部活を見学すると、天野重工本社の秘密事項とか色々有って、入学する時に契約した守秘義務だとか、面倒臭い決まり事を守らなくちゃいけなくなるけど、それを承知しているなら、見ていってもいいわよ。」

 緒美は茜から、寮で同室の友人であるブリジットの事は幾度か聞いていたので、「秘密」に関する念押しだけをした。

「はい。ありがとうございます。」

 ブリジットは返事をした上で、もう一度、ペコリと頭を下げるのだった。

「寮で時々見掛けるけど、日本語、大丈夫なのよね?」

 今度は、恵がブリジットに問い掛ける。

「あ、はい。大丈夫です。」

「ブリジットは、日本生まれの日本育ちですから、見た目はこんなですけど、中身は日本人ですから。寧(むし)ろ、英語やフランス語の方が苦手だものね。」

「あ、うん。苦手なのは話す方、です、けど。」

 緊張しているのか、ブリジットの返事が淡泊なので、茜がフォローをしているのである。

「さて、じゃぁ、今日のテストを始めたいから、準備をお願いね、天野さん。」

「はい、じゃ、着替えて来ます。」

 緒美に促され、茜はインナー・スーツに着替える為、ブリジットの傍(そば)を離れて、隣の資料室へと向かう。

「あ、手伝うわ~茜ン。」

「すいません、お願いします、佳奈さん。」

 佳奈が茜の着替えを手伝う為に席を立つと、他のメンバーも準備の為に階下へと向かうのだった。

「あぁ、鬼塚。彼女、わたしが相手しておくわ。」

「うん、お願い。」

 階下へ向かう一同から直美だけが離れ、ドアを背に屈託気(げ)に立ち尽くすブリジットへと歩み寄っていく。

「あなた、お名前は?」

「ブリジット。ボードレール ブリジットです。」

「じゃぁ、ボードレールさん?」

「ブリジットでいいです。」

「そう。じゃ、ブリジットって呼ばせて貰うわね。わたしは新島 直美、一応、この部活の副部長って事になってるわ。」

 直美は部室の中央の長机の方へと移動し、椅子を一つ引いて、ブリジットに向かって手招きをする。

「こっちへいらっしゃい。下の見学をする前に、ちょっと、お話をしたいの。」

「あ、はい。」

 ブリジットは直美の指定した席に座り、その向かい側に直美も座った。

「あなたは、別に、この部活に興味が有って…要するに、入部希望とかで来たんじゃないのよね?」

 直美は真っ直ぐ、ブリジットの目を見詰めて、そう切り出した。それに対して、取り繕う必要性も感じなかったので、ブリジットは素直に答える事にした。

「はい…茜が、この部活で危険な事をしてるって聞いたので、様子を見に来たんです。」

「危険な事?」

「昨日、飛行機部の先輩が見たって、わたしはバスケ部の先輩から聞いたんですけど。」

「あぁ、昨日の、ね。確かに、端(はた)から見てたら危険に見えるわ…成る程。天野…さんは、何て?」

「茜は、危険な事はしてないって言うんですけど、幾ら説明を聞いても、良く分からなくって。」

「そう。…この部活で、天野重工…本社の委託で軍事用パワード・スーツの開発をやってる、っていう話は聞いてる?」

パワード・スーツ云々って言うのは聞いた覚えが有りますけど。本社とか軍事用とかのお話は、初耳です。」

「あぁ~それじゃ、あなたが何度説明を聞いても…っていうより、天野が解る様に説明が出来ないのも、無理もないかなぁ…。」

 直美は腕組みをして俯(うつむ)き、大きく溜息を吐(つ)くのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.07)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-07 ****


「あぁ、瑠菜さん、古寺さん、悪いけどフェンスの応急処置、お願い出来る?」

「はい。じゃ、工具と、自転車取ってきます。行こう、佳奈。」

「は~い。」

 瑠菜と佳奈は取り敢えず、第三格納庫東側外階段の下に駐めてある、自転車を取りに走って行った。

「天野、どうしたって?」

 そして直美が緒美に近寄り、茜の様子を尋ねると、その場にいた一同の視線が緒美へと集まるのだった。

「顔に虫がぶつかって来たのにビックリして、Uターンし損ねたって。」

「何よそれ。」

「あぁ、結構スピードが出てたもんね~。」

「天野さん、怪我はしてないのね?緒美ちゃん。」

「矢っ張り、フェイス・シールドは必要だったって事だよなぁ。」

「あぁ、すみません。試作部(うち)の不手際で…。」

 そんな具合で、その日の稼働試験は中断したのだった。
 自転車に工具を積んだ瑠菜と佳奈が茜の元に合流し、破損したフェンスの具合を確認したのだが、ボルトで固定してあった部分が変形したり、ボルト自体が破損していたり、外れてしまったフェンス自体も湾曲している様子だっりで、簡単には修復出来そうもなかった。本社試作部の畑中も合流し、応急処置の方法に就いて検討したのだが、先ず、フェンス自体の湾曲に就いては、茜が HDG のマニピュレータで、湾曲したフェンスのフレームを矯正する事が出来た。固定に就いては、破損していない両サイドのフェンスに、外れたフェンスを針金で縛り付けると言う事で、応急の処置とされた。この固定作業の際、外れたフェンスを支えたり、位置を調整したり等の力仕事に、HDG が活用された事は言うまでもない。
 その作業の後、茜は先程失敗したホバー走行でのUターンに就いて、幾分か遅い速度での再挑戦を行い、その動作の確認を終えたのだった。

 さて、これは後日談ではあるが、この日に破損したフェンスに就いて、顧問の立花先生と部長の緒美は学校に対して提出する書類を、幾枚か書かされる事となる。そしてフェンスの修理費用に就いては「兵器開発部の予算から捻出」と言う事になったのだが、生徒会予算から獲得していた純粋な部の予算が潤沢な訳(わけ)ではなかったので、本社からの業務委託に対する報酬、要するに緒美を始め全員のバイト代から修理費を支払うと言う事で落着したのだった。

 

 そして翌日。2072年5月18日水曜日。
 朝、教室に入って来る茜の姿を認めると、寮で同室のブリジットが猛然と駆け寄って来た。その剣幕に驚いて身を固くする茜の両肩を、ブリジットは掴んで言った。

「茜、変な事に巻き込まれないように、気をつけてって言ったでしょ!」

「ちょっと、ブリジット、何の話?」

 茜にはブリジットが、どうしてそんなに興奮しているのかが分からず、ただ困惑するのみだった。そこへ、ブリジットと同じく女子バスケ部の西本さんが割って入る。因みに、西本さんは「普通課程」の生徒である。

「朝練で、昨日の天野さんの、飛行場での一件の話を聞いたのよ。先輩にね、寮で飛行機部の人が同室な人がいて、その人が見てたんだって。」

 西本さんの解説で、漸(ようや)く、茜はブリジットの様子がおかしい理由に見当が付いたのだった。

「あぁ、その話なら昨日の夜に話したでしょ。」

「だって、そんな危険な事してるなんて、言わなかったじゃない。」

「そもそも、危険な事なんてしてないし、危険だとも思ってないから、危険だって言う訳(わけ)もないでしょ。」

「何だか訳(わけ)の分からない機械の中に入って、壁にぶつかって行くなんて、危険に決まってるでしょ!」

 確かに、端(はた)から見ればそんな風に見えるのかも知れないとも思った茜だったが、ブリジットの聞いた話は、どうやら『又聞きの又聞き』らしいので、相当の『尾鰭(おひれ)』が付いている様に思われた。

「兎に角、落ち着いてよ、ブリジット。ちゃんと説明するから。」

「…。」

 ブリジットは無言で、両肩を掴んでいた手を放した。徒(ただ)ならぬ雰囲気の二人を、教室に居た他の生徒達も遠巻きに見ている視線にブリジットも気が付き、一度、大きく息を吸った。

「取り敢えず、わたしを見て。何処も怪我はしてないでしょう? だから、先(ま)ず、心配はしないで。それから、もうすぐ授業が始まるから、詳しいお話は、お昼休みにしましょう、いい?」

「…わかった。」

 ブリジットが渋々と言った具合に頷(うなず)くと、西本さんがブリジットの両肩を掴んで身体の向きを変え、背中を押した。

「ほら、取り敢えず、あなたも席へ着きなさい、ブリジット。」

 ブリジットはとぼとぼと言った様子で、自分の席へと戻って行った。その様子を見送りつつ、西本さんが茜に言う。

「彼女、あの話を聞いてから、あなたの心配ばかりしてて、朝練にも身が入ってない様子だったの。ちゃんとフォローしてあげてよね、天野さん。」

「うん、ありがとう、西本さん。」

 西本さんは、ブリジットの後ろの自席へと戻って行った。茜も自分の席に着き、授業の準備を始めたのだった。


 そんな事が有って、昼休み。何時(いつ)も通り、茜はブリジットと共に学食へと行き、そこで昨日の顛末に就いて、昼食を取り乍(なが)ら改めて説明したのだった。だが、相変わらず、茜の話だけではブリジットには兵器開発部の面々が行っている活動の意味が理解出来ず、結局、一度(ひとたび)芽生えたブリジットの心配が解消される事は無かった。
 最終的に、ブリジットは「今日の放課後、兵器開発部での活動を見に行く」と言って聞かず、茜は「先輩達が見学を許可してくれたなら」との条件を付けて、その場を納める事になったのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.06)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-06 ****


「天野さん、その位置をキープして、高度だけ上下出来る?先(ま)ずは、ゆっくりね。」

 ヘッド・ギアのレシーバーから緒美の指示が聞こえるので、茜はリクエスト通りの動作をイメージしてみる。すると、スラスター・ユニットは出力を変化させ、HDG の高度は茜のイメージに合わせて上下するのだった。

「こんな感じですかね、部長。」

 茜はその場で上下動を三度繰り返し、再び高度一メートルをキープした。

「いいわ。じゃ、今度はゆっくりと前進、後退、左右移動、順にやってみましょう。」

「はい。やってみます。」

 ホバリングでの低速前進後退、左右移動は、何方(どちら)も高度をキープした儘(まま)で問題なく実行された。茜は取り敢えず、ホバリングを終了して地面へと降りた。

「低速でのホバリングは、特に問題は無さそうです。樹里さん、其方(そちら)のモニタで何か異常は?」

「大丈夫よ。此方(こちら)でも、今の所は特に問題なし。」

 その時、立花先生が緒美の肩を指先でトントンと叩く。緒美が顔を向けると、立花先生が告げる。

「緒美ちゃん。今日は朝から天気が悪かったから、飛行機部のフライトは予定が無いそうだから、滑走路の使用許可は取っておいたわ。」

「そうですか、ありがとうございます。 天野さん、滑走路の使用許可は先生が取ってくれてるって。高速ホバー試験迄(まで)、やってみましょう。その儘(まま)、誘導路から滑走路へ低速ホバーで移動して。」

「分かりました~。」

 茜は緒美達に向かって手を振ると、先程とは違って、殆(ほとん)ど高度を取らずにスラスター・ユニットでの低速浮上走行で誘導路へと向かう。

「何だか、スラスター・ユニットを今日初めて装備した様には見えんなぁ…。」

 様子を見ていた実松課長が、ポツリと感想を漏らすのだった。

「天野さんはセンスがいいですから。それに、システムの仕様を、ほぼ完璧に把握してくれてます。最高のテスト・ドライバーですよ。」

 ヘッド・セットのマイク部分を左手の指先で塞(ふさ)ぎ、緒美は実松課長へ解説をする。すると、ヘッド・セットに、茜の声が帰ってきた。

「部長、何か仰(おっしゃ)いました?良く聞こえなかったんですけど…。」

「大丈夫よ、あなたが恥ずかしくなる様な事を言っただけだから、気にしないで。」

「えぇ~気になりますよ。何の話をしてたんですか?樹里さんは聞いてましたか?」

「生憎と、わたしも聞いてないわ。部長は実松課長とお話ししてたみたいだけど?」

「悪口は言ってないから、気にしないの、二人共。ほら、テストに集中してね。」

 そう言って、緒美は笑うのだった。


 そんな遣り取りをしつつ、茜は滑走路の東端に到着し、低速ホバーを停止して待機している。

「準備完了、待機中です。」

 緒美のヘッド・セットに、茜からの報告が聞こえる。

「じゃぁ、天野さん。加速し乍(なが)らスラローム走行、滑走路の西端でUターンして戻って来るって感じで、やってみましょう。」

「はい。では、行きます。」

 最初はゆっくりと進み出した茜だったが、膝を軽く曲げて腰を少し落とし、直ぐに加速を強める。ある程度スピードが乗って来ると、滑走路の幅一杯に右へ左へとジグザグに進んで行く。重心の移動と、スラスター・ユニットの協調が上手く一致しているのが、茜にも、離れた所から監視している緒美達にも良く分かった。
 そして、滑走路の西端の手前で、茜の装備する HDG は突然、クルリと向きを変えた、かと思うと、進路は変わらず HDG はスピンし乍(なが)ら、ほぼ真っ直ぐ滑走路西端へと突き進んでいく。茜は元より、その様子を監視していた一同が声を上げる間も無く、滑走路からオーバーランした HDG は、芝生地のオーバーラン・エリアを突っ切り、敷地の境界に立つフェンスを弾き飛ばして、木立の中へと姿を消した。

「うっわ、凄い勢いで突っ込んじゃったけど、大丈夫かな…。」

 誰に言うでも無く、最初に声を上げたのは畑中だった。

「フェンスにぶつかった時、ディフェンス・フィールドのエフェクト光が見えましたから、多分、大丈夫だと…天野さん、聞こえる?怪我は無い?」

 緒美は畑中に答えつつ、ヘッド・セットのマイクを口元に引き寄せ、茜に呼び掛けた。

「…あ、はい。大丈夫です。フェンスにぶつかる前、咄嗟にディフェンス・フィールドをオンにしたので、どこもぶつけてません。徒、フェンス、吹っ飛ばしちゃったのと、木の枝を数十本折っちゃいましたけど…。」

「どうしたの?制御異常?」

「いえ、スピードが上がって来ると、呼吸がし難くって。あと、虫が顔にぶつかってきたのにビックリして、Uターンをやり損ねました。」

 立ち並ぶフェンスが途切れた所で、茜の装着する赤い HDG が動く姿が見えた事で、一同は漸(ようや)く安堵したのだった。茜は、外れたフェンスを拾い上げ、元の位置に戻そうとしている様子だった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

「HDG-A01 for Poser」進捗・2016.06.11

twitter の方で記事にした件ですが、「HDG-Akane」の手首周りの影響範囲など修正しました。
 主な内容は、手首(Hand)の捻れ(Twist)をしないように、動作範囲でのリミットをプラス・マイナス 0 にして、手首の捻れは肘から下(ForeArm)の捻れで表現する事にしました。関連して動作範囲も以前の設定より拡大しました。これは、手首の捻れと肘から下の捻れを併用する考えだったので、肘から下の動作範囲を少なめにしていた事に対する対応です。
 で、これと同じ対応を「HDG-A01」用のフィギュア、「HDG-Akane-IS」にも同様に適用するわけなんですが。
 製品化している物は肘から下の捻れは、「HDG-A01」との接続リングから下が「ForeArm」として捻れる設定になっている分けなんですが、「HDG-A01」をコンフォームして「HDG-Akane-IS」の「ForeArm」を捻ると、「HDG-A01」の腕ブロックも一緒に回転してしまいます。(下図参照)

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 そもそも、「HDG-A01」がコンフォームされている「HDG-Akane-IS」の接続リング自体は、ボーン:「ForeArm」が回転してもオブジェクト的には動いていないので、そこに接続されている「HDG-A01」の腕ブロック:「ForeArm」は回転してはいけないのです。
 当時はこれを回避する意味でも、肘から下の捻れと手首の捻れを併用するように考えたような気がするんですが~手首の捻れを封印すると、この辺りの対策をしなければなりません。
 まぁ、手首の捻れを使っていると、手首を捻った上で曲げたり左右に振ったりしても、所用のポーズにならないので~人体の構造通り手首の捻れは使わない方が、理に適っているのかなと思います。
 
 そこで、「HDG-A01」側に「HDG-Akane-IS」の「ForeArm」の捻れを検出して「HDG-A01」の「ForeArm」を逆回転させる ERC を組み込みました。結果が下図参照。

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 これで、今後は落ち着いてポージングが出来るようになりました。
 各種兵装に附属して製作した、サンプル・ポーズ集の一部、今回の修正が影響する物が有るはずなので、ぼちぼちとそちらも改修しましょうか。
 
 あと、以降の製品で標準搭載化された「ディフェンス・フィールド」のアクティブ時用マテリアルの切り替え ERC を追加搭載。これで、いちいち MAT ポーズを読み込まなくても良くなりました。
 この改修で「HDG-A01」は「Ver. 1.2」となりました。

STORY of HDG(第5話.05)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-05 ****


「それじゃ、天野さん。先ず、垂直跳びからやってみましょうか。」

 茜が格納庫から駐機場へと進んで行くと、緒美からの指示が聞こえた。振り向くと、緒美達は格納庫の大扉付近迄(まで)来て、茜の方を見ている。樹里だけはデバッグ用コンソールの都合で、格納庫内部に残っていたのだが、今回は樹里も緒美と同様にヘッド・セットを装着していた。

「はい、やってみます。」

「あ、最初は軽く、ね。」

「はい。樹里さんの方は、準備いいですか?」

「こちらは、何時(いつ)でもオッケーよ。」

 距離は離れているが、緒美や樹里の声がヘッド・ギアのレシーバーから聞こえて来る。
 茜は、スゥッと息を吸い込むと、少しだけ腰を落とし両脚を揃えて地面を蹴る。HDG が飛び上がった高さは、初起動時に試した結果の半分位(くらい)だった。

「矢っ張り、その装備だと基礎フレームだけの時の、半分位(くらい)みたいね。」

 緒美の声がヘッド・ギアから聞こえて来る。

「こっちの座標計測値から計算すると、30センチ位(くらい)です。」

 次いで、樹里の声。

「もうちょっと、力を入れてやってみます。」

 茜は膝を深く曲げ、腕の振りや全身のバネを使う様に、勢い良く身体を伸ばす。風を切って茜の背丈程の高さに浮き上がった HDG は、「ズン」と重そうな音と共に着地する。茜は膝を曲げて着地の衝撃を吸収し、慣性で舞い上がったスカート状のデフェンス・フィールド・ジェネレータが、少し遅れて駐機場のコンクリート地面にぶつかって音を立てた。

「今のが全力位(ぐらい)?天野さん。」

「いいえ、半分位(くらい)の積もりでしたけど。記録はどの位(くらい)でしたか?樹里さん。」

「そうね…大体、1メートル50センチ位(くらい)。」

「そうですか。全力でもう一回、やってみましょうか?部長。」

「う~ん…いいわ、止めておきましょう。次は、駆け足からダッシュ、急停止迄(まで)ワンセットで。天野さん、あなたのタイミングでやってみて。」

「はい。」

 茜は身体の向きを西側へ変える。上体を前傾させ、走り出せる様に構えた。

「じゃ、行きます。」

 一歩、二歩と早歩き程度の踏み出しから駆け足へと速めていくが、茜に取って装備が重くなった事への変化は、余り感じられなかった。そこで、茜は重心を更に前方へと移し、右脚を強く踏み込む。身体は前方へと強く押し出され、左、右、と踏み込む足が変わる毎(ごと)に歩幅が広がっていく。そして、最後に重心を後ろに移しつつ、両脚で着地した。勢いの付いた身体は直ぐには止まらずコンクリートの上を滑り出すので、転倒しない様に重心を下げつつ身体を捻り、両手を広げる様にしてバランスを保ち乍(なが)ら、低い姿勢の儘(まま)、横向きにスライドしていた。

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 スカート状のデフェンス・フィールド・ジェネレータが地面と接触し、火花を散らせ乍(なが)ら数メートルを滑り、止まった。

「成る程、あの装備で走るってのは、案外と難儀(なんぎ)そうだなぁ。」

 様子を見ていた実松課長が、ポツリと感想を漏らすのだった。

「それでも、慣れれば、あの位(くらい)は動ける様になるんですけど、あの調子で動き続けるのは、矢張り負担が大きいので。だから、スラスター・ユニットが必要なんです。」

 緒美が実松課長と畑中へ解説をする。二人は、黙って頷(うなず)くのだった。

「オーケー、天野さん。フル装備でも、バランス取るのは問題は無さそうね。じゃぁ、スラスター・ユニットのテストに移りましょう。取り敢えずパラメータ、高度制限を一メートルに設定して。」

「はい。スラスター・ユニットのパラメータ…高度制限…はい。変更しました。」

 茜はそう答えると、右手を上げて緒美へ合図を送った。

「先ずは、その場でホバリングをやってみましょう。」

「はい。」

 緒美の指示を受け、茜は自身が空中で停止した状態を、頭の中でイメージする。
 HDG のスラスター・ユニットは思考制御を基本とし、その瞬間の姿勢に応じて安定する様に自動制御が行われる。操縦桿やスイッチ操作の様な直接的な操作は必要無いが、イメージと言う曖昧な入力操作で制御を行う事は、先(ま)ずイメージ検出の精度が、次に検出に対する反応度が制御結果の質を左右する。イメージの強さや正確さ、持続時間の長さ等には、当然、個人差が有るので、それらを検出するセンサーや、解析する回路のチューニングを行うソフトウェアは、天野重工本社の開発部の労作である。とは言え、それはゼロから開発された物ではなく、既に現用浮上戦車(ホバー・タンク)の火器管制システムや、補助操縦システムとして実用化されていた物の発展版なのであった。
 自分の思考に合わせて、スラスター・ユニットに装備された小型ジェット・エンジンの回転数が上がり、推力が増していくのが茜には感じられた。そして、最初に背中が引っ張り上げられる様な感触が、一瞬遅れて腰が引き上げられ、そして足元から押し上げられる様な感覚へと変わった。茜の身体は背中と腰と足の三箇所で HDG に接続されているので、スラスター・ユニットが背部ユニットに接続されているとは言え、単純に背中から吊り上げられている様な感覚にはならないのである。
 スラスター・ユニットは、推力と重心のバランスを保つ為に、ウィング状のエンジン・ユニットが角度を小刻みに調整している。そして茜は、高度制限設定通り、地上一メートルの高さに立っている様な感覚で浮かんでいた。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.04)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-04 ****

 

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 茜は指示された通り、モニターの視界を頼りに、三歩、四歩と歩いてみるが、特に問題は無い。すると、スクリーンの視界の中に緒美が現れて、茜の方へと手に持った金属製のパイプを差し出す。

「このパイプ、掴んでみて。天野さん。」

「はい、やってみます。」

「あ、ついでだから、マニピュレータでやってみましょうか。」

「分かりました。」

 茜は右腕のマニピュレータを展開し、目の前の緒美の方へ手を差し出す。スクリーンの視界には自分の手が映っているので、視覚を頼りに位置を修正してパイプの先へとマニピュレータを誘導する。最初は感覚と視界との間に微妙なズレを感じたが、それも直ぐに気にならなくなった。茜は、自分の手でパイプを握る様に、マニピュレータでパイプの先端を握る事が出来た。

「位置合わせは、それ程、苦じゃないですけど。フィードバックが無いから、握り具合の調整が難しいですね。練習しないと。」

「あぁ、柔らかい物をマニピュレータで扱う事は、始めから想定してないしね。その為の、素手が露出するデザインだから、まぁ、問題は無いでしょう。」

「そうですね。」

 茜は握っていたパイプを離すと、マニピュレータを格納した。

「それじゃ、その儘(まま)、ディフェンス・フィールドの起動もやってみましょうか。みんな、ちょっと離れてね。」

 緒美は茜の周囲に居た人達に、下がるように手で合図する。合わせて、茜も周囲に物が無い、空いたエリアへと歩いて移動して、実松課長を始め、茜の近くにいた数人が凡(およ)そ五メートル程(ほど)の距離を取った。

「天野さん、じゃぁ、やってみて。」

「はい。ディフェンス・フィールド起動します。」

 これも思考制御で、茜はディフェンス・フィールドの起動コマンドを入力する。ディフェンス・フィールド・ジェネレータの内側が青白く発光するが、外からの見た目では変化は分からない。だが、間も無く想定外の変化が現れたのだった。
 ヘッド・ギアのフェイス・シールド内部スクリーンが、突然、映らなくなったのだ。

「あれ?トラブルです。視界が…モニターが消えました。樹里さん、そちらでエラー・コード、何か出てます?」

 デバッグ用のコンソールに就いていた樹里は、少し操作をして確認するが、それらしい反応は見当たらなかった。

「いいえ、エラーは出てないみたいだけど。ディフェンス・フィールドの電磁場干渉かしら? ちょっと、フィールドをオフにして見て。」

「はい。やってみます…あ、モニター、映像が復帰しました。もう一回、フィールドを上げてみますね…あ、又、消えました。矢っ張り、ディフェンス・フィールドが関係しているのは間違いなさそうですね。」

「おい畑中君、映像回路のどこか、シールドが上手く出来て無いんじゃないのかい?」

「ええっ、そりゃマズイなぁ…。」

 実松課長に言われ、慌てて茜の元へ畑中は駆け寄っていく。

「あっ、畑中先輩!駄目です。」

 緒美は声を上げるなり、手に持っていた金属パイプを茜に向かって投げつけた。畑中の背後から飛んできた金属パイプは、彼の目の前で HDG-A01 のディフェンス・フィールドに接触し、青白いスパークを残して跳ね返る。

「うわっ!」

 畑中が立ち止まると、その足元にパイプが転がって来たのだった。

「ディフェンス・フィールドへの、人間の体当たり実験とかやってませんから、どうなるか分かりませんよ。原理的に、感電とかはしないと思いますけど、火傷(やけど)位(ぐらい)はするかも知れませんから。 他のみんなも、気をつけてね。」

 足元に転がって来た金属パイプを拾い上げ、畑中は溜息を吐(つ)いた。

「いや、うっかりしてた。ゆっくりなら、いいんだっけ?」

「ゆっくりでも、人は近づかない方がいいと思います。」

 緒美は微笑(ほほえ)んで、答えた。

「取り敢えず、フィールドをオフにしますね。」

 茜は、ディフェンス・フィールドを解除して、ヘッド・ギアのフェイス・シールドを上げる。

「瑠菜さん。前のヘッド・ギア、持って来てちょうだい。」

「はい、部長。」

 現在、茜が装着しているフェイス・シールド付きのヘッド・ギアは、フェイス・シールドの開閉機構の都合も有り、新規製作の物だった。これ迄(まで)のテストで使用していたヘッド・ギアは、部室に保管して有ったので、それを瑠菜が取りに行ったのだ。
 間も無く、瑠菜がフェイス・シールドの無い、初期型のヘッド・ギアを手に階段を降りて来る。駆け足で茜の元へ行くと、ヘッド・ギアを茜に手渡した。

「じゃぁ、こっちと交換してみてね。」

 瑠菜が、茜の装着していた新型ヘッド・ギアを外すと、茜は既に使い慣れた感の有る、初期型ヘッド・ギアを自ら装着した。

「こっちのヘッド・ギアで、ディフェンス・フィールドの反応を試してみますから、離れててくださいね、瑠菜さん。」

 瑠菜が傍(そば)から離れるのを確認した茜は、ゴーグル型のスクリーンを降ろしてから、ディフェンス・フィールドの起動を行った。そして、スクリーンの表示を何度か切り替えて、ステータスを確認する。

「あぁ、こっちだと大丈夫ですね。表示は消えません。」

「良かった。じゃぁ、今日はそっちのヘッド・ギアでテストを続けましょう。」

「悪いね。新型は持ち帰って、修正するよ。」

「お願いします。」

 瑠菜は手に持っていた新型ヘッド・ギアを、畑中へと手渡す。

「じゃぁ表へ出て、フル・バージョンでの運動試験、やってみましょうか、天野さん。」

「はい。」

 茜は南側の大扉へと向かって、歩き出した。透かさず、佳奈が駆け足で大扉へと先回りし、大扉を押し開ける。

「あ、佳奈さ~ん。ありがとうございま~す。」

 手を挙げて、茜がお礼を言うと、佳奈も大きく手を振って答えて見せるのだった。
 茜は HDG を装着したまま、一歩一歩、格納庫南側の大扉へと歩いて行った。

 

- to be continued …-

 

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