STORY of HDG(第6話.02)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-02 ****
「あなたこそ、何やってんのっ!」
背の高いその女子生徒は、金髪少女の頭頂部に拳骨(げんこつ)を押し付け、ゴリゴリと捻(ねじ)っている。
少女はその場に蹲(うずくま)り、先程、拳骨(げんこつ)を押し付けられた頭頂部を両手で押さえていた。
その傍(かたわ)らに立つ、背の高い女子生徒は言った。
「同室の子が迷惑掛けたみたいで、ごめんね。あ、わたし、情報処理科の井上 維月。」
「あ、いえ、迷惑とか無いです。少々、困惑はしましたけど。機械工学科一年の天野 茜、です。え~と、先輩…ですか?」
維月の、余裕の有る態度が、茜には上級生の様に思えたのだった。
「いいえ、一応、あなた達と同じ学年なのよ。」
そう言って、維月は一年生用の赤いクロス・タイを抓(つま)んで見せる。
「実は昨年後半、病気で休学してた所為(せい)で、二回目の一年生なんだけどね。」
維月は男子の様なベリー・ショートの後頭部を、左手で掻く様にして、笑ってそう言った。
「あぁ、それで、さっきの入学式で、新入生の中に見掛けなかったんですね。あ、わたしは機械工学科のボードレール ブリジットです。」
維月の、ブリジットに負けない位(くらい)の身長と、男子の様なショートカットの髪、それは一度見たら印象に残るだろうと、ブリジットは思ったのだ。それは、茜も同感だった。
「あら、あなたも日本語お上手ね。ご出身はどちら?」
「いえ、両親共に帰化してるので。わたしは、生まれも育ちも日本ですから。」
「あぁ、それは失礼したわ。ごめんなさいね。」
「大丈夫です、良く聞かれるので、慣れてますから。気にしないで下さい。」
その時、維月は蹲(うずくま)った儘(まま)の金髪少女が、『ジト目』で見上げているのに気が付いたのだった。
「あぁ、この子は、クラウディア。クラウディア・カル…カルテ……何だっけ?」
「カルテッリエリ!」
クラウディアは、少し大きな声で自分のファミリー・ネームを言い、立ち上がった。
「クラウディアは、ドイツから来たの。これで中々のマンガ、アニメ・オタクなのよ。」
「ちょっ、イツキ!」
「あぁ、ソレで日本語を覚えたの?」
「ハハハ、うちの両親と同じじゃない。」
ブリジットを、顔を赤らめて睨(にら)み付けているクラウディアに、茜は先程から気になっていた事を聞いてみる。
「カル…クラウディアさん?は、飛び級か何か、なのかな?」
その言葉を聞いたクラウディアは、視線を茜の方へ切り替え、更に顔を赤くして声を荒らげる。
「失礼ね!あなた達と同じ年の生まれよ! ヨーロッパ系がみんな、そこの赤髪ノッポみたいに、無駄に大きいって、思わないでちょうだい。」
「あぁ、そう。ごめんなさいね。」
茜は「それは確かに、その通りだ」と思った一方、「それにしても、あなたは小さ過ぎでしょう」と思ったのだが、流石にそれは言わないでおいた。
「それにしても、あなたは小さ過ぎでしょ。」
茜が敢えて言わなかった台詞(せりふ)を、事も無(な)げに維月は言い放ち、笑い乍(なが)らクラウディアの頭をポンポンと、軽く叩くのだった。クラウディアは無言で、頭上の維月の手を、右手で払い除ける。
「もう一つ聞かせて。さっきの宣戦布告だとか、試験がどうのって言うのは、どう言う事?」
「どうもこうも、言葉の通りの意味よ。次の試験では負けないから、覚えておきなさい、って事。」
「次の試験?って…。」
茜は何気(なにげ)に、隣に立つブリジットへ視線を向けた。その視線に、ブリジットが答える。
「中間試験の事じゃない?」
「じゃ、その前の試験は?」
「入試…って事になるから、この子が入試で茜に勝てなかった、って事でしょ?」
クラウディアの方へ向き直って、茜は主張する。
「ちょっと待って、入試の結果は公表されてないでしょう? 勝ち負けなんて、分からないじゃない。」
「そんなの、わたしには…。」
クラウディアが途中まで言い掛けた所で、維月がクラウディアの腕を掴み、引っ張った。
「ちょっと、イツキ。まだ話の…。」
「そろそろ、教室へ行かないとね。呼び止めて悪かったわね~あなた達も、教室へ急いだ方がいいよ~。」
維月はクラウディアを引っ張って、歩道をズンズンと進んで行く。その様子を呆気に取られて、茜とブリジットは、唯(ただ)、見送るのみだった。四人の様子を遠巻きに見ていた生徒達も、三三五五と言った感じで、その場を離れて行く。
「何だったのかしら?」
茜がポツリと、呟(つぶや)く。ブリジットは茜の手を取り、言った。
「さぁ、わたし達も行きましょう。」
「そうね。」
二人は他の生徒達の後を追って、自分達の教室へと、歩道を早足で歩いて行った。
こんな風に、意味不明の出会いをした茜とブリジット、そしてクラウディアと維月の二組だったのだが、その後は『機械工学科』と『情報処理科』と言う学科の違いも手伝って、同学年であっても校内で接触する機会が殆(ほとん)ど無い儘(まま)、時間が過ぎていった。女子寮でも顔を合わす機会は希(まれ)で、時折、女子寮の食堂で遠目に見掛ける事は有っても、クラウディアの方が茜を無視する為、この二組が会話をする機会は、それから暫(しばら)くの間、皆無だったのである。
- to be continued …-
※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。