STORY of HDG(第6話.03)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-03 ****
入学式から約二ヶ月が過ぎて、2072年5月31日火曜日。
ブリジットが『兵器開発部』に入部して、凡(およ)そ二週間が経過した。
その運動能力を買われて、B型、つまり HDG-B01 のテスト・ドライバーに任命されたブリジットではあったが、インナー・スーツの為の体型データ取りは行ったものの、肝心の HDG-B01 本体の製作は遅れ気味で、現時点での完成予定は夏休みになってから、との事だった。
先日来、茜が装着する HDG-A01 の飛行能力試験も順調に進められており、それに因ってA型の予定外の飛行能力が判明するのにつれ、B型の仕様にも変更が加えられていた。それが、更にB型の完成を遅らせてもいるのである。
そんな訳(わけ)で、当面、ブリジットは暇だった…かと言うと、そうでもない。先(ま)ず、B型が完成する迄(まで)に、HDG システムに就いての仕様を把握する必要が有り、緒美や茜、そして樹里から、システムに関する解説や講義を受けなければならなかった。更に、陸上防衛軍の演習場を借りての、HDG-A01 と LMF との火力運用試験が近々予定されているので、それに向けての LMF の操縦訓練及び操作慣熟も平行して行っており、やるべき事は少なくはなかった。
そんな具合で、ブリジットに取っては慌ただしくも楽しく過ぎた二週間だったが、この日で部活動は一旦の最終日となるのだった。と言うのも、6月8日から一週間に渡って行われる前期中間試験に向けて、その一週間前から試験期間終了迄(まで)の合計二週間は、全校で部活動が活動休止となるからだ。
入部以来一ヶ月半、日曜日も含め、ほぼ毎日部室に通っていた茜は特に、明日から暫(しばら)く部活が休みになるのを寂しく感じつつ、その日の放課後、ブリジットと共に『兵器開発部』の部室へと向かっていた。
茜とブリジットが、何時(いつ)も通りに第三格納庫の外階段を登り、部室のドアを開くと、室内には見慣れない人物が二人、部室の中央に置かれた長机の席に着いていた。それは、入学式の日に出会った、金髪の少女と背の高い留年生、つまりクラウディアと維月の二人だった。
部室内には、樹里以外には二年生の姿はなく、あとは三年生三人と立花先生が来ている。クラウディアと維月は長机の上にモバイル PC を置き、樹里と話し乍(なが)らモニターを覗き込んでいたのだが、部室のドアが開いたのに気付いて、入り口の方へと視線を向けると、クラウディアがポツリと言った。
「あ、アマノ アカネ。何であなたが、ここにいるのよ?」
咄嗟(とっさ)に、ブリジットが茜の背後から声を返す。
「それは、こっちのセリフ。あなたこそ、どうしてここにいるの?」
クラウディアとブリジットの間の険悪な雰囲気は無視して、恵が何時(いつ)もの調子で、茜とブリジットへ声を掛ける。
「天野さん、ボードレールさん、新入部員よ~。仲良くしてあげてね。」
「新入部員って、お二人共ですか?」
茜は掌(てのひら)を上に向けて、クラウディアと維月を順番に指し示し、恵に聞いた。が、それには緒美が答える。
「いいえ、新入部員はこっちの、カルテッリエリさんだけ。」
「わたしは部員じゃないけど~まぁ、一応、関係者って奴? よろしくね~。」
緒美に次いで、維月が手を振り乍(なが)ら笑顔で答えた。
「関係者?って、どう言う…。」
との、茜の質問に答えたのは Ruby だった。
「麻里がわたしの開発チームの、リーダーなんです。」
「麻里って?」
「あはは、その説明じゃ天野さんには分からないよ、Ruby。麻里って言うのはわたしの姉で、天野重工で Ruby の開発に関わってるらしいの。で、一応、この学校の卒業生。」
「え…お姉さんが開発チームのリーダーって、すると、年齢的には?…」
ブリジットが茜と顔を見合わせて困惑していると、維月が笑って答える。
「あぁ、家(うち)はね、五人姉妹なんだけど、一番上の麻里姉さんと、一番下のわたしとで、十歳以上離れてるの。」
「それでね、井上家の人は皆さん、こっち方面の技術に堪能(かんのう)だから、維月ちゃんにも手伝って貰いたかったんだけど。去年は、病気とか色々あって、結局、入部しては貰えなかったのよね。」
何時(いつ)も以上のニコニコ顔で会話に参加して来た樹里の、その表情を見て、「樹里と維月は仲が良かったのだろうな」と、茜は推測した。
茜は改めて、維月に問い直す。
「それで、井上…先輩?は、この部活に入部はされないんですか?」
「あ、先輩とかいいよ、一応、同じ学年なんだから。維月、でいいわ~で、入部の件はね、まぁ、姉も絡んでる案件だから、何か有ったら、お互い気まずい所も有るだろうしね。それに、わたしもまだ病み上がりだし。 それで、代わりって言うのも何だけど、わたしよりも出来る子を連れてきた訳(わけ)。」
維月は右手の掌(てのひら)を上にして、クラウディアを指す。
そこで、それ迄(まで)、黙って様子を窺(うかが)っていた立花先生が、先程のブリジットの態度に思う所が有ったのか、問い掛ける。
「そう言えば、あなた達、学科は違うけど、知り合いだったの?」
「知り合いって言う程でも…。」
立花先生の問い掛けに、戸惑いつつ、茜が答えた。続いて、ブリジットが声を上げる。
「入学式の後、その子が一方的に、茜に絡んできたんですよ、先生。」
「まぁまぁ、あれはクラウディア流の挨拶だったと言う事で、勘弁してあげて。」
「ふん。」
フォローしようとする維月とは裏腹に、茜とブリジットを鼻であしらう様な態度のクラウディアだった。
- to be continued …-
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