WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第13話.13)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-13 ****


 そんな成り行きを見守っていた、金子が呟(つぶや)く様に言った。

「成る程ね、こうやって戦闘に巻き込まれていくのか。前回もそう、だけどさ。」

 その声を聞いて、立花先生は溜息を吐(つ)いたが、何もコメントはしなかった。
 金子は操縦桿のトークボタンを押し、緒美に問い掛ける。

「TGZ01 より、TGZ02。鬼塚、ホントにいいの?これで。あと三分程で、学校上空に着くのに。」

 通信からは、緒美の落ち着いた声が返って来る。

「HDG と一緒に学校まで戻ったら、学校上空にエイリアン・ドローンを引き寄せる事になるわ。そこに、防衛軍の戦闘機が攻撃して来たら、学校や町の上でミサイル戦になるのよ?」

「それで『流れ弾』の心配を?」

「『流れ弾』にならなくても。 運良くミサイルが命中したとしてもよ、残骸がどこへ落ちるかは分からないでしょう? 戦闘は、出来るだけ人が居ない所でやって貰うのに限るわ。」

 金子は一度、深呼吸をして、もう一度、操縦桿のトークボタンを押した。

「TGZ02、了解。 HDG01、天野さん、貴方(あなた)達、帰り道は分かる?」

 金子の問い掛けに、茜の返事は直ぐに返って来る。

「はい、御心配無く。」

 続いて、緒美からのフォローが入るのだ。

「大丈夫よ、天野さんのA号機にだって、わたし達の機より、立派な航法システムが組み込まれてるんだから。」

「あははは、何しろ、防衛軍の戦術機仕様ですから。」

 通信から聞こえて来る、茜の明るい声に、金子はニヤリと笑って言葉を返した。

「それはそれで、何だか癪(しゃく)な話ね。」

 本来、陸上戦闘用のA号機に戦闘機仕様の航法機能が実装されているのは、不思議な話の様にも思える。これは、最初から航空用拡張装備を、A号機にも想定していたからに他ならない。
 そして、ブリジットが金子に呼び掛けて来る。

「金子先輩、日比野さんに、ログの記録続行をお願いします、と、伝えておいてください。」

 金子は少し首を回し、後席に向かって言った。

「だ、そうですよ、日比野さん。」

 ブリジット達からの通信は機内でモニターされているので、敢えて金子が言い直す必要は無い。
 日比野は、微笑んで金子に伝言を依頼する。

「了解、って言っておいて。」

 トークボタンを押し、金子はブリジットに話し掛ける。

「了解、だって、ブリジット。」

「はい、ありがとうございます。」

「ブリジット~…。」

「何ですか?金子先輩。」

「あー、いや。気を付けてね。天野さんも。 グッド・ラック。」

 すると、直ぐに茜が返事をして来るのだった。

「はい。大丈夫ですよ。」

 金子機と緒美のレプリカ零式戦から離れ、西へと向かう茜とブリジットの二機は、横に並んで飛行していた。速度は、ブリジットの方が、茜の HDG-A01 に合わせている状態である。
 ブリジットは、彼女の右側を飛行する茜の方へ視線を向けるが、二人共にフェイス・シールドを降ろしていたので、その表情は窺(うかが)えなかった。尤(もっと)も、フェイス・シールドを上げていたとしても、表情の判別が付く距離ではなかったのだが。
 それでも、ブリジットの視線を察知したのか、茜が話し掛けて来るのだ。

「ブリジット~、怖くない?」

「う~ん…正直、分からない。緊張は、してるかな。」

「あと二分位(くらい)で、射程に入るわ。出来れば、最初の一撃で二連射して、全部片付けたいけど。ブリジットは向かって左側の二機を、お願いね。」

「了解。」

 茜は右側の腰部ジョイントから、荷電粒子ビーム・ランチャーを外すと、砲口を前方へと向ける。
 ブリジットも自(みずか)らの武装を飛行ユニットのジョイントから外し、前方へ向けて構えた。そこで、茜が呼び掛けて来る。

「ブリジット、武装の安全設定を全解除。貴方(あなた)の装備は、実射するのは初めてだから、一度、試し撃ちしておきましょうか。本番で機能しなかったらマズいから。」

 そう言って、茜は自身が持つランチャーを、前方に向けて一発、発射して見せる。特に狙いを定めてはいない、青白い閃光が前方へと走った。

「了解。わたしも、やっておく。」

 ブリジットは射撃用のグリップを起こすと、右のマニピュレータでそれを保持し、トリガーを引いた。茜の持つランチャーと同様に、青白い閃光が前方へと走る。だが、彼女が身構えたのとは裏腹に、衝撃や反動は殆(ほとん)ど無かった。

「意外に、反動って無いのね。」

「まあ、HDG が吸収しちゃうのも有るけど、火薬を爆発させてる鉄砲とは原理が違うから。それに、ショックとか反動とかは、無い方がコントロールし易いでしょ?」

「それはそうだけど。ちょっと拍子抜けって言うか、迫力が無いって言うか…。」

「そんな事よりも、ブリジット、少し進路を変えるわ。二十度ほど右へ、付いて来て。」

 ブリジットの右隣を飛行していた茜が、右へと離れて行った。ブリジットは、慌てて茜を追い掛け、再び茜の左隣に、自身の位置をキープする。

「どうして向きを変えるの?茜。」

「あの儘(まま)、西向きに飛んでると太陽が正面じゃない。それだと、こっちが不利になるわ。このコースで、一分ほど飛んで様子を見ましょう。」

「エイリアン・ドローンが、こっち向きに進路を変えるかしら?」

「かもね。」

 茜が、そう答えたあと、ブリジットは自身の武装の、接近戦用機能を確認してみる。武装の先端に取り付けられている、ビーム・エッジを発生させる三枚のブレードを『槍(スピア)モード』や『大鎌(サイズ)モード』に組み替えて、青白く発光する『アクティブ』状態の動作確認を行った。それらの指示は、思考制御に因って正常に行われたのだ。

「よし、動作確認、終了っと。」

 ブリジットは武装の形態を、『射撃モード』へと戻した。

「ブリジット、最初にエイリアン・ドローンを迎撃した時の事、覚えてる?」

「勿論。」

 不意の、茜からの問い掛けだったが、ブリジットは即答した。茜が、言葉を続ける。

「あの時、最初の一撃の直後、残りの二機が直ぐに左右へ分かれて行ったでしょう? 今回も多分、あの流れになると思う。」

「うん、又、山の中に降りるのかな?」

「今回は、その時よりも高度が有るから。例えエイリアン・ドローンが同じ様に行動するとしても、山に降りる迄(まで)は、時間が有ると思うの。だから、見失わない様に出来れば、そこで、もう一撃。」

「そうね。事前に、そう動くかもって思ってたら、対応出来るかな。」

「あと…。」

 茜は少し間を置いて、続けた。

「…回避しないで、突っ込んで来るパターンも有りそうだから、両方、想定しておいて、ブリジット。」

「茜は、何時(いつ)も、そんな風に考えていたの?」

「ブリジットだって、バスケの試合中、相手の動き位、考えてるでしょ?」

「ああ…まあ、そうか。成る程。」

「まあ、ブリジットは接近戦には慣れてないと思うから、怖いと思ったら直ぐに距離を取ってね。こっちは、飛び道具が使えるんだから。 わたしの方はスピードが出ないから、逃げようとしても直ぐに追い付かれるけど。その点、ブリジットのB号機なら、大丈夫でしょう。」

「ふふ、バスケにも結構、接触プレーとか有るからね。ま、エイリアン・ドローンの相手は、やってみないと分からないけど。」

「呉呉(くれぐれ)も、無理はしないでね、ブリジット。」

「了解。気を付ける。」

「さあ、そろそろ向きを変えるわよ。エイリアン・ドローンを、正面に。三、二、一、ターン。」

 茜の合図で、二人は左旋回を始める。茜は、スクリーンに表示された戦術情報を読み解き、状況を報告する。

「エイリアン・ドローン四機、降下し乍(なが)ら、此方(こちら)に向かって来てる。相対速度が速いから、射撃出来るタイミングは短いわ、注意してね。」

 二人は現在、南西方向へ向かって飛行していた。沈み掛けた太陽は茜達の右手側斜め前方に在り、視界正面からは外れている。最大望遠画像で捉えているエイリアン・ドローンの姿は、夕焼けに照らされて、その機体は紅い光点に見えた。
 茜とブリジットは水平飛行をしつつ、ランチャーの軸線を少し上向きに構える。

「ブリジット、さっき言った通り、左側の二機をお願い。内側の二機から、仕留めるわよ。」

「了解、茜。射撃のタイミングは、任せる。指示してね。」

「オーケー。じゃ、ロックオン。」

 二人が、それぞれに目標をロックオンしても、エイリアン・ドローン達はコースを変える事無く、茜達へ向かって直進して来るのだった。HDG での標的のロックオンは、戦闘機やミサイルの様にレーダー波のビームを相手に対して固定する方式ではない為、エイリアン・ドローン側で検知がされ難いのだ。HDG の場合、自身に強力なレーダーが搭載されていないので、目標の位置をデータ・リンクの戦術情報に拠って把握し、HDG やランチャー等武装側の光学センサーから得られる画像データで精度を補正し、レーザーセンサーで距離を測っているのである。

「あと十五秒。」

 茜は目標との間隔を距離ではなく、秒数で伝えた。この時点で、茜達とエイリアン・ドローンとの相対速度は凡(およ)そ時速 900 キロメートル、秒速に換算すると、秒速 250 メートル。つまり、一秒間に二百五十メートルの間隔が縮まっているのだ。その儘(まま)の速度だと、標的までの距離が一キロメートル辺りから射撃を始めるとして、そこから四秒後には互いが交差している計算になるのである。
 茜の装着しているヘッド・ギアのスクリーンに投影されているエイリアン・ドローン一機の大きさは、実際には約五メートル程の横幅だが、最大望遠でも画面上に機影が占める面積は二パーセント程度である。望遠を使わずに肉眼で観測したなら、伸ばした腕先の位置に置かれた、直径 0.6 ミリメートル程の点に相当する大きさにしか見えないだろう。

「ブリジット、念の為、一機に対して二発、撃ち込みましょう。」

「了解、茜。」

 スクリーン上の機影が、刻々と大きさを増し、そのディテールがはっきりと見えて来る。そしてエイリアン・ドローン達が、進路を変える気配は無かった。

「あと五、四、三、二、一、発射!」

 茜の合図に合わせて、ブリジットもトリガーを絞る。二人は、茜の言った通り、続けて二度、荷電粒子ビームを目標に向けて撃ち込んだ。
 そして直様(すぐさま)、それぞれが次の標的へと照準を合わせようとするのだが、編隊の両サイドに位置して居た二機は、それぞれが機体をロールさせて左右に分かれ、茜とブリジットの横を、距離を保って通過して行くのだ。
 一方で、機体の中央部を撃ち抜かれた編隊中央の二機は、錐揉(きりもみ)状態になって解(ほど)ける様に破片や装甲を振(ふ)り撒(ま)き乍(なが)ら、茜達の下方を落下して行った。

「ブリジット、左の、お願い!」

「オーケー!」

 茜は空中でくるりと向きを変えると、右側から背後に回り込もうとするエイリアン・ドローンに正対(せいたい)し、格闘戦形態へと移行したそれに、ランチャーの照準を合わせようとするのだ。スピードは飛行形態の時に比べて格段に遅くなっているのだが、不規則に上下左右に機動する標的には、なかなか照準が合わせられない。
 推力だけで飛行している茜のA号機とは違い、翼の揚力で空中に浮いているブリジットのB号機は、茜の様に瞬時に機体の向きを変えられない。それでも目標を視界から逃さないように、無理にでも姿勢を変えようとするので、B号機に搭載された AI は飛行制御を『揚力モード』から『推力モード』へと切り替え、主翼を後方へと折り畳むのだ。それは姿勢の変化に因って生じる空気抵抗で主翼が破壊しないようにする為の処置なのだが、その瞬間、揚力を失ったブリジットの身体は、機体を支えられる大きさまで推力が上昇するその間、暫(しば)し落下するのだった。左側へ回避したもう一機のエイリアン・ドローンも、空中で格闘戦形態へと移行し、空気抵抗も有って一気に減速するのだが、ブリジットは目標から目を逸(そ)らす事は無かった。

 茜は突進して来るエイリアン・ドローンに向けて、何発か荷電粒子ビームを発射していたのだが、目の前で上下左右に機動する目標に、命中させる事が出来ない。

(あー、近過ぎると当たらない!)

 茜は心中で、そう叫ぶと右のマニピュレータで保持してたランチャーのキャリング・ハンドル部を、左マニピュレータで掴(つか)んで引き取り、空いた右マニピュレータを BES の柄(つか)に掛ける。
 眼前に迫ったエイリアン・ドローンは鎌状の右腕を振り下ろして来るが、それはディフェンス・フィールドが青白いエフェクト光を放って、弾き返す。そして間を置かず、茜はジョイントから BES を外した。

「オーバー・ドライブ!」

 音声入力で BES の作動モードを指定すると、一気に右へと向かって振り抜く。
 斬撃をディフェンス・フィールドに阻(はば)まれた直後、体勢を立て直そうとしていたエイリアン・ドローンは、荷電粒子の刃(やいば)に因って胸部を上下に両断され、二つに分かれた機体はそれぞれが落下して行った。

 一方、空中での必要な推力を取り戻したブリジットの方へは、その足の下へ向かってエイリアン・ドローンが飛行していた。ブリジットは『射撃モード』から『槍(スピア)モード』へと武装を切り替え、足元へ潜り込もうとするエイリアン・ドローンへ向けて、ビーム・エッジ・ブレードを振り下ろす。

「オーバー・ドライブ!」

 茜と同じ様に、荷電粒子の刃(やいば)を最大化させ、擦れ違い様(ざま)の斬撃を狙ったブリジットだったが、その切っ先は僅(わず)かに届かない。空振りしたブリジットの身体は、勢い余って前転する。
 ブリジットの下方を通過したエイリアン・ドローンは、彼女の後方で急上昇し、機体をロールさせて右腕の大鎌に因る斬撃を、ブリジットに浴びせて来るのだった。
 しかし、それもB号機が生成するディフェンス・フィールドに因って、弾かれるのだ。斬撃の為に機動を止めたその機体は、格好の標的である。振り向いたブリジットは、腰の位置で構えて『射撃モード』で放った荷電粒子ビームを続けて三発、エイリアン・ドローンの胴体へと撃ち込んだのだった。

「HDG01、HDG02、大丈夫か? 応答せよ!」

 茜とブリジットが、それぞれ二機目を撃破した直後、二人を呼び出す、防衛軍の指揮管制官の通信音声が、聞こえて来たのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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