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Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第14話.07)

第14話・天野 茜(アマノ アカネ)とクラウディア・カルテッリエリ

**** 14-07 ****


「確かに、解ってない様に間違った解答を考えるのって、大変ですよね~。」

 その発言を聞いて笑ったのは、樹里と瑠菜、そして維月の三名だけで、他の者(もの)は唖然としていたのである。特に、奇妙な共感を向けられた金子は、困惑しつつ佳奈に聞き返したのだ。

「え~と…どう言う事かな?それは。」

「え~。何か、間違ってたかな?瑠菜リン。」

 佳奈は隣の瑠菜に、金子の反応が意外だった理由を尋(たず)ねている。問い掛けられた瑠菜は、クスクスと笑い乍(なが)ら「みたいよねぇ。」とだけ答えたのだ。
 そして金子には、樹里が説明を試みる。

「彼女、中学卒業まで、試験の解答で自分の成績を操作してたんですよ。」

「どう言う事?」

「簡単に言うと、自分の成績がいいと嫌われるって言う、変な思い込みが有ったらしくて。」

 その樹里の説明に、武東が「被害妄想的な?」と聞いて来るので、樹里は首を横に振り、説明を続ける。

「小学生の早い時期に、実際に酷い嫌味を言われたのが、相当にショックだったらしいんですよ。佳奈ちゃんはあの通り、独特のペースなものですから、そんな人が自分よりも成績がいいのが許せないって言うか、妬(ねた)ましく思われたらしくて。」

「ああ、子供の考えそうな事だね。何と無く分かった。」

 樹里の説明に納得している金子だったが、その肩を掴(つか)むと武東は、佳奈に向かって言ったのだ。

「この人の場合はね、そんな手間を掛けた偽装じゃなくて、テストの三分の二位(くらい)にしか解答を書かないのよ。要するに、徒(ただ)の手抜き。」

「いーじゃん、書いてる解答は、大体、合ってるんだから。」

 そう反論する金子に、武東が作り笑顔で言い返す。

「だったら、全問に解答なさいよ。」

 金子は苦笑いして、視線を逸(そ)らすのである。そこに、恵が笑って声を掛けるのだった。

「あはは、夫婦喧嘩なら、余所(よそ)でやってね~。」

 その、恵のコメントに一同が笑って、一先(ひとま)ずは落ちが付いたのである。そして、樹里が佳奈に向かって言った。

「佳奈ちゃんは、もう中学の時みたいな事やっちゃダメだよ。」

 すると、佳奈は笑って応えるのだ。

「あははは、もうしないよ~。あんな、面倒(めんどう)な事~。」

 その佳奈の返事を聞いて、武東は金子への提案を試みる。

「ほら、面倒(めんどう)な事だって。貴方(あなた)も彼女を見習って、手を抜くの、もう止めにしたら?」

「煩(うるさ)いなぁ。全部解答するのが面倒(めんどう)だから手を抜いてるんでしょ。」

 即座に笑顔で言い返す金子に、武東は口を尖(とが)らせて表情だけで抗議した。そんな二人に向けて、笑顔を作って恵が再(ふたた)び言うのだ。

「だから、夫婦漫才(めおとまんざい)も余所(よそ)でやってね。」

 恵は金子と武東の関係を冗談めかして『夫婦』と例えているのだが、この場で当人達を除けば、その二人の関係を正確に認識しているのは恵だけなのである。
 恵に冷やかされて、一度、顔を見合わせた金子と武東だったが、今度は武東が緒美に、話題を変えて話し掛ける。

「試験と言えばさ、神原(カンバラ)君、『今回こそ、打倒鬼塚』って燃えてるわよ~。」

「あら、そうなの?」

 緒美は言われた事には、全く意に介さない様子で、恵が淹(い)れた紅茶を口元へと運ぶ。そして呆(あき)れた様に、直美が言うのだ。

「彼も懲(こ)りないよね。」

 恵は何も言わずに苦笑いしているのだが、直美の言葉には、笑って金子が応えるのだった。

「あはは、神原君、生徒会長になっちゃったからね。引くに引けないんでしょ?」

「前の会長には、随分(ずいぶん)と発破、掛けられてたらしいから。」

 金子に続いての、武東の発言に、直美が問い掛ける。

「どうして、そんな事、知ってるのよ?武東は。」

「同じ学科(クラス)なんだから、それ位(くらい)、伝わって来るわよ。」

 そこで、一年生達の表情に気が付いた恵が、説明を始めるのだ。

「一年生達には、解らない話だったよね。今の生徒会長の神原君って、例の試験での順位が、部長に次いで毎回二位なのよ。それで、一年生の頃から部長に挑戦し続けてる、って話なのね。」

 その説明に対して、茜が尋(たず)ねる。

「それで、その事と『生徒会長になったから』って言うのとは、どこで繋(つな)がるんですか?」

「ああ。生徒会の役員選挙は毎年二月なんだけど、その時点でだから、直近では後期中間試験の結果で一位の二年生が翌年度の会長候補に、一位の一年生が副会長候補に推されるのね、伝統的に。 要するに、成績一位の翌年度の三年生が会長に、二年生が副会長にって事で、二年生は一年間副会長を務めたら、更に翌年の会長候補になる訳(わけ)よ。」

 そこでブリジットが、恵に問い掛ける。

「あれ? でも、学年の途中で成績が下がっちゃったら、どうなるんです?」

「会長は、卒業する迄(まで)、一応、立場は安泰ではあるんだけど。副会長の方は、翌年の役員選挙で、その時の一位の生徒が次期会長の対立候補になる、らしいわ。」

「うわ、容赦無いですね。」

 ブリジットは苦笑いで、恵の解説にコメントを返したのだ。そして直ぐに、茜が気が付いて声を上げる。

「あれ?でも、部長も樹里さんも、生徒会、やってませんよね?」

 その疑問には、緒美が即座に応える。

「生徒会には興味も無いし、そんな活動に割いてる時間も無いもの。」

 そして苦笑いしつつ、恵が説明を追加する。

「実は、去年も今年も、次期役員候補に推薦するって、生徒会から言っては来てたのよね。去年の一月は部長を副会長候補に、今年は部長が会長候補で、城ノ内さんが副会長候補に、って。 生徒会長の最後の仕事が、その年のトップの生徒を次期会長候補に口説き落とす事だそうでね、それは、しつこかったんだけど…。」

 そこで一回、恵は深い溜息を吐(つ)いた。その続きは、直美が話した。

「最終的に、その説得工作に就いては、学校…と言うよりは、会社の方からストップが掛かったんだよね。」

 茜とブリジットは、声を揃(そろ)えて「あー…。」と発したのである。勿論、会社がストップを掛けた理由が、HDG の開発が止まっては困るからである事は、言う迄(まで)もない。
 そして、金子が発言する。

「去年、鬼塚が生徒会からの副会長推薦を断ったから、順位で二番手だった神原君が、副会長になった訳(わけ)なんだけど。その時点で、当時の会長には在任期間中に鬼塚の成績を追い抜けって、ね、そう言われてたらしくて。」

 続いて、武東が発言する。

「今年も鬼塚さんには、生徒会は袖にされちゃった訳(わけ)だから、神原君的には今度の任期中に鬼塚さんに勝って、生徒会長の面目を保ちたい所なのよね。」

 緒美は、困惑気味に言うのだった。

「そんな風(ふう)に、勝手に対立構造を作られても、わたしには何も出来ないわよ。生徒会長に頑張って貰うしか、方法はない訳(わけ)だし。」

「そりゃ、鬼塚が手心を加えるってのも、筋が違う話だよね。今になってみれば、鬼塚が生徒会活動とかやってられないのも、良く解るし。鬼塚にしてみたら、神原君の一方的な敵愾心(てきがいしん)も、理不尽だよなぁ。」

 同情する金子に、緒美は「でしょう?」と、同意を求めるのだった。
 そこに、ブリジットが質問する。

「生徒会役員と部活って、両立は、矢っ張り難しいンでしょうか?」

 その問い掛けには、恵が答えたのである。

「生徒会役員でも部活動に所属は出来るとは思うけど、部長を続けるのは問題が有るわよね。 生徒会長は部長会議で議長を務める訳(わけ)だし、第一、各部活の予算を最終的に決裁するは生徒会長だから。その人が、どこかの部活の部長だったりするのは、色々とマズいでしょう?」

「あー、成る程。確かに。」

 納得するブリジットに続いて、直美が言うのだ。

「この部活は、鬼塚が部長じゃないと回らないしね。」

 一同はそれぞれに、静かに頷(うなず)くのである。しかし、そこで武東が不穏な事を言うのだ。

「それでも、来年になったら、城ノ内さんと、今度は天野さんが、生徒会から推薦されるんじゃない? 今の所、二年生のトップは城ノ内さんで、一年生は天野さん、でしょ?」

「ははは、どっちも、生徒会には渡さないよ~。」

 即座に、直美が声を上げるのだが、自身が生徒会へと云われた事に関して、茜は懐疑的に感じて発言をするのだ。

「わたしが生徒会に関わるのって、マズくはないでしょうか?」

 その疑義に就いて、最初に応じたのは恵である。

「それは、天野さんが理事長の身内だから?」

「はい。明らかに『七光り』的、ですよね?」

 すると、茜の感慨に対して、金子が見解を述べるのだ。

「でも、理事長の娘とか孫が生徒会長って、マンガやドラマとかじゃ、良く有る展開じゃない?」

「ああ謂(い)う登場人物(キャラクター)って、七光り的な事を気にしない『お嬢様』気質の人じゃないですか? わたしは、別に『お嬢様』じゃないですし。」

 その茜の発言を聞いて、意外に感じたのは飛行機部の二人、金子と武東だけで、兵器開発部のメンバーと、茜の友人である村上と九堂は、その辺りの事情に就いては既知だったのである。だから、茜に問い返したのは、武東なのであった。

「え? 天野さんは、天野重工のお嬢様じゃなかったの?」

 武東の問い掛けには、その隣に座って居た村上が応じるのだ。

「あ、先輩。天野さんの御実家は、天野重工とは無関係なんだそうです。」

「どう言う事?」

 武東の疑問には、茜が改めて解説をするのだ。

「わたしの母の父が、理事長、天野重工の会長なので、わたしが理事長の孫なのは間違いないんですが。私の父方の天野家は、天野重工とは全くの無関係なんです。紛(まぎ)らわしいですけど、そもそもはウチの父と母が大学時代に、偶然、同じ名字だからって意気投合して付き合い出したのが発端(ほったん)で、お互い名前が変わらなくていいって、その儘(まま)、結婚しちゃったんだそうです。後になって、何代か遡(さかのぼ)ったら親戚だったってのが、解ったらしいんですが。」

 茜の説明を聞いて、今度は金子が問い掛ける様に言う。

「へぇ、それじゃ、天野さんのお父さんが、今の社長じゃないんだ?」

「今の社長は、片山社長ですよ? 因(ちな)みに、その片山社長と結婚したのが、わたしの叔母…わたしの母の妹で、あ、叔母が結婚した当時は、まだ片山の叔父様は社長じゃ無かった筈(はず)ですけど。兎に角、だから天野重工の社長令嬢は、私の従姉妹(いとこ)の方なんですけど、この名字の所為(せい)で、昔からわたしが社長令嬢だと誤解され勝ちで。 因(ちな)みに、わたしの父は天野重工とは全く関係の無い商社の、徒(ただ)の営業課長ですから。」

 今度は武東が「ああ、そうなんだ。」と相槌(あいづち)を打つので、茜は更に説明を続けた。

「勿論、小さい頃から母方の実家とは、行き来が有りましたから、全くの他人みたいに育った訳(わけ)じゃありませんけど、祖父…理事長の家だって、豪邸って訳(わけ)でもない普通の家でしたし、わたしのウチだってそうです。現社長の、片山の叔父様の所だって、普通の家で、わたしも従姉妹(いとこ)の子も、『令嬢』なんて感じに育った訳(わけ)じゃないですよ。」

 そこで立花先生が、付け加えて発言するのだった。

「天野重工も、今でこそ大企業の一つに数えられてるけど、百年を超えてる様な同業他社に比べたら、急成長した比較的新しい会社でしょ。だから、経営陣である重役の人達も、庶民的な人ばかりなのよね。一社員としては、そう言う所は、この先も変わって欲しくはないかなぁって。まぁ、その辺りは、色んな意見の人が居るとは思うけど。」

 そして金子が、茜に向かって言うのだ。

「取り敢えず、天野さんの立場に関しては、良く解ったわ。それにしても、それを一々、説明して回るのも面倒(めんどう)だよね。」

「あはは、そんな面倒(めんどう)な事、してませんよ。誤解されてると都合の悪い相手にだけ、説明してるんです。一応、個人情報ですし。場合に因っては、誤解されてる方が便利な事も有りますからね。」

「ああ、成る程。」

 そう応えて金子がニヤリと笑うと、茜は思い出した様に言うのだ。

「あ、そうそう。成績の話で言えば、来年まで、わたしがトップで居られるとは、限りませんよ? なかなかに強力なライバルが居ますので。」

 茜は掌(てのひら)を上にして、維月とクラウディアを順番に指し示す。すると、維月は茜にウインクを送り、一方でクラウディアは卓上のチョコマフィンへと伸ばしていた手を止めるのだった。そこへ、佳奈が声を掛ける。

「あはは、クラリン。期末は、茜ンに勝てそう?」

 クラウディアは、目当てのチョコマフィンを拾い上げると、席から浮かしていた腰を下ろし、目を閉じて澄ました声で佳奈に言葉を返す。

「クラリンって、呼ばないでください。」

 佳奈は「え~。」と、不服そうに声を上げるのだが、クラウディアは、それ以上その事には取り合わない。すると今度はブリジットが、からかう様に言うのだ。

「試験の順位で勝つって、そう言えば、そんな設定も有ったわよね。」

 クラウディアは、横目で睨(にら)む様にして、ブリジットに声を返す。

「『設定』って、言わないで。」

 その様子にクスッと笑い、続いて維月がクラウディアに声を掛ける。

「で、どうなのよ?クラリン。」

「もう、イツキまで。」

 クラウディアは一度、息を吐(つ)いて、そして言った。

「勿論、アカネには勝つ積もりで準備はしてるわ。目標なのはアナタも同じなんだからね、イツキ。」

「あ~はいはい。そうだったよね~。」

 そう応えた維月は、ニコニコと笑顔を崩す事が無いのである。その表情を見たクラウディアは、視線を茜の方へと向けると、言うのだ。

「アカネも、手を抜いたりしないでよね。」

 挑戦的に言われた茜だったが、維月と同じ様な笑顔で応えるのだった。

「勝負なんか、する気は更更(さらさら)無いけど、手を抜く気も無いから、それは御心配無く、クラウディア。」

 茜の返事を聞いて、視線を前に戻したクラウディアは、手に持った儘(まま)だったチョコマフィンを一気に頬張(ほおば)るのだった。

 

- to be continued …-

 

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