WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第18話.04)

第18話・新島 直美(ニイジマ ナオミ)

**** 18-04 ****


 さて、試験空域に到着すると直(ただ)ちに、計画通りに試験が開始された訳(わけ)だが、その試験自体は地味な作業が淡々と繰り返されるだけで、何一つドラマティックな事は起こらない。寧(むし)ろ、何一つ問題が起きないで、計画通りに全ての試験が完了した事の方が、本来なら特筆す可(べ)き事態なのだが、その為に試験の過程を全て描写する必要は無いのである。
 試験の概要は前述した通りだが、もう少し細(こま)かく内容を紹介すると、F-9 改に対し AMF は西へ五十キロメートル、C01 はF-9 改とは百キロメートルの距離を取り、お互いが南北へ往復飛行し乍(なが)ら、電波の送受信を行ったのだ。AMF は三種類の模擬電波を、C01 は八種類の模擬電波をランダムに発信し、F-9 改はパラメータの調整を行いつつ三つの受信解析モードを順番に作動させて、それぞれでの能力を検証する。この作業を、F-9 改一号機と二号機とで別々に実施するのである。一、二号機が同時に試験の実施が出来ないのは、F-9 改側から発信する妨害電波の検証をする必要が有るからだ。二機同時に試験を実施すると、AMF や C01 が受信する妨害電波が、一号機と二号機の何方(どちら)からの電波か判別が付かないのである。それでは、能力の評価が出来ないのだ。
 この様に、実施された試験自体は、解析モード毎に幾つものパラメータを変更し乍(なが)らの受信と送信を繰り返すだけの、派手な機動など一切(いっさい)無い、しかし手間だけは矢鱈(やたら)と掛かる地道な作業だったのである。
 ともあれ、順調に全ての試験を終えた五機は、離陸から二時間程で無事に学校へと帰還したのだ。
 F-9 改、C01、AMF の順で滑走路へ降りると、各機は駐機場を通過して其(そ)の儘(まま)、第三格納庫へと入り、四機はエンジンを停止した。但し、AMF は Ruby を搭載している都合上、エンジン停止の前に瑠菜と佳奈の手に依って地上電源が接続されたのである。
 各機のエンジンが停止すると、整備担当達に依って安全ピンの挿入作業が開始されるのだ。
 それらの作業を駐機場で行わずに、格納庫内まで自走して入っているのは、前述の通り、AMF がエンジン停止前に地上電源を接続しなければならないからで、F-9 改も AMF と運用方法を揃(そろ)えたのだ。一般的には駐機場でエンジン停止、安全ピン挿入、飛行後点検までを行って、牽引車で後ろ向きに機体を格納庫へと移動したい所ではある。自走して格納庫へ入ると、飛行後点検が終了した後で、各機の機首を扉側へ向け直さなければならないのだ。

「お疲れ様でした。」

 シートベルトやコード類を外した緒美は、座席から立って前席の青木に声を掛けた。キャノピーは、既に開けられている。
 青木は整備担当に渡す書類にチェックを入れ乍(なが)ら、緒美に声を返す。

「はい、お疲れ様。気を付けて降りてね。」

 機首の左側には、整備担当者がタラップを架けて呉れている。緒美は、そろりと後席から抜け出すと、ステップに足を掛けるのだ。

「お疲れさん。足元、気を付けてね。」

 そう声を掛けて呉れるのは、本社から派遣されて来た整備担当者、平田である。平田の所属は試作部で、試作工場では F-9 試作機の整備を担当している、F-9 の整備を熟知している人物だった。年齢は四十六歳で、今回派遣されて来た整備担当メンバーではリーダー格なのだ。

「ありがとうございます。」

 緒美はフロアまで降りると、お礼を言ってヘルメットを外したのだ。そして一度、大きく息を吐(は)いた。

「おーい、宗近君。昼飯(ひるめし)前に点検やっちまうぞー。」

 平田は同じく派遣されて来た若者、宗近に声を掛けた。宗近はチェックリストを手に、F-9 改一号機の右隣に駐機されている二号機の方向から駆け寄って来る。
 この宗近が天神ヶ﨑高校卒業生の二十四歳で、今回の派遣メンバー中では最年少なのだ。宗近の所属は製造部で、F-9 生産ラインに勤務している。
 製造部からはもう一人、女性社員の三木が派遣されて来ていて、二号機の担当となっているのだ。三木は普通の高校を卒業して天野重工へ入社した二十八歳で、宗近とは同じ職場の四年先輩である。
 最後にもう一人、本社から派遣されて来たのが深見で、年齢は三十二歳だ。深見は総務部の所属で、東京側の社有機整備担当が通常の業務なのだ。
 以上の様に、F-9 戦闘機の整備が本職なのは平田のみで、後の三名は航空機か F-9 に関わりの有る人材を各部署から集めた格好なのだった。これは F-9 の整備担当者のみで派遣メンバーを構成すると、派遣元の業務が回らなくなる事を危惧(きぐ)しての措置であり、F-9 整備未経験の三名に対する実務の指導は、平田が担(にな)っているのだ。
 兎に角、F-9 改に対しては、彼等が点検を開始するのだった。
 一方で、AMF と C01 の飛行ユニットに対しては、瑠菜や佳奈、村上、九堂達が、既に慣れた様子で HDG の切り離しや、点検作業を開始していた。
 そして、二号機から同様に降りて来た直美を見付けると、緒美は一号機の機首の下を潜(くぐ)って直美の方へと向かいつつ、声を掛けたのだ。

「新島ちゃん、ちょっと一緒に来て。」

 そして緒美は、立花先生の方へと駆け足で向かった。直美は何か声を上げつつ、緒美を追ったのだ。

「はい、お疲れ様。」

 平田はタラップを降りて来た、パイロットの青木に声を掛けた。
 青木は機上でチェックしていた書類を平田に差し出し、声を返すのだ。

「はい、どうも。それじゃ、機体をお返しします。」

「具合は、どうでした?青木さん。」

「ええ、全く問題は無いですね。快調、そのもの。」

「それは良かった。試験の方も、順調だったみたいじゃないですか。」

「はい。それに就いては、ちょっと驚いていると言うか、拍子抜けしたと言うか。」

「あはは、それはもう、地上(グラウンド)担当の子達も含めてね、凄いとしか。まあ、噂には聞いてましたが。」

 平田の見解には、青木も黙って頷(うなず)くのみである。一方で平田は、機体の下で主脚の点検をしている宗近に、声を掛けるのだ。

「おーい、宗近君。」

「何ですか?」

 平田に呼ばれて宗近は、機体の下から機首方向へと出て来るのだ。そして平田は微笑んで、宗近に言うのである。

「キミの後輩達、凄いじゃないのって話してたんだけど。この学校じゃ、あの位が当たり前なのかい?」

 少し困った顔で、宗近は答える。

「どうでしょう?少なくとも、わたしの在学中には、こんな派手な事はやってなかったですけどね。」

 そこで宗近は二号機側に居る、同じく卒業生である、二号機パイロットの樋口に声を掛けるのだ。

「樋口さんの時は、どうでした?」

「え?なあに、宗近君。」

 急に話を振られた樋口は二号機の機首を潜(くぐ)って一号機側に来ると、宗近に聞き返すのだ。それには平田が、聞き直すのである。

「いや、ここの生徒達が凄いなって話してたんだけどね、キミが居た頃はどうだったのかな?って。」

「あー、宗近君は何期だっけ?」

「十五期です。」

「わたしが第十二期だから、丸三年、違うのよね。…そうね、わたしが三年生の年に、例のレプリカ零式戦の耐空証明が出て、飛行機部で飛ばせる様になったから、あれがイベントとしては一番大きかったかな。」

「おお、結構派手な事、やってるじゃないの。」

 感心気(げ)に青木が言うと、透(す)かさず平田が尋(たず)ねるのだ。

「それそれ、わたしも第二格納庫に有るのを見たけど。何だって、あんなのを作る事になったの?」

「ああ、学校に第十期生が入学して、開校十周年記念って事での企画だった然(そ)うなんですよ。それで、学年毎(ごと)に分担して図面描いたり、部品を製作したりで、組み立てまで全部、授業の一環として。 完成迄(まで)に三年掛かってますけど、わたしも一年から二年に掛けて製作に参加しました。 わたしが二年生の夏休み明け頃に完成して、それから一年掛けて飛行の許可を取ったんですよ。」

 樋口の話を聞いて、至極羨(うらや)ましそうに宗近は言う。

「いいなー。自分達の代には、そんな面白そうなイベントは無かったなぁ…オマケに、三年生の年ですよ、今のエイリアン騒動が始まったのは。」

「ああ~、そうなるのか…エイリアン騒動は兎も角、レプリカ零式戦には結構な予算が掛かったらしいから、暫(しばら)く学校で大きなイベントが出来なかったのは、その所為(せい)かも知んない。それに関しては、後輩達には申し訳無いわねー。」

 苦笑いで、そう樋口は言ったのである。
 そこへ少し離れた所から、直美が大きな声で呼び掛けて来るのだ。

「青木さーん、樋口さーん。申し訳無いですけど、昼食前にデブリーフィング終わらせてしまいたいので、装備降ろしたら、部室の方へお願いしまーす。」

 青木は右手を挙げ、声を返すのだ。

「了解(りょーかーい)。」

 その返事を聞いた直美は一度手を振ると、緒美と共に二階通路へと上がる階段へと向かった。

「それじゃ、わたし達も。」

 樋口はヘルメットの入ったバッグを持ち上げ、青木に声を掛ける。それに青木も、直ぐに応えるのだ。

「そうだね。 それじゃ、機体の方、お任せします。」

「はいよ、任せて呉れ。」

 平田の返事を聞いて、青木と樋口は第三格納庫の大扉の方へと歩き出すのだ。この二人の装備室は、第二格納庫側に用意されているのである。

「さあ、こっちも早く仕事終わらせて、昼飯(ひるめし)にしようぜ、宗近君。」

「はーい。」

 平田と宗近は、一号機の点検を再開したのだ。

 それから二十分程が経って、部室では試験飛行のデブリーフィングが開始されていた。
 参加者は緒美、直美、恵、樹里、茜、ブリジット、クラウディア、と言った兵器開発部のメンバーと、本社側からは、青木、樋口、そして天野理事長である。そして本来この日は休日であり乍(なが)らも飯田部長が本社からリモートで参加しており、議事進行は今回も立花先生が務めるのだった。
 デブリーフィング自体は昼食の時間も有るので簡略的、形式的に進められたのである。実際、試験は内容的には特に問題も無く想定通りに進行したし、試験によって得られたデータを本社側で解析しなければ、最終的な評価は定まらないのである。
 F-9 改の機体や飛行に関してや、ECM 器材に関して、共に問題が無ければ話し合う事も特に無いので、問題が無い事を確認すればデブリーフィングは終了なのだ。
 そうしてデブリーフィングは、そこで終了する、筈(はず)だった。

「それじゃ、最後に伝達事項、いいかな?」

 画面の中から、飯田部長が然(そ)う切り出したのである。

「どうぞ、飯田部長。」

 立花先生の許可を得て、飯田部長は一回、咳払(せきばら)いをし、言ったのだ。

「先刻、防衛軍から連絡が有ったのだが。 地球に向かう、エイリアン・ドローン『ヘプダゴン』が八機、観測されたそうだ。今迄(いままで)の例から判断して、地球に降下して来るのは日曜日辺りになるって予測だ。」

 その発言に一同が押し黙る一方で、飯田部長が発言を続ける。

「勿論、必ずしも此方(こちら)側へ降りて来るとは限らない。とは言え、その事態には備えておく必要が有るので、防衛軍からは協力を宜しく、と言う事だ。…で、宜しいでしょうか?会長。」

 飯田部長から確認されて、天野理事長は一息を吐(つ)いて、言うのだ。

「まあ、先方とは、そう言う約束だから仕方が無いが…諸君には折角の日曜日に、申し訳無いな。」

 天野理事長の発言に、真っ先に反応したのが緒美である。

「わたし達は、平日に授業に出られなくて、後で補習を受けるよりは、寧(むし)ろ日曜日の方が有り難いです。ねえ、新島ちゃん?」

 緒美は敢えて、苦笑いしている直美に同意を求めたのだ。
 直美は一度、鼻から息を吹き、言うのである。

「まあ、どうせ、日曜日も部活やってますし、わたし達。」

 それは、ほぼ『ヤケクソ』的なコメントだった。
 画面の中でくすりと笑い、飯田部長が言う。

「防衛軍からは、前回同様、岩国基地に場所を借りられる事で話は付いている。現地の設営は、本社(こちら)の方で手配をして置くから、キミ達は日曜日の朝に移動して来て呉れ。詳細は別途、連絡するが、何か其方(そちら)からの要望が有れば言って呉れ。可能な限り、対応はする。 わたしからは、今の時点では、以上だ。」

「では、他に質疑等、無ければ、これでデブリーフィングは終了としますが、宜しいですか?」

 立花先生の事実上の議事終了宣言に、参加者の誰からも異論は無く、そこでデブリーフィングは終了したのだった。

 

- to be continued …-

 

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