WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第16話.07

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-07 ****


 翌日、2072年10月12日、水曜日。その日からの三日間、放課後の兵器開発部では HDG-C01 を飛行ユニットに接続しての、飛行シミュレーションが行われる予定である。
 それは AMF の納入時に茜が実施したのと基本的には同じ事で、初日はクラウディアに対する、飛行への慣熟を目的として実施されるのだ。

 ここで、C号機用の飛行ユニットに就いて解説をしておく。
 C号機用の飛行ユニットの基本的なシステムは、A号機用の AMF が基礎となっており、HDG 本体の大きさが違うとは言え、飛行ユニットの機首部に HDG を接続して運用する方式は AMF と同仕様である。機体の設計や使用部品等、共通となっている項目は多いのだが、外見的には HDG 本体を格納する機首部外殻構造が存在しない事が AMF との大きな差異となっている。それ故(ゆえ)に、同じ型式のエンジンを同数搭載しているので出力は同等であっても、AMF の様な超音速飛行は出来ない。その他の機体の特徴としては、AMF の様なロボット・アームやレーザー砲等の武装は、一切(いっさい)が搭載されていない。但し、主翼下のハードポイントに就いては、AMF と同じく、F-9 戦闘機と同仕様で残されている。
 AMF の場合は操縦制御を担当する AI ユニット『Ruby』が、AMF の機体側に搭載されているのだが、C号機用の飛行ユニットの場合は、接続される HDG 側に搭載されている AI ユニット『Sapphire』の方が飛行ユニットの操縦制御を担当する仕様が、AMF とのシステム上の大きな違いである。
 単純に考えるならば、武装が施されていないのに AMF と同じ規模の飛行ユニットは不要な様に思えるが、そうではない。C号機が満足に電子戦を実施する為には、巨大な電源が必要なのである。つまり、C号機の飛行ユニットは空中での移動能力を付与する事以上に、電子戦能力を維持する為の電源としての意味合いが、より大きいのだ。
 飛翔体としてのシステムや機構の設計的・技術的な意味では、HDG-A01 と AMF の組合せで確認済みの技術を水平展開したものであると言えるので、C号機と飛行ユニットの飛行能力自体に関しては、試作工場の方での Sapphire 制御下に於(お)ける無人飛行にて、殆(ほとん)どが検証済みなのであった。だからこその、天神ヶ﨑高校への無人での自力移動の実施であった、と言う事である。勿論、その際も AMF の時と同様に、念の為に外部からの操縦操作が可能な随伴機が同行して来ていたのだ。但し、C号機の移動完了を見届けた後、随伴機は点検及び燃料補給を受けて、当日の午後には試作工場へと帰投したのだ。

 クラウディアに対する飛行シミュレーションに拠る慣熟の目的は、茜の時とは、少し意味合いが違っている。
 A号機の場合は実施する空中戦機動を積極的に思考しなければならないので、直接的な操縦操作を Ruby に任せるにしても、飛行自体の主導権は茜が持っているのだ。一方でC号機の場合、クラウディアは電子戦オペレーションの管理を遂行するのが主任務であり、飛行に関する操作は Sapphire に一任されるのだ。勿論、飛行に関する各種諸元の指定や変更の権限はクラウディアに有るのだが、その飛行の実施は、ほぼ全般的に自動操縦となるのだ。
 だから、飛行シミュレーションによる慣熟は、クラウディアの場合は受動的な経験を積む事に重きが置かれているのである。
 実際に、初日に行われた飛行シミュレーションでは、観光施設に設置されている『ライド型アトラクション』の様に、離着陸、上昇や降下、旋回等の基本的な空中機動をドライバーであるクラウディアが体験して終わったのだった。

 二日目の飛行シミュレーションには、茜とブリジットの HDG も参加して三機での編隊飛行をシミュレートし、加減速に因る編隊を維持する感覚や、距離感の把握、散開や集合等の体験を実施したのである。これは同時に、各機に搭載された四基の AI が連携する試験でもあり、特に Ruby と Sapphire の二基の連携が、本社開発部からは注目されていたのだ。今回、安藤が来校していたのは、この二機の連携に関連するデータの取得が目的なのである。

 三日目の飛行シミュレーションでは三機の HDG の連携に加えて、仮想エイリアン・ドローンを登場させ、A、B両機に因る敵機撃退と、C号機の安全な退避行動の体験を目的として実施がされたのである。これは、仮想エイリアン・ドローンの数や位置、或いは HDG 側のフォーメイション等を変更して、何度も繰り返し行われたのだ。

 そうして四日目、2072年10月15日、土曜日。
 この日は土曜日なので兵器開発部のメンバー達が出席する授業は、午前中のみである。昼休み後から二時間程度の準備時間を経て、午後三時より、C号機の実機に因る飛行試験が実施されたのだ。
 因(ちな)みに、この日は元々が緒美と直美の飛行訓練が予定されていた日だったので、その為に準備されていたレプリカ零式戦は、C号機の飛行試験に随伴機として投入されたのだ。今回の操縦士は直美で、緒美は格納庫に残って試験状況の監視と指揮を担当する事になったのだ。その為、緒美の飛行訓練は翌日の日曜日へと、順延されたのである。

 この日の、天神ヶ﨑高校周辺の天気は、問題無く晴れていたのだが、遙(はる)か南の海上には、台風16号の接近が予報されていた。
 この台風16号は、この年、初めて本州方向へと進路を取った台風なのであった。これ迄(まで)に発生した台風は、春から夏に掛けては南の海上から太平洋の東方向へと遠ざかり、夏以降はインドネシアからベトナム方向へと進む物が多かったのである。それらの内、日本に直接的な影響が有ったのは、小笠原諸島を通過したものが三つ、沖縄諸島を通過して大陸方向へと進んだものが四つで、合計七つだけだったのだ。
 この時点での台風16号の予想進路は、九州から本州の南端を抜けて日本海へ、と予測されていたのだが、その進路予測には当然、まだ幅が有るのだ。これが予測コースの東側を進行した場合、天神ヶ﨑高校の所在する中国地方を直撃する恐れも有ったのである。とは言え、本州に最接近するのは五日後の木曜日と目(もく)されており、あと二、三日は本州上空に台風の影響は無いとされていたのだ。


「TGZ01 よりテスト・ベース。それじゃ、離陸します。」

 直美の声が、データリンクの通信に因って聞こえて来ると、試験の指揮を執る緒美が答える。

「テスト・ベースです。離陸、開始してください。気を付けて。」

「TGZ01、了~解。」

 滑走路の東端から動き出したレプリカ零式戦は、エンジン音を響かせて滑走を開始すると、間も無くふわりと浮き上がり、着陸脚を収納すると一気に上昇して行くのである。

「HDG01、続いて離陸します。」

 次に控えているのは、茜の AMF である。

「はい、どうぞ天野さん。貴方(あなた)も気を付けてね。」

「了解です。」

 茜は短く答えると、AMF を一気に加速させ、あっと言う間に上空へと駆け上がって行くのだ。徒(ただ)、先に離陸した直美のレプリカ零式戦とは違い、AMF はそれ程高度を上げる事無く、東方向へと旋回を開始するのだった

「HDG03 よりテスト・ベース。離陸開始します。」

 続いて聞こえて来るのは、クラウディアの声である。それに、緒美が言葉を返す。

「カルテッリエリさん。初飛行だけど、リラックスしてね。」

「大丈夫ですよ。操縦するのは、わたしじゃなくて、Sapphire ですから。」

 そうクラウディアが言葉を返して来るので、樹里がコンソールのマイクを取って伝えるのだ。

「宜しくね、Sapphire。」

「ハイ。プログラムとシミュレーションの通りに、実行します。」

 Sapphire の合成音声に続いて、クラウディアが発信の指示を出す。

「それじゃ、出発よ、Sapphire。」

「ハイ、離陸操作を実行します。クラウディア。」

 そしてC号機の飛行ユニットが離陸滑走開始に向けてエンジンの出力を上げると、ブリジットからの通信が入るのだ。

「HDG02、HDG03 の離陸滑走を追跡しま~す。」

「はい。お願いね、ボードレールさん。」

 緒美が返事をすると、滑走路上でC号機が動き出し、AMF の時と同じ様にC号機の後方をブリジットのB号機が、距離を取り追走するのである。滑走路の南側には茜の AMF が西向きに滑走路と並行に飛行しており、茜もC号機の離陸の状況を併走し乍(なが)ら監視しているである。
 問題無くエアボーンしたC号機は、上昇し乍(なが)ら予定通りに北へと針路を向ける。

「テスト・ベースより HDG01、02、03。それじゃ、予定通りに高度二千メートルで、先行している副部長と合流してね。」

「HDG01、了解。」

 AMF はC号機の左側五十メートルに、B号機はC号機の右側五十メートルに位置を取り、三機が並んで高度を上げて行くのだ。その間に、茜がクラウディアに声を掛ける。

「大丈夫?クラウディア。 怖くない?」

「それ程、怖くはないけど…シムと違って、風が凄いわね。機首が密閉されてる AMF が、羨(うらや)ましいわ。」

 ここでクラウディアの云う『シム』とは、『シミュレーター』の略語である。
 C号機のドライバー正面には情報表示用のスクリーンが風防(ウィンド・シールド)も兼ねて取り付けられているのだが、操縦席として密閉されている訳(わけ)ではないので、少なからぬ風が吹き込んで来るのだ。
 そこで、茜が問い掛ける。

「ディフェンス・フィールドは有効になってる?クラウディア。」

「Ah! そうだ、忘れてた。 Sapphire、ディフェンス・フィールドを有効(イネーブル)に。」

「ハイ、ディフェンス・フィールドを有効にします。」

 するとC号機の前方に、薄(うっす)らとディフェンス・フィールドのエフェクト光が浮かぶのだ。

「どう?クラウディア。」

 そう茜が訊(き)いて来るので、クラウディアは答えるのだ。

「そうね、確かに随分と優(まし)になったわ。」

「あとは、C01 が直立した状態だけど、少し前傾姿勢にした方が風の流れ方が良くなるかもよ? まあ、その辺りは、自分で落ち着くポジションを探して、工夫してみて。」

「一応、助言(アドバイス)には感謝しておくわ、アカネ。」

「どういたしまして。」

 そう返事をして、茜は少し笑うのだった。そうこうする内、先行していたレプリカ零式戦の姿を、茜は前方右手上空に確認したのである。

「HDG01 より、テスト・ベース。TGZ01 を視認しました。これより合流します。」

「テスト・ベース、了解。」

 緒美の返事が聞こえると、次に直美の声が通信に乗って来るのだ。

「此方(こちら)TGZ01。もう、追い付かれた? やっぱ、ジェットは速いわ~。」

 そうして彼女達は、四機で編隊を組み直し、日本海上空へと向かったのである。
 そんな折(おり)、ブリジットが冗談なのか本気なのか、判断に迷う様なトーンで言うのだ。

「今日は大丈夫かな? 何だか、初物の試験飛行の時は、エイリアン・ドローンに出会(でくわ)すのが、ジンクスみたいになってるけど。」

 その発言に、真っ先に反応したのが直美である。直美は敢えて、茶化す様に言ったのだ。

「そんなジンクス、有って堪(たま)るか~。」

 直美の反応に「あはは。」と笑い、そして茜がブリジットに言うのだ。

「この前の二回は、元々、九州方面で襲撃が起きている時に、こっち側で飛行試験を強行したから、だから。今日は、どこにもエイリアン・ドローンは来てないから大丈夫よ、ブリジット。」

 続いて、クラウディアも発言するのだった。

「そうよ。そう言う事、言ってると却(かえ)って、フラグが立っちゃうから。止めてよね、ボードレール。」

「何よ?フラグって。」

 クラウディアに云われた意味が解らず、ブリジットは聞き返したのだが、当のクラウディアは説明するのが面倒(めんどう)なので、誤魔化す様に言葉を返すのだ。

「フラグは、フラグよ。解らないなら、別にいいわ、気にしないで。」

 クラウディアが逃げる様に、そう言うものだから、ブリジットは敢えて食い下がってみるのだ。

「ええ~何よ、気になるじゃない。教えてよ、クラウディア。」

 勿論、ブリジットは『フラグ』の意味が解っていて絡んでいるのではない。
 すると、『フラグ』の説明を、茜が始めるのだ。

「ブリジット、『フラグ』は『フラッグ』、『旗』の事よ。プログラムとかで、条件が揃(そろ)った事を示すのに『旗を上げる』代わりに、変数に数値を格納したり、信号をオンにしたりするらしいんだけど。その変数や信号の事を『旗』、つまり『フラグ』って謂(い)うのよね。 つまり『旗が立った』、『フラグが立った』って事は、条件が揃(そろ)ったって意味で、そこから派生して、何かが起きる条件が揃(そろ)ったり、何かが起きる前触れが確認されると、『フラグが立った』って言う様になったのよ。」

「いいから、アカネ、そんな説明しなくても。恥ずかしいから。」

 そうクラウディアが声を上げるので、茜は通信で樹里に尋(たず)ねるのだった。

「え~。 樹里さん、何か説明、間違ってました?」

「いいえ、由来の説明としては、大体、合ってると思う。」

 樹里が答えると、ブリジットが聞き返すのだ。

「それだと、『ジンクス』と同じ様な意味じゃないの?茜。」

 そのブリジット発言に反応したのは、クラウディアである。

「違うわよ! 貴方(あなた)、漫画(コミック)や小説(ノベル)で、『死亡フラグ』とかって言葉、見た事、有るでしょ?」

 そうクラウディアに云われて、漸(ようや)くブリジットは合点(がてん)が行ったのである。ブリジットは、小説の類(たぐい)は好きで、良く読んでいるのだった。

「ああ~あの『フラグ』って、語源はコンピューターとかの用語だったんだ。」

 納得したブリジットに続いて、茜も言うのである。

「あはは。クラウディアの事だから、わたしはてっきり、プログラム用語の意味で云ってるんだと思ってたわ。」

 実は茜も、勘違(かんちが)いをしていたのだった。
 そこで、通信から緒美の声が、聞こえて来るのだ。

「はーい、それは兎も角、そろそろテストを初めて貰ってもいいかしら?」

 緒美の声を聞いて、茜は少し慌てて声を返す。

「あ、はい、部長。HDG01、テスト位置、西へ一キロ迄(まで)、移動します。」

 茜の AMF は左旋回し、編隊から離れて行く。

「はい、お願いね、天野さん。副部長も、宜しく。」

「TGZ01、了解。東へ一キロ、移動します。」

 直美のレプリカ零式戦は、右旋回で編隊を離脱するのだ。

「HDG02 も予定通りに。HDG03 から離れないでね、ボードレールさん。」

「HDG02、了解です。」

 斯(か)くして、HDG-C01 電子戦器材の、能力確認試験が開始されるのである。

 

- to be continued …-

 

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