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Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第18話.02)

第18話・新島 直美(ニイジマ ナオミ)

**** 18-02 ****


 それから一週間が経過して、この日は、2072年11月21日、月曜日である。
 この三日前、金曜日には天野重工本社からの人員が派遣されて来ており、F-9 改造機の受け入れ準備が進められていたのだ。
 F-9 改は、先日のデブリーフィングで天野理事長が発表した通り第三格納庫への配置となっているので、格納庫床面に誘導用ラインのテープ貼りを行ったり、整備用器材や工具の準備が進められたのだった。派遣されて来た人員は整備担当が四名に操縦者が二名なのだが、F-9 改の操縦担当としては理事長秘書の加納と、海上防衛軍出身の社有機操縦者である沢渡も、担当する事になっていたのである。本社から充当されて来た操縦者二名は、加納と沢渡が抜けた際に社有機の操縦担当も兼務するのだ。
 金曜日に派遣されて来た人員は、整備担当者は男性三名と女性一名、操縦者は男女が一名ずつで、それぞれが学校敷地内の寮に宿泊するとの運びで、移動当日は生活に関する説明や、学校や寮など施設の案内がされたのである。因(ちな)みに、整備担当者の男性一名と操縦者担当の女性一名は、天神ヶ﨑高校の卒業生なのだった。
 翌日の土曜日は、派遣されて来た人員達には全日が休日となり、翌、日曜日の朝から F-9 改の受け入れ準備が開始されたのだ。その作業に就いては、天神ヶ﨑高校に常駐している社有機の整備担当である三名と、兵器開発部、そして飛行機部のメンバー達が作業に協力したのである。
 そして F-9 改を搬入する当日の月曜日には、加納と沢渡、移動して来た操縦士二人である青木と樋口、合計四名が榎本の操縦する社有機で試作工場へと飛んだのだ。この際の社有機副操縦士は、移動して来た女性パイロット、樋口が務めたのである。
 試作工場へと向かった一行は、現地で F-9 改を受け取り、その一号機を加納が、二号機を沢渡が操縦し天神ヶ﨑高校への帰路に就いたのだった。この時、二号機の後席には樋口が座り、社有機の帰路の副操縦士は青木が務めたのである。
 青木の年齢は三十代後半で、榎本とは同年代である。一方、樋口は二十代後半と、天野重工の総務部飛行課所属の操縦士としては若手なのだ。学校への復路に F-9 改二号機の後席に樋口が座ったのは、天神ヶ﨑高校の滑走路への着陸進入を体験させる為である。そして、青木が社有機副操縦士席に着いたのも同じ意味合いなのだが、それでは何故、青木が F-9 改一号機の後席に座らないか、と思うかも知れない。それは単純な理由で、社有機は正副操縦士の二人運用が標準とされており、他方で F-9 は操縦士一人運用が標準であるからだ。実際、F-9 改の後部座席には操縦操作の為の設備一切(いっさい)が、用意されてはいない。
 そして、山間部の中腹に建造されている天神ヶ﨑高校の滑走路に着陸するのは、開けた平地に向かって降下して行くのとは違って、それなりに慣れが必要であり、若い樋口の方(ほう)に一回でも多く着陸進入の経験をさせようと言うのが、今回の割り振りの理由なのである。だが、実は、樋口は天神ヶ﨑高校の飛行機部のOGであり、単純に天神ヶ﨑高校の滑走路への着陸回数で言えば、会社の先輩である青木よりも多くの経験を有していたのだ。勿論、飛行機部で扱っていた滑空機(グライダー)や軽飛行機とでは、社有機や F-9 戦闘機は機体の重量も着陸速度も比較にはならないので、今回の割り振りは妥当だったのである。

 ここで、加納と沢渡の二人についても、少し触れておこう。
 彼等は共に防衛軍に所属してた人物であり、加納は航空防衛軍で F-9 戦闘機に、沢渡は海上防衛軍で艦上型 F-9 戦闘機に、それぞれ搭乗していたのだ。前回、HDG C号機の能力確認試験に参加していた海上防衛軍の空母『あかぎ』は、沢渡にとっては古巣である。
 それぞれに事情が有って防衛軍からは離脱した彼等だが、戦闘機のパイロット職は其(そ)の育成に多額の費用と、そして時間が掛かっており、その技能は防衛軍にとっては貴重でもあるので、除隊後も『予備役』として防衛軍に関わっているのだ。エイリアン・ドローンに依る襲撃が相次ぐ昨今の情勢ではあったが、彼等が招集される事態に、まだ至っていないのは、幸いな事なのだろう。
 予備役パイロットには防衛軍教育隊での、月に二回(各四時間)のシミュレーター訓練と、二ヶ月に一回(二時間)の実機での飛行技能確認が義務付けられており、それを熟(こな)している限り F-9 戦闘機の操縦資格は維持されるのだ。但し、海防の空母着艦資格だけは、シミュレーター訓練での資格維持は認可されていないので、有事の際に再招集された後に、別途、陸上滑走路での模擬着艦訓練を行って予備技能試験に合格した後、実際の空母への着艦を実施して、技能試験に合格しなければ、空母への着艦資格が得られないのである。そんな訳(わけ)で、現状で沢渡は、F-9 戦闘機での着艦資格を所持してはいない。これは現役の艦上機パイロットであっても、着艦に関する技量不足と判断されると、即刻、空母部隊勤務を解除されると言う厳しい運用がされており、それ程、空母への着艦とは特殊技能として扱われているのだ。
 加納と沢渡は、通常は社有機の運航を担当しているのだが、新造された F-9 戦闘機の納入前の試験飛行とか、防衛軍から委託されている定期整備後の確認飛行の業務にも定期的に参加しており、F-9 戦闘機を操縦する機会は防衛軍での予備役向け定期訓練のみ、と言う訳(わけ)ではない事は付言しておこう。

 ともあれ、そう言った経緯で天神ヶ﨑高校へと運ばれて来た、二機の F-9 改戦闘機であるが、今回の計画が進行していく内に、本社側で策定した予定に一部、狂いが生じていたのだった。それは F-9 改の後席で、ECM 器材のオペレーションを行う人員の手配である。
 当初は器機の設計に関わった技術者の中から、人員を選定する構想だったのだが、適当な人物は皆、業務スケジュールに余裕が無く、彼等の都合が付かなかったのだ。
 加えて、ジェット戦闘機への搭乗と言う事も、人員選定のハードルとなっていた。それはビジネス機や旅客機に乗るのとはレベルが違うG(加速度)に耐えたり、高空での低酸素状態への耐性と言った身体的な素養と健康状態も必要とされるのである。天野重工での試験飛行であっても、F-9 戦闘機への搭乗は防衛軍規格の航空生理検査をパスする必要が有るのだ。
 結局、ECM 器材のオペレーション要員は天野重工の飛行課パイロット、つまり青木と樋口が兼務する事となり、本社開発部は二人の為に、仕様書をベースに操作マニュアルを急造する事になったのだった。
 徒(ただ)、操縦者要員として派遣した二人に ECM オペレーターをさせるとなると、操縦の方は加納と沢渡が専任となってしまい、それでは試験計画次第では加納と沢渡の通常業務が回らなくなってしまう事が懸念されたのだった。そして最終的に、兵器開発部からも ECM オペレーターを選出する事にされてしまったのである。その事が兵器開発部へアナウンスされたのは、火曜日の夕方だったのだ。
 急遽(きゅうきょ)、人選を迫られた兵器開発部ではあったが、彼女達から出せる人員に余裕が有る訳(わけ)も無く、F-9 戦闘機に搭乗するとなれば自家用操縦士の資格を取得している緒美と直美、その二人以外に選択肢はなかった。二人の何方(どちら)にしても、本社のパイロット、青木と樋口よりは器材の仕様を理解しているので、航空生理検査をパスしさえすれば、それは現実的な選択ではあったのだ。
 そこで、緒美と直美の二人は本社の手配で土曜日に本社航空機工場の在る岐阜へと向かい、工場の附属施設で航空生理検査を受けて、無事に検査をパスしたのである。
 天野重工岐阜工場は F-9 戦闘機の最終組立工場であり、工場敷地内には滑走路も付設されていて、総務部飛行課の本拠地となっているが岐阜工場なのである。天野重工所属のパイロットは、定期的に岐阜工場の附属施設で航空生理検査を受けているのだ。
 航空生理検査に就いて簡単に説明すると、それは通常の健康診断の他に、平衡感覚、G耐性、減圧耐性等を測定、診断する検査である。それには超人的な能力が求められている訳(わけ)ではなく、普通に健康な若者なら、先(ま)ず不合格になる心配は無かった。徒(ただ)、デスクワークのみの仕事を熟(こな)して不摂生な生活を送り、更に一定の年齢を超えている様だと、合格のハードルは可成り高くなるのだ。
 緒美と直美の検査に際して、岐阜工場への送迎を行ったのは、当然、天神ヶ﨑高校に配置されている社有機なのだが、ECM オペレーターとして F-9 改に搭乗する事になった二人を、飛行機部の金子部長が頻(しき)りに羨(うらや)ましがった事は、まあ、余談である。

 そして月曜日の放課後になると、第三格納庫には兵器開発部のメンバー達がやって来るのだ。その他に、金子を筆頭に飛行機部の幾人かが F-9 改を見学に訪れるのだった。
 第三格納庫の奥側に並べられた F-9 改は、その背部に取り付けられた巨大な複合アンテナ・パネルが特徴である。

「おー、背中に何か付いてる~。」

 開けた儘(まま)の南側大扉から格納庫に入って来るなり、楽し気(げ)に然(そ)う声を上げたのは、飛行機部部長の金子である。
 その声に、最初に反応したのが瑠菜だった。

「ああ、金子先輩。いらっしゃ~い。」

「あれ?そっちの部長は?」

「今日は、まだ、ですね。直(じき)に来るとは思いますよ。」

 そこに、大扉の方からパイロットの樋口が声を掛けて来るのだ。

「おー、金子ー。来てるね。」

「はーい、樋口先輩。お言葉に甘えてまーす。」

 もう一人の整備担当の女性社員と共に樋口は女子寮に逗留(とうりゅう)しているので、同じ学科や同じ部活の後輩達から、歓待を受けたのである。それまで直接の面識は無かった金子と樋口ではあったが、学科と部活が同じで、金子の希望する配属先に所属している樋口であったから、金子がそんな機会を見過ごす筈(はず)はなかった。
 元来、『人見知り』と言う言葉とは無縁の金子だから、樋口と打ち解けるのに大した時間は必要なかったのである。

「樋口先輩、お疲れ様です。」

 傍(そば)まで来た樋口に、金子越しに武東が声を掛ける。

「はい、はい。貴方(あなた)は、武東ちゃん?だっけ。」

 樋口にとって武東は、まだ、印象が薄い様子である。そんな事には御構い無しに、金子は樋口に尋(たず)ねるのだ。

「F-9 の背中の、何です?あれ。」

「え~と…説明しても、いいんでしたっけ?青木さん。」

 樋口は隣に立っている、先輩社員である青木に尋(たず)ねるのだが、流石に青木も即答は出来ずに困り顔である。
 そこで、瑠菜が助言をするのだ。

「金子先輩と、武東先輩、それからあっちの村上さんは、飛行機部の中でも兵器開発部(うち)に協力して呉れてる人なので、大体の事は話してもオーケーですよ。」

「村上さん…あの、眼鏡の子ね?」

 瑠菜は少し離れた場所で茜、ブリジット、そして九堂と談笑している村上を指差し、それで樋口は村上を確認したのだ。

「ゴメンね、来たばっかりだから、まだ顔と名前が一致してなくて。」

「あはは、無理も無いです。」

 明るく笑って、金子は然(そ)う返したのだ。
 それに続いて、樋口が応える。

「それで、何だっけ? 複合アンテナの事だったかな。」

「アンテナですかー。」

 その金子の反応は、理解しているのか、いないのか、良く判らないものだったので、瑠菜が補足するのだ。

「HDG の C号機の、ECM 機能を F-9 に移植した装備ですよ。」

 その複合アンテナは早期警戒機等に見られる回転式の皿形(ディッシュ)アンテナ・フェアリングではなく、高さが一メートル、長さが八メートル程のパネル状の構造物が機軸と並行に、前側には一本の支柱と、後側には二本の支柱で機体背部に、縦向きに搭載されているのだ。HDG-C01 の複合アンテナは二本だが、その二本を合わせた面積よりも、此方(こちら)の方が面積は広いのである。

「これ、アンテナって事は、横向きに電波を出すんですか?」

 そう質問したのは、武東である。
 樋口は一度、頷(うなず)いてから説明するのだ。

「そうだよ。仕様上は正対した状態から、30°以上の角度が必要って事になってるけどね。」

「しっかし、大きいよな~。これだけ面積が有ると、操縦性にも影響が出るでしょう?樋口先輩。」

 その金子の問い掛けに、樋口は青木と一度、顔を見合わせ、そして答えた。

「勿論。元々、F-9 には垂直安定板(バーティカル・スタブ)が付いてないんだから。 アンテナの所為(せい)でヨー方向の安定性が強くなり過ぎて、水平面での旋回や、ロール率(レート)とか、運動性は可成り落ちてるわ。」

「まあ、これで空中戦をやろうって訳(わけ)じゃないからね。」

 青木がフォローを入れた所で、格納庫フロアの二階通路への階段側から、緒美が声を掛けて来るのである。

「青木さん、樋口さん、ご苦労様です。」

 金子達が声の方へと目を遣ると、緒美と直美、そして恵の三人が、 F-9 改の方へと歩いて来ているのだった。

「あー、鬼塚。」

 そう声を上げて、金子は手を振って見せる。
 微笑んで恵が、声を掛けるのだ。

「F-9 改の、お披露目ですか?」

「あはは、ま、そんなとこ。」

 笑って応じる金子の一方で、武東が樋口に尋(たず)ねるのだ。

「そう言えば、結局、この機体は『F-9 改』って名称に決まったんですか?」

「あー、そう言えば。そう云ってる人が、多いのかな? 試作工場では『F-9AE』って云ってませんでした?」

 樋口に訊(き)かれて、青木が記憶を辿(たど)る。

「う~ん。『F-9 ECM』とか、『ECM改』とか云ってる人も居たよな、確か。いいんじゃないか?もう『F-9 改』で。」

「好(い)い加減だな~。」

 そう言って苦笑いするのは、直美である。
 そして、青木が緒美に向かって言うのだ。

「それじゃ、鬼塚君。ECM オペレーションのレクチャー、始めて貰えるかな。」

「はい。それでは、二階の部室の方へどうぞ。」

 本社開発部が急造した操作マニュアルが、なかなかの難読物となってしまった為、仕様を理解している緒美と樹里が解説を加えつつ、直美を含めてマニュアルの読み合わせを行うのが、この日の予定なのである。
 器機の操作それ自体の難易度は、それ程に高いものではないのだが、器機の仕様と機能の意味に関して理解度を深めるには、それなりに時間が必要なのだ。その点に於(お)いて緒美と直美は、青木と樋口に対して一日の長が有ると言えるのだった。

「それじゃ、森村ちゃんと瑠菜さん。立花先生が来たら、明後日の試験準備に就いて打ち合わせ、やっておいて。出来る事が有れば、今日の内から準備を始めておいてね。」

「うん、分かってる。」

 緒美の指示を受けて、恵は微笑んで答えるのだ。

「瑠菜さんも、お願いね。」

「はい、部長。」

 瑠菜の返事を聞いて、緒美は直美と、青木、樋口を連れて二階通路へと上がる階段へと向かったのだ。

 

- to be continued …-

 

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