WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第12話.10)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-10 ****


「自律制御だと、反撃する態勢に迄(まで)も行けないのね。改めて、人が乗ってる凄さが分かるって言うか…。」

 恵の、その素直な感想に対し、緒美が言う。

「人が乗ってたって、完全な素人(しろうと)だったら、あんな物よ。新島ちゃんやボードレールさんは出来る方(ほう)の人だし、天野さんみたいな規格外の人を見慣れてるから、森村ちゃんだけじゃなくて、多分、わたし達は皆(みんな)、その辺りの感覚が麻痺してると思うわ。」

 緒美は、視線を恵に向けて微笑む。恵は少しの間、視線を上に向けて、呆(あき)れ気味に言うのだった。

「そう言われれば、そうかしら。」

「まぁ、そうかもね。」

 直美は恵の後ろから肩に手を回し、笑って、そう言うのだった。一方で、緒美は視線を正面に戻し、Ruby に声を掛ける。

Ruby、どんどん続けて行きなさい。」

「ハイ、シミュレーション第三回戦、開始します。」

 その後、三回戦、四回戦と、Ruby は少しずつ対応を変え乍(なが)ら、シミュレーションを繰り返したが、結局、兵器開発部の一同は、Ruby が勝利する兆(きざ)しすら見出す事は無かったのである。
 Ruby の申し出通りに、自律制御でシミュレーションを一晩中繰り返す事にして、その日は午後八時を前に、一同は格納庫を後にした。


 その翌日、2072年7月31日、日曜日。茜とブリジットの二人が、部室に到着したのは、午前九時の少し前である。
 二人が部室に入ると、既に換気窓が開けられており、誰かが先に来ている様子だった。茜が換気の為に開けられている、奥側の窓から格納庫を見下ろすと、デバッグ用のコンソールの周囲に四人の姿が見られた。緒美と樹里、そして恵と直美である。

「部長~、おはよーございまーす。」

 茜が窓から声を掛けると、四人は振り向き、声は出さずにそれぞれが手を挙げて見せる。茜とブリジットは二階通路へと出ると、駆け足で先輩達四人の元へ向かったのである。

「おはよう。もう少し遅くても、良かったのよ。日曜なんだし。」

 そう、最初に声を掛けて来たのは恵である。

Ruby の様子が、気になったもので。 今、見てるの、昨晩の結果ですよね?」

 茜は恵に声を返すと、続いて樹里に尋(たず)ねた。すると樹里は、躊躇(ちゅうちょ)無く答える。

「そうよ~最終的に、今朝の八時迄(まで)に、百八十三回、シミュレーションを実行したみたい。」

 その樹里の答えに、ブリジットが聞き返す。

「え?昨日の夕方は、一晩で百回位(ぐらい)って言ってたじゃないですか。随分と多いですよね。」

「あはは、だと思うでしょ? ほら、昨日、最初の方は殆(ほとん)ど瞬殺だったじゃない。自律制御で仮想戦を始めて以降、八時間目辺り迄(まで)は、あの調子だったみたいなのよね。」

 樹里に続いて、緒美が一言を添える。

「つまり、一回のシミュレーション時間が短い。」

「ああ、そうか。その分、回した回数が増えたんですか。」

 ブリジットの回答に、微笑んで樹里が言う。

「そう言う事。 で、八時間目以降から、やっと反撃が出来る態勢が取れて来て~最後の最後に、二勝してるわ、LMF が。」

 その発言に対して、少し悔し気(げ)に、直美がブリジットに言うのだった。

「わたしら、Ruby に先を越されちゃったよ、ブリジット。」

「ええ~…。」

 ブリジットが返事に困っていると、茜が直美に言うのだった。

「でも副部長、Ruby が自律制御でロボット・アームを使って勝てる位(ぐらい)になってないと、コックピット・ブロックからの操縦で勝つのは無理ですよ。アームの操作は、コックピット・ブロックが接続されてても、最終的には Ruby の担当ですから。」

「それは解ってるけどさ、天野。 でも何(なん)か、悔しいじゃない?」

 そこで、ブリジットが苦笑いしつつ、直美に言うのである。

「まぁ、副部長。ほら、今日はわたし達も、勝てる確率が上がってるって事ですから。」

「そうそう、そう言う事~頑張ってね、新島ちゃん。」

「あー、その言い方、何(なに)かちょっと癪(しゃく)に障るわね、鬼塚。」

「何よ、応援してるのよ?」

 緒美はニヤリと笑って、言い返すのだった。直美は少しムッとした表情を見せたあと、ブリジットの肩に手を回して言った。

「何(なん)だか悔しいから、今日は十勝、目指すわよ、ブリジット。」

「二人で、ですか?」

「二人、それぞれで、よ。」

「え~、頑張りマス。」

 そこで直美とブリジットの、遣り取りを見ていた恵が、微笑んで声を掛ける。

「頑張ってね~二人共。」

「うん、ありがと、森村。」

 その素直な反応に、緒美が一言。

「あ、森村ちゃんのは、癪(しゃく)に障らないんだ。」

「森村はいいのよ。」

 直美は緒美に、ニヤリと笑い返して見せる。緒美は、それに対しては微笑むだけで、言葉は返さなかった。
 その時、携帯端末の着信音が聞こえて来る。それは、恵の持つ携帯端末からだった。恵は、着ている薄い黄色のワンピースのポケットから携帯端末を取り出すと、そのパネルを操作し応答する。

「はい。…今ですか? 格納庫に居ますけど…あーはい…はい。分かりました~。」

 恵は受け答えをし乍(なが)ら、南側の大扉の方へと歩いて行く。緒美は、恵に声を掛ける。

「どうしたのー?」

 通話を終えた携帯端末をポケットに仕舞い、振り向いて恵は答えた。

「立花先生が、大扉開けてって~。」

「ああ、手伝うよー。」

 直美が駆け足で、恵を追った。茜とブリジットも、そのあとに続く。
 すると、自動車のクラクションが、扉の外から短く響いたのである。

「あー、はいはい。直ぐ開けま~す。」

 直美が外へ向かって、大きな声で答える。
 恵が正面左脇側の壁面パネルで扉の解錠操作を行うと、直美とブリジット、そして茜が大扉の中央を左右へ押し開いていく。大扉の外には、軽トラックが一台、止まっていた。軽トラックが通り抜けられる程に大扉が開かれると、その軽トラックは格納庫の中へゆっくりと進み、LMF の前辺りで停車して、エンジンを止めたのである。ドアが開き、その軽トラックから降りて来たのは、立花先生と前園先生の二人だった。
 先(ま)ず、緒美が前園先生に声を掛ける。

「おはようございます。どうされたんですか?日曜日なのに、前園先生。」

 苦笑いで、前園先生が答える。

「そりゃ、こっちの台詞だ、鬼塚君。キミらこそ、日曜日の朝から、こんな所で何やってるの。」

 その問い掛けには、大扉の方から歩いて来る、直美が答えるのだった。

「あはは、ご覧の通り、部活動ですよー前園先生。」

「それは結構だけどね、幾ら本社からの依頼だからって、日曜日位(くらい)は休みなさいよ。折角の夏休みなんだからさ。」

 そんな苦言を呈する前園先生ではあったが、その表情や語感には、それ程の厳しさは無かった。それは、念の為に釘を刺しておく、その程度の意図からの発言だった。
 そして、緒美がもう一度、前園先生に問い掛ける。

「それで、先生はどうされたんです?今日。」

「ん?ああ、二年生に十名程、補習の必要な奴らがいてな、明日から一週間。今日は、その準備でね。それで、学校に来てみたら、ちょうど、立花先生に捕まって。で、荷物運びの手伝いだよ。」

「朝一番で、荷物が届いたのはいいんですけど。ここ迄(まで)、どうやって運ぼうかと考えていた所に、前園先生がいらっしゃって。本当に助かりました。」

 立花先生は、深深と前園先生に頭を下げる。

「何(なん)です?荷物って…。」

 緒美は軽トラックの荷台の方へ回り、積み荷を確認する。軽トラックの荷台には屋外用の大型扇風機と、中型のスポット・クーラーが、それぞれ三台、既に梱包が解かれた状態で置かれていた。
 大扉の方から戻って来た恵が、立花先生に問い掛ける。

「買ったんですか?これ。」

「まさか、リースよ。あと、本社工場の余剰品。本社の方(ほう)に、手配を依頼してたの。」

 そう立花先生が答える一方で前園先生は、クッション代わりに品物の下に敷かれている潰された段ボール箱を引っ張り、軽トラックの荷台後方へと積み荷を寄せている。茜とブリジットは駆け寄り、荷下ろし作業に手を貸すのだった。

「前園先生、お手伝いします。」

「ああ、すまんね。意外と重いから、気を付けて呉れよ。」

 茜とブリジットは二人掛かりで、段ボールが敷かれた荷台の縁(ふち)を支点に、スポット・クーラー本体を起こすと、ゆっくりと滑らせる様に降ろしていく。荷台から降ろしてしまえば、スポット・クーラーにはキャスターが付いているので、移動は簡単である。
 比較的軽い屋外用扇風機は、直美と恵が軽トラックの荷台側方から持ち上げ、床面へと降ろした。

「よし、扇風機は北側に置いた方がいいだろう。あっち側の方が、幾分気温が低いから。 延長ケーブルのドラム迄(まで)、手配されているのは、流石、抜かりないですな、立花先生。」

「あー、いえいえ。恐れ入ります。」

 立花先生は照れ笑いしつつ、小さく頭を下げた。そして前園先生は、荷台後部のゲートを閉めてロックを掛けると、軽トラックの運転席に乗り込む。

「それじゃ立花先生、わたしはこれ、戻して来るから。」

「はい、ありがとうございました、前園先生。 助かりました。」

 立花先生がもう一度、お辞儀をすると、その周囲に居た一同も頭を下げるのである。前園先生は緒美達を見渡して、言った。

「キミら、若いから元気が有るのは分かるが、余り無理をするんじゃないぞ。」

 そう言ってエンジンを掛けると、「まあ、頑張り過ぎるなよ~。」と言い残して、前園先生は軽トラックを格納庫の外へと向かわせたのだった。
 それと入れ替わる様に、二階通路の階段の方から、佳奈の声が聞こえて来る。

「あ~大きな扇風機だ~。」

 一同が声の方向に目をやると、佳奈を先頭に、瑠菜と維月、そしてクラウディアの姿が有った。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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