WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第5話.10)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-10 ****


「中学に上がる時に、父の仕事の都合で引っ越したんです。それで、四月から通う事になった中学には、知り合いが一人もいなかったんですよね。わたし、見た目がこんな風じゃないですか…それで、誤解されたり、からかわれたりする事は昔から割と有ったので、中学に上がって、人間関係がリセットされて面倒臭いなぁと、思っていたんですけど。 そう言う態度が、女子の一部から反感を買ってたみたいで、結局、クラス全体から無視される様になったんですよね。」

 直美は眉を顰(ひそ)めて聞いていたが、声は発しなかった。ブリジットは、話を続ける。

「徒(ただ)、その時、同じクラスだった茜だけは、わたしに普通に接してくれてて。でも、その所為(せい)で今度は、茜もクラス中から無視される様になったんです。」

「…成る程ね、そう言うお話。それで、どの位(くらい)続いたの?そのイジメみたいなの。」

「無視と陰口が一学期の中頃に始まって…夏休みが終わった頃に、わたしがバスケ部で、一年生でレギュラーに選ばれたので、それを境に無視とか、わたしには無くなっていったんですけど、でも、特別親しい友人が出来た訳ではなくて。 茜の方は、結局、無視と陰口が一年間続きました。勿論、わたしだけは茜と普通に付き合ってましたけど、学期が進んで行く内に、茜の成績がいい事とか、茜のお祖父さんが大きな会社…天野重工の事ですけど、その社長だか会長だかって言うのがクラスで知られて、それから、特に女子達の茜に対する風当たりが、余計に酷(ひど)くなった様でした。」

 直美は不快そうに、溜息を吐(つ)く。ブリジットの独白は、更に続く。

「中二になってクラスが変わって、漸(ようや)く、そんな状況は自然消滅したと言うか。茜には成績上位グループの子達が、話し掛ける様になったので、二年目以降は、理不尽な無視や、陰口は無くなりましたけど。それでも、茜の成績を妬(ねた)んでいる様な子達は、結構、最後まで根も葉も無い噂話を言って回っていたみたいですけどね。まぁ、茜はそんな人達の事は、気にしてなかった様でしたけど。」

「あの子も、案外、苦労してるのね…うん、分かったわ。嫌な事を思い出させて、悪かったわね。」

「いえ…確かに中一の時のクラスは、最悪でした。もしも、茜が居なかったら、わたしはあのクラスでずっと孤立してたと思うし、わたしが居なければ茜があんな目に遭う事も無かったと思うんです。後になって分かったのは、あれは一部の女子が煽っていただけだったらしい、って言う事なんですが。まぁ、それでも他のクラスの子や、部活の先輩とかは普通でしたから。わたしも茜も、クラスの外では、割と普通に過ごせたんですよ。それは幸いでした。」

「あぁ、天野は剣道部だったのよね?」

「はい。」

 その時、インナー・スーツに着替え終わった茜と、それを手伝っていた佳奈が、部室に戻って来た。部室に残っていた二人を見付け、佳奈が声を掛ける。

「あれ、新島先輩に見学ちゃん。お二人で何してるんですかぁ?」

 その声の方向に顔を向けたブリジットは、茜の姿を見て声を上げた。

「何?その格好。」

「これが HDG 用のインナー・スーツ。HDG の接続インターフェースなのよ。」

 茜は、ドレスでも披露するかの様に、クルリと一回りして見せるのだった。しかし、その一方でブリジットは、今一つ、ピンと来ていなかったのである。そんな様子は気にも留めず、直美は席を立った。

「じゃぁ、わたし達も下へ降りましょうか。ブリジット、なたもいらっしゃい。」

「いいんですか?」

「天野の様子を見に来たんでしょ?気の済む迄(まで)、見ていくといいわ。」

 そう言い残すと直美は、つかつかと茜の傍(そば)へと歩み寄って行く。茜の隣に立つと、左手で後ろから茜の左肩を掴んで身体を引き寄せ、直美が言う。

「天野、あなたの事、見直したわぁ。」

 茜は突然掛けられた言葉の、その意味が解らず、徒(ただ)、困惑するのみである。

「はい?何ですか、急に。」

「何でもいいの。さぁ、今日のテスト・スケジュール、熟(こな)しに行くよ。」

 直美は茜の背中を、部室から二階通路への出口へ向かって、ぐいっと押した。そして、振り向いて、ブリジットに呼び掛ける。

「何してるの~ブリジット、こっちへいらっしゃい。」

「あ、はい。」

 ブリジットは慌てて席を立ち、茜達の元へと駆け寄る。茜は二階通路への出口の外で立ち止まり、直美と佳奈を先に行かせてブリジットを待っている。そして二人が合流し、二階通路を階下へ降りる階段へと歩き乍(なが)ら、茜はブリジットに尋ねるのだった。

「ねえ、副部長と何を話してたの?」

「あぁ…寮に帰ったら、話すわ。」

 ブリジットが眼下に駐機されている、LMF の巨体に目を奪われている事に、茜は直ぐに気が付いた。

「凄いでしょう。あれ、HDG の拡張装備なのよ。」

「何?あれは…戦車?」

「LMF って言ってね、あの状態、コックピット・ブロックを接続して有ると、単体でも浮上戦車(ホバー・タンク)として行動出来るの。コックピット・ブロックを切り離して、HDG とドッキングするのが、本来の使い方なんだけどね。」

 そんな茜の説明を聞いても、これも又、今一つ理解出来ていないブリジットである。
 四人は階段を降りると、先に格納庫フロアで準備を進めていた、緒美達の元へと向かう。

「準備は出来てるわよ。早速、初めてちょうだい、天野さん。」

 茜の姿を認め、緒美が声を掛けて来る。

「はい。」

 茜は、HDG のメンテナンス・リグへと駆けて行った。ブリジットは茜の、その声や、表情や、仕草を眼前にして、「確かに、楽しそうだ」と、そう思うのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第5話.09)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-09 ****


「さっき、鬼塚…うちの部長が、秘密とか守秘義務とか言ってたでしょう?」

「あ、はい。」

「多分、天野はあなたに説明するのに、秘密事項に関する内容を省いて話したんじゃない? でも、それだと、どう言葉を選んでも説明不足になるだろうから、だから、あなたには伝わらなかったんでしょ、多分。」

「そうまでして、隠さないといけない事なんですか?」

「そうじゃなくて。 あなたを、守秘義務とかに巻き込みたくなかったんでしょ。知りさえしなければ、秘密も守秘義務も関係無い話だから。」

 直美にそう言われて初めて、茜の今迄(まで)の説明が、どこか要領を得ない物だった事に、ブリジットは気が付いたのだった。考えてみれば、あの利発な茜にしては、それは酷(ひど)く不自然な事だったのだ。

パワード・スーツを開発している事自体は、秘密事項じゃないんですよね?」

「そうね。でも、それが対エイリアン・ドローン用の兵器だ、とかは、わざわざ言って回る事でもないでしょう? そんなの高校生に出来る訳(わけ)無いって、鼻で笑われるのが落ちだし。」

「そうですね。わたしだって、そう思います。」

「よね。でも、大人の知恵を借りれば、高校生にだって出来る事は有るのよ。わたし達…主に部長の鬼塚が、だけど、彼女がアイデアを本社に提供して、本社は技術と資金を提供して、それで対エイリアン・ドローン用のパワード・スーツの試作機が出来上がってる。そこに、本社のどんな特許技術とかが使われているかってのは秘密だし、そのパワード・スーツの仕様や性能とかも秘密事項なのよ。 この話をこれ以上続けると、あなたの守秘義務がどんどん増えるけど、覚悟はいい?ブリジット。」

 再び、真っ直ぐと瞳を見詰めて、直美はニヤリと笑うのだった。思わず、ブリジットは息を呑んだ。

「毒食らわば皿まで、って言うでしょう? あぁ、乗り掛かった船、の方が合ってますか。」

 そう言い返して、ブリジットはクスリと笑った。

「いい度胸ね。わたし、そういうの、嫌いじゃないわ。」

「それは、どうも。…それで、先輩達は茜をどうする積もりなんですか?」

 朗らかな表情の直美に対して、厳しい顔付きでブリジットが問い掛けた。それは、彼女の一番聞きたかった事だった。

「どうって…取り敢えず、今は HDG …あ、パワード・スーツの事ね。その HDG のテスト・ドライバーをやって貰ってるけど。それは、別に先輩風吹かして押しつけた訳(わけ)じゃないの。」

「そうだとしても、何も知らない一年生にやらせる事じゃないのでは?」

「それは誤解よ。天野はこの活動に参加してまだ一ヶ月位(くらい)だけど、今じゃ、発案者の鬼塚の次に、HDG の仕様に就いて理解しているのが、彼女よ。勿論、専門的な内容になると、城ノ内や瑠菜には敵わないけど、それは、まぁ、役割分担ってものだから。 今迄(まで)の様子を見る限り、天野は HDG のテスト・ドライバーとして最適の人材だし、彼女はやるべき事をちゃんと理解した上でやっているわ。」

 ブリジットは直美に返す言葉が、咄嗟に見付からなかった。それは、確かに思い当たる節が、幾つか有ったからだ。そして押し黙るブリジットに、その思い当たる事柄に就いて直美が尋ねて来たので、ブリジットは聊(いささ)か狼狽した。

「天野は可成りのパワード・スーツ・オタクの様だけど、その事をあなたは知ってた?」

 ブリジットは、少し間を置いて、答える。

「…はい。確かに、そう言った SF 物に興味を持っていたのは、知ってました。徒(ただ)、その手の話を聞いても、わたしの方が理解出来ないので、余り突っ込んだ話はした事は有りませんけど…あぁ、茜の家に泊まりに行った時なんかに、その手の映画とかアニメとか、見せて貰った事が有る、その位(くらい)です。」

「そう。因(ちな)みに、あなたと天野、付き合いは長いの?」

「中一の時からです。」

「あぁ…もっと、長いのかと思った。ふぅん…あなた、天野が心配で様子を見に来たのよね? どうして、そんなに心配してるのか、理由を聞いてもいい?」

「…それは…。」

 再び、口籠(くちご)もるブリジット。視線を逸らし、両手を合わせて指先を唇に当てる仕草で、暫(しばら)く考えている様子だったので、直美は声を掛けるのだった。

「言いたくない事なら、無理に答えなくてもいいわ。ごめんなさい。」

「いえ…そうですね。中一の時、わたしが茜に迷惑を掛けたので…今度は茜が変な事に巻き込まれないように、わたしが何とかしてあげたいなって、思っていたから…ですね。」

「変な事って?」

「…あまり面白い話じゃ、ないですよ?」

「構わないわ、聞かせて。」

 もう一度、直美と視線を合わせたブリジットは、一呼吸置いてから話し始めたのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第5話.08)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-08 ****


 そして、放課後。茜とブリジットは滑走路の在る学校の敷地の南側、第三格納庫へと向かう歩道を進んでいた。

「そう言えば、こっちの方へ来たのは初めてだわ。」

「飛行機部と兵器開発部以外の人は、グラウンドより南へは用が無いもんね、普通。」

 そんな会話をしつつ、第三格納庫の北側を東へと進み、格納庫の角を南へと曲がると、二階の部室へと上がる外階段が見えて来る。
 ブリジットは茜に続いて、階段を登って行く。茜が部室のドアを開けると、先輩達と顧問の立花先生、そして、本社から出張して来ている実松課長と畑中が既に来ていた。

「すいません、遅くなりました?」

 茜が入り口に付近に立った儘(まま)、声を掛ける。

「大丈夫よ…あら?」

 茜の声に応えたのは立花先生だったが、早速、茜に背後に立っているブリジットに気が付いた。ブリジットは背が高く、赤毛のポニーテールも、欧米人らしい顔立ちも、兎に角目立つ容姿だったのだから無理も無かった。
 茜はブリジットの右腕を両腕で抱える様にして、彼女を室内に引き込み、横に並んで言う。

「今日、どうしても友達が見学したいって言ってるんですけど、駄目でしょうか?」

 ブリジットは何となく雰囲気に押されて、軽く会釈をする。

「この部活を見学すると、天野重工本社の秘密事項とか色々有って、入学する時に契約した守秘義務だとか、面倒臭い決まり事を守らなくちゃいけなくなるけど、それを承知しているなら、見ていってもいいわよ。」

 緒美は茜から、寮で同室の友人であるブリジットの事は幾度か聞いていたので、「秘密」に関する念押しだけをした。

「はい。ありがとうございます。」

 ブリジットは返事をした上で、もう一度、ペコリと頭を下げるのだった。

「寮で時々見掛けるけど、日本語、大丈夫なのよね?」

 今度は、恵がブリジットに問い掛ける。

「あ、はい。大丈夫です。」

「ブリジットは、日本生まれの日本育ちですから、見た目はこんなですけど、中身は日本人ですから。寧(むし)ろ、英語やフランス語の方が苦手だものね。」

「あ、うん。苦手なのは話す方、です、けど。」

 緊張しているのか、ブリジットの返事が淡泊なので、茜がフォローをしているのである。

「さて、じゃぁ、今日のテストを始めたいから、準備をお願いね、天野さん。」

「はい、じゃ、着替えて来ます。」

 緒美に促され、茜はインナー・スーツに着替える為、ブリジットの傍(そば)を離れて、隣の資料室へと向かう。

「あ、手伝うわ~茜ン。」

「すいません、お願いします、佳奈さん。」

 佳奈が茜の着替えを手伝う為に席を立つと、他のメンバーも準備の為に階下へと向かうのだった。

「あぁ、鬼塚。彼女、わたしが相手しておくわ。」

「うん、お願い。」

 階下へ向かう一同から直美だけが離れ、ドアを背に屈託気(げ)に立ち尽くすブリジットへと歩み寄っていく。

「あなた、お名前は?」

「ブリジット。ボードレール ブリジットです。」

「じゃぁ、ボードレールさん?」

「ブリジットでいいです。」

「そう。じゃ、ブリジットって呼ばせて貰うわね。わたしは新島 直美、一応、この部活の副部長って事になってるわ。」

 直美は部室の中央の長机の方へと移動し、椅子を一つ引いて、ブリジットに向かって手招きをする。

「こっちへいらっしゃい。下の見学をする前に、ちょっと、お話をしたいの。」

「あ、はい。」

 ブリジットは直美の指定した席に座り、その向かい側に直美も座った。

「あなたは、別に、この部活に興味が有って…要するに、入部希望とかで来たんじゃないのよね?」

 直美は真っ直ぐ、ブリジットの目を見詰めて、そう切り出した。それに対して、取り繕う必要性も感じなかったので、ブリジットは素直に答える事にした。

「はい…茜が、この部活で危険な事をしてるって聞いたので、様子を見に来たんです。」

「危険な事?」

「昨日、飛行機部の先輩が見たって、わたしはバスケ部の先輩から聞いたんですけど。」

「あぁ、昨日の、ね。確かに、端(はた)から見てたら危険に見えるわ…成る程。天野…さんは、何て?」

「茜は、危険な事はしてないって言うんですけど、幾ら説明を聞いても、良く分からなくって。」

「そう。…この部活で、天野重工…本社の委託で軍事用パワード・スーツの開発をやってる、っていう話は聞いてる?」

パワード・スーツ云々って言うのは聞いた覚えが有りますけど。本社とか軍事用とかのお話は、初耳です。」

「あぁ~それじゃ、あなたが何度説明を聞いても…っていうより、天野が解る様に説明が出来ないのも、無理もないかなぁ…。」

 直美は腕組みをして俯(うつむ)き、大きく溜息を吐(つ)くのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.07)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-07 ****


「あぁ、瑠菜さん、古寺さん、悪いけどフェンスの応急処置、お願い出来る?」

「はい。じゃ、工具と、自転車取ってきます。行こう、佳奈。」

「は~い。」

 瑠菜と佳奈は取り敢えず、第三格納庫東側外階段の下に駐めてある、自転車を取りに走って行った。

「天野、どうしたって?」

 そして直美が緒美に近寄り、茜の様子を尋ねると、その場にいた一同の視線が緒美へと集まるのだった。

「顔に虫がぶつかって来たのにビックリして、Uターンし損ねたって。」

「何よそれ。」

「あぁ、結構スピードが出てたもんね~。」

「天野さん、怪我はしてないのね?緒美ちゃん。」

「矢っ張り、フェイス・シールドは必要だったって事だよなぁ。」

「あぁ、すみません。試作部(うち)の不手際で…。」

 そんな具合で、その日の稼働試験は中断したのだった。
 自転車に工具を積んだ瑠菜と佳奈が茜の元に合流し、破損したフェンスの具合を確認したのだが、ボルトで固定してあった部分が変形したり、ボルト自体が破損していたり、外れてしまったフェンス自体も湾曲している様子だっりで、簡単には修復出来そうもなかった。本社試作部の畑中も合流し、応急処置の方法に就いて検討したのだが、先ず、フェンス自体の湾曲に就いては、茜が HDG のマニピュレータで、湾曲したフェンスのフレームを矯正する事が出来た。固定に就いては、破損していない両サイドのフェンスに、外れたフェンスを針金で縛り付けると言う事で、応急の処置とされた。この固定作業の際、外れたフェンスを支えたり、位置を調整したり等の力仕事に、HDG が活用された事は言うまでもない。
 その作業の後、茜は先程失敗したホバー走行でのUターンに就いて、幾分か遅い速度での再挑戦を行い、その動作の確認を終えたのだった。

 さて、これは後日談ではあるが、この日に破損したフェンスに就いて、顧問の立花先生と部長の緒美は学校に対して提出する書類を、幾枚か書かされる事となる。そしてフェンスの修理費用に就いては「兵器開発部の予算から捻出」と言う事になったのだが、生徒会予算から獲得していた純粋な部の予算が潤沢な訳(わけ)ではなかったので、本社からの業務委託に対する報酬、要するに緒美を始め全員のバイト代から修理費を支払うと言う事で落着したのだった。

 

 そして翌日。2072年5月18日水曜日。
 朝、教室に入って来る茜の姿を認めると、寮で同室のブリジットが猛然と駆け寄って来た。その剣幕に驚いて身を固くする茜の両肩を、ブリジットは掴んで言った。

「茜、変な事に巻き込まれないように、気をつけてって言ったでしょ!」

「ちょっと、ブリジット、何の話?」

 茜にはブリジットが、どうしてそんなに興奮しているのかが分からず、ただ困惑するのみだった。そこへ、ブリジットと同じく女子バスケ部の西本さんが割って入る。因みに、西本さんは「普通課程」の生徒である。

「朝練で、昨日の天野さんの、飛行場での一件の話を聞いたのよ。先輩にね、寮で飛行機部の人が同室な人がいて、その人が見てたんだって。」

 西本さんの解説で、漸(ようや)く、茜はブリジットの様子がおかしい理由に見当が付いたのだった。

「あぁ、その話なら昨日の夜に話したでしょ。」

「だって、そんな危険な事してるなんて、言わなかったじゃない。」

「そもそも、危険な事なんてしてないし、危険だとも思ってないから、危険だって言う訳(わけ)もないでしょ。」

「何だか訳(わけ)の分からない機械の中に入って、壁にぶつかって行くなんて、危険に決まってるでしょ!」

 確かに、端(はた)から見ればそんな風に見えるのかも知れないとも思った茜だったが、ブリジットの聞いた話は、どうやら『又聞きの又聞き』らしいので、相当の『尾鰭(おひれ)』が付いている様に思われた。

「兎に角、落ち着いてよ、ブリジット。ちゃんと説明するから。」

「…。」

 ブリジットは無言で、両肩を掴んでいた手を放した。徒(ただ)ならぬ雰囲気の二人を、教室に居た他の生徒達も遠巻きに見ている視線にブリジットも気が付き、一度、大きく息を吸った。

「取り敢えず、わたしを見て。何処も怪我はしてないでしょう? だから、先(ま)ず、心配はしないで。それから、もうすぐ授業が始まるから、詳しいお話は、お昼休みにしましょう、いい?」

「…わかった。」

 ブリジットが渋々と言った具合に頷(うなず)くと、西本さんがブリジットの両肩を掴んで身体の向きを変え、背中を押した。

「ほら、取り敢えず、あなたも席へ着きなさい、ブリジット。」

 ブリジットはとぼとぼと言った様子で、自分の席へと戻って行った。その様子を見送りつつ、西本さんが茜に言う。

「彼女、あの話を聞いてから、あなたの心配ばかりしてて、朝練にも身が入ってない様子だったの。ちゃんとフォローしてあげてよね、天野さん。」

「うん、ありがとう、西本さん。」

 西本さんは、ブリジットの後ろの自席へと戻って行った。茜も自分の席に着き、授業の準備を始めたのだった。


 そんな事が有って、昼休み。何時(いつ)も通り、茜はブリジットと共に学食へと行き、そこで昨日の顛末に就いて、昼食を取り乍(なが)ら改めて説明したのだった。だが、相変わらず、茜の話だけではブリジットには兵器開発部の面々が行っている活動の意味が理解出来ず、結局、一度(ひとたび)芽生えたブリジットの心配が解消される事は無かった。
 最終的に、ブリジットは「今日の放課後、兵器開発部での活動を見に行く」と言って聞かず、茜は「先輩達が見学を許可してくれたなら」との条件を付けて、その場を納める事になったのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第5話.06)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-06 ****


「天野さん、その位置をキープして、高度だけ上下出来る?先(ま)ずは、ゆっくりね。」

 ヘッド・ギアのレシーバーから緒美の指示が聞こえるので、茜はリクエスト通りの動作をイメージしてみる。すると、スラスター・ユニットは出力を変化させ、HDG の高度は茜のイメージに合わせて上下するのだった。

「こんな感じですかね、部長。」

 茜はその場で上下動を三度繰り返し、再び高度一メートルをキープした。

「いいわ。じゃ、今度はゆっくりと前進、後退、左右移動、順にやってみましょう。」

「はい。やってみます。」

 ホバリングでの低速前進後退、左右移動は、何方(どちら)も高度をキープした儘(まま)で問題なく実行された。茜は取り敢えず、ホバリングを終了して地面へと降りた。

「低速でのホバリングは、特に問題は無さそうです。樹里さん、其方(そちら)のモニタで何か異常は?」

「大丈夫よ。此方(こちら)でも、今の所は特に問題なし。」

 その時、立花先生が緒美の肩を指先でトントンと叩く。緒美が顔を向けると、立花先生が告げる。

「緒美ちゃん。今日は朝から天気が悪かったから、飛行機部のフライトは予定が無いそうだから、滑走路の使用許可は取っておいたわ。」

「そうですか、ありがとうございます。 天野さん、滑走路の使用許可は先生が取ってくれてるって。高速ホバー試験迄(まで)、やってみましょう。その儘(まま)、誘導路から滑走路へ低速ホバーで移動して。」

「分かりました~。」

 茜は緒美達に向かって手を振ると、先程とは違って、殆(ほとん)ど高度を取らずにスラスター・ユニットでの低速浮上走行で誘導路へと向かう。

「何だか、スラスター・ユニットを今日初めて装備した様には見えんなぁ…。」

 様子を見ていた実松課長が、ポツリと感想を漏らすのだった。

「天野さんはセンスがいいですから。それに、システムの仕様を、ほぼ完璧に把握してくれてます。最高のテスト・ドライバーですよ。」

 ヘッド・セットのマイク部分を左手の指先で塞(ふさ)ぎ、緒美は実松課長へ解説をする。すると、ヘッド・セットに、茜の声が帰ってきた。

「部長、何か仰(おっしゃ)いました?良く聞こえなかったんですけど…。」

「大丈夫よ、あなたが恥ずかしくなる様な事を言っただけだから、気にしないで。」

「えぇ~気になりますよ。何の話をしてたんですか?樹里さんは聞いてましたか?」

「生憎と、わたしも聞いてないわ。部長は実松課長とお話ししてたみたいだけど?」

「悪口は言ってないから、気にしないの、二人共。ほら、テストに集中してね。」

 そう言って、緒美は笑うのだった。


 そんな遣り取りをしつつ、茜は滑走路の東端に到着し、低速ホバーを停止して待機している。

「準備完了、待機中です。」

 緒美のヘッド・セットに、茜からの報告が聞こえる。

「じゃぁ、天野さん。加速し乍(なが)らスラローム走行、滑走路の西端でUターンして戻って来るって感じで、やってみましょう。」

「はい。では、行きます。」

 最初はゆっくりと進み出した茜だったが、膝を軽く曲げて腰を少し落とし、直ぐに加速を強める。ある程度スピードが乗って来ると、滑走路の幅一杯に右へ左へとジグザグに進んで行く。重心の移動と、スラスター・ユニットの協調が上手く一致しているのが、茜にも、離れた所から監視している緒美達にも良く分かった。
 そして、滑走路の西端の手前で、茜の装備する HDG は突然、クルリと向きを変えた、かと思うと、進路は変わらず HDG はスピンし乍(なが)ら、ほぼ真っ直ぐ滑走路西端へと突き進んでいく。茜は元より、その様子を監視していた一同が声を上げる間も無く、滑走路からオーバーランした HDG は、芝生地のオーバーラン・エリアを突っ切り、敷地の境界に立つフェンスを弾き飛ばして、木立の中へと姿を消した。

「うっわ、凄い勢いで突っ込んじゃったけど、大丈夫かな…。」

 誰に言うでも無く、最初に声を上げたのは畑中だった。

「フェンスにぶつかった時、ディフェンス・フィールドのエフェクト光が見えましたから、多分、大丈夫だと…天野さん、聞こえる?怪我は無い?」

 緒美は畑中に答えつつ、ヘッド・セットのマイクを口元に引き寄せ、茜に呼び掛けた。

「…あ、はい。大丈夫です。フェンスにぶつかる前、咄嗟にディフェンス・フィールドをオンにしたので、どこもぶつけてません。徒、フェンス、吹っ飛ばしちゃったのと、木の枝を数十本折っちゃいましたけど…。」

「どうしたの?制御異常?」

「いえ、スピードが上がって来ると、呼吸がし難くって。あと、虫が顔にぶつかってきたのにビックリして、Uターンをやり損ねました。」

 立ち並ぶフェンスが途切れた所で、茜の装着する赤い HDG が動く姿が見えた事で、一同は漸(ようや)く安堵したのだった。茜は、外れたフェンスを拾い上げ、元の位置に戻そうとしている様子だった。

 

- to be continued …-

 

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「HDG-A01 for Poser」進捗・2016.06.11

twitter の方で記事にした件ですが、「HDG-Akane」の手首周りの影響範囲など修正しました。
 主な内容は、手首(Hand)の捻れ(Twist)をしないように、動作範囲でのリミットをプラス・マイナス 0 にして、手首の捻れは肘から下(ForeArm)の捻れで表現する事にしました。関連して動作範囲も以前の設定より拡大しました。これは、手首の捻れと肘から下の捻れを併用する考えだったので、肘から下の動作範囲を少なめにしていた事に対する対応です。
 で、これと同じ対応を「HDG-A01」用のフィギュア、「HDG-Akane-IS」にも同様に適用するわけなんですが。
 製品化している物は肘から下の捻れは、「HDG-A01」との接続リングから下が「ForeArm」として捻れる設定になっている分けなんですが、「HDG-A01」をコンフォームして「HDG-Akane-IS」の「ForeArm」を捻ると、「HDG-A01」の腕ブロックも一緒に回転してしまいます。(下図参照)

f:id:motokami_C:20160611163241j:plain
 そもそも、「HDG-A01」がコンフォームされている「HDG-Akane-IS」の接続リング自体は、ボーン:「ForeArm」が回転してもオブジェクト的には動いていないので、そこに接続されている「HDG-A01」の腕ブロック:「ForeArm」は回転してはいけないのです。
 当時はこれを回避する意味でも、肘から下の捻れと手首の捻れを併用するように考えたような気がするんですが~手首の捻れを封印すると、この辺りの対策をしなければなりません。
 まぁ、手首の捻れを使っていると、手首を捻った上で曲げたり左右に振ったりしても、所用のポーズにならないので~人体の構造通り手首の捻れは使わない方が、理に適っているのかなと思います。
 
 そこで、「HDG-A01」側に「HDG-Akane-IS」の「ForeArm」の捻れを検出して「HDG-A01」の「ForeArm」を逆回転させる ERC を組み込みました。結果が下図参照。

f:id:motokami_C:20160611163302j:plain

 これで、今後は落ち着いてポージングが出来るようになりました。
 各種兵装に附属して製作した、サンプル・ポーズ集の一部、今回の修正が影響する物が有るはずなので、ぼちぼちとそちらも改修しましょうか。
 
 あと、以降の製品で標準搭載化された「ディフェンス・フィールド」のアクティブ時用マテリアルの切り替え ERC を追加搭載。これで、いちいち MAT ポーズを読み込まなくても良くなりました。
 この改修で「HDG-A01」は「Ver. 1.2」となりました。

STORY of HDG(第5話.05)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-05 ****


「それじゃ、天野さん。先ず、垂直跳びからやってみましょうか。」

 茜が格納庫から駐機場へと進んで行くと、緒美からの指示が聞こえた。振り向くと、緒美達は格納庫の大扉付近迄(まで)来て、茜の方を見ている。樹里だけはデバッグ用コンソールの都合で、格納庫内部に残っていたのだが、今回は樹里も緒美と同様にヘッド・セットを装着していた。

「はい、やってみます。」

「あ、最初は軽く、ね。」

「はい。樹里さんの方は、準備いいですか?」

「こちらは、何時(いつ)でもオッケーよ。」

 距離は離れているが、緒美や樹里の声がヘッド・ギアのレシーバーから聞こえて来る。
 茜は、スゥッと息を吸い込むと、少しだけ腰を落とし両脚を揃えて地面を蹴る。HDG が飛び上がった高さは、初起動時に試した結果の半分位(くらい)だった。

「矢っ張り、その装備だと基礎フレームだけの時の、半分位(くらい)みたいね。」

 緒美の声がヘッド・ギアから聞こえて来る。

「こっちの座標計測値から計算すると、30センチ位(くらい)です。」

 次いで、樹里の声。

「もうちょっと、力を入れてやってみます。」

 茜は膝を深く曲げ、腕の振りや全身のバネを使う様に、勢い良く身体を伸ばす。風を切って茜の背丈程の高さに浮き上がった HDG は、「ズン」と重そうな音と共に着地する。茜は膝を曲げて着地の衝撃を吸収し、慣性で舞い上がったスカート状のデフェンス・フィールド・ジェネレータが、少し遅れて駐機場のコンクリート地面にぶつかって音を立てた。

「今のが全力位(ぐらい)?天野さん。」

「いいえ、半分位(くらい)の積もりでしたけど。記録はどの位(くらい)でしたか?樹里さん。」

「そうね…大体、1メートル50センチ位(くらい)。」

「そうですか。全力でもう一回、やってみましょうか?部長。」

「う~ん…いいわ、止めておきましょう。次は、駆け足からダッシュ、急停止迄(まで)ワンセットで。天野さん、あなたのタイミングでやってみて。」

「はい。」

 茜は身体の向きを西側へ変える。上体を前傾させ、走り出せる様に構えた。

「じゃ、行きます。」

 一歩、二歩と早歩き程度の踏み出しから駆け足へと速めていくが、茜に取って装備が重くなった事への変化は、余り感じられなかった。そこで、茜は重心を更に前方へと移し、右脚を強く踏み込む。身体は前方へと強く押し出され、左、右、と踏み込む足が変わる毎(ごと)に歩幅が広がっていく。そして、最後に重心を後ろに移しつつ、両脚で着地した。勢いの付いた身体は直ぐには止まらずコンクリートの上を滑り出すので、転倒しない様に重心を下げつつ身体を捻り、両手を広げる様にしてバランスを保ち乍(なが)ら、低い姿勢の儘(まま)、横向きにスライドしていた。

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 スカート状のデフェンス・フィールド・ジェネレータが地面と接触し、火花を散らせ乍(なが)ら数メートルを滑り、止まった。

「成る程、あの装備で走るってのは、案外と難儀(なんぎ)そうだなぁ。」

 様子を見ていた実松課長が、ポツリと感想を漏らすのだった。

「それでも、慣れれば、あの位(くらい)は動ける様になるんですけど、あの調子で動き続けるのは、矢張り負担が大きいので。だから、スラスター・ユニットが必要なんです。」

 緒美が実松課長と畑中へ解説をする。二人は、黙って頷(うなず)くのだった。

「オーケー、天野さん。フル装備でも、バランス取るのは問題は無さそうね。じゃぁ、スラスター・ユニットのテストに移りましょう。取り敢えずパラメータ、高度制限を一メートルに設定して。」

「はい。スラスター・ユニットのパラメータ…高度制限…はい。変更しました。」

 茜はそう答えると、右手を上げて緒美へ合図を送った。

「先ずは、その場でホバリングをやってみましょう。」

「はい。」

 緒美の指示を受け、茜は自身が空中で停止した状態を、頭の中でイメージする。
 HDG のスラスター・ユニットは思考制御を基本とし、その瞬間の姿勢に応じて安定する様に自動制御が行われる。操縦桿やスイッチ操作の様な直接的な操作は必要無いが、イメージと言う曖昧な入力操作で制御を行う事は、先(ま)ずイメージ検出の精度が、次に検出に対する反応度が制御結果の質を左右する。イメージの強さや正確さ、持続時間の長さ等には、当然、個人差が有るので、それらを検出するセンサーや、解析する回路のチューニングを行うソフトウェアは、天野重工本社の開発部の労作である。とは言え、それはゼロから開発された物ではなく、既に現用浮上戦車(ホバー・タンク)の火器管制システムや、補助操縦システムとして実用化されていた物の発展版なのであった。
 自分の思考に合わせて、スラスター・ユニットに装備された小型ジェット・エンジンの回転数が上がり、推力が増していくのが茜には感じられた。そして、最初に背中が引っ張り上げられる様な感触が、一瞬遅れて腰が引き上げられ、そして足元から押し上げられる様な感覚へと変わった。茜の身体は背中と腰と足の三箇所で HDG に接続されているので、スラスター・ユニットが背部ユニットに接続されているとは言え、単純に背中から吊り上げられている様な感覚にはならないのである。
 スラスター・ユニットは、推力と重心のバランスを保つ為に、ウィング状のエンジン・ユニットが角度を小刻みに調整している。そして茜は、高度制限設定通り、地上一メートルの高さに立っている様な感覚で浮かんでいた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第5話.04)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-04 ****

 

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 茜は指示された通り、モニターの視界を頼りに、三歩、四歩と歩いてみるが、特に問題は無い。すると、スクリーンの視界の中に緒美が現れて、茜の方へと手に持った金属製のパイプを差し出す。

「このパイプ、掴んでみて。天野さん。」

「はい、やってみます。」

「あ、ついでだから、マニピュレータでやってみましょうか。」

「分かりました。」

 茜は右腕のマニピュレータを展開し、目の前の緒美の方へ手を差し出す。スクリーンの視界には自分の手が映っているので、視覚を頼りに位置を修正してパイプの先へとマニピュレータを誘導する。最初は感覚と視界との間に微妙なズレを感じたが、それも直ぐに気にならなくなった。茜は、自分の手でパイプを握る様に、マニピュレータでパイプの先端を握る事が出来た。

「位置合わせは、それ程、苦じゃないですけど。フィードバックが無いから、握り具合の調整が難しいですね。練習しないと。」

「あぁ、柔らかい物をマニピュレータで扱う事は、始めから想定してないしね。その為の、素手が露出するデザインだから、まぁ、問題は無いでしょう。」

「そうですね。」

 茜は握っていたパイプを離すと、マニピュレータを格納した。

「それじゃ、その儘(まま)、ディフェンス・フィールドの起動もやってみましょうか。みんな、ちょっと離れてね。」

 緒美は茜の周囲に居た人達に、下がるように手で合図する。合わせて、茜も周囲に物が無い、空いたエリアへと歩いて移動して、実松課長を始め、茜の近くにいた数人が凡(およ)そ五メートル程(ほど)の距離を取った。

「天野さん、じゃぁ、やってみて。」

「はい。ディフェンス・フィールド起動します。」

 これも思考制御で、茜はディフェンス・フィールドの起動コマンドを入力する。ディフェンス・フィールド・ジェネレータの内側が青白く発光するが、外からの見た目では変化は分からない。だが、間も無く想定外の変化が現れたのだった。
 ヘッド・ギアのフェイス・シールド内部スクリーンが、突然、映らなくなったのだ。

「あれ?トラブルです。視界が…モニターが消えました。樹里さん、そちらでエラー・コード、何か出てます?」

 デバッグ用のコンソールに就いていた樹里は、少し操作をして確認するが、それらしい反応は見当たらなかった。

「いいえ、エラーは出てないみたいだけど。ディフェンス・フィールドの電磁場干渉かしら? ちょっと、フィールドをオフにして見て。」

「はい。やってみます…あ、モニター、映像が復帰しました。もう一回、フィールドを上げてみますね…あ、又、消えました。矢っ張り、ディフェンス・フィールドが関係しているのは間違いなさそうですね。」

「おい畑中君、映像回路のどこか、シールドが上手く出来て無いんじゃないのかい?」

「ええっ、そりゃマズイなぁ…。」

 実松課長に言われ、慌てて茜の元へ畑中は駆け寄っていく。

「あっ、畑中先輩!駄目です。」

 緒美は声を上げるなり、手に持っていた金属パイプを茜に向かって投げつけた。畑中の背後から飛んできた金属パイプは、彼の目の前で HDG-A01 のディフェンス・フィールドに接触し、青白いスパークを残して跳ね返る。

「うわっ!」

 畑中が立ち止まると、その足元にパイプが転がって来たのだった。

「ディフェンス・フィールドへの、人間の体当たり実験とかやってませんから、どうなるか分かりませんよ。原理的に、感電とかはしないと思いますけど、火傷(やけど)位(ぐらい)はするかも知れませんから。 他のみんなも、気をつけてね。」

 足元に転がって来た金属パイプを拾い上げ、畑中は溜息を吐(つ)いた。

「いや、うっかりしてた。ゆっくりなら、いいんだっけ?」

「ゆっくりでも、人は近づかない方がいいと思います。」

 緒美は微笑(ほほえ)んで、答えた。

「取り敢えず、フィールドをオフにしますね。」

 茜は、ディフェンス・フィールドを解除して、ヘッド・ギアのフェイス・シールドを上げる。

「瑠菜さん。前のヘッド・ギア、持って来てちょうだい。」

「はい、部長。」

 現在、茜が装着しているフェイス・シールド付きのヘッド・ギアは、フェイス・シールドの開閉機構の都合も有り、新規製作の物だった。これ迄(まで)のテストで使用していたヘッド・ギアは、部室に保管して有ったので、それを瑠菜が取りに行ったのだ。
 間も無く、瑠菜がフェイス・シールドの無い、初期型のヘッド・ギアを手に階段を降りて来る。駆け足で茜の元へ行くと、ヘッド・ギアを茜に手渡した。

「じゃぁ、こっちと交換してみてね。」

 瑠菜が、茜の装着していた新型ヘッド・ギアを外すと、茜は既に使い慣れた感の有る、初期型ヘッド・ギアを自ら装着した。

「こっちのヘッド・ギアで、ディフェンス・フィールドの反応を試してみますから、離れててくださいね、瑠菜さん。」

 瑠菜が傍(そば)から離れるのを確認した茜は、ゴーグル型のスクリーンを降ろしてから、ディフェンス・フィールドの起動を行った。そして、スクリーンの表示を何度か切り替えて、ステータスを確認する。

「あぁ、こっちだと大丈夫ですね。表示は消えません。」

「良かった。じゃぁ、今日はそっちのヘッド・ギアでテストを続けましょう。」

「悪いね。新型は持ち帰って、修正するよ。」

「お願いします。」

 瑠菜は手に持っていた新型ヘッド・ギアを、畑中へと手渡す。

「じゃぁ表へ出て、フル・バージョンでの運動試験、やってみましょうか、天野さん。」

「はい。」

 茜は南側の大扉へと向かって、歩き出した。透かさず、佳奈が駆け足で大扉へと先回りし、大扉を押し開ける。

「あ、佳奈さ~ん。ありがとうございま~す。」

 手を挙げて、茜がお礼を言うと、佳奈も大きく手を振って答えて見せるのだった。
 茜は HDG を装着したまま、一歩一歩、格納庫南側の大扉へと歩いて行った。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.03)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-03 ****


 五月の連休中から、既に十数回のテスト運用を繰り返していたので、HDG への接続については幾分慣れた感覚を覚えていた茜だったが、各部に デフェンス・フィールド・ジェネレータが取り付けられた現在の姿には、違和感を感じずにはいられなかった。とは言え、手順には何ら変わりは無い。茜は、HDG-A01 へ自身のインナー・スーツを接続してロックし、ヘッド・ギアは傍(そば)に控えていた佳奈が装着してくれた。
 今迄(まで)と違うのは、ここからである。

「天野さん、じゃ、スラスター・ユニットを起動して。」

 緒美がヘッド・セットを介して、指示を出して来る。

「はい。スラスター・ユニット、起動シークエンス開始。一番始動モーター、スタート。」

 スラスター・ユニットは、HDG-A01 の背部に取り付けられた、二枚の板状の推進機関である。片側のケースの内部に小口径のジェット・エンジンが二基装備されており、前部のインテークから吸引した空気を燃焼ガスと共に後部の二次元ノズルから噴射して推力を得る。因みに、ジェット・エンジンの燃料は、この時代では一般的な燃料となっている、水素である。
 スラスター・ユニットは推進機関であると同時に、HDG が稼働する為に必要な電源でもあり、これが稼働している間はバッテリーに頼らず HDG は稼働が可能となる。
 メンテナンス・リグに接続されている状態では、HDG はメンテナンス・リグを介して地上から電力を得ている。その状態でスラスター・ユニットを起動し、必要な発電量を得てから地上電源を切り離すと言う手順は、LMF と同様だ。

「スラスター・ユニット、起動完了。スロットル・ポジションはアイドルで、電圧は規定値へ。メンテナンス・リグ、切り離しオーケーです。」

 茜は胸元から顔の前面に立ち上がっているディスプレイを確認し、ステータスを読み上げる。茜の背部上方、床面とに対して、ほぼ平行状態にセットされたスラスター・ユニットからは、小型ジェット・エンジンの稼働する甲高い回転音が、それ程大きな音ではないが聞こえていた。

「じゃ、リフトを降ろして、切り離すわね。」

 瑠菜がそう声を掛けて、メンテナンス・リグのコンソールを操作する。間を置かず、宙に浮いていた HDG-A01 は床面に降ろされ、接続ボルトが解放された。
 すると、床面と平行になっていた二枚のスラスター・ユニットは、バランスを取る為、九十度回転して茜の身体と平行に向きを変えた。同時に、腰部後方の接続ボルト支柱に装備されているスタビライザも、バランスを取る為に角度を変えるのだった。このスタビライザにバッテリーが取り付けられている。
 茜は、胸元へディスプレイを格納してヘッド・ギアのスクリーンを降ろし、三歩ほど歩いてメンテナンス・リグから離れると、立ち止まった。その位置で、腰を捻ったり、腕を軽く上げ下げしたりして、フル装備状態の HDG 装着感を確かめた。

「何か違和感は有る?」

 緒美が問い掛けて来るので、少し考えてから茜は答えた。

「いえ。特には…無いですね。大丈夫みたいです。」

「スラスター・ユニットが接続されてるけど、バランスは取り辛くない?」

「それも大丈夫です。でも、後ろに仰(の)け反(ぞ)ると、転んじゃいそうになります…ね。」

 茜は敢えて、背筋を反らして、バランスの限界を確かめてみた。

「茜ちゃん、マニピュレータが作動するかどうか、ちょっと試してみてくれないかな。」

 リクエストの為に大きな声を出したのは、実松課長だ。

「はい。」

 茜は両肘を九十度位(ぐらい)に曲げ、両手を顔の前程の高さ迄(まで)上げた。その位置で、両腕に装備されたマニピュレータの、展開命令を思考制御で入力してみる。
 すると、腕ブロックの外側が前方にスライドすると同時に、格納部先端が開いてマニピュレータが迫り出し、指が展開する。マニピュレータの指は茜の指と連動し、茜の指の動きをトレースする。茜は両手を握ったり、開いたりして、マニピュレータの動きを確認し、一度、左右のマニピュレータを収納した。。

「大丈夫ですね。ちゃんと動作、連動してます。」

 茜は実松課長へ向かって、サムアップをして右手を突き出し、もう一度、右手のマニピュレータを展開する。当然、右手のマニピュレータも茜の右手に連動して、サムアップをしている。

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 実松課長はニヤリと笑って、茜にサムアップを返すのだった。

「じゃぁ茜君、今度はフェイス・シールドを試してみてくれないかな。」

 実松課長の隣に立っていた畑中が、手を振りながら茜にリクエストを送った。

「は~い。やってみます。」

 右手のマニピュレータを格納し、同様に思考制御で茜はフェイス・シールドの操作を入力した。額の部分に上げられていたシールド・ブロックが、先(ま)ず鼻の位置まで下がり、そこから口の部分を保護するシールドが更に下りて来る。第一段のシールド・ブロックに因り直接の視界は遮(さえぎら)られるが、内部に有るゴーグル式スクリーンに外界が表示される事で視界は確保されている。

「天野さん、じゃぁ、そのまま歩いてみて。」

 緒美の指示が、ヘッド・ギアのレシーバーから聞こえて来た。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.02)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-02 ****


 その後、茜と瑠菜を除いて、一同は格納庫フロアへ下りて行った。茜はインナー・スーツへと着替えて、瑠菜がそれを手伝い、少し遅れて階下へと下りて来た。

「お待たせしました~。」

 階段を降りて来た茜は、メンテナンス・リグに接続された HDG-A01 の周りに立っていた一同に声を掛ける。同時に、装甲の様なディフェンス・フィールド・ジェネレータを装備した、フル・バージョンの HDG-A01 の姿が、茜の目に飛び込んで来た。それには、並べて駐機されていた LMF と同じ様な、赤色主体のカラーリングが施されていた。

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 そして、HDG-A01 の背部にはスラスター・ユニットが、既に接続されている。
 茜は、メンテナンス・リグの前に立ち、しばし、黙って機体を眺めていた。
 その傍(かたわ)らで、緒美が畑中に尋ねる。

「畑中先輩、スラスター・ユニットの運転試験は?」

「終わってるよ。リクエスト通り、50%出力で百時間連続運転はクリア。そのあとオーバーホール迄(まで)やって、パーツの消耗レベルも規定値以内を確認済み。運転試験のデータは、立花…先生に渡してあるから。」

「分かりました。…天野さん、どうかした?」

 無言で HDG-A01 を眺めている茜に、緒美が声を掛けた。茜はちょっと微笑んで、口を開く。

「いえ、改めて実物を見ると、何だかドレスっぽいなぁ~って。」

「あぁ、組立やってた試作部では、『ヘビィ・ドレス』って呼んでたよ。」

 畑中が口を挟んで来ると、それに緒美が反応した。

「『HDG』の『HD』ですか?」

「そうそう。」

「じゃぁ、『G』は?」

 その会話に、参加して来たのは恵である。そして、実松課長が答えた。

「そりゃ、『Girl』になるんじゃないかな?」

 それを直美が拾って、言った。

「それじゃ、『Heavy Dress Girl』で『HDG』ですか。」

「あはは。防衛軍が付けた『ハイパー何とかギア』って物騒なのよりは、『ヘビィ・ドレス・ガール』の方が可愛くていいじゃない。改名しましょうよ、立花先生。」

 そして、恵が立花先生へ、話を振るのだった。

「別に、会社的には『HDG』は『HDG』でしかないから。あなた達は、好きに呼んだらいいわ。」

 立花先生は、こう言った話題に興味は余り無い様子でその場を離れ、茜の背後の作業机の上に置いてあった改修型のヘッド・ギアを取って来て、茜に渡した。

「ヘッド・ギアの改修型も、届いているのよ。」

 初期型ではゴーグル型のスクリーンしか取り付けられていなかったのだが、それだと地上で高速機動する際に、虫や砂埃等(など)が顔に当たったり、風圧で呼吸がし辛くなる事が想定されたので、顔全面がカバー出来るフェイス・シールドを追加する要望を、茜が提案していたのだった。勿論、フェイス・シールドを下ろした際は、内側のゴーグル型スクリーンに外界の状況が投影されて視界を確保出来る様になっている。
 茜は手渡された改修型ヘッド・ギアの、追加されたフェイス・シールド部に大きく「茜」の文字がペイントされているのに気がついた。

「先生、これは…。」

 茜はヘッド・ギアの「茜」の文字を指差して、立花先生に尋ねるのだった。

「さぁ…そう言えば、ドライバーの名前を、以前、試作部の方から聞かれた事が有ったけど。…畑中君、知ってる?」

「あぁ、それ。飯島さん…カラーリングのデザイン担当からのプレゼントみたいな。デザイン的に、そこに何か文字を入れたかったんだってさ。…気に入らなかったかな?」

「ああ、いえ。何だか、私物化しちゃってるみたいで、いいのかな?って思っちゃって。」

 恐縮して茜は、慌てて畑中に答えるのだった。

「いいんだよ。詳しい経緯(いきさつ)は知らないけど、会長のお孫さんがテスト・ドライバーになったって聞いて、試作部的には結構盛り上がってたんだよ~中途半端な物は作れねぇぞっ、てね。」

「そりゃ、開発部(うち)だって同じさぁ。」

 畑中に同調して、実松課長もそう言って笑うのだった。
 そんな様子を見て、直美は立花先生に、耳打ちする様にして尋ねる。

「会長って、理事長の事ですよね?…社内では、そんなに人望が有る人なんですか?先生。」

 立花先生は直美の方へと視線を送り、黙って頷いた。
 茜は実松課長と畑中に向かって、ペコリとお辞儀をし、頭を上げると緒美の方へ向き直り、言った。

「さぁ、じゃ、試運転、始めましょうか。」

 緒美は静かに頷くと、周囲に号令を掛ける。

「HDG、起動準備。城ノ内さん、試運転のログを取る準備、お願いね。」

 瑠菜はメンテナンス・リグへ、佳奈は搭乗用のステップラダーを、樹里はデバッグ用コンソール、それぞれが HDG の起動に向かって準備を始めた。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.01)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-01 ****


 茜に因る HDG-A01 初起動でのトラブルは、樹里の解析と対処に因って、取り敢えず解消された。それは、五月の連休中にも関わらず、本社・開発部のサポートが有った事も要因ではあるが、ともあれ HDG-A01 の茜に因る装着運用テストは再開され、茜の HDG 装着に対する慣熟が進むのと同時に、仮設定だったパラメータ値が順次整理されていった。
 そんな折、本社への HDG-A01 の返送が決定される。予てより設計、試作が行われていた HDG-A01 の外部装甲である、ディフェンス・フィールド・ジェネレータ一式の製作が終了したのだ。
 追加パーツ一式を天神ヶ崎高校へ送り、現地での改造工事を行う方法も考えられたのだが、その工事内容が配線の追加所(どころ)ではなく、一部基礎フレーム交換の必要も有った為、本社試作工場へ送り返してのオーバーホールを実施する事になったのである。そして、2072年5月9日月曜日、HDG-A01 はメンテナンス・リグに接続された状態で本社が手配したトランスポーターに積載され、本社試作工場へと送り出されたのだった。

 それから凡(およ)そ一週間後、2072年5月17日火曜日。朝から降り続いていた雨が、昼過ぎに漸(ようや)く上がった、そんな日の放課後。部室へと一人向かっていた茜は、その途中で緒美と恵、そして直美の三人と出会(でくわ)したのだった。そして、茜は三年生達と共に、部室へと向かった。
 第三格納庫東側の外階段を登り、入り口前の踊り場に立つと、既に誰かが部室内に居る気配が有るので、「立花先生だろう」と見当を付けて緒美がドアを開いた。すると、室内では予想通りの立花先生が、天野重工の作業着を着た年配の男性と、同じく作業着姿の若い男性と談笑中だった。

「あら、実松(サネマツ)課長。今日は、どうされたんですか?畑中先輩も。」

 二人の姿を認めた緒美が、先(ま)ず、声を掛けた。

「おぅ、部長さん。邪魔してるよ~。」

 年配の男性、実松課長が、被っていた作業帽を右手で持ち上げ、一振りして又、白髪頭へと戻した。

「HDG-A01 のフル・バージョン、搬入しておいたから。試作部代表で、試運転に立ち会わせて貰うよ。」

 若い方の男性、畑中は右手を振りつつ、そう言った。因みに、彼が「先輩」と呼ばれるのは、天神ヶ﨑高校の卒業生だからであるが、緒美達と在校期間が重なっていた時期が有る訳(わけ)ではない。

「わたしは開発部、設計課代表という訳(わけ)だ。」

 畑中に続いて、実松課長が付け加えた。
 すると、緒美の後ろから、恵がニコニコ顔で言う。

「わざわざ、課長がいらっしゃらなくても良いでしょうに。」

「ハハハ、こんな面白い仕事、他の奴に任せられるかい。」

 笑い乍(なが)ら、実松課長が恵に答えた。そして、黙って様子を窺(うかが)っていた茜に気が付いた実松課長は、彼女に声を掛ける。

「あぁ、あなたが会長のお孫さんか。ハハハ、確かに、薫ちゃんにそっくりだな。」

「薫ちゃん?」

 唐突に出た、知らない名前に、緒美は実松課長へ聞き返した。が、それには茜が答える。

「あ、母の名前です。…実松、課長さんは、母をご存じなんですか?」

「あぁ、知っとるよ~。と言っても、わたしが知ってるのは、小学生位(ぐらい)の頃だけどね。よく、工場(こうば)の方へ遊びに来てたんだよ。」

 唐突な話の展開に、立花先生が向かいに座っている実松課長に問い掛ける。

「それって、何時(いつ)頃の話ですか?」

「何年前になるのかな。なにせ、天野製作所時代の話だから。」

「実松課長はその頃から、この会社に?」

「あぁ、わたしは天野製作所、創業当時からのメンバーだからね。」

 実松課長と立花先生の遣り取りを聞いていた直美が、思わず口を挟む。

「だったら、今頃、重役になってる筈じゃ…。」

「ハハハ、わたしはデスクでスケジュールの管理や、金の計算ばっかりやってるのは好かん。現場で図面描きを、ずっとやらせてくれって、社長に頼み込んだもんだから、出世も定年もしないで課長止まりなのさ。」

「そんなお話、初耳ですよ、実松課長。畑中君は知ってた?」

 意外な話を聞いて慌てたのは立花先生である。実松課長の隣に座っていた、畑中にも確認をする立花先生だった。

「いえ、わたしも初耳です。」

「そうりゃ、そうさ。こんな話、滅多にしないもの。この事を知ってるのは、今の若い部長さん達でも少ないだろうな。」

 そう言って、実松課長は又、大きな声で笑うのだった。
 そうこうする内、茜たちの背後で部室のドアが開くと、瑠菜達、二年生組が部室に入って来たのだが、実松課長の姿を見つけた佳奈が、そして瑠菜が声を上げた。

「師匠~。お久し振りです。」

「師匠、今日はどうされたんですか?」

 佳奈と瑠菜の二人は、茜の脇を擦り抜けて、実松課長の傍(そば)へと駆け寄るのだった。

「師匠?」

 茜は緒美に、小声で問い掛けた。緒美は茜に、耳打ちをする様に答えた。

「あの二人に CAD 製図の特訓をしてくれたのが、実松課長なのよ。去年の夏休み。」

「あぁ、成る程。」

 実松課長は駆け寄って来た瑠菜と佳奈の二人に、声を掛ける。

「おぅ、HDG-A01 のフル・バージョンの納入と運転試験の立ち会いに来たんだが、二人共、元気そうだ。最近の図面も見せて貰ってるけど、腕、上げたなぁ。すぐにでも、うちの課に欲しい位(ぐらい)だ。」

 そして又、機嫌良さ気(げ)に笑う実松課長であった。

 

- to be continued …-


※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG (第4話) Pixiv投稿しました。

「STORY of HDG」の第4話まとめ版、Pixiv へ投稿しました。
第5話は、現在、第11回掲載分を打ち込み中。第5話の掲載開始まで、もうしばらくお待ちください~。

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第4話・立花 智子(タチバナ トモコ)」/「motokami_C」の小説 [pixiv] http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6850523

「HDG-Akane-IS for Poser」進捗・2016.05.20

久方ぶりの進捗。
 「HDG-Akane」が Ver.2 化してから久しいのですが、ようやく「HDG-Akane-IS」の方も Ver.2 仕様に改修しました。
 

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 作業的には、Head のジオメトリを Ver.2 の物に交換。併せて、モーフ・データを該当版に入れ替え。唇を独立マテリアルに指定し直して、マテリアル設定を追加。後は、Collar と Chest のパーツ割りを Ver. 2 仕様に直したので、ウィエイト・マップを再指定し影響範囲を調整してあります。
 それから、親指の付け根:Thumb1 のメッシュ割を Ver.2 仕様に改修してあります。
 
 サンプル画像ではヘアー・セットを DH バージョンに交換してみました。
 
 次の作業は HDG-A01 の Ver. 2 化作業か、立花先生のフィギュア・セットアップか。どうしましょう。

STORY of HDG(第4話.17)

第4話・立花 智子(タチバナ トモコ)

**** 4-17 ****


 本社での会議が終わってから、凡(およ)そ二週間。「準備が整う迄(まで)、会議で決まった内容を緒美には伝えないように」とのお達しだったので、智子の足は、何と無く部室から遠のいてた。だから、緒美とも顔を合わせてはいなかったのだが、それならその間、智子は退屈していたのかと言うと、それはそうでもなかった。
 天神ヶ﨑高校から本社の技術データベースにアクセスする為の仕掛けに就いて、本社のシステム管理者からの問い合わせが有ったり、天神ヶ崎高校のネットワーク環境を調べたりと、新たに発生した雑用を、それなりに熟(こな)さなければならなかったので、退屈している暇は無かったのである。ここ数日は、HDG 案件作業を本社から外部委託する事に関して、細かい事務内容の連絡や書類仕事が企画部から回って来ており、それらを処理するのに手間を取られていた。

「こんなに手間を掛けておいて、鬼塚さんが嫌だって言ったら、どうするのかしら?」

 これは、わたしに対する脅迫かも知れない…そんな風にも思う事も有った智子だったが、「無理強(むりじ)いする必要は無い」と言った天野会長の言葉を信じる事にして、深く考えるのは止めにした。

 そんな具合で日日(ひにち)は過ぎて、2070年5月30日金曜日。午後になって、智子の居室のドアがノックされる。

「どうぞ。」

 智子の返事を聞いてドアを開け、姿を現したのは、天野会長…理事長の秘書、加納氏だった。

「こんにちは。立花先生に、本社から、お届け物です。」

 加納氏は手に持っていた、小さな包みを智子へと差し出す。その包みには、運送業者が使用する様な送付伝票の様な物は貼り付けられてはいなかった。智子は、受け取った包みを二度、三度と、ひっくり返しては宛名書きとか、送り状の様な物が無いかを確かめたが、矢張り、その様な物は無かった。
 智子には、その中身に就いては見当が付いていたのだが、それがどの様に送られて来たのかが、気に掛かっていた。

「あの…これ、会長宛てに届いたんですか?」

「いえ。理事長の指示で、わたしが本社まで取りに行って来たんですよ。郵便や宅配業者で送る訳(わけ)にはいかない、貴重品だと聞いてます。本社の飯田部長からは、立花先生に直接手渡すように、と言われましたので。」

「あぁ、社用機で…。」

「はい。では、確かにお届けしましたよ。失礼します。」

「あ、はい。ありがとうございます…あぁっ、あの。受け取りのサインとか…。」

「いえ。これに就いては、特にその様な物は有りません。あ、飯田部長か影山部長に、受け取った旨、報告だけしておいていただければ。では。」

 加納氏は一礼すると、ドアを閉め、立ち去ったのだった。
 智子は包みを解き、中身を確認する。それは案の定、本社の技術データベースにアクセスする為の、メモリーキーだった。

「とうとう、届いちゃった…か。」

 この時点でまだ、智子には緒美を自分の仕事に巻き込んでしまう事に、躊躇(ためら)いを感じていた。でも、後は緒美の気持ち次第なのだと思い直し、今日の放課後、それを確かめようと心に決めた。


 そして、その日の放課後。智子は緒美と、そして偶然その場に居合わせた恵と直美と、部室で面談する事になる。
 結果として、緒美は本社、企画部の提案を引き受け、緒美の友人二人も部活に参加する事になったのである。智子は、面談を終えると三人を残して、先に部室を後にしたのだった。
 部室のある第三格納庫の外階段を降りると、自分の居室がある事務棟へ向かう歩道を歩き乍(なが)ら、智子は携帯端末を取り出した。そして、通話要請を影山部長の携帯端末へと送信する。

「あ、立花です。今日の昼過ぎに、会長秘書の…ええ、加納さんですか?…はい、受け取りました。…ええ、それで、さっき鬼塚さんに渡して来た所です。…はい、彼女、断りませんでしたよ。…はい。では、失礼します。」

 影山部長は「期待してるよ」と言っていたが、それが本気なのか、社交辞令なのか、智子には判断が付かなかった。状況は自分が望んだ方向に進んでいる…その事にはワクワクする様な楽しさを感じていた一方で、緒美達を巻き込んでしまった事の責任を考えると、今迄(まで)の他の仕事とは、何か違う種類の緊張感を智子は感じずにはいられなかったのである。

 こうして、智子の仕事好きが高じて始まった天神ヶ崎高校・兵器開発部での HDG 開発が、後に日本のみならず人類の命運を決める事になろうとは、この日の智子に想像など出来る筈(はず)も無かった。
 そんな未来とは無関係に、その時ふと見た、眩しい程の夕日が、何故か智子の心に何時(いつ)迄(まで)も残ったのである。

 

- 第4話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第4話.16)

第4話・立花 智子(タチバナ トモコ)

**** 4-16 ****


「会長。もしも、鬼塚さんが、こんな大きな話に関わる事を躊躇(ちゅうちょ)する様でしたら、どうしましょう?」

 智子は、緒美が本社の真意を疑う可能性を、否定出来なかった。当面『反攻作戦』に就いて明かす事は出来ないし、その詳細は自分も知っている訳(わけ)ではない。そうすると、何故、本社が現時点でビジネスになるかどうかも分からないパワード・スーツの開発に、学生の身分である緒美を参画させるのか、誰が聞いても納得出来る様な説明は出来そうもなかった。いや、『反攻作戦』の事実を明かしたとしても、「彼女のセンスに期待して」と言う理由では、「胡散臭い」と思うのが普通だろう。この時点で、智子は、緒美にどう説明したらいいのか、見当が付かないでいた。

「心配しなくてもいいよ。責任は、我々大人が持つ。あのレポートを読んだから、我々も彼女のセンスに期待して、それに賭けてみようと思ったのに過ぎない。本人が望まないなら、無理強(むりじ)いをする必要は無いよ。その時は、我々大人が、汗をかくだけの事だ。」

 天野会長は、そう言って笑うのだった。

「分かりました。天野さんには、その様に伝えたいと思います。」

 智子が天野会長に、そう答えると、片山社長が影山部長に向かって言う。

「影山君。彼女…鬼塚君が、この件を受ける様だったら、この業務は企画部からの委託と言う形で。防衛軍から依頼されている HDG 案件に、予算付けはしてあるんだろう? その枠で進める、と言う事にして呉れ。業務形態とか工程管理とか、細かい所は関連部署と協議して、キミの方で決めて呉れて構わないから、報告だけは上げて呉れ。」

 それは片山社長から影山部長への、「あとは宜しく」と言う指示であった。

「分かりました。」

 影山部長は自分のノートに、三行程のメモを取ると、パタンと閉じるのだった。
 次いで、飯田部長が発言する。

「じゃ、技術データベースに就いては、こっちで手配しておこう。一、二週間は掛かるかな?仕掛けを作るのに。その辺りの準備が出来たら知らせるから、それ迄(まで)、彼女の方へは、今日の会議の内容は伏せておいてね、立花君。」

 智子は、飯田部長に聞き返す。

「どうしてでしょうか?鬼塚さんが拒否したら、本社側の作業が無駄になるんじゃ…」

「いや、全部準備が整ってから伝えた方が、本社側の本気度が彼女に伝わるだろう?」

「逆に、脅迫みたいになりませんか?」

「それは、キミの伝え方次第だ。こちらには恩に着せる気も、脅迫する意図も無い。そこは上手く伝えて呉れないかな。」

「…分かりました。」

「宜しく頼むよ。 さて、では。他に何か、質疑、連絡事項の有る方は?」

 飯田部長が会議の終了を確認するのだが、議事の続行を望む声は無かった。

「では、本日は、これにて終了。最初に言いました通り、本日の会議に就いては正式な議事録は残りませんので、その点、宜しくお願いします。」

 部長達は、それぞれが席を立つ。影山部長は小峰課長に声を掛け、何やら話している様だったし、大沼部長と坂本部長は、お互いのメモを交換している様子だった。片山社長と飯田部長は、天野会長に挨拶をした後、二人連れ立って早々に会議室から出て行ったのだった。
 そして、智子が席を離れようとした時、天野会長と秘書の加納氏が歩み寄って来た。

「立花君、今日はご苦労だったね。天神ヶ崎からだと、時間が掛かっただろう?」

「はい、まぁ。」

「我々は社用機で帰るんだが、キミも同乗するかい?」

 その話を聞いて、学校の滑走路は、そう言う事にも使っていたのかと、改めて気付いた智子だった。

「あ、いえ。お話は有り難いのですが。」

「何か、この後、予定が有ったかな?」

「はい。折角、此方(こちら)に来ましたので、このあと、実家の方に顔を出しておこうかと。」

「あぁ、そうかそうか。じゃぁ、親御さんに宜しく伝えて呉れ。又、何か困った事が有ったら、わたしか前園君にでも声を掛けて呉れ。遠慮は要らないからね。」

「はい。ありがとうございます。」

「うん。じゃぁ、お先に。」

 天野会長は、そう言って身体の向きを変えると、今度は影山部長と小峰課長に声を掛けるのだった。

「おぉ、影山君。良い人材を寄越して呉れて、感謝してるよ。これからも、宜しく頼むよ。あ、前園君にな、何か伝える事は有るかい?」

 影山部長は恐縮し乍(なが)ら、何か言葉を返している様だったが、それは智子には聞き取れなかった。天野会長は、笑って影山部長の肩を叩くと、挨拶を交わした後に、加納氏を連れて会議室を後にしたのだった。
 天野会長を見送った後、影山部長は智子に声を掛けた。

「お疲れ、立花君。」

「いえ。何だか大事(おおごと)になってしまった様で、申し訳(わけ)ありません。」

「まぁ、こういう事も有るさ。良い経験には、なっただろう?」

「会長と直接お話したのは、初めてですが…学校と本社、社用機で往復してらしたんですね。会議の度(たび)にとなると、パイロットの手配とか、大変そうですね。」

「あ、あぁ…キミが知らないのも無理は無いが、一緒にいた秘書の加納さん。彼が社用機…と言うか、会長の専属パイロットを兼務してるんだよ。」

「は?」

 或る意味、今日聞いた色々な話の中で、智子に取っては最も意外な事実であった。

「あぁ見えても、彼は元、航空防衛軍の戦闘機乗りだったそうだ。」

「…人は、見掛けに依らない物ですねぇ。」

 こうして、本社での会議は終了したのである。

 

- to be continued …-

 

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