WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第15話.15)

第15話・ブリジット・ボードレールと天野 茜(アマノ アカネ)

**** 15-15 ****


 AMF と HDG から解放された茜はブリジットと共に、B号機の飛行ユニットからレールガンが取り外される作業を眺(なが)めていた。二人は共に、必要が有れば、作業を手伝おうかと思っていたのだが、畑中と大塚の手際(てぎわ)は流石であり、彼女達が手を出す隙(すき)は無かったのである。
 その取り外し作業も可成り進行した頃、格納庫南側の大扉の方から中へと入って来た飯田部長や緒美達の一団を見付けると、畑中が其方(そちら)へ向かって声を掛けるのだ。

「おーい、日比野さーん。ちょっと、いいでしょうか。」

 畑中は、取り外したレールガンを大塚と二人掛かりで木枠の台座に降ろした所だったので、あとの作業を大塚や倉森達に任せて、日比野の方へと歩を進める。

「あ、はい。何でしょうか?」

 日比野の方も、駆け足で畑中の方へと向かった。

「レールガン、持ち帰りですか?」

 日比野は、作業の様子を見て、そう畑中に尋(たず)ねたのだ。

「ええ、はい。それで、ですね。ジャムの原因解析をやりたいので、B号機のログ、エラー発生前の三分間程、頂きたいんですが。姿勢三軸の角度、速度、加速度…取り敢えず、記録に残ってる数字は全種。」

「ああ、はい。分かりました。急ぎます?」

「あ、いえ。どうせ試作工場へ戻ってからじゃないと、解析には掛かれないので。明日中にでも、試作工場のアドレスへ送って頂ければ。」

「了解しました。」

「それじゃ、お願いします。」

 そう言って日比野と別れた畑中は、早足で大塚の元へと戻り、指示を伝えるのだ。

「大塚さんと新田さん、引き続きレールガンの梱包、お願いします。倉森君は、学校(ここ)の機体に取り付けた記録機材、引き取りに行くから付いて来て。もう、藤元さん達が、外して呉れてる筈(はず)だから。」

 それから間も無く、畑中と倉森はそれぞれが手押しの台車を押して、南側の大扉を出て第二格納庫へと向かったのだった。
 そんな様子を見ていた茜は、隣に立つブリジットに言うのだ。

「畑中先輩達も、忙しいよね。」

「ホント。」

 茜の漏らす所感に、徒(ただ)、苦笑いで同意するブリジットだった。
 そこへ緒美達、三年生組がやって来て、茜達へ声を掛けるのである。

「天野さん、ボードレールさん、お疲れ様。」

「あれ、レールガン、外しちゃったの?」

 状況を知らない直美が、ブリジットに見た儘(まま)を尋(たず)ねる。

「はい。試作工場へ持ち帰って、トラブルの原因を解析するんだそうです。」

 ブリジットの答えに、恵が所感を述べるのだ。

「あらら、結構な大事(おおごと)になってるのね。」

 今度は金子が、茜に問い掛ける。

「畑中先輩、台車押して出て行ったけど。 何か有ったの?」

「ああ、いえ。学校の機体に取り付けた、記録器材の回収だそうですよ。」

 武東が、苦笑いして言うのだった。

「そう言えば、そんな予定だったけど。今日中に器材や工具、全部片付けて、明日の朝には試作工場へ発(た)つんでしょ? 大変よね、試作部の人達も。」

「飯田部長や日比野さんとか、本社の人達は、今日の二十一時離陸だって言ってたよね。理事長も。」

 そう金子が言うので、緒美が指示を出すのだ。

「それじゃ、飯田部長が帰っちゃう前に、打ち合わせ、やっておきましょうか。取り敢えず、天野さん、ボードレールさん、着替えて来て。二人の着替えが済んだら、打ち合わせ、始めましょう。」

「分かりました。じゃ、行こうか、ブリジット。」

「そうね、茜。」

 茜とブリジットは、並んで二階通路へと上がる階段へと向かって歩き出す。
 そんな姿を暫(しばら)く見送った金子が、緒美に向かって言うのだ。

「あんな事に巻き込まれても、あの二人は何時(いつ)も通りね。」

 その言葉に対して、少しも表情を変える事無く、緒美は言葉を返す。

「今日のは、今迄(いままで)のに比べたら、接近戦をしないで済んだだけ、優(まし)だと思うわ。」

「まあ、それでも、ブリジットは良く付き合ってると思うよ、天野に、さ。ブリジットは兵器とか軍事とか、そう言うのに特別明るい訳(わけ)じゃないのに。」

 緒美に続いて、直美が真面目な顔でコメントすると、恵も言うのだ。

ボードレールさんはね、天野さんになら、どこ迄(まで)でも付いて行っちゃうんじゃない? 天野さんは天野さんで、ボードレールさんが付き合って呉れてるのは、きっと心強いんだとは思うけど。」

 そして溜息を一つ吐(つ)き、金子が緒美に言うのである。

「天野さんが、特殊って言うか、特別なのは、ここ暫(しばら)く観察してて納得はしたけどさ。 まあ、何(なん)にしても、あの二人に、あんまり無理させるんじゃないよ、鬼塚。」

「そんな事、貴方(あなた)に言われる迄(まで)もないわ。」

 そう言葉を返して、緒美は力(ちから)無く笑って見せる。同時に、恵も直美も表情を曇らせるのだ。

「ごめん。余計な事を言ったわ。」

 雰囲気を察して、金子は咄嗟(とっさ)に謝罪するのだった。それには、緒美は微笑んで「いいのよ。」と、一言だけを返したのである。
 すると、金子の傍(そば)に立っていた武東が、真顔で言うのだ。

「そんな気にしてるのなら、さっさと手放してしまえばいいのに。」

 その武東の提案を、真っ先に否定したのが金子だった。

「いや、それが出来るなら、疾(と)っくにやってる。 でしょう?鬼塚。」

 緒美は目を伏せて頷(うなず)き、顔を上げてから言った。

「元々は、わたしが個人的に始めた事なのに、今では天野さんとボードレールさんだけじゃなくて、こんなに大勢の人を巻き込んで…責任は感じているのよ。どうしたら責任が取れるかは、良く分からないけど…。」

 そこ迄(まで)、緒美が発言した所で、緒美達の背後から飯田部長が声を掛けるのだ。

「キミが責任を感じる事じゃないさ、鬼塚君。」

 その声に驚いて、緒美や恵が振り向くと、飯田部長と立花先生が立って居るのである。その二人へ少し意地悪そうに、直美が問い掛ける。

「何時(いつ)から聞いてたんです?」

「『二人に無理させるんじゃない』辺りから。」

 微笑んで即答したのは、立花先生である。

「わたしのか~。」

 考え無しに発した言葉を恥じて、武東の肩に掛けた肘に顔を埋(うず)め、金子は声を上げたのだ。勿論、金子が殊更(ことさら)、大袈裟(おおげさ)に反応して見せるのは、半分は照れ隠しであると同時に、その場の空気を軽くする為のサービス精神でもある。武東は自身の左肩に乗せられている金子の頭を、右手で優しく一撫(ひとな)でするのだった。
 そして飯田部長が、緒美に言うのだ。

「会社の業務として行っている以上、この開発計画の責任は最終的に会社の方に有るのは明白だ。個々人が負い切れない様な、大きな責任を保証する為に組織って物が有るんだからね。そして、大きな問題が起きない様に方針を立て、チェックをする事で責任を分散、分担するのが、組織として活動する事の意義だ。だから組織で仕事を回している以上、誰か個人が一人で全ての責任を負う必要なんて無い。 それに、一度(ひとたび)事故が起きてしまえば、本当の意味で責任を取れる人間なんて誰も居ないんだから、正しい責任の取り方は『事故を起こさない』事、それに尽きる。」

 飯田部長に、直美が真面目に尋(たず)ねる。

「では、事故を起こさない為には、どうするのが一番でしょうか?」

「それは、『判断を誤らない』事だね。 勿論、状況の方が人の判断や想定を超えてしまう場合も有り得(う)るが、その時は不可抗力だと観念するしかない。」

 飯田部長の言葉に、恵がポツリと言うのだ。

「不可抗力、ですか。」

「そうだよ。どう頑張っても、人間は神様には、なれないからね。 ま、そう言った危機的な状況に陥(おちい)らない為にも、その前段階で判断を誤らない事が大事(だいじ)だって話さ。」

 そう言うと、飯田部長は「ははは。」と笑うのだ。
 恵は、立花先生に問い掛ける。

「わたし達は、判断を誤らずに、ここ迄(まで)来られたでしょうか?先生。」

「さあ、どうかしらね? 今の所は、間違っていないって信じてるけど。残念な事に、判断が正しかったかどうか、は、最後になってみないと分からないのよね。」

 立花先生の回答を聞いて、直美が嘆(なげ)く様に言った。

「それじゃ、判断する時点では間違いかどうか、分からないじゃないですか。」

 ニヤリと笑って、飯田部長は応える。

「そりゃ、そうさ。出来るのは、正しいと信じて判断する事だけでね。重要なのは、理性的に熟考したとしても、直感を信じたとしても、その判断を正しいと信じられるか、あとで悔(く)やまない判断が出来るか、そう言う事だよ。」

「最終的には精神論ですか?『努力と根性』みたいな。」

 金子が茶化す様に、そう言うので、飯田部長は笑顔で反論する。

「それはちょっと違うな。必要なのは『知恵と勇気』だよ。 まあ、『努力と根性』も、否定はしないけどね。」

 その飯田部長の発言に、その場に居た三年生達は黙り込んでしまうのだった。
 数秒経ったのかどうかと言う頃、緒美は着替えを終えた茜とブリジットが、インナー・スーツの更衣室から二階通路へと出て来たのに気付く。茜とブリジットの方も、緒美の視線に気が付き、二人は小さく頭を下げるのだ。

「では、飯田部長、立花先生、天野さん達の着替えが終わったみたいなので、デブリーフィングを始めたいと思いますが。」

 緒美は、二人に打ち合わせの開始を提案するのだ。因(ちな)みに、『デブリーフィング』とは事後の報告や打ち合わせの事で、対として事前に行われる指示の伝達や打ち合わせは『ブリーフィング』と謂(い)われる。

「分かった。二階に行けば、いいね?」

「はい、お願いします。」

 飯田部長と立花先生が二階通路へと上がる階段へ向かうと、緒美は少し離れたデバッグ用コンソールの所に居る、樹里達に呼び掛けるのだ。

「城ノ内さん、日比野先輩、打ち合わせを始めたいと思いますので。」

「はーい、今、行きまーす。」

 緒美の呼び掛けには、代表して樹里が声を返して来るのだった。
 そして階段へと向かおうとする緒美に、直美が声を掛ける。

「それじゃ、わたし達は格納庫(ここ)の終了作業、進めてるから。」

「うん、お願い。 あ、畑中先輩と実松課長に、打ち合わせを始めるって声を掛けておいて。」

 その緒美の依頼には、恵の方が応えるのだった。

「分かったわ~任せて。」

「それじゃ、現場の方はお願いね。」

 そう言い残した緒美は、先程、呼び掛けた樹里と日比野と合流し、階段を上(のぼ)って行ったのである。

 斯(か)くして、この日に予定されていた飛行試験は、全てが無事に終了したのだ。
 今回搬入された AMF は、概(おおむ)ね企図した通りに機能し、その能力も仕様に沿ったものである事が確認されたのは、この日に記録されたデータの解析が終了した、数日後の事である。AMF 搭載のレーザー砲と、HDG-B01 に装備されたレールガン、それらに因るエイリアン・ドローンの撃墜記録は、それは予定されていた事ではなかったのだが、当然、マイナス評価となり得る事項ではなかった。
 飛行試験最終日のデブリーフィングに於(お)いては、当面の方針として AMF と HDG-B01 は空中戦シミュレーションを継続して空中機動の機体制御を、各機に搭載されている AI に学習させる事で合意がされたのだった。それは勿論、天神ヶ﨑高校の生徒達が、事故や戦闘に巻き込まれる危険(リスク)を回避する為の方策ではあったのだが、その一方で、本社側が本当に欲していたのが空中戦機動や空中射撃を学習した AI や、その経験データの方であると言う都合からでもあるのだ。
 その本社の意図に、この時期の緒美は既に薄々は感付いてはいたのだが、茜とブリジットの二人を無闇に戦闘に参加させない為には、シミュレーションを積極的に活用していく方針が妥当な案だと納得はしていた。それに、間接的にであれ HDG の開発が本社側に必要とされ、何らかの役に立つのならば、それは意義の有る事なのだと理解していたのである。
 それだけに、この日から一週間後に搬入が予定されている、クラウディアが扱う予定であるC号機の、その真の能力確認を何(ど)の様に実施する可(べ)きなのか、その事は緒美を大いに悩ませてたのだが、それに就いてのお話は、又、次回なのである。

 

- 第15話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。