WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第16話.01)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-01 ****


 AMF の試験飛行が終了した翌日から、学校の方は試験休み期間も終わり、平日となって昼間の授業が再開されたのである。
 カレンダー上では、2072年10月5日・水曜日迄(まで)が前期の扱いで、前期期末試験の解答解説をみっちりと行う授業も有れば、さっさと後期の範囲へと突入する授業も有り、その辺りの対応は教科や教師に因って、まちまちなのだった。
 生徒達の制服も、まだ夏服の者(もの)も居れば、一足先に冬服を着込んだ者(もの)も居て、試験休み明けの二日間は後期開始へ向けての移行期間と言った感じである。
 そんな中途半端な空気は、10月6日・木曜日の後期開始と共に一掃され、十一月の学祭や十二月の後期中間試験などのイベントへ向けて、学校内の雰囲気は動いて行くのだ。そんな後期の、一番最初の校内イベントとなるのが、前期期末試験結果の順位発表である。
 それは、10月7日・金曜日の午後三時に、校内ネットワークにて発表されるのだった。数年前までは午前中や昼休みに発表されていた定期試験成績順位であるが、その当時は発表後の授業に身が入らない生徒が、毎回一定数、発生したのである。そんな彼等の『授業に身が入らなくなる理由』は、それぞれで様様(さまざま)なのだが、学校側としては『その様な』状況を最小化する可(べ)く、試験成績順位の発表を、その日の最後の授業が終わる時間帯に設定して現在に至る訳(わけ)である。
 そんな順位発表の瞬間であるが、例えば、緒美達の居る三年A組の様子は、と言うと。六時限目の授業が終わり、教師が教室から出て行くと、クラスの半数程が一斉(いっせい)に、それぞれの携帯端末で校内ネットワークを確認するのだった。そして、ほぼ同時に教室内の複数箇所から「おおー」と云った歓声が沸き起こるのだ。それから数人の女子生徒が緒美の元へと近づき、発表された順位を教えて呉れるのである。
 それは発表された順位は緒美がトップで、次席が生徒会長の神原(カンバラ)であり、点差は六十点程だったと云う内容だった。

「あら、そう。ありがとう、教えて呉れて。」

 成績順位を気にしていないし、自身で確認もしない緒美は、愛想笑いでお礼を述べると、恵や直美と合流して教室を出て、何時(いつ)も通りに部活へと向かうのだ。
 この様に同級生達が他人の成績で勝手に盛り上がっている理由は、緒美が一年生の時点から連続で定期試験の成績で学年一位を維持し続けているのが記録的であるからで、今回の結果で更に記録を重ねたからである。クラスメイト達は残り二回の定期試験でも、緒美が学年一位を獲得して、三年間連続学年一位と言うパーフェクトな記録が打ち立てられるのを期待しているのだ。

「ザマーミロ、神原~。」

 そんな男子生徒の声も聞こえたが、それは生徒会長である神原が一般生徒から嫌われている、そう云った事柄を表しているのではない。機械工学科と電子工学科、そんな学科の違いから緒美には仲間意識を、神原生徒会長には対抗意識を、と、その様な心情の発露なのである。
 何(いず)れにしても、そんな盛り上がりには付き合い切れないので、緒美は早早(そうそう)に教室から退場するのである。
 この辺りの事情は、樹里の居る二年D組や、茜の一年A組も似た様なもので、本人よりも周囲の方が盛り上がるのには付いて行けず、彼女達も第三格納庫を目指して教室を後にするのだった。
 それはつまり、今回も二年生の学年一位が樹里で、一年生は茜が学年一位だったと言う事なのである。

 茜とブリジットが兵器開発部の部室に到着したのは、メンバーの中では最後だった様子で、他のメンバーは既に揃(そろ)っていた。それは緒美や樹里よりも、茜の方が同級生達に丁寧に対応していたから、かも知れない。
 茜が到着した時点で、その場では茜よりも先に来ていた樹里の話題が中心だった。樹里は二位の生徒とは百二十点もの点差を付けての独走状態での一位であり、維月が同学年に居ない事が幸運なのか不運なのか、それは複雑な心境であると語っていた所だったのだ。
 そして、部室に入って来た茜に、維月が声を掛ける。

「矢っ張り、天野さんには勝てそうもないね~。」

 続いて、恵が尋(たず)ねるのだ。

「十四教科の合計が千三百四十八点って、平均で一教科当たり九十六点でしょ。満点の教科、幾つ有ったの?天野さん。」

「いえ、流石に満点は、一教科も取れてませんよ。難しかったです。」

 その茜の応えを受けて、瑠菜がコメントする。

「それ、逆に凄くない?何(ど)の教科も、一、二問しか間違わなかったって事じゃない。天野に勝とうと思ったら、三つか四つ、満点取らないと、もう無理だよね。」

 そして瑠菜に続いて、佳奈が言うのだ。

「維月ンとクラリンも、茜ンとは二十点位しか違わないんだから、凄いよね。もう、三人が一位でも、いいんじゃないかしら?」

 学校側の発表によると、維月とクラウディアの合計得点は千三百二十四点で、二人が同点二位だったのだ。
 そして維月は、クラウディアに向かって笑顔で言うのである。

「まあ、あと一歩だったと言えば、残念だったよね、クラウディア。 わたしは今回ので、貴方(あなた)達と張り合う気は完全に失(う)せたわ~。わたし、去年の前期末よりも、今回のはいい点取ったのに。流石に、これ以上は、もう無理。」

 そんな維月に、クラウディアが言葉を返す。

「わたしは、まだ諦(あきら)めないわよ。必要なら、全教科満点でも狙ってやるわ。」

 そう言ってニヤリと笑う、クラウディアなのである。それを微笑ましく眺(なが)めている茜に、ブリジットが言うのだ。

「あんな事、云ってるよ?茜。」

「いいんじゃない?全教科満点とかってレベルになったら、挑(いど)んでいる相手は、わたしじゃなくて自分自身でしょ。或いは、先生達に、かな? どっちにしても、それなら気の済む迄(まで)やればいいのよ。寧(むし)ろ、応援したい位。」

 そう言って、クスクスと茜は笑うのである。
 そこで「パンパン」と、緒美が手を打ち鳴らし、声を上げるのだ。

「それじゃ、そろそろ部活、始めましょうか。天野さん、ボードレールさん、着替えて来て。今日も引き続き、空中戦シミュレーションやるわよ。」

「はい、部長。 行きましょ、ブリジット。」

「了~解。」

 鞄を部室の定位置に置いた茜とブリジットは、インナー・スーツへ着替える為、部室の奥、南側のドアから二階廊下へと出て更衣室へと向かうのだ。他のメンバーも格納庫フロアへ降りる為に、茜達とは反対側のドアから二階通路へと出て行く。
 そんな様子を見ていた立花先生が、染(し)み染(じ)みと緒美に言うのである。

「平和っていいわね~。」

 それはクラウディアの茜とブリジットに対する態度が、最初の頃に比べて随分(ずいぶん)とマイルドになった事に対する、立花先生の素直な所感だった。それに加えて、四日前の試験飛行で結局、戦闘に参加してしまった事に関して、防衛軍から兎や角言われていない事も、立花先生の『平和感』に含まれていた。
 その辺りの心情を理解していた緒美だったが、敢えて呆(あき)れた様に言葉を返したのだ。

「何、云ってるんですか、先生。」

 そして、緒美はくすりと笑うのだった。
 この日もこうして、兵器開発部は何時(いつ)も通りに、活動を続けたのである。


 翌日、2072年10月8日は土曜日で、兵器開発部のメンバー達は特課の生徒なので、午前中は授業である。従って部活は午後からと言う事なのだが、前日の夜に本社の開発から AMF のロボット・アーム使用に対応したバージョンのシミュレーター・ソフトが届いており、この日はそのセットアップから作業が始められた。
 そして夕方には茜によるシミュレーションの実行が開始され、エイリアン・ドローンとの接近戦を想定した AMF の動作制御データの集積を始めたのである。
 それは、翌日と翌々日も同様に継続されたのだ。土曜日の夜から、翌日、日曜日の昼過ぎ迄(まで)は、LMF の時と同様に Ruby の自律制御での無人シミュレーションを連続実行し、日曜日の午後から夕方までが茜に因る有人シミュレーションである。そして再(ふたた)び、夜間に無人シミュレーションを実施し、祝日で学校は休日である10月10日、月曜日も茜達は午後から夕方まで部活動を行ったのである。


 2072年10月11日、火曜日。この日は平日なので、生徒達は朝から通常通り、授業である。
 一方で第三格納庫では、予定されていた HDG-C01 の搬入作業が行われていたのだった。
 例によって、試作工場からは畑中達が陸路を移動して早朝には学校に到着しており、午前十時頃に飛行に因る自力移動で到着した HDG-C01 とその飛行ユニットを受領する、と言う手筈(てはず)である。
 HDG-C01 の到着時刻は学校での授業時間中に設定され、無関係の生徒の目には触れない様に配慮されたのであるが、元々、理事長が移動に使用する社有機が日常的に発着しているので、殆(ほとん)どの生徒は学校の滑走路方面から航空機のエンジン音が聞こえて来ても、特に関心を持つ事は無かったのだ。『そう言う物』に興味を持っているのは飛行機部に所属している生徒位なのだが、彼等、彼女等は間接的に事情を知っているし、秘密保持の意味や必要性も理解していた。
 興味の無い者(もの)が、滑走路へと降下して行く『見慣れない飛行機』を教室の窓から遠目に目撃した所で、それは大した話題にはなり得なかったし、学校の敷地では南端である滑走路まで興味も無いのに態態(わざわざ)見物に行く物好きな生徒は居ないのだ。仮に授業が終わってから滑走路の方まで出向いたとしても、機体は早早(そうそう)に格納庫へと引き込まれるので、矢張り無駄なのだった。そして、格納庫の中に入る事が出来るのは、兵器開発部と飛行機部に所属している生徒に限られているのである。
 さて、畑中達が態態(わざわざ)陸路で移動して来たのは、勿論、工具等を持って来る都合も有るのだが、今回の場合は HDG-C01 用のメンテナンス・リグの運搬が一番の目的なのだった。合わせて、C号機搭乗用のステップラダーや、メンテナンス用のパーツや備品等、それなりに搬入する可(べ)き荷物は多いのだ。
 兵器開発部のメンバー達は、昼休みの昼食後に第三格納庫へ搬入の様子を見に行ったのだが、午後からの授業も有るので、滞在時間は十分程度で格納庫から引き上げざるを得なかったのだった。
 茜達が授業を受けている間、第三格納庫では畑中達が HDG-C01 と、その飛行ユニットの、現地でのセットアップや点検を実施していた。そして今回は、本社の開発部からソフト担当として、日比野に加えて安藤も出張して来ていたのだった。
 安藤は、HDG-C01 に搭載されている AI、『Sapphire(サファイア)』の稼働状態を確認するのが今回の目的である。

 学校側で七時限目が終わり、十六時を過ぎると、兵器開発部のメンバー達が続々と第三格納庫へと、やって来るのである。
 一番乗りは矢張り緒美達、三年生組であり、これは殆(ほとん)どの場合、授業が終わると緒美と恵が問答無用で第三格納庫へ直行するからだ。恵は時折、クラスメイトに呼び止められる事が有るのだが、その場合、緒美だけが一足先に第三格納庫へと向かうのである。その恵が呼び止められた用事が、実は緒美に対する用事だったりする事も有るが、緒美の窓口が恵であると言う少々奇妙な状況も、恵には既に慣れたものなのだった。

 茜とブリジットが第三格納庫に到着したのは二年生達とほぼ同時刻で、クラウディアと維月の二人は、まだ来ていない様子だった。彼女達は鞄を部室に置くと、それぞれに格納庫フロアへと降りて行った。
 そして、一番に目に入って来るのが巨大なC号機なのである。
 深い緑色を基本に塗装されたその機体は、A号機やB号機の倍程の身長を有している事からも解る様に、根本的にA号機やB号機の HDG とは仕様が異なるのだ。

「想像以上に大きいよね、実物を見ると。」

 そんな第一声を発したのは、瑠菜である。

「おう、来たな。」

 そう言って畑中が、笑って声を掛けて来るので、茜が言葉を返すのだ。

「ご苦労様です。畑中先輩も、毎週の様に出張、大変ですよね。」

「まあ、仕事だからね、出張手当も付くし。それに学校(ここ)なら『勝手知ったる、何とやら』だからね、気楽なもんさ。」

 笑顔で畑中が応えると、ブリジットが言うのだ。

「でも、こんな調子が続く様じゃ、確かに結婚所じゃ無いですよね~。」

 そのコメントには、瑠菜が反応するのだ。

「あはは、それでも、倉森先輩も一緒に来てるんだから、実質、同じじゃない?」

「いいから、キミ達はそんな心配、しなくても!」

 間髪を入れず、畑中が声を上げるのだった。
 そんな具合で彼女達は先に来ていた緒美達や立花先生と合流し、C号機の前へと進むのだ。そこへ、インナー・スーツに着替えたクラウディアが、維月と一緒に階段を降りて来るのである。クラウディアと維月は茜達よりも先に来ていて、着替えをしていたのだった。
 クラウディアのインナー・スーツは、彼女が正式に入部して直ぐに体型を測定して、七月頃には製作されていたのである。
 階段を降りて、C号機の方へと進んで来るクラウディアの姿を見付けて、安藤が声を上げる。

「お、ドライバーが来たわね。」

「お待たせしました。」

 クラウディアが声を返すと、C号機の前に居た一同がドライバーであるクラウディアの為に道を空けるのだ。クラウディアはそのスペースを通過して、C号機の正面へと進む。
 そして、待ち受けていた様に安藤が、C号機に声を掛けるのだ。

「Sapphire、貴方(あなた)の相棒(パートナー)になるクラウディアさんよ、ご挨拶なさい。」

 すると、Ruby とは違う女性の合成音声が格納庫内に響く。

「こんにちは、クラウディア。Sapphire です、宜しくお願いします。」

 その合成音声は Ruby に比べれば発音が機械的で、情感の欠片(かけら)も感じられなかったのだ。
 クラウディアは微笑んで、言葉を返す。

「宜しく、Sapphire。」

 すると、直美が安藤に、感じた儘(まま)のコメントをぶつけるのだ。

Ruby とは随分(ずいぶん)、印象が違いますね。機械っぽいって言うか、可愛気(かわいげ)が無いって言うか。」

 安藤は少し笑って、応える。

「まあ、そうかもね。Sapphire は Ruby の妹みたいなものだけど、『疑似人格』の味付けは極薄なのよ。何方(どちら)かと言うとA号機やB号機の AI に、会話機能を追加した様な仕様だから。Sapphire の『疑似人格』は会話が出来る、最低限の活動レベルに絞ってあるのよね。」

 その解説に、樹里が付け加える。

「C号機は電子戦の方で、大きな負荷を処理しないといけないですしね。」

「うん。それに『疑似人格』の活動レベルを上げるには、もっと大きなライブラリ用のストレージや、冷却システムを乗せないといけないし。流石に、このC号機のフレーム・サイズでも、それは無理なんだわ。」

 安藤のコメントに、今度は維月が言うのである。

「そりゃ、Ruby のユニットがドラム缶サイズなんだから。HDG にアレが乗せられる訳(わけ)が無いですよ。」

「ま、そう言う事よ、維月ちゃん。」

 安藤は、そう答えて微笑むのだ。すると、クラウディアが安藤に向かって言うのである。

「でも、安藤さん。一緒に仕事をするのなら、わたしは Sapphire 位の方が好きですよ。」

「そう言って貰えると、助かるわ、クラウディアさん。」

 すると、Ruby がクラウディアに尋(たず)ねるのだ。

「クラウディアは、わたしと仕事をするのは好きではないのですか?」

 少し笑って、クラウディアは即答する。

「ほら、そんな子供みたいな事を云うから、Ruby(あなた)は面倒臭(めんどうくさ)いのよ。」

「成る程。これは一本、取られました。」

 クラウディアに対する Ruby の返しを聞いて、直美が思わず声を上げるのだ。

「誰だよ、Ruby に変な言い回しを覚えさせたの。」

 すると日比野と安藤が声を上げて笑い出し、そして安藤が言うのだ。

「いいんじゃない? いや~ Ruby、貴方(あなた)、本当に成長したわ。ねえ、日比野さん。」

「はい。このレベルで楽しく会話出来る AI なんて、ホントに貴重ですよね。」

「お褒め頂いて嬉しいです、江利佳、杏華(キョウカ)。」

 Ruby が二人に謝辞を伝えると、それ迄(まで)、黙って成り行きを見ていた緒美が口を開くのだった。

「盛り上がっている所で、申し訳無いのですけど。そろそろ、C号機のテストを始めたいんですが、宜しいでしょうか?安藤さん。」

 そして、緒美は笑顔を見せるのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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