WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第15話.14)

第15話・ブリジット・ボードレールと天野 茜(アマノ アカネ)

**** 15-14 ****


 それから一時間程の後、その日の飛行試験に参加した全機は、無事に天神ヶ﨑高校の飛行場へと帰投したのである。
 着陸は、茜の AMF、ブリジットの HDG-B01、そして最後が天野重工の社有機の順で、最後に社有機が着陸した時には、時刻は十七時になっていたのだ。
 着陸に滑走路を必要としない HDG-B01 は、直接、駐機場(エプロン)へと降りるので、滑走路から誘導路を通って格納庫へと向かう AMF よりも、先に第三格納庫へと入ったのだった。
 ブリジットは先(ま)ず、飛行ユニット用のメンテナンス・リグへと向かい、そこで飛行ユニットとの接続を解除し、続いてB号機用のメンテナンス・リグに向かう。
 ブリジットが HDG-B01 をメンテナンス・リグに接続し、瑠菜と佳奈がリグを操作してブリジットと HDG との接続を解除していると、隣の飛行ユニットのリグの操作を畑中が始めるのだ。目的は、例のレールガンに起きたトラブルの調査である。

「おーい、畑中君。ジャムを解除する前に、画像、残しておいて呉よ。」

 飛行ユニットをフロア・レベルまで降ろして、飛行ユニット背部のレールガンに手を伸ばそうとしている畑中へ、歩いて来る実松課長が声を掛けるのだ。

「承知してますよー、実松課長。」

 畑中は首から提(さ)げている、試作部備品の小型カメラで、角度を変えては何枚かの画像を記録し、一方で大塚がメンテナンス用のカバーを外していく。そんな折(おり)、畑中が声を上げるのだ。

「あー、何(なん)でこうなったかな~。」

 その声を聞いて、HDG から解放されたブリジットと瑠菜達は、隣の飛行ユニット用メンテナンス・リグへと向かった。

「どんな感じですかー、畑中先輩。」

 ブリジットが声を掛けると、トラブルの状況画像をカメラに収めた畑中は、「思ったより、酷いよ、こりゃ。」と声を返し、リグから少し離れるのである。

「大塚さん、タブレット貸してください。」

「はい、どうぞ。」

 図面確認用の大判タブレットを、傍(そば)に居た大塚から受け取ると、畑中は小型カメラをタブレットにケーブルで接続し、先刻に収めた画像をタブレットに表示し、画像を選択する。
 そして畑中が実松課長の方へと差し出したタブレットに、その場に居た他の者(もの)も、実松課長の背後へ回って覗(のぞ)き込むのである。

「ああーこりゃ、見事に支(つっか)えてるな。弾体の後側は、どこに填(は)まってるのか、良く解らんが…弾倉(マガジン)のリップが変形してるのかな?」

「それは外してみないと、判りませんが。何(なん)にしても、再装填の操作はしなくて正解でしたね。」

 実松課長に続いて所見を語る畑中に、ブリジットが問い掛ける。

「どうしてです?」

 それには、実松課長が答えるのだ。

「この状態だと、ボルトが後退してもチャンバー手前に有る弾体が排出されない。下手すると、二発目がチャンバーに入ろうとして、更に詰まる。」

 そこへ、AMF がエンジン音を響かせ、第三格納庫の中へと入って来るのだ。AMF は第三格納庫の中央まで進むと、停止して機首ブロックを解放するのだった。
 畑中は、瑠菜と佳奈に声を掛ける。

「瑠菜君、古寺君、悪いけど AMF に地上電源を繋(つな)いでやって呉れ。」

「承知してます、畑中先輩。 行こう、佳奈。」

「は~い。」

 瑠菜と佳奈は、AMF 正面側の壁際へと走ると、地上電源のケーブルを引っ張って、AMF の機体下面へと向かう。AMF の方では、茜の HDG-A01 へ AMF に格納されていたスラスター・ユニットが再接続され、格納庫の床面へと HDG が降ろされつつあった。そして、地上電源が AMF に接続されると間も無く、二基のメイン・エンジンが相次いで停止され、格納庫内は静けさを取り戻すのである。
 それを待って、HDG-B01 の飛行ユニット側では、畑中が実松課長に相談を持ち掛けるのだ。

「これ、この儘(まま)持ち帰って、試作工場で詳細に調査した方が良くありませんかね?実松課長。」

「そうだな~調査したら、データ、開発部(こっち)にも送って呉れるかい? 設計の方でも、揉(も)んでみるよ。」

「助かります。ああ、持って帰るとなると…大塚さん、帰りのクルマ、これ、積み込むスペース、有りましたっけ?」

「大丈夫でしょう?そもそも、こいつの梱包材を積んで帰る予定でしたから。 梱包材、念の為に、こっちに残しておいて正解でしたね。」

 そこまで様子を窺(うかが)っていた倉森が、畑中に声を掛ける。

「でも、先輩。持って帰るなら、課長に一言、断っておいた方が良くありません?」

「あーそうだよなぁ。予定外だもんなー。」

 畑中が渋い顔をしていると、実松課長が微笑んで言うのだった。

「それじゃ、宮村課長には、わたしから事情を話しておくよ。今、まだ五時過ぎだ、オフィスに居るだろう。」

 実松課長は作業着の上着の懐(ふところ)から携帯端末を取り出すと、通話要請を送り乍(なが)ら、その場を離れて行く。その背中に、畑中は「ああ、すいません。助かります、実松課長。」と、声を掛けたのだ。
 それには、実松課長は振り向かず、左手を挙げて見せるのだった。

「よーし、それじゃ、レールガンを飛行ユニットから外すぞー。あ、倉森君と新田さん、倉庫に仮置きしてある、コイツの輸送用の木枠とか梱包材、出して来て呉れるかな。」

「分かりました。行きましょう、朋美さん。」

「了~解。」

 試作部からの出張組は二手に別れ、畑中と大塚はレールガンの取り外し作業を開始し、倉森と新田は格納庫東側、部室階下の倉庫へ仮置きしていた梱包材を取りに向かったのである。


 その頃、第三格納庫の外では、最後に着陸した社有機が駐機場(エプロン)に到着し、乗員達が降機していた。
 飯田部長、加納、日比野、樹里、緒美の順で機体から降りて行き、客室側の全員が降りたのを副操縦士の榎本が確認すると、社有機は再び動き出し、第二格納庫の前へと向かったのだ。
 第三格納庫の前で社有機の乗員達を出迎えたのは、天野理事長、立花先生、恵、そして先に帰投していた直美と金子、そして武東と言った面々である。

「いやあ、大変だったね。ご苦労さん。」

 真っ先に天野理事長から、そう声を掛けられ、飯田部長は「お出迎え、恐縮です。」と応えたのだが、他の四名は何と無く一礼をするのだった。
 続いて声を上げたのは、加納だった。

「取り敢えず、わたしはこれで『御役御免』ですので、秘書課の業務に戻ります、理事長。」

「そうか、もういいのかね?」

「はい。この件に関しては、もう、わたしの出る幕は無いでしょう。ですよね、飯田部長。」

 そう笑顔で確認する加納に、飯田部長も笑顔で応じるのだ。

「いや、御協力には感謝してますよ、加納さん。」

「又、必要が有れば、声を掛けて頂ければ。その折(おり)には、業務の方、調整致しますので。」

「はい。その時は宜しく。」

「では、理事長。ちょっと着替えて参ります。」

 加納が天野理事長に一礼して、そう言うと、天野理事長が言葉を返すのだ。

「ああ、試験飛行が予定より一時間延びたから、今日、このあとのフライトも一時間遅らせようか、加納君。それ迄(まで)、一休みするといい。」

「では、二十一時離陸、と言う事で。飯田部長も、それで宜しいですか?」

「わたしは、今日中に本社へ戻れるなら、何時(いつ)でも大丈夫ですよ。」

「では、それで準備を致しますので。」

 もう一度、天野理事長に一礼をして、加納は第二格納庫へと向かった。
 二十一時離陸のフライトとは、本社から出張で来ている飯田部長、実松課長、蒲田、日比野の四名と、天野理事長を本社へと送って行くフライトの事である。つまり天野『会長』は、明日は本社で執務、と言う事で、彼が移動するのだから社有機の機長は加納が務めるのだ。因(ちな)みに副操縦士は、昼間の試験飛行でも副操縦士を務めた榎本が担当し、使用する機体は昼間の随伴機に使用した機体ではなく、客室内が通常配置の予備機の方である。試験の随伴機を務めた機体は、試験用機材解除の為、後日、試作工場へ移動する予定なのだ。

「鬼塚君達も、大変だったね。ご苦労様。」

 理事長達が遣り取りする様子を窺(うかが)っていた緒美達三名にも、天野理事長が声を掛ける。すると、立花先生が飯田部長に尋(たず)ねるのだ。

「所で、流石に今回の件で、防衛軍から『お問い合わせ』が本社へ行く事は無いですよね?」

 立花先生が言う『お問い合わせ』とは、要するに『苦情(クレーム)』の事である。
 それには、飯田部長は笑って答えた。

「ハハハ、今回は流石に無いだろう。何(なに)せ、防衛軍(あちら)からの『御依頼』だからね。」

「まあ、上の方(ほう)とは、話は事前に付けて有るしな。心配無いよ、立花先生。」

 天野理事長も、余裕の笑顔である。
 一方で、少し不安気(げ)な顔で、緒美が言うのだ。

「しかし、余計な成果を出してしまったので、変に当てにされたりしないか、わたしは少し心配です。」

「邪険にされるにせよ、頼りにされるにせよ、この間みたいな面倒事(めんどうごと)に巻き込まれるのは、遠慮したいものですよね、部長。」

 緒美の傍(そば)に移動していた、恵も苦笑いで緒美に話し掛けるのだった。
 それに対しては、真面目な顔で飯田部長がコメントする。

「試作機が偶然、一度くらい結果を出したからってね。それ程、単純な組織じゃないだろう、流石に防衛軍だって。まあ、その辺りのマネジメントは、本社の方でキッチリやっておくから。心配はしなくていいよ、鬼塚君。」

「宜しくお願いします。」

 緒美の表情は、極めて真面目な儘(まま)である。

「まあ、ここで立ち話を続けるのも何(なん)だ。中へ入ろう。」

 話題を変える可(べ)くなのか、天野理事長は第三格納庫へと歩き出す。一同が、それに続いて歩き出すのだが、歩き乍(なが)ら、立花先生が飯田部長に尋(たず)ねるのだ。

「そう言えば、飯田部長。防衛軍の上と話が付いているって、いつの間にそんな話を?」

 その立花先生の質問に答えたのは、天野理事長である。

「ああ、つい先日、一昨日(いっさくじつ)の事だな。予(かね)てから大臣に面会の申し込みをしていたんだが、先日、急にアポが取れてね。飯田君と行って来たんだが、その時、彼方(あちら)側には、桜井一佐も居たかな。」

 天野理事長の発言に、緒美が問い掛ける。

「大臣って、伊藤防衛大臣、ですか?」

 それに答えたのは、飯田部長である。

「そうだよ。この間みたいなゴタゴタが今後起きないよう、防衛省と防衛軍の方に HDG の試験運用に就いて、配慮が頂けるように依頼しておいた。 今後予定している試作装備の試験には、空防の協力が欠かせないしね。」

「それって、HDG が防衛軍に採用される、目処(めど)が立ったって事なんでしょうか?飯田部長。」

 唐突に直美が、そう尋(たず)ねた。だが、飯田部長は、それを笑って否定する。

「ははは、そう言う話じゃないよ。防衛軍は HDG その物に、今の所、興味は無いし、うちも HDG を売り込む積もりは、今は無い。」

「そんなので、良く防衛軍の協力が得られますよね?」

 今度は金子が、素直な疑問を口にするのだ。透(す)かさず飯田部長が、それに答える。

「そりゃ先先(さきざき)、双方に利益(メリット)が有るからさ。」

「そのメリットって言うのが何か、は、教えて貰えないんですよね?」

 そう言葉を返すのは、金子の傍(かたわ)らを歩く武東である。

「そりゃそうさ、それこそ『企業秘密』や『国家機密』だからね。キミ達には悪いけど。」

 飯田部長の回答を受けて、恵は立花先生に尋(たず)ねるのだ。

「先生は、御存知(ごぞんじ)ないんですよね?」

「御存知(ごぞんじ)ないわよ、わたしなんて下っ端ですからね~。」

 苦笑いで立花先生が答えるので、直美は空を仰(あお)いで、態(わざ)と少し大きな声を出すのだった。

「何(なん)て言うか、世知辛いよな~。」

「ま、世の中ってのは、こんなものよ、直美ちゃん。」

 「ふん」と鼻を鳴らしたあとで、立花先生は達観したかの様に直美に言ったのである。

 

- to be continued …-

 

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