STORY of HDG(第17話.04)
第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール
**** 17-04 ****
「いいんじゃないですか? 明日の試験は、ほぼ、失敗する様な要素は無いんでしょう?畑中先輩。 これは、試験終了の前祝いって事で。」
「まあ、そうだけどさ。 或る程度は緊張感も必要だよ。事故ってのは、油断してる時に起きるものだからね。」
畑中の、敢えての苦言に、直美の傍(かたわ)らに居た金子が、冗談めかして立花先生に向かって言う。
「事故と言えば。今回は、実戦になったり、しないですよね?先生。」
「そう毎回、実戦に付き合わされて堪(たま)るもんですか。」
立花先生は、これ以上は無い位の笑顔で金子に答えたのだ。その反応に苦笑いしつつ、緒美が続いて発言する。
「前回は、電波妨害(ジャミング)に対するエイリアン・ドローンの反応を見る必要が有ったから、実戦でないと検証が出来なかったのだけれど。今回のは、実機で検証する必要は無いから。先(ま)ずは、ダミーで確認する可(べ)きなのよ。」
緒美の発言を聞いて、畑中は顔を引き攣(つ)らせる様に言うのだ。
「さらっと『ダミー』なんて言うけどさ、海防の艦艇まで引っ張り出して、可成り、大掛かりな試験なんだよ。」
そこで、右手を肩程の高さに上げて、九堂が緒美に尋ねるのだった。
「あの、鬼塚先輩。 結局、あの『プローブ』って、どう言う物なんですか?」
その問い掛けに、緒美が答えるよりも先に、茜が声を上げるのだ。
「要(カナメ)ちゃん、仕様書、読んだでしょ?」
「あんな分厚いの、一度や二度読んだだけで、全部頭に入る訳(わけ)、無いじゃない。皆(みんな)が皆(みんな)、茜みたいじゃないんだから。」
そう言われて、九堂の言う事も尤(もっと)もだと、思い直す茜である。一方で、緒美は微笑んで、部員達に問い掛けるのだ。
「それじゃ、『プローブ』と明日の試験について、正確に理解出来ていないって思う人は、手を挙げて?」
緒美の問い掛けに間を置かず、勢い良く手を挙げたのが直美と金子の二人である。それに続いて、発端である九堂が、そして武東が手を挙げるのだ。
勢い良く手を挙げた直美に対して、恵は微笑みつつ苦言を呈する。
「副部長がそれじゃ、マズいでしょ~。」
「それじゃ、森村は完璧に説明出来る自信、有るの?」
そう問い返されて、恵は思い直し、怖ず怖ずと右手を上げるのだ。
「…そう言われると、自信、有りません。」
「正直で宜しい。」
直美は、ニヤリと笑うのだった。
その遣り取りを見て、今度は瑠菜が手を挙げる。
「そう言われると、わたしも、ですね。」
「わたしも~。」
そして、佳奈も続いたのだ。
その様子を見回して、畑中が声を上げるのだ。
「お、一年生達は優秀だね~。」
その発言には、ブリジットが応えるのである。
「まあ、わたし達は実際に、試験のオペレーションを実行する立場ですから。打ち合わせで、何度も説明を聞いてますし。」
続いて武東が、手を挙げていない、茜達の様な HDG のドライバーではない一年生である村上に言及する。
「流石、村上はミリタリー(そっち)系に強いよね。」
「あははは…。」
村上は、同じ飛行機部の先輩である武東に言われて、唯(ただ)、照れ笑いするのみだった。
その一方で、立花先生が確認するだ。
「ソフト組も、大丈夫なのね?」
すると樹里と維月、そしてクラウディアが順番に顔を見合わせ、最後に樹里が代表して応えるのだ。
「わたし達は、Sapphire の検証で試験のオペレーションに参加しますから…ねえ。」
言葉の最後で、樹里は維月に同意を求めるのだった。そして維月は、樹里に対して頷(うなず)いて見せるのだ。
「はーい、解りました。それじゃ、成(な)る可(べ)く分かり易く、説明する事にしましょうか。」
そう言うと緒美は、村上を指定して問い掛ける。
「それじゃ、村上さん。御浚(おさら)いだけど、前回の運用試験で検証したのは?」
「あ、はい。…えっと、C号機に依る電波妨害の有効性確認、です。」
緊張気味に発せられた答えに、緒美は微笑んで頷(うなず)き、言葉を続ける。
「そうね。一先(ひとま)ずは電波妨害(ジャミング)に効果が有る事が、確認されました。そこで『プローブ』は、次の対抗策となります。」
「それよ!」
そこで突然に大きな声を出したのは、金子である。そして金子は、言葉を続ける。
「電波妨害が有効だったのなら、次の対抗策を準備するの、急ぐ必要は無いんじゃない?」
「そうは、いかないわ。残念だけど、電波妨害(ジャミング)には遠からず対抗策を講じられるだろうから。エイリアン達だって、馬鹿じゃないでしょうし。 それじゃ、金子ちゃん。どうして電波妨害(ジャミング)が有効だったのか、その理由が解る?」
「え?…そりゃ、通信が出来ないから、じゃないの?」
困惑気味の金子に、隣に立つ武東が言う。
「何(なん)の為の通信か、って事じゃない?博美。」
「あー…無人機(ドローン)だから、って事か。そう?鬼塚。」
緒美は一度、頷(うなず)いてから話し出す。
「そう。エイリアン・ドローン達は単体でも、可成りのレベルで自律行動は出来るみたいだけど、集団での連携や、高速で飛来するミサイルを回避したり、そんな事が出来るのは、外部から制御されているから、そう考えられるわ。 実際に、その通信を妨害したら、ミサイルの命中率が…エイリアン・ドローン側から言えば、ミサイルの回避率が下がった訳(わけ)だし。これで、エイリアン・ドローンがミサイルを回避出来ていた理由が、外部からの制御に有ったと言う予測は、当たっていたと思うの。ここ迄(まで)は、いいかしら?皆(みんな)。」
そこで、瑠菜が緒美に尋(たず)ねる。
「あの、部長。電波妨害(ジャミング)への対抗策って、例えば、どんな方法が考えられますか?」
「そうね。単純には通信時間を短く、回数も減らせば、此方(こちら)はエイリアン・ドローン側が使ってる周波数の割り出しに時間が掛かる様になるわよね。その上で、頻繁に周波数を変更されたら、有効に妨害を掛けられなくなるでしょうね。」
緒美に続いて、樹里が発言する。
「一応、次にエイリアン・ドローン側がどの周波数を使って来るか、パターンを割り出して予測する処理も Sapphire でやってますけど…。」
「それでも、向こうはこっちの予測の裏を掻(か)いて来るでしょう? そんな感じで、電子戦(ECM)って最終的には、『鼬(いたち)ごっこ』にしかならないのよ。」
その緒美の結論に対して、金子が声を上げる。
「待って、そもそもエイリアン・ドローンは、どこと通信してるの? 月の裏側の、母船?」
その質問には、茜が疑問を呈するのだ。
「月と地球の距離だと、電波が届くのに一秒程掛かりますから、ミサイル回避みたいな制御を月軌道の向こう側から行うのは、現実的じゃないですよね。そもそもエイリアン母船は月の裏側ですから、直接、地球の様子は見えてない筈(はず)ですし。」
「そう、天野さんの言う通り。だから、エイリアン・ドローンの制御を行っている物は、もっと近くに居る筈(はず)なのよ。その制御機(コントローラー)は、『ペンタゴン』じゃないかって言うのが一部での予想で、わたしもそうだと睨(にら)んでる。」
「『ペンタゴン』…五角形?」
緒美の説明を聞いて、九堂がポツリと言うのだった。緒美は、くすりと笑い、説明を続ける。
「最近は現れなくなったから、一般的には知られてないけど。一番、数が多いのは、飛行形態が三角形だから『トライアングル』。数は、その十分の一程で、飛行形態が五角形のエイリアン・ドローンが存在するのよ、それが『ペンタゴン』。 どう言う訳(わけ)か、最初の一年目以降、大気圏内では目撃されてはいないんだけど、大気圏突入前に『ヘプタゴン』から放出されている所は、最近でも観測がされてるらしいわ。」
「『ヘプタゴン』?」
聞き慣れない名称を九堂が聞き返すと、九堂の隣に居た村上が答える。
「七角形、よね。」
そんな九堂と村上に、茜が解説するのだ。
「月軌道から地球まで、を『ヘプタゴン』が運んで来るらしいのよ。『ヘプタゴン』の中に十二機の『トライアングル』と、一機の『ペンタゴン』が格納されてるらしいわ。」
「成る程、『ヘプタゴン』は輸送機、なのか。」
一人、納得する九堂の一方で、茜の隣に陣取るブリジットは問い掛ける。
「そもそも茜は、そんな情報、どこで仕入れてるのよ?」
「別に、ネットには普通に出てる情報よ。確かに、一般の報道には、余り乗ってないみたいだけど。」
平然と茜が答えると、ブリジットは村上に話を振るのだ。
「敦実(アツミ)は、知ってた?」
村上は頭を横に振って、応える。
「わたしは、エイリアン(そっち)方面の情報は余り見てないから。」
「あははは、敦実は防衛軍の飛行機には詳しいのにね~。」
九堂は笑って、村上の肩をポンと叩くのだった。
そんな調子で次第に横道に逸(そ)れつつあった話題の軌道修正をしたのは、金子である。
「それで、その『ペンタゴン』が、最近は目撃されていないって言うのは、どうして?鬼塚。」
「そんなの、エイリアンの考える事なんて知らないけど。でも、地球まで運搬されて来ている筈(はず)なのに姿を現さない、って言うのには、何かしら、意味は有るのでしょうね。 それと関係が有るのか無いのか、エイリアン・ドローン編隊の後方には、謎の電波発信源が度度(たびたび)、観測されているの。」
「謎の電波?」
問い返したのは、直美である。それには、樹里が応えるのだ。
「前回の運用試験時にも観測されてます。記録を解析した結果、電波のパターンから推測して、エイリアン・ドローンへの制御命令ではないかと。『トライアングル』側も、その電波に反応して返信をしてる様子ですし。」
その、樹里の説明を聞いて、金子が発言する。
「じゃ、それが『ペンタゴン』って事? でも、そこまで解ってるなら、『謎の』って事もないでしょう?」
緒美は、少しだけ間を置いて、金子の疑問に答える。
「その発信源、レーダーでも、光学的にも、見えないのよ。電波の発信方向を、幾ら観測しても。」
「ステルスって事?」
直美が問い掛けて来るので、緒美が返すのだ。
「そうね。それか、物凄く対象が小さいのかも。兎に角、未(いま)だに観測に成功してないから、正体が判らないのよ。」
「それで、『謎の』、なのね。 そうか、そいつが制御機(コントローラー)なら、それを攻撃したい訳(わけ)か。」
半(なか)ば納得した様な金子の発言を受けて、直美が緒美に問い掛ける。
「でも、電波を出してるのなら、そこを目掛けて攻撃できるんじゃないの?」
「それが出来ないのよ、電波を出してるって言っても、始終出しっ放(ぱな)しって訳(わけ)でもないしね。だから、方向は判っても、距離や高度が解らないの。レーダーに掛からないから、ミサイルの誘導が出来ないし、目視も出来ないから画像誘導も出来ない。何(なん)にしても、先(ま)ずは、相手の位置が解らない事にはね。」
「電波を受信しただけじゃ、発信源の位置は解らない…か。」
「相手との距離が近ければ、受信側が移動してれば相対位置が変わるから、或る程度は位置が推測出来るわ。或いは、発信源が高速で移動してるとか、受信側が相手の周囲をぐるっと回れたら、それでも相手の位置が特定出来る筈(はず)だけど。」
緒美の説明に続いて、茜が言うのだ。
「『それ』が制御機(コントローラー)なら、おいそれと接近させては呉れないでしょうね。」
「そう言う事。そこで『プローブ』の役割が重要になるのよ。『プローブ』はC号機、Sapphire から離れた位置で、発信源からの電波を受信して、その電波と受信した位置と時刻を Sapphire へ送って来るの。Sapphire 自身が受信したのと、『プローブ』から送られて来たデータとを突き合わせたら、発信源とそれぞれの受信位置での時差が解るから、それで距離の差が解るでしょ? それと受信した方向とを組み合わせれば、発信源の三次元的な位置が計算出来る、そう言う仕掛けなのよ。」
少し驚いた様に、金子が緒美に問い掛ける。
「『プローブ』が、攻撃するんじゃないの?」
その問いには、緒美が答えるより先に、瑠菜が声を上げるのだ。
「いえ、金子先輩。『プローブ』に弾頭や炸薬は、搭載されてませんから。」
「そうなの?」
瑠菜に聞き返す金子に、今度は緒美が声を掛ける。
「そうよ。『プローブ』は作戦空域に一時間ほど滞空して、エイリアン・ドローンの通信電波を受信し続けるの。そのあとは設定された回収ポイントへ自動で帰って行くのよ。」
続いて、ブリジットが発言するのだ。
「攻撃は、わたしの担当です。飛行ユニットに装備した、レールガンで狙撃する予定です。」
「あの、AMF のレーザー砲では、ダメなんですか?鬼塚先輩。」
その村上の疑問には、茜が回答する。
「原理は解らないけど『ペンタゴン』のステルス性能が、可視光領域の電磁波までカバーしているとしたら、レーザー攻撃は効果が期待出来ないでしょ。」
「そう…か、見えないって事は周囲の光が屈折してるか何かで、通過してるって事だよね。対レーダー用のステルスなら電波を吸収してるって事も有り得るけど、その原理だと可視光なら黒く見える筈(はず)だし。」
村上に続いて、金子が納得した様に言うのだ。
「成る程ね。レールガンなら目標の座標が判って、そこに着弾する様に弾道が計算出来れば、物理的に破壊出来るって事か。誘導する必要が無ければレーダーで捕捉出来なくても関係無いし、高価なミサイルを使わないで済むってのは、財布にも優しいよね。」
そう言って、金子は声を上げて笑ったのである。
- to be continued …-
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