WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第19話.08)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-08 ****


 Ruby に制御されている ADF は、それがシミュレーションであるから当然だとも言えるが、滑(なめ)らかに降下、進入を熟(こな)して滑走路へと着陸したのだ。
 その機体の大きさに比して主翼面積の小さい ADF は、F-9 を原型とする AMF よりも、矢張り降下速度が速く着陸速度も高速なのだった。だから着陸脚が接地すると同時に、全力での逆噴射を実施しなければならず、それでも停止距離には滑走路全長の八割程度を要したのである。

「どうだった?天野さん。」

 緒美が感想を求めて来るので、茜は即答する。

「そうですね、仕様書の通りですけど、矢っ張り離着陸のスピードが違いますね、AMF とは見える景色が全然。 着陸進入の降下は、殆(ほとん)ど落下してる感覚です。」

「怖かった?」

「実機で、行き成りアレだったら、多分。 シミュレーターで反復して慣らさないと。続けて、二、三回、やってみていいですか?」

「どうぞ。 次は、空中での機動も試してみてね。」

「分かりました。」

 そこで、樹里が茜に確認するのだ。

「シミュレーションの環境設定は、変えない方がいいよね?天野さん。」

「はい、樹里さん。今日はこの儘(まま)、固定でお願いします。」

「了~解。」

 その後、茜は ADF での離着陸や、空中での加減速、旋回など、基本的な機動に就いての挙動や反応をシミュレーターで確認したのである。そうして一時間程で、茜は ADF でのシミュレーター体験を終えたのだ。
 シミュレーター・モードを終了すると、茜の HDG は ADF から解放され、Ruby はログの回収を受けて、HDG とのドッキングの影響や各種プログラム・モジュールの動作状態の確認が開始される。その後は、HDG 無しで ADF 各部の動作確認や、エンジンの試運転が実施されたのだ。これは Pearl 搭載時に既に無人飛行までが確認されている訳(わけ)だが、搭載 AI ユニットが Ruby に変わった事で、以前と同じ様に運転が出来る事を確認するのだ。最後に ADF 機体の運転後点検であるが、これは整備担当者達に対する講習会も兼ねて、直美、瑠菜、佳奈、村上、九堂、金子、武東と言った生徒達に加え、社有機整備担当である藤元、並木、片平、そして F-9 改の整備担当として派遣されている平田、三木、宗近、深見にも説明が行われたのである。
 一方で、ADF から解放された茜は続いて AMF へと自身の HDG を接続して、Pearl 制御下の AMF での飛行シミュレーションを、此方(こちら)でも一時間程度を掛けて、離着陸や空中機動の確認を実施したのだ。Pearl に関しても、Ruby と同様に、シミュレーション終了後にはログが回収され、その稼働や制御の状況が確認されたのである。その作業には日比野、安藤、風間に加えて、樹里、維月、クラウディアが参加し、この日もソフト部隊の第三格納庫での作業は。午後九時頃まで続いたのである。

 そして七日目、2072年12月4日、日曜日。
 この日も幸いにして天気は良く、ADF の試験飛行には申し分の無い天候である。流石に十二月ともなれば午前中の気温は低いのだが、それでも朝早くから第三格納庫では試験飛行の準備が進められていた。この日に試験に参加する機体は、HDG-A01 と ADF、HDG-B01、HDG-C01、そして Pearl 制御による無人飛行で参加する AMF の合計四機である。
 茜の HDG-A01 と Ruby の ADF が、試験対象機なのは言う迄(まで)もないのだが、他の三機は試験状況の映像を記録し、監視する為の随伴機(チェイサー)なのだ。今回からは試験データの記録の為に、記録器材を積んだ社有機の飛行は無い。データの記録に防衛軍のデータ・リンクを利用するのは従来通りなのだが、今回、新たに設置された Emerald にデータ・リンクの為のユニットが取り付けられているので、データ取得を目的に試験空域へ随伴機を飛ばす必要が無くなったのである。そして Emerald は ADF だけでなく、B号機やC号機、AMF の稼働データ同時取得も自動化して呉れるのだ。御陰(おかげ)で緒美や樹里が第三格納庫から、試験状況のモニターや、指示が出せるようになったのである。
 試験状況観測の要(かなめ)は、AMF である。それは ADF を除く三機の中では、AMF に搭載されている複合センサーが、画像の取得能力が最も高いからである。B号機とC号機は、何らかのトラブルが発生した際の救援要員としての意味合いが、より強い。勿論、B号機とC号機に搭載された複合センサーでも、ADF 飛行の様子はそれぞれの視点から撮影される。
 そして、Pearl に依る AMF の完全自律飛行は、これが初めてであるので、第三格納庫には AMF の遠隔操縦用の簡易コックピットが準備されていた。Pearl には Ruby の AMF 制御に関するライブラリ・データが移植されているので、その自律飛行制御に大きな心配は不要なのだが、万が一、自律制御に不具合が生じた場合に備えて、機体の遠隔操作が可能な様に準備はされているのだ。もしもの場合に備えて、F-9 改の操縦要員として派遣されている青木か樋口が、AMF の遠隔操縦を担当する為に待機しているのだ。

「しかし、まあ、何(なん)とも大所帯になったものだなあ。」

 第三格納庫の南側大扉の外に立ち、少し呆(あき)れた様に然(そ)う言ったのは、飯田部長である。彼は午前九時過ぎに、本社から社有機で移動して来ていたのだ。
 飯田部長の隣に居た立花先生が、少し大きな声で言葉を返す。

「予定通り、じゃないですか。」

 格納庫内でエンジンを起動した各機が、順番に駐機場を横切って、誘導路へと進んで行くのだ。AMF やC号機の飛行ユニットが眼前を通過していると、普通の声量では会話が出来ない。

「そうだけどね。でも立花君は三年前、こんな光景、予想してたかい?」

 真面目な顔で飯田部長が訊(き)いて来るので、立花先生は、これ以上ない位の笑顔を作って答えるのだ。

「いいえ。」

「だろう?」

 飯田部長も、ニヤリと笑い返すのである。
 第三格納庫からは AMF、C号機飛行ユニット、ADF の順に庫外へと出て行き、滑走路へと向かって進んで行く。一番最後に出て来たブリジットのB号機は、駐機場の誘導路入り口付近で待機している。そして立花先生達の背後、第二格納庫の前にはミサイル実弾を装備した F-9 改が二機、発進待機状態で駐機されているのだ。
 この準備は HDG の試験中にエイリアン・ドローンとの遭遇戦が、実際に高確率で発生していた事に対する措置である。取り敢えず、この日を含んで数日間、エイリアン・ドローンの襲撃は発生してはいないのだが、何処(いずこ)かに潜伏していたと思われるエイリアン・ドローンに襲撃された事例も有ったので、学校や会社の側としては念の為の対策を準備したのだ。
 茜のA号機は兎も角、今回、ブリジットのB号機が武装を携行しているのも、同じ文脈からなのだ。茜のA号機は手持ちの武装は携行してはいないのだが、ADF に装備されている兵装は既に使用可能状態であり、試作工場では試射も済まされているのだった。

 午前十時、AMF が Pearl に依る自律制御で最初に離陸すると、続いてクラウディアのC号機が、そして茜の ADF が離陸するのだ。ADF は、茜がシミュレーターで体験した通りの、猛烈な加速で滑走路を駆け抜けて進空したのだった。茜から見えるその景色はシミュレーターで見た視界と同じだったが、唯一違っていたのは強烈な現実の加速度に襲われた事だ。AMF での離陸滑走でも、それなりに強い加速度を体験していた茜だったが、ADF の其(そ)れは AMF の比ではなかったのである。勿論、進行方向への推力に因る加速だから、高速旋回中の気絶しそうな縦Gや横Gに比べれば、それは軽いものだったのだが。それから付け加えるなら、離陸滑走距離の長さも、茜を少々不安にさせたのだった。これはシミュレーターでも視覚的に体験してはいたが、加速度も併せて体験すると、この儘(まま)で上昇出来ずに滑走路から飛び出し、フェンスに突入するのではないか?と、そんな不安感が脳裏を過(よ)ぎったのだった。実際にはシミュレーターで茜が体験した通りに、機体は上昇したのである。
 そして ADF の離陸を確認した後、最後にブリジットのB号機が、駐機場から滑走路を使う事無く上空へと舞い上がったのだった。

 天神ヶ﨑高校上空で合流した四機は、AMF を先頭にして編隊を組み、機首を北方へ向けて日本海側を目指して飛行を始めたのだ。
 編成は先頭の AMF に対して左翼後方が 茜の ADF、その ADF 左翼後方にクラウディアのC号機が着き、ブリジットのB号機は AMF の右翼後方に着いていた。AI に依る自律飛行の AMF が編隊長の位置である事を不審に思われるかも知れないが、直接の操縦操作を Pearl が実施しているとは言え、その挙動は遠隔操縦装置を通して本職のパイロット二人が監視しているのであるから、試験空域への行き帰りに就いては、これが妥当な編成なのだ。

 離陸から十五分程が経過し、HDG 達の編隊はすでに日本海上空の試験空域へと到達していた。九月頃には、茜の HDG-A01 が自身のスラスター・ユニットで飛行していた為、試験空域の進出までに一時間程を要していたのが今では嘘の様である。

「AMF01 より各機へ。予定空域へ到着しました。当機は編隊を離脱して、観測ポイントへ移動します。」

 そう Pearl が宣言して、AMF は南側へと離脱して行く。
 それに、クラウディアが続くのだ。

「HDG03 です。それじゃ、此方(こちら)も観測ポイントへ移動します。Sapphire、行きましょう。」

「ハイ、編隊から離脱します。」

 クラウディアのC号機は右へ旋回し、東向きに離れて行くのだ。

「HDG01 です。AMF01、HDG03 は、位置に着いたら連絡してください。 HDG02 は打ち合わせ通り、わたしの左後方へ。」

「HDG02、了解。」

 ブリジットは予定通りに、ADF の左後方五十メートル程にポジションを取るのだ。
 そして間も無く、AMF と HDG03 から連絡が入る。

「此方(こちら) AMF01、観測準備、整いました。」

「HDG03 より各機。此方(こちら)も観測準備、完了。」

「HDG01 より、テスト・ベース。高速飛行試験、準備完了です。指示を待ちます。」

 その茜のリクエストに、緒美からの返事は直ぐに返って来るのである。

「テスト・ベースより、各機。記録の準備は完了しています。何時(いつ)でも、始めてちょうだい。」

「了解しました、それでは、加速開始します。 HDG02、頑張って付いて来てね。」

「あはは、仕様書通りの性能なら、直ぐに付いて行けなくなる筈(はず)だけど、まあ、頑張ってみるわ。」

 ブリジットからの返答に、くすりと笑って、茜は Ruby に指示を出すのだ。

「それじゃ、Ruby。加速開始。」

「ハイ、加速開始します。」

 ADF に搭載された四基のエンジンは、回転数を跳ね上げて加速を始めた。計画では巡航時の凡(およ)そ時速 600 キロメートルから、二分間でマッハ2弱まで速度を上げるのだ。正確には分速 10 キロメートルから、分速 40 キロメートルへと加速するのだが、その間の平均加速度は凡(およ)そ 0.4Gである。
 ADF を追跡するブリジットの HDG-B01 は、その飛行ユニットの最高速度が時速 800 キロメートル(分速 13.333 キロメートル)なので、直ぐに引き離されるのは明白だったのだ。
 随伴機の中で最速なのは AMF だが、それでも最高速度はマッハ 1.2 (時速 1450 キロメートル/分速 24.5 キロメートル)程度なので、ADF との併走は出来ない。それ故(ゆえ)に AMF とC号機は、距離を取って観測を行うのである。
 一方でブリジットのB号機が置いて行かれるのを承知で追跡を行うのは、ADF に何らかのトラブルが発生したなら当然、ADF は減速するであろうから、であればB号機でも速やかに追い付けるだろう、と言う事である。取り敢えず接近が出来れば、外部からの状態確認や、場合に依っては救援が可能かも知れないのだ。通常の航空機とは違って、HDG ならば文字通り『手を差し伸べられる』のである。

「加速開始より、十秒経過。現在速度、13.1。」

 Ruby が状況を報告して呉れる一方で、茜は身体を後ろへ引っ張る様な、或いは前から押し付けられる様な、推力に因る加速度を味わっていた。単純に加速度だけで比較すれば、ここでの 0.4Gと言う加速度は、それ程、大きな数値ではない。レーシングカーや遊園地のローラーコースターでも、進行方向への加速度が 1Gに迫ったり、又は其(そ)れを超える物は少なくないのだ。徒(ただ)、茜の今迄(いままで)の生活は然(そ)う言った事物とは縁遠かったので、その様な加速度を体験した事は無かったのである。

「三十秒経過、現在速度 17.5。」

 Ruby が報じる速度の単位は『毎分キロメートル』なので、換算すると時速 1050 キロメートルとなる。これは標準状態の大気条件で、音速の 0.8 倍程度である。
 この辺りで、ブリジットのB号機、ADF に付いて行くのを断念するのだ。

「HDG02 より HDG01、流石にもう、無理。予定通り、置いて行ってね。」

「HDG01 了解。HDG02 は其方(そちら)のスピードで追跡を続行して。」

 そして ADF は順調に加速し、間も無く音速を突破したのだ。

「六十秒経過、現在速度 25.02。」

 換算すると時速 1500 キロメートル、凡(およそ)そ音速の 1.2 倍である。
 茜はエンジンのステータス画面を呼び出し、回転数や排気温度、圧力など、ステータスに異常が無い事を確認する。こうやって茜が目視で確認する迄(まで)もなく、何か異常が有れば Ruby が報告して呉れるのだが、無論、ダブル・チェックは重要だし無駄ではない。

「九十秒経過、現在速度 32.5。」

 既に ADF の飛行速度は音速の 1.6 倍程に達しているのだが、搭載エンジンの能力的には、まだ余裕が有るのだ。そもそも単純にスロットルを最大位置に設定して加速を開始したのであれば、速度が上がるに連(つ)れて加速が鈍っていく筈(はず)なのだ。それは無限に加速が出来る訳(わけ)ではないのだから、当然である。つまり、Ruby は加速度が 0.4Gで一定になる様に、絶妙なスロットル制御を行っているのだ。そして現時点で、まだアフター・バーナーは作動していないし、この試験でアフター・バーナーを使用する予定も無い。

「百二十秒経過、現在速度 40 に到達。」

 そして仕様通り、二分間で毎分 40 キロメートル、つまり時速 2400 キロメートル、凡(およ)そ音速の二倍へと達したのだ。茜は、Ruby に指示する。

「オーケー、Ruby。スロットルをアイドル・ポジションへ、スピードが 10 に落ちる迄(まで)、慣性飛行。HDG02 が追い付くのを待ちましょう。」

「ハイ、スロットルをアイドル・ポジションへ。スピード 10へ減速する迄(まで)、直線飛行を維持します。」

 エンジンの出力が減少すると、茜の身体を押さえ付けていた加速度が、スッと無くなるのだ。とは言え、特別に抵抗が増える操作をした訳(わけ)ではないので、前方へ身体を持って行かれる様なマイナスの加速度は感じない。つまり、殆(ほとん)ど減速していないのだ。
 茜はエンジンのステータスに目を遣って、その回転数が四基とも、余り低下していない事を確認した。

「ああ、マニュアルに書いてあったのは、この事ね…。」

 マッハ 1.5 以上の超音速飛行中の場合、スロットルを急激に絞ってもエンジン保護の為に回転数が維持される、そんな安全装置が組み込まれているのである。大量の空気を吸入していたエンジンの回転数を急減させる事は、吸入する空気の量を急減させる事だから、単純に其(そ)れを行うと既に加熱しているタービンの熱収支バランスが崩れて、最悪の場合、タービン・ブレードが損傷する可能性が有るのだ。エンジンに流入する空気に就いては、インテークに因って適切な状態になるよう制御されているのだが、この辺りの条件は流入する空気の速度や圧力、温度などのバランスに依るので一概に規定が出来ない。徒(ただ)、間違いのない事はインテーク周囲の気流が超音速流でなくなれば、要するに機体の速度が音速以下に落ちればいいのである。そうなれば、エンジンは安全に回転数を落とせるのだ。

「HDG01 より、テスト・ベース。スロットル制御で減速出来ないので、これより減速機動を実施します。」

「此方(こちら)テスト・ベース、了解。気を付けてね。」

 減速出来ないのがトラブルではなく想定されていた事象なので、緒美からは了承の意が即答されたのである。

Ruby、機首上げ 15°、上昇して減速を試みます。」

「ハイ、機首上げ 15°。機体が上昇を開始、現在高度 8012 メートル。」

 透(す)かさず、緒美からの通信が入る。

「HDG01、今日の上昇限度は一万メートルだから、注意してね。」

「HDG01 です。了解してます。」

 ここでの上昇限度は試験飛行の為に当局へ申請してあった空域の上限であって、ADF の上昇能力の上限ではない。

 

- to be continued …-

 

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