WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第16話.12)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-12 ****


Ruby、右側の CPBL を出して。」

「ハイ。右腕側に、CPBL を渡します。」

 茜の指示で、HDG 後方の AMF 機体内から CPBL:荷電粒子ビーム・ランチャーが、茜の脇腹と右腕の間を擦り抜けて前方へと押し出されて来る。茜は HDG のマニピュレータを展開して、荷電粒子ビーム・ランチャーのグリップを掴(つか)むのだ。するとランチャーを解放した武装供給用のアームは、するりと AMF 機体内へと戻って行く。

Ruby、機首ブロック解放。」

 AMF の機首部が開き終わるのを待つ事無く、茜はブリジットに呼び掛ける。

「HDG02、右側の二機をお願い。」

 そして茜はブリジットの返事を待たずに、AMF を横転(ロール)させて機体を裏返しにすると、機首側を下へと向け、一気に高度を下げるのだ。

「了解、アカ…HDG01。続きます。」

 ブリジットは『茜』と言い掛けて『HDG01』と呼び直し、AMF を追う様に急降下へと移行する。そして射撃モードの武装を構えると、緩(ゆる)い旋回を続け乍(なが)ら、目標を正面へと自身を射撃位置へ向かわせるのだ。
 茜の AMF とブリジットの HDG-B01 は、クラウディアの C01 を挟(はさ)んで、それぞれが C01 とは凡(およ)そ二百メートルの距離を取っていた。降下しつつ、茜とブリジットは互いの間隔を二百メートル程へと寄せ乍(なが)ら、眼下に迫る目標へ照準を合わせる。
 真っ直ぐ上昇して来るかと思われたエイリアン・ドローン編隊だったが、急降下を続ける茜の視界下方へ向かって、徐徐(じょじょ)に移動して行くのだ。

「HDG02、目標は矢っ張り、Sapphire を狙ってる。」

 そうブリジットに注意を促(うなが)すと、茜は機体を更に 180°横転(ロール)させて、エイリアン・ドローン編隊を視界に捕らえ直すのだ。目標が射程距離の範囲を通過する迄(まで)、あと数秒である。
 位置関係としては、70°程の角度で上昇して行くエイリアン・ドローン編隊の後方上空から、茜達が射撃する形だ。

「HDG01、目標をロック。射撃のタイミングを指示して。」

 そのブリジットの要請に、茜はカウントダウンを始める。

「オーケー、HDG02。3…2…1…0、発射!」

 茜とブリジットは、照準を合わせた目標へ、荷電粒子ビームを連射したのだ。
 茜は AMF の左インテーク側面に固定された荷電粒子ビーム砲と、右腕に保持しているランチャーのそれぞれで、同時に二機の目標を射撃したのである。AMF の固定荷電粒子ビーム砲は機体の向きを目標に合わせる必要が有るが、右腕のランチャーの射線は AMF の機軸とは関係無く照準が付けられるのである。
 茜とブリジットは、それぞれが一門毎(ごと)に二連射を行い、その結果、一気に三機を撃墜したのだ。

「ああ~、ダメ、逃げられる!」

 通信から、ブリジットの悔(くや)しそうな声が聞こえて来る。
 ブリジットの武装は一門だけなので、AMF の様に複数機を同時に攻撃出来ないのだから、一機を逃してしまったのは、それは無理からぬ事なのだ。
 攻撃を免(まぬが)れたエイリアン・ドローン残存機は、直ぐに回避機動を開始し、それに対しては茜もブリジットも直ぐに対処が出来ない。急降下で行き足の付いた双方の機体は急激に向きを変えられず、機体の降下も直ぐには止められないのだ。茜もブリジットも、飛行軌道を降下から上昇へと引き起こして追撃を試みるが、その時点で、逃走するエイリアン・ドローンとの距離は開いていく一方なのである。
 逃走する敵機が、そのまま彼女達から離れて行って呉れるのなら、護衛の F-9 戦闘機のミサイルで処理されるのを待てばいいのだが、そのエイリアン・ドローン残存一機が目指しているのは、明らかに退避中であるクラウディアの HDG-C01 だったのだ。
 エイリアン・ドローンと HDG-C01 の飛行ユニットとでは、維持が可能な最高飛行速度に大差は無い。しかし茜達が飛行軌道を引き起こしている間に、エイリアン・ドローンは C01 よりも千メートル程は上空へ到達しており、その高度差を利用すれば、エイリアン・ドローンは C01 よりも大きな速度を得られるのだ。
 エイリアン・ドローンの上昇能力は地球側の航空機と比較するならば、それは異次元の性能である。そのエイリアン・ドローンの飛行原理、特に浮揚方法に就いては未(いま)だに、どう言った原理なのかは不明なのだが、それは『重力制御の様な』未知の技術であろうと推測されているのだ。だからと言って所謂(いわゆる)『UFO』の様な非常識な機動や、瞬間移動だとかが可能な訳(わけ)ではない。浮揚に関して重力の影響を免(まぬが)れているとされるエイリアン・ドローンと言えども、大気の抵抗や、慣性の影響は受けているのだ。だからエイリアン・ドローンは水平飛行で音速を突破する能力は保有していないし、旋回する際も普通に円運動になるのである。

「Sapphire! エイリアン・ドローンが、貴方(あなた)の後方上空に占位。何(なん)とか、一撃目を凌(しの)いで。直ぐにそっちへ行くから。」

 茜が声を上げると、Sapphire が応えるのだ。

「この儘(まま)だと、AHI01 の方へエイリアン・ドローンを連れて行く事になりますが、いいのですか? HDG01。」

「だけど、旋回すると速度が落ちるわよ、Sapphire。追い付かれるわ。」

 茜が答えると、更に Sapphire が言うのだ。

「此方(こちら)側で対処するのなら、AHI01 からは少しでも遠い位置の方が、いいのではないかと分析しますが? この儘(まま)で直線飛行を継続しても、最終的には追い付かれます。」

「それはそうだけど、対処出来る?Sapphire。」

「迎撃の指示を頂ければ。その為のシミュレーションも重ねました。」

 そんな茜と Sapphire との遣り取りに、クラウディアが声を上げるのだ。

「ちょっと、わたしを無視して話を進めないで、Sapphire。ドライバーはわたしよ。」

「では、この儘(まま)、退避を継続するか、それとも追撃して来る敵機を迎撃するか、どちらか選択を、お願いします。」

 そう Sapphire が判断を迫るので、クラウディアは緒美にその許可を求めるのである。

「HDG03 より AHI01、こっちで判断していいんですか?」

 それには直ぐに、緒美が言葉を返すのだ。

「いい訳(わけ)ないでしょ。HDG01 が追い付く迄(まで)、全速で直線飛行を続けなさい。こっちはこっちで退避してるから、此方(こちら)の心配はしなくていいわ。」

 緒美の返信の直後、Sapphire が宣言するのである。

「残念ですが、時間的猶予が無くなりました。敵追撃機が、降下接近して来ます。当機はドライバー保護の目的で、自己防衛行動を開始します。」

 Sapphire の宣告を聞いて、緒美は茜に問い掛ける。

「HDG01、間に合わない!?」

「あと、四十秒!」

 超音速巡航が可能な AMF であっても、上昇し乍(なが)らでは全力運転でも追い付くのには時間が必要だった。今以上に速度を上げるには機首ブロックの閉鎖が必要だったが、今は、その時間さえも惜しいのだ。
 実際問題として、AMF の機首ブロックを気流に逆らって閉鎖する為には、飛行速度を時速 300 キロメートル以下に落とす必要が有ったのだ。今は、減速している時間的な余裕は無かった。

「HDG02!」

 緒美はブリジットにも呼び掛けるのだが、返って来たブリジットの答えは絶望的だった。

「無理です!」

 HDG-B01 と C01、エイリアン・ドローン、加えて言うなら AHI01 である天野重工の社有機、これらの最高飛行速度は、ほぼ同じなのである。元々、五十キロメートルの距離が有った AHI01 は全力で退避すれば、エイリアン・ドローンに追い付かれる心配は無い。しかし、高度差は有る物の、ほぼ同じ位置へと迫られた HDG-C01 は、例え全力で逃げてもエイリアン・ドローンを振り切る事は出来ない。そして、全力で逃げる C01 とエイリアン・ドローンに、B01 が追い付くのは、それが全力で追い掛けても、能力的に不可能なのである。
 現状で追い付く可能性を有しているのは、茜の AMF のみ、なのだ。勿論、C01 の速度や飛行方向が変われば、話は違う。
 一方でエイリアン・ドローンは、自力での推進力に、高度差を利用した重力に因る加速を上乗せし、HDG-C01 の後方上空から体当たりでも狙っているかの様な勢いで接近していた。
 Sapphire は、クラウディアに向かって注意を促(うなが)すのだ。

「現在の勢いで敵機と接触、衝突すると、機体の安全を確保出来ません。回避機動後に攻撃を受ける様であれば、即座に迎撃行動に移行します。機動時の加速度は最大でプラス・マイナス 3G の範囲内に抑えますが、ドライバーはしっかりと掴(つか)まっていてください。」

「え? Sapphire?」

 クラウディアが同意するか否(いな)かには関係無く、HDG-C01 は右へ機体を傾けると機首を引き上げる様にして右旋回をし乍(なが)ら、機体全体で空気抵抗を利用した急減速を実行する。

「!Aaaaaaaaaaaaa!」

 通信から、クラウディアの悲鳴が聞こえて来るが、Sapphire は流石に躊躇(ちゅうちょ)しない。
 右旋回で急減速した HDG-C01 をエイリアン・ドローンはオーバーシュートするが、通過したエイリアン・ドローンは即座に『格闘戦形態』へと移行し、その変形時の空気抵抗で、此方(こちら)も一気に減速するのだ。そして更に、その余剰な運動量をもう一度、高度に変換して向きを変えると、HDG-C01 へと向かって来るのである。
 Sapphire は推力偏向(ベクタード・スラスト)ノズルを巧みに操って機体の姿勢を制御し、斬撃を挑(いど)んで来るエイリアン・ドローンに対して、C01 の両腕に装備されているビーム・エッジ・ブレードを展開するのだ。この時点で HDG-C01 は時速 200 キロメートル程で空中に在ったが、その飛行ユニットの主翼は完全に失速状態である。C01 の機体は緩(ゆる)やかに落下しつつ、エンジンの推力で姿勢を保っているのだ。
 最接近したエイリアン・ドローンは C01 の正面左上から、鎌状の右ブレードを振り下ろす。しかし、その攻撃は C01 のディフェンス・フィールドに因って弾かれるのだ。

「右ブレード、オーバー・ドライブ。」

 攻撃を受けるのとほぼ同時に宣言された Sapphire の指定で、右腕ビーム・エッジ・ブレードが形成する荷電粒子の刃(やいば)は、その長さを三倍程に引き延ばされると、左側へ構えた右腕を斜め上へと振り抜く。
 クラウディアの眼前に在ったエイリアン・ドローンの胸部が C01 の一撃で上下に分割されると、二つに分かれたそれは、唯(ただ)、落下して行くのだった。

「対処を終了。通常の飛行へ移行します。」

 そう、Sapphire が無感情に告げると、クラウディアは先刻の悲鳴のあと忘れていた呼吸を再開して、大きく息を吸い込み、そして息を吐(は)いた。

「HDG03、大丈夫?」

 漸(ようや)く追い付いた茜が、C01 の左側三十メートル程の位置に AMF を並べ、呼び掛けて来る。

「Sapphire、良くやったわ。Good job よ。」

 ブリジットの B01 は C01 の右手側二十メートル程の位置に付き、声を掛けて来る。C01 が針路を変え、尚且(なおか)つ減速した事で、B01 も追い付く事が出来たのである。
 そして、Sapphire がブリジットに応える。

「ありがとう、HDG02。シミュレーションの通りです。」

 すると、クラウディアが声を上げるのだ。

「貴方(あなた)達? Sapphire に変な事、教えたの。」

 透(す)かさず、ブリジットが言葉を返す。

「『変な事』って何よ。仕様通りの事だし、その御陰で助かったんじゃない。」

 この時点でクラウディアは、茜とブリジットが空戦シミュレーションで Sapphire に空中戦の学習をさせていた、その内容を全く把握していなかったのである。
 ブリジットに続いて、茜が言うのだ。

「取り敢えず、Sapphire を褒めてあげて、HDG03。ドライバー保護の為に、頑張ったんだから。ねえ、Ruby。」

「ハイ。流石は、わたしの妹です。的確な判断と、行動でした。」

 そこに、護衛の F-9 戦闘機からの通信である。

「此方(こちら)、コマツ01 だ。 HDG01、撃ち漏らしは、どこだ?」

 茜はくすりと笑い、応える。

「HDG01 です。全機、此方(こちら)で処理してしまいました。申し訳ありません。」

「いや、此方(こちら)としてはミサイル代が浮いたから文句は無いが、其方(そちら)は無事か?」

「はい。HDG02、HDG03 共に被害はありません。HDG03 のドライバーが、精神的(メンタル)に少々のダメージを受けた様子ですが…。」

 そこにクラウディアが、割って入るのだ。

「HDG03 ですけど、大丈夫ですし、問題ありません。御心配無く。」

「あはは。HDG03 も、元気そうな声だ。コマツ01、了解。」

 続いて、緒美の指示が入る。

「AHI01 より、HDG 各機。目標が存在しなくなったので、当方の実験は現時刻で終了します。思いの外(ほか)早く終了したので、燃料は十分(じゅうぶん)残ってると思うけど、テスト・ベースへ直帰は可能かしら。各機、報告して。」

 緒美の言う『テスト・ベース』とは、天神ヶ﨑高校の事である。この、現場から学校へ直接帰投する事は、予(あらかじ)め想定されていた、言わば『プランB』なのだ。

「AHI01 へ、HDG01 は直帰は可能です。」

 茜に続いて、ブリジットが報告する。

「AHI01。 HDG02 も大丈夫です。」

 そして、クラウディアである。

「HDG03 も直帰は可能です、AHI01。」

「了解。 AHI01 より、統合作戦指揮管制。そう言う訳(わけ)ですので、我々は現場から退去しますが?」

 緒美の連絡に対し、防衛軍側は直ぐに返事を寄越(よこ)すのだ。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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