WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第6話.09)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-09 ****


「天野さん、其方(そちら)のお二人は、A組のお友達?」

 維月は、場の雰囲気を取り繕(つくろ)おうと思ったのか、茜に話し掛けた。

「はい、こっちが村上さんで、向こうが九堂さん。」

 茜に紹介されて、二人は上級生風の維月に、軽く会釈をするのだった。

「わたしは、情報処理科の井上 維月。二回目だけど、同じ一年生だから、ヨロシクね。で、こっちは同じく情報処理科一年のクラウディア、ドイツ国籍なのよ。」

 維月が自己紹介をする一方で、クラウディアは黙々とパスタを食べている。
 その一方で、村上さんがラーメンを啜(すす)るのを一旦止めて、茜に問い掛ける。

「お二人とも、寮で見掛けた事は有ったけど、D組だったのね。天野さんはどうして、面識が?」

 すると、向かいに座っていた九堂さんが言う。

「あ、入学式のあとで、天野さんに絡んでたの、あの子じゃない?」

 九堂さんの発言を、慌てて茜はフォローするのだった。

「別に、絡まれてた分けじゃ…。」

「いや、ああ言うのを、絡まれてたって言うのよ、普通。」

 茜のフォローを台無しにする、ブリジットの突っ込みである。

「兎も角、あの一件とは別に、部活の方でね。」

 と、言い乍(なが)ら、茜はランチセットのハンバーグを一切れ、口へと運ぶのだった。

「あ、天野さんもランチセットなのね。そちら…九堂、さんも。」

 維月は二人が、自分と同じメニューだったのに気が付いて、そう声を掛けた。

「わたしは、ほぼ毎日、ランチセットですけどね。メニューが日替わりなので。」

 茜は微笑んで、そう言った。

「わたしはハンバーグが好きなだけです~。」

 とは、九堂さんの弁である。

「村上さん、は、ラーメン、好きなの?」

 維月が村上さんへと話を振ると、少し考えてから村上さんは答えた。

「いえ、特に好物という訳(わけ)ではないんですけど。 今日、シェルターに入ってたら、何だか無性にラーメンが食べたくなったんです。その時はスープは豚骨のイメージだったんですけど、ここのは醤油か塩しか選べないので、今日は塩にしました。理由は…わたしにも分かりません。」

 言い終わると、村上さんは両手でラーメン鉢を持ち上げ、スープを一口、味わうのだった。

「あはは、みんな個性的で面白いわ~。いい人選だわ、天野さん。」

「別に、わたしが選んだ訳(わけ)ではなくて、ですね。何となく気が合うから集まっただけ、と言いますか。大体、ランチのメニューで、そんな事が分かるんですか?維月さん。」

「だって、みんな、それぞれ好きなメニューを選んでるじゃない。グループ内に、変な気遣いや、同調圧力が無い証拠よ。」

「そんなものですかね。」

 維月の説に無条件で納得は出来なかったが、取り敢えず、茜は野菜サラダのレタスを口へと運ぶ。その時、パスタをほぼ食べ終えたクラウディアが、コップの水を一口飲んでから、茜に言った。

「それで?そんな話をする為に、このテーブルに来たの?」

「何、偉そうに言ってるの。たまたま四人分の空席が有ったから、このテーブルに来ただけでしょ。」

 早速、クラウディアに反論するブリジットだったが、続いた茜の発言は、ブリジットには少し意外な内容だった。

「わたしがクラウディアさんに、聞いてみたい事があったの。あなたの地元でも、矢っ張り、シェルターとか有ったのかなって思って。」

 茜は笑顔で、そう質問したのだが、クラウディアは直ぐには答えず、顔は向かい側の維月の方へ向けた儘(まま)、視線だけを茜の方へと向けた。ブリジットと村上さん、九堂さんは食事を続けつつ、クラウディアの返事に注目していた。維月も又、ランチセットのコンソメ・スープに口を付け乍(なが)ら、視線だけをクラウディアへ送っていた。
 クラウディアは、維月が送る視線の圧力に負けて、口を開く。

「…そうね。こっちと違って、大概の家には地下室が有るから、わざわざシェルターを作ったりはしないわね。」

 クラウディアの回答を受けて、九堂さんが真っ先に聞き返す。

「学校にも?」

「全校生徒を収容出来る様なのを作るよりも、避難が必要になったら保護者に引き渡す方が安上がりだし、子供の安全確保は各家庭がやるべき事だから、学校はそこ迄(まで)責任を持たないでしょ。そう言う意味で、今日の避難訓練には驚いたわ。授業を潰して迄(まで)、学校がやる事なのか…まぁ、訓練の意義まで否定はしないけど。一つ思ったのは、ここは平和だなって事。」

 普通に答えるクラウディアを、維月はニコニコ顔で眺めていた。それに気付いたクラウディアが、維月に向かって声を上げる。

「何よイツキ。何か変な事、言った?」

「いいえ。ここが平和だって感想には、同感だけどね。ここみたいじゃない所でも、日本じゃ同じ様な事、やってるのよ。 天野さんとボードレールさんは関東組なのよね? わたしも実家は神奈川なんだけど、あっちでもやってたわ。避難訓練。」

「そうですね。わたし達の中学にもシェルターは有りました。さっき、ここが地元の子に聞いたんですけど、この辺りではシェルターは無いけど、避難訓練はやってたそうですよ。 村上さんは名古屋で、九堂さんは福岡だっけ?」

 茜は村上さんと九堂さんに水を向ける。先に口を開いたのは、村上さんだった。

「名古屋は関東や北九州に比べれば、襲撃事件は少ない方だと思うけど。小学校、中学校と避難訓練はやってた。わたしの通ってた所には、シェルターは無かったなぁ。」

「福岡、特に海沿いの所は東京並みに襲撃事件が起きてたから、シェルターは有ったし、訓練よりも本当の避難指示でシェルターに入る事の方が多かったわね。それを思うと、確かに、この辺りは平和よね~。」

 そう言うと、九堂さんは明るく笑った。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第6話.08)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-08 ****


 解散となった時刻には、既に昼休みになっていた。その為、中断した四時限目の授業は、その儘(まま)終了、各自は昼食へ、と言う運びである。
 西本さん達、普通課程組の多くは教室でお弁当なので、寮生活で弁当持参でない茜達、特別課程組は普通課程組とはそこで別れ、茜達はその儘(まま)学食へと向かったのだった。A組とB組の特別課程の生徒は共に機械工学科であり、その女子生徒は合計十五名である。その中で、それぞれが仲の良い三、四人のグループに自然と分かれて、学食へと向かっていた。
 この時の茜のグループは四人で、その一人は勿論ブリジット、もう一人は村上さんと言う眼鏡を掛けた、温和(おとな)しそうな少女、あと一人が九堂さんで、こちらは村上さんとは対照的な、快活な印象の少女である。
 村上さんは所謂(いわゆる)「飛行機オタク」で、取り分け戦闘機に興味を持っていた。彼女は幼少期からの飛行機好きなのだが、本人曰(いわ)く「酷(ひど)い高所恐怖症」なのだそうだ。それ故、パイロットではなく飛行機を設計したり、整備する方向を目指しているのである。だから、卒業後の天野重工では、防衛装備事業の航空機部門への配属を希望していた。村上さんは飛行機好きと言う事から、当然、部活としては飛行機部を選んでいた。普通、飛行機部に入部するのは、グライダーやモーター・グライダーの操縦に興味を持つ人なのだが、村上さんの場合は「酷(ひど)い高所恐怖症」であるが故、操縦には関心は無く、始めから整備や地上要員(グラウンド・クルー)志望で入部したのだった。整備や地上要員(グラウンド・クルー)志望と言う人材は、飛行機部部員としては少数派だったので、彼女の入部は、先輩達に非常に歓迎されたのだった。
 茜も、大きな括(くく)りで言えば「兵器オタク」であり、その点で村上さんとは話が合うのだったが、この二人が兵器関連に就いて語り合いを始めると、ブリジットが一人置き去りにされてしまうと言う事象が間間(まま)、起きるのである。そんな時、ブリジットの相手をしてくれるのが九堂さんなのだった。
 九堂さんは、茜や村上さんとは違って兵器に就いては特段の興味は無く、一般産業向けの機械設計技術者を志向している。その辺りはブリジットも同様で、特定の産業や業種に拘(こだわ)ってはいないので、将来のヴィジョンに関して特別明確な目標を持っている訳(わけ)ではない。しかし、そんな彼女等(ら)の方が実際は多数派であって、茜の「パワード・スーツ開発」や、村上さんの「戦闘機設計技術者」等の様に、明確な目標を持っている者の方が少数派なのである。勿論、何(ど)れだけ明確な目標を持っていたとしても、将来、天野重工に入社して希望通りの職種に就けるか、それに保証等(など)は無い。
 ともあれ、この四人には特別に共通した趣味や興味が有る訳(わけ)で無く、茜とブリジットとの繋がりは別としても、四人の関係は、何となく「馬が合う」程度の緩い繋がりだったのだが、それが心地良い関係でもあったのだ。

 四人は学食へ入ると、注文カウンターの端末でそれぞれが好みのメニューをオーダーし、携帯端末で支払いを済ませた。

 彼女達がそれぞれに所有している携帯端末には決済機能が組み込まれており、大概の買い物はこれで用が足りる。携帯端末は決済機能の他に通話、データ通信やネット検索等、幾つもの機能を設定可能なのだが、厳密に言えば、携帯端末にこれらの機能が組み込まれているのではない。携帯端末は契約したサービスを呼び出して、データの仲介だけをしているのである。つまり、携帯端末がアプリケーションや各種データを保持している訳(わけ)ではない。メールや画像等(など)のデータも、契約したサービスのサーバーに保存されているので、携帯端末に保持されているのは、何(ど)のサービスと契約しているかの情報のみである。
 携帯端末は、ユーザーが勝手にゲーム等(など)のアプリケーションを追加したり出来ない仕組みなので、学生や児童向けとしては定着したデバイスとなっており、又、煩雑(はんざつ)なアプリケーションの管理が煩わしいと思う多くの人達に支持されている。

 茜達は、それぞれがオーダーしたメニューが乗せられたトレーを受け取ると、空いたテーブルを探す。時間的に、纏(まと)まった席が空いているテーブルは少なかったのだが、茜は四人分の空席を見付けると、直ぐにそこへと向かった。
 茜の行く先に気が付いたブリジットは、そのテーブルにクラウディアと維月が居る事に気が付き、茜を呼び止めたのだが、茜は歩みを止めなかった。

「あ、アマノ アカネ。」

 クラウディアが茜に気が付き、声を漏らす。

「ここ、空いてる?」

 茜の呼び掛けをクラウディアが無視するので、維月が答える。

「どうぞ、空いてるよ。天野さん。」

「あなたが居るって事は、あのノッポも一緒ね。」

 クラウディアは横目でちらっと茜を見ると、そう言った。そこへ、ブリジットが九堂さん、村上さんと共に、そのテーブルへとやって来る。

「一緒に居て悪かったわね。」

「ご一緒させてくださいね、維月さん。」

 六人席のテーブルの端側に、維月とクラウディアは向かい合って席に着いており、茜はクラウディアの隣の席に座った。

「どうぞ、どうぞ。ほら、他のみんなも座って。」

 朗(ほが)らかな口調の維月の勧めで、ブリジットは維月の隣に、九堂さんはブリジットの隣に、村上さんは茜の隣の席に、それぞれが座ったのだった。
 皆が席に着いて直ぐ、クラウディアとブリジットは、お互いのランチ・メニューが同じパスタだった事に気が付き、何だか気まずい表情に変わった。そして、クラウディアが先に、ブリジットへの皮肉を発する。

「あなたは、ハンバーガーじゃないの?」

 そう言われて、ブリジットはムッとして言い返す。

「あなたこそ、ジャガイモとソーセージでも食べてれば。序(つい)でにビールでも飲む?」

 その遣り取りを聞いて、茜は呆れて言った。

「もう、二人とも。いい加減、その、お国柄コントは止めて。 大体、未成年はビール飲んじゃダメでしょ。」

「あ、天野さん。最後の突っ込みは要らないから。」

 そう言って、維月は笑うのだったが、事情の分からない村上さんと九堂さんは、流石にその険悪な雰囲気に引いていた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第6話.07)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-07 ****


「そう言えば、ここは町の方にも、シェルターは余り無いの?」

 茜は西本さんに、地元の事情を聞いてみる。

「市役所の駐車場の地下と、中央公園位(くらい)じゃない?シェルターが出来てるのって。一般の会社とか住宅で、シェルター付きなんて聞いた事無いし。まぁ、田舎だからね~今迄(まで)エイリアンのが飛んで来た事も無いしさ。」

「でも、陸上防衛軍の基地とか、町外れに有るのよね?」

 今度はブリジットが問い掛ける。

「演習場よ。所謂(いわゆる)、基地って感じじゃなくって、徒(ただ)の原っぱらしいし。だからエイリアンは狙って来ないだろうって、うちの親とか、そう言ってる。」

「矢っ張り、地域で随分、差が有るのね。」

 中学時代の感覚を忘れていたのも無理は無い、と、そう思う茜とブリジットの二人だった。

「さっき、教室でさ、男女別に分かれるように言われて、ちょっと、えっ、て思ったんだけど。ここに来て納得って、思ったわ。」

「どうして?」

 唐突に西本さんが、話題の方向性を変えて話し出すので、茜が聞き返した。

「だって、この狭い感じだと、男子達と一緒に入るの、何か嫌じゃない?」

「あぁ~まぁ、確かに。」

 西本さんの意見に、茜とブリジットは「言われてみれば」と同意し、クスクスと笑う三人だった。

 それから十五分程して、今度は生徒会の女子役員がシェルター内の人数確認に訪れた。

「現在、人数の集計をやっています。訓練終了の放送が有る迄(まで)、ここで待機しててください。」

 人数確認を終えると、女子役員はそう言い残して立ち去ったのだった。
 茜はポケットから自分の携帯端末を取り出し、時刻を確認する。

「もうすぐ、お昼になるのね。」

 隣に居たブリジットが、茜が携帯端末を取り出したのを目に留め、声を掛ける。

「ここって、電波、入ってるの?」

「ううん、この中はダメみたいね。通路に出たら、通信出来るエリアが有るのかな。」

 その、二人の会話に気が付いた西本さんが、茜に話し掛ける。

「あぁ、トイレの前辺(あた)りの通路だと、電波が入るみたいよ。さっき行った時に、何人か端末を弄ってる子を見かけたわ。」

「あぁ、そうなんだ。」

「ニュースでも見るの?天野さん。」

「違う違う。時間を確認しただけ。一応、授業時間中だから携帯弄ってるのマズイでしょ、ホントは。」

 茜は、携帯端末をポケットに仕舞った。

「天野さんは真面目よねぇ。」

 そう言って、西本さんは笑うのだった。
 それから程無くして、シェルター内に生徒会の放送が始まると、それ迄(まで)ざわついていたシェルター内が、急に静まり返るのだった。

「避難人員の集計、確認が完了しました。今回は確認完了迄(まで)、所要時間は三十一分二十一秒でした。過去の最短記録は十八分三十二秒です。次回訓練では記録更新出来るよう、全校生徒の協力をお願いします。以上を持って、今回の避難訓練を終了しますが、シェルターからの退出時は通路が混雑するので、押し合わない様、注意してください。シェルターは全員退出後、閉鎖、施錠されますので、全員、自警部担当者の誘導に従って退出し、シェルター内部に残らないでください。誘導担当の自警部部員が到着する迄(まで)、各自、シェルターからは勝手に出ないように、お願いします。以上、放送を終わります。」

 放送が終わると、再び、シェルター内はざわめき始める。放送を聞く為に中断したおしゃべりを再開する者、訓練が終わっても直ぐにシェルターから出られない事に不平を口にする者、四時限目の授業が潰れた事を喜ぶ者等(など)、内容は様々だったが、総じて混乱した状況では無い種類の「たわいの無い」ざわめきである。
 そうこうする内、誘導担当の自警部部員が到着したが、それは教室からこのシェルター迄(まで)の誘導を担当した女子自警部部員だった。

「一年AB女子、四十六名。全員揃ってる?トイレとか行ってる人はいないわね。」

 その女子自警部部員はそう言って人数を確認すると訓練本部へ連絡をし、茜達の退出の誘導を開始した。

「はぁい、じゃ、みんな通路へ出て。一階廊下に出るまでは付いて来てね。一階に出たら、そこで解散していいから。」

 茜達は再び、校舎へ繋がる地下通路を歩き出す。茜は列の先頭付近にいたので、自分たちのグループの前を歩いている別グループの後端が見えた。恐らく、一年C組とD組の女子だろうと思った茜だったが、だとすればD組のクラウディアと維月がいる筈(はず)だが、茜には二人の姿は見付けられなかった。クラウディアは列の先頭の方にいるのかも知れない、そう茜は思った。一際背の高い維月位(ぐらい)、列の後ろからでも分かりそうな物だが、前方のグループには飛び抜けて背の高い姿は見受けられなかったので、或いは、前のグループは一年C組とD組ではなかったのかも知れない。
 黙々と通路を進んでいる内に、ふと、気になった事を、茜は誘導担当自警部部員の上級生に質問してみた。

「あの、ちょっと聞いていいですか?」

「何?どうぞ。」

「さっきの放送で、避難に掛かった時間が三十一分とかって言ってたんですけど。今回は普段よりも特別、時間が掛かってたんですか?」

「あぁ、あれね。毎年、最初の避難訓練は時間が余計に掛かるのよ。不慣れな一年生が参加してるのと、運営してる側は、慣れた人が卒業したあとだから。毎年、回を追う毎(ごと)に段々タイムが上がっていくから、今回が特別、出来が悪かったっていうことじゃないわ。」

「成る程、そう言う事ですか。ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

 間も無く一同は一階廊下に到着し、そこで漸(ようや)く解散となったのである。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第6話.06)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-06 ****


 茜達は地下通路を暫(しばら)く歩き続け、漸(ようや)くシェルターへと到着した。
 シェルターは男女が別の区画に分けられていて、更に、幾つもの小部屋に区切られている。シェルターの一部屋には約五十人が収容可能で、奥へ向かって細長い構造の部屋の、入り口から見て両側面の壁側に、向かい合う様に二十五人掛けの長椅子が設置されている。各部屋に設置された長椅子の座面部下には飲料水や保存食の他、備品等が収納されている。
 一つの室内は、電車一両より一回り小さい位(ぐらい)の広さだろうか、当然、乗降扉や窓の類は無いので、中に入ると閉塞感を覚えずには居られない。但し、空調はしっかりしているのか、湿っぽさや黴(かび)臭さは無く、室内は清潔に保たれている様子だった。
 このシェルターは、学校の敷地内としては、体育館南側駐車場の地下に位置していて、深度はそれ程深い物ではない。校舎の建設時に元から計画されていた訳(わけ)ではないので、比較的簡単に掘り返せる場所を選んで数年前に埋設されたのである。同じ様なシェルター構造物が、男子寮と女子寮それぞれの南側地下にも埋設されていて、それぞれが地下通路で連結されている。更に、校舎や寮や事務棟等(など)、学校内の建物からはシェルターへの地下通路へ接続された入り口が設けられていて、どの建物からもシェルターへ入れる様に設計されていた。これは、もしもエイリアン・ドローンの襲撃を受けて学校内の建造物が被害を受けても、出入り口が複数有る事に因って、シェルターに避難した人達が閉じ込められるリスクを分散する意味も持っているのである。
 エイリアン・ドローンは地上の建造物のみを破壊するので、入り口の大きさがエイリアン・ドローンが入れない大きさであれば、地下施設は安全だった。この為、政府は避難用の地下施設の建設を奨励しているのだが、当然それには相応の予算が必要なので、全国津津浦浦にこの様な避難用シェルターが建設されている訳(わけ)ではない。地上建造物の集中した都市部にエイリアン・ドローンの襲撃が多い都合上、避難用地下シェルターの建設は都市部が優先されてしまうのは、ある程度仕方が無い事であり、襲撃の可能性が低い地方の学校に、このレベルのシェルターが用意されているのは、実際、希有(けう)な例なのであった。

 シェルターの中に入ったA組とB組の女子生徒達は、銘銘(めいめい)が壁際の長椅子に腰掛け、誘導を担当していた女子自警部部員が、到着後の人数を再確認して訓練本部へと報告をした。

「それじゃ、訓練終了の放送が有る迄(まで)、ここで待機しててね。後でもう一回、人数確認が有る筈(はず)だから、他の部屋とかには行かないように。」

 女子自警部部員が去り際にそう言うと、あるB組の女子生徒が手を挙げる。茜はその女子生徒の名前は知らなかった。

「あの、トイレ行っていいですか?」

「あぁ、それ位(くらい)は構わないわ。来た方とは反対側の突き当たりだから、自由に行って。」

 そう言い残すと、女子自警部部員は通路を来た方向へと戻って行った。先程の女子生徒は、他に二人の女子生徒と連れ立って、シェルターを出て行った。

「案外、狭いのね。」

 そう感想を漏らしたのは、茜の左隣に座っていた西本さんだった。因みに、茜の右隣にはブリジットが座っている。

「そうでもないわよ。わたし達が通ってた中学のはもっと狭かったもの。」

「天野さんとブリジットは同じ中学だったのよね?関東の方の。」

「うん、そう。西本さんは地元よね。こっちでは避難訓練とか、どんな感じだったの?」

「どうって…基本、シェルターなんか無いから、火災とか地震とかの避難訓練と同じで、校庭に出るだけよね。年に一回、有るか無いかよ。関東の方では、頻繁にやってるって聞いてるけど?」

「抜き打ちで二ヶ月に一回、って事だった筈(はず)なんだけど。本番の避難が月に一回位(ぐらい)は有ったから、訓練の方が少なかった位(くらい)。ねぇ、ブリジット。」

 茜は隣で、二人の話を聞いていたブリジットにも、話を振ってみる。

「うん、本番の避難が有ると、その月の訓練の方の予定がキャンセルされちゃうからね。まぁ、本当の避難をやってれば、訓練で疑似体験する必要も無いから、無理も無いけど。」

「本当の避難って、怖くなかった?」

 西本さんは茜達の方へ顔を寄せて、聞き返して来た。

「避難指示は出てたけど、幸い、わたし達の居た地域には、被害が出なかったのよね。怖いって言うより、家(うち)は大丈夫かなって、不安と言うか心配と言うか、そんな感じだったかな。」

「あと、中学の時のシェルターは、ここより一回り小さい感じで、窮屈(きゅうくつ)で嫌だった。」

 顔を顰(しか)めてブリジットがそう言うと、西本さんが笑い乍(なが)ら言う。

「それは単に、あなたがデカイからでしょ。」

「ホントに狭かったのよ。特に、天井が低かったから、ブリジットには辛(つら)かったのよね。」

 ブリジットが唇を尖らせているので、フォローする茜であった。

 

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STORY of HDG(第6話.05)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-05 ****


 翌日。2072年6月1日、水曜日。
 この日から制服は夏服へと切り替わり、季節は夏へと一歩近づいた感である。とは言え、中間試験を一週間後に控えているので、殆(ほとん)どの生徒達は浮かれた気分では居られない。

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 部活もこの日から試験期間が終わる迄(まで)の間は活動休止となるので、全校的に生徒達は試験モードに突入していたのである。
 そしてこの日には、衣替えとは別にもう一つ、全校規模のイベントが予定されていた。『避難訓練』である。
 エイリアン・ドローンによる襲撃事件が頻発する様になって以来、防衛軍がエイリアン・ドローンの接近を察知すると、その侵攻予測を元に、政府から該当自治体に対し避難指示が発令されるのである。学校は自治体からの避難指示発令の連絡を受けると、在校生や教職員を所定の避難施設に速やかに移動させなければならず、その為の訓練を適宜(てきぎ)に行わなければならないのだ。
 四時限目の授業が始まって十五分程経った頃、その時は、唐突にやって来た。

「エイリアン・ドローンに関する避難指示が発令されました。全校生徒は自警部の誘導に従って、速やかに地下シェルターへ避難してください。これは訓練です。繰り返します…」

 同じ放送が三回繰り返されると、茜が授業を受けていた一年A組では、教壇に立っていた数学担当の大須先生が授業を中断して、生徒達に告げる。

「一年生は初めての避難訓練だが、みんな落ち着いて行動するように。直(じき)に担当の自警部が来るから…。」

 大須先生がそこ迄(まで)言った時、教室の上手側入り口が開き、紺色のヘルメットにベスト状のプロテクト・アーマーを着用した自警部部員が二名、教室に入って来た。それは男子生徒と女子生徒の一名ずつで、何方(どちら)も三年生の様子だった。その内の男子生徒の方が、大須先生に話し掛ける。

「一年A組の誘導を担当します。」

「はい。よろしくね。」

 大須先生の返事を聞いて、女子の自警部部員が、良く通る声で一年生達に指示を出す。

「男子と女子、二組に分かれて。男子は教室の前側へ、女子は後側へ集合。それぞれ、誰か代表者が人数を確認して、申告してください。」

 彼女は、そう指示をし終えると、一旦、A組の教室を出て隣のB組の教室へと向かった。B組にも別の自警部部員が行っており、男女グループ分けが指示されている。それを確認に行ったのだ。同様な事がC組、D組でも行われており、更に同じ事が、別の学年でも行われているのだった。
 B組の様子見を見に行った女子自警部部員は、直ぐにA組の教室に戻って来て、教室の後側に集合した女子グループに声を掛ける。

「A組女子、人数を教えて。」

「二十三人です。」

 たまたま、列の先頭付近に居た西本さんが、代表として人数を申告していた。

「では、B組の女子グループと一緒に地下のシェルターへ移動します。走る必要は、ありません。落ち着いて、付いて来てください。」

 女子自警部部員は無線機を口元に当て、本部に報告を入れる。

「一年AB、女子四十六名。移動開始します。」

 全学年の全生徒が一度にシェルターへと向かうと、廊下で渋滞が起きてしまい、却ってシェルターへの移動時間が余計に掛かる結果となるので、自警部と生徒会がルートやタイミングを管理しているのである。
 先ず、各教室の女子生徒がシェルターに向かい、適度な時間差を置いて男子生徒がシェルターへと向かう。全ての教室では教師と自警部部員とが教室に生徒が残っていない事を確認し、シェルター側での人数確認を行って集計に間違いが無ければ、教師と自警部部員がシェルターへと移動し、全員の避難が完了と言う流れなのだった。

 茜達、A組とB組の女子生徒、計四十六名は女子自警部部員の誘導で、校舎二階から地下階へと階段を降りて行った。A組に来た女子自警部部員が先頭で誘導し、B組に来た女子自警部部員が最後尾に付いて、集団から外れる者がいない事を確認しているのだった。
 普段は用が無いので降りる事の無い地下階には、シェルターへの通路に入る扉が有る。通常時は鍵が掛けられていて生徒が入る事は出来ないが、非常時や訓練の時は当然、解錠されるのだ。
 シェルターへと通じる長い通路は、それ程狭くはない。大人が二人並んで、余裕で歩ける位(くらい)の幅が有り、天井も極端に低くはない。しかし、地下だから当然だが校舎の廊下の様な窓は無く、電灯は最低限の数しか取り付けられていないので印象は薄暗く、それ故、息が詰まる様な狭苦しさを覚えるのだった。
 或いは「窓のない閉鎖された通路を大勢で歩いている所為(せい)で狭苦しく感じるのか?」とも、茜は思ったが、「でも、独りで、この通路を歩くのも嫌だな」と思うのだった。「そう言えば、中学の時も訓練や、本当の避難で地下道を歩いたっけ」と、突然、こんな事は去年迄(まで)は普通の事だったのを思い出した茜は、当たり前の様に隣を歩いていたブリジットに、囁(ささや)く様に言った。

「忘れてたね、こんな感じ。」

「そうね。」

 ブリジットは短く同意すると、左手で茜の右手を取り、ぎゅっと握った。

 

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STORY of HDG(第6話.04)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-04 ****


「いえ、別に怒っては、いないんですけど。只、何だか意味が分からなかったので、困惑したと言うか。」

「宣戦布告とか、試験がどうとか、言ってたわよね、確か。」

「あ~もう、ホントに分からない奴ね! 入試の成績では、あなたに負けて二位だったけど、次の試験の成績では一位を取るから、覚えておきなさいって事よ。」

 机を両手で叩いて立ち上がると、クラウディアは語気を強めてそう言って、茜を睨(にら)む様に見詰めている。すると、クラウディアの奥側の席にいた維月が、彼女の後ろから両手で頬を摘(つま)んで左右に引っ張り、言うのだった。

「だ~か~ら~、そう言う、突っ掛かる様な言い方は止めなさいって、言ってるでしょ~。」

 維月の行動に就いては呆れつつ無視して、茜は真面目な顔でクラウディアに問い掛ける。

「試験で勝つの負けるのって…大体、発表されてない試験成績を、どこで知ったの?これは、この前も聞いたと思うけど。」

 しかし、その問いには、維月が先に答えるのだった。

「あぁ、それね…実はこの子、ハッカーなのよ。」

「イツキ、いい加減、手を放して。」

「あはは、ごめんね~。」

 維月がクラウディアの頬から手を放すと、クラウディアは席に座り、摘(つま)まれて赤くなった頬をさすっている。

ハッカーって、学校のサーバーに侵入して入試の成績を見たってことですか?」

 今度は、茜の問い掛けに、両手で頬を軽く押さえて、クラウディアが答えるのだった。

「そうよ。US の CIA や国防省ペンタゴン)に比べたら、学校(ここ)のサーバー位(くらい)、チョロいものよ。」

「先生、こんなの入学させて大丈夫なんですか?会社的にも。」

 クラウディアの口振りを聞いて、ブリジットが立花先生に問い掛けた。立花先生は、と言うと、腕組みをして、渋い表情をしていたのだった。

「まぁ…一応、会社的にも学校的にも、了解はしてるらしいのよ。その技能を犯罪行為には使わない、って事で契約してるって話なんだけどね。」

「いえ、違法アクセスしてる時点で、立派に犯罪じゃないですか?」

 茜の指摘を余所(よそ)に、クラウディアは胸を張って言う。

「別に、データを改竄(かいざん)したり、抜き出したデータをどこかに売り飛ばしたり、ウィルスを仕込んだりはしないわよ。わたしは個人的な興味の為にしか、ハッキングはしないから。」

 茜は「それは、胸を張って言う様な事じゃないでしょう?」と思ったが、口にすると、又、話がややこしくなりそうだったので、止めておいた。実は、その場に居たクラウディア以外の人物は、口にこそしなかったのだが、皆が茜と同様の所感だった。そこで、立花先生が取り敢えずその場を、丸く収めるべくコメントする。

「余り物騒な事はして欲しくはないんだけれど、まぁ、ホワイト・ハッカーに徹してくれている内はね、会社的にも将来、利益になるだろう…と言う事よね。」

「そんな訳(わけ)で、維月ちゃんは、お目付役にされちゃったのよね~。」

 笑顔で、そう付け加える樹里に、維月も笑って答えるのだった。

「そう言う事。目に余る様なら、容赦無く学校に報告するからね。その時は契約違反だ何だで、退学だけでは済まなくて、賠償請求が実家の方へ行く事にもなりかねないから、覚悟しておきなさい、クラウディア。」

「分かってるわ、イツキ。その話は、何度も聞いたもの。」

「部長は、その辺りも承知で、入部を認めたんですか?」

 今度は緒美に、ブリジットが話を振る。それに対し、緒美は事も無げに答える。

「うん。森村ちゃんがいいって言うからね。」

「相変わらず、人事は森村に丸投げだなぁ、鬼塚は。」

 呆れる直美をフォローする様に、恵が言うのだった。

「大丈夫よ。カルテッリエリさんは、悪い子じゃないから。」

「はい、はい。森村の人を見る目は、わたしも信用してるよ。」

 そこで、クラウディアが話の流れを仕切り直し、茜に向かって言った。

「何だか話が逸(そ)れちゃったけど。兎に角、今度の前期中間試験では、あなたの成績を抜いてみせるから、あなたも手を抜くんじゃないわよ!」

 茜は、クラウディアの成績に拘(こだわ)る発言に辟易(へきえき)して、一つ深く溜息を吐(つ)いて答えた。

「別に、手を抜いたりはしないけど。わたしは試験や成績で人と競う気は無いので、どうぞ御勝手に。大体、学科が違うんだから、中間試験の成績を比べたって、専門教科や選択科目が違うし、意味無いでしょ。」

「意味が有ろうと無かろうと、わたしは今迄(まで)ずっと学年トップを維持してきたの。ここへの入学試験では不覚を取って二番手だったけど、次はトップの座を挽回してみせるわ。」

 胸を張り余裕の笑みを浮かべてみせるクラウディアを見て、もう一度深い溜息を吐(つ)く茜だった。

「まぁ、動機はともあれ、勉強する意欲が有るのは、いい事ですよね、先生?」

 一番奥の席に着いている緒美が、立花先生に、そう話し掛けるが、立花先生は相変わらず腕組みをして、渋い顔だった。

「程度って物は有るでしょう?緒美ちゃん。」

「まぁ、試験の結果が楽しみじゃない。ねぇ、維月ちゃん?」

「し~らない。」

 樹里は含みのある笑みで、維月に同意を求めたのだが、維月は視線を逸(そ)らして「それ」には答えなかった。

 その後、樹里と維月、そしてクラウディアの三人は、HDG システムのソフトウェアに関する概論の話題に移り、茜とブリジットは試験期間が終わってからの、HDG-A01 と LMF のテスト・スケジュールに就いて緒美達と打ち合わせを行い、その日の部活は解散となったのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第6話.03)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-03 ****


 入学式から約二ヶ月が過ぎて、2072年5月31日火曜日。
 ブリジットが『兵器開発部』に入部して、凡(およ)そ二週間が経過した。
 その運動能力を買われて、B型、つまり HDG-B01 のテスト・ドライバーに任命されたブリジットではあったが、インナー・スーツの為の体型データ取りは行ったものの、肝心の HDG-B01 本体の製作は遅れ気味で、現時点での完成予定は夏休みになってから、との事だった。
 先日来、茜が装着する HDG-A01 の飛行能力試験も順調に進められており、それに因ってA型の予定外の飛行能力が判明するのにつれ、B型の仕様にも変更が加えられていた。それが、更にB型の完成を遅らせてもいるのである。
 そんな訳(わけ)で、当面、ブリジットは暇だった…かと言うと、そうでもない。先(ま)ず、B型が完成する迄(まで)に、HDG システムに就いての仕様を把握する必要が有り、緒美や茜、そして樹里から、システムに関する解説や講義を受けなければならなかった。更に、陸上防衛軍の演習場を借りての、HDG-A01 と LMF との火力運用試験が近々予定されているので、それに向けての LMF の操縦訓練及び操作慣熟も平行して行っており、やるべき事は少なくはなかった。
 そんな具合で、ブリジットに取っては慌ただしくも楽しく過ぎた二週間だったが、この日で部活動は一旦の最終日となるのだった。と言うのも、6月8日から一週間に渡って行われる前期中間試験に向けて、その一週間前から試験期間終了迄(まで)の合計二週間は、全校で部活動が活動休止となるからだ。
 入部以来一ヶ月半、日曜日も含め、ほぼ毎日部室に通っていた茜は特に、明日から暫(しばら)く部活が休みになるのを寂しく感じつつ、その日の放課後、ブリジットと共に『兵器開発部』の部室へと向かっていた。

 茜とブリジットが、何時(いつ)も通りに第三格納庫の外階段を登り、部室のドアを開くと、室内には見慣れない人物が二人、部室の中央に置かれた長机の席に着いていた。それは、入学式の日に出会った、金髪の少女と背の高い留年生、つまりクラウディアと維月の二人だった。
 部室内には、樹里以外には二年生の姿はなく、あとは三年生三人と立花先生が来ている。クラウディアと維月は長机の上にモバイル PC を置き、樹里と話し乍(なが)らモニターを覗き込んでいたのだが、部室のドアが開いたのに気付いて、入り口の方へと視線を向けると、クラウディアがポツリと言った。

「あ、アマノ アカネ。何であなたが、ここにいるのよ?」

 咄嗟(とっさ)に、ブリジットが茜の背後から声を返す。

「それは、こっちのセリフ。あなたこそ、どうしてここにいるの?」

 クラウディアとブリジットの間の険悪な雰囲気は無視して、恵が何時(いつ)もの調子で、茜とブリジットへ声を掛ける。

「天野さん、ボードレールさん、新入部員よ~。仲良くしてあげてね。」

「新入部員って、お二人共ですか?」

 茜は掌(てのひら)を上に向けて、クラウディアと維月を順番に指し示し、恵に聞いた。が、それには緒美が答える。

「いいえ、新入部員はこっちの、カルテッリエリさんだけ。」

「わたしは部員じゃないけど~まぁ、一応、関係者って奴? よろしくね~。」

 緒美に次いで、維月が手を振り乍(なが)ら笑顔で答えた。

「関係者?って、どう言う…。」

 との、茜の質問に答えたのは Ruby だった。

「麻里がわたしの開発チームの、リーダーなんです。」

「麻里って?」

「あはは、その説明じゃ天野さんには分からないよ、Ruby。麻里って言うのはわたしの姉で、天野重工で Ruby の開発に関わってるらしいの。で、一応、この学校の卒業生。」

「え…お姉さんが開発チームのリーダーって、すると、年齢的には?…」

 ブリジットが茜と顔を見合わせて困惑していると、維月が笑って答える。

「あぁ、家(うち)はね、五人姉妹なんだけど、一番上の麻里姉さんと、一番下のわたしとで、十歳以上離れてるの。」

「それでね、井上家の人は皆さん、こっち方面の技術に堪能(かんのう)だから、維月ちゃんにも手伝って貰いたかったんだけど。去年は、病気とか色々あって、結局、入部しては貰えなかったのよね。」

 何時(いつ)も以上のニコニコ顔で会話に参加して来た樹里の、その表情を見て、「樹里と維月は仲が良かったのだろうな」と、茜は推測した。
 茜は改めて、維月に問い直す。

「それで、井上…先輩?は、この部活に入部はされないんですか?」

「あ、先輩とかいいよ、一応、同じ学年なんだから。維月、でいいわ~で、入部の件はね、まぁ、姉も絡んでる案件だから、何か有ったら、お互い気まずい所も有るだろうしね。それに、わたしもまだ病み上がりだし。 それで、代わりって言うのも何だけど、わたしよりも出来る子を連れてきた訳(わけ)。」

 維月は右手の掌(てのひら)を上にして、クラウディアを指す。
 そこで、それ迄(まで)、黙って様子を窺(うかが)っていた立花先生が、先程のブリジットの態度に思う所が有ったのか、問い掛ける。

「そう言えば、あなた達、学科は違うけど、知り合いだったの?」

「知り合いって言う程でも…。」

 立花先生の問い掛けに、戸惑いつつ、茜が答えた。続いて、ブリジットが声を上げる。

「入学式の後、その子が一方的に、茜に絡んできたんですよ、先生。」

「まぁまぁ、あれはクラウディア流の挨拶だったと言う事で、勘弁してあげて。」

「ふん。」

 フォローしようとする維月とは裏腹に、茜とブリジットを鼻であしらう様な態度のクラウディアだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第6話.02)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-02 ****


「あなたこそ、何やってんのっ!」

 背の高いその女子生徒は、金髪少女の頭頂部に拳骨(げんこつ)を押し付け、ゴリゴリと捻(ねじ)っている。

Au! Au! 痛い!痛いって。」

 少女はその場に蹲(うずくま)り、先程、拳骨(げんこつ)を押し付けられた頭頂部を両手で押さえていた。
 その傍(かたわ)らに立つ、背の高い女子生徒は言った。

「同室の子が迷惑掛けたみたいで、ごめんね。あ、わたし、情報処理科の井上 維月。」

「あ、いえ、迷惑とか無いです。少々、困惑はしましたけど。機械工学科一年の天野 茜、です。え~と、先輩…ですか?」

 維月の、余裕の有る態度が、茜には上級生の様に思えたのだった。

「いいえ、一応、あなた達と同じ学年なのよ。」

 そう言って、維月は一年生用の赤いクロス・タイを抓(つま)んで見せる。

「実は昨年後半、病気で休学してた所為(せい)で、二回目の一年生なんだけどね。」

 維月は男子の様なベリー・ショートの後頭部を、左手で掻く様にして、笑ってそう言った。

「あぁ、それで、さっきの入学式で、新入生の中に見掛けなかったんですね。あ、わたしは機械工学科のボードレール ブリジットです。」

 維月の、ブリジットに負けない位(くらい)の身長と、男子の様なショートカットの髪、それは一度見たら印象に残るだろうと、ブリジットは思ったのだ。それは、茜も同感だった。

「あら、あなたも日本語お上手ね。ご出身はどちら?」

「いえ、両親共に帰化してるので。わたしは、生まれも育ちも日本ですから。」

「あぁ、それは失礼したわ。ごめんなさいね。」

「大丈夫です、良く聞かれるので、慣れてますから。気にしないで下さい。」

 その時、維月は蹲(うずくま)った儘(まま)の金髪少女が、『ジト目』で見上げているのに気が付いたのだった。

「あぁ、この子は、クラウディア。クラウディア・カル…カルテ……何だっけ?」

「カルテッリエリ!」

 クラウディアは、少し大きな声で自分のファミリー・ネームを言い、立ち上がった。

「クラウディアは、ドイツから来たの。これで中々のマンガ、アニメ・オタクなのよ。」

「ちょっ、イツキ!」

「あぁ、ソレで日本語を覚えたの?」

「ハハハ、うちの両親と同じじゃない。」

 ブリジットを、顔を赤らめて睨(にら)み付けているクラウディアに、茜は先程から気になっていた事を聞いてみる。

「カル…クラウディアさん?は、飛び級か何か、なのかな?」

 その言葉を聞いたクラウディアは、視線を茜の方へ切り替え、更に顔を赤くして声を荒らげる。

「失礼ね!あなた達と同じ年の生まれよ! ヨーロッパ系がみんな、そこの赤髪ノッポみたいに、無駄に大きいって、思わないでちょうだい。」

「あぁ、そう。ごめんなさいね。」

 茜は「それは確かに、その通りだ」と思った一方、「それにしても、あなたは小さ過ぎでしょう」と思ったのだが、流石にそれは言わないでおいた。

「それにしても、あなたは小さ過ぎでしょ。」

 茜が敢えて言わなかった台詞(せりふ)を、事も無(な)げに維月は言い放ち、笑い乍(なが)らクラウディアの頭をポンポンと、軽く叩くのだった。クラウディアは無言で、頭上の維月の手を、右手で払い除ける。

「もう一つ聞かせて。さっきの宣戦布告だとか、試験がどうのって言うのは、どう言う事?」

「どうもこうも、言葉の通りの意味よ。次の試験では負けないから、覚えておきなさい、って事。」

「次の試験?って…。」

 茜は何気(なにげ)に、隣に立つブリジットへ視線を向けた。その視線に、ブリジットが答える。

「中間試験の事じゃない?」

「じゃ、その前の試験は?」

「入試…って事になるから、この子が入試で茜に勝てなかった、って事でしょ?」

 クラウディアの方へ向き直って、茜は主張する。

「ちょっと待って、入試の結果は公表されてないでしょう? 勝ち負けなんて、分からないじゃない。」

「そんなの、わたしには…。」

 クラウディアが途中まで言い掛けた所で、維月がクラウディアの腕を掴み、引っ張った。

「ちょっと、イツキ。まだ話の…。」

「そろそろ、教室へ行かないとね。呼び止めて悪かったわね~あなた達も、教室へ急いだ方がいいよ~。」

 維月はクラウディアを引っ張って、歩道をズンズンと進んで行く。その様子を呆気に取られて、茜とブリジットは、唯(ただ)、見送るのみだった。四人の様子を遠巻きに見ていた生徒達も、三三五五と言った感じで、その場を離れて行く。

「何だったのかしら?」

 茜がポツリと、呟(つぶや)く。ブリジットは茜の手を取り、言った。

「さぁ、わたし達も行きましょう。」

「そうね。」

 二人は他の生徒達の後を追って、自分達の教室へと、歩道を早足で歩いて行った。


 こんな風に、意味不明の出会いをした茜とブリジット、そしてクラウディアと維月の二組だったのだが、その後は『機械工学科』と『情報処理科』と言う学科の違いも手伝って、同学年であっても校内で接触する機会が殆(ほとん)ど無い儘(まま)、時間が過ぎていった。女子寮でも顔を合わす機会は希(まれ)で、時折、女子寮の食堂で遠目に見掛ける事は有っても、クラウディアの方が茜を無視する為、この二組が会話をする機会は、それから暫(しばら)くの間、皆無だったのである。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第6話.01)

第6話・クラウディア・カルテッリエリ

**** 6-01 ****


 物語は二ヶ月程、時間軸を遡(さかのぼ)る。その日は天神ヶ崎高校にて、茜達、第二十三期生の入学式が行われた、2072年4月4日月曜日である。
 朝から天気も良く、学校の敷地の内外に植えられた桜の木々も咲き揃(そろ)い、入学式には相応(ふさわ)しい様相だった。
 式自体は滞りなく終了し、茜とブリジットは式に参列していた、それぞれの親達と分かれて、教室へと向かっていた。因(ちな)みに、新入生の保護者一行は、入学式の後は学校職員の案内で、校内の施設や寮等(など)を見学する事になっている。特に、『特別課程』の生徒は全員が、親元を離れての寮生活となるので、学校側も保護者への説明には気を遣っているのである。
 天神ヶ崎高校を受験したのは、茜の通っていた中学からではブリジットの他にも数人がいたのだが、合格したのは茜とブリジットの二人だけだった。特にブリジットに就いては「奇跡だ」と、からかいとも賞賛ともとつかない声が聞かれていたのだが、ブリジットの努力を知っている茜に取って、それは驚く様な結果ではなかった。ブリジットと一緒の学校へ進学出来る事を、茜は、徒(ただ)、単純に喜んでいたし、それは、ブリジットも同じだった。そんな訳(わけ)で、天神ヶ崎高校には、茜とブリジットの知り合いは一人もいない、そんなスタートの筈(はず)だったのである。

「アマノ アカネ!」

 入学式が行われた体育館から、校舎へと向かう歩道の途中で、突然、背後から名前を呼ばれて、茜とブリジットは立ち止まり、振り向いた。「自分達を知っている人等(など)いない筈(はず)なのに」と、不審に思っていた二人は、茜を呼び止めたらしい、その少女の姿を見て少し戸惑った。
 それは、ブリジットの様な欧米系の少女だったのだが、小学生位(くらい)に幼く見えるその容姿は、ブリジットとは逆の方向で目立っていた。身長は120センチメートル位(くらい)だろうか、エメラルド・グリーンの瞳に、綺麗な金髪を左右に結んでおり、所謂(いわゆる)「金髪ツインテの外国人幼女」という風貌(ふうぼう)である。

<イラスト>

 茜達は三日前には入寮して寮生活を始めていたので、その少女の姿は、昨日の内に女子寮で見見掛けており、その時はブリジットと「わぁ、ちっちゃい子がいる!飛び級とか、かなぁ」とか話していたのだが、直接、話し掛ける事はしなかったのだった。
 そして今、その少女が腕組みをして、睨(にら)む様な目付きで、茜の顔を見詰めていた。

「わたしに、何か、ご用かしら?」

 茜は両手を膝に当て、少し腰を屈(かが)める様にして、言葉を句切る様に話し掛けた。茜は、相手に日本語が通じないかも知れない、と思ったのだ。

「バカにしないで!日本語位(ぐらい)、話せるわよ。」

 それは流暢(りゅうちょう)だったが、明らかにイライラしているのが茜にも伝わって来る、そんな言い方だった。

「ちょっと、何よ、その言い方。失礼じゃない!」

 その少女に、ブリジットが意見すると、少女は英語で言い返して来る。

「Please don't butt in, beanpole!(口出しするな、ノッポ!)」

「何で、わたしには英語なのよ!」

「親切心で、あなたの母国語にしてあげた迄(まで)よ。それとも、あなたの母国語はイタリー?スパニッシュ?」

「パパはフランス人で、ママはアメリカ人だけど、今は帰化して日本国籍だから、わたしの母国語は日本語なの!」

「じゃぁ、今度はフレンチで、言ってあげましょうか?」

「結構よ、さっきので何言われたかは、分かってるから。この、チビ!」

「ちょっと、ブリジット…。」

 その少女とブリジットが睨み合っているのを、ブリジットの腕を引っ張って茜は仲裁に入る。

「わたしに用が有るんでしょ? で、あなたは誰かしら。どうして、わたしの事を知ってるの?」

「どうしてって、さっきのセレモニーに居たら、あなたの事はみんな知ってる筈(はず)でしょ。あなたが新入生代表で、スピーチしてたんだから。」

 ほぼ定型の『新入生代表挨拶』の事を『スピーチ』だと言われると、何かニュアンスが違う気がするのだが、「取り敢えず、ここではそんな細かい事を議論するのは止めておこう」と、そう思った茜だった。
 そして、その少女は、ビシッとアカネを指差して、言い放つ。

「これは、宣戦布告よ!アマノ アカネ。次の試験では絶対にあなたに勝ってみせるからっ!」

 それを聞いた茜は、只、呆気(あっけ)に取られている。

「…何?言ってるのか、解らないわ…。」

 言葉は理解出来るのに、その意味する所が解らない、と言う事が、時として有る物である。茜は困惑した表情を、ブリジットの方へと向けるが、ブリジットは肩を竦(すく)めて見せるのみだった。
 そんな、向かい合う三人の様子に気付いた他の生徒達は、歩道を教室へと向かっていた足を止め、遠巻きに眺めている。その少女は、そんな雰囲気等(など)には構わず、続ける。

「分からない女ね!あんたなんか…」

 その時、遠巻きに眺めていた生徒達を掻き分ける様に飛び出して来た、一人の背の高い女子生徒が、啖呵(たんか)を切っているその少女の後頭部を、平手で勢い良く張った。

「Autsch!(痛(いった)い!) 何するのよ、イツキ!」

 その少女は振り向いて、その背の高い女子生徒に向かって声を上げた。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG (第5話) Pixiv投稿しました。

「STORY of HDG」の第5話まとめ版、Pixiv へ投稿しました。
第6話は、現在、第7回掲載分を打ち込み中。第6話の掲載開始まで、もうしばらくお待ちください~。

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「第5話・ブリジット・ボードレール」/「motokami_C」の小説 [pixiv] http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6951180

STORY of HDG(第5話.14)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-14 ****


 そんな折、実松課長と畑中の二人が、進み出て来て緒美に声を掛ける。

「部長さん、取り込み中の所を悪いんだが…。」

「そろそろ、日も暮れるし、わたし達はこの辺りで引き上げます。」

「HDG 本体と、スラスター・ユニットが稼働する所にも立ち会えたし、B号機のテスト・ドライバーも決まりそうな雰囲気だし。本社の方へは良い報告が出来そうだ。」

「新しいヘッド・ギアは持ち帰って、修正が出来次第、又、送る事になるから。」

「はい、宜しくお願いします。」

 実松課長と畑中に、緒美が会釈して答えた。

「立花先生の方は、小峰君か影山部長に、何か伝言とか有るかい?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」

「そうか、じゃぁ、お先に上がらせて貰うよ。出ようか、畑中君。」

「はい。 では、お先に。」

 二人は第三格納庫の大扉、西側の前に駐めてある大型トランスポーターへと向かって歩き出す。

「師匠~、帰り道、気をつけて~。」

「畑中先輩、安全運転で宜しくお願いしますよ~。」

 佳奈と瑠菜が、トランスポーターへと向かう二人に声を掛けると、二人共が一度振り向き、笑顔で手を振って見せた。
 そして、トランスポーターへと乗り込むと、エンジンを始動しヘッドライトを点灯させ、畑中の運転でゆっくりと前へと進み出す。トランスポーターは駐機場を東へと進み、見送る一同の前を通過して、学校の裏口に当たる貨物搬入門へと向かった。

「そう言えば、あのおじさん達は?」

 一人、事情を知らないブリジットが、茜に尋ねる。

「本社、開発部設計課の課長さんと、若い方の人が試作部の人よ。HDG の設計も試作も、本社に協力をして貰ってるの。」

 茜がブリジットに解説をしていると、緒美が言った。

「取り敢えず、天野さん。今日のテストはこれで切り上げましょう。メンテナンス・リグに HDG を戻して来て。その後、明日からのテスト・プランを練り直しましょう。」

「そうね、A型であれだけ飛行出来るとなると、テスト項目を考え直さなくっちゃ、だわ。燃料の消費量とか、どうなってるのかしらね?」

 と、立花先生も、腕組みをして考えている。

「取り敢えず、装備を降ろしてきます。」

 茜が格納庫内部へと歩き出すと、佳奈が準備の為にメンテナンス・リグへと先回りするべく、走り出すのだった。

「あなたも、打ち合わせに参加していきなさい。」

 緒美も茜の後に付いて、格納庫の奥へと進んで行きつつ、ブリジットに声を掛けた。

「えっ、わたしまだ、部外者ですよ。」

 その返事を聞いた緒美は、くすりと笑い、言った。

「天野さんがこの部活を辞める気が無くて、あなたが天野さんを心配してるなら、選択肢は無いと思うけど。」

「違いない。」

 直美も笑って、緒美の意見に同意するのだった。

「あぁ、そうだ。Ruby、もう、おしゃべりしても、いいわよ。」

 と、突然、緒美が Ruby に発言の許可を出すのだった。部外者が居る際に、Ruby が発言を控えているのは恒例なのだが、勿論、そんな事情をブリジットは知らない。

「宜しいですか?緒美。」

 突然、どこからか聞こえて来た女性の合成音に、ブリジットは戸惑うのだった。

「誰ですか?今の声。」

「こんにちは、ブリジット。わたしは Ruby です。」

 Ruby に話し掛けられて、更にブリジットは困惑する。そこで、Ruby に就いて、恵がブリジットに解説をする。

Ruby は LMF…あの中に搭載されている AI なんだけど、この格納庫の中で起きてる事は、ほぼ把握してるわよ。」

「ハイ、ご説明ありがとうございます、恵。先程は茜に就いて、興味深いお話を聞かせて頂ました。ありがとう、ブリジット。」

 この Ruby の発言に、直美が笑い乍(なが)ら突っ込みを入れる。

「盗み聞きとは、感心しないよ~Ruby。」

「あら、どんなお話かしら?わたしも興味が有るわね。」

 と、今度は緒美が軽口を挟む。

「幾ら緒美が相手でも、他人のプライバシーに関する情報は、軽々に口外はしないよう、プログラムされています。それに、直美。セキュリティの為に高感度なセンサーが取り付けられている都合上、聞こえてしまう物は仕方がありません。」

「そうね、確かに。」

 笑って、恵が Ruby に同意するのだった。

「あ、所で、Ruby の事も、本社の重要な秘密事項だから。気を付けてね。」

 緒美は、そうブリジットに告げて、ニヤリと笑う。皆と一緒に、格納庫奥の階段へと向かって歩いていたブリジットは、一人、歩みを止めて、少し大きな声で抗議した。

「そんなの、卑怯です!」

 ハッと気が付いた様にブリジットは、HDG から抜け出し、ステップラダーから降りて来た茜の方に振り向き、言った。

「分かったわ、茜、あなたも、こんな風に騙されて、秘密保持って言われて、無理矢理、抜けられない様にされたのね!」

「違う、違う。」

 茜は両手を胸の前で大きく振って、慌てて否定した。
 そして、最後に茜から一言。

「もう、皆さん、ブリジットをからかうのは、いい加減、止めてくださいっ!」


 結局、本人としては、少々不本意な形ではあるが、この様な経緯で、ブリジットの兵器開発部への入部が決まったのだった。
 女子バスケ部との掛け持ちの件に就いては、後日、約束通りに直美の働き掛けに因って、話は纏(まと)まったのだが、「週三日の朝練には、必ず参加する事」、「放課後の部活に就いても、週に一回以上は参加する事」と言う条件で、合意に至った様子である。
 ブリジットの兵器開発部に対する諸々(もろもろ)の誤解は、立花先生に因る懇切丁寧な事情の説明にて、後日、漸(ようや)く氷解する事となるのだった。その後、HDG に関するレクチャーが緒美や茜に因って行われ、ブリジットが実施するべく、B型のテスト・ドライブの準備が進められていく事になる。一方で、B型実機の完成迄(まで)の間、今迄(まで)、直美が担当していた LMF のテスト・ドライブは、ブリジットが担当する事になったのだった。
 入部に就いての経緯(いきさつ)や、部活での役割はともあれ、茜と共に同じ活動に参加出来る事に就いて言えば、それは満更でもないブリジットなのであった。

 

- 第5話・了 -

 

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STORY of HDG(第5話.13)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-13 ****


「天野さん、お友達が青い顔してるから、減速して一旦着地、こっちに戻ってちょうだい。」

 緒美がヘッド・セットを通して茜に伝えると、第三格納庫の手前で身体を起こして減速し、高度を下げつつ北向きに進路を変えて、格納庫前の駐機場へと降り立った。それは昨日の「事故」など感じさせない、極めてスムーズな動作だった。
 着地した茜が、格納庫の方へと歩いて来る。茜はブリジットの姿を見付け、手を振った。

「天野さん、反応はどんな感じだった?」

 格納庫内から大扉の方へ歩き乍(なが)ら、樹里がヘッド・セットを通じて茜に話し掛けて来た。

「はい、バッチリでしたよ樹里さん。わたしには、これ位(くらい)で良いと思います。」

「オーケー、じゃぁ、この辺りを軸に、今後の調整をしていきましょう。」

 茜とは、まだ少し距離が有るので、大扉付近に居た一同には、樹里の話し声しか聞こえない。立花先生は緒美に、その内容に就いて尋ねる。

「何の話?緒美ちゃん。」

「あぁ、スラスター・ユニットの思考制御、イメージ検知のパラメータを、気持ち甘めに微調整しておいたんですよ。」

「あ、昨日の事故対策?」

「はい。初期設定だと厳し過ぎて、ノイズを拾ってたらしいので。天野さんも、ちょうどいいっ感触だって言ってました。」

 そこに、畑中が参加して来る。

「そう言うのは、やってみないと分からないんだよなぁ。」

「まぁ、個人差も有りますからね。」

 緒美が畑中に、そう声を返した時、ブリジットは一同の輪から離れ、一人、茜の元へと駆け寄って行った。

「どう?すごいでしょ、これ。」

 傍(そば)に来たブリジットに、微笑んで茜は、そう声を掛けた。

「あんな事をして、怖くないの?」

「これだけの装備だもの。それに、この装備の仕様も把握してるし。」

 もとより白い肌のブリジットの顔から、一層、血の気が引いた様に見えて、茜は慰める様に答えた。しかし、ブリジットの気持ちは収まらない。

「でも、あの高さから落ちたら、怪我じゃ済まないわ。」

「そりゃ、頭から落ちたらね。でも、四、五メートル位の高さからなら、脚から降りればこの装備が衝撃を吸収してくれるのよ。だから、安全な高度迄(まで)に充分減速して、脚から降りる様に姿勢を制御すれば、充分安全なの。」

 ブリジットは唇を軽く噛んで、茜を見詰め、黙り込んでいる。茜は掛ける言葉が見つからず、立ち尽くすのみだった。
 その様子を見兼ねて声を掛けたのは、直美である。

「ブリジット、そんなに天野が心配なら、うちに入部すれば?」

 その言葉を聞いた緒美と恵は、互いの顔を見合わせ、くすりと笑ったのだが、そのアイデアを否定はしなかった。声を返したのは、茜の方である。

「駄目ですよ、副部長。ブリジットはバスケ部が…。」

「別に、掛け持ちしたって良いんじゃない? 何だったら、女子バスケ部の部長には、わたしが話を付けてあげる。」

 直美は茜の発言を制するように、言った。因(ちな)みに、女子バスケ部の部長は、直美と同じクラスである。
 次いで、言葉を発したのは緒美である。

「正式に入部すれば、もっと詳しく HDG の仕様について教えてあげられるし、そうすれば、少しは心配も和(やわ)らぐかもね。」

「でも、わたし、この部活に貢献できる様な、特技は無いですよ。」

 ブリジットの意見に、恵が微笑み乍(なが)ら声を返す。

「あら、だったら、身体(からだ)で貢献して貰えれば大丈夫よ~。」

「え?」

「森村、その言い方は怪しいって…。」

 目を丸くするブリジットを見て、笑い乍(なが)ら直美が「突っ込み」を入れる。

「HDG のB型とC型をね、今、製作中なの。出来上がるのは、もう暫(しばら)く先になる予定なんだけど、それぞれ、テスト・ドライバーが必要なのよね。特にB型は、高機動仕様のモデルだから、運動神経のいい人が欲しいの。あなたなら、いいデータが取れそうだし、是非、協力して貰いたい所ね。どうかしら?」

 と、恵の意見に就いて、緒美が解説をする。
 唐突な勧誘にブリジットは驚いて、意見を求める様に茜の方を向くのだが、茜は微笑んで、ブリジットに言う。

「わたしはノーコメントよ。ブリジットが良いと思う様に決めたらいいわ。」

「茜~…。」

「まぁ、今ここで決める必要は無いから。考えて置いてくれたら嬉しいわ。」

 直美は後ろからブリジットの肩を抱く様にして、そう言った。
 その様子を見ていた恵が、緒美に耳打ちをする様に話し掛ける。

「直ちゃん、随分とあの子の事が気に入ったみたいね。」

「体育会系同士で、気が合うんじゃない?」

 緒美も小声で恵に声を返したのだが、その遣り取りは緒美のヘッド・セットのマイクに乗っていて、樹里と茜にだけは聞こえていた。そして、それを聞いた茜が、思わず吹き出してしまうと、直美とブリジットが怪訝(けげん)な表情をするのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第5話.12)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-12 ****


「どうして止めちゃったんですか?」

「アキレス腱をやっちゃってね。治ったけど、それ以来、全力で走るのが怖くなっちゃって。」

「あぁ…。それで、技術系に転向、ですか?」

 くすりと笑って、直美はブリジットの方へ向いた。

「元元、アスリートを目指してた訳(わけ)じゃないわ。徒(ただ)、他の面倒な事を忘れて、部活に逃げ込んでいただけだって、走れなくなった時に気が付いたのよ。」

 ブリジットの表情が曇ったのを見て、直美は言葉を続けた。

「うちは…父が小さいけど、製作所を経営してるんだけどね、陸上を休んでいる間、暇潰しに家(うち)の仕事を見学したりしてね、少しは自分の将来を考えた訳(わけ)。それで、中学を卒業したら、お父さんに弟子入りして、出来たら跡を継ぎたい、って言ってみたのよね。 そしたら『最低でも高校は出て、他の会社で十年は経験を積んでこい、そうしたら考えてやる。それ迄(まで)は、会社を潰さない様に頑張っといてやる』ってね、そう言われたの。 それから、勉強の方も頑張って、この学校に入れる位(ぐらい)にはなったのよ。そのお陰で、今は、中々に得難い経験が出来ていると思うわ。 あなたは?ブリジット。どうして、この学校に?」

「わたしは…勿論、技術系に興味が無い訳(わけ)じゃなかったんですけど。それよりも何より、茜と同じ学校に行きたかったんです。徒(ただ)…わたしの場合は、成績が全然届いていなかったので、夏休みと冬休み、茜の家に泊まり込みで補習をして貰いました。」

「あの子も、面倒見がいいわねぇ…。」

「はい。自分も試験を受ける迄(まで)の復習になるからって、言ってましたけど。」

 その時、直美は、ある事に気が付いた。

「あれ?ちょっと待って。天野って成績、良かったのよね?中学時代から。」

「はい、そうですよ。多分、学年でトップだったと思います。」

「うちの学校、推薦枠だったら筆記試験免除で、面接だけの筈だけど。受験勉強、あなたと一緒に?」

「そうですよ。茜は、推薦枠は辞退したんです。お祖父さんが理事の学校だから、コネで入学するみたいなのは、嫌だって。それで、わたしと一緒に、一般枠で受験したんですよ。」

 その話を聞いて、直美は苦笑いをし乍(なが)ら言ったのだった。

「そこ迄(まで)来ると、バカ正直も嫌味だわね。」

「中一の時の事が有ったから、あとで付け込まれる様な隙を作りたくない、みたいな事を言ってましたけど、茜は。」

「あぁ、あと…ひょっとしたら、あなたと一緒に受験したかったのかもね。」

「え?…それは…考えてませんでした…。」

「天野なら、そう言う事も考えそうじゃない? あなたが独りで受験するより、自分と一緒の方があなたがリラックスできるだろう、とか。」

「…そうですね、確かに。わたしは、自分の事で手一杯だったので…そこ迄(まで)、考えが回りませんでした、けど…。」

「まぁ、その事は本当かどうか、本人に聞いたりしない事ね。そう言う事は、聞いてみても、どうせ本当の事は言わないだろうから。」

「はい…。」

 直美に返事をして、前を向いたブリジットは、その時、茜の装着した HDG が、宙に舞い上がる姿を目撃して声を上げる。

「ちょっと、先輩!あれ、飛んじゃってますけど!」

「あぁ、背中の翼みたいなの、あの中に小型のジェット・エンジンが入ってるの。昨日から、ホバー能力の検証をやってるのよ。昨日は高度を一メートルに制限してたけど、今日は最大十メートル位(ぐらい)まで確認する予定。」

「…大丈夫なんですか?」

「大丈夫かどうか、をテストしてるんだけど。まぁ、大丈夫な様に、安全を確認し乍(なが)らやってるわ。昨日は、ちょっと事故ったけどねぇ~。」

「大丈夫、なん、です、か?」

 ブリジットは、直美に顔を近づけ、語気を強めて繰り返し問い質(ただ)した。直美はブリジットの方へ顔を向けず、前を見た儘(まま)はぐらかす様に答えるのだった。

「まぁ、天野を信じて、見守ってやりなさい。」

 茜の赤い HDG は、五メートル程の高度で、最初は直立した姿勢の儘(まま)で、ゆらゆらと左右に移動していたが、段々と姿勢を前傾させていき、最終的には地面に対して、身体をほぼ平行にして滑走路上を西から東へ、そして東から西へと、水平飛行を始めたのだった。
 それを見た直美は、慌てた様に緒美の元へと駆け出した。ブリジットも、直美に続いて格納庫の大扉の方へと走った。

「ちょっと、鬼塚。 あんな飛び方、予定に有ったの?」

 背後からの直美の声に、ちょっと驚いた様に振り向いた緒美は、静かに微笑み乍(なが)ら答える。

「予定…と言うより、想定外ね。スラスター・ユニットは地表面でのホバー走行か、ジャンプを補助する位(ぐらい)の能力しか考えてなかったんだけど。ちょっと、オーバー・スペックだったみたい。」

「よね。飛行能力はB型に付与する計画だったでしょ。」

「この調子だと、B型の飛行能力は、とんでもない事になってるかもなぁ。」

 そう言って、傍(かたわ)らに居た実松課長が笑った。
 そして、その遣り取りを聞いていたブリジットは、改めて「この人達は、一体、何だろう…」と思っていたのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.11)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-11 ****


 搭乗用ステップラダーを登り、茜は HDG へと身体を潜り込ませる。両手脚を、それぞれのブロックへ接続し、展開されていた各部フレームをロックする。そして、スラスター・ユニットを起動して、メンテナンス・リグから解放される迄(まで)の、一連の流れをブリジットは少し離れた場所から見ていた。

「あ、動いた。」

 HDG を装着した茜が、メンテナンス・リグから離れて歩き出すのを見て、ブリジットは思わず、そう声を漏らしたのだった。

「そりゃ、動くわよ。」

 何時(いつ)の間にか、ブリジット傍(かたわ)らには直美が立っていた。
 格納庫の南側大扉が佳奈の手に因って開けられ、茜が庫外へと歩いて行くのを、ブリジットは何となく見送っていた。

「あれが、パワード・スーツ、なんですね。」

「う~ん、形状的に一般的な意味でのスーツではないから、うちでは HDG って呼んでるのよね。」

「HDG? 何の略ですか?」

「ハイパー…何とかギア、元々は防衛軍が発案した、結構、物騒な名前だったんだけど。天野重工では、意味無しで、単純に HDG って事になってたみたいね。 それで昨日は、あの形状だから『ヘビィ・ドレス・ガール』だ、とか言い出したのよね。」

「成る程。まぁ、女子が着てるなら、それも有りかも。そう言えば、この部活って、女子限定なんですか?」

「あぁ~別に、そう言うわけじゃないんだけど。結果的に、今、参加してるのは女子だけになっちゃってるわね。 まぁ、防衛軍関係に興味の有る人は、普通、自警部の方へ行っちゃうじゃない? それに、二年生以降は、特技か、やる気のある子しか採ってないから。」

 聊(いささ)か唐突だが、ここで『自警部』について説明しておこう。
 『自警部』とは、その名前の通り、自警を目的とした部活である。それは、学校の所有地内に、防衛軍の防空監視レーダー施設が建設された事に端を発する。既に十年以上も前の事になるが、この地域の防空監視レーダーを設置する計画が持ち上がった際に、防衛軍へ装備を納入している関係もあって、天野重工が用地として学校が所有する土地を、格安で防衛軍へ貸与したのだ。その後、レーダー設備の一部に就いてメンテナンス作業を天野重工が請け負った際、『特課』の生徒を実習生として作業に参加させた事で、防衛軍と天神ヶ﨑高校との交流も始まったのである。
 その一方で、レーダー施設はテロ等の攻撃標的とされる事もあり得るので、当然、それなりの警備がされる訳(わけ)だが、極近傍の天神ヶ﨑高校が付帯的に攻撃の対象となる事も考えられ、日常的な警備の必要性が検討された。とは言え、学校の内外を防衛軍の兵士が巡回する様な状況もどうか、との懸念から「校内の警備は生徒が自ら行おう」と言う事になって出来たのが『自警部』である。
 勿論、警備事案が発生した際の実力行使を生徒にやらせる訳(わけ)にもいかないので、不審な状況が有れば防衛軍に連絡するのが『自警部』の役割とされ、飽くまでも実力行使を伴う対処行動(平たく言えば、戦闘行為)は防衛軍が行う事になっているのである。その際に、在校生の避難誘導など防衛軍と連携して事態に当たれる様に、と言うのが『自警部』の活動趣旨となったのだ。
 だが、近年のエイリアン・ドローンに因る都市襲撃事件の頻発と言う事態を受け、その際の緊急避難的な措置として、避難する際の、ある程度の防御的反撃が出来る様にと、行動の基礎トレーニングや、小火器を用いた射撃訓練、エイリアン・ドローンへの対処方法の座学等(など)を防衛軍が行う様になり、それらを目当てにした血の気が余り気味の男子生徒には、ここ数年、『自警部』は人気の部活となっていた。
 これは、防衛軍に取っては、天神ヶ崎高校の優秀な若者に対するリクルートのチャンスでもあり、実際、『普通課』の生徒の中には、この『自警部』活動を機会に、卒業後に防衛軍へ入隊する者もいるのだった。
 因みに、エイリアン・ドローンによる襲撃事件が起きる様になって以降、二ヶ月に一度行われている避難訓練は、その実務は生徒会と自警部が主体となって実施されているのである。

「二年生以降って、三年生の先輩達には特技とかやる気とかは、特に無いんですか?」

「あはは、今の言い方じゃ、そう言う事になるわね。元々、この開発、研究を独りで始めたのが、あの部長、鬼塚なのよ。」

 直美は HDG のテスト状況を見ている、緒美の背中を指差して言った。

「その友人だった会計の森村は、鬼塚の行動を心配して、この活動に参加したの。」

 今度は、HDG のテスト状況をビデオ・カメラで記録している、恵の背中を指差す。

「で、一年生の時、寮で同室だった森村が、変な活動に参加してるんじゃないかって心配して、ミイラ取りがミイラになったのが、わたし。」

 最後に、直美は自分を指差して、微笑んだ。

「だから、天野を心配して、ここに様子を見に来たあなたの気持ちは、わたしは分かってあげられる積もりな訳(わけ)。」

「そうだったんですか…ちょっと、先輩の事、聞いてもいいですか?」

「何?」

「先輩も、何かスポーツ、やってましたよね?」

「体育会系に見える、って奴?」

「はい。」

「よく言われるわ、ソレ…。」

「違うんですか?」

 ブリジットが覗き込む様に、直美の瞳を見詰めるが、直美は視線を逸(そ)らして暫(しばら)く沈黙した。そして、前を向いた儘(まま)、静かに話し始める。

「…確かに、中二の時迄(まで)は、陸上やってたのよ。短距離。」

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第5話.10)

第5話・ブリジット・ボードレール

**** 5-10 ****


「中学に上がる時に、父の仕事の都合で引っ越したんです。それで、四月から通う事になった中学には、知り合いが一人もいなかったんですよね。わたし、見た目がこんな風じゃないですか…それで、誤解されたり、からかわれたりする事は昔から割と有ったので、中学に上がって、人間関係がリセットされて面倒臭いなぁと、思っていたんですけど。 そう言う態度が、女子の一部から反感を買ってたみたいで、結局、クラス全体から無視される様になったんですよね。」

 直美は眉を顰(ひそ)めて聞いていたが、声は発しなかった。ブリジットは、話を続ける。

「徒(ただ)、その時、同じクラスだった茜だけは、わたしに普通に接してくれてて。でも、その所為(せい)で今度は、茜もクラス中から無視される様になったんです。」

「…成る程ね、そう言うお話。それで、どの位(くらい)続いたの?そのイジメみたいなの。」

「無視と陰口が一学期の中頃に始まって…夏休みが終わった頃に、わたしがバスケ部で、一年生でレギュラーに選ばれたので、それを境に無視とか、わたしには無くなっていったんですけど、でも、特別親しい友人が出来た訳ではなくて。 茜の方は、結局、無視と陰口が一年間続きました。勿論、わたしだけは茜と普通に付き合ってましたけど、学期が進んで行く内に、茜の成績がいい事とか、茜のお祖父さんが大きな会社…天野重工の事ですけど、その社長だか会長だかって言うのがクラスで知られて、それから、特に女子達の茜に対する風当たりが、余計に酷(ひど)くなった様でした。」

 直美は不快そうに、溜息を吐(つ)く。ブリジットの独白は、更に続く。

「中二になってクラスが変わって、漸(ようや)く、そんな状況は自然消滅したと言うか。茜には成績上位グループの子達が、話し掛ける様になったので、二年目以降は、理不尽な無視や、陰口は無くなりましたけど。それでも、茜の成績を妬(ねた)んでいる様な子達は、結構、最後まで根も葉も無い噂話を言って回っていたみたいですけどね。まぁ、茜はそんな人達の事は、気にしてなかった様でしたけど。」

「あの子も、案外、苦労してるのね…うん、分かったわ。嫌な事を思い出させて、悪かったわね。」

「いえ…確かに中一の時のクラスは、最悪でした。もしも、茜が居なかったら、わたしはあのクラスでずっと孤立してたと思うし、わたしが居なければ茜があんな目に遭う事も無かったと思うんです。後になって分かったのは、あれは一部の女子が煽っていただけだったらしい、って言う事なんですが。まぁ、それでも他のクラスの子や、部活の先輩とかは普通でしたから。わたしも茜も、クラスの外では、割と普通に過ごせたんですよ。それは幸いでした。」

「あぁ、天野は剣道部だったのよね?」

「はい。」

 その時、インナー・スーツに着替え終わった茜と、それを手伝っていた佳奈が、部室に戻って来た。部室に残っていた二人を見付け、佳奈が声を掛ける。

「あれ、新島先輩に見学ちゃん。お二人で何してるんですかぁ?」

 その声の方向に顔を向けたブリジットは、茜の姿を見て声を上げた。

「何?その格好。」

「これが HDG 用のインナー・スーツ。HDG の接続インターフェースなのよ。」

 茜は、ドレスでも披露するかの様に、クルリと一回りして見せるのだった。しかし、その一方でブリジットは、今一つ、ピンと来ていなかったのである。そんな様子は気にも留めず、直美は席を立った。

「じゃぁ、わたし達も下へ降りましょうか。ブリジット、なたもいらっしゃい。」

「いいんですか?」

「天野の様子を見に来たんでしょ?気の済む迄(まで)、見ていくといいわ。」

 そう言い残すと直美は、つかつかと茜の傍(そば)へと歩み寄って行く。茜の隣に立つと、左手で後ろから茜の左肩を掴んで身体を引き寄せ、直美が言う。

「天野、あなたの事、見直したわぁ。」

 茜は突然掛けられた言葉の、その意味が解らず、徒(ただ)、困惑するのみである。

「はい?何ですか、急に。」

「何でもいいの。さぁ、今日のテスト・スケジュール、熟(こな)しに行くよ。」

 直美は茜の背中を、部室から二階通路への出口へ向かって、ぐいっと押した。そして、振り向いて、ブリジットに呼び掛ける。

「何してるの~ブリジット、こっちへいらっしゃい。」

「あ、はい。」

 ブリジットは慌てて席を立ち、茜達の元へと駆け寄る。茜は二階通路への出口の外で立ち止まり、直美と佳奈を先に行かせてブリジットを待っている。そして二人が合流し、二階通路を階下へ降りる階段へと歩き乍(なが)ら、茜はブリジットに尋ねるのだった。

「ねえ、副部長と何を話してたの?」

「あぁ…寮に帰ったら、話すわ。」

 ブリジットが眼下に駐機されている、LMF の巨体に目を奪われている事に、茜は直ぐに気が付いた。

「凄いでしょう。あれ、HDG の拡張装備なのよ。」

「何?あれは…戦車?」

「LMF って言ってね、あの状態、コックピット・ブロックを接続して有ると、単体でも浮上戦車(ホバー・タンク)として行動出来るの。コックピット・ブロックを切り離して、HDG とドッキングするのが、本来の使い方なんだけどね。」

 そんな茜の説明を聞いても、これも又、今一つ理解出来ていないブリジットである。
 四人は階段を降りると、先に格納庫フロアで準備を進めていた、緒美達の元へと向かう。

「準備は出来てるわよ。早速、初めてちょうだい、天野さん。」

 茜の姿を認め、緒美が声を掛けて来る。

「はい。」

 茜は、HDG のメンテナンス・リグへと駆けて行った。ブリジットは茜の、その声や、表情や、仕草を眼前にして、「確かに、楽しそうだ」と、そう思うのだった。

 

- to be continued …-

 

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