WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第17話.06)

第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール

**** 17-06 ****


 離陸から三十分程の後、HDG 各機と随伴機は試験空域へと到達する。
 移動中は高度五千メートルを飛行していた各機は、試験空域に於いて高度二千メートルに迄(まで)、降下しているのである。
 空域周辺には雲底の低い雲は無く、茜達の眼下には今回の試験への協力に際して海上防衛軍側の指揮を実施する、空母『あかぎ』が航行している。全長が四百メートルに迫る其(そ)の巨大な航空母艦も、茜達からは前へ延ばした腕の、その掌(てのひら)で隠れてしまう程度の大きさにしか見えない。
 この時代、日本の海上防衛軍には三隻の航空母艦が存在するが、その一番艦が此(こ)の『あかぎ』である。因(ちな)みに二番艦『かが』は現在、ドッグ入りしての定期整備中で、三番艦『しなの』は東南アジア方面の海上輸送ルートを、安全確保の為の哨戒任務で航海中なのだ。
 世界中の各地で、エイリアン・ドローンに因る襲撃事件が起きている此(こ)の御時世であるが、その防空作戦に各国海軍の水上艦艇が参加する例は少ない。イージス艦の様に防空を主任務とする艦艇を除外すると、通常の艦艇にはエイリアン・ドローンに対峙する機会が、ほぼ無いからだ。
 それは、『エイリアン・ドローンが総じて海には無関心であるから』なのだが、その御陰で海上輸送に関してはエイリアンの攻撃対象にされておらず、それ故(ゆえ)に日本の様な島国でも無事に経済が回っているのである。
 だから世界中の海軍が暇であるかと言えば、そんな事は無く、世界的な此(こ)の危機に乗じた海賊行為の横行など、エイリアンよりも人間相手の警戒が必要とされているのだった。
 実際、エイリアン・ドローンの出現以降、世界の航空輸送は総量で凡(およ)そ半減しており、それだけに海上輸送の重要度や比率が増しているのだ。

 今回の試験に航空母艦が参加しているのは、勿論、試験を実施する海域へ出向くのに『あかぎ』のスケジュールが合致した事が大きな要因ではあるが、沿岸から遠く離れた海域での試験中に、HDG にトラブルが発生した場合の避難や回収が考慮されたのも一つの要因なのだ。
 離着陸に滑走が不要なB号機は兎も角、AMF とC号機が空母に着艦が可能かどうかは、AI に依る操縦支援が装備されているとは言え、実際の所は、やってみないと判らない部分が多い。それがトラブル発生時の緊急避難であれば尚更、着艦を強行する判断や決断には困難が伴(ともな)うだろう。
 AMF の場合は、HDG を切り離して、茜が単独で空母上に降りるのであれば、これはB号機と同様に滑走は不要である。この場合、AMF は空母近辺の海上に投棄される事となり、可能であれば空母によって引き揚げを試みる事も、海上防衛軍側とは申し合わせ済みだった。この作業が困難であれば、別途、引き上げの為の船舶や機材を手配し、引き揚げ計画を策定しなければならない。何(いず)れにせよ、これらの作業に関して、明確な手順や詳細までが詰められている訳ではない。これ迄(まで)の経緯を見れば、激しい起動をする訳でもない今回の試験で、HDG 各機がトラブルを起こす可能性は極めて低いのだ。
 何方(どちら)かと言えば、試験を終えた『プローブ』が帰還する座標が『あかぎ』所在の海域に指定してあるので、着水した『プローブ』を回収する役割を、『あかぎ』には期待されているのである。
 『プローブ』は基本的には『使い捨て』として構想はされているのだが、勿論、調達に必要な価格は二束三文とはいかない。特に、内蔵する電子器機は何(いず)れもが其(そ)れなりの価格がする装備品であり、だからこそ使用後に回収ポイントへと帰還する設定が存在しているのだ。回収して再整備すれば、数回の再使用は可能である事が、設計上は期待されている所なのである。
 但し、帰還時に着水や着陸、或いは落下した際の衝撃でフレームや内蔵機材に対し、どれ程の損傷や影響が生じるのか、それに関しては実際の運用での確認が必要となる。今回の試験で、敢えて『プローブ』の回収を行うのは、その辺りの評価をする為なのである。そして、それ以前に、設定通りのポイントに帰還出来るか、その事を検証する意味も、当然、含んでいるのだ。

「TGZ01 より、HDG 各機。準備はいい?」

 緒美が問い掛けると、直ぐに三人から通信が返って来る。

「HDG01、準備良し。観測位置で待機中。」

「HDG02、スタンバイ。」

「HDG03、問題ありません。」

 緒美達、随伴機からはブリジットのB号機と、クラウディアのC号機しか見えない。C号機の右手側、五百メートル程度の距離を開けて随伴機は飛行している。B号機はC号機の左手側、五十メートル程の位置だ。
 茜の AMF はB号機の左手方向に、B号機とC号機を同時に観測出来る程度に距離を取っているので、その姿を随伴機から目視する事は出来ない。茜の方からは、AMF の右主翼下面に懸下(けんか)している観測用撮影ポッドに内蔵されているカメラで、進行方向に対して側方の様子を監視、撮影している。そして前方側に存在する、目標となる気球(バルーン)に関しては、AMF に搭載されている高倍率の前方監視カメラで監視するのだ。それらの撮影画像は、データ・リンクで随伴機と、天神ヶ﨑高校に設置されたベースへと送信され、其方(そちら)でて記録されているのである。
 続いて、緒美は海防艦艇側へ確認する。

「TGZ01 より、アカギ・コントロール。其方(そちら)も、宜しいですか?」

 空母『あかぎ』からの返事は、直ぐに返って来た。

「こちらアカギ・コントロール。準備は完了している。其方(そちら)のタイミングで、試験を開始して呉。」

「了解。では、宜しくお願いします。」

 そう、緒美は言葉を返すと、クラウディアへ指示を出すのだ。

「HDG03、では、試験を開始してください。打ち合わせ通り、目標のスキャンから。」

「HDG03 です。目標のスキャン、開始します。」

 クラウディアとブリジットの編隊は、目標に接近し過ぎない様に、打ち合わせの通りに右へ旋回を始め、同時に目標から発せられる模擬電波のスキャンを開始した。
 スキャンを開始して間も無く、Sapphire は三つの電波発信源をキャッチするのだ。

「9時方向に電波源を探知しました。電波源の数は三、それぞれ周波数は違っています。」

 Sapphire の報告と同時に、クラウディアの目の前には、探知した情報がグラフィックで表示される。

「HDG03 より、TGZ01。電波源を探知、数は三。データは其方(そちら)にも、行ってますか?」

 直様(すぐさま)、樹里の声が返って来る。

「HDG03、データは来てます。判明してるのは、電波源の方向だけね。」

 表示上では、C号機を中心として、細長い扇型の表示が 9時方向へ三本、伸びているのだ。これは、探知した電波源の距離が特定出来ない為、電波の飛来する方向のみを表示しているのである。因(ちな)みに、表示上で上側が常にC号機の進行方向、或いは正面側で、C号機を表示の中心に据えて、上から見下ろした状態で位置関係が表されている。

「HDG03 より、TGZ01。更に右旋回して、『プローブ』発射位置へ移動します。」

 クラウディアの報告に対して、緒美が許可する。

「了解、HDG03。オペレーション、続行。」

「HDG03、右旋回開始。HDG02、付いて来なさい。」

 そう、クラウディアに指示され、打ち合わせ通りなのだが、少しムッとしてブリジットは答えるのだ。

「はいはい、了解。HDG02、HDG03 に続きます。」

 C号機とB号機は、電波源から離れる方向へ旋回を始め、ぐるっと回って電波源の方向へ正対する。これは、電波源に対して設定の百五十キロメートルよりも近付かない為の機動である。
 電波源に正対した状態で、C号機とB号機は方位として、ほぼ東向きに飛行している。その状態で、クラウディアは『プローブ』の発射手順を開始するのだ。
 手順とは言っても、基本的な飛行データは事前に入力済みなので、各項目と諸元を確認して、最終安全装置を解除すれば発射準備は完了だった。

「安全装置、解除。 HDG03 より、TGZ01。『プローブ』1 から 4、発射します。宜しいですか?」

「TGZ01、了解。発射を許可します。」

 緒美の許可を待って、クラウディアは機体を直接的に制御している Sapphire へ指示を出すのだ。

「『プローブ』1 から 4。発射。」

「『プローブ』1 から 4、発射します。」

 Sapphire はクラウディアに向かって指示を復唱し、飛行ユニットの主翼に懸下(けんか)されている四基を、パイロンから切り離した。
 切り離された『プローブ』は、それぞれが、ほんの少し落下し時間差を以(もっ)てロケット・モーターが点火され、白煙を引き乍(なが)らC号機を追い抜いて前方へと突進して行く。が、煙が示す航跡は、C号機の前方で上下左右へと散らばり、視界から消えて行ったのだ。
 それぞれが、成(な)る可(べ)く違う位置で、出来るだけ距離を開けるのが、電波源の位置特定には精度が上がるので有利なのだ。違う方向へ飛んで行ったのは全て、予(あらかじ)めプログラミングされた軌道である。

「プローブ1 から 4、データ・リンク異常無し。間も無くロケット・モーターが燃焼終了、ターボプロップが起動します。」

 クラウディアの報告に、樹里が答える。

「了解、HDG03。此方(こちら)でも、各機のステータスを確認。予定通り、進行中。」

 続いて、緒美が指示を伝えるのだ。

「TGZ01 より、HDG03、02。その儘(まま)、進行すると設定距離を割ってしまうから、右へ旋回して。」

「了解。HDG03、右旋回します。」

「HDG02、了解。」

 それから間も無く、予定通りに各『プローブ』の固体燃料ロケット・モーターは停止し、続いて内蔵された小型のターボプロップ・エンジンが起動する。水素で稼働する此(こ)のエンジンは、滞空する為の推進力を生み出すのと同時に、『プローブ』内部に搭載した電子器機の電源となる発電機も駆動するのである。ターボプロップ・エンジンが起動して、機体後端に取り付けられているスピナーが回転すると、機体表面に沿って倒れていたプロペラ・ブレードが遠心力で展開し、以降は其(そ)れに因って推進力を得る。
 『プローブ』は発射後に、一~二分間のロケット・モーター駆動に因り二十五キロメートル程を飛翔する。ロケット・モーターの燃焼終了後には、胴体下に折り畳んであった主翼を展開し、起動したターボプロップに因って一時間程度、作戦空域に留まって電波源からの受信を続けるのだ。
 ターボプロップに切り替わって以降の最大速度は時速 180 キロメートル程度で、内蔵した水素で凡(およ)そ二時間の飛行が可能となっている。標準的なイメージとしては、一時間の作戦参加の後、一時間掛けて回収ポイントへ向かう、と言った所だろうか。勿論、必要に応じて飛行計画は設定可能であるし、C号機、Sapphire から飛行高度やルート、回収ポイントの設定など、随時(ずいじ)、変更や更新は可能な仕様となっている。
 その様な『プローブ』の状態の遷移は、C号機のクラウディアと、随伴機機内でモニターを続けている樹里と日比野には、各機から送信されて来るステータス信号によって、逐次(ちくじ)、把握されているのだ。

「『プローブ』各機、エンジン切り替えを完了。飛行の安定を確認。設定通りの位置に到着しました。HDG03、オペレーションを続行してください。」

 樹里の報告と指示を聞いて、クラウディアが応える。

「了解。電波源の位置特定、演算を開始します。 Sapphire、『プローブ』からのデータ取得、開始して。」

「ハイ。データ受信チャンネル 1 から 4 を解放。電波源の位置特定演算、開始します。演算結果が出る迄(まで)、少々、お待ちください。」

 クラウディアの正面には、『Now Processing....』とのメッセージが、表示される。
 一方で随伴機の機内では、通信から聞こえて来る Sapphire のコメントを聞いた緒美が、その声が通信に乗らない様にマイク部を指で押さえ乍(なが)ら言うのだ。

「さあ、ここからが本番よ…。」

 緒美も又、樹里の正面に設置されているディスプレイに表示された『Now Processing....』の表示を覗(のぞ)き込んでいた。
 それから一分足らずで、最初の演算結果が表示されるのだ。

「第一報、来ました。思ったより、早いですね。」

 樹里の報告を受けて、緒美が指示を出す。

「防衛軍の戦術情報と重ねて、城ノ内さん。レーダーと比べて、位置精度はどう?」

「ちょっと、待ってください…。」

 緒美のリクエストに応える可(べ)く、樹里はコンソールを操作して、Sapphire の計算した電波源の位置データを、防衛軍のレーダー情報に重ねて表示させるのだ。それぞれの気球(バルーン)をレーダーで検知しているのは空母『あかぎ』を始めとする周辺の海防艦艇で、それらの情報が防衛軍のデータ・リンク経由で戦術情報として共有されているのである。
 そしてコンソールを操作している樹里から、思わず声が漏れるのだった。

「はい、これで~…ああー、まあ、最初はこんなものですかね。」

 その声を聞いて、隣の席から日比野も、樹里の正面ディスプレイを覗(のぞ)き込んで言うのだ。

「結構な誤差が出てるね~ま、パラメータが全部デフォルトじゃ、こんなものよね。」

「あ、計算が更新されました。」

 そう樹里が声を上げたのだが、再表示された電波源を示すシンボルは、気球(バルーン)のレーダー反応の位置から、そのディスプレイ上で其其(それぞれ)がシンボル一個分程度、離れた位置に表示されているのだった。
 日比野の反応からも解る様に、電波の受信位置から発信源の位置を特定する計算が、初手から上手く行かない事は織り込み済みだった。これは複数の器材からのデータを基礎として計算を実行している都合で、それらの測定誤差や各器材が個別に持つズレ等の特性が、計算結果に影響を与えているからである。
 その様な誤差やズレを補正する為に、計算式の各所には複数のパラメータが用意されており、又、計算式自体も一つではない。

「HDG03 より、TGZ01。取り敢えず、パラメータ調整を始めます。」

 クラウディアからの呼び掛けに、日比野が応える。

「そうね。此方(こちら)で当たりは付けてあるから、これから言う通りに設定してみて呉れる? Sapphire は、演算を更新し続けてね。演算結果のモニターと比較は、こっちでやってるから。」

「HDG03、了解。指示をお願いします。」

 クラウディアの返事に、樹里が付け加える。

「結果のモニターは、こっちで継続します。」

 日比野は樹里に頷(うなず)いて見せ、書類ケースから三十枚程の紙を束ねた資料を取り出して、捲(めく)っていく。それは演算部分の設計担当者から託された、パラメータの調整マニュアルである。プリントアウトされた書面には、日比野が予習した痕跡である書き込みが、随所に残されているのだ。

「HDG03、取り敢えず、三番、五番、八番辺りのパラメータを軸に、一つずつ変更して行くから。先(ま)ず、三番、プラス0.3。」

「三番をプラス0.3、設定変更します。」

 クラウディアは指示を復唱し、即座に対応するのだった。その操作は、直ぐに反映されて再演算がされる。

「モニター、演算結果が少し、レーダー反応に寄りました。」

 反応の変化を、樹里が即座に報告するのだ。

「オーケー、次、五番をプラス0.5。」

「五番、プラス0.5、変更します。」

「今度は、レーダー反応に対して、高度が下へ離れました。」

 日比野は手元のマニュアルを見詰めていた顔を隣の席の樹里へ向け、驚いた様に聞き返す。

「え?離れた?」

「離れましたね。」

 樹里は真面目な顔で、言葉を返すのだ。
 日比野は視線を手元のマニュアルに戻すと、数ページ戻って説明書きを指先でなぞり乍(なが)ら読み直す。それから数秒が経って、日比野は声を上げるのだ。

「ゴメン、間違えた。五番は、マイナス0.5。」

 その指示に、クラウディアが確認して来る。

「ゼロに戻すんじゃなくて、ゼロから更にマイナス0.5、ですね?」

「そう、ゼロからマイナス0.5。」

 その変更の結果を、モニターしている樹里が報告する。

「はい、レーダー反応との高度差は、ほぼゼロになりました。」

「オーケー。次は八番、プラス0.2で、1.2へ。」

「初期値の 1 に、プラス0.2ですね?変更します。」

「モニター、変化無し。」

「あれ? それじゃ、更にプラス0.3で、1.5へ。」

「1.5 に、設定しました。」

「モニター…変わりません。」

「ええ~…ちょっと待ってね…。」

 日比野は再(ふたた)び、マニュアルのページを何度も往復し乍(なが)ら、記述を読み直すのである。そして、次の指示を出すのだ。

「それじゃ、八番は元の1に戻して、二番の設定を、プラス0.2で。」

 そんな調子で、パラメータの設定探索は十五分程、日比野とクラウディアとの間で遣り取りが続いたのだ。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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