WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第17話.08)

第17話・クラウディア・カルテッリエリとブリジット・ボードレール

**** 17-08 ****


 間も無く、ブリジットの声が随伴機機内でスピーカー出力される。

「HDG02、狙撃コースへ復帰。目標の座標を入力。照準画像を確認します。」

 その声を聞いて、緒美は日比野が操作するディスプレイを再(ふたた)び覗(のぞ)き込むのだ。立花先生は席を離れ、日比野の席後方に移動して緒美と同様にディスプレイに注目する。
 ブリジットの声が続く。

「今度は、指定座標が目標のアンテナ辺りになっているみたいです。」

「HDG02、此方(こちら)でも画像を確認したわ。」

 緒美は、ブリジットに然(そ)う報告した。ブリットは、オペレーションを続けるのだ。

「照準を気球(バルーン)中央部へ修正…目標固定(ロックオン)。目標を空対空射撃モードで自動追尾。 HDG02、マスターアーム、オンにします。宜しいですか? TGZ01。」

「此方(こちら) TGZ01、許可します。オペレーション、続行して。」

「HDG02、了解。マスターアーム、オン。 弾体を薬室(チャンバー)へ装填。 HDG01、其方(そちら)は準備、いい?」

 ブリジットが茜に声を掛けるので、茜が応答する。

「此方(こちら)HDG01、記録準備状態で待機中。何時(いつ)でも、どうぞ。」

 茜の AMF の現在位置は、B号機と気球(バルーン)との中間位置から、北へ百キロメートル程の空域である。AMF は、その複合画像センサーでレールガンの射撃弾道を側方から観測するのだ。
 茜の返事を受けて、ブリジットが発射の最終確認を行う。

「それでは、カウントダウンの後(のち)に、レールガン、発射しますが、いいですか?TGZ01。」

「此方(こちら) TGZ01、発射を許可します。タイミングは任せます。」

「HDG02、了解。では、カウントダウン、スタート。5…4…3…2…1…発射!」

 ブリジットの宣言と同時に、B号機の飛行ユニットに装備されたレールガンは、その砲口から青白い閃光を放つのだ。
 撃ち出された弾体は非常に高速なので目視は出来ないが、AMF が撮影する赤外線画像では、飛翔する一つの光点として捕らえられていた。
 飛翔中の弾体が赤外線画像で明るく見えるのは、レールガン砲身内部での加速中に弾体が電気的に発熱するからだが、発射後にも飛翔中の空力加熱に因って、弾体は加熱されているのだ。
 この超音速飛翔体の『空力加熱』は、周辺流体、乃(すなわ)ち空気との『摩擦熱』だと間違って説明される事が多かったが、それらは全く異なる現象である。
 シリンダーに閉じ込められた空気をピストンで圧縮すれば、シリンダー内部の空気は温度が上昇する事は一般的に知られているが、超音速飛翔体の前面では、これと同じ事が解放された大気中で起こるのだ。それが空力加熱の原理である。
 『音速』とは空気が自力で(外部からのエネルギー供給無しに)動ける速度の上限なので、音速以上で移動する物体の前面に存在する音速以下の空気は、物体の周辺や後方へと流れ遅れた結果、圧縮されるのである。従って、超音速飛翔体の先端部で此(こ)の圧縮が発生する為、先端部分の温度が、温度分布ではピークとなるのだ。これが、超音速飛翔体の加熱が『摩擦熱』ではない単純で、明確な証拠である。もしも、超音速飛翔体の加熱が『摩擦熱』であるなら、ロケットや砲弾型ならば先端ではなく胴体周辺部、翼型であれば前縁ではなく翼表面、そう言った面積の広い部分に温度分布のピークが発生する筈(はず)である。更に、先端部や前縁部は常に新鮮な大気に曝(さら)される場所であるから、『空力加熱』が無ければ、大気に因って冷却される筈(はず)なのだ。
 因(ちな)みに、超音速飛翔体に因って加速された超音速流の大気と周辺の亜音速流大気との境界が、大気中を波状に伝播するのが、所謂(いわゆる)『衝撃波』である。

「発射終了。HDG02 は待機コースへ、戻ります。」

 ブリジットの申告に、緒美が応える。

「了解、HDG02。 現在、レールガンの弾体は目標へ向かって飛翔中。着弾まで、あと五十三秒。」

「了解。マスターアーム、オフ。着弾したら、教えてください。」

 ブリジットのB号機は、右旋回の後、クラウディアのC号機と合流するのだ。
 一方で、弾体の飛翔経路を追跡して撮影を続ける茜は、着弾までの時間を報告する。

「着弾まで、推定であと三十秒。…二十秒…十秒…5…4…3…2…1…ゼロ…あれ?…手前側を通過しました…ね。」

 茜の報告に続いて、緒美も声を上げる。

「此方(こちら)でも、画像を確認したわ。 Ruby、どの位、逸れたのか、記録した画像から解析出来る?」

 緒美の呼び掛けに、AMF から Ruby の声が返って来る。

「其方(そちら)で保存した記録にアクセスして、弾道解析を行ってみます。記録ファイルの指定を、お願いします。」

 Ruby からの依頼を受けて、樹里が手早くコンソールを操作し、Ruby へ言葉を返すのだ。

Ruby、ファイルを送るから、解析、宜しく。」

 樹里がコンソールのエンターキーを叩くと、間も無く Ruby からの返事が有る。

「ファイルを受け取りました。解析完了まで、暫(しばら)くお待ちください。」

 そこへ、ブリジットからの通信が入るのだ。

「あのー、HDG02 です。さっきの、外(はず)れました?」

「そうね。でも、貴方(あなた)の所為(せい)でない事は分かってるから、心配しないで。」

 緒美に然(そ)う言われても、ブリジットとしては安心出来るものではない。

「前回は当たったのに…どこかで操作を間違えたでしょうか。」

 心配そうにブリジットは言うのだが、射撃に就いてドライバーが実行するのは目標の指定と、タイミングの指示だけなのだから、彼女には操作を間違えようが無いのである。だから、緒美が言葉を返すのだ。

「変化点としては、レールガン本体を再装備した事と、照準用の超望遠カメラの追加だから、原因は其(そ)の何方(どちら)かでしょう?」

 そこで、Ruby が弾道解析の結果を報告して来るのである。

「HDG01 Ruby より、TGZ01。先程の弾道解析が終わりましたので、報告します。弾道に対して左右の誤差が約一メートルと、精度は高くありませんが、照準座標から射線に対し左へ凡(およ)そ六メートル程、弾道が逸れたものと思われます。」

「ありがとう、Ruby。六メートルか…角度にすると…。」

 緒美は制服のポケットから自分の携帯端末を取り出し、関数電卓画面を表示する。それを手早く操作して、角度のズレ量を計算するのだ。

「…百五十キロ先の六メートルだから…アークタンジェントで…0.00229°、ね。こう計算すると、大きいんだか小さいんだか分からないわね。 TGZ01 より、テスト・ベース。其方(そちら)で、何か見解が有りますか?」

 緒美が学校側で待機しているメンバーに呼び掛けると、それに応じたのは緒美の予想通り、畑中である。

「あー、此方(こちら)テスト・ベース。さっき言ってた、レールガン再装備ってのは関係無いと思う。取り付けで軸線がずれないようには出来てるし、調整確認もやったから。 だから、照準用の望遠カメラ、そっちの調整が不十分だったかも知れない。」

「その再調整は、工場に戻さないと無理ですか?」

 そんな緒美の問い掛けに、畑中は即答する。

「いや、カメラ自体は、レールガン本体に、ほぼ固定だから。パラメータ調整で、何とかなると思う。 HDG02、レールガンの照準パラメータ設定画面、開いて見て呉れるかな?」

 そのリクエストに、ブリジットは直ぐに応じるのだった。

「HDG02 です。パラメータ設定を開きます、ちょっと待ってください。」

 それから数秒経って、再(ふたた)びブリジットの声が聞こえた。

「はい、パラメータ設定、開きました。どうすれば、いいですか?」

「オーケー、パラメータ、項目が十個、並んでる筈(はず)だけど、確認出来るかい?」

「はい、十個、有りますね。」

「じゃあ、念の為、現在の数値を上から順番に、読み上げて呉れ。」

「分かりました。上、パラメータ番号1 から順に行きます。0.1、1、0、0.23、0.28、0.28、0.06…」

 ブリジットが読み上げる途中で、畑中が「え?」と声を上げるので、ブリジットは読み上げを中断して聞き返すのだ。

「…何か、おかしかったですか?」

「ああ、ゴメン。もう一度、最初から頼む。」

「行きます、0.1、1、0、0.23、0.28、0.28、0.06、0.01、0、1、以上です。」

「了~解。5、6、7番の数値は、0.28、0.28、0.06、で間違いない?」

「はい、0.28、0.28、0.06、です。」

「オカシイなあ…パラメータ6番の数値は、こっちのチェックシートだと、0.08 になってるんだけど。バグか、入力ミスか…。」

 そんな事を畑中が言うので、日比野が突っ込むのである。

「パラメータの設定値が勝手に変わるバグなんて、有り得ません!そっちの入力ミスでしょ?」

「だよね~、どうして、こんな間違いが…まあ、いいや。この件は、帰ってから担当者に確認してみる。取り敢えず、パラメータの6番が 0.28 だった場合のズレ量を計算してみるから、ちょっと待ってね…。」

 今度は緒美が、畑中に問い掛ける。

「簡単に出来るんですか?それ。」

「…ああ、調整用のアプリを使えば、逆算出来る筈(はず)…ああ、出た。0.28 の場合は、百五十キロ先で水平方向に、-5.583、あ、正対して右側がプラスね。これ、さっきの結果と、大体合ってるよね?」

 そこで、コンソールを操作していた樹里が発言するのだ。

「B号機のログを確認しましたけど、さっきの射撃、照準座標がC号機の位置特定座標と水平方向に 5.9 メートル、ずれてますね。」

 立花先生が、怪訝(けげん)な顔付きで緒美に尋ねる。

「どう言う事? C号機の特定した座標に撃ち込んだんじゃなかったの?」

「いえ、最終的には望遠カメラの画像で、照準を修正しましたから。そのカメラがズレてた、って事ですね。」

 そして、ブリジットが問い合わせて来るのだ。

「HDG02 です。結局、パラメータの6番は、設定値 0.08 に、修正していいんですか?」

 それには畑中が、緒美よりも先に答えるのだ。

「ああ、スマン。そう、0.08 で、オーケー。」

 続いて、緒美も一言。

「だ、そうよ。」

「HDG02、了解。パラメータの6番、0.08 に設定しました。」

「それじゃ、もう一度、トライしてみましょうか。HDG02、射撃コースへ。」

「HDG02、了解。」

 そう答えて、ブリジットは機体を大きく右旋回さると、気球(バルーン)を狙うコースへと自身を乗せるのだ。
 ブリジットがコースを修正している間、緒美は茜に問い掛ける。

「TGZ01 より、HDG01。観測準備は大丈夫?」

「HDG01、問題ありません。何時(いつ)でも大丈夫です。」

「了解、HDG01。その儘(まま)、待機してて。HDG02 、其方(そちら)は?」

「HDG02 です。狙撃コースに乗りました。再度、照準を固定(ロック)します。マスターアーム、オン。 弾体を薬室(チャンバー)へ装填。準備完了、発射許可を求めます。」

「TGZ01 より HDG02 へ、発射を許可します。其方(そちら)のタイミングで、どうぞ。」

「HDG02、了解。カウントダウン開始、5…4…3…2…1…発射。」

 再度、B号機のレールガンが火を噴くと、射撃の終わったブリジットは右旋回して待機コースへと戻るのだ。

「HDG02、射撃終了。待機コースへ戻ります。HDG01、着弾観測、宜しく。」

「HDG01、了解。着弾まで、推定五十秒。」

 茜が答えてから約五十秒後、百五十キロ先の同高度に出現した、一つの火球を確認したのである。

「着弾! 命中しました。」

 レールガンの弾道観測をしていた茜は、直(ただ)ちに報告したのである。AMF が撮影していた赤外線画像では、着弾の瞬間に気球(バルーン)内部の水素が爆発的に燃焼した事で、撮影画像は一面がホワイト・アウトしたのだった。だが、超望遠カメラによって観測・記録された画像に爆発音は疎(おろ)か、聊(いささ)かの音声も収録されてはいないので、その映像に迫力は欠片(かけら)も無いのである。一瞬、ホワイト・アウトした画面は直ぐに、何も無い空中を映した赤外線画像に戻り、その画像だけを見ていれば何事も無かったかの様だった。

「流石に、百五十キロも先だと、爆発の閃光も見えないわね…。」

 随伴機機内から窓の外を眺(なが)めていた立花先生は、苦笑いし乍(なが)ら然(そ)う翻(こぼ)したのである。

 

- to be continued …-

 

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