WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第19話.05)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-05 ****


「ああ、そうそう。もう、立ち上がってるよ。」

 日比野は、部員達が主用している、北側二階通路階段の方を指差す。示された方向へ樹里達が視線を向けると、階段の裏側下に小型冷蔵庫状のユニットが目に入る。彼女達が『冷蔵庫』を連想したのは、それが白く塗装されていたからである。
 日比野を先頭に、彼女達は格納庫フロアの東側、階段の方向へと移動を始めるのだ。

「ここのセキュリティ機能は、Emerald(エメラルド)の方へ、もう、移行済みよ。」

 安藤の説明に、コメントを返すのは樹里である。

「今度は Emerald ですか、…と言う事は五月ですか? 起動したのは。」

「去年の?」

 樹里に続いて維月が訊(き)いて来るので、安藤が答えるのだ。

「今年よ。Sapphire が去年の九月で、それ以降に得られた情報がフィードバックされてるの。」

 続いて、クラウディアが尋(たず)ねる。

「見た目、Sapphire よりも、ケースは大きいみたいですけど。」

「Sapphire はC号機に搭載する都合で、特別に圧縮して実装されてるけど、プロセッサ自体は同じ物よ。 Emerald の方は、無理に小さくする必要が無かったし、だから余分に記憶装置(ストレージ・ユニット)を搭載してあるの。 さっきやってた、Ruby のライブラリ・ファイルのバックアップも、Emerald へ転送してたのよ。」

 今度は、維月が問い掛ける。

「あ、お二人の PC へ転送してたんじゃないんですか。」

 それには、風間が答えるのだった。

「あはは、無理無理、モバイルにコピー出来る様な容量じゃないから。Ruby と Emerald の両方に格納してあるファイルを読み出して比較するツールを、モバイル側で走らせてただけ。」

「あれ?ケーブルは Ruby とだけしか繋がってなかった様な…Emerald との接続は無線ですか?」

「そうゆーことー。」

 樹里の質問に答えた日比野は、樹里が何時(いつ)も使用しているデバッグ用のコンソール前に立ち、数回、キーボードをタイプすると、樹里達を手招きするのだ。

「Emerald とのアクセスは、ここから出来るから。 ご挨拶して、Emerald。」

 日比野に促(うなが)され、合成音声がデバッグ用コンソールから出力される。

「こんにちは、皆さん。Emerald です。」

 それは Ruby とも、Sapphire とも違う、女性の合成音声だった。
 その声を聞いて、維月が樹里に同意を求める様に言うのだ。

「あれ? 聞き覚えの有る声、よね?」

「そうね。安藤さん、ですよね?」

 樹里に確認されると、安藤は苦笑いをして答えるのだ。

「ああ、矢っ張り解っちゃう? ちょっと、弄(いじ)って貰ってはあるんだけど、わたしの声、サンプリングしたのが元データなのよ。」

「あはは、それが解るなら、維月ちゃん、Ruby の声が誰のか、気付いてた?」

 維月は一瞬、複雑な表情になったが、何(なん)でもない様に声を返すだった。

「ええ、姉の、でしょ?」

「ああ、お姉さんの声、あんな感じなんだ。」

 微笑んでコメントする樹里に、維月は言うのである。

「少し変えてはあるよ、話し方は全然違うし。」

「あれ? そうすると Sapphire のは、誰の声が元なんですか?」

 そのクラウディアの質問には、安藤が答える。

「Sapphire も、主任の音声データがベースなの。Sapphire 用には、可成り変化させてあるけどね、Ruby と同じに聞こえないように。それで流石に、Emerald 用にも同じ手は使えなくって。 で、新しくサンプリングした訳(わけ)。」

「成る程。 それで、疑似人格の仕様としては Emerald、Sapphire と同じ、なんですか?」

「まあ、Ruby が特別仕様だからねー。」

 そう言って、安藤はくすりと笑うのだった。
 一方で、樹里が声を上げるのだ。

「えーと、セキュリティを引き継いでいるって事なら、Emerald、わたしの声とか姿は拾えてる?」

 その答えは、デバッグ用コンソールから返って来る。

「ハイ、樹里。格納庫の各種センサーから、画像や音声を取得しています。」

「ああ、もう、個人識別も出来てるんですね。」

 樹里は安藤に向かってコメントしたのだが、安藤が答えるよりも先に、コンソールからは Ruby の声が返って来るのである。

「わたしのライブラリ・データが、移植されていますから。」

 そこで維月が、AMF の方へ向かって、普通の声量で話し掛けるのだ。

Ruby、ここで話してるの、AMF で拾えてるの?」

「いいえ、維月。格納庫のセキュリティ用センサーから情報を取得しています。」

 Ruby の返事を聞いて、樹里が日比野に問い掛けるのだ。

「セキュリティ機能は、Emerald へ移管したんじゃないんですか?」

「ああ、画像や音声へのアクセスは Ruby にも今迄(いままで)通り、出来るようにしてあるのよ。」

 続いて、説明を加えるのは安藤である。

「急に目や耳を塞(ふさ)がれると、ストレスになるでしょう? Ruby は繊細だから。 あと、格納庫内の AI 同士で情報の共有が出来るように、新しいネットワークも追加してあるわ。ハブになっているのは Emerald なんだけど。」

 そこでクラウディアが、日比野に尋(たず)ねる。

「と、言う事は、Sapphire も格納庫のセンサーから情報を?」

「そうよー、Sapphire、見えてるー?」

 日比野はメンテナンス・リグに接続されているC号機に向かって、敢えて右手を上げ左右へ振ってみせるのだ。直ぐにデバッグ用コンソールからは、Sapphire の声が返って来るのである。

「ハイ、見えています、杏華。」

「じゃ、二階の部室でも Sapphire と普通に会話が?」

 その維月の質問に、日比野は微笑んで答えるのだ。

「勿論、出来るよー。」

 日比野の答えを聞いて、樹里がコメントする。

「今迄(いままで)、カルテッリエリさんの PC でしか、お話し出来なかったものね。C号機本体、以外だと。」

「って言うか、そのプログラム、どうやって作ったのよ?って話よね。」

 半(なか)ば呆(あき)れた様に安藤が言うのだが、クラウディアは澄ました顔で返事をするのだ。

「それは、秘密デース。」

「あはは、一晩で作っちゃったんだから、凄いよネー。」

 笑って維月が然(そ)う言うと、続いて樹里が誰に訊(き)くでもなく言うのだ。

「あれ? そうすると、Ruby と Sapphire、Emerald とで、お話し出来るのかしら。」

 樹里の疑問に答えたのは、Ruby である。

「ハイ、樹里。設定が済んで以降、ネットワーク上で妹達と会話を続けていました。」

「そう。どんなお話を?」

「ライブラリに記録されない、テキスト化や数値化出来ない経験と記憶に就いて、情報交換をしていました。」

 その Ruby の回答を聞いて、クラウディアが問い掛ける。

「ライブラリに記録する時に、記憶をテキスト化するんじゃないの? Ruby。」

「ハイ、クラウディア。その通りですが、ライブラリに記載する際は、決められたフォーマットに従って情報を加工し、アウトプットします。ですから、フォーマットに指定されていない情報は、ライブラリには記録されません。」

「ああ、そう言う事。成る程。」

 Ruby の説明に納得するクラウディアに、安藤が補足説明をするのだ。

「そんな訳(わけ)だから、Ruby の経験や記憶を全て、別の子に移植は出来ないのよね。その辺りは、今後の開発課題かしら? まあ、別人格なんだから、記憶の完全コピーとか、する必要は無いんだけど。 一応、ライブラリに記録されない情報は、ログの方に載っては来るんだけど、今の所、ログのデータは状態の検証以外に使い道は無いのよねー。」

 続いて、樹里が Ruby に問い掛ける。

Ruby、『会話』って、テキスト・データで遣り取りを?」

「いいえ、普通に音声ですが、どのスピーカー側にも出力しないだけです。」

 Ruby の返事に続いて、Emerald が発言するのだ。

Ruby との『お話』は、色々と会話の参考になります。わたしは、まだ稼働時間が少ないので。」

「Sapphire は?」

 安藤に尋(たず)ねられ、Sapphire も答える。

「そうですね。今迄(いままで)は、格納庫内の情報を取得していなかったので、その情報を理解し整理する手法を学びました。但し、これは HDG の制御には必要ではない情報なので、この学習を継続する必要が有るのでしょうか?江利佳。」

「ああ、それは問題無いわね。HDG の制御には直接に関係は無いけど、対人コミュニケーションの精度向上にはプラスになるから、遠慮なく続けてちょうだい。ストレージの容量には、その分の余裕を見込んで有るから心配は要らないわ、Sapphire。」

「分かりました、江利佳。」

 そこで、日比野が Ruby に向かって言うのだ。

Ruby はお姉さんなんだから、妹達に色々と教えてあげてね。」

「ハイ、杏華。頑張ります。」

 素直な Ruby の返事を聞いて、微笑む日比野であった。
 一方で、少し申し訳無さそうに安藤は、Ruby に告げるのだ。

「やる気になっている所で悪いんだけど、Ruby、そろそろ、貴方(あなた)のシャットダウンを始めるから。」

「ハイ、江利佳。そのスケジュールは、理解しています。指示が出る迄(まで)、待機しています。」

「それじゃ、沙織ちゃん、準備始めましょうか。休憩、終わり。」

 安藤は、普段は風間の事を名前で『沙織ちゃん』と、呼んでいるのである。風間の方は「はーい。」と返事をし、AMF の方へと歩き出す。

「安藤さん。」

 樹里に呼び止められ、振り返る安藤に、樹里が依頼するのである。

Ruby のシャットダウン作業の見学、させて貰ってもいいでしょうか?」

「それは構わないけど、チェックとか、やり乍(なが)らだから、一時間ぐらい掛かるよ。 退屈するよ?多分。」

「それは、まあ…大丈夫です。 なかなか、こんな機会、無いですから。」

「まあ、確かに、ね。 本当は、出来れば、シャットダウンは、余りやりたくはないんだー。」

 その安藤の言葉に、クラウディアが尋(たず)ねるのだ。

「どうしてです?」

「考えてみてー。シャットダウンって、人間に例えたら、一度死ぬのと同じ事だよ。停止前の状態へ再起動が出来るのが、人間と違う所だけどさ。」

 安藤の説明に、維月が確認するのである。

「でも、スリープ処理じゃマズいんですよね?」

「うん、今回やるのは、謂(い)わば『脳移植』だから。 目が覚めたら『別の身体になってました』じゃ、混乱するのは間違いないでしょ。 環境設定をチェックし乍(なが)らの再起動は、必須なんだよね。」

 そう言って、安藤は力(ちから)無く笑ったのだ。
 それから間も無く、Ruby の完全停止作業は実施が開始されたのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。