WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第19話.07)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-07 ****


 四日目、2072年12月1日、木曜日。
 前日中に ADF 搭載の AI ユニット:Pearl は停止処理が実施され、一部配線の取り外し迄(まで)が進められていた。この日は朝から其(そ)の作業が継続されて、午後からは ADF より Pearl が引き出されたのである。
 この日の作業で AMF と ADF のそれぞれに搭載されている AI を交換するのであるが、その作業の準備として両機は第三格納庫の中で横に並べて置かれている。それら機体の移動作業も、前日の内に済まされていたのだ。
 さて、ADF の胴体を跨(また)ぐ様に移動された簡易門形クレーンで、ADF 機内に格納されていた AI ユニット:Pearl を引き上げると、門形クレーンは Pearl を吊した儘(まま)で前方へと移動し、そこで用意されているパレット上に、Pearl を降ろすのである。因(ちな)みに、門形クレーンの移動は、作業員達の人力に依って行われるのだ。この簡易門形クレーンに自走の為の動力は、用意されていないのである。
 続いて、門形クレーンは AMF の機首部を跨(また)ぐ様に移動され、機首基部の胴体内部から AI ユニット:Ruby を引き出すのだ。
 Ruby を吊り下げた状態で門形クレーンは再(ふたた)び移動されて ADF の上へと向かい、今度は ADF へ向かって Ruby が降ろされて行くのだ。ADF へ対する Ruby の設置作業は、位置確認と微調整を繰り返し乍(なが)ら、少しずつ進められたのである。
 Ruby の ADF への搭載作業が終わると、再度、門形クレーンは ADF の前方に仮置きされた Pearl の上へと移動されて此(これ)を吊り上げると、今度は AMF へと移動して、Ruby の時と同様にゆっくりと、Pearl が AMF へと降ろされるのだ。
 これら一連の作業には合計で四時間程が費やされ、兵器開発部のメンバー達が授業を終えて第三格納庫にやって来た時点では、Pearl が AMF に搭載される最終局面だったのだ。
 各機へ AI ユニットが設置されたら、それで此(こ)の日の作業は終わり、ではない。機体へのメカ的な固定と、電気的な接続を行わなければならないので、兵器開発部のメンバー達は其(そ)れらの作業を支援したのだ。但し、緒美と茜の二人に就いては、前日迄(まで)と同様に引き続き仕様書と取扱説明書の読み込みを継続していたのである。

 五日目、2072年12月2日、金曜日。
 この日は朝から、前日に終えていた AMF と ADF の AI ユニットとの物理的な接続を再確認し、双方の疑似人格以外の基底処理(カーネル)部のみを立ち上げて、配線の結合確認を兼ねた信号の送受信テスト、環境設定と其(そ)の確認、機体制御プログラム各モジュールの作動シミュレーションなどの準備作業が、疑似人格を起動する前に実施された。これらの作業を二機同時に並行して実施するのは、作業的に膨大な手間が発生する事が予想されたので、その作業を大幅に自動化する目的で、別途持ち込まれた AI ユニットである Emerald が活用されたのだ。
 Emerald が第三格納庫に設置された本来の目的は、後日に予定されている ADF に HDG-A01 を接続して実施する戦闘シミュレーション演算の実行である。以前、LMF や AMF で実施した同種のシミュレーションでは、そのソフトウェアを Ruby が実行していたのだが、ADF で予定されている戦闘シミュレーションに関しては其(そ)の内容の複雑さから、別途、シミュレーションを制御・演算するマシンが必要とされたのだ。そんな目的の為に疑似人格を持った AI ユニットが必要なのか?と問われれば、その答えは『否』である。だが、Emerald も亦(また)、姉妹機である Sapphire や Pearl と同じ目的の為に製作された器材であり、姉妹機達と同様の経験や教育を受けさせる目的も有って、Emerald は第三格納庫に設置されたのである。
 ともあれ、Emerald の働きも有って、Ruby と Pearl の接続確認や環境設定は順調に進行したのだった。この日の昼過ぎには、Ruby と Pearl のメカ的・電気ハード的な再調整が不要である事が見極められ、出張組メカ担当達の手に依って簡易門形クレーンの解体作業が開始される。
 その一方で安藤達は、Ruby と Pearl 疑似人格を含む全システムの再起動を実行するのだ。そして Ruby と Pearl は、それぞれが一時間程度の自己診断を経て、再起動を果たしたのである。
 それら二基の AI ユニットが再起動しても、この日の作業は終わりではない。先(ま)ずは再起動後のシステムチェックや、入出力の確認、再起動前の記憶維持の確認など、諸諸(もろもろ)の検査を二基それぞれに実施するのである。その検査作業が終わると、Ruby には Pearl からバックアップした ADF 制御に関する数々のライブラリ・データ移植を、Pearl には Ruby からバックアップされた AMF のライブラリ・データ移植を、それぞれにファイルの格納先である Emerald から転送、展開していくのだ。そして最終的には双方の機体を起動させて、AI ユニットからの制御・動作確認までを実施したのだった。それら一連の作業は、食事や休憩を挟(はさ)みつつも深夜までに及んだのだ。
 その再起動に関する一連の作業には、放課後以降は兵器開発部のソフト担当三名も、見学の名目で作業を手伝ったのである。彼女達は本社からの出張組も含めて、夕食の時間になっても女子寮へは戻らずに作業を続行した為、立花先生の手配で格納庫フロアにて夕食を取る事になったのだった。因(ちな)みに、立花先生は第三格納庫の学校側監督者として、作業の最後まで現場での立ち会いを余儀無くされたのであるが、翌日、土曜日の午前中も授業の有る生徒達三名、つまり樹里、維月、クラウディアに就いては、午後九時には女子寮へと帰されたのであった。

 六日目、2072年12月3日、土曜日。
 この日の午前中には、解体された簡易門形クレーンの部材と、その他の残材や不要になった梱包材などををトランスポーターへと積み込み、出張組のメカ担当は二台のトランスポーターで試作工場へと向けて出発したのだ。この事に因り、天神ヶ﨑高校に残った試作部のスタッフは何時(いつ)もの四名、畑中、大塚、倉森、新田、である。
 先日から深夜まで作業をしていた本社開発部のソフト部隊三名、日比野、安藤、風間は、宿泊先である学校の女子寮で此(こ)の日は午前中半休の扱いとされ、作業開始は午後からの予定となったのだ。
 兵器開発部のメンバー達は前述の通り、土曜日の午前中には授業が有るので、彼女達の部活は午後からである。
 前日に安藤達に付き合って、深夜まで現場立ち会いをしていた立花先生も、この日は午前中はお休みの扱いとなり、その間の学校側現場監督には立花先生の代役として、前園先生や天野理事長が顔を揃(そろ)えたのだった。そうなると当然、本社から現場の監督にやって来ている実松課長を含めて老人会…いや、懇談会が自然発生する事になり、第三格納庫の其(そ)の一角は畑中達には近付き難(がた)いエリアとなったのである。そして午前十一時を回った頃には、更に塚元校長と重徳(シゲノリ)先生もが加わって、期せずして発生した懇談会は大いに賑わったのだ。
 その懇親会の開催場所は、昼休憩を挟(はさ)んで校内の別の場所へと移されたのだが、それは勿論、午後からは立花先生が第三格納庫へと出て来るからである。
 午後から『出勤』して来た立花先生が、畑中等から午前中の格納庫フロアの様子を報告されて、苦笑いしつつ「午前中が休みで良かった。」と内心で胸を撫(な)で下ろす心境だったのは、言う迄(まで)もないだろう。
 この様に描写すると、立花先生や畑中達が、本社や学校の上層部を嫌っているかの様に受け止められるかも知れないが、これは然(そ)う言う意味ではない事を、念の為に記しておこう。
 天野理事長(会長)や塚元校長達を前にして、立花先生や畑中達が緊張感を覚えるのは、単純に『偉い人』に対して「失礼の無いようにしたい」と言う意識が働くからで、その意識の源泉は飽く迄(まで)『敬意』なのである。けして、『恐れ』とか『評価や査定を気にして』の様な、負の感情や打算的な動機からではない。実際、彼等が立場を笠に着て理不尽な振る舞いをすることは皆無で、立場とは関係無く誰とでも気さくに接する人達なのだ。勿論、職務上の必要が有れば、その立場から厳しい発言をする場合は、当然、有るのだが。

 さて、昼食を終えて第三格納庫へとやって来た兵器開発部のメンバー達であるが、この日からは緒美と茜も格納庫フロアへと降りての活動である。茜はインナー・スーツを着用しており、本社側の確認が終わった ADF に、早速、HDG を接続して動作確認を行うのだ。但し、実際のフライトは翌日の予定で、その前に地上での確認作業を実施するのである。
 茜は手慣れた様子で HDG-A01 に自身を接続すると、瑠菜の操作に因ってメンテナンス・リグから解放されるのだった。HDG-A01 のメンテナンス・リグは格納庫フロアの東側に東向きに置かれており、その背後に AMF が、更に其(そ)の西側に ADF が、それぞれ駐機されている。床面に降りた茜は、歩行して AMF の前を通過し、ADF の前へと向かう。ADF の機首は南向きに向けられており、ADF の機首構造が解放された其(そ)の先端には、HDG との接続ユニットが突き出しているのだ。
 ADF との接続の要領は、AMF と変わらない。HDG の接続ボルトの高さに降ろされた接続ユニットへ向かって、茜は後ろ向きに、周囲の誘導に従って一歩ずつ進んで行き、HDG の腰部から後方へ突き出たフレーム先端の接続ボルトを接続ユニットへと差し込む。すると、ADF 側は接続ユニットをロックして、HDG を規定の高さへとリフト・アップするのだ。

「接続完了。システムのデータ・リンクを開始します。ADF へようこそ、茜。」

 Ruby の声が聞こえて来る。

「はい、宜しくね、Ruby。新しい機体は如何(いかが)?」

「ハイ、仕様(スペック)は把握していますが、実際に動かしてみないと感想はお伝え出来ません。」

「そう? Pearl が稼働させたデータは記録されているんでしょ?」

「ハイ、ライブラリにデータは格納されていますが、それはわたしの経験や記憶ではありません。ですから、わたしの感想は、まだ無いのです。」

「成る程、それじゃ明日が楽しみね。」

「ハイ、茜。 Angela とのデータ・リンクを確立。スラスター・ユニットを回収、格納します。ADF の制御パラメータを、Angela へ転送します。」

 『Angela』とは、茜が装備しているA号機の制御用 AI の愛称である。茜達がA号機の制御用 AI、若しくはA号機自体を『Angela』と呼ぶのに Ruby も倣(なら)っているのだ。
 そして ADF 側から受け渡しアームが出て来て、HDG 背部のスラスター・ユニットに接続すると、スラスター・ユニット側の HDG への接続が解除され、スラスター・ユニットは ADF 側に格納される。これも LMF や AMF と同様の仕様である。
 スラスター・ユニットの移動と同時に茜の前面、HDG のキャノピー内部には、ADF の機体状況を知らせる表示が次々と映し出される。

「オーケー、Ruby。 ADF のステータスを確認。 部長、樹里さん、此方(こちら)の準備は完了です。HDG、ADF 共にシステムに異常無し。AngelaRuby も、御機嫌ですよ。」

「ハイ、わたしは御機嫌です。」

 茜に続いて、Ruby がそんな事を言うので、通信では緒美がクスクスと笑い乍(なが)ら声を返して来るのだ。

「それは良かったわ。 それじゃ早速だけど、明日の飛行試験に向けて、離着陸のシミュレーション、やってみましょうか。」

「Emerald、出番よー。」

 緒美に続いて聞こえて来たのは、樹里の声である。それに、Emerald が応答する。

「ハイ、樹里。ADF のフライト・シミュレーションを実行します。Ruby はシミュレーター・モードを起動して、此方(こちら)にシミュレーション用のリンクを解放してください。」

「ハイ、Emerald。シミュレーター・モードを起動します。シミュレーションのデータ・リンクを確立しました。」

Ruby のシミュレーター・モード起動とデータ・リンクを確認しました。 樹里、シミュレーションの実行条件を選択してください。」

 そう Emerald が促(うなが)して来るので、樹里が条件設定を入力するのだ。

「はいはい、と。飛行場(フィールド)は天神ヶ﨑高校、日時(デート)は今日現在…気象(ウェザー)はデフォルトでいいですよね?部長。」

 樹里はコンソールの隣に立っている、緒美に確認する。緒美は小さく頷(うなず)いて、答えるのである。

「ええ、いいわ。その他の細かい設定も、デフォルトで構わないわね。取り敢えず、天野さんに飛行特性の把握が出来れば。」

「わっかりましたー。」

 樹里は、複数画面に渡る設定条件をチェックして、次々と設定を確定していくのだ。

「はい、設定完了。問題無い?Emerald。」

「ハイ、実行準備が完了しました。シミュレーションの開始指示まで、待機します。」

 Emerald の報告を受けて、緒美は茜と Ruby に確認するのである。

「天野さん、Ruby、それじゃ始めるけど。いいかしら? 取り敢えず、離着陸は Ruby の完全自律制御で。天野さんは、飛行の感覚の確認をしてね。」

「了解です。 Ruby、宜しくね。」

「ハイ、完全自律制御で離着陸を実施します。シミュレーション開始まで待機します。」

 双方の返事を待って、樹里が Emerald に指示を出すのだ。

「それでは、Emerald。シミュレーション、実行。」

「ハイ、実行します。」

 Emerald が応じると、間も無く茜の視界が滑走路の東端から西側に向いた風景に切り替わる。

「はい、視界、来ました。Ruby、始めてちょうだい。」

 表示されているステータスでは、既に四基のエンジンは起動され、スロットルはアイドル・ポジションになっている。勿論、それは仮想 ADF の状態であって、現実の ADF は電気系統以外は起動していない。その ADF の電気系統は現在、地上電源から供給される電力で稼働しているのだ。
 茜が見ている視界と、仮想 ADF の状態は以前の AMF でのシミュレーション時と同じく、緒美達が外部から確認出来るように複数のディスプレイが用意されていて、そこに映し出されているのだった。

「ハイ、離陸を開始します。」

 Ruby が答えると、茜にはエンジンの出力が上昇する効果音が聞こえて来るのだ。エンジンのステータス表示でも、回転数がグングンと上昇している。

「ブレーキ・リリース。」

 仮想 ADF 着陸脚の車輪ブレーキを Ruby が解放すると、茜から見た視界が後方へと流れ始める。シミュレーションであるが故(ゆえ)に実機の様な加速度は感じられないのだが、明らかに AMF の離陸滑走時よりも視界の流れが速かったのだ。離陸に掛かった距離は AMF より三割程度も長かったが、その距離を駆け抜けた時間は ADF の方が短く、その仮想機体は空中へと進んだのである。

「おー、飛んだ飛んだ。」

 背後からの声に驚いて立花先生が振り向くと、そこに居た声の主は実松課長だった。その横には天野理事長や前園先生の姿も有ったのだ。
 立花先生は、声を潜(ひそ)めて実松課長に尋(たず)ねる。

「何時(いつ)から、いらっしゃったんですか?課長。」

「ちょっと前からだよ。」

 そう、何(なん)でもない事の様に、和(にこ)やかに実松課長は答えたのだった。
 続いて、前園先生に立花先生が問い掛ける。

「重徳先生も、ご一緒だったんじゃ?」

「ああ、重徳君なら、試験の準備が有るからって。後期中間試験が近いからね。」

「それ、前園先生は、大丈夫なんですか?」

「ああ、心配無いよ。立花先生こそ、大丈夫なのかい?」

「はい。わたしの講義は、中間では試験自体が無いですから。」

「あー、そうだったか。」

 そこで天野理事長が、前園先生に声を掛けるのだ。

「前園君、ADF が着陸態勢に入ったぞ。」

「おお、もう降りて来ますか。」

 前園先生は状況を映している、ディスプレイを注視する。彼は天野重工に売却される以前から浜崎重工の航空機事業部門で戦闘機の設計に携(たずさ)わっていた人物であるだけに、現在でも航空機への興味は尽きてはいない。当然、この実験機にも興味津々なのである。
 そして立花先生も、ディスプレイへと視線を戻したのだった。

 

- to be continued …-

 

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