WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第19話.09)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-09 ****


「高度 8200…8300…8400…。」

 ADF は運動エネルギーを位置エネルギーへ変換する可(べ)く上昇して行き、Ruby は高度の値を読み上げ続ける。しかし現状でエンジン出力が落ちていない為、機体の速度はジリジリとしか落ちていかないのだ。

「…9500…9600…9700…9800…9900…間も無く、高度一万メートルに到達します。」

 茜は機体のステータス表示を注視して、機速のマッハ数の確認を続けていた。

「現在速度、マッハ 1.4…Ruby、右へロール 160°、更に機首上げ 5°。」

「ハイ、右(ライト)ロール 160°へ。機首上げ 5°。」

 Ruby は茜の指示通り、ほぼ背面飛行の姿勢になり、更に機首を上げる操作を追加するのだ。普通の速度域ならば、背面飛行からの降下へと移る機動操作なのだが、現在の速度では然(そ)うはならず、機体は降下せず水平に滑って行くのだ。但し、160°ロールだと完全な背面ではなく右側に 20°の傾きを残しているので、これに機首上げの操作が加わって機体は僅(わず)かずつ右へと旋回を始めるのだ。そうして不自然な姿勢で水平面での飛行を続けている事で、機体に掛かる抵抗は確実に増大したのだった。

「マッハ 1.38…1.37…よし、減速してる。Ruby、機首上げ、プラス 5°。」

「ハイ、機首上げ、プラス 5°。」

 ADF に更に機首上げの操作を追加すると、更に抵抗が増大するのだ。
 これらの操作は、先日まで読み込んでいたマニュアルの記載に従って、茜は規定された手順を忠実に実行しているのである。

「マッハ 1.34…1.32…1.28…1.23…。」

 マッハ数の変化が、明らかに低下のペースを早める。
 そして間も無く、四基のエンジン回転数が低下を始めたのだ。空気の流入条件がインテークでの制御可能な範囲に戻ったのである。各エンジンは、スロットルで指示されているアイドル状態へと向かって、稼働状態を収束させていく。
 エンジンの推力が低下していくと、機体が描く旋回の度合いが少しずつ深くなっていき、同時に高度の低下が始まるのだ。

Ruby 、ロールを 90°に。水平面での旋回で更に減速するわ。」

「ハイ、ロール角を 90°へ。」

 機体の横転(ロール)角は、搭乗しているパイロット視点で時計回りに角度で示される。つまり、ロール角 90°とは右翼を下にした姿勢で、左側に 90°横転(ロール)した姿勢はロール角だと 270°なのだ。ここで注意しなければならないのは、ロール角 90°と指示された場合、右へ(時計回りに)90°なのか、左へ(反時計回りに)270°かの、どちらなのか?と言う所である。結果的には何方(どちら)でもロール角 90°に達するのだが、勿論、意味が違うのだ。
 茜が先刻「右へロール 160°」と指示したのは、その為の区別をする意味で、又、Ruby は『右ロール』との指定に因って、『ロール角』との指定とは判断を変えているのだ。これに加え、思考制御から入力される茜の動作イメージを、Ruby は判断の補助としているのである。
 そんな訳(わけ)で、ADF はロール角 160°の状態から、左へ 70°横転(ロール)して、ロール角 90°の姿勢となったのだ。ここで茜は横転(ロール)する方向を口頭の指示に含めていないが、右へ 290°横転(ロール)するよりは左方向の側が動作量が少ないとの Ruby の判断と、茜の動作イメージが Ruby の判断と同じく近回りの左回転であった事が、Ruby の判断決定の理由である。
 さて、ここで茜が姿勢変更を指示した、そもそもの理由であるが。それは、背面状態からの急降下へと移らないようにする為である。急降下すると当然、位置エネルギーが運動エネルギーに変換されてしまうので、折角、減速したのが台無しになってしまうのだ。茜は水平面での旋回で運動エネルギーを消費しつつ、少しずつ降下して行く事を考えたのである。

 そうして超音速飛行から減速した ADF は、旋回し乍(なが)ら元の高度へと降下して行ったのだ。加速する必要は無いので、スロットルは基本的にアイドル・ポジションの儘(まま)で旋回降下し乍(なが)ら、逸脱した位置から予定のコースへと復帰し、ブリジットのB号機と合流したのである。

「HDG01 より、テスト・ベース。HDG02 と合流しました。テストを再開します。」

 茜の其(そ)の報告に、緒美が指示を出す。

「HDG01、さっきの減速機動で、空中機動の確認は不要になったと思うから、次のメニューへ行きましょう。燃料は大丈夫?」

Ruby、燃料の使用量は?」

 茜が出す確認要請に、Ruby は即答する。

「現状で予定を 20%程度超過していますが、残量で予定通りの飛行は可能です。」

 Ruby の返事に対して、緒美が予定変更の趣旨を説明するのだ。

「いいのよ、Ruby。ADF の仕様は、空中戦を目的としてないんだから。AMF みたいな機動性は、重視してないからね。」

 その説明に対して、茜が緒美に確認する。

「では、次は兵装の空中展開確認、ですね?」

「そうね、HDG01。今日は、そっちの方が重要だから。」

「了解です。Ruby、空中展開モードへ、スピード 4 迄(まで)、減速。」

「ハイ、空中展開モードへ、外装を展開して減速します、スロットルをアイドル・ポジションへ、ピッチ角をプラス 3°に設定。」

 ADF はエンジンの出力を絞って、減速の為に少し機首を上げる。そうする事で機体への空気抵抗が増加して、速度が落ちるのだ。ADF の横を飛行してたブリジットのB号機は、一度 ADF の前方へと遠ざかって行くが、速度を合わせて ADF の横へと戻って来る為に、左へと旋回を始めるのだ。
 或る程度、速度が低下すると ADF の胴体外装が四つに分かれ、少しずつ開いていく。これらの外装が完全に展開されると、正面から見てX型に見えるのだが、外装の展開は減速の度合いに応じて少しずつ開いていくのである。そして、ディフェンス・フィールド・ジェネレーターを兼ねる外装部が開く角度を増していく毎(ごと)に、それが発生させる空気抵抗は増大し、機体から速度を奪っていくのだ。
 最終的に、ADF は茜が指定した分速 4 キロメートル、凡(およ)そ時速 250 キロメートル迄(まで)、減速した。
 ADF は抵抗を増やして減速する過程で、飛行は継続出来るようにスロットルを調整し、一旦(いったん)アイドル・レベルまで落とした推力を 30%程度に迄(まで)、段階的に上げていったのである。これらの調整は全て、Ruby が自律的に実行しているのだ。

「ディフェンス・フィールド・ジェネレーターの展開を完了、現在速度 4 です。」

 Ruby の報告を聞き、茜はブリジットに呼び掛ける。

「了解、Ruby。HDG01 より HDG02、其方(そちら)の準備はいい?」

 茜は左側方へ視線を移し、ブリジットのB号機を視認するのだ。視認、と言っても直接に見られる訳(わけ)ではない。閉鎖された ADF の機首内部から見える外界は、ADF の複合センサーが撮影した画像を Ruby が処理や合成を行い、スクリーンへ投射された映像なのだ。この辺りの仕組みは、AMF と同様なのである。

「此方(こちら) HDG02、何時(いつ)でもどうぞ。」

「了解。それじゃ Ruby、長射程砲撃モードへ。レーザー砲展開。」

「ハイ、レーザー砲を展開します。」

 ADF 胴体の外装が開かれた部分に格納されていた砲身の長いレーザー砲が格納位置から外部へ向けて一段飛び出すと、その基部が左右へとスイングして外側へと広がる。展開されたレーザー砲は四門で、主翼を上下に挟(はさ)む様に、左右に二門ずつが装備されているのだ。

「レーザー砲、展開完了。HDG02 、外観で異常が無いか、確認をお願い。」

「了解、HDG01。その儘(まま)、真っ直ぐ飛んでてね。」

 ブリジットは自身の飛行経路を ADF の方へと寄せて行き、機体を傾けると ADF を中心とするバレル・ロールを実施して、ADF の外周をゆっくりと一回転したのだ。B号機の複合センサーはブリジットの視線を追って ADF の機体表面を写しており、その映像は第三格納庫でモニターする緒美達にも観る事が出来るのである。

「HDG02 です、特に異常は見られませんが、テスト・ベース、其方(そちら)からは何か?」

 緒美の返事が聞こえる。

「テスト・ベースです。此方(こちら)でも、異常は無しと判断します。 HDG01、砲身の角度調整は出来る?」

「それじゃ、一番から行きます。HDG02、監視、宜しく。」

「HDG02、了解。どうぞ。」

Ruby、一番砲身の角度を最大可動範囲で、上下、左右の順で動かしてみて。」

「ハイ、一番砲、作動します。」

 ADF の上部左側のレーザー砲が、上へ 10°次に下へ 10°、続いて左へ 10°そして右に 10°、順番に動作して中央位置に復帰する。

「此方(こちら) HDG02、砲身の動作を確認。テスト・ベース、見えてました?」

「はーい、テスト・ベースです。見えてるよー。」

 先に答えたのは、樹里だった。続いて、緒美が問い掛けて来るのだ。

「HDG01、変な振動とか、無かった?」

「HDG01 です。特に、振動とか、異常はありませんでした。続いて、二番砲、動かします。」

「あ、ちょっと待って。右側へ移動するから。」

 慌てて声を掛けて来たブリジットは、機体を ADF の上方を通過させて右翼側へと移動させるのだ。

「HDG01、お待たせ、どうぞ。」

「了解、それじゃ Ruby、二番砲をさっきの一番砲と同じ様に動かしてみて。」

「はい、二番砲、作動します。」

 今度は ADF 上部右側のレーザー砲が、先程の左側と同様に動作するのだ。
 この確認作業を、三番、四番と繰り返していくのである。因(ちな)みに、三番砲は ADF 下部右側で、四番砲が下部左側である。砲の番号はドライバーが進行方向に向いて、上部左側から機体中心を時計回りに振られているのである。
 さて、実の所、ADF に四基ものエンジンが搭載されているのは、このレーザー砲が消費する膨大な電力を賄(まかな)う為なのである。先刻の様な超音速飛行を実施するのは、本来の目的ではない。ADF の設計概念(コンセプト)とは『飛行する砲台』なのだ。
 なので、運用上の想定では高速で飛行する必要はなく、成る可(べ)く低速でエイリアン・ドローン群とは距離を取って、レーザー砲で狙撃を続けるのが理想的なのだ。だが発電用にエンジンを多発化、若しくは大型化すると、その推力で飛行速度が必要以上に上がってしまう。そこで、敢えて大きな空気抵抗を生み出すように、外装を広げて推力に対して抗力を高め、速度の上昇を抑えるのである。勿論、戦域から退避する際の逃げ足には高速飛行能力が役に立つので、一応、その性能の確認が実施されたのだ。

「それじゃ、レーザー砲一番から四番、格納します。 Ruby、お願い。」

「ハイ、レーザー砲を格納します。」

 展開されていた四基のレーザー砲は、元の状態へと格納される。その格納状態も、ブリジットのB号機が ADF の周囲を一回りして、異常が無い事が確認されたのだ。

「続いて、近距離戦闘モードを確認します。 Ruby、機首ブロック解放。」

「ハイ、機首ブロックを解放します。」

 Ruby が返事をすると、茜の眼前で ADF の機首ブロックが開かれていく。ADF と並んで左側を飛行しているブリジットは、露出された茜の HDG-A01 に向かって右手を振って見せるのだった。茜も、ブリジットに応えて左手を上げて見せる。

Ruby、続いてロボット・アームを展開。」

「ハイ、ロボット・アームを展開します。」

 ADF の主翼付け根の上下に配されたカバーが開き、胴体に沿って後方へと格納されているロボット・アームが、前方へ向かって起き上がる様に展開されるのだ。
 ロボット・アーム自体は AMF に装備されている物と、設計は、ほぼ同じ物で、四本と言うより、胴体の上下に二対と言う形式も AMF と同様である。これは ADF に搭載する物を、AMF で先行して実験した、と言うのが実情である。更に、その基礎技術は LMF で確認されていたのだ。
 ADF のロボット・アームも AMF の物と同じ仕様で、先端部にはビーム・エッジ・ブレードと荷電粒子ビーム砲が、それぞれの腕に内蔵されているのだ。これらの武装は、レーザー砲で撃ち漏らした目標が、ADF へ接近して来た際に撃退する為の装備である。加えて、ADF の先端に接続されている HDG-A01 も両手に CPBL(荷電粒子ビームランチャー)を装備可能なので、近距離戦では同時に六つの目標に対処が可能なのだ。

「ロボット・アーム、展開完了。」

 Ruby の報告を受けて、茜は連動モードを選択して、上側のロボット・アームを動作させてみる。このモードでは、ドライバー自身の腕と連動させて、選択したロボット・アームを動かせるのだ。
 茜が胸の前で曲げた右腕の肘を上下させたり、腕を前後に曲げ伸ばしするなど数回動かすと、連動して上部右側のロボット・アームが茜の腕の動きをトレースするのだ。一方で下側のロボット・アームは、上側の動作で発生するモーメントを打ち消す方向に自動的に作動するのだが、これは完全に逆転した動作をする訳(わけ)ではない。それは ADF 全体への気流の影響が、或る程度のモーメントを吸収して呉れるからだ。

「HDG01 より、テスト・ベース。ロボット・アームの動作は、AMF での検証やデータ収集が活きてますね。」

「動かしてみて、振動とか、バランスの悪化とかは無い?」

「はい。外装を展開してあるのも、安定化に寄与してるのかも知れません。AMF よりも、安心して動かせる感じがしますね。」

「良かったわ。それじゃ、取り敢えず空中での機能確認は終了と言う事で、全機合流して帰投してちょうだい。」

 そこで緒美の指示に対して、クラウディアが声を掛けて来るr。

「HDG03です。 予定通りですけど、何だか、あっけないですね。」

 それには、樹里が声を返すのである。

「あはは、気持ちは分かるけど、今日の所は、帰って来てからの機体点検の方が大事だからね。」

「それは、解ってますけど。」

 今度は、緒美が言うのだ。

「何(なん)でもいいけど、着陸する迄(まで)は気を抜かないでね、皆(みんな)。」

 そうして、各機は合流し、学校への帰途に就いたのだった。
 勿論、帰投した後に ADF は、データの吸い出しや、機体の点検、確認が入念に実施されたのである。超音速飛行や、飛行中の外装展開など、負荷の大きな動作を行ったので、各部機構に捻(ねじ)れや歪み等の影響が出ていないかを確認する必要があるのだ。一方で、安藤達は Ruby と ADF とのマッチングや、ADF 制御モジュールの動作が適正だったかを評価する為の情報収集が、今回の重要な業務内容だったのである。
 こうして、この日の活動も無事に終わっていったのだった。

 

- to be continued …-

 

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