WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第19話.01)

第19話・Ruby(ルビィ)と天野 茜(アマノ アカネ)

**** 19-01 ****


 エイリアン・ドローン『ペンタゴン』捜索、狙撃に関する実証試験が実施された土曜日から、日曜日を挟(はさ)んでの翌週、月曜日。2072年11月28日の天神ヶ﨑高校へは、朝には三台の大型トランスポーターが到着し、お昼前に掛けては大型の輸送ヘリが四機、相次いで到着しては、積み荷を降ろして飛び去って行ったのである。
 そんな様子で、兵器開発部が所在する第三格納庫周辺は、大変な賑(にぎ)わいを見せていたのだ。その中心で、大勢(おおぜい)の作業人員を仕切っていたのは、例によって試作工場から出張している畑中である。
 今回の作業は、二日後の水曜日、30日に搬入予定の HDG 用の航空拡張装備B案こと、通称で『空中撃破装備』と少々物騒な呼称が付けられた試作装備に関連するものなのだ。試作装備の搬入自体は、これ迄(まで)にも何度も実施されて来たのだが、今回が普段と一風(いっぷう)違う状況となっているのは、AI ユニットである Ruby を AMF から『空中撃破装備』へと換装する作業が予定されているからだった。
 『空中撃破装備』には AI ユニット・Pearl(パール) が搭載されて、試作工場にて起動試験から、無人での単独飛行試験が既に終了しているのだが、HDG との接続確認から能力評価の実施に当たっては、搭載 AI を Ruby に置き換える計画となっているのである。それは Ruby に『空中撃破装備』の制御を経験させる必要が有るからで、その理由は、以前、緒美が予想した通りなのだ。つまり、天野重工の本社サイドとしては、この三年間推進して来た HDG 開発計画の本番が、いよいよ訪(おとず)れたと言えるのだった。勿論、現場で作業している人員で、その事を意識している者(もの)は一人として居ない。
 現場を訪(おとず)れる可能性が有って、更に其(そ)れらの事情を把握している関係者と言えば、天野理事長と飯田部長の二人に限られているのだ。
 だから、事前に『緒美の予測』を聞かされてしまった立花先生は、少々複雑な内心で、それら作業を眺(なが)める事になったのである。当然、授業など学校側の業務都合も有って、四六時中、第三格納庫に詰めている訳(わけ)ではないから、それは立花先生に取って救いなのだった。

 さて、作業の流れに関して、大枠を説明しておこう。
 初日、月曜日の作業は、搬入した資材や工具の開梱と検品、そして簡易門形クレーンの組み立てである。このクレーンの組み立てには、二日間の作業を予定している。
 実際、AI ユニット・Ruby はドラム缶サイズの重量物である。これを、安全に AMF から上方へと抜き出し、次いで『空中撃破装備』へと挿入しなければならない。その前に『空中撃破装備』にセットされている AI ユニット・Pearl も抜き出しておかねばならないのだ。因(ちな)みに、『空中撃破装備』から取り出された Pearl は、Ruby を取り外された AMF へ再装備される予定である。
 生憎(あいにく)と第三格納庫には、試作工場の様に天井クレーンが設置されている訳(わけ)ではなく、従って現地で組立可能な簡易型の門形クレーンが必要になるのだ。
 この為に、Ruby の換装作業は AMF を試作工場へ戻して其方(そちら)で実施する案も検討されたのだが、その場合、天神ヶ﨑高校と試作工場の間で AMF を移動させるのに茜を搭乗させると、その都合で授業を休む必要が発生し、それに就いては校長からの許可が得られなかったのだった。
 茜に AMF の輸送を担当させる場合、先(ま)ず、天神ヶ﨑高校から試作工場へ AMF を移動させて、茜は一度別便で学校へと戻る。然(しか)る後(のち)、試作工場での換装が完了したら『空中撃破装備』と AMF を天神ヶ﨑高校へ移動させる為、茜は二往復する事が必要となるのだ。つまり、茜は最低でも二日、授業を休まねばならないので、これは学校側としては了承出来ないのだった。仮に AMF と『空中撃破装備』の搬送日を別日に設定した場合、茜は更にもう一日、授業を欠席する事になるのである。
 そして、茜に輸送を担当させる案には別の問題も発生する。それは AMF にしろ『空中撃破装備』にしろ、有人で飛行する場合には HDG を接続するのが前提である点だ。天神ヶ﨑高校から AMF を移動させる場合は、茜が装着した HDG を AMF に接続して飛行すればいい。これは、単純な話である。問題は、試作工場側で AMF に接続した HDG をどうするか?なのだ。
 AMF の改造の為には HDG は接続を解除したい所だが、その為にはメンテナンス・リグを試作工場側にも用意しなければならないのだ。試作工場で HDG を保管出来ないとした場合、茜は HDG で学校へと帰還しなければならないのだが、HDG-A01 のスラスター・ユニットで山梨県の試作工場から中国地方の天神ヶ﨑高校へと単独飛行で帰還するのは、実際、困難なのである。例えば日本海側を迂回するコース設定での飛行距離は大凡(おおよそ)六百キロメートルに及び、その距離をスラスター・ユニットで可能な巡航速度で翔破するには、三時間以上が必要となるのだ。二時間を超える長時間飛行は能力的に不可能ではないにしても、リスクも大きいのである。
 そこで HDG を試作工場に残して、先述の通り会社が手配した別便で茜が学校へ戻るとしても、次の問題は、AMF と『空中撃破装備』を学校へと移動させる際に発生する。例えば AMF を先に学校へと移動させるとして、茜は会社手配の便で試作工場へ移動し、そこで HDG を装着して AMF と接続、試作工場から天神ヶ﨑高校へと飛行する、ここ迄(まで)は HDG を試作工場で保管する何らかの方策が取られると仮定すれば問題は無い。しかし、AMF と共に天神ヶ﨑高校へ到着した茜の HDG を、今度は試作工場へと移動させないと、試作工場に有る『空中撃破装備』にドッキングが出来ないのだ。これは、AMF と『空中撃破装備』の何方(どちら)を先に学校へ移動させても同じ事で、試作工場に残された機体を移動させる為に、一度は HDG を何らかの方法で試作工場へと輸送しなければならない。前述の通り、試作工場から学校への HDG の単独飛行が困難ならば、逆方向、学校から試作工場への単独飛行も困難なのは道理である。
 ここで『空中撃破装備』が有るなら、AMF の方はもう、不要なのではないか?と思われるかも知れないが、能力評価の比較対象として AMF は、まだまだ必要なのだ。
 茜が HDG で二往復するのが、前述の通り困難であるなら、Ruby 移設後の移動に就いて何方(どちら)か一方は、AI 制御に因る無人飛行は出来ないのだろうか? 実際、AMF が最初に試作工場から天神ヶ﨑高校へと移動して来た時には、そうだったのである。つまり、不可能ではない。
 ならば、いっその事、天神ヶ﨑高校と試作工場間の移動は全て無人飛行にしてしまえば、茜に対する要求は不要になる。
 だが、無人飛行には一つの制約が有って、それは非常時に外部からの優先制御(オーバーライド)が出来るようにしなければならい事だ。天野重工にはその為の簡易操縦装置が一式しか無く、同時に二機を無人飛行させる事は出来ないのだった。勿論それは、AI ユニット換装後の AMF と『空中撃破装備』を順番にフライトさせれば済む話で、日程の調整次第で不可能なプランではない。
 以上の様に移動の段取りを考えて行くと、最終的には、天神ヶ﨑高校側で換装作業を行った方が、無駄が少ないのである。必要な資材と機材を、陸路と空輸で送ってしまえば、本体の移動は『空中撃破装備』を一回、AI 制御で無人飛行させるだけでいいのだ。しかもその段階で『空中撃破装備』の搭載 AI は、組立と起動試験、無人での単独飛行試験が終了済みの状態である。AI 換装後の場合は、もう一度、機能確認をしなければならず、それをせずに行き成り長距離の単独飛行に投入するのは聊(いささ)か心許(こころもと)無い、と言うより、それは安全管理上やってはならない。
 少々、説明が脇道へ逸(そ)れたが、天神ヶ﨑高校の第三格納庫で AI ユニットの換装作業を行う事になったのは、以上の様な理由からである。
 さて、作業説明に戻ろう。
 月曜、火曜日に簡易門形クレーンを組み立てる等、準備をしている間、火曜日には本社開発部から安藤、風間、日比野の三名が到着し、AMF 搭載の Ruby を停止させる作業が行われる。停止作業の前には、当然、ログの書き出しや機能チェック、緊急時に必要なライブラリ・データのバックアップ作業等も実施されるのだ。
 翌水曜日には、停止した Ruby から安藤達の手に依って AMF との接続を取り外し、同日、試作工場からは『空中撃破装備』が AI 制御に因る無人飛行で到着する予定なのだ。
 『空中撃破装備』が到着したら、Ruby と同様にバックアップ等の作業の後、AI ユニット・Pearl の停止作業である。
  木曜日には Pearl から接続の全を取り外し、先に『空中撃破装備』から Pearl の引き抜き作業を実施、Pearl は一旦(いったん)、保管される。続いて、AMF から Ruby が引き抜かれ、門形クレーンを移動させて、Ruby を『空中撃破装備』へと移動、設置する。Ruby への『空中撃破装備』を接続する作業を進め乍(なが)ら、保管してあった Pearl を門形クレーンでピックアップし、今度は Pearl を AMF へと設置するのだ。此方(こちら)もメカ的な固定作業を終えたら、配線等の接続を行い、ハードウェアのチェックを実施する所までが木曜日の作業予定だ。
 そして金曜日には、Ruby と Pearl、双方を再起動させ、それぞれに必要なプログラムやデータの転送を行い、ソフトウェアの機能チェックを行う。この作業に開発部の三名には、丸一日が当てられていて、一方で試作工場から来ている人員は撤収作業を開始し、門形クレーンの解体も始められる。
 土曜日には、AMF と『空中撃破装備』と、それぞれの搭載 AI とのインターフェースを確認し、午後には HDG-A01 との接続確認を実施。
 そして日曜日には、『空中撃破装備』に HDG-A01 を接続しての飛行試験までが予定されているのである。

 第三格納庫は前述の様な状況になるので、兵器開発部の活動としては殆(ほとん)ど『開店休業』状態となる予定なのだが、メンバー達が暇になるかと言えば、そうはならないのだった。
 先(ま)ず、緒美と茜がやらなければならないのは、実際にフライトを行う日曜日に向けて『空中撃破装備』の設計・製作仕様書と暫定版取扱説明書の読み込みである。メカ担当の他の部員、直美、恵、瑠菜、佳奈、ブリジット、そして応援の村上と九堂は、現場で出来る作業の手伝いを実行するし、ソフト担当の樹里、クラウディア、維月の三名は当然、開発から来ている三名の作業応援を実施するのと同時に情報収集に努(つと)めるのである。

 そして、月曜日の放課後である。
 茜とブリジットが部室に到着した時点では、既に他のメンバーは揃(そろ)っていたのだった。
 部室に入った茜は、中央の長机上に置かれた複数の分厚いファイルに目を留める。そんな茜に、真っ先に声を掛けたのは、緒美である。

「それじゃ天野さん、早速、仕様書から目を通して行きましょうか。」

 そう言って緒美は、三冊のファイルを前へと押し出す。その一冊が仕様書で、残り二冊が暫定版の取扱説明書なのである。

「はい、部長。」

 茜は持っていた鞄を部室の隅に置くと、席に着いて手元へと三冊のファイルを引き寄せる。そして、ページを捲(めく)り始めるのだ。その様子を横目にしつつ、苦笑いでブリジットは言うのだ。

「うわぁ、頑張ってね、茜。」

「うん、大丈夫よ、ブリジット。」

 茜は仕様書の目次から目を離す事無く、一秒に一ページ程度のペースで紙片を捲(めく)っているのだ。因(ちな)みに、目次だけで三十枚程が存在したのである。

「じゃ、ブリジット。わたしらは下へ行こうか。」

 直美が、そう声を掛けて来るので、ブリジットは尋(たず)ねるのだ。

「立花先生は、まだ来てないんですか?」

 その問い掛けには、恵が答える。

「先生なら、ついさっき下へ降りたわよ。 あ、わたしは天野さんに、お茶を淹(い)れてから行くから。」

 恵に言われて、直美は頷(うなず)き、他のメンバーに声を掛ける。

「それじゃ皆(みんな)、行きましょーか。」

 続いて茜が、恵に言うのだが、その時も視線はファイルへ向けた儘(まま)である。

「あ、恵さん、御構(おかま)い無く。」

「あはは、遠慮しないでー。」

 他のメンバーが二階通路へと出る奥側のドアへと向かう中、恵は明るく笑って、お茶の準備を始めるのだった。
 それから暫(しばら)くの間を置いて、顔を上げた茜が緒美に話し掛けるのである。

「矢っ張り、部長の書いた仕様書から、随分と変わってますよね?」

「あら、もう読んじゃったの?天野さん。」

 そう言って緒美は、くすりと笑うのだ。

「まさか、目次(インデックス)に目を通しただけですよ。」

 茜は然(そ)う言って微笑み返すのだった。そのタイミングで、恵が茜の手元へティーカップを置くのだ。

「はい、どうぞ。 目次、見ただけで解るの?天野さん。」

「だって、項目だけでも倍ぐらいに増えてるんですよ? あ、ありがとうございます、お茶。」

「元の仕様書の、項目の分量(ボリューム)を覚えてる事自体が凄いわよね。」

 そんな恵の所感に対して、緒美がコメントを返すのだ。

「まあ、確かに。本社の御意向が、ふんだんに盛り込まれてる様子だけどね。 今更(いまさら)、文句言ってみても始まらないし、取り敢えずは読み進めましょう。」

「はい。あ、いえ、別に文句が有る訳(わけ)じゃないですけれど。」

 緒美に対して釈明する茜に、恵は茜の肩をポンと叩いて「解ってる、解ってる。」と声を掛けるのだった。
 そして恵は部室の奥へと進み、緒美に向かって言うのだ。

「それじゃ、わたしも下の手伝いに行きますから。二人共、頑張ってねー。」

 その恵の声援に、緒美と茜は何方(どちら)も顔は上げずに右手のみを上げて、同時に「はーい。」と声を返したのだった。

 そこから少し時間を戻して、格納庫フロアへと降りて来た立花先生である。
 格納庫の空きスペースには運び込まれた資材が仕分けの為に広げられ、奥の一角では門形クレーンのトラス構造のフレームが組み立てられつつあったのだ。
 門形クレーンのフレームは左右の移動台車の上に、コの字型のフレーム構造を前方へ倒した状態で組み上げられているのだった。これは吊り下げ部の高さを或る程度以上に確保する必要が有るので、単純に下から積み上げて行くと上部フレームを組み上げるのが危険な、結構な高所作業となるからである。
 そこで、倒した状態でフレーム全体を組み上げ、最後に引き起こしてフレーム下部を台車に固定する、と言う手順を踏む事になっているのだ。フレームを引き起こすのには電動式のウインチを使用するのだが、その電動ウインチ自体は、門形フレーム頂部に取り付けられた滑車を介して荷物を吊り上げる、クレーン機構の心臓部となるパーツである。

「あ、ご苦労様、畑中君。」

 立花先生に声を掛けられ、畑中は振り向いて声を返す。

「どうも。立花先生、ご苦労様です。」

「長かった HDG シリーズの試作も、これで、一息ね。」

「あー、そうですねー。この一年間で二年分位、試作工場は稼働してた気がしますねー。」

 そう答える畑中は、苦笑いである。
 立花先生も釣られる様に苦笑いになり、畑中に労(ねぎら)いの言葉を贈るのだ。

「取り敢えず、お疲れ様。 これでやっと、ご結婚の段取りが進められるんじゃない?」

「何ですか、急に。 あ、それに、来週、もう一機、追加のを持って来ますから、まだ終わりじゃないですよ。お忘れじゃないでしょうね? 試作工場(あっち)じゃあ、今は、その確認作業が大詰(おおづ)めなんですから。」

「あー、その件は兵器開発部(こっち)じゃ秘密になってるから、半分忘れてたわ。」

「秘密って、来週になったら納品しますから、嫌でもバレますよ? それとも、納入は延期ですか?」

「いえ、予定通りよ。納入までにバラすかどうかは、こっちでは緒美ちゃん次第だから。」

「どうなってるんです?」

 不思議そうな表情で畑中が問い掛けて来るので、立花先生は再(ふたた)び苦笑いを見せて答えるのだった。

「此方(こちら)も、色々と有るのよ、都合が。」

 そこに二階通路階段の方から、直美の声が聞こえて来るのである。

「センセー。畑中センパーイ。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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