WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第8話.05)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-05 ****


 畑中が二号車のエンジンを始動し、トランスポーターを後退させ始めると、その前方に駐車している一号車では、車輌後部のコンテナ天井部が、中央辺りを回転軸に、角度にして三十度程、起き上がる様に開くのだった。間も無く、一号車のコンテナ内部から HDG 背部スラスター・ユニットのエンジン音が聞こえて来ると、そのコンテナ天井開口部からエンジン排気が吹き上がっているのが、空気の揺らめきに見て取れた。

「では、LMF に搭乗します。」

 トランスポーター二号車が移動して行くのを確認して、ブリジットは LMF の方へ駆け足で向かった。

「はい、よろしく~。」

 緒美は LMF へと向かう、ブリジットの背中に声を掛ける。
 ブリジットはトランスポーター一号車の後部付近に差し掛かった所で、ふと、足を止めた。そこに、HDG を装着した茜が、傾斜路(ランプ)状に展開されたコンテナ後部ドアを歩いて降りて来る。茜とブリジットの二人は、何方(どちら)からともなく右手を肩の高さ程に上げると、互いの掌(てのひら)を軽く打ち合わせ、再びブリジットは LMF の方へと駆け出した。
 その様子を見ていた安藤が感心気(げ)に、隣に立つ樹里に話し掛ける。

「成る程、あの二人は仲が良さそうね。」

「詳しくは知りませんけど、中学の時に、色々有ったみたいですよ。それで、天野さんの方が一方的に慕(した)われているって言うか、そんな感じみたいで。」

「へぇ…天野さん、色々と凄い子らしいって、社内でも噂には聞いてたけど…。」

「噂…って、本社で、ですか?」

 モニターから目を離し、樹里は安藤の方へ向き直って、聞き返した。

「そりゃそうよ。会長のお孫さん、ってだけでも社内じゃ注目度高いのに、HDG のテスト・ドライバーなんかやってるんだから、テストのデータと一緒に嘘かホントか分からない様な逸話も、色々と流れてくるのよね。」

「それはまた…変な噂じゃなきゃいいですけど。」

「それは大丈夫。基本、好意的って言うか、期待値高目(たかめ)の推測に尾鰭(おひれ)が付いた~みたいな?」

「それはそれで、本人的にはプレッシャーって言うか、聞かされたら赤面物でしょうね~。」

「だよね。」

 樹里は安藤と顔を見合わせて、笑った。
 そんな折、二人の目の前を二つの黒い球体が通過し、HDG を装着して歩いてくる茜の眼前、一メートル程の位置で停止し、左右に並んで浮遊している。黒い球体の大きさは、直径がバスケット・ボールの倍程度だろうか。
 一旦、歩みを止めた茜だったが、黒い球体がそれ以上近づいて来ない事を確認すると、その動向を注視しつつ天幕の方へと再び歩き出す。その球体二つは、茜と距離を保って移動していた。

「何です?あれ。」

 その様子を見ていた樹里と緒美は、図らずも声を揃えて安藤に問い掛けたのだった。
 安藤はくすりと笑い、隣の天幕の下、最前列の長机の上に置かれた旅行鞄(スーツケース)状のコントローラーを指さした。
 安藤の肩越しに、示された方向へ樹里が視線を移すと、コントローラーを操作しているのはクラウディアと佳奈の二人である。樹里が見ているのに気が付いた佳奈は、その存在をアピールするかの様に、頭上に挙げた両手を振るのだった。
 樹里は微笑んで、右手を軽く振り返して見せる。

「あれが、さっき言ってた新型の観測装備よ。下側に、カメラとかが入っていて、その上に回転翼(ローター)が入ってるの。燃料電池の水素カートリッジ一本で二時間位(ぐらい)飛べるし、同時に四つ迄(まで)制御可能なのよ。あ、コントローラー一台に付き、観測機は二機だけど。」

 そう安藤に言われて、浮遊する黒い球体を良く見ると、球形の上部から三分の二程は金属製のメッシュになっており、光の具合に因っては、内部で回転する二重反転ローターが見えるのだった。下端部のカメラ収納部はマジックミラー状になっているのか、外からはカメラ自体は見えない。

「記録した画像は、メモリー・カードか何かに?」

 緒美が樹里の傍(そば)迄(まで)歩み寄って来て、安藤に尋ねた。

「あ、飛行体本体にストレージは無いのよ。画像データはリアルタイムでコントローラーへ転送されるから、コントローラー側で、記録のする、しないを選択する訳(わけ)。因(ちな)みに、記録出来るのは可視光画像と赤外線画像、それと熱分布画像(サーモグラフィ)の三つね。画像記録のタイム・コードに対応した GPS の座標データとか、カメラの向きとか、倍率とかの諸元も別に記録されるわ。」

 今度は樹里が問い掛ける。

「操作には、二人必要なんですか?」

「飛行モードは幾つか有って、勿論、リアルタイムで人がリモコン操作も出来るけど。基本は観測対象を指定して、自動で距離と角度を保って自律制御するモードね。だから、飛行自体は一人で二機、制御するのは可能なんだけど、カメラのズームや角度の微調整とか、そっちの方が一人で複数台扱うのは、ちょっと大変かな。」

「今日の試験から、使えるの?安藤さん。」

 緒美の背後から声を掛けて来たのは、立花先生である。

「はい。いつも学校の方(ほう)で試験の様子、動画で記録して貰ってましたけど、今後、B号機とかの試験が始まったら、空中機動とか撮影が難しくなりますから。お役に立つんじゃないかな、と。」

 との、安藤の発言に対して、真っ先にコメントを返したのは、主にビデオ記録担当の恵である。

「あはは~助かります~。」

「今日は、固定の撮影機材も有るのよね?」

 立花先生が隣の天幕下、後列の長机上に並べられた五つのモニターの方を指差して、安藤に確認するのだった。

「それは、勿論。貴重な機会ですから、バッチリ記録させて貰いますよ。」

 そこへ、HDG を装着した茜が天幕の前に到達する一方、トランスポーターのコンテナから降りて来た直美と瑠菜が、天幕の後列へと向かう。それと入れ替わる様にトランスポーター一号車は、二号車と同様に管理棟脇の駐車スポットへ移動する為に後退を始めていた。

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 直美と瑠菜の二人は、天幕の下、最後列の長机上に置かれていたクーラー・ボックスを開け、スポーツ・ドリンクのボトルを取り出していた。そして、その装備の所為(せい)もあって、天幕下に入る事が出来ずにいた茜に向かって、瑠菜はドリンクのボトルを掲げて呼び掛ける。

「天野~水分補給しておく?」

「あ、いえ、今はいいです。」

 その様子を見ていた恵が、安藤に向かって言う。

「天野さん用にパラソルか何か、用意しておけば良かったですね。流石に、この天気で HDG 装備の儘(まま)待機は辛(つら)そう。」

「そうね~気が付かなくて、ごめんなさいね。天野さん。」

「いえ、大丈夫ですよ。インナー・スーツの体温調整機能も効いてますから、見た目ほど暑くないんですよ。それに剣道やってましたから、少々なら暑いのには慣れてますので。真夏の道場で防具とか着けてたら、もっと暑いですから。」

 茜は微笑んで、そう答えた。
 そこへ、隣の天幕から男性作業員が、安藤に声を掛けて来る。

「安藤さーん、機材チェック、全て完了しました。作業員も全員現場から退避を確認。何時(いつ)でも行けま~す。」

 声の方へ目をやると、二十人程の設営スタッフが、隣の天幕の下で汗を拭いたり、ドリンクを飲んだりと、それぞれが一息吐(つ)いていた。その一方で、記録担当のスタッフ達は、機材の前で試験開始を待って、緊張の面持ちと言った様子である。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第8話.04)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-04 ****


 緒美達三人が天野重工の天幕へと到着すると、茜とブリジットがインナー・スーツを着用し終え、立花先生と共に学校のマイクロバスから降りて来た。茜達三人は天野重工の天幕へと真っ直ぐに向かい、近付いて来る三人の姿を認めた緒美が、先に声を掛ける。

「ご苦労様、準備はいい?」

「今の状況は?」

 立花先生が、緒美の傍(そば)まで歩み寄って聞いた。

「LMF の方は Ruby が制御を起動中です。起動次第、自律制御でトランスポーターから降りて貰います。」

「あ、わたしは乗らなくても?」

 少し離れて、緒美と立花先生の遣り取りを聞いていたブリジットが声を上げた。

「ええ、うっかり転倒でもしたら、危ないから。LMF が地面へ降りたら、操作をお願いね。」

「はい、分かりました。」

 ブリジットの返事を聞いて、緒美は制服のポケットから携帯端末を取り出し、直美へとコールを送る。

「あ、鬼塚です。そちらの様子はどう?…分かった、天野さんを向かわせるわ。」

 通話を終えて携帯端末をポケットに仕舞うと、緒美は茜に向かって言った。

「HDG の方も起動準備出来てるそうだから、天野さんは、HDG の装着とスラスター・ユニットの起動迄(まで)やっててちょうだい。直(じき)に、試験場のセッティングも終わると思うから。」

「はい。」

 そう短く返事をすると、茜はブリジットに小さく手を振って、天幕の前に駐められているトランスポーター、一号車の後部へと向かって歩き出した。そうこうする内、一号車の後方に駐車されている二号車の荷台上から、LMF のメイン・エンジンが起動する音が聞こえて来る。
 その音に気が付いたのか、天幕の前を横切って二号車の方へ向かおうとする畑中を、緒美は呼び止めた。

「畑中先輩、LMF の係留は全部外されてますよね?」

「あぁ、大丈夫、終わってるよ。」

「LMF をトランスポーターから降ろしますから、二号車周囲の人払いをお願いします。」

「あいよ、ちょっと確認して来るから、待機させてて。」

 畑中は天幕の側からは見えない、トランスポーターの左側を目視で確認する為に、一号車の先頭方向へと駆けて行った。
 それとは入れ違いに、安藤が天幕の下へと試験場方向から戻って来る。

「緒美ちゃん、現場のターゲットとセンサー設置、ほぼ終わったそうよ。今、データ取得の最終確認やってる。終わったら連絡が来るから。」

「あ、はい。 城ノ内さん、Ruby のモニター回線、繋がったかしら?」

「はい、Ruby の音声をスピーカーに繋げますね。部長は、これを。」

 樹里はデバッグ用コンソールの前に立って状態を確認していたが、コンソールのスピーカーへの切り替え操作をして、緒美にコマンド用ヘッド・セットを渡した。程無く、Ruby の合成音声が聞こえて来た。

「LMF 起動確認。メイン・エンジン、スロットルの現在ポジションはアイドル。自律行動、開始の承認を待ちます。」

「了解。今、あなたの周囲の安全を確認中だから、その儘(まま)、待機してて。」

 ヘッド・セットのマイクに向かって、緒美が Ruby に語り掛ける。

「ハイ。待機します。」

 Ruby から返事が有るのとほぼ同時に、畑中が一号車の影から手を振って、声を上げる。

「おーい、鬼塚君。二号車南側の安全を確認。LMF 動かしていいよ~。」

「ありがとうございま~す。」

 緒美はヘッド・セットのマイク部を親指と人差し指で摘(つま)んで押し下げ、畑中に返事をすると、次いでマイク部を口元に戻して Ruby への指示を出す。

「いいわよ、Ruby。安全を確認、自律行動開始承認。中間モードへ移行して、トランスポーターから降りてちょうだい。」

 すると透(す)かさず、Ruby から緒美の指示に対する質問が、樹里が向かっているコンソールから聞こえる。

「トランスポーターの右側と左側、どちら側に降りますか?」

「そうね。南側、あなたの左側の方が広いから、そっちへ降りてちょうだい。トランスポーターから降りたら、今と同じ向きで待機してね。トランスポーターを移動して貰うから。」

「ハイ、分かりました。では、自律行動開始します。」

 LMF の機体下部に装備する一対のホバー・ユニットが起動すると、ユニットの作動音と吸気音が大きくなると共に、機体が荷台上で僅(わず)かに浮上する。トランスポーターの周囲では、荷台床面に吹き付けられた空気が地面へと滑り落ち、土煙が舞い上がる。
 LMF は荷台上で浮上すると、機体各所に設けられたバーニア・ノズルから圧縮空気を噴射して機首の方向を左側へと回し、トランスポーターに対して直角に機軸が向いた所で旋回を止める。そして、ホバー・ユニットの左右間隔(トラック)を広げると、ホバー・ユニットの出力を絞って荷台上へと降りた。次いで、トランスポーターの荷台上でホバー・ユニットの連結機構を展開し、機体上部を持ち上げるのだった。
 LMF のホバー・ユニットは、折り畳まれた連結機構を展開すると、それは地上での鳥の脚部の様な構造となる。それと同時に、LMF 機体側部上面に装備された、一対の腕部(アーム・ブロック)が展開される。この一対の腕部は、エイリアン・ドローンとの超接近戦の為の格闘用マニピュレータで、組み付こうとする相手を振り払ったり、反撃を行う事を想定しての装備だった。これは、現用の浮上戦車(ホバー・タンク)には装備されていない、LMF 特有の機構ではあるのだが、LMF 自体に実戦経験の無い現時点に於いて、その有効性は未知数である。

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 こうして機体モードを『中間モード』に移行した後、Ruby は LMF を操ってトランスポーターの荷台上から、左脚に当たるホバー・ユニットを踏み出し、前方の地面へと降ろした。ホバー・ユニット本体は機体全長の半分程の長さが有るので、LMF の一歩では踵(かかと)に当たるホバー・ユニット後端迄(まで)、一気に地面へ降ろす事は出来ない。その為、爪先立ちの様な姿勢で左側のホバー・ユニットを地面に降ろした後、左側ホバー・ユニットと同様に爪先立ちの様に右側ホバー・ユニットを地面に降ろし、一対のアーム・ブロックを動作させて器用にバランスを取り乍(なが)ら、二歩進んで踵(かかと)部を地面に降ろしたのだった。LMF はその位置で足踏みを繰り返す様に元の西向きへと機体の向きを戻して、アーム・ブロックとホバー・ユニットの連結機構を折り畳み、通常形態である高機動モードへと戻った。因(ちな)みに、左右のホバー・ユニットは、左右幅を広げたワイド・トラック・モードの儘(まま)である。
 そんな、LMF が自力でトランスポーターから地上へと降りる一連の動作を見ての、どよめく様な雰囲気が、少し離れた迷彩柄の天幕下から伝わって来るのだが、その辺り、そんな光景は見慣れた感の有る白い天幕の下に居る一同とは、当然の温度差が存在するのだった。

「畑中先輩、二号車の移動、お願いします。」

 緒美が声を掛けると、畑中は手を挙げて答え、トランスポーター二号車の運転席へと上がって行った。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第8話.03)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-03 ****


 一方、トランスポーターに積載されている LMF の方へと向かった樹里は、持参していた愛用のモバイル PC を LMF のコンソールへと接続しようとしていた。因(ちな)みに、樹里の愛機は、立花先生が普段使用している物より、一回り小さいタイプのモバイル PC である。
 LMF には既に電源車からのケーブルが接続されており、電気の供給が可能な状態となっていた。
 機体後方、メイン・エンジン下部のスペースから機首方向を眺(なが)めると、LMF の機体中心部には直立する様に円筒状の構造が有り、砲塔部はその上部に装備されている。操作用コンソールは、その円筒構造下部後方側に設けられている、分厚いメンテナンス用ハッチの中に用意されていた。
 直美達は外部電源ケーブルの接続確認を終えて、メンテナンス・ハッチの前で樹里の作業を眺(なが)めている。
 樹里はトランスポーター荷台の床面に置かれたモバイル PC の前にしゃがみ込んで、モバイル PC の起動状態を確認し終えると、モニター用通信ケーブルをモバイル PC と LMF のコンソールの双方に接続し、LMF の外部電源受電ブレーカーのトグルスイッチに手を掛けた。

「じゃ、LMF に外部電源、投入しま~す。」

「はい、やってちょうだい。」

 樹里の宣言に、そこに居た四名の内、最も後列から直美が答えた。
 樹里が受電ブレーカーの、少し硬いスイッチを押し上げると、スイッチ傍(そば)の受電パイロットランプが白く点灯した。続いて、LMF の制御系、つまり Ruby の起動スイッチを押すと、起動状態を表示する LED が先(ま)ず緑色に点灯し、暫(しばら)くして赤色の点滅に変わる。樹里は膝先のモバイル PC に視線を移し、Ruby との通信アプリケーションの状態モニター画面を開いて、起動情報がスクロールして行くのを確認した。

「はい、Ruby がスリープ状態から再起動中です。システムの自己チェックに五分くらい掛かりますけど~今の所、異常は無さそうですね。」

「オッケー、じゃぁ、もう暫(しばら)く Ruby 待ちね。」

 腰を屈(かが)め、瑠菜を間に挟んで樹里の背後から PC のモニターを覗(のぞ)き込んでいた直美は、少し身を引いて、そう言った。メイン・エンジン下のスペースは、人が立った儘(まま)では入る事が出来ない高さなので、頭をぶつけない様にと、直美は右手を頭上に挙げて、頭上の機体下面を右手で触れている。

「所でさ、樹里。カルテッリエリと佳奈、あの二人を組ませちゃって、平気?」

 樹里の背後から様子を見ていた瑠菜が、中腰の姿勢の儘(まま)、樹里に話し掛けた。

「大丈夫、大丈夫。カルテッリエリさんの方がナーバスになってた位(ぐらい)だから。佳奈ちゃんは、そんな事、気にしないし、安藤さんも一緒なんだし、ね。」

「そうかな~?天野の時みたいに、変に突っ掛かってたりしてなきゃいいけど…。」

 心配気(げ)な瑠菜の左肩を叩いて、左隣に居た恵が言う。

「平気よ。あれでも、カルテッリエリさんは相手を選んでやってるもの。天野さんは、あの手の挑発には乗らないから、最近じゃ、相手にしてるのは専(もっぱ)らボードレールさんの方だしね~。古寺さんも、あの手の挑発には『我関せず』のマイペースな人だし、そう言う相手に、無駄に突っ掛かっては行かないわよ。」

「…なら、いいんですけど。」

「あはは、森村が言うんだから、間違い無い。」

「何、部長みたいな事言ってるんですか、新島先輩。」

 そう言って、樹里は笑うのだった。

「さて、それじゃ、わたしは HDG の方、リグに電源が繋がったか見て来ます。」

「あ、わたしも行く。森村、こっちはお願いね。」

「は~い。」

 瑠菜と直美は LMF が積載された荷台後部に降ろされた、跳ね上げ式のスロープを伝って地上に降りると、HDG がメンテナンス・リグごと積み込まれたトランスポーター一号車へと向かった。二人と入れ替わる様に緒美が、LMF が積載されている二号車の荷台へと上がって来る。
 真っ先に緒美に気が付いた恵が、振り向いて声を掛けた。

「あ、部長。ご苦労様~、早かったね。」

「まぁ、顔見せだけ、だったから。飯田部長はまだ、彼方(あちら)のお相手してるけど、こっちは試験の準備が有るからって、先生と一緒に、早々に退散して来たの。」

「飯田部長が言ってた、先方の反応って、どうだったの?」

「あはは、何だか説明し辛(づら)い、複雑な表情だったわね。大人のあんな表情見たのは、初めてかも。」

 真顔での緒美の説明を聞いて、くすくすと笑う恵と樹里だった。

「で、こっちの状況はどう?城ノ内さん。」

「今、Ruby の起動自己チェック中です。もうそろそろ、終わる筈(はず)です。」

 それから間もなく、樹里の PC モニター上でチェック画面のスクロールが止まり、数秒の後、LMF のメンテナンス・コンソール部のスピーカーから Ruby の合成音が聞こえた。

「おはようございます。天野重工製 GPAI-012(ゼロ・トゥエルブ)プロトタイプ、Ruby です。只今、コンソール限定モードで、スリープ・モードから復帰しました。コンソールに接続しているのは樹里ですか?」

「そうよ、おはよう Ruby。部長と恵先輩も一緒に居るよ。」

「そうですか。学校の格納庫と違って、外部センサーからの情報が無いので、周囲の状況が何も分かりません。現在時刻を内蔵時計(インターナル・クロック)で確認しました。予定通りなら、現在位置は試験場ですね。」

 樹里の背後から身を屈(かが)めて、緒美が Ruby に指示を出す。

「うん、そう。それで、LMF をトランスポーターから降ろしたいの、直(ただ)ちにフル・モードに移行して LMF を起動してちょうだい。」

「トランスポーターから降りるのは、ブリジットの操縦で行いますか?」

 Ruby の質問に対し、緒美は少し考えてから、答えた。

「トランスポーターから降りる時に、転倒でもしたら危険かもね。いいわ、あなたの自律制御でやりましょうか。荷台からホバーで降りるのは不安定になりそうだから、中間モードで歩いて降りてちょうだい。」

「分かりました。コンソール限定モードからフル・モードへ移行、LMF の制御を開始します。LMF 制御電源確保の為、APU をスタートします。LMF 機体周辺で作業中の方は、退避して下さい。」

 緒美の指示を受け、即座に Ruby は指示を実行に移す。樹里はモニター・アプリの終了操作を行ってから、コンソールから通信ケーブルを引き抜き、Ruby に言った。

「じゃぁ、わたし達はここから離れるね。LMF の制御が確立したら、何時(いつ)ものチャンネルに接続して。そっちで、あなたの状態をモニターしてるから。」

「ハイ。所で、樹里。今日、麻里はここに来ていますか?」

 立ち去ろうとする間際、Ruby がそう樹里に問い掛けるのだった。

「残念だけど、今日は来られないそうよ。代わりに、安藤さんが来てるの。モニターと接続が確立したら、お話し出来るよ。」

「分かりました。LMF の起動作業を続行します。」

 樹里と恵、そして緒美の三人は、LMF のメンテナンス・ハッチを閉じてロックを確認し、トランスポーター荷台後部のスロープを降りると、モニタリング用コンソールが設置されている天野重工の天幕へと向かった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第8話.02)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-02 ****


「みんな、久し振りね~。あ、一年生の三人とは初めまして、だね。本社開発部設計三課、Ruby 開発チームの安藤です。」

「今日、井上主任はいらっしゃらないんですか?」

 安藤とは一番の顔馴染みである樹里が、先(ま)ず、話し掛ける。

「うん。主任も直前まで来る積もりだったんだけどね~ほら、今日は維月ちゃんのお誕生日だし。でも、急に外せない会議が入っちゃって。 あれ?今日は維月ちゃんは来てないんだ。」

「会議って、今日、土曜日ですよ。普通、会社は休みの日じゃ…。」

 瑠菜がそこ迄(まで)言ったのを、遮(さえぎ)る様に苦笑いし乍(なが)ら安藤が答える。

「平日忙しい人が複数集まろうとするとね、休日潰すしかスケジュールの取りようが無い事って、良く有るのよ。 あ、主任から維月ちゃんへの誕生日プレゼント預かってるから、あとで渡しといて貰えるかな、樹里ちゃん。」

「いいですよ。今日、運用試験の打ち上げと称して、維月ちゃんと部長の誕生日パーティーを、密かに画策してますから。」

「え、緒美ちゃんも今日、誕生日なの?」

「いいえ。半月遅れなんですけどね。部長の誕生日って中間試験期間の真っ只中なので。」

「あぁ、そうなんだ。でも、いいな~楽しそう~。」

「安藤さんも参加されます?兵器開発部(うち)的には大歓迎ですけど。」

「あはは、生憎(あいにく)、ここの撤収作業をやったら、その儘(まま)会社へ蜻蛉(とんぼ)返りのスケジュールなのよ。残念。 さて、じゃぁ、そろそろ準備に掛かりましょうか。現場の方(ほう)、ターゲットとかの設置確認にあと三十分ぐらい掛かるから、その間にみんなには HDG と LMF のセットアップをお願いしたいの。トランスポーターから機材を降ろす作業は危ないから、社の人間に任せて、あなた達は手を出さないようにね。樹里ちゃんには計測機材のセットアップを手伝って貰いたいのと、あと誰か二人、新しい観測機材の取り扱いを聞いておいて欲しいのよ。そうね、ソフト担当一人とメカ担当一人ずつがいいかな。」

「と言う事は、一人はカルテッリエリさんで決まりだけど、メカの方は誰にします?新島先輩。」

 樹里は、人選について直美に意見を求める。

「そうだね~瑠菜か古寺か、クラウディアと組ませるとしたら、どっちが良いと思う?城ノ内は。」

「だったら、佳奈ちゃん。」

 微笑んで、樹里は即答した。

「よし。じゃぁ、古寺とクラウディアは新装備のレクチャーを受けて来て。天野とブリジットはインナー・スーツに着替えて、森村と瑠菜は、わたしと LMF の起動準備に掛かりましょう。」

 直美の指示を受け、茜が安藤に尋ねる。

「あの、すいません。インナー・スーツに着替える前に、お手洗いに行っておきたいんですけど。」

「あぁ、それなら彼処(あそこ)の管理棟のを、借りられるから。正面の入り口から入って右側の突き当たり、行けば分かると思うわ。」

「はい、分かりました。ちょっと、行ってきます。」

「あ、わたしも。」

 管理棟の方へ早足で歩き出した茜を追って、ブリジットも駆け出す。その一方で、直美達は LMF を載せたトランスポーターへと向かって歩き出し、丁度(ちょうど)、運転席からブリーフケースを手に降りて来た畑中に向かって、直美が声を掛けるのだった。

「畑中先輩、LMF 起動掛けますので、電源お願いします。」

「おう、電源車、これから起動するから、ちょっと待ってて。」

 畑中が、天幕の前に駐めてある電源車の方へ向かうと、直美は振り向いて樹里に言った。

Ruby 起こすの、確認して貰えるかな、城ノ内~。」

「あ、はいはい、やりま~す。 あ、先に Ruby、スリープ・モードから復帰掛けて来ますから。佳奈ちゃんとカルテッリエリさんの方、お願いしますね、安藤さん。」

「了解。」

「あ、城ノ内先輩。」

 直美に呼ばれてその場を離れる樹里だったが、その後を追いかけて来たクラウディアが、樹里を呼び止める。振り向いた樹里に、クラウディアは背伸びをする様な姿勢で、小声で語り掛けるのだった。

「わたし、古寺先輩、苦手です。」

 珍しく不安気(げ)な表情をするクラウディアに、樹里は微笑んで言った。

「大丈夫よ、佳奈ちゃんは、ちょっとずれた所は有るけど、少し、無邪気(イノセント)が過ぎるだけだから、慣れてちょうだい。」

 その時、安藤と共に新型観測機の置いてある、隣の天幕の方へと歩き出した佳奈が、クラウディアに呼び掛ける声が聞こえた。

「クラリ~ン、おいで~。レクチャー受けに行くよ~。」

 げんなりとした表情で、クラウディアが言う。

「ほら、あの調子には付いて行けそうにありません。」

「あはは、まぁ、頑張って、クラリン。」

「城ノ内先輩まで、クラリンって呼ばないでください!」

 樹里に背を向けて、安藤と佳奈の方向へ歩き出したクラウディアの背中を、樹里は軽く叩いて送り出す。その時、再び、佳奈がクラウディアを呼ぶ。

「早くおいで~、ク~ラリン。」

「クラリン、呼ばないでください!」

 語気を強めてクラウディアが抗議するのだが、佳奈は意に介さない。

「えぇ~いいじゃない~。」

「良くありません。」

「あははは、流石の危険人物も、佳奈ちゃんには敵(かな)わない様子ね~。」

 二人の遣り取りを聞いていた安藤は、笑ってそう言うのだった。

「何ですか?危険人物って。」

「維月ちゃんから、聞いてるわよ。色々と武勇伝が有るって話。」

「武勇伝って、日本(こっち)に来てからは、まだ、大した事はしてませんよ。」

「そりゃ、大した事されちゃったら、会社が困るから~。」

 安藤はそう言って明るく笑うと、クラウディアの肩を軽く叩くのだった。

 

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STORY of HDG(第8話.01)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-01 ****


 2072年7月2日、土曜日。この日は、防衛軍の演習場を借用しての、HDG-A01 と LMF に因る火力運用試験が実施される日である。
 出力は抑えて実施するとは言え、荷電粒子砲の実射等、危険な項目が予定に組まれている為、天野重工本社からは少なくないスタッフが派遣される大掛かりな試験である。防衛軍からも関係者が視察に訪れる予定だと、緒美ら天神ヶ﨑高校『兵器開発部』の部員一同は聞かされていた。
 試験を行う陸上防衛軍の演習場は、天神ヶ﨑高校からだと自動車で一時間半程の、学校が所在するのとは別の山腹の、なだらかな斜面に造成されており、普段は近辺に展開する陸上防衛軍部隊が射撃・砲撃訓練に使用している。
 HDG-A01 と LMF 及び関連機材は、本社が手配したトランスポーターに前日の内に積載済みであり、午前中に試験場へと移動を開始していた。一方、兵器開発部の部員一同は、学校所有のマイクロバスにて、午前中の授業を終えて、午後十二時半頃に学校を出発した。因(ちな)みに彼女たちの昼食は、立花先生が手配した弁当を移動中の車内で、と言う段取りであった。

 天神ヶ﨑高校『兵器開発部』一行のマイクロバスが演習場のゲートを通過し、現地へと到着したのは、午後二時少し前だった。
 演習場には北端側管理棟の前に天幕が、二箇所に分けられて、合計四張り設営されていた。東側二張りの白い天幕には天野重工の社名が入っており、それらと少し離れて設営されている西側二張りの天幕は迷彩柄で、これらが防衛軍の物である事は一目瞭然である。
 天野重工の天幕の南側には、午前中に学校を出発していた二台のトランスポーター既に到着していた。HDG を積載した特製コンテナ式の一号車が天幕の前に、その後ろに開放式荷台の二号車が駐められている。二号車の荷台には LMF が積載されているのだが、出発時に機体に被せてあったシートは、既に取り外されていた。
 天神ヶ崎高校のマイクロバスが白い天幕の北側に停車すると、強い日差しの中、立花先生を先頭に白い夏制服の部員一同が降りて来る。彼女達はそれぞれが身分証となる入場証を、首から提(さ)げている。
 白い天幕の周囲では作業服姿の天野重工のスタッフが準備の為に行き交っているが、唯一、白シャツにネクタイと言う出で立ちの男性が『兵器開発部』一行がバスから降りて来るのを認めて、声を掛けて来た。

「おぉ、ご苦労さん。いい天気になって、良かったね。」

「何やってるんですか、こんな所で!飯田部長。」

 突然声を掛けて来た飯田部長の存在に驚き、挨拶も忘れて声を上げる立花先生であった。

「何やってる、とはご挨拶だねぇ。」

 飯田部長は、大きな声で笑った。

「すみません。飯田部長がいらっしゃってるとは、思ってなかったもので。」

「あはは、社長を始め開発部や試作部の部長連中も来たがってたんだが、結局、都合が付いたのが、わたしだけだったのさ。まぁ、わたしは防衛軍(あっち)側の対応をしなきゃならないって都合なんだが。」

 そう言って、飯田部長は親指で背後方向の、迷彩柄の天幕を指した。
 そんな飯田部長と立花先生との遣り取りを少し離れた場所で聞き乍(なが)ら、ブリジットは目の前に立っていた直美の耳元に顔を寄せ、小さな声で尋ねる。

「…どなたです?」

「飯田部長、事業統括部の。」

「事業統括部?」

「簡単に言えば、社長の次の次の次位に偉い人。」

「成る程。」

 直美の説明は、会社の組織構成を未(いま)だ把握していないブリジットには、非常に解り易かった。そんな具合にひそひそ話をしていたブリジットに向かって、飯田部長が声を掛ける。

「キミが、今日、LMF のドライブを担当してくれる、ボードレール君だね。」

「あ、はいっ。」

 ブリジットは少し背筋を伸ばす様に、飯田部長に返事をする。その様子に、ブリジットの右隣に居た茜が、くすっと笑った。

「それから、キミが HDG 担当の天野君、会長のお孫さん。」

 今度は、茜に飯田部長が声を掛けるので、茜は静かに会釈をする。

「うん。事故とか起きない様、呉呉(くれぐれ)も気を付けて。宜しく頼むよ。」

「はいっ。」

 茜がはっきりとした調子で返事をすると、飯田部長はにこりと笑うのだった。そして、その表情の儘(まま)、言った。

「さて、じゃ、立花君。それから鬼塚君も、取り敢えず、防衛軍関係者の方(ほう)へ挨拶に行っとこうか。」

「わたしは兎も角、鬼塚さんはいいんじゃないでしょうか?」

 怪訝(けげん)な顔付きで、立花先生はそう意見するのだが、飯田部長は意に介さない様子で答える。

「大丈夫、大丈夫。今日来てるのは HDG 推進派って言うか、こっちの理解者ばかりだから。まぁ、話はわたしがするから、君達はニッコリ笑って『宜しくお願いします』ってだけ、言っておけばいいよ。それよりも、鬼塚君に会って連中がどんな顔するか、それが見物だと思うよ。まぁ、何にせよ、あっちの関係者とも、ここらで一度顔合わせは、しといた方がいいと思うから。」

「分かりました。そう言う事でしたら。」

 緒美は一歩進み出て、微笑んで、そう飯田部長に答える。

「あはは、相変わらず、鬼塚君は度胸が有って、いいね。」

 そう言って上機嫌そうに笑うと、飯田部長は振り向いて、天幕の下で作業中の女性社員を呼ぶのだった。

「おーい、安藤君。」

 立花先生よりも少し年下風のその女性社員は、「はい」と返事をすると、少し間を置いて作業を中断し、小走りで飯田部長の方へと向かって来る。

「現場の音頭取りは、彼女に任せてあるから。細かい事は、彼女の指示に従ってね。じゃ、立花君、鬼塚君、行こうか。」

 飯田部長が防衛軍の天幕の方へ歩き出すと、入れ違う様に部員一同の前へとやって来た安藤に「あとは宜しく」と声を掛け、その儘(まま)、立花先生と緒美を伴ってその場を離れて行ったのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

HDG ストーリー内の記述変更

HDG のストーリーにて、登場する企業名に「三ッ星」と言う名称を設定していたのですが。元々は実在する某日本企業の名称の捩りだったのですが~字面から「サムスン三星)」と関連づけられると嫌なので、「三ッ星」から「三ツ橋」へと変更する事にしました。

 こちらの既掲載分と Pixiv の掲載分のストーリー文面について、該当する記述は変更済みです。
 今後も設定の変更や記述の最適化等のために、掲載済みのストーリー文面を誤字脱字の修正以外についても、修正・改編する場合がありますのでご了承下さい。

HDG-Brigitte改造・170915

「ITBRT9-03 for Poser」の作業を後回しにして、忘れない内に、と、「HDG-Akane」の Ver.3 仕様をモーフフィギュアへ展開する実験をやってました。
 そんなわけで、「HDG-Brigitte」への移植作業の結果がこちら。
 

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 Ver.3 版のヘッド・オブジェクトに、Ver.2 仕様の Brigitte のヘッド・モーフを移植して、眼窩周辺のポリゴン・メッシュを再編集・整理しました。
 Ver.2 から Ver.3 への移植は、作業的には結構面倒臭いですが、まぁ、出来ない作業ではない事を確認。雑用の合間合間に作業を進めていた都合もあって、結果、二週間ほど掛かりました。
 所が、出来上がったモーフ・データを、中間作業用に作ってあったデータと一緒に、うっかり消してしまった事に翌日気がつき。
 元データは目を閉じた状態で、目を開くのをモーフでやっている仕様なのですが(逆だと、目を閉じた時に瞼の UV が延び延びになるのが嫌なので)、保存されていたのは目を開けた状態の最終形状(しかも、瞼の開度80%)だったので、そこからベースとなる目を閉じたモーフと、そこから目を開くモーフ(瞼の開度100%)の復元をやるハメになりました。
 幸い、一度やった作業を直ぐにやり直したので作業勘が残っていた事と、最終形状が一部でも残っていたので、復元作業は一週間足らずで完了したわけですが。中間作業データの管理は、ホント、細心の注意が必要というのが今回の教訓。
 そんな感じで、正面からのサンプル画像がこちら。
 

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 それと、瞳縮小モーフの適用(ビックリ顔)のサンプル画像。
 

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 取り敢えず、Ver.2 用のモーフキャラを Ver.3 へ移植できることが確認出来たので、そっちの作業はまた、ぼちぼちと進めていく事として、「ITBRT9-03」の作業を始めますかね~。

HDG-Akane改造・170822

思う所あって、「FF02」こと、「HDG-Akane」フィギュアを弄ってました。一週間ぐらいのお試し感覚で始めたのが、結局三週間。
 先ず、現行バージョン(Ver.2)のサンプル画像。
 

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 瞳のハイライトが、左右で違っているのが分かると思いますが~コレは眼球モデルの構造のせいで、普通にライティングするとこのようになります。
 現行バージョンの眼球モデルは、顔表面の曲率に合うように眼球全体の大きさを決めているせいで、現実にはあり得ない巨大な眼球となっています。頭部中央で左右の眼球が交差するぐらい。
 これはマンガ的なデフォルメを優先した上で、顔面、左右の目の間をなるべくフラットにしたいというデザイン的な要望からこのような構造になったのですが、眼球自体が巨大であるので正面から見た眼球の頂点部が目の中央に位置していません。そのため、瞳(黒目)部分が眼球の頂点になる場所から顔の外側へオフセットするようにモデリングしました。瞳が眼球の頂点部になくても、レンダリング結果に特に違和感は無かったので、このような形状を選択したのですが、只、瞳のハイライトだけは思い通りに入ってくれず、これがストレスでした。
 右目用と左目用に別々にハイライト用のライトを用意したりしていたんですが~瞳の位置が眼球の頂点部からオフセットしているので、第一にハイライトが出る位置が読み辛い。それを右目と左目で同じ様な位置にハイライトを入れようとすると、ライトの位置調整と光量調整が非常に煩雑になり、余計に画作りに時間が掛かっていました。
 そこで、瞳が眼球の頂点部にある(常識的な)形状なら、左右で綺麗にハイライトが入るかな?という実証試験として今回の作業が始まったわけです。
 ハイライトの検証自体は、まぁ、予想通り。矢張り、眼球の頂点部に瞳があれば、ハイライトの位置は予想しやすいし、左右でほぼ揃いました。
 問題は、眼球の構造が変わる事によって顔の方が変わってしまう事。元々、顔の曲率に合わせて眼球の大きさを決めていたのを、今度は眼球の大きさを基準に顔の目元の凹凸を編集しなければならず、特に眼球に合わせると目元が大きく窪む事が、当初の「目の間の顔面をなるべくフラットに」というデザインの指針と相反するのでした。
 最終的に眼球は作り直した物を二度ほどサイズを調整し直し、顔の方も眼窩周辺のポリゴンと目の開閉モーフと共に五回ほど調整を繰り返し、なんとか印象の変わらないと思われる程度でフィニッシュした積もりです。
 で、改造版のサンプル画像はこんな感じ。
 

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 眼球が小さくなっているので、目頭の形状処理がマンガ的に省略された解釈から、よりリアル寄りになりましたが、コレはこうしないと 3D 的には収まりが付きませんでした。眼球は小さくなっていますが、瞳の大きさは元とほぼ同じになっています。
 マンガ的な目の表現を追求するなら、眼球を球状にするのをあきらめるか、頭部自体をもっと極端にデフォルメする必要がありそうですね。「マンガとリアルの中間」と言うのが私の志向する方向なので、私の目指す方向とは合いませんが。
 
 正面からのサンプル画像はこんな感じ。
 

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 眼球の構造の都合で、ちょっと寄り目気味になりました。
 瞳が目の中央になるように眼球を外側に動かすと眼球が顔の側面からはみ出るので~顔の幅を変えるか、眼球を更に小さくする必要があるのですが。どちらにせよ、目頭部分が更に落ち込む事になるので、それだけで顔の印象が変わっちゃうんですよね。顔の幅が変われば、もっと印象が変わる事になりますが。
 
 そして、今回、新規に追加したのが瞳の縮小モーフ、と言う事でサンプル画像。
 

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 サンプル画像ので、瞳の縮小が 0.5 設定ですので、更に小さく出来ますが。
 これは驚いた表情とかに利用できるかな、と思って追加したモーフなのですが、キャラによって瞳の大きさを変えたい場合にも利用できそうです。
 
 
 最後に、Toon 版ではなく、標準マテリアル版のサンプル画像。
 

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 こんな感じで、標準マテリアル(SSS適用)でも一応使用出来るようにはなっています。
 
 因みに、サンプル画像はすべてサブデビ(Subdivision Levels:1)有効にて、レンダリングしてあります。
 
 この改造版を正式に Ver.3 扱いにするかどうかは、幾つかサンプル作品を作ってから決めたいかな、と。
 コレを Ver.3 としたら、モーフ・キャラズ(Omi とか Brigitte とか)も再編集しないといけないしなぁ。あぁ、やる事が一杯(笑)
  

STORY of HDG(第7話)Pixiv投稿しました。

「STORY of HDG」の第7話まとめ版、Pixivへ投稿しました。
 第7話はサブタイトルが二人なので、表紙画像用にキャラを二人分(瑠菜と佳奈)作らないといけないので~余計に時間が掛かりました。変な縛り作っちゃったかな~(笑)
 デザインは決まってたんだから、Poserフィギュアを先に作っとけば良かったんだけどね。まぁ、他の作業との兼ね合いとか何とか。

 

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 第8話は現在、5回分目を打ち込み中。
 コレがいつ上がるのかは、私にも分かりませ~ん。

 

「第7話・瑠菜 ルーカスと古寺 佳奈」/「motokami_C」の小説 [pixiv] https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8205282

STORY of HDG(第7話.15)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-15 ****


「まぁ、お金の事は単純に時間給って訳(わけ)でも無いから。作業内容次第でって事で、その都度判断でいいんじゃない? 井上さんも余り堅苦(かたくる)しく考えないで。会社の方は最終的な責任を全部、あなた達に押し付けたりはしないから。」

「はい…では、取り敢えず、そう言う事で、いいです。すいません、なんだか我が儘(まま)言ってるみたいで。」

 維月は緒美と立花先生へ向かって、軽く頭を下げる。

「いいのよ。ソフト絡みは、わたし達には専門外だから、上級生だけどフォローしてあげられそうにないし。」

 緒美が恐縮気味にそう言うと、立花先生が言葉を繋げる。

「それに関しては、本社のスタッフが必要なフォローが出来る様に話は通して置くから。取り敢えず、中間試験期間が明けたら、一ヶ月ほど本社の開発から人が来る予定だから、先(ま)ずはその人達からレクチャーを受けて貰う事になるかしらね。あぁ、それ迄(まで)に、必要な機材の手配とかも、しておかないといけないわね…。」

「ともあれ、協力して呉れる人が見つかって良かったわ。今日は日曜日なのに、来て貰ってありがとう、城ノ内さん、井上さん。今日の所は、これで終わりって事で。又、詳しい事は試験期間が終わってからにしましょう。明日からは部活も休止期間になるし。」

 と、緒美がここで切り上げようとすると、樹里が言葉を返した。

「あの、佳奈ちゃん達は今日、何時頃迄(まで)の予定ですか?」

「あぁ~、試験期間前だし、四時頃には切り上げる積もりだけど?」

 樹里の問い掛けに答えたのは、恵である。

「わたしはこの後、特に用事も無いので。佳奈ちゃん達を待ってる間、その…仕様書とか、差し支え無かったら見せて頂けないかな、と。」

「あぁ、それなら、わたしも。瑠菜さんから話には聞いていて、ちょっと興味有ったんです。」

 維月も樹里に同調して、そう申し出るのだった。それを聞いて、緒美が視線を立花先生へと向けると、立花先生は静かに頷(うなず)いた。
 緒美は黙って席を立つと、仕様書を保管してある書庫の前へと移動し、しゃがんで下の段から二冊の仕様書ファイルを取り出した。二冊の内一方は、立花先生が使用している、付箋等が貼り付けられた物である。

「どうぞ。このファイルは持ち出し禁止だから、ここで読んでね。」

 長机の上に二冊のファイルを並べ、緒美は樹里と維月の方へと押し出す。

「成る程、これですか。」

「確かに、瑠菜さんの言ってた通り、凄いボリューム。」

 樹里と維月は、口々に感想を漏らすのだった。

「それは全体の仕様書だから、制御関連の記述は少ないと思うけど。」

「いえ、制御する対処がどう言う物か分かってないと、どう制御したらいいのか、分からないじゃないですか。だから、一通り理解はしておかないと。」

 そう言い乍(なが)ら、早速、樹里は仕様書の頁(ページ)を捲(めく)り出す。それは、維月も同様だった。

「開発の方(ほう)に、ソフトの設計仕様書が有る筈(はず)だから、今度、そっちも送って貰えるよう、手配しておくわ。」

「それはそれで、お願いします、先生。」

 立花先生の提案に、樹里は仕様書の記述を目で追い乍(なが)ら答えた。その時、ふと、維月が顔を上げ、立花先生に問い掛けた。

「そう言えば、さっき、試験明けたら一ヶ月程って仰(おっしゃ)ってましたけど…そうすると、日程は夏休みに食い込む予定ですか?」

 その問いには、元の席に戻り、座り直した緒美が答える。

「あぁ、うん。七月一杯は、今度搬入される LMF のテストになると思うの。八月の最終週にもテストの予定が入ってるから、休めるのは八月中の三週だけになっちゃうけど、あなた達は帰省の予定とか、大丈夫かしら?」

 今度は樹里も仕様書から顔を上げ、言った。

「帰省の予定は、まだ決めてなかったんですけど。寧(むし)ろ、夏休み中、寮に残ってても大丈夫なんですか?」

 その質問には、恵がさらりと答える。

「寮の方には、予定を出しておけば大丈夫よ。毎年、部活の都合とか、何だかんだで半数位(ぐらい)の人が、寮に残ってるみたいだし。去年は、わたし達もお盆の前後二週間ほど帰省しただけで、あとは毎日部活やってたものね。」

 それ対して、維月が思わず突っ込みを入れる。

「夏休み、潰れるのが前提なんですか?」

「そこは御相談、って事よ。夏休みをフルに休みたいって向きなら、本社の応援とか相応の手当を考えないといけないから、遠慮しないで言ってね。別に、夏止み中の活動を無理強(むりじ)いする気は無いから、ご実家とも相談しておいて。中間試験が終わったら、成(な)る可(べ)く早く予定を出して貰えると、助かるわ。」

 半分、冗談で言った事に、立花先生から極めて真面目に回答をされ、恐縮する維月だった。
 その雰囲気を察した樹里が、フォローを入れる。

「先生、今のは維月さんの冗談ですから。」

「あら、そう? でも、先輩も学校も会社も、休み無しで働け!とは言わないし、そうならない様に監督や調整するのがわたしの役目だから。休暇返上でも時間外作業でも、必要で有るならやって貰って構わないけど、それが過ぎる様なら止めるわよ、覚えておいてね。」

 立花先生は優し気(げ)な笑顔で、そう言い、結んだ。


 以上が、兵器開発部に瑠菜と佳奈が参加し、それに樹里と維月が合流する事になった顛末である。
 この後、前期中間試験が終わり二週間程が経って、LMF が天神ヶ﨑高校へ搬入され、それに Ruby が搭載される事となる。その作業に先駆けて、本社開発部から Ruby と LMF それぞれのソフト担当者が派遣され、LMF のオペレーションや Ruby の搭載作業等に就いて、樹里と維月に対してレクチャーが行われた。
 当初は自信無さ気(げ)な発言をしていた樹里だったが、維月も含めて二人共、オペレーションに限れば実務には支障のない能力を認められ、必要に応じて本社からフォローを受けられる条件で、一年生であり乍(なが)ら樹里が天神ヶ﨑高校兵器開発部側のソフト担当責任者に確定する。維月に就いては当初の希望通り、樹里のアシスタントと言う事で、正式な入部は見送られたのだった。


 一方、直美から CAD の講習を受けていた瑠菜と佳奈であるが。CAD の操作に関しては直美の指導により、ほぼ習得したものの、製図に就いては授業よりも先行して学んでいる事もあり、急激な上達は難しい状況となった。教えている直美自身も学生であり、経験豊富と言う訳(わけ)でもなかったので、指導には難渋する場面も多分に見られる様になったのである。
 加えて、夏休み中には緒美と直美の二人が『自家用航空操縦士免許』を取得する為、飛行機部の対象者と共に三週間の合宿講習に出掛ける事が決まっており、留守を預かる恵一人では二人の CAD 製図を指導するのは難しい、と言う局面が訪れたのだった。と言うのも、恵は緒美や直美に比べて、CAD 製図が余り得意ではなかったのである。
 因(ちな)みに、何故『自家用航空機操縦士』の資格が必要となるのか、に就いてなのだが。HDG の飛行能力付与は当初から存在した計画なのだが、その能力試験の実施にはチェイス機に因る飛行状況の確認や、事故が起きた際の迅速な対応が不可欠だと、本社側が指摘した事に『自家用航空機操縦士』資格取得の案件は端を発する。飛行試験の都度、『飛行機部』に協力を求める、と言う方法も考えられたのだが、機材は『飛行機部』から借用するにしても、操縦は『兵器開発部』自前でも出来る様になっておいた方がいいだろうと言う事になり、夏休みの時点で免許取得の条件として法令に定められた「十七歳」に達している、緒美と直美が操縦要員として選ばれた、と言うのが、事の大まかな経緯である。
 その様な事情で上級生二人が不在となる上、折から本社開発部へと提出される図面に不備が散見されていた事も有り、それを見兼ねた実松課長と、現役時代から実松課長とは昵懇(じっこん)であった前園先生が、瑠菜と佳奈に対する二週間に渡る CAD 製図特訓の講師を買って出る事になる。


 こうして『兵器開発部』の人員が補強された事に因り、緒美のアイデアや仕様書の内容が次々と図面化されて、本社へ届けられる様になったのである。それに呼応する様な本社技術陣の努力と労力を得て、HDG の開発と試作機製作は進展を続け、年が明けて二月の末、遂に HDG-A01 試作機が天神ヶ﨑高校へと搬入される運びとなるのだった。
 しかし、試作機が搬入されて以降、緒美達は HDG-A01 のテスト・ドライバー担当者の人選と、ディフェンス・フィールド・ジェネレーターのデザインに就いて頭を悩ませ続ける事になる訳(わけ)なのだが、そのれら課題の解決には、茜が入学して来る四月を待たねばならなかったのは、既に語られた通りである。

 

- 第7話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第7話.14)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-14 ****


「確かに、麻里…姉さんは、天野重工の開発部に勤めてますけど。お仕事の内容迄(まで)は知らないので…そう言えば、ここ数年、碌(ろく)に実家にも帰って来てなかったんですけど。 そう言うお仕事、してたんですね。」

 維月は、そう所感を漏らすと、軽く息を吐(は)いた。

「聞いた話だと、Ruby の開発は天野重工と三ツ橋電機、JED の三社協力でハードの設計をやって、ソフトの方は三社が独自に味付けをやってるらしいんだけど。三社とも進捗状況とか詳細は社外秘って協定で進めてる案件だそうだから、まぁ、ご家族が知らなくても不思議は無いと言うか、寧(むし)ろ知ってたら大問題って言うか。発注元は政府らしいから、ある意味、国家機密級のプロジェクトの様なのよね。」

 そんな立花先生の発言に、真っ先に反応したのは直美である。

「そんな物騒な物が、どうして学校(ここ)に有ったりするんですか?」

「噂だけど、他の二社はソフトの開発の方が、余り思わしくないらしいのよ。あなた達に Ruby の教育を手伝ってもらうってのは、天野重工(うち)独自のアプローチなんだけど、その発案者は井上主任らしいの。あと、こんな所に、国家機密級の開発物件が有るとは誰も思わないだろう、って言う目論見も有るのだそうだけど。まぁ、本当の所は、重役以上の人しか知らないだろうし、怖くて誰も本当の事何て聞けないわね。」

 続いて、恵が直美とは違う視点で、立花先生に問い掛ける。

「そこ迄(まで)聞くと、その井上主任って相当に凄い人みたいですけど…井上さんのお姉さんって事だと、そこそこ若い人なんじゃ?」

 それには回答したのは維月だった。

「あ、うちは五人姉妹でして、わたしが一番下で、その麻里姉(ねえ)が長女なんです。歳は、わたしとは一回り以上離れてますから。」

 維月の説明を聞いて、緒美が立花先生に問い掛ける。

「と言うことは、大体、先生と同年代?ですか。」

「年齢的には、わたしより一つ下だって。学年で言えば、同じらしいけど。」

「麻里姉(ねえ)は二月生まれなので。」

「あれ、それじゃ先生と入社は同期なんじゃ…。」

 直美の素直な疑問に、立花先生は苦笑いをしつつ答えた。

「わたしは一般大学卒だけど、井上主任は、あなた達の先輩。天神ヶ﨑(ここ)の OG だから、会社的には、わたしの四年先輩なのよ。天神ヶ﨑(ここ)の特課の卒業生は、年下の先輩に…あなた達の側から言えば、年上の後輩や部下が出来る可能性が他社(よそ)よりも高いから、まぁ、楽しみにと言うか、覚悟しておきなさい。」

 立花先生の眼鏡をクイッと上げる仕草に、二年生一同が引き気味の雰囲気が漂う中、樹里が普通のトーンで立花先生に問い掛ける。

Ruby って可成り高機能は汎用 AI の様ですけど、そもそも、政府は何の為に Ruby を開発してるんですか?」

「それこそ、機密中の機密なんでしょ? 少なくとも、わたしは知らないし、Ruby 自身も知らないでしょ。ねぇ、Ruby。」

「ハイ。最終的な目的は、わたしも知らされていません。当面の仕事は、ここのセキュリティ管理と、近々納入される LMF に搭載されて、その機体管理を行う事です。」

「わたしは、大体見当が付きますけどね、政府の考えている事。」

 緒美は吐き捨てる様にそう言うと、静かに息を吐(は)いた。

「緒美ちゃん、その見当って言うのが、当たっているにせよ、外れてるにせよ、どっちにしても誰にも言っちゃダメよ。」

「分かってます。それ程、迂闊(うかつ)じゃありません。」

 緒美の返答は静かだったが、それであるが故に、怒りの様な、嘆きの様なニュアンスが、その場の全員に伝わった。無感情な素振(そぶり)をする事は有っても、緒美は、あからさまに不機嫌な態度を取る事は滅多に無かっただけに、緒美のその発言は、その場の雰囲気を重苦しくさせていた。
 自分の傍(そば)で立った儘(まま)様子を見ていた、瑠菜と佳奈の所在無さ気(げ)な様子に気が付いて、直美は席を立ち、二人に声を掛ける。

「じゃ、わたし達は CAD 講習、今日の分を始めようか。」

 三人は隣の CAD 室へと向かうが、その場を離れる際に、佳奈が樹里に向かって、何時(いつ)もの調子で言うのだった。

「じゃぁ、樹里リン。また、あとでね~。」

「あ、うん。」

 二人は、互いに胸の前で小さく手を振り合う。
 直美達三人が部屋の奥、北側のドアから部屋を出て行くのを見送って、恵は微笑んで言った。

「古寺さんのマイペース振りは、貴重ね。」

「はい。中学の時から、何て言うか…救われる様な気持ちになる時が有ります。一緒に居ると。」

 再び笑顔になり、緒美が口を開く。

「変な空気にしちゃって、ごめんなさいね。 さて、二人とも細々(こまごま)と説明しなくても、もう随分と理解して呉れてる雰囲気だから聞くけど。入部して、わたし達の活動に協力して頂けるかしら?」

 緒美の問い掛けに、最初に答えたのは樹里だった。

「正直言うと、兵器とかの開発に興味は無いんですけど。わたしは、将来的には Ruby の様な、汎用 AI の開発に参加したいって思ってたので、そう言った意味で、Ruby には凄く興味が有ります。徒(ただ)、それだけ高度な物に自分が付いて行けるかどうか、それは、ちょっと分かりませんし、自信も有りませんけど。」

「メカの方だって、実質的には本社の大人が設計してるの。わたし達はアイデアの取り纏(まと)めをやってるだけと言っても良い位(くらい)だから、その辺りは心配しないで。」

「そう言う事でしたら、やってみたいと思います。」

「そう、良かったわ。井上さんはどうかしら。」

 樹里の協力を取り付けた緒美は、続いて維月に問い掛けるのだったが、当の維月はと言うと、何だか浮かない表情で黙っていた。
 そして、少し間を置いて、維月が口を開いた。

「申し訳(わけ)ありませんが…少し考えさせてください。」

「どうして?…って聞いてもいいかしら?」

「はぁ…身内が絡んでいる、となると…わたしは、余り関わらない方が良い様な気がして。もしもですけど、麻里姉(ねえ)に迷惑が掛かったりすると嫌ですし…徒(ただ)、樹里さん一人だと作業的に大変になりそうでもあるので、入部はしないけど、樹里さんのアシスタント程度で良ければ関わらせてください。勿論、秘密保持に就いては入学時の誓約通り守りますから。」

「身内の事とは線を引いておきたい、と…分かる様な、分からない様な、だけど。うちの活動に参加すると、バイト料的な話も、有るんだけど?」

「いいです、お金とか。それ貰っちゃったら、それこそ線引きになりませんからっ。」

「どうしましょう?先生。」

 緒美は判断に困って、立花先生へ水を向けてみる。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.13)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-13 ****


「森村ちゃんも知ってる子?」

「ううん、寮で見掛けた事が有る程度。お話とか、した事は無いの。」

 緒美と恵が話しているのを横目に、直美が瑠菜に問い掛ける。

「その二人は、何か部活、やってるの?」

「いいえ。今の所、どこにも入ってなかった筈(はず)です。」

「いいねぇ~。」

 答えを聞いて、直美は緒美へ視線を移し、ニヤリと笑うのだった。

「取り敢えず、その二人と直接お話ししてみたいわね。明日にでも連れて来て貰えないかしら? 二人の都合が良かったら、だけど。」

「明日って、日曜ですよ?」

「うん、でも月曜からは試験期間前で、部活は休止になっちゃうから。その前に、会うだけ会っておきたいの。」

「それなら、今日、この後、寮ででもいいんじゃ…。」

 瑠菜がそこ迄(まで)言い掛けると、優し気(げ)な微笑みを浮かべて緒美が言うのだった。

「部室(ここ)での方が、秘密保持の事とか有るから、人目の有る所は避けておいた方が賢明でしょう。Ruby の件とかも説明し易いし。それに、ソフト担当になる人だったら、Ruby との相性も見ておきたいわ。 Ruby も、どんな人か気になるでしょう?」

 緒美が Ruby に問い掛けると、今迄(まで)黙っていた Ruby が透(す)かさず答える。

「ハイ、紹介して頂けるなら、是非。」

 Ruby の答えを聞いた緒美は、ふと思い出した様に立花先生へ向き直り、笑顔の儘(まま)声を掛ける。

「あ、申し訳(わけ)無いですけど、先生も同席して貰えます?」

「いいけど…時間は、昼からにして、ね。」

 立花先生は苦笑いし乍(なが)ら、そう緒美に依頼するのだった。

「分かりました。取り敢えず、明日来られるか、あとで二人には話しておきます。」

「お願いね、瑠菜さん。 取り敢えず、希望の光がちょっと見えた感じかしら~。」

 緒美は両手を振り上げて背凭(せもた)れに身を預け、大きく伸びをする。

「さて。じゃあ、二人共、今日の分、CAD 講習、始めようか。」

 そう言って直美が席を立つと、瑠菜と佳奈は直美に付いて CAD 室へと向かうのだった。


 その日の夕食時、瑠菜と佳奈は、樹里と維月に『兵器開発部』への協力依頼に就いての話をしたのだった。
 『兵器開発部』での活動に関しては、以前から秘密事項には触れない範囲で樹里と維月には話していたので、兵器開発部からの依頼に大きな齟齬(そご)が発生する事は無かった。「わたし達で役に立つかは、分からないけど」と樹里は言ったが、それでも「面白そうだから」と、『兵器開発部』の先輩達に会ってみる事に就いては維月共共(ともども)了承して、その日はそれぞれ、分かれたのである。

 そして、翌日。2071年5月31日日曜日、瑠菜と佳奈は昼食を済ませて後(のち)、樹里と維月を連れて『兵器開発部』の部室を訪れた。
 部室に緒美と立花先生が来ていたのは、昨日の打ち合わせ通りなのだが、そこには直美と恵も来ていた。いや、この後、瑠菜と佳奈は直美に CAD 講習の続きを受ける予定だったのだから、直美が居るのも当然なのだが、恵までもが居るのが瑠菜には不思議に思えたので、つい、そんな言葉が口を衝いて出てしまうのだった。

「どうして、恵先輩まで居るんですか?」

「ええ~、わたしだけ仲間外れにしないで~。」

 恵は、そう言い返して明るく笑った。

「あぁ、すいません。そう言う、積もりでは…取り敢えず、二人、来て貰いました。」

 瑠菜は自分の後ろに立っていた樹里と維月に、前へ出る様に促(うなが)す仕草をすると、佳奈と共に直美の座っている席の方へと移動する。樹里と維月、二人の顔を見て、先(ま)ず、緒美から声を掛ける。

「来て呉れて、ありがとう。わたしが部長の鬼塚よ。で、こちらから顧問の立花先生、会計の森村。そちらが副部長の新島。あと、もう一人? Ruby の事は聞いてるかしら?」

 メンバー紹介に続いての唐突な質問だったが、それには樹里が答えた。

「はい。昨日、大まかな事情は瑠菜さんから。あ、情報処理科一年、城ノ内 樹里です。」

 樹里に次いで、維月も自己紹介する。

「同じく一年、井上 維月です。」

「あ、どうぞ、適当に座ってちょうだい。」

 緒美に促(うなが)され、樹里と維月は取り敢えず目の前の椅子、長机を挟んで緒美の正面になる席に座る。

「井上さん? 前に、どこかで会った事、有ったかしら…」

 急に、立花先生が妙な事を言い出すのだが、それに対して、維月は明朗に答える。

「いえ。寮で見掛けられたのではないですか?」

「う~ん、そう言うのじゃなくて…どこかで、あなたと会った事が有る様な気がするのよ。変ね…。」

 その時、Ruby の合成音声が室内に響いた。

「発言しても、よろしいでしょうか?」

 この日 Ruby は、樹里と維月の前では、発言を控えなくても良いと、緒美に予(あらかじ)め言われていたのだ。

「なぁに、Ruby。」

 緒美が Ruby に発言を促(うなが)す。

「智子の記憶回復に役立つといいのですが。維月の顔と声は、麻里と良く似ています。 顔認識でのマッチング・スコアは52ポイントで本人と認識する事は有り得ませんが、別人としては非常に高いスコアです。又、声紋のマッチング・スコアも同一人物判定は出来ませんが、類似した特徴が…。」

 Ruby が解説を続ける最中(さなか)、立花先生は声を上げる。

「ありがとう、もういいわ。今、思い出したから。」

「…ハイ、それはよかった。」

「話には聞いてましたけど。なかなか、楽しい AI ですね。」

 その様子を見ていた樹里は、そう言ってクスクスと笑う。その隣に座る維月は、何かに気が付いた様に視線を上に向けていた。

「井上さん、本社開発部の井上 麻里主任って、あなたのお姉さんでしょ。Ruby の件で、三度程お会いする機会が有ったから、それで、あなたに会った事が有る様な気がしたんだわ。」

 そこで話の流れを察した恵が、何か思案中の様な表情の維月を横目に、Ruby に話し掛ける。

Ruby の件でって事は、あなたの開発関係の方なの?Ruby。 その、井上主任。」

「ハイ。麻里は、わたしの開発チームのリーダーです。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第7話.12)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-12 ****


 瑠菜が正式に入部して数日。前期中間試験を目前に控えた、2071年5月30日土曜日。
 この頃、新入部員の二人は、副部長である直美の指導の下、CAD 操作の習得を始めていた。一年生の授業では、製図の概論が終わり、漸(ようや)くT定規と三角定規を使った手描きの製図実習が始まったばかりで、そんな基礎学習が夏休み明け頃迄(まで)は続く予定である。だから、一足飛びに CAD の習得を始められた佳奈は、念願が叶っただけに、熱心に部活に参加していた。瑠菜はと言うと、そんな佳奈に付き合っている体(てい)ではあったが、他の同級生や授業に先行して、技術を習得出来る事に就いては満更でもなかったのである。
 
 兵器開発部に設置された CAD の機材は、本社・設計部での機器更新に因って余剰となったと言う「建前(たてまえ)」で、中古の機器を本社から移設した物である。それは勿論、本社上層部の配慮が有ってなのだが、そんな訳(わけ)で CAD のシステムは、本社で使用されている物と同一の仕様なのだった。
 元元は、学校の製図室に設置されている CAD を使用していた緒美達だったのだが、学校の CAD は当然、授業での使用が優先され、放課後も補習や自習で使用する生徒も多い為、部活で頻繁に且つ長時間、優先的に使用する事は出来ないと言う事情が有ったのだ。
 そんな状況を見兼ねた立花先生が本社と掛け合って、三台の端末を含む CAD システム一式が兵器開発部の部室隣の空き部屋へと導入されたのが、前年の十月頃の事である。
 因みに、当時一年生だった緒美達が、授業に先駆けて CAD 製図を習得したのは、設計製図の担当講師である前園先生に指導を受けたからなのだが、その辺りの配慮に就いても本社幹部や学校理事長(天野重工会長)の意向が働いていたのは、言う迄(まで)もない。
 
 さて、お話を5月30日土曜日に戻そう。
 『普通課程』の生徒の場合、基本的に土曜日には授業が無い。しかし、専門教科も履修しなければならない『特別課程』の場合、土曜日も四時限分の授業が設定されている。平日も火曜日から木曜日の三日間は『普通課程』には無い七時限目が『特別課程』には存在し、一週間で合計すると『特別課程』は『普通課程』よりも、七時限分授業時間が多いのである。
 そんな土曜日の放課後、昼食を済ませてから、普段よりも少し遅れて瑠菜と佳奈の二人は部室へと到着した。瑠菜達が部室に入ると、三人の先輩と立花先生が既に来ていたのだが、何やら深刻な面持ちで話し合いをしている様子だった。

「何か有ったんですか?」

 瑠菜は誰とは無く、そう声を掛け、入り口に最も近い席に着いた。その右隣の席に、佳奈も座った。
 直美が腕組みをした儘(まま)、視線を瑠菜に送りつつ答える。

「あぁ、昨日、LMF が予定通り山梨の試作工場をロールアウトしたって、知らせが来ててね~。」

「予定通りなら、良かったじゃないですか。」

「うん。それ自体に問題は無いんだけど。いよいよ、実機がこっちに送られて来る事になって、こちら側の受け入れ体勢が、ねぇ。」

 今度は恵がそう言って、溜息を吐(つ)いた。続いて、緒美が発言する。

「先生、やっぱり誰か、常駐して貰わないと。うちの人員だけじゃ、どうにもなりませんよ?」

「そうよねぇ…そもそも、こっちでテストする事自体に無理が有るのかもね。やっぱり、ここから先は、本社サイドに渡すしか無いかしら。」

 緒美の問い掛けに、諦(あきら)めムードの漂う立花先生の答えだった。この辺りで、今、議題になっているの事柄に就いて、瑠菜には見当が付いたのだった。

「LMF の性能確認試験の事でしたら、部長が計画立ててたんじゃないんですか?」

 瑠菜の問い掛けに、溜息を一つ吐(つ)いてから、緒美は力(ちから)無く微笑んで言った。

「計画は立ててたんだけどね…ほら、うちの部って全員、機械工学科じゃない。 仕様設計の段階はそれで何とかなってたんだけど、実機を動作させてのテストとなると、ソフト屋さんも必要でしょう?」

「あぁ~そう言う問題ですか… 先輩方の知り合いに、適当な人は居ないんですか?」

 緒美に問い返す瑠菜に、笑って直美が答える。

「あはは、そんな人材が居たら、とっくに引っ張り込んでるわ。」

「寮で情報処理科の知り合いに探ってもらったけど、わたし達の学年で協力してくれそうな人は居なかったのよね。」

「本社から人を派遣して貰う方向で依頼は出してたんだけど、彼方(あちら)は彼方(あちら)で忙しい案件を抱えてるらしくて…ね。長くても、一ヶ月以上は人を出せないって。」

 直美と恵に次いで、立花先生が本社側の都合を、極簡単に説明した。

「LMF の試験だけじゃなくて、HDG 本体や拡張装備に就いてもソフト絡みの仕様は、これから詰めて行かなくちゃだし、やっぱり、その辺りに明るい人材が居ないと、先先(さきざき)、作業が滞りますよ、先生。」

 緒美がそう言って、身体を伸ばす様に背中を反らした時、突然、佳奈が声を上げた。

「ソフトって、コンピュータのプログラムとかの事ですよね?」

 佳奈の発した、極めて初歩的な質問に、一瞬、声を失う一同だった。

「あれ?わたし、何か変な事、言いました?」

「大丈夫。間違ってないわよ、古寺さん。」

 一拍置いて恵がフォローを入れる一方で、佳奈の隣で瑠菜は深い溜息を吐(つ)くのだった。

「何を言い出すのよ、佳奈さん。」

「ねぇねぇ、瑠菜さん。樹里リンにお願いしてみようよ。あと、維月さんにも。」

 その、佳奈の唐突な提案に、行動にこそ移さなかったものの、内心では膝を打つ心境の瑠菜だった。

「ジュリリン?」

 聞き慣れない、人名らしき言葉を恵が聞き返すと、それには瑠菜が答えるのだった。

「城ノ内 樹里さんって言って、佳奈さんと同じ中学の出身で、情報処理科の一年生です。維月さんって言うのは、寮で樹里さんと同室の、同じく情報処理科の一年生なんです。秘密保持諸諸(もろもろ)に就いても信用出来る人達だと思いますよ。」

 瑠菜の答えを聞いた恵は、その二人の人物に思い当たった様子だった。

「あぁ…寮であなた達と、良く一緒に居る、あの二人ね。 そう、あの二人、情報処理科だったんだ。」

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.11)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-11 ****


 それから数分が経ち、皆が無言で、それぞれの作業に集中し始めた頃だった。恵が、唐突に緒美に話し掛ける。

「ねえ、部長。Ruby の事、忘れてない?」

 緒美はキーボードを打つ手を止めず、視線もタブレット端末から外さない儘(まま)、答えた。

「忘れてはないけど、タイミング的に…あぁ、そうね。 Ruby、もうおしゃべりしてもいいわよ。」

 すると、室内に女性の合成音が響く。

「ありがとう、恵。わたしも、忘れられているのかと心配していましたよ、緒美。」

「あら、ごめんなさい、Ruby。」

 Ruby のぼやきを聞いて、くすりと笑って緒美は謝るのだった。

「誰です?…今の声。」

 瑠菜は顔を上げ、誰に聞くでも無くそう言うと、直様(すぐさま)それに応えたのは Ruby だった。

「こんにちは、瑠菜。わたしは Ruby、天野重工で開発された AI ユニットです。」

「AI?…って、声がどこから…。」

 合成音の出所を探して、瑠菜は周囲を見回す。

「わたしは、緒美の後ろに在ります。」

「そう言う時は、後ろに居ます、って言うのよ、Ruby。」

 Ruby の言葉遣いに就いて、恵が優しく指摘するが、それには Ruby が反論する。

「わたしは人間ではなく機械ですので、この場合『居る』のでは無く『在る』が正しいと思います。」

「わたしたちは、擬似的な物だとしても、あなたの人格を認めているの。だから『在る』なんて言われたら、悲しくなるわ。」

「そうですか。緒美も悲しみを感じましたか?」

 恵の意見を聞いた Ruby は、緒美に所感を尋ねる。それに対して、今度は作業の手を止め、顔を上げて緒美は答えた。

「そうね…森村ちゃんみたいに悲しいって感覚では無いけど、違和感は有るわね。」

「大体、『在る』だけの様な物だったら、自分で考えて発言なんかしないでしょ。だから『わたしはここに在る』なんて言い回しは、有り得ないのよ、Ruby。」

 緒美の発言を受けて、直美はそう付け加え、笑った。
 そんな遣り取りを聞き乍(なが)ら、瑠菜は緒美の背後、部室の奥の壁際に、ドラム缶よりも一回り程小さい円筒型の装置らしき物が置かれているのに気が付いた。そして、ふと横を見ると、仕様書を読むのに集中していた佳奈も、顔を上げ、その装置の存在に気が付いていた様子だった。
 瑠菜は、正面に座っている、緒美に尋ねる。

「そこの、窓際のが Ruby なんですか?」

「本体はね。上の方、窓枠にカメラみたいのが有るでしょう? この室内は、そのイメージ・センサーで様子を、みんな見てるの。後、この格納庫の彼方此方(あちこち)にセンサーが設置されててね、この第三格納庫全体のセキュリティを担当してもらってるのよ、今の所。」

 緒美は瑠菜の問いに、淀(よど)み無く答える。

Ruby も、開発テーマの一部なんですか?部長。」

「そうでもあり、そうでもなし…まぁ、仕様書を読んで呉れたら、詳細に就いては追い追い分かると思うけど。そもそも、Ruby ほど高性能な物は要求してなかったんですけど。ねぇ、立花先生。」

Ruby は元元、本社で別件用に開発されていた試作機なんだけど、色々と大人の都合が有ってね、この部活で預かって、目下教育中って状況。わたしも、Ruby に就いては、詳しい事は知らないのよ。」

「教育、ですか。」

「あ、そんなに難しく考えなくても良いのよ。さっきみたいに、普通におしゃべりしてればいいって事だから。」

 立花先生はそう瑠菜に言うと、ニッコリと笑った。そして間を置かず、直美が補足する。

「そもそもは、LMF に簡易的な AI ユニットを搭載するのが部長のアイデアだったんだけどね、それに用にって本社が、たまたま開発中だった Ruby を持って来たのよ。性能的には要求に対して完全にオーバー・スペックなんだけど、まぁ、『大は小を兼ねる』って言う奴? それで、本社が AI ユニットを提供する交換条件で、Ruby のコミュニケーション能力を向上させるのに、わたし達が協力するって事になった~って言う感じの流れね。で、LMF が完成する迄(まで)の間、Ruby には暇潰し的に、ここのセキュリティ・システムをやって貰ってる訳(わけ)。」

「LMF って言うのは、何ですか?」

 Ruby が兵器開発部に提供されるのに至った大まかな流れを説明した直美だったが、瑠菜には直ぐに飲み込めない言葉が「LMF」だった。
 その瑠菜の問い掛けに、落ち着いて口調で緒美が答える。

「それに就いても、仕様書を読んで呉れたら解るわ。」

「はぁ、そうですか。 取り敢えず、これを読まない事には始まらない訳(わけ)ですね。」

 溜息混じりに瑠菜がそう言うと、直美が笑って、言った。

「あはは、そう言う事。まぁ、LMF に就いては、予定通りなら、あと二ヶ月程で実物が見られる筈(はず)だから、楽しみにしてて。」

「楽しみも何も、LMF が何かも、今の所、解ってませんけど。」

 そう答えて、瑠菜は再び、仕様書へと目を落とした。
 そして、ふと佳奈の様子が気になった瑠菜が隣へと目をやると、佳奈は集中して黙々と仕様書を読み進めていた。寮や教室で、度度(たびたび)見せる佳奈のその集中力を、瑠菜は「少し羨(うらや)ましいな」と思いつつ、視線を手元の仕様書へと戻すのだった。

 こんな顛末で、佳奈に巻き込まれる様にして、瑠菜は兵器開発部と関わる事になったのである。
 当初、入部には慎重な姿勢を取っていた瑠菜だったのだが、佳奈と一緒に「仕様書」を読み進めていく内、その内容を理解する程に、HDG の開発への興味が大きくなっていったのだった。
 斯(か)くして、五月の連休を挟んで三週間程の後、「仕様書」を読み終えた時点で、瑠菜は正式に兵器開発部に入部する事にしたのである。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第7話.10)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-10 ****


「いいんじゃない?古寺さんは真面目そうだし。所謂(いわゆる)、兵器オタクな、趣味の怪しい人なんかより、よっぽど信用出来そうだわ。」

「方向性は、ちょっと違う様だけど、マイペースって言う意味では、森村も古寺さんと同類だしな~。」

 恵の発言を、そう言って直美が茶化すのだった。

「そうね、それに就いては否定はしません。 じゃ、古寺さんは入部って事で、いいかしら?」

 直美に言葉を返した後、佳奈の方へ向き直り、恵は佳奈に入部の意志を確認する。佳奈は深く頷いてから、言った。

「はい。よろしく、お願いします。」

「こちらこそ、歓迎するわ~。それで、ルーカスさんはどうするの?」

 突然、自分の方に話が回って来た瑠菜は、恵に不意を突かれた様子で、驚いたのだった。

「あ、え?」

 答えに迷っている内に、瑠菜の方に向けられている佳奈と視線がぶつかる。それで、瑠菜は余計に焦ってしまうのだった。

「…どう?と言われても…佳奈さんの様子を確認に来ただけ、ですから~…」

「そう?暫(しばら)く様子を見てて、わたしはあなたも有望だと思うのよね。友達思いの様子だし、頭の回転も良さそうだし。それに、古寺さんと同室なら、秘密保持の点でも有利だしね~ねぇ、部長。」

「勿論、無理強(むりじ)いはしないけど。設計とか開発とかの技術職を目指しているなら、ここでの活動はあなたの今後に取って、大いにプラスになると思うの。 どうかしら?」

 その時の、緒美の笑顔に、引き込まれてしまう様な感覚を覚えていた瑠菜だったが、雰囲気に流されるのは避けようと思い直した。

「テーマの深刻さと言うか、重大性から考えて、わたしなんかよりも、もっと優秀な人が他に居る様な気がしますけど。」

 瑠菜のその言葉に、コメントを返したのは、黙って様子を見ていた立花先生である。

「う~ん、こう言う開発チームの編成って、個々人の能力よりも、相性の方が重要だったりするのよね…恵ちゃんは、ルーカスさんが相性の面でも良いって思った訳(わけ)よね?」

「はい。」

 立花先生の問い掛けに即答すると、恵は佳奈の方へ向き直り、問い掛ける。

「古寺さんも、ルーカスさんが一緒だと心強いわよね?」

「はい、それは、もう。」

 恵の誘導に、簡単に乗せられる佳奈だった。
 佳奈の返事には苦笑いしつつ、瑠菜は提案する。

「取り敢えず、仮入部って事にしておいて頂けませんか? 秘密保持に就いては、誓約した通り、お約束しますから。」

 入部に就いては即断する訳(わけ)に行かないと思った瑠菜だったが、とは言え、ここに佳奈を残して今直ぐ立ち去る訳(わけ)にも行かない気がして、そんな提案をしてみたのだった。
 その提案に対して、一呼吸置いて答えたのは、緒美だった。

「まぁ、いいでしょう。古寺さんがここでどう言う事をやっているのか、有る程度正確に知っておかないと、ルーカスさんも安心出来ないでしょうし。」

 そう告げた緒美の表情から優し気(げ)な微笑みが消えなかった事に、瑠菜は胸を撫で下ろす心境だった。

「ありがとうございます。」

 瑠菜は座った儘(まま)、長机に額が着きそうになる程、深々と頭を下げる。

「いいのよ、気にしないで。さて、それじゃ、仕事に掛かって貰う前に、HDG の仕様位(ぐらい)は理解しておいて欲しいから。新島ちゃん、仕様書、古寺さん達に見せてあげて。」

「はいよ~。」

 直美は椅子に座った儘(まま)、身体を捻(ひね)り、反らし、背後のスチール書庫下段の引き戸を左手で開けると、その中から分厚いファイルを一冊取り出す。そして、取り出したファイルを右手に持ち替えると、先程開けたスチール書庫の引き戸を左手で閉め、向き直った。そして、そのファイルを机の上に乗せると瑠菜の方へと押し出し、言うのだった。

「先ずは、コレ、一通り目を通してね。あ、一応、この中身は全部、秘密事項だから、ヨロシク。」

 そして、直美はニヤリと笑うのだった。
 瑠菜はそのファイルを黙って受け取り、暫(しば)し、ファイルを開(ひら)かずに見詰めていた。すると、佳奈に、立花先生が声を掛ける。

「古寺さんには、わたしが持ってるのを貸してあげる。色々書き込んで有るけど、気にしないでね。」

 そう言って、立花先生は正面のモバイル PC の脇に置いてあった、同じタイプのファイルを佳奈の方へと押し出した。そのファイルの中に綴じられた書類には、幾つもの付箋が貼り付けて有るのが、ファイルを開かなくても見て取れた。

「あ、先生。ありがとうございます。」

 一礼してそのファイルを受け取った佳奈は、躊躇(ちゅうちょ)する事無くファイルを開くのだった。その様子を見ていた瑠菜は、緒美も同じファイルを持っているのに気が付いた。
 瑠菜の視線の動きを読み取った緒美が、補足説明を加える。

「このファイルの仕様書はね、特殊な紙に印刷してあるから、予備を含めて三冊しか無いのよ。持ち出し厳禁だから、部室(ここ)で読んでね。」

 既に、仕様書を読む事に集中している佳奈を横目に、瑠菜は立花先生に聞いてみる。

「先生は、佳奈さんにファイルを貸しても大丈夫なんですか?」

「あぁ、わたしと部長はそれぞれ、仕様書はデータでも持ってるから。心配しないで。」

「そうですか。」

 そう、短く答えると、瑠菜は観念した様に一つ息を吐(つ)いて、それからファイルを開いた。そして最初に注目したのは、書かれている内容よりも、それが印刷されている用紙の質に就いてだった。
 先刻、緒美が言った通りの「特殊な紙」なのだが、それは印刷面が何か光沢の有る、樹脂状の物質でコーティングされている様で、頁を捲(めく)る時、光の具合で表面が薄(うっす)らと虹色に光って見えるのだった。瑠菜が紙質を確かめている様子に気付いた立花先生が、その事に就いて解説をしてくれた。

「その用紙はコピー防止のコーティングがしてあってね、コピー機やスキャナーで読み込むと真っ白になるの。あと、カメラで撮影した場合は、表面が虹色に写るのよ。フラッシュを使ったら、コピー機で読み込んだ時と同じで、真っ白になるけど。」

「そんな訳(わけ)だから、コピーして、寮に持ち帰って読もうなんて、考えないでね。コピーするだけ無駄だから。」

 立花先生の解説に続いて、緒美にそう釘を刺された瑠菜だった。

「やだなぁ。考えてませんよ、そんな事。」

 緒美の忠言(ちゅうげん)は正に図星だったのだが、瑠菜は苦笑いしつつ、そう答えてから、仕様書を読み始めたのだった。

 

- to be continued …-

 

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