WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第9話.01)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-01 ****


 火力運用試験の実施日から数えて四日目の、2072年7月6日、水曜日。既に放課後となり、兵器開発部の部室には、維月を加えた部員一同が集まっていた。
 夏期休暇まで残す所、あと十日となっており、教職員は何かと忙しい様子で、講師扱いである立花先生も学校側の資料製作の手伝いだとか何やらで、この日は、たまたま部室には不在だった。
 先の火力運用試験で HDG-A01 の能力検証には一区切りが着いたとは言え、ブリジットが装着(ドライブ)する予定のB型の納入に備えて、A型で確認しておきたい事項は、まだまだ存在していた。徒(ただ)、A型で空中機動のデータが増える度(たび)に、アップデートの名目でB型の納期がずるずると先送りになっている状況には、緒美と、テスト・ドライバーであるブリジットの二人が特に、もどかしい思いを抱えてはいたのである。
 当初、夏休み期間中、七月末だったB型の納入予定は、八月中になり、八月末になり、遂には、九月中と言う事で、現時点では夏休み明け迄(まで)に完成しない予定に変わっていた。
 そんな状況で、この日に予定されている試験項目は、空中の HDG-A01 と陸上の LMF との、データ・リンクの検証である。水平方向及び、垂直方向それぞれに就いて、どれ位(くらい)離れても LMF、つまり Ruby とのデータ・リンクが維持出来るのか。勿論、設定されたスペックが存在するので、それが実現出来ているのかどうかの検証である。
 茜とブリジットは既にインナー・スーツに着替え、試験内容の最終確認をしていた、正(まさ)にその時だった。
 時刻は、16時49分。突然、女子生徒の声で予め録音されていた放送が、校内に鳴り響く。

「これは訓練ではありません。エイリアン・ドローンに関する避難指示が発令されました。全校生徒は自警部の誘導に従って、速やかに地下シェルターへ避難してください。これは訓練ではありません。繰り返します…」

 同じ内容の放送が六回、繰り返されて、放送は終わった。
 部室内に居た一同は顔を見合わせ、そして立ち上がるが、クラウディアのみは席に座った儘(まま)、慌てて自分のモバイル PC を開くと、何やら操作を始めたのである。

「今…訓練じゃないって言ってた、よね?」

 最初に声を発したのは瑠菜だった。すると、今度は男性職員の声で、追加のアナウンスが聞こえて来る。

「部活動で校内に残っている生徒は、各自、近くの校舎の地下へ、速やかに、移動して下さい。各部活の責任者は、人数の確認をして自警部の担当者に申告してください。それから、寮に居る生徒は寮の地下通路に集合の後、自警部担当者の指示に従って下さい。これは訓練ではありません。各自、速やかに、落ち着いて行動して下さい。繰り返します…」

 男性職員のアナウンスは三度、繰り返されて終わった。それを待って、緒美が口を開く。

「聞こえたわね、みんな。避難しましょう。」

「一番近い校舎って言ったら、グラウンドの向こうの第一校舎よね。結構、距離、有るよね。」

 恵がそう言うと、それに、直美が意見を出す。

「地下道なら、体育館の下にも有るわ。ここからなら、そっちの方が近い。」

「あの、取り敢えず、着替えた方が良いでしょうか?わたしたち。」

 HDG のインナー・スーツを着た茜が、緒美に問い掛ける。

「あぁ~そうね。急いでね。」

「はい。じゃ、ブリジット、急いで着替えて来ましょう。」

「そうね。」

 茜とブリジットは更衣室として利用している、南側の空き部屋へ向かおうと、部室の奥に向かって左手の出口へと歩き出す。

「お手伝いしましょうか?茜ン。」

「あ、大丈夫です、佳奈さん。ブリジットも居て、独りじゃないので。

 佳奈に呼び止められた茜は、振り向いて左手を振り、その申し出を断った。すると、今度はクラウディアが茜達を呼び止める。

「ちょっと、待ちなさい、アカネ。ボードレールも。」

 クラウディアの視線は、モバイル PC のディスプレイに向けられた儘(まま)で、キーボードに置かれた手は、時折、キーを打ったり、タッチ・パッドを撫でたりしている。

「何よ?」

 ブリジットは不審気(ふしんげ)に、声を返した。クラウディアはそれには応えず、顔を上げると緒美に話し掛ける。

「部長さん、ちょっと大変な事になってますよ。」

「どうしたの?カルテッリエリさん。」

「エイリアン・ドローンの割と大きな集団が、九州…西の方から東向きに。今、四国の上辺りを飛んでるみたいです。それで、その一部が今、こっちに向かって接近中。」

 そこ迄(まで)聞いた維月がハッとして、声を荒らげる。

「クラウディア!あなた、まさか、またハッキングしてるんじゃないでしょうね?」

 維月は慌てて、クラウディアの背後に回り込み、モバイル PC のディスプレイを覗(のぞ)き込むのだった。それに対して、クラウディアは平然と答える。

「日本の防衛省と防衛軍。報道機関の発表より、こっちの方が正確…。」

「何言ってんの、直ぐにログアウトしなさい!」

 維月は後ろからクラウディアの両肩を掴(つか)み、前後に揺らし乍(なが)ら言うのだった。

「大丈夫よ、別に、指揮系統に介入したりしてないし、ただ覗(のぞ)いてるだけなんだから~。」

「違法アクセスするだけで犯罪なの!何度言ったら解るの、あなたは。」

 緒美は落ち着いた口調で、クラウディアに語り掛ける。

「カルテッリエリさん、だったら、尚更、早く避難しないといけないでしょ?」

「本当に、いいんですか? 部長さんなら、あいつらがこっちに向かってるなら、目標がどこか、見当が付くでしょう?」

「そうね。多分、ここの山の上、防衛軍のレーダーでしょうね。」

「今迄(まで)ずっと北からだったのが、今回は西から侵入して来てます。それで、九州の西側では、それなりの被害が出たみたいですが、本隊の目標が大阪か京都か名古屋かで、防衛軍の対応が混乱してるみたいです。こっちに向かってる一隊への対応は、現状で後回しにされてるみたいですけど、そうすると、最悪、どんな結果になると思いますか?」

「こっちに来るの、あと何分位(ぐらい)か解る?カルテッリエリさん。」

 緒美は両腕を胸の下で組み、クラウディアに問い掛けた。クラウディアはモバイル PC を数回操作して、顔を上げ、答える。

「あと、十五分から二十分、位(ぐらい)でしょうか。」

「だと、航空防衛軍の方でも、対応が間に合わないかもね。陸上の方だともっと無理。ここのレーダーは潰されるでしょうね。」

「問題なのは、その後です。」

「目標を潰したら、その儘(まま)飛んで行って呉れればいいけど。今迄(まで)の記録からすると、目標の近場に有る建造物や街が、次の襲撃対象になる確率が高いわね。」

 そこ迄(まで)黙って聞いていた直美が、口を挟む。

「ちょっと、一番近い建造物って、この学校じゃない。」

「そうなるわね。その確率が一番高いわ。」

 相変わらず、緒美は落ち着いて言葉を返すのだった。それに、クラウディアが言葉を続ける。

「多分、防衛軍の戦闘機がここに到着する頃には、エイリアン・ドローンの襲撃対象はこの学校に移ってるでしょう。」

 その続きは、緒美が語った。

「当然、防衛軍は街の方へはエイリアン・ドローンを進めたくはないでしょうから、ここで食い止めようと攻撃をするわね。空対空ミサイルで、空中で処理出来れば、校内に残骸が落下する程度で済むでしょうけど、地上に向けて機銃掃射したり、空対地ミサイルを使ったりしたら、学校にも相当の被害が出るでしょうね。」

「学校、壊されちゃうんですか?」

 佳奈が、心細げに声を上げる。

「防衛軍が何も対処しなかったら、エイリアン・ドローンが壊すんだから、どっちにしても学校に被害は出るのよ、古寺さん。」

「取り敢えず、シェルターに居れば安全なんでしょ?」

 今度は瑠菜が、緒美に問い掛ける。が、それに答えたのはクラウディアだった。

「必ずしも、そうとは言えないですよね。ここの地下シェルター、対爆構造では無いですよね?」

「対爆構造…って?」

 そう聞き返したのは、ブリジットである。それには、緒美が答えるのだった。

「爆撃を受けても耐えられる構造って事。機銃掃射程度なら大丈夫だと思うけど、多分、空対地ミサイルがシェルターの真上に直撃したら、崩れるかもね。ここのシェルターは、エイリアン・ドローンから身を隠して、建造物の倒壊から避難する為の施設だから。」

 緒美の説明を受けて、今度は瑠菜が声を上げた。

「それじゃ、シェルターに避難しても危険なんじゃ…。」

「瑠菜さん。シェルターにミサイルが直撃する確率なんて、相当に低いわ。冷静に考えて。」

 その緒美の説得に、クラウディアは反論するのだった。

「でも、部長さん。実際にそうなった事例は、過去に何件も記録が有りますよね。」

 そこ迄(まで)、黙って成り行きを見ていた恵が、幾分か強い口調でクラウディアに問い掛ける。

「それで、カルテッリエリさん? そんな風(ふう)に、みんなの不安を煽って、あなたは何が言いたいのかしら?」

 一呼吸を置いて、クラウディアは答えた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


 

HDG-Omi改修・180313

先日来、少しずつ進めてきた「HDG-Omi」の Ver.3 対応化作業が、ようやく一段落。
 以前よりも鼻が少し高くなったり、頬の肉付きを少々落としたりで、Ver.2 に比べれば多少はアングルを選ばなくなった、かなぁ?と、自画自賛しておこう。

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  当然、先日の肩周りの調整結果も反映して有りますが、PP2014 から影響範囲とかの設定をフィギュアからフィギュへコピー出来るようになったので、その辺りの作業が楽に出来て、助かっています。
 さて、次は「Naomi」の Ver.3 化か?新規に「Juri」用のフェイス・モーフを作るのが先か?
 ちょっと思案しましょう。

HDG-Akane改修・180303

「BRR93 Ver.2」の本体が出来上がったので、「Akane」用に両手保持のポーズを作ってみよう~と作業を始めたのですが。
 以前から気にはなっていたのですが~肩周りの可動による変形が今一つ気に入らず。
 そんな流れで、ここ二日ほど、「Akane」フィギュアの肩周辺の関節設定を Joint Editor での調整にトライしておりました。
 先ずは、調整前、「Akane Ver.2」フィギュアで「BRR93 Ver.2」の両手保持ポーズをレンダリングした画像。

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 これだけ見ると、そんなに変ではないかもですが~次に、今回調整した「Akane Ver.3」フィギュアにて、同じポーズで、カメラや背景、ライティングは同条件でのレンダリング結果。

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 並べて見ても、違いがわかりにくいかも、なので~「Ver.3」の画像に「Ver.2」を50%で重ねたのがこちら。

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 矢印を描き込んだ部分で、形状が変化しています。
 同じシーンを別アングルでレンダリングしたのが次の画像。先ずは「Ver.2」。

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 左肩の背中側がゴツゴツしているのが、気に入らないのですが~これが「Ver.3」になると。

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 ちょっとスッキリしたラインになるんですが~解りづらいかもなので、再び「Ver.3」に50%の「Ver.2」を重ねたのが次の画像。

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 左右の肩が少し盛り上がって、背中のラインがスッキリした感じになりました。
 銃を構えたポーズでは何を気にしているのかが、今一つ伝わらないかも知れないので、もっと解りやすいポーズにて。
 肘が前を向いた状態で腕を肩より上に上げる、と言うポーズが、一番、肩や脇の形状が崩れやすい「きついポーズ」なので、それを従来の「Ver.2」フィギュアでやってみたのが次の画像。

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 画像中に赤丸で囲んだ部分が、気になる箇所でして。先ず、腕の付け根の背中側の出っ張り。次に、脇の前側で胸の上から肩に掛けてのライン、ここはもっと内側によって欲しい所。そして、肩の上側の窪み、ここも本来はもっと内側に盛り上がって欲しい形状。
 これらが「Ver.3」では次の画像のようになりました。

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 肩幅が小さくなったような印象を受けるかも知れませんが、ボーンの位置とかは弄ってません。実際、ここまで腕を振り上げると肩の位置も上がっているので、肩幅は小さくなるはずで、「Ver.2」の時のように胸の上部分の幅が、腕を降ろしている時と同じ幅(※オブジェクト的には実際は少し広がっている)なのが違和感の大元なのです。
 で、例によって「Ver.3」の画像に「Ver.2」の画像を重ねると、次の画像になります。

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 調整によって、可成り変わっている事が分かります。
 関節の回転による変形を希望通りに制御するには、モーフを作って、関節の回転と連動(※JCM:Joint Control Morph)させて~みたいな事を普通はやるんでしょうけれど、「Akane」の場合は極力軽いフィギュアを目指していたので、なるべくそう言った方法は採らない事にしていました。唯一、膝を深く曲げた時に太ももが潰れるのだけは、JCM を利用していますが、ここは膝が一方向にしか曲がらないので制御が単純だったので JCM を採用したのです。
 肩はいろんな方向に曲がる関節で、尚かつ、Collar と Shldr、二つのボーンの影響を受けるという複雑さなので、JCM で制御しようとすると複数のモーフを用意する必要が有りそう。それだけ、フィギュアが重くなるので、それは避けたいと言う事と、モーフ・キャラで各ボーンを拡縮した場合の影響が読み切れないと言う事もあって、この部分の JCM 採用は避けた訳です。
 さて、それでは、今回はどうやって調整したのか、と言う事ですが。Joint Editor の「Bulge Settings(※日本語版では:膨らみを適用、となっているのかな?)」を利用しました。

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 この設定は以前はあまり役に立たなかった項目だったので、気休め程度にしか利用していなかったのですが。「PoserPro2012」以降(※PP2010以降、だったかも?)、「Bulge Settings」にウェイト・マップが適用出来るようになっていたのを思いだして、これを利用してみた訳です。

 以前は設定した倍率で膨らませるか凹ませるかしかできず、その範囲も自由にならなかったので、あまり使い道のない機能だったのが、ウェイト・マップで影響の強度と範囲が指定出来るようになると、想像以上に使える機能に変わっていました。これならよほど複雑な変形をするのでない限り、JCM は使わなくて済みそうだ、と言う事で、意外な所で Poser の進化を実感いたしました(笑)。

HDG-Akane/Brigitte 改造・180130~180211

別の場所では既報ではありますが、再び「Akane」フィギュアのヘッドを弄ったので、一応こちらでも記録。
 掲載画像を見ても、殆ど違いがわからないとは思うけど。

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 目と目の間の鼻の稜線を少し盛り上げ、唇全体を少し後退、併せて唇後退の影響を受ける鼻の下とか頬とかのメッシュを整形しました。
 頭上に光源ある場合に、前の形状だと鼻から下が陰になりがちだったので、その傾向を緩和するための改造。顔の下半分を若干、フラット気味にした訳ですが。
 結果、最初に 2D で描いたテンプレート画像に近いラインになりました。
 件のテンプレート画像は、それほど精度を上げて描いた物ではなかったので、モデリング時の飽くまで目安程度(目鼻の位置バランスの目安)にしか考えていなかったのだけれど、意外とバカにしたものではなかった様で(笑)。一周回って元に戻った感じ。
 

そして、日を改めて「Akane」のヘッド・オブジェクトを Ver.3.0 から Ver.3.1 へ改造したのに伴って、「Brigitte」も~と言う事で、ボチボチと「Brigitte」のヘッド・モーフを弄っておりました。
 その中で、気がついたのだけれど。余所の最近のフィギュア事情は良く知らないのだけれど「HDG-Akane」は目を閉じた状態でモデリングして、目を開けるのをモーフにしてあります。
 以前の Poser フィギュアは目が開いた状態でモデリングしてあって、目を閉じるのがモーフ、と言うのが多かったように思います。
 自分的には、目を閉じた時に瞼(まぶた)の UV がのびのびになるのが嫌で、目を閉じた状態をデフォルトにしてモデリングしたのですが、まぁ、それはどうでもよろしい。
 「Akane」は当初、目を見開いた状態が表情を作る上で必要かな、と言う事で、目を開くモーフの 80% 状態が目を開いた通常状態になるように制御してありました。が、Ver.3.0 で瞳の収縮モーフを追加したので~標準状態で目を 100% 開けておいても、良くなりました。あと、110% までモーフを効かせても形状的には破綻しない事を確認したので、今後は目の開度のデフォルトを 100% に変更することにしました。そんな感じで、比較画像。

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 矢張り、20% 開度が違うと印象が可成り違うなぁ、と。
 で、同様に改修した「Brigitte」の比較画像。

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 そう言う訳で、ベースになる「Akane」のメッシュを弄っちゃったので、他の全てのモーフ・キャラは修正を余儀なくされたのは、まぁ、以前も言及した通り(笑) 目安に作ったテンプレート画像も捨てた物じゃなかった、と言う教訓も得られたのも併せて、他のモーフ・キャラ達もボチボチと改修を進める事にします。
 で、「Akane」の顔を弄る必要が出来たら、今度は「Akane」用のヘッド・モーフにしないと、余計な作業が増えるな~と言う事に後で気がつきました。次回からはそうしよう(笑)

STORY of HDG(第8話.15)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-15 ****


「樹里ちゃ~ん。ちょっと、来て貰えるかな~。」

 声の方に目をやると、安藤が手を振っているのが見える。

「あ、ちょっと行ってきます。みんなは先にバスに乗ってて。」

 そう一同に声を掛けて、樹里は安藤の方へと向かった。安藤の周囲では、幾人かのスタッフが計測機材の取り外しや、ケーブル類の梱包等で忙しそうに動き回っている。
 樹里が近く迄(まで)来ると、安藤は天野重工の大きな書類入れ封筒を差し出した。

「悪いわね。これ、主任から維月ちゃん宛。預かってちょうだいね。」

「一応、中を確認させて貰いますね。」

 樹里は封筒を受け取ると、留め具の紐を解(ほど)き、中を覗(のぞ)く。封筒の中には、綺麗にラッピングされた小さな包みが入っていた。
 封筒の留め具に、元の様に紐を巻き付け、樹里は再び封筒を閉じた。

「では、お預かりします。」

「この書類入れなら、緒美ちゃんにも気付かれないでしょう?」

 安藤が樹里だけを呼んだのは、井上主任から預かった維月への誕生日のプレゼントを、樹里に預ける為だった。この後、予定されている『運用試験の打ち上げと称する誕生日パーティー』は、緒美もサプライズの対象だったので、緒美の前でプレゼントを樹里に預けるのが躊躇(ためら)われたのだ。樹里の役割上、試験中は常に緒美が傍(そば)に居た為、安藤はプレゼントを託す機会を、なかなか掴めずにいたのである。

「でも、本当なら、主任さんが来て、直接、維月ちゃんに渡して呉れたら良かったのに。それに、わたしも、主任さんとは、お会いしてみたかったな。」

 樹里は封筒を眺(なが)め乍(なが)ら、そう所感を漏らした。

「あはは、主任もみんなに、特に樹里ちゃんには会ってみたいって言ってたわ。維月ちゃんと仲良くして呉れて、何時(いつ)も感謝してるって、樹里ちゃんには、そう伝えてって言われてたのよ。」

「そうですか…あ。 ひょっとして、主任さんは、維月ちゃんと会うのを避けてません?」

 樹里は視線を安藤へと戻し、瞳を覗(のぞ)き込む様に見詰めて、そう聞いてみた。

「そんな風(ふう)に見える?」

「だって、主任さんの立場なら会おうと思えば、そんなチャンスは幾らでも有ったと思うんですよね、今迄(まで)。今日は、無理だったのかも知れないですけど。まぁ、維月ちゃんは維月ちゃんで、お姉さんの仕事の迷惑にならない様にって、何時(いつ)も、変に気を遣ってるのが、少し気にはなるんですけど。」

 安藤は小さく息を吐(は)くと、力(ちから)無く笑って、言った。

「主任がお忙しいのは、本当よ。でも、去年、年末の、維月ちゃんの手術の時とか、その前後とかに、御見舞に行けなかった事とか、割と気にはしてるのみたいなのよね。歳が一回りも違う所為(せい)か、妹と言うよりは娘みたいだって言ってたけど、維月ちゃんの病気と仕事が忙しいのが重なった所為(せい)で距離感が解らなくなった…みたいな事をね、まぁ、言ってたりもして。Ruby の案件に目処が付けば、少しは暇になるだろうから、そうしたら、主任の気分も変わるんじゃないかなって、部外者なりに、わたしはそう思ってるんだけど。」

「その目処(めど)は、何時(いつ)頃(ごろ)、付きそうですか?」

「それは残念乍(なが)ら、わたしには見当も付かないわ。ともあれ、それ迄(まで)は、見守ってあげてね、維月ちゃんの事。」

「そうですね。他人に出来るのは、それ位(くらい)ですよね。」

 樹里の返事を聞いて、安藤は「あははは」と笑い、スッと右手を樹里の顔の方へ伸ばし、そっと頬に触れて言うのだった。

「他人、じゃなくて、友達、でしょ。」

 樹里は一度視線を下げ、一呼吸置いて視線を戻すと微笑(ほほえ)んで答える。

「そう、ですね。 では、失礼します。」

 樹里は一歩下がって、安藤に会釈をすると踵(きびす)を返し、マイクロバスへと向かった。


 マイクロバスの入り口、ステップを上がり車内に入ると、運転席の直ぐ後側の席に座っていた立花先生が、樹里に声を掛ける。

「何ですって?安藤さん。」

 樹里は受け取った書類入れ封筒を掲げて見せ、答える。

「以前、お願いしていた資料のコピーだそうです。」

「今時、データじゃなくて、紙で?」

 先生の細かい突っ込みに、一瞬ドキリとした樹里だったが、咄嗟(とっさ)に出任(でまか)せを言うのだった。

「元の資料が書籍だったので、データ化する方が手間だったらしいですよ。」

「そう。あ、早く席に着きなさい。」

「はーい。」

 樹里は内心で胸を撫で下ろし乍(なが)ら、バスの後方へと進む。
 バスの座席配置はバス後方へ向かって、左手側が二席、中央の通路を挟んで右側に一席となっており、運転席の後ろ二列目に左から緒美と恵、通路を挟んで直美が座っていた。

「ねぇ、森村ちゃん。ホントにこの後、打ち上げとかやるの?」

「あはは、緒美ちゃんは騒がしいの苦手だもんね。まぁ、段取りはわたしと副部長とでやって有るから、付き合ってよ。」

「そうそう、HDG と LMF に関しては、今日の試験で一区切りなんだから。ちょっと位(ぐらい)、お祝いしても良いですよね、先生。」

 直美に話を振られて、立花先生は振り向き、座席のヘッド・レストから顔を覗(のぞ)かせて言った。

「そうね、あなた達は普段が真面目過ぎる位(くらい)だから、偶(たま)には高校生らしく、年相応(としそうおう)に燥(はしゃ)ぐと良いわ。」

 三列目には左窓際に瑠菜が、四列目には左窓際にクラウディアが座り、その隣には佳奈が座っていた。

「あら、佳奈ちゃんとカルテッリエリさん、すっかり仲良しになったみたいね。」

 樹里は三列目の通路側シートに置いてあった愛用のモバイル PC を取り上げ乍(なが)ら、後席の二人に声を掛ける。

「そう言うのじゃ、ありません。古寺先輩が離れて呉れないだけです。」

「えぇ~良いじゃない~クラリ~ン。」

「クラリン、言わないで下さい!」

 樹里は瑠菜と顔を見合わせて、くすりと笑うと、瑠菜の隣の席に腰を下ろし、膝の上にモバイル PC と安藤から預かった書類入れ封筒を乗せた。
 因(ちな)みに、茜とブリジットの二人は最後尾の四列シートに、インナー・スーツを納めた箱が両脇に置かれている、その間に座っていた。
 そして間も無く、畑中が乗り込んで来る。

「お待たせ~。キーは誰が持ってるのかな?」

「はい、畑中先輩。」

 恵が席を立ち、キーを手渡す。
 キーを受け取った畑中は、直ぐに運転席へと着き、シート・ベルトを装着してから、水素燃料で稼働する内燃機関(エンジン)を始動する。

「運転手役ばっかりで、何だか申し訳(わけ)無いわね、畑中君。」

 後席から、そう立花先生に声を掛けられ、畑中は笑って答えた。

「あはは、大丈夫ですよ。HDG や LMF にトラブルが起きなきゃ、試作部から参加してるメンツは基本、用無しですから。それに、天神ヶ﨑の卒業生だから、ここら辺(へん)の地理には明るいし、運転手役が回って来るのは、寧(むし)ろ当然。」

 畑中はシートから身を乗り出す様に振り向き、車内を確認して言う。

「人数は揃(そろ)ってるね。忘れ物とか無ければ、出発するけど。あ、みんなもシート・ベルトは締めてね。」

「そう言えば、畑中先輩。わたし達を送った後、どうするんです?このバスは学校のだし。」

 そう問い掛けたのは、直美である。

「あぁ、昼に運転して来たの、大塚さんだったろ?大塚さんが学校まで乗って行った会社のクルマが学校に停めてあるから、それでこっち迄(まで)戻るんだ。」

「そのクルマのキー、忘れてませんよね?」

 と、今度は恵が問い掛ける。

「そんな、間抜けじゃありませ~ん。ちゃんと預かってます。」

「そう言えば、畑中先輩はどうして、大型車の運転免許とか持ってるんですか? 一度聞いてみたかったんですけど。」

 そう問い掛けたのは、緒美だった。

「あぁ~試作部の配属になるとね、若い内に色々と資格を取らされるのさ~。大型車の免許に就いては、輸送を外部の業者に委託して、そこから試作品の情報とか漏れるといけないから、試作部が自力で輸送も出来る様にって事でね。今回も秘密保持って事で、学校の職員さんじゃなくて、俺たちがこのバスを運転してる訳(わけ)だ。まぁ、キミらも将来、もしも試作部の配属になったら、その時は覚悟しとく事だね。 じゃぁ出発するよ~。」

 バスはゆっくりと動き出し、回頭して演習場のゲートへと向かう。
 時刻は、午後四時を少し回っていた。

 

- 第8話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第8話.14)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-14 ****


 緒美はそれを受け取ると、装着する前に、安藤に尋ねるのだった。

「もう、いいんですか?」

「大丈夫よ、さっきも Ruby に言った通り、会社のネットワークに繋がれば、何時(いつ)でもお話は出来るんだから。」

 その時、安藤は茜とブリジットの二人が、天幕下へと戻って来ていたのに気が付いた。
 ブリジットはトランスポーター一号車の後部で茜が HDG を降ろして出て来るのを待って、茜と二人揃って天幕へと戻って来たのだ。

「あ、お疲れ様~二人共。」

 そう、安藤に声を掛けられた茜とブリジットは、軽く会釈すると、顔を上げた茜が安藤に問い掛ける。

「あの、ちょっと、聞いていいですか?安藤さん。」

「何かしら?どうぞ。」

Ruby がニックネームで呼び掛けるのって、珍しいですよね?先生の事だって『智子』って名前で呼んでる位(くらい)なのに。」

「あぁ~さっきの、聞かれちゃってた?」

 安藤は照れ臭そうに、後頭部へと右手をやり、自分の髪を撫でている。

「アレはね、まぁ、主任の悪戯(いたずら)みたいな物なのよ。Ruby がわたしの事を名前じゃなくて渾名(あだな)で呼んでいるのは、そういう風(ふう)にプロテクトが掛かっているからなんだけど。 それが、Ruby が正常に機能している証拠、みたいな…ごめんね、あまり詳しくは説明する訳(わけ)にはいかないんだな、この件に就いては。みんなは気にしないでちょうだい。」

「はぁ…企業秘密って事ですか。」

「そ。そう言う奴。ごめんね~。」

「安藤さんが何故に『ゼットちゃん』か?と言うのも、秘密なんですか?」

 今度はブリジットが問い掛けるが、それには、樹里が答えるのだった。

「『安藤』と『undo(アン・ドゥ)』を掛けた洒落よ。で、キーボードで『undo(アン・ドゥ)』、やり直しのショートカットのキーが『Z』、まぁ、実際は『Ctrl(コントロール)』と『Z』だけど。」

「それに加えてね…。」

 安藤が樹里の解説に、補足を加える。

「…新人の頃にね~大量の打ち込み作業を任されたんだけど。その時にテンパっちゃってね、『Ctrl+Z(コントロール・プラス・ゼット)』を連打してるのを主任に見られたのが、そもそもの始まり。それ以降、さっき樹里ちゃんの言ってた洒落の意味も合わせてね、課でのわたしの呼び名が『ゼットちゃん』になった訳(わけ)。 流石に、二年、三年と経つ内に、普通に『安藤』って呼ぶ人が増えたけど、未(いま)だに、主任だけは『ゼットちゃん』なのよね~。」

 そう言って苦笑いする安藤を横目に、机に凭(もた)れる様にしていた身体を起こし、恵は茜とブリジットの方へと身体を向けて話し掛ける。

「取り敢えず、着替えていらっしゃい、二人共。バスのキーは預かっているから。あ、シャワー、必要だったら管理棟のを使っていいそうだけど?」

「わたしは寮に帰ってからにします、シャワーは。ブリジットはどうする?」

「わたしも、寮に戻ってからでいいわ。一応、わたしは屋根付きだったから、それ程、汗、掻いてないし。」

「そう。じゃぁ、直接、バスの方へ行きましょうか。」

 恵は制服のポケットに手を入れ、バスのキーを取り出すと歩き出した。茜とブリジットは安藤達に小さく会釈した後、恵の後を追ってその場を離れたのだった。
 その一方で、トランスポーター二号車では、Ruby が自律制御で LMF を操り、中間モードに移行してトランスポーターの荷台へ上がろうとしていた。先(ま)ず、右側のホバー・ユニットを振り上げると、先端部分を荷台に乗せ、爪先立ちの様な姿勢で重心を荷台の上へと移動させ、左側のホバー・ユニットを荷台上へと引き上げる。左右とも爪先立ちの姿勢で、二度、足踏みする様に機体の位置と向きを少し変え、踵(かかと)を降ろすと通常の高機動モードへと移行した。続いて、ホバー・ユニットを起動して荷台上で浮上すると、バーニア・ノズルを噴かし、トランスポーター二号車の荷台に機軸を揃(そろ)え、荷台上に降りるのだった。

「荷台への移動を完了。自律行動を終了します。」

 Ruby の報告が、天幕下に響く。

「ご苦労様、Ruby。じゃぁ、スリープ・モードへの移行作業をやって貰うから、暫(しばら)く待機しててね。」

「ハイ、緒美。」

「それじゃ、移行作業やって来ます。」

 樹里はコンソールの傍(かたわ)らの、長机上に置いてあった自分のモバイル PC を手に取り LMF へと向かおうとして直ぐに足を止め、振り向く。

「安藤さん、一緒に確認して頂けますか?」

「あぁ、いいわよ。」

「それじゃ、部長。行ってきます。」

「はい。宜しくお願いね。」

 樹里と安藤は、二人連れ立ってトランスポーター二号車へと向かったのだった。

 それから十五分ほど経って、兵器開発部の一同が揃(そろ)って帰り支度をしていた時、立花先生が飯田部長を伴って天野重工の天幕へと戻って来た。
 防衛軍側の天幕の方では、防衛軍側の人員に因って、天幕の解体が既に始まっている。

「いやぁ、みんな、今日はご苦労だったね。」

 飯田部長がご機嫌そうな笑顔で、開口一番、そう言った。

「みんな、揃(そろ)ってるわね。ちょっと、飯田部長からお話が有るから、聞いてちょうだい。」

 立花先生が、改まった口調で言うので、一同は飯田部長へと注目する。

「おぉ、そんな硬くならずに、楽にして聞いてくれ。あ~、正直、防衛軍の方(ほう)は HDG には、当初、余り興味が無かった様子なんだが、みんなが見せてくれたパフォーマンスが素晴らしかったので、多少は興味を持って呉れたみたいだ。そこで、陸上防衛軍の戦車部隊と HDG とで模擬戦をやってみないか、と言う提案を頂いたのだが、どうだろうかな?」

「提案?…なんですか。」

 緒美が訝(いぶか)し気(げ)に聞き返すと、それには立花先生が答える。

「提案、よ。彼方(あちら)は彼方(あちら)で部隊内での調整とか必要だから。今の段階では陸上のお偉方(えらがた)の、単なる思い付きなの。」

 続いて、飯田部長が補足する。

「勿論、安全には配慮して呉れる約束だから。君達の都合が付く様なら、彼方(あちら)も調整を進める、と言っている。日程や内容の摺り合わせは、又、後日にする事になるだろうけどね。」

 そこ迄(まで)、飯田部長の説明を聞いて、緒美は一息、すぅっと吸い込んでから、茜の方へ向き直って、言った。

「天野さん、あなたはやってみたい?模擬戦。内容次第だとは思うけど、怖い様なら、断っても良いのよ。」

 話を振られて、茜は一度、視線を宙へと向け、少し考えてから答えた。

「部長の言われた通り、内容次第ですね。今日の試験を終えて、HDG の動作や機能的な面には不安はありませんので、やって意味の有る内容であれば、お受けしても良いかな、と、思います。」

 茜の緒美に対する返事を聞いて、飯田部長はニヤリと笑って確認する。

「それは承諾、と受け取って良いのかな?」

「基本的には。飽くまでも、内容次第で、と申し上げておきますけど。」

 と、今度は、茜は飯田部長に向かって答えた。

「緒美ちゃんも、それでいい?」

 飯田部長の隣に立つ、立花先生が緒美に確認する。

「ドライブするのは天野さんですから。天野さんが行ける、と言う条件なら、わたしとしては反対する理由はありません。」

「解った。それじゃ、先(ま)ずは内容の摺り合わせからと言う事で、先方とは話してみるよ。また、何か決まったら、改めて連絡する事にしよう。」

「宜しくお願いします。」

 緒美は、飯田部長に軽く頭を下げる。それを見て、茜が、そして他の一同も飯田部長に一礼するのだった。

「今日は土曜日なのに、こんな時間までご苦労だったね。支度が済んだら、遠慮は要らないから、先に引き上げて呉れ。あと、学校に戻す機材は、二十時過ぎに到着する予定だから、受け取り確認の方(ほう)は頼むよ。」

 飯田部長の言葉を受けて、立花先生は緒美達の列の前へ移動し、飯田部長の方へ向き直り、言った。

「はい。では、早々に退散させていただきます。撤収作業のお邪魔になってもいけませんので。」

「あぁ、帰りの運転手は畑中君がいいかな。彼、君達とは顔馴染みだしな。わたしの方で声を掛けておくよ。」

「はい。お願いします。 じゃぁ、みんなはバスの方へ。」

 立花先生に促(うながさ)されて、兵器開発部の一同は「失礼します」と、今一度、飯田部長に一礼した後、学校のマイクロバスへと向かって歩き出す。すると、隣の天幕下、その奥から、樹里に呼び掛ける、安藤の声が聞こえたのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第8話.13)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-13 ****


 そして、一息吐(つ)いてから、樹里は話を続けた。

「それで、祖父の遺品の中に、わたし用のプログラミングのテキストが有りまして。祖母の話だと、祖父がわたしと約束した後から、子供でも解る様なテキストを作ってくれていたそうです。」

「お祖父様は、あなたに教えるのを楽しみにしていたんでしょうね。」

「らしいですね。 それで、祖父の持っていたマシンとか、雑誌や専門書とかの資料一式、わたしが譲り受ける事になしまして。わたしは祖父の作って呉れたテキストで、マシンの操作とかプログラミングの基礎を勉強して、その後は、祖父から譲り受けた本とか、ネットの情報を頼りに独学で~って言う感じです。 特に、小六の頃は、ネットで専門的な事を質問し捲(まく)ってたり。皆さん、親切に教えて呉れたので、あの時期に随分と理解が進みました。」

「あ。」

 突然、安藤が目を丸くして、短く声を上げた。樹里は少し驚いて、安藤の方へ目を向ける。

「何ですか?安藤さん。」

「いえ、ちょっと唐突に、少し昔の事を思い出して。 樹里ちゃんが小六って、五年くらい前の事よね?」

「そう、ですね。それが何か?」

「わたしが入社した年の事だから、良く覚えてる…いや、今まで忘れてたんだけど。あの年、ネットで、ソフト関連で、やけに専門的な事ばっかり聞いてる自称小学生が居るって話題、有ったのよね。ネットの一部、主にソフト開発クラスタ界隈(かいわい)で。うちの課でも、こんな事聞いて来る小学生なんか居る訳(わけ)無いだろうとか、言ってたんだけど。」

 樹里は安藤の話に心当たりが有ったので、視線を一度宙に上げ、再び安藤へと戻した。

「あぁ~…その、自称小学生のハンドル・ネームとか覚えてます?安藤さん。」

「えぇっと…確かね『JJ』とか『ジュリエット』とか…え?『ジュリ…エット』?」

 樹里は照れ臭そうに笑い乍(なが)ら、言った。

「あはは、それ、わたしです。」

「あ、あぁ~、あぁ、成る程ね。いや、何だか納得したわ、凄く。うん、あはは、あぁ、そうか、そうかぁ~。 じゃぁ、あれは、矢っ張り、本当に小学生だったんだ~。」

 安藤は一度手を打って、大きく頷(うなず)いた。そこで、二人の会話を聞いていた恵が、少し茶化し気味に割って入る。

「意外と城ノ内さんは、昔から有名人だったのね~。」

「いえ、変に有名になりそうだったから、そうなる前に、ネットで質問するのを止めたんですよ。恵先輩。」

 興味津々と言った体(てい)で、身を乗り出す勢いで安藤が問い掛ける。

「そうよね、秋位(ぐらい)からパッタリ、質問が上がらなくなったから、それはそれで話題になった物だったけど、当時は。 そのあとは、どうしてたの?」

「あぁ~そのあと、中学生になってからは…年齢を誤魔化して、企業とかが主催のプログラム・コンテストとかに応募してました。腕試しに。」

「それで?優勝し捲(まく)ってたとか?」

 瞳を輝かせ、安藤が追求する。それに、少し困った様に樹里は答えた。

「いえ、さっき言った通り、応募する為に年齢を誤魔化してたので。 プログラムの出来は良かったらしいんですが、参加規定以下の歳だったのがばれて自動的に不合格になったり、ばれる前にこちらから受賞を辞退したり、で。そんな訳(わけ)で、受賞歴とか華々しい物は一切有りませんよ。賞金云云(うんぬん)の話も有ったんですけど、幸い、両親も特に欲を出さなかった物で~。 まぁ、今考えてみれば勿体無(もったいな)かったよね~って、母とは話す事が有りますけど。」

「城ノ内さんのそう言うお話、初めて聞いたわね。」

 今度は緒美が、ポツリと言った。それに、恵が付け加える。

「城ノ内さんは、普段、自分の事は余り話さないものね。」

「う~ん、特に聞かれた事も無かったので。それに、普段は聞き役に回る方が多いと言うか。」

「あはは、その辺り、城ノ内さんは『お姉さん気質』なのよね。」

 恵が笑ってそう言うと、樹里も微笑んで答えた。

「かも、ですね。実際、弟と妹が居ますので、その所為(せい)でしょうか?」

「あぁ、樹里ちゃん、『お姉ちゃん』だったんだ。樹里ちゃんの妹と弟なら、その二人も優秀なんでしょうね~。」

「いいえ、それが二人とも両親に似て、普通の女の子と男の子ですよ。家族には、わたしだけがこっち方面に填(はま)っちゃったのは、お爺ちゃんの隔世遺伝なんだって言われてます。」

 そう安藤に答えて、樹里は笑った。

「コックピット・ブロックの接続、完了しました。」

 突然、天幕下に Ruby の合成音が響く。樹里達が雑談をしている間に、自律制御で Ruby はコックピット・ブロックの再接続作業を進めていたのだ。勿論、樹里は雑談をし乍(なが)らも、その状況をコンソールでモニターしていたのだが。
 そして、丁度(ちょうど)、タイミングを同じくして、トランスポーター二号車が、畑中の運転で一号車の後方へと移動されて来て、停車した。

「オーケー。それじゃ、次はトランスポーター二号車の荷台に、自律制御、中間モードで上がってちょうだい。そのあとで、スリープ・モードへの移行作業をやって貰うから。」

 緒美は、ヘッド・セットのマイクで Ruby へ指示を伝える。それに対する Ruby の返事は、少し意外な内容だった。

「分かりました。その前に、『ゼットちゃん』と少しお話しする事は、可能でしょうか?」

 『ゼットちゃん』とは、安藤の設計三課でのニックネームである。

「あぁ、いいわよ。ちょっと待ってね。」

 Ruby が安藤の事を『渾名(あだな)』で呼ぶ事を知っている緒美は、躊躇(ちゅうちょ)無く自分のヘッド・セットを外して、安藤へと差し出し、言った。

「どうぞ、安藤さん。」

「ありがと。」

 安藤は腕を伸ばし、樹里の背中越しにヘッド・セットを受け取ると、首に掛けていた試験機材の制御班との連絡用ヘッド・セットを外し、緒美から受け取った Ruby のコマンド用ヘッド・セットを装着する。

「ハァイ、Ruby。安藤です、何かご用?」

「ハイ。今日の試験の様子は、ご覧になっていましたか?」

「勿論、最初から最後迄(まで)、緒美ちゃんや樹里ちゃんと一緒に見てたわよ。」

「それでは、『ゼットちゃん』の評定を聞かせて下さい。」

「さっき、立花先生にもお話ししたんだけど、ログの解析にそれなりの時間が掛かるから、正式な評価は可成り先になるんだけど。」

「それは承知しています。」

「じゃぁ、わたしの個人的な感想でいいのね?」

「ハイ、構いません。」

「そう…ね。わたしが見た限り、何も問題は無かったわね。主任にも、そう報告しようかと思っているの。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「いいえ、いいのよ。学校に戻って、あなたが会社のネットワークに接続したら、また、お話ししましょうね、Ruby。」

「ハイ。楽しみにしています。」

「それじゃ、コマンドを緒美ちゃんに返すわね。」

 そう言うと、安藤はヘッド・セットを外し、緒美へと差し出すのだった。

「ありがとう、緒美ちゃん。」


- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第8話.12)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-12 ****


「何だよ、気持ち悪いなぁ~俺、何か変な事、言った?安藤さん。」

 理由を聞かれて、安藤は笑いを堪(こら)えつつ言葉を返す。

「ごめんなさい…ちょっと、タイミングが悪かっただけで、変な事は言ってません。あ~、『立花さん』は飯田部長の所へ行くって。」

「畑中先輩、取り敢えず一号車を動かして頂けますか?天野さんが装備を降ろせないので。」

 皆と一緒に笑っていた緒美も、何時(いつ)もの冷静な表情に戻って、畑中に話し掛ける。

「あぁ、そうだった。直ぐにこっちに回して来るから。」

 畑中は慌てて天幕の後方、管理棟横の駐車スペースへと走って行く。
 一方で、スラスター・ユニットの再接続、起動から LMF との接続解除まで一連の作業を終えた茜が、畑中とは入れ替わる様に天幕の前に到着し、声を掛けて来る。

「何だか、楽しそうですね~。」

「あぁ、天野さん、ご苦労様。」

 戻って来た茜に、緒美が労(ねぎら)いの言葉を掛けた。

「何が有ったんですか?」

 茜の質問に、普段通りの笑顔で恵が答える。

「大した事じゃないわ。さっきのはタイミングが命、みたいな笑い所だから、後で聞いても、大して面白い話じゃないと思うの。その場に居合わせなかったのが、残念だったわね。」

「そうですか。それは残念です。」

 その一方で、ヘッド・セットのマイクを通じて、緒美がブリジットに話し掛ける。

「あ、ボードレールさん。コックピット・ブロックを接続するから、LMF の前に移動してちょうだい。接続作業は Ruby の自律制御でやるから、LMF の前に置いたら、降りていいわよ。電源は切らないでおいてね。」

「は~い、移動します。」

 天幕下のモニター・スピーカーから、ブリジットの返事が聞こえた。
 天幕の東側で『アイロン』に乗った儘(まま)待機していたブリジットが、LMF に向かって『アイロン』を走らせると、その後ろからは畑中が運転するトランスポーター一号車が走って来て、天幕の前を右に向きを変えると緒美達の前で停車した。そして、コンテナ後部の扉が地面に向かって、ゆっくりと開く。
 それを確認して、直美は席を立ち、隣の天幕下で佳奈とクラウディアの二人と談笑していた瑠菜に、大きな声で呼び掛けた。

「瑠菜~、HDG のメンテ・リグ立ち上げるよ~。」

「は~い。」

 二人の元を離れて、瑠菜は駆け足で一号車へと向かう。それと入れ替わる様に、一号車の運転席から降りた畑中は、二号車へ向かって駐車スペースへと駆けて行った。

「じゃ、部長。HDG、降ろして来ます。」

「はい。終了作業も気を抜かないでね。」

「はい、分かりました~。」

 茜はクルリと向きを変えると、一号車の後部へと向かって歩き出す。
 そして一号車へと中程辺りまで行った所で、その向こう側に停止している LMF の方から、『アイロン』を降りて天幕の方へと向かうブリジットと、茜は出会(でくわ)すのだった。
 二人は互いに「お疲れ」と言葉を交わすと、試験開始前の様に掌(てのひら)を軽く打ち合わせた。
 そんな様子を、コンソールを操作する手を休めて、樹里は何と無く眺(なが)めていた。そして、不意に、安藤に話し掛ける。

「さっきの、バグ取りが一気に進んだって話、可成の部分、天野さんのお陰、みたいな感じなんですよ。」

「そうなの?」

「はい、天野さんがテストをする様になってから、矢っ張り動かしてみないと解らない不具合って、いっぱい有るみたいで。これが又、天野さんが不具合が見つかる様に動かしてみるのが上手いって言うのか。彼女が仕様を全部理解した上で動かしているからこそ、なんだと思うんですけど。」

 そう言って、樹里は再びコンソールの操作を再開するのだった。
 安藤は一息吐(つ)いて、言った。

「凄いわね。」

「でしょう。あれで、一年生なんだから…」

「あぁ、ごめん。わたしが言ったのは、あなたの事よ、樹里ちゃん。まぁ、確かに天野さんも凄いとは思うけど。」

「わたし…ですか?」

 樹里は再び手を止め、安藤の方へ顔を向ける。

「そうよ。五月初めの電源関連のもそうだったけど、普通、動作の不具合からプログラム上の不正箇所を特定する迄(まで)が一番時間が掛かる物だけど、樹里ちゃん、何時(いつ)も不正箇所に大体の見当(けんとう)を付けて、不具合報告上げてくれてるでしょ。修正作業を担当してる五島(ゴトウ)さんとか、何時(いつ)も助かるって言ってるし。うちの主任も樹里ちゃんの事は、凄く評価してるの。課長なんか、今から人事部に樹里ちゃんの入社後の配属予約を交渉してる位(ぐらい)なんだから。」

「それは、どうも…ですけど、わたし、まだ二年ですよ?」

「それが、つくづく残念なのよねぇ。卒業迄(まで)まだ、一年半も有るなんて。維月ちゃんと、序(つい)でに、クラウディアさんも一緒に、飛び級で卒業させて貰えないかしら。」

「流石に、それは無茶ですよ。」

 樹里と安藤、二人は顔を見合わせて、笑った。

「そう言えば、樹里ちゃんは何時(いつ)頃からプログラミングとか習ってたの? 聞いた事無かったけど、矢っ張り維月ちゃんみたいに、ご両親がそっち系だったり?」

「あぁ、わたしは維月ちゃんみたいなサラブレッド的なのじゃないです。両親はソフト関係とは無縁でしたし。只、母方の祖父が、そっち系のエンジニアだったんですけどね。」

「じゃ、お祖父様から?」

「う~ん…そこは難しい所で、祖父から直接、教わってはいないんですけど。基本は、ほぼ独学ですが…いや、基礎は祖父から習った事になるのかな?」

「なんだか複雑そうね。」

「あ、いえ。それほど難しい話ではないんですが。 母の実家に遊びに行っている内に、祖父のやっている事に興味を持ったのが小学校の一年生頃の事で。その時に、祖父が、わたしが十歳、小四になったら教えてあげるって約束して呉れたんですよ。それ迄(まで)は学校の勉強を、しっかりやりなさい、と。」

「うん、うん。」

「所が、わたしが小三の冬、年が明けて一月の末頃に、祖父が急死してしまいまして。心不全だったかな…。」

「あら、何だか悪い事、聞いちゃったみたいね。ごめんなさい、樹里ちゃん。」

 安藤は慌てて謝意を述べるが、それには樹里は恐縮する他無かった。
 樹里はコンソールの操作を再開しつつ、言った。

「いえ、いいんですよ。もう、何年も前の事ですから。」

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第8話.11)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-11 ****


「あ、畑中さん。…はい、トランスポーターを…はい、そうですね。…はい、あ、ちょっと待って下さいね。 緒美ちゃん、LMF の積み込みはどうやる、って畑中さんが。」

「はい、降ろす時と同じで、Ruby の自律制御でやってしまうのが簡単で良いかな、と。」

「だよね。もしもし、畑中…はい、緒美ちゃんは Ruby の自律制御でって…はい、繋留は後で良いかと…ええ、では、お願いします。」

 ポケットに携帯端末を仕舞い乍(なが)ら、安藤は緒美に言った。

「直ぐに、トランスポーターを動かして呉れるって。」

「畑中先輩、今、どこに居るんですか?」

 そう安藤に聞いたのは、緒美の後列の長机に、後ろに回した手を付いて寄り掛かっていた恵である。

「あぁ、西側の一番奥から順番に、標的の解体作業中だって。」

「一番、遠いじゃないですか。」

 安藤の答えを聞いて、呆(あき)れた様に声を上げたのは直美だった。

「そこから歩いてこっち迄(まで)って、結構大変よね。トラックで来ると、その間、撤収の積み込み作業が止まっちゃうし。」

 恵は左後方に居る直美の方を向いて、撤収作業の停滞に対する懸念を口にする。そして、今度は緒美の方へ向き直り提案する。

「ブリジットを迎えに行かせたら?鬼塚。」

「そうね。」

 直美の提案をあっさりと受け入れる緒美を見て、安藤が口を挟(はさ)む。

「ちょっと、コックピット・ブロックは一人乗りでしょ?大丈夫かしら。」

 それを聞いて、直美は一笑いして、言った。

「エンジン・ポッドの上に座れますよ、シートは有りませんけど。飛ばさなきゃ、ちゃんと掴まってれば落ちたりしないでしょ。男の人なんだし。」

「えぇ~大丈夫かな。」

「では、そう言う事で…。」

 直美の意見を聞いても不安気(げ)な安藤だったが、その様子を緒美は意に介さず、ヘッド・セットを通じてブリジットに指示を出すのだった。

「…あ、ボードレールさん。ごめんなさい、一つお願いごと。西側の標的の奥の方に、畑中先輩を迎えに行って来て呉れないかな。」

「良いですけど、お客さん用のシートは有りませんよ。」

 モニター・スピーカーから聞こえて来たブリジットの返事を聞いて、失笑したのは直美だった。ブリジットの返事は短かったが、その語感から直美と同じ様な事を考えているのが伝わって来たのだ。

「まぁ、それは我慢して貰いましょう。こっちに来る時は先輩が落ちない様に、ゆっくり目で走ってあげてね。」

「解りました。行ってきます。」

 モニターからブリジットの声が聞こえて間も無く、天幕の後方側から割といい勢いで『アイロン』が飛び出して行くのを、その場で一同は見送るのだった。
 少し唖然としていた安藤だったが、気を取り直す様にポケットから携帯端末をもう一度取り出し、言った。

「取り敢えず、畑中さんには迎えが行くって、伝えておくわね。」

「はい。願いします。」

 緒美はそう返事をすると、安藤に微笑むのだった。
 安藤が畑中と連絡を取っている間に、立花先生が緒美や樹里の後列の長机を後側を通って安藤の右手側へと回り、通話の終わった彼女に話し掛ける。

「それで、設計三課の代表として、今日の試験は如何(いかが)でした?安藤さん。」

「そうですね…。」

 安藤は通話の終わった携帯端末を作業着のポケットへ押し込み乍(なが)ら、答える。

「トラブルの二つや三つ、起きる物と思っていましたので、何事も無く全試験項目が、こう、すんなりと終わったのには、少し拍子抜けした、と言いますか。勿論、今日のデータを解析もする前から、軽々しく結論は言えませんけど、まぁ、見たまんまの感想としては、制御系の完成度は可成り高いのではないかな、と言うのが、正直な所感ですね。とても、二ヶ月前に電源系で初歩的なトラブルを起こしていた物とは、思えませんよね。」

「あはは、あの後、かなりバグ潰し、やりましたからね~。」

 安藤の所感を受けて、樹里はコンソールを操作し乍(なが)ら、笑ってそう言った。

「うん、勿論それは知ってるんだけど。このレベルの複雑な制御系が、二ヶ月足らずで一気に完成度が上がるなんて、そうそう有る事じゃないのよ。 まぁ兎も角、結論は今回のデータ解析後と言う事になりますけど、立花先生。」

 安藤は樹里に一言返した後、立花先生へ結論に就いて念押しをする。

「データの解析には一ヶ月位(くらい)?」

「う~ん、HDG と LMF の制御系、特に火器管制辺りのは、データが整ってそうだから二週間位(くらい)で終わりそうな気がしますけど。Ruby の評価に関しては二、三ヶ月掛かっちゃうかも知れません。あぁ、でも、Ruby の開発に関してはこっち側のテーマだから、学校の皆さんには関係無い話でしたね。」

「そうね。うん、了解したわ。ありがとう、安藤さん。」

「いいえ。」

 安藤の返事を聞いて立花先生は、その場を離れようとしたが、直ぐに足を止め、振り向いて緒美に声を掛けた。

「ちょっと、飯田部長の所へ行って来るから、こっちはお願いね緒美ちゃん。」

「はい。あ、私もご一緒した方が?」

「う~ん、いや、いいわ。こっちの終了作業の方を、お願い。」

「わかりました。」

 颯爽(さっそう)と防衛軍の天幕へと向かって歩いて行く立花先生の背中を見送って、安藤がポツリと言った。

「立花先生も、色々と調整役、大変よねぇ…。」

 それに答えたのは、直ぐ傍(そば)にいた樹里だった。

「あはは、そうですね~それはそうと、会社の方(かた)達からも、何だかすっかり『立花先生』で定着しちゃいましたね。」

「あら、そう言えばそうね。」

 そんな樹里と安藤の遣り取りに、恵が参加する。

「そう言えば、畑中先輩も前は『立花さん』だったのに、何時(いつ)の間にか『立花先生』って呼ぶ様になってるよね。」

「あれ?そうだったかしら…」

 と、緒美が宙を見詰めて記憶を辿(たど)っている所に、畑中を乗せたブリジットの『アイロン』が、天幕の前に到着した。
 畑中は『アイロン』から飛び降りると、天幕下の安藤に向かって言うのだった。

「立花先生、向こうの天幕の方へ歩いて行ったけど、何か有ったの?」

 その発言を聞いて、安藤と樹里、緒美と恵、そして直美が揃(そろ)って爆笑するのだったが、勿論、その理由は畑中には解らないのであった。


- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第8話.10)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-10 ****


 LMF の方へ目をやると、ブリジットが乗り込んでいるコックピット・ブロック部が地面に向かって降ろされていく。同時に、コックピット・ブロック下面の地面からは、土煙が舞い上がり始める。コックピット・ブロックの、ホバー・ユニットが稼働しているのだ。ブリジットが解放されていたキャノピーを閉鎖すると、巻き上がる土煙が更に増加し、ホバー・ユニットの出力が増している事が外からも窺(うかが)えた。
 間も無く、コックピット・ブロックが LMF との接続から解放されると、一瞬、コックピット・ブロックが沈み込むが、地面に接する事は無く、ゆっくりと前進を始めるのだった。

「アイロンの分離、終了。そちらへ戻りま~す。」

 天幕下、モニター・スピーカーからブリジットの報告が聞こえると、続いて Ruby の合成音が響いた。

「HDG とのドッキング・シークエンスを開始します。自律行動を開始して宜しいでしょうか?緒美。」

「自律行動承認。続けて、Ruby。」

 緒美は直様(すぐさま)、許可を出した。
 ブリジットが操縦するコックピット・ブロックが天幕の方へ向かう途上、茜の前を通過する頃、Ruby は LMF のホバー・ユニットを起動させ、機体の向きを HDG の方へと向けるのだった。LMF の周囲にも土煙が舞い上がり、その機体もゆっくりと HDG の方へ向かって動き出す。
 LMF が茜の背後まで近づいて来ると、HDG の側はドッキング時にスラスター・ユニットが LMF と干渉しない様に、地面とスラスター・ユニットとが平行となる初期状態の位置へと、ユニット本体を振り上げる。HDG に接続した儘(まま)でスラスター・ユニットが初期状態に戻ると、重心が後方へ移動してしまって HDG が直立を維持出来なくなるので、茜は背中を丸める様にして前傾姿勢になり、LMF とのドッキングを待つ。
 そして、LMF のドッキング・アームが HDG の接続ボルトを捕らえ、接続と固定が完了すると、ドッキング・アームが引き上げられて、HDG が LMF の中央前面にセットされる。この状態で HDG が上半身を動かすと、背部のスラスター・ユニットとドッキングした LMF 上部構造とが干渉する為、HDG は腰から上の動作範囲が制限される。その制限を解除する為、HDG は背部のスラスター・ユニットを、その運転を停止した後に、 LMF 胴体の前面中央に内蔵されたクレーン・アームへと引き渡し、HDG から取り外されたスラスター・ユニットは、上半分が露出した状態ではあるが、LMF 本体側に格納される。

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「HDG とのドッキング・シークエンス、終了しました。」

 天幕下、Ruby の合成音声が響く。

「オーケー。天野さん、LMF とドッキングしたモードで標的選択射撃試験を始めるけど、準備は良いかしら?」

「いいですけど、部長。LMF のプラズマ砲も使っちゃうと、標的に穴が空くだけでは済まないかも、ですよ?」

 茜の返事を聞いて、緒美は視線を安藤の方へと向ける。安藤は微笑んで頷(うなず)いて見せた。緒美は、茜に伝える。

「構わないわ。出来れば、三分以内に赤いターゲット板、全部、吹き飛ばしても良いわよ。そうなったら、その時点で試験終了だけど。」

「あはは、頑張ってみます。」

 茜は、LMF を低速で前進させ、フィールドの中央付近で停止させた。そして HDG のマニピュレータに因って保持している荷電粒子ビーム・ランチャーを、前方に向けて構える。

「では、スタート。」

 緒美の指示で、ターゲットの制御が開始される。最初に起き上がったのは、南側列の西側から二番目の赤いターゲット板だった。
 茜は LMF を加速させて、その標的との距離を詰める。先程と同じように、100メートル程迄(まで)に接近して手持ちの荷電粒子ビーム・ランチャーで一撃を加えた。その直後、今度は西側列南側から三番目の赤いターゲットが起き上がった。
 茜は LMF の進路をそちらへと変え、アプローチを掛ける。その最中(さなか)、東側列に赤と青の、二つのターゲットが起き上がった。先程の、HDG 単独での時には対処出来なかったパターンだったが、今回は背後の標的に就いては Ruby が感知し、自動で標的の選別と照準を行うのだった。勿論、射撃のタイミングには、茜の指示が待たれる。
 LMF は西向きに走行し乍(なが)ら上部ターレットを旋回させ、背後の標的にプラズマ砲の狙いを定めた。そうこうする内、茜の前面側、西側の標的が荷電粒子ビーム・ランチャーの射撃圏内へと近づき、先(ま)ずは此方(こちら)に荷電粒子ビームを撃ち込む。そして、直様(すぐさま) LMF の向き反転させて進路を東側へと向けるが、その間もターレットは旋回を行い、プラズマ砲は東側の標的への指向を維持している。
 その時点で、ターゲット迄(まで)の距離はまだ400メートル程ど有ったが、LMF のプラズマ砲は HDG の荷電粒子ビーム・ランチャーよりも射程が長いので、茜は接近するのを待たずにプラズマ砲で砲撃を加えた。轟音と共に閃光が走ると、東側の赤いターゲット板の一枚は上半分が吹き飛ばされたのだった。
 その後は同じ様に、手持ちの荷電粒子ビーム・ランチャーと LMF のプラズマ砲に因る異標的同時射撃を織り交ぜつつ、LMF がフィールド内を縦横無尽に移動し乍(なが)ら、起き上がる赤いターゲット板を次々と撃破していったのだった。
 残念乍(なが)ら、三分間で全ての赤いターゲットを吹き飛ばすのには至らなかったのだが、それでも半数を超える赤いターゲット板がプラズマ砲の餌食となっていた。そして、今回は撃ち漏らした標的は皆無であった。

「はい、これで、予定の全試験項目終了。お疲れ様、天野さん。こっちに戻ってちょうだい。」

 緒美はヘッド・セットを通じて、茜に呼び掛けた。

「はい、戻ります。 あ、Ruby。ランチャーを返すわ、格納してね。」

「ハイ、荷電粒子ビーム・ランチャーを受け取ります。」

 LMF はフィールドの奥の方で機体の向きを天幕の方へ向け終えると、旋回していたプラズマ砲のターレットを初期位置へと戻し、ウェポン・ベイを開いて空の武装供給アームを茜の肩越しに前方へと展開した。茜は右マニュピレータで保持していた荷電粒子ビーム・ランチャーを左マニピュレータに持ち替え、左肩前方で待つ武装供給アームへと荷電粒子ビーム・ランチャーを渡す。

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 荷電粒子ビーム・ランチャーを受け取った武装供給アームは、茜の後方へと回転し、荷電粒子ビーム・ランチャーは LMF の機体内部へと格納された。そして、茜はゆっくりと LMF を前進させたのだった。

「よーし、標的の撤収作業、始めるぞー。」

 緒美達の隣の天幕下で試験の状況推移を見ていた天野重工の作業員達は、三台のトラックの荷台に分乗して、茜の操る LMF とは入れ違いに、フィールドの方へと出て行く。

「今日のデータ、コピーを持って帰られます?」

 樹里はコンソールのチェックをし乍(なが)ら、安藤に問い掛けた。

「あ~どうしよう。いや、後で良いから、纏(まと)めてネットで本社の方へ送っておいて。アドレスは何時(いつ)もの、わたし宛ので。解析が済んだら、又、結果はお知らせするわね。」

「分かりました。では、後で送っておきますね。」

 天野重工の天幕の前、8メートル程離れて、LMF が左側面を見せて停止する。LMF が接近するのにつれて、ホバー・ユニットから吹き出した気流が天幕の下にも流れ込んでいたが、LMF が停止するのに合わせて、それも収まるのだった。

「天野さん、LMF から HDG を切り離して、あなたは一号車へ装備を降ろしてね。お疲れ様。」

「は~い。」

 茜は左手を軽く挙げ、緒美に了解の合図を送る。それを見てから緒美は振り向き、後列で直美と談笑していたブリジットに声を掛ける。

「天野さんが、HDG を切り離したら、コックピット・ブロックを LMF に再接続してね、ボードレールさん。」

「あ、はい。じゃ、準備します。」

 ブリジットは傍らの机上に置いてあったヘッド・ギアを取り上げると、天幕の後方側に駐機してあった『アイロン』へと向かった。

「それじゃ、わたしは HDG のメンテナンス・リグを立ち上げておきますか。」

 そう言って席を立つ直美を、安藤が呼び止めるのだった。

「あぁ、ちょっと待ってて、直美ちゃん。一号車を前に回して貰(もら)うから。」

 安藤は作業着のポケットから携帯端末を取り出すと、畑中を呼び出す。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。


 

2018年の一枚目 2018.01.03

今年も描き初め的な作品が出来たので掲載。

【オリジナル】「Front End (Toon)」イラスト/motokami_C [pixiv]
 レンダリングが終わらなかったので、二日の完成となりました。
 インナー・スーツ着用の茜さんのフィギュアは、頭部のデータを Ver.3 の物にすげ替えたバージョンを昨年末も押し迫って作業完了。昨年最後の作業でした。
 今年も引き続き、「STORY of HDG」の記述と関連オブジェクトやフィギュアのモデリング、あとは「基上屋」の旧製品を現行仕様への転換作業などを進めたい所存。
 特に、今年はブリジット用の「HDG-B01」を、そろそろデザインを最終決定してモデル化までしたいかな、と。
 まぁ、ぼちぼちと進めましょう~と、言う事で。

STORY of HDG(第8話.09)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-09 ****


「じゃぁ、次はボードレールさん、LMF の移動標的射撃試験、始めるわよ。準備はいい?」

「は~い、待機してますよ。」

 緒美の呼び掛けに、透(す)かさず返事をするブリジットである。安藤も、慌てて投射機のコントロール担当スタッフへと、ヘッド・セットを通じて声を掛ける。

「次、LMF 用の投射機、準備良いですか?…はい、指示しますので、お願いします。 こっちは準備は良いわ、緒美ちゃん。」

Ruby もいいわね?」

 緒美は、敢えて Ruby にも声を掛けてみる。すると、何時(いつ)も通りに Ruby の合成音声が、天幕下のモニター・スピーカーから聞こえて来た。

「ハイ。何時(いつ)でもどうぞ、緒美。」

「では、スタート。」

 緒美の指示から三秒程して、一枚目のターゲット板が宙に舞う。HDG の時と同じ様に、射撃位置から125メートルの距離にターゲット板が縦に回転し乍(なが)ら放物線を描くのだが、放物線の軌跡が右から左へ向かっている事だけが違っていた。勿論、ブリジットや Ruby に取ってはターゲット板の投射方向が何方(どちら)向きであろうと関係は無く、Ruby はブリジットが指示した目標を正確に補足し、撃ち抜いた。
 二枚、三枚とターゲット板が宙を舞う度に、短い雷鳴の様な破裂音が響き、ターゲット板が放物線軌道から弾き飛ばされる、そんな光景が繰り返されるのだった。
 一分程で、用意されていた三十枚のターゲットは全て撃ち落とされ、周囲には再び微かなオゾン臭が残った。

「はい、LMF の移動標的射撃試験、終了。ボードレールさん、待機しててね。」

「は~い。」

 ブリジットの返事が、モニター・スピーカーから聞こえた。

「流石に LMF の方は、あの位(くらい)じゃ冷却不足の心配は無いわね。」

「プラズマ砲、超伝導コイルの温度、モニター値は許容範囲ですよ。」

 樹里がコンソールのモニターを指差すと、安藤がそれを覗(のぞ)き込むのだった。

「安藤さん、次は標的選択射撃の試験に行きますけど。」

「あぁ、ちょっと待っててね。 次、標的選択射撃の準備お願いします。」

 安藤は緒美に促(うなが)され、次の試験で使用する標的の準備を、コントロールの担当スタッフに伝える。

「…あ、はい。 緒美ちゃん、準備、良いそうよ。」

「はい、ありがとうございます。 天野さん、エリアの中央へ。標的選択射撃の試験を始めるわ。」

 安藤の返事を聞いて、緒美は茜に対して指示を送った。
 その指示に対して、茜の返事がモニター・スピーカーから聞こえる。

「あ、はい。部長、ビーム・ランチャーの冷却がまだ終わってないので、LMF の予備を使用しますけど。」

「そうね。 ボードレールさん、予備のランチャー、出してあげて。」

「は~い。予備のビーム・ランチャーを出します。」

 ブリジットの返事がモニター・スピーカーから聞こえた後、LMF の機体上面のシャッターが開くと、内部から HDG 用の荷電粒子ビーム・ランチャーを保持したアームが起き上がり、武装供給アームの回転は、天頂を指す位置で停止する。
 LMF の機体には HDG の携行武装が故障や破損した時に備えて、荷電粒子ビーム・ランチャーとビーム・エッジ・ソードのそれぞれ二組を保管する為のウェポン・ベイが用意されており、必要に応じて HDG へ供給が可能となっている。
 茜は地面を蹴って LMF の方へ向かってジャンプすると、ホバー状態で高度を維持した儘(まま)、LMF に接近する。LMF のプラズマ砲よりも上方へと、グリップの側を上向きに掲げられた予備の荷電粒子ビーム・ランチャー底部のグリップ・ガードを左のマニピュレータで掴(つか)むと、LMF 側は武装供給アームの保持を解除する。

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 茜は受け取った荷電粒子ビーム・ランチャーを右のマニピュレータに持ち替え、LMF の上空を離れて試験フィールドの中央付近に降り立つ。
 HDG の右腰のスリング・ジョイントには、冷却中の荷電粒子ビーム・ランチャーが固定された儘(まま)である。
 茜は先程受け取った荷電粒子ビーム・ランチャーのフォア・グリップを、左マニピュレータで引き起こし、握った。

「天野さん。あなたの正面、南側の他に、左右、東側と西側に起立式の標的が設置されているから、起き上がった標的を射撃してね。但し、標的には赤と青の二種類が有るけど、撃って良いのは赤い標的だけ。フィールドの中心からだと、標的までの距離はおよそ300メートルだけど、前後左右、自由に動き回って良いわ。時間は三分間、なるべく多く、赤い標的だけを射撃してね。」

「はい、頑張ります。」

「では、開始。」

 緒美の開始指示を聞いて、安藤は標的の制御スタッフへスタートの合図を送った。
 間もなく、茜の正面の赤いターゲット板が起き上がる。ターゲット板は幅が3メートル、高さが2メートルで、これはエイリアン・ドローンの大きさを想定しての設定なのだが、300メートルも離れていると、見かけ上の大きさは腕を伸ばした先の6ミリ程にしか見えない。
 茜はスラスターを噴かして、ターゲットへ向かって加速する。地面の畝(うね)を左右に回避しつつ、ターゲットの前、100メートル程まで迫り、一撃を加えた。ビームが命中したターゲットは、パタリと後ろへと倒れる。
 荷電粒子ビーム・ランチャーの銃口を前に向けた儘(まま)、茜は後方へ傾く様な姿勢で行き足を止めると、その儘(まま)後退してターゲットと距離を取りつつ、首を左右に振って他のターゲットの様子を窺(うかが)う。直ぐに、先程射撃したターゲットの左右に設置されたターゲット板が同時に起き上がる。因みに、ターゲット板の左右設置間隔は、それぞれ50メートルとなっていた。
 起き上がったターゲット板は右側が赤で、左側が青である。茜は右側のターゲット板の方へと進路を変え、接近して一撃を加えると、再び後退しつつ身体を緩(ゆる)くスピンさせて周囲のターゲットの動向を窺(うかが)うのだった。
 こうして、北側の他にも東側、西側のターゲットにも接近や離脱を繰り返し乍(なが)ら、赤いターゲット板だけを選択して射撃を繰り返し、最終的に三分間で二十四枚のターゲットを射撃して、ミス・ショットはゼロという結果だった。勿論、東西で向かい合ったターゲットが同時に起き上がると、背後のターゲットに迄(まで)同時に対処は出来ないので、取りこぼしたターゲットの数が八つ、有ったのだが。

「はい、三分経過。お疲れ様、天野さん。一度、待機位置に戻ってちょうだい。」

 緒美は、ヘッド・セットを通じて、この試験項目の終了を通知した。茜は機動を止め、指示に従って元の待機位置へ向かう。

「あれだけ動き回ってて、良く、全部当てられた物ねぇ。」

 安藤が独り言の様にそう言うと、樹里が答えるのだった。

「それを確認する試験項目ですよね?」

「あはは、まぁ、その通りなんだけど。」

 そんな樹里と安藤のやりとりを横目に、茜が待機位置に戻ったのを確認して、緒美は次の指示を出す。

ボードレールさん、コックピット・ブロックを切り離して。それが済んだら、Ruby は HDG とのドッキング・シーケンスを実行してちょうだい。」

「は~い。」

「ハイ、コックピット・ブロック切り離しシークエンスを開始します。」

 直(ただ)ちに、ブリジットと Ruby からの返事が聞こえて来た。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第8話.08)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-08 ****


 LMF は、茜の HDG よりも盛大に土煙を巻き上げ乍(なが)ら、ターゲットの支柱に向かって突進する。そして、その機体を左や右へ大きく振って、ターゲット支柱の間を縫う様に進んで行くのだった。そして、五番目のターゲット支柱を通過して暫(しばら)く進んだ後に、左回りに大き目の弧を描いてUターンすると、左右のホバー・ユニット連結機構を伸ばし、一対の腕部を展開して、走行し乍(なが)ら『中間モード』へと移行する。
 LMF の左右前腕部には、格闘戦の折りにマニピュレータを保護するナックル・ガードと呼ばれる装甲が装着されており、そのナックル・ガードには HDG 用のディフェンス・フィールド・シールドが取り付けられている。中間モードで腕部が展開されると、そのディフェンス・フィールド・シールドは前腕部と直交する様に向きが変えられるが、LMF が格闘戦の為にナックル・ガードをマニピュレータ保護の位置へ移動すると、ディフェンス・フィールド・シールドは下端が腕先の方へ向く様に、九十度回転する。ディフェンス・フィールド・シールドの下端には、超接近戦時の反撃用に小型のビーム・エッジ・ソードが格納されており、これを展開する事に因って LMF は、ディフェンス・フィールド・シールドを攻撃用の武装として利用する事が可能だった。
 そもそも、LMF に HDG 用のディフェンス・フィールド・シールドが装備されているのは、HDG の携行しているディフェンス・フィールド・シールドが故障や破損した場合に、LMF が HDG へ予備品を供給出来る様にと計画されているからなのだ。しかし、HDG に供給する必要が無ければ、LMF 自身の防御・攻撃用の装備として、使用する事が想定されているのである。
 LMF は両腕に青白く光る荷電粒子の刃先を構えて、先の砲撃でターゲット板が吹き飛ばされた第五ターゲットの支柱へと向かってホバー走行を続け、その右側から前方へと通過する瞬間に左腕を後ろから前へ小さく振る様に動かし、ターゲット支柱を切断した。

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 そのまま第五ターゲットと第四ターゲットの間を通過すると進路を右へと変え、第四ターゲットの左側から前方を通過するコースに進路を定める。第四ターゲットの前方を通過する際に、今度は右腕のビーム・エッジ・ソードでターゲット支柱を切断すると、後は同様に左右に機体を大きく振り乍(なが)ら残り三本のターゲット支柱を切り倒し終えると、通常の高機動モードに戻って機体を止めたのだった。
 濛濛(もうもう)と立ち上がった土煙が LMF の機体周囲から流れ去ると、コックピット・ブロックのキャノピーを開き、ブリジットが腰を伸ばす様に身を起こして、茜に向かって手を振って見せる。一方で、天野重工側の天幕下からは、茜の時と同じ様に拍手が沸き起こるのだった。

「うん、やっぱりサイズ的に、こっちの方がピンと来るものが有るなぁ。」

 LMF の機動を見終えて、吾妻一佐はポツリと、そう言った。

「アレの量産仕様の先行、五機。納入は予定通りだよね?飯田部長。」

「ええ、十月初旬、その予定で進んでますよ。」

「装備はプラズマ砲以外も積めるんだよね?アレは威力が強過ぎて、周辺への被害が大き過ぎるから。市街戦を想定すると、20ミリか12.7ミリ機銃位(ぐらい)が、ちょうど良いんだ。」

「実体弾だと、射程や命中精度が落ちますが。まぁ、そう言う御用命ですから、その装備も合わせて開発してますよ。」

 そこで飯田部長と吾妻一切の会話に、桜井一佐が口を挟(はさ)むのだった。

「安い装備でも無いでしょうに、それほど急がれなくても?」

 それには若干、むっとした様に吾妻一佐は言い返す。

「航空の方(ほう)で全て撃ち落として呉れるのだったら、陸上の方(ほう)は新装備なぞ要求しませんよ。」

「まぁまぁ、吾妻一佐。ここは抑えて。」

 飯田部長は慌てて、吾妻一佐を宥(なだ)める様に声を掛けると、それに対して桜井一佐は横を向くのだった。その後ろで和多田補佐官は、声を殺して、小さく笑っていた。

 

ボードレールさん、ご苦労様。一旦、待機位置に戻ってね。」

「は~い、わかりました。」

 緒美がヘッド・セットのマイクに向かってブリジットへ指示を伝えると、透(す)かさずブリジットは返事をして指示を実行へと移す。LMF がキャノピーを解放した儘(まま)、元の静止射撃位置へと、ゆっくりと移動を開始する。

「ドライバーが交代するって聞いた時はどうかなって思ったけど、ブリジットちゃんも、なかなかやるわね。去年の、直美ちゃんに遜色(そんしょく)は無いって感じね。」

 安藤は樹里のデバック用コンソールのモニター表示を覗(のぞ)き込み乍(なが)ら、そう感想を漏らした。
 それに対し、モニター画面を切り替えてデータをチェックしつつ、樹里が答える。

「まぁ、制御の細かい部分は、Ruby が殆(ほとん)どやっちゃってますからね…。」

「城ノ内さん、そっちに異常な数値とか、返って来てないわね?」

 緒美が樹里へ、モニターしている機体の状態を確認する。それに一拍置いて、樹里が答える。

「はい、部長。LMF も Ruby も、リターン値は正常範囲です。試験、続行して大丈夫です。」

「ありがとう、城ノ内さん。引き続き、モニター宜しくね。 安藤さん。」

「あ、はい。」

 緒美に呼び掛けられ、安藤は慌てて返事をする。

「HDG の移動標的射撃試験に移りますので、ターゲット投射機の準備、お願いします。」

「あ、確認する。ちょっと待ってね。」

 安藤はヘッド・セットのマイクを口元に上げて、隣の天幕下に待機しているコントロール担当のスタッフに話し掛ける。

「安藤です。移動標的射撃を始めます。準備…あぁ、はい。分かりました。 緒美ちゃん、準備は出来てるから、起動のタイミングだけ教えてって。」

「そうですか。 天野さん、移動標的射撃の試験を始めるけど、準備はいい?」

 安藤の返答を受けて、緒美は茜に準備状況の確認を行う。直ぐに茜の返事は、モニター・スピーカーからも聞こえて来た。

「はい。何時(いつ)でもどうぞ。」

 緒美の視界の先では、茜の HDG が腰のスリング・ジョイントから荷電粒子ビーム・ランチャーを外し、身体の前面に構えるのが見て取れた。

「スタートすると、あなたの125メートル先に、ターゲットが高度とか間隔がランダムに三十枚投げ上げられるから、出来るだけ多く、撃ち落としてね。」

「はい、頑張ります。」

 茜の返事を聞いて、緒美はちらりと安藤の方へ目をやる。安藤は口元にヘッド・セットのマイクを持って来て、緒美がスタートの合図を出すのを待っていた。緒美と視線が合った安藤は、小さく頷(うなず)く。

「では、スタート。」

 緒美の声を聞いて直ぐ、安藤もスタッフへ投射機の起動を指示した。そして二秒程が経って、最初のターゲットが投射された。ターゲット板は先程の静止標的の物と同じサイズの鉄板で、縦に回転し乍(なが)ら左から右へと、ゆるい放物線を描いて、茜の目の前を通過して行く。
 茜は両腕で保持した荷電粒子ビーム・ランチャーで、素早く狙いを定めると、乾いた破裂音を響かせ、一撃で空中のターゲット板を弾き飛ばした。
 続いて、二枚目、三枚目と投射間隔や軌道を変え乍(なが)ら放り上げられるターゲット板を、茜は次々と撃ち落としていく。
 HDG の射撃の様子を見乍(なが)ら、安藤が樹里に話し掛ける。

「うわぁ…百発百中って感じねぇ。天野さんって、射撃の心得とか無いよね?」

「そうですよ。天野さんは大雑把な方向に向けて目標を指示してるだけで、HDG の AI が照準を補正して呉れてるんです。」

「うん、そういう風に作ったんだから、そう動いて当然なんだけど。実際、目の当たりにすると、ちょっとビックリだわ。」

 樹里と安藤がそんな会話をしていると、二十八枚目のターゲット板を撃ち落とした所で、モニター・スピーカーから茜の声が響いた。

「オーバー・ヒートです。ランチャーが強制冷却モードに入りました。」

「了解。移動標的射撃試験は終了。天野さんは待機しててね。」

 緒美は落ち着いた声で、茜に指示を出した。
 一方で、安藤が残念そうに、声を上げる。

「あぁ、矢っ張り連射だと三十回は無理だったかぁ。手持ちサイズまで小型化したから、冷却が追い付かないって聞いてはいたけど。」

「でも、計算上は二十五連射が限界だった筈(はず)ですから、それよりは良い成績ですよ。」

 そう樹里が宥(なだ)める様に、安藤に言った。

「出力、30パーセント迄(まで)、落としてるのよ?」

「100パーセントだったら、十五連射位(くらい)が計算上の限界ですから。」

 返す返す残念そうな安藤に、少し苦笑いする樹里を挟んで、緒美は飽くまで冷静に、そう言ったのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第8話.07)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-07 ****


「流石、防衛軍の主力戦車と同じ規格のプラズマ砲だわね~。実際に射撃する所を見たのは初めてだけど。」

 安藤が呆(あき)れた様に話し掛けると、樹里は落ち着いた様子で答えた。

「あんな物騒な物が、当たり前の様に学校に有った事の方にビックリですよ。」

ボードレールさんは待機してて。次、天野さん。スラローム機動から折り返しで斬撃機動、準備が出来たら開始して。」

 スケジュールに従って、緒美は次の試験項目を茜に指示する。

「準備は出来てます、ので、行きます。」

 茜は右脚で地面を蹴って軽く跳躍し、空中でスラスターを噴かす。先程、射撃したターゲットの支柱に向かって加速すると、手前、第一ターゲットの左側をホバー状態で駆け抜け、第二ターゲットの右側、第三ターゲットの左側と、立ち並ぶターゲットの支柱の間を縫う様に、緩やかな斜面を高速で登って行く。最後の第五ターゲットの左側を通過し、暫(しばら)く進んだ後にUターンすると、右のマニピュレータで左腰のスリング・ジョイントに固定してあったビーム・エッジ・ソードの柄(つか)を握る。ビーム・エッジ・ソードがジョイントから解放されると、一度、右へと振り抜き、左マニピュレータを柄(つか)の後端側に添えると、刀身が右側面に横たわる様にビーム・エッジ・ソードを構えた。ビーム・エッジ・ソードの刀身前面に形成された荷電粒子の刃(やいば)が青白く輝く。
 茜はホバー移動の儘(まま)、第五ターゲットが目前に迫ると、ビーム・エッジ・ソードを右肩の上へと振り上げ、ターゲット支柱と擦れ違う瞬間に刀身を振り下ろす。第五ターゲット支柱の向かって左側を通過した茜は、第四ターゲットの右側へと進路を変え、振り下ろした ビーム・エッジ・ソードの刀身の向きを翻(ひるがえ)すと、右腕のみで下から上へと向かって第四ターゲットの支柱へ切っ先を走らせる。

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 再び、ビーム・エッジ・ソードの刀身を翻(ひるがえ)し、腰の高さで右側に刀身を横に寝かせると再び左マニピュレータを柄(つか)の後端に添え、第三ターゲットの左側を通過すると同時に支柱を両断すると、今度はビーム・エッジ・ソードを左肩に担ぐ様に振り上げ、第二ターゲットの右側を通過する瞬間に切っ先をと振り下ろす。
 最後に、もう一度刀身を翻(ひるがえ)し右下段横に構えて第一ターゲットの左側へと進行し、通過するタイミングで刀身を左上へと振り上げる。ビーム・エッジ・ソードの柄(つか)から左マニピュレータを放すと、右腕だけで刀身を水平に右へと一振りして、ホバー走行を終えて着地し、オフにしたビーム・エッジ・ソードを左腰部のスリング・ジョイントへと納めた。
 スラスター・ユニットの排気で巻き上げられた、HDG 背後の土煙が風に流されると、そこには立ち並んでいたターゲットの支柱が、全て切り倒されている様(さま)が露(あら)わとなる。
 茜はちょっと振り向いて、それを確認した後、天野重工の天幕と防衛軍の天幕それぞれに向かって、一度ずつ一礼をしたのだった。天野重工の天幕下、設営スタッフ達からは「おぉ…」と言うどよめきの後、拍手が沸き起こるのだった。

「流石、剣道経験者って感じかしらね。」

 安藤が隣の天幕下の盛り上がり具合を横目に、そう感想を漏らすと、それに対して樹里が言った。

「あぁ、でも、天野さんに因れば、剣道の動きとは全然違うそうですよ。」

「そうなの?それにしては、良く動けてるみたいじゃない。」

「毎日二時間位(ぐらい)、あれを装着して動き方の研究や練習、反復してましたからね。お陰で、HDG の方も動作制御の最適化が、可成り進んでますよ。最初は随分、動き方がぎくしゃくしてましたから、HDG 搭載の AI も相当に優秀ですよね。」

「まぁ、コミュニケーション関連の機能部分がバッサリ削除されてるから、随分、簡略化されてる様に思われ勝ちだけど、基礎部分は Ruby と同型だものね。それでも、その AI の性能も、動作データの蓄積が無い事には発揮の仕様がない訳(わけ)だし、テスト・ドライバーにスポーツ経験者を充てようって、緒美ちゃんのアイデアは大正解だった訳(わけ)よね。」

 安藤のコメントに対し、透(す)かさず緒美が言葉を返す。

「そのアイデア、元々の発案は森村ちゃんなんですけどね。」

「あ、そうなんだ。」

 安藤が返す短いリアクションに対し、緒美の後ろに立っていた恵が右手を肩口程に挙げて、微笑んで見せる。その一方で、緒美はヘッド・セットのマイクを口元に引き上げると、茜とブリジットへ次の指示を送る。

「天野さん、元の射撃位置へ退避して。ボードレールさんは天野さんの退避を確認したら、LMF のスラローム機動を始めてちょうだい。」

 指示を受けての、二人の返事がモニター・スピーカーから聞こえて来た。

 

 一方、その頃の防衛軍側天幕の下。天幕は二張り用意されていたのだが、参加した防衛軍関係者は十名だけで、設置されていた二面のモニター画面を見ている者もあれば、持参した双眼鏡を覗(のぞ)いている者もありで、それぞれが試験の様子を監察している。
 天野重工の飯田部長の左右には、飯田部長と同年代の制服姿の男女が座り、その後ろにはスーツを着用した男性が座っている。
 飯田部長の右側に座るのは、HDG 案件の防衛軍側の窓口である、吾妻(アガツマ)昭午・防衛軍一等陸佐である。そして、飯田部長の左隣に陣取る制服姿の女性が、『R作戦』と呼称されている日米共同での反攻作戦の防衛軍側窓口を務める、桜井 巴・防衛軍一等空佐だ。飯田部長の背後の席、スーツ姿の男性が、和多田 和典・防衛大臣補佐官で、彼が『R作戦』に関する、政府側の対外交渉に於ける窓口責任者なのである。
 何故ここに『R作戦』の関係者が同席しているのかと言うと、天野重工が『R作戦』に必要とされるデバイスの要素技術開発の実行名目として『HDG 案件』を利用しており、事実上、両案件を社内的に統合してしまった事に、この状況は端を発する。現時点で『R作戦』に就いては表沙汰に出来ない政府と防衛軍としては、表向きは民間主導である天野重工の『HDG 案件』に協力すると言う体裁で『R作戦』の準備を進めていたのだった。
 『R作戦』に於いては航空防衛軍と航空宇宙局(十数年前に宇宙航空研究開発機構:JAXA から改組された)が中心となって行われる計画なので、作戦の実施に陸上防衛軍は、本来は関わらないのだが、その開発段階には試験場の確保だとか提供、或いは機密保持の為の警備等に陸上防衛軍の協力が必要だ、と言う都合で『R作戦』に陸上防衛軍の協力が組み込まれているのである。
 今回は HDG の試験と言う事ではあるが、これは『R作戦』用のデバイス開発の経過視察と同義であるので、それが桜井一佐と和多田補佐官が視察に参加している理由なのである。

「飯田部長、さっきの刀みたいな装備は、どんな物かなぁ…敵ドローンと斬り合いをさせるって言うのは、ぞっとしないな。」

 腕組みをした吾妻一佐が、ポツリと言った。間を置かず、飯田部長がコメントを返す。

「相手側が斬撃戦を仕掛けて来ますから、至近距離での反撃用の装備ですよ。飽くまでも、基本の戦術はビーム・ランチャーによる射撃、と言う事ですが。」

「う~ん、理解はしてるんだが、イマイチ、運用のイメージが…ピンとこないんだよなぁ。」

「アレが例のデバイスの要素技術、と言われても、我々には関連具合が今一つ理解出来ませんが。」

 後ろの席から身を乗り出して、和多田補佐官が口を挟(はさ)む。五十代後半の前列三人に比べ、幾分若いこの官僚出身の政府関係者は、『HDG』には全く興味を持ってはいない。

「…デバイス開発の方(ほう)は、ちゃんと進んでるんでしょうね?飯田さん。」

「スケジュールに大きな遅れは有りませんよ、和多田さん。秋位(ぐらい)には大気圏内用の試験機が、冬位(ぐらい)には大気圏外用の試験機が出来上がる予定で変わってません。大気圏内用の試験機が完成したら、桜井一佐の方に本格的に御協力をお願いする事になりますが、その折には、どうぞよろしくお願いします。」

 飯田部長は左隣の桜井一佐へ、話を振る。すると、朗(ほが)らかな笑顔で桜井一佐は答える。

「えぇ、勿論。それよりも、その前に、あの HDG の航空装備の性能試験もされるんでしょう? わたしとしては、そちらにも興味が有りますね。」

 そこに再び、和多田補佐官が口を挟(はさ)むのだった。

「アレは陸戦用の装備ではなかったのですか?」

 それには吾妻一佐も同調する。

「そうそう、元々の提案は陸戦用の強化装備だった筈(はず)なんだが。どうして、ジェット・エンジンを背負って飛び回るような仕様に?」

 一瞬浮かんだ苦笑いを噛み殺して、飯田部長は答えるのだった。

「電源、ですよ。あの装備を動かすにせよ、ビーム・ランチャーを撃つにせよ、割と大きな電源が必要になるんです。バッテリーでは賄(まかな)い切れないので、発電機として小型のジェット・エンジンを積んでいるんですが、それなら、それを推力としても利用しよう、まぁ、そう言った流れですな。動力装備以外にも火器管制システム等も含めて、トータルとして可成り高価な個人装備になりますから、それならユニットを追加して機能を拡張しよう、と言う事で航空装備も計画されている訳(わけ)です。」

「それを考えたのが、さっきの、あの、お嬢さんかい?」

 吾妻一佐の言う『お嬢さん』とは、試験開始前に挨拶に来た、緒美の事である。

「鬼塚、なんて厳(いか)つい名前だけ聞いてたから、どんな大男かと思ってたら。それに、見れば、関わってる学生達は女子ばかりの様子だけど、本当に大丈夫なんですか?飯田部長。」

 その、和多田補佐官の発言に噛み付いたのは、桜井一佐である。

「和多田補佐官、その物言いは女性差別に聞こえますが?」

「あぁ、いえ、けしてそんな積もりでは。」

 そのやりとりを聞いて、ニヤリとした飯田部長は言った。

「あの位(くらい)の年代は、女子の方が優秀ですよ。実際、あのメンバーの中には男女総合で各学年の成績トップの者が居る様ですし、それ以外のメンバーも皆、成績は上位らしいですから。我が社としても、将来に期待している学生達ですよ。」

「お、戦車の方が動き出した。」

 ブリジットが操縦する LMF がスラローム走行を開始したのを見て、吾妻一佐が声を上げるのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第8話.06)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-06 ****


「は~い、ありがとうございます。」

 安藤は隣の天幕下へ声を返すと、作業着のポケットから携帯端末を取り出し、防衛軍側の天幕に居る飯田部長を呼び出す。飯田部長は、直ぐに応答した。

「あ、安藤です。現場の準備が終わりましたので…はい、早速、試験を開始します。…はい、では。」

 ポケットに携帯端末を仕舞うと、安藤はヘッド・セットを装着して、机の上に置いてあった試験の行程表を挟(はさ)んだクリップ・ボードを拾い上げる。

「安藤さんも、どうぞ。」

「あぁ、ありがとうね。いただきます。」

 直美は冷えたドリンクのボトルを安藤に手渡すと、引き続き、立花先生や他のメンバーへ、ドリンクを配っている。瑠菜は隣の天幕下へ、佳奈とクラウディアへとドリンクを持って行き、その儘(まま)、新型観測機材に就いての説明を受けていた。

「じゃ、緒美ちゃん。始めましょうか、行程表の通りに進めるけど、問題は無いわね。」

「はい、お願いします。天野さん、予定通り、静止射撃から始めるわよ。位置に着いてちょうだい。」

「はい。」

 茜の返事は、天幕下に設置されているモニター・スピーカーからも聞こえて来た。

ボードレールさんは、もう暫(しばら)くその位置で待機、お願いね。」

 ブリジットの返事も、モニター・スピーカーから聞こえて来る。

「はい、待機してます。」

 茜は試験場の方へ身体の向きを変えると、三歩進んだ後に少し身を屈(かが)めてから軽く地面を蹴って背丈程に飛び上がると、空中でスラスターを噴かして射撃位置へ向かってジャンプした。見送る安藤達の居る天幕へは、スラスター噴射が巻き起こした気流が流れ込んで来る。

「画像では見てたけど、実物は又、何だか迫力が有るわね。」

「でしょう?」

 安藤の感想に対して、樹里は微笑んで答えた。
 地面に白いラインで四角に囲まれた射撃位置に降り立つと、茜は天幕の方へ振り向き、左手を挙げて見せた。天幕下ではモニター・スピーカーから茜の声が聞こえる。

「位置に着きました。指示を待ちます。」

「はい、待っててね。安藤さん、宜しいですか?」

 緒美は安藤に、最終の確認を求めた。
 それに対して、安藤は自分のヘッド・セットのマイクに向かって告げる。

「あ、安藤です。これより開始しますので、記録の方(ほう)、お願いします。…はい。 オーケー、緒美ちゃん。始めてちょうだい。」

「分かりました。あ、城ノ内さん、システム状態のモニター、宜しくね。何か異常が有ったら、直ぐに言ってね。」

「はい。心得てますよ、部長。」

 樹里はデバッグ用コンソールを見つめた儘(まま)、緒美に答えた。

「じゃ、天野さん。向かって左、手前のターゲットから奥に向かって五枚、静止射撃開始。あ、念の為、フェイス・シールドは、下ろしておきましょうか。」

「分かりました。開始します。」

 緒美の指示に対して、モニター・スピーカーから茜の返事が聞こえると、射撃位置の茜はヘッド・ギア前面のフェイス・シールドを顔の前へと下ろして防護態勢を整え、次いで HDG の右腰スリング・ジョイントに固定されていた荷電粒子ビーム・ランチャーを、右のマニピュレータを展開してグリップを掴(つか)みジョイントから外した。

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 身体前面に両側のマニピュレータで素早く構えると、五枚のターゲットに狙いを定め、連射する。荷電粒子ビーム・ランチャー銃口と鉄製のターゲット板との間に、青白い閃光が五回走ると、その都度、空気の絶縁が破れる、短く乾いた雷鳴の様な破裂音が鳴り響いたのだった。
 茜は射撃を終えると、一旦、銃口を上へ向け、左マニピュレータでフォア・グリップを折り畳むと、荷電粒子ビーム・ランチャーを、元の右腰部のジョイントへと戻した。

「全部命中した筈(はず)ですけど、ターゲットの確認、お願いします。」

 モニター・スピーカーから茜の声が聞こえて来る。

「は~い、ちょっと待っててね。安藤さん?」

 緒美が安藤に、結果の確認を求める。

「はいはい…あ~、オーケー。全部命中、ズレは許容値内、だそうよ。」

 安藤は固定カメラのモニターを見ている、記録班からの連絡を受け、緒美へ報告した。
 ターゲットは一辺が2メートルの、正方形の鉄板であるが、底辺の高さが2メートルの位置に、一本の支柱で設置されている。つまり、ターゲットの中心は地表面から3メートルの高さになる。
 五つのターゲットは全て地表面から同じ高さで、向かって左に3メートルずつずらして、手前側に向かって25メートル間隔で設置されている。つまり、一番目のターゲットは、五番目のターゲットに対し、前後で100メートル、左右で12メートル離れている格好になる。そして、一番目のターゲットと射撃位置との距離は、50メートルである。
 射撃位置は一番遠い第五ターゲットの正面に設定されており、茜には最も遠い五番目のターゲットの見掛けの大きさは、腕を前に伸ばして親指を立てた爪先位置に有る8ミリ角の板とほぼ同じである。左手側にオフセットされた一番手前の第一ターゲットでも、見掛けの大きさは、同様に24ミリ角程度にしか見えない。
 天野重工の記録班は、それらターゲットの状態を固定カメラのズームによって確認したのだが、手前のターゲットにはおよそ5センチ程の穴が、一番遠い物にも3センチ程の穴が開いていたのが確認されたのだった。
 因(ちな)みに、茜が今回使用している荷電粒子ビーム・ランチャーは、安全の為、出力を30パーセントに設定している。

「天野さん?結果は良好だそうよ。暫(しばら)く、その儘(まま)、待機しててね。 ボードレールさん、LMF、射撃位置へ。」

 トランスポーターから降ろした儘(まま)の位置で待機していたブリジットに、緒美は移動を指示した。

「了解。」

 ブリジットが短く返事をすると、停止していた LMF がホバー・ユニットを噴かし、勢い良く前進を始める。LMF は滑らかに加速し、茜の正面側に10メートル程の間隔を開けて通過すると、50メートル程進んで、機首を左側へ向け乍(なが)ら急減速し、茜の右手側、西へ70メートル程の射撃位置で、南向きに停止し、着地するのだった。

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 LMF はコックピット・ブロックのキャノピーを持ち上げた有視界モードで操縦されており、着地すると腹這(はらばい)の姿勢でコックピットに収まっているブリジットが、彼女の左手側で待機している茜に向かって、右手を振って見せている。茜は右手を挙げて、ブリジットに答えた。

「LMF01、射撃位置に着きました。指示を待ちます。」

 緒美達の天幕下に、ブリジットのモニター音声が響く。
 それを聞いて、緒美が安藤へと視線を向けると、安藤は無言で頷(うなず)いた。

「オーケー、ボードレールさん。向かって右、手前のターゲットから奥に向かって五枚、静止射撃開始。」

「了解。」

 再びブリジットが短く返事をすると、コックピット・ブロックのキャノピーが完全に閉鎖される。程無く、LMF 上部のターレットが少し右へ旋回すると、プラズマ砲の砲身が僅(わず)かに仰角を上げる。それらが一秒にも満たない時間の間に実行されると、落雷の様な破裂音と共に右側の砲身から走った青白い閃光が、第一ターゲットの鉄板を吹き飛ばした。透(す)かさず、ターレットの角度と左側の砲身が仰角を整えると、再び破裂音と共に走る閃光が第二ターゲットを吹き飛ばす。
 LMF はターレットの両側面に装備された左右のプラズマ砲を交互に発射し、五秒と掛からず五枚のターゲットを、全て粉砕した。因(ちな)みに、今回の試験で LMF のプラズマ砲は、安全の為に出力を10パーセント程度に制限している。また、ターゲットとの距離も HDG のターゲットよりも、50メートル遠くに設置されていた。

「終了です。ターゲットの確認…は、必要無いですかね?」

 天幕下のモニター・スピーカーから、ブリジットの声が聞こえて来ると、緒美達の周囲には微(かす)かなオゾン臭が漂って来るのだった。

 

- to be continued …-

 

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