WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第15話.03)

第15話・ブリジット・ボードレールと天野 茜(アマノ アカネ)

**** 15-03 ****


 茜が返事をすると、レシーバーから聞こえて来る声の主が再び樹里に代わり、シミュレーションの設定を読み上げる。

「天野さん、主発地点の飛行場は、学校(ここ)に設定しておくね。離陸したら一度、高度千メートル迄(まで)上昇して、それから降下、ここの滑走路に着陸って事で、戦闘とかは無しの設定で。オーケー?」

「了解です、始めてください。」

「それじゃ、実行。」

 シミュレーション開始を告げる樹里の声が聞こえると、茜の視界が設定確認画面からシミュレーションの仮想視界に切り替わるのだ。その視界は、天神ヶ﨑高校の滑走路東端から西向きに眺(なが)めた景色である。右手側には、第三格納庫も見える。

「何だか、随分、作り込んであるなぁ…。」

 そう、茜が呟(つぶや)くと、今度はレシーバーから日比野の声が聞こえるのだ。

「あはは、地上の風景は基本、衛星写真から起こしたデータだけどね。学校周辺のデータは、担当だったウチの卒業生がノリで手を入れたみたいなのよね~。まあ、楽しんでちょうだいな。」

 続いて、Ruby の合成音声が告げる。

「それでは、自律制御で飛行シミュレーションを開始しますが、宜しいですか?茜。」

「どうぞ、やってちょうだい、Ruby。」

「それでは、スロットルをアイドルからミリタリーへ。」

 茜には、ジェット・エンジンの出力が上昇するのを模した効果音が聞こえて来る。視界の左下付近に表示されている、エンジンの回転数を示すゲージは、その数値が跳ね上がるのだった。だが、まだ視界は動かない。

「ブレーキ・リリース。滑走を開始します。」

 Ruby が、そう告げると、車輪のブレーキが解除された瞬間に視界が一度、上下に揺れ、そして景色が後方へと流れ出すのだ。

「フラップ、ハーフ・ポジションにセット。」

 後方に流れ去る景色の勢いは、段々と増していき、表示される機速の表示値も跳ね上がっていくのだ。そして、あっと言う間に滑走路の中間付近に差し掛かった。

「V1(ブイ・ワン)。」

 Ruby の告げたその意味は『離陸決定速度』と謂(い)われる『この速度に達したら、トラブルが発生しても離陸を中断出来ない速度』の宣言なのだと、茜は昨日、金子から、そう教わっていた。ここで減速しても滑走路内での停止は無理なので、何が何でも一旦(いったん)は離陸を強行しなければならない。寧(むし)ろ、その方がより安全なのだ。

Vr(ブイ・アール)。」

 その通告と同時に、茜の視界は今度は縦に動き始めた。仮想 AMF が、機首を上げたのだ。視界正面に映された機体の角度を表示する目盛(スケール)が縦に流れ、その動きが 12°付近で止まると、今度は高度インジケーターの数値も段々と大きくなっていた。仮想 AMF は地面を離れ、上昇を始めたのだ。
 茜が周囲の景色は段々と下へと離れて行き、周囲の山頂が何時(いつ)の間にか、視線よりも下になっているのだった。

「ギア・アップ。フラップ、ゼロ・ポジションへ。以上で離陸操作は完了です。引き続き、高度一千メートル迄(まで)、上昇します。」

 そこで、加納の指示が割り込んで来るのだ。

Ruby、フル・パワーでバーティカル・クライム、行ってみようか。」

「了解、実行します。」

 加納の指示に対して即答する Ruby に、茜は「え?」と一言を発するのが精一杯だった。茜の視界は一気に天頂へと向き、仮想 AMF はアフターバーナーに点火して、ほぼ垂直に上昇を開始したのだ。
 現実の AMF 本体は、シミュレーション内の動きに対して一切、動作はしていない。しかし、HDG を吊り上げている接続アームには、HDG の角度に就いて三軸それぞれ、つまりピッチ、ヨー、ロールの各軸にプラス・マイナスそれぞれに 40°程の可動域が設けられていて、その動作とキャノピー内部に表示される仮想視界とを組み合わせて、HDG の装着者(ドライバー)に対しての姿勢変化や加速度変化を再現している。
 十秒足らずで高度一千メートルに達した仮想 AMF は、垂直に立ち上がった姿勢から宙返りの姿勢になり、その背面飛行状態から機体をロールさせて水平飛行に移ったのである。

「高度一千メートルで、飛行場方向へ水平飛行中。スロットルは、50%にセット。速度は 10.5 です。」

 Ruby の報告を聞いて、茜は取り敢えず、大きく息を吐(つ)いたのだ。すると、加納が呼び掛けて来る。

「天野さん、ちょっとした軽い機動(マニューバ)でしたが、大丈夫でしたか?」

「ああ、はい。大丈夫です、ちょっとビックリはしましたけど。」

「実機だと、もっとGが掛かりますが、シミュレーターなので視界がグルグル回るだけで。それでも目が回ってたり、気持ち悪くなったりは、してませんか?」

「あれ位なら、全然平気ですよ。御心配無く、加納さん。」

「了解。さっきので駄目な様なら、この先の空中戦闘機動や、実機での飛行は無理ですので。少しずつ、領域の確認をしていきましょう。では、取り敢えず一度、着陸の視界を体験してみてください。ここの滑走路に降りるのは、山の斜面に向かって降下して行く事になるので、視覚的には、結構、怖いと思いますが。そこは覚悟しておいてください。」

「分かりました。覚悟しておきます。」

 茜と加納が、そんな遣り取りをしている間に、仮想 AMF は飛行場の上空を通過していたのだ。そして Ruby が通告する。

「旋回、降下してランディング・アプローチを開始します。宜しいですか?茜。」

「どうぞ、やってちょうだい、Ruby。」

 茜が応えると、視界が左へ傾き、仮想 AMF が左旋回し乍(なが)らの降下を開始した。降下する事で加速してしまうのを防ぐ為、旋回する事で運動エネルギーを消費し、一周半の旋回で Ruby は高度と速度を、そして滑走路への進入経路にと、仮想 AMF の機体をピタリと合わせ込むのだ。
 天神ヶ﨑高校の滑走路には、それ程高度な計器着陸装置が設置されている訳(わけ)ではない。地形的にも山が近く、施設自体も天野重工の所有である為に一般への開放はされておらず、所謂(いわゆる)『空港』や『飛行場』ではないからだ。勿論、近隣を飛行中の航空機にトラブルが発生した場合、ここに緊急着陸する事は可能だが、管制塔も無く、常駐する管制官も居ないので、天野重工の社有機と天神ヶ﨑高校飛行機部以外の機体が、この滑走路を利用する事は、先(ま)ず有り得ない。そんな訳(わけ)で、この時代に普及している自動着陸機能に対応する様な、高度な計器着陸装置は設置されていないのだ。
 Ruby は飛行場の位置データと、その周辺地形データ、それに自機の位置情報を組み合わせて、着陸アプローチの経路を自力で割り出しているのであって、滑走路側の誘導装置を利用している訳(わけ)ではない。勿論、飛行場側に何らかの誘導装置が設置されてあれば、それを利用する事も可能で、その為の装備が AMF には用意されているのである。
 仮想 AMF は滑走路に向かって、東側から接近しているので茜の右手側には、山の斜面が迫って見える。茜自信は、HDG-A01 単体で何度もこの滑走路上空は飛行していたのだが、AMF での着陸進入速度は HDG-A01 での飛行よりも三倍以上高速なので、景色の迫って来る感覚には明らかに差異が有るのだった。
 普通の旅客機に乗った経験も何度かは有る茜だったが、その時に窓から見た着陸時の風景とも、印象は異なっていた。普通に開けた場所に在る空港に降下して行くのとは違い、起伏の有る山地に向かって降りて行くのは、地面の迫って来る感覚に、何と言うか『迫力』が感じられたのだ。

「ギア・ダウン。フラップ、フル・ポジションにセット。」

 Ruby が着陸脚の展開を宣言し、その操作が実行されると、同時に実行されたフラップの展開も相俟(あいま)って、抵抗の増加で機速が一気にダウンする。Ruby は機体の迎え角とスロットルとを微妙に調整しつつ、滑走路の東端へと接近を続行した。
 茜は表示されている対気速度と降下率が、事前に聞いていた範囲に収まっているのを確認しつつ、流れる仮想視界を見詰めていた。それは昨日、飛行機部のフライト・シミュレーターで体験した着陸時の景色とは、スピード感が倍以上も違っていたのだ。飛行機部のフライト・シミュレーターは軽飛行機がモデルであり、今、茜が体験しているのはジェット戦闘機と同等の機体がモデルなので、そもそもが着陸速度が全然違うのだ。勿論、その事は、茜も理解はしている。
 滑走路への接近を継続する Ruby が、目指す滑走路への対地高度を十メートル置きに読み上げる中、間も無く、仮想 AMF が滑走路東端を通過すると、機首を持ち上げた状態でスッと機体が沈み、主脚輪(メイン・ギア)が滑走路に接地するのだ。そして直ぐに機首が下がって首脚輪(ノーズ・ギア)が接地すると、逆噴射装置(スラスト・リバーサー)が作動し、仮想 AMF は一気に速度を失うのである。程無く、機体は滑走路の中程で停止したのだった。

「着陸操作を終了。スロットルをアイドル・ポジションへセット。以上でシミュレーションを終了しますか?」

 その Ruby の問い掛けに、直ぐに答えたのは緒美だった。

「取り敢えず、一旦(いったん)、終了。 天野さん、感覚は掴(つか)めそう?」

「はい、何度か繰り返せば、大丈夫だと思いますけど。」

「そう。 加納さんから、何か、有りますか?」

 緒美の問い掛けに、レシーバーへ返って来る声が加納に代わる。

「山に向かって降下して行くのに、恐怖感とか無かったですか?天野さん。」

「いえ、特に。あ、スピードは速いな、とは思いましたけど。HDG-A01 単独での飛行に比べて。」

「恐怖感が無かったのなら、結構。では、最初は離着陸、特に着陸操作を、お昼まで重点的にやってみましょうか。」

 そんな訳(わけ)で引き続き、茜は仮想 AMF に因る離着陸を、シミュレーターで反復する事になったのだ。今度は茜の思考制御で、離陸から着陸迄(まで)の操作を繰り返すのだ。
 離陸に就いては、操作自体はそれ程、難しくはない。横風とかが吹いていなければ、滑走路を真っ直ぐ走って、離陸速度に達したら機首を上げればいいのである。離陸では、滑走中にトラブルが発生した際に、離陸を中断するのか続行するのか、続行する場合に離陸後にどう対処するのか、そう言った判断やトラブルへの対応の方が難しいのだと言えるだろう。
 着陸に関しては、降下角度や速度の感覚を把握する為、滑走路上空での低空飛行から始まり、主脚輪(メイン・ギア)や首脚輪(ノーズ・ギア)をも滑走路に接地した後、再度離陸する『タッチ・アンド・ゴー』のシミュレーションを何度も繰り返し実施したのである。
 そんな様子が映し出されたモニターの画面を眺(なが)め乍(なが)ら、金子が緒美に話し掛ける。

「そう言えば、わたし達も同じ様な事やったやったよね、去年。合宿の時。」

「スピードとか、エンジンのパワーとか、段違いだけどね。」

 緒美は、微笑んで応えた。そして続けて、金子に言う。

「金子ちゃんには、折角(せっかく)来て貰ってけど、出番は無さそうね。」

「まあ、加納さんが居たらね。わたしの出る幕なんて、そりゃ、無いわ~。でも、加納さんが教官役なら、それ、見てるだけでも、わたしも勉強になるから、来た甲斐(かい)は有ったってものよ。」

 そう言って、金子はニヤリと笑うのだ。
 そして時刻は十二時を過ぎ、午前中の活動は終了となったのである。


「茜、お昼、どうする?」

 HDG から降りて来た茜に、タオルを渡しつつブリジットが、そう声を掛けた。茜は受け取ったタオルで顔の汗を拭(ぬぐ)いつつ、応える。

「午後からもシミュレーションやるんだし、インナー・スーツをもう一度、着直すのも面倒(めんどう)よね~。」

「じゃ、何か買って来ようか?パンとか、サンドイッチとか。」

 そうブリジットが提案した時、彼女のデニム生地のハーフパンツ、そのポケットの中の携帯端末にメッセージが届くのだ。確認すると、それは村上と九堂からの、昼食の誘いだった。彼女達はこの日、午後からの兵器開発部の活動に合流する予定だったのだ。

「敦実(アツミ)と要(カナメ)、お昼、一緒に食べようって。」

「ああ、それじゃ、着替えて来るかな、矢っ張り。」

 そう言う茜の傍(かたわ)らで、ブリジットは携帯端末を操作して、九堂へと通話要請を送る。九堂は、直ぐに通話に応じた。

「ああ、要? うん、見たんだけど…いや、茜がさ。インナー・スーツ着替えるの、結構大変なのよ…そう、午後からも引き続きシミュレーターやる予定だし。…え?…あーそうそう。うん。…うん。 あー、そう?だったら助かる。…あ、一応、茜にも聞いてみる。ちょっと待ってて。」

 ブリジットの通話の様子を、不審気(げ)に聞いていた茜が、ブリジットに尋ねる。

「要ちゃん、何て?」

「ああ、敦実と二人で、売店でお弁当買って、こっちに来ようかって。」

「それは助かるけど、何だか悪いわね。」

「いいじゃない、借りはまた、何かの機会に返せば。あの二人だって、午後からこっちの活動に合流する都合で、来るんだしさ。」

「じゃあ、そう言う事で。ありがとうって、言っておいて、ブリジット。」

「了~解。」

 ブリジットは携帯端末を耳に当て直し、通話先の九堂に話し掛ける。

「あ、要? それじゃ、お願いするわ、待ってる。 …え?あー何でもいい、お任せするから…うん、お願いね。それじゃ、また、あとで。は~い。」

 そんな具合で、ブリジットが通話を終えた頃合いに、茜とブリジットの二人に、恵が声を掛けて来る。

「天野さん、ボードレールさん、お昼に行きましょう。待ってるから、着替えていらっしゃい。」

 それには透(す)かさず、ブリジットが声を返した。

「ああ、恵さん。村上さんと九堂さんが、何か買って来て呉れるって事で、今し方、話が付いた所です。」

「午後の活動の前に、又、着替えるのも結構な手間なので。」

 ブリジットに続いて茜の発言した補足で、事情を察した恵は尋ねるのだ。

「じゃ、部室で食べるのね? お茶とか、用意しましょうか?」

「あ、御構(おかま)い無く。飲み物とかも、買って来て呉れますので。」

 そうブリジットが答えると、今度は緒美が言うのだ。

「それじゃ、わたし達は学食の方へ行って来るけど。序(つい)でだから、ここの留守番もお願い出来るかしら?」

 実は緒美達、三年生組は、売店でパンでも買って来て、午後の活動までの間、部室で過ごす積もりでいたのだ。何が起きると言う心配が有る訳(わけ)でもなかったのだが、それでも昼休みの間、第三格納庫を無人にする訳(わけ)にもいかないだろう、と、そう考えていたのである。
 緒美の問い掛けには、茜が即答した。

「わたし達は構いませんよ。先輩達は、ごゆっくりどうぞ。」

「そう? それじゃ、何か有ったら連絡してね。」

 そんな遣り取りをし乍(なが)ら茜達は、二階へと上がる階段へと向かって歩いていた。
 そして、立花先生が言うのだ。

「考えてなかったけど、そう言う事なら、明日以降のお昼も、天野さん達の分は、こっちで食べられる様に準備しておいた方がいいかしら?」

「そうですね。」

 恵が応えると、続いて直美が提案するのだ。

「それじゃ、こっちで昼食を済ませたい希望者の分、人数確認しておいて、お弁当でも発注しときます?」

「あ、いいですねぇ、それ。」

 直美の提案に、即座に乗ったのは瑠菜だった。透(す)かさず、立花先生が言葉を返す。

「言っておくけど、只じゃないわよ。それに、それ程、豪華なものにはならないでしょうし。」

「あはは、分かってますよぉ、それ位。」

 笑って返す瑠菜に続いて、微笑んで樹里が言うのだ。

「学食や寮の食事は、何時(いつ)でも食べられるものね。」

「そうそう、偶(たま)には目先の変わったものが食べたいじゃない。」

 そんな会話をしていると、茜達は階段の上(のぼ)り口に到着したのである。そこで、緒美が茜とブリジットに声を掛ける。

「それじゃ、わたし達は下の出口から出るから。午後は一時半からスタートだけど、予定通り、B号機もシミュレーションに参加するから、ボードレールさんはインナー・スーツに着替えておいてね。」

「はい、分かってま~す。」

 ブリジットの返事を聞いて微笑んだ緒美は、「それじゃ、留守の間、宜しく。」と言い残して、他のメンバーと一緒に階段の下を通って手洗い場区画脇の奥に有る、東側一階出口へと向かったのだ。
 茜とブリジットの二人は階段を上がり、一度部室を通過して南側の支度室へ入ると、茜の着ているインナー・スーツのパワー・ユニットと背部及び腰部のフレームを取り外し、インナー・スーツを少し緩めてから部室に戻って、村上と九堂の到着を待ったのだ。

 

- to be continued …-

 

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