WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

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STORY of HDG(第16話.05)

第16話・クラウディア・カルテッリエリと城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 16-05 ****


「『普通の』って、それじゃ『普通じゃない』ミサイルって?」

「例えば、長射程攻撃用にレーザー砲、中射程用にレールガン、短射程用に荷電粒子ビーム砲、近接格闘戦用にロボット・アームとビーム・エッジ・ソード、更に防御用にディフェンス・フィールドを持っていて、それらを AI が統合制御する、そんなミサイルですよ。」

「何、言ってるの、天野さん。そんなミサイル……あ。」

 呆(あき)れた様に樹里は言葉を茜に返そうとしたのだったが、何かを思い出し、そして続けて言うのだ。

「…それって、HDG の航空拡張装備、B案の事? 来月、試作機が来る予定の。」

 樹里が視線を緒美の方へ向けると、緒美は大きく頷(うなず)いて見せる。
 因(ちな)みに、HDG の仕様書に記載されている『航空拡張装備A案』が、『AMF』なのである。

「B案、『空中撃破装備』は圧倒的多数のエイリアン・ドローンに対処する状況を考慮したものだけど、HDG の代わりに弾頭を接続すれば、確かにミサイルになるのよね。」

「ちょっと、待ってください…えーと…。」

 樹里は困惑して、思考を整理し乍(なが)ら、発話するのだ。

「…つまり、『空中撃破装備』にミサイルの弾頭を取り付けて打ち上げ、迎撃に飛来するエイリアン・ドローンを撃破し乍(なが)ら月軌道まで飛んで、エイリアンのマザー・シップに突入させる、そう言う事ですか。」

「そう言う事になるわね。」

 笑顔で答える緒美に、茜が問い掛ける。

「つまり、部長が書いた仕様書のアイデアを、そう言う風(ふう)に転用しようと、本社が考えている、と?」

「時系列的に考えて、わたしの書いた仕様書が元になったって事は無いと思うわ。Ruby の開発は、わたしが仕様書を書き上げるよりも、遙(はる)か前にスタートしてた筈(はず)だから。 わたしとは別に、エイリアン・ドローンの防御網を突破してマザー・シップへ到達する方法を、同じ様に考えていた人が居たのよ。それが本社の人か、政府の人なのかは、知らないけど。」

「偶然、同じアイデアだった、と?」

「そうね。地球から月軌道までの間、隠れられる様な場所は無いし、選択し得る軌道にも、それ程幅が有る訳(わけ)でもない。それだけ条件が限定されしまえば、同じ様なアイデアに帰結するのは、寧(むし)ろ必然でしょ。 そもそもがB案は、数百機のエイリアン・ドローンを突破して、エイリアン・シップに到達する想定で考えていたの。わたしの場合は飽く迄(まで)、有人で考えていたから、余り現実感(リアリティ)が無かったんだけど。まあ、地球から打ち上げて月まで行こうとなると、無人でって考えるのが普通よね。」

「道理で。あの案だけ他のと微妙にベクトルが違うって言うか、矢鱈(やたら)と仕様が攻撃的なのは、そう言う事でしたか。」

 茜は少し呆(あき)れる様に言って、納得するのだった。その様子に微笑む緒美へ、今度は樹里が問い掛ける。

「要するに、本社が欲しかったのは『B案』の機体、って事ですか?」

 それには、緒美は補足する様に答えるのだ。

「『B案』の試作機その物、ではないわ。そこ迄(まで)の開発作業で検証された技術と、それから、完成した Ruby よね。本番で使用する機体は、又、別途、本社の方(ほう)で設計が進んでいるんでしょう。」

「それにしたって、Ruby のユニットは一基しか無いんですよ? ミサイル一発で、どれだけの効果が有るんでしょう?」

 樹里の、その問いに対して、緒美は微笑んで言うのだ。

「その特殊なミサイルが、一機だけの筈(はず)は無いでしょう。目標がとんでもなく大きいんだから、二十や三十は打ち上げる計画なんじゃない?」

「ああ、そうか。だから最初に、部長は二年か三年先って仰(おっしゃ)ったんですね?」

 茜に、そう言われて、緒美は頷(うなず)いて付け加える。

「必要な数を揃(そろ)えるのに、或る程度の時間は必要な筈(はず)だから。」

 すると、樹里が訊(き)いて来るのだ。

「じゃあ、Ruby もミサイルの数だけって事に? それはちょっと、流石に無理な気がしますけど。」

「全部が Ruby と同じスペックである必要は無いでしょ? 多分、他のは Sapphire と同じクラスのユニットになるんじゃないかしら。」

 その緒美の見解を聞いて、樹里は唐突(とうとつ)に合点(がてん)が行ったのである。

「そうか、それで Ruby が上位に設定されていて、Sapphire を制御出来る仕様だったんだ。成る程。」

 樹里が何やら納得する事頻(しき)りである一方で、茜は神妙な面持(おもも)ちで、緒美に声を掛ける。

「あの…部長。」

「何かしら?天野さん。」」

「…部長は、その…HDG が評価されていない事に就いては、それでいいんですか?」

 その問い掛けに、緒美は一度、少し驚いたのだが、敢えて笑顔を作って茜に答える。

「評価…されていない訳(わけ)ではないと思うの。採用される見込みが無いのは、唯(ただ)、仕様が政策に合致していないから、だから。」

「政策?ですか。」

「そうよ。HDG の仕様はエイリアン・ドローンを迎撃する事に主眼を置いていて、特に現用兵器では手薄な接近戦を重視しているわ。拡張装備で、中距離から長距離まで、対応範囲を広げているけど、その領域は既に存在する兵器でも代用が可能だし。 政府の防衛政策は、中、長距離での洋上迎撃が基本だから、元々 HDG が見向きもされないのは、解っていた事なのよ。実際に HDG を数百機、揃(そろ)えたとしても、エイリアン・ドローンの襲撃自体が無くなる訳(わけ)ではないしね。」

「それは、そうですけど。」

「勿論、現実の現場で接近戦になった時、防衛軍側が不利になる状況は何とかしたいし、HDG は、その為の回答ではあったけど。わたしの考えていた HDG では、結局、対処療法的な効果しか期待出来ないの。 だから、本社や政府の大人達が、根本的な問題の解決を考えているのなら、その事に就いては、わたしは嬉しいと思っているのよ。 そして、その計画に HDG で開発された事が一部でも利用されて、それが役に立つのなら HDG に関わった事は無駄ではなかったと思うの。」

 そこで、今度は樹里が問い掛けるのだ。

「でも、部長。本当に、その計画で根本的な解決に繋(つな)がるんでしょうか?」

 その問いに、緒美は一度、頭を横に振り、そして答える。

「それは、判(わか)らないわね。やってみないと。 でも、それ位の事はやらないと、状況は変わらないんだわ、多分。」

「それじゃ取り敢えず、部長は、その『計画』に就いては、賛成なんですね?」

 茜の問い掛けに、真面目な顔で頷(うなず)いた緒美は言うのである。

「そうね。但し、Ruby の事は、何とかして助けたいの。」

「そうですね。 例えば、わたし達がこれ以降の検証作業を放棄したとしても、それは無駄なんでしょうね?多分。」

 その茜の提案に、緒美は小さく頷(うなず)いてコメントする。

「無駄でしょうね。時間は掛かっても、残りの作業を本社と防衛軍とで進めるだけ、でしょうから。それに、その計画自体を妨害したい訳(わけ)じゃないのよ、わたしは。」

「そうですよね。そうすると、突入する際に弾頭だけを切り離すか、逆に Ruby のユニットを切り離すか、そう言う設計に変えて貰いますか?」

 続いてアイデアを出す茜に、頭を横に振って緒美は言うのだ。

「本社や政府は、仕掛けが複雑化するのを嫌うでしょう? それに、上手く切り離しが出来るとしても、Ruby を地球へ帰還する軌道へ乗せないといけないし、回収する方法も考えないといけない。そう言う手間やコストを掛けない為の、言わば使い捨てにする為の AI 制御の筈(はず)なんだから。」

「ですよね。多分、相当に進んでいる筈(はず)の計画や機構の設計を、今から大幅に変更して呉れる事は有り得ないですよね。」

 そう言って、茜は両腕を組んで考え込むのだった。そして緒美は、樹里に問い掛けるのだ。

「城ノ内さん、例えば、Ruby を丸ごとコピーとかって出来ないのかしら?」

「え~…。」

 樹里は少しの間、考えてから緒美に答えた。

「…安藤さんに、以前聞いた話だと、丸ごとって言うのは無理らしいです。Ruby を完全に停止させれば、可能かも知れませんけど。」

 その答えを聞いて、茜が尋(たず)ねるのだ。

「でも、樹里さん。Sapphire がライブラリの移植受けた~みたいな事、云ってたじゃないですか。」

「テキストや数値で格納してある情報は、コピーも出来るし、他のマシンでも利用出来るの。でも、『疑似人格』を構築している『記憶』は、そうはいかないらしいのよね。詳しい事は、わたしにも解らないけど。」

「『記憶』と『情報』って、意味が違うんですか?」

 そう茜に問い掛けられ、樹里は腕組みをして「う~ん。」と唸(うな)り乍(なが)ら、天井へ視線を遣るのだ。そして視線を茜に戻すと、説明を始める。

「例えば、青色に塗られた壁を見たとしましょう。その経験を日記に、『今日、青い壁を見た。』と記録します。その日記の記載が『情報』で、それを他の人が読めば『ああ、青い壁を見たんだな。』って情報が共有出来るよね?」

「ああ、はい。そうですね。」

「日記に、もっと詳しい情報、場所とか時刻とか、壁の大きさとか、記載を詳しくすれば、それだけ共有出来る情報が多くなるのは、解るよね?」

「はい。」

「でも、『記憶』って謂(い)うのは、もっと幅が広くて、他の情報と関連付いているの。例えば『青』って色から連想する印象、冷たいだとか、爽やかだとか、清潔、空気、空、水、海、そんな風(ふう)に色だけでも沢山の他の情報と関連していて、その『青い壁』を見た瞬間の印象なんかは、色んな方向へ広がっているの。その印象だとか連想だとか迄(まで)、日記に、つまり『情報』として書き出すのは、流石に無理だよね。 それ以外にも、その経験をした時の状況、光の具合だとか温度、湿度、聞こえていた音や、その壁に触れていれば、その感触、あと、臭(にお)いとかも、そう言った五感全部が経験と関連付けされて情報と情報との関連の重み付けが変わって行く、そんな処理をやっている訳(わけ)。」

「えーと、樹里さん。そのお話は、Ruby のシステムの話ですか? それとも、人間の脳の事ですか?」

 困った様に訊(き)いて来る茜に、樹里は微笑んで答えるのだ。

「どっちも、よ。Ruby の記憶処理は、人間の脳活動をソフト的に再現したものだそうだから。 そうやって、色んな情報の関連付けと、その重み付けがされた『記憶』を積み上げて、Ruby の『疑似人格』が出来上がっているんだって。 わたしはこんな説明を聞いたんだけど、解って貰えたかな?」

「まあ、何と無く。はい。」

 苦笑いで、茜は返事をするのだった。
 それに続いて、緒美が訊(き)く。

Ruby って、定期的にシステムのバックアップとか、取ってないのかしら?」

「書き出せるライブラリのバックアップは、リモートで定期的に開発の方で保存してる筈(はず)ですけど。明日にでも、安藤さんに詳しく訊(き)いてみましょうか。」

「そうね、どこまで教えて呉れるかは判(わか)らないけど。」

「まあ、トライしてみますよ。」

 すると、茜が疑問を口にするのだ。

「でも、部長。Ruby のシステムがコピー出来たとしても、ハードのユニットが無くなっちゃったら、お仕舞いなんじゃないですか?」

 それには、樹里が見解を提示する。

「いえ、天野さん。Ruby の役割がそれ程に重要だとすれば、絶対にハードのバックアップ・ユニットも用意されてる筈(はず)よ。」

「バックアップ・ユニットが用意されているなら、システムをコピーする方法だって、何かしら用意されているんじゃありませんか?」

 茜の意見を聞いて、緒美と樹里は互いに顔を見合わせるのだ。そして、緒美が言う。

「普通に考えれば、そうよね。」

「その辺り、井上主任に直接、訊(き)いてみたいですよね。」

 その、樹里の所感に頷(うなず)いて、そして緒美は微笑んで言うのだ。

「取り敢えず、少しは希望が有るみたいだわ。矢っ張り、貴方(あなた)達と話して良かった。 まあ、その計画が実行される迄(まで)、あと一年や二年は猶予が有る筈(はず)だから。ここでの話は、申し訳無いけど誰にも言わないで、頭の中に入れておいて欲しいの。直ぐに、わたし達でどうにか出来る問題でもないし。」

「それはいいですけど。」

 そう前置きをして、茜が懸念を述べるのである。

「…部長の予想が当たっているとして、Ruby がそう言う用途なのを、安藤さんや、Ruby 自身は知ってるんでしょうか?」

 それには、樹里が即答するのだ。

「安藤さんは、先(ま)ず間違いなく知ってるでしょうね。何せ、井上主任のアシスタントなんだから。日比野さんは、多分、知らないでしょうけど、Ruby は…どうでしょう? ちょっと、判(わか)らないな。」

「ああ、それで。このお話は談話室(ここ)で、だったんですか?部長。」

 そう茜に問われて、緒美は答える。

「まあね。第三格納庫だと、間違いなく Ruby に聞かれるから。」

「成る程、そうですね。」

 茜が納得している一方で、樹里が緒美に話し掛けるのだ。

「しかし、部長。ここ迄(まで)のお話、部長の推理で辻褄は合っていると思いますけど。一つだけ、誘導装置に使う筈(はず)の Ruby が、どうして『疑似人格』なんて、或る意味厄介な仕様なのか。それが理解出来ないんですが。 戦闘用途に特化するなら、A号機やB号機に組み込んである、名前も付けられていない様な制御用 AI でいいのではないでしょうか? 人と会話する汎用 AI である必要性って、何でしょう?」

「それに関しては専門外だから、わたしにも解らないわ。寧(むし)ろ、その理由を城ノ内さん、貴方(あなた)に教えて貰いたい位よ。」

 真面目に言葉を返して来る緒美に、苦笑いで樹里は言うのだった。

「ひょっとしたら、Ruby は動作データの集積に使用されてるだけで、本番では『疑似人格』とかが無い、制御用の AI が使われるのかも知れませんよ。 そもそも、どうして Ruby が兵器開発部(うち)に預けられているのか、その意図が今(いま)だに理解出来ません。」

「それは、HDG での実戦データを収集する為じゃないんですか?」

 事も無げに、そう言い放つ茜に、樹里は呆(あき)れ顔で言葉を返すのだ。

 

- to be continued …-

 

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