「Akane-UF-OP01A for Poser」進捗・2016.08.15
「天神ヶ崎高校」の夏服、Poser DC 版、取り敢えずセットアップまで出来ました。
こちらは、後ろ姿。
ちょっと意味不明なポーズで、追従度や破綻の確認をしたのがこちら。
スカートのひだの折り返しが、イマイチ、思い通りにならないのだけど、まぁ、Toon 版だとこんな物だろうか。
シミュレーションの設定とか、もうちょっと使ってみて決めたいと思います。
「HDG-Claudia for Poser」進捗・2016.08.06
前回製作したサンプル画像に、制服を着せたのが今回の掲載画像。
クラウディア用にも制服をセットアップ(DC)したわけですが、袖の所がイマイチ綺麗にシミュレーション出来なかったので、強制グループで固定しました。それから、茜が使っている、校則通りのスカートをベースにしてクラウディア用に変換すると、スカートが長めに見えてしますので~ブリジット用に使っている、スカートを短めにしたモデルをベースに、クラウディア用にサイズ調整をして DC 化しました。
しかし、クラウディアとブリジットの足の大きさの違いが、もう(笑)
STORY of HDG(第6話.14)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-14 ****
クラウディアは数秒の間を置いて、口を開いた。
「どうして、言ってくれなかったの?」
「どう言えっていうのよ?わたしもあなたに負けないぐらい成績いいですよ、なんて、普通、自分から言ったりしないでしょ。わたしも、天野さんと同じで、そんな事で競争する気はないし、ね。」
維月の返事を聞いたクラウディアは、じっと維月を見詰めた儘(まま)だったが、言葉に詰まっている様子だった。維月は、更に言葉を続ける。
「百歩譲って、どんな風に伝えるかは兎も角、わたしの取るであろう成績の事を、あなたに話したとしましょう。それで、あなたがわたしに対して、あなたが天野さんに取る様な態度になったら、それはわたしに取っては辛い事よ。わたしはあなたと敵対したくはないし、寮では同じ部屋で寝起きするのよ。だからって、あなたに気を遣って、わざと悪い成績を取るなんて事迄(まで)する気は無いの。わたしは去年後半、病気の所為(せい)で学校に来られなくなって、散々悔しい思いをしたから。そんな気持ち迄(まで)あなたに解って貰おうとは思ってないけど、誰にもわたしの邪魔はさせないわよ、今度はね。」
黙った儘(まま)だったクラウディアは、維月がそこ迄(まで)言い終えると、視線を机の上へと落とした。何か言葉を探している様だったが、数秒経っても、それが見付からない様子だった。維月はスゥッと息を吸い込んで、少しゆっくり、話し出す。
「クラウディア、あなたは頭はいいけど、人との関わり方がとっても不器用で、それで無駄に敵を作って損をしていると思うの。だけど、そんなあなたの事を、わたしは嫌いじゃないのよ。あなたとわたし、これからも上手くやっていけるかしら?」
維月はクラウディアの瞳を覗き込むように、微笑んで視線を投げかける。クラウディアはその視線を受け止め、言った。
「上手くやっていきたい、と思う。わたしも。」
「そう、よかった。」
席から腰を浮かせ、維月はクラウディアに向かって右手を差し出す。クラウディアは少し躊躇(ちゅうちょ)した後、その右手を取り、二人は握手を交わすのだった。
「じゃ、これからもヨロシクね。」
笑顔で、そう言った維月は、クラウディアの手を握る右手に少し力を入れ、笑顔を崩さずに言葉を続ける。
「これで、一件落着…と言いたい所だけど。でもね、この際だから言わせて貰うけど、天野さんとボードレールさんに対するあなたの態度は、度を超していて失礼よ。対人不器用って言うレベルじゃないから、この場で少し、考えを改めなさい。」
維月は更に、右手にぎゅっと力を込める。
「痛い!イツキ、痛い、痛い。」
「別に、謝れとか何とか言ってる訳(わけ)じゃないの。徒(ただ)、今後の態度を考えなさいって言ってるだけ。それが分かったら、放してあげる。」
「分かった、分かったから。放してっ。」
悲鳴にも近いクラウディアの声を聞いて、漸(ようや)く維月は握っていた右手を放した。その手を机越しにクラウディアの頭へと伸ばし、その金髪の頂部に右手を当てて維月は言った。
「いい子ね。」
透かさずクラウディアは、左手で維月の右手を払い除ける。
「だから、頭を撫でないでってば。」
「あはは、ごめん、ごめん。」
維月は椅子に座り直し、言葉を続けた。
「正直言うとね~今回の試験、自分が立場的に有利なのは解ってたんだけど、クラウディアに勝てる自信は無かったのよね。それから、天野さんがここ迄(まで)得点するとも思ってなかったの。黙ってればクラウディアの希望通りの結果になって、丸く収まるのかなって思ってたから、わたしとしては予想外な結果だったけど。まぁ結果的に、これで良かったのかもね。」
対して、クラウディアは立った儘(まま)、腕組みをして言う。
「まぁ、いいわ。取り敢えず、今後の目標を変更する。卒業までに、イツキとアカネを追い抜くのが、今後の目標よ。」
「卒業って…随分とロング・スパンに切り替えたわね。」
と、呆れ半分、からかい半分でブリジットが突っ込むのだった。そして、茜も呆れた様に、言葉を返す。
「どうであれ、わたしはそんな勝負に付き合う気はありませんので、どうぞご勝手に。」
「ええ、飽くまでも個人的な目標だから、勝手にさせて貰うわ。」
茜を横目で見つつ、クラウディアは鼻で笑う様に言うのだった。
その時、「パン」と一回、手を打つ音が室内に響いた。
「はい、そろそろ今日の作業、始めましょうか。運用試験本番迄(まで)、あと一週間しか無いんだから。」
事の成り行きを見守っていた緒美が、立ち上がってそう言うと、一同が席を立ち、それぞれの担当作業の準備を始めるのだった。
茜とブリジットは、インナー・スーツへ着替える為、中間試験以降より更衣室扱いとなっている、資料室の隣室へと向かった。瑠菜と佳奈、直美は HDG と LMF の起動準備の為に階下へと降りて行く。緒美と恵、立花先生は、記録機器の準備を始めた。樹里とクラウディア、そして維月の、今日の作業予定は、HDG-B号機及び、C号機のソフトウェア仕様の検討と資料整理である。
「手伝ってくれる人が来てくれて、助かるわ~。今迄(まで)この担当は、わたし独りだったから。」
愛用のモバイル PC に必要なアプリケーションを立ち上げ乍(なが)ら、樹里が染み染みと、そう言った。
「イツキも、正式に入部すればいいのに。」
「入部すれば、本社からバイト代も出るのよ。」
「いいわよ、お金なんて。人手が足りない時のお助け要員位(ぐらい)が、わたしにはちょうどいいの、無責任で。」
そう言って笑う維月は、何と無く左手を自分の首筋へと当て、少し伸びた襟足を撫でるのだった。その仕草を見て、樹里が言った。
「早く伸びるといいね、髪。」
「伸ばしていたの?以前。」
クラウディアが維月に尋ねる。
「うん、まぁね。」
「去年迄(まで)は、今の部長位(くらい)、長かったのよね。」
「どうして切ったの?」
「髪を切らなくても手術は出来たんだけど、願掛けみたいな物よ。脳腫瘍の手術が成功しますように、って。」
「そう。」
短く返事をしたクラウディアは、鞄から取り出した自分のモバイル PC の、電源を入れたのだった。
- 第6話・了 -
※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。
STORY of HDG(第6話.13)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-13 ****
その上位三名は、次の通りだった。
1. 機械工学科 天野 茜 967点
2. 情報処理科 井上 維月 942点
3. 情報処理科 クラウディア・カルテッリエリ 918点
得点は今回の試験教科、十教科の合計得点である。
「あら。」
茜は一言そう言うと、それ以上の感想は口にしなかった。そして、ブリジットが続ける。
「なんだ、クラウディア。入試の時より順位、下がってるじゃないの。あぁ、それで維月さん、探してたんだ。」
「Ah~!油断してた!入試結果には、イツキの名前が無かったから。」
クラウディアは手近な椅子に腰掛け、頭を抱える様にして部室中央の長机に突っ伏した。
「そりゃ、維月さんは今年の入試は受けてないんだから、入試結果に名前が無いのは当然よね。」
とは、ブリジットの弁である。
「う~ん、入試を受けてないって言ったら、推薦枠の人も居るじゃない? だから、推薦枠の人がもっと上位に来るだろうと思ってたから、わたしの順位に就いては意外な結果だわ…。」
「何、言ってんの。茜はそもそも、推薦枠の人だったじゃない。」
茜の天然コメントへ、的確なブリジットの突っ込みである。
「大体、天野さんの得点より上って、注文として可成り厳しいよね~。」
クスクスと笑い乍(なが)ら、恵がそう評すると、茜が尋ねるのだった。
「それにしても、維月さんって、何気に凄い人だったんですね。」
「まぁね~、去年、休学する迄(まで)、樹里とトップ争いしてたもんね。」
茜の問いに答えたのは、瑠菜である。それに続いて、発言したのは樹里だった。
「それに、維月ちゃんは今回の試験範囲は二度目だから。去年と全く同じ問題は出てないと思うけど、それでも十分有利な筈(はず)よ。だから、てっきり今回の一年のトップは、維月ちゃんだろうと思ってた。」
「そうそう、その維月ンの上を行っちゃった茜ンは、又、凄いよねぇ。」
「まぁ、この一月(ひとつき)位(ぐらい)の、天野の様子見てればね、わたしは驚かないけど。」
「あの、え~…恐縮です。」
樹里に続く、佳奈と瑠菜の発言を聞いて、茜は嬉しいやら気恥ずかしいやらで、顔を紅潮させるのみだった。
「まぁ、点数を見れば、クラウディアも十分健闘したんじゃない? 毎度、引っ掛け問題を混ぜる先生もいるしね。」
慰める様な発言は、直美である。それに続いて、恵も言うのだった。
「そうね~、出題の文章も普通の会話とは又、違う言葉遣いになるから、日本語ってややこしいわよね。」
「慰めてくれなくてもいいです~。そういう先輩方は、どうだったんですか?試験の結果は。」
クラウディアは机に突っ伏した姿勢の儘(まま)、顔を上げて言った。
「鬼塚と城ノ内は、それぞれ学年一位、盤石だよね~。わたしは、上位三十位なんて縁が無いけど。森村は二十六だったっけ?」
「まぁ、なんとか。」
笑い乍(なが)らクラウディアの問い掛けに答える直美の振りに、恵は微笑んで答えた。
「わたしも上位なんて縁が無いですよ~、瑠菜リンは二十八位だったよね~。」
「そうね。今年中に二十位以内には、入りたいと思って頑張ってるんだけど。佳奈だって、上位三十位に後一歩位(ぐらい)じゃない? 三十位の人と、二十点位(ぐらい)しか違わないんだから。」
と、佳奈、そして瑠菜が答える。
「まぁ、気が付いて見れば、結構な成績上位者の集まりになっちゃてるわね~。」
「そうりゃ、そうですよ。天野重工の中でも最先端の代物(しろもの)を扱ってるんですから。別に、成績基準で部員を集めた訳(わけ)じゃないですけど。」
立花先生の所感に対して、何時(いつ)も通りの冷静な言葉を返す緒美である。
そんな折、部室のドアが静かに開き、室内の様子を窺(うかが)う様に、維月が顔を覗(のぞ)かせる。机に突っ伏していたクラウディアが、それに気付き、両手で机を押す様にして、声も上げずに勢い良く腰を上げた。
「はぁい。」
引き攣(つ)った笑顔を見せつつ、維月は左手を振って見せるのだが、クラウディアは無言で維月の方を見詰めている。維月は、気まずそうに言葉を続ける。
「いやぁ~そろそろ、ネタバラシも終わってるかな~って思って…。」
「そんな所に何時(いつ)迄(まで)も立っていないで、入って来なさいよ、維月ちゃん。」
開いたドアから顔だけ覗(のぞ)かせた儘(まま)の維月に、入室するように促したのは樹里である。
維月は後ろ手にドアを閉めると部室の中へと進み、クラウディアの向かいの席に座った。その動きを、クラウディアは視線で追っていたが、始終無言の儘(まま)だった。
「クラウディア、言いたい事が有るなら、さっさと言いなさい。」
そう、クラウディアに発言を促したのも樹里だった。
- to be continued …-
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STORY of HDG(第6話.12)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-12 ****
それから一週間後、予定通り前期中間試験は実施された。
試験前の一週間と試験期間中の一週間は何方(どちら)も、茜とクラウディアが接触する機会は無く、茜がクラウディアを寮で見掛ける事は有っても、クラウディアの側が茜を無視する状況が、依然として継続していた。
避難訓練の後、あの昼食の時に少しでも会話が有った事が幻だったかの様に思えて、茜には少し物寂しく思えるのであったが、然(さ)りとて、クラウディアと接触が無い事が特段の不都合を引き起こす訳(わけ)でないのも、又、一つの事実ではあった。
前期中間試験が終わると、翌日から部活動が再開された。
試験終了から二日の後、2072年6月16日木曜日。兵器開発部には本社試作工場から、HDG-A01 用の武装である、「荷電粒子ビーム・ランチャー」と「ビーム・エッジ・ソード」が各三セット及び、「ディフェンス・フィールド・シールド」が四セット、それぞれが搬入された。
そして同時に、陸上防衛軍演習場での HDG-A01 の武装と、LMF との火力運用に関する能力試験の日取りが、7月2日土曜日にと、正式に決定した事が天野重工本社より兵器開発部に伝えられた。
これらの事に因り、茜とブリジットは武装のフィッティング・テストや、取り扱いの慣熟、試験項目とその手順の確認等(など)、運用試験当日迄(まで)に熟(こな)さなければならない作業に忙殺される事になったのである。
そんな訳(わけ)で茜とブリジットの二人は、部活動が再開されて以降も、担当する作業の違うクラウディアとは、相変わらず接点を持つ事が無い儘(まま)日々が過ぎていった。
そして、2072年6月24日金曜日。前期中間試験が終わって十日目の、その日の放課後。茜とブリジットが何時(いつ)も通り、部室へとやって来る。部室の中には立花先生と先輩達が既に揃っており、クラウディアのみがまだ来ていない様子だった。
部室に入ってきた茜とブリジットを見た、先輩達の雰囲気が何時(いつ)もと違う様な気がして、誰とは無しに茜が尋ねる。
「あの、何か有りました?」
茜の問い掛けに答えたのは、恵である。
「天野さん、発表されてる中間試験の成績順位、見た?」
その問い返しを聞いて、茜は何と無くその場の雰囲気の理由を理解し、隣に立つブリジットと顔を見合わせるのだった。ブリジットは肩を竦(すく)める仕草で、苦笑いの表情をして見せた。
「いいえ、そもそも興味がありませんので。」
「ボードレールさんも?」
次いで、声を掛けてきたのは樹里だった。ブリジットは笑って、答える。
「あはは、わたしには、そもそも関係が有りませんので~。」
その時、第三格納庫の外階段を、勢い良く駆け上る足音が聞こえて来た。その足音の主は、部室のドアを開けて言う。
「イツキ、来てます? あ、アマノ アカネ。」
入って来たのは、クラウディアだった。茜は振り向き、クラウディアに抗議する。
「もう、いい加減、フルネームで呼ぶの、止めてくれない?クラウディアさん。」
「そう言うあなたは、どうしてわたしの事、ファースト・ネームで呼ぶの?そこの赤毛以外は、大体、ファミリー・ネームで呼んでるのに。」
「あ~、それに就いては申し訳(わけ)無いけど、あなたの名字は発音し辛(づら)いから。」
「あぁ、そう。そんな事より、イツキ!イツキは…来てない様ね。」
クラウディアは茜とブリジットの脇を擦り抜け、樹里の席へと向かった。
「維月ちゃんなら、今日は来てないけど、一緒のクラスなんでしょ?カルテッリエリさん。」
樹里がクラウディアに問い返す。
「最後の授業が終わったら直ぐに、姿を暗ましたんです、あのヤロー。」
「こらこら、女の子が『あのヤロー』なんて言っちゃダメよ~。」
笑い乍(なが)ら、恵がクラウディアの言葉遣いを窘(たしな)めると、直美が余計な補足を加えるのだった。
「そうそう、それに『ヤロー』ってのは、対象が男の場合に使うんだよ。」
「解ってます。そんな細かい事はこの際、いいんです。」
「まぁ、落ち着きなさいって。ほっといても、嫌でも寮には帰って来るんだから、維月ちゃんも。」
樹里は、そう声を掛けて、クラウディアの肩をポンと叩いた。
一方で、部室の奥から立花先生と共に様子を見ていた緒美が、茜とブリジットに声を掛ける。
「天野さんとボードレールさんの二人は、まだ状況が良く分からないって顔ね。」
それに、ブリジットが問い返す。
「と言う事は、先輩方は状況が分かっている、と。」
「そうね~これを見たら、一発で状況が理解出来ると思うわ~。」
そう言って樹里が、彼女の背後に有ったデスクトップ PC のモニターを、茜とブリジットの方へと向ける。茜とブリジットは、そのモニターへと近寄り、画面を覗き込んだ。そこには、その日の放課後になって学校から発表された、一年生の前期中間試験結果、成績上位三十名の名前が表示されていた。
- to be continued …-
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STORY of HDG(第6話.11)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-11 ****
そんな調子で、昼休みも半ばを過ぎた頃。クラウディアと維月はそれぞれ昼食も食べ終わり、茜達と分かれて、先に学食を出て教室へと向かった。その途中、廊下を歩き乍(なが)ら、維月はクラウディアに言うのだった。
「天野さんとは、仲良くなれそうじゃない?」
「仲良くなる必要なんて無いわ。わたしは彼女に勝てれば、それで良いの。尤(もっと)も、向こうが仲良くしてくださいって言って来るなら、考えなくもないけど。」
クラウディアは、そう言って笑う。
「そうやって、あなたが突っ掛かって行かなければ、さっきみたいに普通に受け入れてくれるわよ。折角(せっかく)、同じ部活になったんだから、わざわざ敵対する事もないでしょう?」
「対抗心は Motivation(モチバッツィオン)を維持するのに必要なのよ。」
「何?モチバ…あぁ、モチベーションね。ドイツ語だと、そう言う発音になるんだ。」
「モチベーション…カタカナで発音すると、そうなるんだったわね。発音にアクセントが無いのは、日本語の不思議の一つだわ。」
「あはは、あなたと話してると、色々と気付く事が有って面白いわ~クラウディア。」
維月は隣を歩くクラウディアの頭を、右手で優しく撫でるだった。クラウディアはその手を払い除けて、言った。
「頭を撫でるのは止めて、イツキ。」
「あぁ、ごめん、ごめん。いやぁ、ちょうど良い高さだからさ、つい、ね。」
そして、また「あはは」と維月は笑うのだった。
一方、学食に残っていた茜達は、昼食後のお茶を飲み乍(なが)らおしゃべりを続けていた。
「さっきの、クラウディアさん? ブリジットと何か有ったの?」
事情を知らない九堂さんが、ブリジットに問い掛けた。
「別に、何か有った訳(わけ)じゃないけど。あんまり茜に、突っ掛かって来るからさ。だったら、こっちの態度も刺刺(とげとげ)しくなるって物じゃない。」
「あぁ、それでか~ブリジットは天野さんラブだもんね。」
ブリジットの回答に、笑い乍(なが)ら村上さんが、そう言った。
そして今度は茜に、九堂さんが尋ねる。
「入学式のあとの時もだけど、どうしてあの子は天野さんに?」
「入試の成績で、わたしに負けたのが悔しいんだって。」
「へぇ~、成績良いのも、考え物ね~。」
茜が理事長の孫で、入試の成績がトップだったと言う事実は、この頃には全校に知れ渡っていたのである。話の出所は定かではないが、一年生達は上級生から伝え聞いたと言う事だけは判明していた。
九堂さんの反応を受け、ブリジットが呆れた様に、補足を加える。
「それで、今度の中間試験で茜に勝ってみせるって息巻いてるわ。」
「学科が違うのに、勝つも負けるも無いわよねぇ。」
と、感想を漏らす茜に、村上さんが意外な事を言い出す。
「そうでもないわよ。中間と期末の試験成績は、学科関係無しに各教科の総得点順で、各学年毎(ごと)に上位三十名の名前は発表されるって聞いた、先輩から。」
「えっ、何それ?」
思わず、茜が聞き返すと、それに対して、九堂さんが所感を述べる。
「天野さんは、そう言うタイプじゃないけど、あの子みたいに、そう言う理由で燃えるタイプもいるからじゃない? 成績上位者には、何だか特典も有るって話も聞いたけど、まぁ、わたしや敦実には、縁の無いお話よね~。」
「あはは、そうそう。」
「入試でトップだって言っても、入試を受けてない、推薦枠で入学した人も居るんだし。中間試験でわたしが上位に行けるとは限らないでしょ。だから、わたしにも関係無いわ。」
九堂さんと村上さんに、そう言って笑う茜だったが、向かいに座っているブリジットは、浮かない表情で言った。
「取り敢えず、わたしは上位なんて望まないから、赤点だけは回避しないと。」
「あなたは、二つも部活を掛け持ちしてるからよ。」
溜息を吐(つ)くブリジットに、容赦なく突っ込む九堂さんである。
「わたしも付き合うから、今日も試験範囲の復習、頑張りましょう。」
「迷惑掛けるわねぇ、茜~。」
「ブリジット、天野さんに教えて貰ってるの!?」
村上さんが少し驚いた様に、そう言い、更に茜に尋ねる。
「今日の教科は?」
「数学か物理、だけど?」
その答えを聞いた村上さんは、目を輝かせて茜に頼み込むのだった。
「ねぇ、わたしも一緒に教えて貰えないかな?」
「え、あぁ、ブリジットが良ければ、いいけど。」
村上さんは、ブリジットの方へ向き直り、胸の前で両手を合わせて言う。
「いい?ブリジット、お願い。」
「あ…うん。構わないけど。」
村上さんの語気に押される様にブリジットが承諾すると、そこに九堂さんが割り込んで来るのである。
「あ~敦実だけずるいっ!わたしも一緒にお願い出来ない?」
「いいけど、四人も入ったら狭いわよ、部屋。」
女子寮の部屋の、快適性に就いて釘を刺す茜である。
「大丈夫、大丈夫。四人だったら入れるって。よし、じゃあお菓子とか飲み物は、わたしと敦実が持参するから。」
「ちょっと、真面目に勉強する気、有る?」
今度は、勉強に対する態度に就いて釘を刺す茜である。更に、ブリジットが言葉を続ける。
「それに、試験勉強は夕食のあと、よ。」
「お菓子は別腹よ、決まってるじゃない。それに、わたしは頭を使うと、口寂しくなるのよね。」
透かさず返された九堂さんの発言に、茜とブリジットは顔を見合わせ、笑った。
- to be continued …-
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STORY of HDG(第6話.10)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-10 ****
今度は、ラーメンをほぼ完食した村上さんが、コップの水を飲みつつ、クラウディアに尋ねる。
「そう言えば、先週はドイツで襲撃事件が有ったってニュースが有ったけど、クラウディアさんの実家は大丈夫だったの?」
「この前のは、家からは遠い所だったし、襲われた町も大した被害は無かったらしいわ。」
「四月に完成したロシアの監視レーダー網が、少しは効果が出て来た、って話らしいけど。」
と、維月がクラウディアの返答に、補足を加えた。
エイリアン・ドローンは、地球に降下する際、何故かは判明していないが、北極から南極へと周回する極軌道に入ることが、観測に因り知られている。大気圏へ突入するのに、北極上空を選んだ場合が「北極ルート」、南極上空から降下して来るのが「南極ルート」と呼ばれているが、人工の建造物を目当てに襲撃を仕掛けて来るエイリアン側の都合上、北半球に陸地が集中している故に、圧倒的に利用される頻度の高いのが「北極ルート」だった。
そして、これも理由は定かではないのだが、エイリアン・ドローンは大気圏内の洋上を、長距離移動する事を避ける傾向が強く、太平洋や大西洋上空で大気圏内に降下しては来ないのである。これはどうやら、襲撃を日中に限定している事と関係が有りそうで、洋上を長時間飛行して襲撃予定地に到着した時に日没になる、と言う状況を避けていると考えられている。とは言え、洋上飛行能力が無い訳(わけ)ではなく、実際、大陸から日本海を飛び越えて日本列島にやって来る事は、頻繁に行われているのだった。
「北極ルート」から降下して来たエイリアン・ドローンが北米大陸方向へ進む場合は、カナダや米国の防空レーダー網がそれらを検知して、ミサイルや戦闘機の迎撃が行われるので、エイリアン・ドローンもそれを学習した為か、最近ではその様な行動はしなくなっている。北米大陸の都市を襲撃する場合は北米大陸上空で大気圏に突入し、その儘(まま)襲撃目標へと向かう行動パターンが取られており、それに因って「北極ルート」から侵入する場合に比して、迎撃側の対処時間を短くさせているのだと考えられている。
一方、「北極ルート」からユーラシア大陸へと侵攻する場合は、北米大陸とは少々事情が違っていた。先(ま)ず真っ先に対峙する、ロシア防空網の精度がカナダや米国ほど精密ではなく、特に低高度での侵入に対する脆弱性がエイリアン・ドローンの侵攻を許してしまっていたのだ。それに因り、ロシア国内に被害も出るのだが、ロシア領内には無人地帯も少なくはなく、そこを通過してアジアやヨーロッパ各国の都市部へとエイリアン・ドローンが移動して行くので、その事の方が問題を大きくしていたのである。ロシア側にしてみれば自国の都市を防衛するので手一杯であり、国土が広大であるが故に無害通過していく物に迄(まで)、手が回らないのが実情だった。それらの発見や連絡に関するメカニズムが周辺各国間で確立されていると言える状況でもなく、その為に周辺各国では多くの損害も発生しているのだった。
そんな状況だった為、先(ま)ずは入り口となっているロシア北部の防空監視レーダー網の強化が国際的にも必要視され、関係周辺国の資金援助も有って、漸(ようや)く防空監視レーダー網の強化、改修工事がこの四月に完了した、と言うのが事の顛末だった。
勿論、機材が完成すれば直ぐに能力が発揮出来る物でもなく、装置の能力検証や再改修、運用要員の育成や慣熟、連絡網の確立や迎撃部隊との連携等々、超えなければならないハードルは幾つも有るのだ。
因(ちな)みに、日本列島へのエイリアン・ドローンの侵攻ルートは、「北極ルート」からロシア東部を通過し、日本海を飛び越えて日本各地の都市部へと至るのが常套(じょうとう)となっている。逆に、太平洋側からの襲撃は殆(ほとん)ど例が無く、これは監視するべき方角がほぼ決まっていると言う事で、日本に取っては幾分だが警戒監視がやり易くなっていたのである。
「あぁ、そう言えば、そんなニュースも有りましたね。」
茜が維月の補足を聞いて、思い出した様に頷(うなず)いた。
「茜はそんなニュース迄(まで)見てたの?」
向かいの席のブリジットが、少し驚いた様に言った。
「こっちに来たばかりの頃だったから、あんまり詳しくチェックした訳(わけ)じゃ無くて、だから今迄(まで)忘れてたけど。あなたは、その手のニュースには興味無いものね~。」
茜はブリジットを見詰め、そう言うと、くすりと笑った。
それを受けて、ブリジットの左隣、九堂さんも笑って言う。
「大丈夫よ、ブリジット。わたしも知らなかったから。敦実(アツミ)は知ってそうよね。」
「残念、要(カナメ)ちゃん。わたしも知りませんでした~。入学でバタバタしてたから、その頃のニュースは余り見てなかったの。その辺り、天野さんは余裕が有ると言うか、凄いわね。」
九堂さんから話を振られた村上さんだったが、再び茜に会話を戻す。
「別に凄くは無いわ、偶然そんなニュースを見た、ってだけの話だもん。それに、今まで忘れてたし。」
「まぁ、取り敢えず、少しはロシアが役に立ってくれるなら良いんだけど。昔からあの国は碌(ろく)でもない事ばかりするから。」
クラウディアは、そう言って椅子の背凭(せもた)れに身を預け、溜息を吐(つ)いた。その様子を見ていた維月が、笑い乍(なが)ら言った。
「しかしまぁ、女の子がする様な話題じゃないわね。」
「この御時世ですから、仕方ないんじゃないですか?維月さん。」
維月の発言に茜が答えたのだが、それを聞いた九堂さんが、透かさず言う。
「御時世って、オジサンみたい。」
クラウディアを含めて、一同がその言葉を聞いて笑うのだった。
そして、皆と一緒になって笑っている様子を見て、村上さんがクラウディアに尋ねる。
「それにしても、クラウディアさん。日本語、上手ね。ドイツで習ったの?」
「いいえ。ほぼ独学。日本のマンガや小説(ノベル)を原文で読みたくて、十年位(くらい)前に勉強を始めたの。会話はドイツに来てる日本の人を相手に練習したのよ。日本語って、文字が三種類も有る上に、文章と会話とで文体?が変わるのが面倒臭いけど、ヨーロッパの言語とは、丸で構造が違うから面白かったわ。でも、漢字を覚えるのには苦労したけど。あ、それから、話し言葉が男女で違うのも、不思議。」
「あ~…。」
クラウディアの発言に、声を上げて納得した一同であった。
- to be continued …-
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STORY of HDG(第6話.09)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-09 ****
「天野さん、其方(そちら)のお二人は、A組のお友達?」
維月は、場の雰囲気を取り繕(つくろ)おうと思ったのか、茜に話し掛けた。
「はい、こっちが村上さんで、向こうが九堂さん。」
茜に紹介されて、二人は上級生風の維月に、軽く会釈をするのだった。
「わたしは、情報処理科の井上 維月。二回目だけど、同じ一年生だから、ヨロシクね。で、こっちは同じく情報処理科一年のクラウディア、ドイツ国籍なのよ。」
維月が自己紹介をする一方で、クラウディアは黙々とパスタを食べている。
その一方で、村上さんがラーメンを啜(すす)るのを一旦止めて、茜に問い掛ける。
「お二人とも、寮で見掛けた事は有ったけど、D組だったのね。天野さんはどうして、面識が?」
すると、向かいに座っていた九堂さんが言う。
「あ、入学式のあとで、天野さんに絡んでたの、あの子じゃない?」
九堂さんの発言を、慌てて茜はフォローするのだった。
「別に、絡まれてた分けじゃ…。」
「いや、ああ言うのを、絡まれてたって言うのよ、普通。」
茜のフォローを台無しにする、ブリジットの突っ込みである。
「兎も角、あの一件とは別に、部活の方でね。」
と、言い乍(なが)ら、茜はランチセットのハンバーグを一切れ、口へと運ぶのだった。
「あ、天野さんもランチセットなのね。そちら…九堂、さんも。」
維月は二人が、自分と同じメニューだったのに気が付いて、そう声を掛けた。
「わたしは、ほぼ毎日、ランチセットですけどね。メニューが日替わりなので。」
茜は微笑んで、そう言った。
「わたしはハンバーグが好きなだけです~。」
とは、九堂さんの弁である。
「村上さん、は、ラーメン、好きなの?」
維月が村上さんへと話を振ると、少し考えてから村上さんは答えた。
「いえ、特に好物という訳(わけ)ではないんですけど。 今日、シェルターに入ってたら、何だか無性にラーメンが食べたくなったんです。その時はスープは豚骨のイメージだったんですけど、ここのは醤油か塩しか選べないので、今日は塩にしました。理由は…わたしにも分かりません。」
言い終わると、村上さんは両手でラーメン鉢を持ち上げ、スープを一口、味わうのだった。
「あはは、みんな個性的で面白いわ~。いい人選だわ、天野さん。」
「別に、わたしが選んだ訳(わけ)ではなくて、ですね。何となく気が合うから集まっただけ、と言いますか。大体、ランチのメニューで、そんな事が分かるんですか?維月さん。」
「だって、みんな、それぞれ好きなメニューを選んでるじゃない。グループ内に、変な気遣いや、同調圧力が無い証拠よ。」
「そんなものですかね。」
維月の説に無条件で納得は出来なかったが、取り敢えず、茜は野菜サラダのレタスを口へと運ぶ。その時、パスタをほぼ食べ終えたクラウディアが、コップの水を一口飲んでから、茜に言った。
「それで?そんな話をする為に、このテーブルに来たの?」
「何、偉そうに言ってるの。たまたま四人分の空席が有ったから、このテーブルに来ただけでしょ。」
早速、クラウディアに反論するブリジットだったが、続いた茜の発言は、ブリジットには少し意外な内容だった。
「わたしがクラウディアさんに、聞いてみたい事があったの。あなたの地元でも、矢っ張り、シェルターとか有ったのかなって思って。」
茜は笑顔で、そう質問したのだが、クラウディアは直ぐには答えず、顔は向かい側の維月の方へ向けた儘(まま)、視線だけを茜の方へと向けた。ブリジットと村上さん、九堂さんは食事を続けつつ、クラウディアの返事に注目していた。維月も又、ランチセットのコンソメ・スープに口を付け乍(なが)ら、視線だけをクラウディアへ送っていた。
クラウディアは、維月が送る視線の圧力に負けて、口を開く。
「…そうね。こっちと違って、大概の家には地下室が有るから、わざわざシェルターを作ったりはしないわね。」
クラウディアの回答を受けて、九堂さんが真っ先に聞き返す。
「学校にも?」
「全校生徒を収容出来る様なのを作るよりも、避難が必要になったら保護者に引き渡す方が安上がりだし、子供の安全確保は各家庭がやるべき事だから、学校はそこ迄(まで)責任を持たないでしょ。そう言う意味で、今日の避難訓練には驚いたわ。授業を潰して迄(まで)、学校がやる事なのか…まぁ、訓練の意義まで否定はしないけど。一つ思ったのは、ここは平和だなって事。」
普通に答えるクラウディアを、維月はニコニコ顔で眺めていた。それに気付いたクラウディアが、維月に向かって声を上げる。
「何よイツキ。何か変な事、言った?」
「いいえ。ここが平和だって感想には、同感だけどね。ここみたいじゃない所でも、日本じゃ同じ様な事、やってるのよ。 天野さんとボードレールさんは関東組なのよね? わたしも実家は神奈川なんだけど、あっちでもやってたわ。避難訓練。」
「そうですね。わたし達の中学にもシェルターは有りました。さっき、ここが地元の子に聞いたんですけど、この辺りではシェルターは無いけど、避難訓練はやってたそうですよ。 村上さんは名古屋で、九堂さんは福岡だっけ?」
茜は村上さんと九堂さんに水を向ける。先に口を開いたのは、村上さんだった。
「名古屋は関東や北九州に比べれば、襲撃事件は少ない方だと思うけど。小学校、中学校と避難訓練はやってた。わたしの通ってた所には、シェルターは無かったなぁ。」
「福岡、特に海沿いの所は東京並みに襲撃事件が起きてたから、シェルターは有ったし、訓練よりも本当の避難指示でシェルターに入る事の方が多かったわね。それを思うと、確かに、この辺りは平和よね~。」
そう言うと、九堂さんは明るく笑った。
- to be continued …-
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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。
STORY of HDG(第6話.08)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-08 ****
解散となった時刻には、既に昼休みになっていた。その為、中断した四時限目の授業は、その儘(まま)終了、各自は昼食へ、と言う運びである。
西本さん達、普通課程組の多くは教室でお弁当なので、寮生活で弁当持参でない茜達、特別課程組は普通課程組とはそこで別れ、茜達はその儘(まま)学食へと向かったのだった。A組とB組の特別課程の生徒は共に機械工学科であり、その女子生徒は合計十五名である。その中で、それぞれが仲の良い三、四人のグループに自然と分かれて、学食へと向かっていた。
この時の茜のグループは四人で、その一人は勿論ブリジット、もう一人は村上さんと言う眼鏡を掛けた、温和(おとな)しそうな少女、あと一人が九堂さんで、こちらは村上さんとは対照的な、快活な印象の少女である。
村上さんは所謂(いわゆる)「飛行機オタク」で、取り分け戦闘機に興味を持っていた。彼女は幼少期からの飛行機好きなのだが、本人曰(いわ)く「酷(ひど)い高所恐怖症」なのだそうだ。それ故、パイロットではなく飛行機を設計したり、整備する方向を目指しているのである。だから、卒業後の天野重工では、防衛装備事業の航空機部門への配属を希望していた。村上さんは飛行機好きと言う事から、当然、部活としては飛行機部を選んでいた。普通、飛行機部に入部するのは、グライダーやモーター・グライダーの操縦に興味を持つ人なのだが、村上さんの場合は「酷(ひど)い高所恐怖症」であるが故、操縦には関心は無く、始めから整備や地上要員(グラウンド・クルー)志望で入部したのだった。整備や地上要員(グラウンド・クルー)志望と言う人材は、飛行機部部員としては少数派だったので、彼女の入部は、先輩達に非常に歓迎されたのだった。
茜も、大きな括(くく)りで言えば「兵器オタク」であり、その点で村上さんとは話が合うのだったが、この二人が兵器関連に就いて語り合いを始めると、ブリジットが一人置き去りにされてしまうと言う事象が間間(まま)、起きるのである。そんな時、ブリジットの相手をしてくれるのが九堂さんなのだった。
九堂さんは、茜や村上さんとは違って兵器に就いては特段の興味は無く、一般産業向けの機械設計技術者を志向している。その辺りはブリジットも同様で、特定の産業や業種に拘(こだわ)ってはいないので、将来のヴィジョンに関して特別明確な目標を持っている訳(わけ)ではない。しかし、そんな彼女等(ら)の方が実際は多数派であって、茜の「パワード・スーツ開発」や、村上さんの「戦闘機設計技術者」等の様に、明確な目標を持っている者の方が少数派なのである。勿論、何(ど)れだけ明確な目標を持っていたとしても、将来、天野重工に入社して希望通りの職種に就けるか、それに保証等(など)は無い。
ともあれ、この四人には特別に共通した趣味や興味が有る訳(わけ)で無く、茜とブリジットとの繋がりは別としても、四人の関係は、何となく「馬が合う」程度の緩い繋がりだったのだが、それが心地良い関係でもあったのだ。
四人は学食へ入ると、注文カウンターの端末でそれぞれが好みのメニューをオーダーし、携帯端末で支払いを済ませた。
彼女達がそれぞれに所有している携帯端末には決済機能が組み込まれており、大概の買い物はこれで用が足りる。携帯端末は決済機能の他に通話、データ通信やネット検索等、幾つもの機能を設定可能なのだが、厳密に言えば、携帯端末にこれらの機能が組み込まれているのではない。携帯端末は契約したサービスを呼び出して、データの仲介だけをしているのである。つまり、携帯端末がアプリケーションや各種データを保持している訳(わけ)ではない。メールや画像等(など)のデータも、契約したサービスのサーバーに保存されているので、携帯端末に保持されているのは、何(ど)のサービスと契約しているかの情報のみである。
携帯端末は、ユーザーが勝手にゲーム等(など)のアプリケーションを追加したり出来ない仕組みなので、学生や児童向けとしては定着したデバイスとなっており、又、煩雑(はんざつ)なアプリケーションの管理が煩わしいと思う多くの人達に支持されている。
茜達は、それぞれがオーダーしたメニューが乗せられたトレーを受け取ると、空いたテーブルを探す。時間的に、纏(まと)まった席が空いているテーブルは少なかったのだが、茜は四人分の空席を見付けると、直ぐにそこへと向かった。
茜の行く先に気が付いたブリジットは、そのテーブルにクラウディアと維月が居る事に気が付き、茜を呼び止めたのだが、茜は歩みを止めなかった。
「あ、アマノ アカネ。」
クラウディアが茜に気が付き、声を漏らす。
「ここ、空いてる?」
茜の呼び掛けをクラウディアが無視するので、維月が答える。
「どうぞ、空いてるよ。天野さん。」
「あなたが居るって事は、あのノッポも一緒ね。」
クラウディアは横目でちらっと茜を見ると、そう言った。そこへ、ブリジットが九堂さん、村上さんと共に、そのテーブルへとやって来る。
「一緒に居て悪かったわね。」
「ご一緒させてくださいね、維月さん。」
六人席のテーブルの端側に、維月とクラウディアは向かい合って席に着いており、茜はクラウディアの隣の席に座った。
「どうぞ、どうぞ。ほら、他のみんなも座って。」
朗(ほが)らかな口調の維月の勧めで、ブリジットは維月の隣に、九堂さんはブリジットの隣に、村上さんは茜の隣の席に、それぞれが座ったのだった。
皆が席に着いて直ぐ、クラウディアとブリジットは、お互いのランチ・メニューが同じパスタだった事に気が付き、何だか気まずい表情に変わった。そして、クラウディアが先に、ブリジットへの皮肉を発する。
「あなたは、ハンバーガーじゃないの?」
そう言われて、ブリジットはムッとして言い返す。
「あなたこそ、ジャガイモとソーセージでも食べてれば。序(つい)でにビールでも飲む?」
その遣り取りを聞いて、茜は呆れて言った。
「もう、二人とも。いい加減、その、お国柄コントは止めて。 大体、未成年はビール飲んじゃダメでしょ。」
「あ、天野さん。最後の突っ込みは要らないから。」
そう言って、維月は笑うのだったが、事情の分からない村上さんと九堂さんは、流石にその険悪な雰囲気に引いていた。
- to be continued …-
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STORY of HDG(第6話.07)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-07 ****
「そう言えば、ここは町の方にも、シェルターは余り無いの?」
茜は西本さんに、地元の事情を聞いてみる。
「市役所の駐車場の地下と、中央公園位(くらい)じゃない?シェルターが出来てるのって。一般の会社とか住宅で、シェルター付きなんて聞いた事無いし。まぁ、田舎だからね~今迄(まで)エイリアンのが飛んで来た事も無いしさ。」
「でも、陸上防衛軍の基地とか、町外れに有るのよね?」
今度はブリジットが問い掛ける。
「演習場よ。所謂(いわゆる)、基地って感じじゃなくって、徒(ただ)の原っぱらしいし。だからエイリアンは狙って来ないだろうって、うちの親とか、そう言ってる。」
「矢っ張り、地域で随分、差が有るのね。」
中学時代の感覚を忘れていたのも無理は無い、と、そう思う茜とブリジットの二人だった。
「さっき、教室でさ、男女別に分かれるように言われて、ちょっと、えっ、て思ったんだけど。ここに来て納得って、思ったわ。」
「どうして?」
唐突に西本さんが、話題の方向性を変えて話し出すので、茜が聞き返した。
「だって、この狭い感じだと、男子達と一緒に入るの、何か嫌じゃない?」
「あぁ~まぁ、確かに。」
西本さんの意見に、茜とブリジットは「言われてみれば」と同意し、クスクスと笑う三人だった。
それから十五分程して、今度は生徒会の女子役員がシェルター内の人数確認に訪れた。
「現在、人数の集計をやっています。訓練終了の放送が有る迄(まで)、ここで待機しててください。」
人数確認を終えると、女子役員はそう言い残して立ち去ったのだった。
茜はポケットから自分の携帯端末を取り出し、時刻を確認する。
「もうすぐ、お昼になるのね。」
隣に居たブリジットが、茜が携帯端末を取り出したのを目に留め、声を掛ける。
「ここって、電波、入ってるの?」
「ううん、この中はダメみたいね。通路に出たら、通信出来るエリアが有るのかな。」
その、二人の会話に気が付いた西本さんが、茜に話し掛ける。
「あぁ、トイレの前辺(あた)りの通路だと、電波が入るみたいよ。さっき行った時に、何人か端末を弄ってる子を見かけたわ。」
「あぁ、そうなんだ。」
「ニュースでも見るの?天野さん。」
「違う違う。時間を確認しただけ。一応、授業時間中だから携帯弄ってるのマズイでしょ、ホントは。」
茜は、携帯端末をポケットに仕舞った。
「天野さんは真面目よねぇ。」
そう言って、西本さんは笑うのだった。
それから程無くして、シェルター内に生徒会の放送が始まると、それ迄(まで)ざわついていたシェルター内が、急に静まり返るのだった。
「避難人員の集計、確認が完了しました。今回は確認完了迄(まで)、所要時間は三十一分二十一秒でした。過去の最短記録は十八分三十二秒です。次回訓練では記録更新出来るよう、全校生徒の協力をお願いします。以上を持って、今回の避難訓練を終了しますが、シェルターからの退出時は通路が混雑するので、押し合わない様、注意してください。シェルターは全員退出後、閉鎖、施錠されますので、全員、自警部担当者の誘導に従って退出し、シェルター内部に残らないでください。誘導担当の自警部部員が到着する迄(まで)、各自、シェルターからは勝手に出ないように、お願いします。以上、放送を終わります。」
放送が終わると、再び、シェルター内はざわめき始める。放送を聞く為に中断したおしゃべりを再開する者、訓練が終わっても直ぐにシェルターから出られない事に不平を口にする者、四時限目の授業が潰れた事を喜ぶ者等(など)、内容は様々だったが、総じて混乱した状況では無い種類の「たわいの無い」ざわめきである。
そうこうする内、誘導担当の自警部部員が到着したが、それは教室からこのシェルター迄(まで)の誘導を担当した女子自警部部員だった。
「一年AB女子、四十六名。全員揃ってる?トイレとか行ってる人はいないわね。」
その女子自警部部員はそう言って人数を確認すると訓練本部へ連絡をし、茜達の退出の誘導を開始した。
「はぁい、じゃ、みんな通路へ出て。一階廊下に出るまでは付いて来てね。一階に出たら、そこで解散していいから。」
茜達は再び、校舎へ繋がる地下通路を歩き出す。茜は列の先頭付近にいたので、自分たちのグループの前を歩いている別グループの後端が見えた。恐らく、一年C組とD組の女子だろうと思った茜だったが、だとすればD組のクラウディアと維月がいる筈(はず)だが、茜には二人の姿は見付けられなかった。クラウディアは列の先頭の方にいるのかも知れない、そう茜は思った。一際背の高い維月位(ぐらい)、列の後ろからでも分かりそうな物だが、前方のグループには飛び抜けて背の高い姿は見受けられなかったので、或いは、前のグループは一年C組とD組ではなかったのかも知れない。
黙々と通路を進んでいる内に、ふと、気になった事を、茜は誘導担当自警部部員の上級生に質問してみた。
「あの、ちょっと聞いていいですか?」
「何?どうぞ。」
「さっきの放送で、避難に掛かった時間が三十一分とかって言ってたんですけど。今回は普段よりも特別、時間が掛かってたんですか?」
「あぁ、あれね。毎年、最初の避難訓練は時間が余計に掛かるのよ。不慣れな一年生が参加してるのと、運営してる側は、慣れた人が卒業したあとだから。毎年、回を追う毎(ごと)に段々タイムが上がっていくから、今回が特別、出来が悪かったっていうことじゃないわ。」
「成る程、そう言う事ですか。ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
間も無く一同は一階廊下に到着し、そこで漸(ようや)く解散となったのである。
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STORY of HDG(第6話.06)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-06 ****
茜達は地下通路を暫(しばら)く歩き続け、漸(ようや)くシェルターへと到着した。
シェルターは男女が別の区画に分けられていて、更に、幾つもの小部屋に区切られている。シェルターの一部屋には約五十人が収容可能で、奥へ向かって細長い構造の部屋の、入り口から見て両側面の壁側に、向かい合う様に二十五人掛けの長椅子が設置されている。各部屋に設置された長椅子の座面部下には飲料水や保存食の他、備品等が収納されている。
一つの室内は、電車一両より一回り小さい位(ぐらい)の広さだろうか、当然、乗降扉や窓の類は無いので、中に入ると閉塞感を覚えずには居られない。但し、空調はしっかりしているのか、湿っぽさや黴(かび)臭さは無く、室内は清潔に保たれている様子だった。
このシェルターは、学校の敷地内としては、体育館南側駐車場の地下に位置していて、深度はそれ程深い物ではない。校舎の建設時に元から計画されていた訳(わけ)ではないので、比較的簡単に掘り返せる場所を選んで数年前に埋設されたのである。同じ様なシェルター構造物が、男子寮と女子寮それぞれの南側地下にも埋設されていて、それぞれが地下通路で連結されている。更に、校舎や寮や事務棟等(など)、学校内の建物からはシェルターへの地下通路へ接続された入り口が設けられていて、どの建物からもシェルターへ入れる様に設計されていた。これは、もしもエイリアン・ドローンの襲撃を受けて学校内の建造物が被害を受けても、出入り口が複数有る事に因って、シェルターに避難した人達が閉じ込められるリスクを分散する意味も持っているのである。
エイリアン・ドローンは地上の建造物のみを破壊するので、入り口の大きさがエイリアン・ドローンが入れない大きさであれば、地下施設は安全だった。この為、政府は避難用の地下施設の建設を奨励しているのだが、当然それには相応の予算が必要なので、全国津津浦浦にこの様な避難用シェルターが建設されている訳(わけ)ではない。地上建造物の集中した都市部にエイリアン・ドローンの襲撃が多い都合上、避難用地下シェルターの建設は都市部が優先されてしまうのは、ある程度仕方が無い事であり、襲撃の可能性が低い地方の学校に、このレベルのシェルターが用意されているのは、実際、希有(けう)な例なのであった。
シェルターの中に入ったA組とB組の女子生徒達は、銘銘(めいめい)が壁際の長椅子に腰掛け、誘導を担当していた女子自警部部員が、到着後の人数を再確認して訓練本部へと報告をした。
「それじゃ、訓練終了の放送が有る迄(まで)、ここで待機しててね。後でもう一回、人数確認が有る筈(はず)だから、他の部屋とかには行かないように。」
女子自警部部員が去り際にそう言うと、あるB組の女子生徒が手を挙げる。茜はその女子生徒の名前は知らなかった。
「あの、トイレ行っていいですか?」
「あぁ、それ位(くらい)は構わないわ。来た方とは反対側の突き当たりだから、自由に行って。」
そう言い残すと、女子自警部部員は通路を来た方向へと戻って行った。先程の女子生徒は、他に二人の女子生徒と連れ立って、シェルターを出て行った。
「案外、狭いのね。」
そう感想を漏らしたのは、茜の左隣に座っていた西本さんだった。因みに、茜の右隣にはブリジットが座っている。
「そうでもないわよ。わたし達が通ってた中学のはもっと狭かったもの。」
「天野さんとブリジットは同じ中学だったのよね?関東の方の。」
「うん、そう。西本さんは地元よね。こっちでは避難訓練とか、どんな感じだったの?」
「どうって…基本、シェルターなんか無いから、火災とか地震とかの避難訓練と同じで、校庭に出るだけよね。年に一回、有るか無いかよ。関東の方では、頻繁にやってるって聞いてるけど?」
「抜き打ちで二ヶ月に一回、って事だった筈(はず)なんだけど。本番の避難が月に一回位(ぐらい)は有ったから、訓練の方が少なかった位(くらい)。ねぇ、ブリジット。」
茜は隣で、二人の話を聞いていたブリジットにも、話を振ってみる。
「うん、本番の避難が有ると、その月の訓練の方の予定がキャンセルされちゃうからね。まぁ、本当の避難をやってれば、訓練で疑似体験する必要も無いから、無理も無いけど。」
「本当の避難って、怖くなかった?」
西本さんは茜達の方へ顔を寄せて、聞き返して来た。
「避難指示は出てたけど、幸い、わたし達の居た地域には、被害が出なかったのよね。怖いって言うより、家(うち)は大丈夫かなって、不安と言うか心配と言うか、そんな感じだったかな。」
「あと、中学の時のシェルターは、ここより一回り小さい感じで、窮屈(きゅうくつ)で嫌だった。」
顔を顰(しか)めてブリジットがそう言うと、西本さんが笑い乍(なが)ら言う。
「それは単に、あなたがデカイからでしょ。」
「ホントに狭かったのよ。特に、天井が低かったから、ブリジットには辛(つら)かったのよね。」
ブリジットが唇を尖らせているので、フォローする茜であった。
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STORY of HDG(第6話.05)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-05 ****
翌日。2072年6月1日、水曜日。
この日から制服は夏服へと切り替わり、季節は夏へと一歩近づいた感である。とは言え、中間試験を一週間後に控えているので、殆(ほとん)どの生徒達は浮かれた気分では居られない。
部活もこの日から試験期間が終わる迄(まで)の間は活動休止となるので、全校的に生徒達は試験モードに突入していたのである。
そしてこの日には、衣替えとは別にもう一つ、全校規模のイベントが予定されていた。『避難訓練』である。
エイリアン・ドローンによる襲撃事件が頻発する様になって以来、防衛軍がエイリアン・ドローンの接近を察知すると、その侵攻予測を元に、政府から該当自治体に対し避難指示が発令されるのである。学校は自治体からの避難指示発令の連絡を受けると、在校生や教職員を所定の避難施設に速やかに移動させなければならず、その為の訓練を適宜(てきぎ)に行わなければならないのだ。
四時限目の授業が始まって十五分程経った頃、その時は、唐突にやって来た。
「エイリアン・ドローンに関する避難指示が発令されました。全校生徒は自警部の誘導に従って、速やかに地下シェルターへ避難してください。これは訓練です。繰り返します…」
同じ放送が三回繰り返されると、茜が授業を受けていた一年A組では、教壇に立っていた数学担当の大須先生が授業を中断して、生徒達に告げる。
「一年生は初めての避難訓練だが、みんな落ち着いて行動するように。直(じき)に担当の自警部が来るから…。」
大須先生がそこ迄(まで)言った時、教室の上手側入り口が開き、紺色のヘルメットにベスト状のプロテクト・アーマーを着用した自警部部員が二名、教室に入って来た。それは男子生徒と女子生徒の一名ずつで、何方(どちら)も三年生の様子だった。その内の男子生徒の方が、大須先生に話し掛ける。
「一年A組の誘導を担当します。」
「はい。よろしくね。」
大須先生の返事を聞いて、女子の自警部部員が、良く通る声で一年生達に指示を出す。
「男子と女子、二組に分かれて。男子は教室の前側へ、女子は後側へ集合。それぞれ、誰か代表者が人数を確認して、申告してください。」
彼女は、そう指示をし終えると、一旦、A組の教室を出て隣のB組の教室へと向かった。B組にも別の自警部部員が行っており、男女グループ分けが指示されている。それを確認に行ったのだ。同様な事がC組、D組でも行われており、更に同じ事が、別の学年でも行われているのだった。
B組の様子見を見に行った女子自警部部員は、直ぐにA組の教室に戻って来て、教室の後側に集合した女子グループに声を掛ける。
「A組女子、人数を教えて。」
「二十三人です。」
たまたま、列の先頭付近に居た西本さんが、代表として人数を申告していた。
「では、B組の女子グループと一緒に地下のシェルターへ移動します。走る必要は、ありません。落ち着いて、付いて来てください。」
女子自警部部員は無線機を口元に当て、本部に報告を入れる。
「一年AB、女子四十六名。移動開始します。」
全学年の全生徒が一度にシェルターへと向かうと、廊下で渋滞が起きてしまい、却ってシェルターへの移動時間が余計に掛かる結果となるので、自警部と生徒会がルートやタイミングを管理しているのである。
先ず、各教室の女子生徒がシェルターに向かい、適度な時間差を置いて男子生徒がシェルターへと向かう。全ての教室では教師と自警部部員とが教室に生徒が残っていない事を確認し、シェルター側での人数確認を行って集計に間違いが無ければ、教師と自警部部員がシェルターへと移動し、全員の避難が完了と言う流れなのだった。
茜達、A組とB組の女子生徒、計四十六名は女子自警部部員の誘導で、校舎二階から地下階へと階段を降りて行った。A組に来た女子自警部部員が先頭で誘導し、B組に来た女子自警部部員が最後尾に付いて、集団から外れる者がいない事を確認しているのだった。
普段は用が無いので降りる事の無い地下階には、シェルターへの通路に入る扉が有る。通常時は鍵が掛けられていて生徒が入る事は出来ないが、非常時や訓練の時は当然、解錠されるのだ。
シェルターへと通じる長い通路は、それ程狭くはない。大人が二人並んで、余裕で歩ける位(くらい)の幅が有り、天井も極端に低くはない。しかし、地下だから当然だが校舎の廊下の様な窓は無く、電灯は最低限の数しか取り付けられていないので印象は薄暗く、それ故、息が詰まる様な狭苦しさを覚えるのだった。
或いは「窓のない閉鎖された通路を大勢で歩いている所為(せい)で狭苦しく感じるのか?」とも、茜は思ったが、「でも、独りで、この通路を歩くのも嫌だな」と思うのだった。「そう言えば、中学の時も訓練や、本当の避難で地下道を歩いたっけ」と、突然、こんな事は去年迄(まで)は普通の事だったのを思い出した茜は、当たり前の様に隣を歩いていたブリジットに、囁(ささや)く様に言った。
「忘れてたね、こんな感じ。」
「そうね。」
ブリジットは短く同意すると、左手で茜の右手を取り、ぎゅっと握った。
- to be continued …-
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STORY of HDG(第6話.04)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-04 ****
「いえ、別に怒っては、いないんですけど。只、何だか意味が分からなかったので、困惑したと言うか。」
「宣戦布告とか、試験がどうとか、言ってたわよね、確か。」
「あ~もう、ホントに分からない奴ね! 入試の成績では、あなたに負けて二位だったけど、次の試験の成績では一位を取るから、覚えておきなさいって事よ。」
机を両手で叩いて立ち上がると、クラウディアは語気を強めてそう言って、茜を睨(にら)む様に見詰めている。すると、クラウディアの奥側の席にいた維月が、彼女の後ろから両手で頬を摘(つま)んで左右に引っ張り、言うのだった。
「だ~か~ら~、そう言う、突っ掛かる様な言い方は止めなさいって、言ってるでしょ~。」
維月の行動に就いては呆れつつ無視して、茜は真面目な顔でクラウディアに問い掛ける。
「試験で勝つの負けるのって…大体、発表されてない試験成績を、どこで知ったの?これは、この前も聞いたと思うけど。」
しかし、その問いには、維月が先に答えるのだった。
「あぁ、それね…実はこの子、ハッカーなのよ。」
「イツキ、いい加減、手を放して。」
「あはは、ごめんね~。」
維月がクラウディアの頬から手を放すと、クラウディアは席に座り、摘(つま)まれて赤くなった頬をさすっている。
「ハッカーって、学校のサーバーに侵入して入試の成績を見たってことですか?」
今度は、茜の問い掛けに、両手で頬を軽く押さえて、クラウディアが答えるのだった。
「そうよ。US の CIA や国防省(ペンタゴン)に比べたら、学校(ここ)のサーバー位(くらい)、チョロいものよ。」
「先生、こんなの入学させて大丈夫なんですか?会社的にも。」
クラウディアの口振りを聞いて、ブリジットが立花先生に問い掛けた。立花先生は、と言うと、腕組みをして、渋い表情をしていたのだった。
「まぁ…一応、会社的にも学校的にも、了解はしてるらしいのよ。その技能を犯罪行為には使わない、って事で契約してるって話なんだけどね。」
「いえ、違法アクセスしてる時点で、立派に犯罪じゃないですか?」
茜の指摘を余所(よそ)に、クラウディアは胸を張って言う。
「別に、データを改竄(かいざん)したり、抜き出したデータをどこかに売り飛ばしたり、ウィルスを仕込んだりはしないわよ。わたしは個人的な興味の為にしか、ハッキングはしないから。」
茜は「それは、胸を張って言う様な事じゃないでしょう?」と思ったが、口にすると、又、話がややこしくなりそうだったので、止めておいた。実は、その場に居たクラウディア以外の人物は、口にこそしなかったのだが、皆が茜と同様の所感だった。そこで、立花先生が取り敢えずその場を、丸く収めるべくコメントする。
「余り物騒な事はして欲しくはないんだけれど、まぁ、ホワイト・ハッカーに徹してくれている内はね、会社的にも将来、利益になるだろう…と言う事よね。」
「そんな訳(わけ)で、維月ちゃんは、お目付役にされちゃったのよね~。」
笑顔で、そう付け加える樹里に、維月も笑って答えるのだった。
「そう言う事。目に余る様なら、容赦無く学校に報告するからね。その時は契約違反だ何だで、退学だけでは済まなくて、賠償請求が実家の方へ行く事にもなりかねないから、覚悟しておきなさい、クラウディア。」
「分かってるわ、イツキ。その話は、何度も聞いたもの。」
「部長は、その辺りも承知で、入部を認めたんですか?」
今度は緒美に、ブリジットが話を振る。それに対し、緒美は事も無げに答える。
「うん。森村ちゃんがいいって言うからね。」
「相変わらず、人事は森村に丸投げだなぁ、鬼塚は。」
呆れる直美をフォローする様に、恵が言うのだった。
「大丈夫よ。カルテッリエリさんは、悪い子じゃないから。」
「はい、はい。森村の人を見る目は、わたしも信用してるよ。」
そこで、クラウディアが話の流れを仕切り直し、茜に向かって言った。
「何だか話が逸(そ)れちゃったけど。兎に角、今度の前期中間試験では、あなたの成績を抜いてみせるから、あなたも手を抜くんじゃないわよ!」
茜は、クラウディアの成績に拘(こだわ)る発言に辟易(へきえき)して、一つ深く溜息を吐(つ)いて答えた。
「別に、手を抜いたりはしないけど。わたしは試験や成績で人と競う気は無いので、どうぞ御勝手に。大体、学科が違うんだから、中間試験の成績を比べたって、専門教科や選択科目が違うし、意味無いでしょ。」
「意味が有ろうと無かろうと、わたしは今迄(まで)ずっと学年トップを維持してきたの。ここへの入学試験では不覚を取って二番手だったけど、次はトップの座を挽回してみせるわ。」
胸を張り余裕の笑みを浮かべてみせるクラウディアを見て、もう一度深い溜息を吐(つ)く茜だった。
「まぁ、動機はともあれ、勉強する意欲が有るのは、いい事ですよね、先生?」
一番奥の席に着いている緒美が、立花先生に、そう話し掛けるが、立花先生は相変わらず腕組みをして、渋い顔だった。
「程度って物は有るでしょう?緒美ちゃん。」
「まぁ、試験の結果が楽しみじゃない。ねぇ、維月ちゃん?」
「し~らない。」
樹里は含みのある笑みで、維月に同意を求めたのだが、維月は視線を逸(そ)らして「それ」には答えなかった。
その後、樹里と維月、そしてクラウディアの三人は、HDG システムのソフトウェアに関する概論の話題に移り、茜とブリジットは試験期間が終わってからの、HDG-A01 と LMF のテスト・スケジュールに就いて緒美達と打ち合わせを行い、その日の部活は解散となったのである。
- to be continued …-
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STORY of HDG(第6話.03)
第6話・クラウディア・カルテッリエリ
**** 6-03 ****
入学式から約二ヶ月が過ぎて、2072年5月31日火曜日。
ブリジットが『兵器開発部』に入部して、凡(およ)そ二週間が経過した。
その運動能力を買われて、B型、つまり HDG-B01 のテスト・ドライバーに任命されたブリジットではあったが、インナー・スーツの為の体型データ取りは行ったものの、肝心の HDG-B01 本体の製作は遅れ気味で、現時点での完成予定は夏休みになってから、との事だった。
先日来、茜が装着する HDG-A01 の飛行能力試験も順調に進められており、それに因ってA型の予定外の飛行能力が判明するのにつれ、B型の仕様にも変更が加えられていた。それが、更にB型の完成を遅らせてもいるのである。
そんな訳(わけ)で、当面、ブリジットは暇だった…かと言うと、そうでもない。先(ま)ず、B型が完成する迄(まで)に、HDG システムに就いての仕様を把握する必要が有り、緒美や茜、そして樹里から、システムに関する解説や講義を受けなければならなかった。更に、陸上防衛軍の演習場を借りての、HDG-A01 と LMF との火力運用試験が近々予定されているので、それに向けての LMF の操縦訓練及び操作慣熟も平行して行っており、やるべき事は少なくはなかった。
そんな具合で、ブリジットに取っては慌ただしくも楽しく過ぎた二週間だったが、この日で部活動は一旦の最終日となるのだった。と言うのも、6月8日から一週間に渡って行われる前期中間試験に向けて、その一週間前から試験期間終了迄(まで)の合計二週間は、全校で部活動が活動休止となるからだ。
入部以来一ヶ月半、日曜日も含め、ほぼ毎日部室に通っていた茜は特に、明日から暫(しばら)く部活が休みになるのを寂しく感じつつ、その日の放課後、ブリジットと共に『兵器開発部』の部室へと向かっていた。
茜とブリジットが、何時(いつ)も通りに第三格納庫の外階段を登り、部室のドアを開くと、室内には見慣れない人物が二人、部室の中央に置かれた長机の席に着いていた。それは、入学式の日に出会った、金髪の少女と背の高い留年生、つまりクラウディアと維月の二人だった。
部室内には、樹里以外には二年生の姿はなく、あとは三年生三人と立花先生が来ている。クラウディアと維月は長机の上にモバイル PC を置き、樹里と話し乍(なが)らモニターを覗き込んでいたのだが、部室のドアが開いたのに気付いて、入り口の方へと視線を向けると、クラウディアがポツリと言った。
「あ、アマノ アカネ。何であなたが、ここにいるのよ?」
咄嗟(とっさ)に、ブリジットが茜の背後から声を返す。
「それは、こっちのセリフ。あなたこそ、どうしてここにいるの?」
クラウディアとブリジットの間の険悪な雰囲気は無視して、恵が何時(いつ)もの調子で、茜とブリジットへ声を掛ける。
「天野さん、ボードレールさん、新入部員よ~。仲良くしてあげてね。」
「新入部員って、お二人共ですか?」
茜は掌(てのひら)を上に向けて、クラウディアと維月を順番に指し示し、恵に聞いた。が、それには緒美が答える。
「いいえ、新入部員はこっちの、カルテッリエリさんだけ。」
「わたしは部員じゃないけど~まぁ、一応、関係者って奴? よろしくね~。」
緒美に次いで、維月が手を振り乍(なが)ら笑顔で答えた。
「関係者?って、どう言う…。」
との、茜の質問に答えたのは Ruby だった。
「麻里がわたしの開発チームの、リーダーなんです。」
「麻里って?」
「あはは、その説明じゃ天野さんには分からないよ、Ruby。麻里って言うのはわたしの姉で、天野重工で Ruby の開発に関わってるらしいの。で、一応、この学校の卒業生。」
「え…お姉さんが開発チームのリーダーって、すると、年齢的には?…」
ブリジットが茜と顔を見合わせて困惑していると、維月が笑って答える。
「あぁ、家(うち)はね、五人姉妹なんだけど、一番上の麻里姉さんと、一番下のわたしとで、十歳以上離れてるの。」
「それでね、井上家の人は皆さん、こっち方面の技術に堪能(かんのう)だから、維月ちゃんにも手伝って貰いたかったんだけど。去年は、病気とか色々あって、結局、入部しては貰えなかったのよね。」
何時(いつ)も以上のニコニコ顔で会話に参加して来た樹里の、その表情を見て、「樹里と維月は仲が良かったのだろうな」と、茜は推測した。
茜は改めて、維月に問い直す。
「それで、井上…先輩?は、この部活に入部はされないんですか?」
「あ、先輩とかいいよ、一応、同じ学年なんだから。維月、でいいわ~で、入部の件はね、まぁ、姉も絡んでる案件だから、何か有ったら、お互い気まずい所も有るだろうしね。それに、わたしもまだ病み上がりだし。 それで、代わりって言うのも何だけど、わたしよりも出来る子を連れてきた訳(わけ)。」
維月は右手の掌(てのひら)を上にして、クラウディアを指す。
そこで、それ迄(まで)、黙って様子を窺(うかが)っていた立花先生が、先程のブリジットの態度に思う所が有ったのか、問い掛ける。
「そう言えば、あなた達、学科は違うけど、知り合いだったの?」
「知り合いって言う程でも…。」
立花先生の問い掛けに、戸惑いつつ、茜が答えた。続いて、ブリジットが声を上げる。
「入学式の後、その子が一方的に、茜に絡んできたんですよ、先生。」
「まぁまぁ、あれはクラウディア流の挨拶だったと言う事で、勘弁してあげて。」
「ふん。」
フォローしようとする維月とは裏腹に、茜とブリジットを鼻であしらう様な態度のクラウディアだった。
- to be continued …-
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