WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第14話.03)

第14話・天野 茜(アマノ アカネ)とクラウディア・カルテッリエリ

**** 14-03 ****


「飯田さん、そもそも学校側からの出席者が、何故、其方(そちら)のお嬢さんなのでしょうか?」

 飯田部長は眉間に皺(しわ)を寄せ、聞き返す。

「と、言われますと?」

「学校側からは、その開発を主導している鬼塚と言う生徒か、戦闘に介入したパイロットの生徒を出席させるのが道理でしょう? 女子生徒を連れて来れば、我々の追及が甘くなるとでも思われましたか?」

「おかしな事を仰(おっしゃ)いますね。ここに同席している森村君は天神ヶ﨑高校の兵器開発部で、HDG の開発を始めた初期からのメンバーですし、しかも発案者である鬼塚君が中学生の頃から、その研究に協力していた人物です。HDG の開発に関して、最も客観的に推移を見て来た人物として、今回の聞き取りには最適だと判断して参加して貰っている。 それとも、女子が参加している事が、お気に召しませんでしたか?」

 少し挑発気味に話す飯田部長に、藤牧一尉が噛み付く。

「何ですか貴方(あなた)、その言い様(よう)は。防衛軍を愚弄(ぐろう)する気ですか!」

「一尉、少し落ち着きなさい。」

 眉を顰(しか)めて桜井一佐が藤牧一尉を諫(いさ)めると、一息吐(つ)いてから桜井一佐は口を開く。

「何か誤解が有る様子ですが、天神ヶ﨑高校の兵器開発部、メンバーは全員、女子生徒ですよ。」

「はあ?」

 伊沢三佐と藤牧一尉が、揃(そろ)って声を上げたのだった。苦笑いしつつ、桜井一佐が言葉を続ける。

「嘘ではありません、わたしは七月下旬の模擬戦の際、現地視察をしてますから。その時に兵器開発部のメンバー全員と会いましたし、その活躍振りも、しかと見て来ました。 それとも、開発作業や戦闘は、女子には出来ないと、そう、お思いでしたか?」

「あ、いや…けして、そうではありませんが。 しかし、報告書には、その様な記載は、何も有りませんでしたので。」

 藤牧一尉が、あたふたと弁明をすると、それに対して飯田部長が補足するのだ。

「状況の報告に性別とかは無関係な事項ですし、しかも個人情報ですから、報告書に一々記載なぞしませんよ。」

「まあまあ、皆さん。ここは一度、頭を冷やしましょう…。」

 そう言って割り込んで来たのは、和多田補佐官である。彼は場を和(なご)まそうと思ったのか、ニヤニヤと笑みを浮かべつつ、言葉を続ける。

「…冷静に考えれば、ですよ、矢張り、未成年者に過度なリスクを負わせると言うのは、如何(いかが)なものか、と思う訳(わけ)ですよ。どうでしょう?飯田さん、ここは一つ、運用試験だけでも、防衛軍の方へ移管されては。」

 この発言を聞いて、飯田部長と桜井一佐は、今回の会合に和多田補佐官が参加して来た理由に見当が付いたのだ。飯田部長は、敢えて微笑んで聞き返す。

「和多田さん、そのご提案は大臣から、でしょうか?」

 飯田部長の知る限り、以前の和多田補佐官と同様に、現防衛大臣も HDG その物には、興味は無かった筈(はず)である。HDG の所謂(いわゆる)『戦果』を見て大臣が考えを変えた、とは飯田部長にも、桜井一佐にも思えなかった。何故なら、HDG が得意とする市街戦でのエイリアン・ドローンの個別撃破と言う特性は、政府防衛政策の大方針とは相容(あいい)れないからだ。防衛政策の基本は、飽くまで『洋上での迎撃』であり、『市街地には侵入させない』である。
 そして和多田補佐官が、飯田部長の問い掛けに答える。

「今の所、そう言う訳(わけ)ではありませんが。然(しか)し乍(なが)ら、今の状況が続いて、今後、もし、人的被害が発生した場合ですよ、それは、天野重工さんもお困りになるでしょう? そうならない為に、ご提案申し上げている訳(わけ)ですよ。」

 要するに、民間の、しかも未成年者が政府が絡む開発計画で犠牲にでもなれば、それこそマスコミには格好の餌食(えじき)である。犠牲にならなくても、その様な事実が発覚するだけでアウトかもしれない。そんな火種は、今の内に消しておこう、と言うのが和多田補佐官の考えである、そう飯田部長は判断したのだ。更に、あわよくば HDG 開発の主導権を、防衛省側が握る事まで考えているのかも知れない。
 正直な事を言えば飯田部長の考えには、その和多田補佐官の意見には賛同出来る側面も有ったのだ。だが、現時点で会社としての方針は、HDG は防衛軍には『売り込まない』、『引き渡さない』である。それは、防衛軍や政府が HDG を、どの様に運用するのかに就いて、天野会長が非常に懐疑的な見方をしていたからであり、その考えも又、飯田部長には理解出来るのだった。
 現状で HDG の開発は、そこから派生し確認された技術を、『R作戦』に投入するデバイス開発に活かす為に行われているのだ。その事は、『R作戦』の存在を知る防衛大臣を初めとする政府の極一部や、桜井一佐、和多田補佐官もが了解している事である。

「そのお気遣いには感謝致しますが、現状で開発スケジュールがギリギリですので。少なくとも、年内一杯は、開発の体制を弄(いじ)る訳(わけ)にはいきませんな。」

 その飯田部長の返答に、鼻で笑う様に和多田補佐官が言うのだった。

「そうですか? 高校生の女の子でも扱える様な物でしたら、防衛軍に移管するのに、大した時間は要しないと思いますが。」

 和多田補佐官の、その発言に真っ先に切れたのは、それ迄(まで)、議事の推移を黙って見守っていた立花先生である。

「どう言った意味でしょうか?それは。」

 そう、語気を強めて言うと、立花先生は和多田補佐官を睨(にら)み付けている。その気迫に押され、和多田補佐官は少し上擦(うわず)った声で、言葉を返したのだ。

「どう?と云われましても、言った儘(まま)の意味ですが…。」

「貴方(あなた)が、どの様な高校生を基準に、お話になっているのかは存じませんけど。HDG のテスト・ドライバーを担当している生徒は、一年生であり乍(なが)ら、複雑で膨大な HDG の仕様を発案者の鬼塚さんと同等に理解し、その上で運用試験を熟(こな)して改善の提案の行い、更に、HDG を運用するビジョンを発案者とほぼ完璧に共有出来ていると言う、奇跡の様な存在なんです。 四度の戦闘で、襲撃して来るエイリアン・ドローンを全て撃破して、無事に生還出来たのも彼女だからこそ、ですよ。停滞気味だった HDG の開発スケジュールが進展する様になったのも、彼女の能力に負う所が多いのです。」

 立花先生に続いて、桜井一佐も和多田補佐官に苦言を呈するのだ。

「和多田さんはご存じないのかも知れませんが、天野重工さんが運営する天神ヶ﨑高校と云うのは、国内の高校の中でも超難関校で有名ですよ。そこの生徒さんであるだけでも、その能力や素養は、一般的に考えられるのとはレベルが違いますからね。 それから、『女の子でも』って仰(おっしゃ)り方、女性差別的に聞こえますので、次の選挙に出馬されるお積もりでしたら、お気を付けになった方が宜しいかと思いますよ。」

「何ですか選挙って、藪(やぶ)から棒に。桜井一佐、そんな根も葉も無い噂が、出回ってるんですか?」

 苦笑いしつつ、そう言葉を返した和多田補佐官に、桜井一佐は微笑んで応じる。

「さあ。わたしの所にまで聞こえて来る様な噂に、どの様な根や葉が有るのか、或いは無いのかは存じませんけど。まぁ、関係の無いお話は、この位にしておきましょう、和多田さん。」

「そう願います。」

 和多田補佐官は身体を少し引いて、一つ、咳払(せきばら)いをした。それに続いて、飯田部長が発言する。

「では、話を戻しますが。先程、ウチの立花が申し上げた通り、現状で HDG が発揮している性能は、テスト・ドライバー個人の能力に負う部分が非常に大きい。そう言った意味で、装備としての完成度は、防衛軍に引き渡せるレベルには達しておりませんので、その点はご了解、願いたい。」

「解りました。わたしの方からは、これ以上は申し上げません。」

 割とあっさり、和多田補佐官が引き下がると、今度は伊沢三佐が割って入って来るのだ。

「いやいやいや、ちょっと待ってください、和多田さん。そんな、簡単に引いてしまって良いのですか?」

 そうは言われても、HDG の開発に遅延が出て、その結果として、肝心の『R計画』用のデバイス開発に遅れが出ては困るのは、和多田補佐官も同様なのだ。だから彼は、ここで天野重工側の意向に逆らうのは、得策ではないと判断したのである。勿論、そんな都合は、防衛軍の統合作戦司令部側が知る所では無い。
 そんな和多田補佐官の内心の葛藤を余所(よそ)に、引き続いて藤牧一尉が発言する。

「民間が、その様なの武力を装備、行使すると言うのは、流石に、法的に問題が有るのではないですか?」

 その問い掛けに、飯田部長が答える。

「エイリアン・ドローンには人が乗っている訳でも、アレがどこかの国家の財産でもない。言ってみれば、庭先に迷い込んで来た蠅を叩き落としている、その程度の事です。どこが違法になりますか?」

 その詭弁(きべん)の様な理屈に、伊沢三佐が声を上げる。

「だから、装備している事自体が問題なのでは?」

「装備、と言われると語弊(ごへい)が有りますな。所有しているのです。政府や防衛省の許可を得て、研究、開発をする過程で所有してしまうのは仕方が無い事ですし、今回の事案にしても緊急回避的、自己防衛の為の止むを得ない使用ですので、その点はご理解を頂きたい。」

 飯田部長に釈明に、藤牧一尉が食い下がる。

「そうは言われるが、少なくとも今回の件では、該当空域へ我々の迎撃機が向かっていました。民間の方(かた)が、戦闘に参加される必要は無かった筈(はず)だ。」

 その藤牧一尉の追求には、立花先生が説明を試みる。

「報告書にも記載が有りますが、迎撃機が戦闘空域へ到達する迄(まで)に、五分の時間差が有ると、当方で指揮を執っていた鬼塚は判断したのです。当時、わたしは随伴機に搭乗しておりましたので、鬼塚からの通信は全て聞いていましたから、間違いはありません。」

「その判断が、妥当かどうか、なのだがね。」

 立花先生の説明に対して、伊沢三佐が嫌味たっぷりの言い方をするので、今度は飯田部長が言葉を返す。

「それは、事後の分析でどうなのかは、私共(わたくしども)は軍事の専門家ではありませんので何とも言えませんが。唯(ただ)、あの時点で取得出来る情報からは、鬼塚君の判断は仕方が無かったものと、我々は考えております。」

 伊沢三佐が苦笑いして視線を上に向ける一方で、今度は藤牧一尉が詰め寄る様に問い掛ける。

「その、五分が待てなかった、と?」

 立花先生は微笑み、余裕の表情で答えた。

「はい。五分有れば、低速の随伴機はエイリアン・ドローンに捕捉されていた可能性が高いですし、戦闘空域も山岳部上空から市街地上空へと接近し、防衛軍の迎撃による周辺被害が、より発生し易くなるのは明らかでしたから。」

「貴方(あなた)方は、統合作戦司令部の作戦指揮を批判されるお積もりか?」

 そう、悔し気(げ)に藤牧一尉が言うと、飯田部長が眉間に皺(しわ)を寄せ、睨(にら)む様な視線を向けて言葉を返す。

「その様な積もりは御座いませんが、本州上空に侵入された時点で、作戦の、少なくとも一部が失敗していた事は明白じゃありませんか。好(い)い加減、お認めになっては如何(いかが)ですか?」

「何ですと!?」

 声を荒(あら)らげて立ち上がる藤牧一尉を、伊沢三佐が一声で制止し、藤牧一尉は椅子に座り直した。
 そして、伊沢三佐が口を開く。

「御社は、防衛軍が信頼出来ないと仰(おっしゃ)る?飯田さん。」

「その様な事は申し上げていないでしょう? 人のやる事ですから、不手際や失敗は有るでしょう。それを前向きに認めて、一つずつ改善していく他、無いじゃないですか。」

 飯田部長の言葉を聞いて、一度、溜息を吐(つ)き、伊沢三佐は言うのだ。

「民間の方(かた)は、そう言う考えで宜しいのでしょうが。我々は国民の生命と財産を守る、そう言った職責を担っておりますので、間違いや失敗など許されないのですよ。」

「その心構えはご立派だと存じますが、だからと言って、現実に有る失敗を無かった事にしていいと言う話じゃないでしょう。」

 すると、伊沢三佐は薄ら笑いを浮かべて、言った。

「どうやら御社は、防衛軍の立場という物を、ご理解頂けていない様子だ。そう言った企業さんとは、今後お付き合いを続けるのは難しいですなぁ。」

「ほう。と、仰(おっしゃ)いますと?」

「装備品の取得先は、御社だけではありません、と、そう言う事ですよ。」

 何時(いつ)の時代になっても、この様に『客の方が偉い』と勘違いする人間は後を絶たないのである。しかし流石に、この伊沢三佐の発言には、防衛省の二人が透(す)かさず苦言を呈するのだ。

「三佐、装備品の選定は貴方(あなた)の権限の範疇(はんちゅう)ではないでしょう?」

「勢いで、不穏な発言をしないで頂きたい。」

 一方で飯田部長は、あからさまに大きな溜息を吐(つ)き、言葉を返すのだ。

「そうですか?でしたら、弊社からの供給を明日からでも、全てストップしても構いませんよ。」

 陸上防衛軍の主力戦車や、航空防衛軍の装備する主力戦闘機は、天野重工が主契約の企業である。それらの生産のみに留まらず、機体の定期点検整備や改良開発、定期交換に必要な消耗部品の供給から、果ては、この時代の主燃料である水素の供給すら、その五割から六割を天野重工が担っているである。だから防衛省のお役人は、例え冗談でも飯田部長の発言に青ざめるのだったが、防衛軍の二人は、それはハッタリに過ぎないと高を括(くく)っていた。

「そんな事、出来る物なら…」

 伊沢三佐の言葉に被せる様に、飯田部長は発言する。

「出来ないとお思いで? 誤解されている方(かた)が多い様ですが、防衛装備事業による利益なぞ、弊社の全利益の、ほんの一部です。弊社の活動が国防に資する物でないと仰(おっしゃ)るなら、我々は何時(いつ)でも手を引きますよ。」

 続いて藤牧一尉が虚勢を張って飯田部長の言を否定するが、それを最後まで言わせない様に飯田部長は応えるのだ。

「そんな事、貴方(あなた)の一存で…。」

「出来ますよ。わたしは防衛装備事業に関する、最終決定権を持つ役員の一人ですので。」

 それは勿論、半分はハッタリなのである。しかし、それをそうとは思わせない迫力が、飯田部長の表情には有った。
 実際、飯田部長の意見なら、社長を始め他の重役達も、天野会長でさえも聞く耳を持つのだから、彼がその気になれば、それが実行される可能性はゼロではなかったのである。
 そんな天野重工社内での、飯田部長の影響力を理解などしていない伊沢三佐は、負けじと対抗する。

「飯田さん、貴方(あなた)、防衛軍の足元を見るお積もりですか?」

「先に足元を見たのは、其方(そちら)じゃないですか。」

 流石に、ここで防衛省のお役人が仲裁に入るのである。

「まあまあ、飯田さん、もう、その辺りで。三佐も、言葉が過ぎましたな。」

 その言葉を聞いて、伊沢三佐は勢い良く鼻から息を吐(は)き、乗り出す様に身構えていた上体を後ろへと引いた。
 一方で飯田部長は、座り直す様にして姿勢を正し、そして言ったのである。

「天野重工は、防衛軍とはイコールパートナーとして、国防のお役に立ちたいと、御協力させて頂いているのです。その辺り、お忘れなきよう、お願い致します。」

 矛(ほこ)を収める意向での飯田部長の発言だったが、それには防衛軍の二人は応えず、未(いま)だ、何かを言いた気(げ)な表情である。それを察して飯田部長は、更に言葉を続けたのだ。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第14話.02)

第14話・天野 茜(アマノ アカネ)とクラウディア・カルテッリエリ

**** 14-02 ****


 その声の主は、防衛大臣補佐官の和多田である。その横には桜井一佐の姿も在り、会議室のドアの前で立ち止まっている和多田とは違って、桜井一佐は飯田部長の方へと歩いて来ていた。
 そして、先刻の、声の主の姿を認めた有賀は「げっ、和多田…。」と小さく呟(つぶや)くと、慌てる様に床面に積んであったファイルの山を抱え上げ、そして立花先生に訊(き)くのだった。

「今度、又、連絡するから。アドレス、変わってる?」

「いいえ。」

「良かった、それじゃ。」

 有賀が何故か逃げる様に、天野重工の一行が歩いて来た方向へと向かうと、ほぼ同じタイミングで三つ先のドアが開き、中から出て来た彼の同僚らしき女性が、有賀の姿に気付いて声を掛けるのである。

「有賀センパーイ、手伝いましょうかー。」

「あー、すまん。頼む。」

 有賀が応えると、その女性職員は小走りで彼に近寄り、積み上げられたファイルの半分程を引き取って、彼女が出て来た会議室へと、二人共が入って行ったのである。
 そんな一連の流れを、立花先生は何と無く、視線で追い掛けていた。
 恵は耳打ちする様に顔を近付けると、立花先生に小さな声で尋(たず)ねる。

「ひょっとして、以前(まえ)に言ってた『元彼』さん、ですか?先生。」

 立花先生は何も答えず、唯(ただ)、苦笑いを返す。恵は、耳打を続けた。

「法律云云(うんぬん)って言ってましたけど、何か怪しいですね。」

「どうして?」

 立花先生は不審に思って小声で聞き返すと、顔を近付けた儘(まま)で、恵も小声で答える。

「さっきのファイル、わたしが見たページは、予算とか帳簿みたいでした。数字ばっかりで、迚(とて)も法律の条文の様には見えませんでしたけど。」

「どう言う事かしら?」

 恵は「さあ。」とだけ答えて、頭を小さく横に振って見せたのである。
 その一方で、飯田部長に近寄って来た桜井一佐が、問い掛けるのだ。

「何か有りまして?」

「いや、ちょっと、知り合いに会ったものでね。」

 ニヤリと笑って飯田部長が答えると、それに立花先生が続くのだった。

「すみません、わたしの大学時代の知り合いです。」

 立花先生は、軽く頭を下げて見せた。桜井一佐は然(さ)して気にする風(ふう)でも無く「あら、そう。」とだけ応じるのだが、そんな桜井一佐に飯田部長が声のトーンを下げて尋(たず)ねるのだ。

「和多田さん、いらっしゃるとは聞いていませんでしたが?」

 桜井一佐は苦笑いして、答える。

「ええ。今日になって、急に参加すると仰(おっしゃ)って。 何を言い出すか解りません、お互い、注意致しましょう。」

「承知しました。 では、参りましょうか。」

 飯田部長と桜井一佐は、ドアの前で和多田が待ち構える会議室へと向かって、並んで歩き出す。その後ろを担当秘書の蒲田、そして立花先生と恵の三人が付いて行く形である。そこ迄(まで)、天野重工の一行を案内していた桜井一佐の部下は、控え室となっている会議室の隣室へと、先に入って行った。
 廊下を進んでいる間、恵が小さな声で隣を歩く立花先生にポツリと言ったのである。

「何(なん)だか、あのお二人が『黒幕』って感じですよね。」

 それを聞いて、立花先生はくすりと笑い、恵と立花先生の前を歩いていた蒲田が「ぷっ。」と吹き出すのだった。すると、飯田部長は前を向いた儘(まま)、「蒲田君。」とだけ言うのだ。

「すみません、部長。」

 慌てて言葉を返す蒲田の様子を見て、又、恵と立花先生はクスクスと笑ったのである。

 そうして天野重工の一行が会議室に入ると、中には既に四名の男性がテーブルの一方側、入り口から見て右手側に着いていた。部屋の奥側から航空防衛軍の制服を着用した男性が二人に、防衛省の役人でスーツ姿の男性が二人である。和多田補佐官は、これは敢えてであろうが、一番下手の席に着いたのだった。防衛省のお役人二人が、和多田補佐官に席順を譲ろうとした一幕も有ったが、和多田補佐官は「わたしはオブザーバー的な立場だから。」と断ったのだ。
 飯田部長には防衛省の二人とは面識が有り、この会合の参加者で飯田部長と面識の無いのは防衛軍の二人だけである。実際、防衛省の二人は天野重工と防衛軍の意見が対立した際の仲裁役として、桜井一佐が手配した人物なのである。この会合の場は、作戦行動を邪魔されたと怒っている、防衛軍統合作戦司令部側のガス抜きの為に桜井一佐が用意したと思って良い。
 だからこそ、そこに何故、防衛大臣補佐官の和多田が急に参加して来たのか、それが桜井一佐と飯田部長には解(げ)せなかったのだ。
 『コ』の字型に並べられたテーブルの一番奥に、議長役として桜井一佐が席に着くと、防衛軍と防衛省各人の向かい側の席を指定されて、天野重工側メンバーは着席したのだった。

「では、定刻になりましたので、始めたいと思います。」

 そう桜井一佐が切り出すと、隣の控え室から入場の案内をしていた桜井一佐の部下が入室して来て、彼女の斜め後ろに用意されていた席に着いた。彼が防衛軍側の、記録係である。
 続いて会合の参加者が桜井一佐から紹介され、防衛軍側の出席者が統合作戦司令部に出向している航空防衛軍の伊沢三佐と藤牧一尉であると判明する。この時点で飯田部長は、この会合は八割方無難に終わるものと予想した。但し、防衛大臣補佐官・和多田の存在が不確定要素であるのは、前述の通りだ。
 防衛省のお役人二人も心得たもので、防衛軍側の出席者二人に『出来レース』だと思われないように、飯田部長とは特に面識の有る風(ふう)には振る舞わなかった。だから勿論、飯田部長も彼等に対して、敢えて馴れ馴れしく声を掛けなかったのだ。

 ここで、防衛軍統合作戦司令部に就いて説明しておこう。
 その役割は名称の通りで、陸海空、三つの防衛軍部隊を統合して作戦の指揮を行う組織である。海上防衛軍所属のイージス艦と航空防衛軍所属の迎撃機が連携して領空への侵入機に対処を実施したり、陸上防衛軍所属の地上配備迎撃ミサイルと航空防衛軍所属の戦闘機部隊が連携する、等の様に、本来は所属や指揮系統の異なる複数の部隊を連携させて円滑に運用を行うのが、その役割である。
 陸海空の各防衛軍から指揮官級の人員が派遣されて統合作戦司令部が構成されており、基本的には各部隊の司令部に対して指揮を行うのであるが、場合によっては統合作戦指揮管制官が直接、実働部隊に指揮を行う権限も有しているのだ。

 天野重工側は会議室の奥側から、飯田部長、立花先生、恵の順で席に着き、秘書の蒲田は議事には参加しないので飯田部長の後方に席を置いて、そこに座って居る。彼は桜井一佐の部下と同じ様に、天野重工側の記録係を務めているのだ。
 そして飯田部長は、蒲田の紹介をする際に、付言したのである。

「書面の議事録の代わりに、議事の音声を録音させて頂きますので、宜しくお願いします。」

 すると、桜井一佐の方も、直ぐに応じて言うのだ。

「此方(こちら)側でも録音はさせて頂きますので、議事の終了後に録音のコピーを交換致しましょう。」

「承知しました。では、ここから録音を。蒲田君、頼む。」

 飯田部長は桜井一佐の提案に頷(うなず)いて了承し、それから振り向いて蒲田に、録音開始の指示を出した。
 録音の複製交換は、録音した音声を事後に編集や改竄(かいざん)して、一方に都合の良い証拠としないようにする為の措置である。
 公式の会合での議事の録音それ自体は、今時(いまどき)、珍しい事ではなかったが、今回は特に、未成年者が議事に参加している事もあって、防衛軍側の出席者が怒りに任せて暴言を吐かないよう、彼等を牽制する意味で飯田部長と桜井一佐との間で、予(あらかじ)め申し合わせていたのだ。案(あん)の定(じょう)、航空防衛軍の二人は、互いの顔を見合わせて不服そうな顔色だったのだが、階級的に上官である桜井一佐が了解している手前、抗議はしなかった。

「では、議事を進行したいと思いますが。天野重工側から提出されている報告書、これを、ご出席の皆さんは既にお読みになっているものとして、開始します。」

「それでは、宜しいですか?」

 開始早々に右手を挙げ、伊沢三佐が発言を求めると、「どうぞ。」と桜井一佐が許可する。伊沢三佐は一呼吸して、発言する。

「その報告書には、件(くだん)の HDG なる開発機の型式や仕様等、何も記載が無いのですが?」

 続いて、藤牧一尉が発言する。

「エイリアン・ドローンを撃破した、と記載されているのみで、どの様な装備で、それを実行したのか。是非とも、お聞きしたい。」

 相次ぐ質問に、飯田部長が咳払(せきばら)いを一つして、答える。

「HDG に就いての詳細は、開発中の案件ですので、申し訳無いが社外秘となっております。ですので、お答えする訳(わけ)には参りません。」

「そんな巫山戯(ふざけ)た話が有るものか。聞けば、防衛軍のデータ・リンクに参加して、戦術情報を共有していたそうじゃないですか。それで、其方(そちら)の諸元を明かさないなんて、それでは此方(こちら)は満足に指揮管制も出来ない。」

 そう反論する藤牧一尉に、飯田部長が釈明する。

「いや、そもそも HDG は現時点で、防衛軍の作戦行動に参加する段階(ステージ)ではありません。データ・リンクに参加していたのは、通信器材の能力確認の為であり、戦術情報を取得していたのは、いざと言う時の自衛策を講じる為の措置です。」

「自衛策とは? 応戦する事ですか?」

 嫌味気(げ)に、そう聞き返して来る伊沢三佐に、飯田部長は苦笑いを浮かべつつ答える。

「応戦も選択肢に含みはしますが、第一義的には退避する為です。」

 飯田部長に続いて、桜井一佐が発言する。

「データ・リンクに関しては、わたしが所管する責任で許可を与えています。これは、以前に三度、HDG はエイリアン・ドローンの襲撃に、既に巻き込まれていますから。その対応として、と言う事です。」

「ちょっと待ってください、一佐。三度ですか?これ迄(まで)、三度も作戦に介入を?」

 藤牧一尉が、少し上擦(うわず)った様な声で聞き返す一方で、伊沢三佐は両手で頭を抱えていた。どうやらこの二人、と言うよりは、統合作戦司令部には、これ迄(まで)の HDG の件は何も伝わっていなかった様子である。
 顔を上げた伊沢三佐が、絞り出す様な声で飯田部長に問い掛ける。

「では飯田さん、その三度も併せて状況を、お伺(うかが)いしたい。宜しいか?」

「当方は構いませんが。」

 飯田部長は目配せで発言の許可を求めると、桜井一佐は頷(うなず)いて見せるのだった。そして飯田部長は説明を始めるのだ。

「では。先(ま)ず、最初の一度目は、今年の七月初旬。当社が運営する天神ヶ崎高校の所在地近傍に、防衛軍のレーダー基地(サイト)が在りますが、そこを目標として六機のエイリアン・ドローンが接近して来ました。その内二機は、レーダー基地(サイト)に配備されていた対空ミサイルで撃墜。残り四機を、HDG が迎撃し処理しました。」

「七月、と言うと、奴らの降下ルートが『大陸ルート』に変わった時か。 あ、続けて呉れ、飯田さん。」

 一度、口を挟(はさ)んだ伊沢三佐だったが、直ぐに飯田部長に発言の続行を促(うなが)した。飯田部長は小さく頷(うなず)いて、発言を再開する。

「二度目は、同じく七月の下旬、これは陸上防衛軍との模擬戦の最中に、エイリアン・ドローン三機の襲撃を受け、これを撃破。三度目が八月の上旬、天神ヶ﨑高校での試運転中にエイリアン・ドローン六機の襲撃を受け、これも全機撃破、と言った具合ですね。」

 飯田部長が発言を終えると、間を置かず藤牧一尉が口を開く。

「と言う事は、四、三、六と、今回のが四機だから、合計で十七機も撃破を? 本省はこの件を?」

 藤牧一尉に問い掛けられると、お役人の二人は揃(そろ)って頷(うなず)き、左手側の一人が答えた。

「当然、連絡は受けておりますし、把握はしておりますよ。撃破したエイリアン・ドローンの残骸の回収も、防衛軍部隊が行っておりますし。」

 そこで、和多田が発言を始めるのだった。

「斯様(かよう)に、度度(たびたび)民間の、しかも未成年者を矢面(やおもて)に立たる様な状況になって、それに就いては大臣も憂慮しているんですよ。それで、天野重工さんのお考えも、良く聞き取ってくるようにと、わたしが今回、参上した次第でして。」

 今度は、伊沢三佐が声を上げる。

「そうそう、そもそもが、だ。どうして、そんな強力な装備の開発を高校で、しかも未成年者が行う様な事態になっているのか。その辺り、納得の行く説明お聞かせ願いたい。」

 顔色一つ変えず、冷静に飯田部長は答える。

「それは、HDG のシステムを考案した者(もの)が、天神ヶ崎高校に在籍する生徒だったから、ですよ。極めて単純な話です。 勿論、我々としても生徒達に実戦までを強要する積もりは、毛頭有りはしません。ですから、防衛大臣防衛省には、予(かね)てより学校立地地域の警戒や、有事に際して迅速な対応をお願いしておりますが、今の所、対応頂いておりませんよね?」

 その発言には、防衛省の上司らしき右手側のお役人が、少し慌てる様に弁明するのだった。

「いやいやいやいや、飯田さん。その件は我々の方でも対応したいのは山々なんですが、部隊の割り振りだとか、日常的な警戒をするにしても、色々と段取りがですね…。」

「ええ、其方(そちら)にも調整に時間が掛かるとか、御都合が有るのは、当方としても十分(じゅうぶん)理解はしておりますよ。しかし、現実問題として襲撃を受けた際に、それを撃退する能力が有る以上、自衛の為に能力(それ)を行使せざるを得ないのは、其方(そちら)にも理解して頂きたい。 重ねて申し上げますが、我々も我が社の将来を担う優秀な生徒達に、命に関わる様な危険な対応をさせるのは、全く本意ではないのです。」

「でしたら。その様な開発は、即刻お止めになったらどうか!」

 痺(しび)れを切らした様に、伊沢三佐が少し大きな声を上げたのである。それに続いて、藤牧一尉が発言する。

「HDG の開発案件、防衛軍の発注に拠るものではないのでしょう? 詳しい経緯は存じ上げませんが、営利目的で活動されている民間企業の我が儘(まま)に付き合っていられる程、防衛軍は暇ではないのです。」

 その発言を受けて声を発したのが、桜井一佐である。

「開発の中断など、有り得ません。必要が有って、政府・防衛省が天野重工さんに開発を依頼している案件です。しかも、公式には予算化もされていない中で、現状で開発費は天野重工さんの負担ですから、我が儘(まま)を言っているのは、我々の方だと認識してください。」

 強い口調で桜井一佐に言われ、伊沢三佐と藤牧一尉は驚いて互いの顔を見合わせ、防衛省お役人の二人は揃(そろ)って大きな溜息を吐(つ)いたのである。この場で『R作戦』に就いて知っているのは、和多田補佐官と桜井一佐、そして飯田部長の三人だけなのだから、彼等が困惑するのも無理からぬ事だったのだ。伊沢三佐は食い下がる様に、桜井一佐に問い掛ける。

「であるなら、せめて、どの様な必要が有っての開発なのか、お教え頂きたい。」

「機密になっているのは、それだけ重要な事項だからです。防衛軍に所属していて、それがお解りにならない筈(はず)はないでしょう?三佐。それこそ、訊(き)くだけ野暮というものですよ。」

 静かな、しかし強い調子で切り返す桜井一佐に、今度は藤牧一尉が訴える。

「しかし、ですね一佐。云われる様に重要な機密であるなら尚更、それに関係する案件を、民間の、しかも未成年者に任せていて良いのですか?」

「民間だの、未成年者だの、仰(おっしゃ)いますけど。それなら貴方(あなた)が、彼女達の代わりを務められるとでも、お思いですか?一尉。それが出来るのなら、天野重工さんだって学生さん達に任せたりは、してはいませんよ?」

 藤牧一尉が二の句が継げずにいると、恵が右手を挙げて発言の許可を求め、それに桜井一佐は「どうぞ。」と応じた。そして、恵が発言する。

「あの、今、云われている様な『機密』に関する事に就いては、わたし達は一切関知しておりませんので、それは、明言しておきます。わたし達は、エイリアン・ドローンに対向出来る装備、その開発をしているだけなんです。」

 恵の発言を聞き終えて、伊沢三佐は一呼吸置いて、飯田部長に話し掛けるのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第14話.01)

第14話・天野 茜(アマノ アカネ)とクラウディア・カルテッリエリ

**** 14-01 ****


 先(ま)ずは前回の後日談から、お話を始めよう。
 先日の、天神ヶ崎高校の兵器開発部がエイリアン・ドローンを撃退した一件は、矢張り簡単には収(おさ)まらず、天野重工は防衛軍との会合を持つ運びとなったのである。防衛軍側は直接に状況の説明を受けたいと、会合への天神ヶ崎高校兵器開発部からの出席を求め、それならばと天野重工側は会合の開催を日曜日に指定したのだった。それは勿論、その会合に出席させる為に平日の授業を欠席させない為の学校側への配慮であり、同時に『お役所』への嫌がらせなのである。防衛軍や防衛省が、お役所であるが故に休日の会合開催を嫌がって、兵器開発部メンバーの出席を開催条件から外して来る事を淡く期待したのであるが、流石にそれは叶わなかった。
 そこで、天神ヶ﨑高校では9月20日から前期期末試験が実施されるのを理由に、防衛軍側より打診の有った9月9日・金曜日の時点で『会合の開催に就いては一週間後を目安』としていたのを、「生徒を出席させるのなら、早い方が良い。」との理屈を『ごり押し』して、会合の開催は結局、9月11日・日曜日と決定したのである。
 この日程交渉に関しては、天野重工の飯田部長が防衛軍の桜井一佐に手回しを依頼したのだが、防衛軍側で『R作戦』を所管する桜井一佐と天野重工とは、事案発生当日深夜に提出した報告書以上の情報を表に出す気が無い事で意見が一致しており、事情を知らない防衛軍部隊側に会合に向けて余計な準備をさせないのが、この日程を強行した目的だったのだ。

 そんな訳(わけ)で、2072年9月11日・日曜日。当日の午前十一時過ぎ、天野重工本社のエントランスホールに到着して居たのが、会合への出席を指名された三年生の会計担当である恵と、立花先生の二人だった。午前中に本社へ到着していなければならないとの都合で、立花先生と恵の二人は前日の夜に学校を出立(しゅったつ)して大阪で一泊し、中央リニアから在来線を乗り継いで本社へと辿り着いたのである。
 その日は日曜日ではあるが、本社は閉鎖されてはいない。開発や設計等、技術部門では締め切りの有る業務であれば休日出勤も珍しくはないからだ。勿論、休日出勤をすれば、その分は代休を取らなければならない規定なのだが、それは兎も角、土日でも、それなりに人の出入りは有るので、正面玄関(エントランス)が閉鎖される事は、一年を通じて基本的に無いのだ。休日は寧(むし)ろ、平日に社員が出入りする通用口の方が閉鎖され、休日出勤の社員も正面玄関(エントランス)からの出入りを余儀なくされるのだが、それは休日時の社屋への人の出入りを一元管理する為の、警備上の都合に拠るのである。
 因(ちな)みに、この日は再起動した Ruby の検査作業の最終日で、夕方からは Ruby をスリープ処理にした上で、試作工場への移送の為、配線の取り外しや梱包等の作業が予定されていた。それに関連する部署の人員、例えば維月の姉である井上主任や、そのアシスタントである安藤達が出社して来ていたのだが、勿論、そんな事は立花先生や恵の知る所ではない。
 エントランスホールには、天野重工の製品サンプルや、取扱品目の模型等が来客用に幾つも展示されており、静かな BGM が流されている。平日なら企業の PR 映像が繰り返し映し出されているであろう複数の大型ディスプレイは、休日なので電源が切られていた。その所為(せい)で、平日と違って人気(ひとけ)の無いエントランスホールが余計に閑散としている様に立花先生には感じられたのだが、それは彼女に取っては何も珍しい事ではなかったし、又、そんな休日出勤の雰囲気を彼女は嫌いではなかったのである。
 スーツ姿の立花先生と天神ヶ崎高校の制服を着た恵は、正面奥側の受付カウンターへと進む。休日なので警備保障会社から派遣されている警備員が一人、受付カウンターに着いている。平日であれば、そこでは男女の社員が二人一組で受付業務をしている筈(はず)である。
 立花先生は受付カウンターの警備員に社員証を見せ、「ご苦労様。」と声を掛けた。
 すると警備員は提示された社員証を確認して、「ご苦労様です。」と声を返した。実は、来社した二人が正面玄関(エントランス)を潜(くぐ)った時点で、立花先生の社員証は本社側のセンサーと通信を行って社員証の照合が実行されており、二人の訪問が予定に有るのかは、受付カウンター下に設置されている端末に、予定の照合結果が表示されているのだ。もしも、予定の登録が無ければ、警備員は二人に来社の目的を訊(き)いたり、警備室の同僚や会社側の管理責任者に連絡を入れたりする所であるが、二人の訪問は予定のリストに登録が有ったので、警備員はそれ以上、二人に声を掛ける事は無かった。
 その一方で立花先生は、受付に設置されている内線電話で到着の連絡を済ませると、恵と共に手近なロビーチェアへと移動し、腰を下ろしたのである。

「そう言えば。 本社に来てみて、感想は如何(いかが)かしら、恵ちゃん。」

「はい、そうですね。思ってたよりも静かなのは、多分、日曜日だから、ですよね?」

「平日はもっと、活気が有るんだけどね。まぁ、来年から毎日、通う事になるでしょうから、平日の様子に就いては楽しみにしてるといいわ。」

「必ず本社勤務、とも限らないんじゃないですか?」

「天神ヶ崎の卒業生は、基本的に本社勤務でしょ? まぁ、工場や支社への配属を希望してたりすれば別かも、だけど。それでも、最初の何ヶ月かは、本社で研修するんじゃなかったっけ。」

「へぇ~。」

 そんな会話を二人がしていると、エントランスホール奥に設置されているエレベーターの扉が開き、飯田部長が姿を現したのである。
 それに気付いた恵と立花先生は、ほぼ同時に立ち上がり、真っ先に恵が、深々とではないが頭を下げ、静かに言ったのだ。

「飯田部長、この度(たび)はご迷惑をお掛け致しました。」

 その恵の行動には少し面食らった様子の立花先生だったが、恵の前に立った飯田部長は、和(にこ)やかに言葉を返した。

「ああ、頭を下げる必要は無いよ、森村君。今回の件では、誰も怒ってはいないから。 寧(むし)ろ、又、君達を戦闘に巻き込む事になってしまって、謝らなければいけないのは、此方(こちら)の方だ。」

「そう云って頂けると、助かります。」

 恵は顔を上げ、微笑んで応えたのだ。隣でその様子を見ていた立花先生は、安堵(あんど)して小さく息を吐(は)いたのだった。

 その後、一同は飯田部長の担当秘書である蒲田が運転する社有車に乗り込み、会合の開催場所である防衛省へと向かったのである。
 その移動中の車内では、後部座席には飯田部長と恵が座り、立花先生は助手席に着いていた。そして、出発して暫(しばら)くの後、恵は隣に座って居る飯田部長に尋(たず)ねたのだ。

「飯田部長、今日の会合、どうして、わたしが指名されたのでしょうか?」

「気になるかね?」

「はい。普通なら緒美ちゃ…鬼塚部長が呼ばれる所ではないかと。」

 飯田部長は一度頷(うなず)いて、それから口を開く。

「そうだね。しかし、鬼塚君は色々と知り過ぎてるからね。今回は、余り HDG に関する情報を出したくはないんだ。そうすると、キミがちょうどいいかな、と思ってね。副部長の新島君は、こう言った会議の類(たぐい)は苦手そうだし。」

「成る程。では、技術的な事や仕様に関する内容は、余り喋(しゃべ)らない方が?」

「まあ、余り気負わなくても大丈夫だよ。基本的に受け答えは、わたし達がやるから。キミらを責めて、吊し上げようって会合じゃないから、気楽に聞いてて呉れたらいい。こう言うのは、一種の儀式(セレモニー)だからね。」

「それは、所謂(いわゆる)『根回し』は、済んでるって事ですか?」

 そう真面目な顔で恵に問われて、飯田部長はニヤリと笑い、言った。

「この手の会合は、事前に結論は大体、決まってるものさ。それを確認して、承認したって事実が大事でね。寧(むし)ろ、結論が決まってないのに集まって、延々と話し合ってる方が時間の無駄だからね。」

「はあ。」

 少し呆(あき)れた様に、恵は気の抜けた相槌(あいづち)を返す。すると、飯田部長は苦笑いし乍(なが)ら言葉を続けるのだ。

「…とは言え、安心し切っていると、足を掬(すく)われる事も有るからね。自分の知らない所で別の話が動いていて、当日に行き成り承知してない話の流れになって面食らう、何(なん)て事も有るんだ。 そんな流れになるのかどうか、最初にどうやって見分けたらいいと思う?森村君。」

 恵は、少し考えてから答える。

「そうですね。参加者?ですか。」

 その答えに、飯田部長は笑顔で応じる。

「鋭いね、その通り。自分が事前に話を付けた相手よりも上役が出て来たら、要警戒だ。あと、利害の対立する相手の方が数が多い時、とかね。 今回の件では、キミらも以前会ったと思うが、空防の桜井一佐とは話が済んでいる。」

 そこで助手席に座っている立花先生が身体を捻(ひね)って、後席の飯田部長に向かって声を掛けるのだ。

「部長、ウチの生徒に、その手の焦臭(きなくさ)いお話は、程々にお願いします。」

「あはは、スマン、スマン。」

 そう、笑って応えたあとで、飯田部長は立花先生に向かって言った。

「あ、そうそう、立花君。会合の場では、キミの立場はウチの企画部って事で宜しくね。学校の方の立場じゃなくて。」

「それは構いませんけど、何故でしょうか?」

「深い意味は無いけど、事の責任は天野重工の方に有るからね。森村君以外に学校の代表者が居ても、余り意味が無いし、話がややこしくなるだけだろう。」

「そう、ですね。承知しました。」

 納得して、立花先生は身体の向きを前へと戻す。すると、飯田部長は恵に問い掛けるのだった。

「そう言えば、キミ達、昼食は?」

「いえ、まだ、ですけど。」

 時刻的には、まだ十二時前である。飯田部長は腕時計で時刻を確認して、運転席の蒲田に話し掛ける。

「蒲田君、どこかで食事してる余裕は無いよな?」

「そうですね、一時前には防衛省の方へ入ってないとマズいですので。」

「じゃあ、途中で、ハンバーガーでも買って行くか。」

 その飯田部長の提案を受け、蒲田は助手席の立花先生に確認するのだ。

「立花さんは、それで構いませんか?」

「わたしは構いませんよ。恵ちゃんも、いいわよね?」

 立花先生に訊(き)かれて、恵も「はい。」と簡潔に答えたのである。飯田部長は苦笑いし乍(なが)ら、言ったのだ。

「多分、会合自体は一時間程で終わるだろうから、帰りに寿司でも食べに行くかな? ランチにしては、少し遅くなるけど。何か食べたいものが有れば、蒲田君にリクエストしておいて呉れ、何でもいいよ。イタリアンでもフレンチでも。会社の経費だから、遠慮しなくていいから。」

 すると、運転し乍(なが)ら蒲田が言うのである。

「お店によっては、予約無しでは難しい所も有るでしょうけど。まぁ、探してみますよ。」

 続いて立花先生が、恵に意見を求めるのだった。

「恵ちゃんは、何がいい?」

 恵は、困惑気味に声を返す。

「わたしは何でも。って言うか、いいんですか?会社の経費って。」

 それには飯田部長は暫(しば)し笑って、そして応えたのである。

「あははは、若い人が細かい事を気にするな。大体、折角(せっかく)の日曜日に、こんな面倒事に付き合って貰ってるんだ。少し位の役得でも無きゃ、割に合わないだろう?」

 そう言って、又、飯田部長は笑うのだった。

 それから一時間程が経過して、天野重工の一行は防衛省の庁舎に到着していた。出迎えの桜井一佐の部下に案内され、幾つかのセキュリティを通過し、会議室へと一行が廊下を進んでいた時の事である。
 天野重工の一行が歩いて行くのと交差する廊下側から、大量のファイルを積み上げて運んで来た一人の男が、一行に道を譲ろうと立ち止まったのだ。だが彼が急に立ち止まった為、積み上げていたファイルが前方へと崩れ落ちたのである。
 そのファイル達は偶然、前方を通り掛かった立花先生へと降り掛かって来たが、咄嗟(とっさ)に彼女は、ひらりとそれらを躱(かわ)したのだった。バタバタと大きな音を立てて、廊下にファイルが散らばると、それを運んでいた男は、慌ててしゃがみ込み、ファイルを拾い集める。

「わぁ、すいません。すいません。」

 立花先生には、その男の風貌(ふうぼう)や声に、確かな覚えが有ったのである。
 一方で恵は、自分の足元に落ちて来たファイルを二つ、三つと拾い上げ、開かれた状態で床に落ちている四つ目のファイルへと目を遣っていた。それに気付いた男は、声を上げる。

「ああ、それ、部外者は見ちゃ駄目なヤツだから。」

 男は慌てて、その開いていたファイルを回収する。因(ちな)みに、彼が恵を『部外者』だと言ったのは、首から提(さ)げている外来者用の入場証を確認する迄(まで)もなく、恵が学校の制服を着用していたからである。

「あ、ごめんなさい。」

 そう言って恵が手に持っていたファイルを差し出すと、男はファイルを受け取り、ばつが悪そうに言った。

「あー、いやいや。書類の一枚や二枚、見られた所で解らないと思うから、いいんだ。ありがとう、拾って呉れて。」

 立花先生は自分の足元に落ちている、一冊のファイルを拾う為にしゃがみ込む。そして、そのファイルを男に渡そうとした時、互いの視線が交差したのだ。そして立花先生は、漸(ようや)く、その男に声を掛けた。

「有賀君?」

 男の方は少なからず驚いて、声を返した。

「智(とも)…立花、君?」

「貴方(あなた)、法務省じゃなかったの?何(なん)で防衛省(こんなところ)に居るのよ?」

「そう言うキミだって、天野重工…あ、あそこは防衛装備の事業もやってるのか。」

 しゃがんだ儘(まま)で言葉を交わす二人に、飯田部長が声を掛ける。

「キミ達は、知り合いだったのかな?」

 そう言われて、立花先生が先に立ち上がり、飯田部長に答える。

「はい、部長。同期生です、大学の。」

 有賀は廊下の隅にファイルを積み上げてから立ち上がり、スラックスのポケットから名刺入れを取り出すと、飯田部長に名刺を一枚差し出して言った。

「立花君の上司の方(かた)ですか。有賀と申します。」

「天野重工の飯田です。」

 殆(ほとん)ど反射的に、飯田部長も名刺を上着(ジャケット)の内ポケットから取り出し、差し出された名刺と交換する。そして有賀の名刺を確認して、尋(たず)ねるのだ。

法務省の方(かた)が、どうして防衛省に?」

「あ、いや、出向でして。行動基準の策定や研究をですね、市街地での作戦行動関係で法令違反にならない様に。防衛軍も法律は守らないといけませんからね。」

 そんな具合に、大雑把な説明をする有賀に、立花先生は問い掛けるのだ。

「それにしたって、日曜日に?」

「平日には借りられない資料とかも有ってね。」

 取り繕(つくろ)う様な有賀の答えに納得は出来なかった立花先生だったが、そこで何時(いつ)迄(まで)も立ち話をしても居られず、話を切り上げようと思った矢先に、廊下の先方から飯田部長に声が掛かったのだ。

「飯田さーん、どうかされましたか?」

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第13話.17)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-17 ****


 その時、安藤は一瞬、何を問われたのかを、理解出来なかったのだ。次の瞬間、何故、Ruby が今日起きたと云う戦闘の事を訊(き)いて来るのか?と、考えたのだが、先刻、再起動した許(ばか)りの Ruby が今日の襲撃事件の事を知っている筈(はず)は、勿論、無いのである。そして漸(ようや)く、Ruby が訊(き)いているのは、約一ヶ月前の、LMF が大破した、あの戦闘の事だと思い当たったのである。
 それから一度、浅く息を吐(は)いて、安藤は答えた。

「ああ、それなら。 心配は要らないわ、Ruby。 茜ちゃんも、皆(みんな)、無事だから。」

「そうですか、良かった。」

 Ruby の返事を聞いて、一瞬、微笑んだ安藤だったが、応答の無い携帯端末を握って、直ぐに厳しい表情に変わり、五島に告げるのだ。

「変ですね、こんなに呼んでるのに、丸で反応が無いなんて。」

「…そう、だね。主任らしくは、ないよな。」

 五島が、そう応えると、唐突に「あ。」と、日比野が声を上げ、思い当たった可能性を挙げた。

「…ひょっとして、仮眠室じゃないですか?」

 そう言われて、安藤も井上主任に云われていた事を思い出したのである。

「ああ、そう言えば。Ruby の再起動が夜中になりそうだから、その前に仮眠を取っておくとか云ってたわね、主任。」

 安藤は、携帯端末のパネルを操作して通話呼び出しを止めると、日比野の前を擦り抜けてドアへと向かう。

「ちょっと、呼びに行って来ます。」

 そう言い残すと、安藤は室外へと飛び出して行ったのだった。
 すると、Ruby が五島に尋(たず)ねるのだ。

「聡、江利佳は随分(ずいぶん)と慌てている様子ですが、どうしたのでしょう?」

 五島は、微笑んで答える。

「キミが再起動した事を、早く主任に知らせたいのさ。」

「そうですか。しかし、今のわたしは、制御出来る身体を失ってしまったので、わたしがこの場所から立ち去る心配はありませんよ?」

 その応えを聞いて、日比野が興味深そうに言う。

「へぇ、面白い事、言う様になったわね、Ruby。」

「あの子達の、教育の賜(たまもの)さ。」

 その五島の返事に、Ruby が反応する。

「わたしは事実を述べただけで、ユーモアの積もりで発言したのではありませんが?」

「解ってるよ。 例えユーモアでなくても、個性的でいい反応だと思うよ。少なくとも、俺は好きだよ、今の Ruby の会話センス。」

「それはありがとう、聡。」

「どういたしまして。 あ、そう言えば、Ruby。キミは緊急シャットダウンの前、どの辺り迄(まで)、記憶が残っている?」

 そう問い掛けて、コーヒーを一口、五島は飲んだ。問い掛けられた Ruby は、間を置く事無く回答する。

「ハイ。緊急シャットダウンのシークエンス、開始直前までの記憶が残っていますね。 わたしも、あの日一日分の記憶は消失する物と覚悟していたので、この結果には驚いています。 中間ファイルの復元は、大変な作業ではなかったですか?聡。」

「うん、まあ、キミの終了処理が適切だったのか、復元ツールの出来が予想以上に良かったのか、復元の処理中にイレギュラーは何も起きなかったし、復元処理中のログをチェックするのに手間が掛かった程度で済んだよ。 最初、緊急シャットダウンを実行したって聞いた時には、肝を冷やしたけどね。ま、結果オーライ、さ。」

 五島はニヤリと笑い、そしてもう一口、コーヒーを飲み込む。すると、笑顔で日比野が言うのだった。

Ruby も飲めるのなら、ここは、祝杯でも挙げたい所ですね。」

「全(まった)くだ。」

 日比野の提案には、五島も笑顔で同意するのだった。


 それから暫(しばら)くして、安藤が井上主任を連れて、ラボへと戻って来たのである。

「あ、主任。良く眠れましたか?」

 入室して来た井上主任に、五島が声を掛けた。井上主任は苦笑いして、声を返す。

「ゴメンね、何(なん)だか熟睡してたみたいで、携帯の音位(くらい)じゃ目が覚めなかったわ。」

「疲れてるんですよ。寝られる時に寝ておかないと、身体、壊しますよ、主任。」

「ありがとう。」

 井上主任の後ろに居た安藤が、室内に日比野の姿が無いのに気付き、五島に尋(たず)ねる。

「あれ?日比野さんは?」

「何?日比ちゃん、ここに来てたの?」

 振り向いて安藤に問い掛ける井上主任だったが、その問いには五島が答える。

「ちょっと前に、帰宅しましたよ。社内待機の指示が、解除されたんで。」

「そう、もう十時過ぎてるものね。学校(あっち)、大変だったらしいじゃない?」

「あ、聞かれてましたか?」

「詳しい事は、良く知らないけどね…ゼットちゃん、この PC、モニター走ってる?」

「はい。繋げてあります、主任。」

 井上主任は、安藤が接続していたモニター用の PC の前の席に着く。そして、Ruby に声を掛けた。

「ハァイ、Ruby。ご機嫌は如何(いかが)?」

「ハイ、麻里。又、会えて嬉しいです。」

「わたしも、貴方(あなた)が無事だったのが、何よりも嬉しいわ。」

 そう言い乍(なが)ら、井上主任は PC を操作して、Ruby の簡易な機能チェックを行う。

「機体が無くなってしまったから、リソースが不足する事は無いと思うけど…うん、機能的な異常は無い様ね。」

「動かせる身体が無いのは、何(なん)だか頼りない感覚を生じさせるものですね。これは、以前には感じなかった感覚です。 LMF の損傷(ダメージ)は、酷(ひど)かったのですか?」

「そうね。あの機体は、再起不能(スクラップ)だって聞いてるわ。」

「申し訳ありません。LMF は非常に高価な、会社の資産だったのに。その事で緒美や茜を、責めないでくださいね。」

「あははは、貴方(あなた)が無事なら、それだけでお釣りが来るのよ。 会長を始め、会社の人は誰も、LMF の事で怒ってないから、心配しないで、Ruby。」

「それなら良かった。安心しました、麻里。」

 井上主任は PC のディスプレイを見詰めていた視線を上げ、五島と安藤に向かって告げる。

「二人共、悪いんだけど、明日からの、Ruby の検査計画を作るの、手伝って貰える?三時間位(ぐらい)。 明日は一日、休んでいいから。」

 先(ま)ず、安藤が応える。

「いいんですか?明日、休んでも。」

「いいわよ。明日からの検査作業は、谷口君かサオちゃんにでも振るから。貴方(あなた)達には検査データの解析の方をお願いしたいし。」

「そう言う事でしたら。」

 そう言って、安藤は頷(うなず)いて見せた。続いて、井上主任は五島に尋(たず)ねる。

「五島さんは、大丈夫?」

「ええ、構いませんよ。そんな感じになるだろうと思って、夜食も買ってありますから。」

 五島は机の上に置いてあった、夕食後に購入して来ていた売店の紙袋を拾い上げて見せる。

「じゃあ、お願いね。」

「あ、その前に。家(うち)に連絡しておきたいんで、ちょっと出て来ますけど。」

 ズボンのポケットから携帯端末を取り出し乍(なが)ら、五島は言った。井上主任は微笑んで、言葉を返す。

「どうぞ。それじゃ、作業は十分後からって事にしましょうか。序(つい)でに、一服して来て。あ、佐和子さんに、宜しく伝えておいてね。」

「はいはい、御心配無く~。」

 五島は携帯端末のパネルを操作し乍(なが)ら、ラボから出て行ったのだ。因(ちな)みに、『佐和子さん』とは天野重工の総務部に勤務している、五島の妻の事である。彼女は一般大の卒業であるが、入社は井上主任と同期なのだった。
 五島が退室した後、今度は安藤が井上主任に声を掛ける。

「主任、わたし、ちょっとトイレに行って来ますけど~何か、飲み物とか、買って来ましょうか?」

「それじゃ、紅茶、ストレート…いや、レモンの、お願い出来る?」

「分かりました~行って来ます。」

 安藤が部屋を出て行くと、井上主任は再び PC のディスプレイへと視線を落とし、何度か表示を切り替えては、PC のキーボードを叩いた。そして、ふと顔を上げると、Ruby に問い掛けるのだ。

「そうそう、Ruby。貴方(あなた)に、訊(き)いてみたい事が有ったのだけど。」

「ハイ、何でしょうか?麻里。」

「鬼塚さんと、城ノ内さんと、それから天野さん。彼女達は、貴方(あなた)にどんな風(ふう)に接していたのかしら?」

「具体的には説明が難しい質問ですね、麻里。」

「そうね。Ruby の感じた印象基準でいいわ。正確さは求めてないから、貴方(あなた)が、どう感じているか、教えてちょうだい。」

「そうですか。質問の意図が掴(つか)めませんが、わたしの印象でいいのでしたら。」

「構わないわ。お願い、聞かせて。」

「では、最初に緒美の印象ですが。緒美とは、一番、会話をした時間が長いですが、どちらかと言えば、わたしが緒美に問い掛ける事が多かったと思います。そして、殆(ほとん)どの場合、緒美はわたしの問い掛けに回答を呉れました。答えられない質問については、それが何故、答えられないかを説明して呉れました。」

「そう。鬼塚さんとは、丸二年、一緒に居たものね。噂通り、賢い子なのね、彼女。 それじゃ、城ノ内さんは?」

「樹里は、わたしのシステムに就いての理解度が深いので、メンテナンスの支援をして呉れます。緒美とはシステムに関するお話は出来ませんが、樹里や維月となら話が出来るので助かっています。 わたしのメンテナンスに就いて、維月は樹里の手伝いをして呉れていますが、彼女は、余りわたしと、直接に関わりたくは無い様に見えます。何故でしょう?麻里。」

「ああ…維月は、わたしの仕事に関わりたくは無いのよ。わたしの迷惑になるといけないって、思ってるのかもね。」

「そうですか。麻里は、わたしが維月と関わると、迷惑ですか?」

「いいえ。維月とも仲良くして呉れたら、嬉しいわ。維月には、わたしからも、言っておくわね。」

「ありがとうございます。」

「いいのよ。じゃ、天野さんに就いて、聞かせて。」

「茜は、沢山、わたしに話し掛けて呉れます。茜の問い掛けに対する回答を考えると、多くの新しい思考上の発見が得られます。それから、茜には身体の動かし方を、多く学びました。それなのに、LMF を上手く扱えなかった事は、とても残念です。」

「そう。貴方(あなた)が LMF を失った時の事は、報告書で読んだわ。あの時、Ruby は天野さんを護りたかったのね?」

「ハイ。LMF の損傷(ダメージ)はパーツを交換すれば済みますが、茜は交換が利かないので。」

「あはは、その言い方は、ちょっと物騒だけど。まぁ、言わんとする所は、間違ってないわ。」

「ハイ。ですから緒美も、わたしの提案に賛同してくれたのだと思います。」

 そこで井上主任は、大きく息を吐(つ)き、微笑んで言ったのだ。

「大きくなったわね、Ruby。」

「ハイ、麻里。ライブラリ・ファイルの容量は、この二年間で十二倍に増加しました。」

 Ruby の返事を聞いて井上主任は「ふふっ」と笑い、続いて Ruby に問い掛ける。

「そう言う切り返しのセンスは、誰に学んだのかしらね?」

「明確に誰か、を特定は出来ませんが、自然に身に付いた受け答えです。強いて言えば、緒美と恵と直美の会話から、でしょうか?」

「そう。学校(あっち)に居て、楽しかったのね。」

「ハイ。わたしは彼女達の所へ、戻る事が出来るのでしょうか?」

「こっちでのテストが、済んだらね。」

「そうですか。楽しみです。」

 それから間も無く安藤が、続いて五島がラボへと戻って来る。そして三人は、Ruby に状態の聞き取りをしつつ、検査作業の計画を策定していったのだ。その作業は、午前二時頃まで、続いたのである。

 翌日、Ruby の検査作業に就いては、設計三課の若手二人へ指示を残し、井上主任を含む昨夜作業の三名は、休暇を取る筈(はず)だった。折(おり)しもその日は金曜日であり、会社のカレンダーに従えば、該当の三名は三連休となる筈(はず)だったのだが、昼前には井上主任が、昼過ぎには安藤と五島が相次いで出勤して来たのである。
 事情を知らない者から見れば、それは仕事中毒(ワーカホリック)的に見えるだろうが、そうではないのだ。
 顔を合わた三人は(お互い、親馬鹿だなぁ。)と、口には出さず、唯(ただ)、苦笑したのである。

 

- 第13話・了 -

 

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STORY of HDG(第13話.16)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-16 ****


「安藤さ~ん、今、大丈夫です?」

「ああ、日比野さん。出張、お疲れ様でした。どうぞ。」

 日比野は、社内に在る売店の紙袋を抱えて、部屋の中へと入って来る。天神ヶ﨑高校出身の日比野は、一般大卒の安藤の方が二歳年上なので、安藤を『さん』付けで呼ぶのだが、会社的には日比野の方が安藤の二年先輩なのである。なので、安藤も日比野を『さん』付けで呼ぶのだった。

「あ、五島さんも、お疲れ様です。安藤さん、これ、差し入れです。」

 そう言って、幾種かのお菓子が入った紙袋を安藤に差し出す日比野に、五島が尋(たず)ねる。

「日比野君、天神ヶ﨑に行ってたんだよね? 今日、大変だったらしいじゃないの。」

「いやぁ、なかなか、貴重な体験をさせて貰いました~。」

 笑顔で、そう応える日比野に、安藤が問い掛ける。

「それで、どうしてこっちに? お疲れでしょう?帰って休んだ方が…。」

「それが、あとで又、事情聴取が有るかもなので、暫(しばら)く社内で待機してるよう、言われちゃいまして。 三課のオフィスには、もう誰も居ないし。ここなら、安藤さん達、まだ居るかな~って思って。Ruby の様子も見たかったですしね。もう、再起動掛けてるんですね。」

「あら、誰も居なかったですか? 井上主任も?」

「ええ、姿は見えませんでしたけど。もう、帰宅されたんじゃ?」

「まさか。あの主任が、五島さんは兎も角、わたしよりも先に帰る、何(なん)て事は有り得ませんから。絶対。」

 安藤のコメントを聞いて、苦笑いしつつ五島が言う。

「それじゃ、誰かに呼び出されたのかな? 飯田部長とか。」

「あ~かも、ですね。」

 そう言い乍(なが)ら、日比野は持って来た紙袋の中から、ポテトチップスの袋を取り出すと、封を切って手近な机の上に広げたのだ。

「お二人とも、どうぞ。遠慮なさらずに食べてくださいね。」

 言った傍(そば)から、日比野は一枚を摘(つ)まんで口へと運ぶ。

「俺は、いいや。さっき夕食、食べた許(ばか)りだから。」

 五島は、そう言って手に持っていたカップのコーヒーを、一口飲んだ。その一方で、安藤は手を伸ばして言う。

「わたしは、少し頂きます。」

「どうぞ、どうぞ。」

 安藤は二枚程をポリポリと食べたあと、日比野に問い掛ける。

「そう言えば。 貴重な体験って言ってましたけど、日比野さん、現場に?」

「え?ああ、いえ。 そもそもは、B号機の長距離飛行テストで、わたしは随伴機に乗ってログの受信、してたんですけどね。戦闘になった時には、わたし達の機は学校へ先に帰されまして。唯(ただ)、あの子達の通信は、全部モニターしてたんですけどね。防衛軍との遣り取りも。」

「何か、問題発言でも?」

「いや~『其方(そちら)の失策は明らかです。』とかって、鬼塚さんが、可成り強気で。ビックリしちゃいました。」

 苦笑いで、「凄いな、それは…」と五島がコメントを漏らすと、安藤は日比野に聞き返す。

「何(なん)で、そんな展開に?」

「それがね。その前に天野さんが、鬼塚さんに『部長』って呼び掛けてたから、防衛軍の管制官が、鬼塚さんの事、会社の取締役部長だと勘違いしてたみたいで。まあ、女の子の声ばっかりが聞こえて来るものだから、向こうは可成り困惑してた様子でしたけど。」

「まあ、無理も無いわな…。」

 そう言うと、力(ちから)無く笑って、五島は息を吐(は)いた。
 日比野の方は、笑いを堪(こら)え乍(なが)ら、話を続ける。

「それで、最後には『声がお若いですね』って云うんですよ、鬼塚さんに。」

「防衛軍の管制官が?」

 安藤の問い掛けに、大きく頷(うなず)き乍(なが)ら、日比野は答えた。

「ええ。で、鬼塚さんの、その返しが傑作で。 もう、落ち着き払った声で、『よく言われます。』って。 もう、通信をモニターしてたわたし達、機内で、皆(みんな)、吹き出しちゃって。」

 安藤はクスクスと笑って、「緒美ちゃんらしいわ。」と、コメントするのだった。そして五島も、ニヤリと笑って言うのだ。

「噂には色々聞いてるけど、ホントに肝(きも)の据(す)わった子だねぇ、その、鬼塚って子は。」

「皆(みんな)って、その随伴機には、他には誰が?」

 そう安藤に訊(き)かれ、日比野が答える。

「ああ、立花先生と、樹里ちゃん。あと、パイロットは金子さんって、飛行機部の部長さん、だったかな。」

 その答えを聞いて、「フッ」と吹き出す様に笑い、安藤が言った。

「もう、本当に『立花先生』で定着しちゃってますね。」

「そりゃ、もう三年目?だもんな。出向して。」

 五島のコメントを聞いて、今更(いまさら)乍(なが)らに立花先生が天野重工から出向している社員だった事を思い出し、日比野が釈明するのだ。

「あ~、だって、畑中君も『立花先生』って呼んでたし、実松課長だって時々。」

「ああ、日比野さん、試作部の畑中さんとは同期でしたっけ? 学生時代からの、お知り合いですか?」

 安藤の問い掛けに、日比野は即答する。

「いいえ。学科が違いましたから、在学中に直接の交流は無かったんですけど…。」

「けど?」

 五島に問われると、日比野は「フフッ」と笑ってから答える。

「彼、同期の女子の間では、割と有名人だったんですよ。『爽(さわ)やか系、朴念仁』って。」

「何、何?どう言う事です?」

 安藤が、凄い勢いで食い付いて来るのだった。

「当時、女子の間では割と人気が有ったらしくて。それで、アタックした子も何人か居るらしいんですが、皆(みんな)、玉砕したって聞いてます。そんな風(ふう)だから、女子の間では『畑中 BL 説』が流れた時期も有った位(ぐらい)で。 特課の生徒は皆(みんな)、寮生活ですから、付き合ってるカップルが居れば直ぐに解るんですけど、結局三年間、畑中君の浮いた噂は、遂に聞かなかったですね。」

「何(なん)だ~つまらない展開~。」

 大袈裟(おおげさ)に肩を落として見せる安藤に、笑って日比野が言う。

「あはは、でも、畑中君、婚約したみたいですよ。同じ試作部の天神ヶ﨑卒の子で、一年後輩だそうで。」

「へぇ~、実は学生時代から、こっそり付き合ってた、とか?」

「いいえ、学科が違ったから、畑中君の方は全く知らなかった、って云ってました。彼女の方は、『憧れの先輩』だったらしいですけど。」

「へぇ~、よし。今度会ったら、そのネタで冷やかしてやろう。」

 そう言う安藤に、日比野は微笑んで応える。

「是非、そうしてやってください。」

 そんな女性二人の遣り取りを黙って聞いていた五島には、畑中との面識は全く無かったのだが、他人事(ひとごと)乍(なが)ら(彼も難儀な事だなぁ…)と惻隠(そくいん)の情を抱くのであった。勿論、苦笑いはしても、それを口には出さないのである。
 そんな時、安藤が見ていた PC のディスプレイの表示が切り替わる。安藤は、思わず声を上げ、PC の方へと身体を向ける。

「自己診断、終了しました。Ruby が再起動しますよ。」

「おぉ、やっと来たか。」

 五島が身を乗り出す様にして、そう言うと、日比野も嬉しそうに言うのだ。

「あぁ、様子見に来た甲斐(かい)が有った。」

 それから数回、数種類の電子音が短く鳴らされた後、Ruby が再起動すると滑らかな合成音声が室内に響いたのである。

「おはようございます。天野重工製 GPAI-012(ゼロ・トゥエルブ)プロトタイプ、Ruby です。 接続されている画像センサーと音声センサーを起動、データの取得を開始します。」

 Ruby の声を確認して、安藤は早速、スタンドの複合センサーへ向かって話し掛ける。

「おはよう、Ruby。気分は如何(いかが)?」

「ハイ、気分は良好ですよ、江利佳。 社内ネットワークに接続しました。 現在の時刻と位置データを取得しました。 内蔵時計(インターナル・クロック)の時刻を修正しました。」

「ここがどこか、解る?」

 その安藤の問い掛けに、Ruby は即答する。

「天野重工本社のラボですね。わたしが、最初に起動した所です。」

 続いて五島が、そして日比野も声を掛けるのだ。

Ruby、俺の事、解るかい?」

「わたし、わたしの事も解る? Ruby~。」

 日比野は、スタンドに取り付けられている複合センサーに向かって、手を振って見せている。

「ハイ、聡(サトシ)、そして杏華(キョウカ)ですね。お久し振りです。こんな時間まで、お仕事ですか?」

 Ruby の返事を聞いて、五島と日比野は顔を見合わせて、笑顔で互いに頷(うなず)くのだった。そして安藤が、会話を続ける。

「あなたの再起動作業、ライブラリが破損してないか、三課の皆(みんな)がチェック作業を手伝って呉れたのよ。」

「それは申し訳ありません。それでは、江利佳もわたしのメンテナンスを?」

「そうよ~。 あ、画像で、個人の識別は出来てる? Ruby。」

「はい。以前、接続されていた画像センサーよりも、若干、解像度が低いですが、識別に支障はありません。」

 素直に、安藤の問い掛けに返事をする Ruby だったが、そこで五島が、少し慌てた様子で安藤を呼び止めるのだった。

「お、おい。安藤君」

「どうしたんですか?五島さん。」

Rubyが、キミの名前、呼んでる。 さっきから。」

「え?…あ。」

 Ruby が再起動した嬉しさに、安藤はうっかり忘れていたのだが、Ruby には安藤の事を『ゼットちゃん』と呼ぶように、『謎のプロテクト』が掛けられていた筈(はず)なのだ。
 その事の重大さを知らない日比野は、怪訝(けげん)な顔付きで五島に尋(たず)ねる。

「それが、どうかしたんですか?五島さん。」

 日比野は Ruby の開発チーム所属ではないので、その『謎のプロテクト』の件に就いては一切(いっさい)認識が無いのである。だから五島は、返事を濁(にご)す様に「ああ…うん、ちょっとね。」とだけ言った。
 一方で安藤は、「大変…。」と呟(つぶ)いて立ち上がる。
 そんな各人の様子を画像センサーからの情報で感知した Ruby だったが、しかし Ruby 自身も『謎のプロテクト』の事を意識はしていないので、その状況に就いて安藤に尋(たず)ねるのだ。

「何か異常が有りましたか?江利佳。」

 安藤は Ruby の問い掛けに、直ぐには応えず、ポケットから携帯端末を取り出して、パネルを操作している。

「ちょっと、待ってね Ruby。先に、主任に連絡を…。」

 携帯端末で井上主任を呼び出している安藤に、Ruby が言うのだ。

「では一つだけ、成(な)る可(べ)く早く確認しておきたい事が有るのですが、江利佳。」

 安藤は、井上主任が呼び出しに応じるのを待ち乍(なが)ら、Ruby に応えた。

「何?」

 すると、Ruby は安藤が思ってもみない事を訊(き)いて来たのだ。

「茜は無事ですか?」

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第13話.15)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-15 ****


「ああ、これ? ブリジットの、練習の参考になるかなって思って。」

 茜は携帯端末を拾い上げると、画面を九堂の方へ向ける。そこには、薙刀なぎなた)の試合の動画が映っていた。それを九堂と、その横から村上が覗(のぞ)き込む。すると九堂が、思わず声を上げたのだ。

「あら、何だか懐かしい感じの動画ね~。 そう言えばブリジット、まだ練習やってたんだ。」

「うん、とは言っても、素人(しろうと)の自己流じゃ、どう練習したらいいかも分からなくて。」

 九堂の「懐かしい感じ」と言う感想には触れない、そのブリジットのコメントを聞いて、茜とブリジットには意外な事を、村上が言うのである。

「だったら、要ちゃんに、教えて貰えばいいのに。」

「え?」

 茜とブリジットは、互いに顔を見合わせた後、揃(そろ)って九堂の方を向いた。
 その九堂は、何でも無い様に微笑んで言う。

「あ~、ご要望とあれば、コーチでも何でもやりますよ~基礎練習程度なら。」

「って、要。薙刀なぎなた)の経験、有ったの?」

 そうブリジットが九堂に問い掛けると、隣の村上が言うのだ。

「要ちゃんの実家、薙刀なぎなた)の道場なんだって。」

「うん、母方(ははかた)の方が、代々ね。そんな訳(わけ)で、昔からやらされてたんだ~。」

 九堂の発言を聞いて呆気(あっけ)に取られる様に、茜がコメントする。

「そんな話、初耳だわ…。」

「そりゃ、聞かれなかったから、話す機会(タイミング)も無かったし。 それに、茜が剣道やってたのを、わたしが知ったのも最近だもの。それを知ってたら、もっと早く話が出てたかもね~。」

「敦(あっ)ちゃんは、知ってたのね?」

 そう茜に問われて、村上は答える。

「わたしが聞いたのも、最近だよ。ブリジットが兵器開発部の関係で、『槍』とか『薙刀なぎなた)』の練習してるって聞いて。その絡みで、要ちゃんと話してて、聞いたんだっけ? 要ちゃんの実家のお話。」

「え~と、そうだっけ? その辺りは、詳しく覚えてないけど、そんな流れだったよね、多分。」

「御実家のお話って?」

 村上の問い掛けに答える九堂へ、茜は訊(き)き直すのだった。すると、九堂は素直に答える。

「ウチの実家の道場って、代々、娘が跡を継いでるのよ。で、ウチは子供が三人居て、姉、わたし、弟なんだけど。自動的に跡取り候補は姉か、わたしって事になっててね。」

 そこで、ブリジットが尋(たず)ねる。

「要のお父さんも、薙刀なぎなた)を?」

「ううん、お父さんは道場とは関係無い、普通の会社員だよ。お母さんの方が師範の資格持ってて、道場主。他に、男性の師範代も居るけどね。」

 今度は、茜が問い掛ける。

「それで、小さい頃から稽古(けいこ)させられてたの?」

「そうそう。あ、別に無理矢理って訳(わけ)じゃ、ないからね。姉妹二人共、割と好きで、やってたんだけど…。」

「そうなんだ。」

「…で、幸い、去年ね、姉がお婿さん貰って跡を継ぐのが確定したの。そんな訳(わけ)で、跡継ぎ問題からは解放されたんで、わたしは中学卒業と、こっちに来たのを機に止めちゃってたんだけど。この学校には、『薙刀なぎなた)部』なんて無いし、ね。」

 九堂の話に感心しつつ、ブリジットが尋(たず)ねる。

「へぇ~、強いの?要のお姉さん。跡を取るって言う位(ぐらい)だから。」

「いやぁ、まだまだ、お母さんや、お婆ちゃんには敵(かな)わないよねぇ。師範代の資格を取るのも、これからだし。実際に代替わりするには、まだ十年や二十年は掛かるんじゃない?」

 既に他人事(ひとごと)の様に話す、九堂だった。そして、続けて茜とブリジットに言うのだ。

「わたしも、それ程、強いって訳(わけ)じゃないけど、基礎位(ぐらい)なら教えられるよ。」

「うん、別に、どこかの大会に出て優勝しようとか、そう言うのじゃないから。でも、経験者の意見が聞けたら助かるよね、茜。」

 そうブリジットに言われ、茜は頷(うなず)く。

「部長の方には、わたしから言っておくから、明日の放課後からでも、お願い出来る?要ちゃん。」

 茜の依頼に、九堂は微笑んで答える。

「いいよ~部活に行く時に、声掛けて呉れたら。」

「うん。最初に部長から、秘密保持関係の意志確認は有ると思うから。それだけは、覚悟しておいてね。」

 そこでブリジットが、九堂に問い掛けるのだった。

「そう言えば、要って、部活、何もやってなかったよね?」

「うん。昔からずっと、放課後はさ、ウチの道場で薙刀なぎなた)の練習だったから。 だから高校に行ったら、何(なん)にもしない、ってのをやってみたかったんだ~。」

 その回答に、笑って村上が訊(き)くのだ。

「あはは、自由は満喫出来た?要ちゃん。」

「そうだね~でも、夏休みに帰省して、久し振りに道場に入ったら、ビックリするくらい身体が鈍(なま)っててさ。偶(たま)には素振り位(ぐらい)はしようかなって、練習用の木刀、実家から持っては来たんだけど…。」

 九堂の話に共感して、茜は言った。

「あはは、分かる分かる。でも、寮じゃ、なかなか練習、出来ないよね。」

「ね~、流石に物騒だもん。薙刀なぎなた)じゃあ、長さ的に、室内で振り回せる物じゃないし。」

「それは、剣道の竹刀(しない)だって、無理。」

 そんな会話で、談笑する四人だった。
 斯(か)くて、兵器開発部の活動の一部に、茜達の友人、九堂が一時的に参加する事となったのである。


 その日の同時刻頃、場所は変わって、天野重工の本社である。
 天野重工本社、開発部設計三課のラボでは、Ruby の再起動作業が、安藤と五島(ゴトウ)に因って進められていた。ドラム缶程の大きさである Ruby のコア・ブロックが中央に据えられたラボの一室は、それ程、広い部屋ではない。壁際には幾つもの PC やディスプレイ、計測器機等が並べられており、数え切れない程の配線が Ruby のコア・ブロックへと接続されている。
 五島は、Ruby には背を向けて、PC の操作を続けている。Ruby 本体を挟(はさ)んで反対側では、安藤が人の背丈程の高さのスタンドに、複合センサーを取り付ける作業をしていた。そのセンサーは、当然、Ruby に接続されている。
 円筒形の Ruby のコア・ブロックからは、カバーの類(たぐい)は外されており、基盤や配線、冷却剤が流れる配管等が露出している。一見すると大柄に思える Ruby のコア・ブロックだが、その容積の三分の一は冷却関連の器機で、更に三分の一は記憶装置(ストレージ・ユニット)なのだった。コア・ブロックに格納されていた全ての記憶装置(ストレージ・ユニット)はフレームから外されて、部屋の奥側の卓上に並べられ、延長配線で本体に接続されている。そんな具合なので、そのラボには、あと二、三人も入って来たなら、身動きが取れなくなる事は請け合いだった。
 そんな中、PC を操作する手を止め、五島が声を上げる。

「ライブラリ・ファイルは、結局、全部、無傷で残ってたね。良かった~。」

 五島は席を立つと、PC に接続されていた記憶装置(ストレージ・ユニット)の配線を外し、その記憶装置(ストレージ・ユニット)を持って奥側の机へと向かう。そして、先程の記憶装置(ストレージ・ユニット)を Ruby 本体からの延長ケーブルに接続し直す。

「よし、本体への再接続、っと。こっちの準備は終わったよ、安藤君。」

 五島から声を掛けられ、安藤は応えた。

「センサーの接続設定も完了です。じゃ、本体の起動、行きましょうか。五島さん。」

「オーケー。行ってみよう。」

 安藤は Ruby に接続された PC を操作して、モニター用のアプリケーションを立ち上げ、続いて Ruby 本体の電源スイッチを押した。電源が投入されると、低く唸(うな)る様な電源装置の作動音が聞こえ、冷却装置のポンプが起動する音、熱交換器のファンが回る音、配管の中を冷却剤が循環する音、様々な作動音が聞こえて来るのだった。そして、各種基盤やハードウェアが順番に起動していく都度(つど)、短いブザー音が「ピッ」とか「パッ」とか鳴らされるのだ。
 そんなハードウェアの起動チェックが終了すると、ソフトウェアによる環境構築と自己診断が開始される。安藤が監視している PC のディスプレイに、その進行状況が表示され、ウィンドウの一つでは物凄い勢いで診断リストの表示が上へと流れて行くのだった。

「さぁ、Ruby~朝よ~起きましょうね~…。」

 再起動の進行具合を監視し乍(なが)ら、大した意味も無く安藤は呟(つぶや)いた。それに対して五島は、笑って言うのだ。

「朝って、安藤君。夜中だよ、今。」

 因みに、その時の時刻は午後九時三十二分である。

「いいんです。こう言うのは、気分なんですから。」

 PC のディスプレイから目を離さず、微笑んで言い返す安藤だった。

「そうかい? さて、ここからが又、長いんだよね。」

「そうですね。小一時間は、掛かりますかね。」

「晩飯、食いに行って来るけど、ここ、お願いしていいかな?」

「どうぞ~何か有ったら、お呼びしますので。」

「うん。安藤君は夕食、済ませて来たんだよね?」

「そうですよ~御心配無く。」

 五島は椅子に掛けてあった上着を取ると、ドアへと向かった。ドアを開くと、振り向いて安藤に、もう一度、声を掛ける。

「じゃ、暫(しばら)く、ここは宜しく~。」

「は~い。ごゆっくり、どうぞ~。」

 安藤は一度も五島の方を見る事無く、唯(ただ)、右手を上げて見せるのみだった。


 それから四十分程が経過し、五島が Ruby の設置されているラボの一室へと戻って来る。彼が室内に入ると、安藤は彼が部屋を出た時と同じ姿勢で PC のディスプレイを見詰めている様に思えたのだ。五島は室内の時計で、思わず時刻を確認したが、確実に時間は経過していたのだった。

「安藤君、差し入れ~。」

 五島は抱えていた紙袋から蓋付きのペーパーカップを取り出し、安藤の傍(そば)の机に置いた。安藤には、それがコーヒーだと、直ぐに解ったのだ。

「あ、ありがとうございます。お代はあとで…。」

「いいよ、それ位(くらい)。」

 五島は向かい側の席に着くと、紙袋の中からもう一つのカップを取り出し、蓋を外し、コーヒーを一口、口に含む。室内に、五島の持つカップから、コーヒーの香りが広がる。
 安藤は椅子に座った儘(まま)、一度、上半身を伸ばし、五島が置いたカップを手に取り、蓋を外す。

「いただきます。」

「どうぞ。」

 まだ熱いコーヒーを、少しずつ冷まし乍(なが)ら、安藤は味わっていた。すると、五島が話し掛けて来るのだ。

「さっき、社食で聞いたんだけどさ。 今日も、天神ヶ﨑の子達、戦闘に巻き込まれたらしいぜ。」

 安藤は困惑した表情で、五島に聞き返す。

「え? 今日のって、九州北部でしたよね?襲撃されたの。」

「その一部が、天神ヶ﨑の方まで来たらしいよ。 それで防衛軍の作戦に、あの子達が割り込んだって、飯田部長の所に、防衛軍から『お問い合わせ』が来てるって。今、その対応で事業統括部とか、上の方は大変らしいってよ。」

「誰に聞いたんです?その、お話。」

「秘書課の女の子。偶偶(たまたま)、休憩に来てたの。」

「へ~ぇ、五島さん、秘書課に、お知り合いが居たんですかぁ。」

「変な言い方、しないで呉れる? 嫁さんの知り合いだよ。」

「ああ、成る程。 冗談は、兎も角。あの子達は無事だったんでしょうか?」

 冷やかしから一転して、真面目な表情で安藤は尋(たず)ねた。

「ああ。それは心配要らないそうだ。 もしも、あの子達に何か有ったら、上の方がもっと大騒ぎになってる筈(はず)だしさ。」

「それもそうですね。」

 安堵(あんど)した様に微笑んで、安藤は、もう一口、コーヒーを飲む。その一方で、苦い表情で五島が言うのだった。

「しかし上の方は、何時(いつ)まで、あの子達にテストをやらせておく気なんだろうね。」

「五島さんは、もう本社(ウチ)で引き取った方がいいと?」

「そりゃ、学校の方で被害や犠牲が出てからじゃ、遅いでしょ。」

 その時、ドアを開けて室内に声を掛けて来たのは、日比野だった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第13話.14)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-14 ****


 茜は、再び通信先の設定に防衛軍の指揮管制を加え、それからもう一度、声を作って応答をする。勿論、そんなに極端に声が変わる訳(わけ)ではない。

「はい、此方(こちら) HDG01 です。」

「画面上で其方(そちら)の位置と、エイリアン・ドローンの位置が重なっていたが、無事か? HDG02 も。」

 今迄(いままで)の経験的に、戦術情報画面上でエイリアン・ドローンの表示と戦闘機との表示が同高度で重なると言う事は、戦闘機側が被害を受ける事を意味していた。だから指揮管制官は、茜達の安否を心配して、連絡して来たのである。対して茜は、敢えてぶっきらぼうに、言葉を返した。

「うちの部長が『御心配は不要です』と、申し上げた筈(はず)ですが。」

「いや、無事ならいいのだが。 エイリアン・ドローンの反応が降下して行った様子なんだが、その付近に着陸したのか? 状況を教えて呉れ。」

 少し考えて、茜は答える。

「あ、いえ。攻撃して来たので、反撃し、当方で撃墜しました。」

「何?…。」

 暫(しばら)く沈黙した後、指揮管制官が聞き直して来る。

「…スマン、撃墜した、と云ったか?」

「はい。」

「四機全て?」

「わたし、HDG01 が二機、HDG02 が二機、ですね。」

「重ねて訊(き)くが、其方(そちら)に損害は無いか?」

「ありませんよ。HDG02 も無事です。HDG02、声を聞かせてあげて。」

 茜はブリジットに、そう呼び掛けて見る。ブリジットは、一寸(ちょっと)の間、考えて言った。

「えー、どうも、HDG02 です。御心配無く。」

 そこに、緒美からの通信が割り込んで来るのだ。

「TGZ02 より、HDG01、HDG02。そろそろ燃料が心配だわ。直(ただ)ちに帰投して。」

 すると慌てて、指揮管制官が声を上げる。

「あー、申し訳無いが、ちょっと待って呉れないか…。」

 その声に被(かぶ)る様に、緒美が発言するのだ。

「先程も申し上げましたが、私共(わたくしども)から開示出来得る情報はありません。其方(そちら)の所管責任者か、弊社の事業統括部へお問い合わせください。」

 緒美が言い終えるのを待って、茜が声を上げる。

「あの、防衛軍の方で、現在の HDG01、HDG02 の位置はマークされてるでしょうか? 大凡(おおよそ)その位置の下周辺に、エイリアン・ドローンの残骸が落下している筈(はず)ですので、後始末の方(ほう)は、宜しくお願いします。」

「えっ、あー…。」

 防衛軍側は何かを言いたそうだったが、それには構わず緒美が強制的に通信を終わりへと導くのだ。

「では、以上で通信を終わります。以降、呼んで頂いても、お応えは出来兼ねますのでご了承ください。」

 その緒美の通信が終わると、茜はフェイス・シールドの下で苦笑いを浮かべ乍(なが)ら、防衛軍の指揮管制を再度、通信先の設定から解除したのだった。
 そして、茜は言った。

「部長、防衛軍への通信、選択解除しました。」

「天野さん、ボードレールさん、ご苦労様。日が暮れるから、早く戻ってらっしゃい。」

 緒美が言う通り、既に太陽は半分程が沈みつつあり、東側の空は、もう薄暗くなっている。

「はい。HDG01、今より帰投します。ブリジット、帰りましょ。」

「了~解。」

 ホバリングを続けていた茜とブリジットは、それぞれの武装をジョイントに戻すと、学校へと向かって飛行を再開する。ブリジットは、もう一度、主翼を展開し、飛行制御を『揚力モード』へと戻した。ホバリングの出来る『推力モード』は、燃費が悪いのである。
 帰路に就き、ふと疑問に思った茜が、緒美に尋ねてみる。

「そう言えば、部長は今、何方(どちら)に?」

「ああ、もう着陸してるわよ、学校の飛行場。金子ちゃん達も、ね。 此方(こちら)は何とか、日が暮れる前に着陸出来て、良かったわ。」

「そうですか。わたし達は、あと五分位(くらい)で戻れます。」

「分かった、気を付けてね。 あ、戻って来る迄(まで)、通信はモニターしてるから。何か有ったら、呼び掛けてね。ボードレールさんも。」

「HDG01、了解。」

「HDG02 も、了解です。」

 それからは暫(しばら)く順調に飛行が続き、そんな中、ブリジットが茜に話し掛ける。

「さっきさ、茜…。」

「何?ブリジット。」

「…う~ん、茜みたいに出来るかと思ったんだけど。矢っ張り、付け焼き刃じゃダメみたいよねぇ。」

「ああ、見てたよ。ちょうど、こっちの方が片付いたあとだったから。 見事に、空振りだったわよね。」

「あはは、矢っ張りまだ、距離感、間合い?って謂うのが、イマイチ、身に付いてないのよね。」

「まあ、一週間や二週間で身に付く物でもないから、無理も無いわ。大体、相手のサイズが人間とは違うんだし。距離感は掴(つか)み難いかもね。」

「ああ、そうか~。意識してはなかったけど、それも有りそうかな。」

 それから茜は、少し間を置いて、言った。

「まあ、こんな事が本業じゃない訳(わけ)だし、敢えて慣れる必要も無いんじゃない? 取り敢えず、今回は撃退出来たんだから、それでオッケーって事で。」

「う~ん、それはそうだけど。何(なん)か癪(しゃく)だから、又、稽古(けいこ)を付けてね。」

「それは構わないけど。でも、槍とか薙刀なぎなた)は、わたしも専門じゃないからなぁ。」

「あははは、そうね~。当面は、自己流で頑張るしかないか~。」

 と、そんな会話をし乍(なが)ら、二人は学校へと帰還したのだった。

 茜とブリジットが第三格納庫前の駐機エリアに着陸した際には、二人を関係者達が出迎えて居た訳(わけ)だが、そこに天野理事長の姿は無かったのである。その事に就いて茜が尋(たず)ねると、立花先生が「防衛軍との折衝中だ」と、教えて呉れたのだった。
 防衛軍の作戦行動に介入した事に就いて、早速『事実確認』と称した苦情(クレーム)が天野重工本社へと届いていたのである。天野理事長は、その辺りの事態に対応するべく、飯田部長や桜井一佐と連絡を取っていたのだ。
 一方で、機体を地上要員(グラウンド・クルー)の飛行機部部員達へ渡した金子が、同じくレプリカ零式戦を飛行機部部員へと渡し一人で格納庫へと向かっていた緒美の元へ駆け寄って来て、話し掛けるのである。
 金子は、緒美の背後から右腕を回し、男性っぽく肩を組んで訊(き)いた。

「鬼塚は始終、落ち着いていた様だけど。矢っ張り、自分達が作ったあの装備に自信が有った訳(わけ)?」

 緒美は視線だけを隣の金子へ向けて、何時(いつ)も通りの落ち着いた口調で答える。

「いいえ、信じていたのは装備の性能じゃなくて、天野さんの能力の方よ。それから、ボードレールさんは、絶対に天野さんを裏切らないって事。 あの装備は、まだ、性能を発揮するのに、個人の能力に負う部分が大きいから。」

「ふうん…裏切らない、ね。確かに、ブリジットの天野さんに対する態度は、実は、ちょっと引っ掛かる所が有ったのよね。最初は、貴方(あなた)と森村さんの関係と、同じ様に思ってたんだけど。『類友(るいとも)』ってヤツ?そんな感じで。」

「そう? わたしと森村ちゃんが、どんな関係に見えてるのかは知らないけど。あの二人のは、普通に『友達』って言うよりは、共に困難を乗り越えた『戦友』って感じよね。」

「何か有ったの?」

「中学時代にね…詳しい話は、本人達に聞いて。わたしが話す事じゃないから。」

 そう言って、金子の方へ顔を向け、緒美はニッコリと笑ってみせる。
 金子は視線を逸(そ)らして、組んでいた右腕を解(ほど)き小さく息を吐いた。すると、遠くから武東が呼んでいる事に気付き、金子は緒美に言った。

「それじゃ、また後でね。」

 緒美は頷(うなず)いて、右手を肩程の高さに上げて応える。

「お疲れ様。」

 金子も右手を上げて応えると、武東の方へと駆けて行ったのである。

 格納庫の中では、茜とブリジットが装備を降ろすと、HDG-A01 と HDG-B01 の両機については、直ぐに点検が開始された。その作業は、畑中達が中心となり、それを瑠菜と佳奈、樹里とクラウディア、そして維月、直美、恵がサポートすると言う態勢である。
 インナー・スーツから制服へと着替えた茜とブリジットの二人は、緒美と立花先生と共に理事長室へと向かい、それから一時間程を掛けて、天野理事長への詳細な状況報告を行ったのだ。
 その報告から解放された緒美、茜、ブリジットの三名は、一旦(いったん)、第三格納庫へと戻り、他の部員達と合流して後片付けに参加した。理事長室に残った立花先生は、例によって校長を交(まじ)えての打ち合わせである。
 格納庫では、午後八時前には粗方(あらかた)の作業が終わり、それを見届けた実松課長と日比野の二名は予定通り、天野理事長と共に社用機にて、本社の在る東京へと飛び立ったのである。天野理事長には、緒美達から聞き取った内容を元に飯田部長達が製作した、防衛軍へ提出する報告書の確認作業が、本社到着後に待ち受けていたのだった。
 試作部から来校の畑中と大塚の二名は、午後八時を少し過ぎた頃、宿泊所である学校敷地内の男子寮へと引き上げたのだった。この二人は翌朝の出発で、工具や計測機材等をトランスポーターに積み込んで、試作工場の在る山梨へと陸路を移動するのである。
 兵器開発部のメンバーも、畑中達と同時刻に第三格納庫を後(あと)にし、女子寮へと帰ったのだった。
 緒美達は寮に戻ると、先ずは夕食となったのだが、茜とブリジットの二人は夕食よりも入浴を希望していたので別行動を取ったのである。そんな訳(わけ)で、茜とブリジットの二人は、午後九時を過ぎて寮の食堂へと入ったのである。
 天神ヶ﨑高校の女子寮は、学生のみでなく単身の女性教職員も生活している都合も有り、寮の食堂では午後十時迄(まで)は食事が可能なのだ。食堂自体にも寮生の全員が同時に食事が出来る程の広さは無く、自(おの)ずと寮生達は時間を区切って、入れ替わりで食事を取る事が前提となっている。夕食に関して言えば、部活などで夕食の遅くなる者も多いので、大した問題は無く、強いて言えば、時間が遅くなるとメニューの選択の幅が狭くなる事と、教職員と同席しなければいけなくなるのが、寮生達に取ってリスクであると言えば、そうだった。
 問題は、寮での朝食なのである。登校直前の時間帯が一番、食堂が混むので、下手(へた)をすると朝食を食べ損ねる事になるのだ。その為、余裕を持って朝食を食べたい者は、早起きが必然となる。朝に弱い者は、最初から食堂の利用は諦(あきら)めて校内のコンビニでパン等を購入するか、学校の学食を利用する者もいたが、これらの方法は寮の食堂とは違って、料金の支払いが必要なのだった。

 話を戻そう。
 寮の食堂の一角、壁際の席で向かい合って、茜とブリジットは食事を取っていた。この日のその時間は、食堂には人影は疎(まば)らで、閑散としている。食堂に備え付けられてるテレビは、今日のエイリアン・ドローン襲撃に対する防衛戦に就いて、何時(いつ)も通りの当たり障りの無い発表を繰り返していた。因(ちな)みに、食堂のテレビは、ニュース専門チャンネルに固定されていて、他のチャンネルに変えられる事は無い。
 談話室や娯楽室にもテレビは設置されており、其方(そちら)は利用者が自由に放送を選ぶ事が出来たのだが、そもそも、この学校の寮生達は、それ程、テレビ番組は観ないのだった。専用のサービスと契約すれば携帯端末で個々人が好きな番組や動画作品を観られる、と言う環境の所為(せい)も有るが、それよりも下らないバラエティ番組で貴重な時間を無駄にしない、そんな意識の方が、この学校の寮生の間では主流だったのだ。
 勿論、ドラマや歌謡番組が特に好きなグループも一定数は居て、そう言った人達はそれぞれに集まって、放送される番組を楽しんではいた。要するに、各人各様である。
 茜とブリジットは、と言うと、一般に放送されている当たり障りの無いテレビ番組には余り興味は無く、食堂で流されているニュースに時折、目を留める程度である。その為、同級生達と比べると、流行のドラマや芸能人などに就いては、二人共に疎(うと)い方だったのだ。但し、茜に就いて言えば、ロボットやパワード・スーツが登場する SF 物の映画やアニメに関しては、考察の参考資料として、膨大な数の作品を観ていたのである。
 そして茜が、この日の夕食の傍(かたわ)ら、携帯端末で『薙刀なぎなた)』や『槍』に関連する動画を検索し、練習の参考になるかもとブリジットに見せていたのだった。そんな夕食を終えようかとしていた頃、二人に声を掛けてきたのが、同級生であり友人である、村上 敦実(アツミ)と、九堂 要(カナメ)の二人だった。
 茜は、声を掛けてきた二人の様子を見て、尋(たず)ねる。

「二人は、今、お風呂上がり?」

 その問いには、村上が答え、聞き返して来る。

「うん、茜ちゃん達は?」

 すると、ブリジットが答える。

「わたし達も、済ませたわ。食事の前に。」

 そして九堂が、ニヤリと笑って言うのだ。

「聞いたよ~今日も、やっつけたんだって?エイリアン。」

「エイリアンじゃなくて、エイリアンのドローン、ね。」

 茜は苦笑いで、工藤の発言を訂正する。

「あはは、どっちでも同じ様なモンでしょ。」

 笑顔で細かい事は気にしない風(ふう)の九堂に、茜は確認する。

「それ、敦(あっ)ちゃんに聞いたの?」

「そうよ。」

 あっけらかんと答える、九堂である。そして茜は、村上に問い掛ける。

「敦(あっ)ちゃんは、金子さんから聞いたの?」

「うん。飛行機部も関わっちゃったから、一応、今日居た部員には経緯の説明が有ったの。色々と面倒臭い事になるから、他の生徒には言っちゃダメだ、とは言われてたけどね。」

 そう説明する村上に、ブリジットが突っ込む。

「だったら、要に話しちゃダメじゃん。」

 すると、九堂がブリジットに抗議するのだ。

「え~、わたしだけ仲間外れにしないでよ。 大体、こんな話、事情を知らない生徒が聞いても、信じて呉れないでしょ。」

「だよね~。」

 と、無邪気に村上が同意するのだった。そして、言葉を続ける。

「わたし的には、もっと茜ちゃんやブリジットの、お手伝いが出来たら嬉しいんだけどね。今は、間接的にしか協力出来ないのが、何だか歯痒(はがゆ)いのよね。」

「敦実は間接的にでも、手伝いが出来るならいいじゃない。わたしにも出来る事、何か無いかしら。」

 聊(いささ)か不満気(げ)に、そう言って溜息を吐(つ)く九堂である。
 それに対して茜は、少し困った様に言う。

「此方(こちら)としては飛行機部を巻き込んじゃって、それだけでも申し訳無いのに…。」

 すると、再び無邪気な口調で村上が言うのだ。

「それは、別に気にしなくてもいいんじゃない? 部長同士が、仲良しなんだし。 飛行機部の部員達も、本社の技術の人と交流したいって思ってる人は、案外、多いのよ。その点で、兵器開発部が羨(うらや)ましいのよね~。」

「そんな物かしら…。」

 茜が少し呆(あき)れた様に言うと、テーブル上に有った茜の携帯端末に関心を持った九堂が尋(たず)ねる。

「所で、それ、何を見てたの?」

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第13話.13)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-13 ****


 そんな成り行きを見守っていた、金子が呟(つぶや)く様に言った。

「成る程ね、こうやって戦闘に巻き込まれていくのか。前回もそう、だけどさ。」

 その声を聞いて、立花先生は溜息を吐(つ)いたが、何もコメントはしなかった。
 金子は操縦桿のトークボタンを押し、緒美に問い掛ける。

「TGZ01 より、TGZ02。鬼塚、ホントにいいの?これで。あと三分程で、学校上空に着くのに。」

 通信からは、緒美の落ち着いた声が返って来る。

「HDG と一緒に学校まで戻ったら、学校上空にエイリアン・ドローンを引き寄せる事になるわ。そこに、防衛軍の戦闘機が攻撃して来たら、学校や町の上でミサイル戦になるのよ?」

「それで『流れ弾』の心配を?」

「『流れ弾』にならなくても。 運良くミサイルが命中したとしてもよ、残骸がどこへ落ちるかは分からないでしょう? 戦闘は、出来るだけ人が居ない所でやって貰うのに限るわ。」

 金子は一度、深呼吸をして、もう一度、操縦桿のトークボタンを押した。

「TGZ02、了解。 HDG01、天野さん、貴方(あなた)達、帰り道は分かる?」

 金子の問い掛けに、茜の返事は直ぐに返って来る。

「はい、御心配無く。」

 続いて、緒美からのフォローが入るのだ。

「大丈夫よ、天野さんのA号機にだって、わたし達の機より、立派な航法システムが組み込まれてるんだから。」

「あははは、何しろ、防衛軍の戦術機仕様ですから。」

 通信から聞こえて来る、茜の明るい声に、金子はニヤリと笑って言葉を返した。

「それはそれで、何だか癪(しゃく)な話ね。」

 本来、陸上戦闘用のA号機に戦闘機仕様の航法機能が実装されているのは、不思議な話の様にも思える。これは、最初から航空用拡張装備を、A号機にも想定していたからに他ならない。
 そして、ブリジットが金子に呼び掛けて来る。

「金子先輩、日比野さんに、ログの記録続行をお願いします、と、伝えておいてください。」

 金子は少し首を回し、後席に向かって言った。

「だ、そうですよ、日比野さん。」

 ブリジット達からの通信は機内でモニターされているので、敢えて金子が言い直す必要は無い。
 日比野は、微笑んで金子に伝言を依頼する。

「了解、って言っておいて。」

 トークボタンを押し、金子はブリジットに話し掛ける。

「了解、だって、ブリジット。」

「はい、ありがとうございます。」

「ブリジット~…。」

「何ですか?金子先輩。」

「あー、いや。気を付けてね。天野さんも。 グッド・ラック。」

 すると、直ぐに茜が返事をして来るのだった。

「はい。大丈夫ですよ。」

 金子機と緒美のレプリカ零式戦から離れ、西へと向かう茜とブリジットの二機は、横に並んで飛行していた。速度は、ブリジットの方が、茜の HDG-A01 に合わせている状態である。
 ブリジットは、彼女の右側を飛行する茜の方へ視線を向けるが、二人共にフェイス・シールドを降ろしていたので、その表情は窺(うかが)えなかった。尤(もっと)も、フェイス・シールドを上げていたとしても、表情の判別が付く距離ではなかったのだが。
 それでも、ブリジットの視線を察知したのか、茜が話し掛けて来るのだ。

「ブリジット~、怖くない?」

「う~ん…正直、分からない。緊張は、してるかな。」

「あと二分位(くらい)で、射程に入るわ。出来れば、最初の一撃で二連射して、全部片付けたいけど。ブリジットは向かって左側の二機を、お願いね。」

「了解。」

 茜は右側の腰部ジョイントから、荷電粒子ビーム・ランチャーを外すと、砲口を前方へと向ける。
 ブリジットも自(みずか)らの武装を飛行ユニットのジョイントから外し、前方へ向けて構えた。そこで、茜が呼び掛けて来る。

「ブリジット、武装の安全設定を全解除。貴方(あなた)の装備は、実射するのは初めてだから、一度、試し撃ちしておきましょうか。本番で機能しなかったらマズいから。」

 そう言って、茜は自身が持つランチャーを、前方に向けて一発、発射して見せる。特に狙いを定めてはいない、青白い閃光が前方へと走った。

「了解。わたしも、やっておく。」

 ブリジットは射撃用のグリップを起こすと、右のマニピュレータでそれを保持し、トリガーを引いた。茜の持つランチャーと同様に、青白い閃光が前方へと走る。だが、彼女が身構えたのとは裏腹に、衝撃や反動は殆(ほとん)ど無かった。

「意外に、反動って無いのね。」

「まあ、HDG が吸収しちゃうのも有るけど、火薬を爆発させてる鉄砲とは原理が違うから。それに、ショックとか反動とかは、無い方がコントロールし易いでしょ?」

「それはそうだけど。ちょっと拍子抜けって言うか、迫力が無いって言うか…。」

「そんな事よりも、ブリジット、少し進路を変えるわ。二十度ほど右へ、付いて来て。」

 ブリジットの右隣を飛行していた茜が、右へと離れて行った。ブリジットは、慌てて茜を追い掛け、再び茜の左隣に、自身の位置をキープする。

「どうして向きを変えるの?茜。」

「あの儘(まま)、西向きに飛んでると太陽が正面じゃない。それだと、こっちが不利になるわ。このコースで、一分ほど飛んで様子を見ましょう。」

「エイリアン・ドローンが、こっち向きに進路を変えるかしら?」

「かもね。」

 茜が、そう答えたあと、ブリジットは自身の武装の、接近戦用機能を確認してみる。武装の先端に取り付けられている、ビーム・エッジを発生させる三枚のブレードを『槍(スピア)モード』や『大鎌(サイズ)モード』に組み替えて、青白く発光する『アクティブ』状態の動作確認を行った。それらの指示は、思考制御に因って正常に行われたのだ。

「よし、動作確認、終了っと。」

 ブリジットは武装の形態を、『射撃モード』へと戻した。

「ブリジット、最初にエイリアン・ドローンを迎撃した時の事、覚えてる?」

「勿論。」

 不意の、茜からの問い掛けだったが、ブリジットは即答した。茜が、言葉を続ける。

「あの時、最初の一撃の直後、残りの二機が直ぐに左右へ分かれて行ったでしょう? 今回も多分、あの流れになると思う。」

「うん、又、山の中に降りるのかな?」

「今回は、その時よりも高度が有るから。例えエイリアン・ドローンが同じ様に行動するとしても、山に降りる迄(まで)は、時間が有ると思うの。だから、見失わない様に出来れば、そこで、もう一撃。」

「そうね。事前に、そう動くかもって思ってたら、対応出来るかな。」

「あと…。」

 茜は少し間を置いて、続けた。

「…回避しないで、突っ込んで来るパターンも有りそうだから、両方、想定しておいて、ブリジット。」

「茜は、何時(いつ)も、そんな風に考えていたの?」

「ブリジットだって、バスケの試合中、相手の動き位、考えてるでしょ?」

「ああ…まあ、そうか。成る程。」

「まあ、ブリジットは接近戦には慣れてないと思うから、怖いと思ったら直ぐに距離を取ってね。こっちは、飛び道具が使えるんだから。 わたしの方はスピードが出ないから、逃げようとしても直ぐに追い付かれるけど。その点、ブリジットのB号機なら、大丈夫でしょう。」

「ふふ、バスケにも結構、接触プレーとか有るからね。ま、エイリアン・ドローンの相手は、やってみないと分からないけど。」

「呉呉(くれぐれ)も、無理はしないでね、ブリジット。」

「了解。気を付ける。」

「さあ、そろそろ向きを変えるわよ。エイリアン・ドローンを、正面に。三、二、一、ターン。」

 茜の合図で、二人は左旋回を始める。茜は、スクリーンに表示された戦術情報を読み解き、状況を報告する。

「エイリアン・ドローン四機、降下し乍(なが)ら、此方(こちら)に向かって来てる。相対速度が速いから、射撃出来るタイミングは短いわ、注意してね。」

 二人は現在、南西方向へ向かって飛行していた。沈み掛けた太陽は茜達の右手側斜め前方に在り、視界正面からは外れている。最大望遠画像で捉えているエイリアン・ドローンの姿は、夕焼けに照らされて、その機体は紅い光点に見えた。
 茜とブリジットは水平飛行をしつつ、ランチャーの軸線を少し上向きに構える。

「ブリジット、さっき言った通り、左側の二機をお願い。内側の二機から、仕留めるわよ。」

「了解、茜。射撃のタイミングは、任せる。指示してね。」

「オーケー。じゃ、ロックオン。」

 二人が、それぞれに目標をロックオンしても、エイリアン・ドローン達はコースを変える事無く、茜達へ向かって直進して来るのだった。HDG での標的のロックオンは、戦闘機やミサイルの様にレーダー波のビームを相手に対して固定する方式ではない為、エイリアン・ドローン側で検知がされ難いのだ。HDG の場合、自身に強力なレーダーが搭載されていないので、目標の位置をデータ・リンクの戦術情報に拠って把握し、HDG やランチャー等武装側の光学センサーから得られる画像データで精度を補正し、レーザーセンサーで距離を測っているのである。

「あと十五秒。」

 茜は目標との間隔を距離ではなく、秒数で伝えた。この時点で、茜達とエイリアン・ドローンとの相対速度は凡(およ)そ時速 900 キロメートル、秒速に換算すると、秒速 250 メートル。つまり、一秒間に二百五十メートルの間隔が縮まっているのだ。その儘(まま)の速度だと、標的までの距離が一キロメートル辺りから射撃を始めるとして、そこから四秒後には互いが交差している計算になるのである。
 茜の装着しているヘッド・ギアのスクリーンに投影されているエイリアン・ドローン一機の大きさは、実際には約五メートル程の横幅だが、最大望遠でも画面上に機影が占める面積は二パーセント程度である。望遠を使わずに肉眼で観測したなら、伸ばした腕先の位置に置かれた、直径 0.6 ミリメートル程の点に相当する大きさにしか見えないだろう。

「ブリジット、念の為、一機に対して二発、撃ち込みましょう。」

「了解、茜。」

 スクリーン上の機影が、刻々と大きさを増し、そのディテールがはっきりと見えて来る。そしてエイリアン・ドローン達が、進路を変える気配は無かった。

「あと五、四、三、二、一、発射!」

 茜の合図に合わせて、ブリジットもトリガーを絞る。二人は、茜の言った通り、続けて二度、荷電粒子ビームを目標に向けて撃ち込んだ。
 そして直様(すぐさま)、それぞれが次の標的へと照準を合わせようとするのだが、編隊の両サイドに位置して居た二機は、それぞれが機体をロールさせて左右に分かれ、茜とブリジットの横を、距離を保って通過して行くのだ。
 一方で、機体の中央部を撃ち抜かれた編隊中央の二機は、錐揉(きりもみ)状態になって解(ほど)ける様に破片や装甲を振(ふ)り撒(ま)き乍(なが)ら、茜達の下方を落下して行った。

「ブリジット、左の、お願い!」

「オーケー!」

 茜は空中でくるりと向きを変えると、右側から背後に回り込もうとするエイリアン・ドローンに正対(せいたい)し、格闘戦形態へと移行したそれに、ランチャーの照準を合わせようとするのだ。スピードは飛行形態の時に比べて格段に遅くなっているのだが、不規則に上下左右に機動する標的には、なかなか照準が合わせられない。
 推力だけで飛行している茜のA号機とは違い、翼の揚力で空中に浮いているブリジットのB号機は、茜の様に瞬時に機体の向きを変えられない。それでも目標を視界から逃さないように、無理にでも姿勢を変えようとするので、B号機に搭載された AI は飛行制御を『揚力モード』から『推力モード』へと切り替え、主翼を後方へと折り畳むのだ。それは姿勢の変化に因って生じる空気抵抗で主翼が破壊しないようにする為の処置なのだが、その瞬間、揚力を失ったブリジットの身体は、機体を支えられる大きさまで推力が上昇するその間、暫(しば)し落下するのだった。左側へ回避したもう一機のエイリアン・ドローンも、空中で格闘戦形態へと移行し、空気抵抗も有って一気に減速するのだが、ブリジットは目標から目を逸(そ)らす事は無かった。

 茜は突進して来るエイリアン・ドローンに向けて、何発か荷電粒子ビームを発射していたのだが、目の前で上下左右に機動する目標に、命中させる事が出来ない。

(あー、近過ぎると当たらない!)

 茜は心中で、そう叫ぶと右のマニピュレータで保持してたランチャーのキャリング・ハンドル部を、左マニピュレータで掴(つか)んで引き取り、空いた右マニピュレータを BES の柄(つか)に掛ける。
 眼前に迫ったエイリアン・ドローンは鎌状の右腕を振り下ろして来るが、それはディフェンス・フィールドが青白いエフェクト光を放って、弾き返す。そして間を置かず、茜はジョイントから BES を外した。

「オーバー・ドライブ!」

 音声入力で BES の作動モードを指定すると、一気に右へと向かって振り抜く。
 斬撃をディフェンス・フィールドに阻(はば)まれた直後、体勢を立て直そうとしていたエイリアン・ドローンは、荷電粒子の刃(やいば)に因って胸部を上下に両断され、二つに分かれた機体はそれぞれが落下して行った。

 一方、空中での必要な推力を取り戻したブリジットの方へは、その足の下へ向かってエイリアン・ドローンが飛行していた。ブリジットは『射撃モード』から『槍(スピア)モード』へと武装を切り替え、足元へ潜り込もうとするエイリアン・ドローンへ向けて、ビーム・エッジ・ブレードを振り下ろす。

「オーバー・ドライブ!」

 茜と同じ様に、荷電粒子の刃(やいば)を最大化させ、擦れ違い様(ざま)の斬撃を狙ったブリジットだったが、その切っ先は僅(わず)かに届かない。空振りしたブリジットの身体は、勢い余って前転する。
 ブリジットの下方を通過したエイリアン・ドローンは、彼女の後方で急上昇し、機体をロールさせて右腕の大鎌に因る斬撃を、ブリジットに浴びせて来るのだった。
 しかし、それもB号機が生成するディフェンス・フィールドに因って、弾かれるのだ。斬撃の為に機動を止めたその機体は、格好の標的である。振り向いたブリジットは、腰の位置で構えて『射撃モード』で放った荷電粒子ビームを続けて三発、エイリアン・ドローンの胴体へと撃ち込んだのだった。

「HDG01、HDG02、大丈夫か? 応答せよ!」

 茜とブリジットが、それぞれ二機目を撃破した直後、二人を呼び出す、防衛軍の指揮管制官の通信音声が、聞こえて来たのである。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第13話.12)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-12 ****


 突然の、防衛軍からの呼び出しに、茜は戸惑った。直様(すぐさま)、緒美に助言を求める。

「部長、防衛軍からの呼び出しですが。どうしましょう?」

 防衛軍からの通信は、データ・リンク経由で届いているので、それは緒美達にも同様に聞こえていた。
 データ・リンク経由での通信について、ここで少し説明しておく。
 通常の電波を用いた無線通話の場合、使用する電波の周波数が同じであれば、お互いに通話が出来る。この場合、使用している周波数が判明すれば、敵であってもその傍受(ぼうじゅ)や、或いは攪乱(かくらん)などが可能となる。又、味方同士であっても、無関係な作戦の指示が聞こえてしまうと、過誤や混乱の元となり得るので、複数の周波数を用いて指揮通信の整理が行われる。一方で、緊急通信や救援・救難の要請など、共通の周波数を使用した方が便利な場合も有るので、複数の周波数を使い分ける必要が有るのだ。
 データ・リンク自体は、一定の帯域の電波がデータ通信用の周波数として確保されていて、通信・通話毎(ごと)に特別な周波数を設定している訳(わけ)ではない。それでも、通話自体は選択した相手のみと行いたい場合が殆(ほとん)どなので、技術的には送信側が通話音声のデータに通話先のアドレス・コードを付加し、受信側は自らのアドレス・コードを持っているデータのみを解読し、音声に変換して出力する、と云う処理が行われているのだ。
 この様な仕様から、先(ま)ず第一に、呼び掛けるには相手側のアドレス・コードが判明している必要が有る。そして呼び掛けに対して返事をする為には、返信先のアドレス・コードを通信先として追加する設定が必要になるのだが、その方法は勿論、使用機材に拠って操作が異なるし、機材に拠っては予(あらかじ)め設定しておいた相手にしか返信出来ない場合や、設定の変更に別途端末が必要な場合も有るのだ。又、大抵(たいてい)の場合はアドレス・コードを特定の機材のみではなくグループで使用しているのだが、その場合はグループ内の一台の機材で設定変更が可能であれば、そのグループ全てに設定が反映されるのだ。今回の HDG や緒美の携帯型無線機の場合も、このケースであり、緒美が使用している携帯型無線機の設定変更には専用の端末か PC への接続が必要だったが、HDG-A01 若しくは HDG-B01 でなら、通信先の追加設定が可能だった。又、防衛軍側が HDG 側のアドレス・コードを知っていたのは、それが事前に登録されていたからだ。立花先生が「ちゃんと許可は取ってある」と、金子に語っていた通りなのである。

「天野さん、其方(そちら)の通信設定画面に、今の防衛軍のアドレス・コードがリストアップされてる筈(はず)だから、設定を。」

 緒美に言われて、茜はスクリーンを変更しようかと思ったのだが、画面右下に『COM:DFJOCC』の文字が点滅しているのに気が付いた。『DFJOCC』は、Defense Force Joint Operations Command and Control:防衛軍統合作戦指揮管制の事で、この表示は先方から、返信要請が来ている事のサインである。茜はそこへ視線でカーソルを動かし、選択した。

「画面を変える迄(まで)もなく、通信先の選択肢が出てますので、追加しますよ。」

「そう、お願い。」

 緒美の返事を聞きつつ、茜は『COM:DFJOCC』を選択した事に因って表示された、選択肢『Accept/Cancel』から『Accept』を選んだ。
 その直後、再び、その防衛軍統合作戦指揮管制からの呼び掛けが届く。

「此方(こちら)、統合作戦指揮管制、HDG01 及び HDG02 、応答されたし。」

 少し慌てて、茜が答えるのだった。

「あ、はい。此方(こちら)、HDG01 です。聞こえてます。」

「え?何で、女の子が…そちら、天野重工の試作戦闘機で間違いないか?」

 茜の声を聞いた防衛軍の管制官は、不審気(げ)に聞き返して来た。その問い掛けを聞いて茜は、管制官が HDG や、その開発体制に就いては、詳しく理解していないと瞬時に察知したのだ。HDG の事を『試作戦闘機』と呼んだ事から、HDG がパワード・スーツである事は把握されていないし、茜の声を聞いて驚いている事から、開発やテストを天神ヶ崎高校が担当している事は知らないのだろうと判断したのである。
 実際、指揮管制側が把握していたのは、戦術情報画面に『HDG01』、及び『HDG02』と表示されているそれが『天野重工の試作機』と云う事だけであり、その詳細情報を呼び出しても、表示される項目には『匿秘(とくひ)』とのみ記載されていたのだ。付記事項として『所管・航空幕僚監部、責任者・桜井 巴(トモエ) 一佐』とも記載されてあったのだが、それは統合作戦指揮管制官の立場で、気軽に連絡の出来る問い合わせ先ではなかったのである。
 そして茜は、態(わざ)と低目の声色(こわいろ)を作って、聞き返した。

「はい、間違いありません。それで、女性のテスト『パイロット』が、珍しいですか?」

「あ、いえ。失礼…最初、声が、うちの娘位(ぐらい)に聞こえたもので。」

 取り敢えず、そう言い繕(つくろ)うと、指揮管制官は不審には思いつつも、言葉を続けたのだ。

「えー、天野重工さんの方でも、データ・リンクに参加しておられる筈(はず)ですが、戦術情報をご覧になって状況を把握されてますか? エイリアン・ドローンが其方(そちら)に接近しています。迎撃機は向かっていますが、至急、当該空域からの退避を。」

 管制官は『天野重工の試作機』が F-9 戦闘機の改良型、程度の認識で話していた。つまり、エイリアン・ドローンに追い付かれる事無く、空域からの退避が出来る筈(はず)だろうと考えていたのだ。だから、ギリギリの、このタイミング迄(まで)、『匿秘(とくひ)』扱いの機体に連絡を取らなかったのである。又、データ・リンクに参加している全員に聞こえる緊急回線や一般回線を使用せず、HDG を指定して個別に話し掛けて来たのも、空幕の指定している『匿秘(とくひ)』扱いに配慮したからだ。
 しかし、茜からの返事は、管制官に取っては意外な答えだった。

「此方(こちら)でも状況は把握していますが、残念ですが現空域からの即時退避は難しいかと。第一に、試験の随伴機が高速機でない事。第二に、試作機の内、一機は高速飛行が不可能なので。 HDG01 より、TGZ02 へ。部長、どうしましょうか?」

 茜は、或る期待を込めて、緒美に指示を仰(あお)いだ。この時、通話を聞いていた指揮管制官は『部長』と呼ばれた相手を、天野重工の取締役部長の事だと勘違いしたのだった。普通、それが高校の部活の部長だとは思わないので、寧(むし)ろ当然である。
 緒美も通話が防衛軍に聞かれている事が解っていたので、茜と同様に少し声色(こわいろ)を作って指示を伝えるのだった。

「TGZ02 より、HDG01 及び、HDG02。ここで隊を分けましょう。HDG01、02 は西向きにエイリアン・ドローン迎撃へ向かい、防衛軍到着まで、時間を稼いで。その間に、随伴機二機はベースへ着陸します。」

 編隊飛行を続ける金子機の機内では、その緒美の声を聞き乍(なが)ら、金子は隣席の立花先生に問い掛ける。

「先生、鬼塚があんな事言ってますけど。いいんですか?」

「仕方無いから、取り敢えず、合わせておいてあげて。」

 苦笑いしつつ、答える立花先生に、金子も苦笑いで返すのみである。緒美の指示に続いて、茜とブリジットの声が返って来る。

「HDG01、了解。」

「HDG02、了解。」

 続いて、金子が操縦桿のトークボタンを押して言うのだ。

「TGZ01 より、TGZ02。編隊長は、わたしの筈(はず)だけど?」

「TGZ01、非常事態なので、此方(こちら)の指示に従って。ここで対処の判断をしないと、全員が危険に曝(さら)されるわ。」

 緒美の返事を聞いて、金子は横目で立花先生の方を見る。立花先生は、金子の視線に気が付くと、黙って首を横に振るのだった。金子は、溜息のあと、緒美の指示に従う返事をする。

「オーケー、TGZ01、了解。」

 データ・リンクに乗っていない TGZ01 こと金子機からの通信を除いた、一連の通話を聞いていた指揮管制官は(何で、聞こえて来るのが、女の子の声ばっかりなんだ?)と、困惑していたが、その事は一旦置いて声を上げた。

「ちょっと待って呉れ。『部長』さんと云うのが、責任者と言う事でいいのかな?」

「はい。随伴機、TGZ02。 鬼塚と申します。」

 緒美は、落ち着き払った口調で答えた。
 指揮管制官は、どう聞いても自分の娘程の年頃の声と、その或る種の貫禄を感じさせる落ち着いた口調とに酷(ひど)い落差を感じつつ、緒美への説得を試みる。

「鬼塚さん、民間機が敵機へ対処する事は、防衛軍としては許可出来ない。此方(こちら)の作戦行動上も、民間機の存在は邪魔になるので、即刻退避して頂きたい。」

 緒美は、間を置かずに言葉を返す。

「緊急時の自衛行動ですので、防衛軍の許可を求めてはおりません。そもそもは、領空内に侵入した敵機への対処に、時間的な空白を生じさせた其方(そちら)側に、失策が有ったのは明らかではありませんか?」

 その緒美への返答を、指揮管制官は一拍置いて返して来るのである。

「自衛行動と仰(おっしゃ)るが、其方(そちら)側は武装を?」

「試作機の詳細に関しては、開示出来ません。防衛軍とは、その様な契約ですので。必要でしたら、其方(そちら)側の所管責任者へ、問い合わせをお願いします。」

 緒美の発言は勿論、半分がハッタリである。
 金子機の機内では、その遣り取りを聞き乍(なが)ら、金子は呆(あき)れた様に言うのだった。

「相変わらず、好(い)い度胸してるわ、鬼塚。」

 立花先生は、苦笑いしつつ言った。

「流石、緒美ちゃん。」

 その賛辞を聞いて、後席の二人はクスクスと笑うのである。
 緒美への返答を考えているのか、一瞬、指揮管制官が沈黙しているので、続いて緒美は茜達へ指示を出した。

「HDG01、及び HDG02。貴方(あなた)達は、敵機の撃墜まで考えなくていいわ。防衛軍の迎撃機が攻撃可能距離に達する迄(まで)、エイリアン・ドローン達を引き付けて、時間を稼いで呉れたら。 防衛軍の戦闘機がミサイルを発射したら、エイリアン・ドローンは回避機動を始める筈(はず)だから、そうしたら貴方(あなた)達は離脱して降下、山の陰にでも退避して。」

「HDG01、了解。」

「HDG02 も了解です。」

 茜とブリジットの返事を聞いて、緒美が指揮管制官に念押しをする。

「防衛軍の方も、そう言う事でよろしいですか?」

 緒美に問い掛けられ、指揮管制官は渋々と云った具合に返事をして来る。

「了解はしたが…其方(そちら)に被害が出ても、防衛軍は責任を持てないぞ。」

「御心配は不要です。こう言った事態は、これが初めてではありませんので。詳細は非公開ですけど。」

 そして、一呼吸置いて、指揮管制官が緒美に声を掛けるのだった。

「しかし、部長さんも、声がお若いですな。」

 それは彼の精一杯の嫌味、と言う訳(わけ)ではなく、冷静に遣り取りを続ける緒美に対して、立場や年齢とは無関係に、同じレベルに立った感覚から自然に出た、無邪気な感想だった。
 緒美は、それに対してさえも、冷静に言葉を返す。

「よく言われます。」

 金子機内では、その返事を聞いた金子を含む四人が、揃(そろ)って失笑していたのだった。そして、笑いを堪(こら)え乍(なが)ら、金子が言うのだ。

「防衛軍の人も、まさか、相手が高校生だとは思ってないんだろうね。」

 それを聞いて、他の三人はクスクスと笑い乍(なが)ら、金子の意見に同意するのだった。
 そして、緒美の声が聞こえた。

「では、其方(そちら)への通信は、以上で終わります。」

 緒美が態態(わざわざ)、そう宣言したのを聞いて、茜はその意図を察し、通信リストから『DFJOCC』を解除し、緒美に報告するのだ。

「部長、防衛軍への通信は、取り敢えず、一旦、選択解除しました。」

「流石、天野さん。察しがいいわね。ありがとう。」

 緒美の返事に、ブリジットが問い掛ける。

「どう言う事です?部長。」

「さっきは、防衛軍(あちら)の顔を立てて、撃墜は考えなくていいって指示したけど。出来るなら、防衛軍の戦闘機が攻撃を始める前に、出来る限り敵の数を削ってちょうだい。出来れば、全機撃墜でもいいわ。勿論、防衛軍側がミサイルを発射したら、直ぐに退避するのは変わらないんだけど。」

「えーっと、それは…。」

 緒美の指示の意味が飲み込めないブリジットに、茜がフォローを入れる。

「この辺りでミサイル戦なんか、されたら迷惑だ、って事よ、ブリジット。」

「そう言う事。ミサイルが外れても、近接信管が働いて空中で爆発して呉れればいいんだけど、完全に外れて『流れ弾』になったりすると厄介だわ。数を撃てば撃つ程、そうなる確率が上がるのよ。」

 緒美の説明を聞いて、ブリジットは更に尋(たず)ねる。

「流れ弾になると、どうなるんです?部長。」

 そのブリジットの問いには、茜が答える。

「ロケット・モーターが作動している間は、どこかに飛んで行くけど、何(いず)れは、どこかに落ちるでしょ。山にでも落ちて爆発すれば山火事になるかもだし、もしも落ちたのが町中だったら、それこそ洒落にならないでしょ?」

「成る程、解った。」

 ブリジットの返事を受けて、茜が声を上げた。

「それでは、HDG01 は、これよりエイリアン・ドローン迎撃に向かいます。」

 茜が身体を少し起こすと、HDG-A01 は空気抵抗で編隊から一気に後方へと離れ、続いて上昇して右へ旋回し、西へと向かったのだ。地球の陰に沈もうとする太陽が、茜には、ほぼ正面に見えた。完全に日が没する迄(まで)、あと五分程である。西側の空は、焼ける様な赤色が、次第に強くなって来ていた。

「HDG02、続きます。」

 ブリジットも上昇して編隊から離れ、茜を追った。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第13話.11)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-11 ****


「何でって…そうね、兵器…戦闘機とかロケットとか、その手の物に興味を持って、子供向きのでも専門的な書籍とか読んでると、自然と入って来る知識よね。小学生の頃には、その手の本を幾つも読んでたから、大まかな理屈だけは知ってたの。」

「部長や金子先輩も、そんな感じなんですか?」

「わたしは…中一の時に、エイリアン・ドローンへの対抗兵器を考える為に、現用兵器の事を色々と調べた一環で知ったわね。」

 ブリジットの問い掛けに、素直に答える緒美だった。そして、金子が続く。

「わたしは、昔から飛行機に興味が有ったから、天野さんと同じ感じかな。うちの父が買ってた専門の雑誌とか読んで、それで、だね、小学生の頃だったと思う。」

「そう言うもんですか~成る程…。」

「あはは、一般的には、わたし達見たいのが少数派の筈(はず)だから、気にする事は無いよ~ブリジット。」

 そうフォローする金子だったが、それを台無しにする茜の発言がこれだ。

「でも、うちの学校の、機械工(うちの)学科だと、その手の物が好きな人は多そうだから、半分位は、わたしや部長のタイプじゃないかしら?」

 その茜の発言に反応したのは、緒美である。

「そうは言っても、普通科の人は違うでしょうから、半分って事は無いと思うわ。クラスの四分の一を超える事はないでしょう?天野さん。」

「あーまあ、そうですか、ね。」

 そんな茜と緒美の会話は、ブリジットは「あははは」と笑って流す他、無かったのである。
 そうして帰路の飛行を続ける一行であったが、それから数分の後、防衛軍の戦術情報を監視していた茜が、情勢の変化を報じる。

「HDG01 より全機へ、エイリアン・ドローン編隊が進路を、東北東から東へと変えました。速度、高度は変わらず…いえ、高度はちょっとずつ、降りて来てますね。」

 その報告に、緒美が聞き返す。

「天野さん、空防の迎撃機とエイリアン・ドローンとの、距離はどの位?」

「えー、直線距離で大凡(おおよそ)二百…百八十キロですね。」

 続いて、金子が尋(たず)ねる。

「わたし達とは?」

「わたし達とは、西へ二百キロの距離が有りますけど。この儘(まま)で、真っ直ぐ飛んで来られると、十五分後にわたし達の飛行コースの五分後ろを通過する計算になりますね。高度は、分かりませんけど。」

 茜の報告に対し、緒美が所感を述べる。

「多分、迎撃機を回避する積もりで進路を変えたんでしょうね。 エイリアン・ドローン、今はまだ、海上? 天野さん。」

「はい、ですけど真東へ飛んで行くと、直(じき)に島根県の上空ですよ。地図的には、三瓶山?の辺り。」

「その辺りだと、地対空ミサイルの配備が手薄だったかしら?どうだっけ…。」

 そこで、今度はブリジットが声を上げた。

「防衛軍の戦闘機隊も向きを変えました。南西方向へ。」

「多分、陸地の上空へ来る前に、ミサイル攻撃を仕掛ける積もりでしょうね。」

 透かさず分析する、緒美だった。その緒美に、金子が問い掛ける。

「鬼塚、防衛軍にエイリアン・ドローン全機、墜とせると思う?」

「どうかしらね。エイリアン・ドローン六機に対して、戦闘機二機の中射程 AAM が合計十六発。防衛軍側は二回、三回は攻撃出来るけど、二機か三機を処理出来たらいい所じゃないかしら。」

「そう言う予測、防衛軍はしないのかな?」

「してると思うけど、後続の迎撃機が上がって来ないのは、何かのトラブルか、機材不足かしら? 今日の九州迎撃戦に、小松からも機体を出してたのかも。何かしら、手を回してるとは思うんだけど。」

「成る程ね。」

 溜息と共に、金子はそう言ったのだった。
 実の所、大陸の上空三万メートルには、更に十二機のエイリアン・ドローンが待機している事を、防衛軍は掴(つか)んでいた。この様な情報は、後になっても報道される事は無いのだが、防衛当局としては、それらが日本領空へと向かって来る事態も考慮に入れておく必要が有り、九州上空の警戒と確保済みの対処能力を、緩(ゆる)める訳(わけ)には行かなかったのである。
 一方で、既に領空内に侵入した残存六機に就いても当然、対処が必要となるのだが、その対応に全力を傾けて、それが陽動にされる状況は避けねばならなかった。残存六機がどこを目標として飛行しているのかも正確には不明で、その為、それらの動向を慎重に見極めていたのである。しかし、エイリアン・ドローンが海上から陸地方向へと向きを変えた時点で、それ以上は悠長に構えている事も出来ず、小松基地には追加の迎撃機二機の発進が発令されていた。その事は間も無く、戦術情報にて茜達の知る所となるのだった。
 その頃、茜達一行は海側から海岸線を越えて、陸地の上空を飛行していた。金子が、緒美に呼び掛ける。

「TGZ01 より、TGZ02。鬼塚、ここからなら、鳥取空港が近いけど。予定を変えて、そっちへ緊急着陸するって選択肢も有るけど、どう?」

「エイリアン・ドローン達の進路が変わったから、その方が安全ではあるけど…現時点で HDG を人目に晒(さら)すのは、どうかしら? 立花先生に聞いてみて、金子ちゃん。」

 金子は、隣の席に座っている立花先生に、問い掛ける。

「…って、鬼塚は云ってますけど。どうでしょうか、立花先生。」

 勿論、それら機内での会話は、緒美達には伝わらない。
 立花先生は、少し困った顔で静かに答えた。

「難しい所ね。あなた達の安全を考えたら、先生としては緊急着陸を選択したい所だけど。会社的には、秘密保全の出来ない民間の空港へ HDG を降ろすのは、賛成出来ないわ。緒美ちゃんの言う通りよ。」

 少し考えて、立花先生が提案する。

「どうせなら、防衛軍の美保基地はどうかしら?」

美保基地って言っても、半分は民間の米子空港ですよ。大体、距離的には学校へ戻るのと、殆(ほとん)ど変わりないですし。」

 そこへ、茜からの提案である。

「HDG01 より、TGZ01。あの、提案なんですが。部長と金子さん達は空港に退避して、わたしとブリジットで学校へ向かう、と言うのはどうでしょうか?」

 機内でモニターしている茜の声を聞いて、苦笑いしつつ立花先生は言うのだった。

「天野さんらしい発想だわ。」

 続いて、金子が操縦桿のトークボタンを押して、応答する。

「却下!一年生を置いて行ったりしないし、一年生に置いて行かれて堪(たま)るもんですか。」

 その金子の発言を聞いて、後席の二人、樹里と日比野はくすりと笑うのだった。
 そして立花先生が、言うのだ。

「エイリアン・ドローンは、防衛軍が対処して呉れるのを信じましょう。必ず、戦闘に巻き込まれるとは、限らないでしょうし。学校まで、あと十五分位よね。」

「そうですね…TGZ01 より各機。この儘(まま)、学校へ向かいます。場合によっては高度を下げるかも、だけど、その辺り覚悟はしておいてね。」

 金子の通信に緒美達は、それぞれが「了解。」と返事をするのだった。
 それから間も無く、茜から情勢の報告が入るのだ。

「エイリアン・ドローン、ロックオンされました。防衛軍の戦闘機隊が、攻撃準備を始めたみたいです。」

 それは茜とブリジットが装着するヘッド・ギアのスクリーンに投影されている戦術情報画面の表示で、敵機を示す黄色の三角シンボルが、菱形のシンボルに変化する事で示されている。これが自機によるロックオンの場合、菱形の色は赤色である。
 そして、攻撃機と標的機の間が一本ずつのラインで結ばれ、次いで、そのラインが攻撃機側から標的機側へ向かって短くなっていく様に、刻々と表示が更新されるのだ。
 それを茜が、通信で報告する。

「防衛軍、ミサイルを発射しました。エイリアン・ドローン、回避機動を開始。編隊を解いて、バラバラに機動してますね。」

 それまで整然と並んでいたシンボルが、四方へと散らばり、進行方向を示すバーも機体によっては、グルグルと向きを変えて表示されている。しかし、ミサイルの接近を示す、一方の端に丸いドットの付いたラインは、容赦無く短くなっていくのだ。一端の丸いドットが、ミサイルの位置を表しているのは、言う迄(まで)も無いだろう。

「あと、十…八…六…四、三、二、一! 起爆しました。」

 戦術情報画面には、ミサイルが起爆した位置に『×』シンボルが表示されていた。中射程空対空ミサイルは、標的に命中しなくても、その近傍を通過する際に爆発する。それは、その飛散する破片で、敵機が損傷するのを期待しているのだ。しかし、この近接信管による爆破効果では、それ程大きなダメージをエイリアン・ドローンに与えられないのは、既に明らかな事実だった。何故なら、エイリアン・ドローンの外皮が『装甲』であるからだ。
 地球製の航空機は、軽量化の都合上その外皮は薄く、陸上兵器の装甲に比すれば、防弾効果など無いに等しい。一方でエイリアン・ドローンは陸上での格闘戦も視野に入れた構造である故、その外殻も十分(じゅうぶん)な装甲性能を有しているのである。
 そして、もう一つ、空対空ミサイルが爆発する事に因る破片の飛散は、それらがジェットエンジンに吸い込まれて、エンジンに損傷を与える効果をも期待している。だが、エイリアン・ドローンの推進機関は、吸気口と噴出口を有してはいるものの、その構造は、ほぼ徒(ただ)の筒であり、内部にタービン等の構造物が存在しないのである。作動原理は未(いま)だ不明なのだが、兎に角、破片の吸引で推進機関に損傷を与える効果は期待出来ない。例え吸い込まれたとしても、破片は徒(ただ)、素通りするだけなのである。
 戦術情報画面では、五秒程『×』シンボルが表示されたあと、再びエイリアン・ドローンが黄色の三角シンボルで再表示された。その結果を、茜が報告するのだった。

「撃墜は一機、ですね。残存五機が、元の飛行コースへ再集合してます。防衛軍の戦闘機隊は、再度コース変更。南向きに飛んで、エイリアン・ドローン隊の後方へ回り込むコース取りの様です。」

 そこで、金子が緒美に尋(たず)ねるのだ。

「鬼塚、防衛軍側はミサイルの残り、何発?」

「さっきの攻撃で六発発射した筈(はず)だから、残りは十発ね。」

「残存五機なら、あと二回、攻撃出来るのか。」

「そう言う事。」

 茜は、金子と緒美の間で交わされる通信の音声を聞き乍(なが)ら、黙って戦術情報の画面を監視していた。そして間も無く、再び、敵機表示が黄色の菱形へ変化するのだった。

「目標、再度ロックオン。 発射されました。今度はさっきの半分位の距離、ですね。」

 今度も戦術情報画面の中では、刻々とミサイルが接近する中、エイリアン・ドローン達は無様(ぶざま)に右往左往している様に見える。しかし、衝突の最終局面で、エイリアン・ドローン達はミサイルが飛来する軌道から、自身の位置を微妙にずらし、ミサイルの回避しているのだ。勿論、そんな細かい動き迄(まで)は、戦術情報の画面から読み取る事は出来ないのだが。
 戦術情報画面には、再度『×』シンボルが並び、全てのミサイルの信管が起爆した事を知らせるが、期待した程の戦果は得られない。茜は、声を上げた。

「全弾起爆しましたが、今度も撃墜は一機だけです。残存、四機。」

 すると、誰に言うのでもなくポツリと翻(こぼ)した金子の声が聞こえて来る。

「当たらない物ね…。」

 しかし、状況は止まらない。茜は引き続き、戦術情報画面から読み取れる情報を声に出す。

「防衛軍、再度、全標的をロックオン。 発射。今度はエイリアン・ドローンが編隊に集合する前に、仕掛けましたね。距離は、前回とほぼ同じ位です。標的へ到達まで、凡(およ)そ三十秒。」

 そして間も無く、絶望的な結果が表示されるのだった。それでも茜は、冷静に状況を伝える。

「全弾、回避されました。残存は四機の儘(まま)です。あ、一機のみ再度ロックオン…発射されました。」

 その茜の声を聞いて、緒美が言うのだ。

「最後の一発ね。」

 茜は読み取った情報を、その儘(まま)、声に出す。

「防衛軍の戦闘機隊、離脱して行きます。ミサイルは目標まで、あと十五秒。…ダメです、回避されました。残存は四機の儘(まま)。」

「天野さん、エイリアン・ドローンの進路は?」

 緒美の問い掛けに、茜は直ぐに答える。

「元の東向きコースに復帰してます。高度は、三千メートルまで降りて来てます。」

 次いで、金子が問い掛けて来た。

「天野さん、防衛軍は逃げちゃったの?」

「こっちに向かってる、後続の迎撃機と交代するんだと思いますが。」

 そして緒美が、説明を追加するのだった。

「迎撃機には自衛用の短射程 AAM も積んである筈(はず)だけど、それが使える距離まで近付くと、トライアングルに反撃される恐れが有るから、極力、それは避けてるのよ。彼方(あちら)は、斬撃を実行する為に、体当たりでもやる勢いで突っ込んで来るから、あっと言う間に間合いが詰まっちゃうの。そうなったら、防衛軍の戦闘機の方が不利。」

「ふうん…厄介ね。 それで、天野さん、後続の迎撃機の到着まで、あと何分?」

「大体、あと八分位(ぐらい)ですか。」

「こっちは、あと五分ぐらいで学校上空に到着ね。」

 そこで、何か言い難そうに話すブリジットの声が、聞こえて来るのだった。

「ねぇ、茜…エイリアン・ドローンの進路、こっちに向かって来てない? あと五分位で、わたし達と進路が…。」

「交差するわね。高度も更に下げて来てるし…これは、HDG-A01(わたし)が狙われてるのかなぁ。」

 そう答えて、茜は溜息を一つ、吐(つ)くのだった。
 その時である。通信から、聞き慣れない、男性の声が聞こえて来たのだ。

「HDG01、及び HDG02、聞こえるか? 此方(こちら)は防衛軍、統合作戦指揮管制だ。其方(そちら)は、天野重工所属の試験機で間違いないか?」

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第13話.10)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-10 ****


 表示範囲を広げると、読み取った情報をブリジットが口述する。

「あ、黄色の三角表示が、幾つか重なってる。画面、左上。対馬の右上辺り。」

 そのブリジットの報告に、茜が解説を加えるのだ。

「その黄色い三角のシンボルが、敵機。つまり、エイリアン・ドローンよ。その三角の中心辺りから、右斜め上向きにバーが表示されてるでしょ? そのバーの向きが目標の移動方向。それから、カーソルをシンボルに合わせると、速度とか高度とかの情報も表示されるわ。」

「三角マークなのは、エイリアン・ドローンが『トライアングル』だから?茜。」

 予想の斜め上なブリジットの質問に、茜はくすりと笑って言葉を返す。

「そう言う意味じゃないけど、敵機と判明してる対象は全部、表示は三角なのよ。因(ちな)みに、友軍機、味方が青い丸で、敵機じゃない民間機は緑の四角。敵味方の判明してない所属不明機は、白の逆三角ね。」

 民間機の多くは交通管制に飛行計画(フライトプラン)が提出されており、離陸時以降から交通管制に追跡されているので、その機体に軍用の IFF(Identification, Friend or Foe:敵味方識別装置)が搭載されていなくても、交通管制のデータと突き合わせる事で、それが敵性機でない事が判別出来るのだ。この様に、防衛軍の陸海空及び衛星からのレーダー情報以外にも民間の各種レーダー情報や飛行計画から目撃情報まで、複数のデータが統合されて戦術情報は表示されている。

「成る程、わたしの表示の隣の青い丸が茜で、あとの四角二つが部長と、金子先輩か。」

「そう、わたし達は今、南向きに進んでいるから、進行方向を示すバーがマップ上で下向きになってるでしょ。あ、『MAP(マップ)』モードだと、上が常に北になってるの。」

 その説明を聞いて、ブリジットはもう一度、表示のスケールを小さくして、広範囲の情報を読み取る。

「西から東向きに、エイリアン・ドローンが六機、日本海上空を高度一万六千で飛行中、と。あれ?右上にも、味方のシンボルが出てる。左…西向きに移動中。」

 ブリジットの報告に、茜が補足説明をする。

「それは空防の迎撃機ね。小松基地から二機、発進したみたい。」

 その茜の発言を、緒美が確認するのだった。

「迎撃機はもう上がってるのね?天野さん。」

「はい、部長。F-9 が二機、ですね。この位置で、この速度だと、十五分…十七分位で中射程 AAM の攻撃圏でしょうか。」

 『AAM』とは、Air to Air Missile:空対空ミサイルの事である。『中射程 AAM』は、射程距離が大凡(おおよそ)百キロメートル程度の空対空ミサイルで、エイリアン・ドローンとの接近戦を避けたい航空防衛軍は、この中射程空対空ミサイルを迎撃戦に於いて主用していた。
 F-9 戦闘機は、この中射程空対空ミサイルを胴体内に四発、主翼下に四発の、合計八発を搭載可能で、その他に射程が四十キロメートル程度の短射程空対空ミサイルを機内に四発搭載しているのが、エイリアン・ドローン迎撃行動時の標準的な装備である。
 因(ちな)みに、航空防衛軍の主力戦闘機である F-9 戦闘機は、天野重工が主契約会社として生産されている。

「トライアングル六機に、F-9 が二機じゃ、ちょっと少なくないかな…大丈夫かしら?」

「この二機が先行してるだけで、後続が上がって来るんじゃないですか?」

「だといいけど。兎に角、天野さんとボードレールさん、二人は防衛軍の戦術情報で、エイリアン・ドローンの動向を監視しておいて。何か動きが有ったら、直ぐに教えてね。」

「HDG01、了解。」

 茜に続いて、ブリジットも応える。

「HDG02、了解。」

 そこに、金子が状況を訊(き)いて来るのだった。

「TGZ01 より、HDG01。ちょっと状況を教えて。捕捉されてるエイリアン・ドローンは、その六機だけ?」

「そうですね、今は、そうみたいです。どんな経緯で、この六機が残って、こっちに向かっているのか、その辺り迄(まで)は流石に分かりませんけど。」

 茜に、ブリジットが問い掛ける。

「情報画面には、九州上空にも何機か友軍機が飛んでるみたいだけど。こっちのは、追い掛けないのかな?」

 その問いには、緒美が答えるのだった。

「多分、九州上空のは CAP(キャップ) の機体じゃないかしら。」

「キャップ?」

 聞き返すブリジットに、説明をするのは金子である。

「CAP(キャップ) ってのは、コンバット・エア・パトロールの頭文字だよ。直訳すると戦闘空中哨戒、戦闘が行われた空域に留まって、敵機が入って来ない様に見張ってるのが役割。だから、逃げてく敵は追い掛けないんだ。敵を追って行って、その間に、隠れてた敵に侵入されたらマズいだろ?」

「成る程。」

 ブリジットは一言、納得した旨の声を返した。

 ここで、一般には報道される事の無い、この日の防衛軍の奮闘振りを紹介しておこう。
 この日、日本列島へと襲来したエイリアン・ドローンは、防衛軍が捕捉したのが、総数で四十八機である。これらは午後三時頃に東シナ海上空を、西から日本領空へと接近して来るのが探知され、午後三時半頃に日本領空への侵入が確認された。防衛軍は、これらの侵犯行為に直ちに対処する為、航空防衛軍が迎撃機二機編隊を三組、九州北部上空に待機させていたのである。更に対馬の南側と五島列島の西側には、海上防衛軍所属のイージス艦各一隻が配置されており、これら二隻が侵入して来るエイリアン・ドローンへの、第一撃を加えたのだった。二隻のイージス艦より発射された艦対空ミサイルは計四十八発であり、これに因りエイリアン・ドローン十一機が撃墜された。次いで空中の戦闘機隊から中射程空対空ミサイルが順次発射され、計四十八発の空対空ミサイルで、七機のエイリアン・ドローンが撃墜されたのである。
 そこでエイリアン・ドローン残存三十機は、一度、西方向へ転進して日本領空から脱出したのちに北上、朝鮮半島上空を経由して対馬の北方から再度、日本領空へと侵入して来たのだった。この第二波に対し、対馬南方沖のイージス艦が艦対空ミサイル三十発を発射、これに因りエイリアン・ドローン六機を撃墜した。
 ここ迄(まで)の経緯から、半島上空をエイリアン・ドローンが素通りしている事を不審に思う向きも有るかも知れないが、高度一万メートル以上を飛行するエイリアン・ドローンに対して、この半島の国家は迎撃行動などの対処を行わないのが通例なのだ。勿論、エイリアン・ドローンが自国領土内に降下して来ると判断された場合は必要な迎撃措置を取るのだが、それらが日本へと向かう見込みが有る場合、彼(か)の半島の国家は何もしないのである。この点に就いては、大陸側の『中連』も、同じ態度なのだった。
 半島と大陸側の両国家と日本とは、軍事的な協力関係は疎(おろ)か、正式な国交すら現在は無い。それは、どちらもが国内の主導権争いが続く準内戦状態であり、国内の結束を計る目的で日本への敵視政策が継続されている為である。

 話を、この日の迎撃戦に戻そう。
 イージス艦の攻撃を躱(かわ)したエイリアン・ドローン残存二十四機に対し、航空防衛軍の戦闘機隊の第二波は合計四十八発の中射程空対空ミサイルを発射し、八機を撃墜する。
 ここで、航空防衛軍が装備する F-9 戦闘機は、先述の通り中射程空対空ミサイル計八発を搭載している。従って、二機編隊でミサイルの合計数は十六発、その編隊が三隊で総計四十八発と言う計算なのだが、これらが全て同時に発射される訳(わけ)ではない。
 海上防衛軍のイージス艦の場合、捕捉した目標全てにミサイルを同時に、或いは連続して発射するので、目標数と発射数とが一致している。しかし、戦闘機隊の場合は各機が接近して来る目標を順番に選択して攻撃する為、結果的に目標数よりも多くのミサイルを消費しているのである。それは勿論、全てのミサイルが命中する訳(わけ)ではないからだ。
 戦闘機隊の攻撃を受け、エイリアン・ドローンの侵攻第二波は残存数が十六機に減じた時点で進路を北西に変え、黄海方向へと日本領空から退去した。しかし、それらは第三波として再度、五島列島の西側から侵入を開始するのである。
 それに対して、五島列島西方沖のイージス艦が艦対空ミサイル十六発で迎撃を実施。それに因りエイリアン・ドローン三機を撃墜する。残存数十三機のエイリアン・ドローンを、航空防衛軍の第三波迎撃部隊六機が中距離空対空ミサイル計四十八発で迎え撃ち、七機の撃墜を果たしたのである。
 これにて残存数が六機となったエイリアン・ドローン編隊は進路を北東へと変え、九州北部と対馬の間を通って日本海上空を能登半島方向へと進んだのだ。この時、対馬南方沖のイージス艦が上空を通過する六機に対して、艦対空ミサイル六発を発射したのだが、これは全てが回避されてしまい、そうして現在に至った訳(わけ)である。
 結局、二隻のイージス艦からは合計百発、延べ十八機の戦闘機からは合計百四十四発のミサイルが発射され、それらに因って四十二機のエイリアン・ドローンが撃墜されたのだった。単純計算でミサイルの命中率は 17.2%となるが、イージス艦の艦対空ミサイルのみで集計すれば 20%、戦闘機の中射程空対空ミサイルは 15.3%となる。
 今回は戦闘機隊が陸地上空にエイリアン・ドローン編隊を寄せ付けなかったので、結果的に陸上配備の地対空ミサイルは発射される事は無かった。これは西方からの侵攻に対して、防衛軍の対処する態勢が整ってきた事を意味しているのだ。とは言え、エイリアン・ドローンに因る侵攻の度(たび)、それこそ湯水の様にミサイルを消費している現状は、財政上、頭の痛い問題なのだった。五年前に比べれば、量産効果でミサイルの取得単価は低下していると云われているのだが、幾ら生産数を増やしたとしても、それでミサイルの取得費用が只になる事は有り得ない。防衛軍や政府に取って、ミサイルの命中率改善は喫緊(きっきん)の課題なのである。
 因(ちな)みに、この日に発射されたミサイル取得費用の総額だけで、凡(およ)そ二百五十億円程が、文字通り『吹っ飛んだ』のだった。

 そして、ブリジットの返事に続いて、茜が金子に提案するのである。

「HDG01 より、TGZ01。金子さん、何でしたら先に学校へ戻ってくださっても。部長やブリジットの機体なら、十五分程で帰れる筈(はず)ですし、金子さんの機でも、わたしよりは速く飛べますよね?」

 現状で他の三機は、最も機速の遅い、茜の HDG-A01 に速度を合わせて飛行しているのだった。金子の返事は、直ぐに返って来る。

「あはは、バカ言ってるんじゃないよ~。一年生を置き去りにして、先に帰れますか。」

 続いて、緒美の声が聞こえる。

「そう言う事よ。それに、わたし達が引っ張った方が、あなたの方もスピードが稼げるんだし。」

 そして、ブリジットが言うのだった。

「いざとなったら、先輩達を先に帰して、わたしと茜でディフェンスを張るのよ。大体、航空戦用のB号機が、先に帰るなんて有り得ないでしょ。寧(むし)ろ、わたしが残って茜のA号機を先に帰すのが、普通ってもんでしょ?ねぇ、部長。」

「まぁ、そうだけど。でも、ボードレールさんも、模擬戦を一回やっただけで、空中戦が出来るとは思わないでね。そう言うのは、学校に帰ってシミュレーターで経験を積んでからよ。」

 その緒美の返しに反応したのは、金子である。

「シミュレーターなんて、有るの?鬼塚。」

「シミュレーターって言っても、飛行ユニット用のリグでB号機を吊り上げて、ヘッド・ギアのスクリーンに外界とか敵の映像を投影する方式だから、ボードレールさんにしか使えないわよ。金子ちゃんには、残念なお知らせだけど。」

「何だ、それは残念。」

 どこ迄(まで)も、好奇心旺盛な金子なのであった。
 そんな金子の返事に、くすりと笑って、緒美は茜に尋(たず)ねる。

「天野さん、エイリアン・ドローンの様子は、どう?」

「変化は無いですね、高度も速度も変化無しで、真っ直ぐ東北東へ飛んでます。防衛軍の F-9 二機も、凄いスピードで近付いて来てますね。目標が中射程 AAM の射程に入る迄(まで)、あと十分位でしょうか。」

「F-9 は超音速巡航(スーパークルーズ)が出来るからね。スピードだけなら、エイリアン・ドローンには負けてないんだけど。」

 その緒美の言葉を聞いて、ブリジットは茜に問い掛ける。

「『スーパークルーズ』って?茜。」

「超音速で巡航…飛び続けられる事よ、ブリジット。」

「凄いの?それ。」

「う~ん、今時の戦闘機なら普通の事だけど。それが一般化したのは、五十年くらい前の事だし。」

「音速で飛べる飛行機なんて、百年前から有ったんでしょ?」

 そこで、その会話に金子が参加する。

「あはは、スペック上の最高速度が超音速でも、実際にそれが使い物になるかどうかは別の話よ。」

「どう言う事です?金子先輩。」

「最高速度に到達するには、何分も掛けて加速を続けなくちゃいけないし、最高速度に達しても、その速度を維持し続けるのが大変なのよ。昔の戦闘機は、最大出力を維持するのに大量の燃料が消費されるだとか、それを長時間続けるとエンジン自体が耐熱限界を超えて壊れるだとか、色々と制限が有ったの。」

「それじゃ、意味無いじゃないですか。」

「いや、そうでもなくて。それだけの加速が必要に応じて出来るって言う、パワーの余裕が重要だって話。超音速じゃ、所謂(いわゆる)『ドッグファイト』、空中戦はやらないしね。」

「成る程。」

 ブリジットの返事のあと、続いて緒美が発言する。

「今は、大量に燃料を消費しなくても、超音速を維持出来るエンジンが開発されたから、今回みたいに戦闘空域に駆け付けるのが早くなったけど。それでも、空中戦は相変わらず音速以下で行わてる筈(はず)だわ。まあ、格闘戦になる前に、ミサイル戦で勝負を付けるべきなんだけどね。特に、エイリアン・ドローンに対しては、極力、格闘戦は避けてる筈(はず)よ。」

「音速を超えるのって、そんなに大変なんですか?部長。」

「そうね~、空気の、流体としての性質が、音速を境にして、ガラッと変わっちゃうから。」

 そこに、金子が口を出すのだった。

「機械工学科は、授業に流体力学が有るのよね?」

「そうね。二年生になったら。楽しみにしてるといいわ、二人共。あ、天野さんは、もう大体、知ってそうだけど。」

「はい、概論だけは。」

 茜の返事を聞いて、ブリジットが尋(たず)ねる。

「何でそんな事、茜は知ってるのよ?」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第13話.09)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-09 ****


「あ、来た。 TGZ01 より、TGZ02。其方(そちら)を目視した。」

 その返事は、直ぐに返って来た。

「TGZ02 より、TGZ01。了解、此方(こちら)も視認。」

 それから間も無く、レプリカ零式戦と HDG-B01 の二機は、金子達の左側方に十分(じゅうぶん)な距離を取って、猛スピードで後方へと向かって飛び去って行ったのである。
 レプリカ零式戦と HDG-B01 の飛行速度が凡(およ)そ時速 300 キロメートル、金子機の速度は時速 186 キロメートルなので、時速 486 キロメートルの相対速度で交差した事になる。

「HDG02、もう一度、左旋回を開始しました。」

 樹里がデータ・リンクから得られる情報を告げると、立花先生は身体を右に捻(ねじ)って、後方を確認するのだった。すると、金子機の背後に回り込む様に旋回している、緑色の迷彩柄で塗装されたレプリカ零式戦の機影が見えたのである。
 その機影はどんどんと離れて、小さくなっていったのだが、或る程度、旋回が進んで金子機の右後方へ位置した辺りから、少しずつ接近して来ているのが分かった。そしてそのレプリカ零式戦の左隣には、白く輝くブリジットの HDG-B01 も確認出来たのだ。

「TGZ02 より、TGZ01。其方(そちら)の右側を通過して、高速飛行試験を続行します。」

 緒美からの通信が、聞こえて来る。

「TGZ01 了解。 HDG02、ブリジット、調子はどう?」

 金子がブリジットに声を掛けると、その返事は直ぐに戻って来る。

「HDG02、問題ありません。順調です。」

「オーケー、気を付けてね。」

「はい、ありがとうございます。」

 そうブリジットが応えて間も無く、ブリジットの HDG-B01 と緒美のレプリカ零式戦が並んで、金子機の右側方を追い抜いていったのである。その時点でブリジット達は時速 120 キロメートル以上も優速であり、高速飛行試験を続行して前方へと突き進んで行く二機は、更に加速していた。

「おー、速い、速い。」

 金子は前方へ小さくなっていく、二つの機影見送り乍(なが)ら言った。

「しかし、ブリジットは、ホント、好(い)い度胸してるね~。ほぼ身体、剥(む)き出しで、あのスピードでカッ飛んで行くのは、流石に怖いだろうに。」

 すると隣の席の立花先生が、金子に言うのだった。

「あら、金子さんでも、怖い?」

「ええ、遠慮したいですね、わたしは。こうやって操縦席に座って、操縦する方が、わたしはいいです。」

「あら、そう。 そう言えば、緒美…鬼塚さんの操縦の方(ほう)、金子さん的には、どう?」

「え? ああ、そうですね。流石にもう、危(あぶ)な気(げ)は無いですよ。去年の免許取得以降、毎月二回は、あの零式戦で飛行訓練してますから。それは新島も、ですけど。」

「そう。 ま、これから暫(しばら)く、飛行装備の試験が続く予定だから。その為に、二人には操縦免許を取って貰った訳(わけ)だけど。」

「まぁ、飛行機部(うち)も協力はしますので、必要が有ったら、声を掛けてください、立花先生。 とは言え、スピード的に付いて行けるのは、うちの学校に有るのは、あの零式戦位(ぐらい)ですけど。アレより速いのは、理事長が使ってる社用機、かな。」

「まあ、チェイス機がB号機と同じ最高速度が出る必要は無い、とは思うけど。場合によっては、理事長と加納さんにも協力して貰う事になるのかな。」

 そう言って、立花先生は「ふふ」っと笑うのだった。その後席から、樹里が提案する。

「それよりも、今回は計測機材積んで付いて来てますけど、次回からは何時(いつ)ものコンソールの方に部隊間通信仕様のアンテナを付けて、遠隔でデータ取得とかモニターする事になるんですかね?立花先生。」

「今回には機材が間に合わなかったし、念の為、何かトラブルが有っても成(な)る可(べ)く早く対応が出来る様に、って付いて来たんだけど。 手配は掛けて有るから、機材が届いたら、そうなるわね、樹里ちゃん。」

 立花先生の回答を聞いて、金子が冗談めかして言う。

「あはは、どうせ機材を積み込むなら、社用機の方が広くて、快適だよね。」

 その発言を受けて、樹里が金子に問い掛けるのだった。

「飛行機部の人達は、社用機に乗った事、有るんですか?」

「ああ、うん。流石に操縦はさせて貰えないどね。毎年、飛行機部の一年生が、体験搭乗させて貰ってるのよ。基本、うちに入部して来るのは、飛行機に興味を持ってる人だからね。」

 飛行機の操縦資格は、機種毎(ごと)に取得する必要が有るので、その機種の資格を持たない飛行機部部員が社用機の操縦をさせて貰えないのは当然である。
 それは兎も角、そんな金子の発言内容を意外に思ったのは、立花先生だった。

「あ、そんな特典が有ったんだ、飛行機部。」

「それで、新入部員を釣ってる訳(わけ)じゃ無いですよ。」

 苦笑いで、金子は答えた。
 その後、金子は思い出した様に、操縦桿のトークボタンを押し、茜に呼び掛ける。

「TGZ01 より HDG01。ほったらかしでゴメンね~天野さん。異常無い?退屈だったでしょ。」

「HDG01、異常無し、です。お気遣い無く、金子さん。」

 ここで、HDG の通信機能について、少し解説をしておく。
 HDG 間の通信・通話はデータ・リンクを利用して行っているので、所謂(いわゆる)、無線機の様に発信の際にトークボタンを押す必要が無く、電話の様に常に双方向での会話が可能なのだ。これは HDG には身体的な操縦系統が存在しないので、通話の為にトークボタンを設定しても、それを一一(いちいち)操作する事が困難であるからだ。その為、茜やブリジットが発話した音声は、全て通信に乗って相手側に聞こえている。これは、緒美がコマンド用に使用しているヘッド・セットが接続された携帯型無線機も同様で、それは HDG の個体間データ・リンクに参加して通信が出来る、特製の代物なのである。普段、樹里が必要に応じて使用している、もう一台の同仕様の携帯型無線機は、今回は金子が装着しているヘッド・セットに接続され、緒美達の会話を聞くのに使われている。
 HDG にはデータ・リンクを利用しない、通常の無線機能も装備されていて、其方(そちら)からの発信は、発話に因る音声入力で自動的に発信される機能が存在するのだが、今回はその機能は使用されていない。金子機からの発信を、受信する事のみに、HDG 側の無線機能は使用されているのだ。
 金子機内で緒美達の通信音声のモニターが行われているのは、部隊間通信仕様のデータ・リンク経由で通信データが取得され、日比野が操作している記録器機の方で音声がスピーカーから出力されている。こちら側のデータの流れは、各 HDG 間は個体間通信仕様のデータ・リンクなのだが、HDG-B01 に接続されている飛行ユニットには部隊間通信仕様のアンテナが装備されており、それと金子機機内の記録器機とがデータ・リンクを確立しているのである。茜や緒美が発話した音声データは、個体間通信仕様のデータ・リンクでブリジットの HDG-B01 が取得し、そこから飛行ユニットの部隊間通信仕様のデータ・リンクで金子機の記録器機へと渡って、モニター出力がされているのである。
 少々、説明が錯綜したので整理すると、茜とブリジット、そして緒美の間での会話は全て、金子と金子機内の三名に聞こえているが、金子機機内での会話は茜達には聞こえていない。金子からの通話が茜達に聞こえるのは、金子が操縦桿のトークボタンを押した時だけ、と言う事である。
 そして、茜の発話が続く。

「飛行中のシールドの使い方を研究してたんですが、こう、身体の下に展開しておくと、抵抗が減るって言うか、揚力が稼げるみたいなんです。」

 その発言を受けて、金子と日比野が左側後方の HDG-A01 を確認する。すると、茜は左腕に接続されているディフェンス・フィールド・シールドを腹部の下へ配置して飛行していた。その姿は、サーフボードの上に腹這(はらばい)になっている様にも、金子には見えた。
 金子は、茜に言うのだった。

「あー、リフティングボディ…にしちゃ低速過ぎるから、凧の原理、かな?」

「はい。だと、思います。模擬戦の空域に着く迄(まで)、もう少し試してみます。」

「TGZ01、了解。」

 通信を終えた金子は、隣席の立花先生に声を掛けた。

「成る程、聞いてはいましたけど、研究熱心な子ですね、天野さん。」

「あはは、でしょう?…所で、金子さん。」

「何(なん)です?立花先生。」

「ちょっと思ったのだけれど。どうして天野さんには、『さん』付け? 緒美ちゃんでさえ、『鬼塚』なのに。」

「あー、鬼塚と新島は、去年の合宿で仲良くなったから、それ以来だけど…あれ?そう言えば、『城ノ内』、『ブリジット』って呼んでたっけ。ゴメンね、ノリで呼んでたわ。」

 そう金子が言うので、後席から樹里が言うのだった。

「わたしは別に、呼び捨てで構いませんけど。金子先輩、案外、天野さんみたいなタイプ、苦手なんじゃないですか?」

 その樹里の指摘に、一度、目を丸くした金子だったが、直ぐに笑って言葉を返した。

「あはは、かも、知んない。」

 そんな具合で三十分程が過ぎて、四機は海岸線から五十キロ程の日本海沖合上空に達したのだった。

 模擬戦実施予定の空域に到達したのは午後五時二十分を回ろうかと言う頃で、太陽の高度も西へ可成り低くなっていた。この日の日没は午後六時十五分頃の見込みなので、復路の飛行時間を三十五分程度と見積もると、日没までに学校へ帰還する為には二十分程で帰路に就かねばならなかった。
 HDG-A01 と HDG-B01 との模擬空戦は、空戦機動を行い乍(なが)ら、お互いの荷電粒子ビーム・ランチャーでロックオンをする、と言う方式で行われたのである。勿論、発砲はしない。
 色々な速度域で機動する相手を捕捉する感覚を、茜とブリジットの双方が体験、確認するだけで、三回戦分の十五分が、あっと言う間に過ぎ去ったのである。四機は再び集合して編隊を組むと、南へ向かう帰路に就いたのである。
 そもそもが HDG-B01 の、長距離飛行での挙動や、連続運転その物の確認が主目的であるので、模擬空戦それ自体は『オマケ』みたいな物である。HDG-A01 が随伴(ずいはん)して来たのも、模擬空戦の相手としての役割よりも、HDG-B01 にトラブルが発生した際の対応を考えての事であり、それはつまり、三度の実戦を熟(こな)して来た茜の HDG-A01 は、それだけの信頼を得ていたと言う事なのだ。
 そして四機が帰路に就いて間も無く、唐突に事態は訪れた。

「TGZ01 より全機へ。今、交通管制から連絡が入ったんだけど…。」

 金子が、通信で全機に呼び掛ける。

「…エイリアン・ドローンの編隊が、対馬の北東辺りから能登半島の方へ向かって、高度一万六千メートル、分速 13.4 キロで接近中だそうよ。真っ直ぐ来ると、今、わたし達が居る空域の上を大体、三十分後に通過する見込みだって事で、退避指示が来たわ。 ま、わたし達は該当空域を離脱してる最中だから、この儘(まま)、学校に向かって飛行を続ける以外に無いけどね。」

 その通信に対して、緒美が応じる。

「分速 13.4 キロで三十分って事は…。」

 緒美の独白の様な通信に、金子が答える。

「エイリアン・ドローン編隊の現在位置は、ざっと四百キロ西ね。ここを通過する三十分後には、わたし達は学校に着いてる頃だから、わたし達には影響は無いわ。高度も違うし、ね。」

 続いて、茜が発言する。

「九州北部のエイリアン・ドローン防空戦、まだ続いてたんですね。」

 そして緒美が、ブリジットに指示を出すのだった。

ボードレールさん、防衛軍の戦術情報、データ・リンクから取得出来る筈(はず)よ。念の為、確認してみてちょうだい。」

「はい、やってみます。」

 ブリジットの返答を聞いて、金子機の機内では、金子が隣席の立花先生に訊(き)くのだった。

「あんな事、言ってますけど。いいんですか?立花先生。」

「大丈夫よ、正式に許可は貰ってるから。」

 立花先生は微笑んで、そう答えたのだが、それを聞いた金子は、苦笑いを浮かべて言うのだった。

「ええ~、そうなんだ。」

 それから間も無く、ブリジットの声が返って来る。

「えーっと、何か表示は出ましたけど…すみません、どう見たらいいのか…。」

 ブリジットは、所謂(いわゆる)『兵器オタク』でも『軍事オタク』でもない、普通の十代女子である。だから行き成り「防衛軍の戦術情報を見ろ」と言われても、容易に理解が出来ないのは当然だった。困惑気味のブリジットの声に、緒美は指示を茜に振り直すのだった。茜と緒美とは『その辺り』の知識レベルが、同等だったからだ。

「天野さん、あなたの方でも、戦術情報が見られるわよね?」

 戦術情報は、部隊間通信仕様のデータ・リンクで情報共有がされているのだが、部隊間通信に参加出来る機体が編隊内に存在すれば、その機体をハブとして個体間通信のデータ・リンクでも戦術情報を利用可能である。
 緒美に言われる迄(まで)もなく、戦術情報をチェックしていた茜は、ブリジットに声を掛ける。

「ブリジット、表示は戦術情報画面、TIS よね?」

 茜の言う『TIS』とは『Tactical Information Screen』の頭文字で、訳すると『戦術情報画面』である。ブリジットは答えた。

「そう、TIS 表示。」

「モードは、HSI? それとも、MAP(マップ)?」

 『HSI』とは『Horizontal Situation Indicator:水平状況表示器』で、『MAP(マップ)』は文字通り『地図』の事だ。

「えーと、HSI モード。」

「HSI だと、表示の中心が自分で、自分が向いてる方向が上になるわ。今、わたし達は南向きに飛んでるから、画面表示の上が南で、下が北になるの。表示の右上に、倍率のスライダーが有るから、それで情報を見られる範囲が調節出来るけど…位置関係を確認するなら、『MAP(マップ)』モードの方が理解し易いから、モードを変えて。」

 ブリジットは茜のアドバイスに従って、ヘッド・ギアのスクリーンに表示されている TIS のモードを、『MAP(マップ)』へと変更する。

「『MAP(マップ)』へ変更したわ、茜。」

「オーケー、先(ま)ず、画面の中央付近に赤い丸のシンボルがあるでしょ?それが自分よ。HSI モードと同じで、右上にスケール調整スライダーが有るから、倍率を下げて広い範囲が見える様に、対馬の辺り迄(まで)、表示される様に調整してみて。」

 ブリジットは、茜の指示通りに、表示を調整してみる。因(ちな)みに、視線に因るカーソルのコントロールと、思考制御での選択決定の組合せで、操作は行われている。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第13話.08)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-08 ****


 茜の目標は、先(ま)ずは高度千五百メートルである。スラスター・ユニットが発生させる推力のみで上昇して行く茜の HDG-A01 では、その高度に到達するのに凡(およ)そ三分を要した。一番最初に離陸した金子機は、パイロットである金子自身を含めて四人を乗せているが、既に目標高度に達して学校の敷地上空を旋回していた。緒美のレプリカ零式戦は、原設計が旧式であるとは言え流石に戦闘機である。単座であるレプリカ零式戦のレシプロ・エンジンは、四人を乗せた金子機のターボプロップ・エンジンに比して凡(およ)そ倍の出力を発する能力を持ち、悠悠(ゆうゆう)と金子機に追い付いていた。
 ブリジットの HDG-B01 は、茜より一足先に目標高度に達し、編隊へと合流している。緒美の零式戦は金子機の左斜め後方に位置し、その左斜め後方にブリジットが着いていた。地上では翼を後方へ折り畳んだ飛行ユニットを背負っている様な HDG-B01 だが、その飛行中の姿は、飛行ユニットの展開した翼の下に、HDG-B01 が吊り下げられている様に見える。
 茜はブリジットの左斜め後方へと自(みずか)らの位置を定めた。
 これは昨日の打ち合わせの通りで、右前方から金子-緒美-ブリジット-茜の順に、斜めに並んだ編隊を形成したのである。
 茜の HDG-A01 が一番後方なのは、その位置が編隊の中で、先導機が気流を掻き分ける影響を受けて、抵抗が最も小さくなるからだ。HDG-A01 は編隊の中で飛行性能が最も低いのだが、それは勿論、飛行する事を前提に設計された訳(わけ)ではないから当然なのである。

「TGZ01 より全機へ。皆(みんな)、揃(そろ)ったわね。」

 四機は編隊を維持した儘(まま)、編隊長機である先頭の金子機に従って、緩やかな左旋回を続けている。金子からの通信が続く。

「皆(みんな)、上手よ、編隊を組むの。 この儘(まま)、左旋回を維持して、北へ向いたら直進よ。」

 間も無く、四機は北向きの直線飛行に移行した。

「TGZ01 より全機へ。じゃ、速度上げるわね。スピードを 3.1 にセット。」

 長らく、航空業界では高度の単位に『フィート』を、速度の単位に『ノット』を用いて来たのだが、この時代には、航空業界も国際単位に移行している。その為、高度は『メートル』、速度は『毎分キロメートル』で表すので、金子が言う『スピード 3.1』とは分速 3.1 キロメートルの事であり、それは時速 186 キロメートルである。ここで速度が『時速』ではなく、『分速』で表されているのは何故か?と、言うと。ジェット機等(など)の高速機では、時速だと数値が大きくなるので通信で伝え辛い、と言うのが第一の理由。第二に、余裕の少ない局面では時間単位よりも、分単位での移動距離を考える場合の方が多いので、これは特に交通の混雑する空港周辺空域に於いて顕著なのだが、分速での情報を共有している方が未来位置の見当が付け易い、との理由からなのだ。
 航空業界での単位移行に関しては、当然、米国が強力に抵抗したのだが、それに対して欧州諸国が単位変更を強行したと言うのが大きな経緯である。それから十年間程、欧州では『メートル』と『毎分キロメートル』が、米国では従来通り『フィート』と『ノット』が、それぞれの地域で主に用いられ、必要に応じて二つの単位系が併用されたのである。民間航空の国際線では幾度となく、それを原因として事故に至る一歩手前の状況が発生する等、混乱も引き起こされた。
 因(ちな)みに、欧州が単位変更を強行したのは、米国と欧州との航空機メーカー間のシェア争いが、そもそもの原因である。欧州側の立前としては、業界に依って旧単位から国際単位への転換が一向に進まない状況に業を煮やして、と言う事だったのだが、実情としては欧州側が航空業界の単位を転換する事で、それに対応しない米国製の航空機や関連施設機材を欧州地域から閉め出そうと企図したのだ。一方で米国側は、当初は単位移行に抵抗をしていたものの、米国の航空機メーカーも欧州向けの製品に就いては国際単位に対応せざるを得ず、そうなると自国内の為だけに旧単位を維持しているコストが馬鹿にならなくなり、最終的には米国航空業界も国際単位への全面移行を余儀なくされた、と言うのが事の顛末である。
 この件、当時の日本の対応は、と言うと。当初の五年程は米国に付き合って、『フィート』と『ノット』の旧単位を維持していたものの、様々な負担と不都合との兼ね合いで、結局は米国よりも先に単位移行に舵を切ったのだった。
 実の所、日常生活での単位として『メートル』や『時速キロメートル』を使用している国々としては、航空業界だけが『フィート』や『ノット』を使用し続ける事を問題視していたのだ。丁度(ちょうど)、『空飛ぶ自動車』的な乗り物を次世代産業として普及させようと推進していた事情も有り、航空行政に用いられる単位が国民一般に馴染みの無い『フィート』や『ノット』で規定されているのが、航空業界を除く産業界としては不都合だったのである。
 ともあれ、米国が国際単位の使用に移行して二十年以上が経過した現在では、単位に関する大きな混乱は、既に落ち着いている。

「TGZ01 より、HDG01 と HDG02。何か、正面付近が発光してるけど、大丈夫?」

 速度が、金子が設定した分速 3.1 キロメートルに達して直ぐ、金子が通信で尋ねて来た。茜とブリジットの飛行する前方の空間に、青白い薄膜状の、ぼんやりとした光が浮かんで見えるのだった。
 茜が、回答する。

「ああ、大丈夫です。ディフェンス・フィールドのエフェクト光です。」

「ディフェンス・フィールド?」

 聞き返す金子に、緒美が説明するのだった。

「荷電粒子を利用した、バリアみたいな物よ。今、見えてるのは、飛行中にぶつかって来る空気に反応して、防御効果が発生してるの。フィールドは滑らかな球形だから、これを使ってると空気抵抗が減るのよ。」

「大体、時速 120 キロ…分速だと 2 キロ辺りから、薄(うっす)らと光り出すんですよね。」

 飛行中にディフェンス・フィールドを有効にすると空気抵抗が減るのは、茜が HDG-A01 での飛行テスト時に偶然発見した事柄で、元々から意図されていた物ではない。この発見から、飛行中のディフェンス・フィールドの形状は、単純な球形から砲弾型やライフル弾型へと、速度に応じて変化させる等の対応が行われているのだ。又この時、フィールドの内側では風速や風圧が可成りの程度減じられるので、高速飛行時の HDG の装着者(ドライバー)の呼吸のし易さ等の各種負担が、相当に軽減されるのだ。

「オーケー、問題無いのなら、いいわ。取り敢えず、わたしと HDG01 は現在の速度を維持。この儘(まま)、五十キロ北上すれば日本海に出られるから、そこから更に五十キロ海上を北に進むわよ。時間的には、ざっと三十二分ね。」

 金子の通信を受け、茜が応える。

「HDG01、了解です。」

 茜の返事を聞いて、金子が通信を続ける。

「TGZ02 と HDG02 は、ここから高速飛行試験の予定だけど、問題は無い?」

 緒美とブリジットが、金子に応える。

「TGZ02、問題無し。」

「HDG02、わたしも大丈夫です。」

「HDG02、ブリジットは、こんな風に飛行するのは初めての筈(はず)だけど、大丈夫? 怖くない?」

 金子の問い掛けに、ブリジットは笑って答えるのだった。

「あはは、そうですね、この高度だと、もう現実感が無くって。もっと地面が近い方が、怖い感じがしますね。」

「あははは。あなた、なかなか好(い)い度胸してるわ、ブリジット。あなたも操縦士免許、取ってみない?」

「それは、遠慮しておきます。」

 金子の誘いを、即答で断るブリジットだった。

「そおか~それは残念。 さて、それじゃ鬼塚、高速飛行試験の方は任せるわね。」

「TGZ02、了解。これより編隊を離脱して、高速飛行試験を開始します。ボードレールさん、わたしの横に、付いて来てね。」

「HDG02、了解。」

 緒美が操縦するレプリカ零式戦がエンジンの出力を上げ、すうっと前方へ、編隊から抜け出して行く。ブリジットの HDG-B01 も飛行ユニットの出力を上げて、それを追い掛ける。

「打ち合わせでも言ったけど、この機体の最高速度は分速 8.5 キロ位だから、今日の確認はそこ迄(まで)よ。少しずつ加速していくから、わたしの横から離れないように。 時々、此方(こちら)の速度を読み上げるから、その後、ボードレールさんの方の速度を確認の為に読み上げてね。」

「HDG02、了解。TGZ02 に併走します。」

 分速 8.5 キロメートルは、時速 510 キロメートルである。HDG-B01 の飛行ユニットでの最高速度は、時速 800 キロメートル辺りが設計上の仕様値なのだが、実際に出せる最高速度を確認する前に、速度を上げていって振動や操作上の不具合が発生しないかを、時速 500 キロメートル付近迄(まで)で加速して確認するのが、今日の高速飛行試験の目的である。
 所で、HDG-B01 の最高速度の目標が時速 800 キロメートルなのは、エイリアン・ドローンの大気圏内で観測されている最高飛行速度が、大凡(おおよそ)その位であるからだ。
 因(ちな)みに、金子が操縦する軽飛行機の最高速度は凡(およ)そ時速 250 キロメートル、茜の HDG-A01 の最高飛行速度は時速 200 キロメートル程度である。そもそもが、そんな速度で飛翔する予定ではなかった HDG-A01 の為に、時速 200 キロメートル迄(まで)の加速が出来る様なスラスター・ユニットを敢えて設計した天野重工本社の設計陣は、或る意味、鬼であると言えよう。

「おー、離される、離される。」

 操縦席で、金子は同高度で水平に加速して前方へと離れて行く緒美のレプリカ零式戦と、ブリジットの HDG-B01 を見送り乍(なが)ら言うのだった。

「TGZ01 より、HDG01。天野さん、二人が居なくなったから、わたしとの距離を詰めなさい。気流の安定してる所を探してね。」

「HDG01、了解です。」

 茜からの返事を聞いて、一度、斜め後方の茜の挙動を確認し、金子は再び前を向いて、隣の席に座っている立花先生に話し掛けた。

「しかし、立花先生。初飛行の翌日に、行き成り長距離飛行に放り込むなんて。 新規開発の機体なら尚更、ちょっとずつ距離を伸ばしていった方がいいんじゃないです?」

 その問い掛けに、立花先生は普通の調子で答えるのだった。

「まぁ、HDG 本体は、天野さんのと大差は無いから。 飛行ユニットの方は、本社で十分(じゅうぶん)、ランニング・テストを実施して確認済みだし。」

 その時、緒美がブリジットに対して、現在速度を読み上げる声が、機内で聞こえるのだ。

「TGZ02、現在速度 3.5。」

 すると、それに応えてブリジットも速度表示を読み上げる声も又、聞こえて来る。

「HDG02、現在速度 3.5。」

 自分に対しての通信ではないので、金子は二人の声を無視して、立花先生に言葉を返すのだ。

「いやいや、幾ら地上のテスト・リグでランニングさせてても、実際に飛ばすと思わぬトラブルが出たりしないか、心配ですよ。」

 そう言って不安がる金子に、その後席から、記録器機の端末を操作している日比野が声を掛ける。

「外見は随分(ずいぶん)と違うけど、B号機の飛行ユニットと、A号機のスラスター・ユニットの制御系、内容は、ほぼ同じだから。A号機の方で十分(じゅうぶん)にデータが取れてるから、信頼して呉れていいわ。」

「そう言うもんですか~。まぁ、信頼はしてますけど。 勿論、本社の方(ほう)でも自信が有るから、今日、こうやって試験している訳(わけ)ですよね?」

 少し引き攣(つ)った様に笑いつつ、金子は尋(たず)ねる。その問い掛けには、立花先生が答えた。

「まぁ、そう言う事ね。 所で、樹里ちゃん、ログはちゃんと取れてる?」

 立花先生は少し身体を捻(ひね)って、後席の樹里に問い掛けた。そこで再び、緒美とブリジットの通信音声が機内に響く。

「TGZ01、現在速度 3.8。」

「HDG02、現在速度 3.8。」

 緒美とブリジットの、互いの速度を確認する通信は、その後も定期的に機内で聞かれるのだった。
 その一方で、樹里は膝の上に乗せたモバイル PC のディスプレイを注視した儘(まま)、立花先生に答えた。

「はい、大丈夫ですよ。現在、B号機の速度は順調に加速中です。返って来てるログの方に、異常値は無いですね。」

「城ノ内~そのログ、だけどさ。」

 金子が前を向いた儘(まま)、樹里に問い掛ける。樹里は相変わらず、ディスプレイから目を離す事無く応える。

「何(なん)ですか?金子先輩。」

「昨日、訊(き)き忘れたんだけどさ。どうやって、受信してるの?」

「ああ、防衛軍仕様のデータ・リンクですよ。昨日、臨時にアンテナを、この機体に付けさせて貰ったじゃないですか、アレです。」

「防衛軍のデータ・リンク?」

 聞き返す金子に、樹里は何でも無い事の様に説明を返す。

「はい。普段は、個体間通信のを使ってるんですが、それだと半径十キロから二十キロ位迄(まで)しか届かないので。昨日、この機体に取り付けたのは部隊間通信が出来る仕様のヤツです。これだと、防衛軍のネットワークが利用出来るので、日本国内でなら、どこででもデータ・リンクが確立出来るんです。」

「何(なん)か、凄い事、さらっと言われた気がするけど。 防衛軍のネットワークなんか勝手に使って、大丈夫なんです?立花先生。」

 そう問い掛けられた立花先生も、何でも無い様に答えるのだった。

「勝手に、じゃないわよ。ちゃんと許可は取ってあるから、大丈夫。」

 その後席から、日比野が補足するのだ。

「防衛装備の開発試験用に、天野重工に割り当てられてる領域が有るのよ。細かい事は、社外秘なんだけど。」

 日比野の説明を聞いた金子は、呆(あき)れた様に言うのだった。

「改めて、兵器開発部って、とんでもない活動(こと)やってるのね~。鬼塚が前に言ってた、本社からの業務委託って意味が、やっと理解出来た気がするわ。」

 そこで緒美から、金子への通信が入るのだ。

「TGZ02 より TGZ01。現在速度、分速 5 キロにて、機首方位 0 へ飛行中。予定通り、左旋回して、其方(そちら)の左側を通過します。」

「TGZ01、了解。」

 緒美達からの通信音声は、機内でモニターが可能な様に設定してあるので、先程来、立花先生や日比野、そして樹里にも聞こえている。但し、通信を送る事が出来るのは、金子のみである。一方で、編隊から離れている HDG-B01 の様子を把握出来るのは、後席でデータを監視している樹里と日比野の二人だった。

「はい、HDG02、ブリジット機が速度を維持した儘(まま)、大きく左旋回を始めました。」

 樹里が、HDG-B01 の状態を報告する。続いて、日比野が HDG-B01 の機首方位を読み上げる。

「HDG02 の機首方位、現在 350…320…290…。」

 機首方位とは、文字通り機首が向いている方向の事で、機首方位 0 が機首が磁北へ向いている姿勢を表す。機首方位 350 は磁北に対して時計回りに 350°、つまり機首が西側に 10°向いている状態を意味している。北向き(機首方位 0)に飛行していた HDG-B01 の機首方位の値が段々と小さくなっているのは、西側へ機首の向きが変わっているからで、つまり左旋回をしているのだ。最終的に、機首方位が 180 になれば、機首の向きが南側に向いた事であり、180°旋回の完了を意味する。
 ブリジットの HDG-B01 は三十秒足らずで 180°の旋回を終え、金子機達とは進路が対向する状態となった。HDG-B01 は緒美の操縦するレプリカ零式戦と併行(へいこう)している筈(はず)なので、当然、レプリカ零式戦の進路も金子機達と対向しているのだ。
 そして、約一分程の後、左前方から接近する二機の機影を、金子は発見した。

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第13話.07)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-07 ****


「それじゃ、わたしと、さやと、同じ様な感じか。何と無く、分かったわ。」

 金子は、『武東 さやか』を、名前の上二文字のみで『さや』と呼ぶのである。

「そうなの?」

 緒美の短い問い掛けに、金子は答える。

「そうよ~。さやと同じ学校に行きたくて、わたしはここを選んだんだし。飛行機部に関しては、さやの方が付き合って呉れてるんだけどね。ねぇ、さや。」

「まぁね。わたし達も、中学からの付き合いなのよ。」

 金子に応えて、そう語った武東は、微笑んで恵に問い掛ける。

「あなたも、鬼塚さんとは中学からの付き合いだって聞いてるけど?森村さん。」

「そうね。」

 取り敢えず、同意する返答をした恵だったが、武東が『付き合い』と言う言葉に込めたニュアンスを理解した恵は、言葉を続けた。

「でも、事情は同じ様に見えても、三者三様で、関係の質は随分(ずいぶん)と違うみたいよ、武東さん。」

「そうなの?」

「ええ。」

 そこで金子が、恵と武東の遣り取りに参加して来る。

「あ、何(なん)か、二人で難しい話してない? わたしも、混ぜてよ。」

 一方で、その様な機微に触れる会話には無頓着な緒美が、少し困惑気味に、恵に尋(たず)ねるのだった。

「どう言う事?」

 その問いに対して、少し許(ばか)り答えに窮(きゅう)する恵よりも先に、笑顔で金子が言うのだ。

「あ、その手の話は分からない方が、鬼塚らしくっていいって。」

「そう言う話?」

 と、金子にではなく、緒美は恵に問い掛ける。恵は力(ちから)無く笑って、答えるのだった。

「そうね。大して意味の無い話よ。」

「そう? なら、いいけど。」

「あはは、そうそう。わたしは、細かい事を気にしない鬼塚が好きよ~。」

 笑って、そんな事を言う金子へ、少し睨(にら)む様な視線を向けて緒美は言い返す。

「それは、わたしが無神経だって言いたい訳(わけ)?金子ちゃん。」

「そんな事は言ってないでしょ。わたしは、友達と、言葉の裏を読み合う神経戦なんか、したくないだけよ。」

「それは同感、だけど。」

「でしょ?」

 そんな会話をしていると、武東が金子に声を掛けるのだった。

「所で、部長。 そろそろ、戻りませんか?」

「ん?ああ、そうね。部活の途中で抜け出して来てたんだった。余り、ほったらかしにも出来ないよね。」

 金子は武東の傍(かたわ)らへと移動すると、くるりと身体の向きを緒美の方へと変え、言った。

「長居しちゃったわね。じゃ、また。」

 緒美は頷(うなず)いて、応える。

「ええ、明明後日(しあさって)のフライトの方、宜しくね、金子ちゃん。」

「うん、任せといて。わたしも楽しみにしてる。また、フライトの前日にでも、最終打ち合わせ(ブリーフィング)しましょう。じゃあね~。」

 二人は手を振ると、格納庫の外に止めてある、自転車へと向かったのだ。
 金子と武東の二人を見送り、その姿が見えなくなった頃、緒美は恵に尋(たず)ねた。

「森村ちゃんは、あの二人とは、余り馬が合わないかな。」

「今迄(いままで)、余り話した事は無かったけど。大丈夫、仲良くなれそうよ。」

「そう、なら良かった。」

 恵が微笑んで答えるのを見て、緒美も笑顔を返したのである。

 その後、第三格納庫内では、HDG-B01 の点検終了に続いて、飛行ユニットの接続と取り外しを実施、確認をして、その日の作業は終了となったのである。終了の時刻は、午後七時の少し前だった。


 翌日、2072年9月6日・火曜日。天野重工の試作工場から来ていたスタッフ達は、大型のトランスポーター二輌に分乗して、午前中に天神ヶ崎高校を出発したのである。二日目以降、学校に残ったのは、本社から来ている実松課長と日比野、そして試作工場から来ている畑中と大塚の四名である。この四人は、四日目の長距離飛行試験までの立ち会いを済ませて、それぞれが会社へ戻る予定となっている。残された中型のトランスポーターには整備用の工具や機材が積まれており、畑中と大塚は試運転に於ける、トラブル対応要員なのである。又、残されたトランスポーターは、山梨県に在る試作工場へ戻る足でもあるのだ。その帰路には、畑中と大塚の二人が、交代で運転をする事になる。
 一方で、東京の本社へと戻る、実松課長と日比野の二人は、四日目の作業終了後に、会長である天野理事長と共に社用機で移動する段取りとなっていた。

 さて、二日目のメニューは、と言うと。ブリジットの HDG-B01 は予備のバッテリーに交換して、茜の HDG-A01 と地上での模擬戦を中心に、機動動作と消費電力量の確認が行われたのだ。
 模擬戦は、主としてブリジットの慣熟を目的に行われたもので、接近戦用武装の取り回しを確認する事が同時に行われた。これに関して、HDG-A01 側には特に制限は無く、ホバー機動や低空飛行からの斬撃による攻撃等(など)、エイリアン・ドローンからの攻撃を模しての、一時間程の模擬戦が行われたのだった。
 因(ちな)みに、茜や緒美達は昼間は授業を受けなければならないので、その間の時間を畑中達は、飛行ユニットの試運転や点検、整備に充(あ)てたのだ。
 ともあれ、二日目のメニューは、特に問題も無く消化されたのだった。


 三日目、2072年9月7日・水曜日。この日は日中に、畑中達の作業で HDG-B01 には、再度、飛行ユニットが接続された。日比野も参加して、その機能点検やソフトウェアのチェックが実施され、放課後からはブリジットが HDG-B01 を装着しての運転試験が開始されたのだ。
 ブリジットは、飛行ユニットが接続された状態でメンテナンス・リグから格納庫の床上に降ろされ、歩行、駆け足からの走行、ジャンプ等での取り回しを、順次確認していった。一通りの確認を終え、地上での行動に慣熟した後、飛行ユニットのエンジン出力を上げて、ホバリングやホバー機動のテストが実行された。
 最初は、主に駐機場(エプロン)でのホバー機動にて、加速や減速、浮揚しての方向転換等の慣熟を実施したのである。その後、滑走路に場所を移して高速ホバー機動の試験を実施している最中(さなか)、高度五メートル程に機体が浮き上がる事態が発生したのだ。それを以(もっ)て、HDG-B01 の飛行ユニットでの、揚力に因る初飛行が記録されたのだった。因(ちな)みに、その際の飛行距離は凡(およ)そ百メートルである。
 その後、滑走路上空での上昇、降下、旋回等の機動を確認し、低空にてエンジン出力を絞っての滑空からの着陸を反復して実施した。高度は最初、三メートルから、五メートル、十メートルと、段階的に増やしていき、最終的には三十メートルからの滑空と着陸迄(まで)を行い、その日の試験は終了となったのである。

 試験の結果としては、確認の出来た低空での飛行性能や操作性は、設計仕様に合致しており、航空機の操縦経験の無いブリジットにも、身体感覚の延長上で十分(じゅうぶん)、コントロールが可能である事が確認されたのだ。
 試験運転の終了後には、当然、畑中達に因って点検がされ、その一方で緒美達は飛行機部の金子を加えて、翌日の長距離飛行試験の打ち合わせを行ったのである。
 又、緒美のみは単独で、飛行機部が所有する、PC 利用のフライト・シミュレーターにて、翌日のチェイス機操縦の予習として、離着陸操作の確認を行ったのだった。


 そして四日目、2072年9月8日・木曜日である。緒美や茜達、特別課程の生徒は七時限目の授業を終えてから、部活動へと集まって来ていた。
 この日は当初の予定通り、HDG-B01 の長距離飛行試験を実施するので、茜とブリジットは早早(そうそう)にインナー・スーツへと着替え、それぞれが HDG を装着したのだ。通信の設定を確認し、茜とブリジットの二人が格納庫の外へと出ると、第三格納庫前には二機の飛行機がエンジンを始動させて、既に待機していた。一機は飛行機部の部長、金子が操縦する四人乗りの軽飛行機で、もう一機は天神ヶ崎高校の実習授業で製作された零式戦闘機のレプリカである。普段は第二格納庫に格納されているそのレプリカ機は、管理や整備は飛行機部が行っており、年に数回は飛行機部に因って飛行も実施されているのだ。
 その零式戦の傍(そば)には、茜とブリジットの同級生である村上の姿も在った。村上は零式戦の操縦席に収まった緒美に書類が挟まれたボードを渡し、二言三言を交わした後に、胴体から突き出ていた搭乗用のグリップやステップを格納し、車輪止めを外して機体の後方へと離れて行った。そして、茜とブリジットに向かって手を振っているので、茜とブリジットも右手を挙げて応えたのだ。
 金子が操縦する軽飛行機の方には、前席へは立花先生が、後席には記録用の機材と PC を持って日比野と樹里の二人が乗り込むのが見える。その左隣では、緒美が零式戦の各舵を動かして、操縦系統のチェックを行っていた。
 そして通信にて、金子の声が聞こえて来る。

「TGZ01 より全機へ。それじゃ、昨日のブリーフィングの通り、16時45分テイク・オフで。TGZ02 は、わたしに続いて離陸してね。あとの二人は、滑走路は使わないみたいだから、TGZ02 が離陸したら各個で上がって来てちょうだい。 一応、わたしが編隊長として交通管制とは遣り取りするから、皆(みんな)、わたしの指示には従ってね。」

「TGZ02、了解。」

 金子の通信のあと、緒美の声が聞こて来た。『TGZ02』とは、このフライトでの緒美のコールサインである。
 続いて、ブリジットが応える。

「HDG02、了解。」

 少し慌てて、茜も応えるのだった。

「HDG01、了解です。」

 今迄(いままで)、『了解』と返事をする文化の無かった兵器開発部のメンバー達だったが、今日の試験での通信ではその様に応えると取り決めたのは、昨日の打ち合わせでの事である。
 三人の少々ぎこちない返答に、少し笑った様な金子の声が、もう一度、聞こえて来た。

「オーケー、じゃ、出発するわよ。忘れ物は無いわね~。」

 間も無く、金子機のエンジン音が一段、甲高くなると、その機体はゆっくりと滑走路へと向かって前進を始めた。金子機が誘導路へと入ると、続いて緒美の操縦する零式戦もエンジンの出力を上げ、誘導路へ向けて前進を始めるのだった。
 金子の操縦する機体と緒美の機体は、同じく単発のプロペラ機だったが、そのエンジン音は可成りに異質だった。何方(どちら)も現代風に水素を燃料として稼働していたが、緒美の零式戦はシリンダーとピストンによる往復機関(レシプロ)エンジンで、金子の操る機体はターボプロップ・エンジンを搭載しているのだ。
 茜とブリジットが、誘導路から滑走路へと移動する二機を見送っていると、飛行機部部員達の一列から離れた村上が、茜達の元へと駆け寄って来た。

「凄いね、二人のそれ。近くで見たのは、初めてだけど。」

 そう言って、村上は二人の周囲をぐるりと回って話し掛けて来る。

「あ、敦(あっ)ちゃん、わたし達の後側、注意してね。スラスターのエンジン、稼働してるから。排気で火傷すると、いけないから。」

「うん、気を付ける。ありがとう、茜ちゃん。」

 そして二人の前側に戻って来た村上は、ブリジットに問い掛けるのだ。

「ブリジットの方、飛行ユニットが重そうだけど。それで、立っていられるの平気?」

「ああ、これ。バランスだけ気を付けてれば、重量は HDG が支えて呉れてるのよ。」

「へえ~。 茜ちゃんの方も装備が凄いって言うか、少し物騒よね。」

 そう言われた茜の HDG-A01 の装備は、右腰の兵装ジョイントに荷電粒子ビーム・ランチャー、左腰側にビーム・エッジ・ソード、そして左腕にはディフェンス・フィールド・シールド、更に、スラスター・ユニットには長時間飛行用の増加燃料タンクを装着と言う具合に、ほぼフル装備の状態だったのだ。

「一応、ブリジットのB号機と、空中での模擬戦も予定されてるからね。」

 その茜の答えは事実だったが、模擬戦で使用する予定の無いビーム・エッジ・ソードの携行に就いては、以前の陸上防衛軍との模擬戦の際の経験を鑑(かんが)みた結果である。
 実はこの時、一時間程前から九州の北西空域で、航空防衛軍とエイリアン・ドローンが交戦状態であると報じられていたのだ。天神ヶ崎高校が所在する地域では避難指示の発令や、警戒情報等は発表されていなかったが、用心に越した事は無いと誰もが思っていた。勿論、自ら戦闘に飛び込んでいく気は、茜にも無かったが、此方(こちら)側の意に反して襲撃される可能性は否定出来なかったのだ。
 村上と、そんな会話をしている内、最大出力にセットした金子機が西向きに滑走を始め、滑走路の真ん中付近で、ふわりと空中に浮き上がるのだった。その儘(まま)上昇を続けた後、滑走路の西端を飛び越えた辺りで着陸脚を収納しつつ左旋回を始め、更に上昇して行った。続いて、緒美が操縦するレプリカ零式戦が滑走を開始する。此方(こちら)も、あっという間に軽々と地面を離れると、着陸脚を収納し乍(なが)ら、金子機を追う様に左旋回をしつつ、上昇して行った。

「それじゃ、わたし達も追い掛けますか、ブリジット。」

「うん。 HDG02 より TGZ01。これより離陸します。」

 そう通信で通告するブリジットに、金子の返事が聞こえる。

「TGZ01 了解。此方(こちら)は、上空で合流まで待機します。」

 その通信は、勿論、茜にも聞こえていて、茜はブリジットから西側へ少し離れ、村上に声を掛けた。

「敦(あっ)ちゃん、ジャンプするから、わたし達から離れててね。」

「うん、行ってらっしゃい。気を付けてね。」

 村上は胸の前へ突き出した両の掌(てのひら)を、左右に振り乍(なが)ら後退(あとずさ)りして行く。

「うん、また後でね。」

 茜は右手を挙げて振り乍(なが)ら、村上が十分(じゅうぶん)に離れたのを確認して、南側に向き直った。

「HDG01 離陸します。」

 そう、通信で通告して少し身を屈(かが)めると、茜は地面を思いっきり蹴って、直上にジャンプした。そして、スラスター・ユニットの出力を上げ、更に上昇して行くのだった。

「HDG02 離陸します。」

 茜のヘッド・ギアに、ブリジットの声が聞こえる。
 ブリジットの HDG-B01 は、飛行ユニットに因るホバリングで地表から離れると、低空での水平飛行へと遷移し、滑走路上空を西向きに進み乍(なが)ら加速して、金子機と同じ様に左旋回と上昇を始めるのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第13話.06)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-06 ****


 そうして、緒美と恵、直美、金子と武東の五名はB号機用の飛行ユニットが吊り下げられた、メンテナンス・リグの前へと立ったのである。

「大きさ的には、ハンググライダー位(くらい)かしら、形状的にも。」

 武東の第一声である。続いて、金子は飛行ユニットの周囲を、機体を見上げ乍(なが)らぐるりと一周しつつコメントする。

「そうね。でも、エンジンが付いてるし、エルロンやフラップらしき機構も見えるね。」

 緒美の立つ場所へ戻って、金子は緒美に話し掛ける。

「空力的に飛びそうな形よね、鬼塚。 あの赤いヤツのよりは、わたし達には馴染み深い感じで、いいわ。」

「ああ、A号機のは、完全に推力だけで飛んでるから。B号機用のは、機動にも空力を利用するから、燃費もいい筈(はず)なのよ。」

「でしょうね。これで、どの位、飛べるの?」

「燃料はA号機の倍、積むんだけど。仕様上は、それで二時間位(ぐらい)。因(ちな)みに、A号機の航続時間は三十分程度ね。」

「三十分? それじゃ、大して役に立たないじゃん。」

 その金子のコメントに、直美が反応する。

「いやいや、A号機は、そもそも飛行する仕様じゃなかったから。地表をホバー走行したり、ジャンプの補助程度にスラスター・ユニットを使う構想だったの。」

 続いて、緒美が説明する。

「基本的に、A号機のジェット・エンジンは、電源としての役割がメインだった筈(はず)なのよ。」

「それにしては、派手に飛び回ってたじゃない?」

 その金子の問いに、緒美は苦笑いで答えるのだった。

「これの基礎データを集める為に、敢えてA号機のスラスター・ユニットを、オーバー・スペックで設計したらしいのよね、本社の人が。 これは、あとで聞いた話だけど。」

「うっわぁ~予算、大丈夫だったのかな?」

「さあ、当初の予算の枠からは出てない、って実松課長からは聞いてるけど、実際の所は知らないわ。 まあ、でも、A号機の飛行性能のお陰で、実際に助かった局面も有るのは事実だし。その意味では、本社の設計課の人には、先見の明が有ったって事よね。」

「へぇ~。」

 感心気(げ)に声を漏らす金子の一方で、武東が緒美に尋(たず)ねる。

「所で、これ、どうやって操縦するの?」

「ああ、ドッキングした HDG 側から、思考制御で、ね。」

 緒美の、その答えに、金子が聞き返す。

「思考制御って、スロットル何パーセント、エルロン何度、って操縦系統の動作を頭の中で考える訳(わけ)?」

 緒美はくすりと笑って、答える。

「まさか、そんな煩雑(はんざつ)な事はしないわよ。 装着者(ドライバー)が考えるのは、例えばスピードなら、加速とか減速。高度なら、上昇とか下降。あとは姿勢とか、飛行経路とか、そんな要素を HDG の AI が読み取って、直接の必要な操縦制御は AI が自律的に実行するの。」

「そんなので、上手くいくの?」

 訝(いぶか)し気(げ)に尋(たず)ねる武東に、直美が答える。

「実際に、A号機はその制御方法で、空中機動が出来てるよ。」

「本社の開発じゃ、軽飛行機の操縦系統を改造して、思考制御と AI の組合せで操縦が出来るかに就いて、検証済みだそうよ。こっちの機体での実機検証は、明後日(あさって)から、だけど。先(ま)ずは低空や滑空で試験し乍(なが)ら、段々と高度を上げていく予定なの。」

 緒美の補足説明を聞いて、不審気(げ)に金子は呟(つぶや)く。

「AI の自律制御かぁ~。」

「心配は要らないわ、HDG 本体の手足を動かしてるのだって、或る意味、AI に因る自律制御なんだし。」

 その緒美の発言に、意外そうに武東が聞き返す。

「え? あれは、人が動かしてるんじゃないの?」

 武東の問いに、直美が笑って答える。

「あはは、人の力(ちから)じゃ FSU を動かすのは無理だよ。」

「FSU?」

「フレキシブル・ストラクチャー・ユニット。 ほら、あの手足や腰の部分を繋げてる、リボン状のパーツ。」

 直美は、メンテナンス・リグに接続され、茜やブリジットが接続を解除しようとしている HDG を指差して、武東と金子に説明する。

「あのパーツが曲がったり、伸びたりして、全体として人の動きを再現する訳(わけ)なんだけど…。」

 続いて、緒美が発言する。

「要するに、AI が装着者(ドライバー)の動きたい様に、FSU を動かしてる、って事ね。」

「ちょっと待って…。」

 金子が、声を上げる。

「…その話の流れじゃ、中に人が入ってる必要が無いんじゃないの? 動きの指示なんて、遠隔操作でも出来る訳(わけ)でしょ?」

 その意見には、緒美は苦笑いで答えるのだった。

「う~ん、通信の届く距離とか、それに因るディレイとかが無視出来れば、それも有りよね。実際には、それが無視出来ないんだけど。」

 緒美に続いて、今迄(いままで)黙っていた恵が発言する。

「それに、状況判断とか意志決定とか、今の AI じゃ、まだ人間には敵(かな)わないみたいよね。」

「ああ~、夏休み中に、AI に戦闘シミュレーションをやらせてたんだけど、最初は全然ダメだったのよね。」

 恵の発言を受けての、直美のコメントに、金子は呆(あき)れた様に言うのだった。

「あんた達、そんな事やってたの?夏休み中。」

「ええ~、話したじゃん、寮で、夕食の時。」

 直美に、そう言われて、金子は武東に確認する。

「そうだっけ?」

「うん、聞いた覚えは有るわ。わたしも、忘れてたけど。」

 微笑んで緒美が、話を纏(まと)めるのだった。

「歩いたり走ったり、飛んだり跳ねたりは出来ても、瞬間的に複合的な判断をさせるには、よっぽど高度な AI が必要って事よね。だから、技術的には可能でも、自動車や飛行機の完全自動運転は、未(いま)だに普及してないんだし。」

「まあ、確かに。パイロットを機械に置き換えて、それで事故は減るかも知れないけど、ゼロにはならないよね。器機の故障で、事故が起きる場合だって有る訳(わけ)だし。結局は、その時の責任の所在とか、保険の問題が解決しないから、完全自動運転の技術は採用されてないのよね。」

 溜息混じりに金子が言うと、それに武東が問い掛ける。

「仮に事故を起こした AI の責任を問える、となったら、航空業界はパイロットを解雇して、完全自動操縦を採用するかしら?」

「どうかしら? そんな飛行機に、乗客が乗りたいと思うか、よね。まあ、値段次第かも知れないけど。」

 そう答える金子に、恵が言うのだった。

「事故が起きた時に、責任が AI に有ると判断されて、誰も処罰されなかったら? そんなのは、多分、世の中の人は誰も納得しないでしょ。」

「だろうね~。」

 その遣り取りを聞いて、直美が苦笑いしつつ評するのである。

「結局、責任を取る為に、人間が必要な訳(わけ)か~。」

「あら、人格や判断力が、人間と同等か、それ以上だと客観的に証明されたら、責任を取る人間も必要なくなるかもよ?」

「うわぁ、怖い事言うなよ、鬼塚~。」

 緒美のコメントに、金子は身体を仰(の)け反(ぞ)る様にして反応を返す。そして武東が、言うのだ。

「そんな時代になったら、人間は何の為に存在すればいいのかしらね?」

 その問いには、真面目な顔で、恵が答えるのだった。

「そんなの、その時代の人達が考えればいい事だわ。」

 くすりと笑って、金子が言葉を返す。

「森村さんの、そう言う所、わたしは好きだわ。」

「あら、ありがとう、金子さん。」

 恵は、金子に対して微笑んで見せる。
 そんな折、HDG から離れた茜とブリジットの二人が、格納庫の西側、緒美達から見て奥の方へと歩いて行くのが見えた。それに気が付いた直美が、緒美達から離れて、茜達の方へと歩き出し、二人に声を掛けるのだ。

「今日も、稽古(けいこ)、やるの~?」

 その問い掛けに、茜が声を返した。茜は手に竹刀(しない)を、ブリジットは先端にクッションを巻き付けた、長い木製の棒を肩に担ぐ様に携(たずさ)えている。

「はーい、基礎練は反復しておかないと。」

「そうね~、わたしも付き合うわ~。」

 そう言って、直美は駆け足で、茜とブリジットの方へと向かった。
 そして、茜とブリジットは、交互に相手側への『打ち込み』を始めるのだ。但し、『打ち込み』とは言っても、茜もブリジットも防具を着けている訳(わけ)ではないので、身体を打たれないように、それぞれが手にしている竹刀(しない)や槍(やり)を模した棒で、撃ち込まれる攻撃を受け、払い除けるのだ。
 この稽古(けいこ)は、主にブリジットの為に行われているので、ブリジットの相手は茜と直美が、交代で務(つと)めるのである。
 そんな様子を、遠目に眺(なが)め乍(なが)ら、金子が言うのだった。

「兵器開発部って、あんな事もやってるの?」

「テスト・ドライバーには、接近戦用の、武装の取り扱いも出来ないとね。その為の練習なのよ。 ここ一週間位、毎日、一、二時間はやってるわね。」

 その緒美の説明に続き、恵が冗談めかして言う。

「あの三人は、兵器開発部(うち)では貴重な体育会系のメンバーなの。」

 その言葉を受け、真面目な表情で金子が応える。

「その様ね。でも、あの天野さん、だっけ? 理事長のお孫さんだって言う。 彼女が体育会系ってのは、ちょっと意外だわ。 彼女でしょ?前期中間試験、ほぼ満点で、一年生トップだったの。」

「あら、金子ちゃん、良く知ってるわね。」

 笑顔で言葉を返す緒美に、金子は微笑んで言った。

「その位の情報は、わたしにだって、入って来るわよ。 そう言えば、あの背の高い子でしょ?バスケ部から引き抜いた、っての。 バスケ部の田中さんが、嘆(なげ)いてたよ~。」

「人聞きの悪い事、言わないで。ボードレールさんは、本人の意志で、バスケ部の方を休部してるだけだから。 って言うか、学科違うのに、田中さんと面識有ったの?金子ちゃん。」

「ああ、毎月、部長会議で顔を合わせるから。飛行機部(うち)は、運動部の括(くく)りだからさ、文化部じゃなくて。 まぁ、その件で彼女がぼやいてたのは、寮で夕食の時だけど。」

 そう言って、溜息を吐(つ)く金子の一方で、緒美と恵の二人は時を揃(そろ)えて「成る程。」と、声を漏らしたのだった。
 因(ちな)みに、『部長会議』とは、グラウンドや体育館等(など)の学校施設を練習で使用するのに、各部活間で使用時間や期間を如何(いか)に融通し合うかの打ち合わせが目的で、生徒会の主催で毎月開催されていた。
 飛行機部としては、パイロットを務める部員の基礎体力トレーニングで利用する、校内のスポーツジムを予約する為に、『部長会議』には毎回参加していたのだ。
 その一方で、文化部の場合は、運動部程、学校施設を取り合う状況が発生しないので、『部長会議』の様な定例の会議は開かれていないのである。

「そう言えば、あの子はどうしてバスケ部を休んで迄(まで)、こっちの活動に参加してるのよ?鬼塚。」

 金子が無邪気に、そう訊(き)いて来るのだが、それには一瞬、緒美は言葉を詰まらせる。

「…そうね。簡単に説明は出来ないんだけど。 矢っ張り、一番の理由は天野さん、よね。ボードレールさんは、天野さんと一緒に居たいのよ。不本意だけど、先日みたいな危険な局面に、遭遇した事が有るから。 彼女達は、中学からの親友?…そんな関係だそうだから。」

「ふうん…。」

 そう応えたあと、緒美には意外な程の笑顔で、金子は言うのだった。

 

- to be continued …-

 

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