WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第8話.10)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-10 ****


 LMF の方へ目をやると、ブリジットが乗り込んでいるコックピット・ブロック部が地面に向かって降ろされていく。同時に、コックピット・ブロック下面の地面からは土煙が舞い上がり始める。コックピット・ブロックのホバー・ユニットが稼働しているのだ。ブリジットが解放されていたキャノピーを閉鎖すると、巻き上がる土煙が更に増加し、ホバー・ユニットの出力が増している事が外からも窺えた。
 間もなく、コックピット・ブロックが LMF との接続から解放されると、一瞬、コックピット・ブロックが沈み込むが、地面に接することは無くゆっくりと前進を始めるのだった。

「アイロンの分離、終了。そちらへ戻りま~す。」

 天幕下、モニター・スピーカーからブリジットの報告が聞こえると、続いて Ruby の合成音が響いた。

「HDG とのドッキング・シークエンスを開始します。自律行動を開始して宜しいでしょうか?緒美。」

「自律行動承認。続けて、Ruby。」

 緒美はすぐさま、許可を出した。
 ブリジットが操縦するコックピット・ブロックが天幕の方へ向かう途上、茜の前を通過する頃、Ruby は LMF のホバー・ユニットを起動させて、機体の向きを HDG の方へと向けるのだった。LMF の周囲にも土煙が舞い上がり、その機体もゆっくりと HDG の方へ向かって動き出した。
 LMF が茜の背後まで近づいて来ると、HDG の側はドッキング時にスラスター・ユニットが LMF と干渉しないように、地面とスラスター・ユニットとが平行となる初期状態の位置へと、ユニット本体を振り上げる。HDG に接続したままでスラスター・ユニットが初期状態に戻ると、重心が後方へ移動してしまって HDG が直立を維持出来なくなるので、茜は背中を丸めるようにして前傾姿勢になり、LMF とのドッキングを待つのだった。
 そして、LMF のドッキング・アームが HDG の接続ボルトを捕らえ、接続と固定が完了すると、ドッキング・アームが引き上げられて、HDG が LMF の中央前面にセットされる。この状態では HDG 背部のスラスター・ユニットとドッキングした LMF 上部構造との干渉を回避するため、HDG は腰から上の動作範囲が制限される。その制限を解除するため、HDG は背部のスラスター・ユニットを、その動作を停止した後、 LMF 胴体の前面中央に内蔵されたクレーン・アームへと引き渡し、上半分が露出した状態ではあるが、スラスター・ユニットは HDG から取り外されて LMF 本体側に格納される。

「HDG とのドッキング・シークエンス、終了しました。」

 天幕下、Ruby の合成音声が響く。

「オーケー。天野さん、LMF とドッキングしたモードで標的選択射撃試験を始めるけど、準備は良いかしら?」

「良いですけど、部長。LMF のプラズマ砲も使っちゃうと、標的に穴が空くだけでは済まないかも、ですよ?」

 茜の返事を聞いて、緒美は視線を安藤の方へと向ける。安藤は微笑んで頷いて見せた。緒美は、茜に伝える。

「構わないわ。出来れば、三分以内に赤いターゲット板、全部、吹き飛ばしても良いわよ。そうなったら、その時点で試験終了だけど。」

「あはは、頑張ってみます。」

 茜は、LMF を低速で前進させ、フィールドの中央付近で停止させた。そして HDG のマニピュレータで持っている荷電粒子ビーム・ランチャーを、前方に向けて構える。

「では、スタート。」

 緒美の指示で、ターゲットの制御が開始される。最初に起き上がったのは、南側列の西側から二番目の赤いターゲット板だった。
 茜は LMF を加速させて、その標的との距離を詰める。先程と同じように、100メートル程までに接近して手持ちの荷電粒子ビーム・ランチャーで一撃を加えた。その直後、今度は西側列南側から三番目の赤いターゲットが起き上がった。
 茜は LMF の進路をそちらへと変え、アプローチを掛ける。その最中(さなか)、東側列に赤と青の、二つのターゲットが起き上がった。先程の、HDG 単独での時には対処出来なかったパターンだったが、今回は背後の標的については Ruby が感知し、自動で標的の選別と照準を行うのだった。勿論、射撃のタイミングには、茜の指示が待たれる。
 LMF は西向きに走行しながら上部ターレットを旋回させ、背後の標的にプラズマ砲の狙いを定めた。そうこうする内、茜の前面側、西側の標的が荷電粒子ビーム・ランチャーの射撃圏内へと近づき、先ずはこちらに荷電粒子ビームを撃ち込む。そして、すぐさま LMF の向き反転させて進路を東側へと向けるが、その間もターレットは旋回を行ってプラズマ砲は東側の標的への指向を維持している。
 その時点で、ターゲットまでの距離はまだ800メートルほどあったが、LMF のプラズマ砲は HDG の荷電粒子ビーム・ランチャーよりも射程が長いので、茜は接近するのを待たずにプラズマ砲で砲撃を加えた。轟音とともに閃光が走るのと同時に、東側の赤いターゲット板の一枚は上半分が吹き飛ばされたのだった。
 その後は同じように、手持ちの荷電粒子ビーム・ランチャーと LMF のプラズマ砲による異標的同時射撃を織り交ぜつつ、LMF がフィールド内を縦横無尽に移動しながら、起き上がる赤いターゲット板を次々と撃破していったのだった。
 残念ながら、三分間で全ての赤いターゲットを吹き飛ばすのには至らなかったのだが、それでも半数を超える赤いターゲット板がプラズマ砲の餌食となっていた。そして、今回は撃ち漏らした標的の数は零であった。

「はい、これで、予定の全試験項目終了。お疲れ様、天野さん。こっちに戻ってちょうだい。」

 緒美はヘッド・セットを通じて、茜に呼び掛けた。

「はい、戻ります。 あ、Ruby。ランチャーを返すわ、格納してね。」

「ハイ、荷電粒子ビーム・ランチャーを受け取ります。」

 LMF はフィールドの奥の方で機体の向きを天幕の方へ向け終えると、回転していたプラズマ砲のターレットを初期位置へと戻し、ウェポン・ベイを開いて空の武装供給アームを茜の肩越しに前方へと展開した。茜は右マニュピレータで保持していた荷電粒子ビーム・ランチャーを左マニピュレータに持ち替え、左肩前方で待つ武装供給アームへと荷電粒子ビーム・ランチャーを渡す。
 荷電粒子ビーム・ランチャーを受け取った武装供給アームは、茜の後方へと回転し、荷電粒子ビーム・ランチャーは LMF の機体内部へと格納された。そして、茜はゆっくりと LMF を前進させたのだった。

「よーし、標的の撤収作業、始めるぞー。」

 緒美達の隣の天幕下で試験の状況推移を見ていた天野重工の作業員達は、三台のトラックの荷台に分乗して、茜の操る LMF とは入れ違いに、フィールドの方へと出て行くのだった。

「今日のデータ、コピーを持って帰られます?」

 樹里はコンソールのチェックをしながら、安藤に問い掛ける。

「あ~どうしよう。いや、後で良いから、まとめてネットで本社の方へ送っておいて。アドレスはいつもの、わたし宛ので。解析が済んだら、また、結果はお知らせするわね。」

「わかりました。では、後で送っておきますね。」

 天野重工の天幕の前、8メートル程離れて、LMF が左側面を見せて停止する。LMF が接近するのにつれて、ホバー・ユニットから吹き出した気流が天幕の下にも流れ込んでいたが、LMF が停止するのに合わせて、それも収まるのだった。

「天野さん、LMF から HDG を切り離して、あなたは一号車へ装備を降ろしてね。お疲れ様。」

「は~い。」

 茜は左手を軽く挙げ、緒美に了解の合図を送る。それを見てから緒美は振り向き、後列で直美と談笑していたブリジットに声を掛ける。

「天野さんが、HDG を切り離したら、コックピット・ブロックを LMF に再接続してね、ボードレールさん。」

「あ、はい。じゃ、準備します。」

 ブリジットは傍らの机上に置いてあったヘッド・ギアを取り上げると、天幕の後方側に駐機してあった『アイロン』へと向かった。

「それじゃ、わたしは HDG のメンテナンス・リグを立ち上げておきますか。」

 そう言って席を立つ直美を、安藤が呼び止めるのだった。

「あぁ、ちょっと待ってて、直美ちゃん。トランスポーターを前に回してもらうから。」

 安藤は作業着のポケットから携帯端末を取り出すと、畑中を呼び出す。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

2018年の一枚目 2018.01.03

今年も描き初め的な作品が出来たので掲載。

【オリジナル】「Front End (Toon)」イラスト/motokami_C [pixiv]
 レンダリングが終わらなかったので、二日の完成となりました。
 インナー・スーツ着用の茜さんのフィギュアは、頭部のデータを Ver.3 の物にすげ替えたバージョンを昨年末も押し迫って作業完了。昨年最後の作業でした。
 今年も引き続き、「STORY of HDG」の記述と関連オブジェクトやフィギュアのモデリング、あとは「基上屋」の旧製品を現行仕様への転換作業などを進めたい所存。
 特に、今年はブリジット用の「HDG-B01」を、そろそろデザインを最終決定してモデル化までしたいかな、と。
 まぁ、ぼちぼちと進めましょう~と、言う事で。

STORY of HDG(第8話.09)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-09 ****


「じゃぁ、次はボードレールさん、LMF の移動標的射撃試験、始めるわよ。準備はいい?」

「は~い、待機してますよ。」

 緒美の呼び掛けに、透かさず返事をするブリジットである。安藤も、慌てて投射機のコントロール担当スタッフへと、ヘッド・セットを通じて声を掛ける。

「次、LMF 用の投射機、準備良いですか?…はい、指示しますので、お願いします。 こっちは準備は良いわ、緒美ちゃん。」

Ruby も良いわね?」

 緒美は、敢えて Ruby にも声を掛けてみる。すると、いつも通りに Ruby の合成音声が、天幕下のモニター・スピーカーから聞こえてきた。

「ハイ。いつでもどうぞ、緒美。」

「では、スタート。」

 緒美の指示から三秒ほどして、一枚目のターゲット板が宙に舞う。HDG の時と同じように、射撃位置から125メートルの距離にターゲット板が縦に回転しながら放物線を描くのだが、放物線の軌跡が向かって右から左へと伸びている事だけが違っていた。勿論、ブリジットや Ruby にとってはターゲット板の投射方向がどちら向きであろうと関係はなく、Ruby はブリジットが指示した目標を正確に補足し、撃ち抜いた。
 二枚、三枚とターゲット板が宙を舞う度に、短い雷鳴のような破裂音が響き、ターゲット板が放物線軌道から弾き飛ばされる、そんな光景が繰り返されるのだった。
 一分ほどで、用意されていた三十枚のターゲットは全て撃ち落とされ、周囲には再び微かなオゾン臭が残った。

「はい、LMF の移動標的射撃試験、終了。ボードレールさん、待機しててね。」

「は~い。」

 ブリジットの返事が、モニター・スピーカーから聞こえた。

「流石に LMF の方は、あの位(くらい)じゃ冷却不足の心配は無いわね。」

「プラズマ砲、超伝導コイルの温度、モニター値は許容範囲ですよ。」

 樹里がコンソールのモニターを指さすと、安藤がそれを覗き込む。

「安藤さん、次は標的選択射撃の試験に行きますけど。」

「あぁ、ちょっと待っててね。 次、標的選択射撃の準備お願いします。」

 安藤は緒美に促され、次の試験で使用する標的の準備を、コントロールの担当スタッフに伝える。

「…あ、はい。 緒美ちゃん、準備、良いそうよ。」

「はい、ありがとうございます。 天野さん、エリアの中央へ。標的選択射撃の試験を始めるわ。」

 安藤の返事を聞いて、緒美は茜に対して指示を送る。
 その指示に対して、茜の返事がモニター・スピーカーから聞こえた。

「あ、はい。部長、ビーム・ランチャーの冷却が未だ終わってないので、LMF の予備を使用しますけど。」

「そうね。 ボードレールさん、予備のランチャー、出してあげて。」

「は~い。予備のビーム・ランチャーを出します。」

 ブリジットの返事がモニター・スピーカーから聞こえた後、LMF の機体上面のシャッターが開くと、内部から HDG 用の荷電粒子ビーム・ランチャーを保持したアームが起き上がり、武装供給アームの回転は、天頂を指す位置で停止した。
 LMF の機体には HDG の携行武装が故障や破損した時に備えて、荷電粒子ビーム・ランチャーとビーム・エッジ・ソードのそれぞれ二組を保管するためのウェポン・ベイが用意されており、必要に応じて HDG へ供給が可能となっている。
 茜は地面を蹴って LMF の方へ向かってジャンプすると、ホバー状態で高度を維持したまま LMF に接近する。LMF のプラズマ砲よりも上方へと、グリップの方を上向きに掲げられた予備の荷電粒子ビーム・ランチャー底部のグリップ・ガードを左のマニピュレータで掴むと、LMF 側は武装供給アームの保持を解除した。茜は受け取った荷電粒子ビーム・ランチャーを右のマニピュレータに持ち替えると、LMF の上空を離れて試験フィールドの中央付近へ降り立つ。
 HDG の右腰のスリング・ジョイントには、冷却中の荷電粒子ビーム・ランチャーが固定されたままである。
 茜は先程受け取った荷電粒子ビーム・ランチャーのフォア・グリップを左マニピュレータで引き起こし、握った。

「天野さん。あなたの正面、南側の他に、左右、東側と西側に起立式の標的が設置されているから、起き上がった標的を射撃してね。但し、標的には赤と青の二種類が有るけど、撃って良いのは赤い標的だけ。フィールドの中心からだと、標的までの距離はおよそ500メートルだけど、前後左右、自由に動き回って良いわ。時間は三分間、なるべく多く、赤い標的だけを射撃してね。」

「はい、頑張ります。」

「では、開始。」

 緒美の開始指示を聞いて、安藤は標的の制御スタッフへスタートの合図を送った。
 間もなく、茜の正面の赤いターゲット板が起き上がる。ターゲット板は幅が3メートル、高さが2メートルで、これはエイリアン・ドローンの大きさを想定しての設定なのだが、500メートルも離れていると、見かけ上の大きさは腕を伸ばした先の4ミリほどにしか見えない。
 茜はスラスターを噴かして、ターゲットへ向かって加速する。地面の畝(うね)を左右に回避しつつ、ターゲットの前、100メートル程まで迫り、一撃を加えた。ビームが命中したターゲットは、パタリと後ろへと倒れる。
 荷電粒子ビーム・ランチャーの銃口を前に向けたまま、茜は後方へ傾くような姿勢で行き足を止めると、そのまま後退してターゲットと距離を取りつつ、首を左右に振って他のターゲットの様子を窺(うかが)う。直ぐに、先程射撃したターゲットの左右に設置されたターゲット板が同時に起き上がる。因みに、ターゲット板の左右設置間隔は、それぞれ100メートルとなっていた。
 起き上がったターゲット板は右側が赤で、左側が青だった。茜は右側のターゲット板の方へと進路を変え、接近して一撃を加えると、再び後退しつつ身体を緩(ゆる)くスピンさせて周囲のターゲットの動向を窺うのだった。
 こうして、北側の他にも東側、西側のターゲットにも接近や離脱を繰り返しながら、赤いターゲット板だけを選択して射撃を繰り返し、最終的に三分間で二十四枚のターゲットを射撃して、ミス・ショットはゼロという結果だった。勿論、東西で向かい合ったターゲットが同時に起き上がると、背後のターゲットにまで同時に対処は出来ないので、取りこぼしたターゲットの数が八つ、有ったのだが。

「はい、三分経過。お疲れ様、天野さん。一度、待機位置に戻ってちょうだい。」

 緒美は、ヘッド・セットを通じてこの試験項目の終了を通知した。茜は機動を止め、指示通りに元の待機位置へ向かう。

「あれだけ動き回ってて、よく、全部当てられた物ねぇ。」

 安藤が独り言のようにそう言うと、樹里が答えるのだった。

「それを確認する試験項目ですよね?」

「あはは、まぁ、その通りなんだけど。」

 そんな樹里と安藤のやりとりを横目に、茜が待機位置に戻ったのを確認して、緒美は次の指示を出す。

ボードレールさん、コックピット・ブロックを切り離して。それが済んだら、Ruby は HDG とのドッキング・シーケンスを実行してちょうだい。」

「は~い。」

「ハイ、コックピット・ブロック切り離しシークエンスを開始します。」

 直(ただ)ちに、ブリジットと Ruby から返事が返ってきた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第8話.08)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-08 ****


 LMF は、茜の HDG よりも更に盛大に土煙を巻き上げながら、ターゲットの支柱に向かって突進する。そして、機体を左や右に大きく振りながら、ターゲット支柱の間を縫うように進んで行った。そして、五番目のターゲット支柱を通過して暫く進んだ後に、左回りに大きめの弧を描いてUターンすると、左右のホバー・ユニットの連結機構を伸ばし、一対の腕部を展開して、走行しながら『中間モード』へと移行するのだった。
 LMF の左右前腕部には格闘戦の折りにマニピュレータを保護するナックル・ガードと呼ばれる装甲が装着されており、HDG 用のディフェンス・フィールド・シールドが、そのナックル・ガードに取り付けられている。中間モードで腕部が展開されると、ディフェンス・フィールド・シールドは前腕部と直交するように向きが変えられるが、LMF は格闘戦の為にナックル・ガードがマニピュレータを保護する位置に移動すると、ディフェンス・フィールド・シールドは下端が腕先の方へ向くように、九十度回転する。ディフェンス・フィールド・シールドの下端には、超接近戦時の反撃用に小型のビーム・エッジ・ソードが格納されており、これを展開する事によって LMF はディフェンス・フィールド・シールドを攻撃用の武装として利用する。
 そもそも、LMF に HDG 用のディフェンス・フィールド・シールドが、装備されているのは、HDG の携行しているディフェンス・フィールド・シールドが故障や破損した場合に、LMF が HDG へ予備品を供給出来るようにと計画されているからなのだが。HDG に供給する必要がなければ、LMF 自身の防御・攻撃用の装備としても、使用は可能となっているのである。
 LMF は両腕に青白く光る荷電粒子の刃先を構えて、先の砲撃でターゲット板が吹き飛ばされた第五ターゲットの支柱へと向かってホバー走行を続け、その右側から前方へと通過する瞬間に左腕を後ろから前へ小さく振るように動かしてターゲット支柱を切断した。
 そのまま第五ターゲットと第四ターゲットの間を通過すると進路を右へと変え、第四ターゲットの左側から前方を通過するコースに機体を乗せる。第四ターゲットを前方を通過する際に、今度は右腕のソードでターゲット支柱を切断すると、後は同様に左右に機体を大きく振りながら残り三本のターゲット支柱を切り倒し終えると、通常の高機動モードに戻って機体を止めるのだった。
 濛々と立ち上がった土煙が LMF の機体周囲から流れ去ると、コックピット・ブロックのキャノピーを開き、ブリジットが腰を伸ばすように身を起こして、茜に向かって手を振ってみせる。一方で、天野重工側の天幕下からは、茜の時と同じように拍手が沸き起こるのだった。

「うん、やっぱりサイズ的にこっちの方がピンと来るものがあるなぁ。」

 LMF の機動を見終えて、吾妻一佐はポツリと、そう言った。

「アレの量産仕様の先行、五機。納入は予定通りだよね?飯田部長。」

「ええ、十月初旬、その予定で進んでますよ。」

「装備はプラズマ砲以外も積めるんだよね?アレは威力が強すぎて、周辺への被害が大きすぎるから。市街戦を想定すると、20ミリか12.7ミリ機銃ぐらいが丁度良いんだ。」

「実体弾だと射程や命中精度が落ちますが。まぁ、そう言う御用命ですから、その装備も合わせて開発してます。」

 そこで飯田部長と吾妻一切の会話に、桜井一佐が口を挟む。

「安い装備でもないでしょうに、それほど急がれなくても?」

 それには若干、むっとしたように吾妻一佐は言い返すのだった。

「航空の方で全て撃ち落としてくれるのだったら、陸上の方は新装備なぞ要求しませんよ。」

「まぁまぁ、吾妻一佐。ここは抑えて。」

 飯田部長は慌てて、吾妻一佐を宥(なだ)めるように声を掛けると、それに対して桜井一佐は横を向くのだった。その後ろで和多田補佐官は、声を殺して、小さく笑っていた。

 

ボードレールさん、ご苦労様。一旦、待機位置に戻ってね。」

「は~い、わかりました。」

 緒美がヘッド・セットのマイクに向かってブリジットへ指示を伝えると、透かさずブリジットは返事をして指示を実行へと移した。LMF がキャノピーを解放したまま、元の静止射撃位置へとゆっくりと移動を開始する。

「ドライバーが交代するって聞いた時はどうかなって思ったけど、ブリジットちゃんもなかなかやるわね。去年の、直美ちゃんに遜色は無いって感じね。」

 安藤は樹里のデバック用コンソールのモニター表示を覗き込みながら、そう感想を漏らした。
 それに対し、モニター画面を切り替えてデータをチェックしつつ樹里が答えた。

「まぁ、制御の細かい部分は、Ruby が殆どやっちゃってるんですけどね…。」

「城ノ内さん、そっちに異常な数値とか返ってきてないわね?」

 緒美が樹里へ、モニターしている機体の状態を確認する。それに一拍おいて、樹里が答える。

「はい、部長。LMF も Ruby も、リターン値は正常範囲です。試験、続行して大丈夫です。」

「ありがとう、城ノ内さん。引き続き、モニター宜しくね。 安藤さん。」

「あ、はい。」

 緒美に呼び掛けられて、安藤は慌てて返事をする。

「HDG の移動標的射撃試験に移りますので、ターゲット投射機の準備、お願いします。」

「あ、確認する。ちょっと待ってね。」

 安藤はヘッド・セットのマイクを口元に上げて、隣の天幕下に待機しているコントロール担当のスタッフに話し掛ける。

「安藤です。移動標的射撃を始めます。準備…あぁ、はい。わかりました。 緒美ちゃん、準備は出来てるから起動のタイミングだけ教えてって。」

「そうですか。 天野さん、移動標的射撃の試験を始めるけど、準備はいい?」

 安藤の返答を受けて、緒美は茜に確認を行う。直ぐに茜の返事は、モニター・スピーカーからも聞こえてきた。

「はい。いつでもどうぞ。」

 緒美の視界の先では、茜の HDG が腰のスリング・ジョイントから荷電粒子ビーム・ランチャーを外し、身体の前面に構えるのが見て取れた。

「スタートすると、あなたの125メートル先にターゲットが、高度とか間隔がランダムに三十枚投げ上げられるから、出来るだけ多く、撃ち落としてね。」

「はい、頑張ります。」

 茜の返事を聞いて、緒美はちらりと安藤の方へ目をやる。安藤は口元にヘッド・セットのマイクを持ってきて、緒美がスタートの合図を出すのを待っていた。緒美と視線が合った安藤は、小さく頷く。

「では、スタート。」

 緒美の声を聞いて直ぐ、安藤もスタッフへ投射機の起動を指示した。そして二秒ほど経って、最初のターゲットが投射された。ターゲット板は先程の静止標的の物と同じサイズの鉄板で、縦に回転しながら左から右へとゆるい放物線を描いて、茜の目の前を通過していく。
 茜は両腕で保持した荷電粒子ビーム・ランチャーで、素早く狙いを定めると、乾いた破裂音を響かせて、一撃で空中のターゲット板を弾き飛ばした。
 続いて、二枚目、三枚目と投射間隔や軌道を変えながら放り上げられるターゲット板を、茜は次々と撃ち落としていく。

「うわぁ…百発百中って感じねぇ。天野さんって、射撃の心得とか無いよね?」

 HDG の射撃の様子を見ながら、安藤が樹里に話し掛ける。

「そうですよ。天野さんは大雑把な方向に向けて目標を指示してるだけで、HDG の AI が照準を補正してくれてるんです。」

「うん、そういう風に作ったんだから、そう動いて当然なんだけど。実際、目の当たりにすると、ちょっとビックリだわ。」

 樹里と安藤がそんな会話をしていると、二十八枚目のターゲット板を撃ち落とした所で、モニター・スピーカーから茜の声が響いた。

「オーバー・ヒートです。ランチャーが強制冷却モードに入りました。」

「了解。移動標的射撃試験は終了。天野さんは待機しててね。」

 緒美は落ち着いた声で、茜に指示を出す。

「あぁ、やっぱり連射だと三十回は無理だったかぁ。手持ちサイズまで小型化したから、冷却が追いつかないって聞いてはいたけど。」

 安藤が残念そうに、声を上げる。

「でも、計算上は二十五連射が限界だった筈ですから、それよりは良い成績ですよ。」

 そう樹里が宥(なだ)めるように、安藤に言った。

「出力、30パーセントまで落としてるのよ?」

「100パーセントだったら、十五連射くらいが計算上の限界ですから。」

 返す返す残念そうな安藤に、緒美は飽くまで冷静に、そう言ったのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第8話.07)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-07 ****


「流石、防衛軍の主力戦車と同じ規格のプラズマ砲だわね~。直(じか)に射撃する所を見たのは初めてだけど。」

 安藤が呆れたように話し掛けると、樹里は落ち着いた様子で答えた。

「あんな物騒な物が、当たり前のように学校にあった事の方にビックリですよ。」

ボードレールさんは待機してて。次、天野さん。スラローム機動から折り返しで斬撃機動、準備が出来たら開始して。」

 スケジュールに従って、緒美は次の試験項目を茜に指示する。

「準備は出来てます、ので、行きます。」

 茜は右脚で地面を蹴って軽く跳躍し、空中でスラスターを噴かす。先程、射撃したターゲットの支柱に向かって加速すると、手前、第一ターゲットの左側をホバー状態で駆け抜け、第二ターゲットの右側、第三ターゲットの左側と、立ち並ぶターゲットの支柱の間を縫うように、緩やかな斜面を高速で登っていく。最後の第五ターゲットの左側を通過し、暫く進んだ後にUターンをすると、右のマニピュレータで左腰スリング・ジョイントに固定してあったビーム・エッジ・ソードの柄(つか)を握る。ビーム・エッジ・ソードがジョイントから解放されると、一度、右へと振り抜き、左マニピュレータを柄の後端側に添えると、刀身が右側面に横たわるようにビーム・エッジ・ソードを構えた。ビーム・エッジ・ソードの刀身前面に形成された荷電粒子の刃(やいば)が青白く輝く。
 茜はホバー移動のまま第五ターゲットが目前に迫ると、ビーム・エッジ・ソードを右肩の上へと振り上げ、ターゲット支柱とすれ違う瞬間に刀身を振り下ろす。第五ターゲット支柱の向かって左側を通過した茜は、第四ターゲットの右側へと進路を変え、振り下ろした ビーム・エッジ・ソードの刀身の向きを翻(ひるがえ)すと、今度は下から上へと向かって第四ターゲットの支柱へ切っ先を走らせる。
 再び、ビーム・エッジ・ソードの刀身を翻し、腰の高さで右側に刀身を横に寝かせ第三ターゲットの左側を、通過すると同時に支柱を両断すると、今度はビーム・エッジ・ソードを左肩に担ぐように振り上げ、第二ターゲットの右側を通過する瞬間に切っ先を右下へと振り下ろす。
 最後に、もう一度刀身を翻し右下段横に構えて第一ターゲットの左側へと進行し、通過するタイミングで刀身を左上へと振り上げた。ビーム・エッジ・ソードの柄から左マニピュレータを放すと、右腕だけで刀身を水平に右へと一振りして、HDG はホバー走行を終えて停止し、オフにしたビーム・エッジ・ソードを左腰部のスリング・ジョイントへと納めた。
 スラスター・ユニットの排気で巻き上げられた、HDG 背後の土煙が風に流されると、そこに立ち並んでいたターゲットの支柱が、全て切り倒されている様(さま)が露(あら)わとなる。
 茜はちょっと振り向いて、それを確認した後、天野重工の天幕と防衛軍の天幕それぞれに向かって、一度ずつ一礼をしたのだった。天野重工の天幕下、設営スタッフ達からは「おぉ…」と言うどよめきの後、拍手が沸き起こるのだった。

「流石、剣道経験者って感じかしらね。」

 安藤が隣の天幕下の盛り上がり具合を横目に、そう感想を漏らすと、それに対して樹里が言った。

「あぁ、でも、天野さんに因れば、剣道の動きとは全然違うそうですよ。」

「そうなの?それにしては、良く動けてるみたいじゃない。」

「毎日二時間ぐらい、あれを装着して動き方の研究や練習、反復してましたからね。お陰で、HDG の方も動作制御の最適化が、可成り進んでますよ。最初は随分、動き方がぎくしゃくしてましたから、HDG 搭載の AI も相当に優秀ですよね。」

「まぁ、コミュニケーション関連の機能部分がバッサリ削除されてるから、随分、簡略化されてるように思われがちだけど、基礎部分は Ruby と同型だものね。それでも、その AI の性能も、動作データの蓄積がない事には発揮のしようがない訳だし、テスト・ドライバーにスポーツ経験者を充てようって、緒美ちゃんのアイデアは大正解だった訳よね。」

 安藤のコメントに対し、透かさず緒美が言葉を返す。

「そのアイデア、元々の発案は森村ちゃんなんですけどね。」

「あ、そうなんだ。」

 安藤が返す短いリアクションに対し、緒美の後ろに立っていた恵が右手を肩口ほどに挙げて、微笑んで見せる。その一方で、緒美はヘッド・セットのマイクを口元に引き上げると、茜とブリジットへ次の指示を送る。

「天野さん、元の射撃位置へ退避して。ボードレールさんは天野さんの退避を確認したら、LMF のスラローム機動を始めてちょうだい。」

 指示を受けての、二人の返事がモニター・スピーカーから聞こえてきた。

 

 一方、その頃の防衛軍側天幕の下。天幕は二張り用意されていたのだが、参加した防衛軍関係者は十名だけで、設置されていた二面のモニター画面を見ている者もあれば、持参した双眼鏡を覗いている者もありで、それぞれが試験の様子を監察している。
 天野重工の飯田部長の左右には、飯田部長と同年代の制服の男女が座り、その後ろにはスーツを着用した男性が座っている。
 飯田部長の右側に座るのは、HDG 案件の防衛軍側の窓口である、吾妻(あがつま)昭午・防衛軍一等陸佐である。そして、飯田部長の左隣に陣取る制服姿の女性が、『R作戦』と呼称されている日米共同での反攻作戦の防衛軍側窓口を務める、桜井 巴・防衛軍一等空佐だ。飯田部長の背後の席、スーツ姿の男性が、和多田 和典・防衛大臣補佐官で、彼が『R作戦』に関する政府側の対外交渉に於ける窓口責任者なのである。
 何故ここに『R作戦』の関係者が同席しているのかと言うと、天野重工が『R作戦』に必要とされるデバイスの要素技術開発の実行名目として『HDG 案件』を利用しており、事実上、両案件を社内的に統合してしまった事にこの状況は端を発する。現時点で『R作戦』については表沙汰に出来ない政府と防衛軍としては、表向きは民間主導である天野重工の『HDG 案件』に協力するという体裁で『R作戦』の準備を進めていたのだった。
 『R作戦』に於いては航空防衛軍と航空宇宙局(十数年前に宇宙航空研究開発機構:JAXA から改組された)が中心となって行われる計画なので、作戦の実施に陸上防衛軍は本来は関わらないのだが、その開発段階には試験場の確保だとか提供、或いは機密保持のための警備などに陸上防衛軍の協力が必要だ、と言う都合で『R作戦』に陸上防衛軍が組み込まれているのである。
 今回は HDG の試験と言う事ではあるが、これは『R作戦』用のデバイス開発の経過視察と同義であるので、それが桜井一佐と和多田補佐官が視察に参加している理由である。

「飯田部長、さっきの刀みたいな装備は、どんな物かなぁ…敵ドローンと斬り合いをさせるって言うのは、ぞっとしないな。」

 腕組みをした吾妻一佐が、ポツリと言った。間を置かず、飯田部長がコメントを返す。

「相手側が斬撃戦を仕掛けて来ますから、近距離での反撃用の装備ですよ。飽くまでも、基本の戦術はビーム・ランチャーによる射撃、と言う事ですが。」

「う~ん、理解はしてるんだが、イマイチ、運用のイメージが…ピンとこないんだよなぁ。」

「アレがデバイスの要素技術、と言われても、我々には関連具合が今一つ理解出来ませんが。」

 後ろの席から身を乗り出して、和多田補佐官が口を挟む。五十代後半の前列三人に比べて幾分若い、この官僚出身の政府関係者は、『HDG』には全く興味を持っていないのであった。

「…デバイス開発の方(ほう)はちゃんと進んでるんでしょうね?飯田さん。」

「スケジュールに大きな遅れは有りませんよ、和多田さん。秋ぐらいには大気圏内用の試験機が、冬ぐらいには大気圏外用の試験機が出来上がる予定は変わってません。大気圏内用の試験機が完成したら、桜井一佐の方に本格的に御協力をお願いする事になりますが、その折にはどうぞよろしくお願いします。」

 飯田部長は左隣の桜井一佐へ、話を振る。すると、朗らかな笑顔で桜井一佐は答える。

「えぇ、勿論。それよりも、その前にあの HDG の航空装備の性能試験もされるんでしょう? わたしとしては、そちらにも興味がありますね。」

 そこに再び、和多田補佐官が口を挟む。

「アレは陸戦用の装備ではなかったのですか?」

 それには吾妻一佐も同調する。

「そうそう、元々の提案は陸戦用の強化装備だった筈なんだが。どうして、ジェット・エンジンを背負って飛び回るような仕様に?」

 一瞬浮かんだ苦笑いを噛み殺して、飯田部長は答えるのだった。

「電源、ですよ。あの装備を動かすにせよ、ビーム・ランチャーを撃つにせよ、割と大きな電源が必要になるんです。バッテリーでは賄いきれないので、発電機として小型のジェット・エンジンを積んでいるんですが、それなら、それを推力としても利用しよう、まぁ、そう言った流れですな。動力装備以外にも火器管制システムなども含めて、トータルとして可成り高価な個人装備になりますから、それならユニットを追加して機能を拡張しよう、と言う事で航空装備も計画されている訳です。」

「それを考えたのが、さっきの、あの、お嬢さんかい?」

 吾妻一佐の言う『お嬢さん』とは、試験開始前に挨拶に来た、緒美の事である。

「鬼塚、なんて厳(いか)つい名前だけ聞いてたから、どんな大男かと思ってたら。それに、見れば、関わってる学生達は女子ばかりの様子だけど、本当に大丈夫なんですか?飯田部長。」

 その、和多田補佐官の発言に噛み付いたのは、桜井一佐である。

「和多田補佐官、その物言いは女性差別に聞こえますが?」

「あぁ、いえ、けしてそんな積もりでは。」

 そのやりとりを聞いて、ニヤリとした飯田部長は言った。

「あのくらいの年代は、女子の方が優秀ですよ。実際、あのメンバーの中には各学年の成績トップの者が居るようですし、それ以外のメンバーも皆、成績は上位らしいですから。我が社としても、将来に期待している学生達ですよ。」

「お、戦車の方が動き出した。」

 ブリジットが操縦する LMF がスラローム走行を開始したのを見て、吾妻一佐が声を上げた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第8話.06)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-06 ****


「は~い、ありがとうございます。」

 安藤は隣の天幕下へ声を返すと、作業着のポケットから携帯端末を取り出し、防衛軍側の天幕にいる飯田部長を呼び出す。飯田部長は直ぐに応答した。

「あ、安藤です。現場の準備が終わりましたので…はい、早速、試験を開始します。…はい、では。」

 ポケットに携帯端末を仕舞うと安藤は、ヘッド・セットを装着して机の上に置いてあった試験の行程表を挟んだクリップ・ボードを拾い上げる。

「安藤さんも、どうぞ。」

「あぁ、ありがとうね。いただきます。」

 直美が冷えたドリンクのボトルを安藤に手渡し、引き続き、立花先生や他のメンバーへ、ドリンクを配っている。瑠菜は隣の天幕下へ、佳奈とクラウディアへとドリンクを持って行き、そのまま新型観測機材についての説明を受けていた。

「じゃ、緒美ちゃん。始めましょうか、行程表の通りに進めるけど、問題はないわね。」

「はい、お願いします。天野さん、予定通り、静止射撃から始めるわよ。位置についてちょうだい。」

「はい。」

 茜の返事は、天幕下に設置されているモニター・スピーカーからも聞こえてきた。

ボードレールさん、予定通りに試験開始するから、あなたはその位置で待機、お願いね。」

 ブリジットの返事も、モニター・スピーカーから聞こえてくる。

「はい、待機してます。」

 茜は試験場の方へ身体の向きを変えると、少し身を屈めてから軽く地面を蹴ると、空中でスラスターを噴かして射撃位置へとジャンプした。スラスター噴射が巻き起こした気流が、安藤達、天幕の方へと流れ込んでくる。

「画像では見てたけど、実物はまた、なんだか迫力があるわね。」

「でしょう?」

 安藤の感想に対して、樹里は微笑んで答えた。
 地面に白いラインの四角で囲まれた射撃位置に降り立つと、茜は天幕の方へ振り向き、左手を挙げて見せた。天幕下ではモニター・スピーカーから茜の声が聞こえる。

「位置に付きました。指示を待ちます。」

「はい、待っててね。安藤さん、宜しいですか?」

 緒美は安藤に最終の確認を求める。
 それに対して、安藤は自分のヘッド・セットのマイクに向かって言った。

「あ、安藤です。これより開始しますので、記録の方(ほう)、お願いします。…はい。オーケー、緒美ちゃん。初めてちょうだい。」

「分かりました。あ、城ノ内さん、システム状態のモニター、宜しくね。何か異常があったら直ぐに言ってね。」

「はい。心得てますよ、部長。」

 樹里はデバッグ用コンソールを見つめたまま、緒美に答えた。

「じゃ、天野さん。向かって左、手前のターゲットから奥に向かって五枚、静止標的射撃開始。」

「開始します。」

 緒美の指示に対して、モニター・スピーカーから茜の返事が聞こえると、射撃位置の茜は HDG の右腰スリング・ジョイントに固定されていた荷電粒子ビーム・ランチャーをジョイントから外し、身体前面に両側のマニピュレータで素早く構え、五枚のターゲットに狙いを定めて連射した。荷電粒子ビーム・ランチャー銃口と鉄製のターゲット板との間に、青白い閃光が五回走ると、その都度、空気の絶縁が破れる、短く乾いた雷鳴のような音が鳴り響くのだった。
 茜は射撃を終えると、一旦、銃口を上に向け、左マニピュレータでフォア・グリップを折り畳むと、荷電粒子ビーム・ランチャーを元の右腰部のジョイントへと戻した。

「全部命中したはずですけど、ターゲットの確認、お願いします。」

 モニター・スピーカーから茜の声が聞こえてくる。

「は~い、ちょっと待っててね。安藤さん?」

 緒美が安藤に結果の確認を求める。

「はいはい…あ~、オーケー。全部命中、ズレは許容値内、だそうよ。」

 安藤は固定カメラのモニターを見ている記録班からの連絡を受け、緒美へ報告した。
 ターゲットは一辺が2メートルの鉄板であるが、一番奥側のターゲットが射撃位置から150メートルの位置に、底辺の高さが2メートルの位置に一本の支柱で設置されている。つまり、ターゲットの中心は地表面から3メートルの高さになる。
 五つのターゲットは全て地表面から同じ高さで、向かって左に3メートルずつずらして、手前側に向かって25メートル間隔で設置されている。つまり、一番目のターゲットは、五番目のターゲットに対し、前後で100メートル、左右で12メートル離れている格好になる。
 射撃位置は一番遠い第五ターゲットの正面に設定されており、茜には五番目のターゲットの見掛けの大きさは、腕を前に伸ばして親指を立てた爪先位置にある8ミリ角の板とほぼ同じである。左手側にオフセットされた一番手前の第一ターゲットでも、見掛けの大きさは同様に24ミリ角程度にしか見えない。
 天野重工の記録班は、それらターゲットの状態を固定カメラのズームによって確認したのだが、手前のターゲットにはおよそ1センチほどの穴が、一番遠い物にも3ミリほどの穴が開いていたのが確認されたのだった。
 因みに、茜が今回使用している荷電粒子ビーム・ランチャーは安全のため、出力が30パーセント程度に制限されている。

「天野さん?結果は良好だそうよ。暫く、そのまま待機しててね。ボードレールさん、LMF、射撃位置へ。」

 トランスポーターから降ろしたままの位置で待機していたブリジットに、緒美は移動を指示する。

「了解。」

 ブリジットが短く返事をすると、停止していた LMF がホバー・ユニットを噴かし勢いよく前進を始める。LMF は滑らかに加速し、茜の正面側10メートル程の距離を通過すると、50メートルほど進んで機首を左側へ向けながら急減速し、茜の右手側、西側70メートル程の射撃位置で南向きに停止した。
 LMF はコックピット・ブロックのキャノピーを持ち上げた有視界モードで操縦されており、着地すると腹ばいの姿勢でコックピットに収まっているブリジットが、彼女の左手側で待機している茜に向かって右手を振って見せている。茜は右手を挙げて、ブリジットに答えた。

「LMF01、射撃位置につきました。指示を待ちます。」

 緒美達の天幕下に、ブリジットのモニター音声が響く。
 それを聞いて、緒美が安藤へと視線を向けると、安藤は無言で頷いた。

「オーケー、ボードレールさん。向かって右、手前のターゲットから奥に向かって五枚、静止標的射撃開始。」

「了解。」

 再びブリジットが短く返事をすると、コックピット・ブロックのキャノピーが完全に閉鎖される。程無く、LMF 上部のターレットが少し右へ旋回すると、プラズマ砲の砲身が僅かに仰角を上げる。それらが一秒にも満たない時間の間に実行されると、落雷のような破裂音と共に右側の砲身から走った青白い閃光が第一ターゲットの鉄板を吹き飛ばした。透かさず、ターレットの角度と左側の砲身が仰角を整えると、再び破裂音と共に走る閃光が第二ターゲットを吹き飛ばす。
 LMF はターレットの両サイドに装備された左右のプラズマ砲を交互に発射し、五秒と掛からず五枚のターゲットを全て粉砕した。因みに、今回の試験で LMF のプラズマ砲は、安全のために出力を10パーセント程度に制限している。また、ターゲットとの距離も HDG のターゲットよりも、50メートル遠くに設置されていた。

「終了です。ターゲットの確認…は、必要ないですかね?」

 天幕下のモニター・スピーカーから、ブリジットの声が聞こえてくると、緒美達の周囲には微(かす)かなオゾン臭が漂ってくるのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第8話.05)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-05 ****


 畑中が二号車のエンジンを始動し、トランスポーターを後退させ始めると、その前方に駐車している一号車では、車輌後部のコンテナ天井部が、中央辺りを回転軸として角度にして30度程、起き上がるように開くのだった。間もなく、一号車のコンテナ内部から HDG 背部スラスター・ユニットのエンジン音が聞こえて来ると、そのコンテナ天井開口部からエンジン排気が吹き上がっているのが、空気の揺らめきに見て取れた。

「では、LMF に搭乗します。」

 トランスポーター二号車が移動していくのを確認して、ブリジットは LMF の方へ駆け足で向かった。

「はい、宜しく~。」

 緒美は LMF へと向かうブリジットの背中に声を掛ける。
 ブリジットはトランスポーター一号車の後部付近に差し掛かった所で、ふと、足を止めた。そこに、HDG を装着した茜が、傾斜路(ランプ)状になったコンテナ後部ドアを歩いて降りて来る。茜とブリジットの二人は、どちらからともなく右手を肩の高さほどに上げると、互いの掌(てのひら)を軽く打ち合わせ、再びブリジットは LMF の方へと駆け出した。

「なるほど、あの二人は仲が良さそうね。」

 その様子を見ていた安藤が感心げに、隣に立つ樹里に話し掛ける。

「詳しくは知りませんけど、中学の時に、色々あったみたいですよ。それで、天野さんの方が一方的に慕われているって言うか、そんな感じみたいで。」

「へぇ…天野さん、色々と凄い子らしいって、社内でも噂には聞いてたけど…。」

「噂…って、本社で、ですか?」

 モニターから目を離し、樹里は安藤の方へ向き直って、聞き返した。

「そりゃそうよ。会長のお孫さん、ってだけでも社内じゃ注目度高いのに、HDG のテスト・ドライバーなんかやってるんだから、テストのデーターと一緒に嘘かホントか分からないような逸話も、色々と流れてくるのよね。」

「それはまた…変な噂じゃなきゃいいですけど。」

「それは大丈夫。基本、好意的って言うか、期待値の高めの推測から尾鰭(おひれ)が付いた~みたいな?」

「それはそれで、本人的にはプレッシャーって言うか、聞かされたら赤面物でしょうね~。」

「だよね。」

 樹里は安藤と顔を見合わせて、笑った。
 そんな折、二人の目の前を二つの黒い球体が通過し、HDG を装着して歩いてくる茜の眼前、一メートルほどの位置で停止し、左右に並んで浮遊している。黒い球体の大きさは、直径がバスケット・ボールの倍ほどあるだろうか。
 一旦、歩みを止めた茜だったが、黒い球体がそれ以上近づいてこない事を確認すると、その動向を注視しつつトランスポーターの方から天幕の方へと再び歩き出す。その球体二つは、茜と距離を保って移動していた。

「何です?あれ。」

 その様子を見ていた樹里と緒美は、図らずも声を揃えて安藤に問い掛けたのだった。
 安藤はくすりと笑い、隣の天幕の下、最前列の長机の上に置かれた旅行鞄(スーツケース)状のコントローラーを指さした。
 安藤の肩越しに、指さされた方へ樹里が視線を移すと、コントローラーを操作しているのはクラウディアと佳奈の二人で、樹里が見ているのに気がついた佳奈はその存在をアピールするかのように、頭上に挙げた両手を振るのだった。
 樹里は微笑んで、右手を軽く振り返して見せる。

「あれが、さっき言ってた新型の観測装備よ。下側に、カメラとかが入っていて、その上にローターが入ってるの。フル充電で二時間ぐらい飛べるし、同時に四つまで制御可能なのよ。」

 そう安藤に言われて、浮遊する黒い球体をよく見ると、球形の上部から三分の二ほどは金属製のメッシュになっており、光の具合によっては内部で回転する二重反転ローターが見えるのだった。下端部のカメラ収納部はマジックミラー状になっているのか、外からはカメラ自体は見えない。

「記録した画像は、メモリー・カードか何かに?」

 緒美が樹里の側まで歩み寄ってきて、安藤に尋ねた。

「あ、本体にストレージはないのよ。画像データはリアルタイムでコントローラーへ転送されるから、コントローラー側で、記録のする、しないを選択するわけ。因みに、記録できるのは可視光画像と赤外線画像、それと熱分布画像(サーモグラフィ)の三つね。画像記録のタイム・コードに対応した GPS 座標データとかカメラの向きとか倍率とかの諸元も別に記録されるわ。」

「操作には二人必要なんですか?」

 今度は樹里が問い掛ける。

「飛行モードは幾つかあって、勿論、リアルタイムで人がリモコン操作も出来るけど。基本は観測対象を指定して、自動で距離と角度を保って自律制御するモードね。だから、飛行自体は一人で四機、制御するのは可能なんだけど、カメラのズームや角度の微調整とか、そっちの方が一人で複数台扱うのは、ちょっと大変かな。」

「今日の試験から、使えるの?安藤さん。」

 緒美の背後から声を掛けてきたのは、立花先生である。

「はい。いつも学校の方での試験の様子、動画で記録して貰ってましたけど、今後、B号機とかの試験が始まったら、空中機動とか撮影が難しくなりますから。お役に立つんじゃないかな、と。」

 との、安藤の発言に対して、真っ先にコメントを返したのは主にビデオ記録担当の恵である。

「あはは~助かります~。」

「今日は、固定の撮影機材もあるのよね?」

 立花先生が隣の天幕下、後列の長机上に並べられた五つのモニターの方を指さして、安藤に確認するのだった。

「それは、勿論。貴重な機会ですから、バッチリ記録させて貰いますよ。」

 そこへ、HDG を装着した茜が天幕の前に到達する一方、トランスポーターのコンテナから降りて来た直美と瑠菜が、天幕の後列へと向かう。それと入れ替わるようにトランスポーター一号車は、二号車と同様に管理棟脇の駐車スポットへ移動するために後退を始めていた。
 直美と瑠菜の二人は、天幕の下、最後列の長机上に置かれていたクーラー・ボックスを開け、スポーツ・ドリンクのボトルを取り出していた。そして、その装備のせいもあって、天幕下に入る事が出来ずにいた茜に向かって、瑠菜はドリンクのボトルを掲げて呼び掛ける。

「天野~水分補給しておく?」

「あ、いえ、今はいいです。」

 その様子を見ていた恵が、安藤に向かって言った。

「天野さん用にパラソルか何か、用意しておけば良かったですね。流石に、この天気で HDG 装備のまま待機は辛そう。」

「そうね~気がつかなくて、ごめんなさいね。天野さん。」

「いえ、大丈夫ですよ。インナー・スーツには体温調整機能も付いてますから、見た目ほど暑くないんですよ。それに剣道やってましたから、少々なら暑いのには慣れてますので。真夏の体育館で防具とか着けてたら、もっと暑いですから。」

 茜は微笑んで、そう答えた。
 そこへ、隣の天幕から男性作業員が安藤に声を掛けてきた。

「安藤さーん、機材チェック、全て完了しました。作業員も全員現場から退避を確認。いつでも行けま~す。」

 声の方へ目をやると、二十人ほどの設営スタッフが、隣の天幕の下で汗を拭いたり、ドリンクを飲んだりとそれぞれが一息ついていた。その一方で、記録担当のスタッフ達は、機材を前に試験開始を待って緊張の面持ちと言った様子である。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第8話.04)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-04 ****


 緒美達三人が天野重工の天幕へと到着すると、茜とブリジットがインナー・スーツを着用し終え、立花先生と共に学校のマイクロバスから降りて来た。茜達三人は天野重工の天幕へ真っ直ぐに向かい、近づいてくる三人の姿を認めた緒美が先に声を掛ける。

「ご苦労様、準備はいい?」

「今の状況は?」

 立花先生が緒美の傍(そば)まで歩み寄って聞いた。

「LMF の方は Ruby が制御を起動中です。起動次第、自律制御でトランスポーターから降りて貰います。」

「あ、わたしは乗らなくても?」

 少し離れて、緒美と立花先生のやりとりを聞いていたブリジットが声を上げる。

「ええ、うっかり転倒でもしたら、危ないから。LMF が地面へ降りたら、操作をお願いね。」

「はい、分かりました。」

 ブリジットの返事を聞いて、緒美は制服のポケットから携帯端末を取り出し、直美へとコールを送る。

「あ、鬼塚です。そちらの様子はどう?…わかった、天野さんを向かわせるわ。」

 通話を終えて携帯端末をポケットにしまうと、緒美は茜に向かって言った。

「HDG の方も起動準備できてるそうだから、天野さんは、HDG の装着とスラスター・ユニットの起動までやっててちょうだい。直(じき)に試験場のセッティングも終わると思うから。」

「はい。」

 そう短く返事をすると、茜はブリジットに小さく手を振って、天幕の前に駐められているトランスポーター、一号車の後部へと向かって歩き出した。そうこうする内、一号車の後方に駐車されている二号車の荷台上から、LMF のメイン・エンジンが起動する音が聞こえて来る。
 その音に気がついたのか、天幕の前を横切って二号車の方へ向かおうとする畑中を、緒美は呼び止めた。

「畑中先輩、LMF の係留は全部外されてますよね?」

「あぁ、大丈夫、終わってるよ。」

「LMF をトランスポーターから降ろしますから、二号車周囲の人払いをお願いします。」

「あいよ、ちょっと確認してくるから、待機させてて。」

 畑中は天幕の側からは見えない、トランスポーターの左側を目視で確認するために、一号車の先頭方向へと駆けて行った。
 それと入れ違いに、安藤が天幕の下へと試験場方向から戻ってくる。

「緒美ちゃん、現場のターゲットとセンサー設置、ほぼ終わったそうよ。今、データ取得の最終確認やってる。終わったら連絡が来るから。」

「あ、はい。 城ノ内さん、Ruby のモニター回線、繋がったかしら?」

「はい、Ruby の音声をスピーカーに繋げますね。部長は、これを。」

 樹里はデバッグ用コンソールの前に立って状態を確認していたが、コンソールのスピーカーへの切り替え操作をして、緒美にコマンド用ヘッド・セットを渡した。程なく、Ruby の合成音声が聞こえてきた。

「LMF 起動確認。メイン・エンジン、スロットルの現在ポジションはアイドル。自律行動、開始の承認を待ちます。」

「了解。今、あなたの周囲の安全を確認中だから、そのまま、待機してて。」

 ヘッド・セットのマイクに向かって緒美が Ruby に語りかける。

「ハイ。待機します。」

 Ruby から返事があるのとほぼ同時に、畑中が一号車の影から手を振って、声を上げる。

「おーい、鬼塚君。二号車南側の安全を確認。LMF 動かしていいよ~。」

「ありがとうございま~す。」

 緒美はヘッド・セットのマイク部を親指と人差し指で抓んで押し下げ、畑中に返事をすると、次いでマイク部を口元に戻して Ruby への指示を出す。

「いいわよ、Ruby。安全を確認、自律行動開始承認。中間モードへ移行して、トランスポーターから降りてちょうだい。」

 すると透かさず、Ruby から緒美の指示に対する質問が、樹里が向かっているコンソールから聞こえる。

「トランスポーターの右側と左側、どちら側に降りますか?」

「そうね。南側、あなたの左側の方が広いから、そっちへ降りてちょうだい。トランスポーターから降りたら、今と同じ向きで待機してね。トランスポーターを移動して貰うから。」

「ハイ、分かりました。では、自律行動開始します。」

 LMF は機体下部に装備する一対のホバー・ユニットが起動すると、ユニットの作動音と吸気音が大きくなると共に、機体は荷台上でわずかに浮上した。トランスポーターの周囲では、荷台床面に吹き付けられた空気が地面へと滑り落ち、土煙が舞い上がる。
 LMF は荷台上で浮上すると、機体各所に設けられたバーニア・ノズルから圧縮空気を噴射して機首の方向を左側へ向け、トランスポーターに対して直角に機軸が向いた所で旋回を止める。そして、ホバー・ユニットの左右間隔(トラック)を広げると、ホバー・ユニットの出力を絞って荷台上へと降りた。次いで、トランスポーターの荷台上でホバー・ユニットの連結機構を展開し、機体上部を持ち上げるのだった。
 LMF のホバー・ユニットは、折り畳まれた連結機構を展開すると、それは地上での鳥の脚部のような構造となる。それと同時に、LMF 機体側部上面に装備された、一対のアーム・ブロックが展開される。この一対の腕部は、エイリアン・ドローンとの超接近戦のための格闘用マニピュレータで、組み付こうとする相手を振り払ったり、反撃を行う事を想定しての装備である。これは、現用の浮上戦車(ホバー・タンク)には無い LMF 特有の機構ではあるのだが、LMF 自体に実戦経験の無い現時点に於いて、その有効性は未知数だった。
 こうして機体モードを『中間モード』に移行した後、Ruby は LMF を操ってトランスポーターの荷台上から、左脚に当たるホバー・ユニットを前方の地面へと降ろした。ホバー・ユニット本体は機体全長の半分ほどの長さがあるので、LMF の一歩では踵(かかと)に当たるホバー・ユニット後端まで一気に地面に降ろす事は出来ない。そのため、爪先立ちのような姿勢で左側のホバー・ユニットを地面に降ろした後、左側ホバー・ユニットと同様に爪先立ちのように右側ホバー・ユニットを地面に降ろし、一対のマニュピレータを動作させて器用にバランスを取りながら、二歩進んで踵部を地面に降ろしたのだった。LMF はその位置で足踏みを繰り返すように元の西向きへと機体の向きを戻して、アーム・ブロックとホバー・ユニットの連結機構を折り畳み、通常形態である高機動モードへと戻った。因みに、左右のホバー・ユニットは、左右幅を広げたワイド・トラック・モードのままである。
 そんな、LMF が自力でトランスポーターから地上へと降りる一連の動作を見ての、どよめくような雰囲気が、少し離れた迷彩柄天幕下から伝わってくるが、その辺りは白い天幕の下にいる一同とは、当然の温度差がある。

「畑中先輩、二号車の移動、お願いします。」

 緒美が声を掛けると、畑中は手を挙げて答え、トランスポーター二号車の運転席へと上がっていった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第8話.03)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-03 ****


 一方、トランスポーターに積載されている LMF の方へと向かった樹里は、持参していた愛用のモバイル・パソコンを LMF のコンソールへと接続しようとしていた。因みに、樹里の愛機は、立花先生が普段使用している物より、一回り小さいタイプのモバイル・パソコンである。
 LMF には既に電源車からのケーブルが接続されており、電気の供給が可能な状態となっていた。
 機体後方のメイン・エンジン下部のスペースから機首方向を眺めると、LMF の機体中心部には直立するように円筒状の構造があり、砲塔部はその上部に装備されている。操作用コンソールは、その円筒構造部下部後方側に設けられている分厚いメンテナンス用ハッチの中に用意されていた。
 直美達は外部電源ケーブルの接続確認を終えて、メンテナンス・ハッチの前で樹里の作業を眺めていた。
 樹里はトランスポーター荷台の床面に置かれたモバイル・パソコンの前にしゃがみ込んでモバイル・パソコンの起動状態を確認し終えると、モニター用通信ケーブルをモバイル・パソコンと LMF のコンソールの双方に接続し、LMF の外部電源受電ブレーカーのトグルスイッチに手を掛けた。

「じゃ、LMF に外部電源、投入しま~す。」

「はい、やってちょうだい。」

 樹里の宣言に、そこに居た四名の内、もっとも後列から直美が答えた。
 樹里が受電ブレーカーの少し硬いスイッチを押し上げると、スイッチ傍(そば)の受電パイロットランプが白く点灯した。続いて、LMF の制御系、つまり Ruby の起動スイッチを押すと、起動状態を表示する LED が先ず緑色に点灯し、暫くして赤色の点滅に変わる。樹里は膝先のモバイル・パソコンに視線を移し、Ruby との通信アプリケーションの状態モニター画面を開くと、起動情報がスクロールして行くのを確認した。

「はい、Ruby がスリープ状態から再起動中です。システムの自己チェックに五分くらい掛かりますけど~今のところ、異常は無さそうですね。」

「オッケー、じゃぁ、もう暫く Ruby 待ちね。」

 腰を屈(かが)めて、瑠菜を間に挟んで樹里の背後からパソコンのモニターを覗き込んでいた直美は、少し身を引いてそう言った。メイン・エンジン下のスペースは、人が立ったままでは入る事が出来ない高さなので、頭をぶつけないようにと、直美は右手を頭上に挙げて頭上の機体下面を右手で触れている。

「所でさ、樹里。カルテッリエリと佳奈、あの二人を組ませちゃって、平気?」

 樹里の背後から様子を見ていた瑠菜が、中腰の姿勢のまま、樹里に話し掛ける。

「大丈夫、大丈夫。カルテッリエリさんの方がナーバスになってたぐらいだから。佳奈ちゃんは、そんな事、気にしないし、安藤さんも一緒なんだし、ね。」

「そうかな~?天野の時みたいに、変に突っ掛かってたりしてなきゃいいけど…。」

 心配げな瑠菜の左肩を叩いて、左隣に居た恵が言う。

「平気よ。あれでも、カルテッリエリさんは相手を選んでやってるもの。天野さんはあの手の挑発には乗らないから、最近じゃ、相手にしてるのは専らボードレールさんの方だしね~。古寺さんも、あの手の挑発には『我関せず』のマイペースな人だし、そう言う相手に、無駄に突っ掛かっては行かないわよ。」

「…なら、いいんですけど。」

「あはは、森村が言うんだから、間違いない。」

「何、部長みたいな事言ってるんですか、新島先輩。」

 そう言って、樹里は笑うのだった。

「さて、それじゃ、わたしは HDG の方、リグに電源が繋がったか見てきます。」

「あ、わたしも行く。森村、こっちはお願いね。」

「は~い。」

 瑠菜と直美は LMF が積載された荷台後部に降ろされた、跳ね上げ式のスロープを伝って地上に降りると、HDG がメンテナンス・リグごと積み込まれたトランスポーター一号車へと向かった。それと入れ替わるように、緒美が LMF が積載されている二号車の荷台へと上がってくる。
 真っ先に緒美に気がついた恵が、振り向いて声を掛けた。

「あ、緒美ちゃん。ご苦労様~、早かったね。」

「まぁ、顔見せだけだったから。飯田部長はまだ、あちらのお相手してるけど、こっちは試験の準備があるからって、先生と一緒に早々に退散してきたの。」

「飯田部長が言ってた、先方の反応って、どうだったの?」

「あはは、なんだか説明しづらい、複雑な表情だったわね。大人のあんな表情見たのは、初めてかも。」

 真顔の緒美の説明を聞いて、くすくすと笑う恵と樹里だった。

「で、こっちの状況はどう?城ノ内さん。」

「今、Ruby の起動自己チェック中です。もうそろそろ、終わるはずです。」

 それから間もなく、樹里のパソコン・モニター上でチェック画面のスクロールが止まり、数秒の後、LMF のメンテナンス・コンソール部のスピーカーから Ruby の合成音が聞こえた。

「おはようございます。天野重工製GPAI-012(ゼロ・トゥエルブ)プロトタイプ、Ruby です。只今、コンソール限定モードでスリープ・モードから復帰しました。コンソールに接続しているのは樹里ですか?」

「そうよ、おはよう Ruby。部長と恵先輩も一緒にいるよ。」

「そうですか。学校の格納庫と違って、外部センサーからの情報が無いので、周囲の状況が何も分かりません。現在時刻を内蔵時計(インターナル・クロック)で確認しました。予定通りなら現在位置は試験場ですね。」

「うん、そう。それで、LMF をトランスポーターから降ろしたいの、直(ただ)ちにフル・モードに移行して LMF を起動してちょうだい。」

 樹里の背後から身を屈めて、緒美が Ruby に指示を出す。

「トランスポーターから降りるのは、ブリジットの操縦で行いますか?」

 Ruby の質問に対し、緒美は少し考えてから、答えた。

「トランスポーターから降りる時に、転倒でもしたら危険かもね。いいわ、あなたの自律制御でやりましょうか。荷台からホバーで降りるのは不安定になりそうだから、中間モードで歩いて降りてちょうだい。」

「分かりました。コンソール限定モードからフル・モードへ移行、LMF の制御を開始します。LMF 制御電源確保のため APU をスタートします。LMF 機体周辺で作業中の方は、退避して下さい。」

 緒美の指示を受け、即座に Ruby は指示を実行に移す。樹里はモニター・アプリの終了操作を行ってから、コンソールから通信ケーブルを引き抜き、Ruby に言った。

「じゃぁ、わたし達はここから離れるわね。LMF の制御が確立したらいつものチャンネルに接続して、そっちであなたの状態をモニターしてるから。」

「ハイ。所で、樹里。今日、麻里はここに来ていますか?」

 立ち去ろうとする間際、Ruby がそう樹里に問い掛けるのだった。

「残念だけど、今日は来られないそうよ。代わりに、安藤さんが来てるの。モニターと接続が確立したら、お話しできるわよ。」

「分かりました。LMF の起動作業を続行します。」

 樹里と恵、そして緒美の三人は、メンテナンス・ハッチを閉じてロックを確認してからトランスポーター荷台後部のスロープを降りると、モニタリング用コンソールが設置されている天野重工の天幕へと向かった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第8話.02)

第8話・城ノ内 樹里(ジョウノウチ ジュリ)

**** 8-02 ****


「みんな、久し振りね~あ、一年生の三人とは初めまして、だね。本社開発部設計三課、Ruby 開発チームの安藤です。」

「今日は、井上主任はいらっしゃらないんですか?」

 安藤とは一番顔馴染みである樹里が、まず、話し掛ける。

「うん。主任も直前まで来るつもりだったんだけどね~ほら、今日は維月ちゃんのお誕生日だし。でも、急に外せない会議が入っちゃって。 あれ?今日は維月ちゃんは来てないんだ。」

「会議って、今日、土曜日ですよ。普通、会社は休みの日じゃ…。」

 瑠菜がそこまで言ったのを、遮(さえぎ)るように苦笑いしながら安藤が答える。

「平日忙しい人が複数集まろうとするとね、休日潰すしかスケジュールの取りようが無い事って、良くあるのよ。 あ、主任から維月ちゃんへ誕生日プレゼント預かってるから、あとで渡しといて貰えるかな、樹里ちゃん。」

「いいですよ。今日、運用試験の打ち上げと称して、維月ちゃんと部長の誕生日パーティーを密かに画策してますから。」

「え、緒美ちゃんも今日、誕生日なの?」

「いいえ。半月遅れなんですけどね。部長の誕生日って中間試験期間の真っ只中なので。」

「いいな~楽しそう~。」

「安藤さんも参加されます?兵器開発部(うち)的には大歓迎ですけど。」

「あはは、生憎、ここの撤収作業をやったら、そのまま会社へ蜻蛉(とんぼ)返りのスケジュールなのよ。残念。 さて、じゃぁ、そろそろ準備に掛かりましょうか。現場の方(ほう)、ターゲットとかの設置確認にあと三十分ぐらい掛かるから、その間にみんなには HDG と LMF のセットアップをお願いしたいの。トランスポーターから機材を降ろす作業は危ないから、社の人間に任せて、あなた達は手を出さないようにね。樹里ちゃんには計測機材のセットアップを手伝って貰いたいのと、あと誰か二人、新しい観測機材の取り扱いを聞いておいて欲しいのよ。そうね、ソフト担当一人とメカ担当一人ずつがいいかな。」

「と言う事は、一人はカルテッリエリさんで決まりだけど、メカの方は誰にします?新島先輩。」

 樹里は、人選について直美に意見を求める。

「そうだね~瑠菜か古寺か、クラウディアと組ませるとしたらどっちが良いと思う?城ノ内は。」

「だったら、佳奈ちゃん。」

 微笑んで樹里は即答した。

「よし。じゃぁ、古寺とクラウディアは新装備のレクチャーを受けてきて。天野とブリジットはインナー・スーツに着替えて、森村と瑠菜は、わたしと LMF の起動準備に掛かりましょう。」

「あの、すいません。インナー・スーツに着替える前にトイレに行っておきたいんですけど。」

 直美の指示を受け、茜が安藤に尋ねる。

「あぁ、トイレはあそこの管理棟のを借りられるから。正面の入り口から入って右側の突き当たり、行けば分かると思うわ。」

「はい、分かりました。ちょっと、行ってきます。」

「あ、わたしも。」

 管理棟の方へ早足で歩き出した茜を追って、ブリジットも駆け出す。その一方で、直美達は LMF を載せたトランスポーターへと向かって歩き出し、丁度、運転席から降りて来た畑中に向かって、直美が声を掛けるのだった。

「畑中先輩、LMF 起動掛けますので、電源お願いします。」

「おう、電源車、これから起動するから、ちょっと待ってて。」

 畑中が、天幕の前に駐めてある電源車の方へ向かうと、直美は振り向いて樹里に言った。

Ruby 起こすの、確認して貰えるかな、城ノ内~。」

「あ、はいはい、やりま~す。 あ、先に Ruby、スリープ・モードから復帰掛けて来ますから。佳奈ちゃんとカルテッリエリさんの方、お願いしますね、安藤さん。」

「了解。」

「あ、城ノ内先輩。」

 直美に呼ばれてその場を離れる樹里だったが、その後を追いかけて来たクラウディアが、樹里を呼び止める。振り向いた樹里に、クラウディアは背伸びをするような姿勢で、小声で語りかけるのだった。

「わたし、古寺先輩、苦手です。」

 珍しく不安げな表情をするクラウディアに、樹里は微笑んで言った。

「大丈夫よ、佳奈ちゃんは、ちょっとずれた所はあるけど、少し、無邪気(イノセント)が過ぎるだけだから、慣れてちょうだい。」

 その時、安藤と共に新型観測機の方へと歩き出した佳奈が、クラウディアに呼び掛ける声が聞こえた。

「クラリ~ン、おいで~。レクチャー受けに行くよ~。」

 げんなりとした表情でクラウディアが言う。

「ほら、あの調子にはついて行けそうにありません。」

「あはは、まぁ、頑張って、クラリン。」

「城ノ内先輩まで、クラリンって呼ばないでください!」

 樹里に背を向けて、安藤と佳奈の方向へ歩き出したクラウディアの背中を、樹里は軽く叩いて送り出す。その時、再び、佳奈がクラウディアを呼んだ。

「早くおいで~、ク~ラリン。」

「クラリン、呼ばないでください!」

 語気を強めてクラウディアが抗議するのだが、佳奈は意に介さない。

「えぇ~いいじゃない~。」

「良くありません。」

「あははは、流石の危険人物も、佳奈ちゃんには敵わない様子ね~。」

 二人のやりとりを聞いていた安藤は、笑ってそう言うのだった。

「なんですか?危険人物って。」

「維月ちゃんから、聞いてるわよ。色々と武勇伝があるって話。」

「武勇伝って、日本(こっち)に来てからは、未だ、大したことはしてませんよ。」

「そりゃ、大したことされちゃったら、会社が困るから~。」

 安藤はそう言って明るく笑うと、クラウディアの肩を軽く叩いた。

 

- to be continued …-

 

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