WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第9話.14)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-14 ****


「さて、校長。そちらから、何か言っておく事は有るかね?」

「理事長の方は、もう宜しいんですの?」

「まぁ、そうだな。校長の方から、お話が無ければ、そろそろお開きにしようかと思うが。」

「では、一つだけ…。」

 そう言って、塚元校長は視線を兵器開発部一同の方へと移した。

「城ノ内さん?」

 突然、名前を呼ばれ、樹里は慌てて返事をする。

「あ、はい。何でしょうか?校長先生。」

「あなたからは、何も発言が無かったけど、何か言っておきたい事は有りませんか?」

「いえ…特には、無いですけど。どうしてですか?」

 塚元校長は微笑んで、答える。

「黙って、お話を聞いてるだけでは、退屈したでしょう?」

「いえ、色々と興味深いお話だったので、大変有意義だったかと。わたしが退屈している様に、見えましたでしょうか?」

「そんな事は有りませんでしたよ。 ルーカスさん、古寺さん、あなた達も発言の機会が少なかったわよね。何か、言っておきたい事は有る?」

 塚元校長の問い掛けに、瑠菜と佳奈は、姿勢を正して答えるのだった。

「いいえ、有りません。」

「わたしも、特には無いです。」

「そう。では、わたしからも特には有りません。 理事長。」

 視線を天野理事長へと戻し、塚元校長は頷くように頭を下げた。天野理事長も一度頷いて、話し始める。

「では、最後にもう一度、釘を刺しておくが。今回は幸いにも上手く行ったが、幸運は二度、三度と続く物では無い。今後は呉呉(くれぐれ)も、危険な真似はしない様に。大人を信じて、指示に従って欲しい。良いかな?」

 天野理事長の言葉に、兵器開発部一同は声を揃えて「はい。」と、答えた。その返事を聞いて、不意に、天野理事長が立ち上がる。

「…とは言え、だ。実際問題として、今回、諸君の行動は、この学校の生徒達と施設が危険に曝(さら)されるのを防いでくれた。その事実には、学校を代表して、諸君には礼を言わねばならない。 ありがとう。」

 両手を執務机に着き、天野理事長は頭を下げるのだった。その様子に兵器開発部の一同が戸惑う中、天野理事長は頭を上げて言葉を続けた。

「話を聞かせて貰って、今回のキミ達の行動が面白半分の暴走や、妙な功名心からの物で無い事は理解出来た。純粋に、級友の安全を願う思いや、愛校心からの行動であったと思う。それ故に、感謝を表明する物であるが、だからと言って褒める訳にも行かん。もう一度言うが、二度とこの様な事はしない様に。約束してくれるな?」

 兵器開発部一同、もう一度、声を揃えて「はい。」と、答えるのだった。

「よろしい。では、ご苦労だったね。今日は、以上だ。」

 天野理事長と塚元校長に向かって一礼すると、部長である緒美を残して、ドアに近い者から順番に退室して行く。そこで、天野理事長が、茜を呼び止めるのだった。

「あ~天野君。」

 天野理事長は、右手を前に出して、小さく手招きをして見せる。茜は不審に思いつつ、室内に戻り、中央の応接テーブルの前まで進むのだった。

「何でしょうか?」

「薫…お母さんには、昨日の事は伝えたりしたのかな?」

「いえ…未(ま)だ、です、けど?」

「そうか。昨日の件は折を見て、わたしの方から伝えておくから、暫く、黙っておいてくれ。心配させるといけないし、アレは母親に似て、怒ると怖いからな。」

 くすりと笑って、茜は答える。

「解りました。他には?」

「いや、それだけだ。」

「では、失礼します。」

 茜はもう一度、礼をしてドアへと向かう。
 全員が廊下に出たのを確認して、緒美と共に立花先生がドアへと向かおうとした時、天野理事長が立花先生を呼び止めるのだった。

「あ、立花先生は、ちょっと残ってて貰えるかな。」

 理事長室から廊下へと出た茜達の視線が、一斉に室内に向けられたのに気が付いた塚元校長が、宥(なだ)める様に声を掛ける。

「大丈夫よ、昨日の件で立花先生だけを、虐(いじ)めたりしないから。」

 天野理事長も、言葉を続ける。

「別件で、少し打ち合わせたい事が有るだけだから、キミ達は心配しなくても良い。」

 立花先生は、兵器開発部一同に視線を送ると、微笑んで頷いて見せる。そして、緒美が室内へ向かった皆の視線を断ち切る様に、開けられたドアの前まで進むと、くるりと室内方向へと身体を翻(ひるがえ)した。

「では、失礼します。」

 最後に、緒美がもう一度、一礼し、ドアを閉じるのだった。
 一斉に十人もの生徒が出て行った為、理事長室は急にがらんとした様に感じられる。
 天野理事長は、執務机を離れると、塚元校長と対面位置のソファーへと移動した。

「立花先生も、座ってくれ。」

「こっちへ、いらっしゃい。」

 塚元校長が自らの隣の、ソファーの座面を、ポンポンと叩いた。

「では、失礼します。」

「加納君、立花先生にお茶を。」

 塚元校長の左隣に一度は座った立花先生が、又、立ち上がって言った。

「あぁ、お構いなく…。」

「遠慮は不要だよ、立花先生。」

「立花先生は、コーヒーの方が宜しいですかね?」

 天野理事長の背後に立つ加納が、問い掛けて来る。

「あぁ、はい。では、お言葉に甘えて、コーヒーで。」

「あはは、いいから座って、立花先生。 あ、加納君、わたしにもコーヒー、頼むよ。」

「はい、承知しました。塚元校長は、如何ですか?」

「わたしは、もう結構。」

「では。」

 オーダーを聞き終えた加納は、さっさと隣の秘書室へと姿を消すのだった。

「立花先生は、あの子達に好かれてますね。良い事ですよ。」

 と、塚元校長が、先ず、話し始める。

「恐縮です。」

「それで、さっきの一連の話を聞いていて、どうだい?昨日、立花先生が聴取した内容とは、可成りニュアンスが違っていただろう?」

 天野理事長はニヤリと笑い、立花先生に問い掛けた。

「そう、ですね。冷静に考えてみれば、あの鬼塚さんが、一年生に迎撃を指示するだなんて。『やるなら、自分でやる』位は言いそうな子なのに。鬼塚さんから話を聞いていてた、自分が冷静でなかったんだな、と、思います。」

「鬼塚さんは責任を全部被る積もりで、立花先生の聴取に答えていたんでしょうね。」

「ああ言う、お互いを庇い合っているチームの事情聴取は個別にやっては駄目なんだ。誰が事実を言っているのか解らなくなる。一堂に集めて聴取をすれば、それぞれが自分から事実を話し出す、先刻の様にな。」

「はい。」

 立花先生は、徒、頷くばかりである。

「逆に、責任を押しつけ合っている様なチームの場合、纏(まと)めて聴取をやっては駄目だ。その中で力の有る者の顔色を窺って、誰も事実を言わなくなる。後で報復されるのを、恐れるからね。そう言う場合は、関係者全員から個別に事情を聞いて、これは大変な作業になるが、全部の内容を付き合わせて、聴取した内容のどの部分が本当で、どの部分が嘘か、割り出すしか無い。立花先生もこれから先の仕事で、そう言う局面に出会うかも知れないから、頭に入れておくと良い。」

「理事長は、今朝の、わたしの報告を聞いて、鬼塚さんが他のメンバーを庇っていると?」

「今朝の報告の内容は、何度か会った時の、鬼塚君の印象では信じられなかったからね。まぁ、それ以上に、迎撃に至った動機については、聞いておかねばならなかった。自分らが開発した技術や装置が機能するか試したかった、とかの浮ついた動機であれば、これは叱ってやらないと、とは思ったがね。」

「想像以上に、真っ当な動機だったので、少し驚きましたが、安心もしましたね。」

 そう、塚元校長が言うと、「同感だ」と言って天野理事長は、声を上げて笑った。そこへ、コーヒーの入ったカップを二つトレイに乗せて、加納が理事長室に入って来る。そして加納は、カップをテーブルの上に、静かに置いた。

「しかし、女子ばかりのあの兵器開発部で、こんな事態(こと)になるとは思ってもみなかったよ。」

 カップを手に取った天野理事長は、口元へとカップを運ぶ。一口、コーヒーを飲んで、天野理事長の発言は続く。

「茜に、剣道をやらせたのは、間違いだったかな。」

「あら、天野さんに剣道を勧めたのは、理事長でしたの?」

「うん。あの子は小さい頃から一人で本を読んでいるのが好きな、内気と言うか、人見知りと言うか。そんな具合だったから、小学校に上がってから、友達関係で苦労していると、娘…茜の母親から相談されてね。それで、武道系のスポーツでもやらせてみれば、人付き合いの面でプラスになるかと考えて。荒療治になるかも知れんが、まぁ、向かない様なら直ぐにでも辞めさせる積もりで、知り合いの道場、柔道と剣道のに連れて行ったんだが。柔道の方は相手と取っ組み合いするのを見ただけで怖がっていたんだが、剣道の方は防具を着けるし、直接組み合わないから、それ程、抵抗は無かった様子でね。それでも実際、中学を卒業する迄、続けるとは思って無かったよ。」

「先程のお話から察するに、天野さんが剣道をやっていたからこそ、中学校での孤立を免れたのでしょう?」

「それは、その通りなんだがね。あの子がパワード・スーツに興味を持った遠因が、剣道に有ってだね。」

 塚元校長の所感に、そう答えた天野理事長は、苦笑いを浮かべるのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第9話.13)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-13 ****


「いえ、謝罪は結構です、加納さん。 クラスにはブリジットが居ましたし、わたしを無視する人達の事は、わたしの方が無視していた位ですから。 それより、一年生の時の担任が、二年生に上がった時に転勤して行ったのは、そう言う訳(わけ)だったんですね?」

「はい。年度が変わって、協力する教師が居なくなった事で、首謀者の女子生徒は校内での扇動が思う様に行かなくなり、それで余計に、学校外での襲撃を画策する様になった、と言うのが事の流れです。お話し出来る顛末としては、大体、以上のような経緯となります。」

 加納が話を終えると、立花先生が真面目な顔で、天野理事長に問い掛ける。

「理事長、二人に三年間も警護を付けるのって、費用として相当の負担額ではないかと思いますが、相手方や学校に費用の一部でも請求とかされたら如何でしょうか?今の話だと、証拠も揃って居るようですし。」

 天野理事長は少し笑って、答えた。

「証拠と言っても、裁判にでもなれば、命綱にするには可成り頼りないね。なにせ、その女子生徒は人に指示したり教唆(きょうさ)しただけで、自分では一切、手を下してはいない。だから、直接的な物証は何も無い。集められた証言にしても、同じ内容を裁判で証人として証言をして貰えるか、その辺りが怪しい人物も可成りの数、含まれているし。そんな状況で被害の発生を防ぐのに掛かった費用を、相手方に請求するのは、まぁ、現実的ではないだろう。立花先生は法務を専攻されたから、こう言った都合については、詳しいのではないかな?」

「法務とは言っても、刑事の方は専門外ですので。」

「そうか。まぁ、結果的に二人の身の安全は確保出来たし、会社への被害も未然に防げた。強請(ゆすり)で支払いが発生すれば、ネタの内容にも依るが、その額は警護よりも高くつくだろうし、強請に応じれば財務にも歪みが生じる。警備・警護の費用なら必要経費にでも出来るが、強請の支払いは、そうは行かないからね。」

 そう言って、天野理事長は笑うのだった。

「だからと言って、そこまで解ってて無罪放免と言うのは、納得が行きません。」

 直美が、語気を強めて少し大きな声を上げると、天野理事長は真面目な顔で答えた。

「勿論だ。元々は相手方の家庭の問題だからね。こちらで集めた資料を纏(まと)めた上で、弁護士を通じて相手方の親御さんへ送ったよ。彼女たちが中学を卒業してからね。それで、先方の更生の切っ掛けにでもなれば、と思っていたんだが。」

 そこで、天野理事長が発言を止めたので、数秒待って、茜が尋ねた。

「何か、あったんですか?」

「うむ…。」

 唸るような声を出して、天野理事長は椅子の背もたれに身を預ける。その様子を見て、加納がアイコンタクトの後、発言するのだった。

「では、わたしから。 実は、その首謀者の女子生徒なんですが、この四月に、違法薬物の急性中毒で入院したそうです。聞いた所に依れば、植物状態で回復の見込みは無い、とか。それから、わたしが『碌でもない大人』と言った、彼女に付いていた男なんですが、解雇された後に、何らかの喧嘩に巻き込まれたとかで、死亡しております。」

「…何が有ったんでしょうか?」

 茜は眉間に皺を寄せ、加納に問い掛ける。しかし、加納は表情を変えず、事務的に答えるのみだった。

「さぁ、そこまでは解りませんし、我々の関知するべき所でも有りません。一方は違法薬物…平たく言えば『麻薬』が絡んでおりますし、もう一方は過失であったとしても殺人事件、どちらも、立派な刑事事件ですので、警察の方(ほう)で捜査をしている、と、聞いております。」

「新島さん。」

 塚元校長が、突然、直美を名指しで声を掛ける。直美は少し驚いて、返事をするのだった。

「あ、はい。何でしょう?校長先生。」

「あなたは、先程の一連の顛末を聞いて、このお話からどんな教訓を引き出しますか?」

 そう問い掛けると、塚元校長は静かに微笑む。直美は一度、天井に視線をやるようにし、数秒考えて、答えた。

「因果応報…でしょうか。」

「分かり易くて良いですね。そう言うお話だったと、受け取る人も多いでしょう。けど、わたしは『付き合う人は、選びなさい』と、言いたいですね。碌でもない人と関わると、自分も碌でもない目に遭う、と。そう言った意味で、天野さんも、ボードレールさんも、一時的に嫌な思いはしたでしょうけれど、お互いが選んだ相手は友人として適切だったと思っていいでしょう。 あの時に、嫌な思いをしたくなくて、天野さんもボードレールさんも、あちら側を選ぶ事だって出来たのに、それをしなかった。それは、二人とも誇りに思って良いと、わたしは思いますよ。」

「はい、ありがとうございます。」

 茜とブリジットが、揃って返事をする一方で、ニヤリと笑って天野校長が言うのだった。

「『人を選べ』などと、教育者が言っても良い物ですかね?校長。」

「皆さんがもっと、幼い子供だったら『みんなと仲良くしなさい』と、立場上、言う所かも知れませんが。残念ながら、実際の世の中は『みんなが仲良く』出来るような社会では無いですからね。危険な人や、危険な事からは距離を取る。そう言う賢明さは、生きていく上で必要だと。それは大人として、皆さんに伝えておかなければいけません。そして、皆さんは『人を見る目』を、養っていかなければなりませんよ。」

 塚元校長は、天野理事長の突っ込みを、平然と切り返すのだった。そして、思い出したように、今度はブリジットへ向かって、塚元校長は尋ねた。

「そう言えば、ボードレールさん。進路をこの学校に決めたのは、その事件の影響も有るのかしら?」

「いいえ。単純に、茜と同じ進路に行きたかっただけだけなんですが…今のお話を聞いて、会社の方へは、正式に入社してから、幾らかでもわたしに出来る事で、お返しをしなければ、と。今は、そう思っています。」

 その返事を聞いて、天野理事長は幾分、困ったように言うのだった。

「だから、そのような事は考えなくてもよい、と、先刻も言ったと思うのだが?ボードレール君。」

「あ、あぁ~…スミマセン。」

 恐縮するブリジットを見て、微笑んで天野理事長は言った。

「まぁ、これからも茜と仲良くしてやってくれたら、茜の祖父としても嬉しいよ。」

「はい。」

 ブリジットは、運動部の所属らしい、はっきりとした返事を返す。天野理事長は一度頷(うなず)いて、再び話し始めるのだった。

「さて、大幅に話が逸(そ)れたので、昨日の件に話を戻すが。鬼塚君、キミが迎撃を行うと考えを切り替えて、その時点で成功の確率はどのくらいと見込んでいたのか、教えてくれるかな?」

「明確に、何パーセント、とは答えられませんが…段階毎に、色々と可能性は考えていました。先ず、第一段階として、レーダー施設の防空用ミサイルを、防衛軍が作動させるだろうと。これで、向かってくるエイリアン・ドローン六機が、一乃至(ないし)は三機の範囲で処理されるだろう、と見込みました。実際に撃墜出来たのは、二機だったので、わたし達が迎撃するべきは、残り四機となりました。 エイリアン・ドローンが初めて遭遇する兵器を警戒しないのは、過去の事例で解っていましたので、HDG と LMF は警戒されずに第一撃を加えられるのは確実でした。この第二段階では、HDG と LMF が同時に攻撃を加える事で、確実に二機は処理出来るだろうと。実際はその通りになりましたが、出来れば、と期待した、更に複数機の処理上積みは、それは叶いませんでした。 そして、残ったのは二機。その動きを事前に予想は出来ないので、この第三段階については天野さんとボードレールさん、二人の機転と運に任せるしか無く。そこで、外部から状況を監視して、出来るだけのバックアップが行える様、無人観測機を出しておいて、最初から複数人で状況の監視をしていました。ですが、実際は最後の一機を見失ってしまい、監視もバックアップも完全に成功したとは言い難(がた)い結果です。 最終的に、最後の一機を処理出来たのは、HDG を扱う天野さんの能力に負う所が多かった、と思っています。」

「加納君、今の鬼塚君の話を聞いて、元防衛軍所属の者としてはどう思う?」

 話を振られた加納は、一呼吸置いて、答えた。

「わたしは戦闘機乗りでしたから、戦術の質が違いますので、一概に評価は難しいのですが。しかし、基本的な考え方は、外れては居ないかと。鬼塚さんは、良く研究されていると思いますが。」

「そうか。 結果的に、HDG と LMF、その有効性の一端を示した、とは言えるのだろうが。 実は、防衛軍の方(ほう)からは、完成しているのなら、早急に引き渡せ、と言われたのだ、が。それについては、どう思う?鬼塚君。」

 緒美は落ち着いて、天野理事長に聞き返す。

「理事長は、了解されたのですか?」

「いや。わたしの認識では、あれは未(いま)だ、未完成で検証中の装置(デバイス)だ。未完成の物を引き渡すわけには、いかん。」

「同感です。今、引き渡しても、防衛軍が天野さんと同じレベルで扱えるのか、保証は出来ませんし。それに、B型の試験を行って、パラメータとか稼働ライブラリのデータを比較しない事には、異なるドライバー間での互換性が想定通りに出来るかどうかが確認出来ませんので、もう暫くは手放すわけには行きません。」

「そうか、解った。」

 天野理事長は、一度、背中を椅子の方へ寄せ、一息置いて話し出す。

「これは、会社としての決定事項では無いが、わたしが個人的に懸念していると言う事で、話しておきたい。」

「はい。」

 緒美は、少しだけ両の眉を引き寄せ、返事をした。天野理事長は、少し目を細め、話し始める。

「昨日の一件で、君達のような戦闘の訓練を受けていない者でも、HDG を扱う事が出来れば『エイリアン・ドローン』を撃退可能である、と、事実として証明されてしまった。これは、鬼塚君が考えたコンセプトが正しかったのだと、わたしも思う。HDG が完成して汎用化すれば、対エイリアン・ドローン用の兵器として、有効なのは間違い無いだろう。 だが、HDG が対人兵器として使用されてしまう可能性について、鬼塚君は考えた事は有るかね?」

「いいえ、有りません。」

「そうか。日本の防衛軍があれを侵略戦争に使用する事は考え難(にく)いが、我々が装備した事を他国が知れば、同じ様な物が開発され、使用されるのは避けられない様に思う。だから、新しいコンセプトの兵器の開発や、提案には慎重さが必要なのだ。」

「HDG の開発を止めるべきだと?」

 天野理事長への、緒美の問い掛けを聞いて、兵器開発部一同が、一瞬、ざわめく。天野理事長は顔の前で、二度、右手を振って否定した。

「そうではない、話しを急ぐな。我々が思い付いた事なら、他の誰かも思い付いて、同じ様な開発をやっている可能性だって有り得る。であれば、開発は続けて、技術は保持しておくべきだ。問題は、軍に引き渡すかどうか、だよ。」

 そこで、立花先生が声を上げた。

「しかし、会長…いえ、理事長。防衛軍の契約が取れなければ、今まで掛かった開発費が回収出来ませんが。」

「そんな事は、解っておる。徒(ただ)、防衛装備事業が天野重工(うち)の本業では無いのでな。それは、立花先生もご存じだろう? 予算や費用の手当を考えるのが、我々、経営陣の仕事だ。その辺りは、どうにでもなるし、出来るようにやるだけだよ。」

 天野理事長の言う通り、現状で天野重工の収益の柱は、水素ガスの製造プラントと水素燃料動力機関の二つである。防衛装備事業での収益は、決算毎に赤字と黒字の間を行ったり来たりしているのが現実だった。

「戦闘機や戦車のようなサイズの兵器であれば、維持や運用には有る程度以上の組織力が必要だ。だが、HDG 位のサイズになれば、小規模な組織でも運用出来る可能性が有る。今回、キミ達がやって見せたようにね。まぁ、現実には技術的な問題や補給など、ハードルはそれなりに高い物だと思うが。」

 天野理事長の発言を受け、緒美が問い掛ける。

「理事長は、HDG が完成しても、防衛軍には引き渡さないお積もりですか?」

「…そう、決めたわけではない。先刻の立花先生の意見のように、財務上の問題も勿論あるし、対『エイリアン・ドローン』用の装備として有効であれば、防衛に協力しない訳にも行かん。だが、費用対効果という面から防衛軍が採用しない可能性も有る。現状で、HDG 一機が主力戦闘機一機より高価になる見込みと聞いているが、そうであれば、防衛軍仕様の『LMF 改』の方が、防衛軍には魅力的だろう。 その辺りは、今後の状況推移と交渉によって、結論は変わる物だ。」

「では、当面、わたし達のやるべき事は変わらない、そう思って良いでしょうか?」

「そうだな。わたしの言った事は、頭の隅にでも入れておいてくれたら良いよ。」

「解りました。」

 緒美の返事を聞いて、天野理事長は一度頷くと、大きく息を吐いた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第9話.12)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-12 ****


「その調査によれば、『イジメ』の首謀者は同じクラスの女子生徒だったが、その父親というのが、天野重工(うち)の、まぁ、簡単に言えばライバル企業の系列メーカーの重役だとかでね、企業名はこの件とは無関係だから伏せるが…当初は、容姿や態度が気に入らない、と、ボードレール君を標的にし、それに参加しなかったから天野君をターゲットに加えた訳だが、後になって、天野君がその首謀者の父親のライバル企業関係者だと気付いて、妙な敵愾心(てきがいしん)を持ったらしい、と言う事だった。まぁ、どういう訳か最後まで、天野君が天野重工の社長の娘だと勘違いしていたらしいが、そのせいもあって、その女子生徒からは中学を卒業するまでの三年間、付け狙われていたんだよ。」

 天野重工の創業家と、茜の父親とが同じ『天野』姓であるため、この『茜が天野重工の社長令嬢である』と言う誤解に遭遇した経験が、時折ではあるが茜には有った。実際、天野重工の創業者である会長の孫ではあるため、社長令嬢では無いにせよ、血縁者である事には間違いが無く、茜自身はそう言った誤解を受ける事は、余り気にしては居なかったのだが。
 現在の三代目社長である片山の妻が、実は茜の叔母、茜の母である薫の妹、天野 総一の次女である洸(ひかる)で、その娘、つまり、茜の従姉妹(いとこ)である陽菜(ひな)が実際の社長令嬢であるのだが、『片山』姓であるが故、ほぼ、世間から社長令嬢だと思われた事がないと言う『捻れ現象』が起きていたのだが、それは、取り敢えず、本筋とは関係の無い話である。

「三年間って、二年生でクラスが変わって以降は、特に何もありませんでしたけど。」

 茜が、当事者としての所感を述べる。すると、秘書の加納が言うのだった。

「会長、後はわたしから説明しますが?」

「そうだな、頼むよ。」

「では。実はわたし、その警備保障会社に以前、勤めておりまして。その絡みもあって、茜さんの件、主にわたしが、やり取りをしておりました。」

 加納は茜達に向かって一礼した後、話し出す。

「調査報告によりますと、当初、首謀者である女子生徒は、複数の取り巻きを通じて、クラス全体による対象者への無視を徹底させていた訳ですが、当然、時間が経つにつれて、さらに対象者を追い詰めるために行為をエスカレートさせようとしていました。一昔前でしたら、行動が、所持品の棄損とか、金品供与の強要、身体的攻撃へと段階が進んで行った所ですが、昨今では学校内に記録装置などが整備されていますので、流石に、そう言った行為に協力する者は、今時、そうは居(お)りません。」

 そこで、塚元校長が口を挟む。

「みんなも知っている通り、教室や廊下とか、24時間、映像を記録しているから、校内で暴力行為や器物破損とかすれば、証拠が残りますからね。」

 因みに、記録されるのは映像のみで、普段の学校生活でのプライバシーを考慮し、音声は記録されない。学校側も、記録された映像については、これを簡単に見る事は出来ず、事件や問題が起きた場合に限り、教育委員会と警察によって、映像の内容が確認、調査される。これは、学校側による事実の隠蔽や改竄を防ぐための方策である。もしも、記録装置の整備不良等による記録の欠落や、記録の隠蔽、或いは改竄などが発覚すれば、学校側が厳しく責任を追及される事は言うまでも無い。映像の記録期間は一ヶ月で、事件や問題が起きなければ記録メディアは交換されず、古い映像から自動で消去されると言う仕組みである。これらは、教育機関内での犯罪的事象の発生抑制や摘発の為に、法的にも整備された、全国的な取り組みであり、これらの法的及び、機器的なシステムの整備が開始されて、既に三十数年が経過している。
 塚元校長の言葉受け、加納が説明を続けた。

「はい。勿論、死角になる場所も有りますので、記録装置が有るとは言っても、完璧ではありませんが。 茜さんと、ブリジットさんのケースでは、そう言う事に協力しそうな上級生などの生徒に予め釘を刺したり、映像記録装置の死角になる場所の監視強化などに、お二人の所属部活…剣道部とバスケ部の上級生や先生等(ら)の協力がありました。そんな訳で、学校内部ではクラス内での無視以上の行為に進展しなかったのですが、それに業を煮やしたと言いますか、首謀者側は学校外での襲撃を計画していました。」

 そこで、恵がポツリと言った。

「あの…中学生、ですよね?」

 加納は、ニッコリと笑って答える。

「はい、そうですよ。首謀者である女子生徒は、親からある程度、自由になるお金と、教育係と言うか、お世話係と言うか、そんな立場の大人が小学生の頃から付けられていた様なんですが、どうやら、その大人が碌(ろく)でもない者だったらしく。」

「あぁ…何となく、解りました。すみません、続けて下さい。」

 恵は、小さく頭を下げる。加納は、話を続ける。

「では、え~、探りを入れている中で、襲撃計画なる話が浮かび上がって来まして、夏を過ぎた頃でしたが。 我々も当初は半信半疑だったのですが、念の為お二人には警護を兼ねて監視を付ける事になりました。」

「二人?ブリジットも狙われてたんですか?」

 今度は茜が反応する。

「そうですよ。」

「だって、夏を過ぎた頃には、ブリジットは無視される対象から、外れてたのに。」

「ですが、茜さんへの無視に、ブリジットさんは参加してなかったでしょう?それが首謀者側は、気に入らなかったんですよ。」

 そして、ブリジットが言うのだった。

「実際、わたしは襲われたのよ、二回。まぁ、どっちも未遂で済んだけど。」

「え?」

 右隣に立つブリジットの方を見て、茜は言葉を失うのだった。ブリジットは、微笑んで言った。

「街に一人で出掛けた時にね、いきなり路地に引っ張り込まれて。逃げようと揉み合ってる所を、加納さん達に助けて貰った事が有るの。あなたには黙ってたけど、ゴメンね。」

 茜はブリジットを見つめたまま、声を出せずにいた。そして、加納が説明を続ける。

「あの時、わたしが現場に居たのは、まぁ、本当に偶然でしたが。監視役の警備保障会社の担当者が昔の同僚でしたので、連絡事項の伝達がてら会いに行ったら、ブリジットさんの最初の襲撃現場に出会(でくわ)してしまいまして。その後、二度目の襲撃を許してしまったのは、救出が出来たとは言え、警備の態勢を整える側としましては、誠に不手際だったと言わざるを得ません。ブリジットさんには改めて、お詫び申し上げます。」

 そう言って、加納はブリジットに対し、深々と頭を下げるのだった。

「あぁ、いえ。助けていただいたのに。それに、悪いのは相手の方ですから。」

 加納に向かって恐縮して言葉を返すブリジットだったが、その横で、理事長室に入ってきた時の事を思い出して、茜はブリジットに言うのだった。

「あぁ、それじゃ、さっき、加納さんと面識があったって…。」

「そう、助けて貰った時。その時、会社の方(ほう)での調査だとか、警護だとか、事情を聞いたの。茜は、その時はその事態の真っ只中だったから、余計な心配をさせたくなくて、みんな、黙ってたのよ。」

 そして、頭を上げた加納が言う。

「はい。茜さんは一方の当事者ではありましたが、事態の首謀者の心情が相当に捻れている事が予想されましたので、茜さんに事情をお話しした所で、当事者間での解決は無理だったでしょう。であれば、この場合、お知らせしない方が得策と、勝手ながら、こちらで判断致しました。ご容赦下さい。」

 加納は、再び、頭を下げる。

「あ、いえ。大丈夫ですよ、今なら理解出来ますから。加納さんが、謝る事じゃ…。」

「あの、ちょっと良いですか?」

 茜が言い終わらない内に、肩の高さほどに左手を挙げ、直美が声を上げる。加納は頭を上げると、それに応えた。

「はい、何でしょう?」

「色々と物騒なお話だったわけですけど、そういう事態であれば、警察に届け出る案件だったのでは無いかと。」

「警察は、基本的に事件が起きないと動いてくれません。公(おおやけ)の捜査機関でもない民間の情報調査部門が掴んだ、証拠能力の怪しい情報だけでは、犯罪者でもない者を事件が起きる前に逮捕は出来ません。だからといって、事件が起きるのを待つわけにも参りませんので。事件が起きるという事は、被害者が出る、と言う事ですから。 警備保障、特に警護と言うのは、警察のように発生した事件を解決するのではなく、事件を未然に防ぐのが目的になりますので、茜さんとブリジットさんのケースについても、そのように実施されました。因みに、三年間で、茜さんについては十件、ブリジットさんについては先の二件の後、三件の襲撃計画の実行を阻止しております。」

「天野は、それ、知らなかったんだ。」

 直美が、茜の方を向いて尋ねる。

「はい、全然。ブリジットは知ってたのね?」

「いや、後の三件ってのは、今、初めて聞いた。」

 ブリジットは、苦笑いである。そして、恵が呆れたように、所感を口にするのだった。

「しかし、『イジメ』の延長で、そこまでやるって言うのも…。」

「いえ、先方の動機は『イジメ』の延長だけではありません。先程も言いましたが、首謀者の側に付いていた碌でもない大人、その者が茜さんを事件に巻き込んで、それをネタに天野重工を強請(ゆす)ろうとしていたのですよ。時間を置いて、繰り返し襲撃を画策していたのは、時間が経って警護が外れるのを待っていた、と言う面もあるのです。」

「あぁ、成る程、そう言う事ですか。」

「あれ?でも、わたしを襲っても、天野重工には関係有りませんよね?」

 恵が納得する一方で、ブリジットが疑問を口にした。

「ブリジットさんのケースは、基本的に首謀者である女子生徒の腹癒(はらいせ)による物と思われますが、ブリジットさんへの襲撃が成功すれば、茜さんに心理的にダメージを負わせられますし、襲撃の予告としても使えます。『次はお前だ、友達みたいな目に遭いたく無かったら金を用意しろ』のような脅迫も出来ますから。」

「ホントに、碌でもないですね。」

 茜は、心底うんざりしたと言う表情で、そう言うのみだった。

「あ、もう一つ。良いですか?」

 再び、直美が手を挙げて、加納に質問する。

「はい、どうぞ。」

「クラス内での無視が一年間続いたと、これは以前、ブリジットから聞いていたんですけど。学校の方も事態を把握していたようなのに、状態が改善されなかったのは何故なんでしょう?」

「あ、それはですね。冬頃になって、警備保障側の調査で判明したのですが、クラスの担任教師が首謀者側に協力してたんですね。」

 事も無げに答える加納の言葉を聞いた一同は、徒、唖然とするしかなかった。そして加納は説明を続ける。

「首謀者の女子生徒は入学早々に、その担任教師の弱みを握ったらしく。元々は、自分の成績を改竄(かいざん)させるのに利用する腹積もりだったようですが、そのような事態に至って、『イジメ』の扇動にも担任教師を利用していたようです。徒、何分、その情報を掴むのが遅かったので、年度末も近かった事もあり、学校側はとしては直ぐに担任の交代、とは行かなかったと言う事情が有りまして。そしてもう一つ、首謀者の女子生徒が茜さんに執着している内は、他の生徒が標的にならないで済むと言う事も、学校側は考慮してました。」

「天野さんを人身御供(スケープゴート)に、と?」

 そこまで黙って話を聞いていた緒美が、加納に、睨み付けるような視線を送り、言った。しかし、加納は平然と答える。

「はい。既に学校内では茜さんに、おいそれと手出しが出来ない状況でしたし、学校外では天野重工(わたしたち)が手配した警護が付いておりました。クラス内の状況は正常ではないにしても常態化して居た様子でしたので、茜さんには、一年生の年度末まで耐えていただこう、と言う事になりました。茜さんには、この事も、重ねてお詫びしなければなりません。」

 もう一度、頭を下げようとした加納を、茜は押し止め、言うのだった。


- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第9話.11)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-11 ****


 クラウディアが答える。

「はい、構いません。情報を確認して、避難指示が予防的な措置で、ここに直接的な被害が及ばないようなら、わたしも避難指示に従う積もりでした。」

「しかし、エイリアン・ドローンがこちらに向かっている事を、知ってしまった、と。」

「はい。勿論、そのまま通過してしまう可能性もあるとは、思いました。でも、学校(ここ)が襲撃対象になる可能性について、鬼塚部長とわたしの意見は同じでした。」

「それで、間違いは無いかな?鬼塚君。」

 天野理事長が尋ねると、緒美は極短く、即答する。

「はい。」

「そこで、その危険性が、つまり、学校が襲撃される事は無い、と、キミが説明すれば、皆は避難指示に従った、とは思わなかったかね?」

「嘘を吐(つ)け、と?」

「方便だよ。皆の安全を図るためなら、それも一つの方法だと思うのだが?」

「その時は、そう言う考えは浮かびませんでしたが…覚えておきます。」

 そこで、塚元校長が、緒美に意外な言葉を掛けるのだった。

「良いのよ、鬼塚さん。そんな事は、もっと歳を取ってから覚えれば。」

「校長~…。」

 天野理事長が苦笑いをして、抗議しようとするのだが、塚元校長は天野理事長に向けて言葉を続ける。

「いい事じゃありませんか、年相応(としおうおう)に正直なのは。理事長も立花先生も、会社の方々(かたがた)は鬼塚さんの態度が大人びているからって、何か勘違いされて居るんじゃないかと思う時がありますよ、わたしは。鬼塚さんを始め、彼女たちは、まだ高校生なんですから、会社側の皆さんには、その辺り、お忘れ無きよう、お願いしたいですね。」

 言い終わると、塚元校長はテーブルのティーカップに手を伸ばそうとするが、カップが既に空だったのに気付く。

「加納さん、もう一杯いただけるかしら?お茶。」

「はい、御用意しますので、少々お待ちを。」

「ありがとう。」

 秘書の加納が塚元校長の前に置かれていたティーカップを回収して隣の秘書室へと姿を消すと、咳払いを一つして、天野理事長が話し出す。

「まぁ、校長の言われる事も尤(もっと)もだ、と言う事で、話を続けるが…いいかな?」

「はい。」

 緒美は真面目な顔を崩さず返事をすると、続けて話し出す。

「先程、カルテッリエリさんが誘導した、との発言がありましたが。彼女に誘導されるまでもなく、元々、ほぼ全員の意識は迎撃する方に傾いていたと思います。」

「ほう、それは?」

「避難指示の放送を聞いて以降、誰も避難に動こうとしてませんでしたから。但し、迎撃を積極的に主張出来なかったのは、現時点で HDG を扱えるのが天野さんだけだと、みんなが理解していたからです。上級生は誰も、一年生に危険な行動を指示する事は出来ないと、そう思っていたので、であれば避難するべき、と、考えて居たはずです。」

 緒美の右側に並ぶ、直美と恵、そして二年生一同も、それぞれが緒美の言葉に頷いていた。
 その様子を確認して、天野理事長は緒美に問い掛ける。

「先刻の天野君の発言によれば、彼女が一人の判断で HDG を持ち出した、と言ったが。キミはその時点で迎撃に賛同する側に回ったのだろうか?」

「いえ、その時点では、先に他のみんなを避難させて、その後、どうやって天野さんを説得しようかと考えていました。HDG を扱えるのは天野さんだけ…それは間違いないのですが、非稼働時の HDG はメンテナンス・リグに接続してありまして、HDG 側からその接続を解除は出来ない仕組みなんです。つまり、誰かが接続の解除操作をしない限り、天野さんは外へ出て行く事は出来ないので、説得をする機会はまだあるかと。」

 そこで、瑠菜が無言で手を挙げ、発言を求める。

「ルーカス君だったね、どうぞ。」

「部長がそう言う考えだったのを知らず、わたしがメンテナンス・リグの接続解除操作をしました。」

 瑠菜の発言に続いて、瑠菜の右側に立つ佳奈が手を挙げ、発言する。

「わたしも、それを手伝いました。」

「ルーカス君は、それが迎撃に繋がる行動と解ってて、どうして?」

 天野理事長の問い掛けに、瑠菜は即答する。

「カルテッリエリがあの時言ったように、わたしもこの学校が壊されるのは嫌だ、と、その気持ちは同じでしたが、それ以上に…。天野さんが言ったんです。『お爺ちゃんが作った、この学校が壊されるは嫌だ』って。それを聞いて、天野さんの、この学校への愛着は、わたし達とは一段、レベルが違うんだろうなと、そう思いました。」

「それで、天野君に協力しようと?」

「はい。」

 そこで、茜がおずおずと、瑠菜に問い掛けるのだった。

「あの~すいません、瑠菜さん。わたし、そんな事、言ったんですか?」

「覚えてないの?」

 少し驚いて、瑠菜は問い返す。茜は、真剣な顔つきで答えるのだった。

「はい。あの時は、いろんな事を考えてて、頭の中がグルグルしてましたから…何をどう言ったか、細かい所までは…よく…。」

 困惑気味の茜に対して、緒美は微笑んで言う。

「確かに、あなた、言ったのよ、天野さん。そんな状況だったからこそ、本心が口を衝いて出たんでしょう。」

「そう…ですか。」

 茜は少し顔を赤らめて、緒美の言葉に納得するのだった。

「それでは、鬼塚君。LMF の起動を許したのは、どういう判断に基づいてなのか、教えてくれないか。あれは、キミか立花先生の承認がないと Ruby にも動かせない筈だが。」

 再び、天野理事長が緒美に問い掛ける。

「はい。瑠菜さん達がメンテナンス・リグを操作してしまう以上、HDG、天野さんの出撃は避けられないと判断しましたので、そうなった以上、少しでも生還の確率を上げる方向で考えるべきだ、と。それに、天野さんが出て行く以上、ボードレールさんも、天野さんの行動に協力しない事には、彼女の気持ちに収まりが付きそうもなかった、ので。」

 天野理事長は右手を額に当て、『困った』と言う表示で、ブリジットに問い掛ける。

「鬼塚君はああ言っているが、そうなのかな?ボードレール君。」

 ブリジットは両手を後ろで組んで、背筋を伸ばし、即答する。

「勿論です。茜だけに、危ない真似はさせられません!」

 ブリジットの言葉に、天野理事長は執務机に両肘を付き、両手で頭を抱えるような仕草で俯(うつむ)くのだが、それを見て塚元校長はくすくすと笑うのだった。思い直したように顔を上げ、天野理事長はブリジットに対して言うのだった。

「三年前の事で、キミがそんなに、恩義に感じる必要は無いんだよ、ボードレール君。」

「恩だとか、そう言うのではなくても、茜は大切な友人ですから。」

 ブリジットは、そう言うとニッコリと笑ってみせる。そのやり取りを見ていた茜が、思わず声を上げた。

「お爺ちゃん!三年前の事、知ってたの?」

 天野理事長は一瞬、『しまった』と言う表情をしたが、咳払いをして横を向く。すると、塚元校長に紅茶のお代わりを出し終えて、再び執務席の横に立っていた秘書の加納と目が合うのだった。加納は、ばつが悪そうな、或いは怪訝な顔つきをして小さく首を傾(かし)げる。

「理事長。」

 塚元校長が、呼び掛ける。

「なんですか、校長。」

「折角ですから、全部、お話になったら? 天野さんにも内緒にしてる事、あるのでしょ。」

 椅子の背もたれに身を預け、目を閉じて、執務机の上に置いた左手の人差し指で、トントントン、と三回、机を叩いてから、天野理事長は大きく息を吐いた。

「先刻はカルテッリエリ君に、昔の事を話して貰ったしな。天野君のケースについても、ここにいる皆に知っておいて貰っても良いだろう。」

 天野理事長は身体を正面に向け、話し始める。

「天野君とボードレール君が、中学一年生の時の事だが、発端は、ボードレール君がその容姿から、教室内での無視…まぁ、平たく言えば『イジメ』を受け、それを庇った天野君が次の標的になった、と、まぁ、そう言う事件だったのだが。間もなく、学校側もそれを察知して、保護者に連絡が行き、わたしは祖父として天野君の母親からその件を聞いた訳だ。」

 ここで、天野理事長は少し考えを整理するためか、一息吐(つ)いて、そして再び話し始める。

「天野重工は、とある大手の警備保障会社と契約をしていてね、そこには社員やその家族、親族がトラブルに遭った場合、色々と調べてくれる、情報調査部門…これも平たく言えば『探偵』、だな、まぁ、そう言う業務部門もあってだな。そこに、天野君の件について、調査を依頼した訳だ。 会社が大きくなるにつれてね、社員やその家族の個人的なトラブルであっても、対処を誤ると、会社にとって大きな損害が出る…これは、過去に幾つか実例があってね。それで、社員に対する福利厚生の一環としても、会社全体のリスク・マネージメントとしても、両方の意味で、トラブルの調査や処理等をやっている。」

 そこで、今まで塚元校長の座るソファー後ろで、黙って立っていた立花先生が、補足を加える。

「みんなも正式に入社したら、研修で教わると思うけど。社員やその家族を、事件や犯罪に巻き込んで、それをネタに会社を強請(ゆす)ろうとする、そんな人達も実際にいるから。もしも、トラブルが起きたら、自分だけで対処しようとしないで、会社に相談してね。」

 緒美達一同は、少しざわついて、隣の者と顔を見合わせたりしているが、天野理事長が話を続ける。

「立花先生、補足、ありがとう。それで、まぁ、調査してみて、只の子供の喧嘩程度の事と解れば、学校に対処を任せてしまえばいいと、初めはそう思っていたんだが。直(じき)に調査結果が上がってきてね、まぁ、その内容が看過出来るような物ではなかったのだ。」

 三年前に当事者だった筈の自分自身も知らない話の展開に、茜は困惑の表情を浮かべるのだったが、天野理事長は話を続ける。


- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第9話.10)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-10 ****


「今日の朝、一番に昨日の事については、立花先生から報告を受けた。その後、防衛軍の方(ほう)と話をして、こちらは、まぁ、人的、物的に被害を被らないための緊急回避的行動だった、と言う事で理解をして貰えたよ。まぁ、二度と今回のような事の無いように、呉呉(くれぐれ)も自重(じちょう)してくれ、と言われはしたのだが、それについては、わたしも同感だ。諸君がやった事に対しては、昨日の時点で立花先生から叱られただろうから、わたしの方から、それについて言を重ねる事はしないが、事情については諸君から、直接、聞いておきたい。そう言う訳で、ここに来てもらった訳だが、ここまでは良いかな?」

「はい。」

 全員を代表して、緒美が返事をする。

「では、鬼塚君。キミが迎撃行動を取ると、判断した理由を聞かせてくれ。」

 天野理事長が、真顔で緒美に問い掛けると、緒美が発言するより先に、茜が手を挙げ、発言を求めた。

「宜しいでしょうか?理事長。」

「何かね?天野君。」

 表情を変えず、天野理事長は茜に発言を許す。

「部長は、最後まで避難するように、と、言っていたんです。責任は、HDG を勝手に持ち出した、わたしにあります。」

「いいのよ、天野さん。」

 緒美は、前を向いたまま、茜の発言を制するように声を上げた。そして、天野理事長に向かって発言を続ける。

「最終的に、下級生に危険な行動をさせた事に変わりはありません。責任者として、停学でも退学でも、どんな処分でも受ける覚悟は出来ています。ですので、他のみんなには寛大な判断を、お願いします。」

 言い終わると、緒美は深く、頭を下げる。

「おいおい、話を急ぐな、鬼塚君。処分がどうのこうのと言う話はしていない。わたしは事情を聞きたい、と、最初に言ったはずだが?」

 一同にとっては少々意外な天野理事長の発言だったが、それに続いて塚元校長が断言する。

「先に言っておきますけれど、今回の件で、皆さんには、何らかの処分を課する決定は、学校としてはありません。」

「では、話を続けるが。天野君、キミが、鬼塚君の指示を無視した、と言う理解で良いのかな?」

 天野理事長が、茜に聞き返す。それに対して、茜は即答した。

「はい、そうです。」

 そこで、クラウディアが手を挙げ、発言を求める。

「理事長、発言して良いでしょうか?」

「キミは、カルテッリエリ君だったね。何かな?」

「昨日、当初は、わたしを除いて他は皆、鬼塚部長に従って避難しようとしていました。それを、わたしが、迎撃するべきと言う方向に、みんなの意見を意図的に誘導しました。」

「ほう、それは立花先生の報告には無かった話だが、興味深い発言だね。 天野君、キミはカルテッリエリ君に誘導されたと言う自覚はあるかね?」

 茜は、少し間を置いて返事をする。

「確かに、当初は避難指示に従う積もりでしたから。誘導されたという面は、否定出来ませんが、でも、迎撃を行うべきとは、自分で判断した積もりです。」

「キミが迎撃の必要があると判断したのは、どんな理由から、なのかな?」

「クラウディア…さん、と鬼塚部長のやり取りから、防衛軍の攻撃によって、シェルターに避難していても人的被害が出る可能性があると、理解しました。それから、Ruby を放置しておくと、これも、防衛軍の攻撃に巻き込まれて破壊される恐れがある、とも。この二つは、どうしても回避する必要があると考えました。」

Ruby に被害が及ぶ事は、人的被害が発生する事と同列なのかな?キミにとっては。」

「会社からすれば、徒(ただ)の装置かも知れませんけど、少なくとも、わたしには、そうは思えません。」

「そうか。解った。」

 天野理事長は椅子の背もたれに一度、身体を預けて息をつき、次の質問をクラウディアへと向ける。

「カルテッリエリ君、先刻、キミは意図的に誘導した、と言ったが。そもそも、あの時、防衛軍のネットワークに侵入して情報を…」

 天野理事長がそこまで言った所で、突然、クラウディアの隣、列の一番右端に立っている維月が声を上げる。

「それに関しては、わたしの監督が行き届かなくて、申し訳ありませんでした。」

 今度は維月が、深々と頭を下げる。それに対して、塚元校長がフォローを入れるのだった。

「井上さん、いいのよ。確かに、あなたにカルテッリエリさんの監督をお願いはしたけど、完全に彼女の行動を制御するなんて出来ないんだから。そこまで責任を感じなくても、良いんですよ。」

「あぁ、キミは井上主任の妹さんだったね。そう言えば、昨年は大変だったね。元気になって、本当に良かったよ。キミが大変な時に、お姉さんには重要な案件とは言え、仕事を押しつけたままになっていて、キミにも御家族にも、会社として申し訳なかったと、思って居るんだ。」

「いえ、姉は自分の責任を果たす事を優先したのだと思いますから。お気遣い無く。」

 維月はもう一度、小さく頭を下げるのだった。

「話が逸れたので、元に戻すが。カルテッリエリ君が、あの時、防衛軍から情報を取得しようと思ったのは、キミが母国で遭遇した事件が影響しているのかな?」

 クラウディアは、天野理事長の質問を聞いて、一度、目を閉じ、深く息を吸ってから答えた。

「そう、ですね。あの事件の影響は、否定しません。」

「そうか。では、その事件のせいで、キミが他のメンバーを危険な方向に誘導したと言う事なら、巻き込まれたみんなには、その理由を知る権利があると思うが、どうかね?」

「そうですね。わたしは、別段、あの事件の事を隠しておきたい訳ではありませんので、みんなが知りたいと言う事なら、別に構いません。」

 そこで、塚元校長が提案するのだった。

「あなた達はどうかしら?事件の事、聞いてもいいと思う人は、手を挙げてみて。」

 すると、クラウディアを除く全員が、掌(てのひら)を前に、肩の高さぐらいに挙げるのだった。あの時、クラウディアが迎撃を主張した理由については、あの場にいた全員が、何か引っかかりを感じていたのである。
 そして、維月がクラウディアに語りかける。

「あなたが話してくれるなら、ちゃんと聞くけど、言いたくない事なら、無理に言わなくても良いのよ、クラウディア。」

「ありがとう、イツキ。大丈夫。」

 塚元校長は一度頷いて、クラウディアに言うのだった。

「わたしもね、ここにいるみんなには、あなたの事を、もう少し知ってもらっておいた方が良いと思うのよ、カルテッリエリさん。」

「はい。では…。」

 クラウディアは一度、話し始めようとするが、直ぐに、少し黙り込む。そして、再び、話し始めた。

「どう、話せばいいのか、直ぐにまとまらないのだけれど。まぁ、簡単に言えば、エイリアン・ドローンへの空軍の攻撃で、出掛けた先で避難したシェルター…わたしの場合はビルの地下室だったけど、そこが倒壊して、生き埋めになった事がある…そんな事件、です。」

 そのクラウディアの説明に、塚元校長が捕捉を加える。

「その時、一緒にいたお友達が、犠牲になったのよね。」

「はい。幼馴染みで、一番仲の良かった友達でした。」

 クラウディアは淡々と、話しを続ける。

「わたしは、見ての通り、普通の人よりも身体が小さいので、崩れてきた瓦礫の隙間に偶然、入って。」

 クラウディアは、一度、大きく息を吸った。

「わたしは無傷でしたが、彼女は即死だった、と聞いています。」

 クラウディアは、もう一度、大きく呼吸をする。

「遺体の損傷が激しいので、お別れする時も、姿は見せては貰えませんでした…。」

 最後の方(ほう)、クラウディアの声は涙声に変わっていた。維月は左隣のクラウディアを抱き寄せて、言った。

「もういいよ、解ったから。それ以上はいいよ、クラウディア。」

 正面から背中の方へ両腕を回し、顔を維月の胸の下辺りに押しつけるようにして、クラウディアは涙が落ちるのを堪(こらえ)えているようだった。その様子を見兼ねてか、塚元校長が話を補足する。

「まぁ、そんな事があったのが二年ほど前で。それから、一年間くらい、カウンセリングを受けたりしていたそうなんだけど、地元にいると色々と思い出す事が多くて、精神的に不安定になったりしたそうでね。カウンセラーの見解でも、生活の環境を変えた方が良いだろうと言う事もあって、日本(こちら)に来る事になったのよ。」

 塚元校長が話し終わる頃、クラウディアは一度、深呼吸をしてから前へ向き直った。

「すみません。途中で何を言ってるのか、自分でも解らなくなりました。」

 クラウディアは涙を拭って、塚元校長に一礼する。

「やっぱり、あなたにはまだ、辛い事だったわね。ごめんなさい。」

「いえ、こちらに来てから暫く思い出す事が無かった記憶が、急に、一杯…フラッシュ・バックしたので。ちょっと、感情を抑えられなくなりました、けど、もう大丈夫です。」

 クラウディアの様子が落ち着いたのを見て、茜は塚元校長の話の中で一つだけ疑問に思った事を聞いてみる。

「ねぇ、クラウディア。環境を変えるって言うのは解るんだけど、それが、どうして日本だったの?」

「アンナのママはね、日本人だったのよ。」

 クラウディアは充血した目でブリジット越しに茜を見つめて、即答した。そしてその答えを聞いて、茜は、何故クラウディアが流暢に日本語を話すのか、その理由が分かった気がして、思わず呟くのだった。

「あ、成る程。そうか。」

 そこまで黙って聞いていた天野理事長が、クラウディアに話し掛ける。

「それでは、その事件ような状況が、この学校でも起きる事を危惧して、避難指示を聞いた際にエイリアン・ドローンの動向を確認しようとして、キミは防衛軍のネットワークに侵入した、と言う理解で良いかな?カルテッリエリ君。」


- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第9話.09)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-09 ****


 翌日、2072年7月7日、木曜日。
 お昼休みの終わる頃、兵器開発部のメンバーはそれぞれが持つ携帯端末に、立花先生からのメッセージを受信していた。その文面は、次の通り。

『全員、放課後にわたしの居室まで、出頭するように。 立花 智子』

 兵器開発部の面々には、それが昨日の件についての呼び出しであろう事は、当然、見当がついた。
 そして、放課後。立花先生の居室の前に、最初に到着したのは、茜とブリジットの二人だった。
 偶々(たまたま)その時は他に通りかかる人もなく、教職員の居室が並ぶ校舎の一角は静まり返っていたので、茜とブリジットはドアに対面した廊下の窓際に並んで、他に誰か来ないかと待っていた。昨日の事で、どのような話になるのか、その内容にまでは想像が及ばなかったので、二人とも何となく入り辛く感じていたのである。
 そうして、入室を逡巡(しゅんじゅん)している内、ひょっとっしたら自分たちが最後で、他のメンバーは既に、先生の居室の中で待っているのではないか、そんな不安を感じ始めた頃、三年生三人組の姿が見え、茜とブリジットは一安心したのだった。

「何やってんのよ、二人とも。」

 二人の姿を見つけ、直美が声を掛けて来る。

「いやぁ、なんとなく、入り辛くって。」

 ブリジットが、後頭部に右手を当てて、答える。
 くすっと笑い、恵が言うのだった。

「大丈夫よ、立花先生はもう、怒ってないから。」

「だと、良いんですけど。」

 茜は、そう言って息を吐く。

「先生は大人だから、何時までも根に持ったりしないって。」

 直美がそう、フォローする一方で、緒美がドアの前に立ち、躊躇(ちゅうちょ)無くノックをする。

「どうぞ。」

 室内から、立花先生の落ち着いた声が聞こえた。

「鬼塚と他四名、入ります。」

 緒美はドアを押し開けながら、室内に声を掛けた。室内からは、立花先生が答える。

「どうぞ、取り敢えずお入りなさい。」

「失礼します。」

 先ず、緒美が室内に入り、次に直美が、恵は茜とブリジットの後ろに回り、二人の背中を押すのだった。
 部屋に入ると、直美が先ず、立花先生に言うのだった。

「先生、『出頭』なんて書くから、一年生が怯えちゃってるよ~。」

「あら?ごめんなさい。脅かすつもりはなかったんだけど~何て書いたら良かったかしら?」

「普通なら、居室まで来て下さい~とか、集合して下さい、くらいじゃないですか?」

 直美に言われて目を丸くする立花先生に、恵がいつもの笑顔でフォローを入れる。
 そこに、再びドアがノックされる。立花先生の許可を得て、入ってきたのは、二年生組の三人、瑠菜、佳奈、樹里である。

「え~と、これで揃ったかしら?」

「先生、クラウディアが、まだ来てません。」

 集合した人数を確認する立花先生に、茜が補足をするのだった。
 そして間もなく、三度(みたび)、ドアがノックされ、クラウディアが入室してくるのだが、その後ろには維月の姿もあった。

「あら井上さん、あなたにもメッセージ、送ってたかしら?」

「あぁ、いえ。クラウディアに、メッセージの件を聞いたので。一応、昨日の現場には、わたしも居ましたから。 お呼びでは無かったでしょうか?」

「うぅ~ん…まぁ、良いかな。それじゃ、井上さんにも付き合ってもらいましょうか。」

「良かった。仲間はずれは、悲しいですよ。」

「あぁ、ごめんなさいね、そう言う積もりじゃなかったんだけれど。」

 維月と立花先生がやり取りしてる所に、それほど広くは無い居室内での人数が増え、そろそろ窮屈さを感じ始めていた直美が割って入る。

「それで、先生。どう言った、御用向きでしょうか?」

「あぁ、そうね。これから、理事長室へ移動します。昨日の件について、みんなから直接、理事長が事情をお聞きになりたいそうなの。」

 立花先生の回答を聞いて、緒美が尋ねるのだった。

「それでしたら、始めから理事長室に集合で良かったのでは?」

「緒美ちゃん、あなたや、茜ちゃんならそれでも良いでしょうけど。他のみんなは、三三五五、理事長室に入室出来るかしら?」

「わたしは嫌で~す。」

 直美が即答すると、茜も声を上げるのだった。

「わたしだって、平気で理事長室には入れませんよ。」

「あら、茜ちゃんでも? なら、一旦(いったん)、ここに集合してから、揃って理事長室に向かうので正解だったでしょ?やっぱり。これでも、一応、気を遣ったのよ。」

「成る程。お気遣い、感謝します。」

 恵が、微笑んで頭を下げる。

「それじゃ、行きましょうか。」

 立花先生の言葉を受けて、ドアに近い者から順番に廊下へと出て行く。
 その後、立花先生を先頭に、一同は理事長室へと向かって歩き出した。
 理事長室へと向かう途中、ふと、立花先生は茜に尋ねるのだった。

「そう言えば、茜ちゃん。入学してから、理事長とは会ったりしてるの?」

 茜は、歩きながら答える。

「いいえ。大体(だいたい)、学校(こちら)に何時(いつ)居るのか、居ないのか、スケジュールとか全然知りませんし。」

「あぁ、日によって学校と本社を往復してるらしいから、ねぇ。それ以外でも、打ち合わせとか会合とかで、お出かけになるそうだし。昨日も、幸か不幸か、学校にはいらっしゃらなかったのよね。」

「それに、身内だからって、ちょくちょく顔を合わせてて、また、コネだ何だって言われるのも癪(しゃく)なので。」

「う~ん、それは解るけど、それはそれで、ちょっと寂しい話よねぇ…。」

 当然のように答える茜に、徒(ただ)、苦笑する立花先生であった。


 暫(しばら)くして、一同が理事長室の前に到着すると、立花先生がドアをノックする。間もなく、ドアが内側へと開かれる。ドアを引いていたのは、理事長秘書の加納である。

「どうぞ、お入り下さい。」

「失礼します。」

 一礼して、立花先生が入室すると、振り向いて緒美達に声を掛ける。

「あなた達も、お入りなさい。」

「失礼します。」

 緒美を先頭に、学年順に各自が一礼しつつ、一同は理事長室へと入っていった。
 室内には、奥の窓側、執務机の席には理事長であり茜の祖父、天野 総一がおり、執務机の前に並べられている応接セットのソファーには、恰幅が良く品のある初老の婦人、塚元校長がティーカップとソーサーを手に持って座っていた。そして、秘書の加納が天野理事長の執務机の横へと移動する一方、緒美達、十名は入り口側の壁を背に一列に並んで立つのだった。
 一列に並んだ際、その存在に気がついたブリジットが、加納に向かって会釈をすると、彼も静かに会釈をして返した。その行動に気がついた茜が、隣に立つブリジットに小声で尋ねる。

「ブリジット、加納さんと面識あったの?」

「あ、うん。前に、ちょっとね。」

「ふぅん。」

 腑に落ちない物を感じつつも、その事を深く追求している場合ではないのは解っていたので、茜は前を向く。

「そんな所に立ってないで、こっちにいらっしゃい。」

 塚元校長が自らの隣の、ソファーの座面をポンポンと叩いて、緒美に話し掛ける。

「あぁ、でも、ちょっと足らないわね。」

 テーブルを挟んで、塚元校長が掛けている長椅子で片側四名に、テーブルの短辺側に置かれた一人掛けの1セットも合わせても、あと九名しか座れない。

「加納君、椅子を用意してくれるか。」

「いえ、理事長。わたしたちはこのままで結構です。」

 天野理事長の言葉に間を置かず、はっきりと、少し大きな声で、緒美は、そう言った。

「そうか、まぁ、いいだろう。それでは、始めようか。」

 天野理事長は一度、肘掛けに両手を掛けて椅子から腰を浮かせ、座り直してから、話し始めた。


- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第9話.08)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-08 ****


「天野~、装備を先に、コンテナへ戻して来な~。」

「あぁ、うっかり。」

 走って来た瑠菜に指摘され、武装を装備したままではメンテナンス・リグに接続するのに難がある事を思い出した茜は、武装コンテナが配置されている格納庫の奥へと向かった。その間に、瑠菜はメンテナンス・リグ側の接続準備を始める。
 第三格納庫の南側大扉の側では、LMF がゆっくりと庫内へ進入して来ており、LMF が進むにつれて左右のホバー・ユニットが床面に吹き付ける気流と騒音が、格納庫の内部に充満するのだった。
 LMF は低速で格納庫内の定位置まで進むと、その場で百八十度の回頭をし、ホバー・ユニットの出力を絞って着地する。ホバー・ユニットが停止すると、彼女たちの制服のスカートや髪を乱す、床面から吹き上げるような風が止むのだった。耳を塞ぎたくなるようだった騒音も、暖機(アイドル)運転のメイン・エンジンだけなら、それ程の物でも無い。

Ruby、外部電源、接続するよ~。」

 LMF の後部に回り込んだ直美が、接続プラグの付いた電源ケーブルを手に、声を上げた。

「ハイ、お願いします。」

 外部スピーカーで答える Ruby の合成音声を聞いて、直美はケーブルを引っ張りつつ、LMF の機体後方下部へと入っていく。
 その横を、武装をコンテナに収めた茜が HDG を装着したまま歩いて通り過ぎ、メンテナンス・リグへと向かうのだった。

「接続完了~、古寺~ブレーカー、上げて~。」

 LMF の下から、ケーブルの接続元である北側壁際の配電盤に向かって、直美が佳奈に指示を出す。

「は~い、電源、投入しま~す。」

 佳奈は直美に向かって声を掛けると、ブレーカーのトグル・スイッチを押し上げた。

「外部電源の接続を確認しました。LMF の動力を停止し、機体制御の終了作業に移ります。」

 Ruby が宣言すると間もなく、LMF はメイン・エンジンも停止し、格納庫の内部は再び静かになる。
 LMF のコックピットからは LMF の機体伝いにブリジットが降りてくる。その一方で、HDG のメンテナンス・リグでは、茜がインナー・スーツと HDG との接続を解除し、メンテナンス・リグの前に恵が用意した踏み台へと、一旦、上がるのだった。

「茜~。」

 LMF の方から、ブリジットが駆け寄ってくる。

「お疲れ様~。」

 踏み台から床面に降りた茜が、そう言いつつ肩の高さ程に右手を挙げると、ブリジットがその右の掌に自分の右の掌を「パン」と打ち合わせる。

「お疲れ~。」

 そう言葉を返して、ブリジットは微笑む。

「天野さん、ボードレールさん、ご苦労様。兎に角、無事に終わって良かったわ。」

 茜とブリジットの二人に、そう声を掛けて緒美が迎えた。

「はい。」

「上手く行きましたね、部長。」

「そうね。 Ruby も、ご苦労様。」

 二人の返事を聞き、緒美は LMF に向かって、Ruby に声を掛けた。

「ハイ。お役に立てたのなら、わたしも嬉しいです、緒美。」

「お役にって、わたしの方は、半分以上、Ruby のお陰よ。」

 Ruby の返事に、ブリジットは、そうコメントを返す。

「ありがとう、ブリジット。」

 Ruby がブリジットのコメントに謝辞を述べた、そんな折、東側二階部分の部室内から何やら物音が聞こえたかと思うと、部室から二階通路に出る扉を勢いよく開いた時の衝突音が、格納庫に内に響いた。二階通路に出る扉にはドア・ダンパーが取り付けられていないので、勢いよく扉を押し開けると、外側に開いた扉のドア・ノブが、二階通路の転落防止柵にぶつかるのだ。

「何やってるの!あなた達はっ!」

 二階通路に出てくるなり、突然、そう叫んだのは立花先生だった。その後、二階通路の転落防止柵の上に両手を掛けて肩で息をしながら、一度、柵の手すり部分に額を着けるように項垂(うなだ)れて、立花先生は息を整えていた。
 その様子を見て、避難していたシェルターで自警部部員の長谷川から緒美の伝言を聞き、慌てて走って来たのだろうなと、そこにいた一同には見当がついたのである。
 数秒間、立花先生にどう声を掛けた物かと一同が逡巡(しゅんじゅん)していると、顔を上げた立花先生は小走りで格納庫へと降りる階段へと向かい、階段を駆け下りると、茜とブリジットに向かって駆け寄って来る。

「茜ちゃん!怪我は無い?」

 茜の目の前で立ち止まった立花先生は、茜の両側の肩より少し下の上腕部を鷲掴(わしづか)みにするように両手を掛けると、本人に直接、安否を尋ねる。茜はその勢いに、驚きつつ、極短く答えた。

「あ、はい。」

 茜の返事を聞いた立花先生は、茜の両腕を掴んだまま、茜の左隣に立つブリジットに視線を移して問い掛ける。

「ブリジットちゃんもっ!大丈夫?」

 ブリジットは両方の掌を上に向けて肘の高さまで前方に上げ、微笑んで答える。

「ご覧の通りです。」

「はあ~、良かった~…。」

 立花先生は茜の両腕を掴んだまま、一度、首を項垂れ、大きく息を吐いて、そう言った。

「あの、立花先生? ご心配をお掛けしたみたいで…。」

「心配ですって?しないわけ無いでしょ!無茶な事してっ。」

 茜が言い終わらない内に、立花先生は顔を上げて声を荒らげる。立花先生の眼鏡の奥、両目からは、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれていた。それを見た茜とブリジットは、言葉を失うのだったが、茜とブリジット以外のメンバーは立花先生の背後にいたため、立花先生のその様子には気がついていなかった。
 そして、LMF の後方側から歩いてきた直美が、不用意に声を掛けてしまう。

「先生、まだ避難指示、解除されてないのに、シェルターから出てきちゃったら、まずいんじゃないんですか?」

 直美にとって、それは普段通りの軽口だったのだが、茜は複雑な表情を作って、声を上げずに『副部長、やめて~』と唇を動かし、直美を制しようとしていた。勿論、それが直美に伝わる事はなかったのだが。
 立花先生は茜の両腕を掴んだまま、振り向いて声を上げた。

「こんな無茶な事をする、あなた達に言われたくはありません!」

 ここでようやく、緒美達も立花先生が泣いている事に、気がついたのである。

「大体、緒美ちゃん!あなたがついていて、どうしてこんな事になってるの!」

 立花先生は茜の両腕を掴んだまま、今度は矛先を緒美へと向ける。
 緒美は、ただ「申し訳ありません」と言う他、無かったのだが、この後、立花先生は茜の両腕を掴んだまま、『もしもの事があったら』と言う仮定の下、『誰にも、如何に責任が取れないか』と言う事について、泣きながら怒りつつ、おおよそ十分に渡って、延々と捲し立てるのだった。
 普段は常に冷静で、兵器開発部のメンバーは誰一人として先生の泣き顔など想像もした事は無かっただけに、立花先生のそんな様子は、緒美達には少なからず意外であったし、ある意味、ショックでもあった。そして一同は、立花先生に心配を掛けた事については、心の底から大いに反省したのである。

 結局、立花先生の涙から始まった佳奈の『もらい泣き』が、最終的に号泣へと至るに及び、ようやく立花先生も落ち着きを取り戻し、茜の両腕は解放されたのである。
 丁度その頃、避難指示解除の放送が流れ、一同は現場の片付けをしてその日は解散という事になったのだが、緒美だけは報告のための事情聴取と言う事で、その後も暫(しばら)く、立花先生に身柄を拘束される事となったのである。

 こうして、茜と HDG の初出撃が果たされたのだが、この話は、これで終わりでは無い。


- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第9話.07)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-07 ****


「それが…こっちは、見つかりませんね。移動してるんでしょうか?」

「もう少し、撮影範囲を広げてみようか。」

 瑠菜と共にディスプレイを見つめている直美が、提案する。

「わかった、捜索を続けて。」

 緒美は屈(かが)めていた腰を伸ばし、ヘッド・セットのマイクを口元へ引き上げて、茜に話し掛ける。

「天野さん、南側のトライアングルの位置はデータ・リンクで、そちらでも解るわね?」

「はい。Ruby が捕捉してますから。」

「じゃあ、そこから狙える?」

「もうちょっと、近づけば。でも、木が邪魔で直撃が出来るか、わりません。」

「当てなくてもいいわ。火事にならないように、出力を落として、トライアングルの周囲に二、三発撃ち込んでみましょうか。それで、トライアングルが飛び上がったら、そこを LMF で狙撃出来るでしょう。出来そう?ボードレールさん。」

「出来ると思います。ねぇ、Ruby。」

「ハイ。照準はお任せ下さい。」

「北側のトライアングルは引き続き捜索してるから、先ずは南側のを、先に片付けておきましょう。」

 茜は、緒美の指示を聞いて、銃口を下げていた CPBL を再び正面に構え直す。

「では、100メートルほど前に出ます。」

 レーダー施設の上空でホバリングを続けていた茜だったが、重心を少し前に倒して、西へ向かって暫(しば)し移動すると、再び空中に静止する。そして、CPBL銃口をトライアングルが潜んでいる、木々が繁茂する斜面へと向ける。

「荷電粒子ビーム出力は、10パーセントに設定します…ブリジット、そっちの準備はいい?」

「いいよー、何時でも。」

 茜はブリジットの返事を聞いて、CPBL のトリガーに、マニピュレータの指を掛けた。

「じゃ、行くよ…発射!」

 乾いた破裂音と共に青白い閃光が三度、木立に向かって走ると、着弾点の木の枝が揺れ、木の葉が散り、土煙が立ち上がる。が、トライアングルに命中したかどうかは解らない。
 その時、LMF のコックピットでは、Ruby がブリジットに注意を促していた。

「トライアングルが動きますよ、ブリジット。」

「オーケー。」

 正面のスクリーンに画像処理されて映し出されているトライアングルが、一度、身を屈めるように機体を沈めると、四本の足を素早く伸ばし、直上へジャンプした。しかし、LMF のプラズマ砲はその軸線を、トライアングルから外す事は無い。
 スクリーンの表示は自動的に、何度か切り替えられたが、ターゲットのロックオン状態を表すシンボルは変わらない。ブリジットは落ち着いて、右側コントロール・グリップのトリガーを引く。
 トライアングルは木々の上へと、その姿を現した瞬間、青白い閃光にその機体の中心部を吹き飛ばされ、残った機体後部と頭部が、飛び立った元の場所へと落下したのだった。

「…あと、一機。」

 その様子を佳奈の操作するコントローラーのディスプレイで確認していた緒美は、呟く。それとほぼ同時に、直美が瑠菜に話し掛けるのだった。

「もう、北側の斜面には居ないんじゃない?移動してるのよ。カメラの向きをレーダーの方に向けて。動いてるなら、熱分布画像(サーモグラフィ)よりも、普通のカメラ映像の方が解り易いわ、木の揺れで解るはず。」

「切り替えます。」

 瑠菜は直美の意見に従って、球形観測機のコントローラーを操作する。ディスプレイには、山頂付近の木立が映し出され、画面は北側斜面から山頂方向へと向かって流れていく。その時、画像に異変を感じた直美が、声を上げた。

「画面、右上!揺れてる、木。」

 瑠菜は、慌ててその部分を画面の中央へと持ってくるように操作した。画角を調整するために、ズーム率を減らした瞬間、画面に茜の HDG が映り込んだのに気がついて、直美が再び声を上げる。

「鬼塚!もう一機の現在位置、天野の真下辺りかも。」

 瑠菜が操作するコントローラーのディスプレイには、HDG の下付近の木立が不規則に揺れている映像が映し出されていた。
 それを確認した緒美が、慌てて茜に注意を促した。

「天野さん!あなたの下にトライアングルが居るかも。注意して!」

 そう言い終わるよりも早く、トライアングルは茜をめがけて、飛び上がっていた。

「えっ!?」

 右腕の鎌状のブレードを振りかざして上昇して来るトライアングルの姿が、視界を下へ向けた茜の目に飛び込んできた。
 茜は咄嗟(とっさ)に、右側のマニピュレータで握っていた CPBL を、機関部上部のブリッジ状になっているキャリング・ハンドル部分を左マニピュレータで掴んで引き取り、空いた右マニピュレータで BES の柄(つか)を握ると、スリング・ジョイントから外して振り上げた。
 間もなく、下から掬(すく)い上げるようなトライアングルの斬撃が HDG の足元に達するが、それはディフェンス・フィールドによる防御エフェクトの、青白い光の壁に弾かれる。

「オーバー・ドライブ!」

 茜の発した音声コマンドによって、BES の刀身が二つに割れ、その間から放出された荷電粒子が、物理刀身のおよそ二倍の刃(やいば)を形成する。
 一方、第一撃を弾かれたトライアングルは、体勢を立て直すべく、そのまま通過するべく上昇を続ける。が、その左腕の付け根付近へ BES の荷電粒子の刀身を食い込ませると、茜はそのまま自身の身体全体が前転するように右腕を振り下ろして、トライアングルを袈裟切りにしたのだった。
 二つに分断されたトライアングルは、動きを止め、そのまま落下して行った。

「ふぅ、危ないなぁ…。」

 茜は落下していくトライアングルを見送りながら、息をついて、そう呟いた。
 BES を待機モードに戻して、背中を伸ばし、一度周囲を見回して、茜は緒美に尋ねた。

「これで、終わり、でしょうか?」

 緒美は、一呼吸置いて、言った。

「確認するわ。」

 クラウディアへ視線を向けると、緒美は尋ねた。

「状況は?」

「あ~はい。防衛軍の情報では、この周辺にエイリアン・ドローンは探知されていませんし、こちらに向かっている物も、現時点ではありませんね。」

 そう答えた後で、茜の行動をモニターしていなかったクラウディアと維月は、緒美に聞くのだった。

「四機目、仕留めたんですか?」

「天野さんが?」

 緒美は微笑んで、一言で答える。

「そうよ。」

 一度、顔を見合わせたクラウディアと維月だったが、クラウディアが慌てて緒美の方に向き直り、声を上げる。

「あ、部長さん。防衛軍の戦闘機が近付いてきてます。時間にして、あと六分ぐらいの位置。」

「そう、解った。 天野さん、ボードレールさん、ご苦労様。あなた達は直ぐに戻って来て、防衛軍の戦闘機が接近してるそうだから。」

 緒美のヘッド・セットには、茜とブリジットの返事が聞こえていたが、それは他の一同には解らない。しかし、南側大扉越しに正面辺りに見える LMF は、間もなく向きを変えて第三格納庫に向かって動き出し、LMF が格納庫に到着するよりも早く、茜の HDG が格納庫の前、駐機場に降り立つのだった。
 茜は一度振り向き、接近してくる LMF のコックピットに向けて手を振った。キャノピーを持ち上げて有視界モードで操縦していたブリジットはそれに答えて、手を振り返した。それを見届けて、茜は格納庫の中へ向けて歩き出す。

「球形観測機も、戻しますね、部長。」

 振り向いて、瑠菜がそう聞いてくる。その隣にしゃがみ込んできた直美は立ち上がり、背中を伸ばすのだった。

「いいわ。古寺さんの方も、観測機を戻しておいてね。」

「は~い。」

 佳奈が素直に返事をすると、その隣に陣取っていた恵も腰を伸ばす。そんな時、緒美にとっては不意に、直美が声を掛けるのだった。

「ねぇ、鬼塚。天野ってさぁ、ひょっとして本当は剣道部に行きたかったんじゃないのかな?」

「どうしたの?急に。」

 緒美は問い掛けられた言葉の真意を測り兼ねて、聞き返した。

「いや、さっきのみたいに動けるって事はさ、結構な実力者って事なんじゃないのかなって思えてさ。」

「あぁ、成る程…そう言う事。」

 言われてみれば、と思い、緒美が少し複雑な表情を浮かべると、恵がコメントを挟む。

「でも、天野さんは有段者ではない、とか、大会に出るような選手にはなれなかった~みたいに言ってたけどね。」

「そうなの?」

 恵の情報は、直美には意外だった様子である。

「それはまた、今度、本人に確認してみましょうか。」

 緒美がそう提案した所で、メンテナンス・リグの前に辿り着いた茜が、呼び掛けて来る。

「すいませ~ん、HDG を降ろすので、リグの操作お願いしま~す。」

「はいよ~。 佳奈、こっちのコントローラー、終了作業お願いね。」

「は~い。」

 瑠菜が立ち上がり、メンテナンス・リグへと駆け寄っていく。それと入れ替わるように、球形観測機が次々と格納庫内へと戻ってくると、それぞれが自動制御で元のコンテナへと帰還するのだった。


- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第9話.06)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-06 ****


「茜、こっちのプラズマ砲は射程が長いから、射撃のタイミングはあなたに合わせる。指示して。」

 茜のヘッド・ギアのレシーバーから、ブリジットの声が聞こえてくる。

「わかった。こっちは最大出力でも、もう少し引きつけないと。一キロぐらいまで、近づいて来るのを待つわよ。」

「今の速度、分速六キロだと、十秒の距離よ。近すぎない?」

「ここが敵の目標なら、接近して来たらもっと減速するはずよ。」

「そうか、そうね。成る程。」

 一方、第三格納庫内部では、緒美が佳奈と瑠菜に指示を出していた。

「観測機、残り三機も出しておいてちょうだい。」

「はい、じゃぁ、こっちのコントローラーは、わたしが操作しますね。」

 瑠菜は佳奈の隣に座り込んで、もう一機のコントローラーの操作を始める。

「古寺さんの操作する観測機の一番機は、天野さんの南側へ、瑠菜さんの一番機は天野さんの北側へ、天野さんからそれぞれ500メートル位離れた位置に配置して。天野さん達の第一撃の後の、敵の動きを追えるようにしておいて。それと、森村ちゃん、新島ちゃん。二人も、観測機のディスプレイに付いて。現場を監視する目は、多いに越した事はないから。」

 緒美に指示され、恵は佳奈の背後に、直美は瑠菜の横へと移動し、コントローラーのディスプレイを監視する態勢を整える。

「鬼塚先輩、わたしは何をすればいいです?」

 クラウディアの後ろに立っていた維月が、緒美に尋ねる。緒美は微笑んで、答えた。

「井上さんは、カルテッリエリさんのサポート…じゃない、監視を引き続きお願いね。」

「部長、言い直すの、逆です。」

 恵が振り向いて、緒美に突っ込む。維月は笑って、言った。

「あははは、どっちにせよ、了解です。」

 間もなく、三機の球形観測機が格納庫から、外へと出て行った。

「古寺さん、二番機の方は LMF の様子を記録を。瑠菜さんの二番機は天野さんの HDG の動作を追いかけて記録しておいてね。」

「はーい。」

「わかりました。」

 佳奈と瑠菜は、緒美の指示に従って、それぞれコントローラーを操作する。

「よし、これで、二番機は追跡モードで HDG を撮影記録開始っと。」

「こっちも、LMF の追跡撮影記録を始めておきます。」

 それぞれのコントローラーのディスプレイには、小さなウインドウ表示で茜の HDG と、ブリジットが乗る LMF の様子が映されている。それを確認して、瑠菜の横にしゃがみ込んでいる直美が尋ねた。

「一番機の方で、エイリアン・ドローンの姿、捕らえられる?」

「やってみます。」

 瑠菜は一番機からの映像表示ウインドウを拡大し、カメラの向きや望遠を切り替えながら、接近してくるエイリアン・ドローンを捜した。間もなく、山間を背景に、横に四機並んでいる三角形の小さな機影がディスプレイに映し出された。

「見つけました。…ホントに三角形なんですね。」

 瑠菜が素直な感想を漏らすが、その画面を見つめる直美と緒美は無言だった。

「こっちも、見つけました~。」

 同様に、佳奈も自身が操作する観測機一号で、向かってくるエイリアン・ドローンを映像で捕らえていた。佳奈と瑠菜、双方のコントローラーに表示された画像を見比べて、緒美が指示を出す。

「二人とも、あまりアップにしないでおいてね。カメラの画角から外れたら、追えなくなるから。あ、一号機の映像も記録を始めて。」

 その頃、茜は、防衛軍の監視レーダー施設上空100メートル程に HDG の高度を止(とど)めて、CPBL を正面に構え、目標との距離を測りながら狙撃の機を窺っていた。目標との距離は、CPBL に搭載された照準センサーに含まれているレーザー式測距ユニットからの情報が、眼前のゴーグル型スクリーンに表示されている。
 時刻的に太陽は西へ傾き、太陽が真正面では無いにしても、逆光気味ではスクリーンの表示が見づらく感じられたので、茜はフェイス・シールドを下ろして視界を確保した。スクリーンの表示は、ヘッド・ギアに装備された光学センサーからの映像に切り替わる。

「ブリジット、そろそろ、仕掛けるわよ。準備はいい?」

 茜がブリジットに呼び掛けると、ブリジットは直ぐに返事をした。

「オーケー、何時でも。」

 唾液を飲み込み、茜はカウント・ダウンを始めた。

「5、4、3…。」

 エイリアン・ドローンは進路を変えることなく、真っ直ぐ向かって飛行して来る。緒美の言った通り、HDG や LMF を警戒している様子は全く無い。

「…2、1、発射!」

 茜の構えた CPBL が破裂音を立てて、青白い荷電粒子を撃ち出す。カウント・ダウンに合わせて、LMF からも青白い閃光が走り、向かって来るエイリアン・ドローンの内、先頭の一機が LMF のプラズマ砲によって機体のおよそ半分を吹き飛ばされ、もう一機は正面から荷電粒子の束に機体の中央部を貫かれ、それぞれが山中へと煙を引いて落ちていく。
 ブリジットは第一撃の直後に、予めロック・オンしていたもう一機にプラズマ砲の軸線を合わせ直して、透かさず第二撃を発射したのだが、それよりも早く、エイリアン・ドローンの残り二機が回避機動を開始しており、命中はしなかった。
 トライアングルの回避機動は第一撃の命中とほぼ同時に開始されており、茜も、第二撃を撃とうと試みたが、北向きに進路を変えたもう一機に照準を合わせる事すら出来なかった。狙撃を免(まぬが)れたエイリアン・ドローンの残り二機は、急減速して格闘戦形態に変形しつつ、それぞれが別の場所、背の高い樹木が立ち並ぶ山腹へと降下していった。

「すいません、見失いました。右手の一機は、尾根の北側に降りたと思うんですけど。ブリジット、南側のもう一機は?行方(ゆくえ)、わかる?」

「山の中に降りたのは見えたけど、正確な位置はわからない。」

「慌てないで、二人とも。木立が密集してる山中だと、エイリアン・ドローンも動きは制限されるから。向こうから仕掛けてくるには必ず、飛び上がってくるから、そこを狙い撃ちして。敵の位置はこっちでも捜してみるわ。」

「捜すって、どうやるんです?」

 ブリジットが緒美に聞き返す。

「観測機よ。降りた場所は、両方とも大体の見当はついてるから。天野さんも、今の位置からは無闇に動かないでね。」

 緒美の声がレシーバーから聞こえて間もなく、レーダー施設上空の茜の視界には、左右から球形観測機が前方へと飛んでいくのが見えた。トライアングルが降下したと思われるエリアを上空から撮影している様子が見て取れる。

「木が邪魔で、エイリアン・ドローンの姿は見えづらいですね。」

 格納庫内部では、瑠菜が観測機をしながら、そう感想を漏らす。

「熱分布画像(サーモグラフィ)か赤外線画像で見えないかしら?」

「やってみます~。」

 緒美の提案を受けて、佳奈は熱分布画像(サーモグラフィ)に切り替え、佳奈は赤外線画像でそれぞれが尾根の南側と北側の捜索を始める。間もなく、佳奈が声を上げた。

「見つけました、部長。 瑠菜リン、熱分布画像(サーモグラフィ)だとわかり安いよ。」

「オーケー、こっちも熱分布画像(サーモグラフィ)に切り替える。」

「古寺さん、座標は解る?」

「う~ん、トライアングルの座標は解りませんけど、観測機一号のなら。観測機は、トライアングルのほぼ真上にいますけど。」

ボードレールさん、あなたのほぼ正面、観測機が飛んでるの、見える?」

 緒美からの連絡を受けて、ブリジットは LMF の、メイン・センサーで球形観測機を捜す。

「えぇっと…はい、見えます。」

「トライアングルはその下よ。LMF のセンサー、熱分布モードでトライアングルが確認出来る?」

Ruby、熱分布モードで捜索して。球形観測機の下辺りの範囲。」

「わかりました。少々お待ち下さい。」

 LMF のコックピット内部、ブリジット正面の表示画像に熱分布画像がオーバー・ラップされ、熱分布が周囲よりも高い場所がスクリーンの中央になるように視界が調整される。

「この部分を光学処理して再表示します。」

 熱分布画像の表示が薄くなり、木の幹の隙間の陰影が画像処理で強調されると、それが昆虫のカマキリにも似た、トライアングルの格闘戦形態である事が浮かび上がってくるのだった。

「確認しました。エイリアン・ドローン、トライアングルです。」

 Ruby の報告を聞いて、ブリジットは緒美に問い掛けるのだった。

「今、動きが止まってます。ここから砲撃しましょうか?」

「いえ、照準をつけたまま待機して。LMF のプラズマ砲を撃ち込んで、山火事とか起きても困るから。そうなったら、熱分布モードでの捜索も出来なくなるし。飛び上がった所を狙いましょう。」

「わかりました、待機します。」

 ブリジットの返事を聞いて、緒美は瑠菜に尋ねた。

「北側のもう一機は、見つかりそう?」


- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第9話.05)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-05 ****


 その時、佳奈が歓声を上げるかのように、言った。

「部長、動きましたよ!」

 間を置かずに、クラウディアも声を上げる。

「こちらも迎撃コマンド、確認しました。ランチャーのステータス、モニター出来るか、やってみます。」

 クラウディアは嬉々として、愛機のキーボードを叩いている。
 緒美が、佳奈の操作しているコントローラーを覗き込むと、そこには北向きだったランチャーが反時計回りに旋回している様子が映し出されていた。
 直美と瑠菜も、緒美の後ろからコントローラーのディスプレイを覗き込む。

「あれ、無人で動いてるの?」

 直美が、緒美の背後から尋ねる。ディスプレイの中で、ミサイル・ランチャーは回転を止め、仰角を微調整していた。

「ええ、何処かの基地から遠隔操作されているはず。」

 そう、緒美が答えた瞬間、ディスプレイに映っているランチャーから、最初のミサイルが発射された。それを見て、佳奈が「わぁっ」と声を上げるが、間もなく、次々と、全てのミサイルがランチャーから発射されるのだった。

「カルテッリエリさん、ミサイルの状況、追える?」

「やってみます。」

「多分、ミサイルは一分足らずで目標に到達するはずだけど。」

 緒美とクラウディアが、そんなやりとりをしている一方、佳奈は球形観測機でミサイルを追跡しようと、飛翔方向へカメラを向ける操作を試みるが、直ぐにそれは徒労と終わった。

「あぁ~あっという間に見え無くなっちゃった。」

 結局、そこにいた一同の視線は、クラウディアへと向けられ、彼女からの情報を待つのだった。
 そして三十秒ほど沈黙が続いた後、クラウディアが口を開く。

「エイリアン・ドローンのレーダー反応、二機が消えたみたいですね。」

 クラウディアはパソコンを数回操作して、別の情報に画面を切り替え、補足する。

「防衛軍は…二機撃墜と判定したようです。」

「何だよ、確率通りかよ!」

「統計って偉大ね。」

 直美が漏らした素直な感想に、恵がコメントを返す。そして緒美は冷静に、一言、言うのだった。

「偶然よ。」

 そこで、防衛軍の動向を探っていたクラウディアが報告する。

「確認しました、こちらに向かってきているのは、あと四機。時間にして、約五分の位置。防衛軍の戦闘機部隊に、先に西向きへ分かれた一隊と併せて、対処するように命令が出てますね。四国上空を通過していた敵の本隊らしき45機は、高度三万メートル程度を保ったまま東向きに進行中。防衛軍は敵の目標は名古屋だと想定して、対抗策を準備中みたいです。」

「こちら側を戦闘機部隊が対処って、今からだと到着するまで、三十分は掛かるわね。」

 その緒美の発言を聞いて、今まで黙って様子を見ていた茜が、南側大扉へと向かって歩き出す。

「天野さん。」

 緒美に声を掛けられ、一度、茜は立ち止まり、緒美の方へ顔を向ける。

「行きます。何か、指示があればお願いします、部長。」

「わかった。気をつけてね、無理はしないで。」

「はい。」

 茜は再び、歩き出す。すると、LMF のホバー・ユニットが唸りを上げ、コックピットからブリジットの大きな声が聞こえてくる。

「わたしも、LMF 出しまーす。」

 LMF のホバー・ユニットから床面に打ち付けられた空気が四方に流れ、それが一同の髪や制服のスカートを揺らす。LMF がゆっくりと前進を始めると、瑠菜と直美が駆け出し、先回りして LMF が通れるように大扉を押し開けるのだった。

「天野さん、ボードレールさん。」

 緒美は、ヘッド・セットのマイクを口元に引き上げ、出て行こうとする二人に呼び掛けた。

「あなた達は軍人じゃないんだから、命を懸ける必要は無いのよ。怖いと思ったり、危険だと思ったら、直ぐに逃げなさい。だれも、責めたりしないから。いいわね。」

「大丈夫ですよ、多分。 ブリジットは、無理してわたしに付き合わなくてもいいのよ。」

「冗談、茜に付き合うためだったら、わたしはどんな無理だってするの。」

 緒美のヘッド・セットには、二人の笑い声が聞こえていた。

「いいわ。それじゃ、天野さん。外に出たら、あなたは山頂のレーダー上空で待機して。そこからエイリアン・ドローンに最初の一撃を加えます。」

「わかりました。」

 茜はスラスター・ユニットを軽く噴かし、勢いをつけて大扉から外へ出ると、上空へとジャンプした。

「それから、ボードレールさん。あなたは格納庫を出たら真っ直ぐ、滑走路の南側へ移動して西向きに停止。LMF のプラズマ砲は威力が強すぎるから、間違っても町の方へ向かって撃たないように。必ず、山の上空へ向かって撃ってね。第一撃は、天野さんと同じタイミングで。」

「わかりました~。」

 ブリジットが操縦する LMF は、格納庫から外へ出るとそのまま直進し、滑走路を横切ると南側の舗装されたエリアで機体の向きを変えて停止する。
 天神ヶ﨑高校は南側から北に向かって登る、山腹の斜面に平地を造成して建設されているが、滑走路は当然、山の斜面から一番離れた南側に造られている。滑走路の基礎は、山腹の斜面を切り崩した土砂による盛土で整地されているが、斜面に建てられた支柱の上に建造された平面構造物の上に敷設されている部分が、滑走路面積のおよそ半分を占めている。
 現在、その平面構造物の上に、LMF は位置しているのだった。LMF はプラズマ砲ターレット上のメイン・センサーを旋回させ、目標を捜索している。

Ruby、光学センサーで目標を捕捉出来る?」

 ブリジットはコックピット・ブロックのキャノピーを閉鎖して、砲撃に備える。キャノピーの内側はスクリーンになっており、外部の様子が映し出されている。

「最大望遠で西南西方向を捜索中です。」

 コックピット内にスクリーンには、メイン・カメラの画像を正面の山間(やまあい)から空の間辺りまで、上下に右から左へと映し出して、接近して来ているはずのエイリアン・ドローンを捜している。そこに、緒美の声が聞こえてくる。

「現在、接近中のエイリアン・ドローンは減速しつつ、高度は400メートルから降下中だそうよ。わたし達の場所からだと、高さ的にはほぼ正面になるはず。距離的にはあと、約三分の位置。」

「部長、向こうは撃ってこないんですよね?」

 思わず、ブリジットが問い掛ける。

「トライアングルは飛び道具を持ってないから、安心して。それから、あちら側は初めて見る兵器に対しては警戒をしないから、初手についてはこっちが断然有利。できれば、最初の一撃で、四機全部、撃破したい所ね。」

 そんな緒美の希望に対して、茜が所感を伝える。

「HDG で別々の目標を、二連射で狙撃するのは、ちょっと厳しいですよ。」

「わかってる。先ずは、最初の一撃で確実に一機、仕留めてちょうだい。」

 茜のヘッド・ギア、レシーバーには緒美の返事に続いて、Ruby の合成音声が聞こえた。

「目標を捕捉。照準をロックします。」

 その時点で、まだ目標を発見出来ていなかった茜が、Ruby に声を掛ける。

Ruby、データ・リンクで目標の情報をちょうだい。」

「茜、データ・リンクは既に確立済みです。」

 即座に返ってきた Ruby の言葉を聞いて、そう言えば、今日の試験項目が HDG と LMF とのデータ・リンクの検証だった事を、茜は思い出した。
 茜は胸元に装備されているスクリーンを立ち上げて、表示を戦術情報画面に切り替え、Ruby からのデータ・リンクによる目標の位置情報を確かめる。表示によると、エイリアン・ドローンは『へ』の字を上下逆さにした形の編隊で高度360メートルを西南西方向から接近してきている。先頭の一機と、画面上で左手後方の一機を LMF がロックオン状態なのが、戦術情報画面の表示で読み取れた。
 茜が先頭の機体に対して、画面上で右手後方の機体を指定すると、ヘッド・ギアの射撃照準モードになっているスクリーンに、標的の位置が表示されるのだった。
 茜は右腰部のジョイントから CPBL を外して、両手で正面に構えて銃口を目標の方向へと向ける。すると、標的の表示がロックオン状態のシンボルへと変わり、以降、照準の微調整は HDG のアーム・ユニットが補正を行っている事を示すのだった。
 同時に、ヘッド・ギア両サイドに取り付けられた光学センサー・ユニットが目標の画像を望遠モードで撮影し、標的シンボルに重ね合わせて表示するのだった。そこには、小さく、少々不鮮明ながらも『トライアングル』の名前の通り、三角形のシルエットが映し出されていた。
 茜がエイリアン・ドローンと対峙(たいじ)するのは、勿論、初めてだったが、スクリーンに映ったそれは、以前、ネットで見かけた画像の通りだったので、恐怖とか緊張とか、何か特別な感慨をもたらす事はなかった。
 それは、LMF のコックピット内で、同じようにスクリーンに映ったエイリアン・ドローンを見つめる、ブリジットも同じだったのである。


- to be continued …-

 

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