WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第13話.04)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-04 ****


「それじゃ、ボードレールさん。先(ま)ずは、垂直跳びからやってみましょうか。 最初は、余り力(ちから)を入れないで、膝(ひざ)だけで跳(と)んでみて。」

 緒美の指示に続いて、茜が助言をする。

「最初は軽く、ね。自分で思っている以上の力(ちから)が出るから、その感覚の差を確かめる感じで。」

「解った、軽く、ね。 じゃ、行きま~す。」

 ブリジットは膝(ひざ)を軽く曲げると、躊躇(ちゅうちょ)無くスッと伸ばして身体を持ち上げる。

「おぉっ…。」

 思いの外(ほか)、高く跳(と)び上がった事に驚いたブリジットは、思わず声を漏らした。爪先が地面から五十センチ程は浮き上がっただろうか。そして間も無く、ブリジットが装着した HDG-B01 は万有引力の法則に逆らう事無く着地するのだが、その瞬間に膝(ひざ)で衝撃を吸収する動作をしなかった所為(せい)か、コンクリートで固められた地面と HDG の脚部が衝突する音が、割と大きく「ガツン」と響いた。

ボードレールさん、足腰に衝撃は無い?」

 ブリジットのレシーバーには、衝突音を聞いて心配した、緒美の声が届いていた。ブリジットは振り向き、格納庫内の緒美の方に手を振って答える。

「大丈夫です、部長。衝撃は、HDG が吸収して呉れたみたいですから。」

「そう。 感覚は掴(つか)めそう?」

「流石に、一回では…もう何度か、跳(と)んでみていいですか?部長。」

「どうぞ。」

 ブリジットは南側に向き直ると、一度、背後で見て居るであろう緒美達に対して右手を挙げて見せる。そして、先程よりは膝(ひざ)を深く曲げ、そして地面を蹴った。今度は一メートル程、跳び上がったブリジットは、着地の瞬間に膝(ひざ)や腰を使って衝撃を吸収する動作を加え、その屈(かが)んだ姿勢から、続けて次のジャンプを行うのだった。
 そうやって、三度、四度とジャンプを繰り返し、ブリジットは少しずつ加える力(ちから)を増していく。最終的には、腕の振りをも加える事で、跳躍は爪先が地面から五メートル程の高さにまで到達し、そしてブリジットは地面へと降りたのだった。流石に、その高度からは、膝(ひざ)を深く曲げ、腰を屈(かが)めてブリジットは着地したのだが、脚部が接地するのに少し遅れて、側面と後側に装着されている、スカート状のデフェンス・フィールド・ジェネレータが地面を叩いて音を立てるのだった。

「ふぅ~。」

 ブリジットは一息を吐(は)いて、立ち上がった。そこに、茜が声を掛ける。

「流石に、バスケでジャンプには慣れてるみたいだけど、あんなに高く跳(と)んで、怖くはなかった?ブリジット。」

「いやあ、面白いよ。トランポリンって、やった事は無いけど、さっきみたいな感じかな? これ使ってバスケやったら、ダンクシュートとか、やり放題じゃない?」

 そう答えて、ブリジットはニヤリと笑うのだった。茜も微笑んで、言葉を返す。

「生身でやらなくちゃ、反則でしょ。」

「勿論。冗談よ。」

 そこで、緒美からの指示が入る。

「それじゃ、今度は前方への跳躍、やってみましょうか。天野さん、軽くやってみせてあげて。」

「助走無しで、片脚で踏み切る感じでしょうか?」

「そうね、最初はそんな感じかしら。」

「じゃ、やってみます。 見ててね、ブリジット。」

 茜は数歩前へ出ると身体を西側へと向け、少し上体を前へ倒すと、右脚を前へ振り出すと同時に左脚で地面を蹴った。すると茜の身体は前方へと押し出され、最高高度が一メートル弱程の緩(ゆる)やかな放物線を描いて、二メートル程先の地面へ着地した。茜は身体の向きをブリジットの方へと変えて、通信で話し掛ける。

「こんな感じ。踏切よりも、着地の方を注意してね。前側に転ぶと怪我するから、着地のタイミングで重心は後ろ目にした方が安全よ。 念の為、マニピュレータは展開しておいた方がいいかも。前側に転倒した時に素手で手を突いたら、手首が持たないから、多分。」

「分かった。」

 ブリジットは、茜の提案に従い、両腕の前腕中程辺りを回転軸に後方へ折り畳まれているマニピュレータを、前方へと展開させた。この、HDG-B01 のマニピュレータの格納方式は、HDG-A01 のそれとは、仕様の大きく異なる点である。HDG-A01 の伸縮格納方式は狭い空間での出し入れが可能だが、装着者(ドライバー)の手に対するマニピュレータのオフセット量が大きくは取れない。他方の、HDG-B01 の回転格納方式では、オフセット量が大きく出来るのだが、出し入れの際に広い空間を必要とするのだ。
 格闘戦に際してはリーチの長い方が、有利、若しくは、より安全を確保出来るので、其方(そちら)を採用したい所ではあるのだが、HDG-A01 は地上戦を主眼にしている為、狭い空間でもマニピュレータの出し入れが可能な伸縮式が採用されているのだ。一方で HDG-B01 は、空中戦を主体に運用されるので、空間の広さに留意する必要が無いと言う訳(わけ)である。

「それじゃ、行きま~す。」

 ブリジットが右手を挙げ、声を出すと、茜が話し掛けるのだった。

「あ、ブリジット。最初からここ迄(まで)、跳(と)ぼうとしなくてもいいからね。初めは、軽く一歩踏み出す位(くらい)の感じで。多分、自分で思ってる以上に前に進むから、その感覚の違いも確かめて。」

「オーケー、やってみる。」

 ブリジットは右手を降ろすと、小さな水溜まりでも飛び越える程度の感覚で、左脚で地面を蹴ったのだが、茜の立つ場所まで、半分程の位置に着地したのだった。

「ふ~ん、成る程。」

 そう呟(つぶや)くと、ブリジットは、今度は右脚で踏み切り、茜の隣付近へと到達する。

「どう? 感覚は掴(つか)めそう?」

「何と無く。」

「流石ね。 それじゃ、付いて来て。」

 茜はくるりと身体の向きを西側へ向けると、再び二メートル程度の跳躍を行う。それを追って、ブリジットも同じ様に、跳躍する。続いて、茜は三メートル、四メートルと、跳躍の距離を伸ばしていくが、ブリジットはそれに完全に追従して見せたのだ。

「いいわね、跳躍と着地が問題無く出来る様なら、次は走ってみましょうか。」

 茜は立ち止まると、身体の向きを東側へと変える。

「駆け足から始めて、少しずつスピードを上げていくけど、途中で身体の進み具合と足の回転が合わなくなって来るから、転ばない様に気を付けてね。」

 そう注意を促(うなが)すと、ブリジットの返事も待たず、茜は東向きに駆け足で進み出す。ブリジットは、茜を追って駆け出す。そして茜は、先に言った通り、少しずつ走る速度を上げていくのだが、それに従って歩幅(ストライド)が大きくなっていくのだ。走り始めて五十メートル程進んだ辺りで、歩幅(ストライド)が一メートル程度になり、茜はブリジットに声を掛け、減速した。

「走り出しよりも、止まる方が難しいから、気を付けてね、ブリジット。」

 スムーズに減速した茜の HDG-A01 を、前のめりになる様にブリジットは追い抜き、数メートル先まで進んで、何とか行き足を止めるのだった。そこから茜の元へと歩き乍(なが)ら、ブリジットは言うのだった。

「確かに、急に減速しようとすると、前方へ転びそうになるわね。」

「FSU のお陰で意識し辛いけど、重量が装備の分だけ増えてるんだから、当然、慣性は大きくなるでしょ。だから、減速する時は重心を低目、後ろ目にしておかないと。 生身の感覚でいると、つんのめって前転しちゃうわ。」

「成る程。 それにしても、茜は走ったり止まったり、良く平然とやってられるわね。今迄(いままで)は、何とも思わずに見てたけど、自分でやってみると、結構大変だわ。」

 ブリジットの、溜息(ためいき)混じりのコメントを受け、微笑んで茜は言葉を返す。

「大丈夫よ、ブリジットも直ぐに慣れるわ。 もう二、三本、加速減速やってみましょう。」

「オーケー。」

 茜とブリジットは、今度は西側に身体を向け、揃(そろ)って駆け足から始めるのだった。今回も茜が主導して、距離にして二十メートル程で加速した後、五メートル程で減速するのを四回繰り返し、凡(およ)そ百メートル程度を走った所で、二人は立ち止まった。そして東向きに進路を変えると、先程と同じ様に加減速を繰り返して、第三格納庫の前へと戻って来る。
 第三格納庫の開けられた南側大扉の前付近で立ち止まって、二人が呼吸を整えていると、そこへ緒美が、ブリジットに通信で声を掛けるのだった。

「どう?ボードレールさん。感覚は掴(つか)めそう?」

 続いて、樹里の声が届く。

「こっちに返って来てる数値を見てる限りだと、可成り自由に動ける様になったと思うんだけど。どうかな?ボードレールさん。」

 ブリジットは一度、深呼吸をして、答えた。

「そうですね、もう、跳(と)んだり走ったりで、大きな違和感は無い感じです、樹里さん。 減速の方は、大体、感触が分かって来ました、部長。」

「そう、それじゃ、マニピュレータの動作を見たいって、実松課長が。 B号機用の武装、持って行って貰うから、ちょっと振り回してみて。」

 その緒美の提案に対して、茜が割り込んで言うのだった。

「部長、その前に一度、全力でのダッシュと、そこからの停止まで。ブリジットにやってみて貰いたいんですが。」

 茜の提案に対する緒美の返答は、早かった。

「いいわよ。その間に、B号機の武装を用意するわね。」

 そしてブリジットが、茜に尋(たず)ねるのだ。

「全力ダッシュ?」

「ちょっと、見てて。」

 そう言って西向きに身体の方向を変えた茜は、少し前傾姿勢を取ると、右脚で強く地面を蹴った。茜の身体は一気に前方へ飛び出し、二メートル程の先に着地した左脚で、再び強く地面を蹴る。最終的には八メートル程のストライドでの十数回の跳躍を繰り返し、第二格納庫の前を通過する前に両脚で着地すると、重心を低くしてコンクリートの面上を数メートル、スライドした後に HDG-A01 は停止したのだ。
 茜は腰を伸ばして振り返ると、両手を振ってブリジットに通信で呼び掛けた。

「こんな感じ~ブリジット。」

「それを、行き成り、わたしにやれ、と?」

 苦笑いしつつブリジットが言葉を返すと、茜が返事をするのだった。

「別に最後のブレーキ動作、スライド迄(まで)はやらなくてもいいけど。何回かに跳躍を分けて減速してもいいわよ。 要は、安全に止まれたらいいんだから。」

 そう言われると、無意味に対抗意識が刺激されるブリジットである。

「まぁ、いいわ。やってみる。」

 ブリジットは茜がやった様に、前傾姿勢でダッシュの構えを整える。そこに、緒美からの通信である。

ボードレールさん、無理はしないようにね。」

「大丈夫です、部長。 多分。」

 そう答えて、ブリジットは右脚で地面を蹴った。思った以上の加速に、つい「うっわ…。」と呟(つぶや)く様に声を漏らす。茜の HDG-A01 に比べて背部の装備が無い分、ブリジットの HDG-B01 は総重量が軽いので、最初から三メートル程の跳躍となったのだが、ブリジットはその儘(まま)、次の跳躍を続けた。跳躍を繰り返す程に、当初、百五十メートル程の先に居た茜の姿が、ブリジットには段々と大きく見えて来るのだ。
 ブリジットは、茜までの距離が十メートル程になった跳躍の空中で、両脚での着地体勢を取り、着地の瞬間には衝撃を膝で吸収し、更に重心を落とした上で両足の間隔を広げて、横向きにコンクリート上をスライドし乍(なが)ら減速したのだった。

「ふう…。」

 一息を吐(つ)いて、足腰を伸ばしたブリジットは、開けられている第一格納庫の大扉付近で、数人の生徒らしき人影が、自分達の方を見ているのに気が付いた。

「茜、第一格納庫の方…。」

「ああ、飛行機部の人達よね。村上さんも、見てるかな?」

 茜は飛行機部の面々に見られている事には、余り気を取られてはいない様子で、続けてブリジットに話し掛けた。

「それより、流石ね、ブリジット。全力でダッシュと、停止迄(まで)が出来れば、地上での移動には困らないわ。」

「合格?」

「文句無し。」

 茜は、右腕を突き出し、サムズアップをして見せるのだった。それに対して、ブリジットは微笑みを返すのである。

「それじゃ、軽く流して第三格納庫の前まで戻りましょうか。」

 そう言って茜は、身体の向きを東側に変えると、二メートル程の跳躍を繰り返して、第三格納庫前へと帰って行く。ブリジットも茜に続いたのだが、その端緒に、第一格納庫から東向きに自転車で移動する二人の女子生徒の姿を、視界の端に認めていたのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第13話.03)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-03 ****


 それから少し経って、インナー・スーツに着替えた茜とブリジットが、階段を降りて来る。

「お待たせしました~。」

 茜は普段通りだったが、ブリジットの方は聊(いささ)か緊張した面持ちである。
 メンテナンス・リグに接続された両機へと歩いて来る二人に、緒美が声を掛ける。

「準備が出来てるなら、早速、起動させましょうか。」

 並べられた HDG-A01 と、HDG-B01 の前には搭乗用のステップラダーが既に置かれている。茜とブリジットは、両機の前に立ち、暫(しば)し新しい機体を見上げる。
 そしてブリジットが、ふと、感想を口にするのだ。

「塗装は、白ベースなんですね。」

 HDG-B01 の機体は大部分が白色に塗装されており、一部にライトブルーのラインが入れられている。
 茜が、畑中に向かって尋(たず)ねる。

「このデザインも、飯島さん?ですか。」

「そうだよ~。ぱっと見でA号機と、見分けが付く方がいいだろうってのと、画像で見たブリジット君のイメージ、だってさ。」

「成る程。」

 そう、納得する茜に、ブリジットは訊(き)くのだった。

「成る程、なの?」

「スマートで、スッキリしたイメージ、なんじゃないの?白って。」

「わたしのイメージ…って言われても、ねぇ。」

 ブリジットは、苦笑いである。そして畑中が、微笑んで言うのだった。

「まぁ、飽くまでも、画像を見た飯島さんのイメージだから、ね。」

「あはは、ま、取り敢えず接続してみましょうよ、ブリジット。」

 そう言って、茜は HDG-A01 へのステップラダーを登って行く。ブリジットも、HDG-B01 の前に置かれた、ステップラダーへ向かった。

「接続の手順は、分かる?ブリジット。」

 ステップラダーの頂部に立って、茜はブリジットに問い掛けた。ステップラダーの頂部へと登って来たブリジットが、答える。

「大丈夫。」

 ブリジットが入部して以来、茜が行う HDG 装着のサポートを何度も繰り返して来たのは、この日を見据えての事である。それは勿論、茜も理解していたので、微笑んで声を返した。

「オーケー。」

 茜とブリジットは、それぞれのステップ面に腰を下ろすと、両脚を HDG の腰部リングへと差し込む。その儘(まま)、腰の位置を前方へとずらし、脚部ブロックの上部に足が届くと、一度そこに立ち上がり、身体の向きを変えて、足を左右の脚部ブロックへと嵌(は)め込んだ。そして上体を起こして、インナー・スーツの背部パワー・ユニットを、HDG の背部ブロックへと接続するのだ。

「HDG-A01 接続します。」

「HDG-B01 接続します。」

 二人がそれぞれのインナー・スーツ左手首のスイッチを右手で操作すると、背部パワー・ユニットがロックされ、続いて、腰部リングや脚部ブロック、上部フレームが、それぞれ固定位置へと作動するのだった。
 最後に、茜には佳奈が、ブリジットには瑠菜が、それぞれのヘッド・ギアを装着させ、二人の HDG への接続作業は完了した。茜とブリジットは、それぞれのヘッド・ギアの、ゴーグル型スクリーンを降ろして、機体のステータス情報を確認している。その間に、HDG の前に置かれていたステップラダーは、瑠菜と佳奈、そして恵と直美の手で HDG 前から撤去される。それを終えると、佳奈が HDG-A01 の、瑠菜が HDG-B01 の、それぞれのメンテナンス・リグのコンソールへと移動する。
 そして両機は格納庫の床面へと降ろされ、腰部後方の接続ロックが解放されるのだ。二人は隣に立つお互いの顔を見合わせ、微笑んだ。そして茜が、ブリジットに問い掛ける。

「どう、大丈夫?」

 茜は、それ程大きな声を出した訳(わけ)ではなかったが、その声はブリッジが装着するヘッド・ギアのレシーバーから聞こえたのだ。ブリジットも、声量には注意して答えた。

「うん、大丈夫。でも、立ってるのに浮かんでる様な、変な感じ。」

「ああ、それは、FSU が装備の重量を支えてるから、自分の足腰には負荷が掛かってないのよ。」

「理屈では分かってるんだけど、体感すると、又、印象が違うわね。」

 そう言って、ブリジットは「うふふ」と笑うのだった。
 丁度(ちょうど)その頃、立花先生が格納庫フロアへと戻って来て、緒美達に声を掛けるのである。

「もう起動してるんだ。」

 緒美は振り向いて、立花先生に言葉を返す。

「お戻りですか。 何方(どちら)へ?立花先生。」

「え?ああ、総務の方へね。今日、搬入された物品の、管理関係の書類仕事よ。HDG とか、一応、管理上は本社の資産扱いだからね、学校のじゃなくて。 だから本社からの資産貸し出し扱いの事務手続きとか、こっちでの管理書類の作成とか、色々、やっておかなきゃいけない事が有るのよ。」

 倉庫での検品作業から戻っていた恵が、その説明を聞いて含みの有りそうな笑顔で言う。

「へぇ~それは、ご苦労様です。」

 恵は、立花先生の言う『事務手続き』が嘘だとは思わなかったが、それが今日中に済まさなければならない事だとも思わなかったのだ。同じ事を考えていた直美も、クスクスと笑っている。
 立花先生は怪訝(けげん)な顔付きで、恵に言葉を返す。

「何よ恵ちゃん、引っ掛かる言い方ね。」

「いいえ、深い意味なんて、別に有りませんよ。」

「まあ、いいわ。そういう事にして置いてあげる。」

 立花先生は、視線を茜達、HDG の方へと戻した。
 実際、立花先生の行動にも、恵の言動にも、何方(どちら)にも深い意図などは無かったのだ。唯(ただ)、そんな遣り取りを傍(そば)で聞いていた緒美も、くすりと笑って居たのだった。

「樹里さん、B号機とのデータ・リンクは大丈夫ですか?」

 茜が、デバッグ用コンソールに就く樹里に呼び掛ける。樹里は、装着しているヘッド・セットを介して答えた。

「大丈夫よ、ログは取れてる。 それじゃボードレールさん、動作範囲の設定からやっていきましょうか。」

「ああ、それじゃ…。」

 茜はブリジットの前側へと回り、正面に向かい合って立つのだった。

「わたしの動きに合わせて、動いてみて、ブリジット。最初は真っ直ぐ、しゃがんでみて。」

 ゆっくりと、茜は両膝(ひざ)を曲げ、腰を落としていく。ブリジットは、それを真似てしゃがみ込むのだった。

「こう?」

「そうそう、ゆっくりでいいからね。」

「意外と、動かすのが硬いって言うか、重いのね、これ。」

「最初の内だけよ。HDG が動き方を覚えたら、段々と動作は軽くなって来るわ。」

「しゃがむのは、この辺りが限界、かな。」

「無理はしないで、ブリジット。じゃ、真っ直ぐ立ち上がって。」

 二人は、しゃがむ時に比べて、幾分早く立ち上がった。

「じゃ、次は右脚を上げて、左脚で片脚立ち…。」

 茜の指示で、ブリジットは順番に各間接の動作範囲を確認し、設定していく。
 そんな様子を眺(なが)め乍(なが)ら、畑中は緒美に尋(たず)ねるのだった

「鬼塚君、A号機の動作データを変換すれば、B号機の初期設定とか省略出来るんじゃないの?」

 その問い掛けに緒美が答えるより早く、コンソールを操作する樹里を見ていた日比野が答えるのだった。

「それね、仕様的にはその通りなんだけど。そのデータ変換自体が正しく出来るかが、未検証なのよ、畑中君。もしも変換プログラムにバグでも有ったら、それこそ洒落にならないから。 だから、B号機も普通にセットアップを行って、出来上がった双方のデータを変換して、それぞれお互いの生成データと比較して、変換プログラムの検証をする予定なの。」

「成る程、そう言う訳(わけ)ですか。」

 日比野の説明に、畑中が納得する一方で、直美が樹里に問い掛ける。

「それよりも、バッテリー駆動だと、A号機の最初の時みたいにならないか、そっちの方が心配だけど。大丈夫よね?城ノ内。」

 茜の HDG-A01 は背部にスラスター・ユニットを装備していて、それを電源としているのだが、ブリジットの HDG-B01 は、まだ HDG-A01 のスラスター・ユニットに該当する装備を接続していなかった。だから直美は、四月の末(すえ)に HDG-A01 を初起動した際の、電源系統の不具合で動作が止まってしまった事例を思い出していたのだ。
 この時点で、HDG-B01 がバッテリー駆動だったのは、HDG-B01 用の該当ユニットが、HDG-A01 用のスラスター・ユニットに比べて著しく大型であるからだ。空中を飛行する事を主眼として開発される HDG-B01 用の飛行ユニットは、搭載されているエンジンも大型で、飛行や空中機動には空力も利用する為に翼も装備していた。その為、地上での動作テストを実施するのに当たっては、はっきり言って邪魔だったのだ。因(ちな)みに、HDG-B01 用の飛行ユニットは、専用のメンテナンス・リグに搭載されて、第三格納庫には搬入済みである。

「大丈夫ですよ、新島先輩。あの件は、ちゃんと原因が特定されて、対策も済んでますから。」

 樹里は微笑んで、直美に答えた。それに対して、日比野が声を掛ける。

「その時は、Ruby の機転で、LMF を使ってA号機を回収したんだっけ?」

「そうですよ。」

 日比野に答える樹里に、直美が言うのである。

「それよ。今は LMF が無いからさ、もしもあの時みたいにB号機が固まっちゃったら、どうやって回収するか、って話よ。」

 その直美の懸念には、恵が答える。

「その心配は要らないんじゃない? 今日は本社の方々もいらっしゃるし、天野さんのA号機も動いてるし。まさか、両方とも止まっちゃう事は無いでしょう。」

「まあ、そうなんだけどさ。」

 直美が苦笑いしつつ、そう言葉を返すと、緒美が振り向いて言うのだった。

「ま、試運転なんだから何が起きるか分からないって事は、覚悟しておきましょう。寧(むし)ろ、何が起きてもいい様に、しっかり監視してて。少しでもおかしな兆候が有ったら、直ぐに声を上げてね、皆(みんな)。」

 先輩達が、そんな会話をしている内に、茜とブリジットは HDG-B01 の動作範囲設定に於ける一連の動作を終えるのだった。そこで、樹里が二人に声を掛ける。

「オーケー、B号機は今の所、異常無しよ。リターン値は、全て正常範囲。」

 続いて緒美が、装着しているヘッド・セットを介して指示を出すのだ。

「それじゃ二人共、歩いて格納庫の外へ行ってみましょうか。」

「分かりました。」

 茜とブリジットは声を揃(そろ)えて返事をすると、搬入の為に開けられた儘(まま)だった南側大扉へ向かって歩き出す。
 歩き始めは、外部から見る限り、茜の HDG-A01 に比べてブリジットの HDG-B01 は、聊(いささ)か歩き方がぎこちない様に見えたが、二人が大扉を潜(くぐ)る頃には、それも解消されていた。それは、HDG-B01 に搭載されている AI が、ブリジットの動きに合わせて、動作の出力やタイミングを調整し、学習した結果なのである。
 茜とブリジットが格納庫の外へ出ると、その日も快晴で、夏は終わりに向かっているとは言え、まだ日差しは強かった。時刻は、もうそろそろ午後四時になろうかと言う所で、茜が西側の空を見ると、太陽が視野に入る高さだった。
 外気温は、この時刻ではまだ 28℃を下回っていなかったが、幸い、インナー・スーツの温度調整機能のお陰で、暑さは感じなかった。

「ブリジットは大丈夫?暑くはない?」

 茜が尋(たず)ねると、ブリジットは微笑んで答える。

「大丈夫よ。インナー・スーツがちゃんと機能してる。」

 そこに、ヘッド・ギアのレシーバーから、緒美の声が聞こえて来るのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第13話.02)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-02 ****


Ruby …と言いますか、三社による開発中の AI に、シミュレーターを実行させる事は、既に他社も行っていますが。 HDG を利用して、直接、教示(ティーチング)を行うのは他社には出来ませんし、わたし達も思い付きもしませんでした。その手法で彼女達は、既に大きな成果を上げています。」

「ああ、アレは上手くいった様だな。お陰で、陸防に納入する量産仕様の LMF 改、アレのソフト開発も、何とか間に合いそうですからな。」

 そう、大沼部長が飯田部長に話し掛けると、飯田部長は一度頷(うなず)いて、井上主任に尋(たず)ねる。

「つまり、彼女達にはシミュレーターを利用して、Ruby の戦闘経験を積ませよう、と?」

「はい。それであれば、彼女達の身の安全も確保出来ますし、『作戦』に投入する前に Ruby を戦闘によって失ってしまうリスクも回避出来ます。Ruby に取っては、実戦もシミュレーションも、何ら差は無いですから。 勿論、最終的には防衛軍に移管して、能力の確認が必要でしょうけど。それ迄(まで)は、Ruby は彼女達に任せて置くのが適当かと。」

 飯田部長は井上主任の発言が終わるのを待って、天野会長の方へ向き、尋(たず)ねる。

「如何(いかが)でしょうか?」

 それには頷(うなず)いて応え、天野会長は井上主任に言うのだった。

「状況に大きな変化が無い限り、井上君の言う線で、いいのではないかな。 ともあれ、『作戦』実行まで、当初の計画に従えば、あと三年だ。このタイミングで『デバイス』のキーになる Ruby に、完成の目処(めど)が付いたのは喜ばしい事だな。あとは、機体の方の完成と試験を、如何(いか)にスケジュールに合わせていくか、だが。『作戦』に投入するのに、必要な数を揃(そろ)えなければならない事を考えると、開発に掛けられる時間はギリギリだ。」

「会長、念の為に申し上げておきますが。Ruby が完成したかどうかは、現時点では断言致し兼ねます。 最終的な判断は、Ruby 本体の解析をしてみない事には。」

 真面目な顔付きで井上主任が、そう訴えると、天野会長は微笑んで答える。

「勿論、それは分かっているよ、井上君。」

 そして、天野会長は飯田部長の方へ向いて、確認する。

Ruby 本体がこっちに届くのに、どの位(くらい)、掛かる? 飯田君。一週間、位(ぐらい)かな?」

「そうですね、その位(くらい)は必要ですね。」

 今度は井上主任の方へ向き直り、天野会長は尋(たず)ねた。

Ruby の解析には、どの位(くらい)が必要かね?井上君。」

「開けてみないと分からないですが、二週間…三週間程かと。」

「合わせて、一ヶ月か。分かった、それで進めて呉れ。 今日は忙しい所、済まなかったね、井上君。 他に、井上主任に確認しておきたい事が、誰か有るかな?」

 飯田部長、大沼部長は共に、首を横に振る。それを確認して、天野会長は提案する。

「この際だから、井上君の方から何か、言っておきたい事が有れば。」

 天野会長からの申し出に、井上主任は躊躇(ためら)わずに答える。

「では、二つ程、会長にお聞きしたい事が。」

「何だい?」

「兵器開発部の城ノ内さん、彼女を正社員として、わたしの所へ頂けないでしょうか?なるべく早い内に。 彼女は、即戦力として十分、使える人材ですので。」

 真面目な顔で要望を伝える井上主任に、苦笑いしつつ天野会長は答える。

「ああ~その件か。同じ様な要望をね、兵器開発部のメンバー全員について、各部署から聞いてはいるが。それらに就いては、校長にね、きっぱりと拒否されたよ。それに、個別の人事に就いては、わたしも口出しは出来ないし、したくはないのでね。彼女達が卒業する迄(まで)、待ってやって呉れ。徒(ただ)、その間(あいだ)に、部活の範囲内でなら、彼女達に協力を求めるのは構わないよ。」

「分かりました。」

「うん、済まないね。それで、もう一つは?」

「これは、私的な事ですが。 維月…妹は元気にやっていますでしょうか?」

 天野会長は、微笑んで答える。

「ああ、心配は要らないよ、いい友人も居る様子だし。此方(こちら)で依頼している『危険人物』の監督役も、卒無(そつな)く熟(こな)して呉れている。」

 そこで飯田部長がニヤリと笑って、天野会長に問い掛ける。

「ああ、例の、ハッカーの?」

「そうだ。昨日(さくじつ)も、その能力を役立てて貰ったと言えば、そうなんだがね。」

 そう解説する天野会長は、苦笑いである。井上主任は、微笑んで言葉を返す。

「そうですか。取り敢えず、安心しました。」

「そうか。」

 天野会長は、小さく頷(うなず)いて見せた。

「では、わたしはこれで。業務へ戻ります。」

 井上主任は、そう言って天野会長に一礼した後、部課長へ向かってもう一度、一礼をして会議室を後にしたのだった。


 2072年9月5日・月曜日、場所は変わって、LMF が大破した襲撃事件から三週間が経過した天神ヶ崎高校である。
 夏期休暇の期間も終わり、授業が再開して五日目。兵器開発部一同の部活動も、再開されていた。部活動は夏休みが終わる前から再開されていたのだが、Ruby の存在を欠いた部活動には、一同が違和感を覚えていたのだ。しかし、嘆(なげ)いてばかりも居られず、それぞれの帰省先から学校へ戻って来て約一週間が経過した今、彼女達は Ruby の不在にも少しずつ慣れ始めていた。
 この日は、天野重工の試作工場からのトランスポーターが三台、朝早くから到着し、第三格納庫へと積み荷を降ろしていた。そう、予定の延期が続いていた、HDG のB号機の搬入である。
 兵器開発部のメンバー達は授業に出席しなければならないので、B号機の搬入作業には立ち会えなかったのだが、それは天野重工のスタッフ達に因って行われ、現地での最終セットアップも、彼等の手で行われたのである。
 そうして放課後になると、兵器開発部のメンバー達がと次々と第三格納庫へとやって来るのだ。

 最初に格納庫フロアに降りて来たのは、緒美達、三年生の三人である。

「ご苦労様です。」

 搬入からセットアップ迄(まで)の作業を一通り終え、念の為の最終チェックをしているスタッフ達に声を掛け乍(なが)ら、緒美達は HDG-A01 が接続されたメンテナンス・リグの隣に置かれた、HDG-B01 のメンテナンス・リグを目指して進んで行った。三人の姿に気が付いた畑中が、緒美に声を掛ける。

「授業は、終わったのかい?」

「はい。」

 微笑んで緒美が声を返すと、畑中は書類を手に、彼女達の方へ歩み寄って来る。

「今回、搬入分のリスト。倉庫の方へ、メンテ用の交換パーツとか、A号機の追加分も入れてあるから、後で確認しておいて。」

 畑中が差し出す書類の束を、恵が受け取ると、直ぐにその記載内容に目を通すのだった。その一方で、緒美が畑中に尋(たず)ねる。

「受け取りの書類とかは? サインの必要な物が有れば。」

「ああ、その手の物は、昼休みに、立花先生が処理してくれたから。大丈夫だよ。」

「そうですか。」

 そう応える緒美の後ろで、直美が格納庫内を見回して、畑中に問い掛ける。

「そう言えば、立花先生は? 今日は『特許法』の授業は、無い日の筈(はず)だけど。」

「さあ、そう言えば、暫(しばら)く前から、姿を見てないな。お昼以降も立ち会って呉れていたんだけど。」

 畑中も、周囲を見回す。そこで、少し控え目な声で、恵が言うのだった。

「一時避難されたんじゃ、ないですか? ほら、あの方々がいらっしゃるし。」

 恵が視線を向けた方向に緒美と直美が目を遣ると、少し離れた場所で談笑する、実松(サネマツ)課長と天野理事長、そして前園先生の姿が有った。

「ああ、成る程。」

 緒美と直美は、声を揃(そろ)えて納得するのだった。それには苦笑して、畑中が言葉を返す。

「そりゃ、無いだろう。」

 そんな折、北側の階段側から、瑠菜と佳奈の声が聞こえて来る。

「あ、師匠。ご苦労様で~す。」

「わぁ~師匠だ~。」

 緒美達が振り向くと、瑠菜と佳奈、そして樹里と維月とクラウディアが二階通路から、階段を降りて来ていた。瑠菜と佳奈の二人は階段を降りると、その儘(まま)、実松課長の方へと歩いて行く。残りの三名は、緒美達の方へと進んでいた。
 緒美は、その三名の内、先頭の樹里に声を掛ける。

「天野さんとボードレールさんは、まだ?」

「いえ、今は上で、インナー・スーツへ着替えを。」

 樹里が、そう答えると、今度はデバッグ用コンソールのチェックを行っていた天野重工の女性スタッフが、樹里に声を掛ける。

「樹里ちゃん。ちょっといいかな?」

「あ、日比野先輩、ご苦労様です。」

 日比野は、畑中達、試作部の所属ではなく、維月の姉・井上主任や安藤達と同じ、開発部設計三課の所属であるが、井上主任が率(ひき)いる Ruby 開発チームのメンバーではない。日比野は HDG のソフト開発チームの一員で、今回はソフト回りの対応の為、搬入に同行して来ているのだった。因(ちな)みに、日比野も天神ヶ崎高校情報処理科の卒業生で、畑中とは同期である。

「コンソールのバージョン、B号機対応のに入れ替えてあるから。」

「あ、はい。一応、説明、聞かせてください。」

 樹里と維月、そしてクラウディアは、日比野の方へと向かった。

「そう言えば、Ruby、今はどんな状況なのか、日比野先輩は御存知ですか?」

 日比野に、樹里は屈託(くったく)無く尋(たず)ねた。その回答には緒美達も傾聴したのだが、日比野は何の躊躇(ちゅうちょ)も無い様に、樹里に答えるのだった。

「ああ、安藤さんと五島さんが中心になって、ログとか中間ファイルの解析と復元を進めてるわ。電源を入れられる迄(まで)には、もう暫(しばら)く掛かりそうね。」

 その返事に、維月が言葉を返す。

「あれから、もう三週間は経ちますよ?日比野先輩。」

「いやいやいや、本社に Ruby のコア・ブロックが送られて来る迄(まで)に、一週間掛かってるから。うちからすれば、まだ二週間なのよ。兎に角、処理しなくちゃいけない中間ファイルの量が膨大だから、課の皆(みんな)で手分けしてチェッカーに掛けたりしてるんだけどね。 五島さんなんか、四日に一度位(くらい)しか家(うち)に帰ってないみたいで、又、奥さんが怒り出すんじゃないかって、周りの方(ほう)が心配してる位(ぐらい)。」

「うわぁ。」

 樹里と維月は揃(そろ)って、そう声を上げた。一人、クラウディアのみは、訝(いぶか)し気(げ)な顔付きである。

「じゃ、コンソールの方、説明するから聞いててね。」

 日比野は、コンソールのソフトの、変更点の説明を操作を交え乍(なが)ら始めた。
 その一方で、恵が緒美に告げる。

「それじゃ部長、わたしは倉庫の方、リストの記載と合ってるか、検品して来ます。」

 それに緒美が応えるより早く、畑中が反応するのだった。

「検品は、こっちの方で済ませてあるけど?」

「ダブル・チェックですよ。それに検品は、受け取り側がする物でしょ?畑中先輩。」

 恵は微笑んで、そう畑中に言葉を返した。続いて、緒美が言う。

「そうね、お願い。」

「うん。じゃあ、ささっと済ませて来ます。」

 そう言って恵が倉庫へ向かうと、その後を直美が追って行く。

「森村~、手伝うよ。」

「あら、助かるわ、副部長。」

 二人は格納庫東側、部室階下の倉庫へと歩いて行った。


- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第13話.01)

第13話・鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)とブリジット・ボードレール

**** 13-01 ****


 2072年8月11日・木曜日、エイリアン・ドローンとの交戦に因り LMF が大破した、その翌日である。
 時刻は午前十時を少し回った頃、維月の姉である井上主任が、天野重工本社、開発部設計三課のオフィスへと入って来る。
 その姿を認めた安藤が、井上主任に声を掛けた。

「あ、おはようございます、主任。 昨日の定例会議、如何(いかが)でした?」

「如何(いかが)も何も、全く進展無し。もう、出席するのを止めにしたいわ。時間の無駄だもの。」

 安藤に、そう答え乍(なが)ら、井上主任は安藤の向かい側のデスクへと到着する。三課のオフィスの中に、今、居るのは安藤と井上主任の二人だけだった。他のメンバーが『ラボ』の方で作業中なのは、井上主任には直ぐに見当が付いた。

「三ツ橋も JED も、自分の所の進捗、隠してるんじゃないですか? 天野重工(うち)だって、Ruby の事は全部報告してはいないんですし。」

「まぁ、その可能性は有るけど…彼方(あちら)の担当者の口振りじゃ、それは無さそうよね。」

 持って来ていた小さ目のバッグをデスクの引き出しの中に仕舞うと、井上主任は不在にしていた一日の間に、デスク上に積まれた書類のチェックを始める。本来はペーパーレス化が進んでいる筈(はず)のオフィスなのではあるが、デスクに不在勝ちな井上主任に対しては、目に付き易い様に敢えてプリント・アウトしてデスク上に置いて行くのが、いつの間にか習慣化しているのだ。
 一通り、デスク上の紙片を捲(め)り終えた井上主任が、顔を上げて安藤に問い掛ける。

「それで、連絡の有ったレポートはどこかしら?」

「あ、それなら此方(こちら)に。」

 安藤は腰を上げ、正面のパーティション越しにプリント・アウトされた紙の束を差し出す。

「ありがと。」

 井上主任はプリント・アウトされているのが当然であるかの様に、それを受け取って表紙を確認する。

「ホントに会長が書いたのかしらね?」

 表紙には報告者として、天野重工会長である『天野 総一』の名前が記載されていた。

「らしいですよ、現場にいらっしゃったそうですから。」

「ふうん…で、読んだ?これ。」

 井上主任は表紙を捲(めく)り、記載を目で追い始める。その様子を眺(なが)め乍(なが)ら、安藤は答える。

「はい。読んでおけ、との仰(おお)せ付けでしたので。」

「そう、じゃ、要約して聞かせて。」

 そう安藤にリクエストする一方で、目ではレポートの記述を追い続けている井上主任である。安藤は、少しの間、考えてから話し始める。

「そうですね…戦闘に至る経緯は、余り重要では無いのでバッサリ、カットしますけど。状況としては LMF に HDG をドッキングした状態で、トライアングル六機との交戦状態になります。」

「HDG のドライバーは、会長のお孫さんなのよね?」

 相変わらず、レポートの記述を目で追いつつ、井上主任は尋(たず)ねて来る。安藤は、即答する。

「はい、そうですよ。」

「続けて。」

「はい。それで、三機のトライアングルを撃破した後、LMF のホバー・ユニットが損傷します。その為に機動力の落ちた LMF がトライアングルに捕捉され、Ruby の判断で HDG を切り離し、LMF が囮(おとり)になって、残った三機のトライアングルを、分離した HDG で撃破した、と、そんな流れですね。」

「その作戦、発案は部長の鬼塚さん、って事になってるわね。」

「はい、先に LMF を囮(おとり)にする事に言及してたらしいですね。徒(ただ)、最終局面でそれを提言したのは Ruby 自身で、緒美ちゃ…鬼塚さんは追認って感じみたいです。」

「それで、緊急シャットダウンか…それをやる必要は有ったのかしら?…ああ、電源、第一メイン・エンジンが損傷…か。成る程。」

 安藤が再び席に腰を下ろすと、大きく息を吐(は)いた後、井上主任が訊(き)いて来る。

「所で、課長は?」

「第四会議室です。そのレポートを読んだら、来てくださいって。大沼部長と飯田部長が、主任の見解をお聞きになりたいそうなので。」

「あらま。」

 一言だけ安藤に返すと、井上主任は椅子の背凭(せもた)れに掛けていたジャケットのポケットから携帯端末を取り出し、パネルを操作して耳元へ当てる。

「あ、井上です…はい、今し方。…はい、では、今から伺(うかが)います。」

 通話を終え、携帯端末をジャケットへ仕舞った井上主任に、安藤は尋(たず)ねた。

「課長、ですか?」

「ええ。今から行って来るわね、会議室。」

「ご苦労様です。」

 その場を去ろうとした井上主任は、三歩進んだ所で思い出した様にデスクに引き返し、引き出しの中に仕舞っていたバッグの中からメモリー・デバイスを一つ取り出すと、安藤に差し出して言った。

「これ、昨日の会議の議事録。皆(みんな)と共有出来るようにしておいて、ゼットちゃん。」

「了解です。」

 安藤にメモリー・デバイスを渡すと、ジャケットを羽織りつつ、井上主任は早足でオフィスから出て行ったのだった。


 井上主任は第四会議室に入ると、先(ま)ず出席者を確認した。安藤が言っていた通り、直属の上司である開発部設計三課の赤坂課長と、その上司である大沼部長、そして事業統括部の飯田部長が既に着席していた。更に、天野会長の姿も有ったことには、井上主任は少なからず驚いていた。
 Ruby の開発責任者に任命されて以降、打ち合わせや進捗の説明の為に、何度も会議に呼び出されていたので、井上主任は天野会長とは面識が有ったのだ。
 因(ちな)みに、天野会長はこの日の朝一番に、天神ヶ崎高校から本社へと移動して来ていた。その移動に社用機が使われたことは、言う迄(まで)も無い。

「井上主任、こっちへ。」

 赤坂課長が、入り口で一礼している井上主任に声を掛ける。井上主任は指示に従って、赤坂課長の隣の席に着いた。

「そう言えば、昨日は三社の連絡会議だったそうだね。彼方(あちら)側の様子は、どうだった?井上君。」

 そう話し掛けて来たのは、飯田部長である。井上主任は、一息を吸い込んで、答える。

「まぁ、相変わらず、と言った所でしょうか。三ツ橋も JED も、色々と条件を変えてシミュレーションを繰り返しているそうですが、芳(かんば)しい結果は出てない、との報告でした。」

「そうか。それで、今日、この会議に出向いて貰ったのは、Ruby に就いてなのだが。昨日の一件に関して、キミの意見を聞きたいと思ってね。状況だけを見ると、Ruby が茜君を庇(かば)って、所謂(いわゆる)『自己犠牲』的な行動を起こした様に見えるのだが、その辺り、開発責任者としては、どう見る?井上君。」

「そうですね…最終的には Ruby のログやライブラリを分析してみないことには、判断は為兼(しか)ねますが。」

 井上主任の慎重な回答を受けて、大沼部長が発言する。

「仮に…ですが、Ruby の育成が企図したレベルに達したと判断された場合、本社へ引き上げさせますか?会長。」

「それは、どうだろう? 井上君は、どう考えるかね?」

 天野会長の問い掛けに、井上主任は間を置かずに答えた。

「その判断は、拙速であるかと。Ruby はギリギリ迄(まで)、あの子達の側(そば)に置いておくべきです。」

「ほう、それは何故かな?」

 そう訊(き)いて来たのは、飯田部長である。井上主任の答えは、早い。

Ruby が対人関係を築いて来た対象が、あの子達だからです。Ruby が今回見せた反応が『自己犠牲』であると仮定するなら、それは対象があの子達、特に天野さんだったからこそ、ではないかと。 現状でのログの解析結果でも、Ruby が得ている好感度は、兵器開発部の中でも、特に三名に対してのスコアが、ずば抜けて高いので。」

「無理に引き離すと、逆効果になると?」

「はい。又、一から対人関係を構築することになれば、次も Ruby が相手に好感を抱くかどうかは、正直、分かりません。」

 そこで、大沼部長が口を挟(はさ)むのだった。

「しかし、AI に好かれようと気を遣わなければならんと言うのも、難儀な話だな。」

 それは、半分は冗談として口を衝(つ)いて出た言葉だったが、井上主任は冷静な口調で反論する。

「その位(くらい)、繊細で高度な思考能力が、『作戦』の遂行には要求されているんです、部長。それに、今、言われた様な発想が有る時点で、Ruby の、その人に対する好感度は上がりません。残念乍(なが)ら、その様に考える方(かた)が大半で、それが社内で Ruby の育成が進まなかった原因だと、分析しています。」

 その発言に、執(と)り成す様に飯田部長が、声を掛けるのだった。

「まあまあ、井上君。その辺りは、大沼部長も理解してるよ。」

「そうですね。失礼しました。」

 井上主任は、座った儘(まま)で、正面の席に着いている大沼部長に、小さく頭を下げる。その隣では、赤坂課長が苦笑いしてした。
 大沼部長は、微笑んで応える。

「いや、構わんよ。」

 そこで、天野会長が井上主任に尋(たず)ねるのだった。

「所で、井上君。先程の、Ruby の好感度が高い三名と言うのだが。差し支えなければ、名前を挙げて貰えるか。」

「あ、はい。三年で部長の鬼塚さん、二年でソフト担当の城ノ内さん、そして、一年生ですがテスト・ドライバーの天野さん。以上の三名です。」

「何故、その三名なのか? その辺りの分析は…キミの私見でもいい。有れば、聞かせて呉れ。」

「そうですね、ログの解析からの、現段階では私見ですが。三名に共通して、人と分け隔て無く接する態度、と言う要素は有りますが。 その上で、三年生の鬼塚さんは、矢張り、Ruby との接触時間が一番長いので。 二年生の城ノ内さんは、ソフト担当という役割上の関わりも有りますし、わたしのアシスタントとの交流も深い様子なので。 不思議なのは一年生の天野さんですね、彼女は Ruby との接触期間は半年に満たないのに、鬼塚さんに次ぐ好感度のスコアを記録しています。この三名のスコアは社内の誰よりも、わたしよりも数値的には高いスコアを記録しています。」

「ほう、うちの孫娘は、そんなにか。」

 驚いたと言うより、嬉しそうな表情で、天野会長は言った。それに井上主任は、笑顔で答える。

「はい。天野さんの場合は HDG と LMF とがドッキングした際の、思考制御での遣り取りだとか、実際の戦闘の経験を共有しているだとかの要素も考えられますが。でも、それよりも、矢張り、天野さんは Ruby の事を、AI の『疑似人格』だとは思っていないと言いますか、普通の人と同じ様に Ruby と接しているのが、大きな要因ではないかと。」

「それは単に、茜が幼いだけではないのかな? ペットを擬人化している様な。」

「いえ、所有物の擬人化でしたら、もっと『上から目線』的な接し方になると思いますが、少なくとも、Ruby のログからは、Ruby がその様に扱われた、乃至(ないし)は、そう Ruby が受け取った様な記録は有りません。」

「そうか。成る程な。」

 続いて、飯田部長が井上主任に問い掛ける。

「それでは、Ruby を彼女達に預けるのを継続するとして、だ。『作戦』への投入を見据えた場合、Ruby には実戦経験をもっと積んで貰う必要が有るが、これは当初からの計画でもあるが、それはどうする? この儘(まま)、彼女達を実戦に参加させ続ける訳(わけ)にもいくまい。」

「それに就いては、あの子達が既に解決策を見付けて呉れています。」

 そう答えた井上主任に、大沼部長が言うのだった。

「シミュレーターか。」

「はい。」

 井上主任は、頷(うなず)いて答えた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第12話.22)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-22 ****


「取り敢えず、Ruby の終了作業は、正常に完了してる筈(はず)だから、安心して、天野さん。まあ、破損してる可能性も無くはないんだけど。こればっかりは、再起動掛けてみないと、分からないと思うのよね。」

 続いて、維月が発言する。

「最悪、今日一日分の記憶が、飛んじゃってるかもだけど、ライブラリ間の整合性が取れてないと。それも、再起動前にログや中間ファイルをチェックすれば、修正出来る仕様だから。 Ruby の稼働中に突然電源が切れた、みたいな状況でない限りは、復元して再起動は出来る仕掛けは、用意されてるの。」

 そして、再び樹里が説明するのだった。

「唯(ただ)ね、緊急シャットダウンなんて、実際に実行したのは、多分、初めてだから。目論見(もくろみ)通りに機能してるかは、ね、やってみないと。この辺りの事は、本社のラボで、安藤さんや五島さんに、お任せするしかないよね。」

 発言の最後の方は、樹里は維月に向かって、同意を求めたのである。そして維月は、それには頷(うなず)いて応えた。
 そこで、恵が手を挙げ、樹里に尋(たず)ねる。

「そもそも、『緊急シャットダウン』って?」

 その質問に、樹里は直ぐに答える。

「ああ、恵先輩。それは、Ruby も普通の PC とかと基本的には同じで、計算とかの処理をメモリ上に展開して実行して、計算結果を不揮発性の記憶装置に書き込むんですが。計算の途中で終了したら、当然、メモリ上に展開してた状態が消えちゃう訳(わけ)です。 それで、消えちゃマズい計算の途中経過とかを、復帰用ファイルに書き出したり、ライブラリへの計算結果の登録情報なんかの整理するのが、所謂(いわゆる)、終了作業なんですが。 正規の終了作業だと、それに三十分位(ぐらい)掛かっちゃうので、復帰用ファイルへの書き出し方法を変更したりとか、書き出すデータのレベルを最低限に絞ったりして、終了に掛かる時間を一分程に圧縮したのが『緊急シャットダウン』なんです。」

 その説明を受けて、今度は直美が尋(たず)ねる。

「時々やってた『スリープ』とは、違うの? まあ、『スリープ』の処理には五分から十分程度、掛かってたと思うけど。」

「基本的な考え方は同じですよ。徒(ただ)、演算中の状態を書き出す方法とか、内容が違うだけで。『スリープ』の方は安全に稼働を中断する為の配慮が色々されてる分、時間が掛かりますけど。『緊急シャットダウン』の方は、兎に角、早く終了するのが目的なので。 だから或る意味、再起動時の安全への配慮を端折(はしょ)ってる訳(わけ)で、その辺り、『緊急シャットダウン』には危険(リスク)が有る、って事です。」

 樹里の説明を聞き終え、茜が問い掛ける。

「と、言う事は。Ruby は無事だと、思っていいんでしょうか?」

「そうね。大きな損傷(ダメージ)は無いと、思っていいわ。さっき維月ちゃんが言ってたみたいに、最悪の場合、今日、一日分の記憶が無くなってる、それ位の覚悟はしておく必要は有るけど。」

 そこで、維月が私見を加える。

「うん、でも。さっきコンソールの方に返って来てる、ログを見せて貰ったけど。データ・リンクからのログアウトとかまで、きっちり遣り取りしてる記録が残ってるから、ちゃんと終了作業が完了してる筈(はず)よ。 だから、多分、大丈夫。本社の方で、綺麗に復元して、再起動、掛けてくれると思う。 ま、時間は掛かる、とは思うけどね。」

「そうですか。」

 茜は一度、大きく息を吐(は)き、漸(ようや)く、その表情が少し緩(ゆる)むのだった。
 微笑んで、維月が言う。

Ruby も言ってたでしょ。開発の人達が居るから、心配するなって。」

「ああ…マリさんとエリカさん、って。マリさんって、維月さんのお姉さんの事ですよね?」

「そうね、多分。」

 茜に問われて、維月が答えた直後、今度は維月が樹里に尋(たず)ねるのだった。。

「…あれ?エリカって誰?」

「言われてみれば…Ruby からは、初めて聞く名前よね。でも多分、開発スタッフの誰か、でしょう? きっと。」

 そこで、クラウディアが声を上げる。

「エリカって、安藤さんの事でしょう?」

 そう言われて、樹里も思い出したのである。

「ああ、そう言えば。安藤さんの名前、『江利佳』だった。普段、『安藤さん』としか呼ばないから、すっかり忘れてたね、維月ちゃん。」

「そうね~、でも、Ruby が安藤さんを名前で呼ぶのって、珍しいよね。」

 維月に、そう言われても、樹里は、Ruby には安藤を名前で呼ばないように『謎のプロテクト』が掛けられていると言われていた件を、思い出す事が無かった。それは、彼女達の、その事に対する印象が薄かった、と言う事情も有ったのだが、それ以上に、彼女達が、その日の事の成り行きに、実は少なからず動揺していた所為(せい)なのである。

Ruby も、少し動揺していたのかもね。」

 樹里は冗談半分に、そうコメントを維月に返したが、そこで、その話題は終わってしまったのである。
 そして緒美が、茜に声を掛ける。

「取り敢えず、天野さん。装備を降ろして、着替えていらっしゃい。お疲れ様。」

「はい。」

 茜が右のマニピュレータで保持した儘(まま)の荷電粒子ビーム・ランチャーを武装格納コンテナへ戻す為、格納庫の奥へ歩き出すと、ブリジットが声を上げ、駆け寄って行く。

「あ、手伝うわ~茜。」

 一方で、瑠菜が隣に居る、佳奈に言う。

「佳奈、リグの操作、やってあげて。観測機の方は、わたしの方でやっとく。」

「うん、分かった。お願いね、瑠菜リン。」

 佳奈は、そう答えて立ち上がると、HDG 用のメンテナンス・リグへと向かう。そして瑠菜は、緒美に尋(たず)ねるのだった。

「部長、観測機は回収しますけど?」

「ああ、そうね。 お願い、瑠菜さん。」

「了解しました~。」

 瑠菜は二台のコントローラーを交互に、操作を始める。

「それじゃ、こっちも片付け、始めますか~手伝って、クラウディア。いいですよね?鬼塚先輩、こっちのモニターとか片付けちゃっても。」

 維月に訊(き)かれ、緒美は頷(うなず)いて答える。

「お願い、井上さん。」

 すると、直美と恵は、維月達に合流するのだった。

「わたし達も手伝うよ~井上。」

「指示してちょうだいね。」

「ああ、すいません。樹里ちゃんの方で、モニターの終了作業が終わったら、配線とか外して行ってください。」

 格納庫内の作業が『片付けモード』に移行したのを見計らって、天野理事長は緒美と立花先生に、声を掛けるのだった。

「では、我々はそろそろ引き上げるかな。本社や、防衛軍の方(ほう)とも連絡を取らなければならんし。 立花先生、後の事は、宜しく頼むよ。」

「あ、はい、理事長。」

 立花先生が返事をし、天野理事長と秘書の加納が南側大扉の方へ向き直った時、緒美が二人に駆け寄り、呼び止めるのだった。

「あの、理事長。」

「何かね?鬼塚君。」

 立ち止まり、振り向いた天野理事長に、緒美は少し声のトーンを抑え気味に話し掛ける。

「お願いしたい事が有ります、個人的に。その…『会長』に。 後程、少し、お時間を頂けませんでしょうか?」

「後程?ここでは、マズい話かな。」

「そう、ですね。」

「そうか…まあ、いい。理事長室に居るから、此方(こちら)が片付いたら、連絡して呉れ。立花先生も同席してもいいのなら、話を聞こう。」

「分かりました、お願いします。」

 緒美は、小さく頭を下げる。

「うん、それじゃ、また後でな、鬼塚君。 では、行こうか~、加納君。」

 踵(きびす)を返すと、天野理事長と加納は、格納庫の外に止めてある自動車へと向かった。

「緒美ちゃん、どうしたの?」

 緒美の背後から、立花先生が問い掛けて来るので、緒美は振り向いて答えた。

「理事長にお願いしたい事が有るので、後で時間を頂きました。先生も同席してください。」

 そう言われると、立花先生は緒美の傍(そば)まで行き、小声で尋(たず)ねた。

「何?ヤバイ話だったら嫌よ。」

「当面、皆(みんな)には内緒にしておきたいので、詳しい内容は後程。」

 緒美は、そう言うと、ふっと笑うのだった。その表情を見て、立花先生は言った。

「あんまりドキドキさせないでね、緒美ちゃん。寿命が縮んじゃうわ。」

 苦笑いで、そう言った立花先生の表情を見て、緒美はくすりと笑ったのだった。
 そんな遣り取りの後、二人は樹里の操作するコンソールへと向かう。そして緒美が、樹里に声を掛ける。

「城ノ内さん、今日のログ、本社の方へ送れそう?」

「はい、それに就いては問題無く。 所で、部長。さっき天野さんに言ってた、エイリアン・ドローンが逃走した理由って、『当たり』ですかね?」

「さあ、どうかしらね。でも、わざわざ襲撃しに来ておいて、その対象をほっぽって逃走したんだから、それなりの理由は有ったのでしょうね。」

 冗談っぽく答える緒美に、立花先生が問い掛ける。

「又、襲撃して来るかしら?」

 その問いに、緒美は即答する。

「もう、来ないでしょうね。少なくとも、HDG を狙っては。」

「どうしてです? 一度は逃げたけど、結局、又、攻撃して来たじゃないですか。現に、それで LMF は壊されちゃった訳(わけ)ですし。」

 樹里の反論に、微笑んで緒美は答えた。

「それは、こっちが追撃をしたから、向こうは反撃をした迄(まで)の事よ。もう、向こうからは、仕掛けては来ないと思うわ。その辺り、彼方(あちら)側は、物凄く合理的だから。今日だって、結果的にエイリアン・ドローンは、全滅した訳(わけ)だし。」

「HDG との交戦を避けた方が、エイリアン・ドローン側は損害が少ない?」

「そう、判断したでしょうね。 勿論、ここから遠い場所への襲撃は、継続される思うけど。」

「成る程。」

 樹里と立花先生の二人は、緒美の考えに納得したのだった。


 こうして、兵器開発部一同の夏期休暇期間中、帰省前に発生した一件は、収束したのである。
 事後の対外的な折衝や後始末に関しては、天野理事長曰(いわ)く「大人の役割だ」と言う事で、彼女達の帰省の予定は、当初の通りとされた。LMF が損壊し、Ruby の安否も正確には分からない中、「呑気に帰省なんかしていられない」と言う意見も有ったのだが、なればこそ「親元に帰って、気分を変えて来なさい」とは、立花先生の弁である。緒美が茜に言っていた通り、例え学校に残っていたとしても、彼女達に出来る事は『何も無い』のである。

 事後処理として、二日間を掛けて防衛軍の部隊がエイリアン・ドローンの残骸を回収し、同時に進められた天野重工による LMF の回収作業には、三日を要した。
 腕部や脚部が分解され、搬送車へ積み込まれた LMF は、一日掛けて山梨県に所在する試作工場へ運び込まれ、そこで Ruby のコア・ブロックが、LMF の胴体部より分離された。その作業には、更に三日が費やされ、最終的に Ruby のコア・ブロックが、天野重工本社のラボへと搬入されたのは、Ruby が停止した日から九日目となる、8月19日、金曜日だったのである。

 兵器開発部一同の努力と Ruby の犠牲的行動に因って、市街地からは可成り離れた場所でエイリアン・ドローンの進行を食い止める事が出来たのは、不幸中の幸いだったと言えるだろう。結果的に、この一件に因る市民への被害は発生しておらず、又、一般市民や報道関係者が映像等を撮影する機会が皆無だったのも、事後処理を進めるのには好都合だった。
 更に、エイリアン・ドローンが通過したのが、天神ヶ崎高校の敷地内と天野重工が所有する土地の範囲に収まっていたと言う幸運も重なって、全てが天野重工と防衛軍及び、防衛省との合意に基づいて、円滑に処理されたのである。
 最終的な対外発表としては、全てに置いて防衛軍が対処した事になっており、川岸で損壊した LMF に就いては陸上防衛軍所属の試作戦車として、その存在のみが公表された。だが、静止画像や動画等の映像資料は、その一切が非公開とされたのである。「新型、試作兵器の詳細に就いては、諸外国との軍事バランス的な兼ね合いも有り、一切を秘密事項とします。」とは、防衛軍側の公式コメントであるが、これに対し『新型、秘密兵器に関するスクープ』を狙う報道関係者側は、激しく抵抗していた。その一方で、大きな被害が発生した訳(わけ)でもないこの襲撃事件その物に就いては、最終的には地方都市の小規模な襲撃事件の一つとして、程無く、マスコミからは忘れ去られたのである。
 実の所、防衛軍としては『前の襲撃事件の折に、六機のエイリアン・ドローンを見失っていた失態』に就いてマスコミから責められる事の方が、大きな問題となるのを危惧(きぐ)していた。しかし、『新型、試作兵器の詳細は非公表』とした対応への批判報道が過熱して呉れたお陰で、結果的に『そもそもの失態』の方が霞(かす)んでしまったのだ。
 それが偶然なのか、誰かが意図した事なのか。その真相はに関しては、永久に闇の中なのである。

 

- 第12話・了 -

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.21)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-21 ****


「ありがとう、緒美。自律行動を開始します。」

 Ruby が緒美に謝意を述べると、茜の背中にはグイッと、上半身が正面へ向く様に力(ちから)が掛かる。その力(ちから)は、茜には逆らえない程、強い。それは、HDG の背部へスラスター・ユニットを再接続する為に、LMF 側から Ruby が HDG を強制的に正面に向かせているのだと、茜には直ぐに理解出来た。茜は、緒美に訴える。

「部長、HDG を切り離しても、わたし、Ruby に向けてなんて撃てませんよ? Ruby に当たったら、どうするんですか!」

 その問い掛けには、Ruby が答える。

「大丈夫です、茜。HDG の照準補正は正確です。それに、例え間違って射撃が逸(そ)れたとしても、わたしのコア・ブロックに当たりさえしなければ問題はありません。遠慮無く、エイリアン・ドローンを狙撃してください。」

Ruby…。」

 茜の背部には、LMF に格納されていた HDG のスラスター・ユニットが接続され、スラスター・ユニットに組み込まれている四基の小型ジェット・エンジンが順番に起動する。上半身を固定する制御が解除され、茜が自由に動ける様になると、Ruby が告げるのだった。

「それでは、HDG との接続を解除します。LMF が動かなくなったら、出来るだけ早くエイリアン・ドローンを狙撃してくださいね、茜。 わたしの事に就いては、心配は不要です。麻里と江利佳が、必ず再起動させて呉れますから。 あとの事は、お任せします、茜。では、HDG 接続解放。」

 LMF 側の制御で、HDG の背部スラスター・ユニットの出力が上げられていくのが、ジェット・エンジンの回転音で茜には分かった。

Ruby!」

 接続部のロックが解放される小さな震動に続いて、茜の装着するヘッド・ギアのスクリーンには、制御と電源が HDG 側に完全復帰した事が表示された。そして茜は、自身の身体が落下する様な感覚を得る。HDG と LMF が完全に分離したのだ。
 茜は、スラスター・ユニットの最大出力で真上へ上昇して、眼下の LMF の様子を確認した。
 高度が上がるに連れ、段段と小さく見える LMF は、人型に近い『起立モード』へと移行し、正面からの攻撃を続けているトライアングルの一機と対峙している。

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STORY of HDG 12-21A

 LMF は加えられる斬撃をディフェンス・フィールドで弾いた後、右のロボット・アームでトライアングルの左腕を、左のロボット・アームでトライアングルの頭部を掴(つか)み、相手の動きを封じようとしていた。掴(つか)まれたトライアングルは、ジタバタと暴れている。

「プラズマ砲に暴発の恐れが有るので、砲身(バレル)をパージします。」

 データ・リンクは維持されているので、茜達には LMF を制御し続ける Ruby の発する合成音声が聞こえた。そして、Ruby が宣言した通り、左右のプラズマ砲が砲塔の接続部から外れ、落下する。

「プラズマ砲発射用の電力を、キャパシタより解放。」

 次の瞬間、機体表面から地面に向かってスパークが走った。LMF に取り付いてるトライアングルとの間にも火花が散るが、トライアングル達が LMF から離れる事は無い。しかし、尚も攻撃を続けるトライアングルに因って、LMF の頭部の様に見える複合センサー・ユニットや、左側ロボット・アームが切り落とされてしまう。それでも、右のロボット・アームで掴(つか)んだ儘(まま)だったトライアングルの腕を、LMF が離す事は無く、Ruby は淡々と LMF の制御を続行していた。

「LMF 作動停止後の燃料漏洩を防止する為、水素燃料供給ラインの全バルブを閉鎖。GPAI-012(ゼロ・トゥエルブ)、緊急シャットダウン、シークエンスを開始。」

 燃料の供給を自ら遮断した LMF は、間も無く第二メイン・エンジンと APU が停止し、それらに因る発電が不可能になると、LMF は固まった様に動きを止めた。その後も続行される、制御部である Ruby 自身の終了作業は、バッテリーから供給される電力で賄(まかな)われているのだ。そして、全ての制御が終了すると、LMF は膝を折って、垂直に落ちる様に姿勢を崩した。

「わあああああっ!」

 茜は言葉にならない叫び声を上げ、HDG を降下させる。そして遺骸に集(たか)る虫の様に、LMF の機体に群がる三機のトライアングルへと、荷電粒子ビーム・ランチャーの照準を合わせた。続け様(ざま)に、荷電粒子ビームを撃ち込み乍(なが)ら、茜は降下して行った。
 頭部、胸部、そして腹部、尾部へと、荷電粒子ビームを次々に撃ち込まれたトライアングル達は、間も無く動作を停止し、そして沈黙するのだった。
 茜は地上に降りると、静止している LMF へと駆け寄る。

Ruby! Ruby!」

 茜が呼び掛けても、Ruby が返事をする事は無い。
 LMF は西向きに両膝を突き、右腕で前傾した上体を支えている。右のマニピュレータは、正面に居たトライアングルの腕を、掴(つか)んだ儘(まま)だった。トライアングルに切断されてしまった左腕と複合センサー・ユニットが、LMF の足元周辺に落下している。投棄されたプラズマ砲の砲身も、LMF の足元からは少し離れて転がっていたが、右側の砲身は水際(みずぎわ)に落下しており、砲口部を岸側にして基部側は水没していた。
 LMF からは、何の作動音もしない。LMF の、機体の一部に重なる様に擱座(かくざ)している三機のトライアングルも、完全に沈黙していた。
 HDG 自身の作動音と、LMF の向こうに流れる川の水音の他に、聞こえて来る音は無い。LMF から漏れ出した潤滑油の臭いや、電線の焼けた臭いが、微(かす)かに漂うのに、茜は気が付いた。しかし、その臭いも、川面(かわも)に吹いた風が、吹き飛ばしていくのだった。
 茜は、HDG の左側マニピュレータを格納すると、自身の手で LMF の脚部に触れてみる。涙がポロポロと、不意に零(こぼ)れた。だが、茜は、声を上げなかった。
 それから間も無く、複数のヘリが飛ぶ音が、茜の耳に聞こえて来た。それは、次第に近く、低く聞こえて来る。
 茜は音のする方向、東側の空を見上げた。すると、六機の陸上防衛軍所属の攻撃ヘリが、高速で近付いて来ているのが見えたのだ。
 その攻撃ヘリ達は二機ずつの三隊に分かれると、その内の二隊が南北に分かれ、残りの一隊が低空に降り乍(なが)ら接近して来る。その儘(まま)、直進を続けると、茜の頭上を五十メートル程の高さで通過して行った。

「遅いよ。」

 攻撃ヘリの編隊を見送って、ポツリと茜が翻(こぼ)した。視界の先で、攻撃ヘリの一隊は旋回し乍(なが)ら上昇し、先程分かれた二隊と合流している様子だった。
 そこへ、緒美からの指示が入る。

「天野さん、防衛軍が到着したみたいだから、あなたは戻って。現場の保全は、防衛軍に任せましょう。防衛軍の回収隊が到着する迄(まで)は、警察とかが先に来ると思うけど。」

Ruby はこの儘(まま)に、ですか?」

「わたし達には、どうにも出来ないでしょう? 今、理事長が本社の方(ほう)へ、LMF と Ruby の回収を手配をしてるけど。取り敢えず、天野さんは学校に戻って来てちょうだい。」

「分かりました、今から戻ります。」

 茜は、そう答えると、もう一度、LMF の脚部に左手の指先で触れてから、LMF の方を向いた儘(まま)で、後ろ向きに無言で五歩、離れるのだった。そして、背部のスラスター・ユニットの出力を上げると、両脚で地面を蹴って直上へジャンプする。茜は高度を上げ、学校へと向かったのだ。
 学校へと飛行する途中、茜の視界、左側に先程の攻撃ヘリの編隊が見える。その内の二機が、茜の HDG の方へ進路を変えたのに、彼女は気が付いた。
 茜は、緒美に報告する。

「部長、防衛軍の攻撃ヘリが、わたしを追って来てるみたいです。」

 第三格納庫内部では、その報告を受けた緒美が、視線を天野理事長へと向ける。茜からの通信は、相変わらず樹里のコンソールから音声が出力されていたので、当然、天野理事長にも聞こえていた。天野理事長は、緒美に言うのだった。

「防衛軍の上の方(ほう)とは、話は付いてる。心配はしなくても、いいと思うよ。」

 緒美は、それを茜に伝える。

「天野さん、理事長が心配無いって言ってるわ。その儘(まま)、真っ直ぐ返って来て。」

「分かりました。」

 茜の返事が聞こえると、防衛軍の動向を監視していたクラウディアが声を上げる。

「今、ヘリのパイロットが、司令部に確認してるみたいですね。」

「そんな事まで分かるの?」

 クラウディアの傍(そば)で様子を見ていた維月が、問い掛ける。

「防衛軍の指揮ネットワークに、情報が上がって来ればね。まぁ、大概の情報はここに集まって来るけど。」

「指揮ネット…って、暗号化とかされてないのかしら?」

 クラウディアの回答に、呆(あき)れた様にコメントする維月である。クラウディアは、微笑んで言葉を返す。

「暗号化? してない訳(わけ)、無いでしょ。普通の人には見られないわ、こんなの。わたしが見られてるのは、暗号を解読したからに決まってるじゃない。」

「それ、自慢にはならないからね、クラウディア。」

 溜息混じりに維月が言うと、クラウディアは唇を尖らせて応えるのだった。そして、次に上がってきた情報を読み上げる。

「部長さん、司令部からヘリの方(ほう)へ指示が。『当該機は、天野重工が開発中の試作機。追跡の必要は無し、周囲の警戒に当たれ』だ、そうです。 あと、接近中だった空防の戦闘機隊には、先程、引き返すように指示が出ました。」

 緒美は視線をクラウディアの方へ向けると、微笑んで応えた。

「ありがとう、カルテッリエリさん。もうそろそろ、防衛軍の状況監視は終わっていいわ。足が付かない内に、ログアウトしておいてね。」

「わかりました~。」

 クラウディアが、モバイル PC の終了作業を始める一方で、緒美は茜に呼び掛ける。

「天野さん、追跡して来てるヘリには、司令部から追跡の必要なしって、指示が出たらしいわ。」

「それ、クラウディアからの情報ですか?…あ、確かに。引き返して行くみたいです。」

 その茜からの報告を受け、緒美は格納庫の外の空に目を遣る。現場の上空を飛行する攻撃ヘリの動きには、注意を払っていなかった緒美だったが、それから間も無く、茜の、HDG の姿を目視で確認したのだった。

「天野さん、あなたの姿が目視出来たわ。」

 緒美の、その発言を聞いて、その場に居た殆(ほとん)どのメンバーが、格納庫の外へ視線を向けた。
 茜は、滑走路の路面に対して十メートル程の高度で南側から飛来すると、滑走路上空を横切って、第三格納庫大扉の前に降り立った。そして、格納庫の中へと、歩いて入って来る。

「茜!お帰り。」

 真っ先に、ブリジットが立ち上がって声を掛けた。茜はブリジットに視線を送って、力(ちから)無く笑うと緒美達の五メートル程度前で立ち止まり、天野理事長の方へ向き直って、深々と頭を下げ、言うのだった。

「申し訳有りませんでした。Ruby と LMF を、失ってしまいました。」

 天野理事長が複雑そうな表情で溜息を吐(つ)くと、彼が口を開く前に、緒美が声を上げる。

「あなたの所為(せい)じゃないわ、天野さん。今回の損失は、わたしの判断ミスが原因です。天野さん、あなたは良くやって呉れたわ、ご苦労様。」

 緒美の発言を聞いて苦笑いし、天野理事長が口を開くのだった。

「一人で六機もエイリアン・ドローンを撃破しておいて、何を言ってるんだかな、二人揃(そろ)って。鬼塚君、天野君も、胸を張り給(たま)え。」

 そして、視線を緒美へと移し、天野理事長は尋(たず)ねる。

「参考までに、鬼塚君? キミはどこで判断ミスをしたと、思うのかね?」

 緒美は落ち着いた表情を崩さず、直ぐに答えた。

「はい。逃走したトライングルの追撃を、指示した時点です。あの時点で、HDG と LMF を分離させるべきでした。山を下って行くのに、木立等の障害物が有る事で、移動に制限が掛かる状態のトライアングルを、上空から HDG に攻撃させた方が効果的だったかと。その間に、LMF を自律行動で川向こうへ移動させて、撃ち漏らしの対処とするべきでした。」

「成る程な。しかし、それは今回の経験から得た、キミなりの解決策だ。であれば、経験をするより以前の時点で、その解決策を思い付ける筈(はず)は無い。つまり、それはキミのミスでは無く、その時点での必然だ。だから判断ミスを悔やむ必要は無い。但し、今回の経験と、そこから得た教訓は、今後も大切にしなさい、いいかな?鬼塚君。」

「はい。」

 緒美が返事をすると、一度、頷(うなず)いて、天野理事長は視線を茜に向ける。

「天野君は、先程、Ruby を失ったと言ったが…。」

 そこで視線を樹里の方へ切り替え、天野理事長は尋(たず)ねるのだった。

「城ノ内君、キミは Ruby が失われたと思うかね? 意見を聞かせて呉れ。」

「はい…。」

 樹里は何時(いつ)もの笑顔で、話し始める。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第12話.20)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-20 ****


 一方、坂道を下って行く、茜の状況である。
 天神ヶ崎高校へと繋(つな)がる、その坂道は、片側一車線の対面通行で、道幅が六メートル程度の、中央分離帯の無い一般道である。それは学校の設立に併せて整備された市道で、基本的に生徒達の通学や職員達の通勤、学校への各種資材の運搬等、学校関係者のみが利用していた。舗装や街路灯等、各種設備の程度は良好に維持されているが、山道であるが故(ゆえ)にカーブが多く、更に一方の路側帯の外側は崖や急勾配の斜面になっている箇所が数多く在り、通行には注意が必要とされるのである。勿論、要所毎(ごと)に、転落防止の為のガードレールは設置されていた。
 そんな坂道を、LMF は滑る様に下っていたのだ。『滑る様に』、そう、正(まさ)に LMF のホバー走行で坂道を下って行くのは、『凍結した坂道を、滑り落ちて行く様な感覚』なのである。
 茜は、この坂道を自転車で下った経験は幾度も有ったが、タイヤの転がる抵抗感や、ブレーキを掛けた時のグリップ感、そう言った諸諸(もろもろ)の感覚が、スピードに対する安心感をもたらしていた。しかし、路面から浮上して走行するホバー走行の場合、それらの安心を得る為の材料が皆無(かいむ)なのだ。実際には推進エンジンで大した加速をしていなくても、自重だけで際限なく加速して行く事に、茜は恐怖感を覚えずには居られなかったのである。
 そんな LMF に設けられている減速方法であるが、機体後部側面に装備されている大型のディフェンス・フィールド・ジェネレーターを展開する事で、それがエア・ブレーキとして機能する。しかしこれは、時速 80km 以下では大した減速効果が得られない。もう一つの減速方法としては、推進エンジンの二次元ノズル、その上下のパドルを閉鎖して逆噴射を行うと言う手段が有る。しかし逆噴射には、高熱排気の一部が機体に当たってしまう事で、機体側にダメージを与える恐れが有り、その使用は緊急時に限られていた。そうでない場合の逆噴射の運用には、連続運転時間に一分程度迄(まで)との制限が設けられていて、小刻みで有っても頻繁に使用する訳(わけ)にはいかないのだ。
 そんな都合で、Ruby は滑走速度を抑える為に、ホバー・ユニット前後の接地ブロックを降ろした儘(まま)の、着陸モードで走行を行い、ホバー・ユニットの出力を調節し乍(なが)ら、時折、接地ブロックを路面に接触させて、減速を行っていた。接地ブロックが路面に接触する度(たび)に、ブロックから火花が飛んだり、アスファルトと金属の擦(こす)れる「ガーッ」と言う騒音や振動が発生し、茜に取っては、お世辞にも快適と言える状況ではなかったのである。
 そうやって、幾つものカーブを曲がりつつ麓(ふもと)まで、残り三分の一程度の辺りへ降りて来た頃、茜のヘッド・ギアに、緒美からの連絡が入る。

「天野さん、もう直ぐ、トライアングルの進路と交錯するわ、気を付けて。」

 その時、茜は山腹の斜面を、西向きに下る道路上を走行中だった。右手側が山側の法面(のりめん)で、左側は崖状の斜面になってるが、其方(そちら)にも背の高い樹木が、立ち並んでいる。

「分かりました。」

 茜が、そう答えた、その瞬間。右側の法面(のりめん)上の木立の間から、トライアングルが一機、二機と、道路上に飛び出して来る。トライアングル達は、LMF を無視するかの様に、立ち止まる事無く左側の木立の間へと突入して行く。飛び出して来たトライアングルがへし折った複数の木の枝が宙を舞い、茜の方へと飛来するが、勿論、大きな枝はディフェンス・フィールドに因って弾き飛ばされ、木の葉や小枝と共に茜の後方へと流れ去った。LMF が通過した後方にも、あと二機のトライアングルが道路を横切り、麓(ふもと)を目指して木立の中へ入って行くのが分かった。

「部長、今、トライアングルの集団と交差しました。此方(こちら)、被害はありません。」

「オーケー、その儘(まま)、進んでちょうだい、天野さん。トライアングルの動きは、観測機で追ってるから。兎に角、橋を渡って川向こうへ。そこを、防衛線に設定します。」

 緒美の説明に、茜が聞き返す。

「川を、ですか?」

「そうよ。理由は解らないけど、エイリアン・ドローンは水に近付くのを嫌がるわ。だから、陸上を移動しているなら、川を渡るのは躊躇(ちゅうちょ)する筈(はず)。そこで時間稼ぎが出来るし、川を越える為に、もしも飛び上がって呉れれば、その方が撃ち落とし易いでしょ。」

「成る程。 所で部長、トライアングル達、どうして急に逃走したんでしょう?数では向こうの方が、優位だったのに。」

 LMF の走行制御は Ruby に任せているので、茜は先程から気になっていた事を、緒美に訊(き)いてみた。緒美は何時(いつ)も通りの答えのあと、その理由を推測するのだった。

「エイリアンの考えてる事なんて、解らないけわ。でも、そうね、HDG や LMF の脅威度判定が襲撃の理由でだったのなら、その必要が無くなったって事でしょうね。」

「データの収集や、分析が終わった、と?」

「そうとは限らないけど。例えば、HDG が一機だけなのに、気が付いたのかも知れないわね。」

「成る程、そう言う事ですか。」

 緒美の説明に、すんなりと茜は納得したのだったが、その遣り取りを聞いていた、格納庫に残っている他の部員達は、そうでもなかったのである。例えば、恵は「どう言う事です?」と、立花先生に尋(たず)ねた。それに対して立花先生は、微笑んで答える。

「HDG が脅威だとしても、一機だけなら相手をしなければいいのよ。」

 その答えを聞いて、直美が言う。

「そうか、確かに。わざわざ HDG の相手をして味方の消耗を増やす位(くらい)なら、無視した方が合理的って事ですか。」

「ああ、成る程。HDG の数が一機や二機なら、確かにその通りだわ。」

 続いて、恵も納得したのである。

 それから暫(しばら)くして、LMF は坂道を下り切り、橋を渡って川沿いの土手になっている道路に入り東向きに少し走って、緒美の指示で停止した。

「その辺りで待機して、天野さん。そろそろ、トライアングル達が出て来るわ。」

「分かりました、待機します。」

 茜は LMF の向きを、道路に対して斜めに、自身が川の方向へ向く様に変える。
 目の前に流れている川は、それ程、大きな河川ではない。ここ数日、晴天が続いていた所為(せい)も有って、水量は多くなく、川幅は五メートル程だろうか。水深は最大でも、一メートルも無いだろう。夏草の茂った河原の幅は、両岸に五メートル程度が在り、川幅を合わせて対岸迄(まで)の距離は凡(およ)そ十五メートルである。因(ちな)みに、LMF が現在停止している土手の高さは、川面(かわも)から概(おおむ)ね四メートルだった。
 茜から見える対岸に道路は無く、山の裾野がその儘(まま)河原へと繋(つな)がっており、背の高い樹木が夏草の向こうに立っている。その木々が、不規則に揺れ始めると、茜はヘッド・ギアのスクリーンに熱分布画像(サーモグラフィ)を重ねて表示させた。スクリーンには、木立を縫う様に進んで来るトライアングルの姿が、浮かび上がるのだ。
 茜は荷電粒子ビーム・ランチャーを構え、照準を合わせると、二発、荷電粒子ビームを撃ち込んだ。その直後、ビームを撃ち込んだ場所、その周囲の木木が激しく揺れ、木立を薙(な)ぎ倒す様な勢いで、三機のトライアングルが飛び出し来る。

「あと三機!」

 咄嗟(とっさ)に、茜は射撃した一機を仕留めた事を確信し、次の目標に照準を定めようとするが、木立を抜け出たトライアングル達は、河原に茂った背の高い夏草を掻き分ける様に、ジグザグに突き進んで来る。その勢いには、水辺を回避する様な、躊躇(ちゅうちょ)する気配は感じられなかった。
 そこへ、緒美からの指示が入る。

「天野さん、足を止めているとマズいわ!直ぐに動いて。」

「えっ!?」

 前方からはトライアングルが三機、猛然と水飛沫(みずしぶき)を上げ、川を渡って来ている。そして、その内の正面に居た一機がジャンプして、茜に向かって飛び掛かって来たのだ。
 茜はランチャーの銃口を向けようとしたが、それよりもトライアングルの斬撃の方が素早かった。目の前に、ディフェンス・フィールドの青白いエフェクト光が発生し、衝撃音と共にトライアングルの振り下ろしたブレードを弾き返した。

Ruby、ホバー起動!」

「ハイ、ホバー・ユニット起動します。」

 Ruby の返事が聞こえるのとほぼ同時に、機体に発生した鋭い衝撃と震動が伝わって来る。茜の視界の左下側では、爆発的なスパークが発生していた。そして右側のホバー・ユニットが起動すると、唐突に左へと機体が傾き始める。

「左側ホバー・ユニットが破損。バランスを回復します。」

 傾いた機体が左回りに信地旋回を始めるので、右側のホバー・ユニットが緊急停止させられたが、その時には右側の接地ブロックが道路の路肩から既に外れており、今度は右へと傾いた LMF は、土手の斜面を河原へと滑り落ちるのだった。
 茜は滑り落ち乍(なが)らも、そこにトライアングルの存在を確認して、状況を理解した。ジャンプした一機に気を取られている内に、川を渡って来た内の一機に、道路の下側から左側のホバー・ユニットを攻撃されたのだ。
 実は、ディフェンス・フィールドには、大きな穴が存在する。それは、地面に対してフィールドの効果が発生しないように、半球のドーム状にフィールドが形成されている事に起因するのだ。
 HDG の場合、跳躍したり空中機動をする際には、全周をカバー出来る球状にフィールドが形成されているのだが、地上を走行するのみである LMF の場合、地表面より下をフィールドでカバーする必要が無い。つまり、常に半球状のフィールドが維持されるので、今回の様に高い場所に停止していると、フィールドの下を潜(くぐ)って、その内側へ入られてしまうのである。

Ruby、中間モードへ。格闘戦で、何とか撃退するわよ。」

「ハイ、中間モードへ移行します。」

 腕部と脚部を展開し、斜めになっていた機体を起こして、LMF は格闘戦を準備する。ホバーは使えなくても、脚部を駆動させて歩行や走行により移動する事は可能なので、まだ絶体絶命と言う状況ではない。しかし、先日まで繰り返していたシミュレーションでは、ホバー走行が可能なのが前提条件だったので、格段に移動能力が落ちた現状で、三機のトライアングルの相手をするのは、矢張り、可成りの不利な状況と言える。
 しかも、南北方向には川と土手に挟(はさ)まれて、移動出来るのは狭い河川敷内の東西方向に限られ、間合いの調節が困難である事に、茜は頭を悩ませていた。
 この儘(まま)、時間を稼いでいれば、防衛軍の到着を期待出来たが、その一方で、移動力の低い現状の LMF では、その対地攻撃に巻き込まれてしまう危険性も高く、兎に角、状況の打開には、一機ずつ相手の数を減らしていくより、他は無いと思われた。
 トライアングルは二機が交代で、LMF の正面から連続して斬撃を加えて来るが、それはディフェンス・フィールドに因って防御が可能だった。その間、残ったもう一機が LMF の後方に回り、じりじりと近付いて来る。勿論、それは Ruby に因って検知されるので、茜は LMF を振り向かせて牽制するのだった。
 茜の側から、シールド先端のブレードでの斬撃を仕掛けてみるも、相手の動きは素早く、矢張り、ホバーの使えない LMF では、有利な位置取りからの攻撃は加えられそうになかった。これは、先日迄(まで)のシミュレーションで、ロボット・アームの動作に着目し過ぎ、移動はホバー機動を前提にしていた、その弊害でもあった。Ruby には、LMF の脚を使った、戦闘での足運びの経験が、不足していたのだ。
 お互いに決定打に欠ける攻防が、幾度となく繰り返され、何度目の攻撃かも分からなくなったトライアングルの斬撃を、LMF が躱(かわ)した時だった。LMF の右脚を降ろした水際(みずぎわ)の地面が崩れ、川へと崩れ落ちたのだ。LMF の機体が右へと傾き、茜と Ruby が体勢を立て直そうとしている間に、トライアングルが一機、左後方から、するりと近付いて来る。
 Ruby が、警告を発した。

「茜。左後方より、ディフェンス・フィールドの内側に入られます。」

 接近する相手が、衝突する様なスピードでなければ、ディフェンス・フィールドは反応しない。その事に、トライアングルや、それをコントロールしているであろうエイリアン達が気付いたのかは分からないが、偶然であれ、その事態は起きてしまったのだ。
 茜は LMF を左へ旋回させるイメージを思い描くが、泥濘(ぬかるみ)に脚を取られている LMF は、思い通りに反応しない。次に、茜自信の上半身を捻(ひね)って、右側マニピュレータに保持しているランチャーを、左後方へ向けようとするが、LMF の機体が邪魔で射線が確保出来ない。それから間も無く、機体後方から振動が伝わって来る。トライアングルに、取り付かれたのだ。
 LMF は漸(ようや)く水際(みずぎわ)の川底から右脚を引き上げると、取り付いた一機のトライアングルを振り落とそうと、走り出してみたり、機体を揺らしてみたりと、様様(さまざま)に動いたのだが、トライアングルは離れなかった。その間、トライアングルは左腕で LMF の機体をホールドし、右腕のブレードを振り下ろすのを繰り返していた。
 「ガン、ガン」と、トライアングルのブレードが装甲に打ち付けられる音が不規則に響く中、もう一機のトライアングルは、執拗に正面からの斬撃を繰り返して来る。それはディフェンス・フィールドに因って阻まれるのだが、それが更にもう一機のトライアングルが LMF の後方から接近する為の、陽動である事は明らかだった。それが分かっていても、一機のトライアングルを引き摺(ず)り乍(なが)らでは、機体の制御は思うに任せず、遂に、右後方からもトライアングルに取り付かれてしまうのだった。
 左右から LMF の機体後部に繰り返し斬撃を受け続ける内、左側の第一エンジンにダメージが発生する。それにより起こされた、小さな爆発が振動として、茜には伝わった。Ruby が状況と、その対処に就いて、続けて報告をする。

「第一メイン・エンジンが損傷。第一メイン・エンジンへの、燃料供給を遮断します。第一メイン・エンジンの停止により、電力が低下しますが、バッテリーにて三十分程度の補助が可能です。APU を起動、電力を確保します。」

 茜は、Ruby の報告を聞き乍(なが)ら、状況を打開する方策を考えていたのだが、妙案は思い付かない。兎に角、目の前の一機を、一機ずつ片付けていくしかない、そう思った時、Ruby が茜に提案を、するのである。

「茜、これより、HDG を切り離します。自律行動で LMF の終了処理した後、わたしが緊急シャットダウンしたら、上空からエイリアン・ドローンを狙撃して処理してください。」

「何を言ってるの!Ruby。」

 驚いて声を返す茜だったが、Ruby は意に介する様子は無い。

「緒美、自律行動の承認を、お願いします。」

「ダメです、部長!わたしが、何とかしますから。」

 Ruby に続いて、茜も緒美に呼び掛けるのだった。そして、それ迄(まで)、暫(しばら)くの間、指示を伝えて来ていなかった、緒美の声が聞こえる。

Ruby、自律行動を承認します。」

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第12話.19)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-19 ****


「瑠菜さん、古寺さん、トライアングルを追って。」

 緒美は、モニターの前へと移動し乍(なが)ら、瑠菜と佳奈に指示を出す。天野理事長と秘書の加納も、モニターの方へと移動し、俯瞰(ふかん)で映される山腹の木木の様子に目を凝らした。トライアングルが山腹を降りて行くのが、樹木の揺れで見て取れる。
 間を置かず茜の声が、樹里のコンソールから聞こえて来た。

「部長、わたしもトライアングルを追います。」

 緒美は咄嗟(とっさ)に、隣に居た立花先生の方へ視線を向ける。すると、激しく首を横に振って、立花先生は言うのだった。

「ダメよ、エイリアン・ドローンが逃げたのなら、追って迄(まで)、戦う必要は無いわ、緒美ちゃん。」

 一呼吸して、緒美は茜に伝える。

「ちょっと待って、天野さん。立花先生は、追うなって言ってるけど。」

「部長も、それに同意されるんですか?」

 透(す)かさず返って来る茜の問いに、緒美は少し間を置いてから答えた。

「わたしは、どちらとも言えないわ。先生の意見も解るの。HDG や LMF が、向こうの襲撃対象から外れたのなら、天野さんが、これ以上、対応する必要は、確かに無いもの。」

 それには、少し強い口調で、茜が反論して来る。

「何、言ってるんですか。この儘(まま)、放置してたら、街の方へ行っちゃいますよ。防衛軍は、まだ来ないんでしょう?」

 樹里のコンソールから聞こえる茜の声に続いて、クラウディアが声を上げる。

「部長さん、今、防衛軍に出動命令が出ました。陸防の攻撃ヘリ部隊と、空防の戦闘機部隊、両方ですね。」

「ありがとう、カルテッリエリさん。続報が有ったら、教えて。」

 クラウディアに一言を返して、緒美は背筋を伸ばし、滑走路上に姿が見える LMF に向いて、茜に話し掛ける。

「今、防衛軍が動き出したらしいわ。陸防の戦闘ヘリ部隊と、空防の戦闘機隊だそうよ。徒(ただ)、今からって事になると、どこから来るにしても到着には二、三十分は掛かるかしらね。」

「そんなに待ってられません、トライアングルが街まで行っちゃうじゃないですか。街の方には、普通科の子とか、先生達も住んでるんですよ。」

「それは解ってるけど、関係のある人をって言ってたら、それこそ限(きり)が無いのよ。学校、市、県、国、みんな繋(つな)がってるんだから。だから、どこかで、線を引かないと。」

「そんな理屈で、被害や犠牲者が出たら、どう責任を取るんですか?」

「責任? そんな責任は、貴方(あなた)も、わたし達も、学校も会社も、そもそも負ってないのよ。貴方(あなた)は貴方(あなた)自身を守る以外の理由で、戦う必要なんて無いの。少し、落ち着いて、天野さん。」

「わたしは冷静です。部長は、それでいいんですか? この儘(まま)、放って置いたら、防衛軍が市街地への対地攻撃を始めちゃいます。わたし達には、まだ、出来る事が有るんですよ?」

「解ってる。だから、わたしには判断、出来ないのよ。わたしが天野さんの立場なら、貴方(あなた)と同じ判断をするけど、でも、それを下級生に指示する事は出来ないの。ごめんなさいね、天野さん。」

「もう、いいです。でしたら、勝手にさせて貰いますから。Ruby、ホバー起動、トライアングルを追うわ。」

 続いて、茜と緒美達に聞こえて来たのは、Ruby の意外な返事だった。

「申し訳ありませんが、茜。LMF の稼働には、智子か緒美の了承が必要です。現状では、どちらの了承も得られていないと判断されますので、LMF 稼働の指示は実行出来ません。」

「だったら、HDG とのドッキングを解除して、Ruby。」

「HDG とのドッキングを解除しても、宜しいですか?緒美。」

 茜の指示実行に就いての可否を、Ruby は緒美に尋(たず)ねるのだが、緒美は直ぐに答える事は出来ずに居た。右手の人差し指を眉間に当て、目を閉じて、緒美は何かを考えている。そんな彼女に、周囲に居たメンバー達は、誰も声を掛けられなかった。
 そんな様子を見兼ねてか、天野理事長が緒美の右横へと進み出ると、左手を緒美の肩に置いて尋(たず)ねるのだ。

「この儘(まま)、茜に LMF を使わせるとして、何か、考えは有るかね?鬼塚君。」

 緒美は目を開くと、前を向いた儘(まま)、ヘッド・セットのマイク部を指で塞(ふさ)いで、天野理事長に聞き返す。

「宜しいんですか?お孫さんの安全を、保証は出来ませんよ。」

「構わない…とは言わないが、被害が広がるのを看過するのも忍びない。そうなって悔やむのは、あの子だろうしな。」

 緒美が苦笑いで顔を向けると、天野理事長も同じ様な苦笑いを返すのだった。

「LMF を外へ出すとしたら、資材搬入門から、かな?」

 真面目な顔で問い掛ける天野理事長に、緒美も神妙な顔付きで答える。

「そうですね。」

「解った、あとの指揮は任せるよ。」

 天野理事長は一度、緒美の肩を軽く叩くと、振り向いて加納に指示を告げる。

「加納君、済まんが一っ走り、搬入門を開けに行って呉れないか。」

「承知しました。」

 そう答えると加納は、格納庫の外に止めてあった自動車へと走る。大型車輌を通す為には、鋼鉄製門扉を開けておかなければならないのだ。その門扉は高さが二メートル程も有り、LMF でも、乗り越えるのには手間取りそうな代物だったのである。

「理事長…。」

 立花先生が心配そうに声を掛けると、天野理事長は右の掌(てのひら)を見せて言葉を遮(さえぎ)る。

「いいんだ、言わなくてもいいよ。立花君。」

 一方で、深く一呼吸してから、緒美は茜と Ruby に呼び掛ける。

「天野さん、Ruby、理事長が許可して呉れたわ。エイリアン・ドローンを追撃して。」

 茜の返事は、直ぐに返って来る。

「分かりました。Ruby、ホバー起動。」

「ハイ、ホバー・ユニット起動します。」

「それで部長、何か作戦は?」

「有るわよ。先(ま)ず、資材搬入門から外に出て。さっき、加納さんが搬入門を開けに、先回りして呉れたから。道路に出たら、その儘(まま)、道を下って行ってちょうだい。坂を下り切った所に、川が有るでしょう? トライアングルよりも先に、橋を渡って向こう側、土手の上の、広い道で待機して。取り敢えず、出発して、天野さん。」

「分かりました、行きます。」

 LMF は東側の資材搬入門へ向かって、移動を開始する。
 その時、緒美は、自分の方をじっと見詰めている、立花先生の視線に気が付いた。

「何か?立花先生。」

 緒美は、真面目な顔で立花先生に尋(たず)ねた。すると、立花先生は首を横に振って「いいえ。」とだけ、答えた。
 それには恵が、微笑んでコメントするのである。

「そのお顔は、『道路交通法違反』って仰(おっしゃ)りたいお顔ですよね?」

 立花先生は苦笑いして、恵に言葉を返す。

「言ってないでしょー、そんな事。」

 それに続いて、直美が言う。

「あはは、立花先生はホント、真面目だな~。」

「だから、何も言ってないでしょ、もう。」

 立花先生は溜息を一度、吐(つ)き、モニターの方へ視線を移した。それから間も無く、茜からの報告が聞こえる。

「部長、今、資材搬入門を出ました。これから道路を下って行きます。トライアングルの現在位置は?」

「今、半分位(くらい)まで降りて行ってるわ。障害物が多いから、時間が掛かってる。道路を通っている、天野さん達の方が速い筈(はず)よ。」

「又、飛び上がったら?そっちの方が速い筈(はず)ですよね?」

「大丈夫よ、今、飛び上がったら、LMF に狙い撃ちされると警戒してる筈(はず)だから、エイリアン・ドローン側は。」

「でも、さっきは飛ぼうとしましたよ?」

「だから、よ。多分、あれは囮(おより)ね、他の四機を逃がす為の。勿論、あの一機を打ち落とせてなかったら、残りの四機も飛び上がっていたでしょうけど。あの一機を打ち落としたから、当面、トライアングルは飛び上がらない筈(はず)よ。だから、咄嗟(とっさ)にアレを打ち落とした判断は Good job よ、天野さんと Ruby。」

「それは、どう…も…わっ、………わぁ~~~~~。」

 突然、コンソールから聞こえる茜の声が、悲鳴の様な絶叫に変わる。

「…RubyRuby、スピード、スピード…。」

「更に加速しますか?茜。」

「違う!ブレーキ、ブレーキ~~~~。」

 コンソールから聞こえて来る茜の声に、一同が顔を見合わせるのだが、絶叫が落ち着いた頃に、緒美が尋(たず)ねるのだった。

「どうしたの?大丈夫?天野さん。」

 少し荒い息遣いと共に、茜の返事が聞こえる。

「すいません、ちょっとスピードが…ホバーで坂道を下るのは、結構、怖いですね。道幅もギリギリだし、これで対向車が来たら…。」

「そうね…Ruby、道路から飛び出さないよう、スピードには気を付けてね。それから、天野さん、対向車が来てないかは、観測機で確認させるわ。」

 緒美は、佳奈の方へ向いて指示を出す。

「古寺さん、一機、観測機を LMF の方へ。坂を登って来る対向車が来てないか、確認してちょうだい。」

「分かりました~B号機を、坂道へ向かわせま~す。」

 その一方で、茜からの報告である。

「取り敢えず、再出発します。行きましょう、Ruby。」

「ハイ、茜。ホバー・ユニット起動します。スピードは時速、50km程度を上限に設定しましょうか?」

「お願い。そうして呉れると、助かる。」

 そんな茜と Ruby の遣り取りに対し、緒美が言うのだった。

「兎に角、気を付けてね。因(ちな)みに、その坂道の制限速度、標識は時速 40km だったと思ったけど。」

「そうですか。無免許運転なんて、やるものじゃないですね。」

「まぁ、緊急時だから。勘弁して貰いましょう。」

 そんな会話の中で、モニターを監視していたブリジットが、何かを思い出した様に「あ。」と、小さな声を上げた。それに反応して、直美が尋(たず)ねる。

「何よ?ブリジット。」

「ああ~いえ。そう言えば茜、絶叫系のライドは、苦手だったなぁ、と。」

「え?エイリアン・ドローンと斬り合って、悲鳴一つ上げないのに?」

 半(なか)ば呆(あき)れた様に、そう言った直美に対し、恵が微笑んで言うのだった。

「それと、これとは、話が違うんでしょう?」

「ですね。」

 ブリジットは頷(うなず)く。それには、直美は納得が行かない様子で、「そう言うものかしら?」と呟(つぶや)くのだった。
 その時、その場に居た幾人かの携帯端末から、『避難指示発令』を知らせる緊急メッセージの着信音が鳴り始める。直美は携帯端末を取り出し、画面を確認してから言ったのである。

「今頃?」

 天神ヶ崎高校の校内で避難指示の放送がされたのは、茜がエイリアン・ドローンの最初の一機を仕留めた、その少し前である。その時点で、既に自治体行政、要するに市役所は、校長から状況の連絡を受けていた筈(はず)で、結局、市当局は防衛軍が出動したとの連絡を受ける迄(まで)、避難指示の発令を見合わせていたのだ。これには、避難用の施設が十分でない、と言う事情も有るのだが、それは又、別の話である。
 もし、天野理事長が防衛軍への働き掛けをしていなかったら、県からの要請が有るまで防衛軍の出動は無く、避難指示の発令は更に遅れていたか、或いは無かったであろう。それは、市街地での被害が発生し、その確認がされ、それから防衛軍の出動を県に要請し、然(しか)る後(のち)、避難指示の発令、と言う流れが予想されるからである。それ位、この地域の行政当局は、エイリアン・ドローンの襲撃に対する危機意識が希薄だったのだ。
 但しこれは、この地域特有の問題ではない。エイリアン・ドローンの襲撃を受けた経験の無い地方都市には、程度の差は有れ、これが概(おおむ)ね共通した傾向なのである。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第12話.18)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-18 ****


「あと、手の空いてる人は、モニターを監視して。何か気が付いた事が有ったら、遠慮無く言ってね。」

 緒美の指示に従い、恵と直美、そしてブリジットと立花先生が、観測機が撮影している状況を映しているモニターの前へと進む。モニターには、滑走路を往復する様に移動する高機動モードの LMF と、それに繰り返し攻撃を加えるトライアングルの姿が映されていた。

「副部長、『アイロン』にオプションのガン・ポッドを付けて、茜の援護に出る訳(わけ)にはいきませんか?」

 ブリジットが、悔し気(げ)に、直美に提案すると、直美は即答する。

「ダメ。 気持ちは分かるけど、流石にそれは無茶よ。」

 続いて、立花先生もブリジットに言うのだった。

「大体、軸線の調整も、射撃訓練もしてないのに、役に立つ訳(わけ)ないでしょ。却って、天野さんの足を引っ張るのがオチよ。ここは堪(こら)えなさい。」

 そして、恵が気休めを言うのである。

「取り敢えず、ディフェンス・フィールドが有効に働いているみたいだし。防衛軍が来る迄(まで)、十分(じゅうぶん)、時間は稼げるんじゃないかしら。」

 確かに、トライアングルが仕掛ける斬撃は、その全てがディフェンス・フィールドの効果に因って、青白い閃光に弾き返されていた。トライアングル達は、LMF の三メートル圏内に近付く事すら不可能な状況である。

「井上君、ちょっといいかい?」

 少し離れた場所で防衛省と連絡を取っていた天野理事長と秘書の加納が、クラウディアと維月に近寄り、声を掛けて来る。維月は、振り向いて応えた。

「あ、はい。何でしょうか?理事長。」

「済まないんだが、防衛省の役人に、あのモニター映像を見せてやる事は出来ないかな?」

 その問い掛けに、モニターを監視していた立花先生が、横から口を挟(はさ)む。

「どうされたんです?」

「いや、ここにエイリアン・ドローンが居る事を、どうにも信じて呉れてない様子でね。手続きやら、確認がどうのと言うばかりで、話にならんのだ。」

 それには、維月が聞き返す。

「携帯で動画でも撮って、送って差し上げたら如何(いかが)ですか?」

「それは不味(まず)い、HDG も一緒に写っている画像データが流出でもしたら、色色と後(あと)が面倒だ。成(な)る丈(だけ)、そう言う物を外部に残したくない。」

「そう言う事でしたら…どこかの適当なサーバーに、観測機の画像データをストリーミングでアップして、そこを見て貰う?って、感じかしら。ねぇ、クラウディア。」

 その維月の思い付きに、クラウディアが顔を上げ、コメントを返す。

「そうね、データ・リンク上の撮影動画をストリーミングのデータへ変換するのに、少々、ディレイが起きるけど、それで良ければ。ディレイって言っても、コンマ何秒って程度だと思うけど。」

 維月に向けられた、そのコメントに、天野理事長は素早く反応する。

「ああ、その程度の遅延なら構わないよ。兎に角、こちらの状況が、伝わればいいんだ。」

「でしたら、適当な変換モジュールを持ってますから、ささっと、仕掛けを作っちゃいましょう。」

 クラウディアが愛用のモバイル PC の、キーボードへ向かおうとするので維月が呼び止める。

「ちょっと待ちなさいよ、サーバーはどうするの?クラウディア。」

「そんなの、学校のサーバーでいいでしょ? 構いませんよね?理事長。」

 振り向いて、クラウディアは天野理事長に問い掛ける。それに、天野理事長は即答した。

「ああ、構わないよ。サーバーの管理責任者に連絡を…。」

 そう言い掛けた天野理事長に、クラウディアは笑って断るのだった。

「ああーいいです、学校のサーバーになら、侵入(アクセス)した事が有りますから。許可を頂ければ、此方(こちら)で適当にやっちゃいます。用が済んだら、あとで、ちゃんと消しておきますから。」

 クラウディは、そう言い乍(なが)ら、猛然とキーをタイプし始める。一方で、維月は苦笑いで、それを見ていたのだった。その様子を「ハハハ」と笑って、天野理事長はクラウディアに声を掛けた。

「では、頼んだよ。」

 クラウディアは、PC を操作し乍(なが)ら応える。

「はい。五分、いえ、三分ください。」

 複数のウィンドウを開いて、盛んに PC を操作しているクラウディアの背後に近付き、天野理事長は問い掛けた。

「所で、カルテッリエリ君。学校(うち)のサーバーは、そんなにセキュリティが脆弱だったかね?」

 クラウディアはキーを打つ手を止め、視線を宙に向けて数秒考えて、答えた。

「常識的には、問題の無いレベルだと思いますが。唯(ただ)、常識的なレベルのセキュリティなら、わたし、突破しちゃいますので。」

「そうか、今度、うちのサーバーの管理責任者に、対策をアドバイスしてやって貰えるかな?」

「そう言う御依頼を頂ければ、わたしは構いませんけど。」

 そう答えて、クラウディアは再び、キーボードを叩き始める。

「じゃあ、後日、此方(こちら)の調整が済んだら、又、声を掛けさせて貰うよ。その時は、宜しく頼む。」

「はい、承知しました。」

 その返事をして、一分程の後。クラウディアは顔を上げると、前方のデバッグ用コンソールに就いている樹里の背中に向けて、呼び掛けた。

「城ノ内先輩、そっちのテンポラリ・フォルダに送った実行ファイル、起動してみて貰えますか? アール・ビー・ティー・アール・エス・エグゼ。」

「RB_TRS.exe…ね、有った。じゃ、実行するよ。」

 樹里はコンソールのディスプレイを見詰めた儘(まま)、振り返る事無く応えた。
 クラウディアが樹里へ送った実行ファイルは、樹里のコンソールが HDG や LMF とのデータ・リンク経由で受け取っている球形観測機からの撮影動画データを、ストリーミング・データとして学校のサーバーへ転送する働きをするプログラムである。クラウディアは、このプログラムを短時間で、ゼロから作った訳(わけ)ではない。少し前に自身が言っていた様に、動画を変換して転送するモジュールを、予(あらかじ)め持っていたので、その入出力部分の形式を整える作業をしただけなのだ。何故その様なモジュールを用意していたのか?と、問われるならば、それは勿論、ハッキングの為なのだった。
 それは兎も角、クラウディアは学校のサーバー側にアクセスし、転送されて来た動画が正しく再生されるのかをチェックする。続いて、加納に声を掛けた。

「動画の準備は出来ました。先方へアドレスを送るので、携帯端末を貸してください。あ、メッセージアプリ、開いてくださいね。」

 加納は目配(めくば)せで天野理事長に了承を得てから、メッセージアプリを開いて、携帯端末をクラウディアに手渡した。クラウディアは受け取った携帯端末を手早く操作して、メッセージアプリの本文に転送動画を閲覧する為のアクセス先アドレスを打ち込み、携帯端末を加納の手に返す。

「メッセージの前後に付ける、挨拶とか説明は、其方(そちら)で適当に追加してください。わたしが打ち込んだアドレスにアクセスすれば、観測機一号が撮影した動画が閲覧出来ます。動画データは、先方には残りません。」

「分かりました、ありがとう。」

 一言、礼を述べると、加納氏は猛烈な勢いで、前後の記述を打ち込んでメッセージの体裁を整えた。出来上がった文面を一度、天野理事長に見せ、確認を取った後に送信をしたのだった。そして再度、緒美達からは少し離れると、天野理事長は先程のメッセージを何処(いずこ)かへ送信しては通話連絡をするのを、何度か繰り返したのだ。防衛省や防衛軍の知己(ちき)に状況を説明して、少しでも早く防衛軍を動かそうと画策していたのである。
 その一方で、緒美は振り向いて、クラウディアに問い掛ける。

「と、言う事は、現時点で防衛軍の動きは、まだ、無いのね?カルテッリエリさん。」

「はい。全く、動いてません。エイリアン・ドローンがここに居る事も、把握してない様子ですね。」

「分かった、防衛軍が動き始めたら、教えてね。」

「承知しました。監視を続行します。」

 その頃、茜の方は、と言うと。入れ替わり立ち替わり、斬撃を加えて来る六機のトライアングルを捌(さば)き乍(なが)ら、反撃の機会を窺(うかが)っていたのだ。
 例え、ディフェンス・フィールドに因る防御が万全だったとしても、機械である以上、何時(いつ)、故障が起きるかは分からない。その時に致命傷を負わないよう、茜は出来る限りの回避機動を、行っていたのだ。その為、反撃の態勢を取ろうとすると、別のトライアングルが斬り掛かって来て、それを避(よ)けて反撃の態勢を…と言う終わりの見えない状況が、繰り返されていたのだった。

「いいわ、天野さん。その調子で、絶対に足を止めないで。相対速度が有る限り、向こうの攻撃はディフェンス・フィールドを越えては来られないわ。」

 気休めなのか激励なのか、どちらなのか良く分からない緒美のコメントが、ヘッド・ギアのレシーバーから聞こえて来る。

「それでも、この儘(まま)じゃ、埒(らち)が明きませんよ。」

 茜の翻(こぼ)す愚痴に、緒美が応える。

「ここは我慢して、きっと反撃のチャンスは有るから。」

「そう、願います。」

 目前に滑走路の西端が迫って来たので、茜は LMF の進路を東向きへと変え、再び加速を始める。視界には六機のトライアングルが、ジグザグに走り乍(なが)ら接近して来るのが見えた。茜は自身も LMF の機体を左右に振りつつ、一番遠くに居るトライアングルに、右手に保持しているランチャーで狙いを定める。
 勿論、狙いを付けたトライアングルも進路を左右に振り乍(なが)ら移動しているので、引き金を引くタイミングが掴めはしない。斬り掛かって来る手前の五機を、縫う様なスラローム機動で躱(かわ)し乍(なが)ら、茜は、六機目のトライアングルに向かって LMF を走らせた。
 そして LMF がトライアングルの攻撃距離にまで接近すると、当然の様に、そのトライアングルは右腕を振り上げる様にして、向かって左側から茜に斬り掛かって来たのだ。擦れ違う瞬間、トライアングルの繰り出すブレードが LMF のディフェンス・フィールドに接触し青白い閃光が発生した、そのタイミングに合わせて、茜は LMF の進路を左側へ寄せるようにイメージをした。思考制御に因って LMF の進路がトライアングルの方向へと変わっても、直様(すぐさま)、衝突する訳(わけ)ではない。しかし、トライアングルはブレードだけではなく、その全身が LMF のディフェンス・フィールドに弾かれ、青白い閃光の残像を残しつつ、茜の視界から左後方へと消えていった。
 茜は左回りにスピンターンの様に機体の向きを変えて LMF を止めると、ディフェンス・フィールドに弾き飛ばされた後、立ち上がろうとしている六機目のトライアングルに向けて、ランチャーのトリガーを引いたのだった。
 連続して二射の荷電粒子ビームを撃ち込まれたトライアングルは、その場で崩れる様に活動を停止した。
 一度、深呼吸をして、茜は残りの五機へと、目を向ける。
 足の止まった LMF へと、一斉に飛び掛かって来るかと思いきや、トライアングル達は奇妙な行動を見せるのだった。LMF の方を向いた儘(まま)、ジグザグに後退(あとずさ)りを始めたのだ。茜の LMF は滑走路のほぼ東端に位置していたが、トライアングル達は滑走路の中央辺り迄(まで)、一気に後退した為、その距離は凡(およ)そ八百メートルには成っただろうか。集まったり、離れたり、それぞれのトライアングルが右往左往している様子が、遠目にであるが観察される。

「何?」

 茜は呆気(あっけ)に取られて、ポツリと、そう一言発したのだ。そこに、緒美からの指示が入る。

「天野さん、向こうが攻撃して来ないのなら、今がチャンスよ!」

「あ、はい。Ruby、前進。」

「ハイ、茜。」

 LMF がホバー・ユニットを再び起動して、トライアングルの集団へ向けて加速を始めると、それに気付いたトライアングル達は、一斉に南側のフェンスへと向かって移動を開始するのだった。
 茜は回避機動を行い乍(なが)ら疾走するトライアングルに向けて、距離を詰めつつ二射、三射とランチャーから荷電粒子ビームを発射する。しかし、地上をジグザグに走るトライアングルには、なかなか命中しないのだ。躱(かわ)された荷電粒子が地面に当たり、土煙やコンクリートの破片を散らす。
 そうこうする内、トライアングルの一機がジャンプし、十メートル程の高さで飛行形態へと変形を始めるのだった。その変形行程には、数秒と掛からないのだが、咄嗟(とっさ)に茜は Ruby に指示をするのだ。

Ruby、ターゲット、ロック!」

 茜は視線で、ジャンプした一機のトライアングルに、照準の追尾を指定した。透(す)かさず、Ruby が応える。

「ターゲット、ロック・オン。」

「プラズマ砲、発射!」

「プラズマ砲、発射。」

 地上では地面を脚で蹴って、右へ左へと素早く機動するトライアングルだったが、空中では地上の様なジグザグ機動は出来ない。どうしても直線的な、或いは放物線的な軌跡を描いて運動する事になるので、自動追尾や照準の未来位置が予測しやすいのだ。
 続けて二度の、落雷の様な轟音が響くと、次の瞬間、空中のトライアングルは粉砕され、その残骸と破片が学校の敷地外の山腹斜面へと散らばる様に落下していった。
 しかし、その間に、残り四機のトライアングルは、滑走路南側のフェンスを乗り越え、或いは破壊して、学校敷地の外、南側斜面の木立の中へと姿を消したのだった。

 

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STORY of HDG(第12話.17)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-17 ****


「先(ま)ず、先生方に避難して貰う時間を稼ぎたいから、向こうが仕掛けて来たら応戦して、滑走路の方へ引っ張って行ってちょうだい。細かい判断は任せるけど、プラズマ砲を撃つ時は、水平には撃たないでね。必ず、そうね、仰角が 10°以上で、トライアングルが飛び上がった所を狙って。」

「分かりました。ランチャーは?」

「LMF のウェポン・ベイに入ってるのが使える筈(はず)だけど、こっちも校舎や格納庫の方へ向けては、撃たないように。注意して。」

「オーケーです。」

 そこで、塚元校長が緒美に向かって言うのだった。

「鬼塚さん、無茶よ。多勢に無勢でしょ、ここは逃げる方法を考えるべきよ。」

「校長先生、エイリアン・ドローンは自分より大きくない相手には、同士討ちを避ける為に、一機ずつしか仕掛けて来ません。だから、六機居ても、実質は一対一なんですよ。」

 この説明の内容は概(おおむ)ね事実なのだが、最後の結論部分は気休めである。実際に飛び掛かって来るのは一機ずつだとしても、交代して連続で攻撃を仕掛けて来るので、実質は一対一とは言えないのだ。とは言え、LMF のディフェンス・フィールドは HDG のそれよりもジェネレーターが高出力の仕様なので、トライアングルの攻撃は十分、無効化が出来ると緒美は踏んだのである。その点に関しては、茜も同意見だった。
 そして天野理事長が、校長に言う。

「ここは、鬼塚君の判断に従おう、校長。今迄(いままで)の経緯から見ても、鬼塚君の判断は的確だ。」

 塚元校長は落ち着いた口調で、天野理事長に反論する。

「しかし理事長、生徒を危険な目に遭わせる訳(わけ)には。そもそも、あれに乗っているのは、貴方(あなた)のお孫さんじゃないですか。」

 天野理事長は一瞬、眉間に皺(しわ)を寄せるのだが、一呼吸して、言葉を返した。

「そんな事は分かっている。今は、被害の拡大を防ぐ事が最優先だ。その為に、鬼塚君の判断に、わたしは乗る。但し、この場には、わたしも残るぞ。勿論、孫娘の事は心配だが、防衛軍に話を付けねばならんからな。いいかな?鬼塚君。キミの指揮には、口は出さない。」

「駄目って言っても、聞いては頂けないでしょうから。ですけど、安全の保証は致し兼ねますよ。」

「構わんよ、それは本来、わたしがキミ達にしてやるべき事だからな。」

 天野理事長はニヤリと笑うが、彼は緒美の後方に居たので、緒美には、その表情は見えていなかった。だが、緒美には天野理事長の発した言葉の語感から、その表情が見えた気がして微笑んだのだった。
 すると、塚元校長が言うのだ。

「理事長がここに残ると仰(おっしゃ)るなら、わたしも避難する訳(わけ)には…。」

 天野理事長は、塚元校長が言い終わらない内に、穏(おだ)やかに声を上げた。

「校長、貴方(あなた)は学校の、実務の責任者だ。自治体への連絡、生徒と教職員の安全確保、避難誘導、やるべき事は沢山有ります。 前園君、タイミングが来たら、校長を連れて行って呉れ。」

 黙って様子を見ていた前園先生に、天野理事長は塚元校長の身柄を託すのだった。前園先生は「分かりました。」と、完結に答える。
 それに続いて、緒美は前を向いた儘(まま)、背後に居る飛行機部の金子に声を掛ける。

「金子ちゃん、第一格納庫に居る、飛行機部の部員は何人?」

 金子は、ハッとした様に、少し慌てて答えた。

「四…いや、五人居る筈(はず)。」

「それじゃ、合図したら後ろ、一階東側の出口から出て、格納庫の北側を通って第一格納庫へ。格納庫の陰を移動すれば、トライアングルの目に付く事は無い筈(はず)だから。飛行機部の人と合流して、シェルターへ避難してね。長谷川君、あなたが誘導してあげて。」

 急に話を振られ、マルチコプターのコントローラーを持った儘(まま)、緒美の前に立っていた長谷川が声を返す。

「俺?」

「あなた、自警部でしょ。自警部の仕事をしてちょうだい。」

 緒美は、長谷川や自警部を非難している訳(わけ)ではない。緒美の口調は、極めて冷静で事務的だった。一方で、皮肉を込めて金子が、自警部を茶化すのである。

「自警部って言ったって、肝心な時に、役に立たないのね。」

素手や、丸腰で、どうしろって言うんだよ。」

 大きな声は上げなかったが、長谷川は思わず、身体を金子の方へ向けて言ったのだ。その瞬間、格納庫の前で様子を窺(うかが)っているトライアングル達の頭部が、一斉に長谷川の動きを追う様に動いた。

「長谷川君、動かないで。」

 静かな口調で、緒美が注意する。

「あ、ごめん。」

 そんな遣り取りを黙って見ていた立花先生だったが、長谷川の言った『丸腰』との言葉から、格納庫の二階北端の部屋に収納されている、資料名目の銃器類の存在を思い出していた。勿論、今、その話を出すと、却って状況がややこしくなりそうだったので、黙って居たのだ。

「取り敢えず、第一格納庫の方(ほう)に、連絡しておくね。」

 そう言ったのは、金子の左後方に立っていた武東である。

「携帯、使える?」

 その緒美の問い掛けに、武東は微笑んで答える。

「わたしの位置だと、エイリアン・ドローンからは見えないと思う。わたしの方からは、よく見えないから。」

 武東の立っている左前方には、塚元校長や前園先生、立花先生や理事長秘書の加納達が立っており、武東からは格納庫の外の様子は、良く見えなかったのだ。実際、ポケットから携帯端末を取り出して操作しても、先程の長谷川の様にトライアングル達が反応する事は無かった。

「もしもし、武東よ…。」

 第一格納庫の飛行機部員と通話している武東の声が聞こえる中、緒美に茜が呼び掛けて来る。

「部長。この儘(まま)、睨(にら)み合ってても埒(らち)が明かないので、此方(こちら)から鎌を掛けて見ます。じっとしてても、LMF の燃料は消費してますので。 其方(そちら)の方は、話は付きましたか?」

「いいわ、其方(そちら)のタイミングで動いてちょうだい。わたしも好(い)い加減、『だるまさんが転んだ』状態には、飽きて来た。」

 通信から、茜の「ふふっ」と笑った息が聞こえると、茜は Ruby に対して指示を出すのだった。

「それじゃ、Ruby、ホバー起動。それから、右のウェポン・ベイからランチャーを出してちょうだい。」

「ホバー・ユニットを起動。右ウェポン・ベイから CPBL をお渡しします。」

 LMF 脚部のホバー・ユニットが起動すると、その空気の噴出音と、機体の浮き上がる動作に、トライアングルはピクリと反応した。そして、LMF 胴体部上部のウェポン・ベイが開き、内部からランチャーを保持したアームが前端部を軸に半回転する、茜の右前方へランチャーを搬出する動作が始まると、西側に向いていた LMF の、ほぼ正面に位置して居たトライアングルが一機、二対の脚部を高速で動かして LMF へと突進して来たのだ。
 茜が右前方のランチャーに手を伸ばし、HDG のマニピュレーターでランチャーのグリップ部を掴(つか)もうとした時、突進して来たトライアングルが、向かって右から、左へと振り抜いた鎌状のブレードが、LMF のディフェンス・フィールドに接触し、青白い閃光が弾ける。
 茜はランチャーを受け取り乍(なが)ら LMF の向きを南へと向け、機体を加速させて滑走路に繋(つな)がる誘導路へ向かった。進路上に居た別のトライアングルの脇を擦り抜けると、六機のトライアングルは一斉に向きを変え、LMF を追って動き出したのだった。
 その様子を見て、緒美は振り向き、声を上げる。

「校長先生、前園先生、今の内に避難してください。奥、東側出口へ、急いで。」

 そして、前方に居た長谷川にも声を掛けた。

「長谷川君も、金子ちゃんと武東ちゃんを。」

「了解! 行こう、金子さん、武東さん。」

 すると、金子と武東は口口(くちぐち)に、緒美に声を掛けるのだった。

「鬼塚、気を付けて。」

「鬼塚さん、また、後でね。」

 緒美は微笑んで、応えた。

「ええ、また、後で。」

 長谷川と金子、武東の三名は格納庫の奥へと向かって走り出す。一方で、先に奥へと向かっていた塚元校長は、一旦(いったん)立ち止まり、振り返って声を上げた。

「立花先生、加納さん、お二人は?」

 立花先生は、透(す)かさず答える。

「わたしは、顧問ですので。兵器開発部の。」

 次いで、秘書の加納が声を上げた。

「わたしは、理事長の警護も兼務しておりますので、お構いなく。」

 二人の返事を聞いて、前園先生が塚元校長の肩を叩き、言った。

「皆(みんな)、それぞれの仕事をやってる。わたし達も、やらないと。」

「分かりました。」

 そう答えて、塚元校長と前園先生の二人も、格納庫の奥へと向かったのだった。

「立花先生も、避難して頂いて構わなかったんですよ?」

 恵が少し意地悪気(げ)に、立花先生に言った。すると立花先生は微笑んで、恵に言葉を返す。

「わたしを、仲間外れにしないでって、前にも言ったでしょう?」

「でしたっけ。」

 恵も微笑んで、応えるのだった。
 一方で天野理事長は、加納を伴って格納庫の奥へと進み、緒美達とは少し距離を取るのである。

「加納君、取り敢えず、防衛省、平野さんに連絡を。」

防衛省から、ですか?」

「多分、その方が話が早い。急いで呉れ。」

「承知しました。」

 そんな遣り取りの後、加納が携帯端末を操作している。
 それと、ほぼ同時に緒美は、瑠菜と佳奈に指示を出すのだった。

「瑠菜さん、古寺さん、観測機、残り二機も出してちょうだい。余り、エイリアン・ドローンには近付けない様に、注意してね。」

「分かりました。」

 コンテナに格納されていた、残り二機の球形観測機がふわりと浮き上がると、瑠菜と佳奈の操作で格納庫の外へと出て行く。それを見送る間も無く、緒美はクラウディアに声を掛けた。

「カルテッリエリさん。」

 急に呼び掛けられ、クラウディアは少し驚いて返事をする。

「Oh、はい。」

「防衛軍の動き、出来るだけ情報を集めてちょうだい。手段は問わないわ。」

 緒美のリクエストを聞いた、クラウディアの後ろに居た維月が声を上げる。

「ちょっと、鬼塚先輩、いいんですか?」

「構わないわ、非常事態よ。」

 緒美の答えを聞いて、維月は立花先生に訴え掛ける。

「先生~…。」

「わたしは、何も聞かなかった事にするわ。」

 そう応えた立花先生は、苦笑いである。

「それじゃ、お願いね。カルテッリエリさん。」

「Jawohl!(ヤヴォール)」

 緒美に対して、珍しくドイツ語で「はい。」と答えたクラウディアは、愛用のモバイル PC を取り出し、猛然と操作を始める。

「井上さんは、カルテッリエリさんのサポート、宜しく。」

「はいはい、おかしな事をやらないか、監視役ですね。了解しました。」

 諦(あきら)め顔で、そう緒美に返事をする維月に、クラウディアは言う。

「しないわよ。おかしな事なんて。」

「あー、そうですか。」

 そう維月が、聊(いささ)かぶっきら棒に答えたあとで、二人は、くすりと笑い合うのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.16)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-16 ****


 その間に、長谷川の方ではマルチコプターの準備が整い、緒美達の前を鉄板を吊り下げたマルチコプターが通過して行く。長谷川が操るマルチコプターは、懸下(けんか)している鉄板を大きく揺らさない様に注意しつつ、LMF の前方へと回り込んだ。

「鬼塚さん、こっちも準備オーケーだよ。」

「ターゲットの高さは、二、三メートルを維持してね、長谷川君。」

「分かってる。」

「それじゃ、始めましょうか。長谷川君、お昼に説明した感じで、マルチコプターの機動、お願い。」

「了解~。」

 LMF の前方でホバリングしていたマルチコプターは、一旦(いったん)、LMF から十メートルほど離れると、大きく旋回する様に向きを変え、再び、LMF へと接近を始める。
 マルチコプターが進行方向を変えるのに、本来は旋回をする必要は無い。しかし、今回の場合は凡(およ)そ 4kg の鉄板を吊り下げている為、急激な進路の変更を行うと吊られている鉄板の揺れが大きくなり、空中でのバランスを崩してしまうのだ。それを避ける為、長谷川は飛び方に気を遣っているのだった。

Ruby、シールドのブレードを展開。但し、ビーム・エッジは、オフの儘(まま)でね。」

「ハイ、茜。DFS のブレードを展開します。ビーム・エッジは、無効(ディスエーブル)。」

 樹里のコンソールから、茜と Ruby の遣り取りが聞こえる。LMF の左右のアームでは、ナックル・ガードが前進し、そこに取り付けられた DFS(ディフェンス・フィールド・シールド)の下端が前方へ向く様に回転し、格納されていた二枚のブレードが左右から回転して中央で一枚の、両刃のブレードになる。
 茜は、左肩を前に出す様に身構え、接近して来る、マルチコプターから吊り下げられた鉄板に、狙いを定めた。
 マルチコプターは LMF の左前方から右後方へと向かって、少し斜めに通過するが、茜は距離と角度を見極めて、吊り下げられた鉄板に向かって、右のアームを繰り出す。すると、右腕シールドのブレード先端が、鉄板の中央付近を突くのだった。「ガン」と言う、鈍い衝突音と共に鉄板は後方へと跳ね飛ばされ、少し遅れて鉄板に繋がれたワイヤーが機体を引っ張る形で、マルチコプターはバランスを崩す。

「うおっと、と…。」

 長谷川が慌てて、マルチコプターが墜落しないよう、上昇させる。マルチコプターの機体の揺れは、自動的に抑制されるように制御されているので、操縦担当者としては時間を稼ぐ為に、上昇させる以外に手段が無いのだ。

「鬼塚さん、余り強く叩かないように、伝えて貰えるかな。」

 長谷川が緒美へ、そう言うのと、ほぼ同時に、茜も訊(き)いて来るのだった。

「寸止めにでもした方が、いいでしょうか?部長。」

「そうね、出来るだけそうしてあげて。それで、狙った所に、当たってる感じかしら?」

「そうですね。特に違和感は、無いです。まあ、Ruby が補正して呉れてるんだと、思いますけど。」

「そうなの? Ruby。」

「ハイ、微調整を。余計でしたか?」

「そんな事は無いわ。その調子で続けてちょうだい。 あ、但し、今後は、ブレードの先端がターゲットに当たる所で、動きを止めるように補正してね、Ruby。」

「それが『寸止め』、ですか?」

「そう言う事。」

 続いて、緒美は視線を長谷川の方へ変え、声を掛ける。

「それじゃ、長谷川君。続きを、お願い。」

「了~解。」

 マルチコプターは再び、LMF の前方へと飛行し、先程と同じ様に旋回して向きを変えると、LMF への接近を開始する。茜も先程と同じ様に構えて、LMF が通過するタイミングで、今度は左のアームを前進させるのだった。しかし、今度は前回とは違い、宣言通りの『寸止め』でブレード先端が鉄板には触れる程度に制御されたのである。マルチコプターは吊り下げた鉄板を小さく揺らし乍(なが)らも、飛び去って行く。この様な、通過するターゲットを狙うテストを更に三回繰り返し、そして、その全てを成功させて、茜は緒美に、次の試験項目へ移る宣言をした。

「それじゃ、今度はこっちの脚を動かしますね。 Ruby、ホバー起動。」

「ハイ、茜。ホバー・ユニットを起動します。」

 LMF は左右脚部のホバー・ユニットを起動して浮上すると、ゆっくりと前進を始めた。

「長谷川君。」

「分かってるよ~。」

 緒美に声を掛けられ、長谷川はマルチコプターの移動を止め、吊り下げられた鉄板の揺れが収まる様に、機体を前後左右に微調整させ乍(なが)ら、ホバリングをするのだった。次は静止したターゲットを、移動する LMF が狙う試験なのである。
 進路を変えて戻って来る LMF の速度は、時速 30km 程度だろうか、東向きにマルチコプターの前を通過する際に、LMF は右のアームをターゲットへと伸ばし、シールドのブレード先端で、吊り下げられた鉄板を小さく揺らしたのだった。
 マルチコプターの前を通過した LMF は数十メートル進んで旋回すると、再び、ホバリングを続けるマルチコプターへと向かう。そして、今度は左側のアームで、擦れ違い様にターゲットの鉄板を小さく揺らす。茜は、これを五往復、繰り返したのだった。

「へえ~、上手い具合に当てられる物ね。」

 そう、感嘆の声を漏らしたのは、設置されたモニターで LMF の様子を観察している金子である。金子の右隣に居た、直美が微笑んで、言葉を返す。

「そりゃそうよ。この二週間、LMF のアーム制御の精度を上げる為に、シミュレーションを繰り返して来たんだから。」

 すると再び、緒美が長谷川に声を掛ける。長谷川は「オーケー。」と答えると、ホバリングしていたマルチコプターを、今度は五メートル程の幅で蛇行させるのだった。
 それを見て、武東が直美に訊(き)いた。

「今度は、両方が動いている訳(わけ)ね。」

「そ。」

 直美は、極短く答えた。
 マルチコプターが吊り下げるターゲットの鉄板は、マルチコプター本体の左右移動とは少し遅れて、右へ左へと揺れている。それにタイミングを合わせて、LMF は進路を調整し、擦れ違う際に右のアームを小さく振った。「カッ」と、短い金属音と同時に、ターゲットの鉄板が弾ける様に揺れ、LMF の攻撃がヒットした事が分かるのだった。
 その直ぐ後、LMF は急激に進行方向を変えると、今度はマルチコプターの追跡を始める。蛇行を続けるマルチコプターに追い付くと、左のアームで追い抜き乍(なが)ら、再度、ターゲットを揺らしたのだった。
 そんな一連の動作を五度ほど繰り返し、LMF は第三格納庫の前で、西向きに停止した。茜の声が聞こえる。

「部長、次はアーム、Ruby の単独制御でいきたいと思いますが。」

「いいわ。Ruby も、準備はいい?」

「ハイ、問題はありません。腕が鳴るかも知れませんよ。」

 Ruby の緒美への返事を聞いて、茜が笑いつつ突っ込みを入れる。

「あはは、Ruby、そこは『腕が鳴ります』でいいのよ。」

「そうですか?しかし茜、実際にロボット・アームが音を発するかどうかは、動かしてみないと分かりません。サーボ機構の作動音は、発生していると思いますが。」

「『腕が鳴る』って、そう言う意味じゃないから。」

 そこで、緒美が割って入るのだった。

「慣用句の説明は後にしてね。テスト、続行するわよ。」

「あ、はい。Ruby、アーム制御の連動モード、解除。」

「ハイ、連動モードを解除します。以降、ターゲットの指定と、攻撃タイミングの指示をお願いします、茜。」

「分かったわ、Ruby。」

 茜の返事が聞こえると、緒美の前方に立つ長谷川が、振り向いて緒美に尋(たず)ねる。

「鬼塚さん、それじゃ、始めるよ。」

「どうぞ。 お願い。」

 長谷川の操るマルチコプターは、LMF の前方へと回り込み、ターゲットの鉄板を LMF の正面へと接近させていく。茜は視線でターゲットを指示しつつ、Ruby に言うのだった。

Ruby、ターゲット、ロック。」

「ターゲット、ロックオン。」

Ruby、攻撃は、さっきみたいに、寸止めでね。」

「ハイ、分かっています。所で、攻撃は左右、どちらのアームで行いますか?」

「それも、あなたの判断に任せるわ。」

「分かりました。」

 そんな遣り取りをしていると、ターゲットが攻撃が可能な距離まで接近して来る。茜は、攻撃の音声コマンドを発する。

「アタック!」

「アタック。」

 茜の指示に対し、普段と変わらない調子で Ruby は復唱し、右のロボット・アームを前方へと繰り出した。そのアームに取り付けられたシールド先端のブレードは、正確にターゲットの中央付近を叩き、そしてピタリと動きを止めて、マルチコプターの飛行には影響を与えなかった。

「いい感じよ、Ruby。」

「ありがとうございます、茜。」

 LMF の後方へ飛び去って行ったマルチコプターは、再び LMF の前方へと回り、再度、LMF へと向かって来る。

「ターゲット、ロック。」

「ターゲット、ロックオン。」

 その後、マルチコプターは飛行経路を変え乍(なが)ら LMF へと接近し、その都度、ターゲットの鉄板を的確に叩いたのだ。それは、LMF 側が動いての場合でも変わらなかった。

「この様子なら、LMF の動作データ、本社に提供しても良さそうですね。」

 樹里が、微笑んで緒美に言うのだった。そして「そうね。」と、緒美が言葉を返した時である。
 格納庫の外から「シュルシュルシュル」と、空気の噴出する様な、聞き覚えの有る音が聞こえて来たのだ。
 茜は LMF を第三格納庫の前で南側に向けて機体の動きを止め、続いて、西側へと向きを変える。

「部長…。」

 茜が、そう呼び掛けて来た瞬間、LMF とは二十メートル程の距離を取りつつ、扇状に取り囲む様に、格闘戦形態に変形したエイリアン・ドローン、トライアングルが六機、着地したのだった。
 余りにも突然なエイリアン・ドローンの出現に、格納庫内に居た一同は声を出す事を忘れたかの様に驚いていた。茜を除いて、動いているトライアングルを、画像ではなく直に目撃するのは、皆、初めてだったのだから無理も無かった。
 そして、緒美が静かに、一同に声を掛ける。

「皆(みんな)、取り敢えず動かないで。先生方も。 アレは動く物に、強く反応しますから。」

 それを聞いた一同は、それぞれに息を呑んで、緒美の指示に従う。
 格納庫の外では、トライアングルも様子を窺(うかが)っているのか、距離を詰めては来ない。そんな折(おり)、長谷川が特に操作した訳ではなかったが、風に煽られたのかホバリングを続けていたマルチコプターが、揺れる様に東向きに移動したのである。恐らく、風の影響を受けたのは吊り下げられている鉄板で、その荷重に本体が引っ張られバランスを微妙に崩したのを、マルチコプターの自立性制御で姿勢を建て直したのだと思われたが、そんな理屈はエイリアン・ドローンには関係が無かった。
 マルチコプターの位置に近かったトライアングルの一機が、揺れる様に動作したそれに、飛び掛かる様に接近すると、右腕の鎌状のブレードを振り下ろしたのである。
 両断されたマルチコプターは虚しく落下し、乾いた音を響かせた。

「ああ~くそっ。」

 呻(うめ)く様に、長谷川が声を上げると、前園先生が声を掛ける。

「気にするな、長谷川君。あれ位(くらい)の被害で済めば、安いもんだ。」

 マルチコプターに反応したトライアングルは、LMF に十メートル程の距離まで接近していたが、事が済むと他の機体と同じ位の距離まで下がるのだった。
 天野理事長が、緒美に問い掛ける。

「鬼塚君、奴らの目的は、前にキミが言っていた…。」

「はい。恐らく、HDG と LMF の脅威度判定だと思います。」

「何故、襲って来ない?」

「LMF とドッキングした状態の HDG を見るのは、奴らは初めての筈(はず)なので、取り敢えず今は、様子を見ているのではないかと。」

「成る程な。」

 続いて、塚元校長が緒美に尋(たず)ねる。

「この儘(まま)、動かないで居たら、飛んで行って呉れるかしら?」

「それは無いでしょうね。何(いず)れ、攻撃して来ると思います。」

 緒美は冷静な表情を崩さず、答えたのだった。更に、塚元校長が言う。

「天野さんの装備が目標なら、何とか、天野さんを逃がす訳(わけ)にはいかない?」

 今度は少し苦笑いして、緒美は言葉を返す。

「逃げて、どうします? 天野さんが逃げる前に、HDG を解除してる所を襲われるのがオチですよ。 LMF を囮(おとり)として切り離して、HDG が離脱するって手も考えられますけど。でも、向こうの数が多いですから、何機かは離脱した HDG を追うでしょう。やるなら或る程度、相手の数を減らしてから、じゃないと。」

 緒美はヘッド・セットのマイク部分を右手で摘(つま)まむと、茜に呼び掛けた。

「天野さん、取り敢えずディフェンス・フィールドをオンにしておいて。」

 その指示には直ぐに、返事が返って来る。

「もう、してあります。」

 緒美は口元に笑みを浮かべると、「流石ね。」と声を掛け、続いて茜に指示を伝える。

「この状況では、対処をしない訳(わけ)にはいかないわ。指示を伝えるから、良く聞いてね。」

「はい。でも、さっき聞こえた Ruby を囮(おとり)に、って指示だったら聞きませんよ。」

「そんな事は言わないから、安心して聞いて。」

 緒美は一呼吸して、話し始める。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第12話.15)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-15 ****


 そんな折(おり)、インナー・スーツへの着替えを終えて格納庫に降りて来た茜が、緒美達に声を掛ける。

「お待たせしました~直ぐ、HDG を起動しますね。」

 緒美達は開かれてる大扉に近い側に居た為、茜が居る二階通路から降りて来る階段、つまり格納庫の奥側からは二十メートル程の距離が有った。その為、緒美と共に居た一団が誰なのか、茜には直ぐには解らなかったのだが、その人数から兵器開発部のメンバー以外の人が居る事は明白だったのだ。そして間も無く、その中に祖父である天野理事長が混じっている事に、茜は気が付いた。

「おじ…理事長!こんな所で、何してるんですか。」

 十メートル程、大扉側へと進んで、HDG の接続されたメンテナンス・リグの前辺りから、思わず上擦った声を上げる茜だった。天野理事長は、落ち着いて答える。

「お~う、校長達と一緒に、ちょっと見物、いや、見学させて貰うよ。」

 茜は、緒美に呼び掛ける。

「宜しいんですか?部長。」

「構わないわよ~別に。天野さんは、何時(いつ)も通りにやってね。」

 一瞬、返事に詰まる茜だったが、一息を吐(つ)いて声を返す。

「分かりました~。」

 すると、傍(そば)にやって来た瑠菜が、茜に声を掛ける。

「こっちの準備は、出来てるよ。」

「はい。」

 そう返事をすると茜は、ステップラダーを駆け上がり、その頂部で腰を下ろす。そこへ、瑠菜が声を掛けるのだった。

「何時(いつ)も通りにね、天野。」

 声の方へ視線を向けると、瑠菜とブリジットが微笑んで茜を見上げていた。茜も微笑んで、答える。

「分かってま~す。」

 そして茜は、何時(いつ)も通りの手順で、HDG に自身を接続していった。
 装着が終わると、メンテナンス・リグの前からステップラダーが退(ど)かされ、茜の HDG が床面へと降ろされると、接続が解放された。茜はメンテナンス・リグから離れると、LMF の前へと歩いて移動するのだった。
 その、一連の様子を眺(なが)めていた塚元校長が、ポツリと言う。

「ああ、動いた。歩いてる。」

 それに釣られる様に、天野理事長も言うのだ。

「そう言えば、動いている所を直に見るのは初めてだな。レポートに添付されていた動画なら、何度か見たが。」

 立花先生が、天野理事長に問い掛ける。

「如何(いかが)ですか?直接、ご覧になって。」

「そうだね。キミと鬼塚君のレポートから丸二年、それで、ここ迄(まで)進んだかと思うと、なかなか感慨深い物が有るね。」

 天野理事長は、立花先生の方へ視線を送ると、ニヤリと笑う。一方で、背後での、その遣り取りを聞いた緒美は振り返って、天野理事長に言った。

「これも、本社の皆さんの、努力の賜(たまもの)かと。」

「いや、キミのアイデアが有ってこそだよ、鬼塚君。」

 天野理事長は、直ぐに緒美へ言葉を返した。緒美は微笑んで「恐縮です。」と答え、LMF の方へと視線を戻す。
 LMF の側では、HDG の接続作業が瑠菜とブリジットの補助の元、着々と進んでいる。緒美はもう一度、振り向いて言った。

「先生方、此方(こちら)へ。ここに居ますと、外へ出る LMF の進路上になりますので。」

 そう言って、東側へと緒美は歩き出す。立花先生を始め、天野理事長や塚元校長、そして前園先生が後に続いて移動を始める。長谷川、金子、武東の三名も、先生達のあとに付いて歩き出すが、緒美の背後から金子が声を掛けるのだった。

「わたし達も、この儘(まま)、見ててもいい?鬼塚。」

 緒美は声の方へ振り向いて、答えた。

「いいけど、秘密は厳守でお願いね。」

 そう言った緒美の表情は、笑顔である。金子も微笑んで、声を返す。

「分かってる~。」

 緒美は安全と思われる、東側の一階倉庫扉前付近へ移動を終えると、HDG のメンテナンス・リグの向こう側に居る樹里に向かって、手招きをしつつ声を掛ける。

「城ノ内さ~ん、コンソールをこっちへ。」

「は~い、部長。」

 樹里はデバッグ用のコンソールを押して、緒美の居る方向へと移動を始める。そのあとを、コンソールに繋がるケーブルを捌(さば)き乍(なが)ら、クラウディアと維月が付いて来るのだった。

「部長、これを。」

 緒美の元まで到達した樹里は、早速、緒美に Ruby のコマンド用ヘッド・セットを渡すのだ。それを受け取り、自(みずか)らに装着した緒美は、樹里に指示を出すのだった。

「通信の音声、そのコンソールで先生方にも聞かせてあげて。」

Ruby の声も、出ますけど?」

「まぁ、構わないわ。一一(いちいち)解説するのも面倒でしょう?」

「わっかりました~。」

 樹里は、緒美のリクエスト通りに設定変更の操作を始める。緒美は口元へマイクを寄せ、茜と Ruby に呼び掛ける。

「天野さん、Ruby、聞こえる?鬼塚です。」

 両者からの返事は、直ぐに返って来る。

「はい、聞こえてます。何でしょうか?部長。」

「ハイ、此方(こちら)も良く聞こえます、緒美。」

 その返事は、既に樹里のコンソールから出力されている。

「この通信、城ノ内さんのコンソールから、音声出力される設定になっているから、了解しておいて。今日は、見物人(ギャラリー)が多いから。」

「ええ~、取り敢えず了解しました。以後、発言には注意します~。」

 茜が、そう返事をして来るので、緒美は笑いつつ「そうして。」と返すのだった。そして、続いて Ruby が訊(き)いて来る。

「緒美、ギャラリーの中には、まだ、ご挨拶をしていない方が数名見受けられますが、如何(いかが)致しましょう?」

 因(ちな)みに、この時点で Ruby と面識の無いメンバーは、塚元校長と会長秘書の加納、自警部の長谷川、飛行機部の金子と武東、以上の五名である。LMF の頭部、複合センサー・ユニットが、緒美達の方へ向いているのが見て取れるが、緒美は真面目な顔で言った。

「悪いけど、挨拶は後(あと)にして、Ruby。HDG のドッキングが終わったら、メイン・エンジン・スタートよ。」

「分かりました。それでは、初対面の皆様とのご挨拶は後程。ドッキング・シークエンスを続行します。」

 天野理事長とは本社のラボで、前園先生に就いては昨年来、CAD の講習等で度度(たびたび)、部室を訪(おとず)れていたので、Ruby は、その二人には面識が有ったのである。
 一方で、金子が近くに居た恵に、声を掛ける。

「さっきの、挨拶がどうとか、言ってた女の人は誰?」

Ruby の事? あの LMF に搭載されている AI よ。」

 そう言って、恵は LMF を指差す。すると、続いて武東が所感を述べる。

「へぇ、戦車の制御 AI にしては、挨拶だとか、らしからぬ事を言うのね。」

「元元が汎用 AI として開発されていた物らしいから。詳しい事は、わたし達も知らないんだけど。」

 そこで、長谷川が金子と武東に尋(たず)ねるのだった。

「キミらは、あれが動いてる所、見た事が有るの?」

 金子は、短く答える。

「有るよ。」

 それに補足する様に、武東が言うのだった。

「飛行機部は、第一格納庫で部活やってるから。兵器開発部が試運転で、滑走路やエプロンを使ってれば、自然と見えちゃうのよね。他の部活や、一般の生徒は、こっち側には滅多に来ないから知らないでしょうけど。」

「って言うか、自警部はアレの存在とか、知らなかったの? 一年前からここに有ったのに。」

 金子は横目で長谷川の方を見乍(なが)ら、ニヤリと笑って言った。長谷川は、苦笑いで答える。

「知らなかったよ、先月の騒動で、ここに立ち入る迄(まで)はさ。そのあとも、ここに有る物は本社が管理する資産だから、自警部や学校が関与する必要は無いって言われてるしさ。」

「ふうん、そうなんだ。 ちょっと意外ね。てっきり、自警部も一枚噛んでる物だと思ってたわ。」

 金子と長谷川の会話に、割り込む様に恵が一言。

「あ、Ruby…あの AI に関しては、国家機密級のプロジェクトだそうだから、絶対に他言はしないでね。」

「え?マジ?」

 驚いて言葉を返したのは、金子である。続いて、長谷川がポツリと言う。

「道理で、追い出される訳(わけ)だ。」

 そこで LMF の、メイン・エンジンの起動する音が、聞こえて来たのである。茜と Ruby からの報告に対して、てきぱきと状況を確認し、進めていく緒美の様子を、その背後から眺(なが)めて、武東は左隣に居た恵に耳打する。

「鬼塚さん、カッコいいわね。」

 恵が怪訝な顔付きで、武東の方へ視線を動かすと、当の武東は、くすりと笑って見せた。
 丁度(ちょうど)その時、LMF のホバー・ユニットが唸(うな)りを上げ、噴出した気流が床面に沿って四方へ広がる。格納庫内に風を巻き起こし乍(なが)ら、LMF はゆっくりと前進を始めたのだった。そして、瑠菜と佳奈が操作する、球形観測機が二機、LMF を追い抜いて外へと飛び出して行った。
 振り向いて、長谷川に緒美が言う。

「それじゃ、長谷川君。其方(そちら)の方も、準備をお願い。」

「了解。」

 長谷川は、マルチコプターのコントローラーを取りに向かった。
 LMF は格納庫を出て十メートル程進むと、西向きに姿勢を変えて停止する。続いて、腕部と脚部を展開し、『中間モード』へと、LMF は移行したのだった。

Ruby、アームの制御は、連動モードで。」

 茜の Ruby への指示が、樹里のコンソールから聞こえる。
 LMF の方へ目を遣ると、その前面にセットされている茜の HDG と同じ様に、LMF のロボット・アームが構えるのが見て取れた。続いて、茜はシャドー・ボクシングの様に何度か腕を振って、その連動感覚を確かめるのだった。

「部長、此方(こちら)は、準備完了です。」

「オーケー。ちょっと、その儘(まま)。待機しててね、天野さん。」

 緒美は横を向き、隣のコンソールをモニターしている樹里の傍(そば)に控えているクラウディアと維月に、問い掛ける。

「この間みたいに、観測機からの映像をモニターに映すのは、大変かしら?」

「いえ、モニターを持って来て、コンソールと繋げばいいだけですから。表示用のソフトは、コンソールに入ってますよね?城ノ内先輩。」

 クラウディアに尋(たず)ねられ、樹里は即答する。

「勿論。寧(むし)ろ、それを消す理由も無いしね。」

「それじゃ、準備をお願い。お客さん達にも。テストの様子が見易い様に。」

 緒美の指示を受け、「分かりました。」と維月が答えると、クラウディアと二人、シミュレーターの状況を表示するのに使用していた二台のディスプレイと、それを乗せていた長机を取りに向かった。それには、手の空いていた直美や恵、ブリジットも参加して、ディスプレイの設置と配線接続が手早く進められたのである。

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.14)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-14 ****


 そして、昼休みを挟(はさ)んで、緒美達が LMF の稼働試験準備を進めていると、何故か次々と第三格納庫への来客があるのだった。
 最初にやって来たのが、塚元校長と天野理事長、そして理事長の秘書である加納だった。三人は加納の運転する自動車を格納庫の南側に止めると、開かれていた大扉の方から中へと入って来た。その応対を立花先生がしていると、今度はそこに自転車に乗った前園先生が登場するのである。
 LMF の稼働試験の機材としてマルチコプターと、その操作担当者の借用に就いて、自警部に依頼するのを塚元校長経由で相談した事から、理事長と前園先生には話が伝わったらしい。

「わたし達、外野の事は気にしないで、準備を進めて呉れ。」

 そう天野理事長が言うので、緒美は言われた通りに、気にしないで準備を進める事にした。すると、今度は聞き覚えのある女子生徒の声が、大扉の方から呼び掛けて来るのである。

「鬼塚~、兵器開発部に男子、居たっけ?」

 緒美が声の方へ目をやると、その声の主は飛行機部の部長、金子 博美だった。その後ろには会計担当の武東(ムトウ) さやかの姿も在った。金子と武東の二人とは、昨年の『自家用操縦士免許』取得の為の合宿以来、友人関係が続いていたのである。
 緒美が、声を返す。

「どうしたの?金子ちゃん。 武東ちゃんも。」

「うん?ああ~次の飛行訓練の日取り、予定通りでいいのか、聞いとこうと思ってさ。」

「そんなの、携帯のメールででもいいのに、わざわざ?」

 緒美が金子に、そう聞き返すと、金子の背後から武東が答える。

「いやぁ、ほら、久し振りにこっちの格納庫の大扉が開いてたから。又、試運転とかやるのかなって、思って。」

 そこに、直美が参加して来る。

「あはは、何だよ、野次馬かよ~金子。」

「うん、まぁ、そんな所~。」

 そこで、少し離れた場所に居る塚元校長や天野理事長達に気付いた金子が、声を上げる。

「あ、校長に理事長、それに前園先生、ご苦労様で~す。」

 金子と武東の二人が一礼すると、塚元校長が手を振って応えるのだった。

「それで、飛行訓練の日取りだけど。この前の予定通りでいいよね?新島ちゃんも。」

 緒美が直美に確認を取ると、直美も即答して、金子に聞き返す。

「ああ~いいよ。でも、何で?」

「だって、昨日聞いた予定だと、二人共、帰省からこっちに戻って来る翌日になるじゃない。大丈夫かな?って、思って。」

 続いて、武東が言う。

「さっきスケジュール確認してたら、その事に気が付いて。それで、聞いておこうと思って来たの。」

「大丈夫よ。予定してあれば、それに合わせるように調整するから。ねぇ、新島ちゃん。」

「うん、そうそう。それに、天気次第じゃ、実際にフライト出来ない場合も有るしさ。」

「そう。 じゃぁ、予定しとくね~。」

 金子は、そう言って微笑むのだった。

 ここで緒美達が話している『飛行訓練』とは、取得した『自家用操縦士免許』の技量維持の為に、月に二回程度、緒美と直美が飛行機部の機材を借りて、それぞれが一時間程の飛行と、離着陸の訓練を実施するものである。安全の為、先に PC のフライト・シミュレーターで操作手順や操縦感覚の確認を行い、然(しか)る後(のち)、実機でのフライトを行うのだ。

 因(ちな)みに、この時代に『自家用操縦士免許』の取得が容易になるような環境整備が行われたのは、四~五十年前に『空飛ぶ自動車』を次世代の産業の柱にしようと、政府や産業界が画策した事の名残なのである。
 技術的に、そう言った機材の実用化が可能になりつつあった事が時代背景として有るのだが、無免許の者に無闇な飛行を許すべきではない、との見解が所管の省庁から提起され、関連する法整備が行われたのだ。これに拠り、『空飛ぶ自動車』で飛行を実施するには、航空機用の『自家用操縦士免許』が必要と言う事が定められ、それに合わせて免許取得の為の教育機関等の拡充が計られたのである。
 所が、実際には『空飛ぶ自動車』、法的には『特定軽航空機』と呼ばれるが、それは殆(ほとん)ど普及する事が無かったのだった。『特定軽航空機』の飛行は、雨や風など天候の影響を受け易く、加えて、飛行高度も通常の航空機よりも低空を飛行する規定が設けられた為に、一度(ひとたび)トラブルが発生すると、回復の手を尽くす間も無く墜落する危険性が高いのである。しかも、低空からの墜落の場合、滑空で移動が出来る距離も限られ、更に言うと『特定軽航空機』は、その形態によっては殆(ほとん)ど滑空が不可能な機体も存在する為、住宅地や市街地の上を飛行していると、民家や各種施設を避けて不時着する事が難しいのだった。実際に、その様な事故も数件が発生し、結果、『特定軽航空機』は民家や市街地の上空は飛行禁止とされたのである。
 辛うじて、幅の広い道路の上空は飛行可、と言う事にはなった物の、都市部地上交通の渋滞解消だとか、自由な移動手段とする等、当初に期待された導入の意味やメリットが、ほぼ無くなってしまったのだった。結局は、郊外や地方での、『高価な趣味』としての利用が精精(せいぜい)となっているのが現状なのである。

「所でさ、彼は?新入部員?」

 金子は、少し離れた場所でマルチコプターの点検をしている長谷川を指差して、緒美に尋(たず)ねた。同じ学年でも、学科の違う男子生徒である長谷川とは、金子も武東も面識が無かったのである。

「ああ、長谷川君? 自警部からの応援よ。今日の試験でね、マルチコプターが必要だったから。」

「自警部から? あぁ、そうか。それで、どこかで見掛けた様な気がしてたのね。」

 緒美の回答に対する、武東のコメントである。そこへ、塚元校長と立花先生が、緒美達の所へと歩み寄って来るのだった。天野理事長と秘書の加納氏、前園先生の三名は、長谷川の所でマルチコプターに就いて談義している様子である。

「金子さんと武東さんは、今日はどうされたの?」

 塚元校長が、そう声を掛けて来るので、金子は少し笑って答えた。

「あはは、徒(ただ)の野次馬です。」

「お二人は、兵器開発部の活動内容に就いては、御存知なの?」

 塚元校長の、丁寧な言葉遣いの問い掛けには、武東が答える。

「あ、はい。大雑把には聞いています、校長先生。」

「秘密に関する個別の事柄に就いては、詳しくは知りませんけど、秘密保持の件は心得ていますので、ご心配無く。」

 続いて金子も、笑顔で声を揃(そろ)えるのだった。それには少しだけ苦笑しつつ、塚元校長は言うのだ。

「会社の方針とは言え、あなた達にも迷惑、掛けるわね。」

「いいえ、迷惑、なんて事は無いですよ。」

 少し慌てて、武東が声を上げると、金子も続いた。

「そうですよ。去年の合宿で、大まかな話を聞いてから、わたし達も出来る範囲で協力したいって思ってたんですから。」

「合宿って?」

 塚元校長の、その問い掛けには、緒美が答えた。

「去年の、ちょうど今頃、飛行機の『自家用操縦士免許』の取得に、この四人も参加してたんですよ。それ以来、飛行機部には色々と、協力して貰っています。」

「そうだったの。」

 塚元校長は、大きく頷(うなず)いて見せるのだった。

「しかし、校長にわたし達の名前も、覚えて貰ってるとは思わなかったな~、ねぇ、さや。」

「ホントね、ちょっとビックリした。わたし達は鬼塚さん程、有名人じゃないもんね~。」

 金子と武東がそう言って、クスクスと笑っていると、塚元校長は真面目な顔で言うのだった。

「あら、二年生と三年生の顔と名前位(ぐらい)、大体、把握してますよ。一年生のは、まだ、ちょっと怪しいけど。」

 そんな話をしていると、緒美の背後、格納庫の奥側から、瑠菜の呼び掛ける声が聞こえる。

「部長ー。観測機のカメラテストに、一度、外へ出します。」

 緒美は直ぐに振り向いて、答える。

「いいわ、やってちょうだい。」

「は~い。」

 緒美に返事をしたのは、瑠菜の隣に居る佳奈である。
 瑠菜と佳奈が操作するコントローラーの前に置かれた、二つのコンテナから、それぞれ二機ずつの球形観測機が浮き上がる様に飛び立つと、人の背丈程の高さで大扉の外へと出て行くのだった。
 金子が、緒美に尋(たず)ねる。

「何?アレ。」

「ああ、記録用の機材よ。リモコン・ヘリみたいな物で、球形のボディに、二重反転ローターと、下側に撮影用の機材が入ってるの。」

 感心気(げ)に、武東も言うのだった。

「へえ~、面白い。あんなの有ったんだ。」

「有ったって言うか、先月の始め頃に、本社の開発から試験の映像記録用にって、預かったのよ。」

 直美が、補足説明をする。すると、長谷川が緒美達の方へと歩き乍(なが)ら、言うのだった。

「あんなの有ったのなら、自警部(うち)のマルチコプターは要らなかったんじゃないの?」

 直美が透(す)かさず、反論する。

「だから、アレは本社からの預かり物だってば。勝手に改造とか、出来ないでしょ。」

「それに観測機には、4キロの鉄板を吊り上げる程の能力が無いのよ。」

 緒美が補足すると、「あ、そうなんだ。」と、長谷川も納得するのだった。そんな長谷川に、塚元校長が声を掛ける。

「そちらのドローンも、準備は出来たの?長谷川君。」

 それには一瞬、戸惑って、長谷川は答える。

「え?…あ、はい。大丈夫です。」

 すると長谷川の背後から、前園先生が苦笑いしつつ、塚元校長に言うのである。

「校長、今は、あの手の物を『ドローン』とは言わないんですよ。」

 塚元校長は一瞬、何かを思い出した様な表情になり、言った。

「そうね、今は『マルチ、コプター』だったかしら…昔はね、こう言う物を一括(ひとくく)りにして『ドローン』って呼んでたのよ。」

 すると、金子が聞き返す様に言う。

「『ドローン』って。 徒(ただ)のリモコン機ですよ?あれ。」

 その問い掛けには、それ迄(まで)、黙って様子を見ていた立花先生が答える。

「う~ん、それはそうなんだけど。 2000年代に『ドローン』って言われてたのは、もっと以前から有った、ホビー用途のにせよ産業用のにせよ、それらのリモコン機と比べて、格段に操作が簡単になったのと、特にマルチコプターは、それ以前のリモコン・ヘリとは随分と形状が違うから、別の物として新しい名前で、世間一般では呼びたかったらしいのよね。それで、マルチコプターとかが一般化した頃には、みんな纏(まと)めて『ドローン』って呼んでたらしいのよ。 一方で『ドローン』って言う名称に就いては、マルチコプターが登場するよりも、もっと前から、そう呼ばれていた物は有ったんだけど、そっちは一般的には、余り知られていなかったみたいなのよね。」

 今度は、武東が立花先生に尋(たず)ねる。

「それは、どんな物だったんですか? その、2000年代より前の『ドローン』って。」

「形式は色々と有った筈(はず)だけど。一番多かったのは、本物の旧式戦闘機を遠隔操作出来るようにした、無人標的ドローン、かしら?」

 その立花先生の答えを聞いて、天野理事長が笑って言うのだった。

「あはは、立花先生はお若いのに、良く御存知ですな。」

「ああ、いえ。入社してから、防衛装備に就いて色色と調べている内に見付けた情報ですけど。間違ってたら、修正をお願いします。」

「今の所、大丈夫だと思うよ。」

 天野理事長は、笑顔で答えた。一方で、今度は直美が、立花先生に問い掛ける。

「標的?ですか。」

「そう、地上発射の迎撃ミサイルや、空中戦用の空対空ミサイルの標的にしてたの。そんな物だから、一般の人には、『ドローン』って言葉には、余り馴染みが無かったらしいのよね、その当時、2000年代以前は。」

 続いて、金子が質問する。

「ふうん、それで、マルチコプターを『ドローン』って言わなくなったのは、どうしてですか?」

「それは、軍事用の攻撃型ドローンが、各国の軍隊で一般化したからよ。」

 塚元校長が答えると、天野理事長が続く。

「それ以前は、立花先生の説明の通り『ドローン』って言えば試験用の標的か、でなければ、戦場での偵察用機材だったから、兵器オタク位(ぐらい)じゃないと知らなかったんだけどね。」

 そして再び、塚元校長が解説する。

「戦闘用になって、それが紛争なんかで使用されたってニュースが多くなると、一気に『ドローン』って名称の、一般人のイメージが悪化したわよね、それが二十年、三十年位(くらい)前の事かしら。」

 その話を聞いて、少し呆(あき)れた様に武東が声を上げる。

「それで、言い換えたんですか。」

 それには、天野理事長がコメントを返す。

「そりゃ、そうさ。一度(ひとたび)『ドローン』って呼び名に兵器のイメージが付いちゃったら、民生向けの製品にはその名前は使い辛いからね。企業活動の方針としては、まぁ、当然の対処だな。」

「それに、最近じゃ『ドローン』って言うと、『エイリアン・ドローン』の方を連想しちゃいますしね。」

 そう補足した立花先生は、少し苦笑いだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第12話.13)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-13 ****


 その翌日、2072年8月8日、月曜日。
 前日迄(まで)と同じ様に、この日も朝から LMF のシミュレーターに因る、格闘戦動作データの集積が続けられていた。そんな中で午後二時を過ぎた頃に報じられた情報に、兵器開発部のメンバー達は緊張するのだった。九州北部でのエイリアン・ドローンの襲撃、その報道である。
 報道を受け、緒美達はシミュレーターの実行を中断し、それ以降の情報の推移に注目した。幸いにも、天神ヶ崎高校の地域に迄(まで)で、エイリアン・ドローンが到達する事は無く、午後四時を前にして事態は収拾されたと報じられたのである。

「流石に、防衛軍の迎撃態勢が、追い付いたって所かしら?」

 防衛省からの事態収拾の発表を受けて、安堵(あんど)した様に、そう、立花先生が言った。続けて、直美が尋(たず)ねる。

「これで暫(しばら)くは、安心していいんですかね?先生。」

「そりゃ、防衛軍だって遊んでる訳(わけ)じゃないでしょうから。安心させて貰えないと、困っちゃうわよね。」

 続いて、恵が立花先生に話し掛ける。

「襲撃が有っても、今回みたいに防衛軍が水際で撃退して呉れるなら、わたし達が出て行く心配をしなくてもいいんですけどね。」

「まあ、そこの所は、防衛軍を信頼するしかないでしょう?」

 その一方で、クラウディアが何やら不穏な事を言い出す。

「でも、撃墜した数が合ってないって、そんな話も出てますね、ネットでは。 こんなのは珍しい、みたいですけど。」

「どう言う事?クラウディアちゃん。」

 立花先生に聞き返されて、クラウディアは自分の PC を操作しつつ、答える。

「何人か、この手の事件の推移を追い掛けてるウォッチャーが居るんですけど、最初に発表したエイリアン・ドローンの数と、撃墜数の最新値に十機前後の誤差が有るって…まあ今の所は、集計の間違いかも、ですけど。」

「珍しいの?そう言う事。」

 クラウディアの説明を聞いて、立花先生は緒美に尋(たず)ねた。緒美は小さく頷(うなず)くと、答える。

「そうですね、余り…聞いた事が無いですね、そんな事例は。防衛軍は、発表する数字には気を遣ってると、思ってましたけど。」

「…あ、防衛軍も数が合わない事に関しては、認めてますね。五、乃至(ないし)は八機の行方が不明。記録を照合中、だそうです。」

 クラウディアが操作する PC のディスプレイを彼女の背後から覗(のぞ)き込み、維月が言う。

「あなた、まさかハッキングしてないよね?」

「してません。ご覧の通り、普通に、公式発表されてるでしょ。」

「あ、ホントだ。」

 左後方に立っている緒美の方へ首を回し、クラウディアは訊(き)いてみる。

「何でしたら、防衛省にアクセスして、もうちょっと探ってみましょうか?部長さん。」

 緒美はニッコリと笑い、答えた。

「それには及ばないわ、カルテッリエリさん。」

 緒美の答えに被せる様に、維月が釘を刺す。

「やっちゃダメ、って意味だからね。解ってる?クラウディア。」

「説明して呉れなくても、解ってます、イツキ。」

 その後は、直美とブリジットがそれぞれ一時間ずつ、LMF のシミュレーターを実行して、その日の部活は終了となった。勿論、夜間の Ruby に因る自律制御でのシミュレーター実行は、前日迄(まで)と同じ様に続けられたのである。


 一日置いて、2072年8月10日、水曜日。
 兵器開発部の部員達が帰省の為に学校を離れるのは、明後日の12日からの予定だったが、LMF の格闘戦用動作データ取りが順調に進んだ事もあり、事実上この日が夏休み期間中の部活最終日となっていた。活動休止期間は一日繰り上げて明日から、との扱いになり、部員達それぞれは、翌日を帰省の準備に充てる積もりでいた。
 そして、この日のメニューは、LMF を実際に稼働しての、ロボット・アームの動作確認である。
 前日迄(まで)、シミュレーターに因ってロボット・アーム動作の制御経験を積み上げて来た Ruby だったが、それが実際の運用でも活かす事が出来るのか、それを確認しておく必要が有るのだ。とは言え、最初から完全に Ruby の制御に因る操作では、何らかの不具合が有った際に危険なので、最初は HDG を接続しての『連動モード』から、動作確認を行う計画が立てられたのである。

「どうして、俺はこんな所に居るんだろう?」

 場違いな雰囲気に飲まれつつ、自警部の三年生、長谷川 健治はポツリと言った。
 見回せば、概(おおむ)ね夏の私服姿の女子達が、例えば浮上戦車(ホバー・タンク)の操縦席部分を切り離す作業をしていたり、唯一人、制服を着ている同学年の緒美は何かのコンソールの前で下級生の女子二人と難し気(げ)な打ち合わせをしていたり、或いは、少し離れた場所には男子生徒達の間で密かに人気の立花先生が居て、そして何より、ほぼ目の前には、男子生徒達の間で一番人気の女子である森村 恵が、もう一人の下級生女子と、長谷川が自警部から運んで来たマルチコプターに、鉄板を吊り下げる為の処置をやっているのだった。健康な十代の男子高校生である長谷川に取ってみれば、それは身の置き場と、目の遣(や)り場に困る状況であり、それが一時間程前から継続中だったのである。
 そんな事を考えていた長谷川の、ほぼ無意識に出た先程の発言に、恵が答える。

「それは、長谷川君が、前にアレを見ちゃったから、よ~。」

 向かい側にしゃがみ込んでいる恵は左手の親指で、向かって右側の LMF を指している。

「アレ、って?」

「HDG と LMF。 本社が開発中の、言わば秘密兵器。偶然とは言え、マルチコプターの操縦資格保有者が長谷川君で、助かったわ。」

「何だって、あんな物騒な物にキミ達が関わって…。」

「それを知っちゃったら、秘匿するべき事項が増えるだけよ。それでも聞きたい?」

 恵は遠慮無く、長谷川の目をじっと見詰めて来るので、彼は視線を上に外して答えた。

「いや、止めとく。」

 その答えに、恵はニッコリと笑って言った。

「賢明な判断、だと思うわ。」

 そこで、その場に居たもう一人の下級生、佳奈が作業を終え、声を上げた。

「終わりました~。 外しちゃったカメラ・ユニットは、あとで元通りに付け直してお返ししますからね、先輩。」

 佳奈が言った通り、元元、マルチコプターに取り付けられていた撮影用機材一式は、その取り付け用のパーツやネジ類が、小さなトレイや、ケースに分類されて、一つのパーツ・ボックスに収められている。佳奈は、そのパーツボックスを、長谷川がマルチコプターを積んで運んで来た、手押し台車に乗せる。
 マルチコプターの方には、2メートル程のワイヤーの一端がマルチコプター下部のフレームに、もう一端が50センチ角の鉄板に取り付けられていた。

「この鉄板も秘密?」

 そう長谷川に訊(き)かれ、恵はくすりと笑って答えた。

「これは昨日、重徳(シゲノリ)先生の所で貰って来た端材ね。」

 そこへ、歩み寄って来る緒美が、声を掛けて来る。

「そっちの準備は終わった?」

「は~い、部長。終わりです~。」

 キュロットパンツにノースリーブのシャツを着た佳奈が、そう答えて立ち上がると、続いて、丈の長いワンピース姿の恵も立ち上がるので、長谷川もそれに続いた。
 因(ちな)みに、長谷川の服装はと言うと、プリント柄のTシャツに、膝丈(ひざたけ)のハーフパンツと言う組合せである。

「それじゃ、長谷川君。その状態で飛べるか、確認してみてちょうだい。」

 緒美はマルチコプターの傍(そば)まで来ると、そう長谷川に依頼する。続いて、恵が補足を加える。

「鉄板の重量は4キロ位(ぐらい)の筈(はず)だけど…。」

「なら、大丈夫じゃないかな。このモデルの可搬重量は、6キロだから。」

 そう答え乍(なが)ら、長谷川は手押し台車へと向かい、乗せてあったコントローラーを手に取る。コントローラーの電源源を入れると、今度はマルチコプターへと近寄り、本体側のスイッチを入れる。

「じゃあ、皆(みんな)、ちょっと下がってね。」

 マルチコプターの周囲から離れるように、長谷川が手を振ってみせると、緒美達は数メートル離れた位置に移動し、それぞれが機体に注目するのだった。間も無く、搭載されている六つのローターが回転を始める。

「それじゃ、行くよ。」

 モーターの回転音と、ローターが風を切る音が格納庫内に響くので、長谷川は少し大きな声を出した。LMF のコックピット・ブロックを切り離していた直美達も、その作業を終えて長谷川が操作するマルチコプターを注視していた。
 マルチコプターは、するすると垂直に上昇を始め、数秒後には、その機体下部に取り付けられたワイヤーが鉄板を吊り下げて1メートル程の高さまで持ち上げた。
 緒美は長谷川に近寄って、要望を伝える。

「ちょっと、前後左右に動かしてみて。」

「こんな感じ?」

 長谷川は緒美の要求に従い、マルチコプターを前後や左右に、高度を変えずに動かしてみせる。すると、吊り下げられた鉄板が慣性や空気抵抗で、加速するのとは逆方向へと揺れるのだった。緒美は、それを見て長谷川に訊(き)いた。

「コントロールに問題は無い?」

「この位(くらい)のスピードならね。今以上、速く動かすと、向きを変えた瞬間に、慣性で鉄板に引っ張られてバランスを崩すかも知れないけど。」

「解ったわ。取り敢えず、降ろしていいわよ。 それじゃ、午後からが、テストの本番だから、よろしくね。」

 長谷川は、ゆっくりとマルチコプターを着地させると、緒美に問い掛けるのだった。

「で、具体的には何をどうすればいいのかな? 昨日、マルチコプターを兵器開発部に持って行って、実験か何かに協力してやって呉れ、って、俺はそれだけしか自警部(うち)の部長からは、聞いてないんだけど。」

「それに就いては、これからお昼でも食べ乍(なが)ら説明したいと思うけど。お昼は、誰かと約束でも有るのかしら?」

「いや、それは無いけど。」

 その返事を聞いて、緒美は右手を挙げて部員達に声を掛ける。

「それじゃ、お昼にしましょう、皆(みんな)。」

 周囲から「は~い」との返事の後、部員達が集まって来るのだった。
 長谷川も含めて、一同は東側一階の出入り口へ向かって歩き出す。何と無く、近くに居た恵に、長谷川は尋(たず)ねてみる。

「そう言えば、あのマルチコプターにワイヤーを繋(つな)げてたブラケットはさ、アレ、こっちで作ったの?」

「ああ、あれは昨日、鉄板を貰いに行った時に、一緒に。ね、古寺さん。」

「はい。図面を持って行ったら、重徳先生が加工して呉れました。凄いんですよ~三十分掛からずに、余ってる材料からパパッと。」

「へえ~、あの重徳先生が、ねぇ…。」

 長谷川が意外に思ったのも、無理はない。男子生徒の間では、重徳先生は厳しいので有名なのである。
 そして、瑠菜が続いて言うのだった。

「実習工場の機械を借りて、わたし達で加工はする積もりだったんですけどね。佳奈が描いた、図面の出来が良かったそうで。『満点だ』って、ノリノリで加工して呉れましたよ。」

「うえ~俺なんか、あの先生に褒められた事なんか、一度も無いよ。」

「佳奈は、重徳先生からの評価が高いんですよ。実習の授業でも、一目置かれてる感じだもんね。」

「あははは~。」

 照れ笑いする佳奈に、恵が言う。

「古寺さんは、素直だしね~。」

 そこに、樹里が参加して来る。

「佳奈ちゃんは、お父さんと一緒に、昔から機械弄りとかやってたのよね。」

 それを聞いて、長谷川が尋(たず)ねる。

「お父さんのお仕事は、そっち系?」

 佳奈は即答する。

「いいえ~保険の会社です、家(うち)のお父さんの勤め先。古い機械とかのレストアは、お父さんの趣味ですよ~。」

「佳奈ちゃんに、そんな才能が有るなんて、中学の時はわたしも知らなかったな。」

 そう言って、樹里は佳奈に微笑みかけると、佳奈は「えへへ」と、又、照れ笑いをするのだった。

 そんな会話をし乍(なが)ら、一行は学食へと向かったのである。
 この後、打ち合わせを兼ねて緒美達と、うっかり昼食を共にしてしまった為、長谷川はその姿を目撃した他の男子生徒達から散散(さんざん)、冷やかされる事になる。その席に立花先生や、恵もが同席していたからなのだが、実は入学以来、常に学年トップの成績を維持していた緒美も亦(また)、結構な有名人であり、それなりに彼女のファンが存在していたのだ。
 更に後(のち)、長谷川とは割と頻繁にコンビを組む事の有る二年生の田宮が、その時の噂話を伝え聞いた事に因り、態度が急に冷たくなったりして、長谷川は少なからず困惑したりするのだが~それは、本筋とは全く関係の無い話である。

 

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STORY of HDG(第12話.12)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-12 ****


「♪ハッピーバースデー、ディア、茜~♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 二巡目のバースデーソングは、茜に向けての物だったのだ。瑠菜は、茜の耳元で尋(たず)ねる。

「あなたも、今日だったの?誕生日。」

 茜は、瑠菜の耳元へ顔を寄せて答えた。

「いいえ、17日ですけど。十日後ですね。」

 そんな茜と瑠菜の遣り取りを余所(よそ)に、間を置かず三巡目のバースデーソングが始まっていた。流石に、それが誰に向けてなのか、茜には直ぐに見当が付いたので、茜はブリジットに向けて、皆と声を揃(そろ)える。

「♪ハッピーバースデー、ディア、ブリジット~♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 皆が歌い終わると、一同が拍手をする中、恵が三本の蝋燭(ろうそく)が立てられたケーキを、三人の前へと差し出す。

「三人兼用なんだけど、一緒に吹き消して~。」

 瑠菜を挟(はさ)んで、茜とブリジットの三人が、ケーキに顔を近付けると、維月と直美がカウントダウンを始めるので、それに合わせて三人は蝋燭(ろうそく)に息を吹きかける。

「3、2、1!」

 蝋燭(ろうそく)の火が消えると、再び一同が拍手をし、口口(くちぐち)に「お誕生日、おめでとう」と声を掛けるのだった。
 瑠菜はブリジットにも、尋(たず)ねる。

ボードレールも、八月生まれだったの?」

「はい、24日、茜の一週間あとです。」

 すると、維月が瑠菜に声を掛けて来る。

「どう?驚いた?」

「どっちかって言うと、天野とボードレールが八月生まれだったのに、ビックリした。」

 続けて、恵が言うのである。

「流石に、三人にバレない様に準備を進めるのは、大変だったわ~。」

「わたし達のは、まだ先なのに。一緒にして貰えて、ありがとうございます。」

 茜が、そう言葉を返すので、直美が声を上げた。

「いいのよ~、あなた達のは、部活のお休み期間に重なっちゃってるしね。因(ちな)みに、今回の企画は、井上だよ~。」

「あははは、まあ、先月はわたしのお祝い、して貰ったし。それに、瑠菜ちゃん、前に言ってたじゃない?」

 咄嗟(とっさ)に、それが何の事かが分からず、瑠菜は聞き返す。

「え?…わたし、何か言ったっけ?」

「ほら、八月生まれだと、誕生日が夏休み中だから、学校の友達には忘れられ勝ちだってさ。」

「え~っと、ごめん、覚えてない。そんな話してた?」

 すると、樹里が声を上げる。

「言ってたよ~、わたしも覚えてるもの。」

「ああ、そうなんだ。」

 瑠菜は苦笑いで、樹里に答えるのだった。一方で、恵が茜に問い掛ける。

「天野さんも、矢っ張り、そう言う経験があるの?」

「あはは、まぁ、無くは無いですね。ねぇ、ブリジット。」

「まぁ、そうね。でも、家(うち)のは両親が張り切っちゃうので、誕生日の事で友達関係が気になった事は無いですけど。」

「そう言えば、去年は、家(うち)の母と妹まで御招待頂いて、何だか申し訳無かったわね。」

「いいのよ~家(うち)のママとパパが、茜のお母さんとのお喋(しゃべ)りが大好きなんだから。茜のお母さんとは、母国語で普通に話せるから。」

「ああ~、でも、最後の方は英語とフランス語が、日本語とゴッチャになってて。端(はた)で聞いてると、可成りのカオスっぷりだったよね、アレ。」

 茜は当時の様子を思い出して、苦笑いするのだった。

「あははは、何だかんだで、日本語が大好きだからね、家(うち)の両親。」

 その発言を聞いて、恵がブリジットに尋(たず)ねる。

ボードレールさんの、御両親って…。」

「はい、パパはフランスで、ママがアメリカの出身ですよ。」

「それじゃ、天野さんのお母様は、フランス語と英語が?」

「ええ、って言うか、ヨーロッパの言語は大体、網羅(もうら)してるみたいですよ。イタリア語、ドイツ語、スペイン語ポルトガル語…あと、何(なん)だっけ?」

 茜の返答に、複雑な表情を浮かべつつ恵は訊(き)いた。

「何(なん)だって、そんなに?」

「祖母から聞いた話ですと、母は学生時代からヨーロッパ方面への旅行が好きだったらしくて、それが高じて言語マニアみたいになった、らしいです。そんな人なので、父が仕事でヨーロッパ方面へ海外出張に行く時には、通訳として母を連れて行く程でして。」

 そこで、立花先生が会話に参加して来る。

「良く、お父様の勤(つと)める会社が認めたわね、それ。」

「ああ、最初は父が自腹で母の交通費や宿泊費を出してたみたいなんですけど、それで商談が纏(まと)まるならって。その内、母の交通費と宿泊代が経費で認められる様になって。専門の通訳の業者と契約して人件費払う事を考えたら、交通費と宿代だけで済めば、その方が割安だって。」

「成る程。」

「そんなだから、一時期、ヨーロッパ方面の商談が殆(ほとん)ど父に回される様になって、まぁ、父は大変だったらしいです。母の方は、会社のお金で好きな海外旅行を夫婦で出来て、随分と楽しかったみたいですけど。」

「あはは、なかなかに凄い話ね…。」

 立花先生と恵は、苦笑いしつつ、お互いの顔を見合わせるのだった。続いて、直美がブリジットに話し掛ける。

「そう言えばさ、ブリジットの家では、普段、何語で話してるの?」

「家(うち)で、ですか? 一応、公用語は日本語です。特に、ママはフランス語がほぼ、分からないので。わたしも、聞く方は兎も角、話すのが苦手で。」

「へぇ。」

「でも、両親は感情的になると、お互いが母国語になるので。だから、両親が喧嘩(けんか)になると、ママは英語で捲(まく)し立てるし、パパはフランス語で嘆(なげ)き始めるし。で、お互いが何を言ってるのか分からなくなって、冷静になる、って言う。」

 そこで、瑠菜が参加して来るのだった。

「へぇ~、ボードレールの家(うち)はそんな感じなんだ。家(うち)のは父親がアメリカの出身なんだけど、家(うち)でお父さんが英語で喋(しゃべ)ってるのを、見た事が無かったよな~。わたしが学校で、英語の授業が始まってからは、両親相手に英語の練習とかはやったけど。」

「ああ、瑠菜さんのお母さんは、英語、話せる人なんですか?」

「そうよ~。元元、日本語が話せない家(うち)のお父さんの、仕事や生活のサポート業務をしてたのが、家(うち)のお母さんだったそうだからね。」

「それは又、興味深そうなお話ね。」

 恵が瑠菜に、そう話し掛けた時、突然、「あっ」と、茜が声を上げた。その声に少し驚いて、緒美が尋(たず)ねる。

「どうかした?天野さん。」

 茜は右の掌(てのひら)を緒美に向けて、その問い掛けには答えず、振り向いて部室奥の窓枠に取り付けられている、Ruby の複合センサーに向かって呼び掛けるのだった。

Ruby、前にあなたの名前は、誕生石が由来だって言ってたわよね? あ、シミュレーターを実行中か。」

 茜の懸念を余所(よそ)に、Ruby は直ぐに返事をする。

「大丈夫です、茜。 此方(こちら)と会話する程度の、リソースの余裕は有ります。」

「そう、良かった。」

「お問い合わせの件ですが、茜の記憶している通りです。わたしの呼び名の由来は、天野重工のラボで、わたしが最初に起動したのが七月だったので、七月の誕生石に因(ちな)んで、Ruby と言う名前を頂きました。正確には、2069年の7月12日の事で、それがわたしのログに残っている、最も古いタイムスタンプの日付です。」

 その Ruby の返事を聞き、今度は樹里が声を上げる。

「ああ、それじゃ、Ruby は七月生まれだったんだ。先月、維月ちゃんと一緒に、お祝いしてあげれば良かったね~ごめんね、Ruby。」

「イイエ、樹里。そもそも、わたしに誕生日の概念が、皆さんと同じ様に当て嵌(は)められる物でしょうか?」

 その、Ruby の問い掛けには、維月が答えた。

「いいんじゃない? 麻里姉(ねえ)達、開発の人も、その日が Ruby の誕生日だと思ったから、誕生石に因(ちな)んで呼び名を付けた訳(わけ)でしょ? でも、Ruby の誕生日なんて発想自体、わたしには無かったなぁ。 グッ・ジョブ、天野さん。」

 維月は茜に向けて、勢い良く右腕を突き出し、サムズアップのサインを送る。茜はそれに、照れ笑いを返すのだった。

「それじゃ…。」

 樹里は維月に視線で合図を送ると、二人で声を合わせて歌い始める。

「♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 そして、その場に居た一同が声を合わせて、バースデーソングを歌うのだった。

「♪ハッピーバースデー、ディア、Ruby~♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 歌い終えると、樹里が Ruby に声を掛ける。

「一ヶ月遅れだけど、Ruby も、お誕生日、おめでと~。」

 続いて、維月が言った。

「あなたにあげられるプレゼントが、これ位(くらい)しか無くって、ごめんね、Ruby。」

「イイエ、皆さんからは沢山の経験を頂いていますので、それが、何よりのプレゼントです。」

 Ruby の返事を聞いて、恵は笑って言った。

「あはは、Ruby は相変わらず、いい子だね~。」

 続いて、ジュースの入ったコップを持って立ち上がった緒美が、声を上げるのだった。

「それじゃ、瑠菜さんと天野さん、ボードレールさん、そして Ruby の健康と成長を祝して、乾杯。」

 一同が、それぞれにコップを掲げて「乾杯」を唱和し、飲み物に口を付ける。
 そして、それからは暫(しばら)く、Ruby も交えての談笑が続いたのである。

 

- to be continued …-

 

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