WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.19)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-19 ****


「瑠菜さん、古寺さん、トライアングルを追って。」

 緒美は、モニターの前へと移動し乍(なが)ら、瑠菜と佳奈に指示を出す。天野理事長と秘書の加納も、モニターの方へと移動し、俯瞰(ふかん)で映される山腹の木木の様子に目を凝らした。トライアングルが山腹を降りて行くのが、樹木の揺れで見て取れる。
 間を置かず茜の声が、樹里のコンソールから聞こえて来た。

「部長、わたしもトライアングルを追います。」

 緒美は咄嗟(とっさ)に、隣に居た立花先生の方へ視線を向ける。すると、激しく首を横に振って、立花先生は言うのだった。

「ダメよ、エイリアン・ドローンが逃げたのなら、追って迄(まで)、戦う必要は無いわ、緒美ちゃん。」

 一呼吸して、緒美は茜に伝える。

「ちょっと待って、天野さん。立花先生は、追うなって言ってるけど。」

「部長も、それに同意されるんですか?」

 透(す)かさず返って来る茜の問いに、緒美は少し間を置いてから答えた。

「わたしは、どちらとも言えないわ。先生の意見も解るの。HDG や LMF が、向こうの襲撃対象から外れたのなら、天野さんが、これ以上、対応する必要は、確かに無いもの。」

 それには、少し強い口調で、茜が反論して来る。

「何、言ってるんですか。この儘(まま)、放置してたら、街の方へ行っちゃいますよ。防衛軍は、まだ来ないんでしょう?」

 樹里のコンソールから聞こえる茜の声に続いて、クラウディアが声を上げる。

「部長さん、今、防衛軍に出動命令が出ました。陸防の攻撃ヘリ部隊と、空防の戦闘機部隊、両方ですね。」

「ありがとう、カルテッリエリさん。続報が有ったら、教えて。」

 クラウディアに一言を返して、緒美は背筋を伸ばし、滑走路上に姿が見える LMF に向いて、茜に話し掛ける。

「今、防衛軍が動き出したらしいわ。陸防の戦闘ヘリ部隊と、空防の戦闘機隊だそうよ。徒(ただ)、今からって事になると、どこから来るにしても到着には二、三十分は掛かるかしらね。」

「そんなに待ってられません、トライアングルが街まで行っちゃうじゃないですか。街の方には、普通科の子とか、先生達も住んでるんですよ。」

「それは解ってるけど、関係のある人をって言ってたら、それこそ限(きり)が無いのよ。学校、市、県、国、みんな繋(つな)がってるんだから。だから、どこかで、線を引かないと。」

「そんな理屈で、被害や犠牲者が出たら、どう責任を取るんですか?」

「責任? そんな責任は、貴方(あなた)も、わたし達も、学校も会社も、そもそも負ってないのよ。貴方(あなた)は貴方(あなた)自身を守る以外の理由で、戦う必要なんて無いの。少し、落ち着いて、天野さん。」

「わたしは冷静です。部長は、それでいいんですか? この儘(まま)、放って置いたら、防衛軍が市街地への対地攻撃を始めちゃいます。わたし達には、まだ、出来る事が有るんですよ?」

「解ってる。だから、わたしには判断、出来ないのよ。わたしが天野さんの立場なら、貴方(あなた)と同じ判断をするけど、でも、それを下級生に指示する事は出来ないの。ごめんなさいね、天野さん。」

「もう、いいです。でしたら、勝手にさせて貰いますから。Ruby、ホバー起動、トライアングルを追うわ。」

 続いて、茜と緒美達に聞こえて来たのは、Ruby の意外な返事だった。

「申し訳ありませんが、茜。LMF の稼働には、智子か緒美の了承が必要です。現状では、どちらの了承も得られていないと判断されますので、LMF 稼働の指示は実行出来ません。」

「だったら、HDG とのドッキングを解除して、Ruby。」

「HDG とのドッキングを解除しても、宜しいですか?緒美。」

 茜の指示実行に就いての可否を、Ruby は緒美に尋(たず)ねるのだが、緒美は直ぐに答える事は出来ずに居た。右手の人差し指を眉間に当て、目を閉じて、緒美は何かを考えている。そんな彼女に、周囲に居たメンバー達は、誰も声を掛けられなかった。
 そんな様子を見兼ねてか、天野理事長が緒美の右横へと進み出ると、左手を緒美の肩に置いて尋(たず)ねるのだ。

「この儘(まま)、茜に LMF を使わせるとして、何か、考えは有るかね?鬼塚君。」

 緒美は目を開くと、前を向いた儘(まま)、ヘッド・セットのマイク部を指で塞(ふさ)いで、天野理事長に聞き返す。

「宜しいんですか?お孫さんの安全を、保証は出来ませんよ。」

「構わない…とは言わないが、被害が広がるのを看過するのも忍びない。そうなって悔やむのは、あの子だろうしな。」

 緒美が苦笑いで顔を向けると、天野理事長も同じ様な苦笑いを返すのだった。

「LMF を外へ出すとしたら、資材搬入門から、かな?」

 真面目な顔で問い掛ける天野理事長に、緒美も神妙な顔付きで答える。

「そうですね。」

「解った、あとの指揮は任せるよ。」

 天野理事長は一度、緒美の肩を軽く叩くと、振り向いて加納に指示を告げる。

「加納君、済まんが一っ走り、搬入門を開けに行って呉れないか。」

「承知しました。」

 そう答えると加納は、格納庫の外に止めてあった自動車へと走る。大型車輌を通す為には、鋼鉄製門扉を開けておかなければならないのだ。その門扉は高さが二メートル程も有り、LMF でも、乗り越えるのには手間取りそうな代物だったのである。

「理事長…。」

 立花先生が心配そうに声を掛けると、天野理事長は右の掌(てのひら)を見せて言葉を遮(さえぎ)る。

「いいんだ、言わなくてもいいよ。立花君。」

 一方で、深く一呼吸してから、緒美は茜と Ruby に呼び掛ける。

「天野さん、Ruby、理事長が許可して呉れたわ。エイリアン・ドローンを追撃して。」

 茜の返事は、直ぐに返って来る。

「分かりました。Ruby、ホバー起動。」

「ハイ、ホバー・ユニット起動します。」

「それで部長、何か作戦は?」

「有るわよ。先(ま)ず、資材搬入門から外に出て。さっき、加納さんが搬入門を開けに、先回りして呉れたから。道路に出たら、その儘(まま)、道を下って行ってちょうだい。坂を下り切った所に、川が有るでしょう? トライアングルよりも先に、橋を渡って向こう側、土手の上の、広い道で待機して。取り敢えず、出発して、天野さん。」

「分かりました、行きます。」

 LMF は東側の資材搬入門へ向かって、移動を開始する。
 その時、緒美は、自分の方をじっと見詰めている、立花先生の視線に気が付いた。

「何か?立花先生。」

 緒美は、真面目な顔で立花先生に尋(たず)ねた。すると、立花先生は首を横に振って「いいえ。」とだけ、答えた。
 それには恵が、微笑んでコメントするのである。

「そのお顔は、『道路交通法違反』って仰(おっしゃ)りたいお顔ですよね?」

 立花先生は苦笑いして、恵に言葉を返す。

「言ってないでしょー、そんな事。」

 それに続いて、直美が言う。

「あはは、立花先生はホント、真面目だな~。」

「だから、何も言ってないでしょ、もう。」

 立花先生は溜息を一度、吐(つ)き、モニターの方へ視線を移した。それから間も無く、茜からの報告が聞こえる。

「部長、今、資材搬入門を出ました。これから道路を下って行きます。トライアングルの現在位置は?」

「今、半分位(くらい)まで降りて行ってるわ。障害物が多いから、時間が掛かってる。道路を通っている、天野さん達の方が速い筈(はず)よ。」

「又、飛び上がったら?そっちの方が速い筈(はず)ですよね?」

「大丈夫よ、今、飛び上がったら、LMF に狙い撃ちされると警戒してる筈(はず)だから、エイリアン・ドローン側は。」

「でも、さっきは飛ぼうとしましたよ?」

「だから、よ。多分、あれは囮(おより)ね、他の四機を逃がす為の。勿論、あの一機を打ち落とせてなかったら、残りの四機も飛び上がっていたでしょうけど。あの一機を打ち落としたから、当面、トライアングルは飛び上がらない筈(はず)よ。だから、咄嗟(とっさ)にアレを打ち落とした判断は Good job よ、天野さんと Ruby。」

「それは、どう…も…わっ、………わぁ~~~~~。」

 突然、コンソールから聞こえる茜の声が、悲鳴の様な絶叫に変わる。

「…RubyRuby、スピード、スピード…。」

「更に加速しますか?茜。」

「違う!ブレーキ、ブレーキ~~~~。」

 コンソールから聞こえて来る茜の声に、一同が顔を見合わせるのだが、絶叫が落ち着いた頃に、緒美が尋(たず)ねるのだった。

「どうしたの?大丈夫?天野さん。」

 少し荒い息遣いと共に、茜の返事が聞こえる。

「すいません、ちょっとスピードが…ホバーで坂道を下るのは、結構、怖いですね。道幅もギリギリだし、これで対向車が来たら…。」

「そうね…Ruby、道路から飛び出さないよう、スピードには気を付けてね。それから、天野さん、対向車が来てないかは、観測機で確認させるわ。」

 緒美は、佳奈の方へ向いて指示を出す。

「古寺さん、一機、観測機を LMF の方へ。坂を登って来る対向車が来てないか、確認してちょうだい。」

「分かりました~B号機を、坂道へ向かわせま~す。」

 その一方で、茜からの報告である。

「取り敢えず、再出発します。行きましょう、Ruby。」

「ハイ、茜。ホバー・ユニット起動します。スピードは時速、50km程度を上限に設定しましょうか?」

「お願い。そうして呉れると、助かる。」

 そんな茜と Ruby の遣り取りに対し、緒美が言うのだった。

「兎に角、気を付けてね。因(ちな)みに、その坂道の制限速度、標識は時速 40km だったと思ったけど。」

「そうですか。無免許運転なんて、やるものじゃないですね。」

「まぁ、緊急時だから。勘弁して貰いましょう。」

 そんな会話の中で、モニターを監視していたブリジットが、何かを思い出した様に「あ。」と、小さな声を上げた。それに反応して、直美が尋(たず)ねる。

「何よ?ブリジット。」

「ああ~いえ。そう言えば茜、絶叫系のライドは、苦手だったなぁ、と。」

「え?エイリアン・ドローンと斬り合って、悲鳴一つ上げないのに?」

 半(なか)ば呆(あき)れた様に、そう言った直美に対し、恵が微笑んで言うのだった。

「それと、これとは、話が違うんでしょう?」

「ですね。」

 ブリジットは頷(うなず)く。それには、直美は納得が行かない様子で、「そう言うものかしら?」と呟(つぶや)くのだった。
 その時、その場に居た幾人かの携帯端末から、『避難指示発令』を知らせる緊急メッセージの着信音が鳴り始める。直美は携帯端末を取り出し、画面を確認してから言ったのである。

「今頃?」

 天神ヶ崎高校の校内で避難指示の放送がされたのは、茜がエイリアン・ドローンの最初の一機を仕留めた、その少し前である。その時点で、既に自治体行政、要するに市役所は、校長から状況の連絡を受けていた筈(はず)で、結局、市当局は防衛軍が出動したとの連絡を受ける迄(まで)、避難指示の発令を見合わせていたのだ。これには、避難用の施設が十分でない、と言う事情も有るのだが、それは又、別の話である。
 もし、天野理事長が防衛軍への働き掛けをしていなかったら、県からの要請が有るまで防衛軍の出動は無く、避難指示の発令は更に遅れていたか、或いは無かったであろう。それは、市街地での被害が発生し、その確認がされ、それから防衛軍の出動を県に要請し、然(しか)る後(のち)、避難指示の発令、と言う流れが予想されるからである。それ位、この地域の行政当局は、エイリアン・ドローンの襲撃に対する危機意識が希薄だったのだ。
 但しこれは、この地域特有の問題ではない。エイリアン・ドローンの襲撃を受けた経験の無い地方都市には、程度の差は有れ、これが概(おおむ)ね共通した傾向なのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.18)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-18 ****


「あと、手の空いてる人は、モニターを監視して。何か気が付いた事が有ったら、遠慮無く言ってね。」

 緒美の指示に従い、恵と直美、そしてブリジットと立花先生が、観測機が撮影している状況を映しているモニターの前へと進む。モニターには、滑走路を往復する様に移動する高機動モードの LMF と、それに繰り返し攻撃を加えるトライアングルの姿が映されていた。

「副部長、『アイロン』にオプションのガン・ポッドを付けて、茜の援護に出る訳(わけ)にはいきませんか?」

 ブリジットが、悔し気(げ)に、直美に提案すると、直美は即答する。

「ダメ。 気持ちは分かるけど、流石にそれは無茶よ。」

 続いて、立花先生もブリジットに言うのだった。

「大体、軸線の調整も、射撃訓練もしてないのに、役に立つ訳(わけ)ないでしょ。却って、天野さんの足を引っ張るのがオチよ。ここは堪(こら)えなさい。」

 そして、恵が気休めを言うのである。

「取り敢えず、ディフェンス・フィールドが有効に働いているみたいだし。防衛軍が来る迄(まで)、十分(じゅうぶん)、時間は稼げるんじゃないかしら。」

 確かに、トライアングルが仕掛ける斬撃は、その全てがディフェンス・フィールドの効果に因って、青白い閃光に弾き返されていた。トライアングル達は、LMF の三メートル圏内に近付く事すら不可能な状況である。

「井上君、ちょっといいかい?」

 少し離れた場所で防衛省と連絡を取っていた天野理事長と秘書の加納が、クラウディアと維月に近寄り、声を掛けて来る。維月は、振り向いて応えた。

「あ、はい。何でしょうか?理事長。」

「済まないんだが、防衛省の役人に、あのモニター映像を見せてやる事は出来ないかな?」

 その問い掛けに、モニターを監視していた立花先生が、横から口を挟(はさ)む。

「どうされたんです?」

「いや、ここにエイリアン・ドローンが居る事を、どうにも信じて呉れてない様子でね。手続きやら、確認がどうのと言うばかりで、話にならんのだ。」

 それには、維月が聞き返す。

「携帯で動画でも撮って、送って差し上げたら如何(いかが)ですか?」

「それは不味(まず)い、HDG も一緒に写っている画像データが流出でもしたら、色色と後(あと)が面倒だ。成(な)る丈(だけ)、そう言う物を外部に残したくない。」

「そう言う事でしたら…どこかの適当なサーバーに、観測機の画像データをストリーミングでアップして、そこを見て貰う?って、感じかしら。ねぇ、クラウディア。」

 その維月の思い付きに、クラウディアが顔を上げ、コメントを返す。

「そうね、データ・リンク上の撮影動画をストリーミングのデータへ変換するのに、少々、ディレイが起きるけど、それで良ければ。ディレイって言っても、コンマ何秒って程度だと思うけど。」

 維月に向けられた、そのコメントに、天野理事長は素早く反応する。

「ああ、その程度の遅延なら構わないよ。兎に角、こちらの状況が、伝わればいいんだ。」

「でしたら、適当な変換モジュールを持ってますから、ささっと、仕掛けを作っちゃいましょう。」

 クラウディアが愛用のモバイル PC の、キーボードへ向かおうとするので維月が呼び止める。

「ちょっと待ちなさいよ、サーバーはどうするの?クラウディア。」

「そんなの、学校のサーバーでいいでしょ? 構いませんよね?理事長。」

 振り向いて、クラウディアは天野理事長に問い掛ける。それに、天野理事長は即答した。

「ああ、構わないよ。サーバーの管理責任者に連絡を…。」

 そう言い掛けた天野理事長に、クラウディアは笑って断るのだった。

「ああーいいです、学校のサーバーになら、侵入(アクセス)した事が有りますから。許可を頂ければ、此方(こちら)で適当にやっちゃいます。用が済んだら、あとで、ちゃんと消しておきますから。」

 クラウディは、そう言い乍(なが)ら、猛然とキーをタイプし始める。一方で、維月は苦笑いで、それを見ていたのだった。その様子を「ハハハ」と笑って、天野理事長はクラウディアに声を掛けた。

「では、頼んだよ。」

 クラウディアは、PC を操作し乍(なが)ら応える。

「はい。五分、いえ、三分ください。」

 複数のウィンドウを開いて、盛んに PC を操作しているクラウディアの背後に近付き、天野理事長は問い掛けた。

「所で、カルテッリエリ君。学校(うち)のサーバーは、そんなにセキュリティが脆弱だったかね?」

 クラウディアはキーを打つ手を止め、視線を宙に向けて数秒考えて、答えた。

「常識的には、問題の無いレベルだと思いますが。唯(ただ)、常識的なレベルのセキュリティなら、わたし、突破しちゃいますので。」

「そうか、今度、うちのサーバーの管理責任者に、対策をアドバイスしてやって貰えるかな?」

「そう言う御依頼を頂ければ、わたしは構いませんけど。」

 そう答えて、クラウディアは再び、キーボードを叩き始める。

「じゃあ、後日、此方(こちら)の調整が済んだら、又、声を掛けさせて貰うよ。その時は、宜しく頼む。」

「はい、承知しました。」

 その返事をして、一分程の後。クラウディアは顔を上げると、前方のデバッグ用コンソールに就いている樹里の背中に向けて、呼び掛けた。

「城ノ内先輩、そっちのテンポラリ・フォルダに送った実行ファイル、起動してみて貰えますか? アール・ビー・ティー・アール・エス・エグゼ。」

「RB_TRS.exe…ね、有った。じゃ、実行するよ。」

 樹里はコンソールのディスプレイを見詰めた儘(まま)、振り返る事無く応えた。
 クラウディアが樹里へ送った実行ファイルは、樹里のコンソールが HDG や LMF とのデータ・リンク経由で受け取っている球形観測機からの撮影動画データを、ストリーミング・データとして学校のサーバーへ転送する働きをするプログラムである。クラウディアは、このプログラムを短時間で、ゼロから作った訳(わけ)ではない。少し前に自身が言っていた様に、動画を変換して転送するモジュールを、予(あらかじ)め持っていたので、その入出力部分の形式を整える作業をしただけなのだ。何故その様なモジュールを用意していたのか?と、問われるならば、それは勿論、ハッキングの為なのだった。
 それは兎も角、クラウディアは学校のサーバー側にアクセスし、転送されて来た動画が正しく再生されるのかをチェックする。続いて、加納に声を掛けた。

「動画の準備は出来ました。先方へアドレスを送るので、携帯端末を貸してください。あ、メッセージアプリ、開いてくださいね。」

 加納は目配(めくば)せで天野理事長に了承を得てから、メッセージアプリを開いて、携帯端末をクラウディアに手渡した。クラウディアは受け取った携帯端末を手早く操作して、メッセージアプリの本文に転送動画を閲覧する為のアクセス先アドレスを打ち込み、携帯端末を加納の手に返す。

「メッセージの前後に付ける、挨拶とか説明は、其方(そちら)で適当に追加してください。わたしが打ち込んだアドレスにアクセスすれば、観測機一号が撮影した動画が閲覧出来ます。動画データは、先方には残りません。」

「分かりました、ありがとう。」

 一言、礼を述べると、加納氏は猛烈な勢いで、前後の記述を打ち込んでメッセージの体裁を整えた。出来上がった文面を一度、天野理事長に見せ、確認を取った後に送信をしたのだった。そして再度、緒美達からは少し離れると、天野理事長は先程のメッセージを何処(いずこ)かへ送信しては通話連絡をするのを、何度か繰り返したのだ。防衛省や防衛軍の知己(ちき)に状況を説明して、少しでも早く防衛軍を動かそうと画策していたのである。
 その一方で、緒美は振り向いて、クラウディアに問い掛ける。

「と、言う事は、現時点で防衛軍の動きは、まだ、無いのね?カルテッリエリさん。」

「はい。全く、動いてません。エイリアン・ドローンがここに居る事も、把握してない様子ですね。」

「分かった、防衛軍が動き始めたら、教えてね。」

「承知しました。監視を続行します。」

 その頃、茜の方は、と言うと。入れ替わり立ち替わり、斬撃を加えて来る六機のトライアングルを捌(さば)き乍(なが)ら、反撃の機会を窺(うかが)っていたのだ。
 例え、ディフェンス・フィールドに因る防御が万全だったとしても、機械である以上、何時(いつ)、故障が起きるかは分からない。その時に致命傷を負わないよう、茜は出来る限りの回避機動を、行っていたのだ。その為、反撃の態勢を取ろうとすると、別のトライアングルが斬り掛かって来て、それを避(よ)けて反撃の態勢を…と言う終わりの見えない状況が、繰り返されていたのだった。

「いいわ、天野さん。その調子で、絶対に足を止めないで。相対速度が有る限り、向こうの攻撃はディフェンス・フィールドを越えては来られないわ。」

 気休めなのか激励なのか、どちらなのか良く分からない緒美のコメントが、ヘッド・ギアのレシーバーから聞こえて来る。

「それでも、この儘(まま)じゃ、埒(らち)が明きませんよ。」

 茜の翻(こぼ)す愚痴に、緒美が応える。

「ここは我慢して、きっと反撃のチャンスは有るから。」

「そう、願います。」

 目前に滑走路の西端が迫って来たので、茜は LMF の進路を東向きへと変え、再び加速を始める。視界には六機のトライアングルが、ジグザグに走り乍(なが)ら接近して来るのが見えた。茜は自身も LMF の機体を左右に振りつつ、一番遠くに居るトライアングルに、右手に保持しているランチャーで狙いを定める。
 勿論、狙いを付けたトライアングルも進路を左右に振り乍(なが)ら移動しているので、引き金を引くタイミングが掴めはしない。斬り掛かって来る手前の五機を、縫う様なスラローム機動で躱(かわ)し乍(なが)ら、茜は、六機目のトライアングルに向かって LMF を走らせた。
 そして LMF がトライアングルの攻撃距離にまで接近すると、当然の様に、そのトライアングルは右腕を振り上げる様にして、向かって左側から茜に斬り掛かって来たのだ。擦れ違う瞬間、トライアングルの繰り出すブレードが LMF のディフェンス・フィールドに接触し青白い閃光が発生した、そのタイミングに合わせて、茜は LMF の進路を左側へ寄せるようにイメージをした。思考制御に因って LMF の進路がトライアングルの方向へと変わっても、直様(すぐさま)、衝突する訳(わけ)ではない。しかし、トライアングルはブレードだけではなく、その全身が LMF のディフェンス・フィールドに弾かれ、青白い閃光の残像を残しつつ、茜の視界から左後方へと消えていった。
 茜は左回りにスピンターンの様に機体の向きを変えて LMF を止めると、ディフェンス・フィールドに弾き飛ばされた後、立ち上がろうとしている六機目のトライアングルに向けて、ランチャーのトリガーを引いたのだった。
 連続して二射の荷電粒子ビームを撃ち込まれたトライアングルは、その場で崩れる様に活動を停止した。
 一度、深呼吸をして、茜は残りの五機へと、目を向ける。
 足の止まった LMF へと、一斉に飛び掛かって来るかと思いきや、トライアングル達は奇妙な行動を見せるのだった。LMF の方を向いた儘(まま)、ジグザグに後退(あとずさ)りを始めたのだ。茜の LMF は滑走路のほぼ東端に位置していたが、トライアングル達は滑走路の中央辺り迄(まで)、一気に後退した為、その距離は凡(およ)そ八百メートルには成っただろうか。集まったり、離れたり、それぞれのトライアングルが右往左往している様子が、遠目にであるが観察される。

「何?」

 茜は呆気(あっけ)に取られて、ポツリと、そう一言発したのだ。そこに、緒美からの指示が入る。

「天野さん、向こうが攻撃して来ないのなら、今がチャンスよ!」

「あ、はい。Ruby、前進。」

「ハイ、茜。」

 LMF がホバー・ユニットを再び起動して、トライアングルの集団へ向けて加速を始めると、それに気付いたトライアングル達は、一斉に南側のフェンスへと向かって移動を開始するのだった。
 茜は回避機動を行い乍(なが)ら疾走するトライアングルに向けて、距離を詰めつつ二射、三射とランチャーから荷電粒子ビームを発射する。しかし、地上をジグザグに走るトライアングルには、なかなか命中しないのだ。躱(かわ)された荷電粒子が地面に当たり、土煙やコンクリートの破片を散らす。
 そうこうする内、トライアングルの一機がジャンプし、十メートル程の高さで飛行形態へと変形を始めるのだった。その変形行程には、数秒と掛からないのだが、咄嗟(とっさ)に茜は Ruby に指示をするのだ。

Ruby、ターゲット、ロック!」

 茜は視線で、ジャンプした一機のトライアングルに、照準の追尾を指定した。透(す)かさず、Ruby が応える。

「ターゲット、ロック・オン。」

「プラズマ砲、発射!」

「プラズマ砲、発射。」

 地上では地面を脚で蹴って、右へ左へと素早く機動するトライアングルだったが、空中では地上の様なジグザグ機動は出来ない。どうしても直線的な、或いは放物線的な軌跡を描いて運動する事になるので、自動追尾や照準の未来位置が予測しやすいのだ。
 続けて二度の、落雷の様な轟音が響くと、次の瞬間、空中のトライアングルは粉砕され、その残骸と破片が学校の敷地外の山腹斜面へと散らばる様に落下していった。
 しかし、その間に、残り四機のトライアングルは、滑走路南側のフェンスを乗り越え、或いは破壊して、学校敷地の外、南側斜面の木立の中へと姿を消したのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第12話.17)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-17 ****


「先(ま)ず、先生方に避難して貰う時間を稼ぎたいから、向こうが仕掛けて来たら応戦して、滑走路の方へ引っ張って行ってちょうだい。細かい判断は任せるけど、プラズマ砲を撃つ時は、水平には撃たないでね。必ず、そうね、仰角が 10°以上で、トライアングルが飛び上がった所を狙って。」

「分かりました。ランチャーは?」

「LMF のウェポン・ベイに入ってるのが使える筈(はず)だけど、こっちも校舎や格納庫の方へ向けては、撃たないように。注意して。」

「オーケーです。」

 そこで、塚元校長が緒美に向かって言うのだった。

「鬼塚さん、無茶よ。多勢に無勢でしょ、ここは逃げる方法を考えるべきよ。」

「校長先生、エイリアン・ドローンは自分より大きくない相手には、同士討ちを避ける為に、一機ずつしか仕掛けて来ません。だから、六機居ても、実質は一対一なんですよ。」

 この説明の内容は概(おおむ)ね事実なのだが、最後の結論部分は気休めである。実際に飛び掛かって来るのは一機ずつだとしても、交代して連続で攻撃を仕掛けて来るので、実質は一対一とは言えないのだ。とは言え、LMF のディフェンス・フィールドは HDG のそれよりもジェネレーターが高出力の仕様なので、トライアングルの攻撃は十分、無効化が出来ると緒美は踏んだのである。その点に関しては、茜も同意見だった。
 そして天野理事長が、校長に言う。

「ここは、鬼塚君の判断に従おう、校長。今迄(いままで)の経緯から見ても、鬼塚君の判断は的確だ。」

 塚元校長は落ち着いた口調で、天野理事長に反論する。

「しかし理事長、生徒を危険な目に遭わせる訳(わけ)には。そもそも、あれに乗っているのは、貴方(あなた)のお孫さんじゃないですか。」

 天野理事長は一瞬、眉間に皺(しわ)を寄せるのだが、一呼吸して、言葉を返した。

「そんな事は分かっている。今は、被害の拡大を防ぐ事が最優先だ。その為に、鬼塚君の判断に、わたしは乗る。但し、この場には、わたしも残るぞ。勿論、孫娘の事は心配だが、防衛軍に話を付けねばならんからな。いいかな?鬼塚君。キミの指揮には、口は出さない。」

「駄目って言っても、聞いては頂けないでしょうから。ですけど、安全の保証は致し兼ねますよ。」

「構わんよ、それは本来、わたしがキミ達にしてやるべき事だからな。」

 天野理事長はニヤリと笑うが、彼は緒美の後方に居たので、緒美には、その表情は見えていなかった。だが、緒美には天野理事長の発した言葉の語感から、その表情が見えた気がして微笑んだのだった。
 すると、塚元校長が言うのだ。

「理事長がここに残ると仰(おっしゃ)るなら、わたしも避難する訳(わけ)には…。」

 天野理事長は、塚元校長が言い終わらない内に、穏(おだ)やかに声を上げた。

「校長、貴方(あなた)は学校の、実務の責任者だ。自治体への連絡、生徒と教職員の安全確保、避難誘導、やるべき事は沢山有ります。 前園君、タイミングが来たら、校長を連れて行って呉れ。」

 黙って様子を見ていた前園先生に、天野理事長は塚元校長の身柄を託すのだった。前園先生は「分かりました。」と、完結に答える。
 それに続いて、緒美は前を向いた儘(まま)、背後に居る飛行機部の金子に声を掛ける。

「金子ちゃん、第一格納庫に居る、飛行機部の部員は何人?」

 金子は、ハッとした様に、少し慌てて答えた。

「四…いや、五人居る筈(はず)。」

「それじゃ、合図したら後ろ、一階東側の出口から出て、格納庫の北側を通って第一格納庫へ。格納庫の陰を移動すれば、トライアングルの目に付く事は無い筈(はず)だから。飛行機部の人と合流して、シェルターへ避難してね。長谷川君、あなたが誘導してあげて。」

 急に話を振られ、マルチコプターのコントローラーを持った儘(まま)、緒美の前に立っていた長谷川が声を返す。

「俺?」

「あなた、自警部でしょ。自警部の仕事をしてちょうだい。」

 緒美は、長谷川や自警部を非難している訳(わけ)ではない。緒美の口調は、極めて冷静で事務的だった。一方で、皮肉を込めて金子が、自警部を茶化すのである。

「自警部って言ったって、肝心な時に、役に立たないのね。」

素手や、丸腰で、どうしろって言うんだよ。」

 大きな声は上げなかったが、長谷川は思わず、身体を金子の方へ向けて言ったのだ。その瞬間、格納庫の前で様子を窺(うかが)っているトライアングル達の頭部が、一斉に長谷川の動きを追う様に動いた。

「長谷川君、動かないで。」

 静かな口調で、緒美が注意する。

「あ、ごめん。」

 そんな遣り取りを黙って見ていた立花先生だったが、長谷川の言った『丸腰』との言葉から、格納庫の二階北端の部屋に収納されている、資料名目の銃器類の存在を思い出していた。勿論、今、その話を出すと、却って状況がややこしくなりそうだったので、黙って居たのだ。

「取り敢えず、第一格納庫の方(ほう)に、連絡しておくね。」

 そう言ったのは、金子の左後方に立っていた武東である。

「携帯、使える?」

 その緒美の問い掛けに、武東は微笑んで答える。

「わたしの位置だと、エイリアン・ドローンからは見えないと思う。わたしの方からは、よく見えないから。」

 武東の立っている左前方には、塚元校長や前園先生、立花先生や理事長秘書の加納達が立っており、武東からは格納庫の外の様子は、良く見えなかったのだ。実際、ポケットから携帯端末を取り出して操作しても、先程の長谷川の様にトライアングル達が反応する事は無かった。

「もしもし、武東よ…。」

 第一格納庫の飛行機部員と通話している武東の声が聞こえる中、緒美に茜が呼び掛けて来る。

「部長。この儘(まま)、睨(にら)み合ってても埒(らち)が明かないので、此方(こちら)から鎌を掛けて見ます。じっとしてても、LMF の燃料は消費してますので。 其方(そちら)の方は、話は付きましたか?」

「いいわ、其方(そちら)のタイミングで動いてちょうだい。わたしも好(い)い加減、『だるまさんが転んだ』状態には、飽きて来た。」

 通信から、茜の「ふふっ」と笑った息が聞こえると、茜は Ruby に対して指示を出すのだった。

「それじゃ、Ruby、ホバー起動。それから、右のウェポン・ベイからランチャーを出してちょうだい。」

「ホバー・ユニットを起動。右ウェポン・ベイから CPBL をお渡しします。」

 LMF 脚部のホバー・ユニットが起動すると、その空気の噴出音と、機体の浮き上がる動作に、トライアングルはピクリと反応した。そして、LMF 胴体部上部のウェポン・ベイが開き、内部からランチャーを保持したアームが前端部を軸に半回転する、茜の右前方へランチャーを搬出する動作が始まると、西側に向いていた LMF の、ほぼ正面に位置して居たトライアングルが一機、二対の脚部を高速で動かして LMF へと突進して来たのだ。
 茜が右前方のランチャーに手を伸ばし、HDG のマニピュレーターでランチャーのグリップ部を掴(つか)もうとした時、突進して来たトライアングルが、向かって右から、左へと振り抜いた鎌状のブレードが、LMF のディフェンス・フィールドに接触し、青白い閃光が弾ける。
 茜はランチャーを受け取り乍(なが)ら LMF の向きを南へと向け、機体を加速させて滑走路に繋(つな)がる誘導路へ向かった。進路上に居た別のトライアングルの脇を擦り抜けると、六機のトライアングルは一斉に向きを変え、LMF を追って動き出したのだった。
 その様子を見て、緒美は振り向き、声を上げる。

「校長先生、前園先生、今の内に避難してください。奥、東側出口へ、急いで。」

 そして、前方に居た長谷川にも声を掛けた。

「長谷川君も、金子ちゃんと武東ちゃんを。」

「了解! 行こう、金子さん、武東さん。」

 すると、金子と武東は口口(くちぐち)に、緒美に声を掛けるのだった。

「鬼塚、気を付けて。」

「鬼塚さん、また、後でね。」

 緒美は微笑んで、応えた。

「ええ、また、後で。」

 長谷川と金子、武東の三名は格納庫の奥へと向かって走り出す。一方で、先に奥へと向かっていた塚元校長は、一旦(いったん)立ち止まり、振り返って声を上げた。

「立花先生、加納さん、お二人は?」

 立花先生は、透(す)かさず答える。

「わたしは、顧問ですので。兵器開発部の。」

 次いで、秘書の加納が声を上げた。

「わたしは、理事長の警護も兼務しておりますので、お構いなく。」

 二人の返事を聞いて、前園先生が塚元校長の肩を叩き、言った。

「皆(みんな)、それぞれの仕事をやってる。わたし達も、やらないと。」

「分かりました。」

 そう答えて、塚元校長と前園先生の二人も、格納庫の奥へと向かったのだった。

「立花先生も、避難して頂いて構わなかったんですよ?」

 恵が少し意地悪気(げ)に、立花先生に言った。すると立花先生は微笑んで、恵に言葉を返す。

「わたしを、仲間外れにしないでって、前にも言ったでしょう?」

「でしたっけ。」

 恵も微笑んで、応えるのだった。
 一方で天野理事長は、加納を伴って格納庫の奥へと進み、緒美達とは少し距離を取るのである。

「加納君、取り敢えず、防衛省、平野さんに連絡を。」

防衛省から、ですか?」

「多分、その方が話が早い。急いで呉れ。」

「承知しました。」

 そんな遣り取りの後、加納が携帯端末を操作している。
 それと、ほぼ同時に緒美は、瑠菜と佳奈に指示を出すのだった。

「瑠菜さん、古寺さん、観測機、残り二機も出してちょうだい。余り、エイリアン・ドローンには近付けない様に、注意してね。」

「分かりました。」

 コンテナに格納されていた、残り二機の球形観測機がふわりと浮き上がると、瑠菜と佳奈の操作で格納庫の外へと出て行く。それを見送る間も無く、緒美はクラウディアに声を掛けた。

「カルテッリエリさん。」

 急に呼び掛けられ、クラウディアは少し驚いて返事をする。

「Oh、はい。」

「防衛軍の動き、出来るだけ情報を集めてちょうだい。手段は問わないわ。」

 緒美のリクエストを聞いた、クラウディアの後ろに居た維月が声を上げる。

「ちょっと、鬼塚先輩、いいんですか?」

「構わないわ、非常事態よ。」

 緒美の答えを聞いて、維月は立花先生に訴え掛ける。

「先生~…。」

「わたしは、何も聞かなかった事にするわ。」

 そう応えた立花先生は、苦笑いである。

「それじゃ、お願いね。カルテッリエリさん。」

「Jawohl!(ヤヴォール)」

 緒美に対して、珍しくドイツ語で「はい。」と答えたクラウディアは、愛用のモバイル PC を取り出し、猛然と操作を始める。

「井上さんは、カルテッリエリさんのサポート、宜しく。」

「はいはい、おかしな事をやらないか、監視役ですね。了解しました。」

 諦(あきら)め顔で、そう緒美に返事をする維月に、クラウディアは言う。

「しないわよ。おかしな事なんて。」

「あー、そうですか。」

 そう維月が、聊(いささ)かぶっきら棒に答えたあとで、二人は、くすりと笑い合うのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.16)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-16 ****


 その間に、長谷川の方ではマルチコプターの準備が整い、緒美達の前を鉄板を吊り下げたマルチコプターが通過して行く。長谷川が操るマルチコプターは、懸下(けんか)している鉄板を大きく揺らさない様に注意しつつ、LMF の前方へと回り込んだ。

「鬼塚さん、こっちも準備オーケーだよ。」

「ターゲットの高さは、二、三メートルを維持してね、長谷川君。」

「分かってる。」

「それじゃ、始めましょうか。長谷川君、お昼に説明した感じで、マルチコプターの機動、お願い。」

「了解~。」

 LMF の前方でホバリングしていたマルチコプターは、一旦(いったん)、LMF から十メートルほど離れると、大きく旋回する様に向きを変え、再び、LMF へと接近を始める。
 マルチコプターが進行方向を変えるのに、本来は旋回をする必要は無い。しかし、今回の場合は凡(およ)そ 4kg の鉄板を吊り下げている為、急激な進路の変更を行うと吊られている鉄板の揺れが大きくなり、空中でのバランスを崩してしまうのだ。それを避ける為、長谷川は飛び方に気を遣っているのだった。

Ruby、シールドのブレードを展開。但し、ビーム・エッジは、オフの儘(まま)でね。」

「ハイ、茜。DFS のブレードを展開します。ビーム・エッジは、無効(ディスエーブル)。」

 樹里のコンソールから、茜と Ruby の遣り取りが聞こえる。LMF の左右のアームでは、ナックル・ガードが前進し、そこに取り付けられた DFS(ディフェンス・フィールド・シールド)の下端が前方へ向く様に回転し、格納されていた二枚のブレードが左右から回転して中央で一枚の、両刃のブレードになる。
 茜は、左肩を前に出す様に身構え、接近して来る、マルチコプターから吊り下げられた鉄板に、狙いを定めた。
 マルチコプターは LMF の左前方から右後方へと向かって、少し斜めに通過するが、茜は距離と角度を見極めて、吊り下げられた鉄板に向かって、右のアームを繰り出す。すると、右腕シールドのブレード先端が、鉄板の中央付近を突くのだった。「ガン」と言う、鈍い衝突音と共に鉄板は後方へと跳ね飛ばされ、少し遅れて鉄板に繋がれたワイヤーが機体を引っ張る形で、マルチコプターはバランスを崩す。

「うおっと、と…。」

 長谷川が慌てて、マルチコプターが墜落しないよう、上昇させる。マルチコプターの機体の揺れは、自動的に抑制されるように制御されているので、操縦担当者としては時間を稼ぐ為に、上昇させる以外に手段が無いのだ。

「鬼塚さん、余り強く叩かないように、伝えて貰えるかな。」

 長谷川が緒美へ、そう言うのと、ほぼ同時に、茜も訊(き)いて来るのだった。

「寸止めにでもした方が、いいでしょうか?部長。」

「そうね、出来るだけそうしてあげて。それで、狙った所に、当たってる感じかしら?」

「そうですね。特に違和感は、無いです。まあ、Ruby が補正して呉れてるんだと、思いますけど。」

「そうなの? Ruby。」

「ハイ、微調整を。余計でしたか?」

「そんな事は無いわ。その調子で続けてちょうだい。 あ、但し、今後は、ブレードの先端がターゲットに当たる所で、動きを止めるように補正してね、Ruby。」

「それが『寸止め』、ですか?」

「そう言う事。」

 続いて、緒美は視線を長谷川の方へ変え、声を掛ける。

「それじゃ、長谷川君。続きを、お願い。」

「了~解。」

 マルチコプターは再び、LMF の前方へと飛行し、先程と同じ様に旋回して向きを変えると、LMF への接近を開始する。茜も先程と同じ様に構えて、LMF が通過するタイミングで、今度は左のアームを前進させるのだった。しかし、今度は前回とは違い、宣言通りの『寸止め』でブレード先端が鉄板には触れる程度に制御されたのである。マルチコプターは吊り下げた鉄板を小さく揺らし乍(なが)らも、飛び去って行く。この様な、通過するターゲットを狙うテストを更に三回繰り返し、そして、その全てを成功させて、茜は緒美に、次の試験項目へ移る宣言をした。

「それじゃ、今度はこっちの脚を動かしますね。 Ruby、ホバー起動。」

「ハイ、茜。ホバー・ユニットを起動します。」

 LMF は左右脚部のホバー・ユニットを起動して浮上すると、ゆっくりと前進を始めた。

「長谷川君。」

「分かってるよ~。」

 緒美に声を掛けられ、長谷川はマルチコプターの移動を止め、吊り下げられた鉄板の揺れが収まる様に、機体を前後左右に微調整させ乍(なが)ら、ホバリングをするのだった。次は静止したターゲットを、移動する LMF が狙う試験なのである。
 進路を変えて戻って来る LMF の速度は、時速 30km 程度だろうか、東向きにマルチコプターの前を通過する際に、LMF は右のアームをターゲットへと伸ばし、シールドのブレード先端で、吊り下げられた鉄板を小さく揺らしたのだった。
 マルチコプターの前を通過した LMF は数十メートル進んで旋回すると、再び、ホバリングを続けるマルチコプターへと向かう。そして、今度は左側のアームで、擦れ違い様にターゲットの鉄板を小さく揺らす。茜は、これを五往復、繰り返したのだった。

「へえ~、上手い具合に当てられる物ね。」

 そう、感嘆の声を漏らしたのは、設置されたモニターで LMF の様子を観察している金子である。金子の右隣に居た、直美が微笑んで、言葉を返す。

「そりゃそうよ。この二週間、LMF のアーム制御の精度を上げる為に、シミュレーションを繰り返して来たんだから。」

 すると再び、緒美が長谷川に声を掛ける。長谷川は「オーケー。」と答えると、ホバリングしていたマルチコプターを、今度は五メートル程の幅で蛇行させるのだった。
 それを見て、武東が直美に訊(き)いた。

「今度は、両方が動いている訳(わけ)ね。」

「そ。」

 直美は、極短く答えた。
 マルチコプターが吊り下げるターゲットの鉄板は、マルチコプター本体の左右移動とは少し遅れて、右へ左へと揺れている。それにタイミングを合わせて、LMF は進路を調整し、擦れ違う際に右のアームを小さく振った。「カッ」と、短い金属音と同時に、ターゲットの鉄板が弾ける様に揺れ、LMF の攻撃がヒットした事が分かるのだった。
 その直ぐ後、LMF は急激に進行方向を変えると、今度はマルチコプターの追跡を始める。蛇行を続けるマルチコプターに追い付くと、左のアームで追い抜き乍(なが)ら、再度、ターゲットを揺らしたのだった。
 そんな一連の動作を五度ほど繰り返し、LMF は第三格納庫の前で、西向きに停止した。茜の声が聞こえる。

「部長、次はアーム、Ruby の単独制御でいきたいと思いますが。」

「いいわ。Ruby も、準備はいい?」

「ハイ、問題はありません。腕が鳴るかも知れませんよ。」

 Ruby の緒美への返事を聞いて、茜が笑いつつ突っ込みを入れる。

「あはは、Ruby、そこは『腕が鳴ります』でいいのよ。」

「そうですか?しかし茜、実際にロボット・アームが音を発するかどうかは、動かしてみないと分かりません。サーボ機構の作動音は、発生していると思いますが。」

「『腕が鳴る』って、そう言う意味じゃないから。」

 そこで、緒美が割って入るのだった。

「慣用句の説明は後にしてね。テスト、続行するわよ。」

「あ、はい。Ruby、アーム制御の連動モード、解除。」

「ハイ、連動モードを解除します。以降、ターゲットの指定と、攻撃タイミングの指示をお願いします、茜。」

「分かったわ、Ruby。」

 茜の返事が聞こえると、緒美の前方に立つ長谷川が、振り向いて緒美に尋(たず)ねる。

「鬼塚さん、それじゃ、始めるよ。」

「どうぞ。 お願い。」

 長谷川の操るマルチコプターは、LMF の前方へと回り込み、ターゲットの鉄板を LMF の正面へと接近させていく。茜は視線でターゲットを指示しつつ、Ruby に言うのだった。

Ruby、ターゲット、ロック。」

「ターゲット、ロックオン。」

Ruby、攻撃は、さっきみたいに、寸止めでね。」

「ハイ、分かっています。所で、攻撃は左右、どちらのアームで行いますか?」

「それも、あなたの判断に任せるわ。」

「分かりました。」

 そんな遣り取りをしていると、ターゲットが攻撃が可能な距離まで接近して来る。茜は、攻撃の音声コマンドを発する。

「アタック!」

「アタック。」

 茜の指示に対し、普段と変わらない調子で Ruby は復唱し、右のロボット・アームを前方へと繰り出した。そのアームに取り付けられたシールド先端のブレードは、正確にターゲットの中央付近を叩き、そしてピタリと動きを止めて、マルチコプターの飛行には影響を与えなかった。

「いい感じよ、Ruby。」

「ありがとうございます、茜。」

 LMF の後方へ飛び去って行ったマルチコプターは、再び LMF の前方へと回り、再度、LMF へと向かって来る。

「ターゲット、ロック。」

「ターゲット、ロックオン。」

 その後、マルチコプターは飛行経路を変え乍(なが)ら LMF へと接近し、その都度、ターゲットの鉄板を的確に叩いたのだ。それは、LMF 側が動いての場合でも変わらなかった。

「この様子なら、LMF の動作データ、本社に提供しても良さそうですね。」

 樹里が、微笑んで緒美に言うのだった。そして「そうね。」と、緒美が言葉を返した時である。
 格納庫の外から「シュルシュルシュル」と、空気の噴出する様な、聞き覚えの有る音が聞こえて来たのだ。
 茜は LMF を第三格納庫の前で南側に向けて機体の動きを止め、続いて、西側へと向きを変える。

「部長…。」

 茜が、そう呼び掛けて来た瞬間、LMF とは二十メートル程の距離を取りつつ、扇状に取り囲む様に、格闘戦形態に変形したエイリアン・ドローン、トライアングルが六機、着地したのだった。
 余りにも突然なエイリアン・ドローンの出現に、格納庫内に居た一同は声を出す事を忘れたかの様に驚いていた。茜を除いて、動いているトライアングルを、画像ではなく直に目撃するのは、皆、初めてだったのだから無理も無かった。
 そして、緒美が静かに、一同に声を掛ける。

「皆(みんな)、取り敢えず動かないで。先生方も。 アレは動く物に、強く反応しますから。」

 それを聞いた一同は、それぞれに息を呑んで、緒美の指示に従う。
 格納庫の外では、トライアングルも様子を窺(うかが)っているのか、距離を詰めては来ない。そんな折(おり)、長谷川が特に操作した訳ではなかったが、風に煽られたのかホバリングを続けていたマルチコプターが、揺れる様に東向きに移動したのである。恐らく、風の影響を受けたのは吊り下げられている鉄板で、その荷重に本体が引っ張られバランスを微妙に崩したのを、マルチコプターの自立性制御で姿勢を建て直したのだと思われたが、そんな理屈はエイリアン・ドローンには関係が無かった。
 マルチコプターの位置に近かったトライアングルの一機が、揺れる様に動作したそれに、飛び掛かる様に接近すると、右腕の鎌状のブレードを振り下ろしたのである。
 両断されたマルチコプターは虚しく落下し、乾いた音を響かせた。

「ああ~くそっ。」

 呻(うめ)く様に、長谷川が声を上げると、前園先生が声を掛ける。

「気にするな、長谷川君。あれ位(くらい)の被害で済めば、安いもんだ。」

 マルチコプターに反応したトライアングルは、LMF に十メートル程の距離まで接近していたが、事が済むと他の機体と同じ位の距離まで下がるのだった。
 天野理事長が、緒美に問い掛ける。

「鬼塚君、奴らの目的は、前にキミが言っていた…。」

「はい。恐らく、HDG と LMF の脅威度判定だと思います。」

「何故、襲って来ない?」

「LMF とドッキングした状態の HDG を見るのは、奴らは初めての筈(はず)なので、取り敢えず今は、様子を見ているのではないかと。」

「成る程な。」

 続いて、塚元校長が緒美に尋(たず)ねる。

「この儘(まま)、動かないで居たら、飛んで行って呉れるかしら?」

「それは無いでしょうね。何(いず)れ、攻撃して来ると思います。」

 緒美は冷静な表情を崩さず、答えたのだった。更に、塚元校長が言う。

「天野さんの装備が目標なら、何とか、天野さんを逃がす訳(わけ)にはいかない?」

 今度は少し苦笑いして、緒美は言葉を返す。

「逃げて、どうします? 天野さんが逃げる前に、HDG を解除してる所を襲われるのがオチですよ。 LMF を囮(おとり)として切り離して、HDG が離脱するって手も考えられますけど。でも、向こうの数が多いですから、何機かは離脱した HDG を追うでしょう。やるなら或る程度、相手の数を減らしてから、じゃないと。」

 緒美はヘッド・セットのマイク部分を右手で摘(つま)まむと、茜に呼び掛けた。

「天野さん、取り敢えずディフェンス・フィールドをオンにしておいて。」

 その指示には直ぐに、返事が返って来る。

「もう、してあります。」

 緒美は口元に笑みを浮かべると、「流石ね。」と声を掛け、続いて茜に指示を伝える。

「この状況では、対処をしない訳(わけ)にはいかないわ。指示を伝えるから、良く聞いてね。」

「はい。でも、さっき聞こえた Ruby を囮(おとり)に、って指示だったら聞きませんよ。」

「そんな事は言わないから、安心して聞いて。」

 緒美は一呼吸して、話し始める。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第12話.15)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-15 ****


 そんな折(おり)、インナー・スーツへの着替えを終えて格納庫に降りて来た茜が、緒美達に声を掛ける。

「お待たせしました~直ぐ、HDG を起動しますね。」

 緒美達は開かれてる大扉に近い側に居た為、茜が居る二階通路から降りて来る階段、つまり格納庫の奥側からは二十メートル程の距離が有った。その為、緒美と共に居た一団が誰なのか、茜には直ぐには解らなかったのだが、その人数から兵器開発部のメンバー以外の人が居る事は明白だったのだ。そして間も無く、その中に祖父である天野理事長が混じっている事に、茜は気が付いた。

「おじ…理事長!こんな所で、何してるんですか。」

 十メートル程、大扉側へと進んで、HDG の接続されたメンテナンス・リグの前辺りから、思わず上擦った声を上げる茜だった。天野理事長は、落ち着いて答える。

「お~う、校長達と一緒に、ちょっと見物、いや、見学させて貰うよ。」

 茜は、緒美に呼び掛ける。

「宜しいんですか?部長。」

「構わないわよ~別に。天野さんは、何時(いつ)も通りにやってね。」

 一瞬、返事に詰まる茜だったが、一息を吐(つ)いて声を返す。

「分かりました~。」

 すると、傍(そば)にやって来た瑠菜が、茜に声を掛ける。

「こっちの準備は、出来てるよ。」

「はい。」

 そう返事をすると茜は、ステップラダーを駆け上がり、その頂部で腰を下ろす。そこへ、瑠菜が声を掛けるのだった。

「何時(いつ)も通りにね、天野。」

 声の方へ視線を向けると、瑠菜とブリジットが微笑んで茜を見上げていた。茜も微笑んで、答える。

「分かってま~す。」

 そして茜は、何時(いつ)も通りの手順で、HDG に自身を接続していった。
 装着が終わると、メンテナンス・リグの前からステップラダーが退(ど)かされ、茜の HDG が床面へと降ろされると、接続が解放された。茜はメンテナンス・リグから離れると、LMF の前へと歩いて移動するのだった。
 その、一連の様子を眺(なが)めていた塚元校長が、ポツリと言う。

「ああ、動いた。歩いてる。」

 それに釣られる様に、天野理事長も言うのだ。

「そう言えば、動いている所を直に見るのは初めてだな。レポートに添付されていた動画なら、何度か見たが。」

 立花先生が、天野理事長に問い掛ける。

「如何(いかが)ですか?直接、ご覧になって。」

「そうだね。キミと鬼塚君のレポートから丸二年、それで、ここ迄(まで)進んだかと思うと、なかなか感慨深い物が有るね。」

 天野理事長は、立花先生の方へ視線を送ると、ニヤリと笑う。一方で、背後での、その遣り取りを聞いた緒美は振り返って、天野理事長に言った。

「これも、本社の皆さんの、努力の賜(たまもの)かと。」

「いや、キミのアイデアが有ってこそだよ、鬼塚君。」

 天野理事長は、直ぐに緒美へ言葉を返した。緒美は微笑んで「恐縮です。」と答え、LMF の方へと視線を戻す。
 LMF の側では、HDG の接続作業が瑠菜とブリジットの補助の元、着々と進んでいる。緒美はもう一度、振り向いて言った。

「先生方、此方(こちら)へ。ここに居ますと、外へ出る LMF の進路上になりますので。」

 そう言って、東側へと緒美は歩き出す。立花先生を始め、天野理事長や塚元校長、そして前園先生が後に続いて移動を始める。長谷川、金子、武東の三名も、先生達のあとに付いて歩き出すが、緒美の背後から金子が声を掛けるのだった。

「わたし達も、この儘(まま)、見ててもいい?鬼塚。」

 緒美は声の方へ振り向いて、答えた。

「いいけど、秘密は厳守でお願いね。」

 そう言った緒美の表情は、笑顔である。金子も微笑んで、声を返す。

「分かってる~。」

 緒美は安全と思われる、東側の一階倉庫扉前付近へ移動を終えると、HDG のメンテナンス・リグの向こう側に居る樹里に向かって、手招きをしつつ声を掛ける。

「城ノ内さ~ん、コンソールをこっちへ。」

「は~い、部長。」

 樹里はデバッグ用のコンソールを押して、緒美の居る方向へと移動を始める。そのあとを、コンソールに繋がるケーブルを捌(さば)き乍(なが)ら、クラウディアと維月が付いて来るのだった。

「部長、これを。」

 緒美の元まで到達した樹里は、早速、緒美に Ruby のコマンド用ヘッド・セットを渡すのだ。それを受け取り、自(みずか)らに装着した緒美は、樹里に指示を出すのだった。

「通信の音声、そのコンソールで先生方にも聞かせてあげて。」

Ruby の声も、出ますけど?」

「まぁ、構わないわ。一一(いちいち)解説するのも面倒でしょう?」

「わっかりました~。」

 樹里は、緒美のリクエスト通りに設定変更の操作を始める。緒美は口元へマイクを寄せ、茜と Ruby に呼び掛ける。

「天野さん、Ruby、聞こえる?鬼塚です。」

 両者からの返事は、直ぐに返って来る。

「はい、聞こえてます。何でしょうか?部長。」

「ハイ、此方(こちら)も良く聞こえます、緒美。」

 その返事は、既に樹里のコンソールから出力されている。

「この通信、城ノ内さんのコンソールから、音声出力される設定になっているから、了解しておいて。今日は、見物人(ギャラリー)が多いから。」

「ええ~、取り敢えず了解しました。以後、発言には注意します~。」

 茜が、そう返事をして来るので、緒美は笑いつつ「そうして。」と返すのだった。そして、続いて Ruby が訊(き)いて来る。

「緒美、ギャラリーの中には、まだ、ご挨拶をしていない方が数名見受けられますが、如何(いかが)致しましょう?」

 因(ちな)みに、この時点で Ruby と面識の無いメンバーは、塚元校長と会長秘書の加納、自警部の長谷川、飛行機部の金子と武東、以上の五名である。LMF の頭部、複合センサー・ユニットが、緒美達の方へ向いているのが見て取れるが、緒美は真面目な顔で言った。

「悪いけど、挨拶は後(あと)にして、Ruby。HDG のドッキングが終わったら、メイン・エンジン・スタートよ。」

「分かりました。それでは、初対面の皆様とのご挨拶は後程。ドッキング・シークエンスを続行します。」

 天野理事長とは本社のラボで、前園先生に就いては昨年来、CAD の講習等で度度(たびたび)、部室を訪(おとず)れていたので、Ruby は、その二人には面識が有ったのである。
 一方で、金子が近くに居た恵に、声を掛ける。

「さっきの、挨拶がどうとか、言ってた女の人は誰?」

Ruby の事? あの LMF に搭載されている AI よ。」

 そう言って、恵は LMF を指差す。すると、続いて武東が所感を述べる。

「へぇ、戦車の制御 AI にしては、挨拶だとか、らしからぬ事を言うのね。」

「元元が汎用 AI として開発されていた物らしいから。詳しい事は、わたし達も知らないんだけど。」

 そこで、長谷川が金子と武東に尋(たず)ねるのだった。

「キミらは、あれが動いてる所、見た事が有るの?」

 金子は、短く答える。

「有るよ。」

 それに補足する様に、武東が言うのだった。

「飛行機部は、第一格納庫で部活やってるから。兵器開発部が試運転で、滑走路やエプロンを使ってれば、自然と見えちゃうのよね。他の部活や、一般の生徒は、こっち側には滅多に来ないから知らないでしょうけど。」

「って言うか、自警部はアレの存在とか、知らなかったの? 一年前からここに有ったのに。」

 金子は横目で長谷川の方を見乍(なが)ら、ニヤリと笑って言った。長谷川は、苦笑いで答える。

「知らなかったよ、先月の騒動で、ここに立ち入る迄(まで)はさ。そのあとも、ここに有る物は本社が管理する資産だから、自警部や学校が関与する必要は無いって言われてるしさ。」

「ふうん、そうなんだ。 ちょっと意外ね。てっきり、自警部も一枚噛んでる物だと思ってたわ。」

 金子と長谷川の会話に、割り込む様に恵が一言。

「あ、Ruby…あの AI に関しては、国家機密級のプロジェクトだそうだから、絶対に他言はしないでね。」

「え?マジ?」

 驚いて言葉を返したのは、金子である。続いて、長谷川がポツリと言う。

「道理で、追い出される訳(わけ)だ。」

 そこで LMF の、メイン・エンジンの起動する音が、聞こえて来たのである。茜と Ruby からの報告に対して、てきぱきと状況を確認し、進めていく緒美の様子を、その背後から眺(なが)めて、武東は左隣に居た恵に耳打する。

「鬼塚さん、カッコいいわね。」

 恵が怪訝な顔付きで、武東の方へ視線を動かすと、当の武東は、くすりと笑って見せた。
 丁度(ちょうど)その時、LMF のホバー・ユニットが唸(うな)りを上げ、噴出した気流が床面に沿って四方へ広がる。格納庫内に風を巻き起こし乍(なが)ら、LMF はゆっくりと前進を始めたのだった。そして、瑠菜と佳奈が操作する、球形観測機が二機、LMF を追い抜いて外へと飛び出して行った。
 振り向いて、長谷川に緒美が言う。

「それじゃ、長谷川君。其方(そちら)の方も、準備をお願い。」

「了解。」

 長谷川は、マルチコプターのコントローラーを取りに向かった。
 LMF は格納庫を出て十メートル程進むと、西向きに姿勢を変えて停止する。続いて、腕部と脚部を展開し、『中間モード』へと、LMF は移行したのだった。

Ruby、アームの制御は、連動モードで。」

 茜の Ruby への指示が、樹里のコンソールから聞こえる。
 LMF の方へ目を遣ると、その前面にセットされている茜の HDG と同じ様に、LMF のロボット・アームが構えるのが見て取れた。続いて、茜はシャドー・ボクシングの様に何度か腕を振って、その連動感覚を確かめるのだった。

「部長、此方(こちら)は、準備完了です。」

「オーケー。ちょっと、その儘(まま)。待機しててね、天野さん。」

 緒美は横を向き、隣のコンソールをモニターしている樹里の傍(そば)に控えているクラウディアと維月に、問い掛ける。

「この間みたいに、観測機からの映像をモニターに映すのは、大変かしら?」

「いえ、モニターを持って来て、コンソールと繋げばいいだけですから。表示用のソフトは、コンソールに入ってますよね?城ノ内先輩。」

 クラウディアに尋(たず)ねられ、樹里は即答する。

「勿論。寧(むし)ろ、それを消す理由も無いしね。」

「それじゃ、準備をお願い。お客さん達にも。テストの様子が見易い様に。」

 緒美の指示を受け、「分かりました。」と維月が答えると、クラウディアと二人、シミュレーターの状況を表示するのに使用していた二台のディスプレイと、それを乗せていた長机を取りに向かった。それには、手の空いていた直美や恵、ブリジットも参加して、ディスプレイの設置と配線接続が手早く進められたのである。

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.14)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-14 ****


 そして、昼休みを挟(はさ)んで、緒美達が LMF の稼働試験準備を進めていると、何故か次々と第三格納庫への来客があるのだった。
 最初にやって来たのが、塚元校長と天野理事長、そして理事長の秘書である加納だった。三人は加納の運転する自動車を格納庫の南側に止めると、開かれていた大扉の方から中へと入って来た。その応対を立花先生がしていると、今度はそこに自転車に乗った前園先生が登場するのである。
 LMF の稼働試験の機材としてマルチコプターと、その操作担当者の借用に就いて、自警部に依頼するのを塚元校長経由で相談した事から、理事長と前園先生には話が伝わったらしい。

「わたし達、外野の事は気にしないで、準備を進めて呉れ。」

 そう天野理事長が言うので、緒美は言われた通りに、気にしないで準備を進める事にした。すると、今度は聞き覚えのある女子生徒の声が、大扉の方から呼び掛けて来るのである。

「鬼塚~、兵器開発部に男子、居たっけ?」

 緒美が声の方へ目をやると、その声の主は飛行機部の部長、金子 博美だった。その後ろには会計担当の武東(ムトウ) さやかの姿も在った。金子と武東の二人とは、昨年の『自家用操縦士免許』取得の為の合宿以来、友人関係が続いていたのである。
 緒美が、声を返す。

「どうしたの?金子ちゃん。 武東ちゃんも。」

「うん?ああ~次の飛行訓練の日取り、予定通りでいいのか、聞いとこうと思ってさ。」

「そんなの、携帯のメールででもいいのに、わざわざ?」

 緒美が金子に、そう聞き返すと、金子の背後から武東が答える。

「いやぁ、ほら、久し振りにこっちの格納庫の大扉が開いてたから。又、試運転とかやるのかなって、思って。」

 そこに、直美が参加して来る。

「あはは、何だよ、野次馬かよ~金子。」

「うん、まぁ、そんな所~。」

 そこで、少し離れた場所に居る塚元校長や天野理事長達に気付いた金子が、声を上げる。

「あ、校長に理事長、それに前園先生、ご苦労様で~す。」

 金子と武東の二人が一礼すると、塚元校長が手を振って応えるのだった。

「それで、飛行訓練の日取りだけど。この前の予定通りでいいよね?新島ちゃんも。」

 緒美が直美に確認を取ると、直美も即答して、金子に聞き返す。

「ああ~いいよ。でも、何で?」

「だって、昨日聞いた予定だと、二人共、帰省からこっちに戻って来る翌日になるじゃない。大丈夫かな?って、思って。」

 続いて、武東が言う。

「さっきスケジュール確認してたら、その事に気が付いて。それで、聞いておこうと思って来たの。」

「大丈夫よ。予定してあれば、それに合わせるように調整するから。ねぇ、新島ちゃん。」

「うん、そうそう。それに、天気次第じゃ、実際にフライト出来ない場合も有るしさ。」

「そう。 じゃぁ、予定しとくね~。」

 金子は、そう言って微笑むのだった。

 ここで緒美達が話している『飛行訓練』とは、取得した『自家用操縦士免許』の技量維持の為に、月に二回程度、緒美と直美が飛行機部の機材を借りて、それぞれが一時間程の飛行と、離着陸の訓練を実施するものである。安全の為、先に PC のフライト・シミュレーターで操作手順や操縦感覚の確認を行い、然(しか)る後(のち)、実機でのフライトを行うのだ。

 因(ちな)みに、この時代に『自家用操縦士免許』の取得が容易になるような環境整備が行われたのは、四~五十年前に『空飛ぶ自動車』を次世代の産業の柱にしようと、政府や産業界が画策した事の名残なのである。
 技術的に、そう言った機材の実用化が可能になりつつあった事が時代背景として有るのだが、無免許の者に無闇な飛行を許すべきではない、との見解が所管の省庁から提起され、関連する法整備が行われたのだ。これに拠り、『空飛ぶ自動車』で飛行を実施するには、航空機用の『自家用操縦士免許』が必要と言う事が定められ、それに合わせて免許取得の為の教育機関等の拡充が計られたのである。
 所が、実際には『空飛ぶ自動車』、法的には『特定軽航空機』と呼ばれるが、それは殆(ほとん)ど普及する事が無かったのだった。『特定軽航空機』の飛行は、雨や風など天候の影響を受け易く、加えて、飛行高度も通常の航空機よりも低空を飛行する規定が設けられた為に、一度(ひとたび)トラブルが発生すると、回復の手を尽くす間も無く墜落する危険性が高いのである。しかも、低空からの墜落の場合、滑空で移動が出来る距離も限られ、更に言うと『特定軽航空機』は、その形態によっては殆(ほとん)ど滑空が不可能な機体も存在する為、住宅地や市街地の上を飛行していると、民家や各種施設を避けて不時着する事が難しいのだった。実際に、その様な事故も数件が発生し、結果、『特定軽航空機』は民家や市街地の上空は飛行禁止とされたのである。
 辛うじて、幅の広い道路の上空は飛行可、と言う事にはなった物の、都市部地上交通の渋滞解消だとか、自由な移動手段とする等、当初に期待された導入の意味やメリットが、ほぼ無くなってしまったのだった。結局は、郊外や地方での、『高価な趣味』としての利用が精精(せいぜい)となっているのが現状なのである。

「所でさ、彼は?新入部員?」

 金子は、少し離れた場所でマルチコプターの点検をしている長谷川を指差して、緒美に尋(たず)ねた。同じ学年でも、学科の違う男子生徒である長谷川とは、金子も武東も面識が無かったのである。

「ああ、長谷川君? 自警部からの応援よ。今日の試験でね、マルチコプターが必要だったから。」

「自警部から? あぁ、そうか。それで、どこかで見掛けた様な気がしてたのね。」

 緒美の回答に対する、武東のコメントである。そこへ、塚元校長と立花先生が、緒美達の所へと歩み寄って来るのだった。天野理事長と秘書の加納氏、前園先生の三名は、長谷川の所でマルチコプターに就いて談義している様子である。

「金子さんと武東さんは、今日はどうされたの?」

 塚元校長が、そう声を掛けて来るので、金子は少し笑って答えた。

「あはは、徒(ただ)の野次馬です。」

「お二人は、兵器開発部の活動内容に就いては、御存知なの?」

 塚元校長の、丁寧な言葉遣いの問い掛けには、武東が答える。

「あ、はい。大雑把には聞いています、校長先生。」

「秘密に関する個別の事柄に就いては、詳しくは知りませんけど、秘密保持の件は心得ていますので、ご心配無く。」

 続いて金子も、笑顔で声を揃(そろ)えるのだった。それには少しだけ苦笑しつつ、塚元校長は言うのだ。

「会社の方針とは言え、あなた達にも迷惑、掛けるわね。」

「いいえ、迷惑、なんて事は無いですよ。」

 少し慌てて、武東が声を上げると、金子も続いた。

「そうですよ。去年の合宿で、大まかな話を聞いてから、わたし達も出来る範囲で協力したいって思ってたんですから。」

「合宿って?」

 塚元校長の、その問い掛けには、緒美が答えた。

「去年の、ちょうど今頃、飛行機の『自家用操縦士免許』の取得に、この四人も参加してたんですよ。それ以来、飛行機部には色々と、協力して貰っています。」

「そうだったの。」

 塚元校長は、大きく頷(うなず)いて見せるのだった。

「しかし、校長にわたし達の名前も、覚えて貰ってるとは思わなかったな~、ねぇ、さや。」

「ホントね、ちょっとビックリした。わたし達は鬼塚さん程、有名人じゃないもんね~。」

 金子と武東がそう言って、クスクスと笑っていると、塚元校長は真面目な顔で言うのだった。

「あら、二年生と三年生の顔と名前位(ぐらい)、大体、把握してますよ。一年生のは、まだ、ちょっと怪しいけど。」

 そんな話をしていると、緒美の背後、格納庫の奥側から、瑠菜の呼び掛ける声が聞こえる。

「部長ー。観測機のカメラテストに、一度、外へ出します。」

 緒美は直ぐに振り向いて、答える。

「いいわ、やってちょうだい。」

「は~い。」

 緒美に返事をしたのは、瑠菜の隣に居る佳奈である。
 瑠菜と佳奈が操作するコントローラーの前に置かれた、二つのコンテナから、それぞれ二機ずつの球形観測機が浮き上がる様に飛び立つと、人の背丈程の高さで大扉の外へと出て行くのだった。
 金子が、緒美に尋(たず)ねる。

「何?アレ。」

「ああ、記録用の機材よ。リモコン・ヘリみたいな物で、球形のボディに、二重反転ローターと、下側に撮影用の機材が入ってるの。」

 感心気(げ)に、武東も言うのだった。

「へえ~、面白い。あんなの有ったんだ。」

「有ったって言うか、先月の始め頃に、本社の開発から試験の映像記録用にって、預かったのよ。」

 直美が、補足説明をする。すると、長谷川が緒美達の方へと歩き乍(なが)ら、言うのだった。

「あんなの有ったのなら、自警部(うち)のマルチコプターは要らなかったんじゃないの?」

 直美が透(す)かさず、反論する。

「だから、アレは本社からの預かり物だってば。勝手に改造とか、出来ないでしょ。」

「それに観測機には、4キロの鉄板を吊り上げる程の能力が無いのよ。」

 緒美が補足すると、「あ、そうなんだ。」と、長谷川も納得するのだった。そんな長谷川に、塚元校長が声を掛ける。

「そちらのドローンも、準備は出来たの?長谷川君。」

 それには一瞬、戸惑って、長谷川は答える。

「え?…あ、はい。大丈夫です。」

 すると長谷川の背後から、前園先生が苦笑いしつつ、塚元校長に言うのである。

「校長、今は、あの手の物を『ドローン』とは言わないんですよ。」

 塚元校長は一瞬、何かを思い出した様な表情になり、言った。

「そうね、今は『マルチ、コプター』だったかしら…昔はね、こう言う物を一括(ひとくく)りにして『ドローン』って呼んでたのよ。」

 すると、金子が聞き返す様に言う。

「『ドローン』って。 徒(ただ)のリモコン機ですよ?あれ。」

 その問い掛けには、それ迄(まで)、黙って様子を見ていた立花先生が答える。

「う~ん、それはそうなんだけど。 2000年代に『ドローン』って言われてたのは、もっと以前から有った、ホビー用途のにせよ産業用のにせよ、それらのリモコン機と比べて、格段に操作が簡単になったのと、特にマルチコプターは、それ以前のリモコン・ヘリとは随分と形状が違うから、別の物として新しい名前で、世間一般では呼びたかったらしいのよね。それで、マルチコプターとかが一般化した頃には、みんな纏(まと)めて『ドローン』って呼んでたらしいのよ。 一方で『ドローン』って言う名称に就いては、マルチコプターが登場するよりも、もっと前から、そう呼ばれていた物は有ったんだけど、そっちは一般的には、余り知られていなかったみたいなのよね。」

 今度は、武東が立花先生に尋(たず)ねる。

「それは、どんな物だったんですか? その、2000年代より前の『ドローン』って。」

「形式は色々と有った筈(はず)だけど。一番多かったのは、本物の旧式戦闘機を遠隔操作出来るようにした、無人標的ドローン、かしら?」

 その立花先生の答えを聞いて、天野理事長が笑って言うのだった。

「あはは、立花先生はお若いのに、良く御存知ですな。」

「ああ、いえ。入社してから、防衛装備に就いて色色と調べている内に見付けた情報ですけど。間違ってたら、修正をお願いします。」

「今の所、大丈夫だと思うよ。」

 天野理事長は、笑顔で答えた。一方で、今度は直美が、立花先生に問い掛ける。

「標的?ですか。」

「そう、地上発射の迎撃ミサイルや、空中戦用の空対空ミサイルの標的にしてたの。そんな物だから、一般の人には、『ドローン』って言葉には、余り馴染みが無かったらしいのよね、その当時、2000年代以前は。」

 続いて、金子が質問する。

「ふうん、それで、マルチコプターを『ドローン』って言わなくなったのは、どうしてですか?」

「それは、軍事用の攻撃型ドローンが、各国の軍隊で一般化したからよ。」

 塚元校長が答えると、天野理事長が続く。

「それ以前は、立花先生の説明の通り『ドローン』って言えば試験用の標的か、でなければ、戦場での偵察用機材だったから、兵器オタク位(ぐらい)じゃないと知らなかったんだけどね。」

 そして再び、塚元校長が解説する。

「戦闘用になって、それが紛争なんかで使用されたってニュースが多くなると、一気に『ドローン』って名称の、一般人のイメージが悪化したわよね、それが二十年、三十年位(くらい)前の事かしら。」

 その話を聞いて、少し呆(あき)れた様に武東が声を上げる。

「それで、言い換えたんですか。」

 それには、天野理事長がコメントを返す。

「そりゃ、そうさ。一度(ひとたび)『ドローン』って呼び名に兵器のイメージが付いちゃったら、民生向けの製品にはその名前は使い辛いからね。企業活動の方針としては、まぁ、当然の対処だな。」

「それに、最近じゃ『ドローン』って言うと、『エイリアン・ドローン』の方を連想しちゃいますしね。」

 そう補足した立花先生は、少し苦笑いだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第12話.13)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-13 ****


 その翌日、2072年8月8日、月曜日。
 前日迄(まで)と同じ様に、この日も朝から LMF のシミュレーターに因る、格闘戦動作データの集積が続けられていた。そんな中で午後二時を過ぎた頃に報じられた情報に、兵器開発部のメンバー達は緊張するのだった。九州北部でのエイリアン・ドローンの襲撃、その報道である。
 報道を受け、緒美達はシミュレーターの実行を中断し、それ以降の情報の推移に注目した。幸いにも、天神ヶ崎高校の地域に迄(まで)で、エイリアン・ドローンが到達する事は無く、午後四時を前にして事態は収拾されたと報じられたのである。

「流石に、防衛軍の迎撃態勢が、追い付いたって所かしら?」

 防衛省からの事態収拾の発表を受けて、安堵(あんど)した様に、そう、立花先生が言った。続けて、直美が尋(たず)ねる。

「これで暫(しばら)くは、安心していいんですかね?先生。」

「そりゃ、防衛軍だって遊んでる訳(わけ)じゃないでしょうから。安心させて貰えないと、困っちゃうわよね。」

 続いて、恵が立花先生に話し掛ける。

「襲撃が有っても、今回みたいに防衛軍が水際で撃退して呉れるなら、わたし達が出て行く心配をしなくてもいいんですけどね。」

「まあ、そこの所は、防衛軍を信頼するしかないでしょう?」

 その一方で、クラウディアが何やら不穏な事を言い出す。

「でも、撃墜した数が合ってないって、そんな話も出てますね、ネットでは。 こんなのは珍しい、みたいですけど。」

「どう言う事?クラウディアちゃん。」

 立花先生に聞き返されて、クラウディアは自分の PC を操作しつつ、答える。

「何人か、この手の事件の推移を追い掛けてるウォッチャーが居るんですけど、最初に発表したエイリアン・ドローンの数と、撃墜数の最新値に十機前後の誤差が有るって…まあ今の所は、集計の間違いかも、ですけど。」

「珍しいの?そう言う事。」

 クラウディアの説明を聞いて、立花先生は緒美に尋(たず)ねた。緒美は小さく頷(うなず)くと、答える。

「そうですね、余り…聞いた事が無いですね、そんな事例は。防衛軍は、発表する数字には気を遣ってると、思ってましたけど。」

「…あ、防衛軍も数が合わない事に関しては、認めてますね。五、乃至(ないし)は八機の行方が不明。記録を照合中、だそうです。」

 クラウディアが操作する PC のディスプレイを彼女の背後から覗(のぞ)き込み、維月が言う。

「あなた、まさかハッキングしてないよね?」

「してません。ご覧の通り、普通に、公式発表されてるでしょ。」

「あ、ホントだ。」

 左後方に立っている緒美の方へ首を回し、クラウディアは訊(き)いてみる。

「何でしたら、防衛省にアクセスして、もうちょっと探ってみましょうか?部長さん。」

 緒美はニッコリと笑い、答えた。

「それには及ばないわ、カルテッリエリさん。」

 緒美の答えに被せる様に、維月が釘を刺す。

「やっちゃダメ、って意味だからね。解ってる?クラウディア。」

「説明して呉れなくても、解ってます、イツキ。」

 その後は、直美とブリジットがそれぞれ一時間ずつ、LMF のシミュレーターを実行して、その日の部活は終了となった。勿論、夜間の Ruby に因る自律制御でのシミュレーター実行は、前日迄(まで)と同じ様に続けられたのである。


 一日置いて、2072年8月10日、水曜日。
 兵器開発部の部員達が帰省の為に学校を離れるのは、明後日の12日からの予定だったが、LMF の格闘戦用動作データ取りが順調に進んだ事もあり、事実上この日が夏休み期間中の部活最終日となっていた。活動休止期間は一日繰り上げて明日から、との扱いになり、部員達それぞれは、翌日を帰省の準備に充てる積もりでいた。
 そして、この日のメニューは、LMF を実際に稼働しての、ロボット・アームの動作確認である。
 前日迄(まで)、シミュレーターに因ってロボット・アーム動作の制御経験を積み上げて来た Ruby だったが、それが実際の運用でも活かす事が出来るのか、それを確認しておく必要が有るのだ。とは言え、最初から完全に Ruby の制御に因る操作では、何らかの不具合が有った際に危険なので、最初は HDG を接続しての『連動モード』から、動作確認を行う計画が立てられたのである。

「どうして、俺はこんな所に居るんだろう?」

 場違いな雰囲気に飲まれつつ、自警部の三年生、長谷川 健治はポツリと言った。
 見回せば、概(おおむ)ね夏の私服姿の女子達が、例えば浮上戦車(ホバー・タンク)の操縦席部分を切り離す作業をしていたり、唯一人、制服を着ている同学年の緒美は何かのコンソールの前で下級生の女子二人と難し気(げ)な打ち合わせをしていたり、或いは、少し離れた場所には男子生徒達の間で密かに人気の立花先生が居て、そして何より、ほぼ目の前には、男子生徒達の間で一番人気の女子である森村 恵が、もう一人の下級生女子と、長谷川が自警部から運んで来たマルチコプターに、鉄板を吊り下げる為の処置をやっているのだった。健康な十代の男子高校生である長谷川に取ってみれば、それは身の置き場と、目の遣(や)り場に困る状況であり、それが一時間程前から継続中だったのである。
 そんな事を考えていた長谷川の、ほぼ無意識に出た先程の発言に、恵が答える。

「それは、長谷川君が、前にアレを見ちゃったから、よ~。」

 向かい側にしゃがみ込んでいる恵は左手の親指で、向かって右側の LMF を指している。

「アレ、って?」

「HDG と LMF。 本社が開発中の、言わば秘密兵器。偶然とは言え、マルチコプターの操縦資格保有者が長谷川君で、助かったわ。」

「何だって、あんな物騒な物にキミ達が関わって…。」

「それを知っちゃったら、秘匿するべき事項が増えるだけよ。それでも聞きたい?」

 恵は遠慮無く、長谷川の目をじっと見詰めて来るので、彼は視線を上に外して答えた。

「いや、止めとく。」

 その答えに、恵はニッコリと笑って言った。

「賢明な判断、だと思うわ。」

 そこで、その場に居たもう一人の下級生、佳奈が作業を終え、声を上げた。

「終わりました~。 外しちゃったカメラ・ユニットは、あとで元通りに付け直してお返ししますからね、先輩。」

 佳奈が言った通り、元元、マルチコプターに取り付けられていた撮影用機材一式は、その取り付け用のパーツやネジ類が、小さなトレイや、ケースに分類されて、一つのパーツ・ボックスに収められている。佳奈は、そのパーツボックスを、長谷川がマルチコプターを積んで運んで来た、手押し台車に乗せる。
 マルチコプターの方には、2メートル程のワイヤーの一端がマルチコプター下部のフレームに、もう一端が50センチ角の鉄板に取り付けられていた。

「この鉄板も秘密?」

 そう長谷川に訊(き)かれ、恵はくすりと笑って答えた。

「これは昨日、重徳(シゲノリ)先生の所で貰って来た端材ね。」

 そこへ、歩み寄って来る緒美が、声を掛けて来る。

「そっちの準備は終わった?」

「は~い、部長。終わりです~。」

 キュロットパンツにノースリーブのシャツを着た佳奈が、そう答えて立ち上がると、続いて、丈の長いワンピース姿の恵も立ち上がるので、長谷川もそれに続いた。
 因(ちな)みに、長谷川の服装はと言うと、プリント柄のTシャツに、膝丈(ひざたけ)のハーフパンツと言う組合せである。

「それじゃ、長谷川君。その状態で飛べるか、確認してみてちょうだい。」

 緒美はマルチコプターの傍(そば)まで来ると、そう長谷川に依頼する。続いて、恵が補足を加える。

「鉄板の重量は4キロ位(ぐらい)の筈(はず)だけど…。」

「なら、大丈夫じゃないかな。このモデルの可搬重量は、6キロだから。」

 そう答え乍(なが)ら、長谷川は手押し台車へと向かい、乗せてあったコントローラーを手に取る。コントローラーの電源源を入れると、今度はマルチコプターへと近寄り、本体側のスイッチを入れる。

「じゃあ、皆(みんな)、ちょっと下がってね。」

 マルチコプターの周囲から離れるように、長谷川が手を振ってみせると、緒美達は数メートル離れた位置に移動し、それぞれが機体に注目するのだった。間も無く、搭載されている六つのローターが回転を始める。

「それじゃ、行くよ。」

 モーターの回転音と、ローターが風を切る音が格納庫内に響くので、長谷川は少し大きな声を出した。LMF のコックピット・ブロックを切り離していた直美達も、その作業を終えて長谷川が操作するマルチコプターを注視していた。
 マルチコプターは、するすると垂直に上昇を始め、数秒後には、その機体下部に取り付けられたワイヤーが鉄板を吊り下げて1メートル程の高さまで持ち上げた。
 緒美は長谷川に近寄って、要望を伝える。

「ちょっと、前後左右に動かしてみて。」

「こんな感じ?」

 長谷川は緒美の要求に従い、マルチコプターを前後や左右に、高度を変えずに動かしてみせる。すると、吊り下げられた鉄板が慣性や空気抵抗で、加速するのとは逆方向へと揺れるのだった。緒美は、それを見て長谷川に訊(き)いた。

「コントロールに問題は無い?」

「この位(くらい)のスピードならね。今以上、速く動かすと、向きを変えた瞬間に、慣性で鉄板に引っ張られてバランスを崩すかも知れないけど。」

「解ったわ。取り敢えず、降ろしていいわよ。 それじゃ、午後からが、テストの本番だから、よろしくね。」

 長谷川は、ゆっくりとマルチコプターを着地させると、緒美に問い掛けるのだった。

「で、具体的には何をどうすればいいのかな? 昨日、マルチコプターを兵器開発部に持って行って、実験か何かに協力してやって呉れ、って、俺はそれだけしか自警部(うち)の部長からは、聞いてないんだけど。」

「それに就いては、これからお昼でも食べ乍(なが)ら説明したいと思うけど。お昼は、誰かと約束でも有るのかしら?」

「いや、それは無いけど。」

 その返事を聞いて、緒美は右手を挙げて部員達に声を掛ける。

「それじゃ、お昼にしましょう、皆(みんな)。」

 周囲から「は~い」との返事の後、部員達が集まって来るのだった。
 長谷川も含めて、一同は東側一階の出入り口へ向かって歩き出す。何と無く、近くに居た恵に、長谷川は尋(たず)ねてみる。

「そう言えば、あのマルチコプターにワイヤーを繋(つな)げてたブラケットはさ、アレ、こっちで作ったの?」

「ああ、あれは昨日、鉄板を貰いに行った時に、一緒に。ね、古寺さん。」

「はい。図面を持って行ったら、重徳先生が加工して呉れました。凄いんですよ~三十分掛からずに、余ってる材料からパパッと。」

「へえ~、あの重徳先生が、ねぇ…。」

 長谷川が意外に思ったのも、無理はない。男子生徒の間では、重徳先生は厳しいので有名なのである。
 そして、瑠菜が続いて言うのだった。

「実習工場の機械を借りて、わたし達で加工はする積もりだったんですけどね。佳奈が描いた、図面の出来が良かったそうで。『満点だ』って、ノリノリで加工して呉れましたよ。」

「うえ~俺なんか、あの先生に褒められた事なんか、一度も無いよ。」

「佳奈は、重徳先生からの評価が高いんですよ。実習の授業でも、一目置かれてる感じだもんね。」

「あははは~。」

 照れ笑いする佳奈に、恵が言う。

「古寺さんは、素直だしね~。」

 そこに、樹里が参加して来る。

「佳奈ちゃんは、お父さんと一緒に、昔から機械弄りとかやってたのよね。」

 それを聞いて、長谷川が尋(たず)ねる。

「お父さんのお仕事は、そっち系?」

 佳奈は即答する。

「いいえ~保険の会社です、家(うち)のお父さんの勤め先。古い機械とかのレストアは、お父さんの趣味ですよ~。」

「佳奈ちゃんに、そんな才能が有るなんて、中学の時はわたしも知らなかったな。」

 そう言って、樹里は佳奈に微笑みかけると、佳奈は「えへへ」と、又、照れ笑いをするのだった。

 そんな会話をし乍(なが)ら、一行は学食へと向かったのである。
 この後、打ち合わせを兼ねて緒美達と、うっかり昼食を共にしてしまった為、長谷川はその姿を目撃した他の男子生徒達から散散(さんざん)、冷やかされる事になる。その席に立花先生や、恵もが同席していたからなのだが、実は入学以来、常に学年トップの成績を維持していた緒美も亦(また)、結構な有名人であり、それなりに彼女のファンが存在していたのだ。
 更に後(のち)、長谷川とは割と頻繁にコンビを組む事の有る二年生の田宮が、その時の噂話を伝え聞いた事に因り、態度が急に冷たくなったりして、長谷川は少なからず困惑したりするのだが~それは、本筋とは全く関係の無い話である。

 

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STORY of HDG(第12話.12)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-12 ****


「♪ハッピーバースデー、ディア、茜~♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 二巡目のバースデーソングは、茜に向けての物だったのだ。瑠菜は、茜の耳元で尋(たず)ねる。

「あなたも、今日だったの?誕生日。」

 茜は、瑠菜の耳元へ顔を寄せて答えた。

「いいえ、17日ですけど。十日後ですね。」

 そんな茜と瑠菜の遣り取りを余所(よそ)に、間を置かず三巡目のバースデーソングが始まっていた。流石に、それが誰に向けてなのか、茜には直ぐに見当が付いたので、茜はブリジットに向けて、皆と声を揃(そろ)える。

「♪ハッピーバースデー、ディア、ブリジット~♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 皆が歌い終わると、一同が拍手をする中、恵が三本の蝋燭(ろうそく)が立てられたケーキを、三人の前へと差し出す。

「三人兼用なんだけど、一緒に吹き消して~。」

 瑠菜を挟(はさ)んで、茜とブリジットの三人が、ケーキに顔を近付けると、維月と直美がカウントダウンを始めるので、それに合わせて三人は蝋燭(ろうそく)に息を吹きかける。

「3、2、1!」

 蝋燭(ろうそく)の火が消えると、再び一同が拍手をし、口口(くちぐち)に「お誕生日、おめでとう」と声を掛けるのだった。
 瑠菜はブリジットにも、尋(たず)ねる。

ボードレールも、八月生まれだったの?」

「はい、24日、茜の一週間あとです。」

 すると、維月が瑠菜に声を掛けて来る。

「どう?驚いた?」

「どっちかって言うと、天野とボードレールが八月生まれだったのに、ビックリした。」

 続けて、恵が言うのである。

「流石に、三人にバレない様に準備を進めるのは、大変だったわ~。」

「わたし達のは、まだ先なのに。一緒にして貰えて、ありがとうございます。」

 茜が、そう言葉を返すので、直美が声を上げた。

「いいのよ~、あなた達のは、部活のお休み期間に重なっちゃってるしね。因(ちな)みに、今回の企画は、井上だよ~。」

「あははは、まあ、先月はわたしのお祝い、して貰ったし。それに、瑠菜ちゃん、前に言ってたじゃない?」

 咄嗟(とっさ)に、それが何の事かが分からず、瑠菜は聞き返す。

「え?…わたし、何か言ったっけ?」

「ほら、八月生まれだと、誕生日が夏休み中だから、学校の友達には忘れられ勝ちだってさ。」

「え~っと、ごめん、覚えてない。そんな話してた?」

 すると、樹里が声を上げる。

「言ってたよ~、わたしも覚えてるもの。」

「ああ、そうなんだ。」

 瑠菜は苦笑いで、樹里に答えるのだった。一方で、恵が茜に問い掛ける。

「天野さんも、矢っ張り、そう言う経験があるの?」

「あはは、まぁ、無くは無いですね。ねぇ、ブリジット。」

「まぁ、そうね。でも、家(うち)のは両親が張り切っちゃうので、誕生日の事で友達関係が気になった事は無いですけど。」

「そう言えば、去年は、家(うち)の母と妹まで御招待頂いて、何だか申し訳無かったわね。」

「いいのよ~家(うち)のママとパパが、茜のお母さんとのお喋(しゃべ)りが大好きなんだから。茜のお母さんとは、母国語で普通に話せるから。」

「ああ~、でも、最後の方は英語とフランス語が、日本語とゴッチャになってて。端(はた)で聞いてると、可成りのカオスっぷりだったよね、アレ。」

 茜は当時の様子を思い出して、苦笑いするのだった。

「あははは、何だかんだで、日本語が大好きだからね、家(うち)の両親。」

 その発言を聞いて、恵がブリジットに尋(たず)ねる。

ボードレールさんの、御両親って…。」

「はい、パパはフランスで、ママがアメリカの出身ですよ。」

「それじゃ、天野さんのお母様は、フランス語と英語が?」

「ええ、って言うか、ヨーロッパの言語は大体、網羅(もうら)してるみたいですよ。イタリア語、ドイツ語、スペイン語ポルトガル語…あと、何(なん)だっけ?」

 茜の返答に、複雑な表情を浮かべつつ恵は訊(き)いた。

「何(なん)だって、そんなに?」

「祖母から聞いた話ですと、母は学生時代からヨーロッパ方面への旅行が好きだったらしくて、それが高じて言語マニアみたいになった、らしいです。そんな人なので、父が仕事でヨーロッパ方面へ海外出張に行く時には、通訳として母を連れて行く程でして。」

 そこで、立花先生が会話に参加して来る。

「良く、お父様の勤(つと)める会社が認めたわね、それ。」

「ああ、最初は父が自腹で母の交通費や宿泊費を出してたみたいなんですけど、それで商談が纏(まと)まるならって。その内、母の交通費と宿泊代が経費で認められる様になって。専門の通訳の業者と契約して人件費払う事を考えたら、交通費と宿代だけで済めば、その方が割安だって。」

「成る程。」

「そんなだから、一時期、ヨーロッパ方面の商談が殆(ほとん)ど父に回される様になって、まぁ、父は大変だったらしいです。母の方は、会社のお金で好きな海外旅行を夫婦で出来て、随分と楽しかったみたいですけど。」

「あはは、なかなかに凄い話ね…。」

 立花先生と恵は、苦笑いしつつ、お互いの顔を見合わせるのだった。続いて、直美がブリジットに話し掛ける。

「そう言えばさ、ブリジットの家では、普段、何語で話してるの?」

「家(うち)で、ですか? 一応、公用語は日本語です。特に、ママはフランス語がほぼ、分からないので。わたしも、聞く方は兎も角、話すのが苦手で。」

「へぇ。」

「でも、両親は感情的になると、お互いが母国語になるので。だから、両親が喧嘩(けんか)になると、ママは英語で捲(まく)し立てるし、パパはフランス語で嘆(なげ)き始めるし。で、お互いが何を言ってるのか分からなくなって、冷静になる、って言う。」

 そこで、瑠菜が参加して来るのだった。

「へぇ~、ボードレールの家(うち)はそんな感じなんだ。家(うち)のは父親がアメリカの出身なんだけど、家(うち)でお父さんが英語で喋(しゃべ)ってるのを、見た事が無かったよな~。わたしが学校で、英語の授業が始まってからは、両親相手に英語の練習とかはやったけど。」

「ああ、瑠菜さんのお母さんは、英語、話せる人なんですか?」

「そうよ~。元元、日本語が話せない家(うち)のお父さんの、仕事や生活のサポート業務をしてたのが、家(うち)のお母さんだったそうだからね。」

「それは又、興味深そうなお話ね。」

 恵が瑠菜に、そう話し掛けた時、突然、「あっ」と、茜が声を上げた。その声に少し驚いて、緒美が尋(たず)ねる。

「どうかした?天野さん。」

 茜は右の掌(てのひら)を緒美に向けて、その問い掛けには答えず、振り向いて部室奥の窓枠に取り付けられている、Ruby の複合センサーに向かって呼び掛けるのだった。

Ruby、前にあなたの名前は、誕生石が由来だって言ってたわよね? あ、シミュレーターを実行中か。」

 茜の懸念を余所(よそ)に、Ruby は直ぐに返事をする。

「大丈夫です、茜。 此方(こちら)と会話する程度の、リソースの余裕は有ります。」

「そう、良かった。」

「お問い合わせの件ですが、茜の記憶している通りです。わたしの呼び名の由来は、天野重工のラボで、わたしが最初に起動したのが七月だったので、七月の誕生石に因(ちな)んで、Ruby と言う名前を頂きました。正確には、2069年の7月12日の事で、それがわたしのログに残っている、最も古いタイムスタンプの日付です。」

 その Ruby の返事を聞き、今度は樹里が声を上げる。

「ああ、それじゃ、Ruby は七月生まれだったんだ。先月、維月ちゃんと一緒に、お祝いしてあげれば良かったね~ごめんね、Ruby。」

「イイエ、樹里。そもそも、わたしに誕生日の概念が、皆さんと同じ様に当て嵌(は)められる物でしょうか?」

 その、Ruby の問い掛けには、維月が答えた。

「いいんじゃない? 麻里姉(ねえ)達、開発の人も、その日が Ruby の誕生日だと思ったから、誕生石に因(ちな)んで呼び名を付けた訳(わけ)でしょ? でも、Ruby の誕生日なんて発想自体、わたしには無かったなぁ。 グッ・ジョブ、天野さん。」

 維月は茜に向けて、勢い良く右腕を突き出し、サムズアップのサインを送る。茜はそれに、照れ笑いを返すのだった。

「それじゃ…。」

 樹里は維月に視線で合図を送ると、二人で声を合わせて歌い始める。

「♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 そして、その場に居た一同が声を合わせて、バースデーソングを歌うのだった。

「♪ハッピーバースデー、ディア、Ruby~♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 歌い終えると、樹里が Ruby に声を掛ける。

「一ヶ月遅れだけど、Ruby も、お誕生日、おめでと~。」

 続いて、維月が言った。

「あなたにあげられるプレゼントが、これ位(くらい)しか無くって、ごめんね、Ruby。」

「イイエ、皆さんからは沢山の経験を頂いていますので、それが、何よりのプレゼントです。」

 Ruby の返事を聞いて、恵は笑って言った。

「あはは、Ruby は相変わらず、いい子だね~。」

 続いて、ジュースの入ったコップを持って立ち上がった緒美が、声を上げるのだった。

「それじゃ、瑠菜さんと天野さん、ボードレールさん、そして Ruby の健康と成長を祝して、乾杯。」

 一同が、それぞれにコップを掲げて「乾杯」を唱和し、飲み物に口を付ける。
 そして、それからは暫(しばら)く、Ruby も交えての談笑が続いたのである。

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.11)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-11 ****


「どうしたんです?それ。」

 続いて、瑠菜が問い掛けて来るので、恵が答える。

「立花先生が手配して呉れてたのよ、リースとか、本社工場の余剰品だって。」

「へえ~、今日も昼前から暑くなりそうだし、助かりますね。」

 そう言って、維月は笑っている。そこで茜が、ふと思った疑問に就いて、恵に訊(き)いてみるのだった。

「そう言えば、恵さん。去年迄(まで)は、どうされてたんです?夏の間。」

「ああー、去年迄(まで)はね、図面と仕様書の作業が中心だったから、格納庫(こっち)での作業は殆(ほとん)ど無かったのよ。特に夏の間には。」

 恵の説明を受けて、直美が口を挟(はさ)む。

「LMF がここに運ばれて来たのが、去年の前期中間試験のあとだっけ? それから、Ruby を LMF に搭載する作業が有ったけど、あの時は、六月の終わり頃だったけど、そんなに暑かった記憶は無いものね。」

 直美の発言を受けて、瑠菜が思い出した様に言った。

「どっちかって言うと、今年の二月に HDG や LMF のプラズマ砲を搬入した時とかの、寒かった印象の方が強いですよね、格納庫(ここ)には。」

「そうね。LMF の動作確認とか、副部長が試運転とかしてたのは、去年の夏休みに入ってからだったけど。あれは格納庫の外での作業だったから、ここの中での記憶って言うか、印象じゃないのよね。」

 何やら染み染みと語る恵に「へぇ~」と感心している茜だったが、その一方で維月が樹里に尋(たず)ねる。

「所で樹里ちゃん、昨夜の Ruby の成績は?」

「ああ、凄い急成長よ。最後の最後に二連勝してるの。」

 樹里の返事を聞き、維月と瑠菜は「おぉ」と感心の声を発し、佳奈は拍手をして声を上げた。

Ruby、おめでと~。」

「ありがとうございます、佳奈。」

 Ruby が、素直に返事をすると、続いて、今度は直美が声を上げる。

「よ~し、Ruby。今日の午前中の分、始めるわよ。キャノピー開けて。」

「分かりました、直美。 キャノピーを開きます。」

 ブリジットと同じく、学校指定のジャージを着ていた直美は、腕まくりしていたジャージのジャケットを脱ぐと、モニターが設定されている長机の上に置き、駆け足で LMF のコックピット・ブロックへと向かった。

「副部長、やる気満満ね~。」

 そう言い乍(なが)ら、恵は直美が脱いで行ったジャージのジャケットを、手早く折り畳むのである。その一方で、緒美や樹里達はシミュレーターのモニター器機の準備を始めた。佳奈と瑠菜、そして茜とブリジットは、立花先生が手配したスポット・クーラーと大型扇風機を配置して、電源配線の接続、動作確認を行ったのである。

 その後、午前中に直美とブリジットが交代で、それぞれが一時間、昼休憩を挟(はさ)んで午後からは、それぞれが二時間の仮想戦を行い、直美の操縦で LMF が六勝、ブリジットが五勝と言うのが、その日の成績である。因(ちな)みに、仮想戦の回数は、午前午後合わせて直美が三十二回、ブリジットが二十九回だった。
 残念乍(なが)ら、直美の目指した、二人それぞれが十勝ずつとの目標には、結果としては届かなかったのだが。それでも、Ruby に因るロボット・アームの制御や、攻撃時の位置取りなどが明らかに改善されていたのは、直美が午前中に行った、その日最初の仮想戦で既に、誰の目にも明らかだったのである。
 午前中に前園先生に釘を刺された事も有り、その日の活動は午後五時過ぎには切り上げ、緒美達は格納庫から引き上げる事にした。勿論、Ruby が前日と同様に、自律制御モードで翌朝まで仮想戦を繰り返したのは、言う迄(まで)もない。
 こうして、暦(こよみ)は八月に突入しても、直美とブリジット、そして Ruby はシミュレーターでの仮想戦を繰り返し、格闘戦の動作データを積み上げていったのである。
 当初の単純な状況設定での勝率が八割に達する迄(まで)に、三日が経過した。そのあとは仮想敵の数を増やしたり、フィールドに起伏や障害物を追加したりと、条件設定を変更して、更に仮想戦を繰り返したのである。


 そして、更に四日が過ぎて、2072年8月7日、日曜日。それは以前、緒美がエイリアン・ドローンに因る襲撃を予測した、その日である。
 「三日位(くらい)、前後するかも。」と、緒美が言っていた事も有り、この二日前から、兵器開発部の一同は避難指示の発令や、一般の報道等にも注意を傾けつつ格納庫内での LMF 仮想戦を続けていた。だが結局、予想当日の夕方、午後六時を回っても、エイリアン・ドローンに因る襲撃が報じられる事は無かった。

「この時間になっても、特に報道が無いって事は、今日も、もう来そうにないね。」

 そう口にしたのは、維月である。その発言に、デバッグ用コンソールのディスプレイを眺(なが)め乍(なが)ら、樹里が応える。

「まぁ、来ないに越した事は無いんだけどね。」

「何か、情報は上がってる?」

 維月は、長机の右端、樹里の隣の席で、自分のモバイル PC を開いているクラウディアの後ろから、ディスプレイを覗(のぞ)き込みつつ、クラウディアに声を掛けた。そのクラウディアは、PC を操作する手を止めず、答える。

「いいえ~平和な物です。」

 クラウディアは勿論、ハッキングではなく、普通にネットに上がって来るニュースを検索している。
 そんな情報処理科組の遣り取りを聞いて、直美は緒美に言うのだった。

「流石の鬼塚の読みも、今回は外れたかな~。」

 緒美は微笑んで、言葉を返す。

「こう言う予想は、外れて呉れた方が嬉しいわ。」

 その言葉に対して、樹里がコメントする。

「でも、三日位(ぐらい)は前後するんでしょう?部長。 まだ、油断は出来ないのではないかと。」

「まぁ、そうだけど。取り敢えず、今日でなくて、良かったじゃない?ねぇ、井上さん。」

「あはは、まあ、そうですね~。」

 維月は緒美に話を振られると、明るく笑って答えた。コンソールに向かっている樹里も、クスクスと笑っている。
 それから間も無く、ブリジットが行っていた仮想戦が LMF の勝利判定で終了した。四機の仮想敵からの攻撃を、障害物や地形の起伏を利用し乍(なが)ら回避しつつ、一機ずつ格闘戦で倒していくと言う、当初に比べれば可成り複雑なシミュレーションとなっていたが、それでも何とかクリアーする事が出来る様になっていたのである。

「お疲れ様、ボードレールさん。今日はここ迄(まで)にしましょう。降りてらっしゃい。」

「はい、部長。」

 緒美がヘッド・セットのマイクに向かって、今日の活動の終了を伝えると、ブリジットからの返事は、直ぐに返って来た。
 コックピット・ブロックのキャノピーが開き、ブリジットが降りて来ると、茜が声を掛けるのだ。

「お疲れ~ブリジット。」

「最後の、どうだった?茜。」

「わたしからは、もう、特に言う事は無いわ~。」

「じゃ、免許皆伝って所かしら?」

「あはは、かもね。」

 そう言って茜が笑っていると、直美が口を挟(はさ)んで来る。

「甘いよ、天野。ブリジットは、もうちょっと手早く、相手を倒せる様になった方がいいんじゃない?」

 それには、茜が意見するのだった。

「いいえ、副部長のは、突っ込みが強引過ぎます。」

「ええ~っ、そうかななぁ…。躱(かわ)せてるんだから、いいんじゃない?」

「三回に一回位(ぐらい)は、躱(かわ)せてないじゃないですか。リスキー過ぎですよ、アレ。」

 そこに、樹里が参加して来る。

「まぁ、新島先輩のそのリスキーな戦法も、Ruby には貴重な行動データになってるから、シミュレーターでやってる分には、いいんじゃない?天野さん。」

「そうそう、敢えて、なのよ。」

 樹里の弁護を受けて、直美が弁明すると、透(す)かさず緒美が楽し気(げ)に声を上げた。

「嘘(うっそ)だ~。」

 苦笑いする直美を余所(よそ)に、緒美は正面を見た儘(まま)、Ruby に指示を出す。

Ruby、昨日と同じで、明日の朝八時迄(まで)、自律制御でのシミュレーター実行を許可します。今夜も頑張ってね。」

「ハイ、ありがとうございます、緒美。自律制御モードにて、シミュレーターを起動します。」

 Ruby が、そう返事をすると、コンソールの操作を終えた樹里が、Ruby に声を掛ける。

「こっち側で勝手にロガーを走らせてるけど、もしも途中でロガーが止まっても気にしないでいいからね、Ruby。」

「ハイ、承知しています、樹里。」

 そして、緒美がその場に居た、全員に声を掛けるのだった。

「それじゃ、片付けが済んだら、皆(みんな)、上がりましょうか。」

 そこで、ふと、ブリジットが気付き、茜に尋(たず)ねる。

「あれ?そう言えば、恵先輩と立花先生…あと佳奈さんも、姿が見えないけど。」

「ああ…そう言えば。」

 二人の遣り取りを聞いて、瑠菜も不審気(げ)に言う。

「わたしも気が付いたのは一時間ほど前だけど、どこ行ったのかしら?」

 一同は二階通路へ上がる階段に向かって歩いていたが、瑠菜の発言を聞いた維月がぎこちなく笑って言うのだった。

「あ~ははは、大丈夫、大丈夫。心配無い、無い。」

「何よ、維月。あなた、何か知ってそうな態度ね。」

「え?あ~うん、まぁ、直ぐに解るから~。」

 そんな遣り取りを聞いて、緒美と樹里はクスクスと笑っている。一方で、直美とクラウディアの二人は、過度に無関心を装っている様子に見えて、茜とブリジットは無言で顔を見合わせるのだった。
 そして、一同が部室に戻ると、そこに立花先生と恵、そして佳奈の三人が居た。部室中央の長机には、ケーキや飲み物、軽食類が並べられており、それを見た瑠菜は直ちに、その状況を察したのである。そう、その日は、瑠菜の誕生日だったのだ。

「♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 維月がバースデーソングを歌い出すと、他の者達も声を合わせて歌い出すのだが、瑠菜と同様に、事前にこの事を知らされていなかった茜とブリジットの二人は、戸惑いつつも、皆と調子を合わせるのだった。

「♪ハッピーバースデー、ディア、瑠菜~♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」

 瑠菜へ向けてのバースデーソングが終わると、直様(すぐさま)、「ハッピーバース、トゥーユー♪」と、バースデーソングの二巡目が始まる。状況が飲み込めない、瑠菜と茜、そしてブリジットの三人は、唯(ただ)、戸惑っていた。


 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第12話.10)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-10 ****


「自律制御だと、反撃する態勢に迄(まで)も行けないのね。改めて、人が乗ってる凄さが分かるって言うか…。」

 恵の、その素直な感想に対し、緒美が言う。

「人が乗ってたって、完全な素人(しろうと)だったら、あんな物よ。新島ちゃんやボードレールさんは出来る方(ほう)の人だし、天野さんみたいな規格外の人を見慣れてるから、森村ちゃんだけじゃなくて、多分、わたし達は皆(みんな)、その辺りの感覚が麻痺してると思うわ。」

 緒美は、視線を恵に向けて微笑む。恵は少しの間、視線を上に向けて、呆(あき)れ気味に言うのだった。

「そう言われれば、そうかしら。」

「まぁ、そうかもね。」

 直美は恵の後ろから肩に手を回し、笑って、そう言うのだった。一方で、緒美は視線を正面に戻し、Ruby に声を掛ける。

Ruby、どんどん続けて行きなさい。」

「ハイ、シミュレーション第三回戦、開始します。」

 その後、三回戦、四回戦と、Ruby は少しずつ対応を変え乍(なが)ら、シミュレーションを繰り返したが、結局、兵器開発部の一同は、Ruby が勝利する兆(きざ)しすら見出す事は無かったのである。
 Ruby の申し出通りに、自律制御でシミュレーションを一晩中繰り返す事にして、その日は午後八時を前に、一同は格納庫を後にした。


 その翌日、2072年7月31日、日曜日。茜とブリジットの二人が、部室に到着したのは、午前九時の少し前である。
 二人が部室に入ると、既に換気窓が開けられており、誰かが先に来ている様子だった。茜が換気の為に開けられている、奥側の窓から格納庫を見下ろすと、デバッグ用のコンソールの周囲に四人の姿が見られた。緒美と樹里、そして恵と直美である。

「部長~、おはよーございまーす。」

 茜が窓から声を掛けると、四人は振り向き、声は出さずにそれぞれが手を挙げて見せる。茜とブリジットは二階通路へと出ると、駆け足で先輩達四人の元へ向かったのである。

「おはよう。もう少し遅くても、良かったのよ。日曜なんだし。」

 そう、最初に声を掛けて来たのは恵である。

Ruby の様子が、気になったもので。 今、見てるの、昨晩の結果ですよね?」

 茜は恵に声を返すと、続いて樹里に尋(たず)ねた。すると樹里は、躊躇(ちゅうちょ)無く答える。

「そうよ~最終的に、今朝の八時迄(まで)に、百八十三回、シミュレーションを実行したみたい。」

 その樹里の答えに、ブリジットが聞き返す。

「え?昨日の夕方は、一晩で百回位(ぐらい)って言ってたじゃないですか。随分と多いですよね。」

「あはは、だと思うでしょ? ほら、昨日、最初の方は殆(ほとん)ど瞬殺だったじゃない。自律制御で仮想戦を始めて以降、八時間目辺り迄(まで)は、あの調子だったみたいなのよね。」

 樹里に続いて、緒美が一言を添える。

「つまり、一回のシミュレーション時間が短い。」

「ああ、そうか。その分、回した回数が増えたんですか。」

 ブリジットの回答に、微笑んで樹里が言う。

「そう言う事。 で、八時間目以降から、やっと反撃が出来る態勢が取れて来て~最後の最後に、二勝してるわ、LMF が。」

 その発言に対して、少し悔し気(げ)に、直美がブリジットに言うのだった。

「わたしら、Ruby に先を越されちゃったよ、ブリジット。」

「ええ~…。」

 ブリジットが返事に困っていると、茜が直美に言うのだった。

「でも副部長、Ruby が自律制御でロボット・アームを使って勝てる位(ぐらい)になってないと、コックピット・ブロックからの操縦で勝つのは無理ですよ。アームの操作は、コックピット・ブロックが接続されてても、最終的には Ruby の担当ですから。」

「それは解ってるけどさ、天野。 でも何(なん)か、悔しいじゃない?」

 そこで、ブリジットが苦笑いしつつ、直美に言うのである。

「まぁ、副部長。ほら、今日はわたし達も、勝てる確率が上がってるって事ですから。」

「そうそう、そう言う事~頑張ってね、新島ちゃん。」

「あー、その言い方、何(なに)かちょっと癪(しゃく)に障るわね、鬼塚。」

「何よ、応援してるのよ?」

 緒美はニヤリと笑って、言い返すのだった。直美は少しムッとした表情を見せたあと、ブリジットの肩に手を回して言った。

「何(なん)だか悔しいから、今日は十勝、目指すわよ、ブリジット。」

「二人で、ですか?」

「二人、それぞれで、よ。」

「え~、頑張りマス。」

 そこで直美とブリジットの、遣り取りを見ていた恵が、微笑んで声を掛ける。

「頑張ってね~二人共。」

「うん、ありがと、森村。」

 その素直な反応に、緒美が一言。

「あ、森村ちゃんのは、癪(しゃく)に障らないんだ。」

「森村はいいのよ。」

 直美は緒美に、ニヤリと笑い返して見せる。緒美は、それに対しては微笑むだけで、言葉は返さなかった。
 その時、携帯端末の着信音が聞こえて来る。それは、恵の持つ携帯端末からだった。恵は、着ている薄い黄色のワンピースのポケットから携帯端末を取り出すと、そのパネルを操作し応答する。

「はい。…今ですか? 格納庫に居ますけど…あーはい…はい。分かりました~。」

 恵は受け答えをし乍(なが)ら、南側の大扉の方へと歩いて行く。緒美は、恵に声を掛ける。

「どうしたのー?」

 通話を終えた携帯端末をポケットに仕舞い、振り向いて恵は答えた。

「立花先生が、大扉開けてって~。」

「ああ、手伝うよー。」

 直美が駆け足で、恵を追った。茜とブリジットも、そのあとに続く。
 すると、自動車のクラクションが、扉の外から短く響いたのである。

「あー、はいはい。直ぐ開けま~す。」

 直美が外へ向かって、大きな声で答える。
 恵が正面左脇側の壁面パネルで扉の解錠操作を行うと、直美とブリジット、そして茜が大扉の中央を左右へ押し開いていく。大扉の外には、軽トラックが一台、止まっていた。軽トラックが通り抜けられる程に大扉が開かれると、その軽トラックは格納庫の中へゆっくりと進み、LMF の前辺りで停車して、エンジンを止めたのである。ドアが開き、その軽トラックから降りて来たのは、立花先生と前園先生の二人だった。
 先(ま)ず、緒美が前園先生に声を掛ける。

「おはようございます。どうされたんですか?日曜日なのに、前園先生。」

 苦笑いで、前園先生が答える。

「そりゃ、こっちの台詞だ、鬼塚君。キミらこそ、日曜日の朝から、こんな所で何やってるの。」

 その問い掛けには、大扉の方から歩いて来る、直美が答えるのだった。

「あはは、ご覧の通り、部活動ですよー前園先生。」

「それは結構だけどね、幾ら本社からの依頼だからって、日曜日位(くらい)は休みなさいよ。折角の夏休みなんだからさ。」

 そんな苦言を呈する前園先生ではあったが、その表情や語感には、それ程の厳しさは無かった。それは、念の為に釘を刺しておく、その程度の意図からの発言だった。
 そして、緒美がもう一度、前園先生に問い掛ける。

「それで、先生はどうされたんです?今日。」

「ん?ああ、二年生に十名程、補習の必要な奴らがいてな、明日から一週間。今日は、その準備でね。それで、学校に来てみたら、ちょうど、立花先生に捕まって。で、荷物運びの手伝いだよ。」

「朝一番で、荷物が届いたのはいいんですけど。ここ迄(まで)、どうやって運ぼうかと考えていた所に、前園先生がいらっしゃって。本当に助かりました。」

 立花先生は、深深と前園先生に頭を下げる。

「何(なん)です?荷物って…。」

 緒美は軽トラックの荷台の方へ回り、積み荷を確認する。軽トラックの荷台には屋外用の大型扇風機と、中型のスポット・クーラーが、それぞれ三台、既に梱包が解かれた状態で置かれていた。
 大扉の方から戻って来た恵が、立花先生に問い掛ける。

「買ったんですか?これ。」

「まさか、リースよ。あと、本社工場の余剰品。本社の方(ほう)に、手配を依頼してたの。」

 そう立花先生が答える一方で前園先生は、クッション代わりに品物の下に敷かれている潰された段ボール箱を引っ張り、軽トラックの荷台後方へと積み荷を寄せている。茜とブリジットは駆け寄り、荷下ろし作業に手を貸すのだった。

「前園先生、お手伝いします。」

「ああ、すまんね。意外と重いから、気を付けて呉れよ。」

 茜とブリジットは二人掛かりで、段ボールが敷かれた荷台の縁(ふち)を支点に、スポット・クーラー本体を起こすと、ゆっくりと滑らせる様に降ろしていく。荷台から降ろしてしまえば、スポット・クーラーにはキャスターが付いているので、移動は簡単である。
 比較的軽い屋外用扇風機は、直美と恵が軽トラックの荷台側方から持ち上げ、床面へと降ろした。

「よし、扇風機は北側に置いた方がいいだろう。あっち側の方が、幾分気温が低いから。 延長ケーブルのドラム迄(まで)、手配されているのは、流石、抜かりないですな、立花先生。」

「あー、いえいえ。恐れ入ります。」

 立花先生は照れ笑いしつつ、小さく頭を下げた。そして前園先生は、荷台後部のゲートを閉めてロックを掛けると、軽トラックの運転席に乗り込む。

「それじゃ立花先生、わたしはこれ、戻して来るから。」

「はい、ありがとうございました、前園先生。 助かりました。」

 立花先生がもう一度、お辞儀をすると、その周囲に居た一同も頭を下げるのである。前園先生は緒美達を見渡して、言った。

「キミら、若いから元気が有るのは分かるが、余り無理をするんじゃないぞ。」

 そう言ってエンジンを掛けると、「まあ、頑張り過ぎるなよ~。」と言い残して、前園先生は軽トラックを格納庫の外へと向かわせたのだった。
 それと入れ替わる様に、二階通路の階段の方から、佳奈の声が聞こえて来る。

「あ~大きな扇風機だ~。」

 一同が声の方向に目をやると、佳奈を先頭に、瑠菜と維月、そしてクラウディアの姿が有った。

 

- to be continued …-

 

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