WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.09)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-09 ****


 仮想 LMF は、百八十度、向きを変えると、再び、仮想トライアングルと正対する。右のブレードを失った仮想トライアングルは、今度は向かって右へと回り込むべく動き続けている。

「外れですか?茜。標的(ターゲット)にダメージを与えましたが?」

 Ruby の問い掛けに、茜は苦笑いで答える。

「胸部を狙ったんだけど。機体のサイズ感とか、距離感がまだ入ってない所為(せい)ね。慣れる迄(まで)、暫(しばら)く掛かりそう。」

「成る程。続けましょう、茜。」

「勿論。」

 茜と Ruby が、そんな会話をしていると、右前方から再度、仮想トライアングルが突進して来る。振り下ろされるブレードを、仮想 LMF の機体を左へと滑らせて躱(かわ)すと、茜はその儘(まま)、機体を右に旋回させつつ左腕を前方へと突き出し、側面から仮想トライアングルの胸部に、突きを入れようとするのだが、その攻撃は空振りに終わるのだった。茜は、もう一度、仮想敵との距離を取る為に LMF を加速させる。
 再び、五十メートル程の距離を取って仮想トライアングルと正対すると、茜は左右の腕を交互に上下左右に振って、自分の腕と、仮想 LMF のロボット・アームとの連動具合と、その距離感を確かめてみる。

「よし、今度こそ。」

 茜は肩の高さに上げた左腕を肘を曲げて前方へ向け、右腕は左下段に構えて、シミュレーションをモニターしている筈(はず)の樹里に尋(たず)ねる。

「樹里さん、このシミュレーター、ビーム・エッジのオーバー・ドライブ・モード、対応してましたっけ?」

「いけるよ~対応してる。」

 樹里の即答を受け、茜は音声コマンドを出す。

Ruby、ビーム・エッジ・ブレード、オーバー・ドライブ。」

 左右のロボット・アームに接続されたシールドの、その先端に展開しているブレードから、荷電粒子ビームで構成される刃(やいば)が、物理刀身の倍程に青白く伸びる。そして、仮想 LMF との間合いを計る様に右へ右へと移動して行く仮想トライアングルの、更に右側へと向けて、茜は仮想 LMF を加速させた。
 一気に間合いを詰めると、迫り来るそれを迎(むか)え撃(う)つべく、仮想トライアングルは左のブレードを振り下ろして来るのだった。仮想 LMF は、そのブレードが描く軌道を回避すると、擦れ違い様(ざま)に右腕を前方へ振り抜く。そして、仮想トライアングルの胸部は両断されたのだった。
 結果は、当然、仮想 LMF の勝利判定である。
 仮想 LMF の行き足を止めた茜は、両腕を降ろし、背筋を伸ばして、大きく息を吐いたのだった。

「オーケー、おめでとう天野さん。このシミュレーターで百五十二戦目にして、LMF の初勝利よ。お疲れ様、第一回戦終了~。」

 樹里の明るい声が、聞こえて来た。続いて、真面目な声色で直美が話し掛けて来る。

「天野、新島だけど。さっきの相手の攻撃を躱(かわ)す動作はさ、どう操縦してるの?」

 茜はヘッド・ギアのフェイス・シールドとゴーグル式スクリーンを上げて、直美の方へ顔を向けて答える。但し、その声は、直美達には LMF の外部スピーカーから聞こえて来る。

「操縦って、手や足で操作は出来ませんので、思考制御ですよ。咄嗟(とっさ)に回避する動作をイメージしたのを、Ruby が拾って、そう言う風(ふう)にコントロールして呉れたんです。」

「イメージって、具体的にはどうすればいいの?」

「そうですね…正直、ほぼ無意識にやってる事なので、説明は難しいんですけど。どっち向きにどう動いて、どこで攻撃を掛けるか、そんな風(ふう)な事に意識が集中しているんだとは思います。」

「う~ん、雑念が多いのかしら?わたしの場合。」

「って言うより、手足で操縦操作が出来ますからね、コックピット・ブロックの場合。そっちに気を取られてるんじゃないですか? 極端な話、Ruby と思考制御が有ったら、何も手を触れなくても LMF は動かせる様に出来てますから。ペダルやコントロール・グリップからの入力は、補正程度の積もりでいいんですよ、思考制御に慣れたら、ですけど。あ、但し、攻撃のキューを出すのに、トリガーを引く必要だけは有りますよね。」

「分かった。今度、やってみるわ。」

 そう言ったあと、直美は茜に向かって手を振り、ヘッド・セットを緒美に返している姿が、茜からは見えた。続いて緒美がヘッド・セットを装着し、茜に問い掛ける。

「機体の感覚は掴(つか)めた?天野さん。」

「どうでしょうか?まだ少し、怪しいですね。」

「この儘(まま)、続けても大丈夫そう?」

「それは、問題無いです。いけます。」

「それじゃ、もう二、三回、さっきと同じ条件でやってみましょうか。」

「はい、お願いします。」

 茜が前を向き、再びフェイス・シールドを思考制御で眼前に降ろすと、第一回戦と同じ条件で、仮想戦の二回目が始まったのである。


 それから五時間程が経過して、時刻は午後六時を回り、その日の部活は終了と言う運びとなった。
 茜も一時間置きに休憩を挟(はさ)み、合計で約四時間、対戦回数にして二十二回のシミュレーションを行ったのである。結果として、茜は一敗もする事無く、勿論それはシミュレーションの設定が単純であった所為(せい)でもあるが、ともあれ貴重な『勝ちデータ』の積み上げとなったのだ。
 茜の HDG は LMF から切り離され、茜は何時(いつ)も通りに、メンテナンス・リグへ HDG を接続して、その装着を解除した。因(ちな)みに、シミュレーションの合間の休憩時は、メンテナンス・リグでの乗り降り用ステップラダーを LMF の前に持って行き、LMF に HDG を接続した状態で HDG の装着を解除していたのである。
 一方で、LMF の方には明日のシミュレーション実行用に、再びコックピット・ブロックが接続された。
 それら、一通りの片付け作業が終わる午後七時の少し前、Ruby が緒美に提案をするのである。

「緒美、提案したい事が有るのですが、宜しいでしょうか?」

「なあに?Ruby。」

 コマンド用のヘッド・セットは片付けてしまったので、緒美の返事は通常の会話モードで、Ruby に処理されている。

「ハイ、皆さんが帰ったあと、自律制御モードでシミュレーションの実行を継続してもいいでしょうか?」

 Ruby の提案内容を聞いて、緒美は樹里の方へ向き、尋(たず)ねる。

「出来るの?」

 樹里は何時(いつ)もの微笑みで、即答した。

「はい。シミュレーターのソフトを持ってるのは、Ruby ですから。実際(リアル)のロボット・アームを振り回す訳(わけ)でもありませんし、立花先生か部長に自律制御の許可を出してさえ頂ければ。」

 続いて、Ruby が補足説明をする。

「今日、茜にアームの動かし方の正解例を、幾つも直接教示(ダイレクト・ティーチング)して貰いましたので、それを参考に自律制御で更に動作の最適化を試(こころ)みたいと考えます。シミュレーション一回の平均時間を七分と仮定すると、夜間の十二時間で百回程度のシミュレーションが実行可能になります。わたしだけなら、休憩は必要ありませんので。」

 立花先生が、樹里に尋(たず)ねる。

「シミュレーションの設定とか、実行の操作に、誰か着いて無くてもいいの?」

「はい、シミュレーターのインターフェースには、Ruby からもアクセス出来る仕様になってましたから。本社の方(ほう)でも、そう言う使い方は想定していたみたいですね。あとで、安藤さんには確認してみますけど。」

「そう。まあ、それなら、問題は無いんじゃない?」

 樹里の説明に納得した様子で、立花先生は緒美に、賛意を告げるのだった。その一方で、苦笑いしつつ直美が言った。、

「でもさ、この間、井上が言ってたみたいに、万単位の動作データを集める必要が有るなら、一晩に百回で実行出来ても百日以上必要になるのよね? やらないよりは優(まし)だけど、先は長そうよね。」

「ああ~、副部長。すみません、語弊の有る言い方でしたね、それ。」

 直美の発言を受け、慌てて、維月が声を上げるのだった。

「シミュレーション一回が、データ一つって訳(わけ)じゃありませんので。」

「え、そうなの?」

 続いて、樹里が解説を加える。

「はい。実行した動作にも因りますけど、大体、シミュレーション一回で五件から十五件位(くらい)の間で、データが取れている筈(はず)ですよ。間を取って一シミュレーションで十件とすれば、現状で約百八十回のシミュレーションを実行済みですから、データ件数で千八百件って事になります。まぁ、超単純計算ですけどね。」

 そう言って、樹里が笑っていると、恵が参加して来る。

「それじゃ、その単純計算でいくと、一晩に百回、シミュレーションが出来れば、データ的には約千件が上積みされるのね。十日続ければ、それだけで一万件に届くじゃない。」

「あはは、まぁ、データの件数が増えればいいって物じゃない、とは思いますけどね。データの内容にも依りますから。」

 その、樹里の返事を聞いて、緒美は声を上げた。

「分かった。Ruby、コマンド用の回線からじゃないけど、わたしの声、認証出来る?」

「ハイ、緒美の発言の識別、認証は可能です。」

「オーケー。それじゃ、現時刻で、自律制御でのシミュレーター実行を許可します。自律制御の許可は明日の朝、八時迄(まで)ね。 それで、自律制御でのシミュレーション、どんな具合になるのか、今からちょっと見せて貰うわ。」

「ハイ、分かりました。自律制御モードにて、シミュレーターを起動します。」

「あ、ちょっと待って、Ruby。」

 突然、樹里が声を上げる。

「コンソール立ち上げ直すから。維月ちゃん、モニターの方、もう一回、電源入れて。」

「あー、はいはい。」

 今日の作業は終了だと言う事で、既に電源が落とされていた観測用の器機に就いて、樹里と維月、そしてクラウディアが、手分けをして再度セットアップを始める。配線は接続された儘(まま)だったので、再セットアップとは言っても作業自体は大した事はなく、五分程の待ち時間の大半は、樹里が使うデバッグ用コンソールの起動時間である。

「はい、オーケー。初めていいよ~Ruby。こっちの方で勝手にログは取ってるけど、気にしないでね。」

「ハイ、樹里。それでは、シミュレーターを起動します。条件は今日迄(まで)の、茜達と同じで実行します。」

 Ruby の確認発言に、緒美が即答する。

「そうね。いいわ、それで。」

 長机上に設置されたモニターには、コックピット・ブロックに表示されている正面状況が表示されており、そこに、仮想トライアングルの姿が一機、映し出された。

「お、始まる。」

 思わず、直美が声を上げる。その場に居た一同は、モニターに注目するのだった。
 仮想戦が開始されて間も無く、仮想トライアングルが突撃を仕掛けて来ると、仮想 LMF は回避する事無く連続してダメージを受け、敗北判定となったのである。その間、開始から三分と経過していなかった。

「あらら…。」

 そう、声を漏らしたのは恵である。直美は苦笑いしつつ、声を上げる。

「そこからか~、何(なん)とも凄いポンコツ感だなぁ。」

 一方で緒美は、冷静に声を掛ける。

Ruby、続けて。」

「ハイ、同じ条件で、シミュレーション第二回戦を開始します。」

 モニターの表示はリセットされ、先程と同じ様に仮想トライアングルが表示された。
 そして突進して来る仮想トライアングルに対し、今度は回避機動を始める仮想 LMF だったが、程無くして、再び仮想トライアングルに捕らえられ、敢え無く撃破されてしまうのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.08)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-08 ****


「アイデア?」

 少し怪訝(けげん)な表情で、緒美は聞き返した。茜は相変わらずの、笑顔で答える。

「はい。シミュレーションを、HDG をドッキングした状態でやるんです。HDG との連動モードでアームを動作させたら、ブレードを使う攻撃動作を直接、Ruby に教示(ティーチング)出来ると思うんです。」

「ああ、成る程。」

 緒美の表情から疑念の色が消える一方で、茜は表情を少し引き締め、言葉を続けた。

「但し、HDG をドッキングした状態でシミュレーターのソフトが実行出来る必要が有りますが。 それは、可能でしょうか?樹里さん。」

 問い掛けられて、樹里は和(にこ)やかに答えた。

「改造は必要だと思うけど、基本的には可能だと思う。ねぇ、維月ちゃん。」

「そうね、LMF への入力がコックピット・ブロックからだろうと、HDG からだろうと、シミュレーションのソフトには関係無いものね。入力の処理をするのは、Ruby だから。 あとは、コックピット・ブロックのキャノピーに表示してる画像を、HDG のヘッド・ギアに表示出来るように、変換さえ出来ればいい筈(はず)だよね。」

 樹里と維月の回答に、茜が付け加える。

「元元、HDG のヘッド・ギアは、浮上戦車(ホバー・タンク)の HMD(ヘッド・マウンテッド・ディスプレイ)がベースになっているって聞いてますから、そんなに難しくはないですよね。」

 その、茜の発言を、立花先生が補足するのだった。

「HDG のヘッド・ギアのベースは、現用型の浮上戦車(ホバー・タンク)用の HMD だけど。今度の、LMF 改用の HMD は、HDG のヘッド・ギアがベースになってるって、聞いてるわ。」

 立花先生の発言を受けて、樹里はニヤリと笑って言った。

「なら、尚更、ハードルは低いですね。このシミュレーターのソフトは、元元が LMF 改用のだから。ひょっとすると、コックピット・ブロックのキャノピーへの表示を変換するモジュールを、バイパス出来るようにするだけで済んじゃうかも。 まあ、多少ハードルが高目(たかめ)だったとしても、本社は受けて呉れると思いますけどね、ソフトの改造。ちょっと、安藤さんに問い合わせてみます。」

 LMF のロボット・アームに関して、格闘戦動作用のデータが欲しいのは本社の開発も同様であるのならば、シミュレーター・ソフトの改造位(ぐらい)、二つ返事で引き受けて呉れるだろう、と言うのが樹里の読みだった。

「城ノ内、ちょっと訊(き)きたいんだけど。」

 ポケットから携帯端末を取り出そうとしている樹里に、声を掛けて来たのは直美である。樹里は安藤への通話要請を送る操作の手を止め、直美に声を返す。

「何ですか、副部長。」

「負けデータが積み上がり過ぎるのってさ、何か弊害とか有るの?負け癖(ぐせ)が付くみたいな。」

「あーいえいえ、そんな事は無いです。寧(むし)ろ、負けに至るデータも或る程度は持ってないと、土壇場で不適当な動作を Ruby が選んじゃう可能性が残るので。」

 そして維月が、補足説明を付け加える。

「同じ様な条件で失敗した経験を持っていれば、その次に動作を選択するの時、失敗した動作は避けて選びますから。だから、遠回りですが、経験した失敗動作を避け続けていけば、最終的に成功が残る、とも言える訳(わけ)で。」

「じゃあ、ここでの負けデータには、意味が有るのね?」

「はい、そう言う事です。」

 樹里は笑顔で、そう答えたのだった。直美は視線をブリジットへ移し、言った。

「ヘッド・ギア、貸して、ブリジット。一時間毎(ごと)に交代で、やりましょう。」

 直美の、突然の申し出にブリジットが驚いていると、直美が重ねて言う。

「一回でも多く回した方が、Ruby の経験値が上がるなら、交代でやった方が効率がいいでしょう?」

 真面目にブリジットに語り掛ける直美を、横から恵が茶化すのだった。

「そんな事言って、副部長が Ruby と遊びたいだけじゃないの~。」

「あはは、まぁね。それも有る。」

 笑顔で恵に言葉を返す直美に、ブリジットは手に持っていたタオルで、ヘッド・ギアの内側をさっと拭(ぬぐ)ってから差し出すのだった。

「汗、付いてますよ?」

「ああ、気にしない、気にしない。」

 直美は嫌な顔をする事も無く、ブリジットからヘッド・ギアを受け取ると、直ぐに自(みずか)らに装着した。ヘッド・ギアは通信の為以外にも、LMF への思考制御の入力装置として必要な装備なのだ。
 直美はコックピット・ブロックへと向かいつつ、Ruby に話し掛けた。

Ruby、今日は久し振りに、わたしが乗るからね。」

 Ruby の返事は、外部スピーカーに出力される設定の儘(まま)だったので、そこに居た全員に聞こえた。

「ハイ、直美。あなたが LMF の操縦をするのは、八ヶ月振りですね。」

「あはは、そうだっけ?」

 デニム生地のショートパンツに、プリント柄のTシャツを着ていた直美は、ホバーユニット先端を足掛かりに、器用に LMF の機体へ駆け上がると、コックピット・ブロックに飛び移った。
 そんな様子を眺(なが)め乍(なが)ら、ブリジットは隣に立つ茜に言うのだった。

「この前、LMF で無理に、外に出なくて良かったわ。茜の言った通り、あの状況で格闘戦に突入してたら、勝ち目なんか無かったし、もしも出ていたら、茜の足を引っ張るだけだった。今日、それが良く解ったわ。」

 茜は、一呼吸置いてから、ブリジットに言葉を返す。

「でも、最後に助けてくれたのは、ブリジットよ。」

「そう言えば、わたしが保険だって、言ってたよね。茜は、最後まで読んでたの? LMF で狙撃する展開。」

「まさか。作戦は部長が考えて呉れるって、あの時、言った通りよ。わたしは、捕まっちゃった戦車をどう救出するか、それを考えるので一杯一杯だったわ。」

「そう。」

「どうであれ、LMF で格闘戦に突っ込んでいくのは、余り勧められる方法じゃ無いわ。LMF が腕を持っているのは、いざと言う時に反撃出来る手段が必要だ、ってだけで。でも、その時の為に、こうやってシミュレーターで経験を積んでおくのは、理に適(かな)ってると思うし、必要な事なのよ。」

 そんな話をし乍(なが)ら、二人が見詰めるモニターでは、直美が操縦する仮想の LMF が、仮想のエイリアン・ドローンと斬撃戦を始めていた。操縦者が代わっても、実質的な操縦を行っているのが Ruby なのに変わりはないので、矢張り、LMF の方が旗色が悪い状況が、モニターに映し出されていたのだった。
 最終的には、その後、直美が二時間、その間にブリジットが一時間、合計で三時間のシミュレーションが行われ、最初の一時間を加えて、回数で二十四回の仮想戦が実行された。結果として、LMF は遂に勝利する事は無かったのである。
 一方で、本社開発部の安藤とは夕方頃に連絡が付き、茜の提案に就いては、樹里の読み通り、あっさりと承諾された。HDG 対応の為のプログラム改造と確認には三日が必要と言うのが安藤の回答で、だから HDG 対応のソフトが完成する迄(まで)、兵器開発部では初日と同じシミュレーターの運用を繰り返す事となったのである。
 そんな訳(わけ)で、その後三日間に渡り、直美とブリジットは交代で、Ruby の為に負けデータを積み上げ続けたのだった。


 2072年7月30日、土曜日。もう梅雨は明けて暫(しばら)く経つと言うのに、水曜日以降、雨降りと曇り空が続き、この日も朝から雨が降っている。とは言え、部室と違って空調の無い格納庫で、連日の作業が続く一同に取っては、気温の上がり過ぎない雨天は、正(まさ)に恵みの雨であった。勿論、寮や、学食の在る校舎から離れた場所に在る格納庫への行き来が、雨の降る中では億劫(おっくう)になってしまうのには、彼女達も少少閉口させられたのだが。
 さて、その日の作業としては、予定通りに本社から HDG 対応版 LMF のシミュレーター・ソフトが、Ruby へとネット経由でインストールされた。樹里が使用するデバッグ用コンソールへも、追加のソフトがインストールされ、それらの動作確認と、LMF からコックピット・ブロックを切り離す作業で、兵器開発部の一同は午前中の活動時間を終えたのである。
 そして、昼休みを挟(はさ)んで、午後の活動時間が始まる。
 茜は HDG 用のインナー・スーツに着替えた後、HDG を装着すると LMF の前へと歩いて行き、LMF の左右ホバー・ユニットの間を後ろ向きに歩み寄って、LMF とのドッキング位置へと向かった。当然、HDG の背後は茜には見えないので、ブリジットや瑠菜の誘導で、一歩ずつ確認し乍(なが)ら、ドッキング位置を目指すのである。程無く、HDG 腰部後方に突き出している接続ボルトが LMF のドッキング・アームに捕らえられ、ロックされる。そして、HDG は LMF の正面位置へと引き上げられ、HDG 背部のスラスター・ユニットが LMF へ渡されると、接続作業は完了となるのだった。
 茜はヘッド・ギアのゴーグル式スクリーンとフェイス・シールドを、顔の前面に降ろす。当然、視界にはヘッド・ギアに装備された画像センサーからの映像が表示されているので、茜は思考制御で設定項目を表示させた。丁度(ちょうど)そこで、レシーバーに樹里の声が聞こえて来る。

「天野さん、ヘッド・ギアの設定画面で画像入力を、外部入力に切り替えてね。」

「はい、切り替えました。樹里さん、視界が真っ青です。」

「ちょっと、その儘(まま)、待っててね。 Ruby、LMF シミュレーター・モード起動。」

 樹里の、Ruby への指示が、茜の耳にも聞こえた。Ruby は直ぐに答える。

「ハイ、LMF シミュレーター・モード、起動します。」

 間も無く、真っ青だった茜の視界は一度、暗いグレーになり、次いで、シミュレーター・ソフトの初期画面に切り替わる。
 茜はそれを、声に出して伝える。

「はい、シミュレーター・モードの初期画面、来ました。」

「オーケー。今、Ruby の方でシミュレーター・ソフトが、HDG の接続を検出。シミュレーター用に HDG の初期設定を自動実行してるから…あと、三十秒、待ってね。」

 樹里に言われて気が付いたが、茜の視界右端には『初期設定中』の文字と共に、プログレス・バーが右へと伸びていた。そして、初期設定が終了すると、シミュレーションの設定確認画面に切り替わる。

「樹里さん、設定確認画面になりました。」

「は~い、こっちのモニターにも表示されてる。早速、一番簡単な設定で、一戦、やってみようか。」

 ステージの選択、仮想的の数、開始時の位置と距離等の設定が、樹里によって入力され、それが茜の視界正面にも表示されていった。その設定条件は、ブリジットと直美が、この三日間に散散(さんざん)行って来た、その設定である。

「よし、天野さん。準備はいい?」

「どうぞ、始めてください。」

「じゃ、スタート。」

 樹里の合図と共に、正面の視界には仮想の、障害物が何も無い戦闘ステージが表示され、正面に五十メートル離れて仮想のエイリアン・ドローン、格闘戦形態のトライアングルが一機、此方(こちら)に向いて佇(たたず)んで居る。そしてそれは、直ぐに茜の左手方向から回り込む様に接近を始めた。

Ruby、中間モードへ移行。アームを展開したら、アーム連動モードへ。左右シールドのブレードを展開。」

「中間モードへ移行します。」

 Ruby の返事と共に、視界の画像は縦に動き、視線位置が高くなった事が分かる。同時に、折り畳まれていた腕部が展開され、ロボット・アームの先端が茜の視界に入って来るのだった。勿論、現実の LMF は微動だにしていない。
 シミュレーターのプログラムを実行している Ruby が、茜に確認を求めて来る。

「アーム連動モードへ。左右シールドのブレードを展開します。ビーム・エッジはアクティブに?」

「勿論。ビーム・エッジ、アクティブ。」

 仮想 LMF は中間モードに移行した後、接続されている茜と同じ様に、両腕を下へ向けた状態で待機していた。左方向へと回り込む様に移動する仮想トライアングルに正対する、茜の動作イメージを検出した Ruby は、仮想 LMF のホバー・ユニットを起動し、機体の向きを左方向へと向ける。茜が両腕を胸の高さ程に上げて身構えると、連動モードを実行する仮想 LMF のロボット・アームは、茜の腕と同じポーズを再現するのだった。

 

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 仮想トライアングルは、左へ左へと回り込みつつ、徐徐(じょじょ)に距離を詰めて来るので、茜はそれを正面から逃がさない様に考えていると、Ruby がそのイメージに LMF を追従させる。仮想トライアングルを追って、LMF が初期の位置から左に九十度程、回転した所で突然、仮想トライアグルは左前方から急加速で突進して来た。
 茜は右肩を前に出す様な姿勢で右腕を左腰の方へ下げて身構え、LMF を仮想トライアングルへ向かって加速させる。LMF を前進させるのに、操作やコマンド発声は必要無い。茜が前進するイメージを思い描けば、それを読み取った Ruby が LMF を適切に操縦して呉れるのである。
 前方からは、右腕の鎌状のブレードを振り上げて仮想トライアングルが斬り掛かって来るが、その下方に潜り込む様に LMF の機体を持ち込むと、茜は右腕を斜め上に向かって振り上げた。
 LMF のロボット・アームが茜の腕に連動して弧を描くと、仮想トライアングルの右前腕が切断され、そのブレードは宙を舞い、放物線を描いて落下する。仮想 LMF と仮想トライアングルは、その儘(まま)擦れ違って、一旦、離れるのだった。
 茜が声を上げる。

「ごめん、Ruby。外した!」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第12話.07)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-07 ****


 その後、兵器開発部の面面は昼食を済ませ、昼休みのあと、午後の部活を始めた。
 茜とブリジット、そして直美の三名は、それぞれが体育の授業用ジャージに着替え、午前中の打ち合わせ通り、格納庫にて剣道の稽古(けいこ)を開始したのである。
 とは言え、防具は何も揃(そろ)えていないので、最初は竹刀(しない)の素振りや、足の運び等(など)基本的な動作の反復練習からのスタートであった。勿論、剣道それ自体を習得する事が目的ではないので、防具を身に着けての本格的な打ち合いとかはしなかったのだが、現実問題として、七月の暑い最中に冷房の無い格納庫内では、剣道の防具一式が例え揃(そろ)っていたとしても、それを使うのは躊躇(ためら)われると言うものである。そんな都合も有って、茜は工夫をし乍(なが)ら、ブリジットに接近戦の要点を伝えて行った。それには直美も協力をして、時には茜と直美の二人が、打ち合いの動作を再現する事で、攻撃の仕掛け方や躱(かわ)し方を、ブリジットに見せたりもした。
 そうして、この日を含めての三日間を、三人は剣道の稽古(けいこ)に費やしたのである。


 2072年7月26日、火曜日。その午後三時を過ぎた頃、LMF のシミュレーター・ソフトのインストールとセットアップは、予定通りに終了した。
 早速、ブリジットは格闘戦シミュレーターと化した、LMF のコックピット・ブロックへと乗り込み、仮想のエイリアン・ドローンとの対戦に挑戦する事となった。
 先(ま)ずは小手調べ、と言う事で、仮想敵の数は一機のみとし、障害物が何も無い荒野の様なステージを選択して、仮想の格闘戦を開始したのである。因(ちな)みに、シミュレーションの状況設定や変更、及び調整は、樹里が何時(いつ)も使用しているデバッグ用コンソールから行われている。LMF、その機体の脇には長机が置かれ、その上に設置された二台のディスプレイにて、ブリジットから見えている正面の状況画像と、仮想戦場を真上から見下ろした視点での位置関係や動作を、外野からも確認出来るように準備がされていた。兵器開発部の一同は、緒美の背後から、その二台の状況モニターを注視していた。
 コックピット・ブロックのキャノピーが閉鎖されると、いよいよ格闘戦シミュレーションが開始されるのだが、当然、LMF 本体は微動だにしない。一方で、二台の状況モニターでは、表示されている画像が目紛(めまぐる)しく動き、確かに LMF が仮想的に格闘戦を行っているのが解るのだった。
 LMF は中間モード形態を取り、両腕に装備された HDG 用の DFS(ディフェンス・フィールド・シールド)下端の小型ビーム・エッジ・ソードを展開して、斬撃戦を挑んでいる。しかし戦局は終始、有利と言える状況ではなかった。LMF が繰り出す攻撃は相手側へ届かないか、或いは悉(ことごと)く躱(かわ)されていたのだ。
 結局、格闘戦シミュレーション第一回戦は、十分程で LMF 側の敗北となって終了した。仮想エイリアン・ドローンの斬撃で、先(ま)ずホバー・ユニットをやられ、次いで推進エンジンにダメージを受けて、行動不能に陥(おちい)ったと言う判定だった。

「流石に、最初から上手くはいかないわね。」

 立花先生が、隣に立つ緒美に静かに話し掛けた。緒美は一度、頷(うなず)いてヘッド・セットのマイクに向かって言う。

「どう?ボードレールさん。第一回戦の感想は。あ、外部スピーカー、使っていいわよ。」

「あ、はい。音量、大丈夫ですか?」

 ブリジットの声が、格納庫内に響く。音量は Ruby が喋(しゃべ)っているのと、同じ程度に調整されていた。

「大丈夫。」

 そう、緒美が答えると、続いてブリジットの声が聞こえて来る。

「感想ですけど…難しいですね、想像以上に。」

「戦闘機動に関しては、実質的に操縦してる Ruby が、まだ素人(しろうと)だから、無理も無いわ。その Ruby に経験を積んで貰うのが目的だから、負けても腐らずに続けてちょうだいね。」

「分かってま~す。」

「あ、そうだ。天野さん、何かアドバイスは有る?」

 緒美に声を掛けられ、茜が一歩前に踏み出すと、デバッグ用コンソールに就いていた樹里が、通信用のヘッド・セットを差し出す。茜はそれを受け取って、自(みずか)らに装着すると、マイクを口元に寄せて話し掛けた。

「茜です、聞こえる?ブリジット。」

「うん、聞こえるよ。アドバイス、有ればちょうだい。」

「う~ん、とね。先(ま)ず、間合いが遠くて届いてない事が多いから、突っ込む時は思い切って、一気に。あと、攻撃が躱(かわ)されたら何時(いつ)迄(まで)も付き合っちゃ駄目よ。直ぐに離れないと、さっきみたいにダメージを貰っちゃうから。このシミュレーターだと、ディフェンス・フィールドの効果は再現されてないみたいだけど、自分の攻撃が届く範囲だったらフィールドの効果範囲の内側だから、どの道、フィールドは当てに出来ないから、その積もりで。」

「うん、分かった。」

「それから、攻撃時の接近の時は、余り操縦しようと思わない方がいいんじゃないかな。どう言うラインで近付いて、どっちへ抜けるか。動きをイメージして、思考制御に任せるの。LMF と違って、HDG のホバー機動には操縦桿が無いから、B号機を装着する様になったら、嫌でも分かると思うけど。 操縦桿の有る LMF でも、同じ様に思考制御で動かせる筈(はず)だから、成(な)る可(べ)く、そう心掛けてやってみて。急には、難しいとは思うけど。」

「分かった~やってみる。」

 ブリジットが答えると、続いて Ruby が訊(き)いて来るのだった。

「わたしには、アドバイスはありませんか?茜。」

 茜はちょっと微笑んで、答える。

「あなたには、特に無いわね、Ruby。 稼働データが溜まって来れば、腕の振り方とかは最適化される筈(はず)だから、地道に経験(データ)を積み上げてちょうだい。」

「分かりました。」

 Ruby の素直な返事に、くすりと笑って緒美が声を上げる。

「それじゃ、第二回戦、さっきと同じ条件でもう一回やってみましょうか。」

「はい。樹里さん、お願いします。」

 ブリジットの返事を聞いて、茜が、樹里にヘッド・セットを返そうとすると、樹里は微笑んでそれを断り、茜に言うのだった。

「あなたが使ってて、天野さん。 じゃ、スタート掛けるから、伝えてあげてね。レディ、スタート。」

 茜は、樹里に言われた通り「スタート」と、仮想戦の開始をブリジットに告げた。


 その後、一時間程が経過し、その間に五回の仮想戦が繰り返された。条件は全て、第一回戦と同じで、結果もほぼ同様だったのである。つまり、LMF 側の六連敗である。
 緒美は、ブリジットへ伝える。

「取り敢えず、一度休憩にしましょう。ボードレールさん、降りてらっしゃい。」

「分かりました~。」

 コックピット・ブロックのキャノピー部が解放され、ジャージ姿で LMF 用のヘッド・ギアを装着しているブリジットが、両腕を振り上げ、背伸びをして腰を伸ばす。
 モニターの前では、立花先生が緒美に話し掛けるのだった。

「プラズマ砲を使わないと、こんなにも勝てない物だとは、正直、思わなかったわね。天野さんの活躍具合を見ていた所為(せい)かな、三回に一回位(くらい)は勝てる物かと、漠然と思ってたんだけど。」

 緒美は苦笑いしつつ、答えた。

「いいえ、こんな物だと思いますよ?」

「そうよね。考えてみれば、あのサイズのロボット・アームを振り回す兵器なんか、今迄(いままで)無かったんだから、運用の経験が皆無なんだし。まぁ、無理も無い、か。」

 立花先生が溜息を吐(つ)いている一方で、LMF のコックピット・ブロックから降りて来たブリジットに向かって、茜が声を掛ける。

「お疲れ様~ブリジット、どうだった?仮想戦、やってみて。」

 ブリジットはヘッド・ギアを外すと、力(ちから)無く笑って答える。

「全然、ダメね。矢っ張り、動いてる相手は、突っ立っているだけのポールとは訳(わけ)が違うわ。それから、飛び掛かって来られると、矢っ張り、怖(こわ)い。本物じゃないって、頭では解ってても。 茜は、良く本物の相手が出来たわね。」

「怖(こわ)さを言えば、剣を持ってる人間の方が、わたしは怖(こわ)いけど。」

 そう言って、苦笑いする茜だった。そして、ブリジットに緒美が尋(たず)ねる。

「実際に操作をやってみて、何か改善した方がいい所とか、気が付いた事は有る?ボードレールさん。」

「そうですね…攻撃の指示方法が、単純化され過ぎてませんか? 攻撃を加えたい箇所を視線で指定して、コントロール・グリップのトリガーを引くだけ、って。 腕の振り方だって、何種類か有ると思いますし、その辺り、明示的に選択出来た方がいいのかも、って思いましたけど。あぁ、でも、実際に選択したり考えたりしてる余裕は無いのかなぁ…難しいですね。」

 ブリジットの意見を聞いて、立花先生が聞き返す。

「腕の振り方、って?」

 その問いには、茜が答えた。

「まぁ、単純に言えば、上から下へ、或いはその逆。それから右から左へ、それとその逆。あとは、突き、ですね。あ、突いてから払うって動きも有りますか。」

 茜は説明し乍(なが)ら、右手を上下左右、そして前後へと振って見せる。それを見て、直美が言うのだった。

「ゲームみたいに、Aボタン、Bボタンで、攻撃方法を分ける、とか?」

「う~ん、LMF の両腕は中間モードとかでは、姿勢のバランスを取るのにも使ってるから、だから、腕の振りは、その時の状況に合わせて、Ruby が選択する仕様になっているんだけど。」

 緒美の説明に対して、茜が見解を示す。

「その仕様は、それでいいと思いますけど。現時点での問題は、そう言った攻撃の動作が有る事を、Ruby がまだ知らない事ですよね。」

 そして、樹里が口を添える。

「その辺りの動作は、思考制御のセンサーで操縦者の動作イメージを読み取って、それが LMF の動きに反映されるのを期待していたんですが。 なかなか、思う様には伝わらない物ですね。」

 すると、樹里の隣で成り行きを眺(なが)めていた維月が、樹里に向かって言う。

「そんなの、十回や二十回位(くらい)じゃ、Ruby も拾い上げた動作パターンを、体系化も出来ないよ。少なくても、四桁位(ぐらい)の単位でデータが集まらないと。」

「まぁ、先は長い、って事よね。」

 そう言って樹里は、維月に微笑んで見せる。その一方で、茜は立花先生に尋(たず)ねるのだ。

「あの、立花先生。LMF の防衛軍仕様の改良型が、もう直(じき)、納入されるんですよね?」

「ええ、先行量産型、って事になってるけど。それが?」

「いえ、其方(そちら)の方は、格闘戦用の動作データって、どうされているのかな?と、思った物で。」

「ああ~…。」

 立花先生はその件に関しては情報を持ち合わせてはいなかったのだが、そこで声を上げたのは樹里だった。

「流石、天野さん。いい所に、気が付いたわね。」

「城ノ内さん、何か知ってるの?」

 緒美に、そう問い掛けられ、樹里は満面の笑みで答えた。

「先日の通信会議で聞いたんですけど。本社も、同じ所で苦慮してるみたいで、目下、うちと同じ様にシミュレーターを利用して、アーム動作の基礎データを作ってるそうです。それで、うちの方で上手くいったら、そのデータが欲しい、と、言われてます。」

「何よ、それ。」

 樹里の説明に、思わず声を上げたのは、恵である。続いて、直美が少し呆(あき)れた様に言った。

「道理で、シミュレーターのソフトの件とか、本社が協力的だった訳(わけ)だわ。」

 すると、ニッコリと笑って茜が言うのだった。

「成る程、そう言う事でしたら、ちょっと、アイデアが有るんですけど、部長。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.06)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-06 ****


「まぁ、天野さんは、そう言う心配をすると思ってたわ。正直言って、わたしもその心配には、同感。昨日は明らかに HDG を探していたし、彼方(あちら)の目的が HDG の脅威度判定なら、先(ま)ず間違いなく、もう一度来るでしょう。寧(むし)ろ、来ない理由の方が思い付かない位(くらい)だわ。」

「ちょっと、緒美ちゃん。」

 眉を顰(ひそ)めて抗議の声を上げる立花先生に、右の掌(てのひら)を向けてそれを制し、緒美は続ける。

「まぁ立花先生、最後まで聞いてください。 それで、皆(みんな)にも、覚悟はしておいて貰いたいんだけど。襲撃が有るとしたら、来月7日の前後三日位(くらい)になると思うの。」

 その日付を聞いて、樹里と維月が揃(そろ)って「えっ?」と声を上げ、二人共が視線を瑠菜の方へ向ける。当の瑠菜は、怪訝(けげん)な顔付きで、樹里と維月を順に見返し、訊(き)いた。

「何?どうしたの?」

「あ、いや。ごめん。」

 そう言って維月は反射的に視線を外し、樹里は笑顔を作って言うのだった。

「何でも無い、無い。あ、部長、続けてください。すみません。」

 瑠菜も視線を緒美に戻して、問い掛ける。

「部長、どうして来月の7日って、日付が特定出来るんですか?」

「ああ、それはね。今迄(いままで)の傾向から言って、エイリアン・ドローンが同じ地域を連続して襲撃するのは、可成り希(まれ)なのよ。理由は解らないけど、同じ地域に繰り返して襲撃を仕掛ける場合は、ほぼ等間隔でやって来る事が殆(ほとん)どなの。」

 その説明を聞いて、直美が問う。

「前回が7月6日で、昨日が22日。間が十五日だから、次は8月7日って事?」

「単純計算だとね。あとは天候の具合とかで、三日位(ぐらい)は前後するだろうって予想。」

 そこで、ブリジットが茜と同じ様に右手を挙げ、緒美に問い掛けた。

「それじゃ部長、もしもその期間を過ぎても襲撃が無かったら、もう、暫(しばら)くは、来ないだろうって事になりますか?」

 緒美は、微笑んで答える。

「そうね。昨日の襲撃で脅威判定に必要なデータが、エイリアン側に揃(そろ)っていれば、暫(しばら)くは HDG を狙って来る事は無くなる、その可能性は有るでしょうね。」

「どちらにしても、二週間後以降なら安心して休めるって事かあ…。」

 苦笑いしつつ、恵が独り言の様にそう言うと、茜がもう一度、緒美に問い掛けた。

「でも、二週間後に又、襲撃が有ったとして、その二週後にも又、襲撃が有るんじゃ…。」

「勿論、その可能性も有るわ。どの位(くらい)データを取ったら満足するのか、それはエイリアンの都合次第だから、ね。ともあれ、余り先の事ばかり気にしていても仕方が無いから、取り敢えずは、この二週間後辺りを注意して過ごしましょう。差し当たって、これからの二週間は HDG も LMF も表には出さないで、作業を進めたいと思うの。」

 その提案には、早速、樹里が賛同する。

「そうですね、予定通りに LMF のシミュレーター・ソフトが使える様になれば、LMF 本体を起動しなくても Ruby が経験値を稼げる筈(はず)ですし。」

「それじゃ、そう言う方向で。さっきは覚悟してって言ったけど、向こうがこっちに気が付かず、素通りする様な状況なら、わたし達は手を出さない方針だから、それは覚えておいてね、天野さん。」

 緒美は、茜を名指しして、微笑んで見せる。茜も微笑みを返して、言った。

「別に、何(なに)が何(なん)でも戦いたい訳(わけ)じゃ有りませんから、わたしだって。」

「そう、良かった。」

 そして、緒美は立花先生へ視線を移し、尋(たず)ねる。

「と言う事で、いいでしょうか?先生。」

「うん、そうね。 一つ、付け加えさせて貰うと~折角の夏休みなんだから、皆(みんな)、ちゃんと帰省しなさいね。親御さんも、心配してるだろうから。 あ、但し、HDG 絡みの事は、御家族であっても社外秘の事は、喋(しゃべ)っちゃ駄目よ。特に、天野さん、実戦とかの事は、御家族には、当面は内緒にしておいてね。」

「そう言えば、おじい…理事長の方(ほう)から、両親には説明をって、前に言われてましたけど。あれ、どうなったのかしら? 先生、何か聞いてますか?」

「その件はね、理事長が大変お困りの様子でしたから。 天野さんには、御家族にはお話にならない旨、釘を刺しておいてと、先程に、仰(おお)せ付かって参りました。」

「ああ、そうでしたか、矢っ張り。」

 立花先生が敢えて大仰な言葉遣いをするので、茜は呆気(あっけ)に取られて、そう返すのが精一杯だった。緒美達、三年生はクスクスと笑っている。樹里達、二年生と維月は、苦笑いの様な複雑な表情だったが、佳奈だけは普段通りのぼんやりとした微笑みである。茜以外の一年生、ブリジットとクラウディアの二人は、単純に困惑の表情を浮かべていた。
 そんな空気の中、恵が思い付いた様に、クラウディアに問い掛けるのだ。

「ああ、そう言えば。わたし達はそれぞれ帰省するにしても、カルテッリエリさんは、どうする?」

 それに、クラウディアは、落ち着いた表情で答える。

「ああ…そうですね。」

 そして、少し考えてから、立花先生に尋(たず)ねるのだった。

「その間、寮に残っていても、構わないですよね?わたし。」

「そうね、別に、寮が閉鎖される訳(わけ)じゃないから、大丈夫よ、残ってても。」

 事情は解っているので、「あなたは帰国しないの?」と無神経な返しはしない立花先生である。
 すると、樹里と維月が同じタイミングで「それなら…」と、声を揃(そろ)えて言い出し、瞬間、二人は視線を合わせる。その一瞬の、視線だけの遣り取りで、発言の順番を譲り合った結果、先(ま)ず、樹里がクラウディアに提案をするのだった。

「だったら、観光も兼ねて、家(うち)に来ない?カルテッリエリさん。」

 続いて、維月も提案する。

「あはは、考える事は同じだね。わたしも家(うち)に誘おうかと思ってた。」

 クラウディアは、少し身体を引く様な仕草で、問い返す。

「そんな、迷惑じゃない?」

 樹里は透(す)かさず、答えるのだった。

「大丈夫、大丈夫。家(うち)の両親は、お客さん大歓迎の人だから。」

 続いて、維月。

「家(うち)は一家揃(そろ)ってソフト屋だからね、話は合うと思うんだ、クラウディアと。」

「あ、だったら、一週間ずつ、でどう?順番はどっちからでもいいけど。わたしも、維月ちゃんち、行ってみたいし。」

「あ~、おいで、おいで。家(うち)の両親も、樹里ちゃんとは会ってみたいって言ってたし、ちょうどいい機会よね。」

 そこに、佳奈が参戦する。

「わたしも樹里リンち、久し振りに行きたい~。」

「ああ、そう言えば。あなた達、中学が同じだったのよね?」

 瑠菜が、隣の席から少し呆(あき)れ気味に、そう確認すると、佳奈が満面の笑みで言葉を返して来るのである。

「うん、樹里リンの妹ちゃんが可愛いんだ~。瑠菜リンもおいでよ。」

「おいでよって、あなたの家(うち)じゃないでしょ。」

 苦笑いで佳奈へ言葉を返す瑠菜を、樹里は微笑んで誘うのである。

「瑠菜ちゃん、静岡でしょ。近いんだから、おいでよ。維月ちゃん含めて、二年生組で集合するのも、面白そうだし。」

「ええ~近いかなぁ。まぁ、二日位(ぐらい)なら都合が付くと思うから、お邪魔してもいいかな。」

「じゃ、そう言う事で、皆(みんな)、あとで日程の調整とかしましょう。カルテッリエリさんも、いいよね?」

 樹里が向ける笑顔の圧力に、クラウディアは困惑しつつも首を縦に振る。

「え…と、城ノ内先輩とイツキの御家族に、迷惑でなければ。」

 勿論、内心は嫌ではなく、先輩達の厚意が嬉しいクラウディアだった。

「迷惑だとか、心配要らないから。遊びにおいで~クラウディア。」

 維月はクラウディアの頭の上に乗せようとしていた右手を、思い直して肩へと置いた。樹里は、立花先生に了承を取り付ける。

「そんな訳(わけ)で、宜しいでしょうか?先生。」

「まぁ、いいんじゃない? カルテッリエリさんの事は、樹里ちゃんと井上さんに任せるわ。あ、但し、皆(みんな)そうだけど、帰省する前に寮の外泊届とか、手続きを忘れないで済ませておいてね。」

 一同が声を揃(そろ)えて「はい」と答えると、一呼吸置いて緒美が口を開く。

「それじゃ、お昼には少し早いけど、午前中はここ迄(まで)にしましょうか。城ノ内さんの方は、午後からの作業予定は決まってる?」

「あ、はい。LMF のシミュレーター・ソフトの件、こちらで準備しておく作業を、依頼されてますので。」

「そう、じゃあ、其方(そちら)の方は、任せるわね。」

「はい、部長。」

「メカの方は~考えておくわね。取り敢えず、天野さんとボードレールさんは、さっき言ってた通り、で。」

 緒美から話を振られて、茜は「はい」と答えるが、その時に不在だったブリジットには、それが何の話かが解らなかったので、茜に尋(たず)ねるのである。

「さっきのって、何?」

「ああ、LMF の格闘戦動作教示の前に、ブリジットには接近戦の感覚を掴(つか)んで貰おうと思って。わたしが教えられるのは剣道しか無いから、竹刀(しない)を持って来たのよ。 あ、別に、剣道の技を覚える必要は無いから。攻防の切り替えのタイミングとか、間合いの取り方とか、そんな感じがイメージ出来るようになれば。」

「イメージ…ねぇ。いいわ、取り敢えず、やってみましょう。どうせ、身体を動かさないと分からない類(たぐい)の事なんでしょ?」

「そうね。まぁ、ブリジットは運動神経がいいんだから、大丈夫よ。バスケに通じる部分も、きっと有ると思うし。」

 そこで、直美が声を上げるのである。

「その教習、わたしも混ざっていい?天野。」

「それは、構いませんけど…。」

 不審気(げ)に茜が声を返すと、恵が微笑んで言うのだった。

「去年、体育の授業で、一応、わたし達も剣道やったのよ。副部長はその時、結構、強かったのよね。」

「まぁ、剣道部の人には敵わなかったけどね。あ、二年生は十一月頃に、授業で剣道が有るから、楽しみにしてるといいよ~。まぁ、言っても、授業でやるのは基礎だけ、なんだけどね。」

 そう直美が、何やら楽し気(げ)に言うと、苦笑いで瑠菜が言葉を返す。

「ええ、噂は聞いてますよ。防具の匂(にお)いが凄いだとか、色々。」

 それに対しては、茜が所見を述べるのだった。

「匂(にお)い何(なん)て、今は、いい消臭剤が色々と有るのに。」

「それが、消臭剤は使わせて貰えないんだって。」

 そう樹里が言うので、再び茜が発言する。

「家庭用のを持って来るから、じゃないですか? 成分によっては、防具を傷めるから、家庭用のは駄目ですよ。専用のじゃないと。」

「ああ、そうなんだ。流石、経験者だね、天野。」

 感心気(げ)に瑠菜が言うので、直美が昨年の経験談を語るのだった。

「そうそう、剣道部の人がさ、その専用の消臭スプレー持って来ててさ。正(まさ)に、救世主って感じだったわ~あれは。」

「あはは、ともあれ、副部長にも多少、心得が有るのでしたら、ご一緒するのは構いませんよ。」

 笑顔で茜が了承するので、直美は緒美にも確認を求める。

「いいでしょ、鬼塚。天野の方に、参加しても。」

「まぁ、いいでしょう。余り、燥(はしゃ)ぎ過ぎないでね、新島ちゃん。」

 緒美はくすりと笑って、そう答えたのだ。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第12話.05)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-05 ****


 すると、Ruby が樹里に問い掛ける。

「樹里、シミュレーター・ソフトのインストール作業の為に、『ゼットちゃん』は学校へ来る予定なのでしょうか?」

「ああ、安藤さん? 残念だけど、インストールの操作は本社からネット経由で出来るそうだから、本人はいらっしゃらないって。あとで、スケジュールの連絡とか、Ruby の方にも有ると思うけど。」

「そうですか。分かりました。」

 そこで、佳奈が何やら楽し気(げ)に言うのである。

Ruby は相変わらず、安藤さんの事は『ゼットちゃん』なのね~。」

「ハイ、『ゼットちゃん』に関しては、そう呼ぶようにプロテクトが掛かっていますので、わたしには変更する事が出来ません。」

 Ruby の答えを聞いて、恵が維月に尋(たず)ねる。

「でも、何(なん)だって、そんな意味の分からないプロテクトが掛かっているのかしら? 井上さんのお姉さんが、仕掛けたのよね?それ。」

「それは、わたしに訊(き)かれましても。企業秘密らしいですから、わたしは理由、知りませんよ。」

 苦笑いで、維月は答えた。すると、意外な発言を Ruby がするのである。

「わたしも麻里からは、その意図を知らされてはいませんが、わたしの疑似人格が、設定された段階にまで成長すると、このプロテクトは自動的に解除されるそうです。」

「あはは、それは秘密じゃないんだ。」

 今度は明るく笑って維月が言うと、緒美が Ruby に尋(たず)ねる。

「段階、って? その具体的な条件とかは、分かるの?Ruby。」

「イイエ。条件等(など)、詳しい事は知りません。その判定プログラムはシステムの基底部分で動作しているそうなので、わたしの疑似意識からは不可視なのです。それに、わたしには自分の疑似人格が成長しているのか、そもそも定量的な測定が出来ません。 わたしは、成長しているでしょうか?緒美。」

 緒美はくすりと笑って、答えた。

「そうね、随分と成長したとは思うわ。具体的には説明が難しいけど。ねぇ、森村ちゃん。」

「うん、最初にお話しした時は、難しい言葉を知ってる小学生みたいだったもの、Ruby。」

「今は中学生位(ぐらい)には、なったでしょうか?恵。」

「いやいや、もう十分、わたし達と同じレベルになったと思うわよ。安心していいわ、Ruby。」

「そうですか。では、安心します。」

 Ruby の返事を聞いて、瑠菜と佳奈が笑って言うのである。

「あはは、Ruby のそう言うとこ、わたしは好きよ。」

「わたしも~。」

 そんな話をしている折(おり)である。部室の入り口ドアが開き、入って来たのは直美と、ブリジットの二人だった。

「ただいま~。」

「ああ、ご苦労様、新島ちゃん。話は付いた?バスケ部。」

 緒美に問い掛けられ、直美は少し不器用に笑顔を作って答える。

「うん、仕方が無いから、田中には HDG の事とかちょっと詳しく説明して、あ、勿論、秘密保持の件は了承済みよ。それで、ブリジットは暫(しばら)く、バスケ部は休部って事で、身柄を引き取って来たわ。」

 直美は説明し乍(なが)ら、部室の奥へと進み、瑠菜や茜の後ろを通って、恵の向かい側の席に座った。バスケ部での練習用にジャージ姿の儘(まま)のブリジットは、入り口ドアを背に、黙って立っていたが、直美が席に着くのを見計らって、小さく頭を下げ、言った。

「お騒がせして、すみません。」

 それには、先(ま)ず緒美が言葉を返す。

「別に、こっちの方は大して騒いでないから、心配は要らないけど…。」

 緒美は、ちらりと茜の表情を窺(うかが)う。すると、少し困惑した表情で、茜は緒美に訊(き)くのだった。

「何か有ったんですか?部長。」

 茜の問い掛けには答えず、緒美はブリジットに向かって言う。

「天野さんには、言ってなかったの?」

「はい、あとで話そうかと…。」

 ブリジットが気まずそうに答えると、今度は、茜はブリジットに問い掛ける。

「何(なん)の話?ブリジット。」

 その返事を、ブリジットが躊躇(ちゅうちょ)していると、直美が声を上げるのだった。

「天野の力(ちから)になりたくて、バスケ部を辞めるってね。そう言う話だから、怒らないであげてね、天野。」

「別に、怒りはしませんけど…。」

 直美に向かって、そう茜は言うと、一息吐(つ)いてから、ブリジットに向かって言う。

「あなたが勘違いしてたらいけないから、念の為に言うけど。わたしは、この部活は好きで、楽しんでやってるのよ? そりゃ、昨日みたいな事も有ったけど、それだって正義感とか義務感とかで、無理してやってる訳(わけ)じゃないし。そう言う事も含めて、やりたくてやってるの。 だから、あなたもやりたい事を、やっていいのよ、ブリジット。 わたしに、無理して付き合う必要は無いの。」

 顔を上げ、一息を吸い込んで、ブリジットも言うのだった。

「それは、分かってる。…でも、昨日みたいな事が有って、わたしは呑気にバスケをやってられる気分に、なれなくなったの。勿論、バスケ部の皆(みんな)は、本気で大会を目指しているけど。でも、わたしはそうは、なれなくなったから…。」

 そこに直美が、補足説明を付け加える。

「それに、次の大会に向けて、レギュラーに選ばれそうになった、てね。」

「それが、プレッシャー?」

 茜の質問に、ブリジットは首を横に振る。

「でも、わたしは他の人の半分も、練習に出られてないから。」

 緒美は溜息を吐(つ)き、直美に視線を送って問い掛ける。

「運動部って、そう言う所、有るわよね。本来、実力だけが問題でしょ?」

「わたしに言わないでよ。 とは言え、ろくに練習にも参加しないのにレギュラーなんて、ってやっかむ人が居るのも、まぁ、有り勝ちな話だけどね。それが下級生なら、上級生の中には面白くない者も居るでしょうし。」

 恵も深い息を吐(は)き、目を伏せて言った。

「厄介よねぇ…。」

「まぁ、それで。 うちの方もこんな状況が、何時(いつ)迄(まで)も続く訳(わけ)じゃないだろうし、バスケ部の方も、特に部長の田中はブリジットには期待してるし、で、取り敢えずは休部って事で。ブリジットの気持ちが変われば、何時(いつ)でも復帰して呉れて構わないってさ。」

 直美の説明に対し、ブリジットが問い掛ける。

「でも、そんな身勝手と言うか、虫の好い話で、良かったんでしょうか?」

 その問いには、恵が先に答える。

「いいんじゃない?先方が、それでいいって言ってるんでしょ。」

「そう言う事~。」

 直美はニヤリと笑って、恵に応じる。一方で、茜はブリジットに向かって、問い質(ただ)すのである。

「ブリジット、あなたはそれで、本当に良かったの?」

「いいの。わたしは茜と一緒の活動が出来る方が、今は楽しいし。」

「そう。なら、わたしが兎や角、言う事じゃないわ。 何時(いつ)迄(まで)もそこに立ってないで、こっち、いらっしゃい。」

 茜は微笑んで、手招きをしてみせる。ブリジットは茜の方へと進み、茜の隣の席に腰を下ろした。その時、もう一度、小さな声で言ったのだった。

「ごめんね。」

 茜は微笑んで、言葉を返す。

「あなたが、あなたの事を、自分で決めたんだから、わたしに謝る必要は無いでしょ。ブリジットが無理をしてるんじゃないのなら、わたしには何(なん)の文句も無いし。」

「うん。」

「それに。わたしも、あなたと一緒に、何か出来るのは嬉しいわ、ブリジット。」

「うん。」

 そして、硬かったブリジットの表情が、漸(ようや)く緩(ゆる)んだのである。
 一方で、緒美が直美に向かって言うのだった。

「でも、結果的に田中さんには、悪い事しちゃったかしらね。」

「まぁ、端(はた)から見たら、バスケ部の部員を一人、引き抜いたみたいに見えるもんね。」

 その直美の意見に対して、恵が見解を示す。

「仕方無いでしょ、本人がやる気を無くしちゃったんだから。それに、集中を欠いた人が居てもチームにはいい影響は無いだろうし、第一、それって事故や怪我の元でしょ。」

「あはは、違い無い。」

 笑って直美が同意すると、立花先生が真面目な顔で言うのだった。

「冗談抜きで、今、恵ちゃんの言った事は、スポーツに限った話じゃ無いから、皆(みんな)も頭に入れておいてね。」

 緒美はくすりと笑って正面に向き直り、背筋を伸ばす様にして声を上げた。

「さて、皆(みんな)が揃(そろ)った所で、当面の予定に就いて、ちょっと話しておきたいと思います。」

 一同が、緒美に注目する。緒美は一呼吸置いて、話を続けた。

「当面の大きな動きとしては、夏休みが明けた頃に HDG の B号機が搬入される予定だけれど、今の所、最終的な日程はまだ、未確定です。それ迄(まで)の間、LMF の格闘戦シミュレーションを行いますが、これは、昨日の打ち合わせの通り。それで、八月の二週目辺りから二週間程、部活の方は、お休みにしようかと思います。8月12日、金曜日から25日、木曜日迄(まで)、でどうかな? 部活の方で休止期間を決めた方が、皆(みんな)も帰省の予定とか、立て易いと思うし。」

 緒美の発言が終わるのを待って、茜が肩口程の高さに右手を挙げ、発言の機会を求めるのだった。

「どうぞ、天野さん。」

「はい、部長。その、お休みの件は決定ですか?それとも提案、でしょうか?」

「わたしとしては決定の積もりで話しているけど、何か不都合が有るかしら?」

「わたしは、又、エイリアン・ドローンの襲撃が有るんじゃないかと、それが心配です。」

 すると透(す)かさず、立花先生が口を挟(はさ)む。

「その心配は、あなた達がする事じゃ無いのよ。対処は、防衛軍に任せるべきで…。」

 立花先生の発言に重ねる様に、緒美も言うのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第12話.04)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-04 ****


「接近戦の手段を封じる事で、彼女達がそれを避ける意志を示していた、と言う事です。そうすれば、わたし達、大人側が余計な心配は無いだろう、と。 でも、それは彼女達、特に天野さんに取っては、リスクを余計に大きくする行為だったのですが、その時点で、わたしも飯田部長も、天野さんに接近戦用の装備を持つように薦める事は、思い付きもしませんでした。」

「まぁ、その辺り、余り気に病む必要は無いよ。キミにせよ飯田君にせよ、軍事作戦や戦闘指揮に関しては素人(しろうと)なんだ。それに、茜は兎も角だが、鬼塚君の方は、そのリスクを回避する作戦を、ちゃんと考えていた様子だしな。」

「申し訳ありません、監督者として、本当に力不足(ちからぶそく)で。」

 座った儘(まま)で、立花先生は深深と頭を下げるのだった。すると、天野理事長は透(す)かさず、言葉を返した。

「だから、気にしなくてもいいよ、立花先生。結果的に全員無事だったし、損害も出ていない。キミは十分に、監督者としての責任は果たした。」

「そう言って頂けると、幾分、気は楽ですが。」

 顔を上げた立花先生は、苦笑いである。一方で、溜息を吐(つ)いて、塚元校長は言うのだった。

「しかし…又、こんな事が起きるのでしょうか?理事長。 幾ら自発的な行動とは言え、戦闘に巻き込まれる危険性が分かっていて、生徒達にこの儘(まま)、活動を続けさせると言うのはどうかと。 例え、彼女達にそれに対応する能力が有るにしても、ですよ?」

「又、同じ様な事が、と問われれば、その可能性は低くはないな。一般には報道されてはいないが、前回の襲撃の際、広島の防空レーダーが被害を受けていたそうだ。此方(こちら)側のは、うちの子達が守って呉れたが。」

 その天野理事長の発言を聞いて、立花先生は気が付いたのである。

「それじゃ、今回、エイリアン・ドローンが接近していたのに、気が付くのが遅れたのは…。」

「ああ、防空監視網の穴を突かれた格好だ。無論、防衛軍が対策をするだろうが、それなりに時間は必要だろうな。」

「…そうでしたか。」

 そして、身を乗り出す様にして、塚元校長が提案する。

「でしたら、少なくとも、その対策が出来る迄(まで)、兵器開発部の活動を休止させては? 今は、夏休み期間中でもありますし。」

 その提案に、先に異を唱えたのは、立花先生だったのである。

「校長、エイリアン・ドローンの襲撃は、段段と規模と頻度が増して来ています。先に送れば、送る程、危険度は増す事になるのではないかと。」

 次いで、天野理事長が発言する。

「今のスケジュールだと、年内一杯で、予定している開発項目に、一通りの目処(めど)が付く。そこ迄(まで)は、彼女達の協力を得たい所だな。」

「会社として、お金儲(かねもう)けが大事なのは分かりますが、それに生徒達を、危ない目に遭わせて迄(まで)と言うのには、賛同、致し兼ねます。」

 そう、語気を強めて塚元校長が言うので、天野理事長も厳しい表情で、しかし落ち着いて言い返すのだった。

「この開発案件に、利益なぞ殆(ほとん)ど有りはしませんよ。国家や人類の存続危機に繋がらない様、対抗手段を得る為の開発です。無論、社員に只働きをさせる訳(わけ)にはいかないので、相応の報酬が得られる様に考えてはいるが。その辺り、誤解はしないで頂きたい。」

 一息置いて、天野理事長は続けた。

「勿論、校長の懸念は理解しています。だから、防衛軍の協力も得て、彼女達に護衛を付ける事も考えている所だが…態勢が整うまで、或(あ)る程度、時間が掛かるのは仕方が無い。で、立花先生?」

「あ、はい。何(なん)でしょうか?」

「在り来たりの事しか言えなくて、心苦しいのだが。護衛の態勢が整う迄(まで)、あの子達が無茶をしない様、気を付けてやって欲しい。」

「それは、勿論、その積もりですが…昨日の様な突発的な状況で、目の前で被害が出るであろう場合に、天野さん達を制するのは、難しいかと。」

「そうなったら、それで仕方が無い。その時は、後方の部員達の安全確保を考えてやって呉れ。」

 その言葉に、塚元校長は睨(にら)む様な視線を送り、天野理事長に訊(き)いた。

「宜しいんですの?それで。」

「茜も、前に出て行く以上、それ位(くらい)の覚悟をしているだろう。まぁ、もしもの事態になったら、娘…あの子の両親には、恨まれるだろうがな。しかし仮に、そんな状況で茜が何もしなかったら、恐らく、もっと多くの犠牲が出て、その方が茜に取っては辛い事も有るだろうし…まぁ、難しい判断だな。兎に角、我我は我我で、出来る事を探して、一つずつ手を打っていくしかない。」

 天野理事長は、そう言ってソファーに凭(もた)れ掛かると、目を閉じて、深く息を吐(は)いた。


 再び、兵器開発部の部室である。
 茜が部室へ到着したのは、時刻が午前十一時になろうかと言う頃だった。ドアを開けて部室へと入った茜は、真っ先に、ブリジットの姿が無い事に気が付いた。時刻的に、バスケ部の朝練からは、もう戻っている筈(はず)だったのだ。そう思えば、寮の部屋には着替えに戻った気配も無かった。

「あれ?ブリジットは、今日は一日、バスケ部でしたっけ?」

 茜に、そう問われて、緒美と恵は一度、顔を見合わせる。そして、恵が答えた。

「もう直(じき)、戻って来ると思うけど。」

「そうですか、そう言えば副部長の姿も見えませんね。」

 そう言いつつ、茜は右肩の背中側へ縦に担いでいた、長さが1.5メートル程の黒い合成皮革製ケースを床面へと降ろすと、背後の書類棚へ立て掛け、空いていた席に着いた。

「新島ちゃんも、ちょっと用事でね。直ぐ戻ると思うけど。」

 今度は緒美が、微笑んで答えた。すると、続いて瑠菜が茜に問い掛ける。

「天野、何よ?その黒いケース。」

「ああ、これですか?竹刀(しない)ですよ。」

 即答する茜に、佳奈が聞き返す。

「シナイって、剣道に使う?」

「はい。」

 再び、瑠菜が尋(たず)ねる。

「何(なん)で又、そんな物。」

「偶(たま)には、素振り位(くらい)しようかと思って、こっちに持って来てはいたんですけど。流石に、寮で夜中に竹刀(しない)を振り回してると、危険人物っぽいので。この三ヶ月、ほぼ封印状態で…。」

 さらりと説明する茜に被せる様に、瑠菜は言うのだった。

「あ~いやいや、何(なん)で部室に持って来たかって事。」

「え?…ああ、ブリジットに、ちょっと稽古(けいこ)をして貰おうと思いまして。」

「剣道の?」

 そう訊(き)いて来たのは、恵である。

「はい。」

 そこで、Ruby が茜に尋(たず)ねるのだった。

「LMF の、腕を使った戦闘に就いて、練習が必要なのは、ブリジットではなく、わたしなのでは? 茜。」

「勿論そうだけど、LMF の動作制御にも、HDG と同じで操縦者(ドライバー)、この場合はブリジットの、動作イメージとかが反映されるでしょ。だからブリジットにも、格闘戦の基礎的な動作のイメージが、出来てる方がいいと思うの。」

「成る程、わたしも経験の無い事なので、それは試してみたいと思います。」

「うん、やってみて、上手くいかない様だったら、又、考えましょう、Ruby。」

「ハイ、茜。」

 Ruby の返事を聞いて、茜は緒美の方へ視線を変え、言うのだった。

「と、言う事で、やってみたいんですけど。如何(いかが)でしょうか?部長。」

「うん、まぁ、やってみても損は無さそうね。いいんじゃない? でも、怪我とかしない様に、気を付けてね。」

「はい。それは、勿論。」

 そして、複数人が外階段を登ってくる足音が、戸外から聞こえて来る。間も無く、ドアを開けて入って来たのは、樹里を先頭にソフト担当の三名と、立花先生だった。

「唯今、戻りました~。」

 先頭に立っていた樹里が、そう声を掛けつつ中央の長机へと歩み寄って来るので、恵が尋(たず)ねるのだった。

「立花先生もご一緒でしたか。」

「ええ。理事長室からの帰りに、通信会議室の方へ寄ってみたら、ちょうど終わった所だったのよ。本社との打ち合わせ。」

 立花先生が恵の隣の席に座ると、樹里と維月、そしてクラウディアも、それぞれが空いていた席に着いた。そして、緒美が樹里に訊(き)くのだった。

「話は付いたの?城ノ内さん。」

「はい。昨日聞いていた通り、防衛軍仕様の LMF 改型用に用意してあった、訓練用シミュレーターのソフトが転用出来るそうなので、その方向で。」

 続いて、維月が補足を加える。

「唯(ただ)、LMF 改のは HMD(ヘッド・マウンテッド・ディスプレイ)に映像を表示する仕様なので、それをこっちの、LMF のコックピット・ブロック用へ変換するモジュールを追加する必要が有るので、ソフトの改造に三日欲しいそうです。」

「え?三日で出来るんだ、そう言うの。」

 そう、感想を漏らしたのは瑠菜である。それに対し、樹里が微笑んで解説を付け加える。

「うん、基本的には表示画像の座標変換をすれば済む話、だそうだから。ソフト改造作業に二日、チェックに一日、だって。」

「三日って事は、月曜日から、火、水、木曜日には使える様になるって計算でいいのかしら?」

 樹里の説明に、指折り数え乍(なが)ら恵が日程を確認する。すると、クラウディアが半ば呆(あき)れた様に言うのだった。

「それが、今日から取り掛かるから、火曜日にはインストール出来るだろうって、五島さんが。」

「え?火曜日って…土日もビッシリ、作業するって事?」

 恵が聞き返すのを、苦笑いしつつ維月が答えた。

「土日にやる方が、邪魔が入らなくて進みが、いいんだそうですよ。」

 それに、涼しい顔で立花先生が付け加えるのだった。

「まぁ、開発、設計三課の五島さんって言えば、会社に住んでるって言われてるらしい人だから。どこかで、代休は取ってる筈(はず)だけど。 皆(みんな)は、卒業して本社採用になっても、真似しちゃ駄目よ。」

「あはは、うちの姉も、似た様な様子らしいですよ。まぁ、うちのは両親からして、そんな感じなんですけどね。」

 そう維月が言うので、隣の席の樹里が尋(たず)ねるのだった。

「安藤さんも、そうなのかな?」

「いや~安藤さんは、割と、ちゃんと休みを取ってる方だって聞いたけど? まぁ、ソフト部隊が長時間勤務になり勝ちなのは、業界的な傾向じゃない? うちの親とか見てると、マジでそう思うよ~。」

 維月の返事に対し、立花先生が言うのだった。

「う~ん、ソフト部隊に限らずね、メカでは設計の人達も、結構な長時間勤務になるみたいよ。職種に限らず、頭脳労働的な業務は、乗った時には、どこ迄(まで)でも続けたくなっちゃうのよね。脳内麻薬とか出てるんじゃ無いか、って位(ぐらい)。」

 それに、茜も問い掛ける。

「企画部も、そうだったんですか?」

「そうね~乗りが悪い時は、さっさと切り上げて頭を冷やした方がいいけど、乗ってる時はね、兎に角楽しいのよ、これが。まぁ、あとで冷静になって見直すと、出来てた書類がとんでもない内容だったりするんだけどね。」

 そして、瑠菜も立花先生に訊(き)くのだった。

「深夜テンションって奴ですか?」

「あはは、そんな感じ。」

 立花先生は笑って、そう答えるのだった。

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.03)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-03 ****


 さて一方で、少しだけ時間を戻して、茜と緒美が退室した後の理事長室である。何時(いつ)ぞやの様に、天野理事長と塚元校長、そして立花先生の三名が、理事長室中央に置かれた応接セットのソファーに座って、話を始めていた。
 会話の口火を切ったのは、塚元校長である。

「そう言えば、理事長。前回の事とか、奥様や天野さんの御両親には?」

「う~ん、実はまだ、な。流石に、どう伝えた物か、考えあぐねているんだ。」

「あら。先に送れば送る程、言い辛くなりはしません?」

「それはその通りなんだが。妻も娘も、どう言ったって、怒るのは目に見えてるからなぁ。いっそ、事が収まる迄(まで)、しらばっくれていようかと思っている所だよ。」

 そう言って天野理事長は笑うのだが、冷めた視線を送りつつ塚元校長は問い質(ただ)す。

「事が収まるって、どうなったら収まった事になるんですの?理事長。」

「それは勿論、茜があんな事をしなくても良くなったら、だな。」

 その発言に就いては、立花先生が尋(たず)ねるのである。

「それは、この儘(まま) HDG の開発が完了するまで待つか、或いは天野さんを HDG の開発から外す、とかでしょうか?」

「うむ、まぁ、それも方法ではあるな。あとは、HDG の開発業務を全面的に本社の方へ移してしまう、とかだな。」

 溜息を一つ吐(つ)き、塚元校長が訊(き)く。

「あの子達、納得して呉れるでしょうか?それで。」

「納得しようが、しまいが、あの子の達の安全を図る為なら、その位(ぐらい)やらねばならんのだがね、本来なら。」

「本来なら?…と、言われると、そうするお積もりは無い?」

「それが…難しい所だな。」

 仰(の)け反(ぞ)る様にソファーに身体を預けると、天野理事長は右手で顔面を押さえ、深く息を吐(は)いた。そして、身体を起こし話を続ける。

「前回、立花先生に言われて、飯田君に色々と資料を回して貰ったんだが…。」

「わたしが、何か申し上げたでしょうか?理事長。」

 立花先生は、咄嗟(とっさ)に、『言った事』に就いて思い当たらなかったので、天野理事長に尋(たず)ねてみたのだ。すると、天野理事長はニッコリと笑って、答えた。

「茜が優秀だ、と。 キミが、そう行って呉れただろう?」

 そう言われて、立花先生は前回の遣り取りを直ぐに思い出したので、慌てて返事をする。

「ああ、はい、確かに。でも、それが?」

「どの位(くらい)、優秀なのかと思ってね、飯田君に言って資料を集めて貰ったのだが。ああ、確かに、優秀だったよ、驚いた。 我が孫乍(なが)らと言うべきか、ね。」

 そこで、塚元校長が口を挟(はさ)む。

「ごめんなさい、ちょっとお話が見えないのですけれど?」

「ん?ああ、実はね。HDG の開発案件は、部長の鬼塚君がキーパーソンだと思っていたんだよ。勿論、他の子達も、それぞれに優秀なんだが、HDG に関しては鬼塚君が居なければ始まらない。そうだろう?立花先生。」

「はい、異論はありません。」

「うん、だから来年、鬼塚君がここを卒業して、会社の方へ正式に配属となれば、HDG の開発案件は全て、本社の方で引き取ろうかと考えていたんだ。ちょうど…と言うか、昨年の後半辺りから、HDG の開発作業が停滞気味ではあったからね。」

 そこで塚元校長は、隣に座る立花先生に問い掛ける。

「そうなんですか?立花先生。」

「はい、まぁ、そう、でしたね。今年の四月迄(まで)は、形状の決まらない重要なパーツが有ったり、テスト・ドライバーの選定も難航してましたし。」

 立花先生の言う『形状の決まらない重要なパーツ』とは、HDG の外装、ディフェンス・フィールド・ジェネレーターの事である。その説明に、天野理事長は大きく頷(うなず)いて、話を続ける。

「そう、四月だ。四月に茜が入学してからの三ヶ月間で、半年近く停滞していた開発作業がスケジュールに追い付き、更に半年分、進展したそうなんだよ。」

「そんなに、ですか?」

 塚元校長が尋(たず)ねるのに、天野理事長は再び大きく頷(うなず)き、言った。

「ああ、調整は茜専用だとは言え、実際に、実戦に耐えて見せたのが、その証拠だろう。」

 立花先生は、天野理事長の最初の話との繋がりが分かった気がしたので、確認の為に訊(き)いてみる。

「そうすると、つまり、天野さんを開発作業から外すのは、会社的に惜しい、と言うお話でしょうか?理事長。」

「まあ、そうなるな。今や茜は、鬼塚君に並ぶ、HDG 開発のキーパーソンと言う事だ。 そこでだ、校長。来年、鬼塚君と一緒に、茜も卒業させる訳(わけ)にはいくまいか?」

 冗談なのか本気なのか、判断が付かない天野理事長の提案に、少し苛立(いらだ)つ様に、塚元校長は鋭い視線を送りつつ言い返す。

「無茶、仰(おっしゃ)らないでください。冗談が過ぎますよ、理事長。 大体、同級生とは別に、一人だけ卒業だなんて、天野さんが可哀想でしょ。」

「そうだよな。」

「そうだよな、じゃありません。大体、鬼塚さんにせよ、天野さんにせよ、会社の方で代役を立てれば済む話じゃありませんか。」

「わたしも、初めはそう思っていたんだ。特定の個人の能力に過度に依存して仕事を進めるってのは、余り勧められた事ではないしな。」

 申し訳無さ気(げ)に、立花先生は口を挟(はさ)む。

「あの、理事長。HDG の開発案件に就いては、流石に、それは無理ではないかと。」

 その意見には、塚元校長が切り返して来る。

「どうしてかしら?立花先生。」

 だが、その問い掛けには、天野理事長が答える。

「いや、立花先生の言う通りなんだ。例えば、鬼塚君の場合だが。そもそも、鬼塚君の代わりが務まる人間が居れば、HDG の開発案件をこちらに委託なぞ、端(はな)からしていない。 水素分離膜の開発が塚元にしか出来なかった様に、HDG の開発は鬼塚君が中心にならないと進まない。アイデアを出す仕事は、アイデアを持っている人間に頼らざるを得ない、これは仕方が無い。だろう?校長。」

「そう、ですね…。」

 ここで天野理事長が言う『水素分離膜』とは、天野製作所設立当初の最初の主力製品であり、天野製作所を天野重工に迄(まで)押し上げる原動力となった技術である。その研究をしていたのが、塚元校長の夫で、天野理事長の友人だった故・塚元相談役なのである。天野製作所は、その『水素分離膜』を製品化する為に、天野理事長達が設立した会社だったのだ。
 天野理事長は話を続ける。

「茜の場合は、主にテスト・ドライバーとして開発に貢献している訳(わけ)だが、大きな事故も無くデータの取得を続けて、調整や改良を重ねて行けているのは、茜が HDG の仕様を、鬼塚君レベルで、完全に把握しているからだ。」

「その辺り事は、門外漢なのでわたしには良く分かりませんけど。難しい事ですの?」

 その問いには、立花先生が答えるのだった。

「天野さんの場合は、仕様書を読み込むだけでは無くて。現時点で存在していない、兵器としてのパワード・スーツについてのヴィジョンを、発案者である鬼塚さんと、ほぼ共有出来ている所が凄いんです。その上で、剣道で培(つちか)った…何(なん)て言うのか、身の熟(こな)しとか、間合いの取り方とか、そう言った運動能力?ですね、そんな要素を併せて持っている所が、存在として貴重なんです。」

「その、パワード・スーツ?と言うのがね、わたしにはピンと来ないのよ。」

 塚元校長は苦笑いで、立花先生に言った。

「現在、実用化されているのは介護用とか、それから工場なんかで、足腰の負担を軽減させるタイプの物ですね、あと、医療用途で歩行のリハビリに使われている物とか。腰から下に、脚の側面に取り付ける補助具としての物が有りますけど…。」

「ああ、そう言う物でしたら、見た事は有ります。」

 次いで、天野理事長が言う。

「軍事用としては、そう言った物を強化、転用して、歩兵が重量物を担いで、長距離や山道を歩ける様にする装備が有るな。」

「はい。徒(ただ)、鬼塚さんの考えているパワード・スーツは、今、有る様な物よりも、もっと大幅に身体能力を強化、拡張する物でして。その手の物は昔から SF 小説や、映画なんかに良く登場していたのですが。その辺りの知識が、天野さんも共通している様子ですね。その事が兵器としてのパワード・スーツの運用方法に就いての明確なヴィジョンを、二人に与えているみたいで。」

「SF ですか…。」

 塚元校長は溜息を吐(つ)いて、考え込む様な仕草をする。向かい側に座っている天野理事長は、笑って言うのだった。

「まぁ、普通の大人なら、マンガみたいな絵空事だと笑い飛ばす所だがな。だが実際に、マンガみたいな機動兵器が現れると、我々の保有する従来の兵器では、全(まった)く通用しない訳(わけ)でも無いが、帯に短し襷(たすき)に長し、でな。現用兵器で対抗すると、周辺への被害が大きくなり過ぎる、それが、どうにもな…。」

「それで、鬼塚さん流に言えば、先(ま)ずは同じレベルで殴り合える様になるのが先決、だそうです。」

「殴り合い?ですか。」

 立花先生の補足説明に、驚いた様に塚元校長は聞き返すのだった。再び、天野理事長が笑って言った。

「だから、エイリアンの機動兵器に対抗するには、腕や脚が要るんだよ。」

「殴り合いって、比喩ではないんですの?」

「それに就いては、昨日の一件で、わたしも反省しました。」

 立花先生は力(ちから)無く笑い、座った儘(まま)で一度、天野理事長に向かって頭を下げる。当惑気味に、塚元校長は立花先生に、尋(たず)ねる。

「どう言う事?立花先生。」

「はい。 HDG の仕様書を読んで、頭では理解していた積もりなんですが、殴り合いも必要な局面もあると。でも、極端な接近戦は、矢張り危険なので、出来れば銃撃戦で対処して欲しいと、思っていたんです。」

「それは、そうでしょうね。」

「わたしがそう思っている事は、鬼塚さんも分かっていた様で、昨日の、天野さんが外へ出る準備をしている段階で、鬼塚さんは接近戦用の装備を携行する様に、天野さんに指示しなかったんです。天野さんも、接近戦用の装備を要求しませんでした。でも、結果的に、三機目に対処する段階で接近戦用の装備が無い為に、天野さんは手詰まりになり、却って危険な状況になってしまったんです。」

「それは、飯田君のレポートにも、記載が有った件だね。」

「はい。それは後で気が付いたんですけど、恐らく、鬼塚さんも天野さんも、BES(ベス)…あ、接近戦用の刀の様な装備なんですが、それを持って出るべきだった事は、初めから分かっていたと思うんです。それを敢えて持たなかったのは、わたし達、大人への配慮だったのかな、と。」

「配慮?」

 塚元校長が聞き返すと、立花先生は一度、頷(うなず)き話を続ける。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.02)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-02 ****


「ごめんなさい、笑っちゃって。え~と、何(なん)て説明するかな。瑠菜さんが『語弊(ごへい)』って言ったのは、『好き』には種類が有るからなの。」

「『好き』の種類ですか? 好意が有る、好感を持っている、他の意味が有りますか?」

「意味はそれで合ってる、けど、対象に依っては、ニュアンスが変わるって言うか…。」

「ニュアンス、ですか?」

「う~ん、難しいわね。」

 恵が説明に困っていると、瑠菜が Ruby に尋(たず)ねる。

Ruby は『恋』って、解る?」

「あぁっ、瑠菜さん、そのワードは出さないで説明しようと思ってたのに。」

「えっ?それって、無理じゃありません?」

「そうかな~やっぱり。」

 腕組みをして恵が考え込む一方で、Ruby は自身の認識に就いて述べる。

「恋、愛、或いは恋愛、言葉は知っていますが、結論として、その概念をわたしが理解出来るとは、考えられません。それらは人間の、特定の心理状態を表す言葉だと定義されます。わたしの疑似人格は、感情的な活動が制限されていますので、人間の心理状態の、完全な再現は出来ません。ですので、恋愛に関わる概念を、わたしが理解する事は不可能です。」

 恵は俯(うつむ)いていた顔を上げ、Ruby に言う。

「そうね、Ruby。じゃ、あなたの理解している、言葉としての『恋愛』の定義を教えて。」

「ハイ、わたしの言語ライブラリには、恋愛とは、特定の男女間で、お互いに引かれ合う心理状態と、定義されています。」

「そう。一般的にはそうだけど、それは男女…異性間とだけ、とは限らないのよ。その上で、『好き』って言葉には、『恋愛感情が有る』って言う意味を含める場合が有るの。これで、さっきのあなたの疑問は、大体、繋(つな)がったかしら?」

「つまり、恵が『ブリジットは茜が好きだ』と言ったのを、『ブリジットは茜に恋愛感情を持っている』と受け取られる可能性が有る事を指して『語弊(ごへい)が有る』と、瑠菜は指摘した訳(わけ)ですね。しかも、その場合の『恋愛』は、同性間での『恋愛』と言う事になり、それは一般的な『恋愛』だとは言えないので、その意味も含めると『語弊(ごへい)』が二重に発生すると考えられます。」

「そう言う事~。」

 そう言って、瑠菜は拍手をする。その一方で恵は、微笑んで、少し長く息を吐(は)くのだった。そして、Ruby が一つの疑問を呈するのだ。

「お話の流れは、理解出来るのですが。しかしながら、『一般的な好き』と『恋愛的な好き』を、或いは同性間や異性間での『好き』を、区別する必要が有るのでしょうか?」

「そうね…。」

 恵は少し上を見て考え、そして話すのだった。

「…人の気持ちには、色んな種類の『好き』が有って、それぞれにその度合いや、質の違いを感じるのよね。でも Ruby、あなたの場合は、区別する必要は無いんだと思うわ。あなたに取っては、その位(くらい)シンプルに、全部を纏(まと)めて、『好き』でいいんじゃないかしら? その内、安藤さんや井上主任みたいな、大人の女性にも訊(き)いてみるといいかもね。」

「それは、興味深いですね。しかし、何故、女性限定なのでしょうか?」

 その Ruby の返事を聞いて、瑠菜は笑って言った。

「あはは、男の人は、そんな事、訊(き)かれても、ビックリして答えられないんじゃないですか?」

 恵も、笑って答える。

「うふふ、そうね。 でも、Ruby と恋愛に就いてお話し出来るとは、思ってもみなかったわ。」

「言われてみれば、その手の話、誰もしませんからね、うちの部だと。」

 そう、瑠菜が言ったあとで、ふと、恵は佳奈が戻って来ていない事に気が付いたのだった。

「あ、そう言えば。古寺さん、戻って来ないわね。どうしたのかしら?」

 恵は真面目な顔で、視線を入り口の方へと向ける。釣られて、瑠菜も視線を入り口の方へと向けつつ言った。

「まさか、新島先輩に付いて行っちゃったかな…。」

「まさか…。」

 すると、外階段を登る足音が、ドアの向こう側から聞こえて来るのだった。だが、直ぐに二人は、その足音を不審に思うのだった。

「あれ? 足音、一人じゃないですね?」

 ポツリと瑠菜が言った通り、外階段を上がる足音は、明らかに複数人だったのだ。そして間も無く、部室のドアが開く。

「戻りました~。」

 そう言って佳奈がドアを開き、部室内に入って来ると、その後ろには緒美の姿が有ったのだ。
 恵は一息を吐(つ)いて、言うのだった。

「何(なん)だ、部長でしたか。」

「どうかした?森村ちゃん。」

 緒美は部室の奥へと進み、恵の席の後ろを通過する。佳奈は、元の通りに、瑠菜の隣の席に着くのだった。

「ちょうど、新島先輩と入れ違いで、部長が戻って来たんですよ~。」

「ああ、そうだったの。じゃ、副部長からボードレールさんの件は聞いた?」

 佳奈の説明を受けて、恵が緒美に問い掛ける。緒美は席に着いてから、答えた。

「大凡(おおよそ)は。その件は新島ちゃんに、任せたわ。」

「あれ?部長。天野は? 一緒だったんじゃないです?」

「ああ、天野さんは、何だかを取りに、一旦、寮へ戻るって。」

「そう。 それで、理事長の方は、どうだったの? ああ、それに、立花先生は?」

 恵は席を立つと、緒美に問い掛け乍(なが)ら、部室奥のシンクの方へ、お茶の準備に向かった。
 その様子を見て、佳奈がスッと席を立つと、恵の方へ駆け寄る。

「あ、恵先輩。お手伝いします~。」

「あら、ありがと。」

「何時(いつ)も悪いね、森村ちゃん。」

 緒美は振り向いて、恵に声を掛けた。恵は微笑んで、計量した紅茶の茶葉をティーポットに入れている。佳奈は人数分のカップを、シンク横の棚から取り出して、流水で濯(ゆす)いでいた。

「紅茶だけど、いい? 瑠菜さんも如何(いかが)?」

 恵の問い掛けに、緒美と瑠菜は、相次いで答えるのだった。

「うん、いいよ。ありがとう。」

「あ、はい、頂きます。」

 そして間も無く、佳奈が人数分のカップと角砂糖の入った瓶をトレイに載せ、長机へと運んだ。恵は、湯沸かしポットで沸騰させたお湯を、ティーポットへと注いでいる。そんな様子を眺(なが)めつつ、緒美は話し始める。

「立花先生は、理事長と校長と、何だかお話が有るそうで、理事長室に残ってるわ。この前と同じで、わたし達だけ、先に帰されたの。」

「ああ、やっぱり、そうなんだ。何の話を、してるのかしらね~。」

 恵はティーポットを持って、元の席へと戻って来る。

「さあ、ねぇ。大人は大人で、色々と打ち合わせたい事が有るんでしょう。」

「それで、理事長は何(なん)て?」

 そう訊(き)いた恵は、席には座らず立った儘(まま)で、ティーポットを時々、長机の上でゆっくりと揺らし乍(なが)ら時間を計っている。

「まぁ、言ってた事は前回と、ほぼ同じよ。訊(き)かれた事は、基本的に、飯田部長のレポートの記載に対して、事実関係を確認されただけだったし。 それで、その飯田部長のレポートが、又、凄かったのよ。事の経緯が細大漏らさず、的確に纏(まと)めてあってね、まぁ、全部は見せて貰えなかったんだけれど。帰りの移動時間、二、三時間で書き上げたそうなんだけど、流石に事業統括部の部長さんともなると、半端な仕事はしないわね。」

「それじゃ、叱られたりはしなかったんです?」

 瑠菜が訊(き)いて来るので、緒美は答える。

「そうね。状況からして、まぁ、仕方が無い、と言う事で納得はして頂けていたみたい。それで、理事長が『もしも又、同じ様な状況になったら、どうする積もりか?』って、天野さんに聞くものだから…。」

「天野は、何(なん)て?」

「HDG が使用出来る状況であれば、同じ事をします、って正直に答えるから。まぁ、理事長、渋い顔してたわ。」

「ありゃ。そこは嘘でも『もう、しません』って、言っておけばいいのに。馬鹿正直だよなぁ、天野。」

 瑠菜が苦笑いして居ると、その向かい側で恵が、均等な濃さになるように、カップに紅茶を交互に注ぎ乍(なが)ら言うのだった

「まぁ、天野さんらしいじゃない。」

「まぁ、ね…でも正直、流石に今回は、HDG の開発を本社に取り上げられるものかと覚悟してたんだけど。そこは当面、今迄(いままで)通りって事らしくて、ちょっと驚いたわ。」

「そうね…はい、どうぞ。」

 恵が、紅茶の入ったティーカップを緒美の前に置く。

「あ、ありがと。」

 瑠菜と佳奈は席を立ち、それぞれがティーカップを取って、自(みずか)らの手前に置くのだった。そして、漸(ようや)く恵は椅子に座り、言ったのである。

「会社の方にも、何か事情が有るのかしらね?」

「それは、勿論そうでしょうけど。でも、ちょっと気味が悪いわね。会社側が、何を考えているのか。」

 そこで、瑠菜が疑問を述べる。

「それにしたって、この間(あいだ)の様な事が、そう度度(たびたび)、起きる物ですかね?」

 それには恵が、直ぐに切り返すのだった。

「もう、二度も起きてるじゃない。」

 そして、紅茶を一口飲んで、緒美が付け加える。

「二週間程の間(あいだ)に、同じ地域にエイリアン・ドローンが飛来するだけでも、可成り異例よ。少なくとも、わたしの知ってる限りでは、今迄(いままで)そんな事は無かったと思う。今迄(いままで)なら最短でも一ヶ月、四週間は、間(あいだ)が空(あ)いてた筈(はず)だわ。」

 緒美の発言で、瑠菜と佳奈の表情が不安で曇ったのに気が付き、恵は話題を変えるべく発言する。

「まぁ、その辺りは、わたし達が考えてみても仕方が無いわ。 それよりも、さっき副部長と、来年の事を少し話してたのよ、部長。」

「来年?」

「わたし達が卒業したあとの、この部活の三役、とか。」

「ああ、瑠菜さんなんかどう?部長やる?来年。」

 緒美は微笑んで、瑠菜に話を振ってみる。瑠菜は慌てて、声を上げた。

「わたし?無理です、無理です。そう言うのは、樹里の方が向いてますって、部長。」

「ええ~やりなよ~瑠菜リン。」

「ちょっと、無責任な事、言わないでよ、佳奈。」

 こうして暫(しばら)くの間(あいだ)、来年の三役人事に就いて、欠席裁判気味の可成り無責任な懇談が続いたのである。

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第12話.01)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-01 ****


 2072年7月23日・土曜日。

「おはようございま~す。」

 そう声を掛け乍(なが)ら、兵器開発部の部室に入って来たのは、瑠菜と佳奈の二人である。
 時刻は午前十時二十分、部室内に居た直美と恵が「おはよう。」と声を返すと、続いて Ruby も合成音声で挨拶を返すのだった。

「おはようございます、瑠菜、佳奈。」

「はい、Ruby も、おはよう。調子はどう?」

 瑠菜が室内中央の長机へと進みつつ、そう問い掛けるので、Ruby も答える。

「ハイ、問題はありません。」

「そう、それは何よりね~。」

 瑠菜が、恵の向かい側の席に、佳奈がその左隣に腰を下ろすと、恵が声を掛けるのだった。

「随分と早いわね。昨日、遅かったんだから、今日は昼からでいいって言ってたのに。」

 前日の、模擬戦での一件のあと、天野重工のスタッフが機材を学校に持ち帰ったのが、午後三時を回った頃だった。それから HDG や LMF をトランスポーターから降ろし、畑中達は HDG と LMF の点検作業を行ったのである。それは実戦を行ったから実施された訳(わけ)ではなく、模擬戦での負荷の影響を確認する為に、元元、予定されていた作業だった。
 点検は主に目視にて行われたのだが、パーツに因っては取り外して計測したりもされたので、結果、作業が終わった頃には、午後十一時を過ぎていたのである。直美と瑠菜、そして佳奈の三人は、その点検作業に最後まで参加していたのだった。
 一方で、緒美や茜達、他のメンバーはと言うと、Ruby に LMF の『腕を使った格闘戦』を如何(いか)に教示するか、その方法について、打ち合わせをしていたのである。
 因(ちな)みに、天野重工のスタッフ達は前日に続いて、昨夜も学校内の寮に宿泊し、翌朝、八時過ぎには学校を出発していた。

「まぁ、大した理由は無いんですけど、ね。」

 そう瑠菜は恵に答えて、佳奈の方に視線を送ると、続いて佳奈が答えた。

「うん。部屋で、のんびりしてる気分にもなれなかったので~。」

「そう。」

「所で恵先輩、部長は?」

 部室に緒美が不在なのが気に掛かり、瑠菜は尋(たず)ねた。緒美が居て、恵か直美が居ないのなら不思議に思わなかったのだろうが、緒美だけが不在なのには、瑠菜は違和感を覚えずにはいられなかったのだ。
 恵は、事も無げに答えた。

「ああ、部長と天野さんはね、お呼びが掛かって理事長室。立花先生と一緒にね。」

「昨日の件で、二人だけ?」

「部長と茜ン、叱られてるんですか?」

 瑠菜と佳奈は相次いで、心配気(しんぱいげ)な声を上げる。恵は二人を安心させるように、微笑んで言った。

「今回は現場に立花先生も、飯田部長も居たから、二人には事実確認をしたいだけ、って先生は言ってたけどね~まぁ、心配は要らないでしょう。」

「そう、ですか。理事長って、昨日は学校(こっち)に居なかったんですよね? 何時(いつ)こっちへ?」

 その瑠菜の質問には、直美が答える。

「今朝、七時頃に到着したみたいよ、社用機で。寮でも、飛行機の音が聞こえてたと思うけど。」

「その時間は良く寝てたみたいですね、わたしは。佳奈は知ってた?」

「ううん、気が付かなかった。」

「そう、まぁ、どんな話だったのかは、部長達が戻ったら聞いてみましょう。ねぇ、副部長。」

「だね。」

「樹里達、ソフト部隊は…。」

 そう瑠菜が途中まで言った所で、再び直美が答える。

「昨日、出てた話の通り。通信会議室で本社の安藤さん達と LMF の教示に使う、シミュレーション・ソフトの打ち合わせ。井上とクラウディアも、そっちに行ってるわ。」

「…ですか。あと、ボードレールは…バスケ部へ?」

 その問いには、恵が微笑んで答えた。

「そうよ~。」

「ブリリンは、掛け持ちだから、大変だよね~。」

 ブリジットを『ブリリン』と呼ぶのは、言う迄(まで)もないが、佳奈である。
 その佳奈の発言を受けて、直美が言うのだった。

「そうだね~。この間(あいだ)、田中が、冬の大会の予選から、ブリジットをレギュラーで使いたいって言ってたからなぁ、秋の予選に向けて、これから練習が大変になるんじゃないかな。」

「田中…先輩って、バスケ部のキャプテンの?」

 直美に聞き返したのは、瑠菜である。

「そう、部長の。」

「三年生で、部長でキャプテンって、天神ヶ崎(うち)だからこそですよね。普通の高校なら、三年生は大学受験とかで大変なのに。」

「うちの学校でも、普通科の三年生は大変みたいだよ。」

 直美は苦笑いで、そう言うのだった。それに、恵が付言するのである。

「特課のわたし達は、よっぽど成績が悪くない限り、天野重工行きが決まってるからね~頑張って特課に合格した甲斐が有った、ってものだわ。」

 すると、佳奈が思い付いた様に、不穏な仮定の話をするのだった。

「もしも、先輩達に『秋で引退します』とか言われたら、わたし達じゃ、この部活、回せないよね~。」

「ちょっと佳奈、恐い事、言わないで~。」

「あはは、大丈夫よ。わたし達は、引退なんてしないから~。」

 恵は明るく笑って、そう言うのだが、直美は真面目な顔で、先行きに就いて、示唆しておくのだった。

「それでも、来年になったら卒業はするからね。そのあとの事は、二年生で考えておいてよ。三役の分担とか。」

「うわぁ、やだな~卒業しないでくださいよ、先輩方(がた)~。」

 瑠菜は長机に突っ伏す様にして、若干、甘えた声で、そう言った。正面に座る恵は、微笑んで言葉を返す。

「あはは~そう言う訳(わけ)にはいきませ~ん。」

 その時、誰かの携帯端末から、着信のメロディが流れ始める。間も無く、直美が自分だと気付き、着用していたワンピース型の夏用制服のポケットから、携帯端末を取り出す。ディスプレイを確認すると、先程、話題に出ていたバスケ部の田中部長からの通話要請だった。正(まさ)に『噂をすれば影』だなと思いつつ、直美は通話を受ける操作をする。

「あ~もしもし、どうしたの?…。」

 直美が一言、そう訊(き)くと、田中部長は聊(いささ)か興奮している様子で、一方的に喋(しゃべ)り始めた。しかし、直美には相手が言わんとしている内容が、今一つ把握出来なかった。

「…何よ、話が違うって…え?…退部?…ちょっ…だから、解る様に、落ち着いて話して。…うん…うん?ブリジットが?…あ~…ああ~うん、ちょっと…うん、だから、ちょっと待って。今から、そっち行くから…うん、バスケ部の部室ね?知ってるから…うん、じゃ行くから、待ってて。…うん、じゃ。」

 直美は通話を終えると、深く息を吐(は)いた。その様子を見て、恵が問い掛ける。

「どうしたの?ボードレールさんに何か有った?」

「いやぁ、バスケ部の田中なんだけどね。ブリジットが急に退部したいって言ってるって、ちょっとパニクってた。」

「あらま。」

 直美が立ち上がると、瑠菜が顔を上げて訊(き)く。

「何でまた、急に?」

「理由を聞いても『言えません』の一点張りだそうで、それで余計に田中が…ね。」

 恵は特に驚くでもなく、さらりと言う。

「まぁ、解らないでもないかな、ボードレールさんの性格だと。」

「うん。取り敢えず、バスケ部へ行って来る。 二人は寮から、自転車で来てる?」

 直美は、瑠菜と佳奈に尋(たず)ねる。北端側に位置する学生寮から、南端側となる滑走路や格納庫へは、学校の敷地内で端から端への移動となるので、瑠菜と佳奈は良く自転車を利用していたのだ。因(ちな)みにその自転車は、電動アシスト付きの共有自転車で、女子寮には三十台が用意されている。

「あ、はい。使ってください。」

「じゃ、鍵、解除しなきゃだから、下まで一緒に行きますね~。」

 瑠菜よりも先に、佳奈がスッと立ち上がり、そう言った。共用自転車のロックを解除するのには、借受時に登録した携帯端末が必要なのだ。

「悪いね~。じゃ、行って来ま~す。」

「ちょっと、出て来るね~瑠菜リン。」

 直美と佳奈は連れ立って、部室を出て行く。二人が外階段を降りて行く、その足音を聞き乍(なが)ら、部室に残った瑠菜は恵に問い掛けた。

「恵先輩、ボードレールの理由が解るって、何です?」

「ああ…。」

 恵は、微笑んで答える。

「…昨日みたいな事が有るとね。ほら、ボードレールさんは、天野さんの事が大好きでしょ。」

 瑠菜は苦笑いしつつ、言った。

「その言い方には、語弊(ごへい)が有ると思うんですけど、まぁ、仰(おっしゃ)る意味は解ります。」

「でしょ?」

 恵が「うふふ」と笑っていると、不意に Ruby が声を掛けて来るのだった。

「恵、ブリジットが茜を好きだと言う表現に、何故、語弊(ごへい)が有るのですか? 或いは、ブリジットは茜が好きだと言う認識は、間違っていますか?」

 Ruby の質問を聞いて、恵は思わず吹き出し、そして声を抑えて笑っていた。

「わたしの質問は、何か間違っていたでしょうか?」

 落ち着いた合成音で、Ruby は重ねて問い掛けて来るが、恵は相変わらず、声を抑えて肩を震わせていた。仕方が無いので、取り敢えず、瑠菜が Ruby に対して答える。

Ruby、あなたの認識は間違ってないよ。安心して。」

「そうですか、瑠菜。安心しました。」

 恵は一度、大きく息を吐(は)いて呼吸を整え、Ruby に話し始める。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
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STORY of HDG(第11話.19)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-19 ****


 そして緒美は、運転席の直ぐ後ろの席に着いている、立花先生の隣に腰を下ろす。

「あら、どうかした?緒美ちゃん。」

 立花先生は右肘を窓枠に掛け、首元を右手で支える様に、少し窓に寄り掛かる様に座っていたが、視線だけを左側へ送って、隣に座った緒美に尋(たず)ねた。
 緒美は少し、視線を落として、静かに答える。

「先生には、謝っておかなければいけない事が有ります。」

「今日の事?」

「いえ、先生は仕事の為なら、常識とか法律とか、犠牲を厭(いと)わない人だと思っていたので。今日みたいに、わたし達の安全を最優先に考えて頂けるとは、正直、思っていませんでした。」

「あぁ、それなら、あなたの思ってた通りだから、別に謝る必要は無いわ。まぁそれでも、確かに常識なんかは気にしないけど、流石に法令違反はやらないわよ。これでも、法学を学んだ者の端くれですからね。」

 そう言って、立花先生はクスクスと笑う。そして微笑んで、緒美に尋(たず)ねる。

「それでも、今日の場合は、あなたや茜ちゃんの判断の方が、正しかったのよね?」

「はい。」

 緒美は立花先生と視線を合わせ、躊躇(ちゅうちょ)無く断言した。

「だとすると、ちょっと、みっともなかったかな~わたし。」

 立花先生は視線を上に向け、息を吐(は)く。緒美は立花先生の方へ向いた儘(まま)、言うのだった。

「そんな事は無いですよ。先生のお気持ちは、嬉しかったですし、先生の様に思うのが、普通だと思いますから。」

「そう? でも、飯田部長は違った様よね。」

「多分、飯田部長は、防衛軍の救出作戦に乗ってしまった場合、此方(こちら)の機材を現場に残しての避難にしかならないので、それで損害が出るのを危惧されたのではないかと。」

「そう言う、計算?」

「はい。まぁ、防衛軍の救出作戦を待っていたら、その前に、格納庫にエイリアン・ドローンが到達して、人的被害が出てたと思いますけどね、あの状況では。」

「ふうん…そう言う所、わたしは読めないのよねぇ…。」

 再び、立花先生は溜息を吐(つ)き、天井を見上げる様に上を向く。すると、シートのヘッド・レストの上から、顔を覗(のぞ)かせている直美と視線がぶつかるのだった。直美は、微笑んで言った。

「それが普通ですって、先生。」

「そうそう。」

 直美の隣では、同じ様に緒美の席の上から顔を出している恵が、相槌(あいづち)を打つのだった。

「あなた達に慰められてるってのも、大人として、どうかと思うわ~。」

 立花先生が自虐的に、そう言うので、直美は笑って、言葉を返す。

「あはは、それはそうかもですけど。でも、まぁ、学校の先生としては、正しい対応だったんじゃないです?」

 直美に同意して、恵も言うのだった。

「そうそう。この二年で、随分と先生らしくなったんじゃないですか?立花先生。」

「じゃあ、最初はどんな風(ふう)に見えてたのよ?」

 その問い掛けには、透(す)かさず直美が答えた。

「そりゃ、仕事中毒の胡散臭(うさんくさ)い感じのビジネスウーマン…的な?」

 立花先生は顔を顰(しか)め、一言を返す。

「酷(ひど)いわね。」

「まぁ、その手の人種を、わたし達が見慣れてなかったから~かもですね。」

 恵は、直美の言を否定するでもなく、立花先生へのフォローも忘れないのであった。

「まぁ、そもそも『教師』なんて柄(がら)じゃないんだけど、それは兎も角。あなた達はどうだったのよ? 矢っ張り、緒美ちゃん張(ば)りに、状況を読んでいた訳(わけ)?」

 その問いには、笑って、直美が答えた。

「あはは、まさか。あんな読みが出来るのは、鬼塚位(くらい)ですよ? わたし達は、前回の時の天野の様子とか、見てたし…。」

 続いて、直美に対して恵が言う。

「それに中学の時の、ボードレールさんとの件とか、聞いちゃったから。まぁ、天野さんは、ああ言う状況だと、言っても聞かないだろう、とは思ったよね。」

「どう言う事?」

 立花先生は、直美と恵の言わんとする意味が、直ぐには解らなかった。そして、恵が答える。

「天野さんは、出来る筈(はず)だった事をやらないで、あとで後悔するのが嫌なんですよ。その時、出来る事は、その時にやる、って言うのかな。そう言う、タイプ。」

「正義感とか、自己犠牲とか、ではなくて?」

「違うと思いますね。勿論、人の不幸とか、見たくはないんでしょうけど。」

 恵の回答を聞いて、緒美は思い出した様に言った。

「そう言えば、さっきは『自己満足の為』だって、言ってたわね。」

「そんな話、してたの?」

 緒美の発言に、少し驚く立花先生に対し、恵は天啓を得たかの様に嬉しそうに言った。

「『自己満足』!そう、その言葉がピッタリよね。天野さんの行動原理には。」

 恵の隣で、直美が眉を顰(ひそ)めて聞き返す。

「そうなの?」

「そうよ。例えば、天野さんが勉強してるの、成績の順位とか、テストの点数とかが目的じゃないもの。彼女は自分の知識欲とか、理解欲とかを満たす為にやってる様子だし。向いてないって言われてても、一度も勝てなかったのに、剣道を八年間も続けてたのも、自分が納得の出来る鍛練を積むのが目的なら、不思議は無いでしょ? 他人(ひと)の評価よりも、自己評価とか自分で満足出来るかどうかの方が、優先度が高いんじゃないかしら? 多分、天野さんは競技としての勝負とかには、殆(ほとん)ど興味は無かったのよ。」

「一度位(ぐらい)は、一本取ってみたかった、とは言ってたけどね。」

「そりゃ、その位(くらい)の欲は出て来るでしょうけど。でも、八年もやってて、たった一勝でいいって、矢っ張り、勝ち負けはどうでも良かった、って事じゃない?」

「そう言う、取り方も出来るか~。」

 少し呆(あき)れ気味に直美が声を上げると、そこに立花先生が割って入るのだった。

「ちょっと待って、恵ちゃん。天野さんが、剣道で一勝も、って?」

 その問いに、直美が答える。

「ああ、この前の、理事長室に呼ばれた時の帰り道で、そんな話が出まして。わたし達も、それを聞いて驚いたんですけどね。」

「それって、茜ちゃんが謙遜(けんそん)して言ってるんじゃなくって?」

「それは無いかと。元は、ブリジットがバラした事ですし、ねぇ。」

 直美は、隣の恵に同意を求める。すると、恵は真面目な顔で頷(うなず)く。
 その時、立花先生は先刻の恵の様子を思い出して、言った。

「あ、それじゃ、あの時、恵ちゃんが笑ってたのって?」

 恵はにこりとして、答える。

「はい。だって、真面目な顔で『手練(てだれ)』だとか、『全国レベル』だとか言い出すんですもの。」

「そう言う事…。」

 納得顔の立花先生に、恵は付け加えて言う。

「でも、あの隊長さんが、どれ程のレベルなのかは知りませんけど、まぁ、防衛軍の人だし、それなりに心得は有るのだろうとは思いますけど、そんな人から見ても、それなりのレベルに見えるって事は、天野さんは真面目に剣道の練習をやっていた筈(はず)だし、ちゃんと身に付いてもいるって事だと思うんですよね。」

「そうね。でも、それで一勝も出来なかったって言うのは、どう言う訳(わけ)なのかしら?」

「本人談に因ると、対戦相手の『気合い』だとか『殺気』だとか、そう言うのに最後まで慣れなかった、って事らしいですけど。まぁ、彼女も『完璧超人』ではないって事ですよね。」

「そう言うものかしらね。わたしはスポーツの事とか、良くは解らないけど。」

 立花先生は正面に向き直り、ヘッド・レストに後頭部を押し付ける様にして、息を吐(は)いた。
 丁度(ちょうど)その時、トイレに行っていた二年生組の三人が、バスへと乗り込んで来る。先頭は、樹里である。

「お待たせしました~。あ、カルテッリエリさん、PC ありがとうね~。」

 そう言って、樹里はクラウディアの隣の席に座る。

「あれ?天野とボードレールは?先生。」

 次に乗り込んで来た瑠菜が、立花先生に尋(たず)ねる。

「あぁ、昼食をね、天野重工(かいしゃ)の人達の所へ、届けに行って貰ってるわ。」

 立花先生が答えると、瑠菜の後ろで佳奈が声を上げる。

「二人共、戻って来たよ~倉森先輩も一緒だ。」

 暫(しばら)くして、茜とブリジット、そして倉森がバスの中へと入って来る。茜とブリジットは後部座席へと向かい、倉森は運転席へと向かった。

「あら、倉森さんが運転?」

 立花先生が声を掛けると、倉森は微笑んで答えた。

「はい。矢っ張り、卒業生の方が、学校の周り、運転し易いだろうって事になりまして。 あ、キーは誰が持ってます?」

「わたしで~す。」

 恵が声を上げ、席を立って、キーを倉森に渡した。

「じゃ、お願いします。」

「はい。任せて~。」

 そこで、立花先生が尋(たず)ねるのだった。

「倉森さんは、学校に着いたら、そのあとはどうするの? こっちへ、蜻蛉(とんぼ)返り?」

「ああ、いえ。現場へ戻る足が無いので。こっちの撤収組と合流する迄(まで)、学校で待機です。」

「そう、じゃあ、少し遅いけど、帰ったら皆(みんな)と一緒にお昼にしましょう。」

「はい、いいですね。」

 そう答えて、倉森は運転席へと着いたのだった。一方で緒美は、ふと気付いた事を立花先生に尋(たず)ねる。

「そう言えば、避難指示って、解除されてるんですか?先生。」

「うん、大丈夫よ。ちょっと前に解除されてるみたい。」

 立花先生が答えると、後ろの座席から恵が自分の携帯端末を、緒美の前へと降ろして見せ乍(なが)ら言う。

「ほら、もうネットのニュースには速報が出てるのよ。」

 緒美は恵の携帯端末を受け取り、表示されているニュース記事を、部分的に声に出して読んでみる。

「え~と…九州北部方面から山陰方向へ…エイリアン・ドローン十二機は、日本海海上で全機が撃墜されたと発表。これに因り、各府県で発令されていた、全ての避難指示は解除され…か。ふ~ん。」

 直美が再び、シートのヘッド・レストの上から顔を出して、話し掛けて来る。

「ね、こっちに来た三機に就いては、触れられてないでしょ?」

「全部、日本海側で撃墜した事になってるらしいのよね。」

 直美と同じ様に、シートのヘッド・レストの上で、恵も言うのだった。緒美は携帯端末を自分の頭上へ上げ、恵に渡しつつ言った。

「まぁ、その記事のソースは防衛軍発表なんだから、無理も無いわね。今回の件も、他言無用って事じゃない?」

「そう言う事。」

 そう言って、立花先生は「うふふ」と笑った。すると、マイクロバスのエンジンが起動し、車内にも振動が伝わって来るのだった。
 倉森は運転席のシートから身を乗り出す様に振り向いて、一同に声を掛ける。

「それじゃ、出発しますけど~欠員や忘れ物は無いわね?」

 恵が一度、席を立ち、全員の顔をチェックしたのち、倉森に伝える。

「ありませ~ん。」

「オッケー、念の為、皆(みんな)、シート・ベルトはしておいてね~。あ、エアコン、点けたから窓は閉めていいよ。」

 その呼び掛けに、生徒達一同は「は~い」と、答えたのだった。
 バスはゆっくりと右旋回を始め、Uターンを終えると暫(しばら)く直進し、LMF を乗せたトランスポーター二号車の手前で左折して、演習場の出口へと向かう。
 バスに揺られ乍(なが)ら、その最後部の座席では、それ迄(まで)、黙って座っていた茜が、呟(つぶや)く様に言った。

「取り敢えず、皆(みんな)、無事で良かった。」

「そうね。」

 ブリジットは、微笑んで答えた。視線をブリジットへ向け、茜が言う。

「そう言えば、最後の。助かったわ、ブリジット。」

「何よ、急に。」

「うん、言ってなかったなぁって。ありがとう、って。」

「いいわよ。今回は、あんまり役に立たなかったし、わたし。」

「そんな事は無いわ。言ったでしょ、あなたは最後の保険だって。保険が有ったから、落ち着いて、わたしは、わたしのやるべき事が出来たの。」

「その保険役も、心配し乍(なが)ら我慢して見てるだけって、余(あま)り心臓に良くないのよね。」

 そう言って、ブリジットは苦笑いして見せる。

「じゃあ、ブリジット。明日から、LMF での格闘戦のデータ取り、やりましょうか。」

 茜は、悪戯(いたずら)っぽい笑顔を作って言った。
 ブリジットは、少し驚いて言葉を返す。

「あ、そう言う話になるの?」

「そうよ。」

 そして二人は、声を上げて笑ったのだった。

 

- 第11話・了 -

 

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