WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

HDG-Brigitte改造・170915

「ITBRT9-03 for Poser」の作業を後回しにして、忘れない内に、と、「HDG-Akane」の Ver.3 仕様をモーフフィギュアへ展開する実験をやってました。
 そんなわけで、「HDG-Brigitte」への移植作業の結果がこちら。
 

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 Ver.3 版のヘッド・オブジェクトに、Ver.2 仕様の Brigitte のヘッド・モーフを移植して、眼窩周辺のポリゴン・メッシュを再編集・整理しました。
 Ver.2 から Ver.3 への移植は、作業的には結構面倒臭いですが、まぁ、出来ない作業ではない事を確認。雑用の合間合間に作業を進めていた都合もあって、結果、二週間ほど掛かりました。
 所が、出来上がったモーフ・データを、中間作業用に作ってあったデータと一緒に、うっかり消してしまった事に翌日気がつき。
 元データは目を閉じた状態で、目を開くのをモーフでやっている仕様なのですが(逆だと、目を閉じた時に瞼の UV が延び延びになるのが嫌なので)、保存されていたのは目を開けた状態の最終形状(しかも、瞼の開度80%)だったので、そこからベースとなる目を閉じたモーフと、そこから目を開くモーフ(瞼の開度100%)の復元をやるハメになりました。
 幸い、一度やった作業を直ぐにやり直したので作業勘が残っていた事と、最終形状が一部でも残っていたので、復元作業は一週間足らずで完了したわけですが。中間作業データの管理は、ホント、細心の注意が必要というのが今回の教訓。
 そんな感じで、正面からのサンプル画像がこちら。
 

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 それと、瞳縮小モーフの適用(ビックリ顔)のサンプル画像。
 

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 取り敢えず、Ver.2 用のモーフキャラを Ver.3 へ移植できることが確認出来たので、そっちの作業はまた、ぼちぼちと進めていく事として、「ITBRT9-03」の作業を始めますかね~。

HDG-Akane改造・170822

思う所あって、「FF02」こと、「HDG-Akane」フィギュアを弄ってました。一週間ぐらいのお試し感覚で始めたのが、結局三週間。
 先ず、現行バージョン(Ver.2)のサンプル画像。
 

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 瞳のハイライトが、左右で違っているのが分かると思いますが~コレは眼球モデルの構造のせいで、普通にライティングするとこのようになります。
 現行バージョンの眼球モデルは、顔表面の曲率に合うように眼球全体の大きさを決めているせいで、現実にはあり得ない巨大な眼球となっています。頭部中央で左右の眼球が交差するぐらい。
 これはマンガ的なデフォルメを優先した上で、顔面、左右の目の間をなるべくフラットにしたいというデザイン的な要望からこのような構造になったのですが、眼球自体が巨大であるので正面から見た眼球の頂点部が目の中央に位置していません。そのため、瞳(黒目)部分が眼球の頂点になる場所から顔の外側へオフセットするようにモデリングしました。瞳が眼球の頂点部になくても、レンダリング結果に特に違和感は無かったので、このような形状を選択したのですが、只、瞳のハイライトだけは思い通りに入ってくれず、これがストレスでした。
 右目用と左目用に別々にハイライト用のライトを用意したりしていたんですが~瞳の位置が眼球の頂点部からオフセットしているので、第一にハイライトが出る位置が読み辛い。それを右目と左目で同じ様な位置にハイライトを入れようとすると、ライトの位置調整と光量調整が非常に煩雑になり、余計に画作りに時間が掛かっていました。
 そこで、瞳が眼球の頂点部にある(常識的な)形状なら、左右で綺麗にハイライトが入るかな?という実証試験として今回の作業が始まったわけです。
 ハイライトの検証自体は、まぁ、予想通り。矢張り、眼球の頂点部に瞳があれば、ハイライトの位置は予想しやすいし、左右でほぼ揃いました。
 問題は、眼球の構造が変わる事によって顔の方が変わってしまう事。元々、顔の曲率に合わせて眼球の大きさを決めていたのを、今度は眼球の大きさを基準に顔の目元の凹凸を編集しなければならず、特に眼球に合わせると目元が大きく窪む事が、当初の「目の間の顔面をなるべくフラットに」というデザインの指針と相反するのでした。
 最終的に眼球は作り直した物を二度ほどサイズを調整し直し、顔の方も眼窩周辺のポリゴンと目の開閉モーフと共に五回ほど調整を繰り返し、なんとか印象の変わらないと思われる程度でフィニッシュした積もりです。
 で、改造版のサンプル画像はこんな感じ。
 

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 眼球が小さくなっているので、目頭の形状処理がマンガ的に省略された解釈から、よりリアル寄りになりましたが、コレはこうしないと 3D 的には収まりが付きませんでした。眼球は小さくなっていますが、瞳の大きさは元とほぼ同じになっています。
 マンガ的な目の表現を追求するなら、眼球を球状にするのをあきらめるか、頭部自体をもっと極端にデフォルメする必要がありそうですね。「マンガとリアルの中間」と言うのが私の志向する方向なので、私の目指す方向とは合いませんが。
 
 正面からのサンプル画像はこんな感じ。
 

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 眼球の構造の都合で、ちょっと寄り目気味になりました。
 瞳が目の中央になるように眼球を外側に動かすと眼球が顔の側面からはみ出るので~顔の幅を変えるか、眼球を更に小さくする必要があるのですが。どちらにせよ、目頭部分が更に落ち込む事になるので、それだけで顔の印象が変わっちゃうんですよね。顔の幅が変われば、もっと印象が変わる事になりますが。
 
 そして、今回、新規に追加したのが瞳の縮小モーフ、と言う事でサンプル画像。
 

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 サンプル画像ので、瞳の縮小が 0.5 設定ですので、更に小さく出来ますが。
 これは驚いた表情とかに利用できるかな、と思って追加したモーフなのですが、キャラによって瞳の大きさを変えたい場合にも利用できそうです。
 
 
 最後に、Toon 版ではなく、標準マテリアル版のサンプル画像。
 

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 こんな感じで、標準マテリアル(SSS適用)でも一応使用出来るようにはなっています。
 
 因みに、サンプル画像はすべてサブデビ(Subdivision Levels:1)有効にて、レンダリングしてあります。
 
 この改造版を正式に Ver.3 扱いにするかどうかは、幾つかサンプル作品を作ってから決めたいかな、と。
 コレを Ver.3 としたら、モーフ・キャラズ(Omi とか Brigitte とか)も再編集しないといけないしなぁ。あぁ、やる事が一杯(笑)
  

STORY of HDG(第7話)Pixiv投稿しました。

「STORY of HDG」の第7話まとめ版、Pixivへ投稿しました。
 第7話はサブタイトルが二人なので、表紙画像用にキャラを二人分(瑠菜と佳奈)作らないといけないので~余計に時間が掛かりました。変な縛り作っちゃったかな~(笑)
 デザインは決まってたんだから、Poserフィギュアを先に作っとけば良かったんだけどね。まぁ、他の作業との兼ね合いとか何とか。

 

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 第8話は現在、5回分目を打ち込み中。
 コレがいつ上がるのかは、私にも分かりませ~ん。

 

「第7話・瑠菜 ルーカスと古寺 佳奈」/「motokami_C」の小説 [pixiv] https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8205282

STORY of HDG(第7話.15)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-15 ****


「まぁ、お金の事は単純に時間給って分けでもないから。作業内容次第でって事で、その都度判断でいいんじゃない? 井上さんもあまり堅苦しく考えないで。会社の方は最終的な責任を全部、あなた達に押しつけたりはしないから。」

「はい…では、取り敢えずそう言う事で、いいです。すいません、なんだか我が儘言ってるみたいで。」

 維月は緒美と立花先生へ向かって、軽く頭を下げる。

「いいのよ。ソフト絡みは、わたし達は上級生だけど、専門外だからフォローしてあげられそうにないし。」

 緒美が恐縮気味にそう言うと、立花先生が言葉をつなげる。

「それに関しては、本社のスタッフが必要なフォローを出来るように話は通して置くから。取り敢えず、中間試験期間が明けたら、一ヶ月ほど本社の開発から人が来る予定だから、先ずはその人達からレクチャーを受けて貰う事になるかしらね。あぁ、それまでに、必要な機材の手配とかも、しておかないといけないわね…。」

「ともあれ、協力してくれる人が見つかって良かったわ。今日は日曜日なのに、来て貰ってありがとう、城ノ内さん、井上さん。今日の所は、これで終わりってことで。また、詳しい事は試験期間が終わってからにしましょう。明日からは部活も休止期間になるし。」

 と、緒美がここで切り上げようとすると、樹里が言葉を返した。

「あの、佳奈ちゃん達は今日、何時頃までの予定ですか?」

「あぁ~、試験期間前だし、四時頃には切り上げる積もりだけど?」

 樹里の問い掛けに答えたのは、恵である。

「わたしはこの後、特に用事もないので。佳奈ちゃん達を待ってる間、その…仕様書とか、差し支えなかったら見せていただけないかと。」

「あぁ、それなら、わたしも。瑠菜さんから話には聞いていて、ちょっと興味有ったんです。」

 維月も樹里に同調して、そう申し出るのだった。それを聞いて、緒美が視線を立花先生へと向けると、立花先生は静かに頷いた。
 緒美は黙って席を立つと、仕様書を保管してある書庫の前へと移動し、中から二冊の仕様書ファイルを取り出した。二冊の内一方は、立花先生が使用している、付箋等が貼り付けられた物である。

「どうぞ。このファイルは持ち出し禁止だから、ここで読んでね。」

 長机の上に二冊のファイルを並べ、緒美は樹里と維月の方へと押し出す。

「なるほど、これですか。」

「確かに、瑠菜さんの言ってた通り、凄いボリューム。」

 樹里と維月は口々に感想を漏らすのだった。

「それは全体の仕様書だから、制御関連の記述は少ないと思うけど。」

「いえ、制御する対処がどういう物か分かってないと、どう制御していいか分からないじゃないですか。だから、一通り理解はしておかないと。」

 そう言いながら、早速、樹里は仕様書の頁(ページ)をめくり出す。それは、維月も同様だった。

「開発の方に、ソフトの設計仕様書が有るはずだから、今度、そっちも送って貰えるよう、手配しておくわ。」

「それはそれで、お願いします、先生。」

 立花先生の提案に、樹里は仕様書の記述を目で追いながら答えた。その時、ふと、維月が顔を上げ、立花先生に問い掛けた。

「そう言えば、さっき、試験明けたら一ヶ月ほどっておっしゃってましたけど…そうすると、日程は夏休みに食い込む予定ですか?」

 その問いには、元の席に戻り、座り直した緒美が答える。

「あぁ、うん。七月いっぱいは今度搬入される LMF のテストになると思うの。八月の最終週にもテストの予定が入ってるから、休めるのは八月中の三週だけになっちゃうけど、あなた達は帰省の予定とか、大丈夫かしら?」

 今度は樹里も仕様書から顔を上げ、言った。

「帰省の予定は未だ決めてなかったんですけど。寧ろ、夏休み中、寮に残ってても大丈夫なんですか?」

「寮の方には、予定を出しておけば大丈夫よ。毎年、部活の都合とか、なんだかんだで半数ぐらいの人が寮に残ってるみたいだし。去年は、わたし達もお盆の前後二週間ほど帰省しただけで、あとは毎日部活やってたものね。」

 さらりと、そう答える恵に対して、維月が思わず突っ込みを入れる。

「夏休み、潰れるのが前提なんですか?」

「そこは御相談、って事よ。夏休みをフルに休みたいって向きなら、本社の応援とか相応の手当を考えないといけないから、遠慮しないで言ってね。別に、夏止み中の活動を無理強いする気はないから、ご実家とも相談しておいて。中間試験が終わったら、なるべく早く予定を出して貰えると、助かるわ。」

 半分冗談で言った事に、立花先生からは極めて真面目に回答をされ、恐縮する維月だった。

「先生、今のは維月さんの冗談ですから。」

 と、雰囲気を察した樹里が、フォローを入れる。

「あら、そう? でも、先輩も学校も会社も、休み無しで働け!とは言わないし、そうならないように監督や調整するのがわたしの役目だから。休暇返上でも時間外作業でも、必要であるならやって貰って構わないけど、それが過ぎるようなら止めるわよ、覚えておいてね。」

 立花先生は優しげな笑顔で、そう言い、結んだ。


 こうして兵器開発部に瑠菜と佳奈が参加し、それに樹里と維月が合流する事になったのである。
 この後、前期中間試験が終わり二週間ほど経って、LMF が天神ヶ﨑高校へ搬入され、それに Ruby が搭載される事となる。その作業に先駆けて、本社開発部から Ruby と LMF それぞれのソフト担当者が派遣され、LMF のオペレーションや Ruby の搭載作業などについて、樹里と維月に対してレクチャーが行われた。
 当初は自信なさげな発言をしていた樹里だったが、維月も含めて二人ともオペレーションに限れば実務には支障ない能力を認められ、必要に応じて本社からフォローを受けられる条件で、一年生でありながら樹里が天神ヶ﨑高校兵器開発部側のソフト担当責任者に確定する。維月は当初の希望通り、樹里のアシスタントと言う事で、正式な入部は見送られたのだった。


 一方、直美から CAD の講習を受けていた瑠菜と佳奈であるが。CAD の操作に関しては直美の指導により、ほぼ習得したものの、製図については授業よりも先行して学んでいる事もあり、急激な上達は難しい状況だった。教えている直美自身も学生であり経験豊富というわけでもなかったので、指導には難渋する場面も多分に見られたのだった。
 加えて、夏休み中には緒美と直美の二人が『自家用航空操縦士免許』を取得するため、三週間の合宿講習に出掛ける事が決まっており、留守を預かる恵一人では二人の CAD 製図を指導するのは難しい、と言う局面が訪れたのだった。と言うのも、恵は緒美や直美に比べて、CAD 製図があまり得意ではなかったのである。
 因みに、何故『自家用航空機操縦士』の資格が必要となるのか、についてなのだが。HDG の飛行能力付与は当初から存在した計画なのだが、その能力試験の実施にはチェイス機による飛行状況の確認や、事故が起きた際の迅速な対応が不可欠だと、本社側が指摘した事に『自家用航空機操縦士』資格取得の案件は端を発する。飛行試験の都度、『飛行機部』に協力を求める、と言う方法も考えられたのだが、機材は『飛行機部』から借用するにしても、操縦は『兵器開発部』自前でも出来るようになっておいた方がいいだろうと言う事で、夏休みの時点で免許取得の条件として法令に定められた「十七歳」に達している緒美と直美が操縦要員として選ばれた、と言うのが、まぁ、大まかな経緯である。
 そのような事情で上級生二人が不在となる上、折から提出される図面に不備が散見されていた事もあり、それを見かねた実松課長と、現役時代から実松課長とは昵懇(じっこん)であった前園先生が、瑠菜と佳奈に対する二週間に渡る CAD 製図特訓の講師を務める事になる。


 こうして『兵器開発部』の人員が補強された事により、緒美のアイデアや仕様書の内容が次々と図面化されて、本社へ届けられるようになったのである。それに呼応するような本社技術陣の努力と労力を得て、HDG の開発と試作機製作は進展を続け、年が明けて二月の末、遂に HDG-A01 試作機が天神ヶ﨑高校へと搬入される事となるのだった。
 しかし、試作機が搬入されて以降、緒美達は HDG-A01 のテスト・ドライバー担当者の人選と、ディフェンス・フィールド・ジェネレーターのデザインについて頭を悩ませ続ける事になる訳なのだが、そのれら課題の解決には、茜が入学してくる四月を待たねばならなかったのは、既に語られた通りである。



- 第7話・了 -


STORY of HDG(第7話.14)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-14 ****


「確かに、麻里…姉さんは、天野重工の開発部に勤めてますけど。お仕事の内容までは知らないので…そう言えば、ここ数年、ろくに実家にも帰ってきてなかったんですけど。 そう言うお仕事、してたんですね。」

 維月はそう所感を漏らすと、軽く息を吐いた。

「聞いた話だと、Ruby の開発は天野重工と三ッ星電機、JED の三社協力でハードの設計をやって、ソフトの方は三社独自に味付けをやってるらしいんだけど。三社とも進捗状況とか詳細は社外秘って協定で進めてる案件だそうだから、まぁ、ご家族が知らなくても不思議はないと言うか、寧ろ知ってたら大問題って言うか。発注元は政府らしいから、ある意味、国家機密級のプロジェクトらしいのよね。」

「そんな物騒な物が、どうして学校(ここ)に有ったりするんですか?」

 立花先生の発言に、真っ先に反応したのは直美である。

「噂だけど、他の二社はソフトの開発の方が、あまり思わしくないらしいのよ。あなた達に Ruby の教育を手伝ってもらうってのは、天野重工(うち)独自のアプローチだけど、その発案者は井上主任らしいわ。あと、こんな所に、国家機密級の開発物件があるとは誰も思わないだろう、って言う目論見も有るらしいけど。まぁ、本当の所は、重役以上の人しか知らないだろうし、怖くて誰も本当の事なんて聞けないわ。」

「そこまで聞くと、その井上主任って相当に凄い人みたいですけど…井上さんのお姉さんって事は、そこそこ若い人なんじゃ?」

 恵は直美とは違う視点で立花先生に問い掛けるが、それには回答したのは維月だった。

「あ、うちは五人姉妹でわたしが一番下で、その麻里姉(ねえ)が長女なんです。歳はわたしとは一回り以上離れますから。」

「と言うことは、大体、先生と同年代?ですか。」

 維月の説明を聞いて、緒美が立花先生に問い掛ける。

「年齢的にはわたしより一つ下だって。学年で言えば、同じらしいけど。」

「麻里姉(ねえ)は二月生まれなので。」

「あれ、それじゃ先生と入社は同期なんじゃ…。」

 直美の素直な疑問に、立花先生は苦笑いをしつつ答えた。

「わたしは一般大学卒だけど、井上主任はあなた達の先輩。天神ヶ﨑(ここ)の OG だから、会社的にはわたしの四年先輩なのよ。天神ヶ﨑(ここ)の特課の卒業生は、年下の先輩に…あなた達の側から言えば、年上の後輩や部下が出来る可能性が他社(よそ)よりも高いから、まぁ、楽しみにと言うか、覚悟しておきなさい。」

 立花先生の眼鏡をクイッと上げる仕草に、二年生一同が引き気味の雰囲気が漂う中、樹里が普通のトーンで立花先生に問い掛ける。

Ruby って可成り高機能は汎用 AI のようですけど、そもそも、政府は何のために Ruby を開発してるんですか?」

「それこそ、機密中の機密なんでしょ? 少なくとも、わたしは知らないし、Ruby 自身も知らないでしょ。ねぇ、Ruby。」

「ハイ。最終的な目的はわたしも聞いていません。当面の仕事は、ここのセキュリティ管理と、近々納入される LMF に搭載されて、その機体管理を行う事です。」

「わたしは、大体見当がつくけどね、政府の考えている事。」

 緒美は吐き捨てるようにそう言うと、静かに息を吐いた。

「緒美ちゃん、その見当って言うのが当たっているにせよ外れてるにせよ、どっちにしても誰にも言っちゃダメよ。」

「分かってます。それ程、迂闊(うかつ)じゃありません。」

 緒美の返答は静かだったが、それであるが故に、怒りのような、嘆きのようなニュアンスが、その場の全員に伝わった。無感情な素振(そぶり)をする事はあっても、緒美はあからさまに不機嫌な態度をとる事は滅多になかっただけに、緒美のその発言は、その場の雰囲気を重苦しくさせていた。
 自分の傍で立ったまま様子を見ていた瑠菜と佳奈の所在無さ気な様子に気がついて、直美は席を立ち、二人に声を掛けた。

「じゃ、わたし達は CAD 講習、今日の分を始めようか。」

 三人は隣の CAD 室へと向かうが、その場を離れる際に、佳奈が樹里に向かっていつもの調子で言うのだった。

「じゃぁ、樹里リン。また、あとでね~。」

「あ、うん。」

 二人は、互いに胸の前で小さく手を振り合う。
 直美達三人が部室を出るのを見送って、恵は微笑んで言った。

「古寺さんのマイペース振りは、貴重ね。」

「はい。中学の時から、なんて言うか…救われるような気持ちになる時があります。一緒にいると。」

 再び笑顔になり、緒美が口を開く。

「変な雰囲気にしちゃって、ごめんなさいね。 さて、二人とも細々(こまごま)と説明しなくても、もう随分と理解してくれてる雰囲気だから聞くけど。入部して、わたし達の活動に協力していただけるかしら?」

 緒美の問い掛けに最初に答えたのは樹里だった。

「正直言うと、兵器とかの開発に興味はないんですけど。わたしは将来的には Ruby のような汎用 AI の開発に参加したいって思ってたので、そう言った意味で、Ruby には凄く興味があります。ただ、それだけ高度なものに自分がついて行けるかどうか、それはちょっと分かりませんし、自信もありませんけど。」

「メカの方だって、実質的には本社の大人が設計してるの、わたし達はアイデアの取り纏めをやってるだけと言っても良いくらいだから、その辺りは心配しないで。」

「そう言う事でしたら、やってみたいと思います。」

「そう、よかったわ。井上さんはどうかしら?」

 樹里の協力を取り付けた緒美は、続いて維月に問い掛けるのだったが、当の維月はと言うと、何だか浮かない表情で黙っていた。
 そして、少し間を置いて、維月が口を開いた。

「申し訳ありませんが…少し考えさせてください。」

「どうして?…って聞いてもいいかしら?」

「はぁ…身内が絡んでいるとなると…わたしは、あまり関わらない方が良いような気がして。もしもですけど、麻里姉(ねえ)に迷惑が掛かったりすると嫌ですし…只、樹里さん一人だと作業的に大変になりそうでもあるので、入部はしないけど樹里さんのアシスタント程度で良ければ関わらせてください。勿論、秘密保持については入学時の誓約通り守りますから。」

「身内の事とは線を引いておきたい、と…分かるような、分からないようなだけど、うちの活動に参加すると、バイト料的な話もあるんだけど?」

「いいです、お金とか。それ貰っちゃったら、それこそ線引きになりませんからっ。」

「どうしましょう?先生。」

 緒美は判断に困って、立花先生へ水を向けてみる。



- to be continued …-

STORY of HDG(第7話.13)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-13 ****


「森村ちゃんも知ってる子?」

「ううん、寮で見かけた事がある程度。お話とか、した事はないの。」

 緒美と恵が話してるのを横目に、直美が瑠菜に問い掛ける。

「その二人は、何か部活、やってるの?」

「いいえ。今のところ、どこにも入ってなかった筈です。」

「いいねぇ~。」

 答えを聞いて、直美は緒美へ視線を移しニヤリと笑うのだった。

「取り敢えず、その二人と直接お話ししてみたいわね。明日にでも連れてきて貰えないかしら? 二人の都合が良かったら、だけど。」

「明日って、日曜ですよ?」

「うん、でも月曜からは試験期間一週間前で、部活は休止になっちゃうから。その前に、会うだけ会っておきたいの。」

「それなら、今日、この後、寮ででもいいんじゃ…。」

 瑠菜がそこまで言い掛けると、優しげな微笑みを浮かべて緒美が言った。

「部室(ここ)での方が、秘密保持の事とかあるから。人目のあるところは避けておいた方が賢明でしょう。Ruby の件とかも説明しやすいし。それに、ソフト担当になる人だったら、Ruby との相性も見ておきたいわ。 Ruby もどんな人か気になるでしょう?」

 緒美が Ruby に問い掛けると、今まで黙っていた Ruby が透かさず答える。

「ハイ、紹介していただけるなら、是非。」

 Ruby の答えを聞いた緒美は、ふと思い出したように立花先生へ向き直り、笑顔のまま声を掛けた。

「あ、申し訳ないですけど、先生も同席して貰えます?」

「いいけど…時間は、昼からにして、ね。」

 立花先生は苦笑いしながら、そう緒美に依頼するのだった。

「分かりました。取り敢えず、明日来られるか、あとで二人には話しておきます。」

「お願いね、瑠菜さん。 取り敢えず、希望の光がちょっと見えた感じかしら~。」

 緒美は両手を振り上げて背もたれに身を預け、大きく伸びをする。

「さて。じゃあ、二人とも、今日の分の CAD 講習、始めようか。」

 そう言って直美が席を立つと、瑠菜と佳奈は直美について CAD 室へと向かうのだった。


 その日の夕食時、瑠菜と佳奈は、樹里と維月に『兵器開発部』への協力依頼についての話をしたのだった。
 『兵器開発部』での活動については、以前から秘密事項には触れない範囲で樹里と維月には話してあったので、兵器開発部からの依頼について大きな齟齬(そご)が発生する事はなかった。「わたし達で役に立つかは分からないけど」と樹里は言ったが、それでも「面白そうだから」と、『兵器開発部』の先輩達に会ってみる事については維月共共(ともども)了承して、その日はそれぞれ分かれたのだった。

 そして、翌日。2071年5月31日日曜日、昼食のあと瑠菜と佳奈は、樹里と維月を連れて『兵器開発部』の部室を訪れた。
 部室に緒美と立花先生が来ていたのは、昨日の部活時の打ち合わせ通りなのだが、そこには直美と恵も来ていた。いや、この後、瑠菜と佳奈は直美に CAD 講習の続きを受ける予定だったのだから当然だが、恵までもが居るのが瑠菜には不思議に思えたので、つい、そんな言葉が口を衝いて出てしまうのだった。

「どうして、恵先輩まで居るんですか?」

「ええ~、わたしだけ仲間はずれにしないで~。」

 恵は、そう言い返して明るく笑った。

「あぁ、すいません。取り敢えず、二人、来てもらいました。」

 瑠菜は自分の後ろに立っていた樹里と維月に、前に出るように促す仕草をすると、佳奈と共に直美の座っている席の方へと移動する。二人の顔を見て、先ず、緒美から声を掛ける。

「来てくれて、ありがとう。わたしが部長の鬼塚よ。で、こちらから顧問の立花先生、会計の森村。そちらが副部長の新島。あと、もう一人? Ruby の事は聞いてるかしら?」

 メンバー紹介に次いで、唐突に質問を受け、それには樹里が答えた。

「はい。昨日、大まかな事情は瑠菜さんから。あ、情報処理科一年、城ノ内 樹里です。」

 樹里に次いで、維月も自己紹介する。

「同じく一年、井上 維月です。」

「あ、どうぞ、適当に座ってちょうだい。」

 緒美に促され、樹里と維月は取り敢えず目の前の席、長机を挟んで緒美の正面の椅子に座る。

「井上さん? 前に、何処かで会った事、あったかしら…」

 急に、立花先生が妙な事を言い出すのだが、それに対して、維月は明朗に答えるのだった。

「いえ。寮で見かけられたのではないですか?」

「う~ん、そう言うのじゃなくて…何処かで、あなたと会った事が有るような気がするのよ。変ね…。」

 その時、Ruby の合成音声が室内に響いた。

「発言しても、よろしいでしょうか?」

 この日 Ruby は、樹里と維月の前では、発言を控えなくても良いと緒美に予め言われていたのだ。

「なぁに、Ruby。」

 緒美が Ruby に発言を促す。

「智子の記憶回復に役立つかも知れませんが、維月の顔と声は、麻里と良く似ています。 顔認識でのマッチング・スコアは52ポイントで本人と認識する事はあり得ませんが、別人としては非常に高いスコアです。また、声紋のマッチング・スコアも同一人物判定は出来ませんが、類似した特徴が…。」

 Ruby が解説を続ける最中(さなか)、立花先生は声を上げた。

「ありがとう、もういいわ。今、思い出したから。」

「ハイ、それはよかった。」

「話には聞いてましたけど。なかなか、楽しい AI ですね。」

 その様子を見ていた樹里は、そう言ってクスクスと笑う。その隣に座る維月は、何かに気がついたように視線を上に向けていた。

「井上さん、本社開発部の井上 麻里主任って、あなたのお姉さんでしょ。Ruby の件で、三度ほどお会いする機会があったから、それであなたに会った事があるような気がしたんだわ。」

 そこで話の流れを察した恵が、微妙な表情の維月を横目に、Ruby に話し掛ける。

Ruby の件って事は、あなたの開発関係の方なの?Ruby。 その、井上主任。」

「ハイ。麻里は、わたしの開発チームのリーダーです。」

 

- to be continued …-

STORY of HDG(第7話.12)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-12 ****

 

 瑠菜が正式に入部して数日。前期中間試験を目前に控えた、2071年5月30日土曜日。
 この頃、新入部員の二人は、副部長である、直美の指導の下、CAD 操作の習得を始めていた。一年生の授業では、製図の概論が終わり、ようやくT定規と三角定規を使った手描きの実習が始まったばかりで、そんな基礎学習が夏休み明け頃までは続く予定である。だから、一足飛びに CAD の習得を始められた佳奈は、念願が叶っただけに熱心に部活に参加していた。瑠菜はと言うと、そんな佳奈に付き合っている体(てい)ではあったが、他の同級生や授業に先行して技術を習得できる事については満更でもなかった。
 
 兵器開発部に設置された CAD の機材は、本社・設計部での機器更新によって余剰となったと言う「建前(たてまえ)」で、中古の機器を本社から移設した物である。それは勿論、本社上層部の配慮があってなのだが、そんな分けで、CAD のシステムは本社で使用されている物と同一だった。
 元々は、学校の製図室に設置されている CAD を使っていた緒美達だったのだが、学校の CAD は当然、授業での使用が優先され、放課後も補習や自習で使用する生徒も多いため、部活で頻繁に長時間、優先的に使用する事は出来ないと言う事情があったのだった。
 そんな状況を見かねた立花先生が本社と掛け合って、三台の端末を含む CAD システム一式が部室隣の空き部屋へと導入されたのが、一年前の十月頃の事である。
 因みに、当時一年生であった緒美達が、授業に先駆けて CAD 製図を習得したのは、設計製図の担当講師である前園先生に指導を受けたからなのだが、その辺りの配慮についても本社幹部や学校理事長(天野重工会長)の意向が働いていたのは言うまでもない。
 
 さて、お話を5月30日土曜日に戻そう。
 『普通課程』の生徒の場合、基本的に土曜日には授業がない。しかし、専門教科も履修しなければならない『特別課程』の場合、土曜日も四時限分の授業が設定されている。平日も火曜日から木曜日の三日間は『普通課程』には無い、七時限目が『特別課程』には存在し、一週間で合計すると『特別課程』は『普通課程』よりも、七時限分授業時間が多いのである。
 そんな土曜日の放課後、昼食のあと、普段よりも少し遅れて瑠菜と佳奈の二人は部室へと到着した。瑠菜達が部室に入ると、三人の先輩と立花先生がすでに来ていたのだが、なにやら深刻な面持ちで話し合いをしている様子だった。

「何かあったんですか?」

 瑠菜は誰とはなく、そう声を掛け、入り口に最も近い席に着いた。その右隣の席に、佳奈も座る。

「あぁ、昨日、LMF が予定通り山梨の試作工場をロールアウトしたって、メールが来ててね~。」

 直美が腕組みをしたまま、視線を瑠菜に送りつつ答える。

「予定通りなら、良かったじゃないですか。」

「うん。それ自体に問題はないんだけど。いよいよ、実機がこっちに送られてくることになって、こちら側の受け入れ体勢が、ねぇ。」

 今度は恵がそう言って、溜息をついた。

「先生、やっぱり誰か、常駐してもらわないと。うちの人員だけじゃ、どうにもなりませんよ?」

「そうよねぇ…そもそも、こっちでテストする事自体に無理があるのかもね。やっぱり、ここから先は本社サイドに渡すしかないかしら。」

 緒美の問い掛けに、あきらめムードの漂う立花先生の答えだった。この辺りで、今、議題になっているの事柄について、瑠菜には見当がついたのだった。

「LMF の性能確認試験の事でしたら、部長が計画立ててたんじゃないんですか?」

 瑠菜の問い掛けに、溜息を一つついてから、緒美は力なく微笑んで言った。

「計画は立ててたんだけどね…ほら、うちの部って全員、機械工学科じゃない。仕様設計の段階はそれで何とかなってたんだけど、実機を動作させてのテストとなると、ソフト屋さんも必要でしょう?」

「あぁ~そう言う問題ですか… 先輩方の知り合いに、適当な人は居ないんですか?」

 緒美に問い返す瑠菜に、笑いながら直美が答える。

「あはは、そんな人材が居たら、とっくに引っ張り込んでるわ。」

「寮で情報処理科の知り合いに探ってもらったけど、わたし達の学年で協力してくれそうな人は居なかったのよね。」

「本社から人を派遣してもらう方向で依頼は出してたんだけど、あちらはあちらで忙しい案件を抱えてるらしくて…ね。長くても一ヶ月以上は、人を出せないって。」

 直美と恵に次いで、立花先生が本社側の状況を極簡単に説明する。

「LMF の試験だけじゃなくて、HDG 本体や拡張装備についてもソフト絡みの仕様はこれから詰めて行かなくちゃだし、やっぱり、その辺りに明るい人材が居ないと、先々、作業が滞りますよ、先生。」

 緒美がそう言って、身体を伸ばすように背中を反らした時、突然、佳奈が声を上げた。

「ソフトって、コンピュータのプログラムとかの事ですよね?」

 佳奈の発した極めて初歩的な質問に、一瞬、声を失う一同だった。

「あれ?わたし、何か変な事、言いました?」

「大丈夫。間違ってないわよ、古寺さん。」

 一拍おいて恵がフォローを入れる一方で、佳奈の隣で瑠菜は深い溜息をつくのだった。

「何を言い出すのよ、佳奈さん。」

「ねぇねぇ、瑠菜さん。樹里リンにお願いしてみようよ。あと、維月さんにも。」

 その、佳奈の唐突な提案に、行動にこそ移さなかったものの、内心で瑠菜は膝を打つ心境だった。

「ジュリリン?」

 聞き慣れない人名らしき言葉を、恵が聞き返すと、それには瑠菜が答えるのだった。

「城ノ内 樹里さんって言って、佳奈さんと同じ中学の出身で、情報処理科の一年生です。維月さんって言うのは、寮で樹里さんと同室の、同じく情報処理科の一年生なんです。秘密保持云々についても信用できる人達だと思いますよ。」

 瑠菜の答えを聞いた恵は、その二人の人物に思い当たったようだった。

「あぁ…寮であなた達とよく一緒にいる、あの二人ね。 そう、あの二人、情報処理科だったんだ。」

 

 

- to be continued …-

STORY of HDG(第7話.11)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-11 ****

 

 それから数分が経ち、皆が無言でそれぞれの作業に集中し始めた頃だった。恵が、唐突に緒美に話し掛ける。

「ねえ、緒美ちゃん。Ruby の事、忘れてない?」

 緒美はキーボードを打つ手を止めず、視線もタブレット端末から外さないまま答えた。

「忘れてはないけど、タイミング的に…あぁ、そうね。 Ruby、もうおしゃべりしてもいいわよ。」

 すると、室内に女性の合成音が響いた。

「ありがとう、恵。わたしも、忘れられているのかと心配していましたよ、緒美。」

「あら、ごめんなさい、Ruby。」

 Ruby のぼやきを聞いて、くすりと笑って緒美は謝るのだった。

「誰です?…今の声。」

 瑠菜は顔を上げ、誰に聞くでもなくそう言うと、すぐさまそれに応えたのは Ruby だった。

「こんにちは、瑠菜。わたしは Ruby、天野重工で開発された AI ユニットです。」

「AI?…って、声が何処から…。」

 合成音の出所を探して、瑠菜は周囲を見回す。

「わたしは、緒美の後ろに在ります。」

「そう言う時は、後ろにいます、って言うのよ、Ruby。」

 Ruby の言葉遣いについて、恵が優しく指摘するが、それには Ruby が反論した。

「わたしは人間ではなく機械ですので、この場合『居る』のでは無く『在る』が正しいと思います。」

「わたしたちは、擬似的な物だとしてもあなたの人格を認めているの。だから『在る』なんて言われたら、悲しくなるわ。」

「そうですか。緒美も悲しみを感じましたか?」

 恵の意見を聞いた Ruby は、緒美に所感を尋ねる。それに対して、今度は作業の手を止め、顔を上げて緒美は答えた。

「そうね…森村ちゃんみたいに悲しいって感覚は無いけど、違和感は有るわね。」

「大体、『在る』だけのような物は、自分で考えて発言なんかしないんだから、だから『わたしはここに在る』なんて言い回しはあり得ないのよ、Ruby。」

 緒美の発言を受けて、直美はそう付け加え、笑った。
 そんなやりとりを聞きながら、瑠菜は緒美の背後、部室の奥の壁際に、ドラム缶よりも一回りほど小さい円筒型の装置らしき物が置かれているのに気がついた。そして、ふと横を見ると、仕様書を読むのに集中していた佳奈も、顔を上げ、その装置の存在に気がついていた様子だった。

「そこの、窓際のが Ruby なんですか?」

「本体はね。上の方、窓枠にカメラみたいのがあるでしょう? この室内は、そのイメージ・センサーでみんな様子を見てるの。後、この格納庫のあちこちにセンサーが設置されててね、この第三格納庫全体のセキュリティを担当してもらってるのよ、今のところ。」

 緒美は瑠菜の問いに、淀みなく答える。

Ruby も、開発テーマの一部なんですか?部長。」

「そうでもあり、そうでも無し…まぁ、仕様書を読んでくれたら、詳細については追々分かると思うけど。そもそもRuby ほど高性能な物は要求してなかったんですけど。ねぇ、立花先生。」

Ruby は元々、本社で別件用に開発されていた試作機なんだけど、色々と大人の都合があってね、この部活で預かって、目下教育中って状況。わたしも、Ruby については、詳しい事は知らないのよ。」

「教育、ですか。」

「あ、そんなに難しく考えなくても良いのよ。さっきみたいに、普通におしゃべりしてればいいって事だから。」

 立花先生はそう瑠菜に言うと、ニッコリと笑った。

そもそもは、LMF に簡易的な AI ユニットを搭載するのが部長のアイデアだったんだけどね、それに用にって本社が偶々(たまたま)開発中だった Ruby を持ってきたのよ。性能的には要求に対して完全にオーバー・スペックなんだけど、まぁ、『大は小を兼ねる』って言う奴? それで、本社が AI ユニットを提供する交換条件で、Ruby のコミュニケーション能力を向上させるのに、わたし達が協力するって事になった~って言う感じの流れね。で、LMF が完成するまでの間、Ruby には暇つぶし的に、ここのセキュリティ・システムをやってもらってるわけ。」

「LMF って言うのは、何ですか?」

 Ruby についての大まかな流れを説明した直美だったが、瑠菜には直ぐに飲み込めない言葉が「LMF」だった。

「それについても、仕様書を読んでくれたら分かるわ。」

 瑠菜の問い掛けに、落ち着いて口調で緒美が答える。

「はぁ、そうですか。 取り敢えず、これを読まない事には始まらないわけですね。」

 溜息混じりに瑠菜がそう言うと、直美が笑って、言った。

「あはは、そう言う事。まぁ、LMF については、予定通りなら、あと二ヶ月ほどで実物が見られるはずだから、楽しみにしてて。」

「楽しみも何も、LMF が何かも今のところ、分かってませんけど。」

 そう答えて、瑠菜は再び仕様書へと目を落とした。
 そして、ふと佳奈の様子が気になった瑠菜が隣へと目をやると、佳奈は集中して黙々と仕様書を読み進めていた。寮や教室で、度々(たびたび)見せる佳奈のその集中力を、瑠菜は「少し羨ましいな」と思いつつ、視線を手元の仕様書へと戻すのだった。

 こんな顛末で、佳奈に巻き込まれるようにして瑠菜は兵器開発部と関わる事になったのである。
 当初、入部には慎重な姿勢を取っていた瑠菜だったのだが、佳奈と一緒に「仕様書」を読み進めていく内、その内容を理解するほどに、兵器開発部の活動への興味が大きくなって行ったのだった。
 斯くして、五月の連休を挟んで三週間ほどの後、「仕様書」を読み終えた時点で、瑠菜は正式に兵器開発部に入部する事にしたのである。

 

 

- to be continued …-

 

STORY of HDG(第7話.10)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-10 ****

 

「いいんじゃない?古寺さんは真面目そうだし。所謂(いわゆる)、兵器オタクな、趣味の怪しい人なんかより、よっぽど信用できそうだわ。」

「方向性はちょっと違うようだけど、マイペースって言う意味では森村も古寺さんと同類だしな~。」

 恵の言葉を、そう言って直美が茶化すのだった。

「そうね、それについては否定はしません。じゃ、古寺さんは入部って事で、いいかしら?」

 直美に言葉を返した後、佳奈の方に向き直り、恵は入部の意志を確認する。佳奈は深く頷いてから、言った。

「はい。よろしく、お願いします。」

「こちらこそ、歓迎するわ~。それで、ルーカスさんはどうするの?」

 突然、自分の方に話が回ってきた瑠菜は、恵に不意を突かれたようで、驚いた。

「あ、え?」

 答えに迷っている内に、瑠菜の方に向いていた佳奈と視線がぶつかる。それで、瑠菜は余計に焦ってしまっていた。

「…どう?といわれても…佳奈さんの様子を確認に来ただけ、ですから~…」

「そう?暫く様子を見てて、わたしはあなたも有望だと思うのよね。友達思いの様子だし、頭の回転も良さそうだし。それに、古寺さんと同室なら秘密保持の点でも有利だしね~ねぇ、部長。」

「勿論、無理強いはしないけど。設計とか開発とかの技術職を目指しているなら、ここでの活動はあなたの今後にとって大いにプラスになると思うの。 どうかしら?」

 その時の緒美の笑顔に、引き込まれてしまうような感覚を覚えていた瑠菜だったが、雰囲気に流されるのは避けようと思い直した。

「テーマの深刻さと言うか、重大性から考えて、わたしなんかよりも、もっと優秀な人が他にいるような気がしますけど。」

 瑠菜のその言葉に、コメントを返したのは、黙って様子を見ていた立花先生だった。

「う~ん、こう言う開発チームの編成って、個々人の能力よりも、相性の方が重要だったりするのよね…恵ちゃんは、ルーカスさんが相性の面でも良いって思った訳よね?」

「はい。」

 立花先生の問い掛けに即答すると、恵は佳奈の方へ向き直り問い掛ける。

「古寺さんも、ルーカスさんが一緒だと心強いわよね?」

「はい、それは、もう。」

 恵の誘導に、簡単に乗せられる佳奈だった。

「取り敢えず、仮入部って事にしておいていただけませんか? 秘密保持については、誓約した通りお約束しますから。」

 入部については即断するわけに行かないと思った瑠菜だったが、とは言え、ここに佳奈を残して今すぐ立ち去るわけにも行かない気がして、そんな提案をしてみたのだった。
 その提案に対して、一呼吸置いて答えたのは、緒美だった。

「まぁ、いいでしょう。古寺さんがここでどういう事をやっているのか、有る程度正確に知っておかないと、ルーカスさんも安心できないでしょうし。」

 そう告げた緒美の表情から優しげな微笑みが消えなかった事に、瑠菜は胸を撫で下ろす心境だった。

「ありがとうございます。」

 瑠菜は座ったまま、長机に額が着きそうになるほど、深々と頭を下げる。

「いいのよ、気にしないで。さて、それじゃ、仕事に掛かってもらう前に、HDG の仕様ぐらいは理解しておいて欲しいから。新島ちゃん、仕様書、古寺さん達に見せてあげて。」

「はいよ~。」

 直美は椅子に座ったまま、身体を捻り、反らし、背後のスチール書庫下段の引き戸を左手で開けると、その中から分厚いファイルを一冊取り出す。そして、取り出したファイルを長机の上へと置くと、先程開けたスチール書庫の引き戸を閉め、向き直った。そして、そのファイルを瑠菜の方へと押し出し、言うのだった。

「先ずは、コレに一通り目を通してね。あ、一応、この中身は全部、秘密事項だから、ヨロシク。」

 そして、直美はニヤリと笑うのだった。
 瑠菜はそのファイルを黙って受け取り、暫し、ファイルを開かずに見つめていた。すると、佳奈に立花先生が声を掛けるのだった。

「古寺さんには、わたしが持ってるのを貸してあげる。色々書き込んであるけど、気にしないでね。」

 そう言って、立花先生は正面のモバイル PC の脇に置いてあった、同じタイプのファイルを佳奈の方へと押し出した。そのファイルの中に綴じられた書類には、幾つもの付箋が貼り付けてあるのが、ファイルを開かなくても見て取れた。

「あ、先生。ありがとうございます。」

 一礼してそのファイルを受け取った佳奈は、躊躇することなくファイルを開くのだった。その様子を見ていた瑠菜は、緒美も同じファイルを持っているのに気がついた。

「このファイルの仕様書はね、特殊な紙に印刷してあるから、予備を含めて三冊しかないのよ。持ち出し厳禁だから、部室(ここ)で読んでね。」

 瑠菜の視線に気がついた緒美が、仕様書のファイルについて、そう説明した。

「先生は、佳奈さんにファイルを貸しても大丈夫なんですか?」

 既に、仕様書を読む事に集中している佳奈を横目に、瑠菜は立花先生に聞いてみる。

「あぁ、わたしと部長はそれぞれ、仕様書はデータでも持ってるから。心配しないで。」

「そうですか。」

 そう、短く答えると、瑠菜は観念したように一つ息をついて、それからファイルを開いた。そして最初に注目したのは、書かれている内容よりも、それが印刷されている用紙の質についてだった。
 先刻、緒美が言った通りの「特殊な紙」なのだが、それは印刷面が何か光沢のある樹脂状の物質でコーティングされているようで、頁をめくる時、光の具合で表面がうっすらと虹色に光って見えるのだった。瑠菜が紙質を確かめている様子に気づいた立花先生が、次のように解説をしてくれた。

「その用紙はコピー防止のコーティングがしてあってね、コピー機やスキャナーで読み込むと真っ白になるの。あと、カメラで撮影した場合は、表面が虹色に写るのよ。フラッシュを使ったら、コピー機で読み込んだ時と同じで、真っ白になるけど。」

「そんなわけだから、コピーして、寮に持ち帰って読もうなんて、考えないでね。コピーするだけ無駄だから。」

 立花先生の解説に続いて、緒美にそう釘を刺された瑠菜だった。

「そんな事、考えてませんよ。」

 緒美の忠言(ちゅうげん)は正に図星だったのだが、瑠菜は苦笑いしつつそう答えて、仕様書を読み始めたのだった。

 

 

- to be continued …-

STORY of HDG(第7話.09)

第7話・瑠菜 ルーカス(ルナ ルーカス)と古寺 佳奈(コデラ カナ)

**** 7-09 ****

「真面目にやる気のある人で、秘密保持の意味が分かる人、って言うのがウチとして希望する人材なの。誰でも良いって訳にはいかないのよね。だから、ああいう場で人を募(つの)るのは、控えた方が良いかなって思ったのよ。」

「とは言え、人手も必要なのよね、実際。」

 緒美に続き、直美が苦笑いしつつ、言った。

「分かりました。取り敢えず、秘密保持については誓約の通り、約束します。」

 瑠菜がきっぱりとそう言うと、緒美はニッコリと笑顔を見せて、話し始めた。

「そう。 じゃ、まず、現在の活動のテーマから。これは一応、秘密ではないんだけど、あまり他人(ひと)には言わない方が良いと思うのよね。言っても、笑われるのが落ちだから。 で、そのテーマと言うのが、対エイリアン・ドローン用のパワード・スーツの開発、なの。」

 その緒美の発言に一呼吸置いて、相変わらずぼんやりとしている風の佳奈を横目に、瑠菜が質問する。

「それは確かに、耳を疑うテーマですけど…どうしてそんな兵器なんかを?」

「どうして、って。ここは『兵器開発部』だから。」

「すみません、聞き方が拙(まず)かったです。何故、テーマがパワード・スーツで、しかもそれが対エイリアン・ドローン用なのか?です。」

 その問いに答えたのは、黙って成り行きを眺めていた立花先生だった。

「それに答えようとすると、話が長くなるんだけど。誤解を恐れず、簡潔に言えば『巡り合わせ』、なのよね。鬼塚さんが個人的に対エイリアン・ドローン用のパワード・スーツについて研究してて、偶然、天野重工本社でも同じテーマの検討をしていた、と言う『巡り合わせ』。」

「そして、その本社での検討チームの一員だった立花先生が、この学校に講師として赴任してきて、この部活の顧問になった、と言う『巡り合わせ』も、ですね。」

 立花先生の言葉を受け、緒美はそう言って微笑むのだった。そして、瑠菜と佳奈に対して、緒美は説明を続ける。

「そんな訳で、この部活では本社からの外部委託と言う形で、HDG…あ、開発中のパワード・スーツの事ね、その開発作業を進めているわけ。」

 そこまで緒美が話した時、ぼんやりとした表情のまま、佳奈が左手を肩の高さほどに挙げて緒美に尋ねた。

「あの、パワード・スーツって何ですか?」

 一瞬、時間が止まったかのように室内が静まり返る。流石にその雰囲気には違和感を覚えたのか、佳奈が言葉を続けた。

「あれ? わたし、何か変な事言いました?すみません。」

「いいのよ。そうね、そこから説明が必要だったかもね。ルーカスさんは、パワード・スーツって、分かる?」

 笑顔のまま緒美は、佳奈の隣で苦笑いをしている瑠菜に問い掛けた。

「あ、はい。まぁ、何となく…SF の映画なんかに出てくる、人間が着るロボットみたいなの、ですよね?」

「まぁ、そんな認識で良いと思うわ。」

「ふぅん…よく分からないけど、分かりました。パワード・スーツについては、後で勉強しておきます。続けてください。」

 佳奈はそう言って、ペコリと頭を下げたのだった。

「開発テーマがどうしてパワード・スーツなのか、とか、どんなパワード・スーツなのか、とかは、説明を始めると長くなるから取り敢えず省略しましょう。ここで押さえておいて欲しいところは、この開発テーマについては学校や本社の方にも了承されている、と言う事。それから、本社には技術的な部分をサポートして貰っている、って言う事。複雑な機械になるから、当然、わたし達だけで設計するなんて無理。だから、わたし達はアイデアを出して、具体的な細かい設計や試作は本社にお願いする形になっているんだけれど、アイデアを本社の開発や設計に伝えるのに、相応の図面を、それも相当数、描かなくちゃいけないのよね。それで、その辺りの作業を担当してくれる人を募集しているわけ。ここまでは、いいかしら?」

「まぁ、秘密保持の絡みもあって結果的にこそこそ活動してるように見えるから、ウチの活動って学校内では他の生徒達に、ほぼ認知されて無いし。胡散臭い話に聞こえるだろうけど、別に悪い事をやってる訳じゃないから、そんなに警戒しなくてもいいわ。いや、寧(むし)ろ胡散臭い話に警戒心を持つくらい慎重な人の方が、秘密保持の方面では信用が出来て丁度いいくらいだけど。」

 緒美が一気に説明したのを受けて、直美が極めて明るいトーンで言い、付け加えた。すると、再び佳奈が左手を挙げて発言を求めた。

「何かしら?古寺さん。」

 緒美は微笑んで、佳奈に発言を促す。

「あの、わたしは他の人達とはちょっと、いろんな事のペースが違うので、あまり…特定の人としかおしゃべりは出来ないので…秘密の事とか大丈夫だと思うんです。わたしの事、信用して貰えますか?」

「逆に、会って間もないわたし達を、あなたは信用できる?」

 佳奈の質問に、緒美は質問で返すのだった。それに、佳奈の横で様子を窺(うかが)っていた瑠菜も驚くぐらいの反応で、佳奈は答えを返したのだった。

「はい! 何をやっているのかは、正直、よく分かりませんけど、少なくとも、先輩達がふざけているようには見えませんから。」

 佳奈の返事を聞いた緒美は、視線を恵の方へ向け、言った。

「だって。どうかな?森村ちゃん。」

 恵は椅子の背もたれに少し体重を掛けるように身体を反らし、一呼吸置いて笑顔で緒美に答えた。



- to be continued …-