WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

HDG-LMF01 コックピット・ブロック運搬ドリー・180716

「STORY of HDG」本編、第3話第10回の挿絵用に製作を始めた、この「運搬ドリー」。
 大体、三日位で作る積もりだったのですが~結果、約十日。とは言え、毎日フルでこの作業だけをやれた訳ではないので、一日当たり八~十時間作業で換算すれば、実働で三日。まぁ、妥当な所だったのか。
 で、以下、サンプル画像。

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 構成としては、フレームに車輪を付ければオッケー的なノリで始めた筈だったのですが。「アレ?コレ、ロック機構要るんじゃね?」と思ってしまった為、前後にロック・アームの機構を考え始め、「アレ?カナードとかスタビとか、引っ張ってる時にぶつけそうじゃね?」と思ってしまい…以下略。結果、見ての通りとなりました。
 パーツ的には、一応、全て UV 展開はしてありますが、テクスチャは一枚も描いてません(笑)。
 ロック機構はハンドルの回転と固定ピンが連動して、ロック・アームが倒れる所まで、モーション・ダイアル一つで連動する仕掛けは作ってありますが~今後再利用するかは未定(笑)
 まぁ、格納庫内背景の置物的位には利用できるかな、と。
 さぁ、挿絵画像を作らねば。

STORY of HDG(第9話.16)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-16 ****


 一方、理事長室を出た兵器開発部一同は、取り敢えず部室へと向かって歩いていた。既に校舎から出ていた彼女たちは、陸上部やサッカー部が練習中のグラウンドを横目に、青々と葉の茂った桜並木の歩道を進んでいる。先頭は緒美達三年生、その後ろに維月とクラウディア、樹里と佳奈、そして瑠菜、最後尾が茜とブリジットと言う順番が、何となく出来上がっていた。
 そんな中、暫く黙って歩いていた維月が、唐突にクラウディアに声を掛ける。

「クラウディア、ちょっと聞いておきたい事が有るんだけど?」

「何?」

 クラウディアの返事は、極めてフラットだった。

「以前(まえ)の事件の時は、ハッキングとかしてなかったのかなぁ、と。」

「あぁ、今のイツキと同じで、アンナにも『そう言う事は止めて』って、いつも言われてたから。彼女の前ではやらない様にしてたの。あの時も、モバイルは持ってたし、通信環境も有ったから、やろうと思えば出来たんだけど。」

「あぁ、やっぱり。そうだったんだ…」

「でも、今はやらなかった事を後悔してる。あの時、正しい情報を知ってたら、アンナが死ぬ事は無かったかも知れない。」

 そんな二人の会話が聞こえた緒美が、振り向いてクラウディアに言うのだった。

「その気持ちは解らないではないけど、あなたのお友達の事は、あなたのせいでは無いでしょう? あなたが責任を感じる事ではないわ、カルテッリエリさん。」

「それは、同じ事をカウンセラーにも言われましたけど…」

 そう、クラウディアが言葉を返すと、恵が緒美に言う。

「まぁ、そんな簡単に気持ちが変えられるなら、誰も苦労しないよね。ねぇ、部長。」

「そうれもそうね。」

 緒美は左隣の恵へは視線を向けず、前へ向き直った。その直後、緒美は急に何かを思い出した風に「あぁ」と声を上げると、もう一度振り向いて、最後列の茜に向かって言った。

「そう言えば、天野さん。」

「あ、はい。何でしょう?」

 急に呼び掛けられ、慌てて茜は返事をした。茜とは少し距離があったので緒美が立ち止まると、それに釣られて全員が立ち止まったので、茜も立ち止まるのだった。結果、茜と緒美の距離は殆ど変わらなかったが、緒美はその儘(まま)の距離で、話を続ける。

「昨日、あの後、副部長達三人と話していたんだけど。天野さん、あなた、本当は、剣道部に入りたかったのかしら?」

 唐突に、思いもしない事を問い掛けられ、茜は困惑し、聞き返す。

「え~っと、どう言う流れで、そんなお話になったのでしょうか?」

 その、茜の問い掛けに答えたのは、直美である。

「いや、昨日のあなたの動作を見ててさ、剣道の方、相当の実力者だったのかなって思ってね。それで。」

 直美の答えを聞いて、茜は目を丸くする一方で、隣に立つブリジットが声を上げて笑い出す。そのリアクションに、今度は、三年生一同が困惑するのだった。

「もう、笑わないでよ。ブリジット。」

 茜は、左手でブリジットの腰の辺りを、後ろから軽く叩く。ブリジットは「ゴメン、ゴメン」と茜に謝ると、笑いを堪えながら、緒美達に向かって言う。

「茜は、剣道で勝った事は、一度も無いですよ。ねぇ。」

 ブリジットが最後に、茜に向かって同意を求めて来るので、茜もブリジットの発言を補足する。

「練習試合も含めて、一勝もしてませんから、実力者なんてとんでもないですよ。」

「どう言う事?」

 其れが、困惑した緒美が、漸(ようや)く絞り出した言葉だった。

「どう、と言われましても…。」

 茜は苦笑いして、答えた。その一方で、ブリジットが真面目な顔で言う。

「茜が優しいからですよ。」

「いや、優しいとか、そう言う事じゃなくって。そりゃ、勝てる物なら、勝ちたかったですよ?わたしだって。努力や工夫はしましたけど、結果は、全敗って言う事でして。」

 茜の補足を聞いて、直美が問い掛ける。

「それじゃ、真面目にはやってたんだよね?」

「勿論。徒(ただ)、小学生の時に通ってた道場の師範から、『向いてない』とは言われてまして。まぁ、その通りだったのかな、と。」

 今度は、恵が問い掛ける。

「向いてない?」

「あの~アレです。剣道って、打ち込む時に『メ~ン』とか声を出して打ち込むんですけど…」

 茜は、打ち込む動作を再現して見せる。

「…あの声とか『気合い』って言うか、『気迫』とか『殺気』みたいなのが、どうにも苦手で。」

 その続きを、ブリジットが説明するのだった。

「中学の時、剣道部の顧問の先生から聞いたんですけど。茜は相手の『気合い』を受けると、どうしても踏み込みが甘くなって、一本取られちゃうって、優し過ぎるんだろうなって。」

「優しいってのは違う様な…単に、ビビリなだけよ。」

「ビビリって。もしそうなら、昨日みたいに、咄嗟(とっさ)に反撃は出来てないでしょう?」

 自虐的な茜の自己分析に対して、恵は客観的な見解を示す。それに次いで、直美が問い掛ける。

「天野は、結局、何年やってたの?剣道。」

「小学生の頃からですから~八年くらいですね。」

「向いてないって言われたのは、何年目の時?」

「いえ、三ヶ月目…くらいでした。」

 茜は照れ臭そうに、笑って言った。その答えを聞いた直美の方が唖然としていたので、今度は緒美が尋ねる。

「天野さんは、その時、止めようとは思わなかったの?剣道。」

「あぁ~その時、師範から言われたんです。『この儘続けても剣道は強くは成らないだろうけど、それでも腐らずに練習を続けられたら、心は強くなる筈だから、三年は続けなさい』って。」

「もっともらしく聞こえるけど、それ、絶対、月謝目当てだよね。」

 呆れた様に直美は、恵にそう語り掛けた。恵は、複雑な顔で愛想笑いを返すが、茜は笑って言うのだった。

「今考えると、そうかも知れないですけど。不思議と、その時は剣道の練習が特に嫌でもなかったし、道具一式をおじい…祖父に揃えて貰ってたりしてたので。結局、中学に上がるまでは、その道場に通ったんです。それで、まぁ、続けていればそれなりに、欲も出て来るじゃないですか。一度くらい、一本取ってみたくて、それで中学では剣道部に入ったんですが…まぁ、結果は、前に師範に言われた通りでした。」

「成る程。それでも、得る物は有ったのよね?」

 緒美が微笑んで、茜に尋ねると、茜も笑顔で答える。

「勿論です。結局一度も勝てなかったですけど、人や自分との向き合い方は学べたと思いますし、部活で先輩や友人も出来ましたから。頑張っても、出来ない事は有るって知れたのは、大事な事だと思ってます。それに、そもそも、剣道家になろうと思っていた訳じゃありませんし。」

 そこ迄、黙って聞いた瑠菜が、突然、茜に問い掛ける。

「そう言えば、あの時。トライアングルが突っ込んで来たのは、恐くは無かったの?天野。」

「そうですね。『気迫』とか『殺気』みたいなのを感じなかったので、それで、多分。」

「ずっと真面目にやっていたから、身には付いていたのよね、剣道が。」

 瑠菜への答えを聞いて、ブリジットがそう、茜に言うのだが、それに対して、茜は反論する。

「だから~BES(ベス)の扱いは、剣道の動作とは違うからね、何度も言うけど。アレは、居合いとかの動作を参考して、事前に HDG に動きを学習させてあったから、咄嗟にあのスピードで再現出来たんだし。それに、左手にランチャーを持ち替えたから、右手一本で振り下ろしたけど、あんな事が出来たのも HDG だったからこそよ。」

「解った、解った。」

 ブリジットは笑って、そう言葉を返すのだった。
 そんな折、南の空から一機の大型ヘリが、爆音を響かせて学校の上空を通過し、山頂方向へと飛行して行く。その様子を、一同が何となく見上げていると、直美が言うのだった。

「今日は昼過ぎから、矢鱈(やたら)と防衛軍のヘリが飛んで来るわね。」

 その疑問に答えたのは、緒美である。

「あぁ、山頂の、レーダー・サイトの点検とか、あと、エイリアン・ドローンの残骸を回収しているんじゃない?多分。」

「そう言えば、三時頃だったかな。シートに包まれてたけど、何かの塊みたいなのを、大型のヘリが吊り下げて飛んでるのを見ましたよ。」

 樹里が目撃情報を語ると、佳奈と瑠菜がそれに反応する。

「あぁ、それ、わたしも見た~。」

「アレは、シートの形状からして、中身は飛行形態のトライアングルだったよね、多分。」

「さて、それじゃ。ここで立ち話してるのも何だし、部室へ行きましょうか。昨日のデータ整理、今日中に終わらせたいし。」

 緒美がそう言って歩き出すと、他のメンバーも再び、歩き出すのだった。


 兵器開発部の面々は、この時、全く意識してはいなかったのだが、この日、天神ヶ﨑高校の周辺で回収されたエイリアン・ドローンの残骸は、回収に当たった防衛軍がその目を疑う程の綺麗な残骸だったのである。
 エイリアン・ドローンを数多く迎撃して来た防衛軍ではあったが、その撃破は殆どが誘導弾に因る成果であり、結果として、その残骸は主要部が爆散していた。20mm機銃や30mm機関砲に因って撃破した残骸も、主要部は大きく破損していたり、内部が粉々に粉砕されている物が殆どで、その後に出火した場合は熱効果で変形していたり、組成が変質していたりするので、回収出来た残骸から何かしらの、有意な技術情報が引き出せた事は皆無だった。
 唯一判明していたのは、『エイリアン・ドローンに使われている素材は、地球上にある物質と大差が無い』と、その程度である。
 しかし、今回、回収された残骸は、荷電粒子砲やプラズマ砲で主要部が吹き飛ばされている以外は大きな破損が無く、何よりも、茜が切り倒した最後の一機は、胴体が分断されている以外は何の欠損も無い、完璧なサンプルであった。
 防衛軍の回収担当者が「これほど綺麗な残骸は、米軍だって持ってない」と発言したとかしないとか、それは定かではないのだが、この時、重要な資料の入手が為されたのは、間違いのない事実だったのである。

 

- 第9話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第9話.15)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-15 ****


「それは又、どう言う?」

 思わず、聞き返したのは立花先生である。

「うん?あぁ、直接の原因は SF 映画を観ての事らしいが、自分が剣道で防具を着けている体験と、何か妙なイメージ的なリンクが有ったらしくてね。それ以来、他の SF 作品から工学とか、兵器関係にまで興味が広がったらしい。何年か前には、天野重工ではパワード・スーツの開発とか研究はしてないのかって、聞かれた事も有ったなぁ。」

 合いの手を入れる様に、塚元校長が問い掛ける。

「それで、この学校に?」

「まぁ、そう言う事だ。」

 次に、立花先生が問い掛ける。

「兵器開発部で鬼塚さん達が、HDG の開発をやっている事は、入学前に天野さんには知らせてなかったんですよね?」

「そんな余計な事は言わんよ。実際に入学する迄は、飽くまで部外者だからね。」

「天野さんが入部した時、緒美…鬼塚さんが天野さんの事を『パワード・スーツに造詣(ぞうけい)が深い、希有な人材』って評していたんですが。…成る程、そう言う流れなんですね。 実際、天野さんが、どうしてあんな風にパワード・スーツに興味を持ったのかは、疑問に思っていました。」

 立花先生は、テーブルに置かれたコーヒー・カップに手を伸ばす。
 そして、塚元校長は微笑んで、天野理事長に言うのだった。

パワード・スーツ?その事については、わたしは良く分かりませんけど。お孫さんが、中学時代の理不尽に負けなかったのも、今回、学校を救ってくれたのも、剣道で心を鍛えていたお陰ではないですか。 わたしは、そう思いますけれど。だから、間違いだった、何て仰(おっしゃ)ったら、天野さんが可哀想ですよ。」

「そう言って貰えると、幾分、気は楽だが。そのせいで危ない真似をされるのは、身内としては、どうもね。」

 その天野理事長の答えを聞いて、立花先生が一言。

「天野さんは、祖父は身内だからって特別扱いはしない、って言ってましたよ。」

「そんなのは、建前だよ。わたしの、ね。」

「でしょうね。」

 透かさず塚元校長に同意されて、天野理事長は「ふふっ」と、少し笑った。そして、言葉を続ける。

「でも、まぁ。今回の件では、茜で良かったのかも知れん。立場上、余所様のお嬢さんを、矢面に立たせる訳にも行(ゆ)かん…と、こんな事を言ったら、今度は娘…茜の母親が怒るだろうがね。」

「所で理事長。そんな世間話の為に、立花先生に残って貰った訳ではないのでしょう?」

 話題が本筋から外れて行くのを、塚元校長が軌道修正する。天野理事長は、コーヒーをもう一口飲んで、話題を変えるのだった。

「では、本題に入ろうか。立花先生に聞いておきたいのは、今後の見通しと言うか、進め方についてだな。」

「と、言われますと?」

「あの子達に、どこまでやらせるべきか、と言う事だよ。我々としても、実戦データの取得迄、学生にやらせる事は考えていない。早早に、本社か防衛軍に運用試験の方を移管したい所だが、その見通しについては、どう思う?」

「先程のお話だと、理事長は軍への移管は慎重に、とのお考えでは?」

「そう考えてはいるが、生徒の身の安全には代えられんだろう。」

「そうですか。まぁ、軍で有れ、本社で有れ、HDG の試験を移管するには、早くて三ヶ月、長ければ半年ぐらいは、移行に時間を取られるのは覚悟しないと。」

「そんなにか?」

「はい。先程、鬼塚さんが言っていた様に、現在の HDG が動かせるのは、天野さんの能力に負う所が大きいので。パワード・スーツの運用についてのビジョンが有って、正確にシステムの仕様を理解し、しかも、人並み以上に身体も動かせる、そんな人材は本社にも防衛軍にも、そうはいないと思いますので。」

「茜は、そんなに優秀かね?」

「優秀ですよ。この学校の、学年トップの成績は、伊達ではないでしょう。ですよね?校長先生。」

 立花先生に話を振られた塚元校長は、胸を張って答える。

「勿論。記憶力のコンテストみたいな、そんな教え方は、当校はしておりませんので。天野さんの中間試験での成績は、それは立派な物でしたよ。」

 塚元校長のコメントを聞いて、天野理事長は腕組みをし、顎を引く様にして言う。

「う~む、そう言う事になると、当面はあの子達に頼らざるを得ない、と言う事か。大人としては、聊(いささ)か情け無い話しだが…とは言え、スケジュールには、余り余裕が無いしなぁ。」

「スケジュール?」

 塚元校長が、天野理事長に聞き返す。ここで天野理事長が口走ったのは、『R作戦』用のデバイス開発のスケジュールの意味だったのだが、その事に立花先生は気が付いていた。一方の塚元校長は『R作戦』の事自体を、知らされてはいなかった。勿論、無闇に口外は出来ない事柄なので、天野理事長は歯切れの悪い返事しか出来ない。

「あぁ、それはだな。申し訳無いが…。」

 その様子を見て、塚元校長も直ぐに事情を察するのだった。

「あら、会社の方(ほう)の秘密事項でしたら、深くは追求いたしません。聞かなかった事にしますが、立花先生は御存じの件?」

「いえ、わたしも詳しい事は…。」

「そう。なら、わたしだけ仲間外れではないのね、良かった。」

 塚元校長は、そう言うと「うふふ」と笑うのだった。

「済まないね、校長。」

「いいえ、今に始まった事じゃ有りませんから。」

「ともあれ、もう少し、状況を見ながら考える事にしよう。しかし、場合に因っては、我々の方が覚悟を決めねばならん時が、来るかも知れん。成る可く、そうはならん様に手は打って行く積もりだが。」

 立花先生は、少し身を乗り出す様にして天野理事長に問い掛ける。

「昨日みたいな事が、そう度々(たびたび)起きる物でしょうか?」

「これは今朝、防衛省に昨日の件を報告した際に聞いた話なんだが。 どうやら、連中はここに来て、襲撃の降下ルートを変えた様なんだ。今までは所謂(いわゆる)『北極ルート』だったのだが、この四月にロシアの防空レーダーが稼働を始めただろう? あれの運用が軌道に乗って来て以降、迎撃の効率が可成り上昇していたからな。それに対応して、何れは降下ルートを変えて来るんじゃないか、と予測はされていたんだが。」

「それが、実際に? 確かに、『太平洋ルート』に、って噂は耳にしてましたけど。」

「いや、『アジア大陸ルート』、『中連』上空から降りて来たらしい。連中は余っ程、海は嫌いと見えるな。」

 ここで、天野理事長が言う『中連』とは、『中華連合』の事である。四十年程前に共産党政権の経済政策の失敗が原因で『中華人民共和国』が崩壊し、十年程の混乱の時期を経た結果、四つの地域に分裂してそれぞれが自治政府を樹立していた。以来、四つの政府は再統一を目指しつつも、主導権争いと足の引っ張り合いを繰り返しており、辛うじて内戦への発展だけは回避している様な状況が現在まで続いている。一方で対外的には一つの国家であると主張はしている物の、連邦政府の成立さえ儘ならない状況故に、『連邦』ではなく『連合』と呼ばれているのだった。実の所、其れ其れの地方自治政府内部でも、「再統一派」と「民族自立派」の意見が対立している上に、周辺各国が曾(かつ)ての様な大国化を恐れて、表に裏に干渉を繰り返すので、一向に情勢が安定しない儘(まま)、時間だけが経過していたのである。
 そんな状況なので、四つの自治政府が連携した防空体制など築ける筈も無く、そこをエイリアン・ドローンに付け込まれた格好になったのだ。

「それで、西側、九州の方から襲撃して来た訳ですか。」

「ああ。従来通りなら北側、ルートを変えて来るなら東南側からと踏んでいた防衛軍は、予想外の西側からの襲撃に慌てたらしい。それで、昨日は対応が後手後手になった様子だ。」

「と、言う事は。今後はこの辺りも、襲撃事件が増えるのでしょうか?」

「今まではロシア側からの情報提供も有って日本海上空で迎撃出来ていたが、東シナ海側だと『中連』の協力は期待出来ないし、それで日本領空に入られたら、九州迄はあっという間だ。そうなれば、この辺りも、安心は出来んな。」

「それは物騒なお話ですね。」

 天野理事長と立花先生の遣り取りを聞いていた塚元校長が、一言、漏らす。

「そこで、今朝、防衛省に、Ruby がここに有る事を知らせておいた。今迄は、特に明かしてはいなかったんだがな。 取り敢えず、これで、この周辺の対処については、優先してくれると思う。」

「防衛軍が守ってくれるのは、Ruby なんですか?学校ではなくて。」

 立花先生は眉間に皺を寄せて、聞き返した。

「以前も言ったと思うが、Ruby は国家機密級のプロジェクトだからね。今朝の報告で、それが被害を受けそうになっていたと知って、防衛省のお役人も泡を食った様子だったよ。防衛軍の現場の指揮官は、勿論、そんな事は知らないから、昨日は、この辺りの対処を後回しにしたのだろうがね。」

「今後は、防衛軍も対応が変わってくるだろう、と?」

「そう、願いたいがね。」

「そもそも、Ruby って、どう言ったプロジェクトなんでしょうか?…と、お聞きしても、教えては頂けないんでしょうね、理事長。」

 駄目で元元とばかりに、諦め顔で聞いてみる立花先生である。それに対する天野理事長の返答は、予想通りの答えだった。

「生憎と、それは未だ明かせないな。何れは、話す事になるとは思うが。済まないね、立花先生。」

「いえ。 唯(ただ)、そんな大事な物を今回は実戦に使ってしまいましたし、あの子達が預かっていて、本当に Ruby の教育になっているのかどうか。」

「それに関しては、問題は無い。Ruby は何れ、実戦に投入される予定の物だし、Ruby の育成については井上主任から、順調だとの報告を受けている。」

「実戦に、ですか? Ruby を?」

 意外な天野理事長の発言を聞いて、立花先生は身を乗り出して聞き返した。

「何を驚く事が有る。現に、LMF に搭載しているんだから、至極当然の事だろう。まぁ、勿論、LMF に搭載する為に、開発している訳ではないが。」

「そう言われれば、その通りですが。わたしもあの子達も、Ruby を兵器として認識しては、いなかったですね。」

 立花先生は上体を引いて、虚脱気味に言うのだった。一方で天野理事長も、少し考えてから、言った。

「そう言えば、先刻も茜が、Ruby の身を案じて、の様な事を言っていたな。Ruby の事を、過剰に人扱いする傾向が出る事には留意すべきと、井上主任も言っていたが。あの子達を無用に煩悶(はんもん)させる事も無いだろうから、さっきの事は聞かなかった事にしておいてくれ、立花先生。」

「それは、構いませんが…。」

 表情を曇らせる立花先生の隣で、黙って聞いていた塚元校長が溜息を一つついて、言った。

「政治だか軍事だか、そう言う物と関わると、何でも秘密、秘密。息苦しいったら、有りませんわね。」

 塚元校長の正面に座る天野理事長は、唯(ただ)、渋い顔をするのみだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第9話.14)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-14 ****


「さて、校長。そちらから、何か言っておく事は有るかね?」

「理事長の方は、もう宜しいんですの?」

「まぁ、そうだな。校長の方から、お話が無ければ、そろそろお開きにしようかと思うが。」

「では、一つだけ…。」

 そう言って、塚元校長は視線を兵器開発部一同の方へと移した。

「城ノ内さん?」

 突然、名前を呼ばれ、樹里は慌てて返事をする。

「あ、はい。何でしょうか?校長先生。」

「あなたからは、何も発言が無かったけど、何か言っておきたい事は有りませんか?」

「いえ…特には、無いですけど。どうしてですか?」

 塚元校長は微笑んで、答える。

「黙って、お話を聞いてるだけでは、退屈したでしょう?」

「いえ、色々と興味深いお話だったので、大変有意義だったかと。わたしが退屈している様に、見えましたでしょうか?」

「そんな事は有りませんでしたよ。 ルーカスさん、古寺さん、あなた達も発言の機会が少なかったわよね。何か、言っておきたい事は有る?」

 塚元校長の問い掛けに、瑠菜と佳奈は、姿勢を正して答えるのだった。

「いいえ、有りません。」

「わたしも、特には無いです。」

「そう。では、わたしからも特には有りません。 理事長。」

 視線を天野理事長へと戻し、塚元校長は頷くように頭を下げた。天野理事長も一度頷いて、話し始める。

「では、最後にもう一度、釘を刺しておくが。今回は幸いにも上手く行ったが、幸運は二度、三度と続く物では無い。今後は呉呉(くれぐれ)も、危険な真似はしない様に。大人を信じて、指示に従って欲しい。良いかな?」

 天野理事長の言葉に、兵器開発部一同は声を揃えて「はい。」と、答えた。その返事を聞いて、不意に、天野理事長が立ち上がる。

「…とは言え、だ。実際問題として、今回、諸君の行動は、この学校の生徒達と施設が危険に曝(さら)されるのを防いでくれた。その事実には、学校を代表して、諸君には礼を言わねばならない。 ありがとう。」

 両手を執務机に着き、天野理事長は頭を下げるのだった。その様子に兵器開発部の一同が戸惑う中、天野理事長は頭を上げて言葉を続けた。

「話を聞かせて貰って、今回のキミ達の行動が面白半分の暴走や、妙な功名心からの物で無い事は理解出来た。純粋に、級友の安全を願う思いや、愛校心からの行動であったと思う。それ故に、感謝を表明する物であるが、だからと言って褒める訳にも行かん。もう一度言うが、二度とこの様な事はしない様に。約束してくれるな?」

 兵器開発部一同、もう一度、声を揃えて「はい。」と、答えるのだった。

「よろしい。では、ご苦労だったね。今日は、以上だ。」

 天野理事長と塚元校長に向かって一礼すると、部長である緒美を残して、ドアに近い者から順番に退室して行く。そこで、天野理事長が、茜を呼び止めるのだった。

「あ~天野君。」

 天野理事長は、右手を前に出して、小さく手招きをして見せる。茜は不審に思いつつ、室内に戻り、中央の応接テーブルの前まで進むのだった。

「何でしょうか?」

「薫…お母さんには、昨日の事は伝えたりしたのかな?」

「いえ…未(ま)だ、です、けど?」

「そうか。昨日の件は折を見て、わたしの方から伝えておくから、暫く、黙っておいてくれ。心配させるといけないし、アレは母親に似て、怒ると怖いからな。」

 くすりと笑って、茜は答える。

「解りました。他には?」

「いや、それだけだ。」

「では、失礼します。」

 茜はもう一度、礼をしてドアへと向かう。
 全員が廊下に出たのを確認して、緒美と共に立花先生がドアへと向かおうとした時、天野理事長が立花先生を呼び止めるのだった。

「あ、立花先生は、ちょっと残ってて貰えるかな。」

 理事長室から廊下へと出た茜達の視線が、一斉に室内に向けられたのに気が付いた塚元校長が、宥(なだ)める様に声を掛ける。

「大丈夫よ、昨日の件で立花先生だけを、虐(いじ)めたりしないから。」

 天野理事長も、言葉を続ける。

「別件で、少し打ち合わせたい事が有るだけだから、キミ達は心配しなくても良い。」

 立花先生は、兵器開発部一同に視線を送ると、微笑んで頷いて見せる。そして、緒美が室内へ向かった皆の視線を断ち切る様に、開けられたドアの前まで進むと、くるりと室内方向へと身体を翻(ひるがえ)した。

「では、失礼します。」

 最後に、緒美がもう一度、一礼し、ドアを閉じるのだった。
 一斉に十人もの生徒が出て行った為、理事長室は急にがらんとした様に感じられる。
 天野理事長は、執務机を離れると、塚元校長と対面位置のソファーへと移動した。

「立花先生も、座ってくれ。」

「こっちへ、いらっしゃい。」

 塚元校長が自らの隣の、ソファーの座面を、ポンポンと叩いた。

「では、失礼します。」

「加納君、立花先生にお茶を。」

 塚元校長の左隣に一度は座った立花先生が、又、立ち上がって言った。

「あぁ、お構いなく…。」

「遠慮は不要だよ、立花先生。」

「立花先生は、コーヒーの方が宜しいですかね?」

 天野理事長の背後に立つ加納が、問い掛けて来る。

「あぁ、はい。では、お言葉に甘えて、コーヒーで。」

「あはは、いいから座って、立花先生。 あ、加納君、わたしにもコーヒー、頼むよ。」

「はい、承知しました。塚元校長は、如何ですか?」

「わたしは、もう結構。」

「では。」

 オーダーを聞き終えた加納は、さっさと隣の秘書室へと姿を消すのだった。

「立花先生は、あの子達に好かれてますね。良い事ですよ。」

 と、塚元校長が、先ず、話し始める。

「恐縮です。」

「それで、さっきの一連の話を聞いていて、どうだい?昨日、立花先生が聴取した内容とは、可成りニュアンスが違っていただろう?」

 天野理事長はニヤリと笑い、立花先生に問い掛けた。

「そう、ですね。冷静に考えてみれば、あの鬼塚さんが、一年生に迎撃を指示するだなんて。『やるなら、自分でやる』位は言いそうな子なのに。鬼塚さんから話を聞いていてた、自分が冷静でなかったんだな、と、思います。」

「鬼塚さんは責任を全部被る積もりで、立花先生の聴取に答えていたんでしょうね。」

「ああ言う、お互いを庇い合っているチームの事情聴取は個別にやっては駄目なんだ。誰が事実を言っているのか解らなくなる。一堂に集めて聴取をすれば、それぞれが自分から事実を話し出す、先刻の様にな。」

「はい。」

 立花先生は、徒、頷くばかりである。

「逆に、責任を押しつけ合っている様なチームの場合、纏(まと)めて聴取をやっては駄目だ。その中で力の有る者の顔色を窺って、誰も事実を言わなくなる。後で報復されるのを、恐れるからね。そう言う場合は、関係者全員から個別に事情を聞いて、これは大変な作業になるが、全部の内容を付き合わせて、聴取した内容のどの部分が本当で、どの部分が嘘か、割り出すしか無い。立花先生もこれから先の仕事で、そう言う局面に出会うかも知れないから、頭に入れておくと良い。」

「理事長は、今朝の、わたしの報告を聞いて、鬼塚さんが他のメンバーを庇っていると?」

「今朝の報告の内容は、何度か会った時の、鬼塚君の印象では信じられなかったからね。まぁ、それ以上に、迎撃に至った動機については、聞いておかねばならなかった。自分らが開発した技術や装置が機能するか試したかった、とかの浮ついた動機であれば、これは叱ってやらないと、とは思ったがね。」

「想像以上に、真っ当な動機だったので、少し驚きましたが、安心もしましたね。」

 そう、塚元校長が言うと、「同感だ」と言って天野理事長は、声を上げて笑った。そこへ、コーヒーの入ったカップを二つトレイに乗せて、加納が理事長室に入って来る。そして加納は、カップをテーブルの上に、静かに置いた。

「しかし、女子ばかりのあの兵器開発部で、こんな事態(こと)になるとは思ってもみなかったよ。」

 カップを手に取った天野理事長は、口元へとカップを運ぶ。一口、コーヒーを飲んで、天野理事長の発言は続く。

「茜に、剣道をやらせたのは、間違いだったかな。」

「あら、天野さんに剣道を勧めたのは、理事長でしたの?」

「うん。あの子は小さい頃から一人で本を読んでいるのが好きな、内気と言うか、人見知りと言うか。そんな具合だったから、小学校に上がってから、友達関係で苦労していると、娘…茜の母親から相談されてね。それで、武道系のスポーツでもやらせてみれば、人付き合いの面でプラスになるかと考えて。荒療治になるかも知れんが、まぁ、向かない様なら直ぐにでも辞めさせる積もりで、知り合いの道場、柔道と剣道のに連れて行ったんだが。柔道の方は相手と取っ組み合いするのを見ただけで怖がっていたんだが、剣道の方は防具を着けるし、直接組み合わないから、それ程、抵抗は無かった様子でね。それでも実際、中学を卒業する迄、続けるとは思って無かったよ。」

「先程のお話から察するに、天野さんが剣道をやっていたからこそ、中学校での孤立を免れたのでしょう?」

「それは、その通りなんだがね。あの子がパワード・スーツに興味を持った遠因が、剣道に有ってだね。」

 塚元校長の所感に、そう答えた天野理事長は、苦笑いを浮かべるのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第9話.13)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-13 ****


「いえ、謝罪は結構です、加納さん。 クラスにはブリジットが居ましたし、わたしを無視する人達の事は、わたしの方が無視していた位ですから。 それより、一年生の時の担任が、二年生に上がった時に転勤して行ったのは、そう言う訳(わけ)だったんですね?」

「はい。年度が変わって、協力する教師が居なくなった事で、首謀者の女子生徒は校内での扇動が思う様に行かなくなり、それで余計に、学校外での襲撃を画策する様になった、と言うのが事の流れです。お話し出来る顛末としては、大体、以上のような経緯となります。」

 加納が話を終えると、立花先生が真面目な顔で、天野理事長に問い掛ける。

「理事長、二人に三年間も警護を付けるのって、費用として相当の負担額ではないかと思いますが、相手方や学校に費用の一部でも請求とかされたら如何でしょうか?今の話だと、証拠も揃って居るようですし。」

 天野理事長は少し笑って、答えた。

「証拠と言っても、裁判にでもなれば、命綱にするには可成り頼りないね。なにせ、その女子生徒は人に指示したり教唆(きょうさ)しただけで、自分では一切、手を下してはいない。だから、直接的な物証は何も無い。集められた証言にしても、同じ内容を裁判で証人として証言をして貰えるか、その辺りが怪しい人物も可成りの数、含まれているし。そんな状況で被害の発生を防ぐのに掛かった費用を、相手方に請求するのは、まぁ、現実的ではないだろう。立花先生は法務を専攻されたから、こう言った都合については、詳しいのではないかな?」

「法務とは言っても、刑事の方は専門外ですので。」

「そうか。まぁ、結果的に二人の身の安全は確保出来たし、会社への被害も未然に防げた。強請(ゆすり)で支払いが発生すれば、ネタの内容にも依るが、その額は警護よりも高くつくだろうし、強請に応じれば財務にも歪みが生じる。警備・警護の費用なら必要経費にでも出来るが、強請の支払いは、そうは行かないからね。」

 そう言って、天野理事長は笑うのだった。

「だからと言って、そこまで解ってて無罪放免と言うのは、納得が行きません。」

 直美が、語気を強めて少し大きな声を上げると、天野理事長は真面目な顔で答えた。

「勿論だ。元々は相手方の家庭の問題だからね。こちらで集めた資料を纏(まと)めた上で、弁護士を通じて相手方の親御さんへ送ったよ。彼女たちが中学を卒業してからね。それで、先方の更生の切っ掛けにでもなれば、と思っていたんだが。」

 そこで、天野理事長が発言を止めたので、数秒待って、茜が尋ねた。

「何か、あったんですか?」

「うむ…。」

 唸るような声を出して、天野理事長は椅子の背もたれに身を預ける。その様子を見て、加納がアイコンタクトの後、発言するのだった。

「では、わたしから。 実は、その首謀者の女子生徒なんですが、この四月に、違法薬物の急性中毒で入院したそうです。聞いた所に依れば、植物状態で回復の見込みは無い、とか。それから、わたしが『碌でもない大人』と言った、彼女に付いていた男なんですが、解雇された後に、何らかの喧嘩に巻き込まれたとかで、死亡しております。」

「…何が有ったんでしょうか?」

 茜は眉間に皺を寄せ、加納に問い掛ける。しかし、加納は表情を変えず、事務的に答えるのみだった。

「さぁ、そこまでは解りませんし、我々の関知するべき所でも有りません。一方は違法薬物…平たく言えば『麻薬』が絡んでおりますし、もう一方は過失であったとしても殺人事件、どちらも、立派な刑事事件ですので、警察の方(ほう)で捜査をしている、と、聞いております。」

「新島さん。」

 塚元校長が、突然、直美を名指しで声を掛ける。直美は少し驚いて、返事をするのだった。

「あ、はい。何でしょう?校長先生。」

「あなたは、先程の一連の顛末を聞いて、このお話からどんな教訓を引き出しますか?」

 そう問い掛けると、塚元校長は静かに微笑む。直美は一度、天井に視線をやるようにし、数秒考えて、答えた。

「因果応報…でしょうか。」

「分かり易くて良いですね。そう言うお話だったと、受け取る人も多いでしょう。けど、わたしは『付き合う人は、選びなさい』と、言いたいですね。碌でもない人と関わると、自分も碌でもない目に遭う、と。そう言った意味で、天野さんも、ボードレールさんも、一時的に嫌な思いはしたでしょうけれど、お互いが選んだ相手は友人として適切だったと思っていいでしょう。 あの時に、嫌な思いをしたくなくて、天野さんもボードレールさんも、あちら側を選ぶ事だって出来たのに、それをしなかった。それは、二人とも誇りに思って良いと、わたしは思いますよ。」

「はい、ありがとうございます。」

 茜とブリジットが、揃って返事をする一方で、ニヤリと笑って天野校長が言うのだった。

「『人を選べ』などと、教育者が言っても良い物ですかね?校長。」

「皆さんがもっと、幼い子供だったら『みんなと仲良くしなさい』と、立場上、言う所かも知れませんが。残念ながら、実際の世の中は『みんなが仲良く』出来るような社会では無いですからね。危険な人や、危険な事からは距離を取る。そう言う賢明さは、生きていく上で必要だと。それは大人として、皆さんに伝えておかなければいけません。そして、皆さんは『人を見る目』を、養っていかなければなりませんよ。」

 塚元校長は、天野理事長の突っ込みを、平然と切り返すのだった。そして、思い出したように、今度はブリジットへ向かって、塚元校長は尋ねた。

「そう言えば、ボードレールさん。進路をこの学校に決めたのは、その事件の影響も有るのかしら?」

「いいえ。単純に、茜と同じ進路に行きたかっただけだけなんですが…今のお話を聞いて、会社の方へは、正式に入社してから、幾らかでもわたしに出来る事で、お返しをしなければ、と。今は、そう思っています。」

 その返事を聞いて、天野理事長は幾分、困ったように言うのだった。

「だから、そのような事は考えなくてもよい、と、先刻も言ったと思うのだが?ボードレール君。」

「あ、あぁ~…スミマセン。」

 恐縮するブリジットを見て、微笑んで天野理事長は言った。

「まぁ、これからも茜と仲良くしてやってくれたら、茜の祖父としても嬉しいよ。」

「はい。」

 ブリジットは、運動部の所属らしい、はっきりとした返事を返す。天野理事長は一度頷(うなず)いて、再び話し始めるのだった。

「さて、大幅に話が逸(そ)れたので、昨日の件に話を戻すが。鬼塚君、キミが迎撃を行うと考えを切り替えて、その時点で成功の確率はどのくらいと見込んでいたのか、教えてくれるかな?」

「明確に、何パーセント、とは答えられませんが…段階毎に、色々と可能性は考えていました。先ず、第一段階として、レーダー施設の防空用ミサイルを、防衛軍が作動させるだろうと。これで、向かってくるエイリアン・ドローン六機が、一乃至(ないし)は三機の範囲で処理されるだろう、と見込みました。実際に撃墜出来たのは、二機だったので、わたし達が迎撃するべきは、残り四機となりました。 エイリアン・ドローンが初めて遭遇する兵器を警戒しないのは、過去の事例で解っていましたので、HDG と LMF は警戒されずに第一撃を加えられるのは確実でした。この第二段階では、HDG と LMF が同時に攻撃を加える事で、確実に二機は処理出来るだろうと。実際はその通りになりましたが、出来れば、と期待した、更に複数機の処理上積みは、それは叶いませんでした。 そして、残ったのは二機。その動きを事前に予想は出来ないので、この第三段階については天野さんとボードレールさん、二人の機転と運に任せるしか無く。そこで、外部から状況を監視して、出来るだけのバックアップが行える様、無人観測機を出しておいて、最初から複数人で状況の監視をしていました。ですが、実際は最後の一機を見失ってしまい、監視もバックアップも完全に成功したとは言い難(がた)い結果です。 最終的に、最後の一機を処理出来たのは、HDG を扱う天野さんの能力に負う所が多かった、と思っています。」

「加納君、今の鬼塚君の話を聞いて、元防衛軍所属の者としてはどう思う?」

 話を振られた加納は、一呼吸置いて、答えた。

「わたしは戦闘機乗りでしたから、戦術の質が違いますので、一概に評価は難しいのですが。しかし、基本的な考え方は、外れては居ないかと。鬼塚さんは、良く研究されていると思いますが。」

「そうか。 結果的に、HDG と LMF、その有効性の一端を示した、とは言えるのだろうが。 実は、防衛軍の方(ほう)からは、完成しているのなら、早急に引き渡せ、と言われたのだ、が。それについては、どう思う?鬼塚君。」

 緒美は落ち着いて、天野理事長に聞き返す。

「理事長は、了解されたのですか?」

「いや。わたしの認識では、あれは未(いま)だ、未完成で検証中の装置(デバイス)だ。未完成の物を引き渡すわけには、いかん。」

「同感です。今、引き渡しても、防衛軍が天野さんと同じレベルで扱えるのか、保証は出来ませんし。それに、B型の試験を行って、パラメータとか稼働ライブラリのデータを比較しない事には、異なるドライバー間での互換性が想定通りに出来るかどうかが確認出来ませんので、もう暫くは手放すわけには行きません。」

「そうか、解った。」

 天野理事長は、一度、背中を椅子の方へ寄せ、一息置いて話し出す。

「これは、会社としての決定事項では無いが、わたしが個人的に懸念していると言う事で、話しておきたい。」

「はい。」

 緒美は、少しだけ両の眉を引き寄せ、返事をした。天野理事長は、少し目を細め、話し始める。

「昨日の一件で、君達のような戦闘の訓練を受けていない者でも、HDG を扱う事が出来れば『エイリアン・ドローン』を撃退可能である、と、事実として証明されてしまった。これは、鬼塚君が考えたコンセプトが正しかったのだと、わたしも思う。HDG が完成して汎用化すれば、対エイリアン・ドローン用の兵器として、有効なのは間違い無いだろう。 だが、HDG が対人兵器として使用されてしまう可能性について、鬼塚君は考えた事は有るかね?」

「いいえ、有りません。」

「そうか。日本の防衛軍があれを侵略戦争に使用する事は考え難(にく)いが、我々が装備した事を他国が知れば、同じ様な物が開発され、使用されるのは避けられない様に思う。だから、新しいコンセプトの兵器の開発や、提案には慎重さが必要なのだ。」

「HDG の開発を止めるべきだと?」

 天野理事長への、緒美の問い掛けを聞いて、兵器開発部一同が、一瞬、ざわめく。天野理事長は顔の前で、二度、右手を振って否定した。

「そうではない、話しを急ぐな。我々が思い付いた事なら、他の誰かも思い付いて、同じ様な開発をやっている可能性だって有り得る。であれば、開発は続けて、技術は保持しておくべきだ。問題は、軍に引き渡すかどうか、だよ。」

 そこで、立花先生が声を上げた。

「しかし、会長…いえ、理事長。防衛軍の契約が取れなければ、今まで掛かった開発費が回収出来ませんが。」

「そんな事は、解っておる。徒(ただ)、防衛装備事業が天野重工(うち)の本業では無いのでな。それは、立花先生もご存じだろう? 予算や費用の手当を考えるのが、我々、経営陣の仕事だ。その辺りは、どうにでもなるし、出来るようにやるだけだよ。」

 天野理事長の言う通り、現状で天野重工の収益の柱は、水素ガスの製造プラントと水素燃料動力機関の二つである。防衛装備事業での収益は、決算毎に赤字と黒字の間を行ったり来たりしているのが現実だった。

「戦闘機や戦車のようなサイズの兵器であれば、維持や運用には有る程度以上の組織力が必要だ。だが、HDG 位のサイズになれば、小規模な組織でも運用出来る可能性が有る。今回、キミ達がやって見せたようにね。まぁ、現実には技術的な問題や補給など、ハードルはそれなりに高い物だと思うが。」

 天野理事長の発言を受け、緒美が問い掛ける。

「理事長は、HDG が完成しても、防衛軍には引き渡さないお積もりですか?」

「…そう、決めたわけではない。先刻の立花先生の意見のように、財務上の問題も勿論あるし、対『エイリアン・ドローン』用の装備として有効であれば、防衛に協力しない訳にも行かん。だが、費用対効果という面から防衛軍が採用しない可能性も有る。現状で、HDG 一機が主力戦闘機一機より高価になる見込みと聞いているが、そうであれば、防衛軍仕様の『LMF 改』の方が、防衛軍には魅力的だろう。 その辺りは、今後の状況推移と交渉によって、結論は変わる物だ。」

「では、当面、わたし達のやるべき事は変わらない、そう思って良いでしょうか?」

「そうだな。わたしの言った事は、頭の隅にでも入れておいてくれたら良いよ。」

「解りました。」

 緒美の返事を聞いて、天野理事長は一度頷くと、大きく息を吐いた。

 

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STORY of HDG(第9話.12)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-12 ****


「その調査によれば、『イジメ』の首謀者は同じクラスの女子生徒だったが、その父親というのが、天野重工(うち)の、まぁ、簡単に言えばライバル企業の系列メーカーの重役だとかでね、企業名はこの件とは無関係だから伏せるが…当初は、容姿や態度が気に入らない、と、ボードレール君を標的にし、それに参加しなかったから天野君をターゲットに加えた訳だが、後になって、天野君がその首謀者の父親のライバル企業関係者だと気付いて、妙な敵愾心(てきがいしん)を持ったらしい、と言う事だった。まぁ、どういう訳か最後まで、天野君が天野重工の社長の娘だと勘違いしていたらしいが、そのせいもあって、その女子生徒からは中学を卒業するまでの三年間、付け狙われていたんだよ。」

 天野重工の創業家と、茜の父親とが同じ『天野』姓であるため、この『茜が天野重工の社長令嬢である』と言う誤解に遭遇した経験が、時折ではあるが茜には有った。実際、天野重工の創業者である会長の孫ではあるため、社長令嬢では無いにせよ、血縁者である事には間違いが無く、茜自身はそう言った誤解を受ける事は、余り気にしては居なかったのだが。
 現在の三代目社長である片山の妻が、実は茜の叔母、茜の母である薫の妹、天野 総一の次女である洸(ひかる)で、その娘、つまり、茜の従姉妹(いとこ)である陽菜(ひな)が実際の社長令嬢であるのだが、『片山』姓であるが故、ほぼ、世間から社長令嬢だと思われた事がないと言う『捻れ現象』が起きていたのだが、それは、取り敢えず、本筋とは関係の無い話である。

「三年間って、二年生でクラスが変わって以降は、特に何もありませんでしたけど。」

 茜が、当事者としての所感を述べる。すると、秘書の加納が言うのだった。

「会長、後はわたしから説明しますが?」

「そうだな、頼むよ。」

「では。実はわたし、その警備保障会社に以前、勤めておりまして。その絡みもあって、茜さんの件、主にわたしが、やり取りをしておりました。」

 加納は茜達に向かって一礼した後、話し出す。

「調査報告によりますと、当初、首謀者である女子生徒は、複数の取り巻きを通じて、クラス全体による対象者への無視を徹底させていた訳ですが、当然、時間が経つにつれて、さらに対象者を追い詰めるために行為をエスカレートさせようとしていました。一昔前でしたら、行動が、所持品の棄損とか、金品供与の強要、身体的攻撃へと段階が進んで行った所ですが、昨今では学校内に記録装置などが整備されていますので、流石に、そう言った行為に協力する者は、今時、そうは居(お)りません。」

 そこで、塚元校長が口を挟む。

「みんなも知っている通り、教室や廊下とか、24時間、映像を記録しているから、校内で暴力行為や器物破損とかすれば、証拠が残りますからね。」

 因みに、記録されるのは映像のみで、普段の学校生活でのプライバシーを考慮し、音声は記録されない。学校側も、記録された映像については、これを簡単に見る事は出来ず、事件や問題が起きた場合に限り、教育委員会と警察によって、映像の内容が確認、調査される。これは、学校側による事実の隠蔽や改竄を防ぐための方策である。もしも、記録装置の整備不良等による記録の欠落や、記録の隠蔽、或いは改竄などが発覚すれば、学校側が厳しく責任を追及される事は言うまでも無い。映像の記録期間は一ヶ月で、事件や問題が起きなければ記録メディアは交換されず、古い映像から自動で消去されると言う仕組みである。これらは、教育機関内での犯罪的事象の発生抑制や摘発の為に、法的にも整備された、全国的な取り組みであり、これらの法的及び、機器的なシステムの整備が開始されて、既に三十数年が経過している。
 塚元校長の言葉受け、加納が説明を続けた。

「はい。勿論、死角になる場所も有りますので、記録装置が有るとは言っても、完璧ではありませんが。 茜さんと、ブリジットさんのケースでは、そう言う事に協力しそうな上級生などの生徒に予め釘を刺したり、映像記録装置の死角になる場所の監視強化などに、お二人の所属部活…剣道部とバスケ部の上級生や先生等(ら)の協力がありました。そんな訳で、学校内部ではクラス内での無視以上の行為に進展しなかったのですが、それに業を煮やしたと言いますか、首謀者側は学校外での襲撃を計画していました。」

 そこで、恵がポツリと言った。

「あの…中学生、ですよね?」

 加納は、ニッコリと笑って答える。

「はい、そうですよ。首謀者である女子生徒は、親からある程度、自由になるお金と、教育係と言うか、お世話係と言うか、そんな立場の大人が小学生の頃から付けられていた様なんですが、どうやら、その大人が碌(ろく)でもない者だったらしく。」

「あぁ…何となく、解りました。すみません、続けて下さい。」

 恵は、小さく頭を下げる。加納は、話を続ける。

「では、え~、探りを入れている中で、襲撃計画なる話が浮かび上がって来まして、夏を過ぎた頃でしたが。 我々も当初は半信半疑だったのですが、念の為お二人には警護を兼ねて監視を付ける事になりました。」

「二人?ブリジットも狙われてたんですか?」

 今度は茜が反応する。

「そうですよ。」

「だって、夏を過ぎた頃には、ブリジットは無視される対象から、外れてたのに。」

「ですが、茜さんへの無視に、ブリジットさんは参加してなかったでしょう?それが首謀者側は、気に入らなかったんですよ。」

 そして、ブリジットが言うのだった。

「実際、わたしは襲われたのよ、二回。まぁ、どっちも未遂で済んだけど。」

「え?」

 右隣に立つブリジットの方を見て、茜は言葉を失うのだった。ブリジットは、微笑んで言った。

「街に一人で出掛けた時にね、いきなり路地に引っ張り込まれて。逃げようと揉み合ってる所を、加納さん達に助けて貰った事が有るの。あなたには黙ってたけど、ゴメンね。」

 茜はブリジットを見つめたまま、声を出せずにいた。そして、加納が説明を続ける。

「あの時、わたしが現場に居たのは、まぁ、本当に偶然でしたが。監視役の警備保障会社の担当者が昔の同僚でしたので、連絡事項の伝達がてら会いに行ったら、ブリジットさんの最初の襲撃現場に出会(でくわ)してしまいまして。その後、二度目の襲撃を許してしまったのは、救出が出来たとは言え、警備の態勢を整える側としましては、誠に不手際だったと言わざるを得ません。ブリジットさんには改めて、お詫び申し上げます。」

 そう言って、加納はブリジットに対し、深々と頭を下げるのだった。

「あぁ、いえ。助けていただいたのに。それに、悪いのは相手の方ですから。」

 加納に向かって恐縮して言葉を返すブリジットだったが、その横で、理事長室に入ってきた時の事を思い出して、茜はブリジットに言うのだった。

「あぁ、それじゃ、さっき、加納さんと面識があったって…。」

「そう、助けて貰った時。その時、会社の方(ほう)での調査だとか、警護だとか、事情を聞いたの。茜は、その時はその事態の真っ只中だったから、余計な心配をさせたくなくて、みんな、黙ってたのよ。」

 そして、頭を上げた加納が言う。

「はい。茜さんは一方の当事者ではありましたが、事態の首謀者の心情が相当に捻れている事が予想されましたので、茜さんに事情をお話しした所で、当事者間での解決は無理だったでしょう。であれば、この場合、お知らせしない方が得策と、勝手ながら、こちらで判断致しました。ご容赦下さい。」

 加納は、再び、頭を下げる。

「あ、いえ。大丈夫ですよ、今なら理解出来ますから。加納さんが、謝る事じゃ…。」

「あの、ちょっと良いですか?」

 茜が言い終わらない内に、肩の高さほどに左手を挙げ、直美が声を上げる。加納は頭を上げると、それに応えた。

「はい、何でしょう?」

「色々と物騒なお話だったわけですけど、そういう事態であれば、警察に届け出る案件だったのでは無いかと。」

「警察は、基本的に事件が起きないと動いてくれません。公(おおやけ)の捜査機関でもない民間の情報調査部門が掴んだ、証拠能力の怪しい情報だけでは、犯罪者でもない者を事件が起きる前に逮捕は出来ません。だからといって、事件が起きるのを待つわけにも参りませんので。事件が起きるという事は、被害者が出る、と言う事ですから。 警備保障、特に警護と言うのは、警察のように発生した事件を解決するのではなく、事件を未然に防ぐのが目的になりますので、茜さんとブリジットさんのケースについても、そのように実施されました。因みに、三年間で、茜さんについては十件、ブリジットさんについては先の二件の後、三件の襲撃計画の実行を阻止しております。」

「天野は、それ、知らなかったんだ。」

 直美が、茜の方を向いて尋ねる。

「はい、全然。ブリジットは知ってたのね?」

「いや、後の三件ってのは、今、初めて聞いた。」

 ブリジットは、苦笑いである。そして、恵が呆れたように、所感を口にするのだった。

「しかし、『イジメ』の延長で、そこまでやるって言うのも…。」

「いえ、先方の動機は『イジメ』の延長だけではありません。先程も言いましたが、首謀者の側に付いていた碌でもない大人、その者が茜さんを事件に巻き込んで、それをネタに天野重工を強請(ゆす)ろうとしていたのですよ。時間を置いて、繰り返し襲撃を画策していたのは、時間が経って警護が外れるのを待っていた、と言う面もあるのです。」

「あぁ、成る程、そう言う事ですか。」

「あれ?でも、わたしを襲っても、天野重工には関係有りませんよね?」

 恵が納得する一方で、ブリジットが疑問を口にした。

「ブリジットさんのケースは、基本的に首謀者である女子生徒の腹癒(はらいせ)による物と思われますが、ブリジットさんへの襲撃が成功すれば、茜さんに心理的にダメージを負わせられますし、襲撃の予告としても使えます。『次はお前だ、友達みたいな目に遭いたく無かったら金を用意しろ』のような脅迫も出来ますから。」

「ホントに、碌でもないですね。」

 茜は、心底うんざりしたと言う表情で、そう言うのみだった。

「あ、もう一つ。良いですか?」

 再び、直美が手を挙げて、加納に質問する。

「はい、どうぞ。」

「クラス内での無視が一年間続いたと、これは以前、ブリジットから聞いていたんですけど。学校の方も事態を把握していたようなのに、状態が改善されなかったのは何故なんでしょう?」

「あ、それはですね。冬頃になって、警備保障側の調査で判明したのですが、クラスの担任教師が首謀者側に協力してたんですね。」

 事も無げに答える加納の言葉を聞いた一同は、徒、唖然とするしかなかった。そして加納は説明を続ける。

「首謀者の女子生徒は入学早々に、その担任教師の弱みを握ったらしく。元々は、自分の成績を改竄(かいざん)させるのに利用する腹積もりだったようですが、そのような事態に至って、『イジメ』の扇動にも担任教師を利用していたようです。徒、何分、その情報を掴むのが遅かったので、年度末も近かった事もあり、学校側はとしては直ぐに担任の交代、とは行かなかったと言う事情が有りまして。そしてもう一つ、首謀者の女子生徒が茜さんに執着している内は、他の生徒が標的にならないで済むと言う事も、学校側は考慮してました。」

「天野さんを人身御供(スケープゴート)に、と?」

 そこまで黙って話を聞いていた緒美が、加納に、睨み付けるような視線を送り、言った。しかし、加納は平然と答える。

「はい。既に学校内では茜さんに、おいそれと手出しが出来ない状況でしたし、学校外では天野重工(わたしたち)が手配した警護が付いておりました。クラス内の状況は正常ではないにしても常態化して居た様子でしたので、茜さんには、一年生の年度末まで耐えていただこう、と言う事になりました。茜さんには、この事も、重ねてお詫びしなければなりません。」

 もう一度、頭を下げようとした加納を、茜は押し止め、言うのだった。


- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第9話.11)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-11 ****


 クラウディアが答える。

「はい、構いません。情報を確認して、避難指示が予防的な措置で、ここに直接的な被害が及ばないようなら、わたしも避難指示に従う積もりでした。」

「しかし、エイリアン・ドローンがこちらに向かっている事を、知ってしまった、と。」

「はい。勿論、そのまま通過してしまう可能性もあるとは、思いました。でも、学校(ここ)が襲撃対象になる可能性について、鬼塚部長とわたしの意見は同じでした。」

「それで、間違いは無いかな?鬼塚君。」

 天野理事長が尋ねると、緒美は極短く、即答する。

「はい。」

「そこで、その危険性が、つまり、学校が襲撃される事は無い、と、キミが説明すれば、皆は避難指示に従った、とは思わなかったかね?」

「嘘を吐(つ)け、と?」

「方便だよ。皆の安全を図るためなら、それも一つの方法だと思うのだが?」

「その時は、そう言う考えは浮かびませんでしたが…覚えておきます。」

 そこで、塚元校長が、緒美に意外な言葉を掛けるのだった。

「良いのよ、鬼塚さん。そんな事は、もっと歳を取ってから覚えれば。」

「校長~…。」

 天野理事長が苦笑いをして、抗議しようとするのだが、塚元校長は天野理事長に向けて言葉を続ける。

「いい事じゃありませんか、年相応(としおうおう)に正直なのは。理事長も立花先生も、会社の方々(かたがた)は鬼塚さんの態度が大人びているからって、何か勘違いされて居るんじゃないかと思う時がありますよ、わたしは。鬼塚さんを始め、彼女たちは、まだ高校生なんですから、会社側の皆さんには、その辺り、お忘れ無きよう、お願いしたいですね。」

 言い終わると、塚元校長はテーブルのティーカップに手を伸ばそうとするが、カップが既に空だったのに気付く。

「加納さん、もう一杯いただけるかしら?お茶。」

「はい、御用意しますので、少々お待ちを。」

「ありがとう。」

 秘書の加納が塚元校長の前に置かれていたティーカップを回収して隣の秘書室へと姿を消すと、咳払いを一つして、天野理事長が話し出す。

「まぁ、校長の言われる事も尤(もっと)もだ、と言う事で、話を続けるが…いいかな?」

「はい。」

 緒美は真面目な顔を崩さず返事をすると、続けて話し出す。

「先程、カルテッリエリさんが誘導した、との発言がありましたが。彼女に誘導されるまでもなく、元々、ほぼ全員の意識は迎撃する方に傾いていたと思います。」

「ほう、それは?」

「避難指示の放送を聞いて以降、誰も避難に動こうとしてませんでしたから。但し、迎撃を積極的に主張出来なかったのは、現時点で HDG を扱えるのが天野さんだけだと、みんなが理解していたからです。上級生は誰も、一年生に危険な行動を指示する事は出来ないと、そう思っていたので、であれば避難するべき、と、考えて居たはずです。」

 緒美の右側に並ぶ、直美と恵、そして二年生一同も、それぞれが緒美の言葉に頷いていた。
 その様子を確認して、天野理事長は緒美に問い掛ける。

「先刻の天野君の発言によれば、彼女が一人の判断で HDG を持ち出した、と言ったが。キミはその時点で迎撃に賛同する側に回ったのだろうか?」

「いえ、その時点では、先に他のみんなを避難させて、その後、どうやって天野さんを説得しようかと考えていました。HDG を扱えるのは天野さんだけ…それは間違いないのですが、非稼働時の HDG はメンテナンス・リグに接続してありまして、HDG 側からその接続を解除は出来ない仕組みなんです。つまり、誰かが接続の解除操作をしない限り、天野さんは外へ出て行く事は出来ないので、説得をする機会はまだあるかと。」

 そこで、瑠菜が無言で手を挙げ、発言を求める。

「ルーカス君だったね、どうぞ。」

「部長がそう言う考えだったのを知らず、わたしがメンテナンス・リグの接続解除操作をしました。」

 瑠菜の発言に続いて、瑠菜の右側に立つ佳奈が手を挙げ、発言する。

「わたしも、それを手伝いました。」

「ルーカス君は、それが迎撃に繋がる行動と解ってて、どうして?」

 天野理事長の問い掛けに、瑠菜は即答する。

「カルテッリエリがあの時言ったように、わたしもこの学校が壊されるのは嫌だ、と、その気持ちは同じでしたが、それ以上に…。天野さんが言ったんです。『お爺ちゃんが作った、この学校が壊されるは嫌だ』って。それを聞いて、天野さんの、この学校への愛着は、わたし達とは一段、レベルが違うんだろうなと、そう思いました。」

「それで、天野君に協力しようと?」

「はい。」

 そこで、茜がおずおずと、瑠菜に問い掛けるのだった。

「あの~すいません、瑠菜さん。わたし、そんな事、言ったんですか?」

「覚えてないの?」

 少し驚いて、瑠菜は問い返す。茜は、真剣な顔つきで答えるのだった。

「はい。あの時は、いろんな事を考えてて、頭の中がグルグルしてましたから…何をどう言ったか、細かい所までは…よく…。」

 困惑気味の茜に対して、緒美は微笑んで言う。

「確かに、あなた、言ったのよ、天野さん。そんな状況だったからこそ、本心が口を衝いて出たんでしょう。」

「そう…ですか。」

 茜は少し顔を赤らめて、緒美の言葉に納得するのだった。

「それでは、鬼塚君。LMF の起動を許したのは、どういう判断に基づいてなのか、教えてくれないか。あれは、キミか立花先生の承認がないと Ruby にも動かせない筈だが。」

 再び、天野理事長が緒美に問い掛ける。

「はい。瑠菜さん達がメンテナンス・リグを操作してしまう以上、HDG、天野さんの出撃は避けられないと判断しましたので、そうなった以上、少しでも生還の確率を上げる方向で考えるべきだ、と。それに、天野さんが出て行く以上、ボードレールさんも、天野さんの行動に協力しない事には、彼女の気持ちに収まりが付きそうもなかった、ので。」

 天野理事長は右手を額に当て、『困った』と言う表示で、ブリジットに問い掛ける。

「鬼塚君はああ言っているが、そうなのかな?ボードレール君。」

 ブリジットは両手を後ろで組んで、背筋を伸ばし、即答する。

「勿論です。茜だけに、危ない真似はさせられません!」

 ブリジットの言葉に、天野理事長は執務机に両肘を付き、両手で頭を抱えるような仕草で俯(うつむ)くのだが、それを見て塚元校長はくすくすと笑うのだった。思い直したように顔を上げ、天野理事長はブリジットに対して言うのだった。

「三年前の事で、キミがそんなに、恩義に感じる必要は無いんだよ、ボードレール君。」

「恩だとか、そう言うのではなくても、茜は大切な友人ですから。」

 ブリジットは、そう言うとニッコリと笑ってみせる。そのやり取りを見ていた茜が、思わず声を上げた。

「お爺ちゃん!三年前の事、知ってたの?」

 天野理事長は一瞬、『しまった』と言う表情をしたが、咳払いをして横を向く。すると、塚元校長に紅茶のお代わりを出し終えて、再び執務席の横に立っていた秘書の加納と目が合うのだった。加納は、ばつが悪そうな、或いは怪訝な顔つきをして小さく首を傾(かし)げる。

「理事長。」

 塚元校長が、呼び掛ける。

「なんですか、校長。」

「折角ですから、全部、お話になったら? 天野さんにも内緒にしてる事、あるのでしょ。」

 椅子の背もたれに身を預け、目を閉じて、執務机の上に置いた左手の人差し指で、トントントン、と三回、机を叩いてから、天野理事長は大きく息を吐いた。

「先刻はカルテッリエリ君に、昔の事を話して貰ったしな。天野君のケースについても、ここにいる皆に知っておいて貰っても良いだろう。」

 天野理事長は身体を正面に向け、話し始める。

「天野君とボードレール君が、中学一年生の時の事だが、発端は、ボードレール君がその容姿から、教室内での無視…まぁ、平たく言えば『イジメ』を受け、それを庇った天野君が次の標的になった、と、まぁ、そう言う事件だったのだが。間もなく、学校側もそれを察知して、保護者に連絡が行き、わたしは祖父として天野君の母親からその件を聞いた訳だ。」

 ここで、天野理事長は少し考えを整理するためか、一息吐(つ)いて、そして再び話し始める。

「天野重工は、とある大手の警備保障会社と契約をしていてね、そこには社員やその家族、親族がトラブルに遭った場合、色々と調べてくれる、情報調査部門…これも平たく言えば『探偵』、だな、まぁ、そう言う業務部門もあってだな。そこに、天野君の件について、調査を依頼した訳だ。 会社が大きくなるにつれてね、社員やその家族の個人的なトラブルであっても、対処を誤ると、会社にとって大きな損害が出る…これは、過去に幾つか実例があってね。それで、社員に対する福利厚生の一環としても、会社全体のリスク・マネージメントとしても、両方の意味で、トラブルの調査や処理等をやっている。」

 そこで、今まで塚元校長の座るソファー後ろで、黙って立っていた立花先生が、補足を加える。

「みんなも正式に入社したら、研修で教わると思うけど。社員やその家族を、事件や犯罪に巻き込んで、それをネタに会社を強請(ゆす)ろうとする、そんな人達も実際にいるから。もしも、トラブルが起きたら、自分だけで対処しようとしないで、会社に相談してね。」

 緒美達一同は、少しざわついて、隣の者と顔を見合わせたりしているが、天野理事長が話を続ける。

「立花先生、補足、ありがとう。それで、まぁ、調査してみて、只の子供の喧嘩程度の事と解れば、学校に対処を任せてしまえばいいと、初めはそう思っていたんだが。直(じき)に調査結果が上がってきてね、まぁ、その内容が看過出来るような物ではなかったのだ。」

 三年前に当事者だった筈の自分自身も知らない話の展開に、茜は困惑の表情を浮かべるのだったが、天野理事長は話を続ける。


- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

 

STORY of HDG(第9話.10)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-10 ****


「今日の朝、一番に昨日の事については、立花先生から報告を受けた。その後、防衛軍の方(ほう)と話をして、こちらは、まぁ、人的、物的に被害を被らないための緊急回避的行動だった、と言う事で理解をして貰えたよ。まぁ、二度と今回のような事の無いように、呉呉(くれぐれ)も自重(じちょう)してくれ、と言われはしたのだが、それについては、わたしも同感だ。諸君がやった事に対しては、昨日の時点で立花先生から叱られただろうから、わたしの方から、それについて言を重ねる事はしないが、事情については諸君から、直接、聞いておきたい。そう言う訳で、ここに来てもらった訳だが、ここまでは良いかな?」

「はい。」

 全員を代表して、緒美が返事をする。

「では、鬼塚君。キミが迎撃行動を取ると、判断した理由を聞かせてくれ。」

 天野理事長が、真顔で緒美に問い掛けると、緒美が発言するより先に、茜が手を挙げ、発言を求めた。

「宜しいでしょうか?理事長。」

「何かね?天野君。」

 表情を変えず、天野理事長は茜に発言を許す。

「部長は、最後まで避難するように、と、言っていたんです。責任は、HDG を勝手に持ち出した、わたしにあります。」

「いいのよ、天野さん。」

 緒美は、前を向いたまま、茜の発言を制するように声を上げた。そして、天野理事長に向かって発言を続ける。

「最終的に、下級生に危険な行動をさせた事に変わりはありません。責任者として、停学でも退学でも、どんな処分でも受ける覚悟は出来ています。ですので、他のみんなには寛大な判断を、お願いします。」

 言い終わると、緒美は深く、頭を下げる。

「おいおい、話を急ぐな、鬼塚君。処分がどうのこうのと言う話はしていない。わたしは事情を聞きたい、と、最初に言ったはずだが?」

 一同にとっては少々意外な天野理事長の発言だったが、それに続いて塚元校長が断言する。

「先に言っておきますけれど、今回の件で、皆さんには、何らかの処分を課する決定は、学校としてはありません。」

「では、話を続けるが。天野君、キミが、鬼塚君の指示を無視した、と言う理解で良いのかな?」

 天野理事長が、茜に聞き返す。それに対して、茜は即答した。

「はい、そうです。」

 そこで、クラウディアが手を挙げ、発言を求める。

「理事長、発言して良いでしょうか?」

「キミは、カルテッリエリ君だったね。何かな?」

「昨日、当初は、わたしを除いて他は皆、鬼塚部長に従って避難しようとしていました。それを、わたしが、迎撃するべきと言う方向に、みんなの意見を意図的に誘導しました。」

「ほう、それは立花先生の報告には無かった話だが、興味深い発言だね。 天野君、キミはカルテッリエリ君に誘導されたと言う自覚はあるかね?」

 茜は、少し間を置いて返事をする。

「確かに、当初は避難指示に従う積もりでしたから。誘導されたという面は、否定出来ませんが、でも、迎撃を行うべきとは、自分で判断した積もりです。」

「キミが迎撃の必要があると判断したのは、どんな理由から、なのかな?」

「クラウディア…さん、と鬼塚部長のやり取りから、防衛軍の攻撃によって、シェルターに避難していても人的被害が出る可能性があると、理解しました。それから、Ruby を放置しておくと、これも、防衛軍の攻撃に巻き込まれて破壊される恐れがある、とも。この二つは、どうしても回避する必要があると考えました。」

Ruby に被害が及ぶ事は、人的被害が発生する事と同列なのかな?キミにとっては。」

「会社からすれば、徒(ただ)の装置かも知れませんけど、少なくとも、わたしには、そうは思えません。」

「そうか。解った。」

 天野理事長は椅子の背もたれに一度、身体を預けて息をつき、次の質問をクラウディアへと向ける。

「カルテッリエリ君、先刻、キミは意図的に誘導した、と言ったが。そもそも、あの時、防衛軍のネットワークに侵入して情報を…」

 天野理事長がそこまで言った所で、突然、クラウディアの隣、列の一番右端に立っている維月が声を上げる。

「それに関しては、わたしの監督が行き届かなくて、申し訳ありませんでした。」

 今度は維月が、深々と頭を下げる。それに対して、塚元校長がフォローを入れるのだった。

「井上さん、いいのよ。確かに、あなたにカルテッリエリさんの監督をお願いはしたけど、完全に彼女の行動を制御するなんて出来ないんだから。そこまで責任を感じなくても、良いんですよ。」

「あぁ、キミは井上主任の妹さんだったね。そう言えば、昨年は大変だったね。元気になって、本当に良かったよ。キミが大変な時に、お姉さんには重要な案件とは言え、仕事を押しつけたままになっていて、キミにも御家族にも、会社として申し訳なかったと、思って居るんだ。」

「いえ、姉は自分の責任を果たす事を優先したのだと思いますから。お気遣い無く。」

 維月はもう一度、小さく頭を下げるのだった。

「話が逸れたので、元に戻すが。カルテッリエリ君が、あの時、防衛軍から情報を取得しようと思ったのは、キミが母国で遭遇した事件が影響しているのかな?」

 クラウディアは、天野理事長の質問を聞いて、一度、目を閉じ、深く息を吸ってから答えた。

「そう、ですね。あの事件の影響は、否定しません。」

「そうか。では、その事件のせいで、キミが他のメンバーを危険な方向に誘導したと言う事なら、巻き込まれたみんなには、その理由を知る権利があると思うが、どうかね?」

「そうですね。わたしは、別段、あの事件の事を隠しておきたい訳ではありませんので、みんなが知りたいと言う事なら、別に構いません。」

 そこで、塚元校長が提案するのだった。

「あなた達はどうかしら?事件の事、聞いてもいいと思う人は、手を挙げてみて。」

 すると、クラウディアを除く全員が、掌(てのひら)を前に、肩の高さぐらいに挙げるのだった。あの時、クラウディアが迎撃を主張した理由については、あの場にいた全員が、何か引っかかりを感じていたのである。
 そして、維月がクラウディアに語りかける。

「あなたが話してくれるなら、ちゃんと聞くけど、言いたくない事なら、無理に言わなくても良いのよ、クラウディア。」

「ありがとう、イツキ。大丈夫。」

 塚元校長は一度頷いて、クラウディアに言うのだった。

「わたしもね、ここにいるみんなには、あなたの事を、もう少し知ってもらっておいた方が良いと思うのよ、カルテッリエリさん。」

「はい。では…。」

 クラウディアは一度、話し始めようとするが、直ぐに、少し黙り込む。そして、再び、話し始めた。

「どう、話せばいいのか、直ぐにまとまらないのだけれど。まぁ、簡単に言えば、エイリアン・ドローンへの空軍の攻撃で、出掛けた先で避難したシェルター…わたしの場合はビルの地下室だったけど、そこが倒壊して、生き埋めになった事がある…そんな事件、です。」

 そのクラウディアの説明に、塚元校長が捕捉を加える。

「その時、一緒にいたお友達が、犠牲になったのよね。」

「はい。幼馴染みで、一番仲の良かった友達でした。」

 クラウディアは淡々と、話しを続ける。

「わたしは、見ての通り、普通の人よりも身体が小さいので、崩れてきた瓦礫の隙間に偶然、入って。」

 クラウディアは、一度、大きく息を吸った。

「わたしは無傷でしたが、彼女は即死だった、と聞いています。」

 クラウディアは、もう一度、大きく呼吸をする。

「遺体の損傷が激しいので、お別れする時も、姿は見せては貰えませんでした…。」

 最後の方(ほう)、クラウディアの声は涙声に変わっていた。維月は左隣のクラウディアを抱き寄せて、言った。

「もういいよ、解ったから。それ以上はいいよ、クラウディア。」

 正面から背中の方へ両腕を回し、顔を維月の胸の下辺りに押しつけるようにして、クラウディアは涙が落ちるのを堪(こらえ)えているようだった。その様子を見兼ねてか、塚元校長が話を補足する。

「まぁ、そんな事があったのが二年ほど前で。それから、一年間くらい、カウンセリングを受けたりしていたそうなんだけど、地元にいると色々と思い出す事が多くて、精神的に不安定になったりしたそうでね。カウンセラーの見解でも、生活の環境を変えた方が良いだろうと言う事もあって、日本(こちら)に来る事になったのよ。」

 塚元校長が話し終わる頃、クラウディアは一度、深呼吸をしてから前へ向き直った。

「すみません。途中で何を言ってるのか、自分でも解らなくなりました。」

 クラウディアは涙を拭って、塚元校長に一礼する。

「やっぱり、あなたにはまだ、辛い事だったわね。ごめんなさい。」

「いえ、こちらに来てから暫く思い出す事が無かった記憶が、急に、一杯…フラッシュ・バックしたので。ちょっと、感情を抑えられなくなりました、けど、もう大丈夫です。」

 クラウディアの様子が落ち着いたのを見て、茜は塚元校長の話の中で一つだけ疑問に思った事を聞いてみる。

「ねぇ、クラウディア。環境を変えるって言うのは解るんだけど、それが、どうして日本だったの?」

「アンナのママはね、日本人だったのよ。」

 クラウディアは充血した目でブリジット越しに茜を見つめて、即答した。そしてその答えを聞いて、茜は、何故クラウディアが流暢に日本語を話すのか、その理由が分かった気がして、思わず呟くのだった。

「あ、成る程。そうか。」

 そこまで黙って聞いていた天野理事長が、クラウディアに話し掛ける。

「それでは、その事件ような状況が、この学校でも起きる事を危惧して、避難指示を聞いた際にエイリアン・ドローンの動向を確認しようとして、キミは防衛軍のネットワークに侵入した、と言う理解で良いかな?カルテッリエリ君。」


- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第9話.09)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-09 ****


 翌日、2072年7月7日、木曜日。
 お昼休みの終わる頃、兵器開発部のメンバーはそれぞれが持つ携帯端末に、立花先生からのメッセージを受信していた。その文面は、次の通り。

『全員、放課後にわたしの居室まで、出頭するように。 立花 智子』

 兵器開発部の面々には、それが昨日の件についての呼び出しであろう事は、当然、見当がついた。
 そして、放課後。立花先生の居室の前に、最初に到着したのは、茜とブリジットの二人だった。
 偶々(たまたま)その時は他に通りかかる人もなく、教職員の居室が並ぶ校舎の一角は静まり返っていたので、茜とブリジットはドアに対面した廊下の窓際に並んで、他に誰か来ないかと待っていた。昨日の事で、どのような話になるのか、その内容にまでは想像が及ばなかったので、二人とも何となく入り辛く感じていたのである。
 そうして、入室を逡巡(しゅんじゅん)している内、ひょっとっしたら自分たちが最後で、他のメンバーは既に、先生の居室の中で待っているのではないか、そんな不安を感じ始めた頃、三年生三人組の姿が見え、茜とブリジットは一安心したのだった。

「何やってんのよ、二人とも。」

 二人の姿を見つけ、直美が声を掛けて来る。

「いやぁ、なんとなく、入り辛くって。」

 ブリジットが、後頭部に右手を当てて、答える。
 くすっと笑い、恵が言うのだった。

「大丈夫よ、立花先生はもう、怒ってないから。」

「だと、良いんですけど。」

 茜は、そう言って息を吐く。

「先生は大人だから、何時までも根に持ったりしないって。」

 直美がそう、フォローする一方で、緒美がドアの前に立ち、躊躇(ちゅうちょ)無くノックをする。

「どうぞ。」

 室内から、立花先生の落ち着いた声が聞こえた。

「鬼塚と他四名、入ります。」

 緒美はドアを押し開けながら、室内に声を掛けた。室内からは、立花先生が答える。

「どうぞ、取り敢えずお入りなさい。」

「失礼します。」

 先ず、緒美が室内に入り、次に直美が、恵は茜とブリジットの後ろに回り、二人の背中を押すのだった。
 部屋に入ると、直美が先ず、立花先生に言うのだった。

「先生、『出頭』なんて書くから、一年生が怯えちゃってるよ~。」

「あら?ごめんなさい。脅かすつもりはなかったんだけど~何て書いたら良かったかしら?」

「普通なら、居室まで来て下さい~とか、集合して下さい、くらいじゃないですか?」

 直美に言われて目を丸くする立花先生に、恵がいつもの笑顔でフォローを入れる。
 そこに、再びドアがノックされる。立花先生の許可を得て、入ってきたのは、二年生組の三人、瑠菜、佳奈、樹里である。

「え~と、これで揃ったかしら?」

「先生、クラウディアが、まだ来てません。」

 集合した人数を確認する立花先生に、茜が補足をするのだった。
 そして間もなく、三度(みたび)、ドアがノックされ、クラウディアが入室してくるのだが、その後ろには維月の姿もあった。

「あら井上さん、あなたにもメッセージ、送ってたかしら?」

「あぁ、いえ。クラウディアに、メッセージの件を聞いたので。一応、昨日の現場には、わたしも居ましたから。 お呼びでは無かったでしょうか?」

「うぅ~ん…まぁ、良いかな。それじゃ、井上さんにも付き合ってもらいましょうか。」

「良かった。仲間はずれは、悲しいですよ。」

「あぁ、ごめんなさいね、そう言う積もりじゃなかったんだけれど。」

 維月と立花先生がやり取りしてる所に、それほど広くは無い居室内での人数が増え、そろそろ窮屈さを感じ始めていた直美が割って入る。

「それで、先生。どう言った、御用向きでしょうか?」

「あぁ、そうね。これから、理事長室へ移動します。昨日の件について、みんなから直接、理事長が事情をお聞きになりたいそうなの。」

 立花先生の回答を聞いて、緒美が尋ねるのだった。

「それでしたら、始めから理事長室に集合で良かったのでは?」

「緒美ちゃん、あなたや、茜ちゃんならそれでも良いでしょうけど。他のみんなは、三三五五、理事長室に入室出来るかしら?」

「わたしは嫌で~す。」

 直美が即答すると、茜も声を上げるのだった。

「わたしだって、平気で理事長室には入れませんよ。」

「あら、茜ちゃんでも? なら、一旦(いったん)、ここに集合してから、揃って理事長室に向かうので正解だったでしょ?やっぱり。これでも、一応、気を遣ったのよ。」

「成る程。お気遣い、感謝します。」

 恵が、微笑んで頭を下げる。

「それじゃ、行きましょうか。」

 立花先生の言葉を受けて、ドアに近い者から順番に廊下へと出て行く。
 その後、立花先生を先頭に、一同は理事長室へと向かって歩き出した。
 理事長室へと向かう途中、ふと、立花先生は茜に尋ねるのだった。

「そう言えば、茜ちゃん。入学してから、理事長とは会ったりしてるの?」

 茜は、歩きながら答える。

「いいえ。大体(だいたい)、学校(こちら)に何時(いつ)居るのか、居ないのか、スケジュールとか全然知りませんし。」

「あぁ、日によって学校と本社を往復してるらしいから、ねぇ。それ以外でも、打ち合わせとか会合とかで、お出かけになるそうだし。昨日も、幸か不幸か、学校にはいらっしゃらなかったのよね。」

「それに、身内だからって、ちょくちょく顔を合わせてて、また、コネだ何だって言われるのも癪(しゃく)なので。」

「う~ん、それは解るけど、それはそれで、ちょっと寂しい話よねぇ…。」

 当然のように答える茜に、徒(ただ)、苦笑する立花先生であった。


 暫(しばら)くして、一同が理事長室の前に到着すると、立花先生がドアをノックする。間もなく、ドアが内側へと開かれる。ドアを引いていたのは、理事長秘書の加納である。

「どうぞ、お入り下さい。」

「失礼します。」

 一礼して、立花先生が入室すると、振り向いて緒美達に声を掛ける。

「あなた達も、お入りなさい。」

「失礼します。」

 緒美を先頭に、学年順に各自が一礼しつつ、一同は理事長室へと入っていった。
 室内には、奥の窓側、執務机の席には理事長であり茜の祖父、天野 総一がおり、執務机の前に並べられている応接セットのソファーには、恰幅が良く品のある初老の婦人、塚元校長がティーカップとソーサーを手に持って座っていた。そして、秘書の加納が天野理事長の執務机の横へと移動する一方、緒美達、十名は入り口側の壁を背に一列に並んで立つのだった。
 一列に並んだ際、その存在に気がついたブリジットが、加納に向かって会釈をすると、彼も静かに会釈をして返した。その行動に気がついた茜が、隣に立つブリジットに小声で尋ねる。

「ブリジット、加納さんと面識あったの?」

「あ、うん。前に、ちょっとね。」

「ふぅん。」

 腑に落ちない物を感じつつも、その事を深く追求している場合ではないのは解っていたので、茜は前を向く。

「そんな所に立ってないで、こっちにいらっしゃい。」

 塚元校長が自らの隣の、ソファーの座面をポンポンと叩いて、緒美に話し掛ける。

「あぁ、でも、ちょっと足らないわね。」

 テーブルを挟んで、塚元校長が掛けている長椅子で片側四名に、テーブルの短辺側に置かれた一人掛けの1セットも合わせても、あと九名しか座れない。

「加納君、椅子を用意してくれるか。」

「いえ、理事長。わたしたちはこのままで結構です。」

 天野理事長の言葉に間を置かず、はっきりと、少し大きな声で、緒美は、そう言った。

「そうか、まぁ、いいだろう。それでは、始めようか。」

 天野理事長は一度、肘掛けに両手を掛けて椅子から腰を浮かせ、座り直してから、話し始めた。


- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第9話.08)

第9話・天野 茜(アマノ アカネ)と鬼塚 緒美(オニヅカ オミ)

**** 9-08 ****


「天野~、装備を先に、コンテナへ戻して来な~。」

「あぁ、うっかり。」

 走って来た瑠菜に指摘され、武装を装備したままではメンテナンス・リグに接続するのに難がある事を思い出した茜は、武装コンテナが配置されている格納庫の奥へと向かった。その間に、瑠菜はメンテナンス・リグ側の接続準備を始める。
 第三格納庫の南側大扉の側では、LMF がゆっくりと庫内へ進入して来ており、LMF が進むにつれて左右のホバー・ユニットが床面に吹き付ける気流と騒音が、格納庫の内部に充満するのだった。
 LMF は低速で格納庫内の定位置まで進むと、その場で百八十度の回頭をし、ホバー・ユニットの出力を絞って着地する。ホバー・ユニットが停止すると、彼女たちの制服のスカートや髪を乱す、床面から吹き上げるような風が止むのだった。耳を塞ぎたくなるようだった騒音も、暖機(アイドル)運転のメイン・エンジンだけなら、それ程の物でも無い。

Ruby、外部電源、接続するよ~。」

 LMF の後部に回り込んだ直美が、接続プラグの付いた電源ケーブルを手に、声を上げた。

「ハイ、お願いします。」

 外部スピーカーで答える Ruby の合成音声を聞いて、直美はケーブルを引っ張りつつ、LMF の機体後方下部へと入っていく。
 その横を、武装をコンテナに収めた茜が HDG を装着したまま歩いて通り過ぎ、メンテナンス・リグへと向かうのだった。

「接続完了~、古寺~ブレーカー、上げて~。」

 LMF の下から、ケーブルの接続元である北側壁際の配電盤に向かって、直美が佳奈に指示を出す。

「は~い、電源、投入しま~す。」

 佳奈は直美に向かって声を掛けると、ブレーカーのトグル・スイッチを押し上げた。

「外部電源の接続を確認しました。LMF の動力を停止し、機体制御の終了作業に移ります。」

 Ruby が宣言すると間もなく、LMF はメイン・エンジンも停止し、格納庫の内部は再び静かになる。
 LMF のコックピットからは LMF の機体伝いにブリジットが降りてくる。その一方で、HDG のメンテナンス・リグでは、茜がインナー・スーツと HDG との接続を解除し、メンテナンス・リグの前に恵が用意した踏み台へと、一旦、上がるのだった。

「茜~。」

 LMF の方から、ブリジットが駆け寄ってくる。

「お疲れ様~。」

 踏み台から床面に降りた茜が、そう言いつつ肩の高さ程に右手を挙げると、ブリジットがその右の掌に自分の右の掌を「パン」と打ち合わせる。

「お疲れ~。」

 そう言葉を返して、ブリジットは微笑む。

「天野さん、ボードレールさん、ご苦労様。兎に角、無事に終わって良かったわ。」

 茜とブリジットの二人に、そう声を掛けて緒美が迎えた。

「はい。」

「上手く行きましたね、部長。」

「そうね。 Ruby も、ご苦労様。」

 二人の返事を聞き、緒美は LMF に向かって、Ruby に声を掛けた。

「ハイ。お役に立てたのなら、わたしも嬉しいです、緒美。」

「お役にって、わたしの方は、半分以上、Ruby のお陰よ。」

 Ruby の返事に、ブリジットは、そうコメントを返す。

「ありがとう、ブリジット。」

 Ruby がブリジットのコメントに謝辞を述べた、そんな折、東側二階部分の部室内から何やら物音が聞こえたかと思うと、部室から二階通路に出る扉を勢いよく開いた時の衝突音が、格納庫に内に響いた。二階通路に出る扉にはドア・ダンパーが取り付けられていないので、勢いよく扉を押し開けると、外側に開いた扉のドア・ノブが、二階通路の転落防止柵にぶつかるのだ。

「何やってるの!あなた達はっ!」

 二階通路に出てくるなり、突然、そう叫んだのは立花先生だった。その後、二階通路の転落防止柵の上に両手を掛けて肩で息をしながら、一度、柵の手すり部分に額を着けるように項垂(うなだ)れて、立花先生は息を整えていた。
 その様子を見て、避難していたシェルターで自警部部員の長谷川から緒美の伝言を聞き、慌てて走って来たのだろうなと、そこにいた一同には見当がついたのである。
 数秒間、立花先生にどう声を掛けた物かと一同が逡巡(しゅんじゅん)していると、顔を上げた立花先生は小走りで格納庫へと降りる階段へと向かい、階段を駆け下りると、茜とブリジットに向かって駆け寄って来る。

「茜ちゃん!怪我は無い?」

 茜の目の前で立ち止まった立花先生は、茜の両側の肩より少し下の上腕部を鷲掴(わしづか)みにするように両手を掛けると、本人に直接、安否を尋ねる。茜はその勢いに、驚きつつ、極短く答えた。

「あ、はい。」

 茜の返事を聞いた立花先生は、茜の両腕を掴んだまま、茜の左隣に立つブリジットに視線を移して問い掛ける。

「ブリジットちゃんもっ!大丈夫?」

 ブリジットは両方の掌を上に向けて肘の高さまで前方に上げ、微笑んで答える。

「ご覧の通りです。」

「はあ~、良かった~…。」

 立花先生は茜の両腕を掴んだまま、一度、首を項垂れ、大きく息を吐いて、そう言った。

「あの、立花先生? ご心配をお掛けしたみたいで…。」

「心配ですって?しないわけ無いでしょ!無茶な事してっ。」

 茜が言い終わらない内に、立花先生は顔を上げて声を荒らげる。立花先生の眼鏡の奥、両目からは、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれていた。それを見た茜とブリジットは、言葉を失うのだったが、茜とブリジット以外のメンバーは立花先生の背後にいたため、立花先生のその様子には気がついていなかった。
 そして、LMF の後方側から歩いてきた直美が、不用意に声を掛けてしまう。

「先生、まだ避難指示、解除されてないのに、シェルターから出てきちゃったら、まずいんじゃないんですか?」

 直美にとって、それは普段通りの軽口だったのだが、茜は複雑な表情を作って、声を上げずに『副部長、やめて~』と唇を動かし、直美を制しようとしていた。勿論、それが直美に伝わる事はなかったのだが。
 立花先生は茜の両腕を掴んだまま、振り向いて声を上げた。

「こんな無茶な事をする、あなた達に言われたくはありません!」

 ここでようやく、緒美達も立花先生が泣いている事に、気がついたのである。

「大体、緒美ちゃん!あなたがついていて、どうしてこんな事になってるの!」

 立花先生は茜の両腕を掴んだまま、今度は矛先を緒美へと向ける。
 緒美は、ただ「申し訳ありません」と言う他、無かったのだが、この後、立花先生は茜の両腕を掴んだまま、『もしもの事があったら』と言う仮定の下、『誰にも、如何に責任が取れないか』と言う事について、泣きながら怒りつつ、おおよそ十分に渡って、延々と捲し立てるのだった。
 普段は常に冷静で、兵器開発部のメンバーは誰一人として先生の泣き顔など想像もした事は無かっただけに、立花先生のそんな様子は、緒美達には少なからず意外であったし、ある意味、ショックでもあった。そして一同は、立花先生に心配を掛けた事については、心の底から大いに反省したのである。

 結局、立花先生の涙から始まった佳奈の『もらい泣き』が、最終的に号泣へと至るに及び、ようやく立花先生も落ち着きを取り戻し、茜の両腕は解放されたのである。
 丁度その頃、避難指示解除の放送が流れ、一同は現場の片付けをしてその日は解散という事になったのだが、緒美だけは報告のための事情聴取と言う事で、その後も暫(しばら)く、立花先生に身柄を拘束される事となったのである。

 こうして、茜と HDG の初出撃が果たされたのだが、この話は、これで終わりでは無い。


- to be continued …-

 

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