WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第11話.06)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-06 ****


 そして浮上戦車(ホバー・タンク)三番車の車内では、車長である元木一曹が、五百メートル先に立てられた白い旗の下で対面し、横一線に並ぶ浮上戦車(ホバー・タンク)に向かって一礼する茜の HDG を装着した姿を、正面のメインパネルで見乍(なが)ら、インカムに感想を漏らすのだった。

「おぉ、可愛い事するじゃないの。礼儀正しいねぇ。」

「こっちも姿勢制御で、お辞儀、返しましょうか?元木一曹。」

「あはは、まぁ、やめとこう。こっちが浮かれてるみたいで、隊長が怒りそうだ。」

「そうですね。しかし、あっち側の通信が聴けないのは残念ですよね。」

「何(なん)でよ?」

「だって、可愛い悲鳴とか、聴けたかも知れないじゃないですか。」

「日下部~。」

「何(なん)ですか?」

「…お前、趣味悪いよ。」

「スミマセン…。」

 そこに、大久保一尉の指示が三輌の各車長へと、聞こえて来る。

「指揮所より全車へ。では、第一回戦開始。先(ま)ずは、小手調べだ。一番、二番、三番の順で単縦陣、突撃。行け。」

 元木一曹のヘッド・セットには、続いて藤田三尉の返事が聞こえる。

「了解。一番車、単縦陣先頭、行きます。」

 続いて、二番車の車長である二宮一曹の声が聞こえる。

「二番車、一番車の後ろに着きます。」

 そして、元木一曹が通信に応える。

「三番車、二番車の後方に着きます。」

 その元木一曹の通信への返事を聞いて、運転席から日下部三曹が、インカムで確認して来るのだった。

「単縦陣、ですか?」

「そうだ、出せ。」

「了解。二番車の後ろに着きます。」

 三輌の浮上戦車(ホバー・タンク)は、縦一列に並んで、HDG へと向かって加速して行く。
 そして、先頭車輌の藤田三尉からの指示が飛ぶ。

「一番車より各車、目標に動き無し。目標が手持ちのランチャーを構えたら、一番は右、二番は左へ展開して注意を引くから、三番車が仕留めなさい。」

 それを聞いた、三番車車長の元木一曹は「了解。」と返事をした後、運転席の日下部三曹にインカムで伝える。

「日下部、初(しょ)っ端(ぱな)に一番美味しい役が回ってきたぞ。前、二輌が左右に展開したら、突撃だ。」

「いやっほう~。」

 日下部三曹は、低い声で呟(つぶや)く様に、そう応えるのだった。


 一方、戦車隊の正面に立つ茜には、緒美からの通信が聞こえていた。

「仮想敵戦車隊、真っ直ぐ、一列になって突っ込んで行ってるわ。」

 茜はフェイス・シールドを降ろし、CPBL(荷電粒子ビーム・ランチャー)のフォア・グリップを起こし、銃身を下げた儘(まま)で、両側のマニピュレータで保持する。
 そして、少し戯(おど)けた口調で緒美に言った。

「見えてます。ジェット・ストリーム、って?」

「あはは、知ってる、それ。でも、踏み台にしちゃ、駄目よ。」

「解ってます。五メートル圏内に入られたら、負けですもんね。何か、指示は有りますか?部長。」

「任せるわ。天野さんのセンスで動いて。」

「では。行きます。」

 茜は CPBL銃口を下げた儘(まま)、地面を蹴って、二歩、三歩と前方へ向かって跳び出す。
 対向している浮上戦車(ホバー・タンク)一番車では、砲塔内のメインパネルで、その様子を見て藤田三尉が呟(つぶや)く。

「正面、突っ込んで来るわね。」

 その言葉を受け、一番車の運転席では、松下二曹が声を上げる。

「何よ馬鹿にして。チキン・レースでも仕掛けてる積もりでしょうか? この儘(まま)、跳ね飛ばしてやりましょうか、藤田三尉。」

「冗談は、よしなさい。」

 そして、藤田三尉が通信で指示を伝えるのだった。

「目標、接近。意外に相対速度が速い。一番車、右へ転進。」

 一番車が右へと進路を変えると、それに合わせて二番車が左へと進路を変更する。茜が六歩目の地面を蹴った、その瞬間、左右に分かれた浮上戦車(ホバー・タンク)が残した土煙の中から三番車が飛び出して来るのだった。
 しかし、三番車の砲塔内では、車長である元木一曹が視界の開けたメインパネルの中に、茜の HDG の姿を見付けられず、声を上げた。

「目標、ロスト!どこ行った?」

 元木一曹は砲塔上の視察装置(ペリスコープ)を左右に旋回させ、HDG の姿を探そうとするが、間も無く、車内に模擬被弾を知らせる「ピー」と言う、アラームの連続音が聞こえて来たのだった。

「おい、嘘だろぉ…。日下部、止めろ。」

 三番車がその場に停車し、視察装置(ペリスコープ)に因って確認出来る視界が、その背後に迄(まで)回った時、漸(ようや)く、元木一曹は HDG の姿を確認したのだ。そこに、大久保一尉からの通信が入る。

「指揮所より三番車。元木、日下部、お前等(ら)は撃破されたぞ。」

「隊長、何がどうなったんですか?」

「目標は上へジャンプしたんだよ。お前等(ら)の上を飛び越して、上から射撃された。目標は縦にも動けるぞ、注意して第二回戦だ、スタートライン迄(まで)、戻れ。」

「了解。日下部、スタートラインまで後退だ、出して呉れ。」

 運転席の日下部三曹には、大久保一尉からの通信は聞こえていない。なので、指示に従って三番車を動かしつつ、元木一曹にインカムで問い掛けるのだった。

「隊長、何ですって?」

「目標がジャンプして、俺等(ら)の上から射撃したんだと。」

「えぇ~そんなの有りなんですか?」

「有り、なんだろ。縦の動きに注意しろ、だってさ。」

「そりゃ、厄介ですね。」

「だな。」

 三輌の浮上戦車(ホバー・タンク)が、赤い旗の後方へ向かって走行して行くのとは逆方向に、茜の HDG は一歩が五メートル程の跳躍を繰り返し、白い旗の方へと向かっていた。
 その様子を一番車の車内から、HMD を通して見ていた松下二曹が苦苦しく言うのだった。

「さっき、最初はトボトボと駆け足だったのに。」

「引っ掛けだった訳(わけ)ね。」

 そう、インカムで藤田三尉が応えると、大久保一尉からの通信が各車の車長に聞こえて来た。

「指揮所より各車。次は円陣からの波状攻撃だ、目標の縦の機動に注意しろ。行け。」

「了解。一番車、回頭して目標の右、側方へ。囲むわよ。」

 大久保一尉の指示に、藤田三尉は透(す)かさず反応した。それに、松下二曹が応え、浮上戦車(ホバー・タンク)一番車が信地旋回で車体の向きを変えると、その儘(まま)発進する。

「円陣、反時計回りですね。」

「そ。目標も前に出て来た、進路その儘(まま)。」

 一番車に続いて、二番車、三番車が、茜の HDG とは百メートル程の距離を取って、左手側を通過しては後方へと回り込み、茜を中心にして、上から見て反時計回りに HDG を取り囲んで周回し始める。

「囲まれちゃいましたね…。」

 インカムに聞こえて来た茜の声に、指揮所から緒美が応える。

「さっきの縦一列で突撃して来るのよりも一般的な、エイリアン・ドローンの地上での襲撃機動よ。背後から斬り掛かって来るから注意してね。兎に角、円の中心に何時(いつ)までも留まってると危険だわ。」

「試してみましょうか。」

 茜は、そう声を返すと、CPBL を構えて、目の前を横切る一輌に照準を合わせる。すると直ぐに、敵機接近注意の警報音が「ピー、ピー」と繰り返し鳴るのだった。それは、HDG に搭載されたセンサーではなく、LMF に搭載されている Ruby からの情報に因る物である。戦闘域外部から状況を監察している Ruby の、敵味方の位置関係を解析処理した情報が、データ・リンクを通じて、HDG にも共有されているのだ。
 脅威警戒情報は、HDG 背後からの敵機接近を、茜に知らせていた。
 茜は、身体ごと振り向き、斜め左前方から接近して来る浮上戦車(ホバー・タンク)を確認し、右方向へ横跳びする様に地面を蹴った。
 五メートル程の跳躍から着地すると、又、敵機接近注意の警報音が鳴り始める。先程躱(かわ)した一輌とは別の一輌が、再び、斜め後ろから接近して来ていた。

「成る程。」

 茜は、再び地面を蹴って、一ステップで回避するのだが、その後は同じ事の繰り返しになるのである。

「逃げてるだけじゃ、埒(らち)が明かない訳(わけ)ね。」

 再び接近注意の警報音が鳴り始めると、茜は斜面を登る方向へと身体の向きを変え、続けて三歩、跳躍を行う。その間に、右手側を百メートル程の距離を取って斜面を登る様に進行している一輌に CPBL銃口を向ける。
 その車輌は斜面を登りつつ、距離を保った儘(まま)で茜の前方へと回り込み、囲い込みから逃さない様にと、進路を取るのだった。そこで、三歩目の着地をした茜は、身体の向きを翻(ひるがえ)し、今度は右前方へ跳躍しつつ、左前方から斜面を登り乍(なが)ら茜に迫って来ていた一輌に狙いを定め、CPBL の引き金を引いた。茜には、その射撃の判定が命中なのかどうか、直ぐには分からない。
 狙った浮上戦車(ホバー・タンク)の進路、進行方向に対して左側方へ十メートル程離れた位置に着地した茜は、右手下側から斜面を登って来る、別のもう一輌に直様(すぐさま)照準を着け直し、CPBL の引き金を引いたのだった。その一輌が射撃を回避する為に向かって左方向へ急旋回すると、茜が最初に CPBL銃口を向けた浮上戦車(ホバー・タンク)が、前方を横切る様に視界に入って来た。
 咄嗟(とっさ)に、茜は照準をその一輌に合わせ、CPBL の引き金を絞ったのだ。
 第一射から、三射目迄(まで)に要した時間は、凡(およ)そ十秒である。模擬射撃を受けた三輌の浮上戦車(ホバー・タンク)は、間も無く、全車が停車したのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.05)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-05 ****


「他に、質問は有るか?」

 大久保一尉は、隊員達からの質問が無い事を確認して、号令を掛ける。

「よし、では全員乗車。エンジンを始動し、通信チャンネル1で指示を待て。

 隊員一同は指示を受け、一斉に各自の乗機へと駆け上り、ハッチを開いて中へと入るのだった。
 大久保一尉は吾妻一佐の方へ向き直ると、声を掛けた。

「では、吾妻一佐。我々は指揮所へ。」

「ああ、行こうか。」

 二人は格納庫の入り口付近に設営された、指揮所とされるテーブルへ向かって歩き出す。その途上、吾妻一佐が大久保一尉に尋(たず)ねるのだった。

「今日、来ている人員は、若手ばかりの様子だが…。」

「能力に、不足はありません。」

「今日の対戦相手に就いて、情報を与えていないのかね?」

「必要ありませんので。相手が学生や素人(しろうと)と聞いて、なめて掛かる様では評価支援の任務は果たせません。ですので、全ての先入観を捨てろと、指示しました。」

「成る程。一尉は、彼女達が先日の襲撃事件の際、アレを実戦に持ち出した件、聞いているな?」

「一応。ですが、詳しい状況は非公開(クローズド)なので、その件に関しては評価出来ません。資料として頂いた、火力運用試験の映像を見た限りでは、なかなかに手強(てごわ)そうです。まぁ、うちの連中も、今日はいい経験が出来るのではないかと、期待しております。」

「そうか。楽しみだな。」

「はい。」

 吾妻一佐と大久保一尉は、互いにニヤリと笑うのだった。


 一方、天神ヶ崎高校側の指揮所とされるテーブルである。此方(こちら)では、何時(いつ)ものデバッグ用コンソールが立ち上がり、HDG と LMF、Ruby とのデータ・リンクが確立して、模擬戦の準備が整った所である。

「鬼塚~彼方(あちら)も、エンジンが掛かったみたいよ。」

 格納庫入り口の外側、茜の隣で陸上防衛軍の動向を眺(なが)めていた直美が、振り向いて緒美に声を掛けた。

「オーケー。新島ちゃんは、こっちで観測機のモニターをお願い。」

「はいよ~。」

 直美が数メートル前方の格納庫入り口前から、指揮所のテーブルへと戻って来るのを見乍(なが)ら、緒美はヘッド・セットのマイクを口元に引き上げ、声のトーンを少し下げて言うのだった。

「天野さん、最初の内は暫(しばら)く、スラスター・ユニットの使用は、ジャンプの補助程度に抑えてみましょうか。彼方(あちら)側は、飛行は出来ない訳(わけ)だし。」

 緒美達の通信は、チャンネル2に割り当てられた周波数を使用している為、防衛軍側には聞こえていない。同様に、防衛軍側の指揮通信も、天神ヶ崎高校側には聞こえないのである。

「そうですね。常時、空中に逃げちゃったら、勝負になりませんからね。解りました。」

 緒美のヘッド・セットに、茜の返事か聞こえる。緒美は答えた。

「取り敢えず、そう言う事でやってみましょう。」

 そこに、右手側へ二十メートル程離れた、防衛軍側の指揮所から大久保一尉の声が聞こえて来る。

「其方(そちら)の準備は、宜しいでしょうかー。」

「はーい。」

 緒美が、不慣れ乍(なが)らも出来るだけ大きな声で返事をし、右手を上げて見せる。
 すると緒美の背後から、飯田部長が大きな声でアシストするのである。

「何時(いつ)でもどうぞー。」

 緒美はヘッド・セットのマイクに向かって、少し離れて前方の、格納庫の外に立っている茜に、指示を伝える。

「じゃ、天野さん、模擬戦開始位置へ。気を付けて、無理はしないでね。」

「はい、行ってきます。」

 茜は、そう返事をするとフィールドの中央へ向かって、駆け足で進み出した。
 フィールドの中央付近には、二本の旗が立てられている。格納庫の前から遠い方、東側の赤い旗が防衛軍側のスタートライン、西側の白い旗が天神ヶ崎高校側のスタートラインで、それぞれの旗の間隔が五百メートルとなっている。双方が旗の後方に位置して正対した所から、模擬戦が開始されるのだ。

「あれ?ちょっと、緒美ちゃん…。」

 茜がスラスターを使わずに、駆け足で旗へと向かっているのに違和感を覚えた立花先生が、背後から歩み寄って、緒美に問い掛けて来た。立花先生は、先程の茜と緒美の遣り取りを聞いていないのである。

「…天野さん、スラスターを使ってないけど?」

「あぁ~まぁ、ハンデ、みたいな?」

 そう言うと、緒美はくすりと笑うのだった。そして、続けて言う。

「まぁ、見ててください。」

「トラブル…とかじゃないのね?」

「勿論。」

「分かった。」

 立花先生は、再び緒美の後列へ、飯田部長達が控える席に戻った。
 飯田部長や桜井一佐達が居る席の前にはモニターが二台、設置されており、そこには球形観測機からの画像が映し出されている。観測機から送られて来る映像は、当初はコントローラーのディスプレイでしか見られない仕様だったのだが、HDG や LMF のデータ・リンクでも撮影した画像を利用出来るよう、観測機のソフトウェアが改造されていた。ここで使用しているモニターには、そのデータ・リンクを利用するデバッグ用コンソールを介して、映像が表示されているのである。
 因(ちな)みに、観測機のソフトウェアの改造作業を担当したのが、クラウディアである。昨日の昼間、彼女が新しいモバイル PC で作業していたのが、このプログラム改造だったのだ。とは言え、プログラムの改造が前日で、翌日のぶっつけ本番となってしまった都合から、改造したプログラムがインストールされたのは、四機中の二機に留められたのである。従来のプログラムの儘(まま)の残り二機は、改造プログラムに不具合が有った場合の予備用として、待機状態とされていた。
 当然の事だが、同じデータ・リンクを使用する LMF のコックピットでも、観測機からの画像を見る事が出来る。その画像を見つつブリジットは、格納庫の前方東側に駐機している LMF のコックピットの中で待機していた。
 そして、その LMF の前を、防衛軍の浮上戦車(ホバー・タンク)三輌が、次々とフィールド内の赤い旗へ向かって、砂煙を巻き上げて疾走して行くのだった。
 そんな様子を格納庫の中、緒美の背中越しに眺(なが)めていた恵が、振り向いて、立花先生に尋(たず)ねる。

「あの浮上戦車(ホバー・タンク)、天野重工で作ってるヤツですよね?」

「そうね、改造してある、みたいだけど。」

 すると、立花先生の右隣の席から、飯田部長が解説を加える。

「砲塔からプラズマ砲を撤去してある分、軽くなってるから、機動性は可成り上がってると思うよ。」

「それは、エイリアン・ドローンの動作を模擬する為、でしょうか?」

 立花先生が問い掛けると、飯田部長は微笑んで答えた。

「だろうね。しかし、重量バランスが設計の状態から可成り変わってる筈(はず)だけど、ソフトの補正はやってあるのかな?陸上防衛軍(あちら)の技術部で、手当はして有るんだろうけど。」

 そこで、恵は飯田部長に問い掛ける。

「あの、車体の横側、何か取り付けてあるのは…。」

「あぁ、硬質ゴム製のブレード、エイリアン・ドローンの『鎌』を模擬した物だね。戦車同士の訓練の時は、アレが相手方にぶつかる迄(まで)、接近させるそうだ。」

「はぁ…成る程。そう言う事ですか。」

 恵は、少し呆(あき)れた様に、納得するのだった。
 そんな会話をしている内に、防衛軍の浮上戦車(ホバー・タンク)は、赤い旗の位置まで到達し、方向を西向きに向けて待機状態となる。
 そこで、飯田部長の右隣に座る、桜井一佐が飯田部長に声を掛ける。

「飯田さん?最初から、三対一ですか?」

「ああ、はい。実際、エイリアン・ドローンは基本、三機一組で行動するパターンが多いですから。一対一で勝てても、余り意味は無いので。」

「成る程、自身がお有りの様ね。」

 微笑んで、そう尋(たず)ねる桜井一佐に対し、飯田部長もニヤリと笑い返す。

「まぁ、ご覧になっててください。」


 HDG と対峙するべく待機する、浮上戦車(ホバー・タンク)一番車の車内では、運転席の松下二曹が、前方を駆け足で模擬戦開始位置へと向かう茜の HDG の様子を見乍(なが)ら、車内後方の砲塔下の車長、藤田三尉にインカムで伝えるのだった。

「あんな、トロトロとしか移動できないようで、わたし達と勝負になるんでしょうか?」

「隊長が、先入観は捨てろって言ってたでしょ。こっちは全力で、お相手するだけよ。」

「了解。全力でぶちのめしてやりましょう。」

「あはは、今日は随分と、言う事が過激じゃない、智里(トモリ)ちゃん。」

 藤田三尉は、車内のインカムでは松下二曹を名字ではなく、名前で呼ぶのだった。

「そうですか?何時(いつ)も通りですよ。」

 平静を装って、そう答えた松下二曹だったが、実際は茜達、天神ヶ崎高校の面面への対抗意識で胸が一杯だったのだ。実は、松下二曹は曾(かつ)て、高校受験当時に天神ヶ崎高校を受験しており、結果、不合格だったと言う過去を持っていたのである。
 その頃は技術者志望だった松下二曹は、天神ヶ﨑高校の特別課程を受験し、筆記試験の自己採点では充分に解答できた感触も得ていたし、面接でも大きなミスをした覚えは無かったのだが、それでも結果は彼女の意には沿わない物だったのである。当然、不合格の理由は本人には通知されないのだが、その一件は彼女の経歴(キャリア)の中で、唯一と言っていい汚点であり、苦い経験なのだった。
 その後は、一般高校から工学系の大学と進学する間に紆余曲折が有って、高校受験当時志望した技術者としてでは無く防衛軍へと進み、何らかの縁も有ったのか、適性が有ると判断されて戦車部隊に所属している訳(わけ)なのである。勿論、そんな経緯は現在所属する隊の人達は、誰一人として知らないし、打ち明ける気も無い。
 徒(ただ)、曾(かつ)ての自分を否定した天神ヶ崎高校に、一泡吹かせてやる事が出来れば、嫌な思い出を乗り越える事が出来る、そんな気持ちが有った事には間違いないのである。

 そんな一方で、浮上戦車(ホバー・タンク)二番車の車内では、車長の二宮一曹が、運転席の江藤三曹に注意を促(うなが)していた。

「江藤、間違ってもぶつけるなよ。ゴム製のブレードでも、こいつのスピードで引っ掛けたら、相手は大怪我だからな。」

「分かってます。」

 江藤三曹は、HMD(ヘッド・マウンテッド・ディスプレイ)を顔面へと降ろし、ディスプレイ表示の輝度を微調整する。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.04)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-04 ****


 演習場は山腹の北側斜面を造成して整備されているのであるが、その大部分は緩(ゆる)やかな斜面である。その敷地の北端部は、ほぼ水平に整地されていて、そこに管理棟と、その西側に八十メートル程の間隔を空けて、間口が三十メートル程の、蒲鉾(かまぼこ)形の屋根を持った格納庫が四棟、並べて建てられている。
 この格納庫の中には、常に何かが収められている訳(わけ)ではなく、演習が行われる度(たび)に、必要に応じて演習で使用される資材が運び込まれたり、雨天時の機材整備や資材保管を行う際に使用されるのだった。
 その一番東側の第一格納庫の東側前方に、天野重工のトランスポーター等の車輌が駐車されており、陸上防衛軍の浮上戦車(ホバー・タンク)が三輌、第二格納庫の前に並べられている。
 第一格納庫の南側大扉は開放され、入り口付近の東側端に天野重工の指揮所が、間隔を空けて西側端には陸上防衛軍の指揮所が設置されていた。その為、前回の火力運用試験の時の様な天幕が、今回は張られていないのである。
 取り敢えず、茜とブリジットはトイレに行った後、学校のマイクロバスへと乗り込み、車内の前後左右のカーテンを閉めて、インナー・スーツへと着替えていた。
 緒美と樹里は、トランスポーター荷台上、LMF 後方下部のメンテナンス・ハッチへと向かい、Ruby の再起動作業である。前回は電源車を持ち込んで LMF の起動時電源を確保していたのだが、今回はトランスポーターの電源系統を改造して、そこから LMF への起動電源が賄(まかな)える用意がされていた。
 直美を含む残りの五名は大塚や倉森、新田と言った天野重工試作部のメンバーと共に、小型コンテナ車からデバッグ用コンソールや球形観測機等、試験を観測する為の機材を順番に降ろし、機材のセットアップ準備を進めていった。
 そんな様子を、支度のほぼ終わった陸上防衛軍、戦技研究隊の面面は遠目に眺(なが)めていたのである。

 一番車の前に藤田三尉が立ち、天野重工側の様子を見ていると、二番車車長の二宮一曹が近寄り、話し掛けて来る。

「藤田三尉は、今日の対戦相手が、あのお嬢さん達だって、御存知だったんですか?」

「いいえ、その事に関しては聞かされてはいなかったわね。わたしもビックリよ。」

 そこに、三番車車長の元木一曹が加わる。

「自分は、今日の相手は開発中の新兵器だって、聞いていたんですが。」

「それは、全員がそうでしょ。」

「でも、それがどんな兵器なのかは、隊長の他は誰も聞いてないんですよね。」

 二宮一曹が呆(あき)れ気味に、そう翻(こぼ)すと、操縦員の三名も集まって来るのだった。その操縦員の中では一番年上の女性隊員、松下が揶揄(やゆ)する様に言った。

「新兵器って言ったって、あんな子供が相手では。ですよね、藤田三尉。」

 そう話を振られた藤田三尉は、微笑んで言うのだった。

「そうでも無いかもよ。何たって、天野重工が自社の技術者養成の為に運営してる、天神ヶ崎の生徒さんらしいから。」

「有名な学校なんですか?その、天神ヶ﨑って。」

 聞き返したのは、二宮一曹である。それに藤田三尉が、答える。

「ええ。天神ヶ崎ってのは高校なんだけど、下手すると、東大よりも難関だって言う人もいるそうだから。」

「へえ、よく御存知ですね、藤田三尉。」

 感心気(げ)に、そう言ったのは元木一曹だった。

「まぁね。実は、うちの子が再来年、天神ヶ崎を受験するって、頑張ってるんだけど。先生の話だと、なかなか、難しいらしくって。」

雄大君、優秀なのに?」

「今の成績じゃあ、五分五分だって言われてるのよねぇ。」

 藤田三尉と元木一曹が、そんな会話をしている所で、二宮一曹が声を上げるのだった。

「あぁ、思い出した。天神ヶ崎って、社員待遇で学校通って、給料まで貰えるって、聞いた事が有る。その学校ですか?」

「その言い方には、語弊(ごへい)が有るけど。まぁ、そう言う事らしいわね。」

 と、藤田三尉が答えた時、日下部三曹が頓狂(とんきょう)な事を言い出すのだった。

「って事は、あの子達、女子高生ですか? 女子高生って、もっとこう、スカートが短かったり、髪の毛染めてたり、変な略語、喋(しゃべ)ったりするんじゃないですか?」

「まぁ、確かに、金髪に赤毛の子も居たけどねぇ。」

 日下部三曹に付き合って、冗談を言うのは元木一曹である。

「アレは、留学生か何かでしょう?元木一曹。」

 日下部三曹が的外れな突っ込みをする一方で、藤田三尉は呆(あき)れる様に言葉を返すのだった。

「何時(いつ)の時代の女子高生よ、それ。そんなのが流行ってたのは、あなたのお婆ちゃんが高校生だった頃じゃない?」

「えぇ~知りませんよ。自分、高校は男子校でしたから。」

 そこで、松下二曹が苦笑いしつつ、言うのだった。

「いや、まぁ、今でも学校に依っては、そんなタイプの女子生徒も居ますけどね。主流では、ないでしょうけど。」

「そうなの?一周回って、又、流行ったりするのかしら。わたし達の時代(ころ)は、そんなのは徹底的に馬鹿にしてたんだけど。」

 女性二人の反応とは別に、元木一曹は下世話な話題を日下部三曹に振るのだった。

「日下部は、好みの子とかいたかい?あの位(くらい)の歳のアイドルとか、好きだったろ。」

「いい学校の生徒さんなんでしょう? 頭の良過ぎる女の子は、自分、苦手ですよ~元木一曹。」

「そうかい? 俺は、あの先生とか、タイプだけどね~。」

 そんな二人の会話に、笑って、二宮一曹が突っ込むのだった。

「元木は、相変わらず年上が好きだねぇ。」

「ほっといてください、二宮一曹。」

 そんな折り、黙って天野重工側の動向を眺(なが)めていた江藤三曹が、突然声を上げた。

「あ、彼方(あちら)の浮上戦車(ホバー・タンク)、動くみたいですよ。」

 陸上防衛軍、戦技研究隊一同にも、LMF のメイン・エンジンが起動する音が、聞こえて来ていた。江藤三曹の発言を機に、一同が、其方(そちら)に視線を向ける。
 そして、二宮一曹が江藤三曹に尋(たず)ねるのだった。

「江藤、アレ、何時(いつ)の間に、ドライバーが乗車したんだ?」

「ずっと見てましたけど、誰かが乗り込んだ様子は無かったですね。あれ、前部分が操縦席の様なんですが、ハッチはずっと、閉まった儘(まま)でしたから。」

 訝(いぶか)し気(げ)に、藤田三尉が聞き返す。

「どう言う事?」

「どう、と言われましても。今は無人で動いているのか、でなければ、ずっと前から誰かが乗っていたのか。」

「ドライバーは、あの赤毛の子だったよね。ほら、あの黒いスーツの…。」

 元木一曹が、LMF が乗せられたトランスポーターの方へ歩いて来る、インナー・スーツに着替えたブリッジとを指差して言うのだった。そして、一同の視線の先では、インナー・スーツに着替えた茜が、HDG 専用のコンテナ車の解放された後部ランプを上がって行くのが見て取れた。
 その一方で、トランスポーターの荷台上で、LMF が立ち上がる様に、中間モードへと移行する。

「うわぁ、変形しましたよ。昔のアニメみたいだなぁ。」

 真っ先に声を上げたのが、江藤三曹だった。一同の視線の先では、LMF がトランスポーターの荷台上から、歩行に因って降りる光景が展開している。

「マジかよ、歩いてるぜ…アレ、腕が有るって事は、エイリアン・ドローンと殴り合いでもさせる気かな?天野重工は。」

 呆(あき)れ気味に、そう言ったのは、元木一曹である。それに、松下二曹が続いた。

「まさか。しっかし、プラズマ砲二連装って。市街戦じゃ強力過ぎて、使い物になるのかしら…。」

「あ、元に戻った。」

 江藤三曹が声に出した通り、LMF は地上に降りた後、直ぐに通常の高速機動モードに移行したのだった。そして、コックピット・ブロックのキャノピーが開く。

「あ、ほら、ハッチが開きますよ、二宮一曹。」

「あぁ…あ、矢っ張り、無人だったんだな。あれもドローンなのか?」

「そうでもないみたい、ですね。ほら、ドライバーが…。」

 キャノピーが開くと、ブリジットが器用に LMF の機体を駆け上り、バイク形式の操縦席に着くのだが、その様子を見て、元木一曹が声を上げる。

「何だ?あの姿勢で操縦するの?」

「何だか、天野重工は変な物を持ち込んで来たね~。」

 二宮一曹は苦笑いしつつ、そう感想を漏らすのだった。
 そして、茜が装着した HDG が、専用コンテナから歩いて出て来ると、江藤三曹が又、声を上げる。

「あ~、何だ?あれは…。」

「そう言えば、隊長が『パワード・スーツ』がどうとか、言ってたよなぁ、さっき。」

 二宮一曹に続いて、元木一曹が藤田三尉に問い掛ける。

「あの人形みたいのが、今日の相手なんですか?藤田三尉。」

「でしょうね。わたしも聞いてないけど。」

 そこへ、大久保一尉と吾妻一佐が歩み寄って来るのに一同は気付き、整列し姿勢を正すのだった。
 大久保一尉は、隊員の前に立ち、声を上げる。

「よし、楽にして呉れ。天野重工側も準備が出来た様子なので、本日の模擬戦に就いて詳細を伝達する。と、言っても、皆がやるべき事は何時(いつ)もと変わらん。全ての先入観を捨てて、訓練通りにエイリアン・ドローンの機動を再現し、相手方の評価作業の支援を行うのが、我々の任務だ。形式上、模擬戦ではあるが、勝ち負けに拘(こだわ)る必要は無い。 模擬戦は最初に、試作パワード・スーツと十回戦、その後、試作浮上戦車(ホバー・タンク)と十回戦を行う。先方と此方(こちら)、両者の間隔を五百メートル以上空けて正対した状態から開始し、何方(どちら)か一方が撃破判定となった時点で、一回戦が終了。速やかに両者の間隔を五百メートル以上空けて再度正対し、次回戦を開始する。使用する兵装は、先方は荷電粒子ランチャー及び、プラズマ砲であるが、どちらも、実射はせず、彼方(あちら)側に装着された発信器と、此方(こちら)側の受信機に因って命中の判定を行う、通常の運用だ。これに因り、命中判定が出れば、此方(こちら)側が撃破判定。 我々の側は、相手の五メートル圏内迄(まで)接近すれば、相手側が撃破判定となる。相手は試作機であるから、接触はしない様に気を付けろ。特に、試作パワード・スーツに就いては、絶対にぶつけるなよ。 以上、何か質問は有るか?」

 藤田三尉が手を挙げ、発言する。

「模擬戦は一対一で、ですか?」

「先方は一機、此方(こちら)は何時(いつ)も通り三機の編成、だ。」

 回答を聞いて一同の表情が曇るのを見て、大久保一尉は言葉を続けた。

「これは、性能評価の為、先方が指定して来た条件だ。天野重工側は、相当の自信が有る物と見られる。油断はするなよ。」

 一同は声を揃(そろ)え、「はい。」と答えたのだった。

 

- to be continued …-

 

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※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.03)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-03 ****


 翌日、2072年7月22日金曜日。天神ヶ崎高校兵器開発部の一同は、三週間ほど前に火力運用試験を行った、防衛軍の演習場に到着していた。前回と同じく、学校所有のマイクロバスでの移動で、今回の運転手は前日に準備の為に来校していた、天野重工試作部の倉森である。
 兵器開発部の一同を乗せたマイクロバスは、前回よりも演習場の奥へと進み、管理棟の前を通り過ぎて、その西側に二棟並んで建てられている格納庫の前で、Uターンする様に回頭して停車した。
 一時間程、先行して学校を出発していた LMF を運搬した大型トランスポーターや、HDG 専用トランスポーター、その他の荷物を積んだ小型コンテナ車の計三台は、当然、既に到着しており、畑中達が LMF の繋留を外す作業を進めているのが、バスの中からも見て取れたのである。

「ご苦労さん。今日も暑いね~。」

 そう言って、降りて来る兵器開発部の面面を、飯田部長が出迎えると、バスから降りて来る緒美達は、飯田部長と、その横に立っている、ブルー・グレーのスーツを着た年配の女性、桜井一佐にそれぞれが一礼するのだった。緒美は桜井一佐の服装の所為(せい)で、それが前回、挨拶だけをした航空防衛軍の桜井一佐だと気が付かなかったのだが、その点、立花先生は違った様子だった。

「先日の運用試験でお目に掛かった、航空防衛軍の…。」

「桜井よ。良かった、覚えていて頂いてて。」

 立花先生が声を掛けると、桜井一佐は微笑んで答えるのだった。

「今日は、制服ではないんですね。」

「ええ、飯田さん達と合流する迄(まで)、公共交通機関でしたので。」

「あぁ、成る程。」

 そして、緒美達の方へ向き直り、桜井一佐が声を掛ける。

「部長の鬼塚さんとは、前回、お会いしたわね。」

「はい。」

 緒美は、短く返事をした。桜井一佐は、緒美の背後に並んで立つ、兵器開発部のメンバーに、声を掛ける。

「航空防衛軍の桜井です。先先(さきざき)、航空装備の評価試験が始まったら、皆さんに協力する事になっている関係で、飯田部長のご厚意も有り、今日の模擬戦の様子も見学させて頂く事になりました。宜しくね。」

 その発言を聞いて、立花先生が飯田部長に問い掛けるのだった。

「そう言う話、なんですか?」

「うん、まぁ、そんな話だな。」

「その辺りの方針は、何時(いつ)頃、決まった事なんでしょうか?」

「B型や航空装備に就いては試作機の完成が、ずるずると延びてるからね。伝達するタイミングを、計っていた所だったんだが。」

 そこで、桜井一佐が声を上げるのだった。

「先日、少々無茶な事をした事、噂は聞いてますよ。ですので、今日の模擬戦、何(ど)の様な展開になるのか、興味深く、拝見させて頂きますね。」

 それに対して、緒美が発言する。

「御期待に添えるかどうかは、分かりませんが。わたし達は出来る事を、やるだけです。」

 桜井一佐は、微笑んで、徒(ただ)、頷(うなず)いた。
 そこへ、格納庫の方向から八名の男女が歩いて来るのに、その場の一同は気が付いた。先頭を歩いているのは、陸上防衛軍の吾妻(アガツマ)一佐である。

「おぉい、飯田さん。皆さん、ご到着だね。」

 吾妻一佐が上機嫌そうに声を掛けて来るので、緒美達はその一団の方へと向き直り、揃(そろ)って一礼をする。

「今回の模擬戦の主催者、陸上防衛軍の吾妻一佐だよ。鬼塚君は、前回、お会いしたよね。」

 飯田部長が、吾妻一佐を兵器開発部の面面に紹介すると、吾妻一佐は自(みずか)らが引き連れる一団を紹介するのだった。

「こちらが、本日、諸君等の対戦相手を務めて呉れる、戦技研究隊の搭乗員だ。で、こちらが隊長の大久保一尉。」

 紹介された大久保一尉は色黒の、背の高い男性で、その体格と引き締まった表情が、如何(いか)にも『軍人』と言う雰囲気を漂わせている。大久保一尉は、一番近くに居た飯田部長に「宜しく」と、右手を差し出した。飯田部長は握手に応じ、続いて大久保一尉に兵器開発部の紹介をするのだった。

「こちらが、顧問の立花先生。そして、こっちが部長の鬼塚君。今日は、宜しくお願いしますよ。」

 立花先生と緒美は、握手の為の手を差し出さず、それぞれがもう一度、一礼をする。
 すると、大久保一尉が右の掌(てのひら)を上にして緒美を指し示し、尋ねる。

「対戦相手の搭乗者は、あなたが?」

 透(す)かさず、緒美の後列から茜とブリジットが、一歩、進み出て、茜が声を上げる。

「いえ、お相手はわたし達が。宜しくお願いします。」

 大久保一尉は、特段、表情を変えるでもなく、茜達に尋ねる。

「お名前を、伺(うかが)っても、宜しいですか?」

「はい。わたしは天野、です。」

ボードレール、です。」

「では、パワード・スーツの方は、ボードレールさん、あなたが?」

 大久保一尉は、体格の良い、ブリジットの方が HDG の装着者(ドライバー)だと、咄嗟(とっさ)に思ったのだ。だが、それには茜が答えたのだった。

「いえ、それは、わたしが。」

 続いて、ブリジットも発言する。

「わたしは LMF のドライブを。」

 大久保一尉は、視線を動かして二人の顔を順番に見ると、表情を変える事無く、言った。

「成る程、了解しました。」

 クルリと身体を横に向け、部下の方を見て、大久保一尉は声を上げる。

「皆さんと対戦する、我が隊の搭乗員を紹介しておきます。先(ま)ず、一番車車長、藤田三尉。」

 名前を呼ばれた三十代らしき女性隊員は、両手を後ろで組み、黙って小さく一礼をする。

「二番車車長、二宮一曹。」

 藤田三尉の隣に立つ、四角い顔が印象的な男性で、見た所は三十代前半である。藤田三尉と同じ様に、両手を後側で組み、小さく一礼をした。

「三番車車長、元木一曹。」

 二宮一曹の隣に立つ、少し華奢(きゃしゃ)な印象の男性で、二十代後半と見受けられた。大久保一尉に名前を呼ばれ、前の二人と同様に一礼をするのだった。

「一番車操縦手、松下二曹。」

 目付きの鋭い、二十代後半の女性隊員だったのだが、何故か一瞬、茜とブリジットは、彼女に睨(にら)まれた様な気がしたのだった。

「二番車操縦手、江藤三曹。」

 眼鏡を掛けた、優し気(げ)な印象の二十代前半の男性で、一礼の動作にもメリハリ感が有り、それが生真面目そうな性格を窺(うかが)わせていた。

「三番車操縦手、日下部三曹。」

 隣の江藤三曹とは対照的に、茜達を舐める様にじろりと見渡した後、上目遣いでゆっくりと一礼する動作は、女子である兵器開発部の一同には、何か気持ちの悪い印象を与えたのだった。
 そして、一通りの紹介を終えて、大久保一尉が締め括る。

「以上、六名、三組が本日、皆さんの対戦相手を務めます。」

「戦車戦に於いては、陸上防衛軍が誇る精鋭達だ。模擬戦で負けたとしても、けして恥でないぞ。頑張って呉れ給え。」

 大久保一尉に続いて、吾妻一佐は、そう言って笑うのだった。

「では、一佐。自分らは準備を進めますので。」

 大久保一尉は吾妻一佐の方へ向き直り、敬礼をする。すると、その背後の六名も身体の向きを変え、吾妻一佐に敬礼をするのだった。
 吾妻一佐が敬礼を返し、その手を下げると、大久保一尉も手を降ろし、身体の向きを部下の方へ向けて声を上げた。

「では、全員、準備に掛かれ!駆け足。」

 号令の下、六名は駆け足で奥側の格納庫の前に駐められている、三台の浮上戦車(ホバー・タンク)へと向かった。

「それでは、其方(そちら)の準備が整いましたら、お知らせください。」

 大久保一尉は、そう言い残すと、吾妻一佐と共にその場を後にしたのだった。
 陸上防衛軍の一団が去ったあとで、最初に口を開いたのは飯田部長である。

「いやぁ、如何(いか)にも、な感じだったなぁ…防衛軍は、どこもあんな感じですか?桜井さん。」

「あれは、『陸上』独特じゃないかしら。少なくとも、航空(うち)はもうちょっと、スマートだと思うけれど。」

 桜井一佐は、苦笑いである。そして、直美が緒美に向かって言うのだった。

「それにしても…あの、吾妻?さんの言い方。うちが負けるの、確定みたいな。随分と、見縊(みくび)られてるみたいよね。」

 続いて、ブリジットが所感を漏らす。

「それに、あの真ん中のお姉さん。何か、睨(にら)んでたよね、こっち。 ねぇ、茜。」

「うん…気の所為(せい)、かな?」

 自信無さ気(げ)に、茜も同意すると、続いて瑠菜がげんなりとした表情で言うのである。

「わたしは、最後の男の人、目付きが気持ち悪かった~。」

「あれは、ちょっと無いよね~。」

 と、瑠菜の発言に同意するのは樹里だった。そこで、「パン、パン」と二度、掌(てのひら)を打ち合わせ、緒美が言うのである。

「取り敢えず、わたし達も準備に掛かりましょう。」

 一同は、緒美の指示に従い、既に到着していた、天野重工のトランスポーターの方へと歩き出すのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第11話.02)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-02 ****


 そして、緒美が立花先生に確認する。

「まぁ、今回は陸上防衛軍の主催で、標的とか計測器の設置とかも無いですからね。」

「そう言う事。」

「あの…倉森先輩って?」

 そこで茜が、右手を肩口程の高さ迄(まで)挙げ、問い掛けるのだった。それには、樹里が回答する。

「あぁ、畑中先輩と同じ試作部、製作三課のお姉さんよ。HDG と LMF の電気関係担当でね、天神ヶ崎(うち)の卒業生なのよ。この前、運用試験の時は来てなかったから、一年生の三人は知らないよね。電気工学科の OG で第十四期…だったかな、畑中先輩の一つ下なの。」

「わたし達が第二十三期だから、第十四期って言ったら…。」

 ブリジットが、指折り数えていると、立花先生が答える。

「六年前の卒業生よね。」

 そして丁度(ちょうど)その時、平日の昼休みである、十二時二十分を知らせる鐘の音が、室内に備えられているスピーカーから聞こえて来た。緒美は改めて、皆に向かって言うのだった。

「それじゃ、さっきも言った通り、午後からの部活はお休みと言う事で、お昼にしましょう。明日は、予定通り午前九時に、ここに集合。いいわね。」

 一同が「はい」と答えた後、銘銘(めいめい)が席を立ち、午後の予定を話し合い始めるのだった。茜は勿論、ブリジットに、午後を過ごす計画を提案する。

「折角、時間が出来たんだし、街の方迄(まで)、買い物に行かない? 夏物の服、シャツとか、あと、二つ三つ欲しいんだ。」

「いいね、付き合うわ。あぁ、それじゃお昼も、学食じゃなくて街の方にする?」

 そんな話をしていると、立花先生が茜達に言うのだった。

「茜ちゃん、街の方まで行くなら、タクシー使いなさいね。チケット、貰ってるでしょう?」

「あぁ、寮で自転車、借りようかと思ってたんですけど。」

 会社が寮生に配布しているタクシー・チケットは、勿論、無制限に使える訳(わけ)ではなく、料金の団体割引の関係で契約してあるタクシー会社に限定されるとか、出発地か行き先が学校である事が必要だとか、幾つかの制約が規定されている。だがそれ以前に、一年生達にはタクシー・チケットの使用経験が無いので、どう言った時に使用してもいいのか、が分からないのだった。その為、茜達一年生は、タクシー・チケットの使用を遠慮し勝ちなのである。

「近場なら兎も角、自転車だと街迄(まで)、ここから一時間は掛かるでしょ。これからの時間帯、まだ暑くなるんだから危険よ。お買い物なら、帰りの荷物も増えるし。女の子だけで出掛けて、何かトラブルに巻き込まれてもいけないし。その為に、タクシー・チケットを会社が渡してるんだから、遠慮しないで使いなさい。」

「は~い。」

 茜はブリジットと顔を見合わせて、苦笑しつつ、立花先生の言い付けを承諾するのだった。そこへ瑠菜が、声を掛けて来る。

「天野~、街の方、買い物行くなら、ちょっと、頼まれて呉れないかな? 小さな物だからさ。」

「いいですけど、どうせなら、ご一緒しませんか?瑠菜さん。」

 茜の提案に、瑠菜は笑って言うのだった。

「あはは、わたし、暑いのは苦手なんだ~。」

 そう言い乍(なが)ら、瑠菜は店の所在と希望の商品名を、ささっとメモに書くと、茜に差し出す。

「これ、お願い。代金分の金額、あなたのケータイに振り込んでおくから。」

 茜は、渡されたメモを確認する。

「あぁ、はい。このお店なら、知ってます。」

「そう、良かった。お願いね~。」

「何?変な物じゃないでしょうね、瑠菜ちゃん。」

 少し茶化す様に、立花先生が問い掛けると、瑠菜は笑って答えた。

「リップ・クリームですよ。お気に入りのが通販(ネット)とかで、売ってなくって。大体、そんな怪しい買い物だったら、下級生に頼んだりしませんよ、先生。」

「それもそうね。」

 立花先生も笑って納得している一方で、瑠菜は自分の携帯端末を取り出し、早速、茜に代金分を送金する操作を始める。携帯端末のパネルを、何度か操作した後、瑠菜は言う。

「はい、振込完了。金額の端数は、手数料って事で、取っておいて。」

「はい。では、遠慮無く。」

 茜も自分の携帯端末を取り出し、代金の振込を確認した。
 そこで、今度は恵が、茜に声を掛けるのだった。

「あの~天野さん。悪いんだけど、わたしも紅茶の茶葉一缶、お願い出来るかなぁ?」

 それを聞いて、直美が苦言を呈するのである。

「ちょっと、森村。そう言うの、一年をパシリに使うみたいで、感心しないよ。」

「あはは、だよね~。」

 ばつが悪そうに恵が笑っていると、茜は言うのだった。

「あぁ、いいですよ、副部長。序(つい)でですから、他の方(かた)もリストを頂ければ、買って来ますけど。大きな物でなければ。」

「もう、茜は人が好(い)いんだから。」

 茜の隣で、ブリジットが呆(あき)れる様に、そう言うのだった。
 そんな流れで、希望者間で『お買い物依頼リスト』が回っている間、何か、PC への打ち込み作業を続けているクラウディアの姿が、茜の目に留まった。茜は、クラウディアに声を掛けてみる。

「そう言えば、クラウディアは夏休み、帰省…帰国しなくていいの?」

 その問い掛けには、意外にも、素直な返事がクラウディアから返って来たのである。

「mut…お母さんは、帰って来いって言うんだけどね、飛行機のチケット代も馬鹿にならないから。」

 その返事を聞いたブリジットが、思い出した様に尋(たず)ねる。

「部活で会社から出る手当を、帰省のチケット代の足しにするとか、言ってなかったっけ?」

 すると、クラウディアの隣の席から、維月が言うのである。

「二人とも、クラウディアの手元、よ~くご覧なさ~い。」

 言われて、茜は維月の発言の意図に、直ぐに気が付いた。

「あ…モバイル PC、樹里さんのと同じモデルになってる。」

 茜の発言を受け、クラウディアが切り返す。

「同じじゃないよ。こっちの方が新しい分、プロセッサのスペックが高い!」

「使い込んだのね。」

 クラウディアの反論を、ブリジットがばっさりと切り捨てるのだった。

「いや、ちょうど良い値段だったから、つい、うっかり…」

「何が、つい、うっかり、よ。親不孝者。」

「ほっといて。」

 クラウディアは PC のディスプレイを見詰めた儘(まま)、キーを叩いている。

「あぁ、矢っ張り、このモデルはキーボードの感触が最高。」

「うふふ、でしょ~。」

 クラウディアの漏らす感想に、隣の席で、樹里が笑顔で答えた。そして、その様子を横目で眺(なが)めつつ、維月が言うのだった。

「まぁ、まだ暫(しばら)く、彼方(あちら)には帰りたくないのよね、クラウディア。」

「まぁね。それも有る。」

 クラウディアは、何でも無い事の様に、維月の言葉を肯定するのだった。
 先日の一件で、クラウディアが日本に来た事情を知ってしまっていたので、彼女の今暫(しばら)く母国に帰りたくないと言う気持ちに就いては、「そんな物かも知れない」と、そう思う茜とブリジットではあった。何せ、クラウディアが来日して、まだ四ヶ月しか経っていないのだ。だから、二人共、それ以上は、その話題に就いて、クラウディアに聞くのは止めにしたのだった。
 そして間も無く、茜に、お買い物依頼リストが、最後に記入した佳奈から渡される。
 追加の依頼品は、恵が先程の話題の通り銘柄指定の紅茶茶葉を一缶、樹里が商品名指定のカラーマーカーを三種、維月が店を指定して六個入りシュークリームを一箱、佳奈がスナック菓子を五種、である。

「え~と、取り敢えず、了解しました。」

 茜がリストを確認して、そう言うと、瑠菜が言うのだった。

「佳奈の依頼品が、一番嵩張(かさば)りそうよね。」

「え~、でも、アレ、近所じゃ売ってないのよ~。」

「まぁ、大丈夫ですよ、二人だし。ね、ブリジット。」

「そうね。まぁ、お店を回る順番を考えれば、問題無いかな。」

 そう、リストを眺(なが)め乍(なが)ら相談している二人に、恵が問い掛ける。

「そう言えば、その制服で出掛けるの?」

「いえ、一度寮に戻って、着替えてから出掛けようかと。」

 茜が恵に答えると、立花先生が言うのだった。

「だったら、早く支度しないと、時間が勿体無いわよ。」

 時刻は、十二時四十分になろうかとしていた。

「はい、では、お先に失礼させて頂きます。」

 茜は一同に軽く会釈すると、ブリジットの手を取って部室の東側ドアへと向かった。

「行こう、ブリジット。」

「あ、うん。」

 そして、ドアを開けるともう一度、室内に向かって会釈をし、茜が言った。

「では、ちょっと出掛けて来ます。」

 室内から、立花先生が全員を代表して声を掛ける。

「気を付けて。 まぁ、楽しんでいらっしゃい。」

「は~い。」

 茜は、笑顔で答えると、部室のドアを閉めたのだった。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第11話.01)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-01 ****


「部長、積み込み準備、終わりました~。」

 部室の奥、北側のドアから室内に入って来る茜が、立花先生と樹里との打ち合わせ中だった緒美に声を掛けた。室内には、茜に続いて、ブリジットが入って来る。
 顔を上げ、二人の姿を認めた緒美は、茜に問い掛ける。

「新島ちゃん達は?」

 その問いには、茜の後ろに立つ、ブリジットが答えた。

「副部長と恵さんは、欠品が無いか、最終チェックを。瑠菜さんと佳奈さんも。」

 ブリジットは言い乍(なが)ら、ポケットから取り出したハンカチで、額の汗を押さえる様に拭(ぬぐ)っている。それは、茜も同様だった。
 そんな二人に、立花先生が労(ねぎら)いの声を掛けるのだった。

「ご苦労様、下は暑かったでしょう。取り敢えず、涼んでちょうだい。」

 この日は、2072年7月21日木曜日。幸か不幸か天気も良い為、夏の日差しも強く、そろそろ正午になろうかと言うこの時刻には、外気温は既に 30℃へ達しようとしていた。
 茜とブリジットは、部室中央に置かれている長机の北側中央辺り、立花先生の向かい側の席に腰掛ける。
 そこで、斜め前の席から、樹里が茜達に言ったのだった。

「もう夏休みなんだから、二人共、制服じゃなくても良かったのに。」

 斯(か)く言う、ソフト担当の三人、樹里と維月、そしてクラウディアは、それぞれが夏らしい私服姿だった。その一方で、部長である緒美は制服を着用していた。
 茜は、樹里に答え、次いで、緒美に問い掛ける。

「部活に出るんだから、何と無く制服、かなぁって思いまして。部長は、どうして私服じゃないんですか?」

「え?わたし?…大した意味は無いけど。強いて言えば、服を選ぶのが面倒だったから、かしら。」

「又、緒美ちゃんはそう言う事を言う…。」

 緒美の答えを聞いて、苦笑いしつつ立花先生が翻(こぼ)すのだった。
 そこへ、格納庫内での作業を終えた恵達四人が、相次いで部室へと入って来た。そして先頭の、直美が声を上げる。

「あぁ、涼しい~生き返る~。」

 汗を拭きつつ、直美の後ろで、くすりと笑う恵が緒美に報告をする。

「部長、明日(あす)持って行く機材、その他一式、積み込み準備確認完了しました。」

「はい、ご苦労様。まぁ、一服してね、みんな。」

 中央の長机、奥端の席に直美が着く一方で、恵は南側壁面シンク横の小型冷蔵庫からスポーツドリンクのボトルを取り出し、格納庫で作業していた六人分のコップへ、順番に注いでいく。茜とブリジットは席を立ち、それぞれ注ぎ終えたコップを直美や瑠菜、佳奈の元へと運んだ。
 恵は振り向いて、尋(たず)ねる。

「先生、それに部長は、如何(いかが)ですか?」

「わたしは、いいわ。森村ちゃん。」

「わたし達は冷房の効いた所に居たからね。気を遣わないで、一服して、恵ちゃん。」

「そうですか。」

 恵は自分のコップを持って、直美の向かい側、緒美と立花先生の間の席に座る。
 隣に座った恵の服装に気が付いて、立花先生は言った。

「そう言えば、あなた達も制服で来てたのね。」

 それに、恵は即答する。

「あぁ、積み込みの準備作業が有りましたから。私服で来て汚したりすると詰まらないので、制服は作業着代わりに。」

「そう、そう、そう。」

 恵の発言に後乗(あとのり)で、緒美が微笑んで同意するので、透(す)かさず立花先生は突っ込みを返すのだ。

「何が、そう、そう、よ。さっきは、服を選ぶのが面倒だとか言ってたのに。」

「あははは、部長らしくて、いいじゃないですか。 何だったら、今度、わたしが選んであげましょうか?服。」

 笑って立花先生に言葉を返した恵は、緒美にそう提案してみるのだった。それを、緒美は笑顔で直ぐに辞退する。

「いいわ、そこ迄(まで)世話を焼いて呉れなくても。」

「そう?気が向いたら、何時(いつ)でも言ってね。」

 恵も笑顔で、そう言葉を返すのだった。

「さて、冗談は置いといて…。」

 緒美は茜達の方へ向き直り、言葉を続ける。

「…今日は、朝からご苦労様でした。この後、積み込みは本社からの運搬車が到着して、午後二時からの予定だけど、そっちの方の対応はわたしと、立花先生とでやっておくから、今日の部活は午前中でお仕舞い。みんなは自由行動、と言う事で。まぁ、夏休みだし。」

「え、明日の作戦会議とか、しないんですか?」

 透(す)かさず、聞き返したのは茜である。緒美は微笑んで、答える。

「そうね、相手方の出方も分からないし、事前に決めておける事は、見当たらないわね。戦法とか対応は、明日の本番で天野さんとボードレールさんに、一任するわ。」

 緒美の答えを聞いて、ブリジットが立花先生に尋(たず)ねる。

「明日の模擬戦って、勝敗が今後の何かに影響するんでしょうか?」

「そうねぇ…。」

 立花先生は腕組みをして、少し視線を上に向け、考える。そして、視線を前に戻し、言うのだった。

「まぁ、取り敢えず、大きな影響は無いかしらね。別に、HDG の軍への採用が決まってる訳(わけ)でもないし。」

 その発言に対して、コメントを加えたのは、恵だった。

「先日の、理事長のお話だと、防衛軍への引き渡しは慎重にしたい…そう言う、意向でしたよね?」

「別に、会社としての統一見解ではなくて、飽くまで、会長…理事長の個人的見解だけどね。会社としては、有効性を防衛軍には示して、契約に結び付けたい…と、まぁ、飯田部長辺りは考えているんじゃないかしら?」

 そして、緒美が纏(まと)めの発言をする。

「契約云云(うんぬん)に就いては、防衛省や国会での予算取りの関係とか、先の長い話だし、現場で右から左に決まる様な事柄じゃないから、あなた達は細かい事は気にしなくていいわ。気負わず、手を抜かず、出来る事をやって呉れたら、それでいいのよ、ボードレールさん。天野さんも、ね。 それに、勝ち負けよりも、問題点や改善点を洗い出す方が重要だから、何かそう言う所が見付かれば、それはそれで収穫なのよ。」

 茜とブリジットは、声を揃(そろ)えて「はい」と、声を返した。
 そこで、スポーツドリンクを飲み干したコップを机に置き、緒美に対して直美が発言する。

「そう言えば、明日の模擬戦って、話が出たのは、この前の運用試験の時でしょ。暫(しばら)く、梨の礫(つぶて)だったのに、ここ一週間位(ぐらい)で急に、バタバタっと決まった感じよね?」

「あぁ~それはね…。」

 苦笑いしつつ、回答したのは立花先生だった。

「…飯田部長から聞いた話だけど。模擬戦の話を言い出したのは、陸上防衛軍(あちらがわ)のお偉方(えらがた)なんだけど、なかなか対戦相手の戦車部隊が決まらなかったらしいのよね。要するに、現場の方には、余りやる気が無くって、打診を受けても辞退したり、他の部隊を推薦したり…。」

「面倒だから、盥(たらい)回し…ですか?」

 そう質問したのは、立花先生の左隣の席の恵である。

「まぁ、そんな所だったみたいね。」

 今度は、右隣の樹里が尋(たず)ねる。

「それが、どうして急に、風向きが変わったんでしょうか?」

「あなた達が、HDG を迎撃に持ち出したからでしょ。」

 立花先生の発言を受け、一同が声を揃(そろ)える様に、「あぁ~」と発したのだった。
 そして、直美が立花先生に尋(たず)ねる。

「あの件って、陸上の部隊レベルに迄(まで)、伝わってるんです?」

「正式には秘密扱いらしいけど、噂が伝わってる所は有るみたいよね。それで、模擬戦の対戦相手として名乗りを上げた部隊が出て来たらしいわ。詳しい事情や経緯(いきさつ)は、良く知らないけど。」

「それで決まったのが、戦技研究隊ですか?」

 茜が言った「戦技研究隊」とは、エイリアン・ドローンの地上での動作や戦法を研究し、それを再現する事で、陸上防衛軍の戦車部隊等の、戦闘訓練に於いて仮想敵役を務めるのを主任務とする部隊である。勿論、エイリアン・ドローンへの地上での対抗策等を研究して、各実戦部隊に対し教育、指導を行うのが本来の目的である。
 そして、その茜の問い掛けに対しては、緒美が答える。

「まぁ、どこの部隊が相手でも、此方(こちら)はやる事は変わらない訳(わけ)だし。模擬戦のルールは打ち合わせ済みだから、その通りにやるだけよ。」

「そう言えば、緒美ちゃん。模擬戦に使う HDG のランチャー、改造は終わってるのよね?」

 立花先生の緒美への問い掛けには、改造作業を実施した瑠菜と佳奈が答える。

「改造、って程の物じゃないですよ。間違ってもビームを発射しない様に、電圧回路のコネクターをテスト・モード側に挿し替えて、模擬戦用の発信器を銃口に固定しただけですから。」

「LMF のプラズマ砲も、作業済みで~す。」

 瑠菜と佳奈に続いて、茜も説明を加える。

「昨日の内に発信器の射線軸調整と、HDG での操作と動作の確認も済ませてあります。」

「そう。なら、オッケー。じゃあ、いよいよ積み込む運搬車の到着を待つばかり、ね。」

「そう言えば、会社の方(ほう)からは、結局、何方(どなた)が来る事になったんですか?」

 恵の問い掛けに、立花先生が答える。

「今回は、飯田部長の他は、トラブル対応担当の試作部の人達ね。畑中君と、大塚さん、倉森さん、それと、新田さんだって。」

 顔触れを聞いて、樹里が尋(たず)ねる。

「あぁ、エレキの方(ほう)、倉森先輩来るんだ。安藤さんとか、ソフト関連の人は、いらっしゃらないんですか?」

「今回、設計三課の方(ほう)では、特に検証する項目も無いから、うちで記録した、何時(いつ)ものログだけ、後で送って呉れたらいい、だそうよ。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

「STORY of HDG」第四話、Pixiv まとめ版を更新しました。

 改訂を進めつつ「なろう」に掲載をしていましたが、昨年末に、遂に bLog 連載に「なろう」版が追い付いてしまいました。と言うか、「なろう」への掲載を優先して作業していたのですが。
 で、後回しになっていた Pixiv のまとめ版、第四話の改訂作業が漸く完了。現在、Pixiv には改訂版がアップされております。
 改訂作業にて、「なろう」版作業で見逃していた誤字・脱字や表記の揺れが発見されたので、bLog 版と「なろう」版も併せて修正を行いました。あと、文章の修正や、句読点の位置調整なども実施してあります。
 まぁ、見直せば見直すだけ、間違いや修正点が出て来る、出て来る(笑)時間を置いて、第零話~第三話も見直した方がいいかも知れません。
 立花先生の Poser フィギュアが Ver.3 対応版が出来たので、表紙画像も作り直してみました。

f:id:motokami_C:20190109210925j:plain

 Pixiv の方は画像の差し替えが出来ないので、あちらはその儘、なんですけどね。
 さて、今週の土曜日からは予定通り、第十一話の掲載を bLog と「なろう」とで開始したいかと思います。打ち込みの方は第六回の途中付近までしか進んでいませんが~まぁ、掲載しつつ打ち込みを進めていきたいかと。

STORY of HDG(第10話.10)

第10話・森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 10-10 ****


「もう、替わって良かったの?」

「うん、大丈夫。あ、それでね緒美ちゃん。緒美ちゃんに、謝っておかなきゃいけない事が有るの。」

「どうしたの?急に。」

 携帯端末から返って来た緒美の問い掛けは、普段と同じトーンだった。恵は、一呼吸置いて、話し出す。

「今日、立花先生にね、中学の頃の事とか、緒美ちゃんのお家(うち)の事とか、勝手に喋っっちゃったの。ごめんなさいね。」

「何事かと思えば…別にいいわよ。秘密にしなきゃならない事とか、特に無いし。森村ちゃんが話してもいいと思ったレベルの事なら、別に構わないし。その辺り、信用してるから。だから、謝ったりする必要は無いわ。」

 緒美の声は平然としていて、携帯端末から聞こえて来る限りでは、怒っているとは恵には思えなかった。実際、緒美は怒ってなどいなかったのだが、それは立花先生が言った通り、二人の間に信頼関係が有ってこその事である。

「そう?でも、今後は気を付ける。ゴメンね。」

「いいから。それより、どうしてそんな話の流れになったのか、そっちの方が気になるわね。」

「あぁ、それが、可笑しいのよ。立花先生が校長先生から、わたしが男の人と付き合ってるって噂が有るから、それに就いて事実関係を確認する様に頼まれたんだって。」

「何よ、それ?」

「可笑しいでしょ~まぁ、それでね、わたしへの聴取(ちょうしゅ)の中で、わたしの中学時代の話になって、その頃って緒美ちゃんと一緒に行動してた事が多いから、緒美ちゃんの話も出て。あと、立花先生がね、緒美ちゃんの以前(まえ)の様子とか気にしてたの。」

「ふぅん…分かった様な、分からない様な、そんな流れね。」

「まぁね、その場の雰囲気とか、ちょっと、簡単には説明し切れない部分は有るかな。」

「それで、誰かと付き合ってる云云(うんぬん)って、誤解は解けたの?」

「勿論。そんな事してる時間が無い事は、立花先生が、一番良く知ってるもの。」

「それもそうよね。」

 携帯端末からは、緒美のクスクスと笑う声が聞こえて来る。そして、緒美が続けて言うのだった。

「しかし、あの立花先生が、どんな顔して、そんな事を尋(たず)ねたのか、それはちょっと興味が有るわね。」

「校長から直直(じきじき)に頼まれた~って、随分とお困りの様子でしたよ。ええ。」

 少し巫山戯(ふざけ)た調子で、恵がそう言うと、又、緒美が「うふふ」と笑うのが聞こえて来る。

「立花先生とは初めて一対一でお話ししたけど、緒美ちゃんが先生の事、信用した理由がちょっと分かった気がするの。」

「そう?…って言うか、森村ちゃんは、まだ先生の事、信用してなかったんだ。」

「う~ん…部活とか、お仕事関連の事に関しては、信頼出来る人だとは思ってたけど。人となりって言うか、パーソナルな部分で、何か得体の知れない感じが有って。例えば、緒美ちゃんの事とか、仕事の都合で利用してるだけなんじゃないかなって。」

「それは、その通りでしょ。それを承知で、わたしは、敢えて乗ったのよ?」

「うん、緒美ちゃんは、そうなんだと思ってた。先生の方にはね、何時(いつ)も必要以上に大人振ろうとしているって言うか、何かそんな感じが違和感として有ったんだけど。」

「そんな事、思ってたの?でも、大人振るったって、実際、大人なんだし、先生も学校と会社と、両方での立場も有るでしょう?」

「それは、そうなんだけど。それにしても、常に力(りき)み過ぎじゃない?って感じてたのよね。」

「相変わらず、森村ちゃんは人を見る目が、厳しいよね。 それで、お話ししてみて、何か分かった?」

「うん。先生は、わたし達が思いもしない程、わたし達の事を対等に見て呉れているのかなって。だからこそ、立場上、常に大人であろうとしているのかなって、そんな感じね。」

「智リンは、真面目だから~って、古寺さんが良く言ってるものね。」

「あははは、そう、そう。でも、そう言う真面目過ぎる所、緒美ちゃんは気に入ったのよね?」

「気に入ったって言うと、上から目線で、何様?って感じだけど。まぁ、そうね。最初、研究の話をした時にね、先生、嗤(わら)わなかったのよ。」

「寧(むし)ろ、先生は笑ったりしないって思えたから、緒美ちゃんは話したんでしょ?」

「森村ちゃんみたいに、確信が有った訳(わけ)じゃないけど。」

「あら、わたしだって、常に確信が有る訳(わけ)じゃないわよ。」

「そう? まぁ、あの時はね、不思議とそんな風(ふう)に思えたのよね。予感って言うのかな? でも、まさかね、こんな事になると迄(まで)は、流石に想像もしてなかったけど。」

 緒美が半ば呆(あき)れた様に、そう言うと、恵は「うふふ」と笑って同意するのだった。

「でしょうね。それに就いては先生もね、『ここ迄(まで)が順調過ぎた』って言ってたわ。」

 そこで、恵は昼間の、立花先生との歓談内容を、ふと思い出し、言葉を続ける。

「あ、そうそう。今日、立花先生から、ちょっと興味深いお話を聞いたのよ。」

「どんなお話?」

「エイリアンが、地球に侵攻して来た理由は何か?って、お話。」

「それは確かに興味深いけど、結論なんか出せそうもないテーマね。」

「それはそうなんだけど。 このお話は、全部話すと長くなるから、帰って来たら、緒美ちゃんも立花先生に聞いてみたらいいわ。わたし達とは視点の違う説が聞けて、流石、先生って言う感じだった。」

「そうなの? それじゃ、学校に戻るのを、楽しみにしてる。」

 恵は、緒美の声を聞き乍(なが)ら、ベッドの上で座り直そうと姿勢を変えるが、その時、ヘッドボードに付けられている目覚ましアラームの時刻表示に、ふと、目が留まった。時刻は午後十時半に、なろうかとしている。

「さて、そろそろ長くなって来たから…緒美ちゃんは、早目に休んでね。あ、その前に、お風呂はこれから?」

「うん、そうなの。」

「明日からも講習が続くんでしょうけど、無理はしないでね。」

「あぁ、ありがとう。それじゃ、其方(そちら)の方は、お願いね。又、連絡するから。」

「うん、それじゃ、お休み。直ちゃんにも、無理しないでって伝えておいて。」

「うん、伝えておく。お休み。」

 そして、通話は終了したのだった。
 恵は、ほんのりと暖まった携帯端末を握った儘(まま)、後ろ向きに、ベッドの上に上体を倒した。ぼんやりと、天井を見詰めつつ、予定していた夏休みの宿題の事を思い出す。
 何だか、今から宿題、数学の問題集に取り組む気分にもなれず、恵はその儘(まま)、五分程、横になっていた。数学は恵に取っては得意な教科だったが、一日の終わりに緒美と会話が出来た、そんな幸せな気分をリセットするのが勿体無(もったいな)い様な気がして、どうしても問題集を開く気持ちになれそうもなかったのだ。

 結局、恵は宿題を翌日に回して、今日は幸せな気分の儘(まま)、就寝する事に決めたのだった。
 同室の直美が居ないのにも、流石に三日目にもなると慣れて来て、簡単に身支度をすると、ベッドに潜り込み部屋の灯りを消した。
 こうして、恵の、学校で過ごす夏休みの或(ある)一日は、終わったのだ。

 

- 第10話・了 -

 

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STORY of HDG(第10話.09)

第10話・森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 10-09 ****


 それに対し、一呼吸置いて、塚元校長は話し掛ける。

「所で、立花先生。兵器開発部の活動の方は順調?」

 頭を上げた立花先生は、訝(いぶか)し気(げ)に答えた。

「はぁ、順調…そうですね、当初想定の三倍ぐらい順調で、正直、恐い程です。」

「そんなに?」

「はい、わたしも、鬼塚さん達が在学中に、試作機の完成に目処(めど)が付く所迄(まで)、作業が進むとは思っていませんでしたから。」

「そう。会社の方が随分と急いでいる様にも見えるのだけれど、生徒達に無理はさせてない?」

「生徒達は、楽しそうにやってますので、御心配は不要かと。わたしには寧(むし)ろ、会社の方が無理をしているんじゃないかと、心配な位(ぐらい)で。」

「そうですか…。」

 塚元校長はソファーに身を沈めて、一息を吐(つ)くのだった。立花先生は塚元校長に、素直に問い掛ける。

「あの…何か、有りましたでしょうか?」

「いいえ。そう言う訳(わけ)では無いのよ。徒(ただ)、お昼に、彼女達の様子を目にしたのでね…。」

「はい。」

「…夏休みなのに、帰省もしないで部活を続けているのは、どうかしら、と、そう思ったものだから。例えば、開発が遅れ気味で、会社の方から、何かプレッシャーを掛けられているのかしら?と、勘繰(かんぐ)ってもみたりしてね。」

 塚元校長は、眉間に皺を寄せて目を細め、苦笑いの様な、複雑な笑みを浮かべる。

「今日は理事長達と、会食されていらっしゃった様でしたけど。その辺りの事は、話題には?」

「正直、兵器開発部の活動に就いては、余り教えては貰えないのよ。勿論、会社の方で秘密になっている事項も有るのでしょうから、此方(こちら)からは、敢えて聞かない、と言う事情も有るのだけれど。まぁ、会社の方(ほう)の計画だとか、技術的な内容に就いては、聞いてみた所で、わたしが理解出来るかどうか、怪しいものですけどね。」

「そう、ですね…開示出来ない内容を避けて、十分に説明するのは、なかなかに難しいですけど…。」

「いいのよ、立花先生。年寄りの愚痴だと思って、聞き流してちょうだい。」

 立花先生は座り直す様に姿勢を正し、両手を膝の上に乗せ、身を乗り出す様にして言うのだった。

「何(いず)れにせよ、あの子達は会社から指示されているからではなく、主体的に活動していますので、御心配は不要かと思います。それに、あの年頃になれば、親元に帰るよりも、友達と一緒に過ごす方が楽しいものですし。」

「ええ、それも十分承知しているんですよ。学校に残っているのは、あの子達だけではないですし、ね。」

「校長は、本社から委託されている開発の内容に就いては、どの程度御存知なのでしょう?」

「そうね…技術的な細かい事は、勿論、良くは…殆(ほとん)ど知らないわね。でも、社会的に意義のある物だ、と言う事は理解していますよ。前園先生や重徳先生みたいな技術系の先生達は、わたしよりは把握してらっしゃるとは思いますけど。」

「社会的に…ですか。何だかんだ言っても、結局は兵器ですから。先生方(がた)から、理解を得られているのは、幸いと言うべきか、意外と言うべきか…。」

 すると、塚元校長は微笑んで言うのだった。

「普通の学校なら、理解されないかも知れませんね。正直、わたしも、塚元達が興した会社が、兵器に迄(まで)手を出すと聞いた時は、穏やかな気持ちではなかったですけど。でも、そんな物も必要なのが、世の中って言う物ですからね。特に、今、わたし達が相手にしているのは、話の通じない相手の様ですから。」

「はい。」

 立花先生は、短く返事をして、微笑み返すのだった。

「あぁ、そうそう、立花先生。」

 塚元校長は急に、身を乗り出す様に話し掛けて来る。

「この後、もう暫(しばら)く、一時間位(ぐらい)、大丈夫かしら?」

「はぁ、まぁ。 何(なん)でしょうか?」

「実はね、今日は珍しく、丸一日、予定がぽっかり空いてしまって。以前から、立花先生とはじっくり、お話をしてみたかったの。宜しいかしら?」

「わたしは、構いませんけど。」

 幸か不幸か、立花先生にも急ぎの用事は無かったので、塚元校長の申し出を受ける事にしたのである。

「そう、良かった。あ、それなら、お茶でも淹(い)れましょうか。お菓子も有るのよ。」

 ソファーから立って、塚元校長はお茶の準備を始める。立花先生も立ち上がり、言うのだった。

「あぁ、あの、お構い無く…。」

「いいから、いいから。座っててちょうだい。」

 この後、二人の茶飲話は学校に関する四方山話(よもやまばなし)に始まり、天野重工の話題を経て、世界情勢へと広がり、立花先生が解放される迄(まで)に、結局、三時間を要したのだった。
 過ぎ去った時間に気が付いた時には、流石に立花先生も驚愕したのだが、それ程、苦痛に感じる時間でもなかったし、それなりに有意義に感じられた様でもあり、そう思えるのは塚元校長の人徳なのだろうかと、校長室を出て自分の居室へ向かう道すがら、立花先生は考えたのである。


 その日の夜、時刻にして午後十時を過ぎた頃。同室の直美が居ないので、普段よりも早めに入浴を済ませ、恵は自室へと戻って来た。ふと、机の上に置いてあった携帯端末に目をやると、通話着信の履歴が残されているのに、恵は気が付いた。携帯端末を手に取り、履歴の詳細を確認すると、発信者として表示されたのは緒美の名前だった。履歴に残された時刻は、十五分程前である。そこで、緒美にコールを送ろうかと恵が考えていた時、再び、手に持っていた携帯端末への通話着信が、メロディと表示とで通知されるのだった。
 表示されている発信元は、緒美である。恵は慌てて、通話の操作をする。

「はい、緒美ちゃん?」

「あ、今度は繋がった。」

 携帯端末から、緒美の声が聞こえて来た。恵は直ぐに、話し掛ける。

「さっき、連絡して呉れたみたいね。」

「うん、忙しかった?今、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。さっきはお風呂に行ってたの。緒美ちゃんは?」

「わたし達はこれから。さっき、漸(ようや)く夕食を済ませて一息吐(つ)いた所。」

「そんな遅く迄(まで)、講習?」

「まぁね~。思ってたよりも、ハードだわ。兎に角、早く飛行の講習に入らなくちゃいけないから、最初の三日で相当詰め込むみたい。飛行時間が規定に届かないと、免許が出ないそうなのよ。取り敢えず、合宿前に一週間、飛行機部の先輩達に、予習でレクチャー受けておいて良かったわ。」

「大変ねぇ。」

「それで、そっちの方はどう?何か、問題とか無い?」

「うん。瑠菜さん達の方は、実松課長と前園先生にお任せ、だからね~。特訓は順調に進んでる見たい。」

「そう。先生達に任せて、森村ちゃんは帰省しても良かったのに。」

「でも、上級生が居なくなる訳(わけ)にも、いかないじゃない?緒美ちゃんの代役は、ちゃんと務めますよ。任せて。」

「うん、ありがとう。」

「緒美ちゃんの方は、直ちゃんや、飛行機部の人達とは、上手くやれてる?」

「あぁ、ご心配無く。大丈夫よ。まぁ、新島ちゃんとはね、森村ちゃんが仲良くやってる理由が、解った様な気がするわ。新島ちゃんと一対一で話したりしたのは、考えてみたら、今回が初めてだものね。何時(いつ)も、森村ちゃんが間に入って呉れてたじゃない?」

 そこで、直美の声が、少し遠くから聞こえて来るのだった。

「わたしが、どうかした~?」

「別に、悪口は言ってないでしょ。」

 緒美が携帯端末を少し離し、直美に返事をしている声が聞こえて来る。
 恵はクスクスと笑いつつ、机の前から自分のベッドの方へと移動する。そして、ベッドに腰掛け、緒美に尋ねる。

「直ちゃん、傍(そば)に居るの?」

「そうよ、飛行機部の二人とで、四人部屋なの。替わろうか?新島ちゃんと。」

 飛行機部の二人とは、合宿講習に参加している飛行機部員の二年生女子である。二人共、学科が電気工学科であった為、緒美達とは同学年でも余り面識は無かったのだ。余談だが、その二人の名前は、金子さんと、武東さんである。

「そうね、ちょっとだけお願い。」

「新島ちゃん、替わってって。」

 再び、緒美が携帯端末を離して、直美に呼び掛ける声が聞こえ、次に直美の声が聞こえた。

「…あ~、もしもし?」

「お疲れ様。順調?直ちゃん。」

「ん~順調なのかなぁ。まぁ、座学の講習が退屈なのは、確かね。明日からは、シミュレーター使うそうだから、それは楽しみにしてるんだけど。そっちの方は、瑠菜と佳奈、ちゃんとやってる?まぁ、前園先生も居るから、心配はしてないけどね。」

「こっちは、大丈夫よ。取り敢えず、直ちゃんの声が元気そうで、安心した。」

「元気そうって、まだ三日目よ。そっちこそ、わたしが居なくて寂しいとか、思ってないでしょうね?」

「え~ちょっと寂しいよ。一年、一緒に居た人が居ないんだもん。其方(そちら)は賑やかそうで、羨(うらや)ましいわ。」

「森村は、再来週には帰省するんでしょ?それまでの辛抱よ。」

「それに関しては、申し訳(わけ)無いわね。直ちゃん達は、帰省してる余裕も無いのに。」

「前に言ったでしょ、うちは問題無いって。わたしも、あとであなたに連絡しようかと思ってたんだけど、これでその手間も省けたわ~じゃ、鬼塚に替わるね。」

「あ、うん…。」

 そして、向こう側では携帯端末が緒美の手に戻り、緒美の声が聞こえて来る。

 

- to be continued …-

 

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STORY of HDG(第10話.08)

第10話・森村 恵(モリムラ メグミ)

**** 10-08 ****


「そう言う事。どうせ集まるのなら、どこか、料亭とかレストランにでも、行けばいいのにね。重役クラスの顔触(かおぶれ)なんだから。」

 と、呆(あき)れ顔れで立花先生が言うと、隣に座る恵が微笑んで言葉を返す。

「この辺りじゃ、気の利いたお店も無いからじゃないですか?」

「街の方へ行けば、それなりに有るんじゃない? まぁ、本社でも、社長とか部長とか、普通に社食でお昼食べてたりするんだけどね…うちの会社って。」

 その言葉を受けて、今度は斜向(はすむ)かいの席の樹里が、微笑んで言うのだった。

「上役が庶民感覚って言うのは、素敵じゃないですか。」

「う~ん…要は『考えよう』なんだけど。上層部には『それなり』の振る舞いをして欲しいって、思う人も居るのよね。」

 今度は、正面に座っている瑠菜が、立花先生に尋ねる。

「先生も、ですか?」

「わたし? わたしは、別に、本人の好きにすればいいって思うけど。でも、偉い人達との食事は嫌よね、気を遣うから。」

「それはそれで、納得です。」

 隣で、恵が深く頷(うなず)くのだった。

「だから…そこに付き合わされてる、鈴木さんと川崎さんには、同情するわ~。」

 立花先生の感想に、再び瑠菜が質問を挟(さしはさ)む。

「あれ?立花先生、重徳先生の助手のお二人と、面識が有ったんですか?」

「あぁ、あなた達は知らないわよね。去年の四月、わたしも、あのお二人と、こっちに講師として派遣されて来たのよ。だから去年の三月迄(まで)、赴任前の三ヶ月程、一緒に研修とか受けてたの。こっちに来てからは、殆(ほとん)ど顔を合わせなくなったけどね。」

 そこで、疑問を口にしたのは、佳奈である。

「でも、そう言った意味の会合なら、理事長の秘書さん迄(まで)一緒なのは、ちょっと不思議ですね。」

「お、鋭いね、佳奈。」

「でしょ~。えへへ。」

 囃(はや)す様に瑠菜が声を掛けると、佳奈は素直に笑って答えた。そして、立花先生が佳奈の疑問に答える。

「あぁ、加納さんはね、理事長の用心棒的な人だから。大体、一緒に行動してるみたいよ。歳の差は有るけど、馬は合うらしくて、随分と仲はいいみたいよね。」

「ヨージンボー?」

 『用心棒』と言う言葉の意味を知らない佳奈が聞き返すと、彼女の右隣に座っている樹里が答える。

「ボディーガードの事よ、佳奈ちゃん。」

「あぁ~前に、映画で見た。でも、そんな風(ふう)には見えないですよね。」

 感心する佳奈に、立花先生は追加の解説をするのだった。

「まぁ、基本的には可成り優秀な秘書さんだそうだけど、理事長が使ってる社用機の専属パイロットも兼任しててね。元は航空防衛軍の戦闘機パイロットだったそうだから、それで護衛役も兼ねてるらしいの。」

 それを聞いて今度は瑠菜が、意外そうに言うのだった。

「ふぅん。わたしにも、普通のオジサンにしか見えませんけど。」

「ちょっと、失礼よ、瑠菜ちゃん。」

 苦笑いしつつ、樹里は瑠菜に苦言を呈するのだが、立花先生も笑って、瑠菜に同意する。

「あはは、わたしも最初聞いた時は、そう思ったわ。瑠菜ちゃん。」

「先生まで…。」

 苦笑いの儘(まま)、そう言い掛けた時に、樹里は向かい側の席の、維月の様子がおかしい事に気が付き、声を掛ける。

「…維月ちゃん、大丈夫?」

 維月は右手の指先を額に当て、俯(うつむ)いていた顔を上げて答える。

「あぁ、ゴメン。大丈夫、大丈夫。」

 隣に座る恵も、声を掛ける。

「どうしたの?頭痛?」

「えぇ、ちょっと。風邪でも引いたのかな…。」

 すると、向かいの席から手を伸ばし、樹里が右の掌(てのひら)を維月の額に当てる。

「熱は…無い様よね。」

「そんな大袈裟(おおげさ)にする程の事じゃ無いよ。咳(せき)とか、悪寒(おかん)とかは無いし、食欲も有るから、まぁ、大丈夫。それに、お昼迄(まで)は、何とも無かったんだし。」

 立花先生も、心配気(げ)に尋ねる。

「酷(ひど)く痛むの?」

「いえ、それ程でも。」

「なら、いいけど。何日も続く様だったり、周期的に痛む様なら、一度、検査して貰った方がいいわよ。井上さん、普段から頭痛持ちって訳(わけ)では無いんでしょ?」

「そうですね。取り敢えず今日は、頭痛薬飲んで、寮で安静にしてます。」

 そう言って、維月が席を立つと、樹里も席を立つのだった。

「じゃ、部屋迄(まで)、送ってく。」

「いいよ、一人で大丈夫だから。」

「いいの。わたしも、もう、食べ終わったし。気の済む様にさせて。 じゃ、みんな、お先に~。」

 樹里はてきぱきと、維月の食べ終わった食器と、自分の食器を重ね、二人分のトレイを一つに纏(まと)めて、食器の返却口へと向かう。そんな樹里を追う様に、維月も歩き出すのだった。

「そこまでしなくても、いいのに~。大した事、無いんだから。」

「いいから、いいから。」

 そんな二人を席に残った四人が、口々に「お大事に」と言って、送り出すのだった。


 それから暫(しばら)くして、午後一時半、約束の時刻きっかりに立花先生は、校長室のドアを叩くのだった。

「どうぞ。」

 室内からの声を確認して、立花先生はドアを押し開ける。

「失礼します。」

「時間通りですね、立花先生。」

「恐縮です。」

「あぁ、どうぞ。座ってくださいな。」

 塚元校長は窓側の執務席を立ち、その前に置かれている応接用のソファーを指し示す。立花先生が案内されたソファーへと向かうと、その対面位置のソファーへと、塚元校長も移動して来るのだった。

「どうぞ、座ってちょうだい。」

 言い乍(なが)ら、塚元校長がソファーへと腰を下ろすのに続いて、立花先生も一礼して腰を下ろす。
 そして、先に声を掛けたのは、塚元校長だった。

「では、早速ですが。 随分と早く、調査が出来た様ですね。」

「はい。本人が素直に、聴取(ちょうしゅ)に応じて呉れましたので。」

「それとなく聞いてくださいね、ってお願いしたのに。」

「そう言うのは、苦手です、と、わたしも申し上げましたよ?」

 塚元校長は小さな溜息を一つ吐(つ)いて、眼鏡を掛け直し、言った。

「そうでしたね。それでは、報告を伺(うかが)いましょうか。」

「結論としては、先日、わたしが申し上げた通りで、森村さんに男性と交際している様な事実はありません。噂の根拠となったらしいのは、彼女が交際の申し入れを断る際に『他に好きな人がいるので、交際出来ません』と言った言葉に、尾鰭(おひれ)が付いたのだと、推測されます。」

「彼女が、そう言ったの?その『他に好きな人が』って。」

「森村さんの主張では。 断られた方にも、確認を取ってみましょうか?」

「流石に、それは止めておきましょう。袖にされた男子が、気の毒だわ。」

「取り敢えず、誰かとの交際の事実が無い事は、放課後、寮に帰る迄(まで)の殆(ほとん)どの時間、部活動でわたしが森村さんとは一緒に過ごしていますので、間違いは無いです。寮に戻ってから、夜中に出掛けたりしていない事は、寮のセキュリティの記録が証拠になりますし。そんな事が、もしも有れば、それこそ大問題ですけど。実際は、その様な報告は今の所、何も有りません。」

「そうですね。それで、『他に好きな人』って言うのは…。」

 塚元校長が、そう言い掛けた所で、遮(さえぎ)る様に立花先生は声を上げる。

「ブラフ…って言うと、ちょっと違いますけど、まぁ、上手く断る為の方便(ほうべん)だそうです。仮にそれが彼女の嘘だったとしても、それは内心の問題ですので。 実際の行動に問題が無ければ、わたし達が口出しする事では無いのかな、と。如何(いかが)でしょうか?」

 塚元校長は、少し間を置いて、言った。

「解りました。立花先生、この件は、これでお仕舞い、と言う事にしましょう。 聞き辛(づら)い事だったでしょうけれど、良く確かめてくださいましたね。ご苦労様でした。」

「いえ、実の所、本人的には、あの噂は寧(むし)ろ好都合だったみたいで。昨年から、彼女にはその気も無いのに、男子達に相次いで交際を申し込まれるのが、それなりに負担に感じていた様子でしたから。」

「…そう。だとすると、学校側としては、特に何もしないで静観していた方がいいのかしらね。」

「はい、当面は。噂の内容に、今以上の尾鰭(おひれ)が付かなければ、放置しておいても問題は無いかと。」

「そうですね。矢張り、立花先生に調査をお願いして良かったわ。」

「そうでしょうか?」

「ええ、立花先生でなかったら、森村さんが素直に話したかどうか分かりませんし、彼女が素直に話したとして、先程の結論を他の先生から聞いたら、わたしが素直に納得出来たかどうか、怪しいわ。」

「それは…恐縮です。」

 立花先生は一度、背筋を伸ばし、座った儘(まま)で深々と頭を下げるのだった。

 

- to be continued …-

 

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