WebLog for HDG

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ bLOG です。

Poser 用 3D データ製品「PROJECT HDG」に関するまとめ WebLog です。

STORY of HDG(第12話.01)

第12話・天野 茜(アマノ アカネ)とRuby(ルビィ)

**** 12-01 ****


 2072年7月23日・土曜日。

「おはようございま~す。」

 そう声を掛け乍(なが)ら、兵器開発部の部室に入って来たのは、瑠菜と佳奈の二人である。
 時刻は午前十時二十分、部室内に居た直美と恵が「おはよう。」と声を返すと、続いて Ruby も合成音声で挨拶を返すのだった。

「おはようございます、瑠菜、佳奈。」

「はい、Ruby も、おはよう。調子はどう?」

 瑠菜が室内中央の長机へと進みつつ、そう問い掛けるので、Ruby も答える。

「ハイ、問題はありません。」

「そう、それは何よりね~。」

 瑠菜が、恵の向かい側の席に、佳奈がその左隣に腰を下ろすと、恵が声を掛けるのだった。

「随分と早いわね。昨日、遅かったんだから、今日は昼からでいいって言ってたのに。」

 前日の、模擬戦での一件のあと、天野重工のスタッフが機材を学校に持ち帰ったのが、午後三時を回った頃だった。それから HDG や LMF をトランスポーターから降ろし、畑中達は HDG と LMF の点検作業を行ったのである。それは実戦を行ったから実施された訳(わけ)ではなく、模擬戦での負荷の影響を確認する為に、元元、予定されていた作業だった。
 点検は主に目視にて行われたのだが、パーツに因っては取り外して計測したりもされたので、結果、作業が終わった頃には、午後十一時を過ぎていたのである。直美と瑠菜、そして佳奈の三人は、その点検作業に最後まで参加していたのだった。
 一方で、緒美や茜達、他のメンバーはと言うと、Ruby に LMF の『腕を使った格闘戦』を如何(いか)に教示するか、その方法について、打ち合わせをしていたのである。
 因(ちな)みに、天野重工のスタッフ達は前日に続いて、昨夜も学校内の寮に宿泊し、翌朝、八時過ぎには学校を出発していた。

「まぁ、大した理由は無いんですけど、ね。」

 そう瑠菜は恵に答えて、佳奈の方に視線を送ると、続いて佳奈が答えた。

「うん。部屋で、のんびりしてる気分にもなれなかったので~。」

「そう。」

「所で恵先輩、部長は?」

 部室に緒美が不在なのが気に掛かり、瑠菜は尋(たず)ねた。緒美が居て、恵か直美が居ないのなら不思議に思わなかったのだろうが、緒美だけが不在なのには、瑠菜は違和感を覚えずにはいられなかったのだ。
 恵は、事も無げに答えた。

「ああ、部長と天野さんはね、お呼びが掛かって理事長室。立花先生と一緒にね。」

「昨日の件で、二人だけ?」

「部長と茜ン、叱られてるんですか?」

 瑠菜と佳奈は相次いで、心配気(しんぱいげ)な声を上げる。恵は二人を安心させるように、微笑んで言った。

「今回は現場に立花先生も、飯田部長も居たから、二人には事実確認をしたいだけ、って先生は言ってたけどね~まぁ、心配は要らないでしょう。」

「そう、ですか。理事長って、昨日は学校(こっち)に居なかったんですよね? 何時(いつ)こっちへ?」

 その瑠菜の質問には、直美が答える。

「今朝、七時頃に到着したみたいよ、社用機で。寮でも、飛行機の音が聞こえてたと思うけど。」

「その時間は良く寝てたみたいですね、わたしは。佳奈は知ってた?」

「ううん、気が付かなかった。」

「そう、まぁ、どんな話だったのかは、部長達が戻ったら聞いてみましょう。ねぇ、副部長。」

「だね。」

「樹里達、ソフト部隊は…。」

 そう瑠菜が途中まで言った所で、再び直美が答える。

「昨日、出てた話の通り。通信会議室で本社の安藤さん達と LMF の教示に使う、シミュレーション・ソフトの打ち合わせ。井上とクラウディアも、そっちに行ってるわ。」

「…ですか。あと、ボードレールは…バスケ部へ?」

 その問いには、恵が微笑んで答えた。

「そうよ~。」

「ブリリンは、掛け持ちだから、大変だよね~。」

 ブリジットを『ブリリン』と呼ぶのは、言う迄(まで)もないが、佳奈である。
 その佳奈の発言を受けて、直美が言うのだった。

「そうだね~。この間(あいだ)、田中が、冬の大会の予選から、ブリジットをレギュラーで使いたいって言ってたからなぁ、秋の予選に向けて、これから練習が大変になるんじゃないかな。」

「田中…先輩って、バスケ部のキャプテンの?」

 直美に聞き返したのは、瑠菜である。

「そう、部長の。」

「三年生で、部長でキャプテンって、天神ヶ崎(うち)だからこそですよね。普通の高校なら、三年生は大学受験とかで大変なのに。」

「うちの学校でも、普通科の三年生は大変みたいだよ。」

 直美は苦笑いで、そう言うのだった。それに、恵が付言するのである。

「特課のわたし達は、よっぽど成績が悪くない限り、天野重工行きが決まってるからね~頑張って特課に合格した甲斐が有った、ってものだわ。」

 すると、佳奈が思い付いた様に、不穏な仮定の話をするのだった。

「もしも、先輩達に『秋で引退します』とか言われたら、わたし達じゃ、この部活、回せないよね~。」

「ちょっと佳奈、恐い事、言わないで~。」

「あはは、大丈夫よ。わたし達は、引退なんてしないから~。」

 恵は明るく笑って、そう言うのだが、直美は真面目な顔で、先行きに就いて、示唆しておくのだった。

「それでも、来年になったら卒業はするからね。そのあとの事は、二年生で考えておいてよ。三役の分担とか。」

「うわぁ、やだな~卒業しないでくださいよ、先輩方(がた)~。」

 瑠菜は長机に突っ伏す様にして、若干、甘えた声で、そう言った。正面に座る恵は、微笑んで言葉を返す。

「あはは~そう言う訳(わけ)にはいきませ~ん。」

 その時、誰かの携帯端末から、着信のメロディが流れ始める。間も無く、直美が自分だと気付き、着用していたワンピース型の夏用制服のポケットから、携帯端末を取り出す。ディスプレイを確認すると、先程、話題に出ていたバスケ部の田中部長からの通話要請だった。正(まさ)に『噂をすれば影』だなと思いつつ、直美は通話を受ける操作をする。

「あ~もしもし、どうしたの?…。」

 直美が一言、そう訊(き)くと、田中部長は聊(いささ)か興奮している様子で、一方的に喋(しゃべ)り始めた。しかし、直美には相手が言わんとしている内容が、今一つ把握出来なかった。

「…何よ、話が違うって…え?…退部?…ちょっ…だから、解る様に、落ち着いて話して。…うん…うん?ブリジットが?…あ~…ああ~うん、ちょっと…うん、だから、ちょっと待って。今から、そっち行くから…うん、バスケ部の部室ね?知ってるから…うん、じゃ行くから、待ってて。…うん、じゃ。」

 直美は通話を終えると、深く息を吐(は)いた。その様子を見て、恵が問い掛ける。

「どうしたの?ボードレールさんに何か有った?」

「いやぁ、バスケ部の田中なんだけどね。ブリジットが急に退部したいって言ってるって、ちょっとパニクってた。」

「あらま。」

 直美が立ち上がると、瑠菜が顔を上げて訊(き)く。

「何でまた、急に?」

「理由を聞いても『言えません』の一点張りだそうで、それで余計に田中が…ね。」

 恵は特に驚くでもなく、さらりと言う。

「まぁ、解らないでもないかな、ボードレールさんの性格だと。」

「うん。取り敢えず、バスケ部へ行って来る。 二人は寮から、自転車で来てる?」

 直美は、瑠菜と佳奈に尋(たず)ねる。北端側に位置する学生寮から、南端側となる滑走路や格納庫へは、学校の敷地内で端から端への移動となるので、瑠菜と佳奈は良く自転車を利用していたのだ。因(ちな)みにその自転車は、電動アシスト付きの共有自転車で、女子寮には三十台が用意されている。

「あ、はい。使ってください。」

「じゃ、鍵、解除しなきゃだから、下まで一緒に行きますね~。」

 瑠菜よりも先に、佳奈がスッと立ち上がり、そう言った。共用自転車のロックを解除するのには、借受時に登録した携帯端末が必要なのだ。

「悪いね~。じゃ、行って来ま~す。」

「ちょっと、出て来るね~瑠菜リン。」

 直美と佳奈は連れ立って、部室を出て行く。二人が外階段を降りて行く、その足音を聞き乍(なが)ら、部室に残った瑠菜は恵に問い掛けた。

「恵先輩、ボードレールの理由が解るって、何です?」

「ああ…。」

 恵は、微笑んで答える。

「…昨日みたいな事が有るとね。ほら、ボードレールさんは、天野さんの事が大好きでしょ。」

 瑠菜は苦笑いしつつ、言った。

「その言い方には、語弊(ごへい)が有ると思うんですけど、まぁ、仰(おっしゃ)る意味は解ります。」

「でしょ?」

 恵が「うふふ」と笑っていると、不意に Ruby が声を掛けて来るのだった。

「恵、ブリジットが茜を好きだと言う表現に、何故、語弊(ごへい)が有るのですか? 或いは、ブリジットは茜が好きだと言う認識は、間違っていますか?」

 Ruby の質問を聞いて、恵は思わず吹き出し、そして声を抑えて笑っていた。

「わたしの質問は、何か間違っていたでしょうか?」

 落ち着いた合成音で、Ruby は重ねて問い掛けて来るが、恵は相変わらず、声を抑えて肩を震わせていた。仕方が無いので、取り敢えず、瑠菜が Ruby に対して答える。

Ruby、あなたの認識は間違ってないよ。安心して。」

「そうですか、瑠菜。安心しました。」

 恵は一度、大きく息を吐(は)いて呼吸を整え、Ruby に話し始める。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.19)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-19 ****


 そして緒美は、運転席の直ぐ後ろの席に着いている、立花先生の隣に腰を下ろす。

「あら、どうかした?緒美ちゃん。」

 立花先生は右肘を窓枠に掛け、首元を右手で支える様に、少し窓に寄り掛かる様に座っていたが、視線だけを左側へ送って、隣に座った緒美に尋(たず)ねた。
 緒美は少し、視線を落として、静かに答える。

「先生には、謝っておかなければいけない事が有ります。」

「今日の事?」

「いえ、先生は仕事の為なら、常識とか法律とか、犠牲を厭(いと)わない人だと思っていたので。今日みたいに、わたし達の安全を最優先に考えて頂けるとは、正直、思っていませんでした。」

「あぁ、それなら、あなたの思ってた通りだから、別に謝る必要は無いわ。まぁそれでも、確かに常識なんかは気にしないけど、流石に法令違反はやらないわよ。これでも、法学を学んだ者の端くれですからね。」

 そう言って、立花先生はクスクスと笑う。そして微笑んで、緒美に尋(たず)ねる。

「それでも、今日の場合は、あなたや茜ちゃんの判断の方が、正しかったのよね?」

「はい。」

 緒美は立花先生と視線を合わせ、躊躇(ちゅうちょ)無く断言した。

「だとすると、ちょっと、みっともなかったかな~わたし。」

 立花先生は視線を上に向け、息を吐(は)く。緒美は立花先生の方へ向いた儘(まま)、言うのだった。

「そんな事は無いですよ。先生のお気持ちは、嬉しかったですし、先生の様に思うのが、普通だと思いますから。」

「そう? でも、飯田部長は違った様よね。」

「多分、飯田部長は、防衛軍の救出作戦に乗ってしまった場合、此方(こちら)の機材を現場に残しての避難にしかならないので、それで損害が出るのを危惧されたのではないかと。」

「そう言う、計算?」

「はい。まぁ、防衛軍の救出作戦を待っていたら、その前に、格納庫にエイリアン・ドローンが到達して、人的被害が出てたと思いますけどね、あの状況では。」

「ふうん…そう言う所、わたしは読めないのよねぇ…。」

 再び、立花先生は溜息を吐(つ)き、天井を見上げる様に上を向く。すると、シートのヘッド・レストの上から、顔を覗(のぞ)かせている直美と視線がぶつかるのだった。直美は、微笑んで言った。

「それが普通ですって、先生。」

「そうそう。」

 直美の隣では、同じ様に緒美の席の上から顔を出している恵が、相槌(あいづち)を打つのだった。

「あなた達に慰められてるってのも、大人として、どうかと思うわ~。」

 立花先生が自虐的に、そう言うので、直美は笑って、言葉を返す。

「あはは、それはそうかもですけど。でも、まぁ、学校の先生としては、正しい対応だったんじゃないです?」

 直美に同意して、恵も言うのだった。

「そうそう。この二年で、随分と先生らしくなったんじゃないですか?立花先生。」

「じゃあ、最初はどんな風(ふう)に見えてたのよ?」

 その問い掛けには、透(す)かさず直美が答えた。

「そりゃ、仕事中毒の胡散臭(うさんくさ)い感じのビジネスウーマン…的な?」

 立花先生は顔を顰(しか)め、一言を返す。

「酷(ひど)いわね。」

「まぁ、その手の人種を、わたし達が見慣れてなかったから~かもですね。」

 恵は、直美の言を否定するでもなく、立花先生へのフォローも忘れないのであった。

「まぁ、そもそも『教師』なんて柄(がら)じゃないんだけど、それは兎も角。あなた達はどうだったのよ? 矢っ張り、緒美ちゃん張(ば)りに、状況を読んでいた訳(わけ)?」

 その問いには、笑って、直美が答えた。

「あはは、まさか。あんな読みが出来るのは、鬼塚位(くらい)ですよ? わたし達は、前回の時の天野の様子とか、見てたし…。」

 続いて、直美に対して恵が言う。

「それに中学の時の、ボードレールさんとの件とか、聞いちゃったから。まぁ、天野さんは、ああ言う状況だと、言っても聞かないだろう、とは思ったよね。」

「どう言う事?」

 立花先生は、直美と恵の言わんとする意味が、直ぐには解らなかった。そして、恵が答える。

「天野さんは、出来る筈(はず)だった事をやらないで、あとで後悔するのが嫌なんですよ。その時、出来る事は、その時にやる、って言うのかな。そう言う、タイプ。」

「正義感とか、自己犠牲とか、ではなくて?」

「違うと思いますね。勿論、人の不幸とか、見たくはないんでしょうけど。」

 恵の回答を聞いて、緒美は思い出した様に言った。

「そう言えば、さっきは『自己満足の為』だって、言ってたわね。」

「そんな話、してたの?」

 緒美の発言に、少し驚く立花先生に対し、恵は天啓を得たかの様に嬉しそうに言った。

「『自己満足』!そう、その言葉がピッタリよね。天野さんの行動原理には。」

 恵の隣で、直美が眉を顰(ひそ)めて聞き返す。

「そうなの?」

「そうよ。例えば、天野さんが勉強してるの、成績の順位とか、テストの点数とかが目的じゃないもの。彼女は自分の知識欲とか、理解欲とかを満たす為にやってる様子だし。向いてないって言われてても、一度も勝てなかったのに、剣道を八年間も続けてたのも、自分が納得の出来る鍛練を積むのが目的なら、不思議は無いでしょ? 他人(ひと)の評価よりも、自己評価とか自分で満足出来るかどうかの方が、優先度が高いんじゃないかしら? 多分、天野さんは競技としての勝負とかには、殆(ほとん)ど興味は無かったのよ。」

「一度位(ぐらい)は、一本取ってみたかった、とは言ってたけどね。」

「そりゃ、その位(くらい)の欲は出て来るでしょうけど。でも、八年もやってて、たった一勝でいいって、矢っ張り、勝ち負けはどうでも良かった、って事じゃない?」

「そう言う、取り方も出来るか~。」

 少し呆(あき)れ気味に直美が声を上げると、そこに立花先生が割って入るのだった。

「ちょっと待って、恵ちゃん。天野さんが、剣道で一勝も、って?」

 その問いに、直美が答える。

「ああ、この前の、理事長室に呼ばれた時の帰り道で、そんな話が出まして。わたし達も、それを聞いて驚いたんですけどね。」

「それって、茜ちゃんが謙遜(けんそん)して言ってるんじゃなくって?」

「それは無いかと。元は、ブリジットがバラした事ですし、ねぇ。」

 直美は、隣の恵に同意を求める。すると、恵は真面目な顔で頷(うなず)く。
 その時、立花先生は先刻の恵の様子を思い出して、言った。

「あ、それじゃ、あの時、恵ちゃんが笑ってたのって?」

 恵はにこりとして、答える。

「はい。だって、真面目な顔で『手練(てだれ)』だとか、『全国レベル』だとか言い出すんですもの。」

「そう言う事…。」

 納得顔の立花先生に、恵は付け加えて言う。

「でも、あの隊長さんが、どれ程のレベルなのかは知りませんけど、まぁ、防衛軍の人だし、それなりに心得は有るのだろうとは思いますけど、そんな人から見ても、それなりのレベルに見えるって事は、天野さんは真面目に剣道の練習をやっていた筈(はず)だし、ちゃんと身に付いてもいるって事だと思うんですよね。」

「そうね。でも、それで一勝も出来なかったって言うのは、どう言う訳(わけ)なのかしら?」

「本人談に因ると、対戦相手の『気合い』だとか『殺気』だとか、そう言うのに最後まで慣れなかった、って事らしいですけど。まぁ、彼女も『完璧超人』ではないって事ですよね。」

「そう言うものかしらね。わたしはスポーツの事とか、良くは解らないけど。」

 立花先生は正面に向き直り、ヘッド・レストに後頭部を押し付ける様にして、息を吐(は)いた。
 丁度(ちょうど)その時、トイレに行っていた二年生組の三人が、バスへと乗り込んで来る。先頭は、樹里である。

「お待たせしました~。あ、カルテッリエリさん、PC ありがとうね~。」

 そう言って、樹里はクラウディアの隣の席に座る。

「あれ?天野とボードレールは?先生。」

 次に乗り込んで来た瑠菜が、立花先生に尋(たず)ねる。

「あぁ、昼食をね、天野重工(かいしゃ)の人達の所へ、届けに行って貰ってるわ。」

 立花先生が答えると、瑠菜の後ろで佳奈が声を上げる。

「二人共、戻って来たよ~倉森先輩も一緒だ。」

 暫(しばら)くして、茜とブリジット、そして倉森がバスの中へと入って来る。茜とブリジットは後部座席へと向かい、倉森は運転席へと向かった。

「あら、倉森さんが運転?」

 立花先生が声を掛けると、倉森は微笑んで答えた。

「はい。矢っ張り、卒業生の方が、学校の周り、運転し易いだろうって事になりまして。 あ、キーは誰が持ってます?」

「わたしで~す。」

 恵が声を上げ、席を立って、キーを倉森に渡した。

「じゃ、お願いします。」

「はい。任せて~。」

 そこで、立花先生が尋(たず)ねるのだった。

「倉森さんは、学校に着いたら、そのあとはどうするの? こっちへ、蜻蛉(とんぼ)返り?」

「ああ、いえ。現場へ戻る足が無いので。こっちの撤収組と合流する迄(まで)、学校で待機です。」

「そう、じゃあ、少し遅いけど、帰ったら皆(みんな)と一緒にお昼にしましょう。」

「はい、いいですね。」

 そう答えて、倉森は運転席へと着いたのだった。一方で緒美は、ふと気付いた事を立花先生に尋(たず)ねる。

「そう言えば、避難指示って、解除されてるんですか?先生。」

「うん、大丈夫よ。ちょっと前に解除されてるみたい。」

 立花先生が答えると、後ろの座席から恵が自分の携帯端末を、緒美の前へと降ろして見せ乍(なが)ら言う。

「ほら、もうネットのニュースには速報が出てるのよ。」

 緒美は恵の携帯端末を受け取り、表示されているニュース記事を、部分的に声に出して読んでみる。

「え~と…九州北部方面から山陰方向へ…エイリアン・ドローン十二機は、日本海海上で全機が撃墜されたと発表。これに因り、各府県で発令されていた、全ての避難指示は解除され…か。ふ~ん。」

 直美が再び、シートのヘッド・レストの上から顔を出して、話し掛けて来る。

「ね、こっちに来た三機に就いては、触れられてないでしょ?」

「全部、日本海側で撃墜した事になってるらしいのよね。」

 直美と同じ様に、シートのヘッド・レストの上で、恵も言うのだった。緒美は携帯端末を自分の頭上へ上げ、恵に渡しつつ言った。

「まぁ、その記事のソースは防衛軍発表なんだから、無理も無いわね。今回の件も、他言無用って事じゃない?」

「そう言う事。」

 そう言って、立花先生は「うふふ」と笑った。すると、マイクロバスのエンジンが起動し、車内にも振動が伝わって来るのだった。
 倉森は運転席のシートから身を乗り出す様に振り向いて、一同に声を掛ける。

「それじゃ、出発しますけど~欠員や忘れ物は無いわね?」

 恵が一度、席を立ち、全員の顔をチェックしたのち、倉森に伝える。

「ありませ~ん。」

「オッケー、念の為、皆(みんな)、シート・ベルトはしておいてね~。あ、エアコン、点けたから窓は閉めていいよ。」

 その呼び掛けに、生徒達一同は「は~い」と、答えたのだった。
 バスはゆっくりと右旋回を始め、Uターンを終えると暫(しばら)く直進し、LMF を乗せたトランスポーター二号車の手前で左折して、演習場の出口へと向かう。
 バスに揺られ乍(なが)ら、その最後部の座席では、それ迄(まで)、黙って座っていた茜が、呟(つぶや)く様に言った。

「取り敢えず、皆(みんな)、無事で良かった。」

「そうね。」

 ブリジットは、微笑んで答えた。視線をブリジットへ向け、茜が言う。

「そう言えば、最後の。助かったわ、ブリジット。」

「何よ、急に。」

「うん、言ってなかったなぁって。ありがとう、って。」

「いいわよ。今回は、あんまり役に立たなかったし、わたし。」

「そんな事は無いわ。言ったでしょ、あなたは最後の保険だって。保険が有ったから、落ち着いて、わたしは、わたしのやるべき事が出来たの。」

「その保険役も、心配し乍(なが)ら我慢して見てるだけって、余(あま)り心臓に良くないのよね。」

 そう言って、ブリジットは苦笑いして見せる。

「じゃあ、ブリジット。明日から、LMF での格闘戦のデータ取り、やりましょうか。」

 茜は、悪戯(いたずら)っぽい笑顔を作って言った。
 ブリジットは、少し驚いて言葉を返す。

「あ、そう言う話になるの?」

「そうよ。」

 そして二人は、声を上げて笑ったのだった。

 

- 第11話・了 -

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.18)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-18 ****


「じゃ、何機ぐらいなら?」

「そうね、五機…六機かしら? でも、制圧出来ればいいって話じゃないし。」

「どう言う事です?」

 続いて訊(き)いたのは、樹里だった。

「要は救出作戦だから、戦闘ヘリから無闇矢鱈とロケット弾やミサイルを撃ち込む訳(わけ)にはいかないのよ。流れ弾が格納庫や管理棟に当たったら、洒落にならないでしょ?中に避難してる人が居るんだから。」

「それはそうですね…。」

「だから、先(ま)ず、陸上戦力…戦車なんかを五、六輌投入して、トライアングルの注意を引いて。次に大型ヘリを建物の近くに着陸、避難させる人を搭乗させる。大型ヘリが離陸して安全域まで退避したら、地上戦力を後退させて航空戦力…これは陸上防衛軍の戦闘ヘリか、航空防衛軍の戦闘機か、で攻撃、って感じの流れになるでしょうね、普通。」

 そこ迄(まで)の説明を聞いて、ブリジットは苦笑いし乍(なが)ら言った。

「結構、大掛かりですね。」

「そうよ。ここに何人居ると思ってる?」

 そう緒美に問われ、ブリジットは指折り数えてみる。

「わたし達が九人、立花先生、飯田部長、畑中先輩、倉森先輩、新田さん、大塚さん…これで十五人。」

 続いて、茜が付け加える。

「あと、飯田部長の秘書の蒲田さん、飯田部長のお客さんの、桜井?さん…。」

 それに、樹里が追加する。

「その桜井さんにも、秘書の方(かた)が一人居たよね。後は陸上防衛軍の吾妻さんに、戦車隊の隊長さん。戦車乗員の方(かた)が六人。これで、合計二十六人?」

 最後に、緒美が付け加える。

「戦車隊の整備や事務の人が第二格納庫に十人位(ぐらい)、管理棟の方にも十人位(くらい)は居た筈(はず)だから、合わせて四十六人。要するに、五十人前後の人を一気に移送する必要が有るから、大型ヘリでも二機は必要になるし、誘導と警護に、十人前後の兵員も必要になるでしょうね。そうなると、その人員の輸送手段も必要になるわね。」

「うわぁ、大変だ…。」

 素直な感想を口にするブリジットだったが、その隣で茜には、ふと気が付く事が有ったのだ。

「あれ?ちょっと、待ってください、部長。その救出作戦が実行されてたら、HDG や LMF はどうなります?」

「いい所に気が付いたわね、天野さん。人命優先になるだろうから、当然、機材は置いて行け、って事になるでしょうね。」

「それで、その避難のあと、トライアングルに向けて、対地攻撃が始まる訳(わけ)ですよね?」

 その茜の確認を聞いて、ブリジットが言うのだった。

「そこに HDG や LMF を残してたら、無事では済まないんじゃ?」

「でしょうね。それでも、全員が救出されれば、まだいいけどね。」

 今度は、樹里が緒美に尋(たず)ねる。

「その救出作戦、成功率はどの位(くらい)なんでしょう?」

「さあ、五分五分じゃないかしら? 前に米軍の、似た様な状況での作戦レポートを読んだ事が有るけど。兎に角、トライアングルが動く物に反応するから、地上に引き付けておいて、救出のヘリを発着させるのが大変だったみたいよ。実際、その作戦ではヘリが一機、堕ちてるしね。」

 その緒美の答えを受けて、茜がポツリと言った。

「会社的には、賭をするには、可成り分が悪いですよね、それって。」

 そして樹里が、或る考えに思い当たるのだった。

「あぁ、それで。飯田部長は、積極的に反対しなかったのか…。」

「まぁ、全部想像だけどね。でも、飯田部長には、その計算は有ったと思うわ。」

 ブリジットは、茜に尋(たず)ねる。

「飯田部長って、軍事(そっち)方面に詳しい人だったの?」

「あぁ~以前(まえ)にお婆ちゃんから聞いた話だけど。現社長の片山…社長がプラント系の技術者出身だから、事業統括の方は、防衛装備とか、そっちの業界に詳しい飯田部長が選ばれた、とか。片山の叔父様とは、昔から仲が良かったそうだし。わたしは、この間迄(まで)、直接の面識は無かったんだけどね。」

 念の為に記しておくが、茜の母親、薫(カオル)が天野重工会長の長女で、片山社長の妻、洸(ヒカル)が天野会長の次女、つまり茜の叔母なのである。
 今度は、樹里が茜に尋(たず)ねる。

「お婆ちゃん、って、理事長…って言うか、会長夫人?」

「あぁ、はい。」

「で、片山社長が叔父様、と。」

「ええ、そうですけど。どうかしました?樹里さん。」

「いやぁ~天野さんが、理事長や社長の身内だって、忘れてたなぁ~って、思って。」

「いいです。その儘(まま)、忘れててください。」

 ニコニコとしている樹里に対し、茜は苦笑いである。そんな茜に、緒美が問い掛ける。

「その、お婆様は、天野重工の役員か何かを?」

「いいえ、直接、経営に口は出してませんけど。一応、株主って言う事で、取締役の人事とか、その辺りの情報は入って来るみたいなんですよね。あと、家(うち)の母も、株主扱いになっているので、おば…祖母が時々、家(うち)に来ては、そんな話をしてるんですよ。」

「ああ、成る程。そう言う事。」

「はい。」

 そんな事を茜達が話していると、格納庫の方向から立花先生達が、歩いて来るのだった。二組が合流すると、立花先生が緒美に尋(たず)ねる。

「こんな所で、立ち話? 何か有った?」

「あぁ~いえ。大した事では。 格納庫の方は、バラシとか終わったんですか?」

「ええ、粗方(あらかた)。防衛軍サイドは、一刻も早く、わたし達、学校の関係者は追い出したいみたいだから、梱包とか積み込みは、畑中君達に任せる事になったわ。」

「現場に未成年者が~とか、言ってましたものね。」

「そう言う訳(わけ)で、みんな、バスに乗って。トイレとか行きたい人は、出発迄(まで)に済ませておいてね。 あと、茜ちゃんとブリジットちゃん、悪いけど着替えるのは、学校に戻ってからにして。ごめんね。」

「それは、構いませんけど。ブリジットは、大丈夫?」

「うん、平気。」

 そして一同は、格納庫の東側に止めてあるマイクロバスへと向かって歩き出す。ほぼ真上から照らし付ける日差しに焼かれ、額に浮かんだ汗を、右手の甲で拭いつつ、立花先生は言う。

「しかし、暑いわね。さっき迄(まで)、緊張してた所為(せい)かな、暑さなんて忘れてたのに…。」

「もっと暑くなってますよ、バスの中は。きっと。」

「嫌な事、言わないで~恵ちゃん。」

 そこで、直美が声を上げる。

「そう言えば、誰が持ってるの?バスの鍵。」

「大丈夫、わたしが預かってます。」

「おお流石、森村。」

「それじゃ、わたし、ちょっとお手洗いに行って来ます。」

 そう言って、瑠菜がバスに向かう列から離れ、管理棟へと向かうのだった。

「あ~瑠菜リン、わたしも~。」

 そうして佳奈が瑠菜の後を追うと、樹里はクラウディアに尋(たず)ねるのだった。

「カルテッリエリさんは大丈夫?お手洗い。」

「はい。大丈夫です。」

「あぁ、じゃ、これ、バスまで持って行っておいて呉れるかな? わたしも、ちょっと行って来る。」

 樹里は手に持っていた愛用のモバイル PC を、クラウディアに託すのだった。

「分かりました。お預かりします。」

 そして、樹里は佳奈のあとを、追って行ったのである。一方で、立花先生は携帯端末で、時刻を確認して声を上げる。

「ああ、もう十二時半か~みんな、お昼はどうする?」

 その声に反応したのは、恵である。

「そもそも、HDG の模擬戦のあと、お昼休みを挟(はさ)んで、LMF の模擬戦の予定でしたよね、先生。」

「そう。食事、お弁当の用意は、してあったんだけど。帰りの、バスの中で食べる?緒美ちゃん。」

「学校に戻ってから、部室なり食堂なりで、落ち着いて食べた方が良くありません?」

「それもそうね…。」

 そこで、恵が昼食に就いて気付くのだった。

「あれ?お弁当って、畑中先輩達の分も一緒になってませんでしたっけ?先生。」

「あぁ、そうだったわ。飯田部長と蒲田さんと、お客さん達の分も含めて八食、帰る前に渡しておかないと。」

 今度は直美が、立花先生に問い掛ける。

「バスの運転は、誰がするんです?」

「新田さんか大塚さんか…多分、新田さんじゃないかしら。」

 そんな話をしていると、一同はマイクロバスの前に到着するのだった。そして恵が、鍵を開け乍(なが)ら、立花先生に問い掛ける。

「あれ? 八食分、お弁当をこっちに置いて行ったら、運転手さんの分、足りなくなりません?」

「足りなくても、学校に戻れば、食べる事は、どうにでも出来るし。あ、念の為の予備として、多目(おおめ)に発注してあった筈(はず)だから、大丈夫よ。こっちには、一食ぐらい余っても、何とでもなるでしょう。」

 恵がドアを開けると、暖められた空気が車内から流れ出して来るのだった。その中へ、最初に乗り込んだ恵は、左右の窓を開け乍(なが)ら、奥へと進んで行く。そして茜とブリジットが、恵に続いて乗り込んで行った。

「恵さ~ん、それじゃ、お弁当、格納庫の方へ届けて来ます。」

「あ、悪いね~天野さん。奥のシート下の箱、分かる?向かって右側の。」

「はい、白い箱が四つ。」

 一番奥の四列シートの足元、後方に向かって右手側に、白い断熱材製の箱が二段積みで置かれている。因(ちな)みに、左手側には茜とブリジットが着ている、インナー・スーツが収納されていた箱が積んであった。

「一箱に五食分入ってる筈(はず)だから、一食分、別の箱に移して、一箱四食で二箱、八食分届けて来て呉れるかな。」

「は~い。ブリジット、手伝って。」

「はいよ~。」

 茜とブリジットの二人は、恵の指示通りに、箱内の収納数を調整した。幸い、箱の大きさに余裕が有ったので、一箱に六食入りとなった残される箱の方も、保冷剤の入れ方を工夫する事で、蓋が閉められたのである。

「それじゃ、行ってきます。」

「はい、お願いね~。」

 茜とブリジットは、それぞれが弁当の入った箱を両手で前側に抱え、バス前方の昇降口へと向かった。立花先生と緒美、直美とクラウディアは、ドアの外で茜とブリジットが出て来るのを待っていた。
 そして、出て来た茜とブリジットに、立花先生が声を掛ける。

「じゃあ悪いけど、お願いね。茜ちゃん、ブリジットちゃん。」

 ブリジットが、微笑んで応える。

「一っ走り、行ってきます。」

 それに、直美が笑って言うのだった。

「転んだりしたら事だから、走らなくてもいいよ~ブリジット。」

「は~い。」

 くすりと笑って、茜が声を掛ける。

「行こう、ブリジット。」

「うん。」

 茜とブリジットは少し早足で、格納庫の方へと歩き出す。そんな二人を少しの間、見送ってから、立花先生は言った。

「さ、クラウディアちゃんも、乗って。」

「あ、はい。」

 クラウディアは自分のと樹里のモバイル PC を胸元に抱え、マイクロバスに乗り込むと、その中央付近の席へと進んだ。続いて、立花先生も乗り込み、緒美と直美も、そのあとに続いたのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.17)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-17 ****


 続いて藤田三尉は、今度は左手で松下二曹の胸倉を掴(つか)み、言った。

「尤(もっと)もらしい事を言った積もりでしょうけど、あなたの言ってる事は、唯(ただ)の、負け惜しみの、八つ当たりです。みっともない。頭を冷やしなさい。」

 松下二曹は、何か口を動かしているが、声になっていない。そして、藤田三尉が続ける。

「それとも、何? 彼女に何か、恨みでも有る訳(わけ)?」

「…いえ、ありません。」

 呟(つぶや)く様に、そう松下二曹が答えると、藤田三尉は深い溜息を吐(つ)いて左手を放した。そして茜の方へ向き直ると、深々と頭を下げたのである。

「部下が、失礼な事を言ったわ。上官として、お詫びします。」

「ああ、頭を上げてください。わたし、気にしてませんから、ホントに。」

 茜は慌てて、藤田三尉に声を掛けた。謝られている茜の方が、何だか申し訳無い気持ちになって来るのだった。

「本当に、申し訳無かったわね、天野さん。 ほら、松下二曹、こっちに来なさい。」

 頭を上げた藤田三尉は、くるりと身体の向きを変えると、松下二曹の右手を引っ張り元来た方向へと歩いて行く。
 二人は無言で、松下二曹は引かれる儘(まま)に歩いていたが、暫(しばら)くして藤田三尉が口を開いた。

「どう言う積もり? 何を意地になっているのかは知らないけど、そういう所、あなたの悪い癖よ。自覚しなさい。」

「申し訳ありません…でも、何だか、我々が馬鹿にされている気がして…。」

 松下二曹が弱々しく、そう口にすると、落ち着いた声で藤田三尉は言った。

「馬鹿に? わたしには、あなたの方があの子達を、馬鹿にしている様に見えたけど?」

 その言葉に、松下二曹は反論は出来なかった。
 所で、藤田三尉の言った「そう言う所」こそが、実は、松下二曹が曾(かつ)て天神ヶ崎高校に合格出来なかった要因なのである。
 天神ヶ崎高校の入試、特に『特別課程』のそれは、実質、天野重工への入社試験である。つまり高校の三年間に留まらず、その後の会社での十数年から数十年に及ぶ期間を社員として過ごす人員の選抜をしなければならないのだ。当然、天神ヶ崎高校の入試には、本社の人事部から『人を見るプロ』が派遣され、成績以上に、チームの一員として働ける素養と言った、人格面での厳しいチェックが行われているのである。勿論、そこから漏れたからと言って、その人の人格が全て否定される訳(わけ)ではないが、会社側が求める技術職への『向き、不向き』と言う視点から、時に過剰に攻撃的になる彼女の様な性格が、チームで働く技術職に向いていると判断される事は希(まれ)だ。成績や能力が同じレベルであるなら、より適性の有ると判断される者が優先的に採用となるのは、当然の事なのだ。
 そして、その様な判断基準や選考の過程が受験生個人に明かされる筈(はず)も無く、松下二曹がそう言った事情に思い当たる可能性は、このあと一生、恐らくは無い。

「どうかしたか?藤田三尉。」

 格納庫の大扉から、外へと出て来る大久保一尉が、歩いて来る二人に声を掛けた。二人は大久保一尉の前で立ち止まると、藤田三尉は、引いていた松下二曹の手を放し、答えた。

「いえ。助けて貰ったので、あちらのドライバーにお礼を、と思ったのですが。松下二曹が突っ掛かって行ってしまって。」

 大久保一尉は松下二曹へ視線を移し、左側の頬が赤くなっている事に気が付いた。

「どうした、松下二曹。模擬戦でいい様にやられて、癪(しゃく)に障ったか?」

 松下二曹は姿勢を正し、答える。

「いえ…あ、はい。申し訳ありませんでした。」

 流石に、高校受験の時の事を根に持ったとは言えず、大久保一尉の、或る意味『助け船』に乗った松下二曹である。そして、少し呆(あき)れた様に、藤田三尉は言うのだった。

「そう言えば、松下二曹。さっき、待ってれば救援が来た、みたいな事を言ってたけど。あのヘリが救援だと思ったら、大間違いだからね。」

「え?違うんですか…。」

 藤田三尉は深く息を吐(は)いて、首を振る。そして松下二曹の疑問に、大久保一尉が答える。

「まぁ、救援には違いないが、本隊ではない。さっきのは、威力偵察の為に飛来したもので、救出部隊、本隊はまだ三十分後方だ。まぁ、もう救出の必要も無くなったから、敵ドローンの残骸回収任務に、編成し直しているそうだがね。」

 声を出さず驚いている松下二曹を横目に、藤田三尉は大久保一尉に問い掛ける。

「しかし、天野重工も、さっきの状況で、よく学生を外に出しましたね。それで助かったとは言え…。」

「誰も、積極的に賛成はしなかったのだが。あのドライバーの子がね、犠牲は出したくないと、押し切ったのさ。あと、指揮官役の子は、キミらの家族の方(ほう)を、心配していた様子だったな。どうやら、身内に殉職者が居た様な口振りだったが。」

「そうでしたか…。しかし、初めての実戦で…何とも、いい度胸をしてると言いますか。」

「ああ、彼女達、実戦はこれで二度目だ。」

 藤田三尉と松下二曹は、揃(そろ)って「は?」と、声を上げた。大久保一尉はニヤリと笑って、言葉を続ける。

「まぁ前回は、敵ドローン側が、あの新兵器を脅威として認識してなくて、ほぼ不意打ちで済んだらしいがな。」

「そんな話、聞いてませんけど。」

「当たり前だ、開発中の新兵器の情報と共に、一般には非公開(クローズド)になってる事項だからな。キミらも、外で喋(しゃべ)るんじゃないぞ。」

「それは、分かってますけど。でも、どうして天野重工は、そんな事、学生達にやらせているのか…。」

 丁度(ちょうど)その時、立花先生と五名の生徒達が、格納庫から出て、大久保一尉の背後、藤田三尉達の視線の先を東向きに歩いて行く。少し距離が有ったが、立花先生が大久保一尉に声を掛けて来るのだった。

「それでは、お先に失礼させて頂きます。」

「ああ、ご苦労様。気を付けてお帰りください。」

 振り向いて、大久保一尉は声を返した。
 すると、松下二曹が問い掛ける。

「隊長、いいんですか? 帰してしまって。」

「ああ、吾妻一佐がね、何時(いつ)までも現場に…残骸回収の時に民間人や、未成年者が居るのはマズいだろうってね。上の方も、了解してるみたいだよ。」

 遠目に眺(なが)めていると、立花先生が率(ひき)いる一団は、茜と緒美達に合流し、学校のマイクロバスの方向へと移動して行った。
 そして大久保一尉は、先刻の藤田三尉の疑問に対する見解を示すのだった。

「…まぁ、実際。あの子達は、皆(みな)、優秀だよ。指揮官役の子と、少し話したが。エイリアン・ドローンに就いては、相当に研究してる様子だったな。彼女を、アドバイザーに雇いたい位(ぐらい)だよ。あの新装備は、その指揮官役の…鬼塚君、だったかな、彼女のアイデアだそうだが。天野重工の大人にも、運用方法が、良く理解されていないのかもな。」

「それで、あの子達が開発を?」

「勿論、技術的には天野重工の、大人達のサポートが有ってこその物だろうがね。とは言え、今の所、アレを扱えるのは、彼女達だけらしい。」

「あの装備、採用されるのでしょうか?今日、見た限りでは、有効そうでしたけど。」

「どうだろうな? まだ、あのドライバーの子、専用の調整で、他人には使用出来ないらしいから、設定や調整が一般化出来る迄(まで)には、それなりに時間が掛かりそうだ。あとは、まあ、御多分に漏れず、費用、価格が問題だな。それに、陸戦装備とは言い辛(づら)い面も有るし、陸防か空防か、装備するには線引きが難しいかも知れん。」

 そう言って、大久保一尉はニヤリと笑うのである。


 一方、藤田三尉達が立ち去ったあとの、茜である。

「何だかなぁ…。」

 そう呟(つぶや)いて、ばつが悪い、そんな気分でぼんやりと立っていると、トランスポーターの荷台から降りた緒美達が、歩み寄って来るのだった。

「ダメよ~天野さん。あの手の人に、挑発する様な事、言っちゃ。」

 微笑んで声を掛けて来る緒美の方へ、茜は顔を向ける。

「聞こえてましたか。」

 茜も微笑んで、言葉を返した。

「まぁ、それにしても、大層な言われ様でしたけどね。」

 そう言った樹里は、苦笑いである。そして、ブリジットも一言。

「でも、上官の人が、正面(まとも)な人だったみたいで、良かったわ。」

 茜は話題を変える積もりで、樹里に尋(たず)ねる。

Ruby のスリープ移行は、終わりですか?樹里さん。」

「ええ、あとは繋留して、シート掛けて…だから、畑中先輩達にお任せ、ね。」

 だが、続いてブリジットが、話を蒸し返すのである。

「しかし、あのお姉さんは、最初から様子が変だったよね。何(なん)だったんだろう?」

 それを受けて、緒美が疑問を呈するのだった。

「ひょっとして、天野さん、あの人と面識とか有った?何か、個人的なトラブルとか…。」

「まさか、初対面ですよ~。」

「どっちかって言うと、茜個人にって言うよりも、学校とか会社の方に、何か思う所でも有ったんじゃないです?部長。」

 そのブリジットの発言を元に、樹里は冗談を言うのである。

「あはは、案外、天神ヶ﨑を受験して、滑った人だったりして。」

 実は図星だったのだが、樹里は飽く迄(まで)、冗談として言っているのだ。だから、他の三名は「まさか~無い無い」と声を揃(そろ)えて、笑うのだった。
 そして、緒美が穏やかに言うのである。

「まぁ、それでも、あのお姉さんの言った事、後半はその通りよ、天野さん。前半のは、的外れだと思うけど。」

「後半って?」

 茜が聞き返すと、緒美は真面目な顔で答える。

「調子の乗って、こんな事を続けてたら~って所。」

「そんな事、あの人に言われなくても、分かってます。」

「知ってる。それに、調子に乗っている訳(わけ)じゃないのもね。」

 緒美は、ニッコリと笑って、そう言った。すると、ブリジットが緒美に尋ねる。

「じゃあ、部長。前半部分の的外れって?」

「それは、待ってれば救援が来た、とか言ってた所ね。」

 その答えに、樹里が疑問を呈する。

「あれ?でも、防衛軍のヘリが来たんですよね?」

 その戦闘ヘリは、既に上空を飛んではいない。緒美は、一息を吐(つ)いて、答えた。

「あれは、救出部隊を投入する為の偵察よ、情報収集。多分ね。 大体、トライアングル三機に対して、戦闘ヘリが二機じゃ、戦力的に全然足りてないもの。」

 それを聞いて、ブリジットが問い掛けるのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.16)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-16 ****


「あぁ、鬼塚君…だったね。最後に、ちょっと確認しておきたいんだが。」

 緒美は立ち止まると、振り向く。

「何(なん)でしょうか?」

「最後の連係攻撃、あれは、普段から訓練を?」

 緒美は、微笑んで答える。

「まさか。ぶっつけ本番ですが…あの二人なら、上手くやって呉れるだろうと。何せ、親友ですから、あの二人。」

「そうか…随分とエイリアン・ドローンの事に就いて研究がされている様子だが、どこからどこ迄(まで)が、キミの想定の範囲内だったのだろうか?」

「…いいえ。」

 一度、首を横に振り、そして、緒美は満面の笑みで答える。

「行き当たりばったりですよ、全部。」

 そして、お辞儀をすると「それでは、失礼します。」と言い残し、踵(きびす)を返して正面の大扉へと向かって歩き出す。

「行きましょう、城ノ内さん。」

「はい、部長。」

 樹里は自分のモバイル PC を両腕で胸元に抱(かか)え、緒美の後を追った。
 暫(しばら)二人を見送ったあと、く大久保一尉は、立花先生の方へ向き、尋(たず)ねるのだった。

「本当ですか? 全部、行き当たりばったり、ってのは。」

「さあ…。」

 立花先生は不審気(げ)に首を傾(かし)げるのだが、恵は微笑んで断言するのだった。

「照れ隠しですよ。」

 その時、扉の方から緒美の声が聞こえて来る。

「瑠菜さんか、古寺さん。天野さんの方、HDG のリグの操作、やってあげて。」

「は~い。分かりました。」

 直ぐに、瑠菜が手を上げて答える。

「お願いね~。」

 そう言い残して、緒美の姿は大扉の向こうへ消えた。そして瑠菜は、隣の席の佳奈に言うのだった。

「佳奈、こっちはやっておくから、あなたは天野の方、お願い。」

「うん、分かった~。行って来るね。」

 佳奈が席を立ち、小走りで格納庫から出て行くと、入れ替わる様に二機の観測機が、人の目線程の高さで格納庫内へと入って来る。瑠菜も席を離れると、左手側の壁際に置いてある、二つの観測機格納コンテナの蓋を開いた。瑠菜が席に戻り、コントローラーを操作すると、大扉から入って直ぐ付近の空中で静止していた二機の観測機は、それぞれが自らのコンテナへと移動して行き、その中へと納まるのだった。
 そこで大久保一尉は、立花先生に尋(たず)ねる。

「あの観測機の映像は、記録を?」

 立花先生は、瑠菜に確認する。

「撮影してた画像は記録してるわよね?瑠菜ちゃん。」

 瑠菜はコントローラー終了作業の手を止め、振り向いて応えた。

「はい。」

 すると、今度は瑠菜に向かって、大久保一尉は尋(たず)ねる。

「あとで、記録した映像、頂けませんか?」

「わたしの一存では。会社の許可が…どうでしょうか?飯田部長。」

 瑠菜に話を振られて、飯田部長はニヤリと笑って大久保一尉に答えた。

「そうですね、まぁ、お安くしておきますよ。」

 そう言われて、真顔で大久保一尉は言葉を返す。

「わたしの権限で使える予算には、限度が有りますので…。」

 そこに、吾妻一佐が割って入るのだった。

「おいおい、飯田さん…」

 飯田部長は「ははは」と笑い、言う。

「冗談ですよ、HDG が映っていないので良ければ、天野重工(うち)の方で編集して、後程、無償でお譲りしますので、研究に役立ててください。」

「ありがとうございます。」

 飯田部長に向かって、大久保一尉は頭を下げるのだった。


 それから暫(しばら)くして、格納庫の東側に北向きに駐車している HDG 専用トランスポーターのコンテナ後部ハッチを、HDG をメンテナンス・リグに渡した茜が、歩いて降りて来る。茜の正面には、少し距離を置いて東向きに止められた大型トランスポーターが有り、その荷台には、既に LMF が乗っていた。LMF 後方下部では、そのメンテナンス・ハッチを開いて、緒美と樹里、そしてブリジットの三人が、Ruby のスリープ・モード移行を見守っているらしい姿が見える。茜が HDG 用のコンテナから出て来たのに気が付いたブリジットが、茜に手を振っているので、茜も手を振って応えるのだった。
 茜に続いて、コンテナから降りて来た佳奈が、茜に声を掛ける。

「こっちのリグ、終了作業、終わったから、格納庫の方、手伝って来るね~茜ン。」

「あ、はい。ありがとうございました、佳奈さん。わたしも行きます。」

「いいよ~着替えておいで~。」

 佳奈は、そう言い残して格納庫の方へと走って行く。
 その佳奈と擦れ違って、茜に近付いて来たのが藤田三尉と松下二曹の二人だった。藤田三尉はにこやかな表情だったが、その後ろを歩く松下二曹は、何やら険(けわ)しい顔付きをしていた。だから、茜は少し身構える様な心境で、二人に対峙するのだった。そして、先に声を掛けて来たのが、藤田三尉である。

「お嬢さん、もう一度、お名前を伺(うかが)ってもいいかしら?」

 正直、茜は何故にこの二人が、自分に話し掛けて来たのか見当が付かないでいた。だが取り敢えず、訊(き)かれた事には答えてみる。

「天野、です。」

 藤田三尉は相変わらず、にこやかに話し掛けて来る。実は、彼女は背後に立つ松下二曹の表情には、気が付いていないのだ。

「天野さん、ね。会社の方(ほう)と同じ名前なのは、偶然?」

 茜は、会長の身内だとかは明かさない方がいい様な気がしたので、敢えて明言は避(さ)けて答える。

「えぇ、はい。…まぁ、偶然です。」

 茜の『天野』姓は父方の『天野』であって、母方の『天野』ではない。結婚前の両親の姓が『偶然』に『天野』で同じだったのだから、茜が『偶然』だと答えたのは嘘ではない。
 ここで、茜が警戒している感触を得た藤田三尉は、少し困った顔をするが、直ぐに元のにこやかな表情に戻り、口を開く。

「あぁ、ごめんなさい。驚かせてしまったかしら? わたしは藤田よ、一番車の車長。こっちは、操縦手の松下。」

 自己紹介を受けて、漸(ようや)く茜は、藤田三尉が話し掛けて来た理由に思い当たった。

「あぁ、一番車の…お怪我は有りませんでしたか?」

「ええ、ご覧の通りよ。ありがとう、助かったわ。」

 藤田三尉が握手の右手を差し出して来るので、茜も右手を出そうとするが、インナー・スーツ用のセンサー・グローブを装着した儘(まま)だった事に気が付き、慌ててグローブを外すと、汗ばんだ右の掌(てのひら)を太股に二三度、擦(こす)り付けて汗を拭き、それから藤田三尉の右手を握るのだった。

「一言、あなたにお礼が言いたかったのよ。」

「いえ。ご無事なら、何よりです。」

 和(なご)やかな雰囲気で、二人が交わした握手の手を放すと、不意に松下二曹が冷ややかに言うのだった。

「何よ、恩でも売った積もり?」

 その言葉に驚いて、藤田三尉は振り向く。松下二曹の表情は、先程の険(けわ)しい感じではなく、無表情だった。

「ちょっと、松下二曹?」

 藤田三尉に呼び掛けられても、松下二曹の表情に、特に変化は無い。
 茜は冷静に、言葉を返す。

「そんな積もりは、ありませんでしたけど。」

 松下二曹は、言葉を続ける。

「そもそも、わたし達はあなた方に『助けて』なんて、頼んでないし…。」

 出撃の際に茜は、大久保一尉から『それ』に近い事を無線で言われたのだが、それを、この二人は知らない筈(はず)だった。だから茜は、敢えて『それ』に言及する事はしなかった。
 松下二曹は、続けて言う。

「…あなたが出て来なくても、あと十分も待ってたら救援は到着したの。民間の素人(しろうと)が余計な事をして、それでも何か有ったら、防衛軍の責任にされるのよ。大体、素人(しろうと)が、こんな事に首を突っ込んで。今回は偶然、上手くいったから良かったけど。調子に乗って、こんな事、続けてたら、あなた達、その内、怪我じゃ済まなくなるわよ。」

「よしなさい、松下二曹。」

 一気に捲(まく)し立てる松下二曹の左腕を、藤田三尉は掴(つか)んで、引っ張る。松下二曹は「こんな事、続けてたら」と言ったが、彼女は茜達が前回、HDG でエイリアン・ドローンを迎撃した事実を知っていた訳(わけ)ではない。徒(ただ)、単に、今後も今回の様な事を続けていたら、と言う推測で言っただけの事である。
 一方で、感情の良く分からない顔付きで、尤(もっと)もらしい言い掛かりを付けて来る、松下二曹の表情を見詰めて、茜は「どこかで見た表情だな」と思っていた。それは、中学一年生のあの時、無視するだけでは飽き足らず、何だか良く分からない言い掛かりを付けて来た、同じクラスの女子生徒の表情と同じに見えたのだ。唯(ただ)、その表情には覚えが有ったものの、それが誰だったのか、その顔も、相手の名前も思い出せなかった。余程、その人物に関心が無かったのだろう、その時、自分に向けられた悪意を感じたと言う記憶の他は、相手が何(ど)の様な言い掛かりを付けて来たのか、自分が何(なん)と言い返したのか、茜は一切、思い出す事が出来なかったのだ。
 そんな思考が一瞬で頭の中を巡ると、茜は自分の頭の芯が冷えて行く様な、冴えて来る様な感覚を覚えた。
 そして、制止しようとする藤田三尉に向かって、松下二曹が言う。

「これ以上、増長しないように、大人が、ちゃんと言ってあげるべきなんですよ、藤田三尉。」

 茜は微笑んで、眼前の二人に向かって言うのだった。

「それは、御心配頂きまして、ありがとうございます。今回は、被害者を見殺しにするのが、我慢出来なかったので…まぁ、自己満足の為の行動ですので。防衛軍の皆さんには、気にして頂かなくて結構です。」

 松下二曹は冷たい視線を茜に向け、言い返す。

「何よそれ、ヒーロー気取り?自己満足?そう。じゃあ、満足出来たの?」

「松下二曹、止めなさい。」

 藤田三尉が声を上げるが、松下二曹の表情は変わらない。
 茜も表情を変えず、微笑んだ儘(まま)で冷静に言葉を返した。

「ええ、結果には満足してますよ。お陰様で、今夜は悪い夢を見ないで済みそうです。」

 その言葉に、松下二曹の表情には怒りの色が入り、そして声を荒らげる。

「何ですって、大人を馬鹿にして!」

「松下二曹!」

 一括した藤田三尉は、振り向き様(ざま)に、右手で松下二曹の頬を打った。瞬間に、松下二曹の表情は、明らかな狼狽(ろうばい)へと変わったのである。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.15)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-15 ****


「分かった!」

 茜はそう答えると、右後方から振り下ろされたトライアングルのブレードを躱(かわ)す為に、身体を捻(ひね)って右前方へジャンプし、着地すると一度深く屈(かが)んで、全身を使って縦方向へ跳躍した。同時に、スラスターを最大出力で噴射し、一気に十メートルを超える高さ迄(まで)飛び上がったのだった。
 茜が跳躍すると、トライアングルもその機体を一旦沈める様な動作をし、直ぐに茜を追って飛び上がる。茜を目掛けて、直線的な軌道で上昇するトライアングルは、狙撃手に取っては格好の標的となったのだ。

「いただき!」

 ブリジットが、右側コントロール・グリップのトリガーを引くと、雷鳴の様な破裂音が響き、それとほぼ同時に上昇中だったトライアングルの腹部胴体が青白い閃光に吹き飛ばされる。残されたトライアングルの部位は、連結部を失った胸部や尾部、四肢等が、重力に従って虚しく落下して行くのだった。
 空中で姿勢を変え、トライアングルのパーツが落下して行くのを見送ると、茜は一度、大きく息を吐(は)いた。

「ふう…。」

 茜は、模擬戦用に立てられていた紅白、二本の旗の中間地点辺りに降り立つ。

「これで、終わりかしら?」

 誰に訊(き)くでも無く、茜は言った。すると、ヘッド・ギアに Ruby の合成音が聞こえる。

「南西方向上空に、飛行物体が二機。接近中です。」

 茜は南西方向の空に視線を移し、Ruby からの情報を元に接近中の機影を探す。

Ruby、その飛行物体、機種は識別出来る?」

 緒美の、Ruby に対する問い掛けが聞こえて来る。Ruby は、それに即答した。

「ハイ、緒美。陸上防衛軍が運用している、AH-5型、戦闘ヘリコプターですね。」

 Ruby が答えて間も無く、茜も南側から降下しつつ接近して来る、戦闘ヘリの姿を認めたのだった。
 そして、緒美の指示が、茜に聞こえる。

「天野さん、あなたは取り敢えず、一度こっちに入って。他の部隊とかに、HDG は、余り見られない方がいいから。」

 すると、ブリジットが通信で緒美に問い掛ける。

「LMF は、いいんですか?」

「う~ん、LMF は、防衛軍仕様のが、近い内に引き渡される予定だから、まぁ、見られても大丈夫でしょう。隠すには大き過ぎるし。その儘(まま)、待機してて。」

「は~い。」

 その遣り取りに、くすりと笑って、茜は応えた。

「分かりました、其方(そちら)へ戻ります。」

 茜は格納庫の前に駐機している LMF に一度、手を振ると、其方(そちら)に向かってジャンプした。
 背後からは、ヘリのローター音が段段と大きく聞こえて来る。茜が格納庫に入って間も無く、二機の戦闘ヘリは相次いで、低空で演習場の上を通過して行った。


「漸(ようや)く、救援の到着か。」

 少し悔しそうに吾妻一佐が、そう呟(つぶや)く一方で、大久保一尉が使用する無線機に通信が入る。上空の戦闘ヘリが、緊急用の共通周波数で呼び掛けて来たのだ。

「此方(こちら)、戦技研究隊の大久保一尉、救援に感謝する。…ああ、そうだ、民間の協力で当面の脅威は排除した。引き続き、周辺の警戒をお願いしたい…あ、ちょっと待って呉れ。」

 吾妻一佐が大久保一尉の肩を叩くので、通話を中断して左側へ向く。すると吾妻一佐は、大久保一尉に告げるのだった。

「ドローンの残骸、回収の依頼を。」

「了解しました。」

 大久保一尉は再び正面を向き、通話を再開する。一方で吾妻一佐は懐(ふところ)から携帯端末を取り出し、パネルを操作し乍(なが)ら、格納庫の奥へと歩いて行った。

「あー、此方(こちら)、戦研隊、大久保。其方(そちら)、上空から見えると思うが、敵ドローンの残骸が三機…そうだ…あぁ、其方(そちら)から司令部に回収の連絡を…そうだ。…了解。…え?…あぁ、詳細は別途、報告する。宜しく頼む。以上。」

 大久保一尉の通信が終わると、奥の方向から吾妻一佐の話し声が聞こえて来る。

「…あぁ、吾妻ですが、和多田さん?今、大丈夫ですかな?…あぁ、そっちにも話が回ってましたか、なら、話が早い。え?…あぁ、幸い無事だよ。…あぁ、そう、そう。…いや、今回も天野重工のね…いや、詳しい事はここで話す事では無いが…そうだ、うん。…あぁ、うん。そう、そう。…それで、…あぁ、大臣の方には…そう。…いや、それ、マスコミに漏れるとマズいでしょう?…そう、他の部隊とか…そうそう…あぁ…取り敢えず、事前に話だけ回しておいて…あぁ、お願いしますよ。総体本部経由で…はい…えぇ…じゃぁ、そう言う事で。では。」

 そんな話し声が聞こえて来るので、飯田部長と桜井一佐は、連れ立って吾妻一佐の方へと向かうのだった。そして、通話の終わった吾妻一佐に、何やら話し掛けているのだが、声を抑えているのか、その話し声は聞こえて来ない。
 格納庫正面、大扉の方向では、HDG を装備したままの茜が、大扉開口部と指揮所テーブルとの中間地点辺りで、外を向いて立っている。外の様子を、警戒して監視を続けているのだ。
 LMF がトライアングルの最後の一機を撃破して、一瞬、格納庫内部の雰囲気が緩(ゆる)んだのだが、その直ぐあと、陸上防衛軍の戦闘ヘリが飛来した事に因って、不思議な緊張感が漂っていた。だから、緒美を筆頭に、天神ヶ崎の生徒達は何も言葉を発しなかった。
 そして間も無く、飯田部長の声によって、その緊張感は破られる。

「おーい、立花君、鬼塚君。わたし達は撤収の準備だー。」

 何らかの話が付いたのであろう、三人が並んで、格納庫の奥側から歩いて来る。飯田部長に続いて、吾妻一佐が大久保一尉へ声を掛ける。

「大久保一尉、今日の模擬戦、以降の予定、全てキャンセルだ。状況終了。」

「了解。」

 そう答えると、直様(すぐさま)、大久保一尉は部下に指示を伝える。

「指揮所より全車。状況終了、搭乗員は全員降車し、車輌を整備班に引き渡せ。」

 大久保一尉は指示を出し終えると、右隣に立っている緒美に話し掛ける。

「あの試作戦車とも一戦交(まじ)えてみたかったが、残念だよ。」

「それは、どうも。」

 緒美は愛想笑いをしつつ、言葉を返す。すると、大久保一尉が緒美に、意外な問い掛けをするのだった。

「キミは三年生だったか?」

「あぁ、はい。そうですけど…。」

「そうか、卒業後の進路とか、決まっているのかな?」

「え…と、どう言う事ですか?」

 緒美は困惑して、大久保一尉の質問の意図を問い返す。

「あぁ、いや、立ち入った事を訊(き)いてしまったが。進路が決まっていない様なら、防衛大学はどうだろうかと、思ってね。キミなら、いい指揮官になれるかも知れん。」

 大久保一尉は、真顔である。緒美は少し困った顔になりつつ、冷静に答える。

「そう言って頂けるのは、光栄ですけど…卒業後は天野重工へと、既に決まっていますので。」

 そこで、緒美の隣に立っていた立花先生が、補足説明を加えるのだった。

「今日、ここへ来ている子達は、みんな既に天野重工の準社員ですので。」

準社員?…ですか。」

 大久保一尉は、天野重工と天神ヶ崎高校の関係を、良くは知らなかったのである。立花先生は、説明を続ける。

「はい。卒業後には天野重工が採用する前提で、幹部技術者としての教育を受けているんです。その授業料とか生活費とかを、会社が負担する事になっているのが、天野重工が運営している天神ヶ崎高校と言う学校なんです。」

 そして、緒美が付け加える。

「もしも、卒業後やその前に、天野重工に務められない事になったら、掛かった費用を、会社に返済しなければならない契約でして。」

「成る程、そう言う仕組みでしたか。知らなかったとは言え、失礼な事を言ってしまったな。申し訳無い。」

 大久保一尉は、律儀に頭を下げて謝罪した。緒美は微笑んで、言葉を返す。

「いえ。お気になさらず。」

 そこへ、飯田部長達が近付いて来て、声を掛けて来るのだった。

「どうか、されましたかな?」

「いいえ、大した事では…。」

 緒美がそう言うと、頭を上げた大久保一尉が微笑んで、飯田部長に向かって言う。

「此方(こちら)のお嬢さんに、防衛大学への進学を勧めたのですが、見事に袖にされた所です。」

「申し訳無いが、彼女達は天野重工(うち)の大事な、将来の幹部技術者候補ですから。防衛軍にお渡しする訳(わけ)にはいきませんな。」

 飯田部長は、そう言って笑った。そこへ、立花先生が問い掛ける。

「所で部長、撤収って…。」

「ん?言葉通りの意味だが。戦研隊の車輌も損傷したし、この儘(まま)、模擬戦続行って訳(わけ)にも、いかんだろう。直(じき)に、エイリアン・ドローンの残骸を回収する部隊も到着するだろうから、その場に民間人が居合わせるのもマズいそうだ。増してや未成年、学生が居たりするのは、ね。」

「成る程、そう言う事ですか…。」

「そう言う訳(わけ)だから、天神ヶ崎の諸君は、装備を解除したら早早に、ここを出発して呉れ。此方(こちら)の片付けは、天野重工(うち)のスタッフでやっておくから。」

「分かりました。緒美ちゃん。」

 立花先生が目配せをすると、緒美は茜達に指示を伝える。

「天野さん、ボードレールさん、わたし達は撤収だそうよ。トランスポーターへ向かって、そっちの準備、やって貰うから。」

 飯田部長は振り向いて、後方で待機していた天野重工の四人に声を掛ける。

「おーい、畑中君と大塚君、彼女達の装備を降ろすから、トランスポーターの操作を頼む。」

 呼ばれた二人は返事をすると、駆け足で格納庫の外へと向かう。茜は、その二人の後を、歩いて追って行った。
 その一方で、緒美は前の席に居る、瑠菜と佳奈にも指示を出す。

「瑠菜さんと古寺さんは、観測機の回収と終了作業を。」

 前方では、トランスポーターへ積載する為に、LMF が移動を始めているのが見える。緒美はヘッド・セットと携帯型無線機を外して、スイッチを切ると、前列に置かれたデバッグ用コンソールに着いている樹里に声を掛けた。

「城ノ内さん、LMF がトランスポーターに乗るから、Ruby を寝かし付けに行きましょうか。」

「あ、はい。じゃあ、カルテッリエリさん、このコンソールのシャットダウン、やっておいて呉れるかな? あと、ここの配線とかのバラシ、倉森先輩を手伝ってあげて。」

「わかりました~。」

 クラウディは、開いていた自分のモバイル PC を閉じて、答えた。
 そして、緒美と樹里がその場を離れようとした時、大久保一尉が緒美を呼び止めるのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.14)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-14 ****


「その陣形なら、さっきの模擬戦で経験済み。」

 茜は周囲の状況を観察しつつ、そう呟(つぶや)いた。すると、緒美の声が聞こえて来る。

「天野さん、LMF が再起動する迄(まで)は、Ruby のバックアップは無いから、注意してね。」

「分かってます、部長。」

 茜が緒美の呼び掛けに応えた瞬間、茜の右手側からトライアングルが一機、その右側の鎌状のブレードを振り上げ、突進して来る。これを躱(かわ)したら、背後から別の一機が斬り掛かって来るのだろうと踏んだ茜は、身体を捻(ひね)り、左腕を振り上げて、その腕部に接続されているディフェンス・フィールド・シールドで、敢えてトライアングルの斬撃を受け止めた。
 振り下ろされたトライアングルのブレードは青白いエフェクト光に弾かれ、構えたシールドの表面にすら達する事は無い。茜は左腕を翳(かざ)した儘(まま)、右後方へ視線を向けると、案の定、その方向からもう一機のトライアングルが接近していた。咄嗟(とっさ)に、その方向へランチャーの砲口を向けると、まだ幾分距離の有るトライアングルへ向けて、続けて二発、荷電粒子ビームを撃ち込むのだった。胸部を正面から撃ち抜かれたトライアングルは、機能を停止するも茜の方へと惰性で進み乍(なが)ら、地面に崩れ落ちた。
 茜は斜面を下る方向へ地面を蹴り、最初に斬撃を加えて来たトライアングルへと向き直る。その振り上げていた二撃目のブレードは空を切るが、尚も三撃目を加えようと、そのトライアングルは間合いを詰めて来るのだった。

「ブレード、展開。オーバー・ドライブ!」

 茜は思考制御と共に口を衝いて出てしまった音声コマンドで、シールド下部に格納されている小型のビーム・エッジ・ソードを展開させ、更に『オーバー・ドライブ』モードを発動して荷電粒子で構成される刃(やいば)を延長させる。
 トライアングルは、茜が翳(かざ)したシールドの上方に頭部を覗(のぞ)かせ、再びその右腕を振り上げて、斬り掛かろうとしていた。その瞬間、シールドはその中央接続ジョイント部で、茜の側から見て時計回りに回転する。シールドが半回転し、その下端に装備されたブレードが十二時の位置を通過する際、それはトライアングルの頭部を切り落としたのだった。
 一瞬、トライアングルが動作を止めると、茜は後方へジャンプしつつランチャーを構え、動きを止めたトライアングルへ狙いを定める。動作が止まっていた時間は一秒、有るか無いかで、直ぐに茜に向かって動作を再開したトライアングルだったが、胸部に二発の電粒子ビームを撃ち込まれると、その場で沈む様に擱座(かくざ)するのだった。

「あと、一機。」

 茜は、着地する前にスラスターを噴かし、再びホバー機動で斜面を登る様に移動を始めた。当然、残った一機のトライアングルは、二対の脚を高速で動かし、猛然と茜を追走するのだった。


「二機、瞬殺とは。恐れ入ったな…彼女は、何か武術の心得が?」

 大久保一尉は半(なか)ば呆(あき)れる様に、緒美に尋(たず)ねた。その問いに緒美が答えるより先に、緒美の後側に居た恵が、声を返すのだった。

「どうして武術の話になるんです? 銃撃戦なのに。」

 その声の方へ向き、大久保一尉は恵の質問返しに答える。

「間合いの取り方が、見事だ。相当の手練(てだれ)と、見受けられるが。」

「あぁ、成る程。そう言う事になりますか。」

 恵が妙に感心して、そう言葉を返すと、緒美が大久保一尉の最初の問いに掛けに答える。

「彼女、剣道を八年…って言っていたかと。」

「ほう、すると全国レベルの有段者かな。今度、手合わせを願いたいな。」

 大真面目な大久保一尉の所感を聞いて、恵は近くに居た直美と顔を見合わせ、クスクスと笑い合うのだった。
 その様子に、大久保一尉は真顔で、緒美に尋(たず)ねる。

「何か、おかしな事を言ったかな?」

 緒美は相好(そうごう)を崩す事無く、答える。

「いえ。」

 そして、振り向いて恵に言うのだった。

「失礼よ、森村ちゃん。それに、新島ちゃんも。」

 恵は一度、真顔になって「すみません。」と謝ったのだが、その直ぐあと、後ろを向いて、再び肩を震わせていたのだった。
直美は気まずそうに苦笑いしつつ、恵の背中に右手を添える。
 そして、緒美は小さく頭を下げ、大久保一尉に言った。

「すみません、気にしないでください。」

「いいよ。キミ達の年頃は、箸が転がっても可笑しいものだからな。 それより、あのパワード・スーツ、先刻の模擬戦の時とは、随分と動きが違う様だが?」

「あぁ、はい。」

「実は、事前に、以前の火力試験での映像を見せて貰っていたのだが、今の動きは、その時の映像の方に、より近い様に思うのだが?」

 緒美は視線をモニターの方へ戻し、事も無げに答える。

「既にお気付きとは思いますが。あの背部のスラスター・ユニット、飛行が可能な程度の能力が有りますので。上空へ逃げてしまっては、浮上戦車(ホバー・タンク)とでは模擬戦が成立しません。ですので、先程はスラスター・ユニットの使用を制限していました。」

「成る程、矢張り、そうだったか。それで、模擬戦から何か得た物は有っただろうか?」

「はい。先程の戦闘機動が、その成果ではないかと。」

「そうか、なら良かった。」


 一方で、茜は最後の一機を仕留めるのに、手間取っていた。仲間の二機を失って、トライアングルは明らかに動き方を変えていたからだ。
 具体的には、常に茜の左手側に占位し、そちら側から攻撃を仕掛けて来る様になっていた。
 ランチャーを向けると、トライアングルは茜の左へ、左へと移動して行く。そして、射撃しようと茜が距離を空けると、当然、トライアングルは自らのブレードが届く距離へと、茜の左手側から詰め寄って来るのである。この、茜が距離を空けると、トライアングルが詰め寄ると言う遣り取りを、両者は既に幾度となく繰り返していた。
 茜は決め手を欠く状況に、「BES(ベス)を持って来なかったのは、失敗だった」と悔やんだが、後の祭りだった。ビーム・エッジ・ソードが有れば、詰め寄って来たトライアングルを返り討ちに出来るし、それはその為の装備なのである。ビーム・エッジ・ソードと同じく超接近戦用の装備とは言え、シールド下端のブレードでは、正面から斬り合うのは流石に危険だった。先程の様に、此方(こちら)の都合の良い位置に、そうは来て呉れないのである。
 そもそも、茜がビーム・エッジ・ソードを携行しなかったのは、立花先生や緒美が接近戦を危険視している事を知っていたからだ。だから、それを持たない事で茜が接近戦を回避する意志を示し、二人を安心させたかったと言う理由も有ったのだ。勿論、第一の理由はビーム・エッジ・ソード用のジョイントを装備していないので、常にマニピュレータで保持しておくのが不便だったからだ。右手側に持つのをランチャーにするのか、ソードにするのか、その選択も問題だった。
 ともあれ、茜が接近戦を回避する気でも、飛び道具を持たないトライアングルは、問答無用で接近戦を仕掛けて来るのである。一方の意図だけで状況が展開する筈(はず)はなく、だから茜は「次回は必ず、ソードも持って来よう」、そう思い乍(なが)ら回避の機動を続けていた。


「何だか、射撃、出来なくなったわね…。」

 モニターを見詰め、立花先生がポツリと言うと、それに、緒美が応える。

「もう、此方(こちら)の動きを、学習されてしまいましたね。トライアングルは、ランチャーの軸線を避(さ)ける様に動いてます。」

 苦苦しそうに、直美が言う。

「どうして、あんな近くなのに撃てないのよ。」

 その疑問には、大久保一尉が答えるのだった。

「近いから、撃てないのさ。百メートル先の目標なら、それが横に五メートル動いても、手首の動きだけで照準を合わせられるが、目の前の目標が横に五メートルも動いたら、撃つ方は身体ごと動かないと照準が付けられない。しかし、照準を修正している間に、目標は更に動いてしまう。だから射撃する為には、もっと距離を取る事が必要だ。」

 それに続いて、緒美が言う。

「でも、距離を取ろうとすると、相手の方から詰め寄って来る。こうなると、疲れを知らないトライアングルの方が、断然有利だけど…。」

「あと一機、って思ったのに。」

 恵が、悔しそうに呟(つぶや)くと、それを受けて緒美が解説する。

「逆よ。複数機居る内は連携して攻撃して来る時、攻撃担当をスイッチする瞬間に隙が有ったけど。残りが一機となると、一機が攻撃を継続するから、寧(むし)ろ隙が見え辛くなったの。」

 緒美が言い終わる前に、前の席でデバッグ用コンソールをモニターしている樹里が、振り向いて告げる。

「部長、LMF の再起動、完了しました。」

 その樹里の言葉と、殆(ほとん)ど間を置かず、緒美のヘッド・セットにはブリジットと Ruby の声が、相次いで聞こえて来る。

「部長、準備完了です。何時(いつ)でも、出られます。」

「緒美、お待たせしました。チェック終了です、システムに問題はありません。」

 それを受け、緒美は透(す)かさず、指示を出すのだった。

「オーケー、データ・リンクで目標の位置は解ってるわね? Ruby。」

「ハイ。ここからでもロックオンは可能ですが?」

「危ないから、この中では止めておいて。ボードレールさん、LMF を前進させて、格納庫から出たら直ぐに、目標をロックオンして。天野さんは、LMF がロックオンしたら、東方向上空へジャンプして退避よ。トライアングルが HDG を追って、飛び上がった所を LMF のプラズマ砲で狙撃、二人共、出来る?」

 緒美の指示に、直ぐに茜とブリジットの声が帰って来る。

「解りました。ブリジット、ロックオンしたら教えてね。」

「任せて。では部長、LMF 出します。」

「いいわ。気を付けてね。 あ、正面の扉、自分で開けてね。」

「は~い。」

 緒美達の右手後方に駐機していた LMF がホバー・ユニットを起動すると、噴出された大量の空気が格納庫の床面に沿って四方へ流れ、格納庫の壁に当たって巻き上がる。そして LMF は、ゆっくりと前進を始める。
 LMF は茜が HDG が通れる程に開いた儘(まま)になっていた大扉の前まで来ると、機首が接触しない様にコックピット・ブロックを機体下に格納する形態へと移行し、機体上部に格納してある左右の腕部を展開して前方へと伸ばした。マニピュレータの指先を大扉に掛けると、両腕を広げて扉を左右へ押し動かし、LMF 自身が通れる扉の開き幅を確保した。
 その様子を見ていた大久保一尉が、感心気(げ)に言うのだった。

「成る程、腕が有るってのは便利な物だな。」

 扉の開口部を機体が通過すると、直ぐに通常の高速機動モードへ戻り、同時にプラズマ砲ターレットが照準の為、動作を始める。

「目標を捕捉。現在の目標に照準を固定しますか?」

 ブリジットに対し、Ruby が目標選択の確認を要求するのだが、目標は一つしか無い。ブリジットは、迷う事無く応えた。

「オーケー、ロックオン。」

「ロックオンしました。目標の追尾を開始。現在の距離362メートル、プラズマ砲の出力を80%に設定。」

「任せるわ、Ruby。外さないでよ。」

「ハイ、ブリジット。」

 狙撃の準備を終えたブリジットは、無線を通じて茜に声を掛ける。

「茜!準備完了。あなたのタイミングで、ジャンプして。」

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.13)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-13 ****


「先(ま)ずは、落ち着いて射撃してね。連射し過ぎると、冷却が追い付かなくなるから、出来たら、出力調整にも気を遣って。それから、射撃する時は、この格納庫を背後でね。こっちに流れ弾が来たら、洒落にならないから。成(な)る可(べ)く間合いを取って、接近戦には付き合わない様に。 あと、出来れば、三分以内で方(かた)を付けなさい。」

 茜は閉じられた大扉の前で立ち止まり、一度、大きく息を吐(は)いてから答えた。

「やってみます。」

 そこに、茜のヘッド・ギアへ、大久保一尉の声が聞こえて来る。天神ヶ崎高校側が使用している、無線機の周波数に切り替えて、茜に呼び掛けて来たのだ。

「戦研隊の大久保だ。頼める義理ではない事は承知した上で、頼みたい。一番車の車長、藤田三尉には中学生の息子さんと、小学生の娘さんが居る。何とか、その子達の元に返してやりたい。」

 茜は目の前の扉に、展開した左側のマニピュレータを掛け、応えた。

「安請け合いは致し兼ねますけど。全力は尽くします。」

「すまない、ありがとう。」

 大久保一尉の返事を聞き終える前に、茜は大扉を左方向へ勢い良く動かした。開けた視界の正面、三百メートル程離れて、トライアングルに捕捉された儘(まま)の浮上戦車(ホバー・タンク)一番車が見える。他の二輌は、一番車とは少し距離を置いて走行していた。どちらも、トライアングルを一機ずつ引き付けている。
 茜は右側のマニピュレータで保持している CPBL(荷電粒子ビーム・ランチャー)を構え、一番車を抱え込んでいるトライアングルに照準を合わせてみる。しかし、直ぐに射撃が出来ない事に気付くのだった。

「この位置からだと、浮上戦車(ホバー・タンク)を避(よ)けられません。こっちに注意を向けられるか、やってみます。」

 茜は地面を蹴ると同時にスラスターを噴かし、一番車を拘束しているトライアングルへ向かって、ジャンプした。


「随分と度胸の有るお嬢さんだな。あなたも、だが。」

 大久保一尉は、外の状況を映し出すモニター正面の立ち位置を緒美に譲り乍(なが)ら、そう話し掛けた。緒美は一礼してモニターの正面へ移動し、言葉を返す。

「それは、お褒めの言葉と受け取っておきます。」

「あぁ、構わんよ。」

 大久保一尉はニヤリと笑ってみせたが、緒美はそちらへ視線を向ける事は無く、前の席に着いている瑠菜と佳奈に声を掛ける。

「瑠菜さん、あなたの観測機で天野さんを追って。佳奈さんはその儘(まま)、全域が見渡せる様にね。」

 緒美の指示に、観測機の動作を見守る瑠菜と佳奈は「はい。」と、短く答えた。続いて、緒美はヘッド・セットのマイクに向かって、倉森に問い掛ける。

「倉森先輩、LMF の方は、どんな具合ですか?」

「あとはカバーを付け直すだけ。でも、ブレーカーを入れ直して、モードを切り替えたら、Ruby がシステムの自己チェックを始めるから、その時間が少し。トータルで、あと五分位(くらい)。」

 透(す)かさず、状況の説明が返って来ると、緒美はブリジットに声を掛ける。

ボードレールさん、もう直ぐ LMF の作業が終わるから、あなたはコックピットで待機してて。但し、指示する迄(まで)、動かしちゃ駄目よ。」

「分かりました。」

 ブリジットは、駆け足で LMF のコックピット・ブロックへと向かう。

「緒美ちゃん…。」

 立花先生はモニターの前へと移動して来ると、緒美の右隣から小声で話し掛けて来たのだった。

「…あなたが賛成しなければ、茜ちゃんを止められたかしら。」

 緒美はヘッド・セットのマイク先端を指で摘(つま)み、立花先生の方へは向かずに答えた。

「無理ですよ、意志が強いですから、彼女。ここで、天野さんのやろうとしている事は、多分、正しいのだと、思います。それに…。」

 一瞬、緒美は言い淀(よど)む。

「それに?」

 聞き返して来る立花先生の方へ、今度は視線を向け、緒美は言葉を繋いだ。

「…防衛軍の方(かた)の覚悟って言うのは、よく分かりませんけど。でも、遺族の気持ちなら、分かりますから。」

 立花先生は視線をモニターへと移し、呟(つぶや)く。

「そう…。あなたは、そうだったわね…。」

 緒美も再び、モニターへ視線を戻し、苦苦しく言った。

「でも、下級生に、こんな事をさせるのは、わたしだって本意ではありません。今も昔も、わたしは無力で、嫌になります。」


 格納庫の前からジャンプした茜の HDG は、その儘(まま)ホバー機動で、一番車を抱え込んでいるトライアングルの頭部センサーの前を通過して行った。すると、HDG を視認したトライアングルは、浮上戦車(ホバー・タンク)一番車から離れて、HDG の後を追い始めるのだった。
 その一方で、突然、解放された一番車は、傾斜していた車体が落下する様に元に戻り、浮いていた左側面が地面にぶつかった衝撃に、車内の乗員二人は揺さぶられた。

「何事?」

 藤田三尉が声を上げると、透(す)かさず松下二曹が答えた。

「トライアングルが離れました! あれ、天野重工の人形…。」

 藤田三尉は視察装置(ペリスコープ)で周囲の動向を観察し、状況推移の把握に努める。

「何やってんの、民間の女の子を現場に出すなんて…智里ちゃん、ホバー、動かせる?」

「今、チェックしてます…大丈夫、行けます。」

「一番車、藤田より指揮所。民間機の救出に向かいます。」

 茜の HDG は、他の二輌が引いていた二機も合わせて、三機のトライアングルに追われる状況になっていた。
 藤田三尉からの通信を受けて、大久保一尉からの指示が返って来る。

「指揮所より全車へ。全車後退せよ。一番車は第二格納庫へ、二番、三番車は第二格納庫の前で待機だ。」

 その指示に、二番車車長の二宮一曹が反論する声が、藤田三尉には聞こえた。

「一番車は兎も角、自分等(ら)は天野重工と連携した方が良くは有りませんか?隊長。」

「訓練も打ち合わせもしてないで、連携なぞ取れる物か!全車下がれ、お前等(ら)が邪魔しては、天野重工が発砲出来ん。」

 大久保一尉の説明に、二宮一曹がもう一度、問い掛ける。

「アレが持っているのは、模擬戦用のランチャーでは?」

「現在のは予備の、実戦用ランチャーだそうだ。ウロウロしてたら流れ弾に当たる、全車下がれ!」

 そこで、視察装置(ペリスコープ)で確認したのであろう、三番車の元木一曹の発言が聞こえて来る。

「ホントだ、ランチャーの先に発信器が着いてないよ。 三番車、了解。後退します。」

 そして間も無く、二宮一曹の返事が聞こえる。

「二番車、了解しました。」

 続いて藤田三尉も同意の返事をし、運転席の松下二曹へ後退の指示を出すのだった。

「一番車藤田、了解しました。 智里ちゃん、第二格納庫まで後退よ。」

 しかし、無線での遣り取りが聞こえていない松下二曹には、状況が飲み込めないのである。

「えぇっ、後退って、民間人を放っておくんですか?」

「持ってるのは実戦用の装備だって、わたし達には後退命令。」

「実戦って、囮じゃなく? 素人に、撃退をやらせる気なんですか?」

「つべこべ言わない!後退命令よ、出して。」

「了解…。」

 松下二曹は心情的には不承不承だったが、命令に従って一番車の向きを変えると、第二格納庫へと向かったのである。


「凄い食い付き具合だなぁ…。」

 HDG を三機のトライアングルが追い掛ける様子をモニターで眺(なが)めて、そう感想を漏らしたのは飯田部長である。飯田部長は緒美の背後で、緒美と立花先生との間から画面を見詰めている。

「矢張り、HDG と LMF を探していたみたいですね。」

 緒美は飯田部長の漏らした感想に、そう応えた。すると、飯田部長の隣に立つ桜井一佐が、緒美に尋(たず)ねる。

「どう言う事?」

「多分、HDG と LMF を脅威として認識したのではないかと。前回の戦闘で。」

 緒美の回答に、飯田部長が補足を加える。

「上空から HDG と LMF を見掛けて、それでトライアングルがこっちに降りて来た、って感じかな。」

「恐らく。」

 すると、飯田部長の背後に立っていた直美が声を上げたのだった。

「ちょっと待ってよ。この間のは、全機、撃破したでしょ?」

 緒美は一度、直美の方へ振り向いて言う。

「敵だって、通信位(ぐらい)はしてるでしょ。あれがドローンなら、あれを制御してる上位と通信してるのは寧(むし)ろ、当然。」

「成る程。」

 桜井一佐が納得して、そう声にすると、今度は立花先生が緒美に尋(たず)ねるのだった。

「そうすると、茜ちゃんに『三分以内で』って指示してたけど。あれって…。」

 その問い掛けに、緒美が答えるより先に、大久保一尉が言うのだった。

「妥当な指示ですね。奴らも馬鹿じゃない。戦っている相手の動きは、常に分析していますから。」

 次いで、モニターへ視線を戻した緒美が、言葉を続ける。

「そして、その情報は上位を通じて、直ぐに共有化されているのでしょう。」

 そこ迄(まで)を聞いて、飯田部長は納得した様に言うのだった。

「成る程な、時間が掛かれば掛かる程…。」

「はい、此方(こちら)側が不利になります。 出来るだけ向こうには情報を与えない様に、全部を不意打ちで片付けられたら一番なんですけど。中中、そうもいきません。」

 緒美が見詰めるモニター画面には、三機のトライアングルが反時計回りに、茜の HDG を取り囲んで移動している様子が映し出されていた。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.12)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-12 ****


 一番車は右側面のホバー・ユニット先端を地面に接地させると、その駆動輪を回転させて、前進や後退を試みる。その度(たび)に車体はトライアングルによる拘束から逃れようと、捻(ねじ)る様に揺れるのだった。

「コレなら、どうよ。」

 松下二曹は、ホバー時の推進用エンジンも同時に吹かし、推力を継ぎ足して脱出を試みる。すると間も無く、先程よりも少し大きな爆発音と振動が、車体を揺らすのだった。再び、警報音が鳴り響き、それと共に HMD の視界に大量のエラー表示が現れた。

「今度は何?」

 藤田三尉が直様(すぐさま)、インカムで問い掛けて来る。

「第一推進エンジン、やられました。燃料ライン、カットします。電力、低下します。」

「APU で電力を維持して。」

「APU、起動します。クソッ、こうなったら燃料のベント弁を開いて、水素爆発で吹き飛ばしてやりますか?」

「それは最後の手段よ。落ち着いて、もう少し悪足掻(わるあが)きを続けましょう。兎に角、時間を稼がないと。」

 藤田三尉からは見えなかったが、松下二曹は引き攣(つ)った笑みを浮かべつつ、手短に答えた。

「了解。」

 松下二曹の提案は一種の自爆攻撃を意味していたが、これは浮上戦車(ホバー・タンク)車内の搭乗員には被害が及ばないと言う共通認識が有った上での提案なのである。勿論、100パーセント安全と迄(まで)は言えないのだが、正常に密閉されている限りは、爆発の衝撃が車内に居る乗員に影響を及ぼす事は無い設計とされていた。但し、トライアングルによる攻撃の影響が、乗員室周囲の装甲に、どれ程のダメージを与えているのか。その程度に因っては、設計通りの耐衝撃性能が発揮されない恐れも有り、その一点に就いては賭だったのだ。


 格納庫の内部では、一番車がトライアングルに捕らえられてしまった事は、観測機をコントロールしている瑠菜と佳奈の二人を除いて、天神ヶ﨑高校や天野重工側の人達には、直ぐには伝わっていなかった。だが一人、観測機からの映像をデータ・リンク経由で見ていたのが、茜である。
 茜には防衛軍が交わしている無線通信の内容は聞こえていなかったが、観測機の映像で一番機の推進エンジンが爆発したのを目撃するに及び、遂に声を上げた。

「部長、わたし、救援に出ます!」

 茜の言葉に、緒美よりも先に反応したのは、立花先生である。

「天野さん!」

 立花先生は慌てて茜の目の前に進み出て、茜の行く手を塞ぐのだった。

「ダメよ、外に出るのは許可出来ません。」

「天野さん、外で何か有ったの?」

 冷静な口調で、そう訊(き)いたのは緒美である。茜は頭だけを緒美の方へ向け、答えた。

「ちょっと前から、浮上戦車(ホバー・タンク)が一台、トライアングルに捕まってます。そろそろ、放置出来ないレベルかと。」

 その言葉を聞いて、緒美はモニターの方へと歩を進める。その後を追う様に、飯田部長や恵、直美がモニターの方へと移動するが、立花先生だけは茜の前から動こうとはしなかった。
 茜は身体の向きを緒美達の向かった方へ変えると、天神ヶ崎高校の指揮所へ向かって歩き出す。ブリジットと立花先生が茜の後を追うと、その途上、モニターに映された外の様子を見た、直美の声が聞こえて来る。

「防衛軍は、捕まってる戦車の救出には動かないんですか?」

 それは飯田部長に向かって発された質問だったのだが、飯田部長を含めて誰も答えない。しかし、その問い掛けは、大久保一尉と吾妻一佐の表情を少しだけ、苦苦しくさせたのだった。茜は、大久保一尉に向かって、言った。

「一対一でトライアングルを引き付けて、時間稼ぎをしなければいけないから、救出行動は出来ない。もし他の一台が救出に動くと、フリーになったトライアングルが、こっちに向かって来る恐れが有る、そう言う事ですよね。」

 大久保一尉はモニターの方を見た儘(まま)、茜の発言に応える。

「そうだ、キミの言う通りだ。」

 茜は語気を強め、言葉を返す。

「でも、放って置いたら、あの人達、死んじゃいますよ。」

 そこで、茜の背後から立花先生が声を上げるのだった。

「あの人達は、軍の人達なの。民間人じゃないのよ。」

 次いで、吾妻一佐が茜の方へ向き、言う。

「そうだ、皆、最悪の事態は覚悟している。民間の方は、心配しなくても良い。余計なことは考えず、我々の指示に従って呉れ。」

 茜は視線を吾妻一佐へと向け、言葉を返した。

「ここに居る皆さんには、覚悟がお有りなんでしょうけど。でも、軍の人にだって、御家族はいらっしゃるでしょう?」

 その言葉に反論する者が居ない中、最初に声を上げたのは緒美だった。

「解ったわ、天野さん。気の済む様に、やりなさい。わたし達は、ここから、バックアップするから。 城ノ内さん、ヘッド・セット、借りられる?」

「どうぞ、部長。」

 樹里は躊躇(ちゅうちょ)無く自らのヘッド・セットを外すと、歩み寄って来た緒美に携帯型無線機と共に手渡す。
 そこで、吾妻一佐が声を上げるのだった。

「キミらは、何をする積もりなのか?余計な事は…。」

 言葉を途中で遮(さえぎ)る様に、緒美が問い掛ける。

「お言葉ですが。現状で、捕捉された一輌がトライアングルを引き付けていられるのは、辛うじて抵抗しているからです。車輌の損傷が深刻になり、動作が出来なくなったら、あのトライアングルは此方(こちら)に向かって来ますよ。 そうなったら二対三、二輌の浮上戦車(ホバー・タンク)で三機のトライアングルは抑えられません。そうなってからでは、手遅れです。」

 吾妻一佐が反論に窮(きゅう)していると、立花先生は茜の背後から緒美達の正面へと回り、諭(さと)す様に言うのだった。

「落ち着いて、鬼塚さん。この場は、防衛軍の人に任せて。この間の様な事はもうしないって、理事長とも約束したでしょう?」

 しかし、その言葉に応えたのは、茜だった。

「約束を守っても、それで誰かが死んじゃったら、意味が無いです! 応戦します。」

「茜ちゃん…。」

 途方に暮れる、そんな表情の立花先生へ、微笑んで茜は言うのだった。

「先生が、わたし達が危険な目に遭わない様に考えて呉れてるのは、解ります。でも、出来る事をやらないで、被害が出るのを黙って見てるのは、わたしは嫌です。」

「茜が出るのなら、わたしも出るわよ。」

 そう声を上げたのは、茜の背後に立つ、ブリジットである。

「ダメよ。LMF はプラズマ砲の、再装備作業中でしょ。」

「プラズマ砲が無くっても、LMF でも、格闘戦が出来るんでしょ?」

 茜は振り向いて、応える。

Ruby に、腕を使った格闘戦の、経験の蓄積が少な過ぎるわ。今回は、プラズマ砲の再装備を待って。」

「でも…LMF のプラズマ砲が使える様になっても、至近距離での戦闘になったら、役に立たないんでしょ?」

「やり様は幾らでも有るわ、その辺りは、部長が考えて呉れる。 ですよね、部長。」

 茜は視線を緒美に向け、同意を求めるのだった。それに応える様に、緒美は頷(うなず)いた。
 しかし、ブリジットは納得しない。

「でも…。」

「それに、ブリジットがここに残って呉れた方が、わたしが安心して前に出られるの。あなたは、わたしが失敗した時の、最後の保険なのよ。」

「でも!」

「ブリジット、お願い。」

 ブリジットは俯(うつむ)き、渋渋と言った体(てい)で答える。

「分かった…。」

 そんな二人の遣り取りに次いで、大久保一尉が彼の背後に立つ飯田部長に、振り向いて訊(き)くのだった。

「御社の装備が実戦レベルにあるのならば、我々に貸与してはいただけませんか?」

「あ~、流石にそれは…。」

 飯田部長の濁(にご)す様な返事を遮(さえぎ)って、緒美が発言する。

「現段階で HDG は個人の身体に合わせて、細かい設定や調整が必要なので、今、HDG を扱えるのは彼女だけです。

 説明が煩雑になるので緒美は言及しなかったが、身体と HDG とのインターフェースであるインナー・スーツが茜にしか着用出来ない時点で、他の誰かが HDG を使用出来ないのは明らかなのである。大久保一尉は、そう言った細かい点までは追求せず、次の提案をする。

「そうか。では、あの浮上戦車(ホバー・タンク)では?」

 大久保一尉は、今度は緒美に問い掛ける。

「操縦方法が独特なので、習熟するのに時間が掛かるかと。」

 そう緒美が答える一方で、飯田部長は桜井一佐の方へ視線を向ける。彼は LMF ならば、操作の大半を Ruby が行っているから、緒美の言う様な習熟の度合いは関係ないだろうと、一瞬、思ったのだ。しかし、桜井一佐は静かに、首を横に振る。
 実は、Ruby の開発計画に就いて、詳細は陸上防衛軍には明かされてはいなかった。この場で、その詳細を把握しているのは飯田部長と航空防衛軍の所属である桜井一佐、この二名のみだった。今回、Ruby が外部スピーカーで発話しない設定になっているのも、その秘密保持を理由とする措置なのである。陸上防衛軍側は吾妻一佐でさえ、Ruby の様に会話でコミュニケーションが取れるレベルの AI が LMF に搭載されている事を把握していなかった。

「まぁ、そう言った訳(わけ)ですので、この場でお貸しするのは適当ではないかと。」

 愛想笑いしつつ、飯田部長は大久保一尉に断りを入れる。すると、大久保一尉は困惑気味に言うのだった。

「しかし、民間の…それも未成年者を、この状況で現場に出す訳(わけ)には…。」

 その発言に重ねる様に、茜が声を上げる。

「もう、そんな事言ってる場合ですか!」

 正面の大扉へ向かって、茜が歩き出すと、再び立花先生が茜に前に立ち、両手広げて言った。

「ダメよ、茜ちゃん。出てはダメ。 わたしは、力尽(ちからず)くでも止めるわよ。

「立花君!落ち着きなさい。」

 少し大きな声で、飯田部長が声を掛ける。その方向に立花先生が視線を向けると、飯田部長は首を左右に振ってみせるのだった。

「部長…。」

 愕然としている立花先生に、緒美が微笑んで言う。

「今、この場で天野さんに力(ちから)で対抗出来るのは、LMF 位(くらい)ですよ、先生。

 茜は、立ち尽くす立花先生の横を通り過ぎる際、小さな声で伝えるのだった。

「ごめんなさい、先生。」

 そして前を向き、大扉に向かって歩き乍(なが)ら、茜は緒美に問い掛ける。

「部長、何か指示は有りますか?」

 緒美はヘッド・セットのマイクを口元に寄せ、立て続けに指示を出すのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。

STORY of HDG(第11話.11)

第11話・天野 茜(アマノ アカネ)とブリジット・ボードレール

**** 11-11 ****


 早足で歩いている樹里に追い付くと、クラウディアは右手で、樹里の制服の、腰の辺りを摘(つま)んで引っ張る。樹里は足を止めて、振り向き、訊(き)いた。

「何(なぁに)?カルテッリエリさん。」

「あの…」

 クラウディアが左手を口元に添え、少し背伸びをして小声で話し掛けるので、樹里は少し腰を落とした。クラウディアは樹里の耳元で、言った。

「…今の状況、情報検索しましょうか?」

 樹里にはクラウディアの言っている事が、前回の様に防衛軍のネットワークに対するハッキングの意味だと、直ぐに理解した。だから、声を抑えて、即座に樹里は言葉を返したのだ。

「今日はよしなさい、軍の人達も居るんだし。もし見付かったりしたら、立花先生や飯田部長の立場が無いでしょ。」

「でも、情報は多い方が…。」

「ダメよ。わざわざ危ない橋を渡る事はないの。それに、多分、今回は必要無いから。大丈夫。」

 その時、クラウディアの背後から彼女の頭頂部を鷲掴(わしづか)みにする様に、誰かの掌(てのひら)が乗せられる。クラウディアが慌てて振り返ると、彼女の頭に手を掛けていたのは瑠菜だった。その隣には、佳奈が立っている。

「何か悪巧(わるだく)みしてたでしょ、ダメだよ~クラリン。」

 ニヤリと笑って、瑠菜はクラウディアに言った。

「ダメだよ~クラリン。」

 佳奈は微笑んで、瑠菜の台詞後半を繰り返す。クラウディアは頭に乗せられていた手を払い除け、言葉を返す。

「してませんよ、悪巧(わるだく)みなんて。それから、クラリンって呼ばないでください。」

 そう言って、クラウディアは茜が立っている方へと、視線を向ける。樹里と瑠菜、佳奈も何と無く、クラウディアに釣られて同じ方向へ視線を動かす。
 彼女達の視線の先で茜は、LMF の前で格納庫の正面扉へ身体を向けて、じっと立っていた。ブリジットはその隣で、茜とは反対方向に向き、LMF の再装備作業を無言で眺(なが)めている。

「アカネとボードレール、あの二人、また実戦に出るんですか?」

 クラウディアは、そう呟(つぶや)く様に言った。それに、樹里が直ぐに言葉を返す。

「最悪の場合はね。」

「だったら、わたしだって何かの役に立ちたいじゃないですか。」

 そう言って息を吐(は)くクラウディアに、瑠菜が声を掛ける。

「役に立ってるじゃない、カルテッリエリだってさ。」

「そうよ~観測機の画像が、データ・リンクに乗る様にして呉れたの、クラリンだよ。」

「あんなの、出来てるモジュールを幾つか繋いで、送信コードを何箇所か書き換えただけです。それに、アイデアの半分はイツキの、だし。」

「カルテッリエリには簡単な作業でも、わたしや佳奈には出来ないの。専門外だから。」

「そうそう、それに、そのお陰で、今、外の様子が見られてるんだしね。」

 瑠菜と佳奈は、そう言って元居た観測機のコントローラーが置かれた席の方へと歩き出す。そんな二人に、樹里が声を掛ける。

「二人は観測機の操作を?」

 掛けられた声に、瑠菜が振り向いて答えた。

「何時(いつ)迄(まで)も自動で、放っておけないでしょ。それに、観測機は今、外の様子を知る命綱なんだからね。」

 返事を聞いた樹里は、一呼吸置いてクラウディアの肩を軽く叩き、声を掛ける。

「さぁ、わたし達も行きましょう、カルテッリエリさん。」

「はい、先輩。」

 二人は、瑠菜と佳奈の後を追う様に、デバッグ用コンソールへと向かった。


 一方、格納庫の外では、陸上防衛軍戦技研究隊の浮上戦車(ホバー・タンク)三輌が、エイリアン・ドローン『トライアングル』三機に態(わざ)と追い掛けさせる状況を作って、時間稼ぎを続けている。
 浮上戦車(ホバー・タンク)はトライアングルの視界を横切る様に走行し、自身の後を一対一で追わせる事によって、トライアングルが格納庫へ近付かない状況を作り出していたのだが、暫(しばら)くするとトライアングルは追跡に対する興味を失うかの様に向きを変え、再び格納庫へと接近しようとするのだった。その都度、浮上戦車(ホバー・タンク)はトライアングルの正面を横切って、追跡を再開させていた。そんな事を既に十数回繰り返していたが、それで終わりが見えていた訳ではない。現状で反撃の術を持たない浮上戦車(ホバー・タンク)隊は、救援が到着する迄(まで)、同じ事を繰り返すより他なかったのだ。

「チクショー、こいつに付いてるのが、本物のブレードだったらな。切り刻んでやるのに。」

 浮上戦車(ホバー・タンク)三番車の車内、車長席正面のメインパネルで後方のトライアングルの様子を見乍(なが)ら元木一曹は、そう翻(こぼ)すのだった。その声に、運転席の日下部三曹がインカムを通じて、言葉を返す。因(ちな)みに、防衛軍の浮上戦車(ホバー・タンク)用の装備に、実戦用のブレードは存在しない。

「えぇ~自分は、機銃の弾が欲しいですよ。」

 日下部三曹はトライアングルが追跡の興味を失わない様に、進路をジグザグに変え乍(なが)ら、且つ、追い付かれない様に速度と距離を調整している。それは、他の車輌の操縦手も同様だった。彼等(かれら)は互いの進路が交錯しない様に、調整し乍(なが)ら捕まる事を避けつつ、トライアングルに自らを追い掛けさせているのである。それは日常的な研究と訓練の成果であり、そんな状況を維持できている事こそが戦技研究隊が浮上戦車(ホバー・タンク)による戦闘機動の精鋭である事の、紛れもない証左なのである。

「指揮所より各車へ。目標をフィールドの中央へ誘導し、円陣で動きを封じろ。」

 車長の元木一曹の耳には、大久保一尉の指示が聞こえて来る。それ続いて、一番車の藤田三尉から、指示が発せられた。

「一番車より三番車、そこから方位300(サンマルマル)へ目標を誘導して。二番車は、進路その儘(まま)で。」

「三番車元木、了解。 日下部、方位300へ転進。」

 『方位300』とは、磁北を0度として、時計回りに300度回った方向で、大凡(おおよそ)、西北西の事である。

「了解。方位300へ。」

 日下部三曹は、車長である元木一曹の指示に従い、進行方向を右へと変える。すると直ぐに、右手方向から一輌の浮上戦車(ホバー・タンク)が、接近している事に気付くのだった。

「元木一曹、この進路だと一番車と交錯しますが。」

「何だと?」

 元木一曹は視察装置(ペリスコープ)を操作して周囲の状況を確認する。日下部三曹が言う通り、確かに、右手側から接近して来る一輌が有り、進路が交錯する様子だった。そこに、一番車車長、藤田三尉からの通信が入るのだった。

「一番車より前方の二番車、進路が交錯する!左へ回避を!」

 どうやら、藤田三尉は二番車と三番車を、勘違いしている様子だった。元木一曹は、慌てて通信を返す。

「一番車へ、其方(そちら)の前方は三番車です。此方(こちら)、左へ回避します。日下部!左へ。」

「了解。」

 三番車が向きを変えた直後、何かがぶつかる様な音が後方から聞こえたので、元木一曹は再び視察装置(ペリスコープ)を操作して後方の様子を確認した。正面メイン・パネルには、後方から追い掛けて来るトライアングルが映し出されていたが、それが先程まで追い掛けて来ていたトライアングルでない事はその機体の色の違いで、直ぐに解った。トライアングルの機体色は青っぽいグレーの物が最も一般的であるが、それ以外の機体色や模様の有る物が数種類、確認されている。その違いが意味する所や理由は、未(いま)だ判明していなかったし、カラーリングの違う機体が特別な使用法や役割が有る様には見受けられない。兎に角、今現在、三番車を追い掛けているのは一般的なグレーの機体で、それは先程迄(まで)は一番車を追い掛けていた機体だった。
 そして、三番車を追い掛けていた黒いトライアングルは、一番車に飛び掛かり、衝突して双方が動きを止めていた。先刻の衝突音は、その時の音だったのだ。黒いトライアングルは一番車の左側面から車体を半ば持ち上げる様に左腕を車体下面に差し込み、右の鎌状のブレードを車体に打ち付けている。
 浮上戦車(ホバー・タンク)は車体の前後左右に装備された四つのホバー・ユニットから噴出する空気を、車体下面と地面との間に流し込む事で浮上している。車体を大きく傾けられ、必要以上に地面と車体下面の間に空間が出来るとエア・クッション効果が得られず、結果、身動きが取れないのだ。

「二番車より指揮所、一番車が捕まりました。救出に向かいます。」

 元木一曹には、二番車車長の二宮一曹の通信が聞こえた。直様(すぐさま)、大久保一尉の返事が聞こえて来る。

「ダメだ、二番車は自分が引いている目標を引き続けろ。」

「しかし、隊長…」

「大久保より藤田三尉。何とか自力で脱出するか、その儘(まま)そいつの足止めを継続して呉れ。あと、十五分で救援が到着する筈(はず)だ。」

「藤田、了解しました。」

 無線での遣り取りが聞こえる元木一曹は、「チクショウ」と呟(つぶや)く事しか出来なかったのである。

「元木一曹、一番車の救出に向かいますか?」

 無線での遣り取りを聞いていない日下部三曹が、インカムで、そう訊(き)いて来る。元木一曹は、絞り出す様な声で答えた。

「今、引いている目標を引き続けろ、隊長の指示だ。救援が来るまで、あと十五分だそうだ。」

「ホントに、来るんでしょうね、救援。」

「知らねぇよ!」

 こう言った状況で気休めを言わないのが、元木一曹の流儀なのである。


 一方、一番車の車内である。トライアングルに車体の左側を持ち上げられる様にされて傾いた車内では、ブレードが打ち付けられる「ゴン、ゴン」と言う音が、鈍く響いていた。流石に主力戦車の装甲は、航空機の様に簡単に切断されたり、ブレードが貫通したりはしない。
 運転席では松下二曹が、車体の姿勢を戻そうと、ホバー・ユニットや推進エンジンを吹かしたり、着陸脚でもあるホバー・ユニットを動かして、藻掻(もが)いていた。
 そんな折、突然、小規模な爆発音と、振動が車体を襲ったのである。同時に、車内の照明が数回点滅し、幾つかのアラームが鳴り響き、松下二曹が装着する HMDの視界にはエラー表示が映し出される。

「何?状況報告。」

 藤田三尉は落ち着いた口調で、言った。
 松下二曹はエラー表示を確認して、警報音を止める。車内には再び、「ゴン、ゴン」とブレードが打ち付けられる音が鈍く響いていた。

「左後方のホバー・ユニット、機能停止。主動力、電源には異常ありません。」

「やられたのがホバー・ユニット一基だけなら、まだ動けるわ。何とか、この拘束状態から抜けられれば、だけど。」

「右側の低速移動用の駆動輪、使ってみます。」

「いいわ、やってみて、智里ちゃん。」

 浮上戦車(ホバー・タンク)のホバー・ユニット先端には、低速移動や位置の微調整の為に、ステアリング機能付きの駆動輪が装備されている。低速では位置の微調整がホバーでは難しい事と、ホバーを使用する事に因り発生する騒音や、大量の砂煙が、隠密性を必要とする行動の場合には支障となり得るので、補助的な駆動装置が装備されているのだ。LMF に同様の駆動輪が装備されていないのは、ホバーが使えない状況では「歩行」が可能だからである。現用の浮上戦車(ホバー・タンク)では、停止時の姿勢制御の為に脚の様にホバー・ユニットの角度を変える事は出来るのだが、それで歩行する事迄(まで)は不可能なのだった。

 

- to be continued …-

 

※この作品は現時点で未完成で、制作途上の状態で公開しています。
※誤字脱字等の修正の他に、作品の記述や表現を予告無く書き換える事がありますので、予めご了承下さい。